清村くんと杉小路くんとアイドルと (560)
初投稿です。
清村くんと杉小路くんシリーズ×アイドルマスターシンデレラガールズ。
清杉にしてはどちらかというと真面目な話になるかもしれません。
他の土塚作品ともある程度世界観を共有する予定です。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1387636816
第1話 清村くんと杉小路くんが
とある日、俺はスイーツショップを巡りに街に繰り出していた。
平日は朝から夜まで仕事漬けで、とてもじゃないがこんなことをやっている暇なんかない。
貴重な休日は有意義に使わなければならないんだ。
前々から目をつけていた店を食べ歩き、次はどの店に行こうかと考えている途中、俺の目に信じられないものが写った。
それは1年ほど前に駅前にオープンした伝説のスイーツショップ。
いったいなにが伝説なのかというと、まず店長がかなりの気まぐれらしく営業日も営業時間も不定期。
店としてあるまじき姿勢だが、一度この店のスイーツを口にするとそんな批判は二度と言えなくなるという。
表現しようがないほどに絶品であると、雑誌やテレビの特集で何度も見てきた。
今までは数少ない休日で営業日を引き当てることは不可能だと思い込み、半ば諦めていた。
しかし目の前には営業中の看板。ちょうど開店直後なのか客もまばらで並ばなくても簡単に買えそうだった。
今日の俺はツイてる。朝の占いでみずがめ座が一位だったのはきっとこれを表していたんだろう。
これ以上ないほどに高鳴る鼓動を抑えつつ店内に足を踏み入れ、持ち帰り限定のシュークリームを購入。
早くこの甘味を口に運びたい。そんな気持ちでいっぱいだった。
家に帰ってからゆっくりと味わって食べよう。などと考えているとふと脳裏にトラウマがよぎる。
そうだ。俺がこうやって居ると、いつもその幸せを壊そうと全力を尽くす悪魔が居た。
同じようなパターンで待望のスイーツを台無しにされたことは両手じゃ数えきれないほどにたくさんある。
ヤツの存在をを最大限警戒しながら家路に就くが、いらない心配だったかと気を取り直す。
杉小路は高校を卒業と同時に俺の前から姿を消し、それから一度も会っていない。
安井や蓮間にはたまに会うこともあるが、あいつらも杉小路の行方は知らないという。
あいつにはいつも酷い目に合わされていたが、なんだかんだで居なくなると心にぽっかりと穴が開いたような気分になる。
杉小路が居なければ俺は再びサッカーをやろうなんて思わなかっただろうし、不良である俺を恐れず接してくる数少ない人間でもあった。
今思えば俺はあいつの存在に多少なりとも救われていたような気がする。
いったいどこ行っちまったんだろうな――――――――
そんなことを考えながらさっき買ったシュークリームを口に運ぼうとした瞬間だった。
「ぶぅぅえぇぇぇぇぇ――――――ッ!?」
突如背後から鉄の塊が激突し、身体が宙に投げ出される。
宙を舞いつつう一瞬で状況を整理するがどうやら車に撥ねられたようだった。
さっきまで大切に抱えていた袋も一緒に投げ出され、このままでは中のシュークリームとロールケーキが見るも無残な姿になってしまう。
俺の身体はどうなってもいい。スイーツだけはなんとしても守り抜かねば。
なんとか袋をキャッチしようと空中で手を伸ばすが、俺の想いは届くことなくスイーツはそのまま地面に叩きつけられた。
「あああああああああ俺のスイーツがあああぁぁぁぁぁ!!!!!!???」
撥ねられたことで体中から流血しているがそんなことはどうでもいい。
今はただ、食べられることなく散っていったスイーツが無念でしょうがない。
「大丈夫か、清村!?」
俺を跳ねた車から降りてきたのは忘れもしない、聞き覚えのある声の主だった。
「やっぱりテメェの仕業か杉小路ィ……」
数年ぶりに見た懐かしい顔。
一見こちらを心配するような態度を取っているが顔はあからさまにニヤけている。
「いやーブレーキ踏もうと思ったら間違って全力でアクセル踏んじゃったよ」
こいつはいつもそうだ。俺にどんな甚大な被害を及ぼそうと絶対に悪びれることがない。むしろ楽しんでいる。
「まあ久々に会ったんだからちょっと話そうか」
「俺のスイーツ弁償してから言え」
「しょうがないなぁ。さっき買ったクリームパンやるから機嫌直せよ」
ふざけんな!この俺がそんなことでテメェを許すとでも――――――――
「超美味ぇ」
俺はクリームパンを咀嚼しながら杉小路が運転する車に乗っていた。
完全に気分が晴れたわけではないが、さっきよりはだいぶ気分が落ち着いた。
「そういやお前高校卒業してからどこ行ってたんだ?」
「ちょっとやることがあって忙しかったんだよ」
「せめて連絡のひとつくらいはよこせよ。安井とか結構心配してたんだからな」
「ごめんごめん。今度安井にも連絡入れとくよ」
それから俺達は暫くの間お互いの近況を話し合った。
杉小路の方は色々あったようだが俺は特に何もない。
なんとか就職することは出来たが休日はあまりなく、その休日も今日みたいにスイーツ巡りに出かけるくらいだ。
「そうだ、今日は清村に頼みがあって来たんだよね」
「あん?頼み?」
こいつが俺に頼み事というのは結構珍しい気がする。
どちらかというと俺が頼み込んでいる方だ。理不尽な行為をやめるようにな。
「実は今とある仕事をやってるんだけど、今ちょっと人手が足りなくてね」
「俺に手伝えってか?」
「うん。想像以上に体力がいる仕事だから僕の知り合いだと清村くらいにしか務まりそうにないんだ」
「あー……わりーけどパスな。俺も仕事あるし」
「それは大丈夫!君の職場にはもう辞表出してきたから安心していいよ」
「勝手に何してくれてんのォォォォォ!?選択肢すらねーじゃねーか!」
こいつはやると言えば絶対にやるしやったと言えば本当にやっているような男だ。
仮に俺が辞表を撤回しようとしたところでこいつはあらゆる手段でそれを阻止するだろう。
「さあ僕のところで働くか無職になるか好きに選ぶといいよ」
先ほどの発言は撤回する。選択肢はあった。
答えの確定している選択肢が。
「過ぎたことはもうしょうがねーけどよ、まずお前の仕事って何か教えろよ」
「はいこれ」
杉小路は内ポケットから一枚の名刺を取り出して俺に突きつける。
それを受け取って見てみると、そこには芸能事務所とりごやプロ社長・杉小路高千穂と書かれていた。
「社長ォ!?」
「いやー事務所を構えるのは結構苦労したよ」
「いやいやいやいや」
そういう問題じゃないだろこれ。社長もそうだが芸能事務所て。
「君にはうちの事務所でプロデューサーをやって欲しいんだ」
「待て、順を追って説明しろ。まずなんで芸能事務所なんか開いたんだよ」
「はー……言わなきゃわからないのか君は」
可哀想な奴を見るような目で俺を見るな!
「いいかい清村?今はアイドル戦国時代とも言っていい時代だ」
そういえば職場の奴もよくアイドルがどうこう言ってたなぁ……あんま興味ないから聞き流してたけど。
「今流行りの総選挙でも上位だったアイドルが次の総選挙では下から数えたほうが早かったりする」
まあ確かに、そういう話を聞くこともあった。
「みんながトップアイドルを目指そうと男女問わずしのぎを削るような激しい争いを繰り広げているんだよ」
「それはわかった。でもなんでお前はそんな過酷な世界に飛び込もうと思ったんだよ」
「楽しそうだからさ!」
はいはい知ってた知ってた。眩しいほどの笑顔が鬱陶しい。
こいつの行動原理は基本的に面白さに依存する。俺を苛めるのだって楽しいからだろう。
「まあいいや。つーかプロデューサーって何やんだよ」
「それは追々ね。とりあえずうちの事務所に案内するよ」
事務所ねぇ……。
高校時代サッカー部の部室が破壊された時、こいつが探してきたのはコンビニの跡地だったな。
それもお札が大量に貼られていた上に実際に幽霊が出たいわくつきの物件。
だから正直ほとんどアテにしていない。どうせアパートを改修したようなボロっちい事務所なんだろう。
「着いたよ」
「でけえぇぇぇぇぇ――――――ッ!?」
案内されたのは都心の一等地にある巨大なオフィスビルだった。
まだ出来たばかりなのが外装はかなり綺麗で専用駐車場まで完備されている。
いや待て騙されるな。こういう場合は内装がとんでもなく酷いなんてオチが付き物だ。
「おーい、早く中に入れよ」
「お、おう……」
恐る恐る事務所の中に足を踏み入れてみると、想像していたような劣悪なる環境はなかった。
綺麗すぎて普通とは言い難いが、そこには芸能事務所として恥ずかしくない立派なオフィスが広がっていた。
「レッスン場もあるし汗を流せるシャワー室や仮眠室、談話室に加えて裏手には女子寮もあるぞ」
「俺が住みたいわ!」
不動産には詳しくないが全部合わせたらこんなの余裕で数億円するレベルだろ。
高校時代から思っていたがいったいこいつのどこにこんな資金力があるというのか。
相変わらず謎の多い奴だな。
「つーかさっきから誰も見ないけど今日は休みか?」
事務所を一回り見て回ったが、このビルには俺たち以外には人っ子一人居なかった。
「え?居ないよ」
「は?」
「だから僕達しか居ないんだって。事務員も居ないしアイドルもまだ」
「ハァ!?」
ふざけてんのか?そんなんでどうやって事務所をやっていくって言うんだ。
「本当は他の事務所から有望株引き抜こうと思ってたんだけどちょっとこの建物にお金使いすぎちゃってさ」
「金かけるとこ違うわ!」
芸能人の居ない芸能事務所ってなんだよ……。
こんな立派な事務所だから相当でかい会社でもやってるのかと思ったってのに。
「だからさ、最初の仕事としてとりあえずアイドル探してきてよ。僕も事務員探すから」
「俺の方だけ難易度高すぎじゃね?」
「いいからつべこべ言わずに行ってこい!」
「ぐえぇぇぇぇぇ――――――ッ!?」
杉小路の全力パンチを貰った俺はその勢いで吹っ飛び、事務所のガラスを突き破って落下した。
ああ、こいつに再会することさえなければ、俺は今日平穏で幸せな一日を送ることが出来たのになあ―――――
第1話 清村くんと杉小路くんが 終わり
モバマスが絡むSSなのにアイドルが登場しない前代未聞の1話でしたがここで終了です
書き溜めはしていないので恐らく更新は不定期になると思われますが出来る限り続けるつもりです
トリップ付け忘れ
第7話 清村くんと魔王
「やっぱり事務員はもう一人くらい必要だろ」
「うーん、まだ大丈夫でしょ。僕も今度から事務作業手伝うからさ」
「そうか?まあそこまで切羽詰まってるわけでもないしな」
俺は今、杉小路とのミーティングの最中だった。
とは言ってもそんなに本格的に行っているわけではなく、これからの方針をまとめる程度の簡単なものだ。
本当に真面目な話なら、千川も交えた社員全員で討論することになっているだろう。
果たしてこのメンツでまともに議論が進むかという疑念は置いといて。
「アイドルももう少し頭数揃えたいね。ライブやったりすることを考えたら、最低でも5人は欲しいよ」
「暇あったらスカウト行ってるんだが、やっぱりなかなか上手くいかんな」
俺がここまで自分でスカウトしたのは晴と周子の2人だ。
この2人も熱心なスカウト活動の成果とは言い難く、偶然そういう流れになったというのが大きい。
「あ、言ってなかったけど明日からアイドル一人来るから」
突然、まるで思い出したかのようにサラッと爆弾発言を投げかけてきた。
「は?またお前が連れてきたのか?」
「いや、一応前々から募集はかけてたんだけど、最近やっとひとりオーディション受けに来た子が居てね」
そんなことやってたなんて聞いてねーぞ。
それ以前にこんな得体の知れない芸能事務所にオーディションを受けに来るってのも変な話だが。
「だからちひろさんと一緒に面接して決めたんだよ」
「おいおい、そんなことあったんなら報告しろよ。いきなり過ぎるぞ」
「ごめんごめん。忘れてたんだよ」
「まあいい。で、採用したってことは素質を感じたってことなのか?」
「うん。面白……じゃなくて、ちょっと変わってるけどいい子だったよ」
その台詞を聞いたせいで不安で不安でしょうがなくなったぞ。
どっちにしろこいつと千川が目を付けたって時点でまともな奴が来るとは思っていないが。
「まあそういうことだからよろしく頼むよ」
「ああ、わかった」
今のうちにしっかりと心の準備を整えておこう。
鬼が出るか蛇が出るか、せめてこいつみたいなタイプじゃなければいいんだがな……。
「おい、清村ぁーーー!」
不意に、事務室の扉が勢い良く開け放たれた。
「ノックくらいしろよ。一応会議中だぞ」
「そんなことはどうでもいい!なんだよこれ!」
晴は先ほど俺が手渡した衣装を着ていた。
今はまだ必要のないものだが、近いうちに営業やライブで着ることになるだろう。
「何って……お前の衣装だろ?」
「これのどこがカッコいい衣装なんだよ!」
確かに、お世辞にもカッコいいとは言い難いし、むしろ可愛い衣装に分類される。
どうせならカッコいい感じでプロデュースしてほしいと希望していた晴が反発するのも無理は無い。
「良いじゃねーか、似合ってるぞ。大丈夫だお前なら可愛い路線でも売っていける」
「……さっきから食べてるそのロールケーキはなんだよ?」
「これは別に関係ないだろ。ただ杉小路から貰っただけだ」
そう、俺は貰ったから食べているだけに過ぎない。
「清村……お前、買収されやがったな……」
人聞きの悪い事を言う奴だな。
確かに俺は最初、本人の希望通りカッコいいイメージで衣装を用意しようと思ったが、
社長である杉小路の鶴の一声でこの衣装に決まったんだ。
一介のプロデューサーに過ぎない俺が社長に逆らうなんてこと出来るはずないしな。ロールケーキ貰ったし。
だからこれは仕方のないことなんだ、わかってくれ。
しかしこれマジで美味いな。さすが有名店の限定生産品だけある。
「大人の世界はこのロールケーキのように甘くない。だからこういうこともある……ってぶべぇ――――――――っ!!?」
晴の全力ドロップキックを思いっきり鳩尾に喰らった俺は、その衝撃で窓ガラスに突っ込んでいった。
破片が全身に突き刺さり、手に持っていたロールケーキも血塗れになってしまう。
「清村のバーカ!不良!不死身!甘党!」
罵倒なのかどうかよくわからない台詞を残して、晴は走って出て行ってしまった。
「あーあ、怒らせちゃった」
元はといえばテメーにも原因があるだろーが!
……と言いたかったが、あっさりこいつに買収された俺にも問題があるから口に出せない。
ちくしょう。せめてロールケーキだけは守り抜きたかった。
「やっぱり弄りがいがあって良い娘だね」
こいつが本人の望まない方向に物事を進めたがるのは誰相手でも変わらないらしい。
目を付けられた晴にとっては災難だが、物理的なダメージがいかないだけ俺よりよっぽどマシだろう。
「にしても、何がそんなに気に入らないんだ?」
希望通りの衣装を渡さなかったことに関しては悪いと思ってるが、さっきのも似合っていたという感想は本心だ。
普段と違うギャップを感じることが出来て、こっちの方が合ってる気がするんだが……。
「まあでも、律儀にちゃんと着てくれるところが可愛いよね」
それもそうだな。本当に嫌がっていたとしても素直に着てくれたのは俺の顔を立ててくれたからだろう。
そう考えると余計に罪悪感が湧いてきた。今度会ったらちゃんと謝っとくか。
あー……出血多量で意識が朦朧としてきた。
久しぶりの物理的ダメージだったせいで余計に堪える。
杉小路が動くはずがないだろうし、俺は仕方なく自分で救急車を呼び出した――――――――
あのあと、傷の方はすぐ完治したがさすがに失った血はそう簡単には元通りにならなかった。
若干の気だるさを感じつつも、今日も仕事のために事務所へと向かう。
「おーっす」
事務室に足を踏み入れると、杉小路と千川と……知らない奴がもう一人が中に居た。
そういや、今日アイドルがひとり増えるとか言ってたな。すっかり忘れてた。
というか、ずいぶん奇抜な服を着ている。
これは衣装だよな?まさかこれが私服だったりしないよな。
「清村さんも来ましたし、改めて自己紹介してもらいましょうか」
「じゃあ頼むよ。この銀髪の不良っぽい男が君のプロデューサーだから」
その紹介の仕方はどうなんだよ。それじゃ警戒しちまうだろ。
「我が名は魔王、神崎蘭子!我が眷属となる者よ、光栄に思うがいい」
「あ?」
おかしい。昨日の大量出血のせいでまだ頭が回っていないようだ。
とても自己紹介とは思えないような幻聴が聞こえてくるくらい俺はヤバイのかもしれない。
「我が名は魔王、神崎蘭子!我が眷属よ、三度目はないぞ?」
「現実かよ!」
なんてこった、魔王云々とやらは幻聴でも何でもなかったらしい。
言ってる意味が全然わからん。今の自己紹介から読み取れたのはせいぜい名前くらいだ。
「我が名は魔王、神崎蘭子!我が眷属となる者よ、光栄に思うがいい」
「あ?」
おかしい。昨日の大量出血のせいでまだ頭が回っていないようだ。
とても自己紹介とは思えないような幻聴が聞こえてくるくらい俺はヤバイのかもしれない。
「我が名は魔王、神崎蘭子!我が眷属よ、三度目はないぞ?」
「現実かよ!」
なんてこった、魔王云々とやらは幻聴でも何でもなかったらしい。
言ってる意味が全然わからん。今の自己紹介から読み取れたのはせいぜい名前くらいだ。
「どうやら、あなたも”瞳”の持ち主のようね……。私の力に身を焼かれぬよう、せいぜい気をつけなさい。」
意味が理解出来ないからどう反応していいのかもわからん。
「ということで清村、彼女をよろしくね」
「おいちょっと待て!この状況を放り出すんじゃねぇ!」
逃げようとした杉小路をとっ捕まえ、神崎から少し離れた場所へと移動する。
「なんだよいったい」
「それはこっちの台詞だ。どういうことか説明しろ」
「昨日言っただろ?ちょっと変わってるって」
「どこがちょっとだよ!何言ってるのか全然理解できねーよ!」
ある程度事前にどういう奴が来るかってのは予測していたが、完全に斜め上を行かれた形になる。
いくらなんでも、まさかこんな奴が来るなんて夢にも思わないだろう。
「プロデューサーのくせにその程度もわからないの?そんなんじゃこの先やっていけないよ」
この仕事はあんな言語を理解出来きゃいけないくらいハードな仕事なのかよ。
「じゃあお前はあいつの言ってることが理解できんのか?」
「うん。ちょっと見ててよ」
そう言うと、杉小路は神崎の元へと向かっていった。
「蘭子ちゃん、今日からもうレッスンの予定だけど大丈夫?」
「逃れられぬ宿命……我が魂の赴くままに!」
「そう、よかった。じゃあ後で清村にレッスン場まで案内してもらってね」
なんで普通に会話出来てんだよ!
既に話題は雑談へと移っているが、当然のように千川も会話に混じっている。
ええい、こいつらに出来るんなら俺にだって……。
「それじゃあ清村、レッスンに行く前に先に事務所を案内してあげてよ」
「神託を授かりし者よ、我が声に応えよ」
「やっぱりわかるかボケェーーーーッ!!!」
「ひっ……!ご、ごめんなさいっ……」
あ?なんだよ普通に喋れるんじゃねーか。
ってなんで涙目なんだよ。ちょっと待て、泣くんじゃねぇ!
「う……うぅ……」
さっきまでの威勢はどこへやら。
俺が突然叫んだのが原因なのか、神崎はすっかり泣き崩れてしまっている。
「あーあー清村が泣ーかせたー」
「女の子を泣かせるなんて最低ですね」
「待てよ、俺が悪いってのか!?」
二人は俺を非難するように頷いた。
確かに原因は俺にあるかもしれないが、あんな状況に置かれたら誰だって叫びたくなるだろ。
「私が悪いんです……やっぱり私、変な子なんですよね……」
「いや、別にそんなことは……ほらアイドルって普通と違った方が印象的だしアピールできるだろ!」
今の俺には必死で取り繕い、神崎を泣き止ませることしか出来なかった。
理由はどうあれ少女を泣かせたという事実と、杉小路と千川の冷たい視線が突き刺さって心が痛い。
ああ、どうしてこんなことになっちまったんだ……。
「ってことがあったんだよ。頼む、助けてくれ!」
「そう言われてもな……いったいどうしろと?」
あの後俺は、どうにか神崎の言葉を理解する方法がないかどうか研究室を訪ねていた。
「頼む、博士!翻訳機とかなんでもいいから作ってくれよ」
「そういうのを作るなら時間がかかるぞ?」
「出来れば今すぐがいいんだが」
あんまりにも時間がかかると俺が精神的に参るか、神崎がまた泣く羽目になるかどっちかになる。
どっちにしろロクな結果にならないのは目に見えていた。
「じゃあ複写装置だな」
神崎のあの言動はいわゆる中二病というものから来ているらしい。
つまり、それについて書かれている本を複写して俺の頭脳に書き込めばなんとかなる、かもしれないとのことだ。
それは別にいいんだがよりにもよってアレかよ……背に腹は代えられないとはいえ、正直もうあの苦痛は体験したくねぇ。
「安心しろ。あれから更に改良を重ねて今度は脳にダメージがいかないようになっている」
「本当か!?」
「まあ、脳に直接アクセスするわけだから多少の不快感はあるかもしれないが、この前のようにはならないはずだ」
よし、俺はその言葉を信じるぞ。
なんだかんだで博士が優秀なのはよくわかっている。
例え前と同じ結果に終わっても、当初の目的だけは達成できるはずだ。
「……気は進まんが、よろしく頼む」
「この天才に任せておけ!」
さて、この判断が吉と出るか凶と出るか――――――――
博士の言葉通り、あの時のような苦痛は一切感じられなかった。
多少気分が悪くなる程度で済んだのは大きな進歩と言えるだろう。
「漆黒の魔王よ、先日の非礼ここに詫びる(神崎、昨日はすまなかったな)」
「我も業を背負った身……(いえそんな……元はといえば私が原因ですし)」
あの装置のおかげで俺はこうして神崎と意思疎通が出来るようになった。
言うことなしのハッピーエンド……といきたいところだが、ただひとつだけ問題がある。
しばらく神崎と雑談していると、もう一人謝らなきゃいけない人物が事務所に顔を出した。
「ごめん清村……。いくらなんでもこの前はやり過ぎた」
一昨日のあの件があってから、俺と晴が顔を合わせることはなかった。
俺に重症を負わせたことを一応気に病んでいたのか、普段と比べるとずいぶんとおとなしい。
「我は贖罪の羽根を背負う(いや、お前が悪いわけじゃない。悪いのは俺だ)」
「は?」
「小さき姫君よ。聖布を纏い聖戦へと誘わん(しばらくはあの衣装で我慢してくれ。そのうち何とかする)」
「清村がおかしくなったーーーーーッ!?」
複写装置による唯一の問題点とは、普通に会話することができなくなってしまったということだ。
神崎と会話する分には問題ないが、こうやって他の誰かと会話するときは不便でしょうがない。
博士は時間が経てば多分直ると根拠の無いことを言っていたが、俺は本当に元に戻れるんだろうか――――――――
第7話 清村くんと魔王 終わり
おつおつ
Coばっかだね
>>208
そういえばクールが多くてパッションがまだ居ませんね
清杉の存在自体がパッションみたいなものなんで、無意識に避けちゃってたのかもしれません
第10話 清村くんとヤマネコ
春が過ぎ、もはや夏と言っても差し支えのない季節。
俺は自分の担当アイドルが出場するライブ会場に足を運んでいた。
有名アイドルグループも今回のライブに出場するだけあって会場の熱気は凄まじく、冷房が入っていても暑い。
新人アイドル同士のLIVEバトル。今日はこれに参加する予定だ。
スケジュール的にはメインが登場する前の前座のようなものだが、この中から未来のトップアイドルが生まれる可能性もあるだけに注目度は決して低くない。
この勝負に勝つことでアイドルとしての実力を磨き、知名度も上げることが出来る一石二鳥のイベント。
今日のためにやれるだけのことはやった。あと俺に出来ることは、自分のアイドルを信じて見守ってやることくらいだった――――――――
「負けた……か……」
途中まではいい勝負だった。
僅かな差とはいえこちらのリードで終盤を迎えたところ、最後の最後で逆転を許してしまった。
恐らく、勝利を意識して気負いすぎてしまったんだろう。
最後まで集中力を乱さなかった相手の方が一枚上手、ただそれだけのことだった。
「ヤマチャンごめんね……。みく、負けちゃった」
「惜しかったな。次はきっと勝てる」
「でも、これで3度目だよ!?もうそんな言葉、信じられないにゃ!」
実は、LIVEバトルで負けるのは今日が初めてではない。
俺の担当するアイドル、前川みくはこれで初のLIVEバトル参加から3回連続で敗北を喫していた。
だからと言ってみくに素質がないかというとそうではなく、むしろ才能があるからこそ今の状況に身を置くことになっている。
出る杭は打たれるという言葉があるが、それはこの業界でも同じことだった。
他のアイドルと比べても抜きん出た才能を持つみくは、周囲の環境によってなかなか実力を発揮できずに居た。
「悪りぃ……全部俺の責任だ」
そんな有望株の担当を任されているというのに、俺はみくの実力を引き出せないどころか腐らせてしまっている。
俺がもっとしっかりしていればみくはもっと伸び伸びと活動をして、その才能を開花させているだろう。
「……いや、悪いのはみくだにゃ。ヤマチャンはみくのために頑張ってくれてるのに……」
「とりあえず帰るぞ。ここで言い争ってもしょうがねぇ……」
「そうするにゃ……」
まずは、落ち着いて話が出来る場所に移動することにした。
高校時代、地元でも有名な不良として名が通っていた俺が今こんな仕事をしているのには理由がある。
清村緒乃。こいつと関わったことで、俺の人生は大きく分岐することになった。
とある日、とある事件が切っ掛けで奴に関わってから今までロクな出来事がない。
それまで舎弟のような立場だったエイ太とボブは俺から離れていくし、
何をやっても上手くいかないことが続いて何もやる気が起きずただ無為に日々を過ごしていた。
とはいえ、定職に就かず実家暮らしという生活にも限界がある。
こんな俺でも雇ってくれるところはないかと就職口を探していた矢先、街中を歩いていると見知らぬオッサンに声を掛けられた。
話の内容は、アイドルのプロデューサーをやってみないかというもの。
仕事を探そうと思っていただけあって渡りに船な内容だった。
出来るかどうかはともかくやってみようと考えた俺はその話を承諾し、芸能界という世界に足を踏み入れることになる。
就職した経緯がそんな適当な話なだけあって、やっぱり俺はプロデューサーをいう仕事には向いていないらしい。
俺が無能と蔑まれることは別に構わないが、そのせいでみくまで事務所のお荷物扱いになるのだけは避けたかった。
混雑する道路を走り、ようやく会場から戻った俺達は事務所にある談話室へと向かう。
移動中、今回の結果をいち早く知った他のアイドル達がみくに対し慰めの言葉を投げかけてきた。
俺はそれに対し、苛立ちを隠せずにいる。
何故なら、こいつらはみくがLIVEバトルで結果を残せなかったことを内心で喜んでいる。
みくの才能を妬み、あまつさえ潰そうと画策する。俺はそういう卑怯な手を使う奴らが大嫌いだった。
確かな実力を持っていてもそれを発揮できないのは、こういった周囲の環境が原因なのは明らかだ。
とはいえ、俺にできることといえばみくに直接的な危害が及ばないように睨みを利かせ、牽制するくらいだ。
力こそが全てだった不良の世界とは違い、暴力じゃ何も解決できないこの世界で俺ができることなどこの程度でしかない。
「次、LIVEバトルに負けたら俺はこの事務所を辞める」
俺は今、みくと対面する形で椅子に腰を掛けている。
この談話室なら誰の邪魔も入らない。話をするには最適な場所だった。
「……ヤマチャンもみくを見捨てるの?」
「俺は元々喧嘩しか知らねぇ男だ。そんな俺にプロデューサーなんて仕事が務まるはずなかった」
「それならみくも辞める!ヤマチャンが居ないのにここに居てもしょうがないもん」
「馬鹿言うな。トップアイドルになるって前に言ってたじゃねーか」
初対面のとき、そう宣言していたのを思い出す。
「でも、ヤマチャンが居なかったらみくはひとりぼっちになっちゃうよ……」
「それはちゃんと考えてある。安心しろ」
この事務所は腐っているが、全ての人間がそういうわけではない。
まともな奴は少ないながらも居る。俺はそいつに、みくのことを任せるつもりだった。
「それにもし負けたらの話だ。俺は絶対に負けるつもりはねぇ」
アイドルに憧れてこの世界に足を踏み入れたみくと違って、成り行きで入っただけの俺にはこの世界には何の未練もない。
ただ、何の力もないこんな俺を慕ってくれているみくだけはなんとかしてやりたい。心の底からそう思っていた。
「うん。そうだよね……勝てばいいだけだもんね!」
「ああ、その意気だ」
俺も正真正銘最後という気持ちで、後悔がないようにやるつもりだ。
あれから数日が経った。
仕事が一息ついた俺は様子を見に、みくが練習しているレッスン場へと足を運ぶ。
「調子はどうだ?」
「すっごく良いよ!今なら誰にも負ける気がしないにゃ!」
豪語するだけあって、確かに今までよりもずっと良い状態に見える。
前回のLIVEバトルの時に今の力が発揮できていれば確実に勝っていただろう。
これなら次はまず間違いなく勝てる。そう確信出来るほどだった。
「そりゃ頼もしいな。試合はいつでも大丈夫なのか?」
「うん、いつでもいけるにゃ!」
とはいえ、次のLIVEバトルをどこの誰とやるかはまだ考えていなかった。
前の試合での心の整理にもう少し時間がかかるかと思っていたが、蓋を開けてみればこの好調。
あんまり間隔を空けすぎて調子が狂っても困るし、早めの日程を組む必要がありそうだ。
「そろそろ休憩だろ?飯食いに行こうぜ」
時刻は既に昼の12時を回っている。
俺は当然として、みくも今日は早朝からレッスンということで今はちょうど飯時の頃合いだ。
「うん!準備するからちょっと待ってて!」
「ああ」
みくの着替えを待つ間、何処に行くかを考える。
ひとりなら安い牛丼や定食などで適当に済ませるが、さすがにアイドルを連れてそんな場所に入るのは気が引ける。
かと言ってあんまり高く付く店に入る気もしない。普通にファミレスでいいか。
目的のファミレスはさほど遠くないため、車は使わず徒歩で向かうことにした。
この運動公園を抜けると近道のはずだ。
世間一般的には休日なだけあって今日は親子連れや小中学生が非常に多い。
そして、辺りを見渡しながら歩いているとその存在に気が付いてしまった。
「あいつは……!」
忘れもしないその姿。あの頃と何も変わっていない銀髪にピアスの男。
そいつが見知らぬ子供とサッカーをして遊んでいた。
「え、知り合い?」
「知り合いなんてもんじゃねぇ。あいつは俺の宿敵だ」
久しく忘れていた感情が心の中で燃え上がる。
気が付けば、俺はそいつの元へと向かって走りだしていた。
「あ、ヤマチャン!急に走ったりしたら……!」
「はうっ!?」
みくの忠告も虚しく、最近ずっと運動不足だった俺はちょっと走っただけで足を挫いてしまった。
バランスを崩した俺は、転がるように奴らの間に割って入った。
「うわっなんだこいつ!?」
「凄い飛び方してきたぞ……」
「俺のことを忘れたとは言わせねぇぞ、清村……!」
この男こそが清村緒乃。俺の人生を変えた男だ。
「ちょっと、ヤマチャン大丈夫!?」
「大丈夫……じゃねーけど大丈夫だ」
俺は挫いた足を庇いながら起き上がり、痛みに耐える。
「清村の知り合いか?」
「いや、こんな奴知らん」
俺のことを覚えてないだと!?ふざけやがって……!
「お前に報復しに行こうとしたせいで足挫くわ舎弟なくすわロクな就職ないわで俺の人生散々なんだよ!」
こいつがボブに手を出したりしなければ、こんなことにはならなかったはずだ。
「いや、それほぼ俺関係ないじゃねーか……ってか思い出した。お前ヤマか」
「ようやく思い出しやがったか……」
「ああ、あの時俺に抱きついてきた奴だろ」
「うわっ……きもっ……」
「ヤマチャン……失望したにゃ……」
「ちげーよ!誤解を招くようなこと言うんじゃねぇ!」
2人の視線が痛いくらい俺に突き刺さる。
いや、確かにあの時はああいう状況になったが俺にそんな趣味はない。
「どうでもいいが、今更俺に何の用だよ」
「ここで会ったのがテメェの運の尽きだ!ぶっ殺してやる……!」
「なんだよ、やんのか?」
「……と言いてぇところだが、もうガキじゃねーんだしこんなところで喧嘩する気も起きねぇ」
何か公平な勝負で決着をつけるのが理想的だ。
とはいえ、何が良いか……ん?
「さっきから気になってたが、その子供はお前の弟か何かか?」
「晴のことか?」
「弟じゃねーよ。そもそも男でもねーよ」
つまりこいつは女で、清村の妹でもない…ってことは。
「清村……テメェそういう趣味があったのか」
「ちげーよ!お前こそ誤解を招くようなこと言うな!」
「こいつはオレのプロデューサーだよ」
「そうだ。遊んでるのはこいつに付き合ってやってるだけでそれ以上でもそれ以下でもねぇ」
「なんだ、テメェもそうだったのか……」
話を聞けば、この結城晴という子供はアイドルで、清村はそのプロデューサーをやっているらしい。
最近この辺りに新しい芸能事務所が出来たとは噂に聞いていたが、まさかこいつが一枚噛んでいたとは……。
しかしそれなら話は早い。
「清村、俺と俺のアイドルとLIVEバトルで勝負しろ!」
「LIVEバトルだと!?」
「ああ。テメェもプロデューサーならルールくらい知ってるだろ?」
「一応はな……まだ経験はねーけどよ」
プロデューサー同士、これが一番妥当な勝負だろう。
相手の実力はわからんが話を聞く限りはデビュー時期はみくとそう変わらないはずだ。
強敵ならそれだけ倒し甲斐がある。俺の闘志には完全に火が付いていた。
「勝負は一週間後、負けた方は勝った方に従う。みく、お前もいいだろ?」
「みくは別に構わないにゃ。ヤマチャンに任せるよ」
「待て、勝手に話進めんなよ」
「なんだ、自信がないのか?あの清村ともあろう奴がよ」
俺が知る清村は、この程度で怖気づくような男じゃない。
「やってやろうぜ清村!言われっぱなしでいいのかよ!?」
「晴……いいのか?」
「要は負けなきゃいいんだろ?簡単じゃねーか」
さすが清村のアイドルだけあってずいぶん強気だな。面白いじゃねぇか。
「わかった。その勝負乗ってやる」
「決まりだな。わかってるとは思うが、ルール通り正々堂々と勝負だ」
「ああ。よし、帰って試合に向けて特訓するぞ!」
「おう!へへっ、燃えてきたぜ!」
そして二人は、サッカーボールを抱えて公園を後にしていった。
「ヤマチャンが熱くなってるとこ、初めて見たかもにゃ。ちょっとカッコ良かったよ!」
男としては褒められて喜ぶところなんだろうが、正直今の俺はそれどころじゃなかった。
「悪りぃ、みく。ちょっと肩貸してくれ……」
ずっと我慢していた痛みに、ついに限界が来た。
「やっぱカッコ悪いにゃ……」
うるせーな……俺は早く足を冷やして安静にしてーんだよ!
それからはあっという間に日々が過ぎていった。
みくは毎日のように遅くまでレッスンに取り組んでいたし俺もそれに付き合った。
今回の対戦相手であるあの結城晴というアイドルのことも調べてみたが、どうやらあっちもなかなかの有望株らしい。
だが、今のみくの調子からすればタイマンならまず負けることのない相手だろう。
今度こそ、やれるだけのことはやったと断言できる。
「行けるな?みく」
「うん。バッチリだにゃ!」
一足先に会場入りしていた俺達は、控室で清村たちを待っていた。
ククク……今日こそ、この因縁に決着を付けてやるぜ!
「悪ぃ、ちょっと遅くなったわ。よしお前ら、ここが控室だ」
まあ予定の時間には十分間に合うし、多少遅れようが特に問題はない。
清村が室内に足を踏み入れると、連れのアイドル達が雪崩れ込んできた。
ん……?アイドル……達……?
「オレの本気、見せてやんぜ!」
「狂乱の宴……血が滾るわ!(LIVEバトル……緊張するけど楽しみです!)」
「勝ったらなんかご褒美ちょーだいね?」
「フフン!この天才少女の実力を見せてやる!」
「事務所同士の抗争……絶対に負けられんのう」
「えぇ――――――――ッ!?」
当然5人相手に勝てるわけもなく、俺達は惨敗を喫した――――――――
「なんかすまんな……うちの社長が全員出せって言うから鵜呑みにしちまった」
「もういい……確かにルール通りだったし負けちまったもんはしょうがねぇ」
LIVEバトルのルールのひとつにはメンバーは5人までなら自由に編成していいというものがある。
釈然としない部分はあるが、あっちのアイドルが一人だけで、タイマンでの勝負になると思い込んでたこっちにも原因がある。
「移籍してきました前川みくです!よろしくお願いしますにゃ!」
「みくさんか……こっちこそよろしく頼むぜ」
「汝も我が眷属の一員となれ!(お友達になってもらえますか?)」
負けた方は勝った方に従うというルールを決めた結果、みくは前の事務所を辞めてこのとりごやプロへと移籍することとなった。
思うように結果を残せず負け続きだったとはいえ有望なアイドルの一人であることは変わらない。
そう簡単に手放すとは思えなかったが裏で色々と動くものがあったらしい。
そして、俺もみくの担当アイドルとしてこの事務所に一緒に移籍させられている。
次負けたら事務所を辞めるとは宣言していたが、まさかこうなるとはな……。
まあ、みくはこの事務所では好意的に受け入れられそうだったし結果的に負けたとはいえそう悪いことばかりでもなかったということだ。
ただひとつの問題点を除いて……。
「うちも人手不足だったからな。これから頼むぜ、”色々”とな……」
「これからよろしくお願いしますね。ヤマさん」
「これからよろしくね」
俺に対して不敵な笑みを浮かべる社長とプロデューサーと事務員の姿を見て、溜息が出そうになる。
特にあの二人は俺たちを引き抜くのにかなりの裏工作をしたらしく、この俺が恐怖すら感じるレベルだ。
やっぱり、清村には関わってはいけなかった。
今さらそんなことを考えても遅い。わかってはいても、考えずにはいられなかった――――――――
第10話 清村くんとヤマネコ 終わり
ヤマさんは原作でたった1話しか登場してないキャラなので、あの話でわかること以外はほぼ想像です。
無関係な人間を巻き込むことを嫌う性格から悪人ではないと思いますが……。
どマイナーなキャラもいいとこなので出すかどうか本当に悩みました。
もしかしてろのキャラなのかな
一切覚えがない
>>355
そうですね
”ろ”を読んでても覚えてない人も居そうです
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