京太郎「夢の此方」 (1000)

○京太郎が登場する短編SSがメイン

○更新不定期

○ハギヨシ主役のSSがあるかもしれない

○進行は気分などによりageたりsageたり

○そもそも、京太郎もハギヨシも出ないかもしれない時も

○ヤマもオチも意味もない、元になったらしい意味でのやおいスレとも言えます

○適当に書いてるので、書いてる側も見ている側も訳が分からなくなる話が出る可能性も

○ネタは随時募集中ですが、クオリティの保障はいたしかねます…安価で受けた場合はなるたけ早く書きます

以上が注意事項です
誤字だのなんだのが目立つかもしれませんが、どうぞよろしくお願いいたします

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1387290463

前スレらしきもの

京太郎「夢の欠片」
京太郎「夢の欠片」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1382787965/)

唐突にリクエスト募集、投下は多分夕方以降

>>9

大沼爺リベンジ編


聡「…冗談だろ?」

秋一郎「冗談ではない。俺は奴らに一泡吹かせてやるつもりだ」

聡「人はそれを、年寄りの冷や水って言うんだ」

秋一郎「知っとるよ」

聡「大沼さん、アンタついこの間まではシニアでのんびり打ってるって言ってたじゃないか」

秋一郎「そうだな」

聡「そちらに何があったか知らんが、お止しなさい」

聡「私達は、後進の育成に力を注いでいればいいんだ。出しゃばったって誰の得にも…」

秋一郎「…楽しいか?」

聡「ん?」

秋一郎「自分の望みを、他の誰かに委ねるのは楽しいか?」


聡「…そんな訳はない。第一私はただ、孫娘に強くなってもらいたいだけだ」

秋一郎「…本当にそれだけか?」

聡「…」

秋一郎「お前の息子は麻雀を止めた。スジは良かったのに、プロになってすぐに挫折した」

聡「昔の話だ」

秋一郎「そうなったのは確か…熊倉の奴が見繕った女子プロに打ちのめされたせいだったな」

聡「その話は止してくれ。あの女の名前を聞くと、虫唾が走る」

秋一郎「そりゃ向こうだってそうだろう。俺達がまだ若かった頃、麻雀は男性の独壇場だった」

秋一郎「今とは逆で、女子のレベルなんかてんで低かった。それを知る熊倉にとって、俺達は目の上のたんこぶだ」

聡「…それがどうしたと言うのだ」

秋一郎「お前が今そうしているように、奴は後進へと己の望みを託したのだ…自分では我々に勝てんからとな」

秋一郎「別にそれが悪いとは言わん。物事の流れから言えば、至極当然の事だ」

聡「癪ではあるが、あの女は正しかった。だから俺もそれを認め、孫娘に全てを託そうとしているのだ」

秋一郎「…あの子は賢しく、諦めが良過ぎる。お前の望みを託そうとしても無駄なことよ」

聡「…何が言いたい?」



秋一郎「――誰よりも強くなりたいと思う勝負師の性は、誰にも託せはしないと言うことだ」


聡「…」

秋一郎「南浦よ、俺達は所詮勝ち負けの世界で生きてきた者だ。今更殊勝に振舞っても仕方あるまい」

聡「…俺にどうしろと言うのだ。あの、小鍛治プロをはじめとする魑魅魍魎に立ち向かえと?」

秋一郎「無論強制はしない。そちらの好きにすればいい…だが俺は、必ず奴らに立ち向かうぞ」

秋一郎「男にしろ女にしろ、今のプロどもは諦めが良すぎてつまらん。勝とうという気がまるでない」

聡「…それは大沼さんだってそうだったでしょう」

秋一郎「まあな」

聡「昔なら兎も角、今の力で立ち向かったって打ちのめされるだけだ」

秋一郎「そうだろうな」

聡「分かっているなら、何故止めようとしないんだ…」

秋一郎「…俺はただ、諦められないだけだ」

聡「…何故」

秋一郎「生まれた時代だの国だの…男だの女だの…何年打ってきただの…力があるだのないだの…くだらん、実にくだらん」

秋一郎「勝ち負けハッキリさせようって、ただ…それだけのことをさも高尚に語ろうとしていた自分を、俺は嫌になった」

秋一郎「解説の時もアナを尻目に分かり辛い解説をして…あの時の俺は、頭がどうかしていたのだ」

聡「そんなの、よくあることじゃないか」

秋一郎「かもしれん。だがな、どこでもそんな風にばかりしてると麻雀を打ちたい奴は増えやしないぞ」

秋一郎「だから俺が見せてやるんだ。オカルトだのデジタルだのから、麻雀を解放してやる。してみせる」

聡「何の為に?」

秋一郎「知れたことよ。俺は死ぬまで勝負師で居たいのだ。つまらん理屈はさておいて、色んな相手…出来れば強い相手と打ちたいのだ」

秋一郎「その為には…今ある枠組みが邪魔なのだ。赤ん坊でもジジイでもいい、強い奴…或いは打ちたい奴が集まらなくてはならん」

聡「無茶苦茶だぞアンタ。そんなもの、どうやったって成り立つ訳はない!」

秋一郎「…誰にも文句は言わせんさ。その為に俺が、誰よりも強い打ち手になればいい」

秋一郎「麻雀を諦めさせる風潮など、この俺が木っ端微塵に消し飛ばしてやる…突拍子もない話だろ?」

聡「まったくだ…だが聞いていて面白い。私達は、死ぬまで打つのを止められはしないのだから」

秋一郎「…ふむ、ならばこれから打ちに行こうじゃないか」

聡「何所で?」

秋一郎「どこだっていい。とりあえずは打てる奴と打ちに行こう…武者修行って奴だ」



カン!

…リベンジ開始(?)の場面までしか書けませんでした
大沼プロの考えですが「小鍛治プロの無敗神話を打ち崩して、自分が新たな流れを作る」みたいな感じです

それでは、また


今年の春、晴れて私は風越女子に入学出来た。

私は麻雀が好きで。

もっと沢山打ちたくて。

もっと強くなりたくて。

…私はきっと、その為にここへ来た。

入ったばかりの頃は、ランキングが78位と散々な有様だったが。

そんな私にとって、キャプテンは…彼女はまさに雲の上の存在だった。


そんな彼女が、私のような奴の代わりに雑用をする。

信じられない事だった。

慣例では、雑用を勤めるのは校内ランキングの低い1年生だったからだ。

勿論キャプテンとは対照的だ。

校内ランキングは当然1位で、実力だって圧倒的だ。

けど3年だ。

雑用なんかにかまけて、自分の打つ時間を減らしていい訳がない。

誰もがそう思っていた。

私もそう思っていた。

その疑念は日に日に募っていって、とうとう私はたまりかねてしまって。

だから彼女を問い詰めた。

雑用なんてしなくていいと、そうしているのはおかしいのだと。

彼女は答える。

自分の先は長くないけど、私達の先は長いのだと。

私がいつか、風越を導く時が来るかもしれないのだと。

買いかぶりすぎだと思った。けれど、

「みんなには牌に触れていて欲しいの。もっともっと、麻雀を楽しんでいて欲しいのよ」

そう言われて、私は何も返せなかった。


笑顔の似合う人だった。

とても優しい人だった。

麻雀部の場末なんかを、彼女は覚えてくれていた。

あの、対々三暗刻も。

彼女はみんなを見ていてくれる。

そして、みんなを護ってくれる。

私達はミスをする。

彼女は決してミスをしない。

なのに彼女は責められる。

私の代わりに、みんなの代わりに。

そうさせてしまう自分が、どうしようもなく不甲斐なくて…辛かった。

麻雀が絡む話でだけは、人が変わってしまうコーチを恨みもした。

イライラした。

とてもイライラした。

特に、清澄の竹井さんに負かされた時は。

悔しかった。

みんなの点を取られた事が。

キャプテンが竹井さんも見ていたことが。

キャプテンは、私達にだけ優しくしてくれればいいのに。

彼女がずっと、麻雀部にいてくれればいいのに。


…もう一緒には打てない。

彼女はもうすぐ麻雀部を去り、私達を置いていってしまうのだ。

誕生日だというのに、それを思うと心が痛む。

冬の寒さが、益々身に染み込んでくる。

別れの春は、もうすぐそこまで近づいていて。

私はそれが辛くて仕方ない。

みんなだって辛いだろう。彼女にべったりだった池田先輩なら、尚更のことだ。

だが先輩なら、決してへこたれないだろう。

彼女の意志を継ぐ者として、あの頂を目指していくだろう。

それはきっと遠い道のり。

長野には未だ、3つの大きな山がある。

それを乗り越えたとしても、更に高い山々が連なるのだ。

それでも進む。

私は進む。

みんなと一緒に、あの人の思いを背負って。

私達は託されたのだ。

キャプテンから託されたのだ。

そしてこの先、結果がどうなろうとも…私達もまた次代に託していく。



カン!

「文堂さん主人公ってアリなんじゃね?」と書いてて思いました

それでは、また


咲「京ちゃん…いつまで麻雀部に居る気なの?」

京太郎「卒業するまでさ」

咲「麻雀が弱いままなのに、大丈夫?」

京太郎「ただ居るだけでもいいんだ。ううん、居させてもらえるだけでいい」

咲「後輩のみんなから馬鹿にされてても?」

京太郎「構わない」

咲「……」

京太郎「…俺はどう言われたっていいんだよ、咲」

咲「どうして?」

京太郎「アイツの…和の傍に居たいから」

咲「和ちゃんは、京ちゃんなんか見向きもしないよ?」

京太郎「知ってるよ」

咲「どうしたって振り向いてはくれないんだよ?」

京太郎「それでもいいさ」

咲「そこまでして愛する価値が、あの子にあるの?」

京太郎「…お前がアイツに愛されてるのは当たり前だから、当然そう思うよな」

咲「和ちゃんは…ひとところに留まれない生活を送ってたせいか、気移りしやすいの」

咲「だからね、あの子が今でも私を想ってくれてるとは限らないの。欲しがる程のものじゃないよ」

京太郎「ああ、そうかもしれない」

咲「何も与えられはしない。和ちゃんは、京ちゃんのことを満たせはしない」

咲「だけど私ならきっと満たしてあげられる。京ちゃんの為なら、何だってしてあげられるの」

咲「だから、だから私を見て…いや、私だけを見て…そして、私を愛してよ…京ちゃん…京ちゃん……」

京太郎「…ありがとう、咲。その気持ちはとても嬉しい」

咲「京ちゃん!」

京太郎「しかし、俺はお前を愛せない。お前が俺をどんなに愛しても、やはり俺は和の事を愛してるだろう」

咲「…え?」

京太郎「どうしようもなく好きになっちまったんだ。理由なんかどうだっていい、ましてや結果なんて」

京太郎「報われたいだなんて思わない。愛して、そして愛されればそれに越したことはないだろうけど」

京太郎「俺は所詮…光に群れる醜い蛾かもしれない。ただ、和と言う光に憧れているだけかもしれない」

京太郎「…それでもいいんだ」

咲「…うん、分かってた」

京太郎「……」

咲「全部分かってた。京ちゃんの想いと同じく、私の想いもまた意味のないことだって…私、知ってたよ?」

咲「行き場なんてどこにもないって…私と京ちゃんの道は、どう足掻いても決して交わらないんだって」

京太郎「…咲」

咲「もう何も言わないで。私の想いは砕けたんだから、優しくしないで」

咲「その優しさは、私に向けたものじゃない…あの子の代わりとして、私に優しくしたいだけ」

咲「あるいは、私を傷付けた事実を否定したいからだろうけど…そんなの無理だよ。もう何もかも終わったんだから」

京太郎「……」

咲「―――和ちゃんなんか、居なければ良かったのに」

報われない愛というのも悪くはないと思うのです

それでは、また


哩「……」

姫子「……」

京太郎「で、これって何の集まりですか?」

良子「そこなバカチン二人がふしだらな真似をしよったせい」

煌「ふしだらなのはすばらくない!」

仁美「懸念を表明する」

京太郎「一体二人が何をしたって…」

良子「こげなもん」サッ

『プライベートビデオ -まいひめ-』

京太郎「…ああ」

哩「二人でこっそり観賞しょーとしただけやん!」

姫子「私ら、誰にも迷惑かけとらんよ?」

京太郎「そりゃまあ、結果的にはそうだったんでしょうけども」

煌「…周りにバレたらどうするつもりだったんですか」

哩「見られたら見られたらで」

姫子「それはそれでええかなーって思うたんよ」

良子「…よー分からんわ」

仁美「遺憾の意を示す」

京太郎「お二人はバカなんですか?」

煌「…須賀君、バカは貴方もですよ」スッ

『プライベートビデオ -まいひめと-』

京太郎「え?」

煌「え、じゃありませんよ貴方」

良子「アンタたちは部内の、ひいては学内の風紀を乱したか?」

京太郎「…取り扱いには注意しろって言ったじゃないですか」

哩姫「「ごめん」」

仁美「…真に遺憾である」



カンッ

なんもかんもよしこが三人も居るんがが悪い

…美子ちゃんゴメンよ

>>33

哩「……」

姫子「……」

京太郎「で、これって何の集まりですか?」

美子「そこなバカチン二人がふしだらな真似をしよったせい」

煌「ふしだらなのはすばらくない!」

仁美「懸念を表明する」

京太郎「一体二人が何をしたって…」

美子「こげなもん」サッ

『プライベートビデオ -まいひめ-』

京太郎「…ああ」

哩「二人でこっそり観賞しょーとしただけやん!」

姫子「私ら、誰にも迷惑かけとらんよ?」

京太郎「そりゃまあ、結果的にはそうだったんでしょうけども」

煌「…周りにバレたらどうするつもりだったんですか」

哩「見られたら見られたらで」

姫子「それはそれでええかなーって思うたんよ」

美子「…よー分からんわ」

仁美「遺憾の意を示す」

京太郎「お二人はバカなんですか?」

煌「…須賀君、バカは貴方もですよ」スッ

『プライベートビデオ -まいひめと-』

京太郎「え?」

煌「え、じゃありませんよ貴方」

美子「アンタたちは部内の、ひいては学内の風紀を乱したかと?」

京太郎「…取り扱いには注意しろって言ったじゃないですか」

哩姫「「ごめん」」

仁美「…真に遺憾である」

>>35
なんもかんもよしこが三人も居るんがが悪い→なんもかんもよしこって子が三人もおるんが悪い


全てが私の憧れだった。

私の如き力のない者は、力のある者に憧れながら生きてきた。

それに一歩でも近づきたくて、それと同じようになりたくて、私は必死に足掻いてきた。

その結果得たのが模倣の力。

私が見た、私が憧れた相手の力を完璧なまでに再現するもの。

けれどそれは一炊の夢にもならない。仮に出来たとしても、せいぜいが一局程度。

勿論、それをたしなめられた事は少なくない。和先輩にもキツく言われたのだ。

それでも私は、誰かに対する憧れの感情を、どうしても麻雀から切り離せない。

いつからそうなのかは覚えていない。

しかしそれを決定付けたのは、間違いなく和先輩であるのは疑いようもない。

そう考えると、たしなめられた事がどうにも腑に落ちなくなる。

そもそもあの人だってそういうものが好きだったろうに。あの、エトペンとか言うやつが。

あれに対する優しさを、少しは私にも向けて欲しかったと今更ながら思う。


今年に入って、私もめでたく清澄高校に入学した。

先輩たちは相変わらずの大活躍で、麻雀部への入部者数もそれなりに多いと聞く。

…高遠原のような少人数だったら良かったのにと思ったのは今でも内緒だ。

嫌だったのだ。

万年初心者の私が…同じ初心者に追いつかれ、追い越され、追い抜かれてしまうのが。

経験者だって居るだろうけど。清澄は、他の強豪校と比べて門戸が低いのだと裕子先輩から聞いていた。

普通ならそれを聞いて安心する所だろうが、私は違った。理由はやはり、私が初心者だからだ。

誰かに憧れ眺めているだけの私が、どうして先に進む事が出来るんだろう。そんな風に思ってしまう事もあった。

無論、何もしなかった訳ではない。プロのやってる教室に通い、部室で遅くまで練習をしていた。

でもそれだけじゃ届かない。私の望みは、未だに叶っていないのだ。


エトピリカになりたかったペンギン…つまりはエトペンの事なんだけど。

アレと私はよく似ている。

エトペンはペンギンだから、当然だけど潜水しか出来ない。

けどエトピリカは違う。潜水だって出来るし、空を飛べもするんだ。

エトペンはそれが羨ましかったろう。潜ると飛ぶ、どちらも出来るエトピリカが。

でも結局エトピリカにはなれなかった。彼…もしくは彼女は、空を自由に飛べはしなかった。

それを思うと、私はとても悲しくなってしまう。あの絵本の作者はとても意地悪だ。

ひょっとしたら、私も誰かが作った物語のキャラクターなのかもしれない。ふと、そんな不安が脳裏をよぎる。

…エトピリカのように、なりたくてもなれないものに憧れるしか出来ないのなら、いよいよもって嫌らしい。


「…憧れるだけって辛いよな」

「まったくもって」

「和に出会わなければ、俺達一体どうなってたんだろうな?」

「知りませんよ、そんなの」

 私と話しているのは須賀先輩。和先輩達と同じ3年生だ。

 この人も私と同じで和先輩達に…いや、和先輩個人に憧れた人だ。

 経緯や方向性は私とかなり違うけど、手の届かないものに憧れるのは一緒だ。

 私だけの必殺技をつくりたい。そんな事を思いついて清澄を尋ねた折、私はこの人と出会った。

 初対面で親近感を感じたのは境遇のせいか、彼の人徳のせいか。多分、どっちもだろうけど。

「麻雀、上手くなったか?」

「先輩は?」

「ぜーんぜん」

「なら聞かないで下さいよ。私だって、同期によくそう言われるから辛いんです」

「うん、知ってる」

 何て底意地の悪い。

 人徳と言うのはなしだ。人当たりはいいかもしれないが、善人とはとても言えない。

 善人であれば人徳が備わる…そんな保障も無いんだけど。


「今日は私の誕生日なんですよ?少しは祝いの言葉でもくれたらどうです?」

「…お前にとって、それがめでたいんならな」

「そういう察しのいい所、とっても嫌らしいですよ」

 誕生日なんて、今の私にとってはめでたくない。

 もうじき自分も上級生。その時が近づく事を、ひとつ年をとる事で実感してしまうんだ。

 自分は誰かに教えるなんて出来ないし…それを思うと欝になる。

「不安になるのは分かるさ。俺だってそうだったんだ」

「そうやって、私を自分と重ねるのはやめて下さい」

「重ねずにはいられねーよ。だってお前、俺と立場が似てるから」

「…立場だけじゃないだろうから嫌なんです」

「だろうなあ」

「そう言えるのって、乗り越えてきた人の余裕ですか?」

「乗り越えてきただなんて…そんなに大したもんでもないだろ」

「大した事です。私は不安ばかりが募って仕方ありません」

 こうして話している時でも、不安はどんどん大きくなる。

 私は先輩達のようになりたい。だが同時に、そうはなれない事をひしひしと感じている。

 おまけに先輩達は既に引退している。それで私のモチベーションが希薄になっているのは確かだ。

 そしたら私はまた、あの人達に憧れるだけになってしまうんだろうか。

 麻雀にしろ物理的にしろ、その距離はますます遠ざかってしまうだろうから。


「しんどいなら…やめちまってもいいんだぜ。和達に憧れるのは」

「まあ、確かにしんどいです」

「お前にはお前の打ち方があるだろうって、みんなも言ってたじゃないか…なら」

「それなら尚更やめられません。私の打ち方は、昔も今も…そしてこれからも模倣です」

「…憧れを捨てられないって?」

「それもありますが、私ってば欲張りなんです。弱いから…いや、弱いからこそ欲張りたくなる」

「あんなに凄い人達の力を、私がひとところに集められたらって思っちゃうんです」

 そう。

 私はずっと、そんな事を夢見て牌に触れてきた。全部自分のものに出来たらって、そう思って。

 自分の打ち方なんて知らない。私が夢見たもの全てが、私の打ちたい麻雀だ。だから、

「私に諦めさせないで下さいよ、先輩」

「辛いぞそれは。みんなはお前は止めるの諦めたけど、俺には出来なかった」

「それは同情ですか?それとも…」

「愛情だ。妹を想う兄のような」

「…優希先輩にもそうなんですか?」

「……」

 彼は何も答えない。何やら気まずそうな顔をしている。

 もしかしたら、優希先輩と何かあったのかもしれない。彼女を想う彼には、先輩を相手になんて出来ないだろうが。

 けど私はそんなの知らない。慌てふためく彼を見て、私はざまあみろって思ってる。

「とりあえず先輩、後ろから刺されないで下さいね?」

「ないない。俺は和しか見てないし、そもそもアイツと惚れた腫れたとかあるのかね」

「ひょっとしたらひょっとするかもしれませんよ?」

「ありえん」

「そうですか。それなら私も、今の打ち方を止められはしないと言っときます」 

「…ま、しゃーねーな」

 きっとこれからも私達は憧れ続けて。ずっとずっと、何かを夢に見続けながら先へ進んでいくのだろう。

 その思いは恋に似ていて…求めずにはいられない。

 それが終わってしまうとしたら、それはきっと…自分が死んでしまう時だ。

マホ…京……?
そうなるはずだったんですけど、なんでかそうじゃなくなってましたーオチってなんだ、オチってなんだ!

それでは、また

>>46 訂正

×:「辛いぞそれは。みんなはお前は止めるの諦めたけど、俺には出来なかった」
○:「辛いぞそれは。みんなはお前を止めなくなったけど、俺にはどうも出来なかった」


1/

久しぶりの里帰り。しかし私は、あまり気乗りしていなかった。
気まずいのだ。
自分に強く依存していた後輩を、モモの事を思い出してしまうから。

「先輩!行かないで下さいよ、先輩!」

「…モモ」

「先輩が居なくなってしまったら、私は…この先どうして生きていけばいいんですかっ!」

そう言われて、私は何も返せなかった。恥ずべき記憶だ。
互いに俯いたまま、向き合おうともせず、私達は踵を返してその場を後にした。


2/

「…これでよかったんですか?」

そう言ったのは須賀京太郎。当時から彼と私は懇意にしていた。
私とモモが揉め事を起こしでもしたら…そう心配して、こっそりついて来たのだ。

「どうしたって、別れは避けられないものだよ。京太郎」

「そうでしょうけど」

「君と私も離れ離れになってしまうだろうに。モモだけじゃなくて、君にまでぐずられては困るんだよ」

「東横よりも聞き分けのいい奴ですよ、俺は」

「諦めがいいとも言えるかもしれん」

「意地悪ですね。俺はあの子ほどにゆみさんを想っていないと、そう言いたいんですか?」

「まさか。君は人付き合いがいいし、人間関係においてモモより余裕があると思ってはいるが」

「なるほど」

私の言葉に、京太郎君は納得したのか深くうなずいた。決して、うなだれたのではなく。
モモにもこうして別れを受け入れて貰いたかったと、その時思った。
彼女を欲したのは私。依存させたのも私。なのに私は別れを告げた。
どうしようもないこととは言え、我ながらとても身勝手だと今でも思う。


3/

京太郎と出会ったのは…インハイの後、久が私に会いに来た時だ。
勿論一人で。私と彼女の関係を、モモは快く思ってなかったようだったから。
久が彼を随伴させたのは、彼の指導を私に頼む為だった。荷物持ちの役でもあったが。

「私ではなく、君が指導すべきだと思うのだが」

「ゆみ。須賀君はね、貴女と同じ『持たざるもの』なの」

「そういうことか。確かに私は、特別な力なんて持ってはいないが」

「それともう一つ」

「何?」

「貴女も彼も、臆病者だということよ」

当時は久の意図が分からなかったが今なら分かる。彼も私も、どこか気概が乏しかった。
何かを強く求めていた。けれどそれは、他の誰かに及ばなくて手に入らなかった。
欠けていたのは力か、勇気か、それとも欲望だろうか。


4/

「みんなと同じ所に立ちたかったんすよ…俺も」

「君は君で頑張ってたそうじゃないか」

「俺とみんなじゃ、見ているものが違うんですよ。俺はただ楽しめればいいんですから」

彼は俯きながらそう言った。

「…私だってそうだ。決勝戦で負けた後、悔しさよりも残念な気持ちの方が強かった」

「俺達って、どこか冷めてるんでしょうか?」

「さあな」

得られる者と得られぬ者。随分違っているようで、実はそうでもないかもしれない。
ただし、明確な違いはある。それは諦めないこと。
ただ諦めないのではなく、自らの欲する結果を誰よりも信じて疑わない者が、それを形に出来る。

「麻雀も…そして恋も、俺はもう諦めちゃいましたから」

その時の彼は、朗らかなようで、どこか寂しさを感じさせる笑顔をしていた。
諦めたというのは嘘だろう。本当であれば、私のところに来てはいないだろうから。
その姿が、かつてのモモと重なって見えた。
誰かが呼びかけなければ、今にも消えてしまいそうな…そんな気がした。


5/

あれから2年ほど経った。京太郎と私は、巷で言う遠距離恋愛をしている。
言い方は悪いが、彼はモモと違って嫉妬しないし依存しすぎない。
頼られるのは嫌いではない。しかし、うんざりに感じることがあったのも確かだ。
久と時々会っていたのも、京太郎と出会うことになったのも、きっとそれがきっかけなのだろう。

閉じた世界の中、ただ二人だけで生きるだけなんてとても――

「…あ、先輩!」

「ゆみさん…お久しぶりです。それと、お誕生日おめでとうございます」

…どういう、ことだ?

「私達、ずっとずっと待ってたっすよ。先輩が帰ってくるのを」

「けど待ちきれなくて…ですから俺達、こうして一緒になったんです」

「一緒にって…お前達」

「先輩がいつまで待っても戻ってこなくて、寂しかったっす」

「俺から会いに行くばかりって、正直辛かったんです。ゆみさんはあまり積極的でないのかなって」

「…お互いの生活を崩す訳にはいかないだろう」

「だからこそですよ。俺は貴女の負担になるのが嫌で、無理しちゃってました。だから俺から会いに行った」

「なら、どうして…」

「言葉だけでもいいから、そちらからも求めて欲しかった…と言うことです」

そん、な。そんなのって…そんなこと、今になって言われても……。

「いいっすよ京太郎。全てはもう、終わったことですから」

「モモ、俺は……」

「先輩が、私達にとって大事な人なのに代わりはないでしょ?たとえ、手の届かないものであっても」

「…そうだな」

数えるほどしか会ってなかった。それでも私は、お互いを分かり合えているものだと信じていた。
だからこそ、今のこの光景を受け入れられなくて。訳が分からなくて、分かろうとさえ思わなくて。
確かなことは、かつて私の隣にいた誰かが、二人で寄り添いあって私の前に立っている。

――ただ…それだけのことだった。

遠距離恋愛の日だって言うけど、自分にはそれがよく分からなかった
なので他の誰かも書いてくれると嬉しいなって

それでは、また


「そういう訳だから、お前にはまた清澄に行って欲しい」

「…またっすか」

「こんな事を頼めるのはお前くらいなんだ。ううん、お前しかいないんだよ」

「それもう何度も聞きましたよ」

「事実なのだから仕方があるまい」

「会いに行けばいいじゃないっすか」

「いきなりでは彼が迷惑してしまう。私はそれが嫌なんだ」

「その程度でみみっちいこと言う人じゃないっすよ、彼は」

「お前に彼の何が分かる!」

ブチッ!

ツー、ツー、ツー

「…よく知ってるからこそ、私はああ言えたんすけどねー」


「須賀先輩、買い出しお願いします」

京太郎「あいよ」

「須賀先輩、牌譜の整理もお願いします」

京太郎「あいよ」

「須賀先輩、牌の手入れもお願いします」

京太郎「あいよ」

優希「京太郎!タコスを作れ、タコスを!」

京太郎「あいよ」

和「すみません須賀君…エトペンの糸がほつれてしまって」

京太郎「あいよっ!」



裕子「須賀先輩、見事に使い走りにされてますね」

まこ「断るべきは断れと、いつも言い聞かせてるんだがのう」

咲「京ちゃんって、ああ見えて結構頼りがいがありますから……」



(…今日も通常営業っすか、京さん)


京太郎「あー忙しい忙しい」

まこ(そうなっとるのはアンタのせいじゃ)

裕子(須賀先輩のアレは、ひょっとしなくてもワーカーホリックなんだろうな)

咲(ああ…今日も京ちゃんが輝いている)

(…少しは麻雀しろよ!)

京太郎「ん?」

(しまった…ここは一時撤退っすね)

シュタッ

和「須賀君…どうしたんですか?」

京太郎「いや、なんでもない。疲れていたから幻聴が聞こえたのかもしれないが」

和「いつも甘えてばかりですみません。須賀君には、いつも助けられてばかりですね」

京太郎「い、いやーそれほどでも」デレデレ

まこ(ちょろいのう)

裕子(チョロ甘ですね)

咲(あざとすぎでしょ和ちゃん)

優希(汚いな流石のどちゃん汚い)




京太郎「…また来てたのか」

桃子「すみません、また来ちゃいました」

京太郎「何で来るんだ?」

桃子「…察して下さい」

京太郎「察してくれって言われてもさ、不法侵入な訳だしさー」

桃子「私だって…こんなことはもう嫌っすよ。でも止められないっす」

京太郎「どういうことだ?」

桃子「全部アンタが悪いとしか」

京太郎「俺のせい!?」

桃子「そう、京さんのせいっす」

京太郎「何で俺のせい?」

桃子「自力でどうにか察してくれないと、結局私が困ります」

一時中断


京太郎「…そう言えば、もうすぐゆみさんの誕生日だけど連絡あったか?」

桃子「は?」

京太郎「俺の方からたまに電話をしても大抵は出てくれないし、迷惑なのかなって思ってさ」

桃子「はあ!?」

京太郎「す、すまん」

桃子「いえ、京さんは謝らなくてもいいんですよ。京さんは」

桃子(電話にもろくに出ないってどういうことっすか…先輩)

京太郎「…いけね。今日はこの後約束してたんだった」

桃子「え…約束って誰とっすか?」

京太郎「すまんがそれは内緒だ。それじゃ」

タッタッタッ...

桃子「あ、ちょっと待って下さいよ…京さん!京さーん!」



桃子(これもうダメかもしれないっすね)


ゆみ『…浮気してるかもしれないって?』

桃子「あーはい」

ゆみ『どういうことだモモ…そうならない為にお前をあそこに行かせてるんだろうが!』

桃子「はいはいすみませんすみません」

ゆみ『モモ!』

桃子「いやだって…先輩の彼に対する反応が、聞いた限りじゃかなり酷かったっすから」

ゆみ『…え?』

桃子「電話をしてもあまり出てくれないって、京さん嘆いてたっす」

ゆみ『う、それはだな…』

桃子「せめて折り返すくらいはしましょうよ」

ゆみ『め、メールとかでなら返してる』

桃子「…分かりました、先輩ってアホなんすね!」


ゆみ『あ、アホとはなんだアホとは!』

桃子「電話の返事に文字でのやり取りとか…普通に考えて、相手の声が聞きたいに決まってるじゃないっすか」

ゆみ『…怖いんだ』

桃子「へ?」

ゆみ『彼の声を聞くと、多分私は感情を抑えきれなくなりそうでな』

桃子「何で抑えようとするんですか」

ゆみ『彼相手には、カッコいい自分を演出したいから…かな』

桃子「……」

ゆみ『も、モモ?返事が無いのは怖いぞ?』

桃子「それなら彼にも返事くらいしやがれって話っす」

ゆみ『だからメールとかでなら』

桃子「自分の声で」

ゆみ『な、生の声じゃないし…』

桃子「 会 話 し て 下 さ い 」

ゆみ『…はい』


桃子「大体ですね、何で私が浮気調査なんかしなくちゃいけないんすか」

ゆみ『久に煽られてるんだよ。彼はそれなりにモテるだろうからとな』

桃子「…まーたあの人っすか」

ゆみ『ん、嫉妬か?』

桃子「そんなもん、とうの昔に出来なくなりましたよ。こうして先輩のヘタレっぷりを知っちゃいましたし」

ゆみ『失礼な!』

桃子「折角彼をあの人に紹介してもらって、なんやかんやで付き合うことになったのに…その体たらくでは」

ゆみ『か、彼はカッコいいって言ってくれたぞ!』

桃子「昔の私もそう言ってましたよね。こりゃ詐欺ですよ、詐欺」

ゆみ『詐欺!?』

桃子「ええ。とは言え全くの嘘でもないから余計タチが悪いっす」


ゆみ『…騙される方が悪いんだ。騙される方が』

桃子「恋愛に嘘は付き物でしょうが、もう少し何とかなりませんかね?」

ゆみ『何とかって…何だよ』

桃子「少しは正直になれってことっすよ」

ゆみ『私の思いは本物だぞ?』

桃子「嘘か真か、この場合それを決めるのは先輩と京さんっす」

ゆみ『…うむ』

桃子「うむじゃないっすようむじゃ。相手の気持ちが分からないから、恋人同士も言葉を交わすんすよ」

桃子「何かしらの手段で、ある程度は心を読むことだって出来るでしょうけど…結局は言葉を交わすのが不可欠っす」

桃子「自分ひとりの思い込みで、相手との関係を完結させない。その為のコミュニケーションっすから」

ゆみ『…まさかモモにそう言われるとは思わなかったよ』

桃子「私は以前にコミュニケーションを放棄した人間っす…だからこそこう言えるんすよ」

桃子「例え貴女が類まれなるヘタレでも、私は絶対先輩を見捨てたりはしません!」

ゆみ『…随分言うようになったじゃないか』




トゥルルルル...

ゆみ「やあ、京太郎」

京太郎『珍しいですね。ゆみさんから電話をかけてくるだなんて』

ゆみ「心境の変化と言う奴だ。深い意味はないよ」

京太郎『は、はあ…俺としちゃ嬉しい限りですけど』

ゆみ「そう言ってくれると助かる。それで、明日はどこで落ち合おうか?」

京太郎『諏訪や木曾の方とかどうでしょう?』

ゆみ「ああ、あの辺りならそれなりに観光出来るしな…考えさせて」

『須賀君?』

ゆみ(…ん?)

京太郎『あ、すみません。今ちょっと立て込んでまして…失礼します』

ゆみ「あ、ああ」

プツッ

ツー、ツー、ツー



ゆみ「…女の声だ。間違いない」




和「もう…折角ケーキ作りの手伝いに来たと言うのに」

京太郎「すまんすまん。今しがたゆみさんから電話があってな」

和「加治木さんからですか…珍しいですね」

京太郎「普段は電話じゃ連絡しないんだけど…ひょっとしたら、アイツが何か言ってくれたのかもな」

和「アイツって、東横さんのことですか?」

京太郎「ああ。そういや和には見えているんだったか」

和「偶にですけどね」

和(…あの人も大変ですね。慕っている先輩が、とんだヘタレなばっかりに)

京太郎「ん、何か言ったか?」

和「いえ、何でもありません」

和(ヘタレなのは須賀君も同じでしょうが…上手くいって欲しいものです)

ガチャッ

和「!?」

京太郎「ゆ、ゆみさん!?」

ゆみ「こうして会うのは久しぶりだね京太郎…信じたくなかったよ、君と彼女がこんな事になってるだなんて」

京太郎「いやいやいやいや…和は誕生日祝いのケーキを作る手伝いを」

和「そうです!ヘタレの貴女にどうこう言われる筋合いはありません!」

京太郎「和!?」

ゆみ「言ってくれるじゃないか…この泥棒猫が!」


誤解が解けたのは、結局明け方になったとかならなかったとか…両親は何故か不在でした


fin

おかしいな…かじゅがおかしな人になっている

それでは、また


桜子「…二人とも、私の話し方ってどう思ってるのっ?」

ひな「普通だと思うけどー」

綾「うんうん」

桜子「えー?それならなんで私ってば、藤○○也みたいだって言われるんだろー?」

ひな「私は知らないなー」

綾「同じく」

桜子「ひょっとして私、だみ声ってやつなんだろーか?」

ひな「言われてみれば、偶にそれっぽい声は出してるよね」

綾「けど気にするほどじゃないと思うよ」


桜子「うーん…でもさでもさ、だみ声ってやっぱり聞き心地はよくないよね」

ひな「変に意識してもよくないと思うな。そういうのって、やっぱり体質的なものもあるしさー」

綾「桜子ちゃんは、声のことを悪く言われてたりするの?」

桜子「ううん。でもからかわれたことはあったかな」

綾「それってさっき言ってた藤○○也?」

桜子「…うん」

綾「そっか。誰が言ったかは知らないけど、桜子ちゃんはそれで傷ついちゃったんだね」

桜子「そだね…でも言った人をあんまり責めたくはないかな」

綾「どうして?」

桜子「私自身、あの人の話し方ってかなり変だなーとか思ってたから、映画見ながら笑い転げてたの」

桜子「でもそれが自分自身にも当てはまっちゃうとなると、どうも複雑な気分になっちゃって…」

綾「なるほど、桜子ちゃんは自己嫌悪しちゃったんだね」

ひな「でもそんな風に自省出来るんだから、桜子ちゃんは偉いって私は思うけどなー」


綾「それで、桜子ちゃんは結局どうしたいの?」

桜子「え”?」

綾「声のことでからかわれないようにしたい、からかってくるのをやめさせたい…色々思うところがあるでしょう」

綾「でも貴女がそれを嫌だと思うなら、何らかの形で解決しないといけない。そうでしょ?」

桜子「…」

ひな「桜子がどうするつもりでも、出来る限り手助けするよ。私達、麻雀教室からの友達なんだからさー」

桜子「綾ちゃん…ひなちゃん…」

綾「さあ、桜子ちゃん」

ひな「これから貴女はどうしたい?」

桜子「えっと…えーっとね」

綾「さあ」

ひな「さあさあ」


桜子「…うん、私決めた!」

綾「どうするの?」

桜子「お医者さんに診てもらって、だみ声を治す手伝いをしてもらう!」

綾「え、お医者さんって何所の?」

桜子「大阪の、荒川クリニックってとこ!」

ひな「え…交通費や診療代は?」

桜子「工面お願いします!」

綾「えー」

ひな「そんなー」

桜子「『出来る限り手助けする』って言ったよね?言ったよねー?」

綾「…ひなちゃん!」

ひな「たかられるなんて、そんなん考慮しとらんよ…」


桜子「…そんな訳で、私はここにやってきたのでしたっ!」

憩「なるほどなるほど。一人で来れたんはそういうことやったんかー」

桜子「それじゃあ早速診療お願いします!」

憩「その前に」

桜子「はい?」

憩「そない無茶振りにも応えてくれた友達のこと、大事にせんといかんよ?」

桜子「…はい!」

そんなこんなで、桜子のボイストレーニングが始まった……。


桜子「ガガガガガ!ザザザザザ!ダダダダダ!」

憩「濁音は上手いこと言えるんやね…で、清音は?」

桜子「えっと…ガガガガガ!」

憩「カカカカカ、って言うつもりやったんか?」

桜子「…はい!」

憩「いつの間にか習慣づいてしもうとるんやな…」


桜子「な”ま”む”ぎな”ま”ごめ”な”ま”だま”ごっ!」

憩「…滑舌はええのに何で濁らせてまうねん」

桜子「緊張したり気持ちが昂ぶったりすると、こうなっちゃうみたいです」

憩「さよか…なら今度は、気持ちを落ち着かせながら言うてみて」

桜子「はい。えっと…な”ま”む”ぎな”ま”ごめ”な”ま”だま”ご」

憩「…なんでや」

桜子「んー…私にも分かりません!」


憩「あー」

桜子「あー」

憩「このプロきつい!」

桜子「このプロきつい!」

憩「わかんねー、全てがわかんねー」

桜子「わかんねー、全てがわかんねー」

憩「私、アラフォーじゃなくてアラサーだよ!」

桜子「私、アラフォーじゃなくてアラサーだよ!」


憩「…ふむ、濁音の癖は大体治ったかな」

桜子「先生、ありがとうございました。わざわざ夜明けまで付き合ってもらっちゃって」

憩「気にせんでええよ?これも医療のうちなんやから」

桜子「それじゃあ私、学校もあるし帰ります。今からだと結構ギリギリかもですけど」

憩「さっきタクシー呼んどいたから、今日はそれに乗って帰りや」

桜子「え、いいんですか?」

憩「子供がそんなん気にしたらあかんよーぅ?」

ブロロロ...

憩「お、来よった来よった。それじゃあ頑張ってな」

桜子「ばい”!」

憩「はは、力みすぎで声が濁っとるで…もしまた何かあったら連絡してや」

桜子「…はい!運転手さん、お願いします」



智美「ワハハ、任せとけー」


………

……





桜子「う”わ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”」

シュババババババッ

智美「叫びすぎだぞーお客さん」

ギュルギュルギュルギュル

桜子「ぞん”な”ごどい”っ”だっ”でえ”え”え”えええええええ」


それからしばらく地獄のドライブは続いた。

普通なら1・2時間はかかる移動が、智美にかかれば30分ほどで済んだそうだ。

短い時間のはずだったが、桜子には半日のようにも一日のようにも感じられたようで。

叫んだ。力の限り叫んだ。

恐怖に抗うために、それこそ一生分は叫ぶつもりで。

そして…





綾「桜子ちゃん、お帰り!」

ひな「どう?発声の癖は治ったー?」

桜子「…」

ひな「…どうしたの?黙りこくっちゃってー?」

綾「トレーニング、そんなに大変だった?」

桜子「…っ”だ」

ひな「ん?」

綾「ふえ?」

桜子「だぐじーがごわ”がっ”だよ”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”」

綾「」

ひな「」



桜子の声は、数日の間とてもひどいだみごえだったそうな。

照「叫び過ぎだぞーお客さん」

ギュルギュルギュルギュル

桜子「?わ?ぁ?ぁ?ぁ?ぁ?ゴーグズグリ?ューがあ?ぁ?ぁ?ぁ?」

もしもギバ子が自分の声について気にしてたりしたら、それはとっても可愛いかなって
…笑顔以外のギバ子も書いてみたかったんです

唐突ですが、煮詰まってるんでよろしければネタを下さい
リクエスト募集じゃないんで書けるかどうかは分かりませんが

おつー

ヤンデレキャップに殺されそうになってる部長を華麗に庇う京ちゃんとか

クリスマスにカップルを麻雀で狩るすこやんとはやりん

>>91
助け切る未来が見えないww

オーヌマ×トシさん

ハギヨシさんチャンプに会う の巻


>>91

久「須賀君、まさか貴方とクリスマスを過ごす事になるだなんてね」

京太郎「パシリとして、ですよね?」

久「あら、いけない?」

京太郎「いやいや、引き受けといて言いも悪いもないっすよ」

久「ならウダウダ言わずに頑張りなさい」

久(だって今日は、二人きりのクリスマスイブなんだからね!)

京太郎「へーい」

京太郎(イブの日までパシられるなんて普通は思わねえよ…はぁ)



「―――ようやく見つけましたよ、上埜…いいえ竹井さん」



久「…え?」

京太郎「あれは…まさか福路さん!?」

美穂子「そう。そのまさかよお邪魔虫さん」

京太郎「どういうことなんですか…確か貴方は、不落の監獄と言われたカサンドラに収監されて」

美穂子「ああ、それなら脱獄してきました」

京太郎「えっと…あそこって確か屈強な戦士が沢山いたはずじゃ」

美穂子「…皆殺しです☆」

久「ひっ!」

美穂子「私と竹井さんの邪魔をする人は、誰であろうと殺します」

京太郎「いやいやいやいや!冗談言ってないでやめてくださいよ!」

久「…い、いいい嫌よ」

美穂子「は?」

久「わ…私、貴女なんかと一緒になりたくない。だ、だからもう私の前に現れないで」

美穂子「…た、竹井さん?」

久「とっとと消えてって言ってるのよ!このクレイジーサイコレズ!」

...ゴッ

久「うっ!?」

美穂子「…おかしい…こんなことはありえない…私と彼女は…愛し合っているはずなのに……」

久「…み、美穂子?」

美穂子「その名で呼ぶなクソッタレが!私をそう呼んでいいのは、愛しい愛しい竹井久…ただ一人!」

久「何を…言ってるの……?」

美穂子「アンタなんかあの人じゃない。違う、違う、絶対違う!」

ジャキッ

久「な、何よその物騒なものは」

美穂子「アンタみたいなのを断罪するための、聖なる剣よ…さあ、死になさいこの紛い物がっ!」

タッタッタッ...


久「い、いやあっ!来ないで、来ないでえっ!」

シュタッ

京太郎「部長!」

ザクッ!

久「…須賀、君?」

京太郎「…ホント…世話の焼ける…」

美穂子「お邪魔虫君。私好みの声だから見逃してあげようと思ったのに…馬鹿な子」

久「どうして…どうしてよ須賀君」

京太郎「―――守りたかった」

久「……」

京太郎「麻雀部の誰よりも寂しがり屋で…けれどそれをひた隠しにして振舞っていた貴女を、いつ頃からか愛しく思ってた」

久「だからってこんなの…私の代わりに死んでくれなんて、頼んでないわよっ」

美穂子「…本当に馬鹿なのね。身代わりになって死ぬなんて、呪いも同然よ」

美穂子「自分の死を庇われた側に背負わせる…相手のせいにして自分が死ぬだなんて、一番酷い傷つけ方よ」

京太郎「…福路さん、貴女にだけは言われたくないな」

美穂子「そうでしょうね。けどこれから死ぬ貴方には、全く関係の無いこと…」

京太郎「それはどうかな?」

スッ

美穂子「…な、ナイフが筋肉に阻まれて」

京太郎「鍛えてますから、ね!」

バキッ

美穂子「たわばっ」

ドサッ

久「…終わったわね」

京太郎「ええ…部員の皆に愛されてたのに、馬鹿な人です」

久「誰かを愛し過ぎた故に、誰かからの愛に気付かなかったのね」

京太郎「そういうことです。じゃ、行きましょうか」

ニギッ

久「ふぇっ!?」

京太郎「折角のイブなんですから、こうして歩くくらいはいいんじゃないですか?」

久「で、でも私達ってまだ…」

京太郎「これからそうなりゃいいんすよ。それとも、部長は俺とじゃ嫌ですか?」

久「嫌よ」

京太郎「マジでっ!?」

久「名前で呼んでくれなきゃ…嫌なんだから」

京太郎「あ、そっちですか」



end

>>97 訂正

×:京太郎「いやいや、引き受けといて言いも悪いもないっすよ」
○:京太郎「いやいや、引き受けといて良いも悪いもないっすよ」


はやり「…」

健夜「…」

はやり「…」

健夜「…」

はやり「…ねえ」

健夜「やめてください」

はやり「まだ何も言ってないんだけど」

健夜「言われなくてもわかります…今日ってイブなのに、私達は独り身なんですから」

はやり「…いっそのこと、独り身同士で慰めあう?」

健夜「嫌です」

はやり「なんで?」

健夜「だって貴女キツいですもん、色々と」

はやり「健夜ちゃんにだけは言われたくないかなっ☆」


健夜「…打ちたいですか?」

はやり「やだよ。だって私じゃ貴女には勝てないし」

健夜「でもそれ、麻雀だけの話ですよね?」

はやり「どうだろ?」

健夜「はやりさん、何だかんだで人気あるじゃないですか」

はやり「影でキツいって言われてても?」

健夜「ええ」

はやり「まー何も言われないよりはマシだろうけどね」

健夜「もし茶化されなくなったら、それこそほんとに手遅れですしね」

はやり「…何とかしたいよね」

健夜「…ええ」


はやり「…辛いね」

健夜「ええ、辛いです」

はやり「どうしてこんなに辛いんだろ?」

健夜「愛がないから」

はやり「…愛?」

健夜「この歳になって恋人居ないのって、色々アレだと思うんですよ」

はやり「そりゃそうだよね」

健夜「でも現実はこのザマで」

はやり「私達、理想が高すぎたのかな?」

健夜「理想、ですか」

はやり「普通に結婚して、愛し合って、子供が生まれて、子供を育てて、いつかみんなで雀卓を囲む」

はやり「…たったそれだけの望みだったんだけどねっ☆」

健夜「家族麻雀、したかったですよね」

はやり「したかったって…まだ諦めるには早いんじゃ」

健夜「私達に勝てる男も女も、そうはいないでしょう?」

はやり「…うん」


健夜「…みんなが弱いから悪いんですよ。私には誰も勝てないから」

はやり「それは流石にハードル高すぎなんじゃないかなって」

健夜「そうじゃないと並び立てないじゃないですか」

はやり「…」

健夜「かつては世界一位なんて人とも卓を囲みましたけど、アレも結局他の選手をトばして逃げましたからね」

はやり「アレはホントみっともなかったよねー」

健夜「…強過ぎる自分が辛い」

はやり「この際だから言うけど、健夜ちゃんは牌と結婚すれば良いと思うんだ☆」

健夜「それってどこに何を突っ込めばいいんですか」

はやり「無論、貴女の穴に点棒や牌が沢山」

健夜「それって結局セルフじゃないですか!独りじゃないですかー!やだー!」


はやり「…じゃあどうする?このままじゃ独りのままだよ?」

健夜「…狩りをしましょう」

はやり「狩り?」

健夜「私達より麻雀の弱い人達が、私達より幸せなのがおかしいんです。異常なんです」

はやり「…そういやそだね。おかしいよねこんなのって」

健夜「ですからカップル狩りをするんですよ。みんなで卓を囲めばきっと寂しくない…たとえ壊れてもね」

はやり「負けて気が滅入った二人が別れれば、みんな独りになるから万々歳だねっ☆」

健夜「それじゃ行きますか」

はやり「うんっ☆」


「ぎゃー!」

「や、やめてっ!」

健夜「うふふ、麻雀って楽しいよね!」

「や、やめてくれよ…」

「許してください!何でもしますから!」

はやり「それなら一緒に楽しもうよ、麻雀をさ☆」

「そ、そんなっ!?」

「一体何の恨みが会ってこんな…」

はやり「何もないよ?」

「じゃ、じゃあどうして…」

健夜「独りぼっちが寂しいから、ですかね?」

はやり「そういうことだねっ☆」

「いっ、嫌…いやあっ!」

「やめてくれぇ―――――!」






「そこまでだ!行き遅れたアラサー共よ!」




健夜「わ、私はまだアラサーだよ!」

はやり「健夜ちゃん落ち着いて。向こうはアラフォーだなんて言ってないから」

健夜「それはそれとして、彼方はいったい誰ですか!?」

はやり「私達の邪魔をするなら、容赦はしないんだぞっ☆」


「…ふっ」


健夜「何が可笑しい!」

はやり「彼方が誰か知らないけど、私達二人に勝てる訳ないでしょ?」

「いいや、勝てないのはそちらの方だ」

健夜「何ぃ?」

はやり「戯言ばかりを口にするのは良くないよっ☆」

「戯言ではない…私なら、貴女達を一網打尽に出来る。そう、このようにっ!」

パシパシパシパシッ

健夜「え、なにあれ?」

はやり「あれって…麻雀牌だよね?」

「くらえっ!」

ガシャン! ガシャン!

健夜「チーホー!」ドシュッ

はやり「リューイーソー!」ズシュッ

ドサドサッ

「…だ、誰なんだアンタ一体」

「あの雀キチ二人を、一瞬のうちに葬ってしまうなんて」


「…名乗るほどの者ではないが、今回は!特別に!名乗らせていただこう!」

(あ、結局名乗るんだ)

(なんか影薄そうだなこの人)



睦月「私の名は津村睦月…人呼んで投牌雀士、津村睦月だっ!」



「か、カッコいい…」

「すごいなーあこがれちゃうなー」

睦月「うむ。もっと褒め称えるがいい」

「…それはそれとして、貴女を殺人罪で逮捕しますね」

カチャッ

睦月「え?」

「私達、カップルを装ってた警官なんです」

「いわゆるおとり捜査ってやつですね」

睦月「に、日本じゃおとり捜査は決して肯定的に見られてないんじゃ」

「それはそれ、これはこれ」

「どの道貴女のやったことは、れっきとした犯罪です」

睦月「そ、そんな…」

―――正義の味方は、とかく世に理解されがたい。



>>92 おしまい


「で、津村…じゃなかった津山睦月さん」

「何で偽名名乗ってたんですか?」

睦月「『ブチ撒けろ』の人に憧れてまして」

京太郎「え、斗貴子さんが!?」

「え、なんだコイツ!」

「君、一体どこから現れたんだ」

桃子「もー二人して何やってんすか!ほら、とっとと逃げますよ!」

京太郎「あ、ああ」

睦月「うむ!」

シュタッ

「あ、おい待て!」

「…いや、放っておきましょう」

「しかし!」

「今しがた連絡があった。どうやら奴らは死んでいなかったらしい」

「…マジで?」

「マジマジ。眉間に穴が開いてたのにね」





健夜「投牌雀士…津山睦月ちゃんか」

はやり「よもや私達が一度死ぬことになるだなんて…面白い!」

健夜「はやりさん!」

はやり「うん!あの子には私達を殺した責任、取ってもらわないとね!」



…睦月たちの戦いはこれからだ!


>>96

照「ハギヨシさん。ケーキください、ケーキ」

ハギヨシ「またですか」

照「お菓子くれなきゃ私、いたずらしちゃう」

ハギヨシ「今はクリスマスですが」

照「ならサンタさん、私に沢山のお菓子を下さい」

ハギヨシ「生憎ですが、私はサンタではなく執事ですので」

照「…客人への対応が冷淡すぎます」

ハギヨシ「招かれざる者を歓待する理由がございません」

照「そんな…衣ちゃんはどうしたんです?」

ハギヨシ「あの方は、風邪で寝込んでおりまして」

照「なら見舞いを…」

ハギヨシ「貴女を招くと、ベッドがお菓子まみれになりそうですので」

照「それのどこがいけないんです?お菓子を食べれば元気になれるじゃないですか!」

ハギヨシ「それは貴女だけです」

照「うう…衣ちゃんと私は卓を囲んで仲良くなった朋友なのに」

ハギヨシ「須賀君が犠牲になったアレですか」

照「犠牲だなんて!私はただ、衣ちゃんと咲と私の三人可愛がってあげただけですよ?」

ハギヨシ「そのせいで、衣様の悪癖が再発してしまったのですが」

照「悪癖ってどんな?」

ハギヨシ「『麻雀を楽しませる』ことですよ、宮永さん」

照「…どうしてそれが悪癖なんです?」

ハギヨシ「」

ハギヨシ(わざわざ鹿児島まで禊に行った意味が無くなってしまいましたね…さて、どうしたものでしょうか)



照「ハギヨシさーん!お菓子頂戴お菓子~!」

ハギヨシ「やかましい!」



カン!

>>113 訂正

ハギヨシ「あの方は、風邪で寝込んでおりまして」→ハギヨシ「あの方は今、風邪で寝込んでおりまして」

ハギヨシ「貴女を招くと、ベッドがお菓子まみれになりそうですので」→ハギヨシ「お断りです。貴女を招くと、ベッドがお菓子まみれになりそうですので」

照「うう…衣ちゃんと私は卓を囲んで仲良くなった朋友なのに」→照「うう、どうして冷たくするんですか…衣ちゃんと私は卓を囲んで仲良くなった朋友なのに」


世間はクリスマスとやらのせいで、喧騒に溢れている。

今俺が歩いているこの街中もそうだ。

家族連れ、アベック、或いは仲間同士でみな浮かれている。

喧騒大いに結構。

騒げるのなら、存分に騒げばいい。俺はそれを好ましく思っている。

ただし…当の俺自身は、そこに参加しようとは微塵も考えてはいない。

そうするだけの気概がない。

それに、年甲斐もなくはしゃぐのは性に合わない。変に格好をつけたいだけとも言えるが。

…見ているだけで十分なのだ。

老いさらばえた身で、若人のような真似をする必要もあるまい。


辺り一面に煌くイルミネーション。

笑い合う家族。

寄り合う男女。

騒ぎ合う集団。

実にいい。活気溢れる街の光景を見て、年甲斐もなく気持ちが昂ぶる。

だが悲しいかな、気持ちに体が追いつかないのだ。

麻雀にしてもそうだ。

昔ほどの力は既になく、自分に出来る打ち方は減っていくばかりだ。

牌もこちらの気持ちに応えてはくれない。

シニアプロなどと名乗ってはいるが、所詮はロートル。現役とは比べるべくもない。

打てる相手がいればいい。

結局の所、俺は現状に満足している。衰えても麻雀が打てる、ただそれだけで…




「アンタみたいなのでも、こういう所に来たりするんだねぇ」


…気が萎えた。

「まさか、今日みたいな日に会うとは思わなかったよ」

「…どうしてお前がここに」

「どうしてって、どうもしないさ。アンタだってそうだろうに」

こんな所でコイツに会うとは、微塵も想像していなかったのだから。

「なあ…秋」

「そう呼ぶのはやめてくれ。どうにも気が滅入って仕方ない」

「そう硬いことを言いなさんな」

目の前には、遠い昔にねんごろな関係だった女が佇んでいた。

おまけにこいつは、当時と同じ呼称を使ってくる。

何の嫌がらせだろうか。

「…俺達の縁は、とうの昔に切れたはずだ。そうだろう?」

「アンタが勝手にそうしただけさ」

「そうだったろうか…年をとると、どうも物忘れが激しくなってな」

「…とぼけるなら最初からにしな」

「ふん、悪かったな」

思いの外、俺とこの女の関係は変わっていなかったらしい。

かつての面影は残っているが、それが分かるだけに哀しみもいっそう深くなる。

「トシよ。昔のお前のことを忘れられたら、こんな気分にはなってなかったぞ」

「それこそお互い様さね」

女の名前は熊倉トシ。

俺とコイツは、同じ麻雀プロとしてしのぎを削り合い…一時は愛し合いもした。

やがてそれも終わりを迎え、トシもプロを辞めてしまった。それっきりだと思っていた。

今日までは。


しばらくの沈黙。先にそれを破ったのは、トシからだった。

「…今日だけでいい、一緒に過ごしてくれんか?」

何を馬鹿な。

ジジイとババアで寄り添って、何になると言うのだ。

まして…アベックに混じってなどと。少しばかり、周りの雰囲気に中てられすぎではなかろうか。

もう昔のようにはいかない。そう思い、俺は踵を返す。

昔の話だ。

女がプロなど笑わせる、そんな風潮の頃からトシは麻雀を打っていて…その強さに俺は見惚れた。

当時は男が強かったのだが、アイツは一歩も引かなかった。毅然としたその態度は、河川に佇む巌のようで。

俺とトシは、幾度となく卓を囲んだ。勝ちもすれば負かされもして、しかし不快な思いは一度だってしなかった。

二人の交わりは、いつだって清々しかった。今でもそう躊躇いも無く言える自信が、俺にはある。

…だが、昔の話だ。

俺にも彼女にもそれぞれの生活がある。トシは独り身だったはずだが、生憎俺には良き妻がいる。

戻れない。

互いに恋焦がれて、身を焦がすほどに愛し合うなど出来るものか。




―――足が止まった。いや、止められた。

トシが俺を、あらんばかりの力で抱き締めてきたからだ。


「…やめろ」

「やめない」

「俺はやめろと言っている」

「いいや、絶対に離さないよ」

「…周りに誰も居なくて助かったな。こんな所を見られては、身悶えた末に死にかねない」

「なら、死ねばいいさ。アンタが死ねば、私はアンタを独り占めに出来るんだから」

「正気か?」

「正気で誰かを愛せたりなんかするかね」

「…かもしれん。やれやれ、俺もとんだ女に惚れられてしまったな」

「私が嫌なら、振りほどけばいいじゃないか。それが出来ない位に衰えてはいないだろう?」

「ああ」

「私はどうしたって秋、アンタを離そうとしない。もし拒むなら全力で来な」

「……」

とんだ勘違いをしていた。

老いさらばえてはいても、トシはあの頃と少しも変わってはいない。あの頃のままだ。

互いを強く求め合った、あの頃のまま。

「…トシ」

「秋…」

容易く腕は振りほどけたが、もうその場を去ろうという気は俺にはなかった。

俺もトシも、二度と離れぬ覚悟で強く抱き締め合っている。

年寄りの、それでも精一杯の力で。



…もう、分かたれることはあるまい。

>>93のネタでした。
うん、ぶっちゃけ辛かった!書いてて面白く感じる所はあったけど、どうしようもないくらいに辛かった!
しかも今日書いた中で、これが一番筆が乗っていたっていうね…どういう事だよおい。

スガフラの続きでも夢に見てお休みします。まだ起きてるかもしれんけど!
それでは、また。


穏乃「ほらほら須賀君、急がないと置いてっちゃうよ?」

京太郎「む…無茶言うなよ高鴨」

穏乃「この程度の坂なら大丈夫でしょ。だって君、男の子なんだからさ!」

京太郎「んなこと言われたって、キツいものはキツいって…」

穏乃「…しょうがないなあ」グイッ

京太郎「あだだだっ!やめろっ、腕引っ張んな!」

穏乃「一緒に来てくれなきゃ…私、寂しいんだからねっ」



穏乃「お、けっこう早かったね京太郎君」

京太郎「山登りに、大分身体が慣れてきたからな」

穏乃「うん、そだね」

京太郎「それもこれも、お前に散々付き合わされたせいだ」

穏乃「そこは私のお陰だって言って欲しいなー」

京太郎「やだぜそんなの。大体山登りなんて、俺じゃなくても新子とかに頼めば…」

穏乃「誘ってみたけど断られちゃった」

京太郎「…え?」

穏乃「私の事を大事だって言ってくれたけど、どうしても身体がついていかないからって」

穏乃「私…山に登るとつい昂ぶっちゃってさ、誰とも足並みが会わないんだよね」

京太郎「……」


穏乃「……」

京太郎「…何やってんだよ」

穏乃「うっ…京、ちゃん?」

京太郎「何で怪我なんかしてんだよ、穏乃」

穏乃「…ごめ、ん」

京太郎「怪我しちまったら…もし死んじまったら、楽しいも何もないじゃないか!」

穏乃「……」

京太郎「お前言ったよな。山は楽しいけど危ないって…山を馬鹿にしたら、山に殺されるって」

京太郎「なのに何だよ…いきなり居なくなって、挙句死にそうになって、おかしいだろそんなの!」

穏乃「…自分というのが、無くなっていくのを…感じちゃったの」

京太郎「は?」

穏乃「私ね…君が来るまでは…山の中だとひとりでいることが多かった」

穏乃「だからこそ自分自身というものをハッキリと感じることが出来たし、色々と考える時間もあった」

穏乃「やがて、私の意識は自然の中に溶け込んで…深い山のすべてと一体となったような気分になった」

京太郎「……」

穏乃「そんな時間がインハイの後から増えていって…私は、私というものがだんだん分からなくなっていって」

穏乃「そのうち…みんなともすれ違っていって、気がついてみれば…私、独りぼっちになっちゃってた」

穏乃「私は…ううん、私なんてものが…最初からあったかどうかさえも分からないの。きっと…この先もずっと、そうなんだ」

京太郎「――悪いな穏乃、俺には訳分かんねえわ」

穏乃「はは…そうだよね。こんな事…言われたってさ、京ちゃんが…困るだけだって」

京太郎「分かる訳ないだろうが!お前はずっと、身勝手に俺を連れて回ったじゃねえか!一緒に山を登ったろ!」

京太郎「あの時の楽しそうなお前に自分が無いだなんて、そんなのありえないだろ!アレも全部お前のものじゃないってのかよ!?」

京太郎「お前が山と一体になったとして…それだけがお前の全てか?それは違う!」

京太郎「それにお前には…俺と出会うずっと前から、自分を大切に想ってくれる人がいる」

京太郎「家族は勿論、部室の掃除をしてくれた玄さん…お前の為に晩成を蹴ってまで阿知賀に来てくれた新子…幾らでもいたんだ」

穏乃「…私、独りじゃないの?」

京太郎「穏乃、お前の不思議な力は俺も知ってる。けどそれにお前が呑まれちまったら、絶対誰かが哀しむぞ」

京太郎「…でも俺は哀しまない。勝手に俺を連れまわして、勝手にいなくなったりしたら、俺はお前を絶対に許さん」

京太郎「絶対追っかけてやる。そしてお前を見つけたら、今度は俺がお前を連れまわしてやる」

穏乃「…それってどこに?」

京太郎「どこでもさ。何ならお前の行きたい所でもいい」

穏乃「あはは、それじゃあ結局私が連れまわすことになりそうじゃん」

京太郎「かもな」

穏乃「でも…嬉しいよ京ちゃん。私、みんなと一緒にいていいんだね?」


京太郎「…何言ってんだ。そんなの当たり前だろうが」

穏乃「じゃあさ京ちゃん」

京太郎「うん?」

穏乃「まずはみんなに謝って…この怪我を治してからになるだろうけど、私をどこかに連れてってもらってもいいかな?」

京太郎「ああ、勿論だ。何所にするか希望はないか?」

穏乃「どこでもいいかな」

京太郎「おいおい…ホントに俺の好きにしていいのか?」

穏乃「いいの。今の私にとって、行きたい所はきっと京ちゃんの隣だから」

京太郎「…えっ」

穏乃「私が何所にも行かないように、しっかり繋ぎとめてよね…京ちゃん?」


>>113

×:照「犠牲だなんて!私はただ、衣ちゃんと咲と私の三人可愛がってあげただけですよ?」
○:照「犠牲だなんて!私はただ、衣ちゃんと咲と私の三人で可愛がってあげただけですよ?」

>>125

×:穏乃「私…山に登るとつい昂ぶっちゃってさ、誰とも足並みが会わないんだよね」
○:穏乃「私…山に登るとつい昂ぶっちゃってさ、誰とも足並みが合わないんだよね」

穏乃→京太郎への呼称はどうしたらいいかなって、悩みながら「京ちゃん」呼びにしたけど不味かったかも。
いつかの1レスネタを再現出来ず長引いたのが一番の悔い。

それでは、また。


ガチャッ

京太郎「ちわーっす」

シーン...

京太郎「……」

京太郎(誰もいない部室、か)

京太郎「…まあ、みんなクリスマスは好きな人とイチャイチャしたいよな」

キラキラ...

京太郎「ん?なんか光ってる…」

京太郎「……」

ニギッ

京太郎「…あったかい」

中「……」

京太郎「あったけえなあ、お前」


ニギニギ

京太郎「そっか、俺をあたためてくれるんだなお前は」

京太郎「…嬉しいよ」

中「……」

京太郎「ああ…独りぼっちは寂しいもんな。分かるよ」

中「……」

ピカッ

京太郎「うおっ、なんだなんだ!?」

赤五萬「……」

赤五筒「……」

赤五索「……」

京太郎「…なあ?」

赤五萬「……」

京太郎「ひょっとしてお前たちも、俺のことをあたためてくれるのか」

赤五筒「……」

赤五索「……」

京太郎「…ありがとう」


ピカーッ!

京太郎「わっ!」

中「……」

京太郎「…すまん。焼き餅焼かせちまったな」

京太郎「最初に俺をあっためてくれたのは、お前なのにな…」

中「……」

ピカピカッ!

京太郎「はは、許してくれるのか」

中「……」

京太郎「優しいなお前は…お前がいてくれたから、俺を愛してくれたから、今こうして幸せでいられる」

赤五萬「……」

赤五筒「……」

赤五索「……」

京太郎「ああ、勿論お前たちもだよ」


中「……」

京太郎「あったけえ、あったけえなあお前ら」

赤五萬「……」

赤五筒「……」

赤五索「……」

京太郎「俺って幸せ者だ。だって俺には、お前たちが一緒にいてくれるんだからな」

中「……」

京太郎「ああ、俺もお前が好きだ」

赤五萬「……」

京太郎「お前も」

赤五筒「……」

京太郎「お前も」

赤五索「……」

京太郎「そしてお前も、みんなみんな大好きだ」

赤牌「……」

京太郎「…愛してる」

京太郎「俺はお前たちを、この先もずっとずっと愛してる」

京太郎「だから……」


………

……




『昨日未明、清澄高校旧校舎で火災が発生し…』


まこ「で、原因はわかっとるんかい?」

久「訊いてみたけど『分からない』の一点張り」

和「どういうことでしょう?守秘義務に触れるようなものでもないでしょうし…」

優希「そもそも、火元や犯人がいないと言うのもおかしな話だじょ」

咲「…ねえ」

和「なんでしょう、咲さん?」

咲「京ちゃんがどこに行ったか、知らない?」



『なお、現場からは中と赤牌のみが消えており、恐らくこれが本件に何らかの係わりを持つと…』



fin


多治比です。

何とか個人戦では全国行けましたけど、上の二人が凄過ぎて話題にされません。

多治比です。

大星さんにやり込められて、牌を持つ手が震えるようになりました。

多治比です。

何故か晩成の小走さんと仲良くなりました。あ、境遇が似てるといえば似てるからか。

でも出番やら何やらに差があり過ぎて凹みそう。

多治比です。

赤土さんは私を凄いと言ってましたが、どう凄いのかは一言も説明してくれませんでした。

根拠のない賞賛とかやめてください。負けた私がますます惨めになってしまいます。

多治比です。

松実玄さんもそうですが、知ってたらそりゃ上手い事対処出来ますよねって話です。

…千里山や阿知賀はなんかズルいって思いました。

多治比です。

神様、どうか学院のみんなにもビジュアルください。独りぼっちは寂しいです。





以上、多治比真佑子からでした。


冬至に小路で情思に浸る。

ここ最近、そんな光景をよく目にする。

歩けば出会い、見れば睨まれ、去ろうとすれば見せ付ける。

面倒な話だ。この須賀京太郎には、出歯亀の趣味もなければ残念な事に彼女もいない。

そうして俺が蔓延るカップル達に辟易してると、

「…京太郎」

「何だ」

「余所見なんかしてないで、私の方を見るんだじぇ!」

隣にいるちんちくりんが小さく、しかしハッキリとした口調で耳打ちしてきた。


「そう、お前は私を見てればいいんだじょ」

そのつもりはない。お前が巨乳であるなら兎も角。

「何せ私は誰もが羨む美少女だからな!」

羨みはしないんじゃないだろうか…騒がしいし。

「あ、それとも私が美しすぎて直視出来ないか?」

…コイツの自信は一体どこから来てるんだ?

「ふっふっふ」

ふっふっふじゃない。無い胸張って威張るんじゃねえ。


「……」

…ん?急に黙りだしたなコイツ。

「……」

袖を引っ張ってんじゃねえ、皺になるだろうが。

「…なあ、京太郎」

そう言って奴はある一点を指差した。

指差した先には、一組のカップルが腕を組んで歩いている姿があった。

「…ひょっとして、お前もアレをやってみたいのか?」

「うん」

コイツは恥ずかしがりながらも、一切の躊躇いなくそう呟いた。


「……」

「…京太郎?」

何故だか言葉を口に出そうとしても声が出ない…こんなことは初めてだ。

つか、すっげー恥ずかしい。

今の俺って、人に見せられるような顔をしているんだろうか。全然分からん。

ただ、顔を赤らめてるだろうとは思う。顔の辺りに熱を感じてしまうのだ。

「黙っていたら、私だって不安になるんだぞ?」

勘弁してくれ。

何だってお前なんかに、女というものを感じなければならないんだ。卑怯だ。

ついさっきまではこのちんちくりん、背伸びをしているマセガキみたいな奴だったんだ。

親友が親友だしそれも止むなしとは思っていたが、まさか、まさかコイツにその親友と同じものを垣間見ようとは。


「…ほら」

不意に奴が、俺の腕に自分の腕を絡み付けてきた。

「何すんだよ」

「お前が焦らしちゃうのが悪い」

焦らすだなんて…冗談だろ?

どうして俺が、お前なんかを焦らさなきゃならないんだ。

「私もさ、京太郎とあんな風にしてみたいんだじょ」

その口調はやめろよ。その口調さえなければ、お前だって立派な女…

「……」

「どうした?あっけにとられたような顔して」

どういうことだ?

今俺、コイツのことを何て思った?どうしてそう思った?モヤモヤする。おまけに胸がドキドキする。





…何なんだよ、何なんだよコレ。

ここまで。


      /  ̄ ̄\/⌒ ,_                             ...´........................................................`....
    /_     、     ゙i  ̄ ̄   ,                      /............................................................................ヽ
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` ̄ ̄/ /| | 、| | {  |l    |        ′               |  _:::::|:::::::::::::::|::::::::::|:::::::::::::|::::::::/ |:/ .}:::::/i:/::::::|
   | ,r'  } Ⅳ-゙i{-゙i 从   }        .               |_ ノ:::::::|:::::::::::::::|/|::::::|:::::::::::::|_彡 〃__/::::/ ィ:::::/}|

   '{ /  } 、≦ィ ゙i{ |   从-.,       ゙i              |::::::::::::::|:::::::::::::::|/|::::::|:::::::::::::| ィ芹刈`;/ f竏;' 〃
   /  、∨ jV 、   } /⌒ }      ドi              |::::::::::::::|:::::::::::::::f^Y::::::::::::::::: | 《 乂 _ソ   ソ
     ̄ ,r'       /   、       八            .     ' ::::::::::::|:::::::::::::::| ^|::::从:::::::: |        乂
      ':,          ,.ー,        Ⅳ                 ' :::::::::::|:::::::::::::::| 圦::ハ::::::::::::|   ```    ′
       ,-         ∧ ゙i    /ッ                  i:::::::::::|:::::::::::::::|`ーo{ ;::::::::::|      _
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         !、__  < ____゙i从_                      |:::::::::::::::::::::::::::|l:::::|:|   ';:::: |`  .   イ::|
          |゙i゙il: l゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i|                    |::::::::::::::::::::::::::八:_圦  ';:::::. 厂::{ l::::|:::|
          |゙i゙i  |゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i|              .     ′:::::::::::';::::::::::::〈./  \ 弋「./:::::::: j:::::〃
          |゙i.: ∧ ゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i\                .    /::::::::::::>ヘ::::::::::::∧   ヽ_ヾ \::V::/
          、゙il/゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i> ,             /:> ´   V:::::::::::∧  /^' { ト  _入:〈
         、l/゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i\        .  /〃 =- 、   ヽ::::::::::∧/\ .Ⅵ /}}\}:::`ー 、
         { {゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i゙i            /:,′     \   \::::::∧ { ̄`ヽ〃/ ̄}:i  i

…書きたいものがあるはずなのに、それをちゃんとした形に出来ないのはなんだかなーって思うのです
>>149はその一つ

うん、考えてもしゃーない
とりま迷子とナデナデ終わらせよう(終わらせるとは言ってない)

30分後くらいから投下開始


咲「…お姉ちゃん」

照「うん、山だね」

穏乃「やったぁ!」

咲「……」

照「……」

穏乃「~♪」


咲「…ねえ」

照「また山だね」

穏乃「またってなんですかまたって。山って素敵じゃないですか」

咲「…うん」

照「そ、そうだね」

穏乃「成り立ちがなんであろうと山は山…ああ、やっぱり登山って楽しい」


咲「…どうしよう」ヒソヒソ

照「同じ所をぐるぐる回っているよりマシ。山じゃ彼女は迷子にならないみたいだし」ヒソヒソ

咲「だからってこれじゃあ私の足が…」ヒソヒソ

照「仕方ない、お菓子あげるから我慢して」ガサッ

咲「え、どっから出したのそれ」ボソッ


淡「うう…だーるーいー!」

菫「静かにしないか」

淡「だってさー!いつまでたってもテルたちは見つからないし山道ばっかでしんどいんだよぉ…」

憧「…うるさくするのはよくないけどそれには同意」

京太郎「同じく。俺もすっげー足が痛いんだわ」

淡「でしょでしょ!」

菫「二人とも、淡を甘やかすような真似は」

京太郎「そうは言いますけどね弘世さん。手がかりも何もなしにさまよい歩くのは実際キツいです」

京太郎「口には出してませんが、和や松実さんもしんどそうですしね」

和「わっ、私はそんなこと…」ハァ...ハァ...

玄「穏乃ちゃんたちが心配だからね、これくらいはなんとも…」ゼェ、ゼェ

菫「…すまん、気が付かなかった」

京太郎「いえいえ。たまたま俺が二人の近くにいたから分かっただけですよ」

菫(…たまたま?)

和(明らかに私と玄さん、それに菫さんの胸を凝視してたんですけど)

玄(ふむふむ、彼からは光るものを感じますのだ!)


「…大丈夫かじいさん?」

「これが大丈夫に見えたなら、耄碌なんて話じゃ済まんぞ」

「ま、そうなるだろうな」

「年寄りに登山させるとか、酷過ぎるにも程がある」

「足が震えそうだ」

「もう震えてるだろ、二人とも」

「お…俺はアンタほどやわじゃないから」

「なら歩けよ」

「歩けねーよ!見りゃわかんだろ!」

「…クク、やっぱりジジイじゃないか」

「ちくしょう」



「俺たち、いつになったら目的地に着くんだろう?」

「…知らねえ」

ここまでのあらすじ!

咲ちゃん迷子→咲ちゃん捜索スペシャリストの京太郎と和が捜す→同じ境遇の憧・玄・菫・淡と出会う
一方その頃迷子たちも集結→インハイ会場とかいう魔境で全員が迷子に→迷子たち、何故か山を目の当たりにする
謎のじいちゃんコンビ現る→みんながみんな山登り(今ココ!)

数字のでかい奴が目的地に一着

迷子 >>157

捜索隊 >>158

じっちゃん >>159

はい

ほい


咲「あれ?ここどこ?」

穏乃「私たち、さっきまで山を登っていたはずじゃ…」

照「…二人とも動かないで」

咲「え?」

穏乃「どうしたんですか照さ…っ!?」

照「そこにいるのは誰?」

「……」

照「貴女が誰かは知らないけれど、私たち三人に害意を持ってることは分かる」

照「…一体何が目的なの?」

「何が目的かなんてしれたことさ。私はただ、女性至上の麻雀を継続させたいだけさ」

穏乃「そんな…まさか貴女は……!」



トシ「…ここの存在を知ったからには、ただで帰す訳にはいかないねぇ」

中断っすー寝落ちしてなきゃ30分後くらいに再開
迷子強すぎワロタ

>>162

× 「何が目的かなんてしれたことさ。私はただ、女性至上の麻雀を継続させたいだけさ」
○ 「知れたことさ。私はただ、女性至上の麻雀を継続させたいだけ」

再開っす


穏乃「ど、どういうことなんですか」

トシ「教える必要はない」

穏乃「…」

トシ「豊音たちでは役に立たないからねぇ…新しい手駒が欲しいんだよ、私は」

咲「…!」

トシ「おや、怒っているのかい?豊音を打ち負かしたのはアンタだというのに」

咲「あの人もまた私にとっては得がたき相手でした。なのにそれを馬鹿にされては心外です」

トシ「…プラマイゼロがよく言うよ」

咲「ぐっ…」

照「咲、ここは抑えるんだ。年長者に口答えで勝つだなんて、貴女にはまだ難しい」

咲「で、でも」

照「それに怒っているのは咲だけじゃない。高鴨さんも私も、あの人に怒っているんだ」


トシ「…勝った者が負けた者に同情するのはよくないねぇ」

穏乃「そんなんじゃありません!」

照「貴女の言うことを否定できる訳でもないが、だからと言って肯定はしない。出来る訳がない」

照「第一貴女自身も、かつて麻雀に青春を捧げた日々があったはずだ。だからこそ今も麻雀に係わっている」

照「…貴女の言っていることは、あなた自身をも否定すること」

トシ「…」

照「野暮やお節介は重々承知している…」

トシ「…ふざけるな」

照「何?」

トシ「―――ふざけるなよ小娘ども、と言ったのさ。そんなことは、とっくの昔に思い知らされてるんだ」

トシ「こちとら伊達でアンタらの何倍も生きてない。長く生きてりゃ、それだけ何かに対する執着は強くなる」

トシ「私の場合はそれが麻雀だった。そして、私の望むような結果は何一つとして得られなかった」


照「…どういうこと?」

トシ「アンタたちがたかだが十数年の人生で、一流の麻雀プロにも匹敵する力をどうして得られたと思う?」

トシ「家族麻雀?山登り?ふざけるんじゃあない…私がそうなるようにし易くした」

トシ「つまりだ…アンタたちのような魔物を生み出しやすい世界にしたのは、他でもないこの私!」

トシ「アンタたちは私の奴隷!私が戦争に勝つための駒!」

トシ「そして、それ以外に価値はない!」

穏乃「…駒」

トシ「ああそうさ。アンタを指導した赤土の奴も私の奴隷でしかない」

トシ「スジは良かったんだがね、私の最高傑作に挑んだのが運の尽きさ。惜しいことをしたと思うよ」

穏乃「どういうことだよ…!!」

トシ「私は当時、小鍛治健夜という逸材を育てていてね…あの子は本当に強い子だった」

トシ「健夜さえいれば世界が支配できるとさえ思えたほどにね。しかしそれは、男どもの小賢しい策に阻まれてしまった」

トシ「今となっちゃあの子もただの行き遅れ…奴らのせいで牙を失い、容赦なく相手を壊せなくなった」

穏乃「…あなたって人は!!!」

トシ「必要な犠牲だった。それに赤土は立ち直りかけてるしいいじゃないか…敗北さえも糧に出来るのだから」


咲「…分からない」

トシ「分からないだろうねえ。アンタはハナから強い側の存在だから」

咲「そうじゃありません。そもそもあなたは、どうして男の人を憎むのですか?」

トシ「…嫉妬さ」

咲「嫉妬?」

トシ「私が現役の頃は、女なんかよりも男の方がずっとずっと強かったんだ」

トシ「正直な話、あの健夜をもってしても分が悪かったろう。それくらい奴らは強かったのさ」

トシ「ああ、悔しかったさ。女に生まれた…ただそれだけで、私は大好きな麻雀を十分に楽しめなかったんだから」

トシ「…勝負にならないってのはあのことさね。予めそうなることが決められたかのように、女は男に麻雀で勝てなかった」

咲「…」

トシ「麻雀に勝ちたくて…もっともっと麻雀を楽しみたくて私はこうした。何が悪い?」


照「私にも、分からないことが一つある」

トシ「うん?」

照「さっきからこの場所には、幾重にも折り重なった力の波が充満している」

照「そしてその波はあなたや私たちにも降り注いでいる…これは一体なんだというの?」

トシ「…宮永照。やはりアンタには隠しておけないようだね」

...カッ!

照「!」

咲「な、何!?」

穏乃「大星さんと打ったときに感じた…ううん、あれとは違ってどこかどす黒いものを感じる!!」

トシ「…」

照「熊倉さん、答えてください…アレは一体何なのですか?」

トシ「…輪転機」

照「輪転機…つまりは何かを印刷しているということですか」

トシ「本来はそうなんだろうけどね。コレは印刷するのではなく、生み出す為のものなんだよ」

照「生み出すって、何を?」





トシ「…点棒。ううん、未来を担保にして生み出された力の欠片さ」

…あのアニメが好きだったんでついパロっちゃいました。
ではでは。


「……」

京太郎はその子のことを眺めていた。

自分をずっと待ってくれてる、その子を。

「京太郎君が遅れてきても私、待ってるからね!」

そんな風に言ってくれた健気な彼女を。

風が強くなっても、

雪がますます強く降っても、

全身が凍えそうになっても、京太郎は彼女をずっと眺めていた。


「…うう、寒いよぉ」

やっぱり可愛い。

そんなことを京太郎は考えている。とっとと彼女に姿を見せるべきだと言うのに。

多分彼女ならずっと待ってくれるだろうとか、

待ってる間の彼女の姿を眺めていたいだとか、

どのくらい待ってくれてるのだろうだとか、

ちょっと悪趣味だったりどうでもいいような理由で彼はこうしている。

「…さみぃ」

とは言え寒くて辛いのは彼も一緒だ。

二人がこうなってから凡そ一時間ほど経ったが、二人はその場を殆ど動いていないのだから。


案外、相手を待っているのを楽しみたいだけなのかもしれない。

来てくれるのを。

あるいは、声を掛けてくれるのを。

待てども待てども待ち人は来ず…そのもどかしさがたまらないのだろう。

雪が頭に積もろうと。

顔や手が、寒さで真っ赤になってしまおうと。

まったくもって変な話だ。

会いたければ会いたいのに、何故そうしない。

けれど、

「―――お待たせしました、玄さん」

「私も今来たとこだから、大丈夫だよ」

そう言葉を交わす二人は幸せそうにしているのだから、きっとそれでいいに違いない。










「…とりあえず、どこかであったまりましょうか」

「う、うん。寒くて凍え死んじゃいそうだし」

この後二人は、まともに外を出歩けないままその日一緒に過ごしたとか。

…アホなのか?

誰かを待ってるクロチャーが病んでばかりだったから書きました。前に自分もそうしちゃいましたしね。
クロチャーは待つのを楽しんでいるという解釈でもいいと思うのです。

それでは。


…いつのまにか寝てしまっていたらしい。

コタツが気持ちよすぎたのだ。

暖かくて、おいしいミカンがあって、綺麗なお姉さんがいて、目の前にはふくよかなおもちがあった。

だから寝てしまうのは仕方ない。避けられない必然だったんだ。

あの人と俺はコタツで温まった。

寄り添いながら温まった。

マフラーを巻きあいながら温まった。

あの人がこちらに寄りかかった。

とてもいい匂いがした。

あの人は俺と向かい合うようにして抱きかかってきた。

おもちの柔らかい感触がたまらない。

寒がりな彼女が、どういう訳か熱がって服を脱いできた。

…覚えているのはそこまでだ。





俺も彼女も、今は服を着ていない。そして彼女は、俺の横で気持ちよさそうに眠っている。

妹さんが来たらどうごまかしたらいいんだろう。

クロチャー策士は充分アリだと思います。本人の気質からして、やれてもやらなさそうな気もしますが。
少ししたら投下開始。


>>170の続きから

咲「…力の欠片?」

トシ「そうだ。私はコレをアンタたちに使わせて、その能力向上を図ったのさ」

照「未来を担保にするって?」

トシ「数多くある未来への可能性を一つ潰すことで、高い雀力を得られるようになるということ」

穏乃「可能性を…潰す?」

トシ「別段おかしな話じゃない。生きるとは選択することなのだから」

トシ「何かを得ようとして、結果何かを切り捨てるなんて珍しくもなんともない」

咲「それはそうでしょうけど…」

穏乃「熊倉さんの言葉からはそれ以上の含蓄を感じるんです」

トシ「…」

トシ「…さっき私は、小鍛治健夜を育てたと言ったね」

照「ええ」

トシ「だらしない所はあるが、容姿などはかなりのものだ。そんなあの子が…どうして浮いた話の一つもないと思う?」


咲「…まさか」

穏乃「そんな…そんなのって」

トシ「そのまさかさ。あの子は結婚出来る未来を担保にして雀力を得たんだよ」

照「な、なんてことを…」

咲「どうして可愛い教え子である彼女に、そんな酷い真似が出来るんですか!?」

トシ「…どうしてかって?」

穏乃「そうですよ!赤土さんにしても、実業団時代からかなり目を掛けてくれたそうじゃないですか」

穏乃「あの人は…感謝してたんですよ。自分をもう一度麻雀に向き合わせてくれた貴女に」

穏乃「なのに…なのにどうして……」

トシ「――そんなの決まっているじゃないか」

穏乃「…」

トシ「愛しい教え子だからこそ、もっと楽しく麻雀をさせたいんだよ…私は」

トシ「ただ悲しいかな、私はあの子たちに麻雀以外を求めなかった。ただそれだけのことだ」


咲「…」

照「…」

穏乃「…ふざけるな!」

トシ「ふざけてなどいないさ。それもまた人間の一面なんだよ」

トシ「実業団がどうして私に赤土を雇わせた?アンタのいる学院が、どうしてあの子を教員にした?」

穏乃「ぐっ…」

トシ「何も言えはしないだろう。人間性とか諸々は一旦置いといて、あの子は麻雀が強いからそう扱われた」

トシ「教え子であるアンタたちも、インハイにおける実績を見て赤土に興味を持ったんだろう?」

トシ「勿論それだけで関係は維持出来んがね、だからと言って切欠になったことを否定は出来まい」

穏乃「…けど」

トシ「けどじゃない。それともアンタは、もしあの子にインハイの実績がなくとも関わりを持てると言えるのかい?」

穏乃「…」

トシ「そうだ。私がコレをバラ撒かなければ、かつての赤土晴絵は、みんなのヒロインになれなかった」

トシ「…小鍛治健夜に立ち向かった哀れな道化にもね」

穏乃「―――アンタはっ!」


咲「高鴨さん!?」

照「いけない…それでは彼女の思うつぼ」

穏乃「知ったことじゃありません!大切な人を馬鹿にされて、黙ってなんかいられるものかっ!!」

トシ「ククク…」


「…相変わらずだな、トシ」

「反吐が出るぜ。その薄汚さには」


照「――貴方たちは」

トシ「くたばりぞこない共が…雁首そろえて何しに来た?」





秋一郎「…知れたことよ。俺はお前を止めに来たんだ」

聡「もうアンタの好きにはさせんよ、熊倉」


穏乃「お、大沼プロに南浦プロまで…」

咲「なにがなんだか分からないよ」

照「…お二人に訊いてもいいですか?」

秋一郎「…うむ」

照「貴方がたは全てを知ってて、放置し続けていたのですか?」

聡「いや、それはありえない」

秋一郎「俺たちは血眼になってこの件について調べていた。それにこちらも、全てを知っている訳ではない」

照「あの黒い点棒は…いつから存在していたんです?」

秋一郎「…丁度君たちが生まれた頃だ」

照「!」

聡「その頃からだ…女性による雀力の独占が始まったのは」

秋一郎「俺たちはそれを歯痒く思っていたよ。たかが生まれによる違いで、麻雀の強さが決まるのがな」

「…たかが?」

秋一郎「…」

トシ「たかがと言ったね秋一郎。だがねえそれは私も思っていたことなんだよ」

トシ「それにアンタらが現役の頃は、男ばかりに高い雀力が与えられていたはずだ。それを棚に上げて言うもんじゃないさ」

聡「…てめぇ」

秋一郎「否定はしない。結局こちらは、自分たちの都合で動いているだけだ」

トシ「だったらそちらに止める筋合いは…」

秋一郎「ある」

トシ「…何?」

秋一郎「雀力の格差は…けして男女間だけで生じている訳ではない。それはトシ、お前も知っているはずだ」

聡「アンタのお気に入りばかりが特に強くなる惨状を見れば、それは明らかってもんだ。全部がそうって訳でもないだろうが」


トシ「…まったく。ああ言えばこう言う」

秋一郎「お互い様だ」

トシ「昔からそうだったよ。私がどんなに喰い下がっても、アンタはいつも冷めた目で私を見る…」

秋一郎「…」

トシ「私はその目が気に入らないんだよ。そんなにこちらが無様に見えるか」

秋一郎「…トシ、俺は」

トシ「――その名で呼ぶんじゃない!」

秋一郎「……」

トシ「もう、引き返せないんだよ。私は多くの少女たちを野望の犠牲にしてきた」

トシ「人並みの幸せを望めない者は、きっと沢山いるだろう。私がアンタとそうしたかったようにね」

秋一郎「……」

トシ「…だんまりかい」

トシ「まあいい。いずれにしろ、私は誰にも止められないよ?輪転機がある限り、私は無限の雀力を司るのさ」

秋一郎「…聡。それに君たち」

聡「言われるまでもねえ」

照「私たちは…この人を止めなきゃならない」

咲「…うん」

穏乃「私たちの未来は、私達が決めるんだっ!」



▼数字のでかい方が勝ち

迷子&じっちゃん >>195

トシ >>196

勝ったな

?「う~ん、いわゆるひとつのメイクドラマですね~」

>>195の時点で俺も「(じっちゃんたちが)勝ったな」って思ってました…これだから安価は面白い。
あ、今回はここまでです。おやすみなさい。

例のごとく30分後に投下予定。

去年の今頃くらいは、自分がこうしてSSを書き続けてるとは思ってませんでした。
これもひとえに閲覧なされる方、コメントをしてくださる方のお陰です。本当にありがとうございます。
それでは皆様、よいお年を。

あけおめことよろっすー
デロリアン粉砕とか見てたら日を跨いでしまった…そんじゃま、投下していきますです


照「…そんな」

咲「私たちじゃ…まるで太刀打ち出来ないの?」

穏乃「…ちくしょう…ちくしょう、ちくしょう!」

トシ「…」

秋一郎「…」

聡「…く、くそがっ」






秋一郎「…君が何故ここにいる?」

「…」

秋一郎「何とか言ったらどうなんだ、小鍛治君」

小鍛治「……」


照(こ、これが無敗王者…)

咲(あの銀メダルも、わざと負けた結果だとは聞いてたけど)

穏乃(悔しいけど、次元が違いすぎる!!)

健夜「――まだ、立とうとするんだね」

照「…当たり前です」

咲「私たちは」

穏乃「まだ諦める訳には行かないんです!」

健夜「頑張ったって無駄だよ。貴女たちじゃどう足掻いても、本気の私に勝てる訳がないんだから」

健夜「…それに私も諦めてはいられないの。ステキな人と出会って…お互い好きになって…それから二人で幸せに暮らすんだ」

咲「!?」

照「…何を馬鹿なことを」

穏乃「その望みは、貴女自身が捨ててしまったんじゃないんですか?」


健夜「…」

穏乃「…何とか言ったらどうなんですか!」

健夜「…それは、赤土さんに対してのことかな?」

穏乃「貴女がそう思うのなら、きっとそうなんでしょう」

健夜「…貴女が答えをくれるんじゃないんだ。トシ先生みたいに」

穏乃「…」

健夜「先生は、私を幸せにしてくれるって言った。ステキな人を見つけて私にくれると約束してくれたの」

健夜「だから私も…先生との約束を守る。私みたいなのが、誰にも笑われたりしないような世界を創る」

穏乃「…小鍛治さん」

健夜「ん?」





穏乃「はっきり言います。貴女って…ほんっっっっっとうにバカなんですね!!!」


健夜「…今の貴女が私を笑っちゃダメなんじゃないかな?」

穏乃「そうかもしれませんね。でも、未来を誰かに委ねてしまう大人なんかみっともないと思うのはどうにもなりません」

穏乃「…熊倉に何かを委ねて、それでどうなりました?貴女は楽しいんですか?貴女は幸せなんですか?」

穏乃「そう、小鍛治さん。今の貴女は…いつか私がテレビで見たあのひどくつまらなそうな顔のままだ」

健夜「…」

穏乃「…」

健夜「…実際つまらないんだから、しょうがないじゃない」

穏乃「…!」

健夜「どうせ誰も私に勝てはしないんだし…一緒だよ、何度打っても」

穏乃「…やってみなくちゃ」

「やってみなくちゃ、分からない!」

穏乃「…えっ」

健夜「…彼方たちも死にに来たの?」





憧「…なんだかよく分からないけど」

玄「ここから先はおまかせあれ!」

穏乃「アコ!それに玄さん!」

淡「わー!なんか面白いことになってるねー!!」

菫「――目の前に敵がいたなら…撃ち貫くまでだ!」

照「…来てくれたんだ」

和「咲さんは…私が絶対守ります!」

京太郎「…え?」

咲「和ちゃん…京ちゃん…私、嬉しいよ」


トシ「…有象無象がぞろぞろと。ろくに打てもしない奴までいるじゃないか」

健夜「…」

秋一郎「トシ、俺もまだ諦めんぞ」

聡「ついでに俺もな!」

トシ「…しぶとい奴ら」

健夜「…先生」

トシ「構う事はない。みんな纏めて潰してやるだけさ」

健夜「…はい」



健夜(あの金髪の男の子…雀力は脆弱だけど、何やらただならぬ雰囲気を感じる)

健夜(…気のせいならいいんだけど)



▼数字のでかい方が勝ち(安価の結果は、最後の以外展開が変わるだけです)

雀士たち+雑用 >>217

トシすこ >>218

こんどこそ

嵐を起こすぜ


トシ「…」

健夜「…対象の沈黙を確認しました」

トシ「そうかい」

健夜「…あの、先生」

トシ「バカな奴らだ。どうしてあの場に戦えん者を連れてきたりしたのか」

健夜「……」

トシ「あんなでくのぼうさえ居なけりゃ、こんなことにはならなかったのにねぇ…」

健夜「…そうですね」

健夜(おかしいと思うのは私だけなのかな?この場所は、普通の人じゃどうやったって入れないのに)

健夜(でも彼は、大した力を持ってないはず。違和感を感じはしたけど、結局何も出来なかったし)

健夜(…それなのにどうも引っかかるんだよね。ミダステンボーだって、さっきからずっとざわついたままなんだから)



………

……




「須賀ー。お前なんで麻雀部に入ったのさー?」

京太郎「…麻雀っておもれーから」

「嘘嘘。絶対嘘だ。お前はあの原村に近づきたくて入ったんだろ?」

京太郎「……」

「やっぱりな!そうしてまであの子に近づこうとするのって、正直アホの極みだけどな!」

京太郎「…そうだな」


「県大会の須賀って、すっげー無様だったよな」

「ホントホント!」

「あんなんでよく原村に近づこうとしたよなー」

「…笑えるわぁ」

京太郎「……」

「あ、いたんだ」

「すまんすまん。聞かせるつもりはなかったんだ」

「まー事実なんだし仕方ないよな」

「俺たちは、決してお前を傷つけようだなんて思ってなかったんだぜ?」

京太郎「…ねえ」

「あ?」

京太郎「仕方ねえよ。お前らの言ってること、全部本当の事なんだし」

「――それもそうだな」

「よく分かってんじゃん!」

「これに懲りたら、せいぜい身の程を弁えながら生きてくんだなぁー」


「宮永さんってすごいよねー」

「経験者ではあったそうだけど、まさかあの龍門渕を倒すなんて」

「…それに比べてあのアホは」

「ありえないよね。アレでよくもまああの子のことを小馬鹿に出来たもんだよ」

「ドン引きだわー」

「ちょっとばかし気にしてたのがバカみたいだな…」

「あ、それ私も!」

「そこそこいい感じだと思ってたのにねー…相手を選んだりなんてするから」

「まーなんつうかさ、自分の長所を殺しちゃダメでしょ」

「人当たりのよさが受けてたのに、麻雀部に傾倒しすぎてたし」

「…その割にはあのザマだけど(笑)」

「ちょっとぉー笑わせないでよねー」

「…ウケるわぁ」





京太郎「……」


…なんでだ。

なんで俺ってば、こんなにもダメなんだ。

みんなの言う通りだ。

大して何も出来ない奴が、あんなに凄いことが出来る咲を笑ってた。

何やらせてもダメだってバカにしてた。

咲自身がそれをどう思ってたかは別として、それは否定しようのない事実なんだ。



打てないから…麻雀弱っちいから、雑用をやって誤魔化してた。

失いたくなかったんだ。

麻雀部というかけがえのない居場所…そして、みんなとの繋がりを。

和だけじゃない。咲だけでもない。俺はみんなと一緒にいたくて頑張ったんだ。

でも、麻雀は弱い。

特に優希や部長には、麻雀のことを詳しく、そして沢山教えてもらってた。

それでも、麻雀は弱い。

…そう、弱いからこうなってるんだ。

県大会の個人戦でコテンパンにされて…みっともない思いをして…周りからは笑われっぱなしで……。




―――力が欲しいですか?


京太郎「…な、なんだアンタは?」

「そんなことはどうでもよろしい…それよりも、私の問いに答えてください」

京太郎「力なんて…俺にある訳ないだろ」

「――いいえ。それはありえません」

京太郎「どうして?」

「貴方様には、多くの可能性が眠っているからですよ」

京太郎「…可能性?」

「彼方がた人間が、未来と呼んでいるものですよ」

京太郎「――未来、か。それがダメになったら俺はどうなるんだ?」

「消えます」

京太郎「!」

「誰の記憶にも残らず、跡形なく消え去ってしまうでしょう」

京太郎「…」

「…それを訊いてどうするんですか?貴方様は、とうの昔に結論を出しているはず」


京太郎「…ビビッてただけ。いや、受け容れる準備をしていたとも言えるかな」

「…では」

京太郎「うん。俺はアンタと契約するよ」

「死んでしまってもいいと?」

京太郎「負ければ何かを奪われる。結果的には、いくつかの未来も失われるだろうさ」

京太郎「…どうせ失うのなら、失ってもいいものを失って…残せるものは残したい」

「ふむ、さようでございますか」

京太郎「…一ついいか」

「何でございましょう?」

京太郎「…未来を買い戻すってことも、アンタと契約すれば可能なのか?」

「出来ますとも。ただし、熊倉婦人たちを斃せたらの話ですが」

京太郎「――斃すさ」

「……」

京太郎「俺は…あの人たちの未来を奪ってでも勝ちたいんだ。ううん、勝たなくちゃならないんだ!」



―――ああ、俺は嫌だ。


…このまま負け続けたらどうなる?

俺がこんなままで、麻雀部はどんな風に見られちまう?

俺のせいで麻雀部が台無しになる?

足手まとい?

いらない奴?

須賀京太郎は…居ても居なくてもいい存在?



嫌だ!

嫌だ!嫌だ!嫌だ!

消えたくない…このまま消えるなんて俺は嫌だ!

…負けたくない!

俺は、俺は、俺は……


















俺は…俺は、負けたくないぃぃいいいぃぃぃぃいいいぃ!!!


トシ「な、なんだいこれは!?」

健夜(…どうして)

京太郎「…」

トシ「どうしてアンタが立ってるんだ!アンタみたいな路傍の石が、名だたる打ち手を差し置いてさぁ!!」

京太郎「…勝つ」

トシ「ああ!?」

京太郎「俺はただ、勝つ為だけにここにいる…お前たちは違うのか?」

トシ「…言うじゃないか」

健夜「……」

京太郎「お前らの懐にある点棒を奪ってでもっ!俺はぁっ!!勝ぁああぁぁあぁつ!!!」



▼数字のでかい方が勝ち(安価の結果は、最後の以外展開が変わるだけです)

帝王? >>236(+50)

トシすこ >>237

そい

まさかとは思ったがこれは…



















トシ「俺はただ、勝つ為だけにここにいる」キリッ

健夜「だっておwwwwwwwwwwwwwwwwwww」



京太郎「なんでじゃぁあああぁぁああぁああぁぁぁあああぁああああああああぁ」

【BADEND・1】

最初は強制勝利にしようかなと思いましたが、いっぺんくらいは安価でもいいかと思った結果がこれ
次回は>>235の続きからです…こうもグダグダになるとか、そんなん考慮しとらんよ……

それでは

追伸
そもそも安価までの文も中弛みなのは言わずもがな

コンマ神「元日から仕事するわけねーだろjk」



>>257
でも義姉スレにはサビ残するんでしょ?

>>258
コンマ神「あそこは私の本気の遊び場だ!」

都落ちから一年以上になりますが、コンマの呪いは未だ健在のようでなんと言えばいいのやら…
昨日に大祓でもしておけばよかった

なお、投下開始は21:00頃の予定です


京太郎「あ、美幸さん。お誕生日おめでとうございます!」

美幸「…え?」

京太郎「へっ…ち、違うんですか?」

美幸「い、いや…違わないよー?」

京太郎「ですよね。あーよかった、俺の勘違いじゃなくて」

美幸「…」

京太郎「一体どうしたんです?そんなに黙りこくっちゃって」

美幸「…祝ってもらえた」

京太郎「?」

美幸「お誕生日、祝ってもらえたよぉ…もー!」


京太郎「な、何も泣かんでも…」

美幸「泣かずにはいられないよ、もー!私の誕生日って、お正月のせいで忘れられがちなんだからー!」

京太郎「あー…クリスマスとかとおんなじやつですね」

美幸「そうだよもー!小さい頃はケーキの代わりにおせちだったのが辛かった…」

美幸「おせちを食べる度にケーキの甘さが恋しくて恋しくて…おせちにも栗きんとんや黒豆といった甘みはあるけど」

京太郎「栗きんとんかぁ…あの甘さって好き嫌い分かれますよねー」

美幸「今はそうでもないけど昔は苦手だったかなー」

京太郎「でも色は綺麗ですよね」

美幸「わかるよー。黄金色に輝く財宝にたとえられるだけはあるよね」

美幸「『勝ち栗』って言われるくらいに縁起がいいとされてるのも納得だよね。味は賛否両論だけど」

京太郎「…栗きんとんとモンブランなら?」

美幸「モンブラン!」




京太郎「…改めまして、あけましておめでとうございます」

美幸「こちらこそ。今年もよろしくね、須賀君」

京太郎「でも美幸さん、今年で卒業ですよね?」

美幸「やめてよもー!みんなと別れるのって辛いんだからさー!」

京太郎「はは…すみません」

ピーンポーン

美幸「うん?」

京太郎「あ、思ったより早かったな」

美幸「何が?」

京太郎「さっきまでみんなケーキを作ってたんですよ…そう、誕生日ケーキです。飾りつけで意見が割れてたんですけどね」

美幸「…!」

京太郎「もちろんお年玉じゃありません。俺たちみんな、先輩の誕生日を覚えてたんですから」

美幸「み、みんなぁ…」

京太郎「美幸さん、今の気分はどうですか?」

美幸「…嬉しいに決まってるじゃない、もー」

カン!


【次回予告】

京太郎「…ガースー塩大福?」

洋榎「せやで!」





ウソですしませんドン引きですアレ
…次回投下は多分1時間後になりますです

>>264
「あ、美幸さん。お誕生日おめでとうございます!」→「――美幸さん。お誕生日おめでとうございます!」

>>266
ピーンポーン→コンコン... 先輩→貴方

>>235の続きからいきます。眠いんで今回は短めです。


【ここまでのあらすじと裏設定】

宮永咲は迷子である!

その姉である宮永照も、阿知賀女子のジャージ女子こと高鴨穏乃も迷子である!

だが彼女たちは、元来の方向音痴ではない。

そう、彼女達は引かれているのだ。

雀力の集まる場所…いわゆるパワースポットというやつだ。

…神代小蒔や天江衣には、能力の発現にいくつかの制限があるが三人にはそれがない。

特定の場所に行けば、労せずに雀力を向上させることが出来る。

ただし制御は時間と修練を要するため、その辺りは他と大差ないのだが。



なお、穏乃の場合は雀力を持たないにしてもテンション上がるとすぐ走る癖で結局迷う。

つまり…憧と玄の苦労はどうしたってなくならないのだ。


無論…三人が迷子になったのは偶然ではない。

熊倉トシは輪転機なるものを使い、素養のある者をインハイ会場に集めやすくしているのだ。

ミダステンボー。

使用者の未来を担保に、確実かつ劇的な雀力向上を可能にするシロモノだ。

これは女子にしか扱えず、その理由はトシの怨念…かもしれない。


輪転機の発する雀力に引かれた迷子。

それを追う捜索隊と、トシの野望を阻止しようとするプロ二人。

先述した迷子の性質を知った大沼と南浦は、トシの目論見を阻止しようとしていた。

それは彼女自身を中心とした、女性のみによる国家の設立。

――そして最終戦争である。


トシの誘いを断り、迷子たちとプロ二人は敢然と立ち向かうもあえなく敗北。

捜索隊が駆けつけるも続けて敗北。

乙女ゲーの如き未来を多く犠牲にしてきたトシと健夜…そんな二人に太刀打ちできる者など居なかったのだから。


何故か須賀京太郎が立ち上がるも、奇跡は起こらず当然敗北…とはならなかった。


トシ「…バカな」

健夜「私たちは、確かに貴方をトばしたはず」

京太郎「…」

トシ「ちっ、こうなりゃ何度だってトばして…」

京太郎「…無駄だ」

トシ「うん?」

京太郎「お前たちが俺をトばして勝利する未来には…決してたどり着けない」

トシ「なんだいなんだい、酷いトばされ方だったからショックのあまりネジまでトんだか」

健夜「…!」

京太郎「アンタがそう思うんならそうなんだろうな。アンタの頭ん中じゃな」

京太郎「…仕方あるまい。神の御業を見せてやろう」










                    八 連 荘 - エ イ ト セ ン シ ズ -








京太郎「…」

健夜「あ、ああ…先生が…先生が……」

京太郎「嘆くな。彼女は死んだのではない」

健夜「…は?」

京太郎「我が力によって浄化され…この星と一つになった」

京太郎「もはやその始まりさえも分からない憎しみから、解放してやったのだ」

健夜「!?!?!?!?!?!?」

京太郎「ああ…この力は素晴らしい。何のとりえもなかった俺が、今では何でも出来るような気がする」

京太郎「いや、出来るのだ。俺は牌に愛され、世界に愛され、やがては全てに愛されるだろう…」

健夜「い、一体何を言ってるの?」

京太郎「…ふっ」ニコリ

健夜「!」ビビクン

健夜(な、なんて暖かな眼差し…抱きしめて頬ずりしたくなってしまう……)キュンキュン


秋一郎「…」

聡「信じられん…あのトシと小鍛治プロを一蹴だと」

秋一郎「…スーパーアーリア人、という奴か」

聡「バカな…実在していたのか……!?」

秋一郎「残念ながら間違いない。アレは間違いなく、伝説のスーパーアーリア人だ」

「…うっ」

「…一体何がどうなってるんですか」

秋一郎「…見ての通りだ」

聡「滅茶苦茶過ぎて理解のしようもないだろうがな」



▼迷子か捜索隊から面子を一人ずつ選ぼう!

>>281>>281

>>280
>>281>>281>>282>>283

まぁ、咲だろ

コンマの件で何かもう笑いの神が降りて来る気しかしない
安価は照


咲「…京ちゃん」

照「かわいそう…力に振り回されてるから、もう何も分かってはいないんだろう」

照(私も腕がグルグルーって出来るようになって、しばらくは言動が色々可笑しくなってたし)

照(…そういうのは早く終わらせてあげないと)

秋一郎「…どうするね?」

咲「無論、止めます」

照「私も咲を手伝います」

聡「すまないな。我々にはもう戦う力が残っていないし、何の役にも立てない」

咲「…そんなことはありません」

照「私たちがこうしていられるのは、お二人がさっき私たちを庇ってくれたから」

秋一郎「……」

聡「…そう言ってくれるとありがたい」










京太郎「…来たか」

咲「うん、来たよ」

照「須賀君と言ったか。こんなことはもう止した方がいい」

京太郎「…それは出来ない」

咲「どうして?」

京太郎「先ほどまでの俺の如き弱者は全て浄化する。弱い者は、生きていても幸せにはなれない」

京太郎「種をまいて…芽をいつくしみ…穂を刈った後にそれを根こそぎ奪い取られる」

京太郎「弱者とはそういうものだ。強者の為に失い、やがて磨耗する」

咲「…そんなことない」

京太郎「何?」

咲「京ちゃんは私の事を守ってくれたよね。私が部活に入った後も、和ちゃんと一緒に守ってくれていた」

咲「…周りの人がどんなに酷いことをいったって、私にとって貴方は強い人なの」

京太郎「……」

咲「でも今の貴方は見てられない。だからね京ちゃん、今度は私が迷子の貴方を助ける番だよ?」



▼数字のでかい方が勝ち

京太郎 >>286

>>287

>>288

ふむ

流石だな!

てい


………

……








「…えへへ。私たち、勝っちゃったね」

「ああ」

戦いが終わってからも、色んな事があった。

私もお姉ちゃんも穏乃ちゃんも、方向音痴ではなくなっちゃった。

嶺上は出来る。けどもうプラマイゼロは出来ない。

その代わり、槓ドラが乗るようになった。そのお陰で火力はいくらか上がったと思う。

…団体戦では優勝したけど、個人戦ではお姉ちゃんたちに負けちゃった。

お姉ちゃんは京ちゃんにもいつかリベンジしたいと言っていたけど。


小鍛治プロはあれからすぐに世界へと旅立った。

風の噂じゃあるマジシャンに恋をしたとか…恋敵は多いようだけど。

…元凶だった熊倉さんは行方不明だ。

大沼さんと宮守の5人は、今も彼女が帰ってくるのを待っている。

「――すまないね。私がどうかしてたみたいだ」

私たちにそう言い遺して去っていった彼女の顔は、とても穏やかだった。


和ちゃんは、最近私に抱きついてくるようになった。

お姉ちゃんと大星さんは、来年に向けて色々話し合ってるみたい。

ただ…前部長の弘世さんからは、本人かどうか訝しがられたらしい。

穏乃ちゃんは相変わらずの登山好きだ。

最近では、新子さんたちの方から一緒に来てくれるようになったとか。


そして、私はと言うと…

「なあ、この場合はどう打てばいいんだ?」

「ああ、そこはこの牌を切ってリーチを…」

「……」

京ちゃんの家で彼に麻雀を教える毎日。ただし、和ちゃんと一緒に。

…何故か二人の距離が近い。

こんなにムカムカしてしまうのはどうしてだろう。でも、これはこれで悪くない気がする。

――大切な人が傍に居てくれて嬉しいから。

【GOOGEND・1】

終盤から安価を採用したのは、短編の安価スレを練習したかったからです。結果は見ての通りだけども。
参考にしたスレの流れか、それとも都落ちからの宿業か、京太郎の安価がホント絶望的でしたね。
まあらしいっちゃらしいんでそれはそれでいいと思います。

それでは、また。

>>285
根こそぎ奪い取られる→根こそぎ奪われる
やがて磨耗する→死ぬまで酷使され続けるだけだ

>>292
来年に向けて色々話し合ってるみたい→麻雀部のため来年に向けて色々話し合ってるみたい
本人かどうか訝しがられたらしい→本人かどうか訝しがられたらしい…真面目過ぎるからだということで


辻垣内智葉。

およそ学生らしからぬ風格を持った臨海女子のエースである。

どういう訳か須賀京太郎は彼女に出会い、周りからは彼女の舎弟として扱われている。

「…別にお前をそういう風に扱った覚えはないんだがな」

「姐さんがボスとしての風格を持つように、俺にも舎弟としての風格があるんじゃないですかね」

「姉さん言うな」

何にせよ、この二人の関係はそう言い表すのが適当だったに違いない。




「今日も町は平和そのものですね、姐さん」

「…そうだな」

今日も二人は日課の町内見回りをしている。

物騒な話ばかりの世の中、誰かの代わりに身の回りの危険と戦うためだ。

町の大人は智葉のことをお嬢と、子供は師匠だのせんせーだのと呼んでいる。

学校でもまあ似たようなものだ。

そんな彼女がカタギの人間であろう筈は…実はある。

親が任侠ものを好んでいた故、彼女は幼少からそんな世界の存在を知っていた。

世にはばかるものと知っても、それに対する興味は尽きず。

結果彼女は…自分が見てきた理想の侠客のように振舞おうとした。

幸か不幸かその生き方はしっくりきていて、高校生になった今でも続いているだけということらしい。


その彼女にも、当然誕生日というものは存在する。

赤ん坊であった頃も、年端も行かない頃も当然あるのだ。

しかし京太郎には…そんな彼女の昔が想像できなかったのだ。だからつい訊いてしまう。

「…姐さんにも、普通の女の子と同じような時期ってあったんですかね?」

「……」

智葉はしばし沈黙して、それから舎弟の頭を軽く小突いた。

「あだっ」

「…私だって女だ。女性にとっての普遍的な憧れくらい持っている」

頬を少し膨らませながらそう口にする智葉。普段の彼女からは想像出来ない光景だ。

舎弟である京太郎の前では気が緩むのか、智葉は時たまそんな姿を彼に見せる。

その時智葉は、間違いなく歳相応に振舞っていた。


「女性としての普遍的な憧れって…何すか?」

舎弟が言う。

「それは、その…人によって色々あるだろう」

それに対し、師匠は歯切れの悪い返事。

「人によるんじゃ普遍的にはなりませんが」

「…賢しいのは嫌いだよ」

「それは困ります。俺はこれからも貴女の舎弟で居たいですから」

犬のような従順さで彼女に従う彼にとって、そう応えるのは至極当然と言えた。

縋るような…しかし期待と希望に満ちた目で京太郎は智葉を見据える。

それに対し、智葉は呆れたような目つきをしていた。

「舎弟…か。嬉しいやら鬱陶しいやら悲しいやら…何と言えばいいか分からんな」

「…嬉しいって言ってくれるとありがたいんすけどね」

「お前がその気になれば、私が何処へ行こうとついて来そうで怖いんだよ」

その言葉通り、京太郎は都合さえあれば四六時中智葉に付き従っている。

彼女の傍から片時も離れたくないと言わんばかりに。


「その代わりと言っては何ですが、俺に出来ることなら何でもさせてくださいよ」

「…何だと?」

「姐さんの憧れっつーのを俺が叶えてみせたいんです。いけませんか?」

「っ!?」

舎弟の言葉に智葉は返事をしようとしたが、結局言いよどんでしまう。

そんなことが何度か続いて…次第に彼女の顔は赤くなる。

京太郎はそんな智葉をただ見つめていた。彼女からの言葉をずっと待ち続けていた。


しばらくして、智葉はようやく言葉を吐き出す。

「…笑わずに聞いてくれるか?」

「はい」

「絶対に、どんなことがあっても笑いはしないか?」

「勿論です。俺は、須賀京太郎は貴女の舎弟ですから!」

「……」

少しの間の後、少女は自分の願いを吐露する。

「―――恋がしたい」

「…え?」

「青臭くて、しかし身悶えるほど熱い想いを誰かと共有したいんだ。自分が、心から愛おしいと思える誰かと」

「そんな誰かと一緒に過ごして…やがては結ばれ、家族を作って一生を共にして……」

「……」

「そんな望みを叶えてみたいと思うんだが…京太郎、お前は手伝ってくれるか?」





―――果たして彼は、彼女の誕生日に何をプレゼントしたのだろうか。

>>297
姉さん言うな→姐さん言うな。

警官だかガードマンにまでおじょーと呼ばれるガイトさんは一体何者なんだろうか。
それでは、また。

久しぶりの休みなんでリクエスト募集でも

>>306

照と怜と紆余曲折があり清澄にいて京太郎を取り合う。


睦月「…はぁ」

智美「睦月ー新年早々からため息は良くないぞー?」

睦月「あ、はい。すみません」

ゆみ「そう言うな蒲原。見る側としてはよくないが、ため息には身体にいい影響も多くある」

ゆみ「腹式呼吸や体内ホルモンの分泌促進、血液量の増加などの効果が得られるからな」

智美「ワハハ、そうなのかー」

桃子「…先輩先輩」

ゆみ「何だ、モモ」

桃子「その雑学、誰から聞いたんですか?」

ゆみ「久からだが」

桃子「ああ、やっぱり」

桃子(あの人のせいで、最近先輩がおばさん臭くなってるような気がするっすよ…)


睦月「……」

ゆみ(少しは表情が緩んだか。去年の暮れ辺りから、津山はますます気負っているようだったからな)

ゆみ(新入生を迎えるまでに、少しでも部員の数を増やすなどして部活の体制を整えたいと言っていたが…)

ゆみ(ふむ、どうもこのままでは上手くいきそうもないな。どうしたものか)

睦月「…先輩」

ゆみ「どうした?」

睦月「私…本当に部長なんて出来るものなんでしょうか?」

ゆみ「…津山」

睦月「今は貴女や部長がいてくれるから何とかなってますけど、二人が居なくなったら私…」

「…大丈夫だよ」

睦月「え?」

佳織「だって貴女は独りじゃないもの。二人が居なくなっても、私達が居るじゃない」


睦月「…妹尾さん」

桃子「むっちゃん先輩、私を忘れてもらっちゃ困るっすよ」

睦月「桃子…」

桃子「ステルスなんて言われちゃいますが…私だって、麻雀部員っす」

桃子「幽霊部員なんかじゃない。私も、貴女達と一緒に戦う仲間なんです」

睦月「……」

佳織「津山さん。これでもまだ不安になっちゃうかな?」

佳織「私ってまだまだ初心者だけど、麻雀部のお荷物なんかになったりしないよ」

睦月「…」

睦月「…うむ!」


ゆみ「…蒲原」

智美「ああ。これならきっと大丈夫だと思うなー」

カン!

>>306はこの次に。寝落ちしなけりゃ今夜辺りになりそうです。
むったんイェイ~。

>>303 姐さん言うな。→姐さん言うな

最近京太郎を話に組み込まないことが増えてるような。
注意書きもあるとはいえイカンイカン……。


京太郎「ちーっす」

照「おはよう京ちゃん」

怜「おはようさん」

京太郎「……」

京太郎(…えっと、どうして二人はここに居るの?)

照「え、なに?」

怜「黙られると不安になってまうんやけど」


和「…部長」

久「今の部長はまこよ」

和「じゃあ竹井先輩。あれは一体どういうことなんですか?」

久「知らない」

和「えっ」

久「知らないわよ私。あの二人には、しばらくここに置いてくれとしか聞いてないし」

和「…何故問い詰めなかったのですか?」

久「野暮なのは嫌いなのよ」

和「……」

和(これ、咲さんと優希がこれを見たらどう思うんでしょう?)





京太郎(…何がどうしてこうなった)




京太郎「……」

京太郎(夏合宿、かぁ)

京太郎(四校合同ではハブられた俺がここに…そう思うと感慨深いぜ)

京太郎(白糸台・千里山・新道寺・阿知賀・龍門渕といった名だたる強豪)

京太郎(全員は居ないけど、鶴賀や風越とかからも人が来てる)

京太郎(…賑やかでいいなあ。男一人でないのもまたいい)

京太郎(これでまたハギヨシさんに指導してもらえるんだもんなー)

「…あの」

京太郎「ん?」

「須賀京太郎君、だよね?」

京太郎「え、ちょっ…宮永照さん!?」

照「…妹が迷惑掛けてるみたいだね」

京太郎「い、いやー手のかかる迷子で困ってますよ」

照「咲…まだ迷子になりやすいんだね」

京太郎「ただこっちもレディースランチを注文してもらったりとかしてますし、お互い様なんじゃないですかね」

照「…レディースランチ?」

京太郎「ウチの高校、学食には妙にこだわってましてね。タコスまで置いてたりするんですよ」

京太郎「で、今話したレディースランチというのがまた美味そうで…実際美味かったんすけどね」


照「…ひょっとしてお菓子もある?」

京太郎「勿論です。和菓子も洋菓子も完備してます」

照「そうなんだ…一度行ってみたいね」

京太郎「それなら部長に言えば何とかなると思いますよ?」

照「え、いいの?」

京太郎「部長は生徒会長…いや、生徒議会長なんですよ。あの人なら多分聞いてくれます」

照「どうして?」

京太郎「インハイチャンプが来たとなれば、学校中がちょっとした騒ぎになるでしょうから」

照「…どうだろ」

京太郎「少なくとも、男子のハートはわしづかみだと思いますよ?」

照「…そうなんだ。ちょっと嬉しいかも」

京太郎(…胸が鉄板呼ばわりされてるのは黙っておこう。主に巨乳派から…って、俺も巨乳派だけどさ)


京太郎「……」

京太郎(…しかしまあ、こうして間近で見ると綺麗な人だな)

京太郎(咲のお姉さんとは思え…案外そうでもないかもしれんが)

照「…須賀君?」

京太郎「あ、はい」

照「さっきから私の顔をじっと見てるけど、何か付いてる?」

京太郎「違いますよ。綺麗だなーとは思ってましたが」

照「…?」

京太郎「いや、お世辞とかじゃなくてホントに」

照「…容姿のことはそんなに触れられないから、どうもよく分からない」

京太郎「なるほど」

京太郎(記者会見の時とキャラがかなり違うし…こりゃ何かあるんだろうな)



照「…ねえ」

京太郎「何でしょう?」

照「私…お腹が空いたんだけど、須賀君お菓子は持ってない?」


京太郎「……」

京太郎「……」

京太郎「えっと…このタコスじゃダメでしょうか?」

照「やだ。私はお菓子がいい」

京太郎「中の焼きそばがこれまた美味しくて…」

照「お菓子じゃない。焼きそばパンだとしてもそれは惣菜」

京太郎「…さいですか」

京太郎(どうやら咲とは別ベクトルのぽんこつだったらしい)

照「…須賀君」

京太郎(うっ、なんつーあざとい上目遣い!おまけに目も潤んでるし!)

照「お願いだから、私にお菓子を買ってきて…ね?」

京太郎「……」

京太郎(…いかん、これは断れない。断れないよ)

京太郎(うん、こうなりゃ仕方ない。いっちょやってやりますか!)


………

……









京太郎「…これ、タコスです」

照「あの、私はお菓子を買ってきてって…あれ?」

京太郎「チョコタコってやつです。クレープと同じで何挟んでもいいですからね」

照「でもこの辺りにタコス屋なんて…」

京太郎「作ってきました」

照「えっ」

京太郎「とはいえ俺一人の力じゃありませんけど。龍門渕のハギヨシさんが手を貸してくれましたから」

照「……」

京太郎「どうしました?」

照「…いきなりワガママ言ってごめんなさい」

京太郎「…謝られるより、お礼を言われたいですね」

照「…怒ってないの?」

京太郎「わざわざ作ってきたのに責めるも何もないでしょう。それに俺、こういうのには慣れてますから」

京太郎「そりゃまあ面倒っちゃ面倒ですけど…頼られるのって嫌いじゃないし、つい頑張っちゃうんですよ」

京太郎「で…俺お手製のチョコタコは美味しいですか?」

照「うん、おいしい」


京太郎「そう言われると作ったかいがあったってもんです」

照「美味しいのは本当だし…それに、食べてて何だかポカポカするの」

京太郎「アイスクリームですよ?なのにポカポカって変じゃないですか?」

照「ううん、変じゃない。このタコス、とってもやさしい味がするから」

照「それに…変と言えばいきなりワガママを言って聞いてくれる須賀君も変だよ」

京太郎「ですよね。和とかにもそう言われてますし」

照「でも…貴方がそんな人だったから私はこうしてお腹を満たせて、幸せな気分になれる」

照「…ありがとう」

京太郎「どういたしまして」

照「それと…お礼ついでに恐縮だけど」

京太郎「?」

照「…また、作ってもらってもいいかな。チョコタコ」

京太郎「…いいですよ。俺も照さんの食べっぷりを見てて幸せになれましたから」











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       Ⅵ: : : :|: : |: :个:..          <   |: : |: |: : : : 从: !
        ∨ : : ∨ |: : {: : : : : :≧=-r ´   /⌒|:/: : : :/ Ⅵ
         \: : :\}: : \: ヽ : / ∧  _,/   /'/: : ,.く
          \: } \>:,.イ /⌒\/     ,.- /:/、  \
            \   //  ,'  /    / /イ- 、 \ ∧
              /,イ   / /    //´     \ \∧
               _/// / ̄/     /,.イ/         ∨ } ∧
         「{  / ,:.:/ / /   _,/:.://         }/∧ .
       _ | | { /{:.{ / ´ ̄ ̄:.:.:.:.://          ,′ ∧ }
       / Y| | Ⅳ ィ介、:.:.:.:.:.:.:.:.:.イ /          /////∧〉
     r ¨´ 、 Ⅵ V:.://:.:.} ̄ ̄   /           {//// /
   「´ ヽ  ヽ}|) {:./ {:.:.:.|     乂          ´∨_/




京太郎「……」

京太郎(…照さんに会ってから、俺の何かが揺らいでしまった)

京太郎(『貧乳なんてありえねえ!』って言ってた頃の自分は何だったんだろ)

京太郎(…女性の良さは胸だけじゃないと思い知ってしまったからな)

京太郎(もっと早く気付いていれば、俺と咲の関係も今とは違っていたのかもな…)

京太郎(ひょっとしたら優希とも…いやいや、アイツのはただのスキンシップだろ)

京太郎(ぶっちゃけああもあからさまだと、かえって色々萎えちまうしなー)

京太郎(…なあ梅原。咲をいい嫁さんだと言った梅原。俺、一体どうしたらいいんだ?)

「…うう」

京太郎「ん…確かあの人は……」


(あかんわ。もう一歩も動かれへん…)

京太郎「…あの」

「うん?」

京太郎「立てますか?よければ起こし上げますけど」

「…おおきに」

京太郎「…よっ、と」

「……」

「…ふぅ、助かったわ」

京太郎「…園城寺怜さんですよね?あ、俺は清澄の」

怜「須賀京太郎君やろ?昨日は姿を見かけんかったけども」

京太郎「買い出しやらで色々忙しくて…挨拶出来ずすみませんでした」

怜「まあ過ぎたことを言うてもしゃーないで。それに君、部長さんに扱き使われて大変なんやろ?」

京太郎「ええ、まあ…」

怜「後…女子だらけの部活でマネージャーなんかしとるんやから、多少はええ目を見れてるんちゃうの?」


京太郎「…部員です」

怜「え?」

京太郎「俺、マネージャーではなくて部員なんです」

怜「…ごめんな。そっちの優希ちゃんから雑用をこなす子がいるって聞いとったから」

京太郎「いえいえお気になさらず。そういう立場であるのも嘘じゃありませんし」

怜「…麻雀は打たせてもらえとるんか?」

京太郎「うーん…団体戦出場を決めてからはしばらく打ててませんでしたね。ネト麻くらいはしてましたが」

怜「…君も大変やなあ」

京太郎「それなりには。けど何だかんだで楽しんでますよ」

怜「それならええんやけど…」

怜(何か引っ掛かるけど、嫌そうな顔はしてへんなあ…目もいきいきしとるし)

怜(…ひょっとしてMなんか?)

怜「…一つ訊いてええかな?」

京太郎「ええ」

怜「ろくに牌を握れへんかったのに、どうして今も部員として部活におるんや?」


京太郎「…どうでしょうか。実は俺自身、未だによく分かってないんですよ」

京太郎「ただ…麻雀が楽しいと思う気持ちは変わってませんし、部活のみんなとも一緒に居たいですから」

怜「…さよか」

怜(ええ顔しとるな。これでも嘘やと思うんはウチには無理やな)

京太郎「…ちょっと話がしたいんですけど、いいですか?」

怜「うん」

京太郎「俺…部活に入る前は、自分は誰かの面倒を見る側だって思ってました」

京太郎「ウチの大将に宮永咲って居るでしょ?アイツ、俺と出会ったばかりの頃は縮こまってばかりで」

怜「ホンマかいな…あの子、昨日打ってた時も凄いオーラやったで?」

京太郎「そうなんですよね。俺もそんな咲を知ったのはつい最近ですが」

怜「…咲ちゃんって、いつ頃麻雀始めたん?」

京太郎「家族とはそこそこ打ってたようですけど、競技としてまともに打ったのはこの春からですね」

京太郎「家で色々あったらしくて…それに関係する麻雀のことも嫌いだって言ってました」

怜「……」

京太郎「俺はそんなアイツをほっとけなくて、世話係みたいな真似をしてたんです」

怜(ふむ、ある意味ウチと竜華みたいな関係やな)


京太郎「けど…咲が俺が誘われ麻雀部に入ってからは、その関係が変わりましたね」

京太郎「俺ってば麻雀はからきしですから、アイツには世話を焼かされっぱなしなんです」

京太郎「勿論他の四人にしてもそうですし…それからですよ、自分が面倒見る側なんて思わなくなったのは」

怜「せやけど須賀君、ここ最近までは打たせてもらえへんかったんやろ?」

京太郎「だからこそここに来てるんですよ。麻雀に勝てるようになって、それからもっと楽しめるように」

京太郎「それと…麻雀部に入ってからはこんなことも出来るようになりました」

怜「…これ、たこ焼きやないか」

京太郎「以前部活で優希にタコスを作ってやろうって話になりまして…それから色々あって、料理を作れるようになりました」

京太郎「最初に作ったタコスはクソ不味かったんですけどね。ある人から手ほどきを受けてからはそうじゃなくなって」

京太郎「…アイツ、タコと名の付くものを食うと強くなるんですよ」

怜「まさか、その為だけに料理を勉強したんか?」

京太郎「はい」

怜「……」

怜「……」

怜「…これ、めっちゃ美味いやん」

京太郎「腕によりをかけましたので」

怜(…ホンマ美味いわ。こない出来るまでめっちゃ頑張ったんやろうな)

怜(食ってて元気になれるモンを作れる男の子…素敵やわあ……)

怜(…ええ子やん。須賀京太郎、めっちゃええ子やん!)


怜「…美味しかったわ。ごちそうさんです」

京太郎「恐縮です」

怜「代金代わりに何かさせてもらいたいんやけど、ええかな?」

京太郎「いえ。俺は別にそんなつもりじゃ…」

怜「ええねんええねん。こういう時はお互い様にした方が気持ちええよ?」

怜「…せや!須賀君、ウチが君に麻雀を教えたるわ!」

京太郎「えっ…いいんですか!」

怜「ウチ、頑張る子には強うなって欲しいよってな」

京太郎「…ありがとうございます!」








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  ′: : : :: :: :: :: :代. トiv li! ,刈          トiv li! rf;}  }.|:: :: :: :: :: :: :: :: :: : : :
 ′: : : : :: :: :: :: ::|.  ∨    っ           ∨    っ /.|:: :: :: :: :: :: :: :: :: : : :
./ : : : : ::: :: :: :: :: :ト   ゝzz r,ノ            ゝ zz ツ   |:: :: :: :: :: :: :: :: :: : : :     「少しの間やけど、一緒に麻雀楽しもな!」
: : : : : : :: :: :: :: :: ::|.}                          .|:: :: :: :: :: :: :: :: :: :: : :

: : : : : : :: :: :: :: :: ::| l.   〃〃〃    ,       〃〃〃   .|:: :: :: :: :: :: :: :: :: :: : :
: : : : : : :: :: :: :: :: ::|: }                          .|:: :: :: :: :: :: :: :: :: :: : :
: : : :: : :: :: :: :: :: :: :` l                          |:: :: :: :: :: :: :: :: :: :: : :
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: / |                /             // /:: /




京太郎「……」

京太郎(そういやあの合宿じゃ、照さんと怜さんがよく俺に話しかけてくれたよな)

京太郎(お陰でいくらか強くなれたし、二人とは結構仲良くなれたし…)

京太郎(多分推薦決まってるからいいんだろうけど、まさかここまで来るとは思わなかった)

京太郎(…ひょっとしたらひょっとしちゃったりするのかなー?)


怜「…東京に帰ったらどない?」

照「貴方こそ病弱なんだし、早く大阪に帰るべき」

怜「アホ言わんでや。大阪は好きやけど、ウチみたいな病弱にはあんましようない所でもあるんや」

怜「せやからこの自然に溢れた長野で療養を…」

照「…それなら奈良でもいい」

怜「ウチは長野がよかったんや」

照「…むう」

怜「インハイじゃ負けたけど、ここでは負けへんで」

照「…今度だって勝つのは私」





まこ「おはようさん…ん?」

咲「…お姉ちゃん?」

優希「こ、これは一体どういう状況なんだじょ?」

和「……」

久「…須賀君」

京太郎「えーとえーと…さっぱり分からん!」



カン!

久しぶりに書き溜めたけどこれってどうなんだろ?
どうすれば上手くいくのかさっぱりわっかんねーですよ

それでは、また

いえ、自分としてはかなりいっぱいいっぱいです

京太郎はハギヨシさんと出会った時点でめっちゃ幸福だと思うんですよ
ぼちぼち投下していきます


セントラル:こんばんは

ドラゴンクロウ:こんばんはー

セントラル:あけましておめでとうございます

ドラゴンクロウ:こちらこそー 今年もよろしくね

セントラル:ところで昨日はよく眠れました?

ドラゴンクロウ:旅館の手伝いがあるから、昨日も早めに寝てたね

セントラル:昨日も?

ドラゴンクロウ:年末年始は特別宴会プランというのを実施してるし、それで結構お客様が来るんだよね

ドラゴンクロウ:葛のスープと大和地鶏の組み合わせが評判いいんだ

セントラル:へーそうなんですか 部活のみんなで一度言ってみたいですね

ドラゴンクロウ:うんうん それで私たちとそちらの面子でまた麻雀でも打てるといいね

セントラル:そうっすねー


ドラゴンクロウ:もしこっちで正月を迎えたら、最初に何を食べたい?

セントラル:うーん…ぜんざいですかね おもちと小豆汁の組み合わせが好きでして

ドラゴンクロウ:えっ

セントラル:えっ

セントラル:…一体どうしたんですか?今の話に、何か驚くようなことはなかったと思うんですけど

ドラゴンクロウ:…うん、ちょっと色々あってね

セントラル:色々、ですか

ドラゴンクロウ:うん、色々

セントラル:どうも気になるなー…恐縮ですけど、その色々が何なのか教えてもらっていいですか?

ドラゴンクロウ:…いいよ




玄(ふう。ようやく朝のお仕事終わったよー)

玄(そう言えばこの時期でも、穏乃ちゃんとこの和菓子屋開いてたっけ)

玄(…よし、挨拶ついでにお餅でも買いに行こう!)



ガラガラ

穏乃「あ、玄さん。いらっしゃいませー」

玄「おはよう穏乃ちゃん」

穏乃「あけましておめでとうございます。それと、今年もよろしくお願いします!」

玄「うん、おめでとう。こちらこそ今年もよろしくね」

穏乃「今日は何を買いに来たんですか?」

玄「おもち」

穏乃「…ん?」

玄「焼き大福とか食べてみたくてね。大福はあるかな?」





穏乃(玄さんの言う大福って、その…胸のことなのかな?)


穏乃(私…胸なんかないよ。もちろんお母さんにだって)

穏乃(だったらどうして大福なんて…はっ、もしやウチの大福を使って何かしようと)

穏乃(きっと玄さんは宥さんの…ひょっとしたらいかがわしい店に出向いて、胸の上に大福置いて鏡餅、とか)

穏乃(…普通じゃ考えられないけど、この人ならありえそうだ……)

玄「…?」

穏乃「う、う、う……」

玄「穏乃ちゃん?」

穏乃「…う、ウチの和菓子はいかがわしい事になんか使わせませえぇぇええぇえええぇん!」

グイグイグイッ

玄「えっ…ちょっと!?」

穏乃「きょ、今日一日玄さんは出入り禁止ですっ!」

バシャッ!

玄「……」

玄「……」

玄「…え、これってどういうことなのかな?」


玄(…仕方ない、他のみんなのところに行こう)



憧「……」

玄「おはよう憧ちゃん。あけましておめでとう」

憧「…おめでとう、クロ」

玄「…どうしたの?何だか元気がないみたいだけど」

憧「クロのせい」

玄「…私の、せい?」

憧「うん」

玄「えっと…私、何かよくないことしたかな?」

憧「…とぼけないでよ!」

玄「ひっ」

憧「シズの店で売ってるおもちを使って、一体何をしようとしてたの」

玄「何をって、私は普通に焼いて食べようかなって」

憧「……」

憧「……」///

憧「…やっ、焼いたおもちを乙女の柔肌に押し付けるですって!?」

玄「…えっ」

憧「なんてことを…クロ、私見損なったよ」

スタスタスタスタ...

玄「…な、なんなのー?」


玄(…もう、何にもわかんない)

玄(天国のお母さん。私、一体どうしたらいいんだろう?)





玄「…灼ちゃん」

灼「あけましておめでとう、松実さん」

玄「…ん?」

灼「どうかしました?」

玄「今灼ちゃん、私のことを松実さんって…それに敬語だし」

灼「…しばらくはこのままですから」

玄「えっ」

灼「―――正月早々いかがわしい考えでいる貴女を、私は軽蔑します」





玄「……」

玄「……」

玄(…私が一体何をしたのか教えてくれると、それはとっても嬉しいかなって)


玄「…ただいま」

宥「…おかえり」

玄「……」

宥「……」

玄「…ねえお姉ちゃん」

宥「大丈夫だよ」

玄「へ?」

宥「たとえ玄ちゃんが道を踏み外しても、私は貴女の味方だから」

宥「だって私…お姉ちゃんなんだもの」

玄「……」

玄「……」

玄「…お姉ちゃん!お姉ちゃんが何を言っているのか分からないよ、お姉ちゃん!」











ドラゴンクロウ:…こういう訳なんだけど

セントラル:……

ドラゴンクロウ:ねえセントラル君、答えてよ

セントラル:日頃の行いです

ドラゴンクロウ:…やっぱり?

セントラル:やっぱりってアンタ…合同合宿(あちポ)でもおもちおもち言ってたらそうなっても不思議ではありませんよ

ドラゴンクロウ:…うんっ!そうだねっ!












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【THE END】

あ、最後のセリフはAAの横にしとけばよかったな

それでは、また



>>349
京って中央って意味もあるよね

>>335
部活のみんなで一度言ってみたいですね→部活のみんなで一度行ってみたいですね

>>350の方が仰った通り、セントラル=京太郎です
随分と仰々しい響きですけど、そもそも京太郎って名前自体がある意味重いですし…


漫「うう…」

漫(末原先輩、よりによって油性ペンで顔に落書きするやなんてあんまりやわ)

漫(それに…日焼け止めクリームやったら簡単に取れるそうやからって買いに行かされるとか)

漫(…今度の準決勝、絶対見返したんねん)

ゴッ

漫「!?」

「…」

漫「…気のせいか」


「…」

漫「…」

「……」

漫「……」

漫「…誰やおるんか?」

「……」

...ゴッ

漫「はうっ!」

漫(な、なんやねんこのプレッシャーは?)

「……」

漫(…あかんわ。足がすくんでちっとも動かへん)

漫(先の2回戦で清澄の片岡に感じたプレッシャー…どこからかは知らんけど、それ以上の何かを感じる)


漫(くそう。ええように弄んでくれよって)

「……」

漫(…けど私は負けへんで。怖いけど、もう負けるんはこりごりやからな)

「……」

漫(さあ、来るなら来い!)

...トンツートントン トントン

漫(…なんや?)

ツートンツートンツー ツートントントン ツーツートントントン

漫(これ…いつか代行が言うとったモールス信号ってやつかいな)

ツートンツーツー ツーツートンツートン トントンツートンツー トンツートントン トントン

漫(……)

トンツートンツートン ツートンツートンツー

漫(なんや自分。そない言いたかったんかい)


『ガンバレ カミシゲサン』


漫(…けったいなやつ。応援やったら直接言うてくれてもいいのに)

漫「けどまあ…おおきにな」






「ただいま戻りましたー」

久「あら須賀君。貴方にしては随分遅かったじゃない」

京太郎「ちょっとばかし野暮用がありまして」

久「野暮用?」

京太郎「まあ、ここでは言えないようなことなんで察してください」

久「…気の迷いで他校の選手に妙なことはしてないでしょうね?」

京太郎「めっそうもない!」

久「ふーん…ならいいのだけれど」

京太郎(おっぱいさんの視姦に行ったなんて口にしたらタダじゃすまないだろうなあ…)

京太郎(まして今から戦う相手の応援なんて)



fin

誕生日を祝うネタはなるたけ書かない事にしました
マンネリが凄まじくてめんどくさくなるし、祝わなきゃって義務感みたいなのを持っちゃうのがアレでして
メインの話を書けば多分問題ない

数時間後にまた投下するかもです
では

…かみしげやないうえしげやった
メゲるわ

>>355
ツートンツーツー ツーツートンツートン→ツーツートン トンツートントントン

『ガンバレ カミシゲサン』→『ガンバレ ウエシゲサン』

信じられないかもしれませんが、咲IME入れてるしフルネームも確かめたのに名前間違えてるんですよ
しかもモールスのトンとツーが途中から逆になってるという…これはポンコツの所業ですわ

信じられないかもしれませんが→自分自身でも信じがたい話ですが
もちろん咲ちゃんは一切関係ありません

訂正ついでにモールスの訳を

トンツートントン トントン(ガ) トンツートンツートン(ン) ツートントントン トントン(バ) ツーツーツー(レ)
トントンツー(ウ) ツートンツーツーツー(エ) ツーツートンツートン(シ) ツートンツーツー トントン(ゲ) ツートンツートンツー(サ) トンツートンツートン(ン)

符号だとこう(トンが・、ツーが-)

・-・・ ・・(ガ) ・-・-・(ン) -・・・ ・・(バ) ---(レ) ・・-(ウ) -・---(エ) --・-・(シ) -・-- ・・(ゲ) -・-・-(サ) ・-・-・(ン)

>>355、ガとバしか合ってねぇ!(カとミもトンとツーが逆)
でも書いてて楽しかったです

投下開始
いつぞやの盗撮ネタと同じく見切り発車ですが、大丈夫…今度は迷走しません


竜華「……」

『アンタは人殺しや!』

竜華「…はあ」

「どないしたんですか前部長?」

「どっか具合悪うしとるんです?」

竜華「あ、ごめんな。そんなんとちゃうねん」

竜華「今朝方ようないことがあってな…気が滅入ってしもうとるんやわ」

「今朝方…夢見でも悪かったんですか?」

竜華「そんなとこやな」

「…ひょっとして、園城寺先輩の病弱でもうつりましたか?」

竜華「――かもしれん。違うって言えへんのが悲しいけどな」

竜華「病弱アピールするんははインハイの後も相変わらずやし、能力やってなくなっとらへんし…」

「そうなんですよね。私らもそれが心配で心配で」

「…そう言えば部長、今日は園城寺先輩と一緒じゃないんですね」

竜華「うん。最近は一緒の時間が減ってきててな」

「えっ、それって倦怠期…」

竜華「!」

「アホ!」

「んぐっ」

「アンタは一体何を言おうと…あ、この子が今言うたことは忘れてください」

竜華「……」

竜華「…今日はもう帰るわ」





「…ご、ごめん」

「全く…二人のことを茶化しでもしたら色々ややこしくなるやろ!」




竜華「…」

怜「…」

竜華「…そっちはどない言われた?」

怜「多分竜華と同じや」

竜華「倦怠期って?」

怜「せや」

竜華「…否定しきれへんのがなー」

怜「ごめんな。ウチが病弱なばっかりに」

竜華「ちゃうちゃう。ウチが怜にべったりやったから」

怜「…」

竜華「…」

怜「結局、どっちもどっちやってことやな」

竜華「せやねん…」


怜「…いつまでこのままなんやろ」

竜華「いつまでもやない?」

怜「そんな…冗談言うんはやめえや」

竜華「このままやと、絶対冗談じゃすまへんようになるで…」

怜「う…」

竜華「つい最近まで共依存も同然やったからな。ウチら二人って」

竜華「…面倒見とるつもりで強う依存しとったんはこっちやけど」

怜「けどそれを許したんはウチやで」

竜華「…」

怜「…」

竜華「なんや話が堂々巡りになっとるわ」

怜「…せやな」


竜華「…この間ウチ、ゴールインまで目前やったのに言われたよ」

怜「ウチもや」

竜華「そっちも?」

怜「あと、インハイでウチがあんなことになったからちゃうかとも言われた」

竜華「うん、それは間違ってへんな」

怜「ベタベタするんをやめたんはそのお陰やしな」

竜華「今やから言えるけど、人の生霊が見えるとかどない考えても怖いわ」

怜「…未来を見るより怜ちゃんの方が無茶やったと思うわ」

竜華「よう戻ってこれたね」

怜「うん」

竜華「…『ここに怜を感じる』か」

怜「……」

竜華「あの時のウチ…今アイツがここにおったらはっ倒したいわ」

怜「それほどかいな」

竜華「それほどや」


怜「…なあ竜華」

竜華「ん?」

怜「ウチらって、いつからカップル扱いされとるんやっけ?」

竜華「セーラは中学の頃からやって言うとったけど」

怜「そない前か」

竜華「当時はそんなん思うてなかったんやけどな」

怜「うん」

竜華「…なんでセーラだけ外されとんねん」

怜「フナQいわく、プレイボーイみたいな扱いやから」

竜華「――それはそれで嫌やな」

怜「やろ?」

竜華「せやけどそれでウチらの状況が変わった訳やない」

怜「…ひざまくらが恋しいのは今も変わらんけど」

竜華「そしてウチがひざまくらになっとるんも」

怜「外では一切やらんようになったけど」

竜華「時既に遅しやな。怜だけに」


怜「…そういや竜華、ルックスがいいと評判やったな」

竜華「せやで!千里山一ウェディングドレスが似合う女とはウチのことや!」

怜「ここで残念なお知らせ」

竜華「やめえや」

怜「そのドレスをアンタに着せるんはウチやって」

竜華「だからやめえや…」

怜「『え、ウチってお婿さん?』ってその場で言おうとしたんはええ思い出」

竜華「ええことあらへん、ええことあらへんよ」

怜「…ウチってドレス似合わんかな」

竜華「ぶっちゃけ白無垢の方が似合いそうやと思う」

怜「――さよか」


怜「…って、そうとちゃうわ!」

竜華「わっ」

怜「なんでウチがお嫁さんになられへんねん!おかしいやろ!」

竜華「そっちかい!」

怜「…あっ」

竜華「それやとウチがお婿さんになるんがええんかって話になるよ?」

怜「ごめん…」

竜華「…ええんやで」



竜華「仮にこの先一生を共にするとしても、共依存からそないなるんはまずいやんな」

怜「せやせや」

竜華「…唐突やけど、ムー○○ってあるやろ」

怜「あーあれな。ウチはスナ○キ○とか好きやわ」

竜華「原作者の方には、生涯を共にした女性のパートナーがいたとかなんとか。確か45年くらい」

怜「45年!? そりゃまた結構な付き合いやな」

竜華「二人の関係がどんなものかはさておいて、偏見はなるべくなら持ちとうないわ…あの人の作品好きやしな」

怜「なんとなくやけどわかるわ」

竜華「ウチはただ、視野を狭くしてしまうんが嫌やねん。怜しかおらん、怜しかいらんみたいに思われるんはかなんねん…」

怜「…それは難しいんとちゃう?」

竜華「せやからこうして相談しとるんやろ!」


怜「この数ヶ月、距離を置いてみたけど周りからの評判はなんも変わらんかったな」

竜華「…せやな」

怜「幸いなことに、ウチら二人が周りから気持ち悪がられとるとかやないんやけどな」

竜華「ウチらの関係が周りに遠慮させとるんも事実やけど」

怜「……」

竜華「……」

怜「ウチらって、学外からはどんな目で見られとるんやろうな…」

竜華「怜、それ以上はやめとき」

怜「せやけど」

竜華「下手をすれば、ダブルやトリプルじゃすまへんで!」

怜「…かもなあ」


竜華「……」

竜華「…ん」

怜(突然一人でごちてどないしたんや、竜華)

竜華「怜」

怜「ん?」


竜華「――すっごいやな言い方になるけど、正直今は…早く怜から離れたい」


怜「……」

竜華「…怜?」

怜「…一つ訊いてもええかな?」

竜華「ええよ」

怜「竜華…昨日とんでもない夢見たんとちゃうか?」

竜華「な、なんで知っとるんや!? …まさか」

怜「そのまさかや。多分ウチも同じもんを見とる」


竜華「…どんな夢やった?」

怜「まず、ウチは無茶をし過ぎて死んだ」

竜華「……」

怜「それで竜華は、ウチが死んだ理由を…ウチと同卓やった三人に…」

竜華「……」

怜「……」

竜華「…やめややめ。ごめんな怜、ウチが悪かった」

怜「…うう」

竜華(マジ泣きや…けど無理もないであんなん。アレはアカン、ホンマアカンで)



竜華(その後もウチらは夢の内容について話してた)

竜華(なんや棒が生えたり修羅場やったりお邪魔虫してたり貢がされたり…新年早々縁起が悪い)

竜華(…どないしよ)


竜華「…難儀やなあ」

怜「ホンマにな」

竜華「どないする?」

怜「どないせえと」

竜華「いっそのこと『私たち二人は、決してそんな関係じゃありませんから!』って校内放送でもして」

怜「無理」

竜華「無理か」

怜「公人のスキャンダルやないんやから」

竜華「千里山のレギュラー格が無名だとでも?」

怜「あー…」

竜華「兎に角まあ、この風潮はどないかしたいわ」

怜「やね」


 【次回予告!】





「お前って、いわゆるキープ君って奴じゃないの?」

「それならいいんだけどなー」

「違うの?」

「男だって思われてるかどうかも怪しい。いやマジで」

「…うっそだー」

「何かあったら絶対噂にされてるって。そう、悪い噂に」



「――ここがウチの療養地か…」

「せやで!」



次回「雑用、マジもんのキープ君になる」

一旦ここまで
今日は全国編があるんで、ひょっとしたら後で投下するかもしれません

京ハギたのしみ

…あんなんじゃ足りない>京ハギ



今回の竜華と怜、特に竜華は自分の方が強く依存していた事もあってか恋愛してると思われてるのが嫌だったりします
ただ、きわどいというかそう解釈されても仕方ないと二人自身が思ってますし、実際そうなる可能性はありうるという認識です

ちなみに竜華はインハイ後にも一度だけ怜ちゃんを呼んだのですが、それで怜の意識がトんだためすぐに戻しました

眠いのでお休みします
京ハギ足りないとか無茶言いましたけど、アニメはやっぱり楽しかったっす

多分9時くらいから投下



【前回までのあらすじ】


怜と竜華は付き合っていない。しかし周りはそうだと認識していなかった。
恋愛脳乙と思いつつも、自分達の行動を振り返る限りそうは言えない二人。
そして二人は同じ悪夢を見ることになり…今の関係を清算しなくてはとますます焦っていた。

依存し合う関係など愛ではないと思うが故に。
自分達の関係を、他人が勝手に想像したものと同じにしたくないが故に。

悩んだ末、怜と竜華はある決心をする……。




『旅に出ます。捜さないで下さい』


セーラ「…なんやこれ」

浩子「ウチは知りまへん」

泉「私もです」

浩子「というか、江口先輩はお二人から何か聞いとらんのですか?」

セーラ「いんや、なーんにも」

浩子「嘘でしょ?」

セーラ「嘘やあらへん。とぼける理由もないしなー」

泉「…先輩、あのお二人とは一番近しい間柄のはずですよね」

浩子「ハブられたんとちゃうの?」

泉「あー」

セーラ「ハブられたって…そない大層な話でも」

浩子「でも先輩だけは知らへんのでしょ?」

セーラ「…うん」


セーラ「……」

浩子「……」

泉「…あ、あのー」

セーラ「ん?」

泉「やっぱりあのお二人って駆け落ちしたんじゃ」

セーラ「それはありえへん」

浩子「絶対ありえへん」

泉「えっ」

セーラ「えっ」

浩子「…えっ。泉アンタ、二人から何も聞いてへんのか?」

泉「何が?」

浩子「園城寺先輩と清水谷部長が、周りに恋人扱いされとるんにドン引きしとるって話」


泉「……」

泉「…えっ、ええええええええっ!?」

セーラ(泉…不憫すぎやで)

浩子(泉は二人に遠慮しとったからなー。二人も余計に話し辛かったんとちゃうやろか)

セーラ(二人がイチャついとったせいやが)

浩子(二人がイチャついとったせいやが)

セーラ(……)

浩子(……)

セーラ(おいフナQ。俺と心の声をダブらすなや)

浩子(先輩こそ!)



泉「……」

泉(目と目で語りおうとる。やっぱりこの二人は付きおうとるんとちゃうか)


怜と竜華が付き合っている…その風潮を広めたのは何を隠そうこの二条泉であった。

――そして彼女は、セーラと浩子が付き合っているという風潮を広め始める……。


怜「…今頃向こうじゃ、駆け落ちやなんやって大騒ぎやろうな」

竜華「せやねー」

怜「そして泉が、セーラとフナQが付きおうとるって噂を新たに広めとるやろなぁ」

怜「そう考えると、二人には随分悪いことしてもうたわ」

竜華「しゃーないでそれは」

怜「せやろか」

竜華「せやで。ウチら二人は自分達の世間体で精一杯や」

怜「今更気にするもんでもないって言われそうやが」

竜華「いやいや。ホンマにそんな関係ならともかく、そうやないならただのゴシップ記事同然やで」

怜「…有名人の苦労が多少は分かった気がするで」

竜華「ウチ、小鍛治プロとか瑞原プロを内心笑うとった自分が恥ずかしいわ」


怜「今回の件、一応学校側や家族には話を通しはしたけどどうなることやら」

竜華「あの風潮が広まってないと信じるしか…」

怜「ウチ、おかんとおとんに生暖かい目で見られたんやけど」

竜華「……」

怜「目ぇ逸らしてもあかんで。これがウチらの現実や」

竜華「親にも信じてもらえへんのか…」

怜「周りみんなが一度はウチらの膝枕を見とるからなー」

竜華「同性間や親子では、膝枕って親愛表現のはずなんやけど」

怜「そこはまあ雰囲気、かな」

竜華「雰囲気かあ…正直よーわからんわ」

怜「鏡や映像でなら見れるし、今度確かめてみよか」

竜華「――もう、昔のようには出来へんやろうな」

怜「そう思うと寂しいわあ…」


(…あの二人、こんな所で何やってんだろ)

(膝枕だ)

(ああ、まごうことなき膝枕だ)

(気持ちよさそう)

(羨ましい)

(どっちが?)

(どっちも)

(そりゃそうか)

(女の子のイチャイチャ美味しいです)

(写真撮らなきゃ)



怜「…竜華」

竜華「…ローカル線やし人はおらんと思うてたんやけどなあ」

中断なんです
寝落ちしてなきゃ1時間以内に再開するんです




怜「ふう…やっと着いたか」

竜華「アンタはずっとくつろいどったやないかい」

怜「それだけ竜華のが気持ちよかったんやろ」

竜華「――き、きわどい言い方禁止!」

怜「はっはっは…ん?」


「ねーねーお母さん。あの人たちって…」

「よく見ておきなさい。あれもまた一つの愛の形よ」


怜「……」

竜華「……」

怜(こ、これはこれで辛い!)

竜華(あの母親のドヤ顔…めっちゃ腹立つ!)


怜「何はともあれやって来たんやな、長野へ」

竜華「空気が美味しいわあ。大阪とはえらい違いやで」

怜「流石にその比較はどうかと思うけど、実際息苦しゅうないし」

竜華「ここやったらアンタの病弱治るんとちゃうか?」

怜「かもなー」





怜「――ここがウチの療養地か…」

竜華「せやで!」

怜「…今度は二人きりになってまうんやな」

竜華「なら、二人きりでのうなったらええねん」

怜「アンタに出来るんか?」

竜華「出来る。ウチは近所じゃいいお嫁さんになれると評判で」

怜「それ、相手は怜ちゃんとって言われてへんかったか?」

竜華「……」

怜「……」



((泉…絶っっ対に許さへんで……!!!))



 少女達が長野についた頃、清澄では…


梅原(仮)「よー京太郎。今日も麻雀TODAY読んでるのか」

京太郎「一応麻雀部員だからな」

梅原(仮)「いやいや、お前の場合それが理由じゃねえだろ。はやりんのグラビアがあったからだろ?」

京太郎「もち!」

梅原(仮)「でもアレキツくないか?」

京太郎「キツくねーし!はやりんはまだまだイケるって!」

梅原(仮)「お前もブレねえなあ…」

京太郎「あ、でも最近は相方の戒能プロもいいかなって」

梅原(仮)「あーあの変な喋り方の」

京太郎「個性があると言いなさい」


梅原(仮)「大体さ、原村はどうしたんだよ」

京太郎「諦めた!」

梅原(仮)「諦めたって…あの部活に入ったのはアイツ目当てじゃ…」

京太郎「それもあったが、今となっては虚しいだけさ」

梅原(仮)「…あっ」

京太郎「何だよ」

梅原(仮)「なぁ京太郎。お前、原村が咲ちゃんにとられて…いや、咲ちゃんを原村にとられて悔しいんだろ?」

京太郎「!」

梅原(仮)「お、その反応を見るに図星か」

京太郎「そっ、そんなんじゃねーし!別に悔しさなんか感じてないし!」

梅原(仮)「……」

京太郎「な、なんだよ。急に黙って」

梅原(仮)「…まさかそこまで必死になるとは。冗談だったのに」

京太郎「いや、冗談にならないんだが」

梅原(仮)「えっ…あの噂ってマジなん?」

京太郎「マジマジ。優希からも裏付けは取ってるしな」


梅原(仮)「……」

京太郎「……」

梅原(仮)「…お前って、いわゆるキープ君って奴じゃないの?」

京太郎「それならそれでよかったんだけどなー」

梅原(仮)「違うのか?」

京太郎「男だって思われてるかどうかも怪しいな。うん」

梅原(仮)「…うっそだー」

京太郎「何かあったら絶対噂にされてるって。そう、悪い噂に」

梅原(仮)「悪い噂、ねぇ」

京太郎「ま、ウチじゃそんなしょーもないことはなかったから安心してるよ」

京太郎「俺がみんなを手篭めにしたとか、逆にみんなが俺をオモチャにしてるとかって噂は聞かないしな」

梅原(仮)「…京太郎」

京太郎「うん?」

梅原(仮)「ああいや、やっぱ何でもない」


…どうしよう。これじゃあの噂を否定できないじゃねーか。

おいおいやめろよ…俺はアイツと咲ちゃんのことをお似合いだって思ってたのに。

認めたくない。ああ、絶対に認めたくない。

ずっとあの二人の仲を冷やかしてきた俺だけは、アレに屈する訳にはいかないんだ。











畜生!京太郎が最近龍門渕の執事とイチャついてるって噂、どうにか出来ねえのかよ……!


京太郎「……」

 オ、アレガウワサノ

 ヤッパリカレッテソウナノカナ?

 ソウデショ

 マチガイナイ

京太郎(奴にはああ言ったが、実際は少し前から妙な噂をされてんだよな)

京太郎(何だよホモって…そりゃまああの中にあって浮いた話の一つもないのは事実だけどさ)

京太郎(…心なしか女の子からの目線が熱い)

 キャッ、カレガコッチヲミテル

 アナタノヒトミニカレノオモカゲヲミタノヨ

 ナルホド

 アア...ワタシガオトコダッタラヨカッタノニ

京太郎(ヤバイ、心が折れそう)


京太郎(うう、どうしてこんなことになっちまったんだ。梅原のやつはそうじゃないって思ってくれてるようだけど)

京太郎(…いや、まだだ。麻雀部のみんななら、きっと俺の無実を信じてくれるはずだ)

京太郎(そう、きっと)










京太郎「…え、俺がホモですって?」

久「ええ」

京太郎「冗談じゃありませんよ!俺はまだ、どっ…どどど童貞なんです!」

久「でも処女とは限らないんでしょ?」

京太郎「ハギヨシさんとはそんなんじゃありません!」

久「そうは言ってもねえ…」


 (京ハギってどうじゃろ?)

 (アリですね。ですが時代はハギ京です)

 (いやいや和ちゃん。あの二人に攻めと受けとかどうでもいいよ)

 (そうだじぇ!)


久「ねえ須賀君。いっそのこと本当に付き合ったら」

京太郎「…キライだ」

久「?」

京太郎「みんななんか大っキライだっ!うっ、うわぁああぁぁあぁあぁぁああぁぁああっ!」

寝落ちすみません
思ってたより長くなりそうです…ここからどうにかイチャイチャに持っていきたい
後、いつぞやの竜華メインの話とこの話は別ですので

では


走った。

とにかく走った。清澄から、出来るだけ遠ざかりたくて。

…清澄とはせいちょうとも読むが、それは文字通り澄みきっていて清らかなことだとハギヨシさんから聞いた。

それならどうして俺は走っているのだろう。

あそこは清らかなんかじゃない。絶対澄みきってなんかない。

だから俺は走っているのだ。

あてはなく、ただあそこから遠ざかればそれでいいと思いながら。



『どうかなさいましたか?』

出会いは、優希のタコスを買いに奔走した行きずりでのことだった。

見るからに頼れそうな雰囲気。

男の俺でも見惚れるほどの端正な顔立ちと、雰囲気からなる期待を裏切らないその能力。

それに俺は心酔してしまった。

だからあの夏、みんなの夢を叶える場所で再会出来たことは僥倖だと思っていた。

いや…こんな状況になってなお、俺は彼に出会えて本当によかったと思っている。後悔はない。


初めてのタコス作り。

『ふむ、これは不味いですね』

バッサリ切られ、

『正直な話をしますと…須賀君には才能がありませんね』

辛辣な評価を受け、

『貴方はそれでも清澄の従者ですか!』

間違った認識のまま叱責された。

それでもどうして頑張れたのかと言えば、やはり不味いと言われたことが悔しかったからだろう。

自分には何も出来ないみたいで。

そう…チームの強化と言う名目で、優希の為にタコスを作ったあの時のように。



俺は麻雀が弱い。

今でもそれは変わらないし、この先もきっと変わらないかもしれない。

だが俺は、自分が無力な存在だとは思わない。

それはハギヨシさんのお陰であり、きっかけを作った優希のお陰であり、麻雀部が俺を入れてくれたお陰である。

愚痴をこぼして牌を打つより、笑って扱き使われた方がいい。

そんな気持ちでやってきた。

…その結果が、これか。これなのか。


京太郎「…ちくしょう」

ちくしょう。

京太郎「お、俺は…」

俺は。

俺は違う。

違うんだ、俺は違うんだ。

やめてくれ…俺はそうじゃないんだよ。

俺も迷惑するし、あの人だって迷惑する。

ホモじゃない。

俺はホモじゃない。

断じてホモなんかじゃない。

絶対絶対ホモなんかじゃない。

りつべ神に誓って、俺はホモじゃありません。

ホモじゃないんだ…


京太郎「俺はっ、俺はホモじゃないいぃぃぃ!!!」


ウワアァァァァァァ

ママー、ナニアレ?

ゲンジツヲチョクシデキナイニンゲンハアアナルノヨ


京太郎「だから違うんじゃああぁぁぁぁぁ!!!」


京太郎「…ハァ、ハァ」

京太郎「やっと…やっと着いたぞ…ん?」

『龍門渕高校』

京太郎「……」

京太郎「…ん?」

『龍門渕高校』

京太郎「あ、あれ?」

京太郎「おかしい…俺は夢でも見ているのかな」

『龍門渕高校』

京太郎「」

京太郎「…おいおい。それは流石にありえないだろ」

京太郎「逃げた理由が理由なのに、わざわざその疑惑を自分で強めなくても…」

『龍門渕高校』

京太郎「」


『龍門渕高校』ドン!

京太郎「…へへ」

京太郎「俺、疲れてるのかな。龍門渕高校の校門が目の前に」

「コウモンがなんですって?」

京太郎「えっ」

透華「いらっしゃいまし。今なんと仰いましたか?」

京太郎「と、透華さん。いやあの、自分は別に…」

透華「コウモン、とおっしゃいましたわよね?」

京太郎「い、いえ」

『校門が目の前に』

透華「おっしゃいましたわよね?」

京太郎「…はい」


透華「それならよいのです。さあ一、須賀をハギヨシのところへ」

一「勿論だよ透華!」

歩「透華様、私にも手伝わせてください」

一「歩!?」

透華「ええ、よくってよ。貴女も二人のまぐわいを見たいでしょうから」

歩「あ、ありがとうございますっ」

一「よかったね歩。それに、君だけ仲間外れじゃしまらないからね」

京太郎「あ、あの…」

透華「はい?」

京太郎「俺、さっぱり話についていけないんですけど」

透華「話って…そんなの決まっているじゃありませんか、須賀」

京太郎「?」



透華「―――須賀、ハギヨシに種付けしなさ」

京太郎「くたばれ腐女子!」

透華「おうふ」ドサッ

京太郎「お前らもだ!」

一「タラバガニッ」バキッ

歩「ザクレロっ」ベキッ

京太郎「ち、畜生…なんでみんな腐ってるんだよぉ!」


透華「…ま、待ちなさい…せめてハギヨシの肛門に先っちょだけでも」

京太郎「待ちません!」

タッタッタッ...

透華「ぐぅ…智紀、純、それに衣ッ」

智紀「無理強いはよくない。それじゃ愛にならない」

純「つーかオレでBL妄想すんのやめてくれ」

衣「和から聞いたぞ!iPS細胞で同性でも子供が作れるって!」

透華「――奴を、須賀京太郎を追いなさい。欲しいものは何でも買ってあげますから!」

智紀「それなら仕方ない」

純「何でも買ってくれるんだよな?」

衣「衣、バヌケの新刊同人を全部買い占めて欲しいぞ!」

ドガバキグシャッ

智紀「まりメラッ!」

純「銀月っ!」

衣「火黒っ!」

ドサドサドサッ

透華「は、ハギヨシ」

ハギヨシ「……」

透華「…セバスとグレルっ!」ゴスッ



ハギヨシ「……」

ハギヨシ(いつか何事もなく会えるといいですね、須賀君)


京太郎「ど、どうなってんだよコレは…」

『…京太郎』

京太郎「だ、誰だっ!?」

『神に向かって随分なご挨拶ね、貴方』

京太郎「あ、貴女はっ!」

立『そう、私は小林立。貴方達がりつべと呼んでいる者…貴方の母と言ってもいい者』

京太郎「……」

京太郎「ならお母さん助けてください。なんでか最近、俺とハギヨシさんが性的なデュエットを望まれてるんです!」

京太郎「神様なら何とかしてくれますよね?ね?」

立『うん、それ無理』

京太郎「なんでさっ!」

立『作中で百合を匂わしてる私が、みだりに薔薇を否定する訳にはいかないから』

京太郎「そ…そんな」

立『…幸いコレは一過性のものよ。そう長く続くものではない』

京太郎「一過性ってどのくらい?」

立『1年』

京太郎「長すぎっ!」


立『……』

京太郎「何とか言ってくださいよ」

立『…私からはこれ以上何も言えない。けど』

京太郎「けど」

立『いつかは恋も麻雀も勝ち組に…その気持ちを捨てなければ、望みはある』

京太郎「望みって…」

立『京太郎、信じるのよ…自分の類まれなる妄想力を』

スウッ

京太郎「……」

京太郎「……」

京太郎「妄想て…和があんなになったのに、今更そんなことは出来ませんよ…」




京太郎(…疲れた)

京太郎(結局周りが暴走したのはあの日だけらしかったが、諸々の理由はさっぱり分からなかった)

京太郎(――そういや昨日は満月だったか。ひょっとしてこれもオカルトってやつなんだろうか)

京太郎「…はぁ」


「あ…あの、すみません!」


京太郎「ん?」

「友達が体調を崩してしまって…この辺の病院ってどこにあります?」

京太郎「あ…それならこの先の交差点を右に曲がって、そこから真っ直ぐ行った先ですね」

京太郎「ですが徒歩でで行くには時間がかかりますし、バスで行った方がいいですね」

「そうなんですか。どうもありがとうございます」

京太郎「…お連れの方は大丈夫ですか?」

「お気遣いおおきに。ですが歩く分には問題ありませんから」

京太郎「そうですか。ではお二人ともお気をつけて」

「はい!」

「それでは失礼します」

スタスタスタスタ...

京太郎「…今の二人、どこかで見たような気が」





怜「…竜華」

竜華「うん。あの子と話しとった時、周りからの妙な視線を感じなくなったわ」

怜「ひょっとしたらあの子が神様からの…」

竜華「かもしれんなー」



「「あの子こそが、ウチらの風潮をなくす鍵や!」」



 【次回予告!】


「京ちゃん、最近部活に来ないね」

「ええ…」

「数日前から記憶がないのに、何か関係があるのかしら?」

「そうかもしれんのう」

「うーっ…犬がいないと色々不便で仕方ないじょ」



「いやー二人が優しすぎて部活に行くのが辛いっす」

「優しいやなんてそんな…」

「麻雀やったら、私ら二人が教えたるからな!」



次回「清澄の雑用、サボる」

えーこの辺のくだりはあんまり気にしなくていいです
問題は次っす…なるたけ修羅場なしでイチャイチャさせたいですねー

では



 【前回までのあらすじ!】


怜と竜華は、病気療養の体で大阪から逐電。
その後かの地では、セーラと浩子が付き合っている風潮が蔓延した。

…風潮は最早パンデミックの様相であり、少なくない人の精神を汚染した。
腐女子の花園と化した清澄から逃れた京太郎は、無意識のうちにハギヨシへと救いを求める。
だが、待ち受けていたのは新たに婦女子となった龍門渕麻雀部の姿。
ハギヨシの助力もあり、どうにか難を逃れた京太郎はりつべ神から事の仔細をほんの少しは聞けた。
『信じるのよ…自分の類まれなる妄想力を』
大して生かされるかどうかも分からない助言と共に、神は姿を消した。

そして京太郎は、自分と同じ宿業を持った二人の乙女に巡り合う。
この出会いが三人に何をもたらすのか……。


咲「あ、京ちゃんおはよう」

京太郎「……」

京太郎「…ああ、おはよう」

咲「今日もいい天気だね」

京太郎「確かに。今は冬だけどよく晴れてるから暖かいくらいだ」

京太郎(気持ちは少しも晴れやかじゃないんだけどなー)

咲「そうだね!ぽっかぽかだね!」

京太郎「お、おう」

咲「だからさっ」

ダキッ

京太郎「お、おい咲」

京太郎(くっ…背中に感じるこのほのかな感触は!)

咲「こんな風にしたらもっとあったかくなれるよね…京ちゃん」

京太郎「や、やめろよ…誰かに見られちゃ恥ずかしいだろ?」

咲「私はいいよ?誰に見られたってかまわないもん」

京太郎「えっ…じょ、冗談よせって」

バッ

咲「あっ…」

京太郎「と、とにかくこういうのはやめてくれよな」

タッタッタッ...

咲「……」

咲(元気がないから、たまには私の方からからかっていつもの調子にしてあげようと思ったんだけど)

咲(…やっぱり慣れないことはするもんじゃない、かな……)


 咲ってあんなキャラだったっけな。

 いつ頃からか腐っていたので、アイツの素がどうも分からなくなっている。

 …他のみんなはどうだったっけ?

優希「おーい!」ドンッ

京太郎「わっ」

優希「京太郎、朝からそんなしけた面で大丈夫か?」

京太郎「…余計なお世話だ。生憎今日は気が滅入ってんだよ」

優希「そんな時はタコスを食べるといいじょ。ほら!」サッ

京太郎「優希…これってお前の」

優希「そう、私の手作りだ!これでも食って元気を出せ!」

京太郎「…じゃあ、とりあえず一口」パクッ

優希「ど、どうだ?」

京太郎「うん、うまい。やっぱお前のタコスは相当なもんだな」

優希「……」

京太郎「ん?俺の顔に何かついて…」

優希「…何にもついてないじょ。心配するな」

京太郎「そっか。タコス、ホントうまかったぜ…ごちそうさん」

スタスタスタ...

優希(…京太郎め、いつもよりもテンション低いじょ)


 こうして俺は、その日何事もなく過ごせた。

 昨日までの腐女子地獄が嘘だったかのように。それに…心なしか女の子や部員のみんなが俺に優しい。

 俺に後ろめたさでも感じているのか?

 その割には遠慮気味な態度はとらなかったし、俺が部活で雑用するのもいつも通りだ。

 ただ…以前に比べて仕事量は明らかに減った。

 インハイ後からそうではあったが、みんなが俺を手伝うなんてあまりなかった。

 俺の方から断っていたせいでもあるが。俺の指導に時間を割けば、みんな十分に練習出来ないだろうから。

 それにハギヨシさんにも会いたく…今はよそう。思い出しちゃダメな気がする。

咲「京ちゃん。こっちの仕事は私がやったよ?」

京太郎「あ、うん」

和「須賀君。今日の牌譜はここに置いときますね」

京太郎「ありがとな、和」

優希「京太郎、何か仕事は残っているか?」

京太郎「今やってるそれで最後だ」

 咲や和はおろか、優希の奴まで雑用を請け負う始末だ。

 雑用に意義を感じる俺にその優しさは無用なようにも思えるが、断ることも出来ない。

まこ「お、京太郎。おつかれさん」

久「今日もありがとねー」

 …前みたいにこき使われていた方が、気を楽にしていられると思うのは気のせいだろうか。

 先輩二人からのお礼が、手伝いよりもよほどありがたく思える。


 昨日のことで尋ねてみたが、どうもみんなはハッキリ覚えていないらしかった。

 軽い記憶障害なのかもしれない。

 そのまま忘れてくれてた方が、きっとお互いの為になるに違いないが。

咲「私…何となくだけど、京ちゃんに優しくしなきゃって思ったの」

和「あ、それ私もです」

優希「私もだじぇ」

咲「和ちゃんはともかく優希ちゃんまで…」

優希「咲ちゃん、その言い方はどうも引っかかるじょ」

久「…日頃の行いってことかしらね」

まこ「アンタが言うな。アンタが」

 神様のせいかどうかは知らないが、この世界は俺に少し優しくなったらしい。

 それを俺がよしと思えるかどうかはさておいて。

中断


優希「京太郎、タコス買ってこいタコス!」

京太郎「へいへい」

 次の日になると、みんな元に戻っていた。

 いつも通りの雑用生活だ。

 世界が変わったかのような感覚は、やはり気のせいだったのだろう。

 俺はそれで構わない。雑用をしていないと、どうにも心が落ち着かないからだ。

 しかし…これでよかったのだと反面、雑用をしていなければ自分はどうなっていたのかとも思うのだ。

京太郎「ほら、買って来たぞ」

優希「うむ…ほめてつかわす!」

 普通に学校へ行って、ダチとつるみ、気楽な毎日を過ごす未来もあったろう。

 ひょっとしたら彼女が出来て、イチャイチャしながら毎日を過ごす未来もあったかもしれない。

 しかしそうはならない。

 俺は麻雀部のみんなと、楽しく麻雀するって決めたから。

 ……。

 …麻雀、か。

 牌を最後に握ったのはいつだったか…今日も自然と面子には含まれていない。

京太郎「…優希」

優希「何だじょ?」

京太郎「俺、まだここにいてもいいんだよな?」

優希「??」

京太郎「ああすまん、妙なこと聞いちまってさ」






 ――俺はなんでこんなところにいるんだろう……?


 次の日、俺は部活をサボった。

 これといった理由は無い。逆に言えば、俺にはもうあそこへ行くだけの理由も無いということだろう。

 インハイが終わるまではそうじゃなかった。

 みんなに勝って欲しいから…その気持ちが、俺を充実させていた。

 牌を握れなくたってよかったんだ。

 清澄が勝って、勝って、そして天辺まで上り詰めるのを見ているだけで満足出来たから。

京太郎『やったな、咲!』

咲『うん!』

 そんなやりとりが出来るだけで、俺は幸せだったんだ。


 けど祭りが終わって、その熱に浮かされてただけの俺は部活で浮いた。

 みんなは春の、そして夏の大会に向けて必死に打っている。

 けど俺だけそうじゃなくて。

 団体戦じゃ凄い結果を出せたんだから、それ以上をがむしゃらに望まなくてもいいんじゃないかと。

 …今思えばその頃からおかしかった。

 腐った妄想とかはこの際どうでもよくて、俺とみんなはその頃からすれ違い始めていた。

 打てる者と打てない者。

 いや、勝てる者と勝てない者と言うべきか。

 県大会個人戦の時から、こうなることは必然だったに違いない。

咲「麻雀って楽しいよね―――」

 幼馴染の言葉は、今となってはただ虚しさを感じるだけのもので…事実俺には何も残っていなかった。


京太郎「……」

京太郎「……」

京太郎「…はあ」

京太郎(青春ってなんだろう。俺は一体何をしているんだろう)

京太郎(部活から…みんなから逃げて、家に帰る訳でもないのにあてもなくさまよっていて)

京太郎(うう、冬の冷たい風が身に染みる。寒さでどうにかなっちまいそうだ)


「誰も必要ない。自分は『むこうぶち』ですから」

「そ、そんなこと言わずに待ってください!どうか私と一緒になって…」


京太郎(こんな中でも惚れた腫れたの話があるのか…女の人、どっかで見た覚えがあるような)

京太郎(…どうでもいいか)


「あの、ちょっとよろしいでしょうか?」


京太郎「ん…ああ、貴女は昨日の」

「先日はどうもありがとうございました。おかげさまで何事もなく済みました」

京太郎「それはよかったです」

「たまたまそちらの姿を見かけたので、折角ですしお礼の一言でもと思って」

京太郎「そうでしたか。お役に立てたようでなにより」

京太郎(…リプ編みセーターの破壊力がヤバい。この人、かなりのおっぱいさんだ)

「…私の顔に、なにかついてますか?」

京太郎「い、いえ」

「ふふ…ではまた、縁があればお会いしましょう」

京太郎「――こちらこそ」

一旦ここまで


 次の日も部活をサボって、昨日あの人と会った場所にやって来た。

 『縁があればお会いしましょう』

 その言葉通りになればという淡い思いが俺にはあった。

 けれど彼女はどこにもいない。

 …胸もかなりのものだったが、そもそも容姿からしてレベルが高かった。

 そんな女性が目立たないはずはないので、やはり今日はここに来ていないのだろう。

 少しがっかりした。

 がっくりと肩を落としていると、後ろから誰かに肩を叩かれた。

 振り返ると、そこには彼女と一緒だった女の人が立っていた。儚げな雰囲気を漂わせている。


「先日はホンマおおきに」

京太郎「いえいえ。俺はただ、訊かれたことに答えただけですので」

「私たち、ここに来てからまだ日が浅くて…余所者の自分達が道を尋ねることに気後れしてたんですよ」

京太郎「そういうのってありますよね。そもそもが見知らぬ人相手ですし…どうして俺を?」

京太郎「自分で言うのもなんですけど、俺ってガタイでかいしそちらからはおっかなく見えませんでした?」

「そういう感じはしませんでしたね。スキだらけには見えましたけど」

京太郎「スキだらけですか」

「あ、すみません。別に悪い意味で言った訳じゃ…人畜無害というか、愛想がよさそうというか」

京太郎(人畜無害、か。それじゃ俺が、他に何の影響ももたらさないような、平凡で取り得のない人ってことなんだが)

京太郎(…あながち間違っちゃいないか)

京太郎「俺を見て安心出来たってことでしたら光栄です。それと、身体の調子はどうですか?」

「おかげさまで健康です。ここは空気が澄んでますから、来た頃よりも元気になれた気がします」

京太郎「うちの市は環境に気を遣ってますからねー。俺自身はそうでもないのに、聞いてて嬉しくなっちゃいますよ」


 実際、地元を褒めてもらえるのは嬉しいもんだ。

 ここの環境があるからカピも元気でいられる…ここの住み心地は、俺個人にとっては誇りだ。


「貴方も地元が好きなんですね」

京太郎「そういう貴女も?」

「ええ。私も地元が好きでたまりません」

京太郎「訛りとかを聞くに、関西の住まいですか?」

「そうです。コテコテ感のあるミナミもいいですけど、私は江坂みたいに落ち着いた場所を推したいですね」

京太郎「江坂と言うと…新大阪から少し離れた辺りですか」

「ええ…かくいう私もその辺りが住まいでして。都心に近いだけあって、遊ぶ場所にも困りませんね」

京太郎「羨ましいっす。ここには娯楽がそちらほど多くないですから」

「でも私にはありがたいです。なにぶん病弱の身なので」

京太郎「…今見る限りはそう見えませんが、この前は調子悪そうでしたしね」

「ここに来たのは療養目的なんですよ。時間に余裕が出来たので、春先まではここで過ごそうかと」

京太郎「身体、よくなるといいですね」

「ええ」




京太郎「…お連れの方にもよろしくお伝え下さい。では」

「縁があれば、また会って話しましょうね」

京太郎「勿論です」


 また会えるといいなと思った。

 ポニーテールのおっぱいさんにも、セミロングの儚げな感じの人にも。


 …あれ?

 あの二人、夏頃に一度会ったことがあるような気がするんだが、気のせいだろうか。


 ■

京太郎「どうも」

「また会えましたね。どうやら縁はあったようで」

京太郎「こういうこともあるんですね」

「奇遇と言うか、運命めいたものを感じます」

京太郎「運命、ですか」

「そういうのは嫌いですか?」

京太郎「いえ…嫌いじゃありません。むしろ好ましく思います」

京太郎「そのお陰でこうして会えたというなら、尚更です」

「そうですか。ところでこの後予定は」

京太郎「すみません…生憎今日は先約がありまして」

「(そんなん断らんかい!)」

京太郎「ん?」

「ああいえ、何でもないです」


 ■

京太郎「それ、あそこの店で売ってるジュースですよね」

「さっきすれ違った人が美味しそうにしとったもんですから、つい」

京太郎「ちなみに何を頼んだんです?」

「ザクロとラズベリーのミックス。ホットでもジュースって売ってるんですね」

京太郎「あれって冬には特にありがたいですよね」

「ええ。体が程よくあったまって気持ちよくなれます」

京太郎「……」

「どうかしました?」

京太郎「いや、すごく美味しそうに飲んでるなって思って」

「…よかったら一口どうです?」

京太郎「…えっ」

「冗談ですよ、冗談。もし私が風邪でもひいていたら不味いですし」

京太郎「……」

京太郎(何でだろう。年は俺と同じくらいなのに、めっちゃ色っぽいオーラが……)

中断

再開


 ■

「……」

京太郎「…何見てんすか?」

「…あれ」

京太郎「ああ、エトペン像ですか」

「あれって絵本の主人公でしたっけ?」

京太郎「そうです。和の奴が好きでして」

「和って…あの原村和?」

京太郎「はい。俺、彼女のファンだったんですよ」

京太郎「知り合いに聞いた話じゃ、昔からああいうのが好きだったとか」

「せやから打つ時あないしてたんですね」

京太郎「元々家でああしていたのを、部長の命で試してみることになったそうです」

「…詳しいんですね」

京太郎「惚れてましたから」

「今は?」

京太郎「…よく分かりません。ひょっとしたら、本当は好きじゃなかったのかもしれません」


「…それはそうと、あの像って可愛らしいですね」

京太郎「確かに。石像なのに撫でてみたくなります」

「あれが出来たんは原村和の活躍ぶりからでしょうけど、どうして本人は像になってないんです?」

京太郎「…服が決まらないからだそうです」

「…は?」

京太郎「彼女が『のどっち』であることは、既に公表されましたよね?」

「よう覚えてます。あの後大変な騒ぎになりましたから」

京太郎「あのアバターの通り、和はいわゆるゴスロリ系の服を好んでいるんです」

京太郎「それで制服にするか私服にするか決めかねてまして…行政とも揉めたりしてるらしいという」

「ふ、ふーん…私にはよう分かりませんね」

京太郎「俺もです。今思えば相当な変人でした」


「…なんか彼女のイメージが崩れてしもうたわ」

京太郎「有名人にはよくあることです」

「まあ、インハイ2回戦くらいからおかしな兆候はありましたけど」

京太郎「顔が赤くなるやつ?」

「そう」

京太郎「実はアレ、赤面症じゃなくて知恵熱みたいなもんなんですよ」

「え、アレってそないなやつ!?」

京太郎「…最初は病気かと思って心配しましたよ」

「ああいうのってやめて欲しいわ。うちも似たようなのがおるから、他人事に聞こえへんのです」

京太郎「ああ、あの人のことですか。昨日あった時は元気そうでしたが」

「いやいや。あの子普段は病弱アピールひどいわ、そのくせ無茶はするわで見てるこっちがヒヤヒヤするんです」

京太郎「へえ。あの人普段はそんな風にも振舞ってるんですね」

「うちの前でも貴方と同じようにしてくれたらどんなにいいか…」

京太郎「そうなったらそうなったらで物足らないと思いますよ?俺がそうでしたから」

「貴方にもそんな人が?」

京太郎「いつもタコスタコスってうるさい奴でしたが、いざ離れてみるとそれはそれで寂しくて」

「……」

京太郎「……」

「…もう一度一緒になろうとは」

京太郎「今は思いません。あの頃のように接することは、もう二度と出来ないでしょうから」


 ■

「……」

京太郎「おや、読書ですか?」

「この本、色々けったいやけど面白うて」

京太郎「へえ…ちなみにタイトルは」

「○○ろ」

京太郎「あーそれって教科書にも載ってるやつですよね」

「教科書のは三章ですね。丁度私が今読んでるのも三章でして」

京太郎「先生とK、最初は仲がよかったんですけどね」

「ええ、それはもう」

京太郎「だからこそ、最後にああなってしまったのがもどかしいと思います」

「ムジョウって言葉がよう似合いますわ」

京太郎「ムジョウというのは情が無いほうですか?それとも、物事がとどまっていられないことですか?」

「…多分、両方やと思います」


京太郎「確かにあの時、先生に情けはなかったでしょうね」

京太郎「欲しいと思った人を奪われたくない…その為に彼は、友人をいとも簡単に切り捨ててしまった」

「二人の友情もまた、出会った頃のようにはいかなかったっちゅーことですね」

京太郎「ええ」

「…少し前までは私、そんなことさえも分からんかったんです」

京太郎「…?」

「昔の話をしましょうか。そう、私と一緒におった子との話です」

京太郎「…何があったんですか?」

「…いつもはあの子が一緒にいてくれる思うて…私は彼女にずっと甘えてばかりいたんです」

「けど高校に入ったら、あの子はどんどん麻雀強うなりよって…私のことを置いてった」

「なんやかんやあって追いつきはしたんですけどね。その時から余計に病弱になってもて」

京太郎「……」

「あの子やみんなにいっぱい助けてもろうたのに、思い返せばウチの心はあの子ばかりで…」

「それはあの子の方もそうでした。私達は、どうしようもなく相手に依存していた」

「いつまでも相手は自分を大切に思うてくれると…そんな虫のいい話を信じて生きてきたんです」


京太郎「…今はどうなんですか?」

「はよう変えたいなって思うとります。お互いだけで完結しあう関係はようないって痛感しましたから」

京太郎「仲がいいのは、そう悪いことばかりでもないと思いますが」

「そうでしょうとも。けどうちらのそれは、下手をすれば共倒れになりかねない身勝手でもあったんです」

「あのままではいずれ、お互いを同一視し過ぎてよくないことになってたでしょう」

京太郎「…同一視」

「自分には相手の全てが分かっている…勝手にそう思い込んで、自分のエゴを押し付ける」

京太郎「そんなことがありえたかもしれないと?」

「残念ながら否定はしません。そしてそれは、今でも二人に付きまとってます」

京太郎「…一つ訊いていいですか?」

「ええ」

京太郎「俺は貴方と彼女、二人にかかわってる訳ですが…これについてどう思います?」

「分からへんよ」

京太郎「……」

「その答えは、今すぐ出せるもんやないからな」


京太郎「……」

「……」

京太郎「そういや俺達、互いの名前も知りませんでしたね」

「…せやな」

京太郎「…須賀京太郎です」

「園城寺怜や。それともう一人が」

京太郎「清水谷竜華さん、ですよね?」

怜「…なんや。気付いてへんと思うとったのに」

京太郎「確証が持てなかっただけですよ。もし問いただして、他人の空似だったらって思うと怖くて」

怜「見た目ゴツい割には、随分臆病なんやなー」

京太郎「…惚れた女が間近にいたのに、結局自分の気持ちを言えないような奴ですから」

怜「そんなアンタに朗報や」

京太郎「?」





怜「―――須賀君っちゅーたな。アンタ、うちらのキープ君にならへんか?」

ここまでっす

唐突だし今更な話ですが、書いてて楽しかったけど辛かったとか訳分からんこと言ったのはまずかったなってふと思いました

リクエスト募集 >>474-475

部室で新年会清澄

清澄を出る喜び

>>474-475
承りました

>>475…行き先は>>478にしましょうか

有珠山

>>475から消化します


【インハイ後 須賀宅にて】

京太郎「……」

京太郎「…暑い」

京太郎「インハイ終わったしお盆も過ぎたし…もうそろそろ涼しくなってもいいだろうに」

京太郎「…つーか部活に行くのがめんどい。どうせまた雑用だろうからな」

京太郎「インハイ終わったんだし、少しは麻雀打たせてほしいもんだよ……」

京太郎「…はあ」

京太郎「高校一年の夏がこんなんでいいのかよ…いや、いいわけないだろ!」

京太郎「でも部活の他にやることねえしな…」


京太郎「んー」

「そんなに唸ってどうしたの?」

京太郎「あ、お袋」

「珍しいものね。アンタがそんなに考え込むなんて」

京太郎「大したことじゃねーよ。下らないことでうじうじしてるだけさ」

「こんな天気のいい日に…勿体ないわねえ」

京太郎「まーな。けど特にやることないんだよ」

「あら、部活には行かないの?」

京太郎「どうせ行っても雑用ばっかだし」

「宿題は?」

京太郎「部長に言われてインハイ前には済ませた」

「あら、丁度いいじゃない」

京太郎「何が?」

「実は商店街の福引で国内旅行が当たってね…けどこれ一人分しかないの」

「二人分なら夫婦で行ってもよかったんだけどこれじゃあね」

京太郎「ふーん。で、行き先は?」

「北海道よ」

京太郎「北海道かあ…ここと違ってホント涼しい所なんだろうなー」

「あら、乗り気?」

京太郎「雑用なんかやってるより楽しいよ。つっても一言くらいは話を…」

「メールでいいでしょ。なんなら私が咲ちゃんに話しといてあげる」

京太郎「えっ、いいのか?」

「最近のアンタってば辛気臭そうだしね。大丈夫、少し間をおけばもやもやもなくなるわよ」

「その代わり…溜まったものは吐き出して、帰ってきたら笑顔で部活に行きなさい。いいわね!」

京太郎「…お袋」

「ん?」

京太郎「サンキューな!俺、めいっぱい楽しんでくるよ!」




京太郎「ところで旅行の日程は?」

「7泊8日よ」

京太郎「…福引の奴にしちゃ随分だなー」

「でしょ?」



【当日】


「準備出来た?」

京太郎「ばっちりさ。合宿の経験が生きたな」

「今回は雑用じゃないんだし、せいぜいゆっくりしてきなさい」

「アンタに今必要なのは、ちゃんとしたゆとりなんだからね。帰ってからのことは気にしない!」

京太郎「ああ」

「それと、お土産もちゃんと買ってきなさいよね」

京太郎「家族の分…それに部活のみんなの分も、だろ?」

「分かってるならよし!」

京太郎「…それじゃ、行って来ます」

「いってらっしゃい。何かあったらすぐに連絡しなさいね」

京太郎「――おう」


 ■

京太郎(北海道かあ…テレビでした見たことないけど、どんな所なんだろ?)

京太郎(結構だだっ広い所だし、正直移動が大変そうだ)

京太郎(ただ、行きも帰りも飛行機なのには驚いたけど。結構奮発してるよなー)

京太郎「運転手さん。空港には後どのくらいで?」

「後30分くらいだなー」

京太郎(ん…運転手さんは女の人か?)

「どうしたー?女の運転手がそんなに珍しいかー?」

京太郎「それもありますけど、随分若い人だなあと思いまして」

「ワハハ。私はまだ18だからなー」

京太郎「…え」

「どうかしたかー?」

京太郎「第二種免許って確か21からなんじゃ」

「運転技術の高さを買われて、会社に都合をつけてもらったのだ」

京太郎「……」

京太郎「…ところであなた、どこかでお会いしませんでしたっけ?」

「ふむ、顔を合わせるのは初めてだったなー清澄の雑用」

京太郎「…あっ、アンタは鶴賀の!」

智美「ワハハ。元部長の蒲原だぞー」


京太郎「……」

智美「……」

京太郎「…あの」

智美「んー?」

京太郎「…話に聞いたものより随分丁寧な運転してますね」

智美「仕事だからなー」

京太郎「このことって他の人には」

智美「内緒にしてるぞー?」

京太郎「…プライベートでもこうしてましょうよ」

智美「気が向いたらなー」


 ■

京太郎「ありがとうございました」

智美「気をつけてなー」

ブロロロロロ...

京太郎「……」

京太郎(うん、今のは見なかったことにしておこう)

京太郎(それより時刻の確認だ…あ、出発までまだ2時間はあるじゃねーか!)

京太郎(すこし張り切りすぎちゃったかー。どうしよう)

京太郎「……」

京太郎(…とりあえず、漫画でも買って時間を潰すか)


京太郎(ここの売店変わってるなー)

京太郎(週刊誌よりもコンビニコミックの方が多いし、巻数も揃ってる)

京太郎(…こころなしか麻雀漫画が多いような)



 『ムダヅモありき改革』


 『むこうぎし』


 『殲滅フランケン』



京太郎(なんだろう、このパチモン臭のするタイトル群は)


京太郎(たまには麻雀忘れたいって気もするけどなー)

京太郎(でも考えてみりゃ、俺ってむしろ麻雀打ってない側だし…むしろ麻雀を求めるのは当然か)

京太郎(んーどれがいいかな。ムダヅモはタイトルに親近感を感じるし、むこうふちはホラーっぽそう)

京太郎(…殲滅フランケン、って随分物騒な名前だ)

京太郎(その割には表紙の主人公ってなんか目が綺麗だ。すっげーやさしそう)

京太郎(似たようなのをどっかで見たような気がするんだが…)



京太郎(あ、ドラポンボールのはっちゃんか)



<アリアトアッシター


京太郎(結局全巻買っちまった…)

京太郎(荷物が随分かさばちまうな。最悪古本屋に売るか捨てるかしよう)

京太郎(チェックインも済ませたし、荷物を預けた後にでも読んでみるか)

『…本日はAJA航空をご利用頂きありがとうございます。ただ今からご搭乗のご案内をさせていただきます』

『AJA航空新千歳行き○×時▼■分発202便ご利用のお客様は搭乗口8番からご搭乗下さい』

京太郎「やべ、もうこんな時間か」

京太郎(時間はまだあるけど、乗り遅れたら大変だし急がないと)



 【機内】


『…本日はAJA航空をご利用頂き』

京太郎(ふう、焦った焦った。搭乗前のチェックって時間かかるし馬鹿にならないんだよなー)

京太郎(もし引っ掛かりでもしたら、最悪間に合わなくなるし)

京太郎(…まあ何にせよ、何事もなく旅をすることが出来そうだ。さて、さっき買った漫画でも読もう)


………


……



京太郎「……」

京太郎「……」

京太郎「…おおう」

京太郎(やべーわこの主人公。バカヅキってレベルじゃねーぞ)

京太郎(なんだよあの配牌…下手すりゃトッププロでも相手にならんぞ)

京太郎(しかしこれだけ勝ってるのに、主人公って案外得してないな)

京太郎(…これだけ愚直になれたら俺も麻雀強くなるのかな?)

ペラ....ペラ...

京太郎(どうでもいいか、そんなことは)

京太郎(ツキなんかより、楽しそうに打っている所の方がよっぽど羨ましい)



………


……






京太郎(……)

京太郎(…なんだよ、これ)

京太郎(カッコよすぎだろフランケン。どうしてあそこで『まいった』って言わないんだ)

京太郎(――その結果が最後の海底なんだろうけど)

京太郎(あの結末を考えると、あまりにも報われねぇ……)

京太郎(…それでも)

京太郎(それでもきっとフランケンは、この先もきっと楽しく麻雀してるんだろうな)

京太郎(…そうであって欲しい)



 ■


「…さま」

京太郎「ん?」

「お客様。当機は既に新千歳へ到着しました」

京太郎「…あっ」

「大変恐縮ですが、お早めの降機をお願いいたします」

京太郎「す、すみませんでしたっ!」


スタスタスタ...


「あの男の子、何の本を読んでたんですかね?」

「…殲滅フランケンよ」

「へえ…結構いい趣味してるじゃない」

「ええ」



ブロロロロロ...


京太郎(長野の自然も結構だけど、ここはそれ以上だな…)

「兄ちゃん、北海道は初めてかい?」

京太郎「そうなんですよ。商店街の懸賞でたまたま当たったから来てみたんですが」

「そりゃあいい。で、行き先はどこにするんだ?」

京太郎「その…実はまだ決めてないんですよ。北海道って広いからどこにするか迷っちゃって」

京太郎(ホントは機内で選ぶつもりだったんだがなー)

「行き当たりばったりか。まあいい…とりあえずは苫小牧に行くのをオススメするぜ」

「ウトナイ湖っつー野鳥がいっぱい見れる所もあるんだ。あそこは結構いい眺めが見れるんだよ」

京太郎「へえ。是非見てみたいですね」

「それじゃ、行き先はそこでいいか?」

京太郎「お願いします」



 ■


京太郎「…おお」

京太郎(昼間からずっとここにいるけど、全然見飽きないな)

京太郎(夕日が見える中、湖を泳いでいるハクチョウたちの姿はまさに壮観だ)

京太郎(神秘的と言うか…神々しさを感じさせる佇まい。見てて惚れ惚れするわー)

京太郎「……」

京太郎(…このままずっと、この風景を見続けられたらいいのに)


京太郎(…もうすぐ17時か)

京太郎(名残惜しいが、そろそろ移動しないとな。タクシーを呼ばないと…)

京太郎「……」

京太郎「…ん?」

京太郎(おかしいな。スマホはポケットに入れたはずなんだが)

京太郎「…あれ…どこだ…どこなんだ……」

京太郎「……」

京太郎「…見つからねぇ」

京太郎(どうしよう…これじゃタクシー呼べねーぞ!)


「…すみません」

京太郎「?」

「このスマートフォン、ひょっとして貴方のものですか?」

京太郎「…ええ、間違いありません!どうもありがとうございます!」

京太郎(……)

京太郎(やだ…すっごい美人。ひょっとしてこれが女神様って奴か?)

京太郎(…つーかこの人、有珠山のあの人じゃね?)

「…あの、そろそろ失礼しても」

京太郎「…よければお名前聞かせてもらえませんか?あ、俺は須賀京太郎って言います」

「…ではこちらも名乗らなければいけませんね。私、桧森誓子と申します」

京太郎「やっぱり!」

「…やっぱり?」

京太郎「有珠山の桧森さんですよね。実は俺、清澄の麻雀部に所属してるんですけど」

誓子「清澄の…すると貴方が、清澄の男子マネージャーさん?」

京太郎「…部員です」

中断
オチまで長いがなんとか今日中に終わらせたい


誓子「それで…マネージャーさんは何をしにここへ?」

京太郎「だから部員ですってば。ここには旅行で来てるんです」

誓子「…部活はどうされたんです?」

京太郎「今は休みを取ってまして。県大会前から、合宿やら何やらで休む間もありませんでしたから」

誓子「そうですか。やはりあれほどの戦績を出すからには、ひとかたならぬ努力があったのでしょうね」

京太郎「ええ、そりゃもう」

誓子「…ところでどうしてお一人なのですか?」

京太郎「女五人に男一人じゃ、色々不自由なことが多いんです」

京太郎「どうせなら誰かと行きたかったですけど、福引の…それも一人分でしたから誘うのも難しかった」

誓子「まあ」

京太郎「ですがこれはこれで気楽ですよ。いつもと違って、誰に気兼ねする必要もありませんしね」

誓子「…あの」

京太郎「スマホ、ありがとうございました。では」

スタスタ...

誓子「あ…」

誓子「……」

誓子(一人旅ですか…誤解を招かれないといいのですけど)



 【旅館】


京太郎「……」

「それではごゆっくり」

パタン

京太郎「……」

京太郎(…話は通ってるんじゃないのかよ!)

京太郎(渋い顔しやがって…俺も少し考えてみれば、旅館の一人客なんて歓迎される訳ないって分かったろうにな)

京太郎(従業員もなんかコソコソ言ってるし。こりゃとんだ一等賞だよお袋…分かっててやったんじゃないだろうな?)

京太郎「…はあ」

京太郎(この歳で自殺志願者と疑われるのか俺は……)



 ■


京太郎「……」

「…いってらっしゃいませ」

京太郎「……」

京太郎(…料理は美味かったな。料理は)

京太郎(おもてなしとやらはこの上なく最悪だったが、それ以外は最高だったな)

京太郎(…ひょっとしたら元々あんなんかもしれねーな。どっかでそんなの聞いたことがあったような)

京太郎(対応は最悪だけどそれ以外は最高だった…つ、つん…つんつん…つん…つんへこ…つん…つん……)

京太郎(…つんでれ。ああ、ツンデレだ!ツンデレカフェってやつ!ある意味アレと同じなんだ!)

京太郎(旅館にいるのはおばさんの女中ばっかりだったが…誰得だよ!)



京太郎(とはいえ、金がそう多いわけでもなし、ここで残り6日を過ごすしかないのか……)



 ■


京太郎「それじゃあこの長期貸し出しプランでお願いします」

「かしこまりました」

京太郎(レンタサイクルってこういう時に便利だよな。移動はこれで全部片付けてやるさ)

京太郎(そうすりゃもらった小遣いを他に回せるからな。おみやげとかおみやげとかおみやげとか)

京太郎(…後はまあ、自分へのご褒美にでも)

「…お客様?」

京太郎「は、はい!」

「説明はお聞きになってましたか?」

京太郎「…すみません。全然聞いてませんでした」

「…では、もう一度最初から説明いたしましょう」

京太郎「あ、ありがとうございます」

「気をつけてくださいね。レンタルですから色々ややこしい決まりもありますし」

京太郎「盗難などにでも遭えば色々大変だからですか?」

「そういうことです」



 【北星公園】


ギュルギュルギュル....

京太郎「…ふぅ。案外あっという間だったな」

京太郎(ここじゃ夏だと噴水を体感出来るって聞いて来たんだが…)

シュゥゥゥゥゥ...

京太郎(おー噴いてる噴いてる)

京太郎(近づいたらさぞ気持ちいいだろうなー…よし)

スタスタスタ...

京太郎「……」

シュゥゥゥゥゥ...

京太郎(うわー…こりゃマジで気持ちいいわ。なんか色々浄化されそう)


ジャリジャリジャリ...

京太郎「…おおー」

京太郎(結構遊べそうな所だな。小学生くらいの子が沢山来てるし)

ワー、ワー

シニニキタカ!

ココカライナクナレェー!

京太郎(あの子達、ホント楽しそうにしてるなー)

京太郎(…俺のガタイじゃあそこではしゃげないのが惜しいな。年齢的にもアレだが)

京太郎(…こうしていると自分が老けた奴に思えて来た)


スタスタスタ...

京太郎「……」

京太郎(庭園まであるのか…噴水や広場の辺りと違って落ち着いてるな)

京太郎「……」

京太郎(…なんか眠くなってきた。雑用疲れかな?)

京太郎「……」ウトウト

京太郎(う…もうダメ、落ちる……)

京太郎(……)

...zzz

......zzz

(…あら?)



………


……






京太郎「……」

京太郎「……」

京太郎「…はっ!」

京太郎(や、やべえ。随分横になっちまった)

京太郎(今の時間は…14時か!ちくしょう、折角の休暇なのに時間を無駄に……)

「…ようやく目が覚めたんですね」

京太郎「え?」

誓子「…またお会いしましたね、須賀さん」

京太郎「ひ、桧森さん…」

京太郎「……」

京太郎「…ひょっとして、俺の寝顔見てました?」

誓子「ええ。それはもう可愛らしかったですよ?」






京太郎「……」

京太郎「……」///

京太郎(はっ、恥ずかしいぃぃぃぃ!!!)


京太郎「……」

京太郎「…き、昨日はありがとうございました」

誓子「いえいえ。困った人を助けるのは当然ですよ」

誓子「それより…福引とはいえそちらはお一人ですし、宿泊先で何もなかったか心配で心配で」

京太郎「…そうですね。確かによくないことはありました」

京太郎「ですが心配いりません。あそこはあそこでいい所でしたから」

誓子「ちなみに宿泊先は?」

京太郎「○×旅館です」

誓子「ああ、あそこは天邪鬼な人の集まりでして」

京太郎「有名なんですか?」

誓子「対応だけは最悪、けれど他は完璧と評判の旅館なのですよ」

京太郎「…確かに」


誓子「あ、そうだ。今日は自前のクッキーを作ってきてるんですよ」

京太郎「へえ…美味しそうですね」

誓子「有珠山はいわゆるミッション系でして…料理くらいしか娯楽がないんです」

京太郎「…改造制服着てる人が居ませんでした?」

誓子「アレは例外です。祭りの時くらいは羽目を外してもいいということだそうで」

京太郎「……」

京太郎(…長野にはアレな服装の人が何人かいるし、正直気にならなかったけど)


誓子「…よろしければおひとつどうです?」

スッ

京太郎「では、お言葉に甘えて一口…」

誓子「分かりました。じゃあお口を開けてください」

京太郎「…へ?」

誓子「はい、あーん」

京太郎「え、ええ…あ、あーん」

パクッ ポリポリポリポリ...

誓子「お味の方はいかがですか?」

京太郎「…めっちゃ美味い!」

誓子「ふふ、恐悦至極に存じます」


京太郎「あの…もう一回やってもらっても?」

誓子「いいですよ」ニコッ

京太郎「…それじゃ遠慮なく」

京太郎(……)

京太郎(これだ。これだよ俺が麻雀部に望んでいたのは)

京太郎(美人さんにこうして甘やかしてもらったり、優しくしてもらったりしたかったんだよ)

京太郎(…ままならないなあ)

京太郎(しっかしまあ…桧森さんはこうして日の光に当たっているとますます綺麗になるな)

京太郎(こう、なんと言うか聖母のような神々しさを感じるというか)

京太郎(出自が出自だから、修道女の服とか似合うに違いない!)

京太郎(この雰囲気は和にさえ出せないと思うよ俺は。つか、魅力的どころじゃない)

京太郎(…まるで地上に舞い降りた女神だ)


誓子「あの…須賀さん?」

京太郎「…あっ」

誓子「クッキー、お口に会わなかったですか?」

京太郎「い、いえ…めっそうもない!ただ呆けていただけです!」

誓子「口を大きく開けたまんまで…どうして?」

京太郎「…眠くて」

誓子「ああ、なるほど。寝足りなかったんですね」

京太郎「ええ」

京太郎(……)

京太郎(…『貴女に見惚れていたから』なんて言えたらよかったのにな!)


誓子「…でもよかったです。昨日会った時よりお元気そうで」

京太郎「…えっ」

誓子「だって昨日の須賀さん、今にも消えてしまいそうな雰囲気でしたよ?」

京太郎「あー…あの時はナーバスになってただけですよ」

誓子「――私には貴方に何があったか分かりかねますが、一つ確かなことがあります」

京太郎「?」

誓子「…貴方はしょげた顔より、笑っている顔の方が似合っているということですよ」

京太郎「……」

京太郎「…え、ええっ!?」

誓子「そんなことないって思ってらっしゃいますか?」

京太郎「い、いえ…そんな風に言われたことってありませんでしたから」

誓子「清澄の人達って、随分勿体ないことをなされているんですね」

京太郎「…どういうことです?」

誓子「だって須賀さん、とっても素敵な人に見えますもの」



京太郎「……」

京太郎「……」カアアッ

京太郎「そ、そんなことありませんよー?」

中断
おかしい…今日中に終わる気がしない……

…すみません、>>475は明日以降になりそうです

少ししたら>>474のネタを消化する予定


咲「……」

和「……」

優希「……」ウズウズ

まこ「……」

京太郎「……」

久「…みんな揃ったわね」

京太郎「はい!」

優希「準備は万全だじょ!」

久「よろしい!それじゃあみんな新年会、開始するわよー!!」

「「「「「おー!」」」」」


久「それじゃあまずは、去年で一番幸せだったことから語っていきましょうか」

久「まずは私から。私はもちろん『清澄が団体戦で全国優勝したこと』よ!」

久「全国を目指したのは去年の5月から。けどみんなは、私の無茶に全力で付き合ってくれた」

久「あの結果はその甲斐あってのものよ。みんな、本当にありがとう」

久「私はもうすぐここから居なくなってしまうけれど、みんなが楽しく麻雀できるように祈ってるわ」

久「そして私も、今度はインカレで結果を残せるように励んでいくわ」

久「…まこが来て、それから他のみんなが来て…こうして一緒に居られることを私は嬉しく思います」

久「―――本当にありがとうございました!」


ワー! パチパチパチパチ!!


咲「こちらこそ、誘っていただきありがとうございましたっ!」

和「部長から教わったことを忘れず、今後も全力で励んでいきます!」


まこ「次はワシじゃな。えーワシが嬉しかったことは『ウチの店に新しい看板娘が来てくれたこと』じゃ!」

まこ「ワシ一人だけでフロアを切り盛りするのは大変でな…それに正直、私一人じゃ寂しかったしのう」

まこ「けどまあ、和と咲…特に和はああいうフリフリしたのが好きみたいじゃったからよかったわ」

まこ「働いてくれるだけでもありがたいが…一番はやはり、あの服を好いてくれるモンでないといかんからな」

まこ「和がいてくれれば、ウチの店も安泰じゃ!」

和「…あの、ちょっといいですか?」

まこ「ん?」

和「私、今後もあそこで働くことが前提になってません?」

まこ「…それのどこがおかしいんじゃ?」

和「……」

和「…いえ、何でもありません」

和(あの部長にしてこの後輩あり、ですか……)


優希「じゃあ次は私だな。私のは『みんなで全国にいけたこと』だじょ!」

優希「中学時代はろくに結果を残せなくて、のどちゃんの活躍ぶりをみているだけだったからな」

優希「嬉しくもあったが悔しくもあった。私だってあそこに行きたい、あそこで麻雀打ってたいって思った」

優希「何より…のどちゃんが遠くへ行ってしまいそうで、怖かった」

和「……」

優希「…そういう過去があったからこそ、私はこうして強くなれたと考えているじぇ」

優希「自分に麻雀は向いてないのかなと弱音は吐いたし、勉強不足とかで散々みんなに迷惑かけちゃった」

優希「でも、そんな私がここまでやってこれたのは、こっちの我儘を受け容れてくれた仲間が居てくれたから」

優希「そのことを忘れずに、今年も精一杯頑張っていきたい」

和「…優希」

京太郎「…う、ううっ。優希の奴が…こんなにまじめなことを考えて来れただなんて…感動したっ!」

久「イイハナシダナー」

優希「部長、棒読みはやめてください!」


和「私のは…優希と被る所もあるでしょうが『全国で優勝して、今後もここで過ごせるようになったこと』です」

和「インハイ後に改めてお話しましたが…私と父は、今後の進路について対立していました」

和「麻雀のことを運だけの不毛なものとか、麻雀をさんざん馬鹿にされました」

和「あげく、田舎の友達が何の役に立つだなんて言われて…私は悔しくてたまらなかった」

和「咲さんが来て、団体戦でも全国に出場出来るようになった時は、いざこざもありましたが嬉しく思ったものです」

和「…自惚れになっちゃいますけど、私なら個人でも団体でも全国に行けると確信していましたから」

和「けれどそれは甘い見立てで…藤田プロをはじめ、私よりも強い人たちに何度も打ちのめされもして……」

和「私一人じゃ、きっとどうにもならなかった。それでもどうにかなったのは、やっぱり5人が居てくれたからで」

和「……」

和「―――みんなと出会えて、この5人と一緒に居られて、本当に…本当によかった……」

和「…嬉しくて…嬉しくて…」

京太郎「ん?」

和「…こと、ばにーできなーい♪」

京太郎「…急に歌うなっ!」

優希「何でそこでボケる必要があるんだじょ!慣れてないんだからさ!!」

咲(こんな時、私はなんて言ってあげたらいいか分からないよ…和ちゃん)


咲「…え、えーと次は私ですね」

京太郎「そうかしこまらなくていいぞ咲。インタビューじゃないんだからさ」

和「そうですよ。いつも通りに振舞っていればいいんです」

咲「…うん!」

咲「……」

咲「わ、私のは『お姉ちゃんと久し振りに話せたこと』です」

咲「…みんなも知っての通り、私の姉はインハイチャンプの宮永照です」

咲「ここ数年はただの一度も話せてなくて…会うのが怖くて、何度も物怖じしてました」

咲「ですから私は必要以上に緊張していましたし、それで誰かを怯えさせたこともあったでしょう」

咲「…プラマイゼロで相手の心を傷つけた事もありました」

咲「勝負以前に、私は真摯な態度でいられなかったと言われても仕方のないことをしたんです」

咲「…今でもそれが治っているとは言えません。それがある限り、姉は私を許さないでしょう」

咲「それだけが理由ではありませんが、私と姉…ひいては家族が今もすれ違ってます」

咲「――けれど」

咲「けれどみんなで勝ちあがって、私はようやく姉と向き合う決心がつきました」

咲「そして姉も、私と言葉を交わしてくれました。わだかまりはあったでしょうが、分かり合おうとしてくれました」


咲「……」

咲「…本当は、こうして事情をお話するのはやめようかとも思いました」

咲「しかし私は知ってもらいたかった。ここで麻雀打てたから、私は前に進んでいけるのだと」

咲「弱くて…いろんなものを怖がってて…そんな私が、少し強くなれた」

咲「それはみんなのお陰です。みんなの居る麻雀部のお陰です」

咲「……」

咲「…ありがとう」

咲「――本当に、本当にありがとう……」

「「「「「……」」」」」

咲「……」

グゥゥゥゥ...

咲「……」

咲「…ごめん、私お腹がすいちゃったみたい」

ドサドサドサッ!

和「…あの、咲さん」

京太郎「…どうしてオチをつけちまうんだよ、そこで」


京太郎「……」

「「「「「……」」」」」

京太郎「…えー新年明けまして」

優希「それは会の前に言ったじぇ!」

京太郎「あー…本日はお日柄もよく」

和「須賀君。今は夕方ですよ?」

京太郎「……」

咲「きょ、京ちゃんがんばっ」

まこ「京太郎…男ならここで一発決めるんじゃ!」

京太郎「んなこと言われたって…俺、みんなと違って大した真似が出来る訳でもないし」

久「――あら、本当にそうかしら?」

京太郎「…え?」


久「まず…ここに咲を連れてきたのは?」

京太郎「…俺です」

久「みんなが麻雀に集中出来たのは?」

京太郎「俺が雑用をして、みんなが麻雀だけ出来るようにしたからです」

まこ「そもそもウチが名実共に、ちゃんとした部活として認められたのは?」

京太郎「…俺を含めて部員が5人になったから」

和「優希の我儘をいつも訊いてくれたのは?」

京太郎「…俺だ」

優希「ああ。京太郎には一番お世話になってるじょ!」





咲「……」

咲「…京ちゃん」

京太郎「ん?」

咲「いつか私に『麻雀っておもれーのな』って言ったよね」

京太郎「…ああ」

咲「あの時私、麻雀がキライだって言ったけど…アレは半分ホントで半分嘘だった」

咲「確かにあの時、私は麻雀がイヤだった。でもね…心のどこかじゃきっと牌を握っていたかった」

咲「家族の事だけじゃない。麻雀と向き合えたのは、貴方が私をここまで連れて行ってくれたから……」

京太郎「……」

咲「私…今なら言えるよ。麻雀が好きだって…麻雀こそが、私の青春だって」

京太郎「…咲」


久「…須賀君」

京太郎「はい」

久「これでもまだ、自分は大したことないって言える?幸せなことがなかったって言える?」

京太郎「……」

京太郎「…分からないです、そんなの」

久「…それならそれでいいわよ?」

京太郎「??」

久「自分が大したことないだなんて言わないのなら、私はそれでいい」

久「だけど忘れないで。自分にとって大したことじゃなくても、周りはそう思ってないかもってこと」

京太郎「…ええ、肝に銘じます」

久「…後、どうかくじけないでね」

京太郎「…当たり前ですよそんなの」

京太郎「――今年は絶対、個人戦で勝ち抜いてみせますから!」

久「…その意気よ。頑張れ、男の子!」




久「…それじゃあ次は、今年の抱負と達成出来なかった時のペナルティを」


「「「「「勘弁してください」」」」」



カン!

昨日から何故か書くのが捗る
だから明日も頑張る

それでは

>>519の続きから



 ■


京太郎「桧森さんはどうしてここに?」

誓子「実家がこの近くでして。今は帰省中なのですよ」

京太郎「…いい所ですよね」

誓子「はい。ここは緑がいっぱいですから」

誓子「それに私…バードウォッチングが趣味でして。この前ウトナイ湖に来ていたのもその為で」

京太郎「ああ、そうだったんですか」

京太郎「あそこにはタクシーの運転手さんに案内されて来たんですけど、本当にいい所でしたよ」

誓子「それを聞けて私も嬉しいです。あの場所は、一番のお気に入りですから」


京太郎「俺もあそこにはもう一度行ってみたいです」

誓子「折角ですし、今度ご一緒しませんか?」

京太郎「あ、それいいですね!」

誓子「実の所、夏場は野鳥の種数が少ないんですけどね…ですが他にも見所はあります」

誓子「花に集まるフタスジチョウをはじめ、虫さんたちが元気に動いていますからね」

誓子「秋が近いこの時期に咲く花も少なくありませんし、見飽きる心配はないでしょう」

京太郎「俺はそういうのってあんま詳しくないですけど、聞いてて少し気になっちゃいます」

誓子「では、明日行った時にでも説明させていただきますよ」

京太郎「ええ…是非お願いします」



 ■


京太郎「昨日はありがとうございました」

誓子「こちらこそ」

京太郎「昼からずっとあそこに居ましたけど、そちらが仰った通り飽きなかったですね」

誓子「それはよかったです」

京太郎「ただ…結構えげつないものも見えましたけど」

誓子「…ウミネコですか?」

京太郎「はい。泣き声は名前通りの可愛らしさでしたけど、あんな習性があるだなんて」

誓子「ウミネコが餌を吐いてしまうことは、そう珍しいことでもないのです。ですがあまり知られてはいないようですね」

誓子「…おたまじゃくしが100匹ほど駐車場に落ちていたのが、後日新聞に取り沙汰されて騒ぎになったとか」

京太郎「桧森さんはああいうのってどう思います?」

誓子「勿論抵抗はありましたけれど、ウミネコが生息する辺りでは当然のことですし…もうすっかり慣れてしまいました」


京太郎「ところで今日はどちらへ?」

誓子「樽前の方ですね」


 ■


京太郎「…おっと」

誓子「気をつけてくださいね。天然林ですから整備はされておりませんので」

京太郎「は、はい。それにしても緑が綺麗な所ですね」

誓子「ここを降りればもっといいものが見れますよ。それに夏でも涼しいから気持ちよくなれます」

誓子「ですが一つ気をつけてほしいことが」

京太郎「?」

誓子「ここにはコケが沢山ありますけれど、近年は衰退傾向にあるそうです」

誓子「なので触ったり傷付けたりなされないようお気をつけください」

京太郎「分かりました」


京太郎「……」

京太郎「…おお」

 なるほどこれは確かに綺麗だ。

 コケが斜面全体に生い茂っている様は壮観そのもの。

 緑のカーテンを広げたような景観だと言われているそうだが、まさにその通り。

 俺も桧森さんも、目の前の光景にただただ見入っていた。

誓子「――冷たっ」

 可愛らしい声が聞こえた。

 実際、川の水は相当冷たかった。気温30度の日にもかかわらず。

 肌を刺すようなその冷たさは、俺と彼女の肌を容赦なく冷やしていた。


京太郎「…そろそろ出ましょうか」

誓子「…ええ」

 川岸から上がった俺たちの足は、寒さのあまり赤くなっていた。

 …桧森さんの生足が俺の視線を捉えて離さない。

 にわかに感じる足へのかゆみはほとんど気にならなかった。

 そんなことよりも、彼女の生足に夢中だったからだ。

誓子「…よかった。服は濡れていませんね」

 場所が場所だし、当然彼女はスカートなど履いてなかったが…もしそうなら俺はどうなってただろう。

 …彼女の柔肌はますますあらわになり、それに比例して興奮の度も増したに違いない。


京太郎「……」

京太郎「……」

誓子「…あの」

京太郎「…あ、はい」

誓子「渓谷の下、とっても綺麗でしたよね?」

京太郎「ええ。それと貴方の生足も……」

誓子「……」

誓子「…え?」

京太郎「…すみません。今のは聞かなかったことにしてください」

誓子「…え、ええ」



 ■


京太郎(…何だかんだでもうすぐ一週間かあ)

誓子「京太郎さん」

京太郎「何でしょう?」

誓子「長野にはいつ戻られるのですか?」

京太郎「後二日ほど」

誓子「そうなのですか。少し寂しくなりますね」

京太郎「でも楽しかったです。自転車に乗ってあちこちの自然を見て回れて」

京太郎「雑用やってる時より体力使いましたけど、体がちっとも疲れない」

誓子「…私も楽しかったです。ですが……」

京太郎「…?」

誓子「…少しだけ、ワガママ言ってもいいですか?」

京太郎「…ええ」

誓子「…もう少しだけでいいですから、ここに居る時間を延ばしてもらいたいんです」


京太郎「……」

誓子「…はじめはただ、貴方が困っておられるのを放っておけないだけでした」

誓子「それがたまたまこちらと因縁のある方で…たまたま出かけた先で見かけて……」

誓子「いえ…私が気にしていなければ、こうして一緒に居られることはなかったでしょう」

京太郎「でも貴女は、俺と関わり合ってくれた」

誓子「ただの興味本位です。あの強い方々と一緒に居る貴方が、一体どのような人となりなのかと」

誓子「…穏やかだと思いました。誰をも受け入れ、誰もが受け入れてくれるような人だと」

誓子「大した理由はないんです。ただ、貴方と居ると安心出来たのは確かです」

京太郎「…桧森さん」

誓子「このまま、貴方が私の居場所になってくれれば…そんな風に思ってしまいました」


京太郎『…俺はどちら側を歩けばいいですか?』

誓子『どうしてそのようなことを?』

京太郎『歩道側は急な飛び出しがあったりしますから危ないですし』

誓子『ああ、そういうことですか。では私の右側がいいですね』

京太郎『どうしてですか?』

誓子『キリスト教世界では、左よりも右側を重視する傾向があるんですよ。祈祷で十字を描くのも右手ですし』

京太郎『なるほど』

誓子『ただ、そちらの方が危なければこの限りではありません。お気遣いありがとうございます』

京太郎『どういたしまして』


誓子『…須賀さんは、いつも相手のペースに合わせているんですか?』

京太郎『どういうことでしょう?』

誓子『貴方と私では、どうしても歩幅に差が出るはずですから』

京太郎『…手のかかる幼馴染が居ましてね』

誓子『幼馴染、ですか。どんな人なんでしょうか?』

京太郎『ドジ…ですね。そのせいか道に迷いやすいです』

京太郎『そいつとは結構な付き合いになりますが、一緒に居てもすぐ居なくなっちまって…』

誓子『は、はあ…』

京太郎『ですからその幼馴染が迷わないよう、俺はアイツと歩幅を合わせるようにしたんです』

京太郎『それでもやっぱり居なくなったりするんですけど、最初に比べりゃ随分減りました』

京太郎『それと反比例して口数は多くなりました。あの幼馴染、結構引っ込み思案な所があるんですけど』

京太郎『…きっと俺もそれが嬉しかったんでしょうね。誰かに歩調を合わせるのを当たり前のことにしていた』

誓子『……』

誓子『…何だか素敵ですね。そういうのって』


誓子「…貴方はとても優しかった」

誓子「その優しさを、ほんのちょっと独占してみたいと思いました」

京太郎「……」

誓子「…ですからその」

京太郎「ダメです」

誓子「!?」

京太郎「…それ以上は口にしちゃダメです」

誓子「……」

誓子「…ダメ、ですか?」

京太郎「すみません」

誓子「……」


京太郎「――だってその先のことは、俺の方から口にしたかったんですから」


誓子「……」

誓子「…いじわるっ……」



………


……









『…では、新たなインハイチャンプにインタビューを』

京太郎『よろしくお願いします』

『須賀選手は元々長野の高校にいらっしゃったんですよね?』

京太郎『ええ。清澄高校に』

『…清澄!?』

京太郎『はい、俺はそこで部員をやっていました。去年の個人戦にも記録があるはずです』

京太郎『その当時はろくな結果を残せず、歯がゆい思いをしたものです。清澄の名にも泥を塗ってしまいましたから』

『そう仰いますが須賀選手。今や貴方は個人戦と団体戦の両方を制覇していらっしゃる』

京太郎『…いつだってこちらを見守り、祝福してくれる聖母が俺には居ますから』

『聖母とは…やはり聖女マリアのことで?』

京太郎『…ええ(ホントは違うけどな)』

『そうなると須賀選手、貴方は神に愛された子とお呼びしても過言ではありませんね』

京太郎『大したものではありませんよ。俺は運だけで麻雀を打ってるんですから』

京太郎『ただ…わざと負けるようなことはしません。そんなことをすれば、神様から運をもらえなくなりますから』

 そうだ。

 フランケンもそう言ってたし、そして…あの人も同じことを言っていた。

 俺がここに居るのは純然たる実力じゃない。だからこそ俺は、誰よりも麻雀に誠実であろうと思う。

 これまでも、そしてこれからも。

 かつての仲間が目指したものを、今度は俺も目指していく。

 だから――――





『ところで…かつての母校である清澄を去ったことに、何か思う所はおありになりますか?』


京太郎「……」

京太郎「……」

京太郎「…そうですね。言いたいことはたくさんあります」

京太郎「昔の仲間に話したいこと、聞きたいこと、伝えたいこと…それこそ数え切れないくらいに」

京太郎「ですが未だに、あちらへの感情を整理出来ていないのは確かです」

京太郎「当時初心者の俺とみんなじゃ、どうしても埋められない溝があって…今からそれを埋められるかどうかは分かりません」

京太郎「…ですが確かなことが一つ」













京太郎「―――――俺自身、清澄を出る喜びがあった」




少年の物語は、この先もずっと続いていく―――――――。


fin.

有珠山のみんなを出せなかった…無念

ではまた後ほど

新道寺なら確かに完璧でしたねー。清澄の反応は各自の想像にお任せします。
…あれから京誓増えてねえ。

少ししたら投下開始します。


京太郎「あの…先輩」

成香「何でしょう?」

京太郎「前から気になってたんですけど…右目、大丈夫なんですか?」

成香「えっ」

京太郎「えっ、じゃありませんよ。どう見たって邪魔でしょ」

京太郎「その前髪…結構鬱陶しいんじゃないかと見る側の俺が思うんですから」

成香「こ、これはファッションなんです。これがオシャレだって揺杏さんから聞いたんです!」

京太郎「オシャレですか…それにしたって危ないんじゃないかと」

成香「危ないって…」

京太郎「右目、ちゃんと見えてるんですか?」

成香「み、見えてますよっ!」


京太郎「…本当ですね?」

成香「ええ!」フンスッ

京太郎「じゃあためしにそこまで歩いてくださいよ」

成香「むう…馬鹿にしているのですか?」

京太郎「そんなことはありません。ただの好奇心ってやつです」

成香「…なんだかよく分かりませんが、真っ直ぐ歩けば問題ありませんよね?」

京太郎「ええ」


成香「――では、参ります!」


ヒョコヒョコ

成香「……」

フラッ

成香「……」

ユラッ

成香「……」

京太郎「…歩き方がジグザグしてましたよ?」

成香「そ、そんなはずは…もう1回!」


成香「…今度こそ!」

スタスタ

成香「……」

フラリ

成香「……」

ヨロヨロ

成香「…あっ!」

京太郎「危ない!」

ドサッ!

成香「……」

京太郎「……」

成香(…こ、この状況は)

京太郎(どういう訳か、俺が成香先輩にお姫様抱っこをしている……!)

((……))

((…は、恥ずかしい!))


成香「……」///

京太郎「せ…先輩、大丈夫ですか?」

成香「え、ええ」

京太郎「これに懲りたらその前髪は何とかしてくださいね」

成香「…ええと」

京太郎「もし先輩に何かあったら、俺もみんなも気が気じゃないですから」

成香「は、はい…」

ガチャッ

揺杏「おーっす…」ポカン

成香「……」

京太郎「……」

揺杏「……」

揺杏「事情は知らないけど、邪魔しちゃったみたいだねー」

揺杏「…それじゃっ!」

バタン

成香「……」

京太郎「……」

((ど、どうしよう……!!!))



カン!

あの前髪って下手すりゃ目に入りそうで怖いと思うんですよ

では


おとーさん!おかーさん!

どうした玄?

サンタさんにお願いするもの、決まった?

うん!わたし、ドラゴンがいい!!

……。

……。

…ドラゴン!?

あのね玄、ドラゴンはサンタさんでも無理なんじゃないかな?

だいじょうぶなのです!だって、サンタさんはかみさまなんですから!!


そうは言ってもな玄、ダメなものはダメなんだよ。

…どうして?

――ドラゴンは靴下に入らないだろう?

……。

…あなた。

なるほど。たしかにおとーさんのいうとおりなのです!

ええー……。

だからな玄、ドラゴンは諦めなさい。

うー、うー。

うーうー言っても駄目だからな。


……。

……。

…あ、そうだ。

どうした?

くつしたをおおきくするか、ドラゴンをちいさくしてもらえばいいのです!

…だからな玄、どうしたってドラゴンは無理だよ。

そうよ玄。サンタさんが困っちゃうでしょ?

ええ、サンタさんにはむりだろうね。

…えっ。

じゃあどうしてサンタさんに頼もうだなんて。

ドラゴンがげんじつにいないことくらい、わたしだってわかってるよ。

…サンタさんはおとうさんかおかあさんだってことも。


(バレていたのか……)

(じゃ、じゃあ私のミニスカサンタも)

(…見られていただろうなあ)


でも…わたしはどうしてもドラゴンとおともだちになりたかった。

こどものじょうだんとして、ろくにとりあわれないのがこわかったから、ふたりのことをためしてしまった。

…ごめんなさい。そしておねがい、わたしがドラゴンとおともだちになるのをてつだってください。

―――おねがいします。


…ねえ、あなた。

――すまないが、それは無理だよ。

あなたっ!?

…やっぱりだめなの?おとーさん。

ああ、おとーさんとおかーさんには無理だ。けど…

けど?

…玄の望みを叶えてくれるかもしれない人は、知っているよ。

ほんとうっ!?

本当だとも。娘に悲しい嘘は吐かないさ。



……。

…よかったわね、玄。

…うん!


ただ…ドラゴンとお友達になれるかどうかは分からないぞ?

おとーさんには、心当たりのあるものを教えてやることしか出来ない。

…それでもいい!

じゃあ早速、ドラゴンを手に入れられそうな人を調べてみるか。

私も手伝うわ。三人で頑張りましょうね、玄?

はい!


...zzz

…あったか~い。


…みつけました。

早っ!

え、もう?

このあまえってがくしゃのひとなら、たぶんわたしののぞみにこたえてくれるのです!

天江って…この人国文学者じゃないか。

どうして科学者じゃないの?

このひとのおくさんはかがくしゃです。それにあまえさんじしん、こくぶんがくいがいもけんきゅうしている。

まーじゃんをうつひととかには、ふしぎなちからをもったひとがいますでしょう?

ああ、確かに居るな。

超能力著みたいな人は、結構世の中に溢れているわね。

あまえさんはそんなひとたちのこともけんきゅうしている。ふしぎなちからのことをたくさんしっている。

なら、ドラゴンのようなものをよべるひとをしっていてもおかしくないんじゃないでしょうか?

…なるほどな。

やだ…私の娘ってば存外利口……!



 ■


あら、何を読んでいるの?

手紙さ。衣と同じくらいの女の子から。

どんな内容?

ドラゴンと友達になりたいから、どうにかして呼び出すなり造り出すなりしたいんだと。

どうしてそんなことを?

『チックとシャオロン』って映画があったろ。あれを見てから恐竜やドラゴンが好きになっていったらしい。

…変わった子ね。

そうだな。だが、夢があるのはいいことだ。

ええ。始めからありえないって決め付けるより、未知のものにロマンを感じる方がずっといい。

よかったら読んでみるか?彼女はすでに、ドラゴンが家に来てからのことも考えている。

『オスならクリエ、メスならプリエ』と名前まで決めてある。

……。

……。

…何となくだけど、衣と気が合いそうね。

いや、間違いなく気が合うだろう。



 ■


おとーさん!おかーさん!

どうした?

あまえさんのこうしきサイトで、おてがみへのへんじがのってるのです!

…あ、ホントだ。

名のある学者さまが、わざわざこうして返事をしてくださるなんて……!

…ざんねんながらげんじてんでは、ドラゴンはよんだりつくったりできないそうです。

…そっか。

玄…残念だったわね。

けどあまえさんはちゃんとへんじをくれたのです!

わたしののぞみをわらったりせず、むしろほめてさえくれました!

あのごふさいをはじめとするがくしゃのかたでもむりだとしって、ずいぶんためになりました!そしてきめました!!

…何を?

わたし、しょうらいかがくしゃになります!えらくなって、ドラゴンとおともだちになるほうほうをさがすのです!



 ■


…あの。

ん?

はじめまして。私、松実玄と申します。

…天江衣だ。

それと…貴女のご両親にはお世話になりました。

っ!?

父君と母君を知っているのか!?

はい。と言っても、直接お会いする事は無かったんですけど。






では、順番を追って説明させていただきましょうか。私がまだ小さかった頃に、私はご両親へあるお願いをしました―――。



カン!

元ネタは「ドラゴン作れず政府機関が謝罪」で検索検索ゥ!

…では

人中の竜と友達になればいいよ

訂正につぐ訂正。

>>553
×:ただ、そちらの方が危なければこの限りではありません。
○:ですが、右側の方が危なければこの限りではありません。

>>556
何か思う所はおありになりますか?→おありですか?

>>557
清澄を出る喜びがあった→清澄を出る喜びはあった

>>570
「あれから」というのはだいぶ前に総合で書いた奴っす。

>>585
超能力著→超能力者

>>588
×:私がまだ小さかった頃に、私はご両親へあるお願いをしました―――。
○:7歳の頃、私はそちらのご両親にあるお願いをしました―――。

>>590
人中の竜…ハギヨシさんとかにぴったりの言葉ですね。



今回の投下、括弧をなしにしたのは不味かったなあ。

>>593
×:何か思う所はおありになりますか?→おありですか?
○:何か思う所はおありになりますか?→何か思う所はおありですか?

すぐに寝落ちしそうな気がしますが、>>468の続きから投下


結論から言うと、俺はその唐突な提案に応じた。

いや…応じざるをえなかった。

彼女達の事情は、俺のそれと同様のものだったからだ。

ここに来たのもりつべ神の導きだと二人は言った。

よく分からない理由で、自分達の仲を揶揄されるのを嫌がっていた。

…ただ、なにぶん急な話だ。

何処まで互いを信じればいいかなんて、俺にはよく分からない。

俺と二人がとりあえずで関わっていれば、風潮は薄らいでくれるのかもしれない。

そうじゃないかもしれない。

突然こうなってしまった事への戸惑いもある。

だから正しい判断なんか出来っこない。

やれることをやるだけだ。



 ■


怜「須賀君って随分料理が上手いんやなー」

京太郎「夏まではそうでもありませんでしたよ?」

怜「…そうは見えへんけどな」

京太郎「たまたま部活で料理を作る羽目になっただけですよ」

怜「はじめは何作ったん?」

京太郎「タコスです」

怜「タコス…ああ、先鋒の子が好きやって言うとったヤツか」

京太郎「ええ」

怜「…正直、クレープと同じようなもんやって思うんやけどな」

京太郎「否定は出来ませんねー」

怜「やろ?」

京太郎「ですが食ってみたら意外と違うかもしれませんよ?ハンバーガーのパンズみたいに」

怜「…かもしれんな」


京太郎「で…美味しいですか、俺のお手製弁当は」

怜「うん、美味いわ」パクパク

京太郎「…その割にはえらく淡白ですね」

怜「いや、美味いのはホンマやで?」

京太郎「ホントですかー?」

怜「…ただな、物足りんねん。個人的には味を濃くしてもらえると」

京太郎「あ、それワザとです」

怜「え?」

京太郎「清水谷さんからキツく言われてまして」

怜「…あのアホゥ」

京太郎「最近自分が面倒見ること減ったから、それをいいことに不摂生してるんじゃないかとも言ってました」

怜「ぐぬぬ」

京太郎「どうやらその通りだったみたいっすね」


怜「……」

京太郎「清水谷さん、面倒見がよくていい人じゃないですか」

怜「…ちがう」

京太郎「ん?」

怜「アレはそんなんとちゃう。竜華はウチを支配したいんや」

京太郎「支配って…」

怜「主に胃袋をな。ウチのことを餌付けして、ペットみたいに扱いたいフシがあるんやで」

京太郎「んな大げさな」

怜「…ウチは元々濃い味が好きやったんや。けど竜華の料理によって趣旨換えさせられてな」

怜「仲間のみんなも料理を作ってくれとったけど、結局一番美味かったのは竜華のやった……」

京太郎「……」

怜「けどな…やっぱりウチは濃い味のモンを食べたいねん!竜華の呪縛から解放されんといかんのや!!」

怜「料理にソースやらマヨネーズやらケチャップやらぎょーさん使いたい!!!」

京太郎「体調を考えると使い辛いですからねー」

怜「問題はそこやねんなあ…」


京太郎「…こんなこともあろうかと」

ドサッ

怜「こ、これは我が愛しの調味料達……!」

京太郎「味付けが合わなかった時の為に持ってきました」

怜「…須賀君」

京太郎「どうぞ遠慮なく使ってください」

怜「勿論や!使えるモンは使う!!」


ドバドバドバ


京太郎(…これって全部、清水谷さんが用意したやつなんですけどね!)

京太郎(使った量はもれなく把握されるっていう。清水谷さん、貴女は恐ろしい人だ……)



 ■


竜華「昨日はご苦労さんやったなー」

京太郎「いえいえ。俺は弁当こしらえただけですから」

竜華「せやけど料理が出来るってええことやで」

竜華「男やとか女やとか関係あらへん。自己管理が出来てこそ、人は自ら幸せを求められるんやで」

京太郎「……」

京太郎(世の中には、食品サンプルを料理として出す人も居るんだって教えてあげたい!)

京太郎(…この人がウチの部長だったらなあ)

竜華「…ちょっと?」

京太郎「は、はい!」

竜華「ウチの話、ちゃんと聞いとったか?」ズイッ

京太郎「も、勿論です」

京太郎(ち、近い!近いですって清水谷さん!!)

京太郎(貴女の立派なおっぱいが、今にも俺の胸板に当たりそうで…)

京太郎(…くっ、静まれ俺の立直棒。まだ和了るにはあまりに早すぎるぞ)

竜華「……」


竜華「…せやけどみんながみんな、自己管理の出来る人間やない」

竜華「たとえ料理が出来たって、自分の欲望を抑えきれへん奴はごまんとおるやろ?」

京太郎「えと…それって園城寺さんのことですか?」

竜華「せや。ああいうのには気ぃつけなアカンで」

竜華「須賀君って、どうも誰かからええように扱われるような感じするしな」

京太郎(うっ、否定出来ねぇ…)

京太郎「で、でも何も出来ないよりはよほど」

竜華「それがアカンねん。自分は大したことないって思いよるからそないな考えになる」

竜華「自分に自信を持ったらええねん。たとえ頼まれたって、嫌やったら断るべきや」

竜華(でないと苦労するよってな。ウチみたいに)

京太郎「…それじゃあ俺の部活における存在意義は」

竜華「それこそ気にせんでええ。とりあえずはウチらがおるし問題ないやろ?」

ムニュ

京太郎(着弾してる!清水谷さんの爆弾、直撃してるよっ!!)


竜華「…支配されるよか支配した方が気持ちええで」

竜華「怜の面倒、一人で見るんは大変でな…よかったらアンタにも手伝って欲しいねん」

京太郎「つっても俺は何をすれば…」

竜華「適当でええ。部活の同期にしたんと同じモンで十分や」

京太郎「…そんなんで大丈夫なんでしょうか?」

竜華「大丈夫や」

京太郎「俺の方が年下ですし、優希と同じように扱うのは…」

竜華「けど騒がしくないで?」

京太郎「うっ」

竜華「あの片岡って子と違って胸もそれなりやし、面倒みるんやったら断然怜やろ」

京太郎(た、確かに)

竜華「まーアレや。一旦は部活から離れてウチらと仲良うしたってな」

竜華(…須賀君を清澄麻雀部から引き剥がす。怜の面倒をみさせた上で、ウチの方になびくようにする)

竜華(両方やらなアカンのが辛い所やな…フフ……)

ここまで
この先清澄と一悶着あったりなかったり

頭やら根気やら体力やら、色々足りてないなーと思う今日この頃

30分後くらいに投下しますねん



………


……










京太郎「竜華さん達と会ってから、今日でちょうど一ヶ月なんですね」

竜華「せやな」

京太郎「割かしあっという間でしたねー」

竜華「それだけ楽しかったっちゅーことやね」

京太郎「俺はそうでしたけど、竜華さんは?」

竜華「……」

京太郎「…あの」

竜華「野暮ったいこと言わんでや。うちかて楽しかったに決まってるやないか」


京太郎「……」

京太郎「…それならいいんですけどね」

竜華「その言い方、なんやひっかかるなあ」

京太郎「そんなの当たり前じゃないですか。だって俺は…」

竜華「俺は?」

京太郎「…俺は二人のキープくんなんですから」

竜華「!?」

京太郎「すっかり忘れてたって顔してますね」

竜華「い、いや…」

京太郎「意地の悪いこと言ってすみません。でもね、俺はそれでもよかったんですよ」

竜華「…え?」


京太郎「風潮なんてものより、俺は部活でみんなとすれ違っている方が辛かった」

京太郎「なにせ俺だけ初心者ですからね。当然共感できるものはあまりない」

竜華「…それでもあそこが好きやったんやろ?」

京太郎「勿論です。その気持ちは今だって変わらない」

竜華「ならどうしてこっちを選んだん?」

京太郎「居てもしょうがないって思った。それだけです」

竜華「…ホンマに?」

京太郎「嘘ついたってしょうがないでしょ。理由を考えたって、今更どうしようもない」

京太郎「――あそこに居たら俺は今頃ダメになってた」

竜華「……」


京太郎「ハギヨシさんとの一件がなくたって、俺はいずれあそこを離れていたでしょう」

京太郎「もし何事もなければ、今頃は龍門渕でハギヨシさんから色々教わってるに違いありません」

京太郎「そうはならなかったけど…俺は今、竜華さんとこうして一緒に居ることを嬉しく思ってます」

竜華「…嬉しいこと言うてくれるやないか」

京太郎「ホントのことですから」

竜華「…それならうちかてそうや」

竜華「京太郎君とこうしてられるんを幸せやって思うとるよ」

竜華「今までは麻雀と怜…他はどうでもええなんて思うてた時期もあった」

竜華「けどなんやかんやあってそうじゃなくなった。そしてアンタに出会えたことは、うちにとってプラスやったよ」

京太郎「…どんな所が?」

竜華「千里山って女子校やん?せやから話したりするんも女ばっかりやし、男相手よか気が知れてる」

竜華「無論、相手の何もかもが理解出来る訳でもないんやけど、接し方を一々深く考えずに済んだんや」

竜華「そんなんが成り行きとはいえ勝手の分からん相手と関わった。それだけやけど、めっちゃ大変やったよ」


竜華「…京太郎君。アンタは今日、どんな服着て来ようと思うた?」

京太郎「そりゃもうカッコつけてやろうと」

竜華「少し前まで、うちはそういう意識が今より希薄やった。なんでか分かるか?」

京太郎「…えーと」

竜華「……」

京太郎「…あ、そっか。同性相手にそうしたって楽しくないから…ですかね?」

竜華「うん、まあそんな所や。女同士じゃ厳しくチェックしあったりすることもあるしな」

竜華「正直そんなん楽しないんや…自分の直感を信じて、こういうのがええんちゃうかって着飾ってみたかった」

京太郎「俺相手に着飾るのは楽しかったと?」

竜華「うん。アンタはそこそこ気が回るほうやしな」

京太郎「誰にでもって訳じゃないですよ」

竜華「でもそれやと八方美人や」

京太郎「……」

竜華「…理由なんて気にせんでええやん。京太郎君、うちはアンタのこと…大切に思うとるで?」


京太郎「……」

京太郎(…俺はもっと好きになっていいんだろうか)

京太郎(キープくんじゃなくて、本当の恋人だって言えるようになりたい…そう願っていいんだろうか?)

京太郎(……)

京太郎(…どうした須賀京太郎。らしくないじゃないか)

京太郎(麻雀部へ入った時、お前は後先なんか考えてなかったはずだ)

京太郎(この部活に入部すれば、きっと楽しい時間が過ごせる…それだけだったろ?)

京太郎「……」

京太郎(…今度だって、同じようにすればいいんだ!)





京太郎「俺もですよ竜華さん。これからもよろしくお願いしますね?」






                             パリン



今回はここまで
登場人物を可愛いとかカッコいいとか言ってもらえるようになりたい

それでは

てか『キープくん』って複数の男と付き合って、その内の本命でないけど確保してる男ってことじゃないのか?
ま、細かい事は横へ置いといて 続きお待ちしております

>>628
単に女性にとって本命でないが交友関係を維持している男性のことでもあるので、誤用ではありません。
ただしこの概念はモテる女性が主に利用していたようなので、そちらの方がより正確ですね。

…雪見だいふくの失敗もありますし、今回たまたまやらかさなかっただけなんですけど。今後も気をつけます。
30分後くらいに投下開始。


音が聞こえた気がした。

ガラスにひびが入るような音だ。

どこから聞こえたんだろうか。

わからない。

何が壊れたんだろうか。

わからない。

誰が壊したんだろうか。

やはり、わからない。

辺りを見回してみたが、近くには壊れたものなど何もなくて。

「…どうしたん?」

隣に居る竜華さんが、俺の挙動をいぶかしむ。

音の事を話そうとしたが…やめた。多分気のせいだろうし、そう思いたいから。

実際、何も壊れてなんかいないんだ。だからアレは気のせいなのさ。

…彼女だってそう言うに違いない。

「――いえ、空耳が聞こえただけです」

何でもないと結論付けて、俺は彼女の質問に答えた。

これでいいんだ。






                             パリン




 ■

怜「何でか知らんがうち、最近病弱をアピールせんようになったんや」

京太郎「いいことじゃないですか」

怜「そのせいか体調もようなってなぁ」

京太郎「病は気からって言うでしょう?きっと思い込んでたんですよ」

京太郎「仮に病弱だとして、けどそれは怜さん自身が思ってるほどじゃなかったということでは?」

怜「かもしれへん」

京太郎「言葉の力って大きいですからね。言霊なんて概念もあるくらいですし」

怜「…言葉としては知っとるけど、意味までは知らんわ」

京太郎「人から聞いた話じゃ『声に出した言葉が、現実の事象に対して何かしら影響を与えると信じられて生まれたもの』だそうです」

京太郎「これだと難しく聞こえますけど、要はいい言葉と悪い言葉が物事に影響するってだけの話でして」

怜「なるほどな」

京太郎「ですがオカルト的な概念として捉えなくても、理論としては十分成り立ちますよ」

京太郎「少なくとも人には作用するでしょうし。褒められれば気持ちいいし、貶されれば気持ち悪い」

怜「そうすると、うちって随分悪い言葉をぎょうさん使うてしまったんやな…気ぃつけよう」

京太郎「ええ、それがいいでしょうね」


怜「……」

怜「…京太郎君、一つ尋ねてええやろか?」

京太郎「勿論です」

怜「そんな薀蓄…一体誰から聞いたんや?」

京太郎「それは勿論、麻雀部の元部……」






                             ガシャン




京太郎「……」

怜「えっ…一体どないしたんや?」

京太郎「……」

京太郎「…あ、あのですね」

怜「……」











京太郎「すみません!誰から聞いたかど忘れしちゃいました!!」

今回はここまでです
お褒めの言葉に応えられるよう、今後も励みます

では


京太郎「…今日はヒマだなあ」

和「ヒマではないでしょう。雑用をしてないだけで」

京太郎「それが当たり前だったからさ」

和「麻雀を打っているのが本来正しいんです」

京太郎「そうだっけ?」

和「そうですよ!」

京太郎「…どうもピンとこないぜ」

和「大体ですね須賀君。貴方が雑用なんて引き受けなければこうして麻雀打ててるんですよ?」

京太郎「……」

京太郎「え?どゆこと?」






和「…前部長と優希からも何とか言ってくださいよ」


優希「…え、えーっと」

久「その…須賀君が嫌だって言えば私たちも素直に応じちゃったりしたんだけど」

京太郎「…ぱーどぅん?」

優希「要するに、私と部長は京太郎の好意に甘えてたんだじょ」

久「面倒なことは全部貴方がやってくれるし…楽だったから」

京太郎「ほう」

和「今日は初閻魔、閻魔賽日、十王詣とも呼ばれているそうです。部長からそう聞きました」

和「…ですから罪を告白するにはもってこいの日ではないかと」

京太郎「つ、罪ってそんな大袈裟な」

和「ある意味では貴方も罪人と言えますよ?二人のことを甘やかしたのは貴方ですから」

和「こういうことをなあなあで引き受けるのはよくないですよ…今日まで何も言わなかった私も悪いのですが」









京太郎「…なあ和」

和「はい?」

京太郎「雑用してないせいか、牌を持つ手が震えてきたんだがどうしたらいい?」

和「…えっ」



カン!

起きてたら数時間後に昨日の続きを書くかもです
では


京太郎「……」

恒子「ねーねー少年。お姉さんにプレゼントの一つくらい寄越してよ」

京太郎「…あの」

恒子「んー?」

京太郎「なんで恒子さんがここにいるんすか」

恒子「ひどっ!?」

京太郎「大体今日は仕事のはずでしょう?」

恒子「うん、それならサボってきた!」

京太郎「…は?」

恒子「だってさー誕生日にまで恋人の居ないアラフォーと仕事って気が滅入るじゃん!」

京太郎「ひっでぇ」


恒子「いや、ひどくなんかない。親しいからこそ言える事実なのよ」

京太郎「親しいからって何を言ってもいい訳じゃ…」

恒子「すこやんがグータラなのがいけないのさ!」

恒子「あの子はこの私を見習ってさ、もーちょいテンション上げてハキハキしないとダメっしょ」

京太郎「騒がしいの間違いじゃ」

恒子「何か言った?」

京太郎「ナンデモアリマセン」

恒子「だよねー。こんな可愛いアナウンサーを騒がしいなんて、言う訳ないよね?」

京太郎(やっぱ聞いてるじゃんか!)


京太郎「…はぁ」

恒子「ダメだよ少年。溜息つくと幸せが逃げちゃうんだから」

京太郎「貴女がそれを言っちゃいますかー」

恒子「あんまり溜息ついちゃうと、そのうちアラサーだのアラフォーだのって言われちゃうよ?」

恒子「ひょっとしたら婚期だって逃しちゃうかも」

京太郎「やだなそれ!」

恒子「でしょ?」

京太郎「…あ、その前に彼女捜さないと」

恒子「えっ」

京太郎「えっ」

恒子「…えっ」


恒子「……」

京太郎「……」

恒子「…そっか。こっちの勘違いだったんだ」

京太郎「…あの」

恒子「謝らなくたっていいよ。ホントは私、気付きたくなかっただけなんだから」

恒子「それでも、誰が相手でもいいから…恋ってやつをしてみたかっただけなんだから……」

京太郎「……」

京太郎「…さよなら、ですね」

恒子「うん。さよならだね」

京太郎「……」

恒子「……」














ガサッ

「……」

(よ、よかったあ…先を越されたグランドマスターなんか居なかったんだ!あと、私はアラサーだから!!)



………


……














京太郎「…もう行きましたよね?」

恒子「多分」

京太郎「しっかしまあ驚きましたよ。まさか小鍛治プロが出歯亀してるだなんて」

恒子「だよねー」

京太郎「…あんなんで騙せるもんなんでしょうか?」

恒子「騙せるっしょ。ああ見えておめでたい子だし」

京太郎「……」

京太郎「…仕事をサボったのって、嘘ですよね?」

恒子「いんや。ホントは今日だったよ?」

恒子「だけど今日は休ませて欲しいからって、えりちゃんに代役頼んでさ」

京太郎「…無駄骨でしたね」

恒子「うん。正直あの子をなめてたわ」

京太郎「…何しましょうか?」

恒子「イチャつけばいいさ!その為に来たんだもん!!」

京太郎(…年甲斐のない人だなあ。優希といい、俺はどうやらこういう相手と多少の縁があるらしい)











ガサッ

うるさい相方が居て、それに付き合わされる京太郎とすこやんは気が合うと思うよ!
…ホントだよ!

では


ここの所、どうも物忘れが激しくなっているように感じる。

若年性認知症っつーやつだろうか。俺はまだ16歳なんだが。

でも実年齢と肉体年齢は一致しないから、ひょっとするのかもしれない。

「その歳でボケるんは早すぎちゃうか?」

軽い調子で怜さんが言う。

悪い冗談はよしてくれというような顔で。

そう思うのはもっともだ。しかし現に、俺は今言おうとしたことを少しも覚えていない。

なのに俺は意地を張った。

「はは、ですよね」

自分はボケてなんかいないし、心配されるような真似もしていないと。

「同じクラスの薀蓄好きから聞いたんですよ。そいつ、一度話し出すと止まらなくて」

嘘をついた。

怜さんのことを安心させるため。

あるいは、自分を安心させるために。居もしないクラスメイトをでっちあげた。


それで済むと思っていた。

誰かに、そして自分に嘘をつくのが当たり前になるとは考えてもいなかった。

きっと怖かったんだろう。

今自分が持ってるものが、日を経るごとに失われていくのが。

あの感覚は普通じゃなかった。

今まさに話そうとしていたことを忘れるだなんて、どう考えても普通じゃない。

そうなる兆候だってなかった。

突然に、まるで誰かが見計らったようなタイミングで、俺は記憶を失ったのだ。

…それから何かを話すのが怖くなった。


だからといって、誰とも話すことを止めるなんて出来はしない。

他人が嫌いな訳じゃない。むしろ、もっと他人と関わりたいとさえ思っている。

俺は特別なんかじゃない…平々凡々を絵に描いたような人間だ。

少なくとも自分ではそう思う。

テレビか何かで見るような、身体に障害を持った人間でない者は、幸せな存在だ。

いつだったかそんな言葉も見聞きした。

言葉では理解出来ても、俺はそういうものじゃないから実感は持てなかったが。

…当たり前のように出来ていたこと。

そうでなくなった今、そうであった頃に戻りたいと思うのもまた、当たり前なんだろうか。




「…どうしたんや?」

そう竜華は京太郎に尋ねた。彼がまた言葉に詰まったからだ。

数日前からこういうことが増えていた。

京太郎は何かを話そうとするたび、ほんの一瞬躊躇うようになった。

その後普通に話をすることもあれば、時々ろくに言葉を話せなくなることもある。

そして、普通に話せる時間は日に日に減っていくばかりだ。

その度に竜華も怜も滅入る。

だがそれ以上に滅入っているのは、当の京太郎自身ではないだろうか。

…彼の目は、二人に出会った頃のように光をともしていなかったのだから。


京太郎は黙ったままだ。

彼はこの頃考え込むような仕草が増えたが、今日はそれが一段と長い。

活発だった少年の姿は既にない。

それとは逆の、いわゆる根暗と言う言葉の方が、今の彼にはピッタリだった。

出会った頃からこうだったなら、竜華も怜も京太郎とは関わらなかったに違いない。

それほどだった。

それほどまでに彼は憔悴しており、事故に遭った直後の怜もかくやという様子だ。






「…とりあえず病院行こか」

竜華の問いに、やはり京太郎は応えない。


『脳に異常はありません』

『鬱病を患っているわけでもない』

『これといった異常はなく、彼は健康そのものだ』

『精神科にいくことをおすすめします』





『…女に甘えたいだけじゃないのか』

『病気のフリして、彼女といる口実でも欲しいってか?』

『ふざけんじゃないよ』





『俺は…俺はそんなつもりじゃ』

『うっせ。キモいから黙れ』

『あの子もよくお前なんかの面倒見てるなーマジで』


「……」

「しょうもない奴らも居ったもんやで。アイツら、身体だけやのうて精神も病んどるんちゃうか?」

「……」

京太郎は相変わらずだんまりだ。

心配する竜華の声にも、何ら反応を示そうとはしない。

「…何か言うたらどない?」

竜華の言葉は、明らかに怒気を孕んでいた。

京太郎と竜華は、この日一度も会話をしていない。

何も話してくれない彼に、彼女が苛立ち胸倉を掴むのは必然だった。

中断なのよー

あ、京太郎に暴言はいたのは担当医じゃなくて患者ですんで

>>663ですけど、医者には検査をしてもらっただけです
たまたま京太郎と竜華が歩いているのを見た患者が、すれ違いざまに因縁つけてきただけでして
すみません

それと二人は精神科に行ってません

描写不足っつーかはしょることなんてここじゃ日常茶飯事なんですぜ
3時間以内に投下予定


 ■

怜「…あんな竜華」

竜華「んー?」

怜「須賀君の様子、最近おかしくなってるみたいなんやけど」

竜華「おかしいって?」

怜「前より言葉を選ぶようになったっていうか」

竜華「気ぃ使うとるだけちゃうか?」

怜「それやったら困った顔はせんと思うけど」

竜華「困った顔?」

怜「何て言うたらええかな…そや、何を言おうとしたんか忘れたような顔や」

竜華「いやに具体的やな」

怜「だって本人言うてたしな。誰かの受け売りやった話を、誰から聞いたか忘れてもうたって」


竜華「…案外よくあることやと思うけど」

怜「そやろか」

竜華「考えすぎやて。それより自分の体調を心配しとき」

竜華「この頃は調子ええみたいやけど、無理が利くわけでもないし」

怜「…うん」

竜華「まあ、明日はウチが彼に会ってくるから、その時にでも確かめればええ」

竜華「それなら怜の話がホンマかどうか確かめられるやろ?」

怜「……」

怜「…頼んだで、竜華」


竜華「今日はどこ行く?」

京太郎「えーっと…じゃああそこの喫茶店に」

竜華「いやいや、あそこ昨日も行ったやん」

京太郎「…」

京太郎「…え?」

竜華「せやから行ったって」

京太郎「…あ、ああ…そうですね。そうでした」

竜華「なんや調子でも悪いんか?」

京太郎「いえ、そういう訳ではないんですけど」

竜華「……」


 ■

竜華「京太郎君。はいこれ」

京太郎「これって…チョコレートじゃないですか」

怜「だって今日はバレンタインデーやろ?」

京太郎「……」

竜華「どないしたんや?早う受け取って欲しいんやけど…」

京太郎「…あの、すみません」

竜華「ん?」

京太郎「その…バレンタインデーって何ですか?」

竜華「!?」

怜「京太郎君…冗談にしてはやけに反応がリアルなんやけど……」


京太郎「いえ…冗談じゃないんですよ。ホントに知らないんです」

竜華「バレンタインデーを知らんて」

怜「麻雀部とかで色恋に縁が無かったからってそれは…」

京太郎「…麻雀部?」

竜華「せやで。アンタそこに今も居るやないか」

怜「うちらに付き合わせてるから、最近はあまり行けてない訳やけど」

京太郎「麻雀部、ねえ…」

京太郎「……」

京太郎「俺、そんなのに入った覚えはありませんよ?」

竜華「」

怜「」

京太郎「あそこって女子部員だけですし、全員がかなりの腕前みたいじゃないですか」

京太郎「そんな所に入ったって、俺じゃやることがありませんしねー」


竜華「……」

怜「……」

京太郎「…どうかしましたか?」

怜「……」

竜華「…あんな京太郎君」

京太郎「はい」

竜華「うちが言うのも何やけど、流石にそれは言い過ぎやと思うんやで?」

京太郎「…えっ」

竜華「えっ、とちゃうわ。あそこには幼なじみの子とか居ったやないか」

京太郎「幼なじみ?」

竜華「大将の宮永咲ちゃん」

京太郎「……」

竜華「……」

京太郎「…すみません。俺、あの子のことは何にも知らないんです」

京太郎「家が近所なことくらいしか…そう言えば、あそこの家は最近まで別居してたそうですね」


竜華「……」

怜「……」

竜華「…怜」

怜「…ん、ああ。今日はもう帰ろか」

京太郎「えっ」

竜華「京太郎君、今日は調子悪いみたいやし」

怜「…せやな」

竜華「…それじゃ、また明日な」

京太郎「…はい」


怜「……」

竜華「アンタの言う通りやったな、怜」

怜「ああ…」

竜華「アレはどうみたって惚けてるような様子ではなかったで」

怜「もし演技やったらアカデミー賞もんやわ」

竜華「けどあの子にそんなん出来るか?」

怜「…ありえへんやろ」

竜華「…」

怜「…」

竜華「…アルツハイマーってやつなんやろか?」

怜「…分からん」


 ■

竜華「……」

京太郎「……」

竜華「こないされても何も言わんの?」

京太郎「……」

竜華「苦しない?」

京太郎「……」

竜華「…何で口きかへんねん。こんなんされてもムカつかへんのか?」

京太郎「……」

竜華「…!」

...ギュッ

京太郎「!?」

バシッ

竜華「痛っ!」

京太郎「…いくらなんでも、首絞めることはないでしょう?」


竜華「…やっと口利いてくれたな」

京太郎「…あんなにされればね」

竜華「何で黙ってたんや?」

京太郎「怖かったから」

竜華「怖かった?」

京太郎「…チョコを貰ったあの日、俺は二人の唖然とした顔を見てしまった」

京太郎「それで怖くなったんです。自分はひょっとしたら、知ってることを忘れてしまってるんじゃないかって」

京太郎「案の定、それは事実でした。話そうとしたこと、あるいは聞いたことが記憶から失われていくのを感じました」

竜華「そんな…」

京太郎「いつものことではありません。ただ、頻度だけが増えていって…俺、どうなっちまうのかなって」

竜華「…京太郎君」

京太郎「異質なものは、それこそ腫れ物のような反応をされる。車椅子のひととかがそうでしょう?」

京太郎「…まさか自分がそうなるとは思ってもみませんでしたが」


竜華「…ごめん」

京太郎「……」

竜華「ごめんな、京太郎君…うちら、何にも気付いてあげられなくて」

京太郎「…妙なものなんて好き好んで見たがるもんじゃありませんし」

竜華「…やめてや。そんな風に自分を卑下せんでや……」

京太郎「…竜華さん」


パリン


竜華「…!」

京太郎「…竜華さん?」

竜華「きょ、京太郎君…髪」

京太郎「…髪がどうかしましたか?」

竜華「…鏡見てみ」

スッ

京太郎「……」

京太郎「…え、何でだ…俺の髪、黒くなって……」

一旦ここまで


京太郎「…どういうことなんだ?」

怜「竜華!京太郎君!」

竜華「怜!」

京太郎「どうしてここに…あ、あなたは」


りつべ神「…遅かったみたいね」


竜華「あの、彼に一体何が…」

りつべ「…彼はもうじき彼ではなくなる」

竜華「…?」

りつべ「私自身は、彼の存在を肯定している。しかし世界はそうじゃなかった」

りつべ「女性同士が愛し合うことを望むこの世界にとって、須賀京太郎…君は邪魔者以外の何者でもないのよ」

京太郎「つまり、俺が俺でなくなると言うのは…」

りつべ「君はもうすぐ須賀京太郎ではなくなり、姿形や記憶、周囲の人間などが変化する」

りつべ「…須賀京太郎という個人は、完全に消えてなくなる」


京太郎「…それじゃあ、麻雀部のみんなは」

りつべ「ええ。君のことを忘れている可能性は高いでしょうね」

りつべ「…正確には、須賀京太郎ではない別の個人として記憶している、ということでしょうけど」

京太郎「……」

りつべ「不幸中の幸いなのは、世界が貴方の存在自体を抹消しないことくらいかしら」

りつべ「別の存在として造り替えた上で、貴方に新しい人生を送らせようと言うのだから」

京太郎「…いるんですか?」

りつべ「ん?」

京太郎「その新しい人生に、今まで出会ってきた人達はいるんですか?」

りつべ「……」

京太郎「どうなんですか!」

りつべ「…可能性はゼロに等しいでしょうね」


京太郎「…そんな」

怜「あんまりやないですか…りつべ神、どないかならんのですか!?」

りつべ「ならないわ」

怜「っ!」

竜華「神様であるあなたでも無理だなんて…そんなの」

りつべ「…私はただ想像しただけ」

京太郎「……」

りつべ「あなたたちの居るこの世界を…あなたたちという存在を…そして、あなたたちの物語を」

りつべ「…けれど造物主ではないし、全知全能でもないわ」

竜華「……」

怜「……」

りつべ「…あなたたちがそうなることを、私は想像すらしていなかった」

りつべ「つまり…この世界もあなたたちも、最早私が好き勝手に出来るものではない」

りつべ「私に出来ることと言えば、あなたたちの行く道をしめすことだけ」


京太郎「道…」

りつべ「そうよ。私に出来るのはそれだけ」

京太郎「…俺はどうすればいいんですか?」

りつべ「悪いけど、それには答えられないわ」

京太郎「…」

りつべ「繰り返しになるけど、私は全知全能じゃない」

りつべ「だから君の望みなんて分からないし、当然導いてもあげられない」

りつべ「…須賀京太郎、君が選ぶしかないのよ」

京太郎「…お、俺は……」

グニッ

京太郎「痛っ!」

竜華「…」

京太郎「…いきなり何するんですか」


竜華「…らしくない」

京太郎「え?」

竜華「今のアンタ、全然らしくないで。京太郎君」

怜「…うちも竜華に同意やわ。君ってそんなキャラやったか?」

京太郎「……」

竜華「うちらが長野に来たばかりの頃、君はもっとハキハキした感じやった」

竜華「突然のことなのに、道訊かれても全然戸惑っとらんかったやんか」

京太郎「……」

怜「…気落ちするんはしゃーないけど、あの時と今じゃまるで別人みたいやん」

怜「ずっとそのままで居られるんは…ちょっとばかし嫌かな。もっと頼りにさせてーな」

京太郎「…二人とも」

竜華「とりあえず、どうするんかはそっちに任せるで」

怜「どんな結果になっても、うちらは絶対後悔せえへんから」


京太郎「……」

りつべ「…大丈夫?」

京太郎「ええ。いつまでもウジウジしちゃいられませんから」

りつべ「…そう」

京太郎「話してください。この先にある道のことを」

りつべ「ええ」


りつべ「…まず一つ目は、あなたたちが一度別れることよ」

竜華「…!」

りつべ「別れさえすれば、須賀京太郎は元に戻れるわ。世界の意思に即しているのだから」

りつべ「その代わり…互いへの記憶は消え失せてしまうでしょうね」

怜「…その場合の辻褄合わせはどうなるんです?」

りつべ「分からない。確かなのは、記憶だけが操作されてはいおしまい、ではないということ」

りつべ「あなたたちを追い詰めるために、世界は風潮だの何だのを作り出した…だから今はとても不安定なの」

京太郎「…もう一つは?」

りつべ「今までの自分を捨てて、別の存在として生きていくことよ」

りつべ「あなたたちが今のままでいれば、須賀京太郎…君だけではなく後の二人も同じようになるわ」

京太郎「……」

りつべ「ただしその場合、あなたたちは今まで通り過ごしていけるわ」

りつべ「私が想像した物語の道筋から外れるだけで…その他に支障は何もない」


京太郎「…世界に逆らうことは?」

りつべ「君には出来ない。君にそんな力はないから」

りつべ「竜華と怜にしてもそうよ。そんなことが出来るのは、主役である咲くらいのもの」

りつべ「…須賀京太郎は、決してヒーローにはなれないわ」

京太郎「……」

りつべ「…だからと言って、何も出来ない訳じゃないわ」

京太郎「?」

りつべ「私はこの世界を想像した。こんなものがあればいいなと思い描いた」

りつべ「そして京太郎。君にもそれは出来るはず」

『信じるのよ…自分の類まれなる妄想力を』

京太郎「…あ」

シュウウ...

りつべ「…どうやら時間みたいね」

京太郎「りつべ神!」

りつべ「……」

スゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ...

竜華「……」

怜「…き、消えてもた」.


京太郎「……」


 未来を思い描く…それだけなら俺でも出来る。

 和が俺の嫁になったり、風越の福路さんが彼女になったり…色々考えたさ。

 二人一緒に俺を愛してくれたらなーとも思った。

 叶わなかったが。

 そして今回、ふとしたことで俺は竜華さんと怜さんに出会った。

 考えてみれば、和たちとの妄想に似ていたのかもしれない。

 しかし今、妄想ではないこの二人との関係も…泡沫のように消え失せようとしている。

 離れ離れになるか、それとも自分が自分でなくなってでも一緒にいるか。


京太郎「…決めました」

竜華「!」

怜「…一体どないするんや?」

京太郎「俺の…俺の望む未来は……」


 ■

久「それじゃあ須賀君。今日も雑用お願いねー」

京太郎「はい!」

優希「いい返事だな京太郎!それでこそ私の犬だじょ!」

和「ゆ、優希」

京太郎「いいんだ和。俺も単なる負け犬じゃ居たくないし」

和「しかし…」

京太郎「そんなことよりさ、お前は勝負に勝つことだけを考えてくれよ」

京太郎「でないと俺の立つ瀬がないからさ。お前が…みんなが勝てば、俺もきっと報われるんだからさ」

和「…す、須賀君」キュンッ

咲「むっ!」プクー

まこ(ほほう…これは面白くなりそうじゃのう)ヒソヒソ

久(どうやらそのようね)ヒソヒソ





京太郎「さて、今日も買出しに行くとしますか!」


京太郎「んしょ、んしょ。あーしんど」

京太郎(相変わらず人使い荒すぎだぜ…こんなに色々買って、一体何に使うんだよ)

京太郎(…まあいいか。駄賃は貰ってるしな)

「あのー」

京太郎「ん?」

「しんどそうやな自分。よかったら手伝おか?」タプーン

京太郎「!?」

京太郎「い…いえ、自分は大丈夫ですから」ハナジダラー

「いやいや。今にも荷物落としそうになっとるから」

京太郎「…で、ではお願いします」スッ

「よっしゃ…うっ、何やこれ…めっちゃ重いやん」ウギギ

京太郎「色々入ってますから」

「色々って…この重さ、雀卓くらいはあるんとちゃうか……?」

京太郎「ええ。だって中身は雀卓ですし」

「はぁ!?」

京太郎「部長がどうしてもって言って聞かないんですよ。なるべくなら、いつも使ってるやつがいいって」

「…さ、さよか」ドンビキ


京太郎「……」

「……」

「「あ、あのっ」」

京太郎「……」

「……」

「「俺(私)たち、どこかでお会いしませんでしたっけ?」」

京太郎「……」

「……」

京太郎「…須賀京太郎です」

竜華「清水谷竜華や」

京太郎「…あ、千里山の大将やってる方でしたか」

竜華「今気付いたんか…そういう自分も、清澄の雑用男子として噂になっとるけど」

京太郎「…マジで?」






                             パリン




竜華「ホンマやホンマ。相変わらずこき使われてるんやから…」

京太郎「いやーすみません。それが俺の性分なものでして」

竜華「……」

京太郎「……」

「「んん?」」

竜華「…今うち、おかしな事言わんかったか?」

京太郎「ええ…俺も竜華さんも、お互いの事を知ってる口ぶりでした」

竜華「…ちょっと待ってな。どうして京太郎君が、うちのことを名前で呼んどるんや!?」

京太郎「そ、そっちこそ!」

竜華「……」

京太郎「……」



………


……


















怜「えっ…千里山が共学化?」

竜華「せやねん」

京太郎「…今日からよろしくお願いします」



…カン?

…イチャイチャどこいった

おやすみです

>>705
いつも使ってるやつがいいって→いつも使ってるやつと同じのがいいって


京太郎「…」

優希「どうした京太郎?そんな所でボーっとしちゃってさ!」

京太郎「ん…ああ、優希か」

優希「…男がピンク色のネクタイだなんて、趣味が悪いじょ」

京太郎「いや、これは俺のものじゃないんだ」

優希「ふーん。ならそれは誰かからの貰い物か?」

京太郎「そんなとこだな」

優希「…黄昏れるように見るほど、大事なものなのか?」

京太郎「ああ」

優希「そっか…趣味が悪いなんて言って悪かったな」

京太郎「いいよ別に。俺も進んでコイツを付けようとは思わないしさ」

京太郎「それはそうと、頼まれてたやつ作ってきたぜ。これが俺の新作タコスだ!」

優希「おお…また見るからに美味しそうだじぇ!ありがとな、京太郎!!」

京太郎「いいってことよ」





京太郎「……」

京太郎(…あの人も今頃どこかで、元気に麻雀やってるんだろうか)




 【10年前】


京太郎「…かーちゃん、おなか減ったよ」

京太郎母「悪いけど我慢して。もう少ししたら夕飯作るから」

京太郎「そんなの待ってられないよ…俺、お菓子が食べたいんだ」

京太郎母「…ワガママ言わないで」

京太郎「ワガママなんかじゃないやい!よその家じゃ、当たり前のようにお菓子が食えるんだぞ?」

京太郎「なのにウチにはそれがないだなんて…」

京太郎母「…」

京太郎「…なあ、頼むからお金くれよ。お菓子買ってくるからさ」

京太郎母「…ゴメンね。ウチが貧乏だから、アンタにはひもじい思いをさせちゃって」

京太郎「なら」

京太郎母「でもね京太郎。やっぱりそれは聞けないの」

京太郎「…分かったよ」

京太郎母「そう。分かってくれれば…」

京太郎「かーちゃんに何を言っても無駄だってことがさ!」

バンッ!

京太郎母「ちょ、ちょっと…一体どこ行くの!?」

京太郎「ここじゃないどこかさ!」

タッタッタッタッ...

京太郎母「……」

京太郎母(…あなた。このままじゃもう限界よ)

京太郎母(あの子はずっとお腹を庇うようにしてた…恐らくだけど、他の子と喧嘩になったのかもしれないわ)

京太郎母(だとしたらそれは、家の事を馬鹿にされてのことでしょう。私だって、周りからは冷たい視線を向けられているしね)

京太郎母(…どうすればいいのかしら?)


京太郎「…ちくしょう」

京太郎「ウチが貧乏なのが悪いんだ。貧乏じゃなきゃ、誰からも馬鹿にされたりしないのに」

京太郎「漫画もゲームも持ってないから、みんなの話題についていけないし…どこへ行ってもはぶられてばかりだ」

京太郎「……」

京太郎「…貧乏じゃなきゃ、こんな風にはなってないだろうに」


「貧乏は嫌?」


京太郎「えっ?」

「ねえ…貧乏は嫌?」

京太郎「な、なんだよお前…いきなり現れてさ」

「ああ、ごめんね。散歩をしてたら声が聞こえたものだから」

京太郎「…怪しい奴」

「はたから見れば、道端で愚痴をこぼすあなただって十分怪しい」

京太郎「ぐ…」

「それはそうと、こっちの問いに答えてよ。貧乏は嫌?」

京太郎「嫌に決まってるさ!」


「…どうして?」

京太郎「決まってるだろ!貧乏だと馬鹿にされるし友達だって出来ない!!」

「そんな人達、放っておけばいいじゃない」

京太郎「同じクラスだし、嫌でも顔を合わせちゃうんだよ…アイツらいつも俺に構ってきてさ」

京太郎「ウザイだのなんだの言って、なのに俺に構ってくるとかおかしいよ。俺や俺の家族を馬鹿にするしさ」

「…先生はどうしたの?」

京太郎「…ダメだよ。アイツも向こうの味方なんだ」

京太郎「家庭訪問で来た時なんか、家に上がろうともせず玄関で軽く話をしただけさ。話にならない」

「…そう」

京太郎「俺、もう疲れちまったよ。このまま家に戻るのもやだし、野宿でもしてようかな」

「やめときなさい。面倒なことになるだけだから」

京太郎「なら家に帰れってか?」

「……」

京太郎「…そうするしかないって分かっててもさ、嫌なものは嫌なんだよ」


「…貧乏じゃなくなれば、あなたは家に帰るのね?」

京太郎「…ああ」

「そう…なら今から、あなたの家を貧乏じゃなくしてあげる」

京太郎「?」

「…えいっ」














京太郎「何も起こらないじゃないか」

「……」

京太郎「…何か言えよ!」

「…私に出会った時から、あなたの望みがかなうことは決まっている」

京太郎「何言ってんだよ。お前、何にも叶えてないじゃないか!」

「お前って…そう言えば、名前を言ってなかったわね」

京太郎「…京太郎だ。先に名乗っといてやる」

「灼…私の名前は灼よ。また会いましょう、京太郎」

スッ

京太郎「……」

京太郎「…き、消えやがった」


京太郎「…ただいま」

京太郎母「きょ、京太郎!」

京太郎「こ、怖いよかーちゃん。急に家を飛び出したのは悪かったけどさ」

京太郎母「そうじゃない…そうじゃないのよ京太郎」

京太郎「え?」

京太郎母「…ついさっき、お父さんから連絡があったわ。この前買った宝くじが当たったって」

京太郎「宝くじって…当たったってどうせはした金だろ?」






京太郎母「…一等の8億が当たったわ」

京太郎「マジでっ!?」





………


……

















灼「また会ったね」

京太郎「…はい」

灼「…望みは叶ったでしょう?」

京太郎「あ、ああ…」

灼「……」

京太郎「……」

灼「…何か言うことがあるでしょ?」

京太郎「疑ってマジすみませんでしたっ!」

ここまで
明日の朝か明日中には終わらせる


灼「……」

京太郎「あ、あのさ」

灼「何?」

京太郎「その…俺には何がなんだかさっぱりなんだが」

灼「何が?」

京太郎「お前…昨日言ってたろ?俺の家を貧乏じゃなくするって」

灼「ええ」

京太郎「どうしてああなったんだ?」

灼「…私は、座敷わらしだから」

京太郎「座敷わらし?」

灼「お化けと似たようなもの。力は弱いけど」

京太郎「お、お化けって…ひっ」

灼「怖がらなくてもいい。私、見た目通りひ弱だし」

京太郎「ホントか?嘘じゃないよな?」

灼「…そんなことをする理由がない」

京太郎「…だよな」


灼「…座敷わらしにあった者は、もれなく幸運になれるという」

灼「そしてそれは京太郎、あなたも例外じゃない…だからお家が豊かになった」

京太郎「まだお金は貰えてないけどね」

灼「ただし、それを言いふらしたりしてはいけない」

京太郎「うん。かーちゃんにもとーちゃんにも言われた」

灼「…それならいい」

京太郎「けど俺、アイツらに自慢してやりたいよ」

灼「ダメよ」

京太郎「どうして?」

灼「あなたをバカにした人が、今度はあなたにたかるだけ」

灼「あなたではなく、あなたの家が持つお金目当てに関わってくるわ」

京太郎「…やだな、それ」

灼「でしょ?」


京太郎「それじゃあ俺…どうしたらいいんだよ」

灼「貧乏な家の子が、突然高いおもちゃを買ったりしたら嫌でも目に付く」

灼「そしたらきっと周りは悪く言うわ。京太郎の親が、何か悪い事でもしたんじゃないかって」

灼「…しばらくは今まで通りにするしかない」

京太郎「俺、独りぼっちのままなのか?」

灼「そうは言ってない。でも、家が貧乏じゃなくなっただけ余裕はあるでしょ?」

京太郎「…うん」

灼「貧乏でなくなっても、心が豊かになれるとは限らない。だからまずはゆとりを持つ」

京太郎「ゆとり?それってテレビとかで聞く悪い言葉じゃ」

灼「大人の失敗でそんな風に扱われてるだけ。本当はとてもよい言葉」

灼「…今の京太郎で言うと、これまでより少し誰かに優しくなれること」


京太郎「人に…優しく……?」

灼「人から何かを与えられるだけなのが、一番貧しい」

灼「だけど誰かに優しくしても、豊かにも幸せにもなれるとは限らない」

京太郎「…さっぱりわかんねぇ」

灼「…京太郎は、自分を傷つけた人のようになりたい?」

灼「あなたや、あなたのお父さんとお母さんを傷つけるような人と同じに」

京太郎「…ううん」

京太郎「俺…あんなのと一緒になりたくない。仕返しはしたいけど、そんなのバカらしいじゃんか」

灼「……」

京太郎「灼の言う通りにする。俺、もっと豊かになるよ!」


灼「うん…その意気。でも京太郎、私を呼び捨てするのはいただけない」

京太郎「なんでだ?灼って俺と同じくらいだろ?」

灼「…私はあなたの一つ上」

京太郎「…ちんまいのに?」

灼「ちんまい言うな」ペシッ

京太郎「おうっ」

灼「お化けみたいなのにも歳はある…長幼の序は弁えるべき」

京太郎「ちょうようの、じょ?」

灼「意味合いとしては、年上を敬うべきということ。京太郎も年下が生意気なのは嫌でしょ?」

京太郎「うん」

灼「つまりはそういうこと。そんな訳で京太郎、早速私を灼さんと呼びなさい」

京太郎「…えー」

灼「…貧乏に戻りたいの?」

京太郎「め、めっそうもありませんあらたそっ!」


灼「……」

京太郎「……」

灼「……」

灼「…噛んだ?」

京太郎「噛んでない」

灼「噛んだでしょ?」

京太郎「噛んでないって」

灼「京太郎、嘘をつくのはよくない」

京太郎「だから嘘はついてないって!」

灼「ならもういっぺん」

京太郎「あらたそっ!」

灼「……」

京太郎「……」///

灼「…今、噛んだよね?」

京太郎「……」

京太郎「…あ、あらたそ~」





灼「…京太郎、ちょっと気持ち悪い」

京太郎「しどいっ!」




 ■


京太郎「…なあなあとーちゃん」

京太郎父「なんじゃい」

京太郎「座敷わらしって何?」

京太郎父「妖怪ってやつ…つまりはお化けみたいなもんだな」

京太郎父「悪さをしたらひどい目にあうって伝える為に、人が勝手に想像したものだ。つまり…おとぎ話と一緒さ」

京太郎「桃太郎みたいな?」

京太郎父「ああ」

京太郎「・・・俺、座敷わらしを名乗る子にあったんだけど」

京太郎父「うーん…あながち嘘とは言えないかもな。座敷わらしは、見た者の家を裕福にしてくれるからな」

京太郎「うん」

京太郎父「まー正直胡散臭くも感じるが」

京太郎「なんで?」

京太郎父「座敷わらしは、大体が東北地方で言い伝えになってるもんだ。沖縄とかにも似たようなのがいるみたいだが」

京太郎父「でもこの辺でそんな伝承ないしな…第一お前、座敷わらしは家に現れるもんだぞ?」

京太郎「そうなの?」

京太郎父「座敷って名前にあるくらいだから、大体は建物の中に住んでるはずだ。そういうものだからな」


京太郎「…じゃあ、俺が見たのは」

京太郎父「まあ待て。見てない俺が見ているお前の話を嘘とは言えんだろ」

京太郎「でも…」

京太郎父「座敷わらしだって、いつも家に居るとは限らないんだぜ?」

京太郎父「自分の住処になる家を探しているだけかもしれないし、それとも他に住んでる所があるかもしれない」

京太郎「…なるほど。でもそれだとおかしくない?」

京太郎父「何がだ?」

京太郎「それならウチの近くにだって、大金持ちがいるかもしれないじゃないか」

京太郎「とーちゃんみたいに宝くじが当たったりして、お金がいっぱい手に入った家が」

京太郎父「かもしれんな。周りにたかられないよう隠してるだろうが」

京太郎「…たかられるのってそんなに怖いの?」

京太郎父「ああ怖いとも。外国じゃ8億なんか目じゃないお金を持った人が、なんやかんやで早死にしちまった」

京太郎父「…金だけじゃ幸せにはなれないんだよ。幸せにはなりやすいが」

京太郎「……」



 ■


京太郎「…灼さんはどこから来たの?」

灼「何なの急に」

京太郎「とーちゃんがさ、座敷わらしはこの辺じゃ見かけないものだってさ」

灼「…そうね」

京太郎「やっぱりそうなんだ」

灼「…はぐれ者だからね。それに私、まっとうな座敷わらしでもないの」

京太郎「まっとうじゃない?どうして?灼さんは俺んちを金持ちにしてくれたろ?」

灼「うん。まあ、そうなんだけど」

京太郎「ならまっとうでいいじゃんか。灼さんのお陰で俺、幸せになりそうだし」

灼「幸せに、なりそう?」

京太郎「親父もあなたとおんなじこと言ってたんだ。金だけじゃ人は幸せにはなれないって」

京太郎「ただ…お金があれば幸せになりやすいとも言ってたけど」

灼「そうね。それはお父さんが正しいわ」


京太郎「…一つ気になってたんだけどさ」

灼「何?」

京太郎「お化けって、歳をとるものなの?」

灼「普通ならとらない」

京太郎「そうなんだ。どうも引っかかっててさ」

灼「さっきも言った。私ははぐれ者だって」

京太郎「その…さっきから言ってるはぐれ者ってなんなんだ?独りぼっちってことか?」

灼「そうじゃない…いや、そうかもしれない」

京太郎「…どういうこと?」

灼「つまらない意地を張って、大好きな人に会おうとしない」

灼「そのせいで友達を作るチャンスを失くして、余計に悲しくなってしまう」

灼「…大好きな人が、自分の思い通りになってくれない。だから私は会おうとしないの」

京太郎「なんでだ?その人のこと、好きなんだろ?」

灼「…好きだからこそ、ダメになってるその人のことを見たくない」

灼「あの人は…みんなの憧れだった。たとえ負けてしまったって、私の中でそれは少しも揺らがなかった」

灼「…ピーターパンみたいに、並み居る敵をばったばったと倒していくその強さが好きだったから」

京太郎「……」

灼「そんな人が、一度勝負に負けたからってそのまま逃げ出すなんて…嫌でしょう?」


京太郎「……」

京太郎「…なんだかよく分かんないけど、灼さんは意地を張って独りになってるんだよな?」

灼「…そう」

京太郎「…よし、決めた!」

京太郎「だったら俺が、灼さんを独りぼっちじゃなくしてやるよ!」

灼「…え?」

京太郎「とりあえずは、今からどっかで遊んでこようか!」

ギュッ、グイグイッ

灼「ちょ、ちょっと!」

京太郎「小遣いだって少しは貰ってるし、多少は都合もつくさ」

京太郎「…とにかく一緒に遊ぼうぜ!今みたいにうじうじするのが、一番よくないだろうからな!」

灼「……」

灼(…わずらわし)

灼(でもなんでだろ。こんな風にされるのって、嫌いじゃない)

ここまで
キャラソンはあらたそのが一番でした

間に合うかな…間に合わせるさ
1時間以内に投下予定


タッタッタッ

灼「……」

京太郎「……」

灼「…一体どこへ行く気なの?」

京太郎「……」

灼「ねえってば」

京太郎「……」

灼「……」

京太郎「…考えてなかった」

灼「…アホ」ペシッ

京太郎「ぐへっ」


灼「仕方ない。代わりに私が考える」

京太郎「かたじけない」

灼「…何その言い方」

京太郎「お侍がテレビで言ってた!」

灼「時代劇が好きなの?」

京太郎「いんや。でもチャンバラは好きだな!」

京太郎「日曜朝のヒーローみたいに、敵をどんどん倒していくのがカッコいいから」

灼「…そうなんだ」

京太郎「個人的には、血がもっとドバーっと出てもいいと思うけどさ」

灼「…それは物騒すぎる」


灼「…あ、そうだ」

京太郎「何か思いついたのか?」

灼「うん。京太郎、この辺にボウリング場ってある?」

京太郎「ボウリング?」

灼「…少し変わった形をした棒を、硬いボールを転がして倒すスポーツのこと」

京太郎「それって楽しい?」

灼「…楽しいに決まってる」

京太郎「そっか。なら行こうか、ボウリング場」

灼「ん」


ゴロゴロゴロゴロ...カーン!

京太郎「…おお」

灼「あの棒はピンって言うの。アレを上手く倒して点数を競うのがボウリング」

京太郎「あんな風にピンを吹っ飛ばせたら、めっちゃ気持ちいいだろうなー」

灼「それは大人じゃないと無理。それによく見て」

京太郎「見てってどこを…あ!」

灼「両端のピンが残っちゃってる。アレを倒すのは、たとえプロの選手でも大変」

京太郎「そうなんだ…ありゃ、結局一本倒すので精一杯か」

灼「勢いよく投げたって倒れるとは限らない…それがボウリング」

京太郎「なるほどなー」

灼「説明はおいおいしていく。とりあえずは3ゲームくらいやろうかしら」


京太郎「…シューズ代高ぇ」

灼「貴重な収入源だからね。マイシューズを買えば、一々レンタルしないで済む」

京太郎「そっちはシューズ持ってるからいいよなー…ずるい」

灼「機会があったら頼めばいい」

京太郎「そうなんだけど、小遣い稼ぐのめんどくさくて」

灼「え、月の小遣いは?」

京太郎「家の手伝いしてなきゃ1000円」

灼「…私と一緒か」

京太郎「金が入ってもこの辺は変わらなかったよ…」

灼「世の中そんなものだよ」


京太郎「…んぐぐ」

灼「…何やってるの?」

京太郎「見りゃ分かるだろ。重い玉を投げたいんだよ」

京太郎「重い玉なら勢いなくても全部倒せるし…ぎぎぎ」

灼「怪我するからやめなさい」

京太郎「えー」

灼「両手でそれじゃ、投げるなんて無理に決まってる」

京太郎「…くそう」

灼「私たちじゃ、この4ポンドでもキツい。持ってみて」スッ

京太郎「う、結構重い…」ズシッ

灼「普通はそれを指だけで握りこまなきゃいけない…出来る?」

京太郎「な、なんとか。それにしても…灼さんは力持ちだな」

灼「…私の家、ボウリング場を営んでるから」

京太郎「なるほど」


ゴロゴロゴロ...スカーン!

京太郎「げ…またストライクかよ」

灼「…京太郎も初めてにしては筋がいい」

京太郎「つってもさーガターにしないのが精一杯だよ」

灼「ガター防止のカバーとかあれば、今より楽に出来る。受付でも言ってたでしょ?」

京太郎「それはやだ。なんかカッコ悪いし」

灼「…そう言うと思ってた」

京太郎「それよりさ、灼さんみたいにボールを曲げたりって俺にも出来ないかな?」

灼「…まずは慣れる。慣れなきゃずっとガターだから」

京太郎「…へーい」


ゴロゴロゴロ...スカーン!

ゴロゴロゴロ..ストン

ゴロゴロゴロ...スカーン!

ゴロゴロゴロ..ストン

ゴロゴロゴロ...スカーン!

ゴロゴロゴロ...スカーン!

ゴロゴロゴロ..ストン






京太郎「…全ッ然曲がらねぇ」

灼「そうだね」

京太郎「ちっくしょー…いつか曲げてみせるんだからな!」

灼「…うん、その意気」ニコッ

京太郎「……」

灼「どうかした?」

京太郎「いや…なんだその、灼さんでもそんな風に笑うんだなって」

灼「…変かな?」

京太郎「ううん。あらたそは可愛いよ!」

灼「……」

京太郎「…すみません、噛んじゃいました」

灼「…そう」


灼「…京太郎は元気だね」

京太郎「あたぼうよ!この間まで元気が取り得の貧乏少年だったからな!!」

灼「その割にはえらくしょげてたけど」

京太郎「…ほっとけ!」

灼「……」

京太郎「どしたー?」

灼「…あの人も、京太郎みたいに元気だったらよかったのに」

京太郎「あの人って、この前大好きだって言ってた人か?」

灼「うん…」

京太郎「その人もしょげちゃってるのか?」

灼「そう。随分しょげちゃってる」

京太郎「そっかー。早く元気になるといいな」

灼「その言い方だと、ハルちゃんが病気みたいだからやめて」

京太郎「…ハルちゃん?」

灼「…い、今のは忘れて!」

>>717
10年前→7年前

中断
親指入れなきゃボールは曲がりやすいけど、その分持つのが結構大変なんですよねー

>>754
7年前→約5年前

再開
…なんで加賀さんの時報で荒れるんだ?


 ■

「…意識は戻らないんですか?」

「身体的異常は何もないんです。ただ、目を覚まさないだけで」

「どうして?」

「無責任な話になりますが、私では理解出来かねます。いや、ひょっとしたら現代の医学では」

「医学でも、娘の異常をどうにも出来ないと?」

「…かもしれません。こればかりはどうにも」

「……」

「…恐縮ですが、最近娘さんに何かありましたか?」

「いえ。どうしてそんなことを?」

「可能性があるとすれば、恐らくは精神的なものだと思われますので」

「娘はいじめなどに遭ってないんですが…あっ」

「何か心当たりが?」

「…家業のボウリング場が、最近になって廃業寸前になったんです」

「ですがその経営不振は、数日後に解消された…株取引が上手くいきましてね」

「……」

「大きな声では言えませんが、そのおかげで膨大な利益を得たんです。それで負債も完済できました」

「娘が…灼が今のようになったのもその日からです」



………


……







京太郎「そう言えば灼さんって、今はどこに住んでるんだ?」

灼「…ここよりずっと遠い所」

京太郎「えっ、この辺には住んでないの?」

灼「うん」

京太郎「ずっと遠い所と言うと…やっぱり県外?」

灼「そう」

京太郎「まあ、神出鬼没な人だからなアンタは。どこから来たっておかしくないさ」

灼「…お化けみたいなものだしね」

京太郎「一緒にいるけどそんな風には思わないな。普通の女の子だ」

灼「…一つ聞いてもいいかな」

京太郎「いいけど」

灼「本当は私、普通の人間だって言ったら信じてくれる?」

京太郎「……」

灼「…ねぇ、どうなの京太郎?」



京太郎「…うん、考えてみたがさっぱりわかんねえ!」


灼「…答えになってない」

京太郎「俺としちゃ、そんなのどうだっていいんだ」

灼「どうでもいいって…そんな」

京太郎「大事なのはさ、今ここに灼さんがいて、こうして話したり触れ合ったり出来ることなんだ」

灼「……」

京太郎「…少なくとも、俺はそれでいい。灼さんは?」

灼「…私は」

京太郎「ボウリングの時、手取り足取り教えてくれたじゃん。文字通り…いや、あれは見た通りだな」

灼「……」

京太郎「…なあ灼さん。どうなんだ?」

灼「……」

灼「…私も」

灼「私も…今はそれでいいかなって思う。本当は帰らなきゃいけないけど」


京太郎「…帰らなきゃ?」

灼「実は私、家出の最中なんだ」

京太郎「ひょっとして…俺と同じ理由で?」

灼「ううん、そうじゃない。むしろ私は家出なんかしたくなかった」

灼「でもね…実家のボウリング場が借金で潰れそうになっちゃって。だから私は必死に願った」

灼「『大好きなボウリング場がなくなって、おばあちゃんが悲しい思いをしませんように』って」

京太郎「……」

灼「前にも言ったけど、私は幽霊みたいなもの。だから元に…人間に戻らなきゃいけない」

灼「そう分かっているはずなのに、戻れない。お父さんもお母さんも、そしておばあちゃんも私を心配してるのにね」

京太郎「…どうしたら」

京太郎「どうしたら人間に戻れるんだよ、灼さん」

灼「…分からない」


京太郎「……」

灼「戻れないんじゃなくて、戻れないのかもしれない。戻ったらきっと寂しい思いをするだろうから」

京太郎「その…ハルちゃんって人のことですか?」

灼「そう。その人は麻雀教室を開いてるの」

灼「知り合いもそこに通っててね…ごくたまにそこの話をしてくることがある」

灼「私にとってハルちゃんは憧れというか理想そのものだったし、勿論会って麻雀を教わりたかった」

京太郎「…ダメになってる姿を見たくないって、そう言ってたっけ」

灼「…そう。私はハルちゃんのことを、物語の主人公みたいに思ってた」

灼「強くて、相手が誰であろうと勇敢に立ち向かって…そしていつも勝って来たんだ」

灼「そんな人が、より強いものに負かされた時…ううん、負かされてから立ち直らなかった時、私の夢は潰れたの」

京太郎「…ああそっか」

灼「?」

京太郎「灼さん、その人から離れたかったんだ」


灼「ち、違う!」

京太郎「違わないだろ。どういう訳か知らないけど、灼さんは幽霊…座敷わらしになっちまって」

京太郎「そんでもって遠い所からこの長野までやってきた。家出なんかする気もないのに」

灼「…違うもん」

京太郎「ならどうだって言うんだ?」

灼「……」

灼「……」

灼「ハルちゃんが…もうじき居なくなるって聞いたの」

京太郎「!」

灼「詳しい話は聞いてないけど、もうすぐ遠い所に行っちゃうかもって」

京太郎「…なら」

灼「今更…会いになんか行けないよ!私はずっとハルちゃんのことを避けていたのに!!」

灼「弱虫なあの人になんて、会いに行きたくなかったって!!!」

京太郎「…だから会いたくないって?」

灼「……」

京太郎「そんなわけない。だってアンタ…泣いてんじゃんか」

灼「…泣いてなんかない」

京太郎「…分からず屋。それならどうして辛そうなんだよ」

灼「辛そう?私が?」

京太郎「ああ、何かを堪えてるっていうか…ハルちゃんに会いたくて仕方ないんじゃないのか?」


灼「……」

灼「…私、別に会いたくなんか」

京太郎「素直になれって」

ポンッ

灼「ひぅっ…な、何を……」

京太郎「…分からず屋のお姉さんをあやしてるんだよ」

灼「…そ、そんなのいらな」

ナデナデ

灼「…あふぅ」

京太郎「…なあ、会いに行ってやれって」

灼「……」

京太郎「今会わなきゃ、もう会えないかもしれないんだぞ?」

京太郎「…俺のことは気にすんな。もう二度と、寂しいだなんて思いやしないから」

灼「…京太郎」

京太郎「俺のことがほんの少し気がかりで…だからここから離れようとしない。違うか?」

灼「…そ、そんなのあなたの自惚れ」

京太郎「なら帰れよ。そして会いに行ってくれ…大好きな人なんだろ?」

灼「……」

京太郎「…なあ」



灼「――わかった。私、帰ってハルちゃんに会うよ」


スゥゥゥゥ...

京太郎「……」

灼「…さよならは言わない。だって、送り出したのは京太郎だから」

京太郎「…ああ」

灼「……」

京太郎「元気でな、灼さん」

灼「…京太郎」

京太郎「ん?」

灼「…みっともないよ。そんなに大泣きしちゃってさ」

京太郎「なっ、泣いてなんか…泣いてなんか、いないって…うう……」

灼「……」

...ゴッ

灼「…これを」

京太郎「…ピンク色の、ネクタイ?」

灼「それは私がハルちゃんにもらったネクタイ…そのレプリカ」

京太郎「レプリカ?」

灼「複製品…テレビとかで聞く偽ブランドの商品みたいなもの」

京太郎「う…そう聞くとなんかやだな」

灼「けど、それに込めた想いは嘘じゃない。ほんの少しの間だったけど…私はあなたに会えてよかったと思う」

灼「だから私、一番大事にしてるものと同じのをあげたいって……」

京太郎「……」

灼「…やっぱり、こんなのはいらない?」

京太郎「…そんなことない。絶対に、そんなことはない」

灼「……」

京太郎「…いつか…いつかまた会えるよな?」

灼「…分からない」

京太郎「お、おい!」

灼「でもね京太郎、私もまた会えるって信じてる。だから…さよならは言わない」

灼「…またね」

京太郎「ああ、またな!」



 ■


灼「…」

「あ、灼……!」

灼「…待っててくれたんだ」

「勿論だとも」

「ずっと心配してた。正直、もう目覚めないんじゃないかとも思ってた」

灼「お父さん、お母さん、そしてお婆ちゃん…ごめんね。心配掛けちゃって」

公子「…もう一人」

灼「?」

公子「もう一人、灼を待っている子が居るよ」



玄「...zzz」



灼「…寝てる」

「ああ。玄ちゃんは昨日の晩からずっと居たからな」

「あなたのことを心配して眠れなかったみたいね…いい子じゃない」

公子「…大事にしてあげるんだよ」

灼「うん…」



 ■


灼「…そっか。あの人は行っちゃったんだ」

玄「…ごめんね」

灼「玄が謝ることじゃないよ。言ってくれても、意固地を張ったままだろうし」

灼「…事実私は、今でも目を逸らそうとしてる」

玄「灼ちゃん……」

灼「…きっとこの先もわだかまりはなくならない」

灼「昔あの人が逃げ出してしまったのは事実だし、それを悪く思ってることも変わらない」

灼「結局のところ、踏ん切りなんかつけられないの…あの輝かしい過去には」

玄「……」

灼「玄…私待つよ。あの人に会える日を、ずっと待ってる」






灼(京太郎…これでよかったんだよね?)

灼(――きっと、また会えるよね?)

>>755
約5年前→3、4年前


京太郎「……」

あれから随分経った。

灼にはまだ会えていない。

彼女だけが理由じゃないけど、なんやかんやで俺は麻雀をしている。

滅茶苦茶弱いし…若干気持ちは萎え気味なんだが。

…けど。

けど、またいつか会おうって約束したから。

麻雀をやってれば、ひょっとしたら灼に会えるんじゃないかって…そう思って、俺は今ここに居る。

仲間達が目指し、たどり着いたインハイの舞台へと。

俺はただついて来ただけだが…ここにいるからには、自分に出来ることは精一杯やりたい。

…でなきゃ俺、灼にあわせる顔がないから。

――このネクタイに誓って、みっともない真似は絶対にしたくない。

そう思い、俺はそれを強く握り締めた。






「…まさかね。こんな所に居たんだ、京太郎」




京太郎「…え」

「久し振りだね。また会えて嬉しい」

京太郎「灼さん…ええ、こちらこそ。大好きな人には会えましたか?」

灼「うん。今は一緒にインハイを目指してる」

京太郎「…よかった」

灼「そう言う京太郎は?」

京太郎「麻雀はへっぽこでして…走りとして頑張ってます」

灼「…そう」

京太郎「それよりも…今は敵同士になっちゃいましたね」

灼「ええ」

京太郎「その俺がこう言うのもなんですけど…どうか頑張って下さい」

灼「…そちらこそ。当たるとすれば、それは決勝だけだから」

京太郎「はい。雑用がせいぜいですけど、俺…精一杯励みます!」


灼「…そのネクタイ、持っていてくれたんだ」

京太郎「大事なものですから」

灼「仮にも敵から貰ったものだし、ケチがつきそうだけど」

京太郎「ケチなんかつけさせませんよ。これがなきゃ、俺は麻雀なんかしてなかったかもしれない」

灼「そう…ちょっとだけ嬉しいかも」

京太郎「・・・インハイが終わったら、また二人でボウリングでもしましょうよ」

京太郎「――今度は負けませんよ?」

灼「…望むところ」















玄「あ、あわわ…」

玄(な、なんだか見てはいけないものを見てしまったような気がするよー)



カン

どうしよう…最近俺って嘘ばっかりだ

では


咲「京ちゃんってさ、何となくだけど気が合いそうだよね」

京太郎「誰に?」

咲「白糸台の大星さんに」

京太郎「そうか?」

咲「なんていうかね…兄妹みたいな感じがする」

京太郎「…生まれは向こうの方が早いぞ?」

咲「そうなんだけどね」

京太郎「まー身長だけで見れば、妹のように見えなくもないけど」

咲「でしょ?」

京太郎「でもそれって、お前や優希にだって言えることだしなー」

咲「えぇー…それって変じゃない?」

咲「私の身長、和ちゃんより同じくらいなんだよ?」

京太郎「そうなんだよなぁ…胸のサイズにゃ圧倒的なまでの差があるけど」

咲「…いやらしい」

京太郎「あんなものを前にしたら、いやらしくもなるだろうさ」

咲「ふーん。なら京ちゃんって弘世さんなんかが好きそうだよね」

京太郎「まーな。後は渋谷さんも」

咲「けど…やっぱり京ちゃんとしっくりくるのは大星さんかな」

京太郎「…その、正直どうかなって思うぜ?知らない者同士でくっつけるなんてさ」

咲「そんな下世話なものじゃないよ。並べたら見栄えが良さそうってだけで」

京太郎「同じ金髪だからか?」

咲「うん」

京太郎「それだったら俺、鶴賀の妹尾さんと並べてほしいんだけどな」

咲「…胸があるから?」

京太郎「ああ!」

咲「即答かぁ…京ちゃんってホントそればっかなんだね」

京太郎「巨乳にはロマンがあるからな」

咲「それなら瑞原プロは?」

京太郎「キツい。相方の戒能プロならあり」

咲「そっかー。京ちゃんって、ああいうおかしな言葉遣いの人がいいんだ」

京太郎「…やっぱナシで」





咲(はぁ…こんな調子じゃいつまで経っても京ちゃんにお似合いの相手見つからないよ)

咲(インハイに来たの、その為でもあるのに……)



カンッ



京太郎「……」


京太郎「ふむ。今日も雑用ですか、俺は」


京太郎「ホントは麻雀やりたいんだけどなー。負けたっていいから」


京太郎「……」


京太郎「…生きるんって、つらいなあ」


京太郎「この寒い中で買出しだから尚更だぜ…俺、麻雀部員なんだよな?あそこに居てもいいんだよな?」


京太郎「…バカだなあ、俺」


京太郎「誰も聞いちゃいないのに…聞いてくれはしないのに―――」



京太郎「……」


京太郎「…結構時間食っちまったな」


京太郎「八百屋のおっちゃんおばちゃん、随分優しくしてくれたなあ」


京太郎「『女の尻に敷かれちゃダメだ』とか『男が率先して買出しとは…時代は変わったねえ』とか、色々言われたし」


京太郎「…これが部活の買出しだって知ったら、二人はどんな顔をするんだろう?」


京太郎「……」


京太郎「いや、やめとこう。ろくなことにならないだろうし」


京太郎「…戻ろう」


一太「……」

京太郎「……」

一太「…買出しかい?」

京太郎「…はい」

一太「この寒い中、しかも多くの荷物を持って…感心するよ」

京太郎「まあ、それが仕事ですので」

一太「…僕は君が、雑用ではなく部員だと聞いているが?」

京太郎「はい。相違ありません」

一太「……」

一太「…辛くはないのか?」

京太郎「辛いです。一人で愚痴をこぼすくらいですから」

京太郎「でも…それが俺の仕事なんです。投げだすなんて出来ません」

一太「……」

京太郎「その…もう、よろしいですか?」


一太「……」

京太郎「何もないなら、自分はこれで失礼しますね」

一太「…待ってくれ!」

京太郎「……」

一太「須賀君…君は、一体何のために働いている?」

一太「君のことを、きっと5人はどうとも思っていない。役に立つから置いてるだけだ」

一太「君個人のことなど、全く見向きもしてないんだぞ……!!」

京太郎「…それでも」

京太郎「それでもみんなが、俺を必要としてくれますから」

一太「バカな…」

京太郎「それとも副会長。あなたは俺を必要としてくれますか?」

一太「!?」

京太郎「……」

一太「…その、なんだ…僕は……」

京太郎「…あなたじゃ俺の居場所になってくれない」

京太郎「―――さよなら」


それからしばらくして、須賀京太郎は行方不明になった。

行方はようとして知れない。

二年の春を迎えて、麻雀部には須賀に代わる雑用が多くやってきた。

結果彼が居なくても、レギュラーは練習に集中できるようになった。

そうなればお払い箱だ。

元々女子部員ばかりの部活に、ただ一人男が居るのは難しい。

…残念ながら、須賀京太郎にそうするだけのバイタリティはなかった。






『誰でもいい。必要だって言ってくれ』

書置きにそう遺して去っていった須賀に、手を差し伸べることは出来なかったんだろうか。

その手がたとえ、彼自身に拒まれたとしても。



             救われぬ者に救いの手を

                              龍門渕グループ


 【モンブチ】

京太郎「えーそれでは。皆さんお疲れ様でした!」

京太郎「…乾杯!」

「かんぱーい!」

京太郎「いやー…副会長の演技や語りは圧巻でしたね」

ハギヨシ「ええ、それだけ竹井さんの人を見る目がよかったということでもあるでしょうが」

一太「突然話を持ってこられて最初はおったまげたけど、出れてよかったよ」

京太郎「ですよねー!おまけにCMの反響が凄かったから、出演料も結構上がるそうですよ!!」

一太「そりゃいいねぇ!」

ハギヨシ「…お二人の働きに対する正当な報酬かと存じます」

一太「い、いえ。萩原さんにそこまで仰っていただかなくても…」

京太郎「そうですよハギヨシさん。撮影とか大体のことは、全部ハギヨシさんがやってくれたんですから…」

ハギヨシ「恐悦至極」

京太郎「…それはそうと、お金入ったらどうします?」

一太「折角だし旅行でも行こうじゃないか。女社会じゃ、話せないこと沢山あるだろう?」

京太郎「いいっすねー!どうせなら知り合いも誘っちゃいましょうか?」

一太「ああ、それがいい。折角だし、生徒会の面子からも何人か誘って…」


「ふーん、随分楽しそうね。で、その生徒会の面子には…当然私も入っているわよね?」


一太「…えっ?」

久「……」ゴゴゴ

京太郎「ぶ、部長…どうしてここが」

久「龍門渕さんから聞いたわ。CMのお陰で、龍門渕グループがかなり目立ったって上機嫌だったわ」


京太郎「……」ダラダラ

一太「……」ダラダラ

久「で、どうしてこんなものを?」

京太郎「えーそのですね、近年の労働者待遇に対するあり方を啓蒙しようと云う試みを」

一太「その…決して会長のことを非難しようとか、そういうことではないんですよ」

久「…私の目を見て言ってごらんなさい?」ギロッ

京太郎「ひっ!」

一太「す、すみません…僕達魔がさしたんです。なんかもう色々溜まってて」

京太郎「…どうか許していただけないでしょうか?」

久「……」ゴゴゴゴ

京太郎「(あ、ダメだこりゃ)」

一太「(折檻フルコースは確定ですね)」





久「…どうして」ウルッ

「「?」」

久「どうして言ってくれなかったのよぉ…私、そんなに信用ないの……?」ショボン





「「((かわいい))」」




―――その後、労働側と雇用側が歩み寄ったらというCMも作られたそうです。

「人にやさしく。お姉さんとの約束だよっ」

…なお、これが切欠で竹井久は第二のはやりんを目指すことになったとかならなかったとか。

                                              おしまい

放送されたCMでは、顔やら名前やらは変えられてるとかなんとか
勿論全部ハギヨシさんがやりました

では

なんかネタください

>>801

のどっちと京ちゃんのイチャイチャ


1/5

和「…ふぇぇ」

京太郎「どしたー?」

和「咲さんが構ってくれません」

京太郎「そっかー」

和「そっかー、じゃありませんよ。由々しき事態なんですから!」

京太郎「大方本でも読んでたんだろ?」

和「…よく分かりますね」

京太郎「咲とは長い付き合いだからなあ」

和「そこまで懇意にしていながら、どうして付き合っていないのかは理解しかねます」

京太郎「そうかな?」

和「そうですよ。咲さんはあんなに可愛いのに」

京太郎「…一つ例え話をしようか。和はさ、エトペンが大好きだよな」

和「ええ。エトペンのない生活なんてありえません」

京太郎「じゃあさ、その可愛いエトペンが実在したら付き合ってみようと思うか?」

和「……」

和「…その、エトペンは大好きですけど…どちらかと言えばそれは愛玩の対象としてで……」

京太郎「つまりはそういうことだ。聞こえはよくないけどな」

和「愛の形は人それぞれ…と言うことですね?」

京太郎「まあ、合ってるっちゃ合ってるかな」


2/5

和「すーがーくーんー」

京太郎「なんぞ」

和「その…優希に嫌われてしまいました」

京太郎「えっ」

和「『もうその話はうんざりだじょ!』ってバッサリ切られまして」

京太郎「…一体何を話したんだ?」

和「優希が日頃からよく『のどちゃんは私の嫁』みたいなことを言ってくるんですよ」

京太郎「ほう…(優希の奴、今日はタコス抜きにしてやろう)」

和「それに対抗して私は、向こうにある話を振るようになりました。そう…iPS細胞のことなどです」

和「冗談と言えど、あのような発言は軽々しくすべきではないと戒めるために」

京太郎「……」ポカン

和「そのうち嫁呼ばわりすることも減ってきまして…性的少数者のこととか、色々な話をしましたしね」

和「私としては、優希が知らず知らずに誰かを傷付けないようにと思って」

京太郎「あー…あのな和」

和「はい?」

京太郎「知識の話より、どうしてそんな話題を出すのか伝えた方がよかったんじゃないかと思うんだが…」


3/5

和「おお、あれがカピバラですか」

京太郎「可愛いだろ?」

和「はい…可愛すぎてもふもふしたくなります」

京太郎「…よかったら触ってみるか?」

和「え、いいんですか!」

京太郎「ただし口元には注意してくれよな。汚いから」

和「…どうして口元なんです?」

京太郎「えーとな…カピバラって消化の為にウンコ食うんだよ」

和「…excrement?」

京太郎「yes」

和「oh...」

京太郎「でもな和。可愛いのには間違いないから嫌わないでやってくれ」

和「…まさか。そんなことはありえません」

京太郎「え?」

和「だってあのカピちゃんはあなたの…なんですから」

京太郎「カピが俺の…なんだって?」

和「…内緒です」


4/5

和「…須賀君」

京太郎「ん?」

和「ふふ、呼んでみただけ♪」

京太郎「…今日の和はどこか変だな」

和「それは違いますよ」

京太郎「何が?」

和「今日の私がおかしいんじゃありません…須賀君、あなたの前だからこそおかしくなっちゃうんです」

京太郎「…えっ」

和「もう…全部言わなきゃ分からないんですか?」

京太郎「い、いやいや…そんなんじゃない。だけど唐突過ぎてさ」

和「…あなたは何でも聞いてくれた」

京太郎「何でもじゃないさ。相手がお前だったから…あ」

和「なら…答えはもう出てますよね?」

京太郎「…ああ。正直まだ信じられねーが」

和「多分ですけど、こういう時って案外そんなものなんじゃないでしょうか?」

京太郎「ははっ、そうかもな」


5/5

和「…あの」

京太郎「なんだよ。そんなに改まっちゃってさ」

和「その…野暮かもしれませんけど、須賀君のこと…京太郎って呼んでもいいでしょうか?」

京太郎「……」

和「……」

京太郎「……」

和「……」フルフル










京太郎「…ばーか。そんなことこそ、今更聞くまでもないだろう?」

>>801でした
なんつーか、自分は定型になりがちなのでヒヤヒヤしちゃう

書きそびれた絹恵ちゃんのSSはいつ書けばいいんだろう

…りょうたんイェイ~


私立クラインヴァルド(小さな林)学園。
麻雀好きな学生なら誰でもウェルカムなすんばらしい所だ。

――これは、そこで日々を過ごす或る生徒と教師の物語である。


京太郎「…わかんねー、さっぱりわかんねー」

咏「どうしたよ京太郎」

京太郎「あ、咏せんせー」

咏「私の口癖真似たって、お前が麻雀下手くそなのは変わらんよ?」

京太郎「…そういうのじゃありませんよ。ほらあれ」

咏「ん?」


竜華「ふふ、怜ちゃんはほんまかわええわー」

竜華「またまたー。そない謙遜せんでもええやん」

竜華「今日の対局でもよろしくたのむでー怜ちゃん」


咏「…………」

京太郎「で、どうなんですかアレは」

咏「いや…どうですかじゃなくてさ。あの子ってさ、頭おかしいんじゃねーの……」

京太郎「…あ」

咏「どしたー?」

京太郎「せんせーって、アレが見えてないんですね?」

咏「なんだよアレって」

京太郎「そんな時はコレ!熊倉印の特製モノクル!!」

咏「いや、私の質問に答えろって」

京太郎「口で説明するより見たほうが早いですって。ほら」

咏「…しょうがねーなー」スチャッ


怜ちゃん『もー竜華はうちがおらんとホンマだめやなー』

竜華「そりゃこっちのセリフやで」

怜ちゃん『そう言いつつも毎回頼りにしとるやん』

竜華「だって楽に通しが出来て勝ちやすいし…」

怜ちゃん『うちは無線か何かか!』

竜華「無線っちゅーか…ある意味伝書鳩?」

怜『…ないわあ』

竜華「何でもええやん。とにかく勝てばええねん何を使おうが」


咏「……」

京太郎「……」

咏「…なあ」

京太郎「はい」

咏「はいじゃないが。思いっきりイカサマしてるじゃんアイツら」

京太郎「そうですね」

咏「…お前だって麻雀好きなんだろ?」

京太郎「ええ、まあ。そうですね」

咏「ならああいうのは許しちゃいけないと思うんだが」

京太郎「そう言われましてもねー…咲なんかはもっとズルいですし」

咏「あーそれを言っちゃう、言っちゃいますかー」


京太郎「わーすげー」

咏「どしたん?」

京太郎「だって見てくださいよアレ。凄いじゃないですか」

咏「確かに凄いなー神代の手牌」

京太郎「そうじゃなくて…何かヤバそうなのが後ろにいるんですよ」

咏「この前の千里山みたいなのかー?」

京太郎「あんなの目じゃないですよ」

咏「マジか」

京太郎「マジです」

咏「…まあいいさ。見ればわかんだろ、ほら」

京太郎「はい。熊倉印の特製アングル・改です」

咏「……」

咏「…その、改って何だ改って。前のでいいじゃん」

京太郎「あーアレなら割れちゃいました」

咏「割れた!?」

京太郎「この前小鍛治先生に貸してみたんですが、触れた途端粉々になっちゃいまして」

咏「…どんだけだよ」スチャッ


小蒔「ええと…これはどの牌を切ればよいのでしょう?」

『ククク…倍プッシュだ』

『フフ…何を怯えているのだ迷える子羊よ。怖がらなくてもいい』

小蒔「いえ、ですから私の質問に答えて」

『どいつもこいつも…地獄に落ちやがれっ………!』

『配牌は神の采配。言わば神の意思』

小蒔「…もういいです」


咏「……」

京太郎「どうでした?」

咏「…どうしたもこうしたもねーだろ」

京太郎「ですよねぇ」

咏「清廉潔白を絵に描いたような子だって思ってたんだがねぃ」

京太郎「いやー世の中分からないもんですねー」

咏「…あっ」



小蒔(?)「ロン、48000…トビですね」

恭子「…はい(普通の麻雀させてーな)」



京太郎「…あの黒ずくめの人は何だったんでしょうか」ガクブル

咏「さあ?」


京太郎「…せんせー」

咏「幽霊の話なら聞かんよー?」

京太郎「まだ何も言ってませんってば」

咏「こんな時に振られる話は大体決まってるし」

京太郎「うーん。それは否定出来ないっすね」

咏「だろ?」

京太郎「しかしですね咏せんせー。今回のは見過ごせないと思いますよ?」

咏「なんでさ?」スチャッ

京太郎「いや、だってアレは…」


透華「…は、原村和」ハァハァ

桃子「先輩…今日も素敵っす……」ハァハァ

聡「数絵よ。私は今日もお前の艶姿を見ているぞ」カシャカシャ

一太「穏乃ちゃん、由暉子ちゃん、初美ちゃん…そして衣ちゃん……」

一太「…初美ちゃんに至っては合法ロリ。うん、実にいい…スケッチのしがいがある」カキカキ...


咏「……」

京太郎「ね、ほっといたらダメでしょ?」

咏「…何だアイツら」

京太郎「ただの変態ですが」

咏「見れば分かる!そうじゃなくて、どうしてアレをお前が何とかしないんだよ!!」

京太郎「俺がですか?怖いしやですよそんなの」

咏「…おい」

京太郎「ですからせんせーに助けを求めようと」

咏「そのタッパは飾りか!?」



私立クラインヴァルド学園。
変人や変態が多く、周りからはとかく敬遠されがちな所である。

カンッ

※実在の福祉専門学校、小林学園とは一切関係ありません

ぶっちゃけ竜華や姫様なら相手の手牌くらいは見れそうだよね…野暮だけど

でも姫様神降ろし中って本人寝てるだけなのよね…
おつ

>>826
アレに関しちゃ俺は若干懐疑的です
今回のは姫様がもし起きてたらってことで一つ


咲「今日って京ちゃんの誕生日なんだねー」

京太郎「ああ」

咲「…今の今まで忘れてたよ」

京太郎「おいおい」

咲「でも思い出せたからいいでしょ?」

京太郎「付き合いの割に薄情過ぎる気はするが」

咲「そんな大袈裟な」

京太郎「だってさ、その口ぶりだと誕生日プレゼントだって用意してないんだろ?」

咲「してるよ」

京太郎「えっ」

咲「えっじゃないよ。私も鬼や部長じゃないんだよ?」

京太郎「…そこで部長を引き合いに出しちゃうかぁ」


咲「まあとにかく、お誕生日おめでとう。京ちゃん」

京太郎「おう…で、これは何だ?」

咲「何ってお弁当だけど」

京太郎「…まさか弁当を作ってもらえるとはな」

咲「京ちゃん、こういうのには縁がないからね」

京太郎「ほっとけ」

咲「かわいそうなあなたの為に、腕によりをかけて作ったのです!」

京太郎「うん。最初の方が余計だな」

咲「事実だもん」

京太郎「まあそうなんだが(どうせなら和に作ってもらえたらなあ)」ボソッ

咲「…京ちゃん」ギロッ

京太郎「な、なんだよ」アタフタ

咲「一生懸命作ったからさ、美味しく食べてね?」

京太郎「…うん」


【屋上】

京太郎「……」パクパク

「お前が弁当なんて珍しいな、京太郎」

京太郎「まあな」

「その弁当、誰に作ってもらったんだ?」

京太郎「咲」

「…よく出来た嫁さんじゃないか」ウルッ

京太郎「そんなもんかねぇ」

「てめー…よくもまあそんなことが言えたもんだな」

京太郎「だって咲だし」

「そう言うならその肉じゃがよこせよ」

京太郎「やだ」

「なんでだよ!」

京太郎「だってこれ美味いし。お前にゃ絶対にやらん」

「えー。一口くらいいいだろう?」

京太郎「ダメだ」

「……」ジーッ

京太郎「…物欲しそうに見てるなよ」

「そうじゃねえよ」

京太郎「なら何だよ?」

「その弁当を食べてるお前、すっげー嬉しそうにしてるからさ」

京太郎「…そうなのか」

「そうだとも」

京太郎「お前がそういうなら、きっとそうなんだろう」モグモグ

…書いてたら腹減ってきた
では


咲「…なんで京ちゃんまだ麻雀部に居るんだろう」

和「…は?」

優希「さ、咲ちゃん今なんて」

咲「だから、なんで京ちゃんはまだ麻雀部に居るのかなあって」

和「…咲さん」

優希「いくらなんでもそりゃあんまりだじょ」

咲「あんまりって事はないでしょ?だって京ちゃん、まともに麻雀打たせてもらえなかったんだもの」

和「それはそうですけど」

優希「インハイだって終わったんだし、雑用ばかりになることはありえないはずだじょ」

咲「…本当にそう言えるのかな」

優希「え」

咲「アレを見ても、まだそんなことが言えるのかな?」


京太郎「ただいま戻りましたー」

久「遅かったわね」

京太郎「そう言われても困りますよ。夕飯の買出しくらい自分で行って下さい」

久「だって面倒だもの」

京太郎「もう…」

久「それに、なんだかんだ言ってあなたは買って来てくれたでしょ?」

京太郎「いつものことですから」

久「…嫌なら断ってもいいのよ?」

京太郎「断らせないように振舞うくせに」

久「楽したいからね」

京太郎「お陰で俺は楽出来ませんけどね」

久「でも退屈はしないでしょう?」

京太郎「そりゃあね」


和「…」

優希「…」

咲「どう?これでもまだ雑用してないって言える?」

和「無理ですね」

優希「無理だじぇ」

和「と言うか咲さん、そう言うからには須賀君を諌めてるんですよね?」

咲「勿論。けど聞く耳は持ってくれなかったよ」

優希「…雑用中毒?」

和「言い得て妙ですね」

咲「このままじゃ京ちゃんが麻雀を楽しめないよ…ならいっそ退部させてネット麻雀でも」

和「…一理ありますね」

優希「でも今のアイツ、結構活き活きしてるように見えるけどな!」


咲「…どういうこと?」

優希「見たまんまだじょ。京太郎の奴、楽しそうな顔つきしてるし」

和「…言われてみればそうですね」

咲「か、仮に楽しそうだとして…その態度が嘘だったりする可能性は」

優希「それはないじぇ」

和「ないですね」

咲「…どうして」

優希「どうしてって、それは咲ちゃんだって分かってるはずだじょ」

優希「アイツは嫌なものは嫌だってはっきり言うから…メイド服のたくしあげにだっていい反応はしなかったし」

和「…優希。須賀君の反応については彼に限ったことではないかと」

優希「なっ、なんだとう」

咲「…でさ、結局の所京ちゃんは今幸せなのかな?」

優希「私にはそんな風に見えるじぇ」

和「同じく」

咲「……」

和「…あの」

咲「なに?」

和「どうしてもと言うなら咲さん、あなた自身が確かめてみればいいのでは?」


咲「…確かめるって、なにを」

和「今感じてる不安の正体ですよ。他になにがあるんですか?」

咲「私は…別に不安なんかなにも……」

和「そうでしょうか。今の咲さん、とても不安そうに見えますよ?」

咲「…だとしたらなんなの」

和「あなたが不安に思っているのは、彼の現状が自分のせいだって思ってるからじゃないですか?」

咲「…」

優希「ど、どういうことだじょ?」

和「咲さんがここに来たのは、須賀君が数合わせのため無理やり引っ張ってきたからです」

和「…ですがあなたはプラマイゼロという驚異的な業をやってのけた。そして、そこから全てが変わってしまった」

和「ただみんなで麻雀を打つだけの場所が、結果として全国の頂点を目指す者の集まりになってしまったんです」

咲「…結果は結果だよ」

和「そう、私の言っていることは結果でしかありません。咲さんが入部したのは県大会の一月前」

和「団体戦出場の目処は立ってなかったのですから、当然部活一丸となってはインハイを意識していなかったでしょう」

和「…それならきっと、彼は雑用なんてしなくて済んだ」


咲「…」

優希「さ、咲ちゃん…そんなに落ち込まなくても」

咲「…いや、仕方ないんだよ優希ちゃん。私がこうなるのはね」

咲「ここに来て牌に触れて麻雀を楽しんで…それが楽しくて楽しくてたまらなかった」

咲「けどね…それで京ちゃんが牌に触れられなくなったことに、なにもかもが終わった後気付いちゃったんだ」

和「そして咲さん、あなたはそれを後ろめたく思ったと」

咲「うん…」

和「麻雀が出来なくて、彼が愚痴をこぼしたことはありましたか?」

咲「…ない」

和「…なら、それでいいじゃないですか」

咲「…よくないよ」

和「それは須賀君じゃなくて咲さん、あなたの気持ちです」

和「私も彼からは何も聞いてはいませんが、彼は不満不平を周りに漏らさなかった」

和「…つまりはその程度のことなんです。彼にとっては、なんてことない話だったんですよ」

咲「…でも!」

和「それとも咲さん。あなたが不安に思うことは他にあるんですか?」

咲「!?」

和「例えば…須賀君があなたをここに誘ったのは、単なる人数合わせではなかったとか」

咲「そ、そんなことないよ…」

和「…部活の為、あるいは誰かの為にあなたをここへ導いたとか」

咲「やめて」

和「…」

咲「お願いだから…その先のことは言わないで。和ちゃん」


和「……」

咲「私、見ちゃったんだ。京ちゃんが中堅戦を見ながら祈っている所を」

咲「あの時決勝だったのにどこか行っちゃってさ…どうしたのかなって捜しに行ったら、ね」

咲「ホント、ただならぬ雰囲気だったなあ」

優希「……」

和「……」

和「つまり、須賀君が部長に懸想していると?」

咲「…そういうことに、なるのかなあ」

和「…想像だけでものを語るのはどうかと思いますよ?」

咲「……」

和「かつての知己とろくに言葉を交わさなかった私が、こんなことを言うのはさぞおかしいでしょう」

和「それでも…こういうことはやはり直接確かめてみなければいけないと思います」

咲「…和ちゃん」

和「咲さん。私は大事な友達に、臆病者だとそしられてしまうような振る舞いをさせたくはありません」

和「わがままなのは分かってます。しかしあなたが後悔してしまうよりはよほどいい」

和「なにかをしての後悔より…なにもしないでの後悔の方がより大きく傷付くことを、私は知ってますから」


咲「……」

咲「……」

和「……」

咲「…和ちゃん、私」

和「行ってください」

咲「!」

和「あなたが今すぐ言葉を交わすべきは、私ではなく須賀君のはずです」

咲「……」

咲「…うん!」












優希「…行っちゃったじょ」

和「優希、あなたは行かなくてよかったんですか?」

優希「まさか。アイツとはそんなんじゃないじぇ」

和「…そうですか」

優希「それよりもさ…今ののどちゃん、とってももどかしそうだじょ」

和「……」

和「………そうですね。ちょっと妬けちゃいます」

続きはみんなの心の中に
では


「……」

少年はしばし、ただずむ。

この日は彼の母が身罷った日であった。忘れたくとも忘れられないものだ。

当時の空はひどく曇っていて、そして今は清々しいほど晴れていて。

けれど少年の心は決して晴れやかではなかった。

…あの日、彼は二つの別れを経験した。

母との別れ。そして、姉のように慕っていた幼馴染との別れ。

前者は今生。けれど後者はそうではない。

だが少年は幼馴染とも逢えていない。

母の死に伴い離別することになり、それから早十年になる。


少年の父はいわゆる入り婿というやつだった。

妻なくして、夫と息子の立場は家中のどこにもありはしなかった。

少年の母の家が封建的なさまであったから。

父はそれを苦痛に思っていたが、妻と息子の存在がそれを和らげていた。

だからこそ妻が現世を去った日には、躊躇うことなく家を去ってしまった訳だが。

「とーさん。おれたち、どうしてもここから出ていかなきゃいけないの?」

「…ああ」

ただし息子は家を去ることに躊躇いがあった。

「きょうちゃん…ここから居なくなっちゃうの?」

理由はもちろん幼馴染だ。

少年と幼馴染の仲は睦まじく、周りはそれを微笑ましく見ていたものだ。

家の…大人たちの事情など、二人にはまるで関係がなかった。

誰もがそれでいいと思っていた。

しかし…少年の父が家を去ると決めた以上、少年だけを引き止めることは出来ない。


「…ごめんね。おねーちゃん」

「あやまらないで。それよりも、ここから居なくならないで」

幼馴染が少年に縋りつく。

決して彼をここから出て行かせないと、そう言わんばかりに。

「むりだよ。かーさんはもういないんだから」

だが少年は、彼女を払いのけようとする。

その目は全てを悟っているようにも、諦めているようにも見えた。

「それはおじさんだけの事情でしょ?だったら…」

「…おれやとーさんがここに居られたのは、かーさんのおかげだ」

彼は幼いながらも知っていた。

「かーさんが居なければ、俺たち二人はただのはみだし者だからな」

母なくして、この家に自分たちの居場所はなくなってしまうであろうことに。

「…だからって、なにもここから出ていなかくてもいいじゃない!」

少女とてそれは知っていた。

けれど彼を諦められないから、こうして引き止めようとしているのだ。


「きっとこれは罰なんだ」

「え…」

突然少年がそう言うものだから、少女は呆然としてしまう。

罰、という言葉。

それが一体何を意味しているのか、分からなくて。

「…俺はかみさまにこう願ったんだ。かーさんに、もう一度だけあいたいって」

「!」

「だからもう、ここにはにどとと戻れないんだ」

少女はそれで彼の言う『罰』が何かを理解した。

神話において、スサノオノミコトは母であるイザナミの居る根の国に行きたいと願った。

結果彼は父のイザナギによって高天原から追放されてしまう。恐らく少年は、スサノオと自分を重ねているのだろうか。


しかし、この話には続きがある。

「…戻れたじゃない」

「?」

「スサノオは、アマテラスとやくそくをして高天原に戻れたじゃない」

スサノオは根の国に行く前、姉のアマテラスに別れの挨拶をすべく高天原へ上る。

だがアマテラスはスサノオが高天原に攻め入ってきたと考え、武装した上で彼に応対した。

姉の疑いを晴らすため、スサノオは彼女と誓約を行い身の潔白を証明したのだ。

「…けど、スサノオは」

「ええ。神様ではなくケガレとしておい出されてしまったわ」

その後スサノオは高天原に滞在したが、粗暴な行いを改めようとはしなかった。

アマテラスはこれが元で天岩戸に隠れてしまった。結局、スサノオは神ではなく穢(けがれ)として扱われ追放されてしまう。

そして彼は、二度と高天原には帰れなくなってしまったのだ。


「でもねきょうちゃん。きょうちゃんはきっとここに帰ってこれると思うわ」

「どうして?」

スサノオは、高天原に帰れなかったのに。

「だってあなたはスサノオみたいに乱暴じゃないもの。すなおで、とてもやさしい子なんだから」

「…ほんとう?」

「ほんとうよ。それにね、スサノオだって出雲に下ってからはりっぱになったのよ?」

高天原を追放された後、スサノオは一転して英雄的な性格となっている。

「……そうなんだ」

粗暴な振る舞いをしていた彼が、地上に降り立ってからは和歌を詠み、木の用途を定めるほどになったのだ。

少年が思っているように、決して悪いだけの存在ではない。

「…だからねきょうちゃん。もうにどと戻れないなんて言わないで」

「おねーちゃん…」

「スサノオのお話を、今の自分とをなぞらえたりしないで…私たち、きっとまた逢えるんだから」

根拠はない。

けれど少女は、再び少年に逢えるだろうと強く信じていた。

「――うん。またね、かすみおねーちゃん」

そして…それを受けてか、少年もまた少女と再会出来ることを信じることにした。


「……」

「……」

「…やっと逢えたね。京ちゃん」

「ええ…やっとですね」

思わぬ所での再会。

麻雀で、互いに覇を競う場所の前に二人は居た。

「こんな所で逢えるだなんて思ってなかった」

「ええ…そうですね、霞さん」

「……」

その呼び方は、幼き頃のそれではなかった。

…あの頃のようにはいかないのか。そんな不安が少女の脳裏をよぎる。

「もう…あの時のように呼んではくれないのかしら?」

「…今の俺がそれを言うのは抵抗あるんすよ。それに……」

「それに?」

しばらく躊躇うようにして、それから彼は答える。

「あんな風に呼ぶには、貴女は如何せん大人になりすぎました」

「…とうが立っているってこと?」

「まさか。それだけ素敵な女性になったってことですよ」

そう言うと彼は、おもむろに彼女へと近づき、

「…えっ」

「こんな風に、思いっきり抱き締めたくなるくらいに」

躊躇うことなく抱き締めたのだ。


「……」

「……」

沈黙の後、口を開いたのはやはり少女だった。

「…京ちゃん」

「何すか?」

「この格好、とっても恥ずかしいわ」

「…俺もです」

「なら、早くこの手を解いてくれると助かるのだけど」

二人とも顔が真っ赤だ。

嬉しさと恥ずかしさで、その赤みはいっそう強くなっていく。

「…そうしたいですけど、出来ません」

「どうして?」

「その…霞さんの胸が柔らかくて、もう少しだけ感触を味わっていたいというか」

その瞬間、少女の熱は冷めてしまった。

こんな時にムードをぶち壊しにするような言葉を、少しの躊躇いだけで平然と口にする彼に。

「…興ざめね。それに貴方、随分助平になってしまったわ」

「…恐縮です」

「別に褒めてないわよ。むしろガッカリさせられたわ」

少女の声には怒気がこもっていた。

そして少年は、自分の発言について今更ながら後悔していた。折角の二枚目が台無しである。


「……」

少年はばつの悪そうな顔をしていた。

イタズラをしているのが見つかって、咎められているかのように。

「…でもね」

そんな彼を慰めるように、少女は言う。

「これほどまでに求められたのは、心底嬉しかったわ」

「霞さん…」

「十年。そう、十年が過ぎたわ。だから私、貴方にはとうの昔に忘れられたと思ってた」

「…そんなこと、ある訳ないでしょう?」

「そうよね。でもね、十年も関わり合わずにいたから不安で仕方なかったの」

「…でしょうね」

十年とは長いものだ。

それだけの間離れているにも関わらず、こうして互いを想い合えたのは幸いだろう。


「もう少しでいい…もう少しだけ、このままでいさせて」

少女の腕に力がこもる。

いつまでもこうしてはいられない。祭りが終われば、二人はまた離れ離れになってしまう。

「……」

少年は何も答えない。

ただ、少女の想いに応えるように抱き締める力を強める。

「……」

「……」

ずっとこうしていられたらいいのに。

そう思いながら、二人は互いを求め合って…














「―――――京、ちゃん?」

ここまで

     .  ,';;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;|
        ,'' ´ ̄        ̄` ' - 、;;;;;;;;;;;;;;;|
    . ,' .,、r‐' マ:::::::フ' ー‐- .、,.   `'‐ 、;;;|

     |/ _   `` ´   ,,.、.、 ヾ:..、,   `|    な   そ
    .   レ'´_ヾェ、,_   ,,、r〆__`' ';::::::`':.、,│  い   ん
     r|. ヽ モl~フ   / ヾ、モl ,、   |;:::::::::::::`i         な
     l l   ̄ l  .'    ̄     |  ヽ:::::::::l       も
     ヽ!     !          l:!l'  l:::::::::::',      の
     /::ゝ、._ L..___ ____....ノ::l ノ:::::::::::::ヽ.     は
     /::i:::::r'"´ ̄    ̄  ``ヽ;:::::::l´!:::::::::::::::::::ヽ
    ,'::/:::::i,   ー‐───-    l::::::::',';:::::::::::::::::::::l
.   lノ::::::::::',    ‐-      /::::::::::::',';:::::::::::::::::::|
    /::::::::::::::ヽ         ノ:::::::::::::::::',';、::::::::::::i::l
  /:;:::::::::::::::::ヽ,、    ,.r:'"::::::::::::::::::::::〈/\:::::::!リ
. /::/,'::::::::::::::::::::::::ヾ‐-‐''"::::::::::::::::::::::::::::i;:::l/\\/

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霞さんは少女です
古代においても現代においても少女なんです


京太郎「人生相談…ですか?」

ハギヨシ「はい」

京太郎「どうして俺に?」

ハギヨシ「他に当てがなかったもので」

京太郎「……」

ハギヨシ「……」

京太郎「…あの、ハギヨシさん」

ハギヨシ「何でしょうか」

京太郎「ひょっとして貴方…友達が少ないんですかね?」

ハギヨシ「はい」

京太郎「…躊躇いがないですねー」

ハギヨシ「事実ですので」


京太郎「…どうしてまたそんなことに」

ハギヨシ「やっかみですね」

京太郎「やっかみですか」

ハギヨシ「はい」

京太郎「理由は大体想像がつきますが、一応お聞きしてもいいっすか?」

ハギヨシ「ええ。ずばり私の才能ゆえです」

京太郎「あ、それ自分で言っちゃうんですね」

ハギヨシ「本当のことですし、謙遜はかえって嫌味になるかと」

京太郎「そうですけども」

ハギヨシ「ああ…私は自分の才能が恐ろしい」

京太郎「俺はそんなナルシーな貴方が恐ろしいっすよ。怖気がします」

ハギヨシ「…ナルシーというのはご遠慮いただきたい」

京太郎「そう言われるのはやはり堪えますか」

ハギヨシ「ええ」

京太郎「自画自賛はお好きでないと」

ハギヨシ「人に褒められたことならまだしも、そうでないものはね」


京太郎「ということは、誰かに褒められたことなら自慢しがちだと」

ハギヨシ「客観性がありますから」

京太郎「他人の評価を気にする方なんですね」

ハギヨシ「仕事のノルマに関わりますので」

京太郎「…ノルマですか」

ハギヨシ「はい。少なくとも顧客満足度は9割以上あって当たり前の業界ですので」

京太郎「うへぇ」

ハギヨシ「…ここだけの話、実は私龍門渕とは直接契約ではないのですよ」

京太郎「マジすか」

ハギヨシ「本当なら他にも依頼主の当てがあるのですが、私はそれを断り続けています」

京太郎「それはひょっとして…龍門渕透華さんの為ですか?」

ハギヨシ「……」

京太郎「だんまりですか」

ハギヨシ「大変恐縮ですが、立場上それに答える訳にはまいりませんので」

寝落ちしてました

1時間後くらいに投下


京太郎「…主体性があるんだかないんだか」

ハギヨシ「それが求められるのは業務中だけですから」

京太郎「仕事の裁量は貴方に一任されていると?」

ハギヨシ「はい。透華お嬢様からはそのように」

京太郎「余程信頼されているんですね」

ハギヨシ「執事とは、決してただの使いっ走りではございません」

ハギヨシ「主の側近…会社で言うところの秘書。そのような者が信頼されなくてどうするのですか」

京太郎「確かに。使いっ走りというのがどうもひっかかりますが」

ハギヨシ「…気のせいでしょう」

京太郎「そうだといいんですが」

ハギヨシ「何か思うところがおありなら、よりいっそう精進なさることです」


京太郎「………」

京太郎「…相談しに来たんですよね?」

ハギヨシ「そうですが」

京太郎「ならそろそろ、お悩みの方をお聞かせいただいても」

ハギヨシ「悩み、ですか?」

京太郎「えっと…その為に来たんじゃないんですか?」

ハギヨシ「いえ」

京太郎「まー正直、ハギヨシさんが悩んでいるようには見えませんが」

ハギヨシ「悩んでおりますよ?友達がいないとか、やっかまれてるとか」

京太郎「ですがそれでハギヨシさんは苦しんでますか?」

ハギヨシ「…苦しいというほどではございませんね」

京太郎「何の為の相談ですか」

ハギヨシ「知人に会いに行く口実…ではいけませんか?」

京太郎「いけないことではないでしょうけど」


ハギヨシ「…龍門渕では気を遣う事が多いのですよ」

京太郎「ハギヨシさん、執事ですからね」

ハギヨシ「それもありますが…主人の周りは女性ばかりですので」

京太郎「女性社会というやつですか」

ハギヨシ「はい」

京太郎「あそこには一人、下手な男より余程男らしい人がいたような気がしますが」

ハギヨシ「井上さんですか。彼女は彼女で中々可愛い所もあるのですよ?」

京太郎「そうなんですか」

ハギヨシ「あの方は如何せん絵が下手で…それで私の所へやって来られたのです」

ハギヨシ「『オレに絵の手ほどきをしてくれ!』と仰られまして」

京太郎「へえ…それからどうしたんです?」

ハギヨシ「勿論指導させていただきましたよ。私が手本を見せたら、落ち込んでその場を後にしましたが」

京太郎「…何やってんすか」

ハギヨシ「いささか不謹慎ではありますが…あの時の泣き顔にはそそられるものがありましたね」

京太郎「アンタ何言ってんすか」


ハギヨシ「そういう訳で、誰かと関わることには難儀している訳ですよ」

京太郎「そりゃあね」

ハギヨシ「…いつものことではありませんよ?」

京太郎「そう言われましても…」

ハギヨシ「大体それが当たり前なら、私は衣様のお世話など任されたりはしませんよ」

京太郎「…一理あります」

ハギヨシ「子供はすぐに凹んでしまうし、からかいがいがありません」

京太郎「おい」

ハギヨシ「それでなくても罪悪感が半端ではないのですよ。なにせ容姿がああですから」

京太郎「…あの人って、ずっとあのままなんでしょうか?」

ハギヨシ「恐らくは」


京太郎「それはそうと、あなたみたいなのが執事で大丈夫なんですかね」

ハギヨシ「ご安心を。ボロは出しませんので」

京太郎「そういう問題ではなくてですね…」

ハギヨシ「夢を見せることも私の仕事なのです」

ハギヨシ「執事とは、常に瀟洒なイメージがつきまといますからね」

京太郎「ええと…執事喫茶みたいな?」

ハギヨシ「イメージとしてはそれでも悪くはないかと。形式上俗っぽさは否めませんが」

京太郎「けど今まさに俺はイメージぶち壊されてますよ」

京太郎「ハギヨシさんを見て『おお、執事ってカッケー!』って思ってたのにガッカリっすよ」

ハギヨシ「そんなによいものではございませんよ。時たま今の生活を堅苦しく感じることもありますし」

京太郎「そういうものでしょうか」

ハギヨシ「そういうものでございますね」


京太郎「…そう言われても、やはり執事への憧れは否定できません」

ハギヨシ「何故?」

京太郎「あなたのお陰で多少幻滅したのは確かですが、それでもなおカッコいいなあって気持ちがなくならないからです」

ハギヨシ「随分と安易な考えですね」

京太郎「そうでしょうとも。しかしその気がなければ、わざわざこちらに出向いたりはしません」

ハギヨシ「…健気な」

京太郎「そんなんじゃありません。ただ、折角の出会いを無駄にしたくないだけで」

京太郎「麻雀部に入って、まさか執事に憧れるとは想像してませんでしたが」

ハギヨシ「おかしな話です」

京太郎「まったく」

ハギヨシ「ですがそんなことがあるから、世の中とはなかなかに面白いものだと思いますよ」


京太郎「…あっ」

ハギヨシ「どうかなさいましたか?」

京太郎「ハギヨシさんって、どうして執事になったのか知らなかったなあって」

ハギヨシ「ああ…」

京太郎「少しでもいいですから、よろしければお話を聞かせてもらっても…」

ハギヨシ「ええ。構いませんよ」

京太郎「どうもありがとうございます。前々から興味があったんですよね」

ハギヨシ「そんなに大したものではありませんよ」

京太郎「またまたー。ハギヨシさんのことですから、さぞかし凄いエピソードが」

ハギヨシ「…期待外れでも、どうかお許し下さい」

京太郎「はは、まさか」





……



………



…………


京太郎「」

ハギヨシ「…以上で終わりです。お楽しみいただけましたか?」

京太郎「」

ハギヨシ「どうなされました?狐につままれたような顔をして」

京太郎「…あのう……」

京太郎「今聞いた話、どこからどこまでがホントのことなんでしょうか?」

ハギヨシ「誓って嘘はついておりませんが」

京太郎「あなたが言うとどっちか判別つかないんですよ」

ハギヨシ「…ならば信じて下さい」

ハギヨシ「私がありのままの自分であなたに接していることを、信じて下さい」

京太郎「まあ、出来る限りは」

ハギヨシ「ええ。十分に過ぎます」


京太郎「…透華さんが大事な理由は、つまりはそういうことなんですか?」

ハギヨシ「はい」

京太郎「昔の想い人に重ね合わせられるだなんて…あの人が可哀想です」

ハギヨシ「可哀想?あの方がですか?」

京太郎「だってそうでしょう。それじゃあただの身代わりだ」

ハギヨシ「それでいいのです」

京太郎「しかし…」

ハギヨシ「私がそうであるように、透華お嬢様もまた同じことを私にしておられる」

京太郎「…それって一体」

ハギヨシ「…旦那様は、お嬢様のことを愛してなどいません」

京太郎「!?」

ハギヨシ「それどころか恐れてすらいる。衣様と同じに…化け物らしきものとして」

京太郎「……」

ハギヨシ「ですから彼女は私に求めた。私に、父親の代わりとして振舞うことを」


京太郎「で、ハギヨシさんはどうしたんですか?」

ハギヨシ「勿論そんなことは出来ません。私は天涯孤独の身」

ハギヨシ「家族のことなど何も知らずに育ってきた。執事として生きることだけが、私の道でした」

ハギヨシ「そんな私が、家族の代わりをするなどおこがましいにも程がある」

京太郎「夢を見せるのも仕事。そう言ったのはあなたでしょう?」

ハギヨシ「その通り。ですが私は、執事である事を捨てられない」

京太郎「…怖いから?」

ハギヨシ「いいえ。これは単なる意地です」

京太郎「どうしてそんな意地を?」

ハギヨシ「彼女のことを過去に出来ない。それだけのことでしょう」

京太郎「もう居ない者に、今居る者が劣ると?」

ハギヨシ「現実は…思い出ほど甘美なものではありません」

京太郎「今は思い出と共に、ですか」

ハギヨシ「…はい」


京太郎「…思い出とさよならするのはいつですか?」

ハギヨシ「分かりません。ずっとこのままなのかもしれません」

京太郎「もどかしいですね」

ハギヨシ「私もそう思います」

京太郎「こんな話、聞きたくなかった」

ハギヨシ「私は、誰かに聞かせたかった」

ハギヨシ「誰かに打ち明ければ、少しは肩の荷が軽くなるような、そんな気がして」

京太郎「…そんな曖昧な理由で、俺を巻き添えにしたんですか」

ハギヨシ「ええ」

京太郎「ハギヨシさん…あなたはひどい人だ」

ハギヨシ「それは承知のはず」

京太郎「だからといってここまでとは思ってなかった」

京太郎「人の苦悩を、人生のいくらかを背負わされるだなんて」

ハギヨシ「…誰でもよかった。私がそう言ったら怒りますか?」

京太郎「何を今更。もうとっくに怒ってますよ」

ハギヨシ「……」

京太郎「ですがまあ、ここまで聞いたら今更どうしようもないでしょう」

京太郎「付き合えるだけ付き合いますよ。ただし、けりだけは自分で付けてください」

ハギヨシ「…ありがとうございます」

京太郎「一応断っておきますが、これは透華さんの為です」

京太郎「死人の代わりとして扱われる哀れな主人…これではあまりに救われない」

ハギヨシ「……」

ハギヨシ「…始めから、誰も救われなんかしません」

ここまで


京太郎「あの…部長?」

久「何かしら」

京太郎「俺がここに来ちゃってよかったんでしょうか?」

久「気にしない気にしない」

京太郎「でも合同合宿ですよ?」

久「だからじゃない。あなただって麻雀部員なんだし」

京太郎「周りはみんな女の子ばっかりなんですがね」

久「あら、何か問題があるの?」

京太郎「めっそうもない!むしろ嬉しい限りですよ…ですけど……」

久「裏でもあるって言うの?」

京太郎「こんなに美味しい話なんです。多少は何か勘繰ったりはしますよ」

久「気にしない気にしない。龍門渕の萩原さんだっているしね」

京太郎「ハギヨシさんが!?」

久「何かあったらあの人が全部何とかするでしょうから」

京太郎「そうですかー。それなら安心です」




そんなこんなで合同合宿、はじまります。


【相容れない者】

宥「……」

泉「…あの」

宥「は、はい」

泉「さっきからずっとこちらを見ていたようですから。どないしました?」

宥「え、えっと…」

泉「そんなに身構えんといてください」

泉「もうインハイは終わったんです。今はお互い、ただの麻雀好きってことで仲良くしようやないですか」

宥「そ、そうですね。では…」

泉「どうぞ何でも言うてください」

宥「……」





宥「…その、泉さんは…そんな格好で何ともないのかなあって」


泉「…ん?」

宥「……」

泉「あの、もっぺん言うてもらっても」

宥「ええ…その格好、寒くはないのかなあと思って」」

泉「…何言うとりますのん?」

宥「え…」

泉「寒い訳ないやないですか…だって今は夏なんですよ?」

泉「冷房ガンガンに効かせた部屋ならいざ知らず、そんなけったいな話は…」

宥「…えい」

ピトッ

泉「はうっ」

宥「……えいえい」

フニフニ ツンツン

泉「な、何を…くすぐったいやないですか」///

宥「……」

宥「………泉さんって、身体があったかいんですね」

泉「よう言われます。それに自分は暑がりでして」

宥「そうなんですか…正直羨ましいです」

泉「あんまり暑がりなもんですから、10月の末くらいでもこのままでいるくらいで…」

宥「えっ」

泉「えっ」

宥「やだ…なにそれこわい」ブルブル


【同志】

小蒔「霞ちゃーん、こっちこっち」

プルンッ

霞「そんなにはしゃぐと危ないわよー?」

ブルブルブルン

春「……」ボリボリ

タプーン

菫「尭深…こんな所で茶を飲むのか」

ズドン!

尭深「こんな所、だからこそですよ。部長」

ムニュッ

絹恵「漫ちゃん、サッカーしようやサッカー!」

ドン!

漫「おでこに落書きせんかったらなー」

ドッカーン!



「…うーん、素晴らしい」

「まったくもって。ここはまさしく桃源郷なのです!」



「「…えっ?」」


京太郎「……」

玄「……」

メトメガアウ-シュンカン

京太郎「…もしやあなたは」

玄「そういう君も」

京太郎「あの双丘に、心を奪われてしまったんですか?」

玄「…答えるまでもないと思うよ?」

京太郎「…そうでしたね」

玄「ならば…私たちの間に言葉は不要なのですよ」

京太郎「………」

玄「………」

ガシッ!

京太郎(…こうして分かり合えることの素晴らしさよ)

玄(やはりおもちは至高にして究極。これに勝るものなどありはしないのです!)

シュッ

京玄「!?」

ハギヨシ「お二方とも、戯れはほどほどになされた方がよろしいかと…では」

シュバッ

京太郎「…」

玄「…」

京玄「…執事怖っわ!」

ここまで


【執事さん】

透華「ハギヨシ」

ハギヨシ「はっ、透華お嬢様」






照「…菫。どうかウチの部活にも」

菫「何を言ってるんだお前は。第一私達はもう引退じゃないか」

照「それでも執事さんが欲しい」

菫「仮にそうするとして、雇用にかかる費用はどこから出す気だ?」

照「部費」

菫「お前は何を言っているんだ」

照「大丈夫…学校なんて所詮は財布だし」

菫「黒っ!」


照「…執事さんを望んでるのは私だけじゃない」

淡「はいはい!私も執事がすっごく欲しい!!だってカッコいいから!!!」

尭深「紅茶を淹れてくれる人がいてもいいと、私は思います」

菫「お前たち…」

誠子「部長。心中お察しします」

菫「亦野…お前がいてくれて助か、ん?」

 だが燕尾服だ。

菫「…どういうことだ」

誠子「その…似合いそうだからって無理やり」

 しかも結構似合ってる。

菫「……」

誠子「部長もどうです?結構似合うんじゃないかと思うんですけど」

淡「あーわかるわかる」

尭深「確かに、部長のタッパなら似合いそうですね」

照「菫、頼む」

菫「…頼まれんぞ(次期部長、一体誰にすればいいんだ……?)」


【責任】

菫「そういう訳で、責任を取っていただきたい」

透華「責任と言われましても」

ハギヨシ「私達はただ、いつも通りにしていただけでして」

菫「むう…」

透華「ここは一つ、その願いを聞いてあげてもよろしいのではないかと」

菫「しかし、奴らをあまり甘やかすのは…」

透華「ご心配なく。服なら今すぐ用意しますので…ハギヨシ!」

ハギヨシ「はっ」シュバババッ!

 主が一声をあげると、執事は目にも留まらぬ速さで手を進める。そして…

ハギヨシ「…やりました」

 数刻の後、彼の手元には立派な燕尾服が!

菫「…」

透華「さあ、これを着れば貴女も立派な執事ですわよ?」

菫「…亦野にあの服寄越したのはアンタらかい!」

ハギヨシ「目算ではありますが、サイズの方はしっかり合わせておりますので」

菫「そういう問題ではない」

ここまで


【貸与契約】

透華「ならば一体どうしろと言うのですか」

菫「萩原さんには明日一日、照や淡の面倒を見ていただく」

透華「…それは承知しかねます」

菫「あいつらを焚きつけたのは貴女がただ。責任は取っていただく」

透華「む…それを言われますと」

ハギヨシ「…お嬢様」

透華「ハギヨシ、どうかしまして?」

ハギヨシ「ここはひとつ、彼に来ていただいたらよいかと」

透華「彼…ああ、最近貴方が仲良くしている清澄の」

ハギヨシ「はい。彼なら上手くやってくれるだろうと」

菫「…清澄の男?」

透華「ええ。彼も一応麻雀部員なのですけれど」

菫「いや…知らないな。見たことも聞いたこともない」

透華(…なんと不憫な)

ハギヨシ(私の知らぬ間に隠形を身につけるとは、流石ですね)

 執事はなにやら勘違いをしているらしかった。


【強制連行】

京太郎「いやー…今日はのんびり出来ていいなあ」

咲「ホントだねー」

和「インハイで一番せっせと動いていたのは、須賀君でしたからね」

京太郎「つっても責任も何もないからなあ」

京太郎「俺がヘマしたらチームの皆に迷惑が、とか耐えられねー」

優希「…まあ、京太郎には無理だろーな!」

京太郎「うるせーぞ優希。こんな時に嫌味かよ」

優希「それは違うじぇ。お前はお前で色々頑張ってたし」

優希「だからこそ良き師に巡り会って、結果私に美味しいタコスを振舞ったんだからな」

京太郎「…まーな」

咲「その調子で麻雀も頑張れば、きっと来年はもっといい結果が出せるよ!」

和「須賀君は飲み込みが早いですからね。それに今日からは、私たちが指導をする余裕だってありますし」

京太郎「みんな…」

京太郎「…よし、それじゃあ今からご指導よろしくお願いしまっす!」

優希「おう、私達に任せとけ!」


シュタッ

ハギヨシ「…失礼」グイッ

咲和優希「!?」

京太郎「え、は、ハギヨシさん!?」

ハギヨシ「恐縮ですが、須賀君を少しお借りします」

ヒュッ

咲「あ、あわわ…」

和「なんてこと…須賀君がさらわれてしまいました」

優希「…まるでヒロインみたいだじぇ」

和「言ってる場合ですかっ!」


久「あ、おはようみんな」

まこ「もう練習の準備は出来とるかのう?」

咲「それなんですが…今はそれどころじゃなくて」

まこ「なんじゃ?何かあったんか?」

優希「京太郎が龍門渕の執事にさらわれたじぇ」

和「どこからともかく現れるなり、須賀君を羽交い絞めにして居なくなってしまいました…」

まこ「えっと…どういうことなんじゃそれは」

咲「わかりませんよそんなの」

まこ「…そりゃあそうじゃろうなあ」



久「…あっ」

まこ「なんじゃ部長。心当たりでもあるんか?」

久「今朝方、龍門渕の透華さんからこんなメールが来たのよ」

まこ「どれどれ…」

 『そちらの彼をお借りしますわ』

まこ「……」

久「何が何だかわからなかったし、返事するのは躊躇われたのだけど」

まこ「…アンタが悪うないのはわかった」

和「場合によっては、訴えてしまってもいいのではないでしょうか」

咲「京ちゃん…」

優希「京太郎は私の犬だじょ!それを勝手に借りるだなんて許せないじぇ!!」


【虜囚】

京太郎「…で、俺にどうしろと言うんですか?」

ハギヨシ「執事を勤めていただきたい」

京太郎「俺が執事…作法も何も知ったこっちゃないんですが」

ハギヨシ「なに、ガワだけ取り繕えばいいんですよ」

京太郎「ガワだけって…」

ハギヨシ「今日一日の辛抱です。明日までには、必ず自由になれますから」

京太郎「ですが俺には、部活の皆と練習をする約束が…」

ガチャッ

菫「…このような真似をしたのは、こちらとしても非常に申し訳なく思っている」ドン

京太郎「!?!?!?」

菫「私に出来ることなら、後で何でもさせてもらおう。ぶしつけであるが…どうか許していただけないだろうか?」デデーン

京太郎「……」

菫「…ダメ、か?」ウルッ

京太郎「めっそうもない。是非引き受けさせていただきましょう」キリッ

京太郎(ごめんみんな…おっぱいには勝てなかったよ……)


【論評】

京太郎「…どうでしょうか?」

菫「ふむ、悪くない」

誠子「長身なだけあって、中々さまになってますね」

照「……」

淡「けどさ、流石にモンブチの人よりは見劣りしちゃうよねー」

尭深「…あの人と比べるのは酷だよ」



京太郎「……」

菫「(…すまない)」

京太郎「(いや、こればっかりは相手が悪いとしか。それでも正直ムッとしますけどね)」

ここまで


【慣れてますから】

淡「執事さん、お菓子頂戴」

京太郎「畏まりました。何をご所望でしょう?」

淡「えーっとね…名前は忘れたけどコラーゲンたっぷりなグミで…」

京太郎「ああ、ポイ○ルですか」

淡「あ、そうそうそれそれ!よく分かったね!!」

京太郎「慣れてるんで」

淡「じゃあさ、今すぐ買ってきてよ」

京太郎「御意」


淡「ふむふむ…なかなかどうして出来る人だね」

誠子「あれじゃ執事と言うよりパシリな気が」

尭深「しかも手馴れてる感じ…」


京太郎「須賀京太郎、ただいま戻りました」

淡「早っ!」

菫「ポイ○ルだけのはずがやけに多いな」

京太郎「ああ、それは…」

照「私が頼んだ。チラシの裏にびっちりとメモを書いて」

菫「いつの間に…」


【気分の問題】

菫「須賀君、今日はずっとその話し方なのか?」

京太郎「ええまあ…そういう話ですから」

菫「もうすこしこう、砕けた感じでもいいぞ。どうも慣れてないようだし」

京太郎「そう見えます?」

菫「ああ。正直な話不自然だ」

京太郎「まいったなー。パシり根性には自信があったんですが」

菫「…執事はそういうものじゃないだろう」

京太郎「最近まではよくパシられてましたからね、俺」

菫「それで手馴れてるようだったのか…」

京太郎「ですから格好なんてつけてみたかったり。折角の燕尾服ですし」

菫「けどパシりじゃなあ」


【気の利く男】

誠子「…おお」

尭深「どうしたの?」

誠子「甘いものと塩気のあるものがほどほどにある」

京太郎「バランスを重視しました」

尭深「あの…お茶請けに丁度いいものもあるかな?」

京太郎「黒糖なんてどうでしょう」

尭深「…これは」ポリポリ

京太郎「ウチの部長が最近それにハマってまして…どうでしょう?」

尭深「……」ポリポリポリ

京太郎「……」

 京太郎が、何も言わずティッシュをそっと差し出す。

尭深「……」フキフキ

尭深「…ありがとう」

京太郎「どういたしまして」



菫「…絵になるな」

誠子「やっぱり手馴れた感じがしますね。普段からああなんでしょうか?」

照「……」

淡「尭深だけずっこい!執事さん、私にもアレやってよ!!」


【発信源】

菫「…どうしてまた黒糖なんだ」

京太郎「何でも永水の滝見さんに食べさせてもらったとか」

菫「ああ、確かに彼女が同じものを食べていたな」

京太郎「化学物質がないから身体にもいいとかなんとか」

菫「ふむ」ポリポリ

京太郎「美容やダイエットなどに効果があるそうですね。後は豊胸なんかにも…」

シュバッ!

照「……」ガリガリガリガリ!

淡「あ、テルー!」

尭深「先輩…私の分まで取らないで」

誠子「…ひょっとしたら私の胸も」



京太郎「oh...」

菫「迂闊なことは言うものじゃないぞ、須賀君」


【そだたない】

照「…ごちそうさま」

京太郎「すげえ…あんなにあったお菓子が」

菫「なに、いつものことだ」

京太郎「いつもこんなにお菓子食べてて、ご飯はちゃんと食べていられるんですかね」

菫「どうだろうな…ただ」

京太郎「ただ?」

菫「胸に栄養がいかないと文句を言うのは、どうかと思っている」

京太郎「咲…妹さんも同じことを言ってましたね」

菫「ならば彼女もお菓子好きなのか?」

京太郎「いえ…そういう訳ではないですから、アレは恐らく遺伝なのでは」

菫「…そうか」


【姉妹】

菫「照の奴、妹さんとは仲直りしてないそうだな」

京太郎「そうみたいですね」

菫「君は何か事情は聞いていないか?」

京太郎「いいえ、何も」

菫「そちらもか。どうも心配になってくるな」

京太郎「えと…その、心配はしなくていいかと」

菫「何故だ?」

京太郎「…あれを見てください」


咲「……」

照「……」

咲「…お姉ちゃん。今日も貧しいね」

照「そちらこそ」

咲「……」

照「……」

咲「私たちはいつも貧しい。どうして?」

照「…こんな身体に誰がした」


京太郎「ほら、ああやってお互いを分かり合ってる」

菫「…あの二人、本当にそれでいいのか?」


【お迎え】

咲「というか京ちゃん、こんな所に居たんだ」

優希「まったく…手間の掛かる犬だじぇ」

京太郎「…心配かけてすまん」

咲「いいよそんなの。それより帰って麻雀打とうよ」

優希「そうだな。お前はさっさと強くならなきゃいけないし」

京太郎「だな…それじゃあ皆さん、俺はこれで失礼しますね」

菫「ああ。今日はありがとう」


淡「…ちょっと」

咲「?」

淡「『こんな所』って何さ…ここは天下の白糸台なんだよっ」


菫「…淡」

咲「あの、私…そういうつもりで言ったんじゃないんですけど」

淡「そういうつもりってことは、自分が何を言ったかは分かってるんだよね?」

咲「……」ゴッ

淡「……」ユラユラ...





京太郎(何でか知らんが、勝負事じゃ大将格はみんな人が変わったようになるなあ…それも全員1年だし)


【おかえり】

京太郎「…ただいま」

久「あら、おかえりなさい」

まこ「やっと帰ってきおったか」

和「では早速麻雀を打ちましょうか。待ちくたびれましたよ」

京太郎「…あの」

まこ「なんじゃ」

京太郎「えらく壮大な出迎え準備がされてるのは、どうしてなんです?」

 目の前にはホールケーキ。

 その上には、いちごで「おかえりなさい」と文字が書かれている。

 テーブルは豪華な馳走でいっぱいである。一体何事だというのだ。

久「さっきまでここに龍門渕さんが来ててね」

和「あの人と部長の悪乗りが凄まじくて…それでこんなことに」

京太郎「…いつぞやのサプライズですか」

まこ「こんなに豪勢な食事、この場にいるもんじゃとても食べきれんのう…」

ここまで

数絵ちゃんの誕生日だけど投下はお休みです


【遅くまで打ってました】

咲「な、中々やりますね…」

淡「…そちらこそ」

照「でも勝ったのは私」

優希「二人が勝手に潰しあってくれたから楽だったじぇ」

咲「まさかまとめてトばされるなんて」

淡「そんなん考慮しとらんよ…」

照「…何故にちゃちゃのん?」

優希「どうやらネットで広まってるみたいですよ?」




いちご「へっぷし!うう、カゼでもひいたんかのう」


【呼ばれました】

聡「まさか私に声が掛かるとは…」

数絵「お爺様の実力であれば当然です」

聡「そうか?」

数絵「はい。お爺様は指導力も高いですから」

聡「…うーん」

数絵「…どうして急にうなるのでしょう?」

聡「いやなに、お前がもし個人戦で全国に行っていればその言葉にもいっそう説得力があったろうにと」

数絵「手厳しい!」


【慢心しちゃう人】

数絵「今度は不覚を取らないよう、精一杯励む所存です」

聡「うむ」

数絵「なにせ相手は全国レベルの強者が大勢…腕が鳴ります」

聡「中には例外も居るが、油断はするなよ?」

数絵「ご心配なく。そのような相手には絶対に負けたりしません」

数絵「宮永咲さんには一度敗れていますが…それが無ければ私は全国に行けてましたし」

聡「…その彼女も、県大会四位の竹井や二位の原村、それに一位の福路だっているのだぞ?」

数絵「うっ」

聡「それにお前…言ってることが白糸台の大星に似ているな。インタビュー時の彼女がそんな様子だった」




淡「くしゅっ!」

菫「夏カゼか?気をつけるんだぞ」


【昔の教え子】

聡「…そう言えば昔、私の教え子にも自信満々な奴が居たな」

数絵「強かったんですか?」

聡「ああ。ガッチガチのデジタル打ちでな、牌効率の良さは全国でも随一だった」

数絵「へえ」

聡「だが頑固者で、オカルトは一切認めようとしなかったのだ」

聡「それで負けても『彼らの運が良かっただけで、私が弱かった訳ではない!』と言っていたな」

数絵「…他人事に聞こえませんね」

聡「県大会後のお前も、自分は弱くないと言って拗ねていたからな…あ」

数絵「どうかされましたか?」

聡「奴の口癖を忘れていたよ。『そんなオカルトありえません!』だっけか」

数絵「えっと…それって原村和の」

聡「ああそうだ。教え子とはその父親のことだからな」




恵「むっ…冷房は効かせていないはずだが冷えるな……」

ここまで

今日は番外編


【今日はあの日なんです】

「よう京太郎。今日は捗ってるか?」

京太郎「捗ってるって…何が」

「何ってアレだ、バレンタインに決まってんだろ」

京太郎「ああ…」

「えらく冷めてるなお前」

京太郎「あてが無いしなー」

「あてが無いってことはねーよ。お前、麻雀部員なんだし」

京太郎「…部長の毒見役かな?」

「どんだけだよ」


【多分「イイ嫁さんだなァ」の人】

京太郎「つーかお前、結構チョコもらってんのな」

「仮にも部活のエースだからな」

京太郎「エースて…そっちの部活って確か」

「鉱石部」

京太郎「…ガタイの無駄遣いじゃないか?お前って確か、195cmはあったよな」

「そりゃそっちもだろ」

京太郎「で、彼女…嫁さんは身長144cmだったっけ」

「嫁さん違います!」

京太郎「男が言うと気持ち悪いなそのセリフ…しかも似てねーし」

「ほっとけ」


【食べきれない】

「…俺一人じゃ食いきれねぇ」

京太郎「なら俺にくれよ」

「何言ってんだ。大体お前だって沢山もらえるはずだろ」

京太郎「どうだかなー」

ガチャッ

京太郎「…え?」

ドサドサドサッ

「……」

京太郎「…なんか俺のロッカーから色々出てきたんだが」

「チョコだな」

京太郎「そういうことじゃねぇ!鍵かけてるのにどうなってんだよこれは!!」

「まーそんだけ好かれてんだろ」

京太郎「…それで済ませていいのかねぇ」モグモグ

「いや、食うなよ」


【見られてました】

京太郎「今日は食堂要らずだな」パリパリ

「まったく」ムシャムシャ









優希「咲ちゃん。ひょっとしてアイツモテるのか?」

咲「どうだろ…私、そういうのって気にしたこと無かったから」

優希「…なんというか、らしいね」

咲「義理チョコなら毎年あげてはいるけど、それに相手の好かれ具合は関係ないと思うから」

優希「それもそうだな。で…」

咲「何?」

優希「義理チョコなのに、手に持ってるそれが手作りっぽいのは何でなんだじぇ?」

咲「…内緒」


【普段はこんな事してます】

一太「やあ。また会長からの頼まれごとかい?」

京太郎「そうなんすよ。代わりに仕事やってきてって」

一太「…そっかあ」

京太郎「タダでやってませんからお気になさらず」

一太「タダって、一体何を貰ったのかな?」

京太郎「食券ですけど」

一太「…それって一応、生徒会限定のやつなんだけどなあ」



彩乃「あ、雑用君。今日もレディースランチ」

京太郎「このビーフストロガノフが美味しそうで」パクパク

彩乃「いい食いっぷりだねぇ」

京太郎「これでも中学じゃグルメで通ってましたから」

彩乃「ふーん…で、部活は?」

京太郎「……」

彩乃「その目の逸らし方、副会長に追及されてる会長そっくりだねー」



「ねー菜月。あの須賀って子、麻雀部員だよね?」

菜月「会長からはそう聞いてるけど」

「放課後になると、そこかしこで彼をよく見かけるのよ」

菜月「部員兼雑用だって話だよ?」

「えっと…それってもうマネージャーでいいんじゃ」

菜月「あ、後生徒会でも雑用してるよね」

「…私たち、すっかり顔なじみだあ」

菜月「そだねー」


【何と言うか、彼ってその…】

一太「えーでは次の議題は」

久「…のどが渇いたわ」

一太「?」

久「そんな訳で、須賀君お茶買ってきて」

京太郎「はい!」

タッタッタッタッ...

久「あ、あと黒糖も忘れずにねー」


一太「…すっかり忘れてましたけど、会長彼って生徒会じゃありませんよね?」

久「そう言われればそうね」

彩乃「私、全然気付かなかったよ」

菜月「ほらー彼って会長の犬ですから、関係者とは言えなくも」

一太「言えないよっ!?」


【そんなこんなで】

「…須賀君ってなんかいいよね」

「分かる」

「何となくだけど、見てたら可愛がってあげたくなる」

「あー確かに。何でだろねアレ」

「…犬っぽいから?」

「「「あー」」」

「ちなみにどんな所が?」

「どんな所も何も、部活じゃ既に犬呼ばわりされてるそうだけどねー」

「…ひょっとして彼、そういうのが趣味なの?」

「何考えてんだ」

「片岡さんだっけ。あの子と須賀君はその…仲のいい兄妹みたいな」

「なるほどなるほどー」

「あの体格差だし、おうまさんごっことかやってそう」


「…っつー話がされてるとかされてないとか」

京太郎「マジかよ。俺ってそんなに人気あったのか」

「人気は人気でも、その…マスコット的な?」

京太郎「うわー…そっちかあ……」

「いいじゃんお前。モテモテには違いないだろうが」

京太郎「でも犬だろ?お犬さんなんだろ?」

「お前だってカピバラ飼ってるし、その辺の心理は分からなくもないだろ」

京太郎「いやーない。俺のタッパでカピみたいに可愛がられるとか絶対ないわ」

「そう聞くとすっげー辛い!」

中断

一応保守


京太郎「…とまあ、そんな感じの話をしてた訳ですよ」

久「ふーん」

京太郎「けど部長には敵いませんなー」

久「そうかしら?」

京太郎「そのチョコの山を見ればそう思いますよ」

久「心当たりは無いのだけれど…」パクパク

京太郎「そういう割には随分とご満悦のようで」

久「当然よ。好かれて不都合な事なんて…あ」

京太郎「どうしました?」

久「…お返しとか全然考えてなかった」

京太郎「部長って、基本食べ専ですからねー」

久「食べ専って何よ食べ専って」


京太郎「生憎俺は料理作れるようになってますから」フフン

久(むう。あのしたり顔が憎たらしい)

京太郎「出会ってよかった執事の友達」

久「…うらぎりものー」

京太郎「裏切ってなんかいませんよ。単に俺が料理するのを頑張っただけで」

久「麻雀部員がそれはどうなのよ」

京太郎「ごもっともですが、俺って部員なんだかマネージャーなんだか」

久「…どちらでもいいと思うわ!」

京太郎「えー」


久「貴方とは、料理が出来ないもの同士だと思っていたのに」

京太郎「なら作ればいいでしょうに」

久「うーん…めんどくさい!」

京太郎「おいおい」

久「調理しなくても生きていけるのが現代なのよ。仕方ないわ」

京太郎「そりゃそうですが」

久「でも栄養は偏っちゃうわね。サプリメントで補えなくはないけど」

京太郎「モノによるかもしれませんが、むしろ健康に害を及ぼすとかなんとか」

久「え?」

京太郎「栄養素の過剰摂取で体機能が低下する恐れがあるそうですね」

京太郎「確か…トリプトファン事件でしたか」

久「…」ガクブル

京太郎「というか珍しいですね。俺の方から部長に薀蓄語るだなんて」

久「言うとる場合かっ!」

生存報告がてらしずもんイェイ~

保守

恐縮ですが、現在進行中のssは全て投げっぱなしになりそうっす

またか…


夏が終わり、秋が来て。

久「出来ることなら、秋季大会にも出てみたかったんだけとね」

京太郎「こればっかりはしょうがないですよ」

久「あら須賀君。あなたもも一応個人戦には出るんでしょ?」

京太郎「ええ、まあ。一応ってのは余計ですけど」

久「そちらがよければ、私に指導させてくれない?」

京太郎「へ…?そりゃまあありがたい話ですけど、部長の受験勉強は…」

久「…この前推薦決まった事は話したわよね?」

京太郎「…あー。すみません、野暮言っちゃって」

久「別にいいわよ。それよりも、明日からはみっちり扱いていくから覚悟してね」

京太郎「あの…他の皆の指導は」

久「気にしない気にしない。それならまこに任せてるし、靖子だって偶に来てくれるんだから」


秋が終わり、冬が来て。

久「…惜しかったわね。いい所までは行けたんだけど」

京太郎「…これで二回目ですよ」

久「ああ、前に言ってたハンド部の事ね」

京太郎「あの時も悔しくて悔しくて…あんな気持ちになるなんて、もう二度とゴメンだって思ってた」

久「…」

京太郎「こうしてまた同じ目に遭ったんですけど…何でか嫌な気分じゃないんですよ」

久「…須賀君」

京太郎「?」

久「その…嫌にならない理由って、あなたは一体なんだと思う?」

京太郎「…」

京太郎「……」

京太郎「…そうっすね。それはきっと、打ってて楽しかったからだって思います…それから」

久「それから?」

京太郎「…いえ。何でもありません」

京太郎(中学のあの時…俺が今のような気持ちだったら、今頃どうしていたんだろうか?)

俺はそう言いかけようとしたが、躊躇ってしまった。

どうしてかは分からない。


…それからも彼は、暇さえあれば牌を握った。

強くなりたい。

強くなって、もっと色んな相手と打ってみたいと思ったから。

或いは…部活仲間の所に、一歩でも近づきたいと願ったから。

それから…ひょっとしたら…


「それじゃあ今日も、楽しく打っていきましょうか」

「はい!」


彼女と一緒に居る時間を、一秒でも長く。

そんな風に思っていたのかも知れない。

勿論彼にそんな自覚はなく、男女の惚れた腫れただのといった意識もない。

…しかし。


「…」

「…今日も楽しそうね」

「勿論です」


彼女と一緒に打っている時の彼が、一番朗らかな様だったと他の部員は噂していたらしい。


…悲しいかな、そんな時間はいつまでも続かない。


物事には始まりがあって、終わりがある。

人と人には出会いがあって、別れがある。

つまりは…


「…もうすぐ春っすね」

「そうね」

「そしたらもう、こうして竹井先輩とは打てないんですね」

「…どうかしら」

「先輩のことだってもう…部長とは呼べなくなってしまいましたし」


冬が終わり…春が来る頃には、彼女が学校を去ってしまうということだった。


京太郎「…楽しかったなあ」

久「これからだって、きっと楽しいわよ」

京太郎「だと思います。でもそこにはもう、あなたがいませんから」

久「…」

京太郎「…」

京太郎「…ホント、たまたまだったんですよ。俺がこの麻雀部に入ったことは」

京太郎「どうしようかだなんて、ちっとも考えてなかった。極端な言い方をすれば、どうだってよかった」

久「…そう」

京太郎「けど…そのどうだってよかったはずのものに出会って、俺はこうしてここにいる」

京太郎「この麻雀部があったから、俺もみんなも多くのものを得るチャンスを貰えた。そう思うんです」

久「…けれどもう、私からはもう何も与えられなくなるわ」

京太郎「それなら俺もです。ここではもう、あなたの夢を手伝ったりすることは出来ない」


京太郎「一緒に打てはしなかったけれど…去年のあの時、俺は確かに夢を追い求めていた」

久「ええ。私もあなたも、それに他の皆だって…一番になりたいって夢を叶える為に、戦っていた」

京太郎「…いえ。俺はただ、皆が夢を叶えた所を見てみたかった」

京太郎「変な言い方かもしれませんが…あの時の俺は、ただみんなに夢を託しただけだった」

京太郎「それはきっと…中学の時に叶えられなかった、一番になりたいという夢を」

久「…」

久「…それであなたは、この先どうするつもりなの?」







京太郎「…そうですね」

京太郎「そりゃあ勿論、今度は自分も一番を目指す。うん…そうに決まってる」

ここまで
筆が止まった理由に、リアルの事情はあんまり関係ないのは確かです


照「…」...パラ

京太郎「…今日は何を読んでるんですか?」

照「エトペン」

京太郎「エトペン…ああ、ぬいぐるみにもなってるアレですか」

照「そう、それ」

京太郎「えっと…確かこいつって、エトピリカになりたかったんですよね」

照「そうだね。けどこの子は結局、エトピリカにはなれなかった」

京太郎「まあ、ペンギンですからね」

照「須賀君はさ…彼の事をどう思う?」

京太郎「…変わってますよね」

京太郎「ペンギンにとって、飛ぶことは決して当たり前じゃないのに」


照「…」

照「…それでもきっと、彼は飛んでみたかったんだろうね」

京太郎「友達だったエトピリカのように、ですか」

照「うん」

京太郎「…それって一体、どうしてなんでしょうね?」

照「難しいことじゃないよ」

照「だってこの子はただ、大切な相手と一緒に居たかっただけなんだから」

京太郎「…それって、自分と咲のことを重ねてます?」

照「かもしれない」

照「ただ、近くにいるだけじゃ…近しく接することは出来ないけど」

京太郎「不器用過ぎですよ。お姉さんは」

京太郎「アイツと一緒に居たいのなら、もう少し位素直にならなくちゃ」


照「…今更素直になってもね」

照「あんな風に突き放したのに、どうして咲は今も私を慕うんだろう?」

京太郎「そりゃあ勿論、それだけあなたが好きだからでしょう」

京太郎「入部のきっかけがきっかけですから、決して能動的な希望じゃなかっただろうけど」

照「…願うだけじゃ叶わない」

京太郎「そうですね。エトペンだって、それが分かっていたから旅に出た」

京太郎「でも…中々難しいもんですよ。一度諦めたことを、もう一度叶えようとするのは」

京太郎「一人きりじゃ叶わないものなら、尚更だ」

照「…」

照「…」

照「…いいのかな。あの頃みたいに過ごしたいって、そんな風に思ってしまうのは」


京太郎「…」

京太郎「…答えなら、そこで立ち聞きしている奴に訊いてください」

「ふぇっ!?」

照「…!?」

「…きょ、京ちゃん」

京太郎「何見てんだよ。言いたいことがあるんだろう?」

「…///」

京太郎「…ほら、お姉さんも黙ってないで」

照「き、君…」

京太郎「拒んでいるならともかく…ホントはお互い仲良くしたいし、出来るんだから」

照「…うう」




「――ねえ、どうして?」

「?」

「どうしてキミは、ボクと同じエトピリカになりたいって思ったの?」

「…もっと一緒に過ごしたかったんだ」

「えっ?」

「空を飛べたら、キミともっと一緒に居られるって、そう思ったから」

「…そっか」

「驚かないんだね。それに馬鹿にもしたりしない」

「…笑える訳ないだろ」

「――ボクだってキミと同じで、キミともっと一緒に居られたらって思ってたから」






「…ああ、そうか」

「はじめから、同じになろうとしなくたって良かったんだ」

「大切に思える誰かと、一緒に居られる時間を大事に出来れば…それだけで」





                                             fin.

ここまで
ボキャ貧でなきゃギャグ書きたい(願望)


【清澄高校・部室】

ガチャッ

京太郎「ん…よいしょっ、と」

咲「あ、おつかれー」

和「早かったですね」

京太郎「そりゃまあ、菓子パン買ってくるくらいは楽勝だしな」

優希「…慣れたか?」

京太郎「慣れてない…とは言えんわなー。ああ、賭け麻雀とかするんじゃなかった」

咲「その言い方じゃ不味いよ京ちゃん!」

和「全くですよ。しかし語弊があるとも言いがたいのが何とも」





久「あら、何だか楽しそうな話してるじゃない」


京太郎「…あ」

優希「ぶ、部長」

咲「こ、これは違うんです!」

和「決してその、麻雀を賭博として扱っていた訳ではなくてですね…」

久「たかが菓子パン。けど賭け事には違いないでしょ?」

和「う…」

京太郎「あ、あの…言いだしっぺは俺なんで、和のことは責めないでくれると…」

優希「そ、そうだじょ。かくいう私もこのバカ犬を後押ししたんですけど」

京太郎「…スマン優希」

優希「なあに、いいってことよ」

咲(なんかいい感じに見つめ合ってはいるけれど…カッコよくはないよ二人とも)


久「いや、別に責めてるわけじゃないのよ?むしろこういうのって私大好きだし」

京太郎(それもそうか)

優希(部長はこういう人だったじぇ)

咲(一応生徒議会長だし、つい身構えちゃったけど)

和(この場にもし内木副会長がいたら、一体なんて言うんでしょうね…)

久「…それで、どうしてこんなことを?」

京太郎「いやーこれはその…ちょっとした遊び心ですよ」

優希「それに、目的を持って打てやすくするのは悪いことじゃありませんし」

優希「まして京太郎はまだ初心者。半年後までそのままでは不味いんだじょ」

久「ふーん…でも普通に考えたら、須賀君が不利なのは誰の目から見ても明らかよね」

京太郎「まあ、そうですけど」

久「それなら何かしらのハンディか…或いは菓子パン以外におまけをつけてもらってたかもしれない」

京優咲「!」

和(流石は部長、抜け目がありませんね…)

久「無論、彼が勝てたらの話だけど…どうかしら?」


京太郎「…」

優希「…」

京太郎「…わかりました、白状します」

優希「京太郎!」

京太郎「悪いな優希。もうこれ以上、嘘を吐き続けることは…俺にはもう…」

優希「…京太郎」

咲(こんな時にコントなんて、余裕あるなー)

和(少しは後ろめたくしてくださいよ…これじゃ私達がまるでバカみたいじゃないですか)

和(…まあ、バカはやってるんですけど)

京太郎「えっとですね、まずはこの写真を見てもらえませんか?」

久「これは…この間見せてもらった和の」

京太郎「ええ。小学生時代の写真ですね。思えばこの頃から尖ってたわけでして」

和「…その言い方は心外です」

京太郎「でまあ、この写真のと同じ服をサイズ直ししてたそうですから…それを着た和を見てみたいって」


久「…」

久「…え、それだけ?」

京太郎「…それだけですけど、何か?」

久「…須賀君」

京太郎「はい」

久「あなたはもう少し、勇気を振り絞るべきだと思うわ」

京太郎「…はい?」

久「そこはせめて…和の胸を鷲掴みにしてやりたいってくらいは」

京太郎「何言ってんすか」

久「麻雀は運の要素が強いとはいえ…普通に打てば、9割9分9厘勝ち目のない戦いなのよ」

京太郎「否定は出来ませんけども、いくらなんでも言い過ぎでは…」

久「ならば!その苦難を見事乗り越え、己が本懐を遂げてみせるという意思を……!!」

京太郎「言い方だけならカッコいいけど」

和「言ってることはセクハラの推奨ですよね!」


優希(…こんな感じの部活ですけど)

咲(私達、一生懸命麻雀やってます。やってますってば)









まこ(来年になれば、少しは平和になるんじゃろうか…)

                                        カンッ

京太郎「夢の彼方」 - SSまとめ速報
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