菜々子「お兄ちゃんのおともだち!」 陽介「ああ!」(119)


ジュージュー……

菜々子「~♪」

フライパンの上で目玉焼きがおいしそうな音を奏でる。
今焼いているのは固めの黄身が好きなお父さんの分。

堂島「ふぁぁ……」

菜々子「あっ、お父さん、おはよう!」

堂島「ん…ああ、おはよう菜々子」

菜々子「目玉焼き、もうすぐ出来るから」ジュー

堂島「あぁ」

お兄ちゃん。
お兄ちゃんが都会へ行ってから6年になりました。


菜々子もお父さんも、あんまり変わっていません。
ピアノの稽古もまだ続けてるし、
コーヒーもお砂糖とミルクがないと飲めません。
だけど少しだけ変わったことがあります。

菜々子「お待たせ!」コトコトッ

堂島「あぁ、ありがとう」

菜々子「よし、じゃあ手を合わせて……」



『いただきます』



お父さんよりも早起きになりました。


菜々子「お父さん、出て行くときにテーブルのお弁当、忘れないでね?」

堂島「ああ、分かってる。いつもありがとうな、菜々子」

菜々子「うん!」ニコニコ

お料理も少しだけ覚えました。
そして、

菜々子「あ、そうだ!ねぇねぇお父さん!」スクッ

堂島「ん?」

菜々子「どうかな、この制服」

堂島「ああ、似合ってるぞ」

菜々子「……えへへっ」

今日から中学生になりました。





…………

………………

……………………


菜々子「急がなきゃ……!」タッタッ

入学式も無事終わり、教室で同じクラスになった子とお話ししていたら遅くなってしまいました。

菜々子「早く行かないと……ジュネスのタイムセール始まっちゃう!」タタタッ

今日は、卵が安いんです。

??「ごめんなさい、そこのお嬢さん」

菜々子「?」

走っていたら、誰かに呼び止められたような気がしました。
菜々子に言ったのかな?

??「急いでいるところごめんなさいね」


菜々子「えっと、菜々……私、ですか?」

??「そうよ、かわいいお嬢さん」

菜々子「!///」

菜々子だったようです。
かわいい……って言われちゃいました。
目の前に立っていたのは、青いコートを着た女の人でした。
外国の人なのかな……髪も目も綺麗な金色です。
とっても綺麗で見とれてしまいそうです。

女性「使いを頼まれたんだけど、このあたりの道は不案内で。
   ジュネス……って、どう行けばいいのかしら?」


このお姉さんもジュネスに行くみたいです。


菜々子「お姉さんもジュネスに行くんですか?」

女性「あら、あなたも?」

菜々子「うん!じゃあ、一緒に行こっ!」

女性「えっ?」

菜々子「お姉さんも卵が目当てなんでしょ?早く行かないとなくなっちゃうから!」




…………

………………

……………………




――――ジュネス・八十稲羽店

菜々子「本当に卵いいの?」

女性「ええ、頼まれたのは食料品ではないから」

菜々子「そっか……勘違いしちゃってごめんなさい」ペコリ

女性「ふふっ、いいのよ。案内してくれてありがとう、お嬢さん」

菜々子「でも……」

女性「お礼……という訳ではないけれど、コレをあげるわ」

菜々子「?」

そう言ってお姉さんは何かを取りだしました。

トランプ……よりも少し大きい、カードの束です。

女性「あなた、占いは好き?」

菜々子「占い?うーん……あんまり」

女性「あら、意外ね?貴方くらいの歳の女の子はみんな占い好きだと思っていたけど」

確かに、友達の女の子はみんな占いが好きです。
だけど。

菜々子「だって良いことが書いてあったら、そうなるようにがんばろうって思うし、
    悪いことが書いてあったら、そうならないようにがんばろうって思うから」

だから、何が書いてあっても気にしません。

女性「……そう。でも占いなんてそれでいいのよ」

そう言ってお姉さんは目を細めました。


女性「これはタロットカードと言って、占いに使うカードなの。
   カードごとに違った絵が描いてあるのだけど、カードの意味も、
   解釈も人によって違うわ」

菜々子「みんな違うの?」

女性「そうよ。だから、これは貴方に持っていてほしいの。
   このカードは、自分で旅の行く先を決められる、貴方のような人にこそふさわしいから」

お姉さんは、菜々子の目をまっすぐ見てそう言いました。
吸い込まれそうな瞳でした。

菜々子「でも……知らない人から物をもらっちゃいけないって、お父さんが」

女性「じゃあこうしましょうか」

菜々子「?」

女性「実はね、私は貴方の大切なものを借りたことがあるの」

菜々子「えっ!お姉さん、菜々…私に会ったことあるの!?」


お姉さんにそう言われてビックリしました。
こんな綺麗な人一度会ったら忘れないと思うんだけど、
何故でしょうか、全然覚えていません。

女性「ええ、ずっと昔にね。
だけど貴方に黙って借りてしまったから、そのお詫び。それでどうかしら?」

菜々子の大切なものを、黙って……?
何だろう………

女性「……やはり貴方は、あの場所にふさわしい人だったわ……」

菜々子「?」

女性「何でもないわ。それで、受け取ってくれる?」


菜々子「……わかった!」

何だかよくわからないけど、受け取った方がお姉さんは喜ぶみたいです。

女性「そう。嬉しいわ」

菜々子「どうやって使うの?」

女性「それは……いいえ、必要ないわ」

菜々子「えー?」

女性「意地悪で言ってるんじゃないのよ。きっとそのカードと……」

??「おーーーい!菜々子ちゃーん!!」

菜々子「あっ!」

女性「……貴方のお友達が教えてくれるわ」

風呂入ってくる

ただいま


そう言うとお姉さんは、ジュネスの出口に向かって歩き出しました。

女性「じゃあね、お嬢さん。今日はありがとう」

菜々子「あっ……」

女性「いつか、また会いましょう」

また……?


…………

………………

……………………



陽介「よっ、菜々子ちゃん!」

菜々子「……陽介お兄ちゃん!久しぶり!!」

この人は花村陽介さん。
お兄ちゃんの友達で、ジュネスの店長さんの息子さんです。
高校を卒業したあと都会の大学に行って、この春に稲羽へ帰ってきました。


陽介「最後に会ったのは冬休みだっけ……ってそれ制服!?」

菜々子「うん!今日から中学生!」ブイッ

陽介「うわーマジか……オレも歳を取るわけだぜ……」

菜々子「そういえば、陽介お兄ちゃんもスーツだね」

陽介「ん?ああ、こう見えてホラ、オレも今年から社会人だから」

菜々子「かっこいいよ!」

陽介「そう?へへ、ありがと」


陽介お兄ちゃんはこの春から正式にジュネスの社員になったそうです。
ないてい?が出た時は雪子お姉ちゃんの旅館に集まってみんなでうちあげをしました。

陽介「そういや菜々子ちゃん、昼飯もう食べた?」

菜々子「あ、まだ……」

陽介「じゃあ俺も昼休みだからフードコートで何か食べようぜ。
   おごるからさ」

菜々子「……いいの?」

陽介「遠慮はナシ!」

菜々子「……じゃあ、行く!」




…………

………………

……………………


―――ジュネスは毎日がお客様感謝デー!
―――来て、見て、触れてください!

菜々子「エヴリデイ、ヤングライフ、ジュ・ネ・ス♪」

陽介「ハイ、やきそばお待たせ!」

菜々子「!
    あ、ありがとう、陽介お兄ちゃん」

いつものようにジュネスの歌を口ずさんでいたら陽介お兄ちゃんが戻ってきました。
…………聞かれたかな。


陽介「にしてもアレだな」

菜々子「?」

陽介「菜々子ちゃんはホントにこの店が好きなんだね」ニッ

菜々子「!!」カァァァ

聞かれてたみたいです。

陽介「でも菜々子ちゃんも中学生かぁ。もうこんな店じゃ物足りないんじゃない?
   去年だっけ?デスティニーシーに行ったの」

菜々子「うん」

去年の夏休み、お兄ちゃんの所へ遊びに行った時、
デスティニーシーへ連れて行ってもらいました。
それは楽しい、夢のような一日でした。
だけど。


陽介「それに中学生って言ったら、これから楽しいことばっかりだし……」

菜々子「それでも、私はジュネス好きだよ」

陽介「え?」

菜々子「特に、このフードコートは大好き」

だって……

菜々子「だって、ここにはお兄ちゃん達がいたから」

陽介お兄ちゃんに、千枝お姉ちゃん、雪子お姉ちゃん。
完二お兄ちゃんに、りせちゃんに、直斗お姉ちゃん。
そして、クマさんとお兄ちゃん。

菜々子「みんなが遊んでくれた思い出があるから、ジュネス大好き!」

陽介「……菜々子ちゃん……ありがとう…………ウウッ」

菜々子「陽介お兄ちゃん!?どこか痛いの?」

ど、どうしよう!
陽介お兄ちゃんが泣いちゃいました!
菜々子、そんなにひどいこと言ったかな……


陽介「ゴメン……ズズッ……すげー嬉しくてさ。
   菜々子ちゃんがオレらのことそんな風に思っててくれたのが」

菜々子「?」

陽介「アイツだけじゃなくて、オレも里中も天城も、あと完二やりせや直斗も、
   みんな菜々子ちゃんのこと本当の妹みたいに思ってっからさ」

菜々子「!!
ほ、ホント?」

陽介「もっちろん」

菜々子「………えへへ///」

陽介「あ、わかった。今のメールで皆に送ろ」

菜々子「だ、ダメ!!」アタフタ

陽介「あと『ジュネスで菜々子ちゃんと昼飯なう』って……
   あ、ダメだ。相棒に殺されるわ。逆切れからのジオダインで」

菜々子「じお……?」

陽介「あーーーっとっと……何でもない、何でもない」

じゃありせちーはもらって行くから

>>80
なら雪ちゃんは俺がオスプレイしておきますね^^;☝( ՞ਊ ՞)☝ く~
☝( ՞ਊ ՞)☝ り~
☝( ՞ਊ ՞)☝ あ~

L( ^ω^ )┘アサヒが♪家で冷えて

(´・_・`) ない 


三└(卍^o^)卍 オスプレイ




…………

………………

……………………

菜々子「ねえ、陽介お兄ちゃん」

陽介「ん?」

菜々子「陽介お兄ちゃんも、ジュネス好き?」

陽介「えっ?」

お昼をごちそうになった後、訊いてみたかったことをきいてみました。

菜々子「陽介お兄ちゃん、ずっとこのお店でアルバイトしてたでしょう?
    その上就職までしちゃうなんて、よっぽど好きなんだね!」

陽介「ああ……うん、好きだよ」

菜々子「やっぱりそうなんだ」


陽介「でも、オレと菜々子ちゃんじゃ、好きの理由が違うかな」

好きの理由?

陽介「オレはさ、この町もこの店も大嫌いだったんだ」

菜々子「えっ……」

陽介「親の都合で越してきて、田舎暮らしにうんざりしててさ。
   町の人もジュネスを目の敵にするから居心地悪いし。
   大事な人も出来たけど、その人もいなくなっちまって。
   おまけに自分のすっげードロドロした部分まで見せられてさ………」



陽介「そんな時だったよ。アイツが、菜々子ちゃんのお兄ちゃんが現れたのは」

菜々子「お兄ちゃん?」


陽介「ああ。アイツはすげーヤツだよ。
アイツはたった1年で人を、町を、世界のありかたさえ変えちまった。
   オレも仲間も、みんなアイツに感謝してる。みんなアイツに救われたんだ」

菜々子「陽介お兄ちゃん…」

陽介「菜々子ちゃん、信じられる?今日地元物産コーナーでミガワリナス売ってたおじさん、
   この店ができる時に反対運動のリーダーやってたんだぜ?」

菜々子「えぇっ!」

陽介「な?すごいだろ?
   今は商店街の人もジュネスのイベントに協力してくれるし、
   商店街の話し合いにもオレたちを呼んでくれるようになった。

   来たばっかのころには考えられなかったけどな」

………知りませんでした。


陽介「さっきは嫌いだったって言ったけど、今はこの町が大好きだ。
   アイツが変えた、オレ達で守ったこの町がさ。
   だから、オレはオレにできる形で、この町に恩返しがしたいって思ったんだ。
   …………それが、オレの志望理由」

菜々子「……かっこいい!」

陽介「えっ?そ、そうかな」ハハ

菜々子「うん!」

陽介「ハハ、ありがと………
   つっても、今ん所は肩書がバイトから社員に変わっただけで仕事も何も変わらないんだけどさ」

菜々子「そうなの?」

陽介「そうそう。給料以外はほとんど一緒。
   入社1年目なのに現場で1番古株っておかしいだろ……
   っとと、やべ。そろそろ休憩おわりだ」


菜々子「あっ、引きとめちゃってごめんなさい」

陽介「いいって。オレも菜々子ちゃんと久しぶりに話出来て楽しかったし。
   今度は皆で遊ぼうぜ」

菜々子「うん!お昼ごちそうさま!それじゃあね、陽介お兄ちゃ……」

お礼を言って立ちあがったときに、

菜々子「あっ」

菜々子のポケットから何かがポロッと落ちました。

陽介「アレ、菜々子ちゃん。何か落とし……!」

見ると、菜々子がさっきお姉さんからもらったカードでした。
陽介お兄ちゃんは、驚いた様子でそれを食い入るように見つめています。

陽介「これって……」

菜々子「………?
    どうしたの、陽介お兄ちゃん」


陽介「……菜々子ちゃん、このカードどこで?」

菜々子「えっと、ここに来る途中で………」

陽介お兄ちゃんにさっき会ったお姉さんのことを話しました。

陽介「青い服……」

菜々子「陽介お兄ちゃん?」

陽介「ごめん、菜々子ちゃん。このカードちょっと借りるよ」

そう言って陽介お兄ちゃんはカードを切って、
一番のカードをめくりました。

陽介「…………マジかよ……」

菜々子「…………?」


菜々子「…………?」

その札には、
青い背景に、火の玉を抱えたような手と人の目が描かれていました。
あっ、その下に番号も書いてあります。
I……1かな?



陽介「………『魔術師』、か」

陽介お兄ちゃんがそうつぶやくのが聞こえました。


菜々子「陽介お兄ちゃん、分かるの?」

陽介「え?ああ……まあ少しだけ、ね」

菜々子「すごーい!ねぇ、どうやるの!?」

陽介「ええと、そんな詳しいこと知ってるワケじゃ……」

菜々子「お姉さんの言った通りだ!使い方はカードと菜々子のお友達が教えてくれるって!
    陽介お兄ちゃんのことだったんだ!」

陽介「えっ?ちょ、ちょっと待って。そのお姉さんがそう言ったの?」

菜々子「うん!」

陽介「…………」

菜々子「……陽介お兄ちゃん?」


陽介「菜々子ちゃん」

陽介お兄ちゃんは真面目な顔で、菜々子にこう言いました。

陽介「こいつを大事に持っておいてくれ」

菜々子「このカード?」

陽介「ああ。このカードはいつかきっと菜々子ちゃんの役に立つ。
   だからそのときまで大事に持っておくんだ。いいね?」

菜々子「うーん………よくわからないけど、分かった!」

陽介「うん!……それでいい」



…………

………………

……………………

陽介「………あ、もしもし?オレオレ……サギじゃねーよ!着信画面見ただろ!」

陽介「うん……うん……クマ?相変わらず週4でシフトだけど……
   いや、出勤日だけあっちから出てくる感じ」

陽介「……そうなんだよ。おふくろなんて未だにオレの分忘れてクマの飯作るからね」

陽介「……ってかクマの話はいいんだよ。それより今日菜々子ちゃんに会ってさ」

陽介「……ちょっ、怖いから!耳元でムドオン連呼すんのやめて!ホントやめて!」

陽介「何ていうかさ……」



陽介「やっぱあの子お前の妹だわ、色んな意味で」


…………

………………

……………………

菜々子「………あ、お兄ちゃん?菜々子です」

菜々子「うん……そう、今日が入学式だったんだ」

菜々子「部活?うーん……あんまり考えてない」

菜々子「お兄ちゃんはバスケットと……吹奏楽部だっけ。
    ……フフッ、さすがに掛け持ちはむりだよ」

菜々子「それとね、今日陽介お兄ちゃんにジュネスでお昼ごちそうしてもらったんだ」

菜々子「……あれ、お兄ちゃん?どうしたの?
    ………そう」

菜々子「………あのね、お兄ちゃん」







菜々子「菜々子も、この町が大好きだよ!」


続く

終わりん。

1か月近くSS書いてなかったから筆が鈍るにぶる。
次は
菜々子「お兄ちゃんのおともだち!」 完二「おうよ!」雪子「おうよー!」
になる予定。
じゃあの。

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