貴音「ちょっと月へ里帰りに」P「へぇ」(168)
貴音「4日ほどで戻りますので」
P「あーうん。分かったわ」
貴音「……驚かないのですか?」
P「実は俺火星生まれなんだよね」
貴音「なんと……!」
P「貴音は知ってる?俺の故郷のウンタラカンタラコロニー」
貴音「あそこは……すでに滅んだものとばかり」
P「地下に移設されたんだよ」
貴音「そうだったのですか……」
P(このとき、貴音の言葉を本気で信じていたわけじゃなかった)
P(そもそもなんだよ、ウンタラカンタラコロニーって……)
P(貴音のちょっとした電波に、冗談で付き合っていただけのつもりだったんだけど……)
貴音「貴方様、宇宙酔いの経験は?」
P「さあね」
貴音「では、試してみましょう」
P「なにを?」
貴音「そこの椅子にかけてください」
P「うん」
貴音「では、私がぐるぐると回しますので……」
P「ますので?」
貴音「その間、一定のリズムで首を前後左右に動かし続けてください」
P「それだけ?いいよ」
貴音「では」グールグール
P「……」クイックイッ
30分後
P「まだやるの?」クイックイッ
貴音「なんと……!私は5分と持ちませんのに」
P「全然平気だわ」
貴音「正直、うらやましいです」
P(宇宙酔い以前に宇宙行ったことないし)
貴音「おっと、もうこのような時間なのですね」
P「もういくの?」
貴音「ええ。迎えの船が待っていると思いますので」
P「結局どこに行くの?」
貴音「月、ですが……?」
P「ああ、そうね。わかったよ」
P(言いたくないってわけか。そうかよ)
貴音「なにかよい土産でも用意しておきましょう」
P「あー。分かった。それじゃあ気をつけてな」
貴音「貴方様も」
P「……」
バタン
P「……小鳥さん」
小鳥「はい?」
P「ちょっと外に行ってきますね」
小鳥「いいですけど……なにか?」
P「いや、ちょっと用事が……」
小鳥「そうですか。もしよかったら帰りにアイスでも買ってきてください」
P「え……?俺がですか?」
小鳥「社長がさっきから食べたいってうるさくて……」
P「仕方ないですね……」
小鳥「あずきバーがいいそうですよ」
P「分かりました。それじゃあ行ってきますね」
小鳥「気をつけて」
P(早くしないと貴音を見失うな。なんとかして後をつけて……)
P(貴音の故郷とやらを見つけてやる)
外
P「どこ行った……」
貴音「」
P「見つけた!」タッタッタ
貴音「」
P(路地裏に入った……なんだ?駅とは全く関係のない方向に行ったが……)
P「とにかく行ってみよう」
タッタッタ
P「行き止まり……?」
P(しかも貴音も居ない……どこに消えた……?)
?「……」ヌッ
P「誰だ!?……ぐふぅっ……」ドサリ
貴音「どうしたのです」
?「貴音様の後ろをつけている怪しいものが居ましたので」
貴音「貴方様……一体どうして……」
?「この者、一体どうしましょう」
貴音「先ほど聞いたのですが、どうやら火星出身者なのだそうです」
?「そうですか」
貴音「せっかくですし、連れて行きましょう」
?「よいのですか?今回の月は……」
貴音「ええ、彼が居てくれた方が私としても心強い」
?「……分かりました」
貴音「では、急ぎましょう。ここに長居は無用です」
?「は」
P「うう……」
貴音「目を覚まされましたか」
P「ここは……どこ?」
貴音「御存じないのですか」
P「御存じも何も……何が何だか」
?「いわゆるエリア51ってやつだ」
P「お前は……!」
貴音「彼は私の護衛です。先ほどは彼が無礼を……」
P「おう……ってエリア51!?」
貴音「ええ」
P「は!?じゃあここはネバダ州か!?」
護衛「そうだといっているだろう」
貴音「なにか問題でも?」
P「いやいやいやいやいやいや」
貴音「?」
ごめんちょっと会社から呼び出し食らってた
P「俺、いきなりネバダに行くなんて聞いてないし」
貴音「ええ、私も言っておりません。てっきり知っているものかと」
P「えぇ!?だって、俺ちょっと表に出てくるって言ったっきりだし」
貴音「では、こちらから連絡しておきましょう」
P「はぁ!?」
護衛「私どもで手配しておきましょう」
貴音「お願いします」
P「こんなんでいいのか……」
貴音「貴方様、月へ行かれた経験は?」
P「いや……それどころか生粋の地球人です」
護衛「何!?」
貴音「なんと……!」
P「ってか、月に行くってマジだったのか……」
護衛「どうします……?」
貴音「……そうですね……」
P(やばいよ俺……エリア51とか入り込んじゃって……)
P(映画みたいに記憶操作とか……いや、最悪消されるかも……)
貴音「仕方ありません。やはりこのまま連れて行きましょう」
P「……え?」
貴音「今回は貴方様が居てくれた方が都合がいい場面もありますので」
P「ちょっとまってちょっとまって!」
護衛「なんださっきからやかましい」
P「え!?だって月よ!?アメリカが行って以来人類は到達してないんじゃないの!?」
護衛「……」
貴音「貴方様」
P「……何が何だかわからない。これってドッキリなんだろ?どこかに隠しカメラがあるんだろ!?」
護衛「監視カメラならいたるところに」
貴音「貴方様!!」
P「なんだよ!?」
貴音「これを……」プシュー
P「うわっ!……なに……を……」バタリ
貴音「申し訳ありません貴方様。これ以上は時間がないもので」
護衛「……本当に、よろしいので?」
貴音「ええ。彼もいっしょに乗せてください」
護衛「分かりました」
貴音「……」
貴音「月へ帰るのは、気が重いですね」
護衛「……」
貴音「ささ、早く準備を。嫌なことはさっさと済ませてしまいたいのです」
護衛「……はい」
貴音「……様……貴方様……」
P「……うう」
貴音「御気分の方は」
P「なんか……変な夢見てた気がする」
貴音「夢ですか」
P「うん。なんか、貴音が月に里帰りだとかなんとか言って……」
貴音「……それで」
P「いきなり気を失って……それからエリア51につれてかれて」
貴音「ええ」
P「それからなんか……貴音に変なスプレー掛けられて……」
貴音「ええ。なんとお詫びすればよいか」
P「いいよ気にすんなよ……って、え?」
護衛「いつまで寝ぼけてる。もうすぐ月面だ」
P「……え?」
貴音「先ほどの話、すべて夢ではありませんよ」
P「お……おお!身体が浮く!」
貴音「落ち着いてください。着陸までさほど時間はありませんよ」
P「すげえ!なんだこれ!なんだこれ!」
護衛「……黙らせましょうか?」
貴音「……必要なら」
P「……!」
P「すみませんでした」
護衛「それでいい」
貴音「ああ……懐かしや我が故郷……」
P「……貴音って、本当に月の人だったんだな」
貴音「……ええ」
P「実は女王様なんていうゴシップ記事も本当だったりして……」
貴音「まぁそのようなものです」
P「!!」
護衛「着きました」
貴音「ええ」
P「……」
月人「お帰りなさいませ」
P「……」
P(護衛の人間もそうだったけど……めちゃくちゃ背がでけぇ……)
貴音「出迎え御苦労さまです」ペコリ
月人「そちらの……方は?」
貴音「私が地球で見つけた、将来の伴侶となる方です」
P「!!」
月人「なんと!!それでは……」
貴音「ええ。父と母にもそう伝えてください」
P「あの……貴音?」
貴音「いろいろと思うところもあるでしょうが、今はどうかご容赦を」
貴音「落ち着きましたら、必ず話しますので」
別室
P「おう……おう……」
貴音「落ち着きましたか……」
P「混乱しすぎて……一周して賢者の境地に至った」
貴音「そうですか」
P「まだ夢をみてる気分だ」
貴音「私は悪夢を見ている気分です」
P「どうしてだ?せっかくの実家だろ?」
貴音「そうですが……」
P「ほら!体だってこんなに軽いし」ピョーン
貴音「気は重いままです」
P「……これから、何を話そうっていうのかはわからんけどな」
P「俺は貴音のプロデューサーだ。必ずお前の見方でいてやる」
貴音「貴方様……」
P(そんな期待の眼差しで見るなよ……)
P「……」
貴音「……」
P「つまり……その、なんだ」
P「お前の許嫁とやらとの結婚を両親に迫られてるから、断りに来たと」
貴音「ええ」
P「……」
P「えー……なんというか……」
貴音「貴方様さえよければ、貴方様が私の見染めた方ということでなんとか話をしのごうかと思うのですが」
P「まぁ……俺はいいと思うんだけど」
P「そもそもなんで地球に来たんだよ」
貴音「そもそも、私は地球に追放された身だったのです」
P「追放!?」
貴音「ええ。地球にあまりに入れ込んでしまったが為に」
P「そんなことで……?」
貴音「地球のらぁめんに入れ込む余りに月での役目を疎かにしてしまい。。。」
貴音「それで勘当も同然に地球へ追放されたのです」
P「なんと面妖な。。。」
貴音「地球に追放されたときはお金もなく、今後のことをどうしようか考えあぐねていたとき」
貴音「高木殿に見出され、貴方様にお会いしたのです」
貴音「これが『トップシークレット』の真相です」
P「なんと!」
貴音「その後しばらくはなんの音沙汰もなかったのですが。。。」
貴音「どういう風の吹き回しか、このような話が進んでおりまして」
貴音「望まぬ縁談を破棄するために久々に月の地を踏んだのです」
貴音「とらぶるの結果とはいえ、貴方様が共にいてくださることがとても心強く感じます」
貴音「もし、縁談が進んでしまったら、二度と地球には帰れぬやもしれません」
貴音「この月の地で頼れるのは、もはや貴方様だけなのです」
貴音「ご無理を承知でお願い致します」
貴音「助けてください。。。」
P(どうしよう。。。話が壮大すぎてついていけない。。。)
P(しかもなんかかなり頼られてるし、責任重大っぽいし。。。)
ってところまで妄想した。
>>1マダー?
P「なんかよくわからんが。。。」
P「貴音が困っているなら、俺は貴音の力になりたいと思っている」
貴音「貴方様・・・」
P「正直なところどれだけ力になれるかはわからないが、できる限り協力させて貰うよ」
側近「その言葉が聞きたかった!」
P「うおっ!ビックリした!まだいたのか!」
ーーー
ーー
貴音「着きました」
P「随分重厚な扉だが、ひょっとしてこの先に……」
貴音「はい。父と母がいるはずです」
護衛「開けてもよろしいですか?」
P「え?ちょっとま」貴音「参りましょう」
護衛「では……御武運を……」
貴音父「……」
貴音母「……」
貴音「……」
P(無言かよ!空気重いよ!)
貴音「……相変わらずお変わりないようで何よりです」
貴音父「……お前も……な」
貴音父「護衛から話は聞いていたが……」
貴音父「その者がお前の決めたふぃあんせか?」
貴音「はい」
P「……Pと申します。本日は突然おじゃましてすいません」
貴音父「……ふん。どんな男を連れてくるかと思えば……」
貴音父「どうやら地球に慣れすぎたようだな」
貴音「……それは一体どういう意味でございますか?」
貴音父「お前は何もわかっていないようだな」
貴音父「この月で我が一族に課せられた定めというものを」
貴音「わかっているつもりです」
貴音父「いや、わかっていない」
貴音父「わかっているならば、進めていた縁談をご破算にするなどしないのではないか?」
貴音父「いくらお前でもその意味が分かっていないわけはなかろう?」
貴音父「それにその男……Pと言ったか」
貴音父「何も知らずにここにいるのではないか?」
貴音「……なぜそう思うのです?」
貴音父「目だ」
貴音父「目に覚悟がない……」
P(……なんか話進んでるけど、眠くなってきた)
貴音父「お前の我が儘でこの月の民がどれほどの危険に晒されることか……」
貴音「……」
貴音父「……まあよい。何も知らずにこの場にいても話は進まぬ」
貴音父「暫く時間をやろう。その者にちゃんと伝えることだ。」
ーーー
ーー
貴音「貴方様……申し訳ございませんでした」
P「いや、俺の事は気にしなくてもいい。それより話してくれないか?」
貴音「はい……」
貴音「実は父が用意した縁談の相手は火星の国の王子なのです」
貴音「元々、この月と火星の国は水星をめぐって敵対関係にありました」
貴音「私が幼い頃はひどい争いがあり、両者とも多くの犠牲が出たと聞きます」
P「なんと……」
貴音「その後、両国ともに穏健派が主流となり、和平交渉が始まりました」
貴音「長らく冷戦状態が続いておりましたが、内部に火種がくすぶっていたようで……」
貴音「急進派が勢いを取り戻す前に父は一計を案じました」
貴音「私に課せられた使命、それは火星に嫁ぐこと」
P「……それってもしかして」
貴音「政略結婚……というものでしょうか」
貴音「私を火星へ送ることで、内部から挙がっている戦争再開すべきとの意見を封じるという狙いがあるのでしょう」
P「……しかし、それでは相手方が有利になるだけではないのか?」
貴音「ええ、貴方様の仰るとおりです」
貴音「長年続いた仮初めの平和のせいで、ぱわーばらんすが崩れてしまったのです」
貴音「仮に再び争いが始まれば、弱体化した我々に勝ち目はありません」
貴音「……父の言うとおりなのかもしれません」
貴音「私の我が儘で多くの犠牲が出てしまうやもしれない……それを考えると……」
P「貴音……」
貴音父「……話はまとまったかね?」
P「!」
貴音父「……残念ながら、残された時間は多くないのだよ」
貴音父「思えば何ひとつ父らしい事をしてやらなかったな……」
貴音父「このような事態を招いたのも元はといえば私の責任だ」
貴音父「お前に選ばせてやる……」
貴音父「地球に戻るか、この縁談に乗るか」
貴音「お父様……」
P「ちょっと待ってください!貴音にそんな……」
貴音「貴方様……もうよいのです……」
貴音「私は決めました……私は……」
おわり
ーーー
ーー
P「今日は満月か……」
あの日から何度月を見上げただろうか。
その重い決断に、恥ずかしながら何もいえずに立ち尽くしてしまった俺に、彼女の事を思い出す権利などないのかもしれない。
あれから彼女……貴音は自らを犠牲にする道を選んだ。
苦渋の決断だったのだろう。握りしめたその手にはうっすらと血がにじんでいた。
その後まばゆい光に包まれ、気がついたらいつものあの場所 ー 765プロの自席に座っていた。
それからまた同じ日常が始まった。ただひとつ、彼女の姿が消えたことだけが異なる日常が。
事務所のみんなは誰もその存在を覚えていないらしい。今思えば気が触れたかのように見える悪あがきを繰り返したが、時がたち悟った。
……銀色の少女は、水面に映る月のようなものだったのかもしれない。そこに見えている、しかしそこには実在しない。
P「ラーメン二十郎……か……」
気がつけば彼女のトレンドマークともいえる場所に来ていた。
あの日以来、意図的に避けていたわけではないものの、来ることのなかったこの場所に。
月の導きとも思えるその偶然に苦笑が漏れる。もうこの場所に彼女はいないのだ。いや、この世界に……といった方が的確だろうか。
懐かしくなり店の中を遠くから覗き込む。
……ふと、肩をたたかれた。
P「貴音……なのか?」
見慣れた顔がそこにあった。
P「なぜここに!?」
憂いを含んだかのような微笑を浮かべ、彼女はたっていた。
貴音「貴方様……それはとっぷしんくれっとです」
今度こそ終わり
即興で乗っ取りなんてこんなもんさ(´д`)
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