奉太郎「気になられたら心臓発作?」里志「うん」(137)


奉太郎「意味が分からん」

里志「だろうね。ぼくも詳しくは分かってないんだ」

奉太郎「気になられたら心臓発作、って」

里志「うーん。どういうことだろう」

 ガチャ

える「ミナサン、コンニチワ!」

里志「……」

奉太郎「……(読めてきたぞ)」


える「ドウシタンデスカ?オレキサン、フクベサン」

奉太郎(……つまりあれか?こいつのあの口癖が出たら俺が心臓発作してしまうって訳か?)ボソボソ

里志(このままじゃまずいよ奉太郎。不審な部分を見せてしまうと気になられちゃうよ……)ボソボソ

える「ワタシ、ナニカヘンデスカ?オカシイデスカ?」

奉太郎「い、いや、おかしくない、うん、おかしくないぞ」

里志「そ、そーだよ、千反田さん!ほら、座って座って」

える「オカシイデス!フタリトモ、ナニカ、カクシテマスネ!?」

奉太郎(ヤバイ!)

える「ンー!ワタシ!キニナリマス!!」

奉太郎「……あ」

 ――――ド、クン

奉太郎「が……ま……」ドサッ ピクピク

里志「ホウタローゥ!ホウタローゥ!」ホウタローゥ


奉太郎「……つまり、どういうことだったんだ?」

里志「だから、気になられたら心臓発作だって」

奉太郎「それはさっき身をもって知った。俺が言いたいのは何で俺は今生きてるのかってことだ!俺は死んだはずだろう!?」

里志「怒鳴らないでよ奉太郎。ぼくにだって分からないんだから」

奉太郎「……」ハァ

里志「とにかく、千反田さんのあの台詞が何らかのトリガーとなって奉太郎に心臓発作を引き起こしているのは確かだろうね」

奉太郎「ありえるか?そんなこと。科学的に。宗教的にでも何でもいい、説明つくのか?」

里志「だからぼくにはわからないって。」

奉太郎「……はぁ。とにかく当面はアレをどう対処するか、だな」

 ガチャ

える「ミナサン、コンニチワ!」

奉太郎「……」

里志「……」

奉太郎「……(どうする?このままじゃさっきの二の舞もいいところだ)」

里志「……(とにかく下手なことは言えない。下手に喋って気になられたらゲームオーバーだ)」

える「アレー?ドウシタンデスカ?オフタリトモ、ダマッテマスケド…」

奉太郎「……(気になられたら終わりだ。黙って嵐が過ぎ去るのを待つ)」

里志「……(心を、無に)

える「ナゼ、ダマッテイルノデショウカ?」

奉太郎「……」

里志「……」

える「ンー?ナゼデショウ…?」

奉太郎「……(あ、ヤバイ)」

える「ワタシ!キニナリマス!!」

  ――――ド、クン

奉太郎「が……ま……」ドサッ ピクピク

里志「ホウタローゥ!ホウタローゥ!」ホウタローゥ

奉太郎「黙っていても気になられたな」

里志「さすがは好奇心の怪物だね」

奉太郎「なあ、里志」

里志「どうしたの奉太郎」

奉太郎「俺は考えたんだが、この古典部の部室から出て行けばいいんじゃないか?」

里志「なるほど、そうすれば千反田さんに遭遇することもなく、気になられることもない」

奉太郎「そういうことだ」

里志「悪い情報とすごく悪い情報があるんだけどどっちから聞きたい?」

奉太郎「……悪い情報」

里志「このドアは何故か内側から、つまり僕たちからは開けられない仕組みになってる。窓もね」

奉太郎「……すごく悪い情報ってのは」

里志「……もう千反田さんが来る時間」

  ガチャ

える「ミナサン!コンニチワ!」


奉太郎「……通算三度目の心臓発作、か」

里志「お疲れ、奉太郎」

奉太郎「なあ、里志」

里志「どうしたの奉太郎?」

奉太郎「お前、『DEATH NOTE』って知ってるか?」

里志「漫画の?『DEATH NOTE』に名前を書かれた人が心臓発作で死ぬ、っていう」

奉太郎「例えばだ。例えば千反田えるが人と区別がつかないような精巧なアンドロイドだったとしよう」

里志「うん」

奉太郎「そのアンドロイドは『DEATH NOTE』所有者の外部端末だ。ノート所有者は正体を隠すため外へ出ない。
    代わりにアンドロイドに外の様子を探らせている。もちろん、裁く人物を探すためだ」

里志「うん」

奉太郎「そして対象を見つけたときの『私、気になります』という言葉と同時にノート所有者へ、裁く人物の個人情報が送られる」

里志「うん」

奉太郎「ノート所有者は『折木奉太郎』の名前を書いて、俺は心臓発作を起こす」

里志「うん。奉太郎?」

奉太郎「どうした?」

里志「……大丈夫?」

奉太郎「……大丈夫そうに見えるか?」

里志「顔が土みたいな色してるよ」

  ガチャ

える「ミナサン、コンニチワ!!アレ!?オレキサン!ドウシタンデスカ、カオイロガワルイデスヨ!?カゼデスカ?ワタシ、キニナリマス!」

  ――――ド、クン

奉太郎「が……ま……」ドサッ ピクピク

里志「ホウタローゥ!ホウタローゥ!」ホウタローゥ

奉太郎「出たな……最速タイム……」

里志「うん……四回目にして不倒のタイムが出たとぼくは思うよ」

奉太郎「……よし、里志、部室から出るぞ」

里志「奉太郎、落ち着いてよ。この扉はこっちからは開かないんだって」

奉太郎「……ここで重要なのは発想の転換だ。開かないなら、開けてもらうんだよ」

里志「……な、なるほど!千反田さんが入ってきたと同時に扉を押さえ、外に出る。さすが奉太郎だね!ぼくは思いつきもしなかったよ」

奉太郎「それしか部室を出る方法はない」

里志「じゃあ、ぼくが扉を押さえればいいんだね。どうやらぼくはアレの対象外みたいだから」

奉太郎「ああ、迅速に頼む。気になられる前に外へ出るんだ」

奉太郎「……そろそろ、か?」

里志「……そのようだね」

 ガチャ

奉太郎「Go」

里志「ライティライト」スッ


える「ミナサン、コンニ、エッ?」

 ガタッ

里志「ホウタローゥ!今だー!!行けーぇ」グググ

奉太郎「……!!?」

 ギ、ギギ

える「……」グググ

里志「な、なんて力だ……!ドアが閉まる……!」グググ

奉太郎「何やってるんだ里志……!加勢するっ!」グググ

 ギギギ

里志「男二人の全力で、押し返される、だって……!?」

奉太郎「う、うおおおおおおおおお!」グググ

える「ドウシタンデスカァー?ドウシテ、ブシツヲデテイコウトスルノデスカァー?」ギリギリ


 ギリギリ

里志「ヤバイよホウタローゥ!このままじゃ扉が……!」グググ

奉太郎「くっ……アレを解放するときが来てしまったのか……!」グググ

里志「奉太郎!?」グググ

える「ドウシタンデスカァー?」ギギギ



  奉太郎「コード承認!省エネモード、解除!」ドン!

  奉太郎「ウオオオオオオオオオ!ランカァアアアアアアア!!」グググググ


える「ワタシ!キニナリマス!!」ドン!

 ―――――ド、クン

奉太郎「へけっ……」ドサッ ピクピク

里志「ハムタローゥ!ハムタローゥ!」ハムタローゥ

奉太郎「……なあ里志」

里志「うん?」

奉太郎「お前、地球上には『千反田える』って種類のメスゴリラが存在しているって知ってたか?」

里志「ぼくはさっきの『千反田えるアンドロイド説』を信じたくなってきたよ」

奉太郎「……」

里志「……」

奉太郎「馬鹿力すぎんだろ……っ!」

里志「扉がピクりとも動かなかったね」

奉太郎「……これで部室から出て行く線もなくなったな」

里志「ふりだしだね。これからどうする?」

奉太郎「……死にたくないよぉ」プルプル

里志「奉太郎の精神状態も限界が近いね」

奉太郎「とにかくアレの注意を逸らすことが重要だ」

里志「そうだね。でも、どうやって?」

奉太郎「いいか里志。何故あいつが疑問を持つかというと、それは」

里志「それは?」

奉太郎「……そこに疑問があるからだ」

里志「エベレストを目指したジョージ・マロニーのような台詞だね」

奉太郎「つまり疑問を持たせなければいい」

里志「言うはやすし、だと思うよ」

奉太郎「それだよ、里志」

里志「……どれだい?ぼくはヒントになるような会話をした覚えはないけど」

奉太郎「『言うはやすし』……そう、『やすしきよし』だ!」

里志(……ダメこい早何)

奉太郎「お笑いの中でも漫才ってのは注意を引きつける最上級の会話術だ」

里志「うん、たしかにそうかもね」

奉太郎「漫才を見ている側は、会話の先に何があるのか予想し、漫才師はあえてそこをずらし笑いをとる」

里志「まあ、そうだね。……じゃあ千反田さんの前ではやすしきよしのような漫才なんて一番やっちゃいけないことじゃないのかい?」

奉太郎「そうだ。でもな里志、お笑いの中には疑問を挟む余地のない素晴らしいものがあるんだよ」

里志「疑問を挟む余地のない……?たしかにそれなら千反田さんにはおあつらえ向きだけど……」

奉太郎「一発ギャグだ」

里志「……え?」

奉太郎「一発ギャグだ」

里志「……え?」

 ガチャ ミナサン!コンニチワ!

奉太郎「見てろ里志、俺の渾身の一発ギャグを」ガタッ

里志「……え?」



奉太郎「モノマネいきます」

里志「……」

える「……」

奉太郎「東京ラブストーリーの名シーンより」

里志「……」

える「……」

奉太郎「……カーンチ!」

奉太郎「フォックスしよっ」フォックス

里志「……」

える「……エ」

奉太郎「……(やったか……!?)」←やってない

える「エーット…オレキサン、ドウイウコトデショウカ?」

奉太郎「くそっ……!やはり今時のJkに90年代トレンディドラマは古すぎたか……っ!」

里志(そういう問題ではないと思う)

える「サッキノハギャグ…デスヨネ?ドコデワラエバイイノデショウカ?」

奉太郎「……は?」

える「トウキョウラブストーリーノセリフト、スコシチガッテイマシタシ…」

える「アァ!ソコガオレキサンノ、オモシロイトオモッタトコロナンデスネ?」

える「オリジナリティトイウヤツデスネ!?」

里志(……うわぁ。説明されてるよ……。もうやめたげてぇ)

奉太郎「……」白目

える「デモ…スイマセン。アンマリオモシロクナクテ、ワラエマセンデシタ…」

える「デ、デモ、オレキサンハ、オモシロイトオモッタンデスヨネ!?ジャア、ソレデイイトオモイマス!」

里志(うわぁ……うわぁ……)


える「デモ、ナンデキュウニオレキサンハ、イッパツギャグナンテシタンデショウ……?」

奉太郎「……」紫色

える「ンー?ナゼデショウ……?」

奉太郎「……」灰

える「ワタシ!キニナリマス!」ドン!

  ――――ど、くん

奉太郎「……」絶命

里志「……ホウタロウ」ホウタロウ

里志「六回目……だね」

奉太郎「ああ」

里志「でもさっきのは気になられる前に既に事切れてたよね」

奉太郎「ポケモンバトルで負けた時みたいに目の前が真っ暗になった」

里志「で、これからどうするの?黙っていてもダメ、一発ギャグもダメ。八方ふさがりだよ」

奉太郎「……また、俺は死ぬしかないのか……っ!?」

 ガチャ

摩耶花「おーっす、あれ?ちーちゃんは?」

奉太郎「……!!?」

里志「なん……だと……!?」

摩耶花「え……?何?」

摩耶花「どしたの?そんなマメパトがタネマシンガンくらったような顔して」←こうかはいまひとつ

奉太郎「ちょっと待て!部室のドアを」

里志「閉めちゃダメだ!マヤカァアアアアアアア!!」

摩耶花「え?なんで?」

 バタン

奉太郎「……お、おぉ……」

里志「……アチャー」

摩耶花「え?何?閉めちゃいけなかった?え?開けりゃいいじゃん、バカ?折木、あんたってやっぱりバカなの?」

 グッ

摩耶花「あれ?」

 グググッ

摩耶花「……開かない」ホワイ?


摩耶花「……なるほどね、ちーちゃんに気になられたら折木が心臓発作、ね」

奉太郎「そうだ」

摩耶花「バッカじゃないの!?そんなの信じられるわけないでしょ!!」

里志「残念ながら全て真実さ」

奉太郎「俺がいったいどれだけ死んだと思っている」

摩耶花「じゃあなんで死んだあんたがここにいるのよ!?」

奉太郎「それはこっちが聞きたいぐらいだ!!」

里志「まあまあ、二人とも、喧嘩はよしなよ」

摩耶花「……ふんっ」プイッ

里志「しかし、イレギュラーだね。今まで摩耶花が登場したことなんてなかったのに」

奉太郎「……なにか、鍵があるってことか、もしくは、ヒント……」

里志「よし!奉太郎、もう一回死んでみてよ」

奉太郎「はあ?」

里志「そうすれば摩耶花もこの特異な状況を信じるだろう?それに」

摩耶花「それに?」

里志「もしもう一度状況がリセットされるなら、摩耶花が登場するときに僕たちは部室から脱出できるかもしれない」

奉太郎「なるほど」

摩耶花「……折木、あんたほんとうに死ぬの……?」

奉太郎「気になられたら、な」

摩耶花「……」

  ガチャ

える「ミナサン!コンニチワ!」

摩耶花「……ちーちゃん……あんたが奉太郎を殺してるの……?」

える「エ?マヤカサン?」

摩耶花「ねえ?答えてよちーちゃん!あんた本当に」

里志「ちょちょちょ」

奉太郎「おいやめろ!」

摩耶花「だって!」

える「ドウイウコトデスカ?オレキサンヲコロス、ッテ」

里志「な、何でもないよ千反田さん、ほら冗談だよね、摩耶花」

摩耶花「でも!」

里志「摩耶花!」

える「ドウシタンデスカ?コタエテクダサイ!ワタシ!キニナリマス!」ドン!

奉太郎「あ……」

 ―――――ド、クン

奉太郎「……が……ま……」ドサッ ピクピク

摩耶花「……マジ……なの?」マジ?



奉太郎「な?」

摩耶花「な、じゃないわよ!バカ折木!あんた本当に死んでんじゃない!」

里志「言ったとおりだったでしょ?」ドヤ

摩耶花「本当に大丈夫なの?体、何ともないの?」

奉太郎「今はな。何故か生き返るから何ともない。いや、生き返ると言うより、元に戻る、か?」

摩耶花「どうなってんのよ……?」

奉太郎「なー?」

摩耶花「なー、じゃないわよ……」

里志「奉太郎の精神はもはやレッドゾーンに突入してるんだよ」

奉太郎「よーし!次も俺は死ぬぞ―!ははは!ナギサァー、今いくぞ―」

里志「トモヤァ……」



奉太郎「っていうかリセットされても、お前は部室の外じゃなく、ここにいるのか」

摩耶花「うん、そうみたい。ゴメンね……」

里志「うーん。これでまた振り出しだね」

奉太郎「なあ……これは誰の仕業だ?神か?悪魔か?GANTZか?ここは現実なのか?それとも夢か?天国か?地獄か?GANTZか?」

里志「まあGANTZじゃないことは確かだね。変な球体もないし」

摩耶花「なに?ガンツって」

里志「妖怪とヤる漫画だよ」ニコリ

奉太郎「何で大阪編の一部をピックアップするんだ」

摩耶花「うん、ほっぺをつねっても痛いし、夢じゃなさそうだよ」ギュチチ

奉太郎「痛いのは俺だ、俺の頬を引っ張ると痛いのは俺だ、わかるな?」

摩耶花「……」ギュチチ

奉太郎「ちぎれる」

里志「それで?これからどうするんだい、奉太郎。ねえ?」

奉太郎「……」

里志「このままじゃまた死んじゃうよ?どうする、ねえ」

奉太郎「……うるっせえんだよっ!!!」バン!

摩耶花「」ビクッ

里志「ほ、奉太郎!?」オロオロ

奉太郎「どうするどうするうるせえんだよ!俺にばっかり聞くんじゃねえやや!」

奉太郎「お前も考えろや!考えてくださいや!!」

奉太郎「何が、データベースは答えを出せない、だ!!」

奉太郎「てめぇ人間だろうが!人間だろうがよ!!」

奉太郎「じゃあ考えろ!俺が死なずに済む方法考えなさいやい!!」

奉太郎「……人間は考える足だ、ってピタゴラス先生も言ってたろうがや……」ハァハァ

里志「……ゴメン(その足じゃないし、ピタゴラスでもないよ奉太郎……)」

摩耶花(……キレ慣れてないから口調がおかしいんだろうなぁ)

奉太郎「……」

奉太郎「すまん……」フゥ

里志「いや、ぼくも悪かったよ。自分に被害がないからって適当になってた感はあるしね」

奉太郎「え……?」

里志「いやー、でもそうだね。そろそろ奉太郎が死ぬのも飽きてきたし、考えるとしますか」

奉太郎「ちょい待て里志お前そんな風に考えてたのか?」

里志「まあまあ、考えるからちょっと黙っててよ、ホーケイタロウ」

奉太郎「あ?」

里志「ん?」

摩耶花「……」

奉太郎「おい里志今何つった?」

里志「いや、だから黙ってて、って」

奉太郎「その後だよその後」

里志「うーん?覚えてないなあ、ホーケイタロウは覚えてる?」


奉太郎「それだよそれ、その、何?ホー、え?」

里志「ん?」

摩耶花「女子の前で下ネタとかやめてよ……」

里志「え?ホーケイタロウは下ネタなんて言ったの!?サイテーだね」

奉太郎「包茎って言ったのはお前だろっ!」

里志「えー(驚愕)!?奉太郎って包茎なの!!?」シンジラレナーイ

奉太郎「だ、れ、が、包茎だ!!」ギリギリ

摩耶花「もう、サイテー……」ハァ

里志「で?ホーケイタロウは包茎なの?」クスクス

奉太郎「だから!」

 ガチャ

える「ミナサン!コンニチワ!」


奉太郎「……結局、八回目の死亡確認だな」

里志「ホーケイタロウのホーケイは確認しなくていいの?」クスクス

奉太郎「まだ言うか」プルプル

摩耶花「たかが包茎ごときで男二人がぎゃあぎゃあ言ってんじゃなわよ、情けない」

奉太郎「俺は包茎じゃないぞ!」

里志「オレハホウケイジャナイゾー」クス

奉太郎「貴っ様ぁ!!」

摩耶花「もう!どっちだっていいじゃない!もういいでしょ!奉太郎も包茎ってことで!!!」

奉太郎「だから俺は違うって!」

奉太郎「……ん?奉太郎、『も』?」

摩耶花「あ……っ」

里志「……ぉぃ」

奉太郎「……『も』?」

奉太郎「『も』?」

里志「……」

摩耶花「あっ……あの、これは、違くて、その」

奉太郎「なあ、里志ィ?『も』ってどういうことかなァ?」ンー?

里志「……」

奉太郎「ンー?」

里志「黙れよ童貞野郎」

奉太郎「あ?」

摩耶花「……」プルプル

奉太郎「あ?ド、ん?どう?ん?」

里志「童貞野郎は黙ってろっつってんだよ」

奉太郎「あ?」


里志「奉太郎、キミ、童貞でしょ?」

奉太郎「どっどどどどうど童貞ちゃうわ!」

里志「声に出して読みたい日本語っぽく否定しないでよ童貞くん」

奉太郎「今俺が道程なのは関係ないし、俺の前に道はないし、俺の後ろに道はできるし、お前は包茎だし」

摩耶花「もういいかげんにしてよっ!!」

里志「……摩耶花」

摩耶花「包茎でも童貞でもいいじゃない!人間だもの!金子みすゞ!」

奉太郎「……(それ320だろ)」

摩耶花「そんなことより、今はここから脱出することを考えなきゃいけないでしょう!?よく考えてからものを言ってよ!この未来形ハゲ!!」

里志「……うん、その通りだね(未来形ハゲ……?)」

奉太郎「……すまん、頭に血が上ってたみたいだ(未来形ハゲ……?)」

里志「ぼくのほうこそ悪かったよ」

奉太郎「いや俺のほうが」

里志「いやいやぼくが」


奉太郎「いや、俺だって、7:3で俺だって」

里志「ギリでぼくだよ、誤差の範囲内だけどギリでぼく」

摩耶花「やかましいっ!!ちーちゃん来ちゃうでしょうが!!」

奉太郎「……」

里志「……」

摩耶花「あ……!」

里志「どうしたの?」

摩耶花「これ、ヒントかもしんない……っ。わたしがここに来た意味っ……」ゴソゴソ

奉太郎「こ、これは」

摩耶花「うん、バッグに入れてた……。ウイスキーボンボン」ドン!

里志「これを千反田さんに食べさせ……」

奉太郎「酔わせ、眠らせる……!」


  ガラッ

える「ミナサン!コンチクワ!」

奉太郎(――――来たか!)

里志(それじゃあ作戦通り――――)

摩耶花(――――ちーちゃんにチョコを)





奉太郎里志摩耶花(詰め込む!!!)




奉太郎「オラァアアアアアアアア!!」ズボォ

里志「ヤァアアアアアアアアアアア!!」ゾボボ

摩耶花「ごめんちーちゃん」ザザー


える「ミ、ミナヒャン!?エヒ?」ガボガボ

奉太郎(ウイスキーボンボン3000個入りを三人がかりで一気に口に詰め込んだ……)

里志(これなら象だってアル中でマンモスの墓場攻撃力1200だよ)

摩耶花「マジごめんちーちゃん」


ボリボリボリボリボリボリボリボリ


奉太郎里志摩耶花「!!!??」


える「オイヒイデス」ボリボリボリボリボリボリ

える「オイヒイ」ボリボリ

える「デス」ボリボリボリ

える「」ボォリボォリモチモチモチモチ

  モチモチモチモチ…

  …ゴクン


える「イッタイドウシタンデスカ?ミナサン?」ゲプ

奉太郎「……化け物め」

里志「いったいどうしろっていうのさ……」

摩耶花「単純に怖い」

える「ナゼ、ミナサンハコンナコトヲシタンデショウ?ウーン?」

奉太郎「おい!!!」

える「ドウシタンデスカ?オレキサン?」

奉太郎「もう気にするな!!気にすることなんてない!!なんくるないさー!!ははは!」

える「……?」

奉太郎「な?もういいだろ?お前も満足だろう?俺が何回死んだと思ってる?」

里志「ほ、奉太郎……?」

奉太郎「もう十分だろう!?こんなバカげたことはもうやめろ!やめてくれ!」

える「……オレキサン?」

奉太郎「もう……限界なんだ……」ポロポロ

える「ドウシマショウ……オレキサンガオチコンデイマス……」

奉太郎「……」ポロポロ

える「アア、ナミダガ……」オロオロ

里志「……」

摩耶花「……」

える「イッタイナニガアッタトイウノデショウ…?」

奉太郎「……クソッ」ポロポロ

える「ワタシ、キニナリマス!!」

奉太郎「……ぁ」

 ――――ド、クン

奉太郎「……が……ま……」ドサッ ピクピク

里志「ホウタロゥ……」ホウタロウ

摩耶花「なんで……なんで……っ」ポロポロ



奉太郎「もう……いいよ」

里志「……」

奉太郎「もう、あきらめよう……」

摩耶花「……」

奉太郎「この部室という名の密室に一生を捧げよう……」

里志「……奉太郎」

奉太郎「貴様らも道連れにしてくれる……っ!!ギリギリ

奉太郎「地獄へランデブーだ……!くくく……!ははは!」

奉太郎「はーははははは!!!」

摩耶花「……奉太郎は、本当に……それでいいの……?」

奉太郎「いいわけないだろうっ!!!」バンッ!

奉太郎「いいわけがぁ!!」

奉太郎「俺は生きたい!もう死にたくない!!まだやり残したことだってある!!」

里志「……本当に?」

奉太郎「何だよ……?何だよ、お前ら……?」

摩耶花「あんたは本当に生きていたいの?いつだって省エネだ、とかほざいて本気にならないあんたが」

奉太郎「お前……?」

里志「やり残したことなんて本当にあるのかなぁ?ぼくにはとてもそうは思えないよ」

奉太郎「何だよお前ら……?俺にどうしろって言うんだよ……!」

里志「だから、さっきからずっと言ってるじゃないか」








里志「『これからどうする?』……って」


奉太郎「……里志?」

里志「ねえ、奉太郎、本当にこれからどうするの?」

摩耶花「これから先、あんたは何を目的に生きていくの?」

奉太郎「そっ、……そんなの今は関係ないだろ」

里志「そうやって逃げるんだね」

摩耶花「いっつもあんたはそう、自分からは決して動こうとせず、事なかれの日和見主義」

里志「それでいいの?」

摩耶花「本当にそれで」

奉太郎「お、おかしいぞお前ら……」

里志「おかしいのは奉太郎のほうだよ」

摩耶花「何でこんな簡単な密室のトリックも見破れないわけ?」

摩耶花「この、ループする密室の」

奉太郎「ループする……密室?」

里志「そうだよ、こんな簡単な密室事件はないよ、誰だってすぐわかる」

摩耶花「なんでわからないかなぁ、そんなんだから」

摩耶花「大事な人の想いにも気づかない」

奉太郎「何だよ、何だよ、それ」

里志「もういいよ、もういい」

里志「奉太郎、最後のチャンスだよ」

奉太郎「この密室を抜け出す、チャンスか……?」

摩耶花「違うよ、この人生を再び前に向けて歩き出す最後のチャンスだよ」

奉太郎「……失敗すれば、どうなる?」

里志「……」

摩耶花「……」

里志「さぁ、考えて答えを出してよ、奉太郎」

摩耶花「もう一度言うけど、これが最後のチャンスだから」

奉太郎「……まて、待てっ……!」

 ガチャ

える「……オレキサン」

里志「さぁ、奉太郎」

摩耶花「答えを」

奉太郎「う……あ……」

える「オレキサン」



奉太郎「これは……この密室は現実じゃない。俺の夢だ」

える「オレキサン……」


奉太郎「だいたいこんな事、現実にあるわけがない!」

奉太郎「千反田えるはゴリラみたいなパワーはないし!」

奉太郎「ウイスキーボンボンを3000個も食べられるわけがない!」

奉太郎「っていうか3000個入りって何だよ!多いわ!」

奉太郎「里志も童貞だ!」

奉太郎「だいたい『気になられたら心臓発作』ってなんだよ!ありえない!」

奉太郎「死んでも生き返る、同じパターンの繰り返し、全部夢だからだ!」

奉太郎「夢だ!これは夢だ!これが答えだ!そうだろ、里志!!」





里志「……そうだよ、奉太郎の言うとおり」

里志「ここは、夢の世界」


里志「ここは奉太郎の見ている夢」

摩耶花「当然よね、こんなのトリックでも何でもないわ、現実に起こりえないことが起こる、それってつまり」

摩耶花「夢ってことよ」

奉太郎「正解したんだ……早く俺を現実に戻せ」

里志「うん、……確かに奉太郎は密室のトリックを見破ったよ、でもね」

摩耶花「でも、最後のチャンスは逃した」

里志「逃しちゃったんだよ、奉太郎」

奉太郎「……ど、どういうことだ?」

里志「奉太郎、確かにキミは名探偵だよ、たいしたもんだ。謎を見破る天才だね」

摩耶花「でもね、それじゃあ人は救えない。名探偵は人を救わない」

奉太郎「は?は?」

里志「いいかい奉太郎。誰もこの密室の謎を解けとは言ってないんだよ」

奉太郎「は?」

摩耶花「そんなことよりもっと大事なことがあるでしょう?」

奉太郎「は?」

える「……オレキサン」

奉太郎「……」

里志「もう、わかったかな、奉太郎」

摩耶花「ちーちゃんに『気になられたら心臓発作』、なんでこんな事が起こると思う?」

奉太郎「そ、そんなの」

摩耶花「ちーちゃんを気にさせちゃいけないのよ」

奉太郎「……気にさせたら俺が死ぬから……?」

摩耶花「そうじゃない、そうじゃないの」

摩耶花「覚えてる?この夢で、ちーちゃんが気になったことって」

摩耶花「全部、あんたのことだったのよ?」

里志「奉太郎、奉太郎は千反田さんのことを気にさせちゃダメだったんだ」

奉太郎「だから、その努力はしてきただろう!?一発ギャグまでやったんだぞ!」

里志「千反田さんの欲しい答えじゃなかった、それだけのことだよ」

奉太郎「あいつの、欲しい答え……?」

摩耶花「そこまで言えば、あんたもわかるよね?それが最後のチャンスだったんだよ?」

里志「でも、もう遅い」






える「折木さん、折木さんはわたしのこと、どう思ってるんですか?」

える「わたし、気になりますっ!」ドン



―――――ド、クン






奉太郎「ちょうど10回目の死亡、か」

奉太郎「……」

奉太郎「……里志?」

奉太郎「伊原……?」

奉太郎「……」

奉太郎「……最後の、チャンス、か」

奉太郎「……」

奉太郎「……」

奉太郎「千反田……」

奉太郎「……ははっ」

奉太郎「……」

奉太郎「……誰もいなくなっちまった」



奉太郎「あれからどれくらいの時が過ぎただろう」

奉太郎「五時間?十時間?一日くらいは過ぎてるかもな」

奉太郎「腹も減らない、のども渇かない。眠くもならない」

奉太郎「……千反田は、まだ来ない」

奉太郎「俺は一生このままか?」

奉太郎「この場所で?」

奉太郎「たった一人で?」

奉太郎「……」

奉太郎「……冗談だろ?」



奉太郎「あれからどれくらいの時が過ぎただろう」

奉太郎「一ヶ月?二ヶ月?一年くらいは過ぎてるかもな」

奉太郎「相変わらず腹も減らない、のども渇かない、眠くもならない」

奉太郎「棚のガラスで確認したところ、俺は老けてもいないようだ」

奉太郎「当然か、夢の中だもんな」

奉太郎「気づいたことがある。この夢の中は、夢のくせに痛覚があるって事だ」

奉太郎「思えば摩耶花に頬をつねられたとき、確かに痛みを感じたし」

奉太郎「今、こうして割れたガラスに手首を当てると血も出てくる」

奉太郎「もちろん痛い」

奉太郎「ああ、血が流れ続けていく」

奉太郎「この夕焼けも俺の血でできているのかもな……」

奉太郎「ああ、久しぶりに眠気が来た……」

奉太郎「これで、やっと……」

奉太郎「……」



奉太郎「あれからどれくらいの時が過ぎただろう」

奉太郎「三年?五年?十年くらいは過ぎてるかもな」

奉太郎「血を流して眠った後、目を覚ます。そうすると何故か全てが元通りになっている」

奉太郎「割ったガラスも、引き裂いた腕も、全て」

奉太郎「最初の時と同じ状況に戻ってる」

奉太郎「……いや、最初の時は里志がいたか」

奉太郎「しばらくしたらあいつも来て……」

奉太郎「ん?あいつの名前なんだっけか?確か伊原……ま、ま、まや」

奉太郎「……メンマ?」

奉太郎「それと千反田える」

奉太郎「まだ、来ない……」


奉太郎「あれからどれくらいの時が過ぎただろう」

奉太郎「十年?五十年?ははっ、百年くらいは過ぎてるかもな」

奉太郎「サトースィーとメンマ、それから千反田える、あいつらは一度も姿を見せないままだ」

奉太郎「ん?違うな。サトースィーじゃなくってサットスィーだったか……?」

奉太郎「ダメだ、これだけの時間経ってしまって、確認もできないこの状況ではどんどんモノを忘れてしまう」

奉太郎「幸いにもこの部室には大量のノートや紙に鉛筆やボールペンがある」

奉太郎「大事なことはちゃんと書きためておこう」

奉太郎「夢から覚めても、すぐ思い出せるように」

奉太郎「……よーし」

奉太郎「えーと、サットスゥーは俺の友人で、メンマは幽霊、だっけか……?」カキカキ


奉太郎「あれからどれくらいの時が過ぎただろう」

奉太郎「五百年くらいは過ぎてる気がするな」

奉太郎「あれからこの場所にある全ての紙を使い切って、完成させた」

奉太郎「古典部の神話、『氷菓』を」

奉太郎「ああ、やっと完成した」

奉太郎「誰に見せるわけでもない、自分で見るためだけの神話」

奉太郎「一人の救世主フォンタルゥと、一人の美しい女神チタンダエルの物語」

奉太郎「もはや俺にはこの物語が事実か妄想かどうかさえも分からない」

奉太郎「しかし、この神話のラストはこれでいいんだろうか」

奉太郎「『救世主フォンタルゥは羊飼いサッティーと悪魔144柱のメンマに見守られる中、死に至る』」

奉太郎「チタンダエルが出て来ないじゃないか」

奉太郎「出て来ないじゃないか」




奉太郎「あれからどれくらいの※※(解読不能)が※※※(解読不能)」

奉太郎「※(解読不能)?※(解読不能)?それとも※(解読不能)くらいは過ぎてる気がするな」

奉太郎「※※(解読不能)は※(解読不能)」

奉太郎「どうあっても俺は※(解読不能)な運命らしい」

奉太郎「ああ、でも、もう一度だけ※※※(解読不能)なら」

奉太郎「チタンダエルに※※※(解読不能)」

奉太郎「※※※(解読不能)」




奉太郎「……会いたい」




奉太郎「―――・――・―(あれからそれくらいの時が過ぎただろう)」

奉太郎「・・――・―(一万年?十万年?一億年かもな)」

奉太郎「―。・、――(数千年ほど『氷菓』を読まなかっただけで、もうなんて書いてあるか理解できなくなってしまった)」

奉太郎「―――、――(言語体系もすっかり変わってしまった気がする)」

奉太郎「―――・ ―(それと、最近会いたくてしょうがない人がいる)」

奉太郎「――。―(誰かな?思い出せない)」

奉太郎「。・―…ー(覚えているのは、あの顔と声だけ)」

奉太郎「、。。・―――。(大きな目、綺麗な黒髪、通った鼻筋、俺を呼ぶ透明な声)」

奉太郎「―――・―ー―。(名前は?思い出せない)」

奉太郎「――・、。――(確か、女神みたいな名前だった)」



奉太郎「――。、・(ああ)」


奉太郎「―――。、―(なんで忘れてたんだろう)」


奉太郎「―。、・――(こんなに胸のときめく、すてきな名前を)」






奉太郎「……千反田、える」



 ガラッ


える「こんにちわ、折木さん」

える「見てください、綺麗な朝日が!」



    オワリ



オワリです




ちなみにこの話には裏設定があって
奉太郎は既に死人で、何度も繰り返す苦痛を受ける地獄のような場所にいます

千反田えるというカンダタの蜘蛛の糸を何度も手放し、
里志、摩耶花の助けにも気づかず、とうとう奉太郎は本物の地獄に落とされてしまいます

そこでたくさんの時をたった一人で過ごし、罪が許されたとき
チタンダエルが再び現れたわけです。


えるの最後の台詞の朝日は、夢からの目覚めではなく、成仏とか、天国へ行ったとかそういうことだったりします
だからこのSSは終始夢の中で、決して現実に戻りはしません

ちなみに朝日というのは夕日にも似て、もしかすると奉太郎がずっと見ていた夕日は朝日だったのかもしれません
表裏一体、天国は地獄のすぐそばにあり、チタンダエルも奉太郎のすぐそばで見守っていたのでしょうか


と、こういうのを後付けと言います。


こんなSSよく見たなお前ら

コピペにするな頼む

ならハッピーエンドを今から書くんだ

>>128
え?これハッピーだろもう

>>130
ハッピーではないトゥルーだ

>>131

>>119がトゥルーだようん
>>119を読めば読むほどその通りな気がしてきたよ
深いわ

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