男「おい、妹を知ってるか?」 (15)
友「いもうと? ううん、何それ」
男「俺も人伝に聞いたんだが、どう説明すればいいのか」
友「食べ物?」
男「いや、生き物だ」
友「へー。魚の名前かな」
男「多分違う。女偏に未と書く」
友「そんな漢字ないじゃん」
男「だから造語だろ」
友「なんか凝った都市伝説っぽくなって来たね」
男「実際、都市伝説みたいなんだ」
友「て言うと?」
男「なんだか話に一貫性がなくて、矛盾した事ばかりで」
友「あー。尾ひれが付いちゃってるパターンか」
男「そうそう」
友「例えばどんなの?」
男「妹は可愛くて憎たらしい」
友「どっちだよ!」
男「都市伝説に真面目にツッコむなよ」
男「それに生意気で甘えん坊で、暴力的で優しいとか」
友「駄都市伝説だね。なんでそんなの流行ってるの?」
男「流行らせる分には楽しいタイプだから?」
友「聞く方はあんまり楽しくないタイプかー」
男「ずばり言うなよ」
友「仕方ないじゃん、事実だもん」
男「これ完全に話し損だな」
友「で、この妹って何なわけ?」
男「……多分みんな女の子を想像してるんじゃないか? ほら、メリーさんとかみたいな」
友「専用の漢字まで造った癖に抽象的すぎるわ」
男「爆発するらしいぞ」
友「なんで?」
男「さあ?」
友「私さ、オチのない話って嫌いなんだよね」
男「だから俺に言うなよ」
友「仕方ない、私達でオチを考えてあげよう」
男「俺も?」
友「そっちが話し始めたんでしょ? 責任取ってよ」
男「……おう」
友「まず、この支離滅裂な性格設定ね」
男「どうしたもんだろうな」
友「最初は良い感じなのに豹変するタイプでいく?」
男「約束を破った途端に、ってやつ?」
友「それそれ。最初は可愛くて甘えん坊で優しいんだけど」
男「約束を破った途端に憎たらしくて生意気で暴力的になって……」
友「そして爆発する」
男「どうしてそうなるんだ?」
友「私に聞かないでよ」
男「あ、忘れてた」
友「なに?」
男「妹とセットで、兄という都市伝説があるんだ」
友「先に言ってよ。どんな話なの?」
男「いや。実は妹とセットだって事くらいしか」
友「情報薄っ」
男「妹は兄が幼馴染と仲良しだと嫉妬するらしい」
友「つまり性別は男? オスの妹が兄って事?」
男「なのかな」
友「オスの妹の幼馴染って事は、それも妹よね?」
男「なんか、得体の知れない生き物の生態でも考えてるみたいだな」
友「私達、なんでこんな話してるんだろうね」
男「やめるか?」
友「別にいいんじゃない? どうせお互い暇でしょ」
男「いや暇じゃねーし。超忙しいし」
友「毎日放課後ダベって過ごしてんのに、今更見栄張っても遅いっての」
男「さよですか」
友「あ、私いい感じの思い付いたかも」
男「どんなよ?」
友「こほん。……これは友達から聞いた話なんだけど」
男「今考えた話だろ」
友「気分よ。……その友達の先輩のAさんに彼女ができたんです」
男「それが妹なんだな」
友「先回りするな、台無しでしょ」
男「面倒臭いんだよ。話のオチだけ端的に言えよ」
友「妹に憑かれた人間は兄になってしまうのでした」
男「んー、ちょっとシュールすぎるな」
友「評価厳しぃよー!」
友「他にも設定考えたんだよ?」
男「一応聞こう」
友「さっきの幼馴染の話を生かしてね、こう、現れるわけよ」
男「何が?」
友「もう一人の妹が。で、誘惑して来るわけ。この誘惑に乗っちゃうと……」
男「兄になるわけだ。約束破りパターンな」
友「ううん。爆発する」
男「そっちか」
友「前の妹を選ぶと兄になって、後の妹を選ぶと妹が爆発する」
男「シュールだな」
友「シュールだよね……」
男「豹変するパターンも組み込むと、兄になった途端に」
友「『これからお前は一生私の奴隷よ!』みたいな」
男「んー。その妹はなんでこんな事してるんだ?」
友「なんでだろ?」
男「メリーさんみたいによく分からない話もあるけど、ほら、カシマさんとか」
友「鉄道事故だっけ?」
男「そういう背景があった方がいいんじゃないか? あと逃げ方とか」
友「まあ定番だよね」
男「俺はお約束を大事にするタイプだ」
友「虐待、とか」
男「あー」
友「ごめん、今のなしで」
男「いや。話的にはアリだろ」
友「……」
男「おい、そんな泣きそうな顔するなよ」
友「ごめん」
男「やめるか?」
友「これだけ設定作ると愛着もちょっとあるし」
男「虐待設定はなしで他の考えるか」
友「一度浮かんじゃうと頭から離れないし、これで行こ」
男「お前がいいなら構わないけどな」
友「妹ちゃんは虐待されて亡くなった女の子の霊って流れで」
男「愛情を求めて彷徨ってるんだろうな」
友「うん。誰かに愛されたいって気持ちで、でも裏切られるのが怖いから」
男「最終的に自分の同類にして飼い殺しにしちゃうわけか」
友「多分、可哀相な子なんだよ。たくさん嫌な想いをしたから、だからそんな風にするんだよ」
男「救われないな」
友「心から愛してあげればいいんだよ」
男「逃げ方?」
友「うん。愛して愛して愛しまくってあげれば、きっと妹ちゃんも成仏するよ」
男「そうだといいな」
友「そろそろ帰ろっか?」
男「そうだな、下校時刻も近いし」
友「もしかしたら、助けて欲しかったのかもね」
男「ん?」
友「もし身近に男の人がいたら守ってくれたかもって、そう思うから仲間にしようとするのかも」
男「……」
友「なんてね。全部ただの作り話」
男「だな」
友「都市伝説の時間はもうおしまい! 行こ!」
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