八幡「メンヘラな彼女と」凛「私が愛した最低男」 (151)
これは栄光の日々の終焉と、渋谷凛という少女の再生の物語
そして、ひねくれ少年の気の迷いの物語
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モバP「俺、結婚するんだ」
凛「……そう」
誰と?
そう訊けなかった。
自分が情けない。
モバP「結婚してもこれまで以上に頑張るからな」
凛「……プロデューサーらしいね」
モバP「海外ロケのついでにささやかに結婚式を挙げる予定だ」
凛「前に言ってたよね。サイパンだっけ」
モバP「凛は撮影の予定はないけど一緒にくるか?」
凛「いや、いいよ。幸せにね」
モバP「ありがとう」
凛「じゃ、帰るから」
モバP「凛は明日は休みか。俺は明後日からサイパンだしな。次に会うのは来週だな」
凛「土産……期待してるから」
覚えてる限りそれが最後の会話。
航空機墜落のニュースは連日日本を騒がせた。
事故後ようやくプロデューサーの結婚相手がちひろさんだと知った。
涙は出なかった。
プロデューサーから報告を受けたときから、私の心は既に凍結してしまったのかもしれない。
あの日、私は心を殺し、プロデューサーを諦めた。
でも悲劇は終わらなかった。
私の最大の悲劇。
それは親友の神谷奈緒が亡くなったこと。
プロデューサーの死、親友の死。
トップアイドルとしての人生を歩んでいた私は、そこで自身の限界を知った。
私の引退を止められる者はいなかった。
私はアイドル業を引退し、ハナコを連れて奈緒の地元である千葉を訪れた。
大切なものを失ったとき、その人の過去の足跡に縋るというのは、あながち間違ってはいなかったのだ。
なぜ千葉なのか?無意識に足が向いていたから。
私の行動は誰にも理解されないだろう。
私にも理解できていないのだから。
お金は充分にある。
実家に仕送りできるほど。
千葉市立総武高等学校。
ここに奈緒は在籍していた。
仕事が忙しく休みがちで、ほとんど通ってはいなかったそうだが。
それは私も同じ。
高校生活か。
そういえば最近無縁だったな。
私の通う学校は、トップアイドルという肩書きだけで、学校公認で自由に休めるのだから。
進学校とはいえ、私も仕事の合間に勉強はしていた。成績を下げればさすがに学校が黙っていない。
なので編入自体は難しくはなかった。
総武の制服に袖を通す。
凛「なんか違和感」
らしくないね。
感傷に浸るとかさ。
校門をくぐる。
向かう先は職員室。
平塚「よく来たな、渋谷。事情は色々聞いている」
凛「……そう」
ぶっきらぼうに答える。
好かれる気なんてない。
私はもうぼっちだって構わない。
……失うくらいなら。
平塚「私からは何もない。あとは教室へ行くだけだ。ただ一つだけ。……今日の放課後、必ず奉仕部へ行け」
凛「……奉仕部?なにそれ」
平塚「君は知らなくていい。ただ行けばいい」
凛「……はぁ」
面倒だが特に用事もない。それに断る気力もなかった。
私は先生に連れられ2年F組に足を踏み入れた。
「渋谷凛だ!」
「あの渋谷凛が同じクラスだって!」
騒がしい。
予想した反応だ。
これは有名税みたいなもの。
どこに行ってもつきまとう。
凛「……渋谷凛。アイドルやってた。よろしく」
私の引退はテレビでも騒がれた。事情は説明するまでもないだろう。
さっきまでと打って変わって静まる教室内。
何を話せばいいのかわからないのだろう。
親友を失った悲劇の元アイドルなんてテレビでは散々言われたし。
私は好都合とまでに、話しかけんなという不機嫌オーラを出す。
拗ねてないで高校生活を楽しみなよ。
そう、奈緒の声が聞こえた気がした。
拗ねてなんかないよ。
凛「自己紹介なんていらないでしょ?席どこでもいいから」
平塚「……わかったよ。おい、比企谷の隣空けてやれ」
再びざわめきが起こる。
平塚「比企谷。渋谷をサポートしてやれ」
八幡「……なんで俺が」
平塚「彼女については比企谷が適任だからだ」
えー!ありえないっしょ
ないわー
ヒキタニかよ……
外野が騒ぐ。
面倒臭い。
凛「……別にどこでもいいんで」
葉山「確かにヒキタニくんなら適役かもしれない」
葉山くんがヒキタニくん推し!
隼人が言うなら
えー、葉山くん優しすぎるよー
いいじゃんいいじゃん。
彼の発言で周囲はひとまず納得したようだ。
クラスのリーダー格なのは間違いないだろう。
比企谷という男子はその逆。新参の私が瞬時にわかるほどの嫌われ者。
別にいいけどね。
平塚「今の渋谷なら彼と気が合うかもしれない。遠慮なくサポートしてもらえ」
彼を観察する。私になどまるで興味なさそうに俯いている。
凛「必要ない……いや、わかったよ」
どうでもいい。
凛「渋谷凛……よろしく」
八幡「……比企谷八幡だ」
それが彼との出会い。
視線で周囲が会話中。
お前が話しかけろよ。
お前が行けよ。
そんな感じ。
葉山という男子と数人の取り巻きが挨拶に来た。
あとは女子が当たり障りのない挨拶。
あとは三浦というクラス代表女子。
あんたアイドルやってたんだって?とかなんとか色々。
きっと派閥のお誘いだろう。
今は話す気分じゃないと告げるとみんな納得してくれた。
事情は知っているだろうし。
そして隣の男子。
比企谷八幡。
コミュ症なのかコミュ症でないのか判断に苦しむ。
葉山という男子とも、私とも普通に会話している。
目は合わせようともしないのだが。
他人が苦手?
ぼっちを自称しているらしく、実際友人は少ないと見える。
戸塚という男装の女子?や、勘だが由比ヶ浜結衣という女子。
心配そうにちらちらと比企谷を見ている。
彼のことが好きなのかもしれない。
他人の顔色を読むのは芸能人の特技と言っていい。
私も今では空気を読む技術には長けている。
クラス全員の名前や関係はざっとだが把握した。
10分あればそれくらいはできる。
逆にそれくらい果たせなければアイドル業なんて務まらない。
凛「教科書ありがと」
八幡「……別にいい」
そう言って俯く。
あとは無言。
この空気は嫌いじゃない。
凛「アンタ嫌われてんの?」
八幡「まあな」
凛「ふぅん。何したか知らないけど……ま、私は嫌いじゃないよ。アンタみたいな奴」
空気みたいなやつ
八幡「あ、そ」
凛「うん」
八幡「……俺もお前みたいな奴……嫌いじゃないぜ」
凛「私はトップアイドルだから。みんなから好かれて当然じゃん」
八幡「そうだったな」
凛「……今の私は最低だね」
八幡「んなことねーよ」
凛「がっかりしないんだ?」
八幡「アイドルに幻想は抱かないタイプでね」
凛「疑り深い?」
八幡「他人を信用できないだけかもな」
凛「いいと思うよ、別に」
八幡「お前は多分生真面目タイプだろ」
凛「……へぇ。ギャルとか不良キャラとかよく言われるけどね」
八幡「そいつの見る目がないだけさ」
凛「友達いるの?」
八幡「いるように見えるか?」
凛「見えないね」
八幡「お前は?」
凛「私?いるよ、たくさん。ライン友達とかもいっぱい」
八幡「だろうな」
凛「最近ラインやめたし、人付き合い完全絶ってるからぼっち同然なんだけどさ」
八幡「……彼氏とかも?」
凛「彼氏?いたことないよ」
八幡「は?マジで?」
凛「マジだよ。やっぱりいないとおかしい?」
八幡「……そんなことねーけど、なんか意外だなって」
凛「……私がバージンって引く感じ?」
八幡「引くわけないだろ。お前はお前だ」
凛「ならいい。恋愛とかしてる余裕なかったんだよね。プロデューサーも過保護だったし」
八幡「……ああ」
やはりニュースで知っていたのだろう。
凛「ぼっちとか気楽でいいね」
八幡「……まあ…な」
強引な話題変えは失敗に終わった。
今のは自分でも少し攻撃的だったように思う。
失礼だったかな?
八幡「……ぼっちにはぼっちの苦労もあるんだがな」ブツブツ
ぼっちであることに対しては思うとこはないらしい。
凛「皮肉でも笑ったわけでもないよ。気に障ったなら謝る」
八幡「いや、好きでぼっちやってるから気にすんな」
気楽な相手。
私については基本無視。話しかけたらそれに返す感じ。
あとは寝た振り。
騒がしい奴らより全然マシ。
不必要と感じていた先生の配慮に少しだけ感謝した。
あの先生にとっては計算通りの流れなのかもしれない。
放課後の話を思い出す。
奉仕部って言ったっけ?
ちょっとだけ興味が出てきた。
凛「ねえ」
八幡「あ?」
凛「奉仕部って知ってる?」
八幡「平塚先生にでも何か言われたか?」
凛「ま、そんなとこ」
八幡「……悩み事や面倒事などを相談すると解決の後押しをしてくれる……そんな部活だ」
凛「悩み事……ね。別に他人に泣きつくような問題なんてないんだけど」
八幡「なら行かなきゃいい。悩みくらい自分で解決しろ」
凛「ズバズバ言うじゃん」
八幡「俺も部員だからな。面倒事が増えんのは勘弁してほしい」
凛「部員なんだ。なんか意外」
八幡「強制入部だがな」
凛「あはは。だろうね」
凛「……アンタがいるなら行こうかな」
八幡「え、人の話聞いてた?」
凛「奉仕部なんでしょ?来る者拒まず奉仕しなさい」
八幡「図々しいなお前」
凛「スマホ出して」
八幡「あ?」
凛「番号交換しよって言ってる」
八幡「お、おう」
凛「はい、終わった」
八幡「はやっ」
凛「こんなもんじゃん?」
八幡「友達いないんでわからないです」
凛「は?馬鹿なの?もう私たち友達じゃん」
八幡「は?」
凛「最近友達なんていらないって思ってたけど、アンタなら別にいい」
八幡「意味わからん」
凛「アンタは今日から私の友達。これ強制だから」
八幡「……マジなの?誤解しちゃうよ?」
凛「すれば?好きになっても別に構わないよ。告白に応えるかは保証しないけど」
八幡「メールしても「ごめーん寝てた」とか次の日の朝に返信したり……」
凛「しないよ!起きてたらちゃんと返すから。まあ、マジ寝てたらごめんだけど」
八幡「えと……じゃ、よろしく」
凛「なにそれ」クスクス
八幡「こういうの慣れてなくて」
凛「由比ヶ浜さんや戸塚さんとはメールしてるんでしょ?」
八幡「なんで知ってる」
凛「芸能人舐めんな」
八幡「戸塚は男だし、由比ヶ浜は……同じ奉仕部の部員だ」
凛「戸塚さんってほんとに男なんだ……」
八幡「あー、まあ」
凛「可愛いのに」
八幡「天使だよな」
凛「天使て……」
八幡「クラス一可愛いよ」
凛「へー、私じゃないんだ?「凛が一番可愛いよ」とか言えば私に媚売れたのにさ」
八幡「ばっかお前、んなこと恥ずかしくて言えるかよ。てか俺に媚とか売られて嬉しいの?」
凛「嬉しいよ?なんかアンタに可愛いって言われたら信じられる気がする」
八幡「やめろ、ぼっちはそういうの慣れてないんだ。俺を殺す気か」
凛「そう?私はアンタのこと、このクラスで一番気にいってるよ」
八幡「今日来たばっかじゃねーか」
凛「ははっ。まあね」ニコッ
八幡「……俺も渋谷のこと、そのなんだ……結構気にいってるぜ……ああくそっ、慣れないこと口にしたら蕁麻疹出そう」
凛「凛」
八幡「は?」
凛「渋谷じゃなくて凛」
八幡「渋谷」
凛「あ?」
八幡「ひぃ……」
凛「なにビビってんのさ」
八幡「……ビビってねえし」
凛「凛」
八幡「り……凛」
凛「それでいいよ、八幡」
八幡「芸能人って怖いな」
凛「弱肉強食だかんね」
八幡「俺は真っ先に淘汰されそうだ」
凛「図太いくせに」
八幡「繊細だと言ってくれ」
平塚「えー、おほん。比企谷、渋谷、出会って早々イチャつくのは構わんが今はもう授業中だ」
二人「「あ」」
平塚「まあ、渋谷が少し元気を取り戻せたようで何よりだな」
凛「……いえ」
八幡「すんません」
平塚「普段なら怒る場面だが、今回はよくやったぞ比企谷」
八幡「自分何もしてないですけどね」
平塚「迷える少女を元気付けた。それだけで十分凄いのだよ」
凛「先生に少しだけ感謝してる」
平塚「殊勝なことで何よりだ。では授業に戻ってもよいかね?」
凛「……はい」
放課後
凛「奉仕部」
八幡「あ?」
凛「連れてって」
八幡「へいへい」
凛「依頼するから」
八幡「はぁ?お前が?」
凛「お前じゃない、凛って呼んで」
八幡「渋谷」
凛「戻んな」
八幡「…………凛」
凛「八幡って呼び辛い名前だよね」
八幡「え、今の酷くね?てか名前はほっとけ」
凛「だからさ……プロデューサーって呼んでいい?」
八幡「なんでだよっ!」
凛「おおっ、ツッコミだね」
八幡「…………調子狂うわ」
凛「ふふっ」
八幡「帰ろうかな……」
凛「こーら、不貞腐れない」
凛「腕組みー」ギュッ
八幡「……これなんて罰ゲーム?」
凛「むしろご褒美じゃん」
八幡「いや、目立ってるから……勘弁してください」
凛「だーめ」
結衣「…………」ジロッ
八幡「あ、由比ヶ浜」
結衣「ヒッキーのばか!」タッタッタ
八幡「は?」
凛「由比ヶ浜さんって実は彼女?」
八幡「そんな事実はない」
凛「まあいいや」
八幡「凛、みんな見てるから放せ」
凛「それは無理。いくよ、八幡」
八幡「俺はいいけど、お前に……」
凛「私は八幡を気にいってる。他人の目なんてどうでもいいよ。元アイドルの私が誰と仲良くしようが勝手でしょ?」
八幡「だが周囲はそう判断しない」
凛「だから私はぼっちでも構わないし、八幡と私が釣り合わないとか気にしてんなら殴るよ?」
八幡「…………」
凛「じゃあさ、ハブられたらアンタが責任取って私を彼女にしてくれればいいから」
八幡「ちょ……は?」
凛「一目惚れってあるじゃん?あれの雰囲気版みたいな?アンタと会ったばかりなのに、なんか私たち相性良さげだし」
八幡「それは否定しないが……」
凛「私って結構ダメ男が好きなのかもしれない」
八幡「おい」
凛「冗談……だよ?」
八幡「本気だろこの」
凛「あはは」
凛「…………ばかみたい」
凛「そういえばさ、奉仕部って何人いるの?」
八幡「3人だ。俺と由比ヶ浜、あとは国際教養科の雪ノ下雪乃ってやつが部長やってる」
凛「……へー、全員女子なんだ?」
八幡「まあな」
凛「自称ボランティアの八幡ハーレムか」
八幡「あいつらがそんなタマかよ」
凛「……ごめん、やっぱ今日はいいや。用事思い出した」
八幡「そうか」
凛「じゃ、また明日ね」
八幡「気をつけて帰れよ」
凛「八幡送っていってくれないの?私まだ越してきたばかりで道とか自信ないんだけど」
八幡「はぁ?」
凛「依頼。私をマンションまで連れてって」
八幡「なんだそりゃ」
凛「行くよ、ほら男でしょ?女の子に頼られたら断らない」
八幡「ちょっ……由比ヶ浜にメールするから待て」
凛「腕組み~」
八幡「またかおい、抱き着くな///」
凛「照れてる照れてる。八幡可愛い」
八幡「あーもう、今日だけだかんな」
凛「はいはい」
八幡「くそっ、電話でいいや」
八幡「由比ヶ浜か?個人的な依頼を引き受けたから今日そっちに顔出せないわ。たぶんこのまま直帰だろうし」
八幡「うん、うん……違ぇってサボりじゃねえから。転入生が帰り道わからんって」
八幡「ああ、そうそう。そんな感じ。悪いな。雪ノ下にもよろしく言っといてくれ」
凛「終わった?」
八幡「……さっさと帰るぞ」
凛「了解」
凛「着いた。ここだよ」
八幡「全然迷ってねえし」
凛「騙された?」
八幡「いや、普通騙されるだろ……」
凛「コーヒーくらい飲んでいきなよ」
八幡「え~、早く帰ってアニメの再放送見たいんだけど」
凛「なにそれきもっ……。てか見たいならウチで見てけば?」
八幡「……なぜこうなった」
二人無言でアニメ鑑賞。
これは気まずい。
元アイドルと並んでアニメとかそれなんて罰ゲーム?
八幡「……悪かった。二人きりとか気まずくて早く帰りたかっただけなんだ。アニメはいいからもう帰っていい?」
凛「いや知ってたし」
八幡「……じゃ帰りますねー」ソソクサ
凛「待って。夕食、独りは寂しいから、八幡も食べていって」
八幡「いや迷惑になりますし」
凛「は?私がいいって言ってるんだから迷惑にはならないでしょう?」
八幡「ウチも妹が用意してくれてるんだ」
凛「そ。まだ夕食には早い時間だし、妹さんに連絡すれば済む話よね」
八幡「ですよね……」
凛「あ……責めてるわけじゃないんだ。純粋に二人で食べたいって」
八幡「わかった。今日はここで食ってく」
凛「ありがと」
八幡「美味いなこれ」
凛「練習したからね。料理全般」
八幡「手作りハンバーグに肉じゃがという不思議な組み合わせ。これは秘技男殺しという裏技が…」ブツブツ
凛「八幡うるさい」
八幡「これ以上優しくされたらマジで勘違いしちゃうよ俺?」
凛「別に勘違いじゃないんだけど」
八幡「これが人生初のモテ期というやつか……」
凛「どんだけ辛い目にあったのよ……」
八幡「そろそろマジで帰る時間だ。今日はありがとな。メシ美味かったぞ」
凛「喜んでくれたみたいで嬉しいよ」スーッ
八幡「……なんで近づいてくんの?」
凛「私ってその……匂いフェチでさ」
八幡「は?脇とか?足とかの?」
凛「うん。男の汗の香りとか好き。壮大なやつ」
八幡「お、おう……」
凛「顔にかけてほしい……とか言ったら引く?」
八幡「え、なにを?」
凛「何って……それを私に言わせるの?」
八幡「いや、マジでわからん」
凛「は?おしっことか精子しかないじゃん!わかるでしょ!?」
八幡「ぇぇー……」
凛「はやく」
八幡「ちょっ!脱がすなっ……」ポロン
凛「これが八幡の……!」ワクワク
八幡「いや、俺もう帰りたいんだが……どうなってんのこれ?」
凛「異性の部屋に上がり込んですることなんて一つでしょ!」サスサス
八幡「おい放せ……掴むな!それはやめろ!ちょ……それは私のお稲荷さんだ……!」
凛「はやく!さあ!」シュッシュッ
八幡「……恥ずかしいんですけど」
凛「ほらほらイけイけ」シュッシュッ
八幡「んっ……やめっ……」
凛「うわぁ……大きくなってきた!」シュッシュッ
八幡「強……すぎ……くおっ……ヒリヒリする」
凛「だって至近距離でおちんちん見たの初めてだし」シュッシュッ
八幡「待てって……ちょ……」
凛「まだイかないの?」シュッシュッ
八幡「痛いっつうの」
凛「すぅーっ……はぁぁぁぁ………あー八幡のいい匂い……」シュッシュッ
八幡「なんなのこれ」
凛「まだ出ないの?舐めんのはちょっとやだ……」シュッシュッ
八幡「もう少しっ……」
凛「おー、なんか芳醇な香り……」シュッシュッ
凛「しょうがない……はむっ……」ジュブジュブ
八幡「うわぁ……喰われたっ……」
凛「……んっ……ろぉ……ひもひぃ?」
八幡「鼻息くすぐったい」
凛「んっ…んっ…んっ……」ジュボボボボ
八幡「ねーよ……あ…ちょ……はなれて……出るマジ……待っ……」
凛「よしよしよし」シュッシュッ
八幡「あーくそ……黒歴史だろこれっ……!」ビュルルル
凛「きたあああ」クンカクンカ
凛「顔にたくさん……スーハースーハー」
八幡「へ、変態だぁ……」
凛「精子パック最高!あーこの香りのために生きてるー!って感じ?」
八幡「いやいや、洗わないとカピカピになるぞ……」
凛「じゃあおしっこで洗浄して」
八幡(……こいつヤバい系なんじゃ)
八幡「ほら」ジョォォォォ
ビチャビチャ
凛「……うぷっ……ぷはぁ……口に入った……うぇ……」
八幡「何が悲しくて同級生の女子の顔面におしっこ引っ掛けなきゃいけないんだよ……」
凛「ふぁぁ……ありがと……幸せ……」トロン
八幡「それはよかったですね」ドンビキ
凛「なんかムラムラしてきた」
八幡「それじゃ次はアレだよな?ほらアレ」
凛「あ、八幡とは寝ないよ私」
八幡「……マジで?」
凛「身体の関係なんて邪魔じゃん。私は八幡とは親友でいたいし」
八幡「え?あれ?親友?今のって親友同士ですることか?」
凛「仲良かったらするんじゃん?私はこういうの八幡が初めてだけど……」
八幡「うーん?……ぼっちだからその辺の線引きわかんねーわ」
凛「キスとか口でするくらいは友達でもするって。わりと普通だよ」
八幡「……俺実は由比ヶ浜に凄く失礼なこと言ってたのかもな……」
凛「なに?」
八幡「いや、こっちの話」
凛「ふーん?」
八幡「もう帰っていい?」
凛「だーめ。一緒に寝る」
八幡「はぁぁあ?」
凛「エッチは無しね。八幡はたまに私が発情した時にぶっかけてくれればいいから」
八幡(もうやだこのビッチ)
凛「髪を洗うついでにさ、私ちょっとお風呂で鎮めてくるから八幡は先に寝てて」
八幡「俺も風呂入りたいんだが」
凛「だめに決まってんじゃん。適当に部屋で運動とかして汗臭い状態でいて」
八幡「断る」
それからほとんど毎日、彼女のマンションに通うことになった。
2日に1回は強制お泊まりで、小町の機転がなければ俺は家族会議ものだ。小町には頭が上がらない。
二人でシャワーを浴び、凛の全身に俺のリビドーとやらをぶっかけた。
凛は恍惚の表情で俺のものを一晩中咥えている。
俺は凛の臭い性器を口に押し付けられ、無理矢理舐めさせられた。
顔面に馬乗りになる彼女の性器に舌を這わす。
もううんざりだ。
最近では、凛は自ら首輪をはめて犬のようにじゃれついてくる。
お腹を撫でるとくぅーんと喜ぶ。
発情したように俺のものを咥えては、もう出ないと俺が許しを乞うまで搾り取る。
断るとヒスを起こし叫ぶ。
俺の精液を浴びなければ、俺の匂いがなければ凛は眠れないと必死に縋る。
その姿を見て、彼女のことが滑稽にすら思えてくる。
そんな自分が嫌いだ。
凛は、何があっても肉体関係だけは許さなかった。
しかし、自身を慰める役目は俺に押し付けた。
家族がうるさいので、凛を満足させては急いで帰宅する日々。
凛との歪んだ行為は、すっかり作業と化していた。
頭を押さえつけて凛の口内を犯し、喉奥に出してやると凛は、「おぇぇ」とむせながら吐き出し、その臭いを愉しんだ。
行為後の俺の汗すら、自分の身体に擦り付けては、満足そうに眠るのだ。
断れば儚く消えてしまうような表情を浮かべる凛。
もう自分を騙すことはできそうにない。
渋谷凛はMであり変態だった。
凛からのメールは一日に百を超え、奉仕部以外での女子との会話も禁じられた。
奉仕部すらもやめるよう懇願された。
平塚先生と会話しただけで浮気を疑われた。
それでいて私たちは親友と言う。
ついていけない。
突き放せば死んでやるというメールを送りつけ、愛していると言えば遠ざける。
悪態を吐いて傷つけても、離れるどころかその夜は激しく求められた。
自分を殺してでも、ずっと凛を支えるつもりだった。
その考えが変わったのは、きっと奉仕部の退部を迫られた時だろう。
凛と奉仕部を天秤にかけた。
そして凛が本当に好きなのかわからなくなっていった。
雪ノ下や由比ヶ浜の顔が浮かぶ。
今すぐ会いたい二人。
つまるところ、恋愛どころか人付き合いすら初心者なぼっちには、最善の対処法など見つかるはずもない。
万策尽きたと言っていいだろう。
今の関係を続けるべきか。
始まりも終わりもない恋。
そういえば一度も凛とキスしたことないな。
そんなことを思った。
八幡「こんな関係、もう終わりにしてくれ」
凛「え……?なに言ってるの……やだよ八幡……だって幸せじゃん私たち」
八幡「恋愛に疎いぼっちでもわかるぞ。今の俺たちの関係は歪んでる」
凛「八幡だって気持ち良さそうにしてんじゃん!いつもさ!」
八幡「ああ。身体の繋がりなんてなくても、俺なんかには勿体無い相手だよお前は」
凛「ならいいでしょ?いっぱいしてあげるから。二人で仲良くさ」
八幡「……」ドン
凛「きゃっ!」ドサッ
八幡「力じゃ俺のほうが有利だな。無理矢理押し倒されてどんな気分よ?」
凛「なん……で?八幡はこんなことしない……今日の八幡おかしいよ……」
八幡「男って奴をあまり軽視しないほうがいい」グッ
凛「脱がさないで!やだ!やだぁあ!」ジタバタ
八幡「このままここにブチこんでやる」
凛「やだ!やだ!やめて!!お願いします!それだけは……!」
八幡「寝室に連れ込んだ相手に泣いて懇願か」
凛「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
八幡「……それが答えなんだよ、凛」
八幡「お前にあるのは好意でも興味でもない。ただ男に汚されて、自分を傷つけたいだけなんだろ。そして最後の一線を超える覚悟だけはない」
凛「ちが……っ……!」
八幡「大切な人を失った。自暴自棄になった。なにか罪悪感があるのかもしれない。俺にはわからないお前の闇が」
八幡「……なにか間違っているか?」
凛「……そんなんあるわけないじゃん。私は八幡が好きだよ?それは本当。ただほら、セックスって嫌いなの、精神的嫌悪感ってやつ?」
八幡「……嫌悪感?お前変態だろ」
凛「それは失礼だよ。あんなん普通だって、みんなやってる」
八幡「顔面シャワーが普通とか世も末だな……」
凛「今日は八幡も疲れてるんだって。はやく寝よう?そして明日になったらいつも通りの八幡がいるの」
八幡「避けないのか?泣いて懇願までして、それでも好き?自分を犯そうとした相手を?」
凛「……だって八幡を傷つけたのは私。八幡消極的だし、そんなに私とヤりたいと思ってたなんて知らなかった……」
八幡「お前と寝たいからじゃねぇよ。今のお前は危うすぎる……」
凛「ははっ。なに言ってんの?私はいつも通りだって」
八幡「なら狂ってる。もうお前は壊れてるよ」
未読メール317
八幡「……俺たちは付き合ってるわけじゃない。独占欲も結構だが、小町や奉仕部について口を出すようなら……俺は黙っているわけにはいかない」
凛「わかった!奉仕部にいていい!あの二人と仲良くしても許すから!」
八幡「許す?勘違いするな。お前は俺の…………恋人じゃない」
凛「…………」
そして翌日、凛は全てをなかったことにした。
何も知らない、何も聞いていない。
これまで通りの関係。
無視しても、凛は虚空と会話していた。
独り言で壁に向かって会話なんて、俺を超える逸材かもしれない。
他人からは見えない、自分だけの比企谷八幡。
あれはぼっちなんかじゃない。病気だ。
一つだけ、彼女は無意識にそれを口にした。
「奈緒……ごめん」
これ以上はもう、俺一人では、俺では、この現状は変えられないという確信があった。
「やるしかない」
彼女の闇の正体を暴く
たった一つの計画
依頼などされていない。
ただ自分のために、渋谷凛を立ち直らせると決めた。
いったん終わります。
次回で完結させます。
ちょっとメンヘラすぎたごめんね
八幡「雪ノ下、お前男友達と……かいませんでしたねごめんなさい」
雪乃「何やら失礼な事を考えていたようだけれど、確かに私に男性の友人はいないわね」
八幡「由比ヶ浜は付き合ってない男友達とキスしたりとかするか?」
結衣「突然なに?ていうかヒッキー、まだあたしをビッチだとか思ってるでしょ?」
八幡「いや思ってねーよ。認識を改めた」
結衣「そう?ならいいけど。さっきの話だけど、あたしは好きな人じゃなきゃしないよ?」
八幡「……例えばなんだけどさ、例えばだぞ?」
結衣「どしたのヒッキー、なんか今日のヒッキー余裕なさげだね?」
八幡「オフレコで奉仕部に相談があるんだが……。お前らなら信用できるし。すげー悩んでるやついんだよ」
雪乃「なにかしら?聞くだけなら構わないわよ」
結衣「うん。ヒッキー困ってるみたいだし」
八幡「絶対この場限りで他人に広めないって約束してくれるか?」
雪乃「ええ。口は堅い方よ。安心していいわ」
結衣「ヒッキーの相談を洩らしたりするわけないじゃん。絶対言わないよ」
由比ヶ浜なら絶対に食いつく。
悪いな、利用する形になって――。
ドアを施錠した。
八幡「絶対だぞ?約束だからな」
雪乃「はやく言いなさい」
八幡「いや、異性の友達にさ、…………顔におしっこ掛けてとか言われたらどう思う?仲良かったら普通なの?」
結衣「それ普通じゃないし!変態だよ!ヒッキーなに言ってんの!?もう信じられない!今のセクハラだよ!?」
雪乃「……気持ち悪いとは思っていたけれど、まさかここまで悪化しているなんて……」ドンビキ
八幡「……だから俺じゃないって。知り合いの話」
結衣「知り合いにいるんだ?!」
雪乃「知り合いということにしたいだけかもしれないわね」
八幡「いるって今回はマジで。で、その友人が言ってたんだけど」
雪乃「あなた友人いないじゃない」
結衣「ちゅうに……」
八幡「あ、友人じゃなくて知り合いな」
結衣「もうそれヒッキーのことだよね?!」
八幡「……その知り合いは友達に言われたらしいんだ」
八幡「……おしっこ掛けてって。こんなこと相談するべきじゃないんだけどよ……今回はマジで俺も困っちまって……」
結衣「ヒッキーじゃん!」
雪乃「ごめんなさい。よく聞こえなかったのでもう一度言ってもらえるかしら。変態ガヤくん」
八幡「聞こえてんだろ」
雪乃「あまりの相談にあなたを罵倒する言葉も浮かんでこないわ。さすが性犯罪者予備軍ね、変態ガヤくん」
八幡「しっかり罵倒してるぞ、雪ノ下」
結衣「友達て……まさかはや……」
八幡「ストップ。それ以上言わなくていい。つか葉山は友達じゃねぇ」
結衣「……自分で言ってるし」
雪乃「でも意外ね。それは相談とはいえども、私たちがその人物を特定する可能性を考慮すると、おそらく相手の信用を著しく失墜……陥れるような結果になると予測できる発言よ、比企谷くん」
八幡「……わかってるさ。その相手の事は大事に思ってる」
結衣「それって……」
雪乃「渋谷凛さん」
八幡「…………」
雪乃「わからないとでも思っていたのかしら?」
最低でも構わない。
俺は全部ぶちまけた。
信頼できる仲間に。
彼女の変態的な面。依存癖。二人の関係。二人の情事。
肉体関係はありえないこと。
友人であること。
彼女の暴走のこと。
俺は最低だ。
二人は終始絶句していた。
八幡「チクり屋みたいで最低だよな俺」
雪乃「ある意味では進歩、と言えなくもないわね。あなたは普段、人を頼ったりなどしないもの。私たちも少しは比企谷くんに認められたようで何よりね」
八幡「二人のことは信頼してるさ」
雪乃「あなたが一人胸に秘めたまま、私たちが渋谷さんの異常に気付いたとしたら、きっと私たちの間はこれまで以上にギクシャクしていたかもしれない。話してくれてありがとう。比企谷くん」
結衣「……ていうかなに?信じられないよ……。それヒッキーの気持ち弄んでんじゃん!ずっと友達ってなに?」
由比ヶ浜は俺を責めなかった。
雪乃「あなたはどうしたいの、比企谷くん」
八幡「凛は俺を誰かの身代わりとして見ているような気がする。たぶん前に好きだった奴だ」
結衣「もういい!ヒッキー!あたしが渋谷さんと話す!」
雪乃「それは却下よ、由比ヶ浜さん。『依頼人』とは、この場限りの相談という約束なのだもの」
結衣「でも!ヒッキーの気持ちも考えないで!酷いよ……」
由比ヶ浜は完全にキレていた。
思惑通りだ。
由比ヶ浜の優しさを、今なら信じられる。
雪乃「私も……大切な部員が悩んでいるのだもの。力になりたいと考えてしまうわ」
結衣「それなら!」
雪乃「渋谷さんの事情経緯は周知の事実。彼女には彼女にしかわからない苦悩があるのでしょう。それでも、……彼女の身勝手な考えが、比企谷くんを追い詰めているのも事実」プルプル
雪乃「けれどそれは、比企谷くんと渋谷さんの当人だけの問題とも言えるでしょう。比企谷くんがこれ以上の助けを求めないのなら、私たちは話を聞くだけに留めるべきなのよ」
結衣「ヒッキーは求めるよ」
結衣「助けがいらないなら、ヒッキーは相談なんかしないし」
結衣「いつも自分一人で抱え込むヒッキーが、あたしたちを頼ってくれた。ならあたしはヒッキーを信じるよ。ヒッキーは何の考えもなく女の子を傷つけたりしないって」
雪乃「だそうよ、比企谷くん」
八幡「……かもな」
結衣「決まりだよ!渋谷さんとはあたしが話すかんね!」
雪乃「由比ヶ浜さん、ひとまず私情を挟むのはやめなさい」
結衣「ヒッキーは十分悩んだよ?苦しんだよ?」
雪乃「……いい思いもしたようだけれどね」
結衣「好きでもない相手との行為なんて辛いだけだよ!ね?ヒッキー」
八幡「あ……いや……その……」
雪乃「比企谷くん、正座」
八幡「……はい」
結衣「サイテー」
雪乃「比企谷くんも一応男性なのね」
八幡「失礼すぎね?」
結衣「ヒッキーさぁ……渋谷さんが好きなの?」
八幡「……わかんね。凛が俺に優しくしてくれたから甘えていただけと言われても否定はできない」
雪乃「私は、あなたという人を理解していると思い込んでいたのかもしれないわね」
八幡「失望したか?」
雪乃「いえ、比企谷くんも感情を持った人間だもの。あなたに甘えていたのは私の方ね……。私のこれまでの発言であなたを傷つけていたのなら謝罪します。ごめんなさい」
八幡「雪ノ下はそのままでいいんだ。俺はお前との関係を気に入っている」
雪乃「そんな澱んだ目で見つめないでもらえるかしら?おぞましくて汚されたような最悪の気分よ」
八幡「変わり身はっや」
結衣「ゆきのんらしいね」
雪乃「それで結局、私たちはどう動くべきなのかしらね?」
結衣「簡単だよ。あたしとヒッキーが付き合うの」
八幡「は?」
結衣「そしてゆきのんとも」
雪乃「私と比企谷くんが?」
結衣「ヒッキーは裏であたしやゆきのんとも付き合ってた最低男になるの」
結衣「それがあたしたちに相談した罰」
雪乃「愛想を尽かして渋谷さんが去っていくという筋書きかしら」
八幡「相談した身だしこの際俺はどういいけど、それじゃ二人に迷惑掛けまくりだろ。却下だ却下」
雪乃「今さら三股程度の噂で、あなたの評価など変わらないものね」ニッコリ
八幡「……まあな。言ってて悲しくなるぜ」
雪乃「私は構わないわ」
結衣「迷惑とか、それこそ今さらだし」
八幡「いやいや、ちょっと待てよ」
結衣「好きだから」
結衣「ヒッキーを他の女に取られたくない。でもゆきのんは別」
雪乃「異性に特別な感情を持ったのは初めてのことだから、これが恋愛感情かは自信はない……のだけれど、私は比企谷くんのことが……好き、なのかもしれないわね」
八幡「……このタイミングでそれを言うのかよ?」
結衣「ならいつ言うの?ヒッキーを完全に奪われた後?あたし、もう後悔したくないから」
雪乃「二股を容認することになるとは考えもしなかったわ」
八幡「それ振りじゃなくてマジで付き合う的な……?」
結衣「当たり前じゃん!」
雪乃「本当にデリカシーのない男ね、比企谷くんは」
八幡「はぁぁ?」
結衣「迷惑なんかじゃないから」
雪乃「比企谷くんが私たちのことを気にする必要などないのよ」
八幡「……仮にその提案を受けたとして、凛がメールの通り自殺を企てたらどうするよ?」
結衣「それこそありえないし。自殺なんてしないよ。あたしにはわかる。女の勘ってやつ?」
八幡「根拠が甘いぞ由比ヶ浜」
結衣「だって大事な人を失って、快楽に逃げて、そして依存に逃げた弱い子だよ?自殺する勇気があるならここにいないでしょ」
雪乃「そうね。死ぬ勇気なんて最初からないのよ、彼女には」
八幡「そんなことは本人にしかわからない」
雪乃「こんな簡単な結論、いつものあなたなら見抜けたはずよ」
結衣「ヒッキーも依存しかけてるんだ。さいちゃんみたいな相手として」
八幡「…………」
結衣「それでも証明してほしいなら言ってあげる」
結衣「渋谷さんが自殺するほど依存癖が強い子なら、ヒッキーを繋ぎ止めるのは簡単。だって寝ればいいんだもん。ヒッキーはきっと責任取ろうとするよ。渋谷さんはきっとそれを見抜いてる」
結衣「自分の気持ちを犠牲にしてでもあたしなら寝るよ。他にどうしても好きな人でもいない限り、だからあたしにはわからない。そこまでヒッキーに執着して、拒絶するって。寝るってそんな難しいこと?」
八幡「……トラウマがあるとか」
雪乃「……あなたの言う変態的な行為を渋谷さんから本当に強要したのだとしたら、それはまずありえないわ」
結衣「ヒッキーと寝ないのが証拠」
八幡「…………俺は好かれた相手に嫌われるのを恐れていただけなのかもしれないな」
雪乃「あら、ようやく気付いたようね」
結衣「あたしはヒッキーを傷つけたりしない。ヒッキーを拒絶しない」
結衣「ヒッキーが死んだら、あたしも死んであげる」
八幡「いやそれはやめろ」
結衣「幼稚でもいい。それがきっと恋なんだ」
八幡「……ありがとう、由比ヶ浜」
結衣「結衣って呼べ……ばか」
雪乃「さて、三股のクズガヤくん」
雪乃「あなたの真意は由比ヶ浜さんの善意を利用して、渋谷さんに由比ヶ浜さんをけしかける……由比ヶ浜さんが動くなら私も静観することはない、それ以上の思惑は事情のわからない私では知る由もない……そんなところかしら」
八幡「お見通しかよ……」
雪乃「結果、あくまで渋谷さんの為になる結末を迎える……あなたのやり方はもう知っているもの」
八幡「利用したみたいで悪いな」
結衣「それがヒッキーの優しさだって、あたしは知ってるから」
雪乃「そうね。人を頼ることを覚えただけでも一歩前進よ」
八幡「はは、なら三股は冗談だよな?騙されたぜマジで」
結衣「…………」
雪乃「…………」
八幡「え、なに?」
雪乃「比企谷くん。よろしくお願いするわ」ニッコリ
八幡「……マジかよ……」
結衣「ヒッキーのバーカ♪」
八幡「……雪ノ下が恋人で由比ヶ浜が愛人、凛が正妻」ボソッ
雪乃「比企谷くん、却下♪」
結衣「あたしが正妻でゆきのんが恋人で渋谷さんが愛人!」
八幡「いやそれでいいのかよお前ら」
雪乃「よくないわ。私が正妻で由比ヶ浜さんが恋人で渋谷さんが愛人よ」
結衣「あとでじゃんけんで決めよう」
八幡「恋愛なんて、もうこりごりだぁぁ」
三股は想定外だが、ここまでは予定通り。
あとは準備するだけだ。
翌日
結衣「八幡から全部聞いた。あたしとゆきのん、八幡と付き合ってるから。渋谷さんの存在って正直迷惑だよ」
雪乃「友人なら身を引いてもらえるかしら」
凛「そう言えって八幡に頼まれた?調教でもされたの?それともあんたらが身体で誘惑したんだ?やるじゃん」
雪乃「……以前のあなたは、どんな人間だったのかしらね」
結衣「もしかしたら、あたしたちは友達になれたかもしれない。それが残念で、少し悲しい」
凛「……前の私でも、きっと友人にはなれなかったと思う」
雪乃「あなたの存在は比企谷くんを不幸にする」
結衣「ヒッキーを苦しめるのはやめて」
凛「不幸……か」
汚れていく私。
それは罰のようで、堕ちていくのが心地良い。
私の代わりに奈緒は死んだ。
奈緒がそう口にできなくても。
撮影なんて嘘。
だって撮影があったのは、先に現地に発った幸子や卯月たちなのだから。
凛「私はいいから、奈緒は行きなよ。行かなきゃダメだ。……お土産期待してる」
渋っていた奈緒の背中を押したのは私。
私が言わなければ彼女は留まったはずなのだ。
他は悲しい犠牲でも、奈緒を殺したのは間違いようのない自分。
死ぬ勇気がない。
私が殺した親友。
死ねない自分。
誰か助けてよ
お願いだから
八幡は私の元を去って同じ部の二人とくっついたらしい。
どっちが変態だよ。
ほんといい身分。
これから振られる相手を待つ。
心静かに。
屋上が気持ちいい。
少し寒い。
八幡「ここにいたか」
凛「呼んだのは八幡じゃん」
八幡「聞いたよ、全部」
凛「は?」
八幡「北条加蓮。お前の友達だろ」
凛「……加蓮」
八幡「体調を崩して入院していた」
凛「どうしてわかったの?」
八幡「寝てるお前のスマホから数人の番号を調べた。あとは知ってそうな奴に掛けて北条の現状を聞くだけだ。お前のためと言ったら話してくれたよ」
凛「プライバシーの侵害だね」
八幡「悪いな。俺には俺のやり方がある」
凛「……そ。加蓮はどんな様子だった?」
八幡「知らないのか?」
凛「…………」
八幡「お前が逃げた相手は神谷奈緒じゃない。北条加蓮だったんだな」
凛「……そこまで気付いたらわかるでしょ?もう放っておいて」
八幡「つれないな。親友だろ俺たち」
凛「…………」
親友……その言葉は私を縛る鎖。
八幡「お前の惚れていた相手はプロデューサーだ。そしてプロデューサーはサイパンで別の女性と結婚する予定だった」
八幡「凛、お前は絶望した。言葉を遮り結婚相手を聞くことを避けた」
八幡「そして最初の悲劇は起こった。お前はプロデューサーの隣で結婚指輪をしている神谷奈緒の姿を見てしまったんだ」
八幡「神谷は結果としてふざけていただけだったんだろう。ただの空元気だったのかもしれない」
八幡「冷静さを失っていたお前は、普通に考えればありえないような勘違いをした」
八幡「プロデューサーと結婚するのは神谷奈緒。神谷は本当のことを言ってくれない。それどころか自分に遠慮してサイパン行きを渋っている」
八幡「『私に気を遣わないで行ってきて。行かなきゃ絶交するからね……』」
私はいいから、奈緒は行きなよ。行かなきゃダメだ。……お土産期待してる
凛「違う。そんなこと言ってない」
八幡「当然神谷はお前の様子がおかしいことに気づいていた。自分がプロデューサーと結婚すると思い込んでいる、そう北条に相談したんだ」
八幡「説明は簡単だ。でもそれには本当の結婚相手を話す必要がある。なら今は何を言っても凛を傷つけるかもしれない。自分が傷ついたのと同じように……。それならば時間を置こう」
八幡「神谷奈緒はお前のためにサイパンへ行ったんだよ。土産でも買って、帰ってきたら「私どうかしてた」と凛が以前のお前に戻るって信じていたから。同じ相手を好きになったお前の気持ちがわかるから」
凛「そんな間違いなんてありえないし。全部憶測、作り話じゃん!はあ?奈緒がプロデューサーと結婚?なにそれ?ハハハ、八幡こそおかしいよ」
八幡「……お前はただ構ってほしいだけなんだ。悲劇のヒロインでいたかったんだろ?満足かよ?」
八幡「いい加減目を覚ませ。プロデューサーや神谷奈緒の代役ごっこは今日でおしまいだ」
凛「八幡こそ勘違いしてる」
加蓮「勘違いじゃないよ」
凛「加蓮!?なんで…………」
加蓮「アタシさ、全部聞いてたんだ。だけど何もできなかった。アタシもプロデューサーのことショックだったし。凛の気持ちも理解できた」
凛「…………」
加蓮「もう逃げんな、凛」
凛「………………怒って……ないの……?」
加蓮「なんで?凛が奈緒を殺したって?奈緒は自分の意思でサイパン行ったんだよ?」
凛「……私は怖かった。加蓮に人殺しと呼ばれること」
加蓮「奈緒だって怒ってないと思う」
凛「怒ってないわけないじゃん!!」
加蓮「……奈緒はプロデューサーの幸せを願ったんだ。好きな人を祝福するために」
加蓮「時間を戻せたとしても、きっと奈緒は何度でも自分の意思でサイパンに行ったはずだ」
凛「私だっておめでとうって言いたかった……プロデューサーが幸せならいいって…………でもできなかった……」
八幡「それをしたんだよ、お前の友人は。立派だよな?好きな奴の結婚式に参加するなんてすげーよ。お前に言われたからってそんな簡単にできることじゃねーんだ」
加蓮「アタシはできなかった。プロデューサーと最後まで向き合っていた奈緒は凄いよ」
八幡「これでもまだ、お前が自分が殺したって言うんなら、それは神谷奈緒への冒涜だ」
凛「…………ふぅ」
凛は屋上から身を乗り出した。
凛「ここから飛ぶだけで私は奈緒やプロデューサーに会える」
八幡「まだ逃げるのか?」
凛「違うって。……もう疲れたんだ。あの人がいなきゃアイドルやってる意味ないし、目標も親友も失って……どうしたらいいのかわかんないよ」
加蓮「アタシは親友じゃないの?」
凛「加蓮は親友だ。もしかしたら最後に、加蓮に許してほしかったのかもしれないね」
加蓮「アタシは止めない。凛が逝くならアタシも付き合ってあげる」
凛「……ダメよ。加蓮は生きて」
加蓮「アタシも疲れたんだぁ……大切な人を3人も失ったら、もう耐えられそうにないよ」
八幡「それがお前らの選択なら、見ていてやる」
凛「そんなこと言うヤツはじめてだ」
八幡「言うようなシチュエーションなんて滅多にないしな」
凛「最後の心残り。やっぱり私、プロデューサーが好き」
八幡「知ってる」
凛「だからあなたとは付き合えません。ごめんなさい」
八幡「振られちまった」
加蓮「またね、凛」
凛「二人とも私に死ねって言ってる?」
八幡「それが願いだったんだろ?なら苦しんでやる。お前を殺したことを」
凛「あなたこそ狂ってるよ」
加蓮「もっと早く知り合っていたら惚れてたかも」
八幡「ないな」
破損したフェンスを越えて、渋谷凛が飛び降りる。
俺は咄嗟に彼女の手を掴む。
凛「……離して……痛っ!」
八幡「離せば……お前は死ぬ……くっ……」
凛「ゃ……高い……」
八幡「……ッ……!」
凛「……怖い!……なんで……私死にたくないなんて……」
八幡「暴れんな!最後まで……くっそぉお……世話の焼けるお姫様だ!」
宙を漂う。凛を抱き締めたまま浮遊する。
八幡「最悪な気分だぜ」
走馬灯も感じる余裕などなく落下していく。
数秒前
結衣「くるよ!!」
雪乃「予定通りに動いて下さい!」
ブワッ
葉山「広がれ!」
優美子「姫菜、あーしに合わせて!」
姫菜「とおぉぉ!」
戸塚「材木座くん!」
材木座「任せるがいい!!」
大和「2-F気合いだぁ!」
ドスッ
比企谷と渋谷が着地する。
凛「……マット?」
葉山「成功だ!」
結衣「やった!」
凛「…………へ?」
雪乃「比企谷くんに感謝なさい。彼の依頼はあなたを救うことよ?あなたを救わなければ、私は比企谷くんに顔向けできないわ」
凛「はい?」
結衣「こんなこと、ぼっちにはできないでしょ?」ニコッ
八幡「死ぬかと思ったぜ……」
葉山「お疲れ“比企谷”くん」
八幡「……ああ」パァン
ハイタッチ
凛「どゆこと……?」
八幡「一回死んでみた気分はどーよ?」
凛「……怖かった」
八幡「だろうな。知ってた俺でも怖かったし」
凛「なんでこんなこと」
八幡「いやいや、飛んだのはお前だぜ?」
凛「あ……」
八幡「まあこれは保険だが、お前が飛ぶのはわかってたぜ?そう然り気無く誘導した奴もいるし。飛ぶまで追い詰めるつもりだったし」
加蓮「終わったみたいね?」
八幡「協力感謝」
凛「かーれーんー!」
加蓮「ごめん、凛」
八幡「ちなみに屋上にあったダンボールの中にクラスメート(川崎)が隠れてた。タイミングはばっちり雪ノ下に生中継。フェンスは俺が前もって壊しといたぜ」
凛「気づかなかった……」
八幡「お前みたいな面倒な奴は一回死んでリセットでもしないと立ち直れそうにないからな」
雪乃「だったら一回死んでもらおうとこの男が」
凛「ははは……なんだ……」
加蓮「少しは気が晴れた?」
凛「なんかすっきりした」
凛「……奈緒、ごめんな」
優美子「アンタ馬鹿すぎ。難しく考えすぎだし」
結衣「渋谷さんの気持ちもわかるけどね」
優美子「ゆーいー」
結衣「あはは……ごめん優美子ぉ」
葉山「君は一人じゃない。君を支えようとする人が、これからもきっといるから」
凛「ありがと、イケメンくん」
葉山「渋谷さんにそう言われると光栄だね」ニカッ
戸塚「八幡!怪我とかない?」
八幡「おー戸塚。俺はピンピンしてるぜ」
雪乃「殺しても死ななそうね、あなた」
八幡「失礼なやつだな」
雪乃「ともあれ、無事でよかったわ、比企谷くん。死なれたらいくら私でも目覚めが悪いものね」
八幡「へいへい」
結衣「ヒッキー!」ダキッ
八幡「うおっ!どした由比ヶ浜」
結衣「もう二度とこんな危ないことやんないでね?」
八幡「しねーよ。もうこりごりだ」
凛「加蓮……私もう一度アイドル目指そうと思うんだ」
加蓮「いいと思うよ、凛」
凛「で、……よかったら加蓮も……」
加蓮「……いいよ。一緒にやろ?天国のプロデューサーと奈緒に見せつけようよ」
凛「私たちのステージをね」
雪乃「よかったの?」
八幡「当たり前だろ。ここにアイツの幸せはない。居るべき場所に戻るだけさ」
結衣「ヒッキー元気出せ」
八幡「元気だっつうの」
凛「八幡!」
八幡「おう」
凛「八幡には感謝してもし足りないよ」
八幡「お前に必要なのは問題の解決でも解消でもない。全部お前の気持ち次第だって北条に気づかされたからな」
凛「私どうかしてた。こんなんじゃ奈緒やプロデューサーに叱られちゃうね」
八幡「……頑張れ」
凛「……うん」
きっと最初で最後の握手。
凛「私たちは多分上手くいかないよ。ここでさよならが……きっと正解なんだ」
八幡「だろうな」
凛「身勝手でごめん」
八幡「いいさ」
凛「由比ヶ浜さん、雪ノ下さん。私が言えた義理じゃないけど、八幡をお願い……私ができなかった分まで、……絶対幸せにしてあげて」
結衣「言われなくても」
雪乃「そうね。自分の発言にも責任は取らなければならないわね」
凛「私は清純派処女アイドルとして売っていくよ」
結衣「うわぁ腹黒い……」
凛「事実だし?」ニコッ
凛「じゃあね、私の最低な王子様」
渋谷凛と過ごしたのはほんの短い間だったけど。
きっと一生忘れない。
メンヘラ彼女との少し歪で輝いていた日々を――
テレビを付ければ彼女の笑顔。
渋谷凛と北条加蓮は、逆境を乗り越えたトップアイドルとして再びお茶の間を賑わせていた。
八幡「え?二股嘘だったの?」
雪乃「当たり前でしょ……この男は一体何を期待していたのかしら」
結衣「一番騙されていたのはヒッキーかもね」ニッコリ
二人はあのあと墓参りに行ったらしい。
会ったことはない、神谷奈緒という少女が、こちらを見て笑ったような光景が、なぜか目に浮かんだ――
そして俺も――
やはりこれから先も
俺の青春ラブコメは間違い続けていくのだろう――
完
うん終わった
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