岡部「そうして俺は、最終的に自分自身を騙してお前を助けた」
クリス「信じられない……」
岡部「無理もない…………だが事実だ……」
クリス「……ちょ、ちょっと待って……整理させて……」
岡部「あぁ」
クリス「……つまり、岡部は過去にタイムリープマシンを完成させて、まゆりと私を助けたって……そういうこと?」
岡部「限りなく簡潔に言えばそういうことになる。」
クリス「うん…………。……で、そのアトラクターフィールド……?」
岡部「あぁ、世界線収束範囲だ。……その世界線で起きる事柄は、大小の差はあるが確実に起こる。」
クリス「……で、その世界線で起きる事は、未来から観測された事柄……」
岡部「……そうだ。未来から観測された事柄は、たとえタイムトラベルを利用したとしても必ず起こる。」
クリス「……確定された私たちの死を、回避するための世界線がこの、シュタインズゲート……ってわけなの……?」
岡部「そうだ。このシュタインズゲートだけが、少なくとも2025年までは、完全に何が起こるか決まっていない世界なのだ。」
クリス「……待って、そこのところがよくわからない。もっと詳しく教えて。そもそもどうして私の死は観測されているのに、回避できたの?」
岡部「………少し長い話になるんだが……まず7月に俺が中鉢博士の会見に……」
そうして俺は、全てをクリスに打ち明けた。
クリスはやはり理解度がずば抜けていて、俺ですらあいまいにしか理解していないことを
きちんと言語化し概念付けた。
さて、そろそろ説明しておかないといけないだろう。
何故俺が、いきなりクリスに過去の事を打ち明けたのか。
それには深刻な原因があった。
まゆりが死んだのだ。
数日前のことだ。
いつものように、ラボに集まってダラダラ過ごし、解散する。
夜遅かったこともあり、まゆりを家まで送る事にした俺は、まゆりと一緒にまゆり家を目指した。
まゆりの家の前まで送り届け、家に帰ろうとする俺をまゆりが引き止める。
まゆり「オカリンオカリン。中であったかい物でも飲んでいかない?」
岡部「うーん、こんな時間にお邪魔しても悪いだろ。俺は帰るよ」
まゆり「えー、誰もオカリンを邪魔なんて思わないのです……」
岡部「また明日。じゃあな。まゆり」
まゆりに手を振りつつ、踵を返し、駅に向かう。
まゆり「うん。またね!オカリ……」
数歩進んだところで、後ろを振り返ると、まゆりが倒れていた。
転んだのか?
と、思ったが身動ぎ一つしないのを見て、俺はすぐに駆け寄った。
岡部「ま、まゆり!まゆり!どうした!?」
まゆりの肩と腰に手を当て、呼びかけてみるが、全く反応しない。
それどころか、呼吸する様子さえ感じられない。
これはまずい。
そう察知した俺は、即座にまゆり家のインターフォンを押し、救急車を呼んでもらった。
まゆりの両親もあわてて表に出てき、俺は急いで事情を説明した。
そうして、ご両親と共に救急車を待つ事5分弱。
ようやく、サイレンと共に救急車が到着した。
中から、救急救命士と思われる作業着を着た2人が出てき、まゆりの横にかけつける。
俺は後ろからまゆりの容態を説明すると、二人はまゆりをタンカに乗せ、救急車へと運んだ。
付き添いにまゆりのお父さんが乗り、俺とお母さんはまゆり家に待機した。
そうして連絡を待つ事30分。
ようやく受け入れ先の病院住所を聞く事ができ、俺たちはタクシーで直ぐに病院に向かった。
待っていたのは絶望だった。
病室のベッド上に横たわるまゆり。
その横で涙を浮かべるお父さん。
そして隣で佇む医者。
俺は即座に理解した。
あぁ、まゆりが死んだ。と
呆然と突っ立ったままの俺に、医者が声をかけてきた。
曰く、死因は不明。
曰く、手の施しようがなかった。
曰く、曰く、曰く。
俺の頭には、何一つとして入ってこなかった。
あらゆる疑問でパンク状態の
支離滅裂、混沌の極みの俺の頭の中に
あるひとつの思考が浮かぶ。
【俺は、この死に方を知っている】
あの死に方は間違いなく、アトラクターフィールドの収束によるものだった。
前触れもなく、原因不明の死など、それ以外にありえない。
だが、今居るこの世界線【シュタインズゲート】では、
SERNも居なければ、世界大戦も起こらない。
もっと言ってしまえば、タイムマシンが【絶対に】開発されない世界なのだ。
だから未来を観測する者は存在しないし、
故に、アトラクターフィールドの収束は起こりえない。
なのにまゆりは死んだ。
これは一体どういうことなんだ。
もしかしたら、何かの弾みでタイムマシンが開発され、
何かの弾みで未来が観測され、その結果、まゆりの死が確定されたのかもしれない。
そう考えたが、ありえないという結論に達した。
まず、この世界線上の未来において、少なくとも、2025年までにタイムマシンが開発されていないのは明白だ。
なぜなら鈴羽がこの時代にタイムトラベルしてこなかったからだ。
鈴羽の存在は一種の指標と言っていい。
SERNが統治する世界にしろ、第三次世界大戦が起こる世界にしろ、
どっちみちタイムマシンは必ず開発され
鈴羽が必ずそれに乗って、未来から分岐線である2010年にやってくる。
これは決まっている流れであって、故にその鈴羽が来ないと言う事は
未来において、少なくともタイムマシン絡みの大災害は起こらないと言う事だ。
タイムマシンが開発されていないということは、未来を観測する者はおらず、その結果アトラクターフィールドの収束は起こり得ない。
なのにまゆりは死んだ。
アトラクターフィールドの収束によって。
誰もまゆりの死なんて観測していないのに。
未来など決まっていないのに。
考えても考えてもわからなかった。
それでも考え続けて、やがて日が落ちた頃。
俺は、決心した。
まゆりを救うために、もう一度。タイムマシンを作ってみよう。
あれほど二度とは、つくらないと誓ったのに、わずか数ヶ月で反故にするなんて
運命のいたずらとしか思えない。
(いや、運命なんて言葉はシュタインズゲートでは存在しないのだったな。)
そう苦笑した瞬間にあるひとつの考えが浮かんだ。
水泡のように突然浮かんだそれを必死で否定しようとした。
だが否定しようとすればするほど、その仮説はピタリと疑問に嵌まり
これ以上ないくらいの解に思えた。
【ここはシュタインズゲートではない?】
一人で考えるのは非効率的だ。
俺がようやくそう考えたのは、まゆりの死を知らせてからすっかり消沈してしまったクリスを見てからだ。
一人で考えるより、クリスに相談して二人で考えたほうが遥かに良い。
なぜなら、今ソファで顔を埋めているそこの助手は
過去未来において、タイムトラベルの権威だからだ。
自分一人で考えるよりも、クリスにすべてをうち明かした方がずっと効率的である。
過去の経験からそれがわかっている俺は、クリスにすべてを話した。
事情を説明しはじめて、既に5時間は経過していた。
やがて時刻は深夜に差し迫ったあたりで、
ようやく俺とクリスは対等の位置で議論できるようになった。
クリス「……考えてもさっぱりわからないわ……」
岡部「全く同感だ……」
クリス「岡部……まゆりの死は、本当にアトラクターフィールドによる収束の死だったの?」
岡部「……それは……間違いない……何度も何度も見てきたんだ。あの死に方を……」
クリス「…………ごめん……」
そうして、しばらく無言で考えていたクリスが口を開いた。
クリス「……考えられる仮説としては、この世界線の未来でタイムマシンが開発されるってことよ」
岡部「それは俺も考えてた。……だが、タイムマシンが開発される世界の時はかならず鈴羽がこないといけないんだ」
クリス「そこからおかしいのよ」
岡部「……え?」
クリス「別にタイムマシンが開発されたら、鈴羽さんが来ることは確定じゃない」
岡部「……だ、だが今までの世界線では、全て鈴羽が来て居たんだぞ!」
クリス「統計論は、その状況が違えば全く意味を成さないわ。……それに鈴羽さんが、今から1年後に来る可能性も否定はできない」
岡部「……い、いや!1年後だと駄目なのだ!…………鈴羽は、2000年と2010年がアトラクターフィールドの分岐点だと言っていた。」
クリス「分岐点……?」
岡部「そうだ。Dメールを作ったこの年が未来の、SERNが支配する世界や、第三次世界大戦が起きる世界への分岐点となっているのだ」
クリス「……………………」
岡部「だから、タイムマシンが開発されていたのならば、鈴羽が今ここに、世界線を変える為に存在してないと駄目なのだ」
クリス「…………いや、ちょっとまって……」
岡部「どうした?」
クリス「岡部っ!さっきのもう一回言って!」
岡部「…………?……だからタイムマシンが開発されたのならば……」
クリス「違う!その前!」
岡部「その前……?…………2000年と2010年の分岐点か?」
クリス「それ!……そこがわからないわ」
岡部「……だから2010年にはDメールを開発してしまい……
クリス「2010年はわかるの……DメールをSERNが見つけたり、父が私の論文を使ってロシアに亡命したり、あらゆる世界線への分岐点になってるのは理解できるわ……」
岡部「なら何を……?」
クリス「でもね、2000年が引っかかるの。……人類の未来がかかってるこの2010年と等しい分岐点って……いったい何があった?」
岡部「それは…………鈴羽が言っていたが、2000年問題がどうのこうのって……」
クリス「確かに……2000年にはミレニアムバグがあったわ……」
岡部「それゆえの分岐点だろう……?」
クリス「…………ていうか、そもそも2000年問題って何か知ってる?」
岡部「パソコンのプログラム上の問題だろう……?2000年が1900年に誤認識してしまう……」
クリス「そう。それがミレニアムバグ。……………確かに、発電機関や交通機関なんかは多少影響視されるかもしれない……」
岡部「…………」
クリス「……もしかしたら、ミサイルなんかも誤作動で発射されちゃうかもしれない……」
岡部「…………」
クリス「でも、岡部が知ってるとおり、2000年は何も起こらなかったわ。」
岡部「それはこの世界での話だろう?別の世界では起きたかもしれない」
クリス「仮に起きていたとしても、それが人類の存続に関わる何かに影響するほどの物なの?」
岡部「ありえることだろう……?……仮にミサイルが他国に向かって誤射されていたらこれは重大な分岐になるはずだ」
クリス「……限りなく低い確率の元で、他国に向かってミサイルが発射されたとしても、当時の技術ならなんなく撃墜できたはずよ。」
岡部「ミサイルが落ちるかどうかが問題じゃなくて、発射された事自体が問題なんだろう……?……それが引き金で第三次世界大戦も否定できないだろうし……」
クリス「……確かに、その考えから言ったら、2000年が重大な分岐点となっているのは理解できるわ」
岡部「なら何がひっかかるんだ……?」
クリス「別に2000年じゃなくても関係ないって事よ。」
岡部「…………?」
クリス「別に、戦争なんて起こそうと思えば簡単に起きるわ。……誰かが核のボタンを押せばいいだけだもの」
岡部「それは……そうだが……」
クリス「わたしは、……アトラクターフィールドの分岐点の重要性は……そういうものじゃないと思ってる……」
岡部「…………どういう意味だ……?」
クリス「何かひとつをした時、そのひとつが次のひとつに繋がって、最終的にあることに繋がる……」
岡部「……………バタフライエフェクト……」
クリス「そう。さっき岡部が言った話。……メタルうーぱを岡部が引き当てて、それをわたしが拾って、お父さんがそれを持ってロシアに飛ぶ」
岡部「その結果、各国のタイムトラベル開発戦が起こり、世界大戦まで起こった……」
クリス「……たった一つで57億人を殺す惨事にまで発展したわ。…………アトラクターフィールドの分岐点の重要性は、これだと思う」
岡部「つまり、連鎖性……ということか……?」
クリス「そう。連鎖が起これば起こるほど、その分岐の数も増えて等比数列的に世界は分岐するわ。だから2010年はとても重要な年なわけ」
岡部「……なら2000年は……?」
クリス「2000年問題も重要なファクターになってるのは疑えないけど、それだけだとどうしても納得がいかない……」
岡部「……何が納得いかないと言うのだ……」
クリス「さっきも言ったでしょう!……1991年の湾岸戦争や、2010年のタイムマシン関連なら納得できる!その影響力が!」
岡部「…………」
クリス「でもミレニアムバグは違う!不確定すぎるのよ!……さっきも言ったように戦争なんてどの世界線でも起き得る事だし、特別2000年だからって何かあるわけじゃない」
岡部「……結局、お前の結論はなんなのだ……?」
クリス「……わたしの結論はこうよ。」
【2000年にはミレニアムバグに隠れたバタフライエフェクトが存在する】
岡部「隠れた……分岐……?」
クリス「そう。……気づかないような、些細な事で……それで居て、人類の存続が関わっているような、何か重要な出来事があったはずなの……」
岡部「それは一体……なんだと言うのだ……?」
クリス「…………わからない…………2000年に何が起きたか覚えてる……?」
岡部「2000年……2000年…………悪いが思い出せない……」
クリス「そうよね……今から10年も昔だもの…………」
岡部「………………」
クリス「……でも、必ず何かがあるはずよ。それこそ世界の分岐点たる何かが……」
岡部「………………」
クリス「……?……何か思い出した……?」
岡部「…………いや、……なんでもないな……」
クリス「岡部。」
岡部「……どうした?」
クリス「例えどんな事であろうと、思い浮かぶことがあったら教えて。……それがバタフライエフェクトになってるかもしれない……」
岡部「……あぁ、わかった。……これからは全てを話す……」
クリス「……うん。…………で、さっきはどうしたの?」
岡部「いや、……2000年というか、ほとんど1999年の話なんだが……」
クリス「うん」
岡部「風邪を引いて、高熱に苦しんでいたんだ。一ヶ月ほど」
クリス「………………」
岡部「……で、2000年になった時に、峠というか……死にそうな感じがしたんだ。……世界がグルグル回るような感じがして」
クリス「………………」
岡部「……その感覚がしばらく続いた後、ふと世界の回転が収まったんだ。……で、気づいたら熱もすっかり退いてた」
クリス「………………」
岡部「……それだけなのだが……クリス……?」
クリス「…………ぇっ!?……」
岡部「どうした?何か思案してるようだが……」
クリス「………………」
岡部「………クリス……?」
クリス「…………あ、あのね……」
岡部「ん?」
クリス「これは、…………あくまでも仮説なんだけど……」
岡部「…………もしかして……何かに気づいたのか……?」
クリス「か、仮説よ!仮説!…………仮説なんだけど…………」
岡部「……あ、あぁ……」
クリス「…………岡部さ…………」
岡部「…………?」
クリス「……その時に、死んでない?」
岡部「…………順序だてて、説明してもらおうか……?」
クリス「あ、うん……えっと……その………………あぁごめん!頭が追いつかない!」
岡部「クリス……落ち着いてくれ……俺にはお前だけが頼りなのだ……」
クリス「……ま、待って…………今論理立ててるから…………」
岡部「………………」
クリス「………………」
そうして数分が過ぎた。
そこら辺の番組真っ青の引きを残して、このお預けは中々に堪えるものがある。
俺は一刻も早く、さきほどの発言に対する考えを聞かせてほしいのだが。
そうして身悶えていると、ようやく思案が終わったクリスが顔を上げて話始めた。
クリス「これはあくまでも仮説の話よ。……前もって言っておくけど。……過信は禁物」
岡部「…………あぁ、わかっている」
クリス「2000年の、当時は10歳?の岡部は風邪を引いた」
岡部「あぁ。」
クリス「その風邪は1ヶ月近くも長引いて、最後の方には死にそうだった」
岡部「…………あぁ」
クリス「で、何故か世界が回るような感覚がして、その少し後に、何故か体調が全快していた」
岡部「……その通りだ」
クリス「この世界がグルグル回るって表現、さっき思ったんだけど、……岡部が話してくれた……リーディング……?」
岡部「リーディングシュタイナーだ」
クリス「そう。………その力が発動した時と似てない……?」
岡部「……い、今考えると確かに……似ていなくも………ないな………」
クリス「で、そっから考えたんだけど………………繰り返し言うけど、仮説よ……?」
岡部「……わかっている」
クリス「もしかして、岡部は本来そこで死ぬ予定だったんじゃないのかしら……」
岡部「…………なんだと……?」
クリス「岡部が本来、そこで死ぬ予定だったとすると、全てが合わさるの。」
クリス「何で2000年が、2010年と等しいほど重要な年なのか……それを考えると一つの結論に至ったわ」
岡部「…………なんだ?」
クリス「2010年の【タイムトラベル関連】の分岐点に匹敵するには、2000年の分岐点も【タイムトラベル関連】でないとおかしいって事」
岡部「…………」
クリス「もし岡部が2000年に死んでいたとするとどうなるか考えてみたの」
岡部「……あまり物騒な話ではないな……」
クリス「………仮説よ」
クリス「お父さんが秋葉原で会見をするって事は何も変わらないはず。」
岡部「あぁ、その時点では俺は何も関わっていないからな……」
クリス「問題はその後、岡部の話によると、私がパパにタイムトラベルの論文を見せて、それをパパが盗用しようとして、咎めたわたしが殺された……のよね?」
岡部「…………殺したのは俺だったがな……」
クリス「誰が殺したかは問題じゃないわ……要は、パパがタイムトラベルの論文を持ったままロシアに亡命して、わたしの理論を誰にも邪魔されずにパパの理論として発表するって事が重要なの」
岡部「その通りだ。…………その結果、タイムトラベル開発合戦が起こり、第三次世界大戦が起きる……」
クリス「これが岡部が死んでいた場合の世界よ。……岡部が死んで、私も死んで、第三次世界大戦も起きる…………仮説だけどね」
岡部「…………最悪な世界だな……」
クリス「本当にね。…………でもこの仮説なら、2000年の岡部の死が、2010年の分岐点と同じぐらいの重要性が持つって所は満たすと思う」
岡部「…………確かに。…………実際その後、俺がタイムマシンを開発して、世界大戦が起こらないシュタインズゲートに移行させたからな……」
クリス「でも、岡部は生きている」
岡部「…………あぁ」
クリス「だから私はこう考える。………2000年で岡部が死んでいる世界線……これを仮にA世界と言うわ」
岡部「…………」
クリス「このA世界では、タイムマシン開発合戦が行われ、その結果世界大戦が起きる。…………ここまではほとんど確定……」
岡部「……だろうな……」
クリス「問題はこの後。…………私は、【このA世界でタイムマシンが開発された後、2000年の岡部を助けに行った人物が存在する】…………と考えた」
岡部「………………」
クリス「その結果。…………その謎の人物が岡部を助けた瞬間に世界線は移動して、岡部はその時のリーディングシュタイナーの力を風邪の影響と勘違いしたのよ。」
岡部「……じゃあ勝手に熱が引いたのではなく……」
クリス「詳しくはわからないけど、おそらく…………そんな病気にかかってない世界線に移動したのか、それともその謎の人物が薬やらを処方したのか……いずれにせよ、その時に世界線は入れ替わったのよ」
岡部「…………ま、まてまて!」
クリス「……なに?」
岡部「……お前の仮説はわかった……確かにその理論で言うと2000年の分岐点はミレニアムバグの影響ではないということも理解できる」
クリス「…………」
岡部「しかし、それとまゆりが死ぬことは何も関連がないぞ?」
クリス「…………」
岡部「だから、この話とまゆりの死については何も関連性はない。…………違うか?」
クリス「………………あるのよ」
岡部「………え?……」
クリス「だから言ったでしょ…………ある仮説を元にすると、全ての謎がピタリと嵌まるの……」
岡部「…………ど、どういうことだ……?」
クリス「だからね、……さっきから言っている、その謎の人物が……」
岡部「………………」
クリス「…………まゆりなのよ」
【蜃気楼上のシュタインズゲート】 12章 完
岡部「悪いが、俺の頭では理解できない……」
クリス「……考えてみて、このシュタインズゲートでは、タイムマシンは、少なくとも2025年まで絶対に開発されないわ」
岡部「…………あぁ」
クリス「なのにアトラクターフィールドの収束が起きた。……これが何を意味するか……」
岡部「………………」
クリス「つまり、まだ矛盾が生じているのよ」
岡部「……だ、だが未来は観測できないはず……」
クリス「…………その未来が観測できない世界。シュタインズゲートに到達できたのは誰のおかげ……?」
岡部「そ、それは、この俺だが……」
クリス「そう。岡部のおかげよ。…………ならその岡部は本来2000年には死んでるはずなのに、どうして2010年まで生きてて、世界をシュタインズゲートに移行できたの?」
岡部「…………お前の仮説によるならば…………まゆりが2000年の俺を助けたから…………ということになる」
クリス「そのまゆりは、どうやってタイムトラベルできたの……?」
岡部「………………あ、」
クリス「気づいた?……矛盾が起きるのよ。……岡部を助ける事と、まゆりがタイムトラベルすることは本来並行してはいけないことなの」
岡部「…………もし、俺が死んでいたのなら……」
クリス「……2010年にシュタインズゲートに移行することなく、そのままA世界に到達するわ。……その後まゆりは開発されたタイムマシーンで2000年の岡部を救いに行く」
岡部「…………2000年の俺を助けたら……」
クリス「……岡部は2010年まで生きて、その後シュタインズゲートの扉を開けて、タイムマシンを作らない世界にするわ……」
岡部「…………つまり、……俺を助けたら、……まゆりが俺を助けにこれなくなる……」
クリス「矛盾するって言った意味がわかった……?これは親殺しのパラドックスに酷似してるわ……」
岡部「だ、だが、この通り俺は生きてて、世界をシュタインズゲートに移行させることもできた!……これはすなわち、お前の理論は間違っているということにならないか!?」
クリス「確かに、岡部が本来死んでいた……なんて私の憶測に過ぎないわ………でも、まゆりがアトラクターフィールドの収束によって死んでる以上、何かしらの矛盾の代償を取らされたと考えるしかない」
岡部「そ、それに!この世界線上で、未来永劫タイムマシンが開発されないなんて保証は……どこにも……」
クリス「……さっきと言ってる事が違うけど…………それでも駄目よ。」
岡部「……何故だ!?」
クリス「……この世界線上で、仮にタイムマシンが作られたとしても、まゆりがそれを使って、2000年の岡部を助ける意味がない」
岡部「……ど、どういう意味だ……」
クリス「……この世界線上のまゆりにとって、岡部は2000年に死ぬ存在じゃない。だから助けに行く理由が存在しない」
岡部「………………」
岡部「………………」
クリス「そして、そう考えた結果……まゆりが死んだ理由を説明できるようになる」
岡部「…………な、なんなんだ……」
クリス「岡部が本来2000年に死んでいる」
クリス「そして、まゆりがなんらかの方法を使って、矛盾を生じさせないで岡部を助ける」
クリス「その代償として新たに生じた矛盾によって殺された……そう考えられるの」
岡部「……あ、新たな矛盾……?」
クリス「……えぇ。……一番初めの矛盾。これをクリアしないと岡部は助けられない。……ここまではいいわね?」
岡部「……あぁ……」
クリス「現実に岡部は2010年まで生きていて、シュタインズゲートに世界を移行させた。……という事は初めの矛盾はクリアできてるのよ。信じられないけど」
「問題はその後」
岡部「……後……?」
クリス「……まゆりは何かしらのタイムトラベルトリックを使った……。おそらく……岡部が15年費やした執念の策に匹敵する何かを考えて……」
岡部「……ま、まゆり……」
クリス「どれくらい悩んだのかは知らないけど……、おそらく血のにじむ思いで考え出したのよ……」
岡部「………………」
クリス「でも待っていたのは新たな矛盾だった……」
岡部「……………その結果が……まゆりの突然死……と、そういいたいのか……?」
クリス「そうとしか考えられないわ」
俺とクリスは気づけば一晩議論しあっていた。
そうして、得た結論は
『まゆりは何かしらのトリックを使い、親殺しのパラドックスを回避したが、新たに生じた矛盾によって収束された』
という物だった。
結局、仮説は仮説の域を出ず、
当然のように解決策は生まれなかった。
そうして一週間が過ぎた。
まゆりの葬儀やらなにやらで慌しい一週間で、
だが、それ以上にややこしかったのが、クリスとの議論だった。
タイムマシンをもう一度開発するか、しないか。
ひたすらそのことだけを一週間話し合った。
クリス「……だから!タイムマシンを作るのは時期尚早だって言ってる!」
岡部「ならいつまで待つと言うのだ!明日か!来週か!来月か!2025年まで待機しろとでも言うのか!」
クリス「極端にとるな!今はまだ思考の段階で、無考の行為は身を滅ぼすことになる!」
岡部「現にまゆりが死んでいるんだぞ!」
クリス「だからこそ、慎重にならないといけないでしょ!」
この繰り返しだった。
そもそも、
タイムマシンを開発してから原因を究明しようとする俺に対して、
原因を究明してからタイムマシンを作ろうと言う助手との議論に、妥協点などあるわけもなく。
0か1か。きわめて単純な結果しか存在しなかった。
どちらが諦めるか。ということである。
これに関しては、かなり俺に分が悪かった。
クリス「大体、岡部がタイムマシンを作ってしまったら!せっかくシュタインズゲートに到着したのが無意味になっちゃうのよ!?」
岡部「そもそも、まゆりが死んでる時点でまだ運命の輪の中だ!」
クリス「だからそれは!別の世界の収束によってで、この世界はそれ以外は完全に未知なのよ!?」
岡部「別の世界の収束が起きてる時点で、ここはシュタインズゲートなどではない!!」
クリス「違うわ!まゆりは特例中の特例なのよ!ここは確かにシュタインズゲートよ!」
岡部「誰がそれを保障した!?俺か!?お前か!?神か!?……あぁいいさ神は俺だ!保障してやるよ!この世界に絶対なんて無い!ここはシュタインズゲートではない!」
クリス「なら、タイムマシンを適当に作って!まゆりを助けて!その後は第三次世界大戦でも起こす!?どうなの!?神様!」
そうしてさらに一週間が経った。
俺とクリスはもはや議論もせず、ただただまゆりの死の原因について考えていた。
飯もろくに食べず、風呂にも入らない。
睡眠すら満足に取れていなかった。
俺はそんな助手を見ながら、
俺とスタンスこそ違えど、必死にまゆりを助けようとしているのだと、ようやく気づいた。
そうして十分すぎるほど思考した結果、俺とクリスが行き着く先は、
同じだった。
岡部「クリス……」
クリス「なによ……」
岡部「タイムマシン…………作らないか……?」
クリス「……………………」
岡部「もう…………駄目なんだ…………」
クリス「……………………」
岡部「考えても考えても、わからないんだ……何故まゆりが死ぬのか…………」
クリス「……………………」
岡部「だから、タイムマシンを作って……まゆりを助けに行かないか……?」
クリス「私も……それしかないと……思っていた……」
岡部「……く、クリス……」
クリス「勘違いしないで。……私はこの世界がシュタインズゲートだと信じてる。だから、まゆりを助けた後直ぐにタイムマシンは破壊するわ」
岡部「あぁ、……その点については俺も同感だ…………あんなもの、あるべきじゃない」
クリス「ふふ……」
岡部「…………どうした?」
クリス「そんなものを作ろうとしてるくせに、どの口が……って話よ」
岡部「……そ、それは!まゆりを救うために仕方なくでだな!」
クリス「わかってるわよ。」
岡部「……クリス……」
クリス「岡部、それじゃ始めるわよ……。準備はいい?」
岡部「もちろんだ……」
クリス「もしかしたら……、岡部が回避してくれた戦争をまた引き起こすかもしれない……」
岡部「……あぁ」
クリス「あるいは、SERNにタイムマシンがバレて、二人とも捕らえられるかもしれない……」
岡部「…………」
クリス「タイムマシーンを即破棄したからと言って、タイムマシーンが完成した事実に変わりはない。……危険度は一気に跳ね上がる」
岡部「…………」
クリス「それでも、……まゆりを助けるのね……?」
岡部「……当然だ」
クリス「………………わかった」
クリスはそう言いながら、手を俺の方に出してきた。
どうやら握手のつもりらしい。
二度とクリスと共にタイムトラベル研究はしないだろうなと、考えていた俺だが、
手を握り合った瞬間、不覚にも
『あぁ、やはり俺とお前はこういう運命にあるのだな。』
そう、強く感じた。
クリス「……で、どうするの?」
岡部「あぁ、タイムマシンを開発する、と言ったものも……実際のところ、俺が作った事があるのはタイムリープマシーンだけだ」
クリス「まぁそれも私が作ったんですけど……」
岡部「こ、細かいことはどうでもいいのだ」
クリス「じゃあとりあえず、岡部の言うβ世界線で、私たちが作ったタイムリープマシンの概要と、経過をできるだけ詳しく教えて」
岡部「…………あぁわかった。少し長くなるぞ」
クリス「……もう時間の長さなんて忘れたわ。アインシュタインの言ったことが今なら理解できそうよ」
まさか、こんなところで
そのセリフをまた聞けると思っていなかった俺は、
またもや、運命とやらを信じそうになる。
β世界線の説明は、時間がかかった。
クリスは事あるごとに詳しく突っ込んでくるので、話が全く進まず、
質問をしてきては「だからレポートを取れって言っとろーが」
と捨てゼリフをはいていく。
今のお前はそのセリフを言ってないはずだろうが。
そう心の中で何度も反論した。
そうして3時間ほど経った所で、ようやく今後のめどがついた。
【ひとまずタイムリープマシーンを作ろう】
だが、要点をまとめて見ると、ひとまず……などという言葉では括れないほどめんどくさい事がわかった。
①、電話レンジを放電現象が起きるように改造すること(メールは送ってはいけない)。
②、SERNにハッキングを仕掛けること。
③、IBN5100を手に入れること。
④、Dメールを送ってみること。
⑤、エシュロンに捕らえられたDメールを削除すること。
⑥、クリスが脳の記憶をデータ化することに成功すること。
⑦、SERNのLHCにアクセスしてデータを圧縮させること。
⑧、タイムリープすること。
クリスが言うには、まず初めに今までの軌跡をたどらないといけないらしく、
限りなく、正確にたどっていけば行くほど、俺が観測した未来に結果は収束していくと言う物だった。
つまり、シュタインズゲートに行き着く際に、鈴羽が2010年にやってきた世界。
俺が観測し得る限り、もっとも高性能だったあのタイムマシンが開発される未来。
その未来をできるだけ再現しなければいけなかった。
だが、ここで新たな問題点が浮上してくる。
あの世界線上の未来では、確かに俺とダルはタイムマシンを作ったらしいが、それは各国が開発合戦を繰り広げた恩恵による所が大きかった。
各国が独自に理論を構築していき、俺とダルがハッキングでその技術を盗用していく。
その結果生まれたのが、あのタイムマシンなのだ。
だが、そのためには中鉢博士がクリスの論文を携えて、ロシアに亡命しなければならない。
そのためには、過去にタイムリープしてメタルうーぱを……と、
結局今までのイタチごっこになってしまうのだった。
これに対するクリスの答えは明瞭としたもので、
「とりあえずタイムリープマシンを作ること。そうすることで、また何か見えてくるはず」
という、要は『そん時はそん時』という精神で、
先ほどまで、無考がどうのこうの言っていたお前はどこに言ったのだと、小一時間たずねたくなった。
こうして、先は見えないながらも、
着実に。そして確かに、
まゆり救出作戦は、開始された。
【不可避のエピローグ】 13章 完
あぁケツが痛いでおじゃる。
書くの疲れたから休憩する。
落ちたらごめんね。
ぼちぼち書いていきま。
クリスを紅莉栖にしたほうがいい?
二週間が経過して、
俺たちは早速、積んでいた。
電話レンジを改造すること。
ハッキングを仕掛けること。
その二つは、比較的容易だった。
事情を聞いたダルが快く協力してくれたからである。
任せろ!と、
ダルが言った瞬間。
正直、少しほっとした。
ダルという人間を考えた時、協力してくれるだろうとは思ってはいた。
だが、万が一拒まれていたら、その時点で俺と紅莉栖は【積み】なのだ。
バレないでSERNにハッキングする、なんて人間はダル以外にしらない。
そう考えると、ダルという人間は、これ以上無いくらいにキーパーソンなのである
『順調にこなしていけそうだ』
ハッキングまでを完了した俺の、安い算段は
『辛酸を嘗めさせられた』という言葉ではとうてい収まり切らない機械、
IBN5100によってまたもぶち壊された。
まったく、見つからないのだ。
柳林神社を探しても見つからない。
フェイリスの家に聞きに言っても、
コインロッカー、FBもといミスターブラウンの家、
どこを探しても全く、皆目姿が見えないのだ。
だが、こればかりは当たり前のことなのだ。
岡部「一体どこにあると言うのだ……」
紅莉栖「こっちが聞きたいわよ……」
岡部「確かに、前の世界線では、柳林神社に奉納されていたのだ……」
紅莉栖「それって、あれでしょ?鈴羽さんが未来から過去にタイムトラベルして、IBN5100を奉納しておいたんでしょ?」
岡部「あぁ、鈴羽が1975年にタイムトラベルして手に入れててくれたんだ」
紅莉栖「でも、シュタインズゲートの未来じゃ……」
岡部「………………」
そうなのだ。
このシュタインズゲート(仮)は、2025年まで、少なくとも俺たち以外がタイムマシンを作ることは無い世界なのだ。
当然、世界大戦勃発やディストピアが形成される事もなく、
鈴羽が災害回避のために、1975年へIBN5100を求めてタイムトラベルする理由もなければ、手段もない。
結論として、この世界でIBN5100が見つからないのは『当然』なんだ。
ならば、どうすればいい?
IBN5100をあきらめるか。
そもそもIBN5100は、実質的にタイムトラベルにはなんら関係はない。
無くても、マシンそのものは完成する。
だが、そうして作ったリープマシーンは必ずSERNに察知されてしまう。
何故なら、Dメール送った瞬間、SERNのエシュロンによって絶対に傍受されてしまうからだ。
その結果、俺と紅莉栖とダルは間違いなく、SERNに拉致監禁され、ディストピアが形成されてしまうだろう。
そうならないため、エシュロンにハッキングするためのIBN5100が絶対に必要なのだ。
なら
Dメールを送らなければ良いのではないか?
リープマシンを完成させないで、タイムマシンを作ればよいのではないか?
これもNOだ。
仮に、リープマシーンを一回も使わずに、奇跡と言ってもいい確率でタイムマシンを作れたとする。
問題は、そのマシンの完成度だ。
鈴羽によると、あのタイムマシンの大半の技術は、リープマシーンの援用で出来ていると言う。
リープマシンを作った際でも、何百回とDメール実験を繰り返し、その度に改良を重ねてきたのだ。
そのリープマシーンによる実験が一度も行わないまま、作ったタイムマシンが正しく作動するのはどんな天文学的確率になるのだろうか。
それにそもそもの問題として、タイムマシン開発そのものがSERNに暴かれる心配もある。
メールだけでなく電波関連全般を傍受できるSERNだ。可能性は決して低いものではないはずである。
常にその動向を監視してないと駄目なのだ。
過去の俺はそれを怠って、アトラクターフィールドの収束という、手痛い【制約】を受けた。
つまり、結論として、
タイムマシンを作るためには、やはりIBN5100は必須ということだ。
だが、見つからない。
いくら歩き回っても見つからない。
思いつく場所は、全て行って見た。
どう考えてもあるわけがない場所にも行った。
探した。探した。探し回った。
でも、見つからない。
……見つからない。
…………見つからないんだ。
さらに2週間が経った。
依然として見つからない。
紅莉栖とダルは、ネットを駆使して情報を収集していた。
俺は、自らの脚で、少しでも怪しそうな場所を探した。
と言っても、怪しそうな場所なんてもはや存在しないのだが。
もしかしたら、誰か持っていて売ってくれるんじゃないか?
そんな淡い希望もあったが、その程度で見つかるのならとっくにラウンダーによって回収されているはずだし、
事実そうだった。
ネットには噂程度のものしかなく、やっと見つけた有益そうな情報も、IBN5100の隠された機能、などという的外れな物だった。
心が折れそうだった。
それからさらに数週間。
もはや秋葉原には探す場所がないと思った俺は、捜索範囲を伸ばしていた。
過去の経験から言って、あるとしたら必ず秋葉原に存在するはず。
と、決めてかかっていたが、もしかしたら別の地域にあるのかもしれない。
だとしたらどこにある?
千代田区にないのなら、中央区だろうか
あるいは新宿区。怪しいところを言えば港区か?
いや、そもそも東京、むしろ日本にあるのだろうか。
秋葉原だけでも、探しきれる範囲でないのに。
考えれば考えるほど絶望感に浸れる。
こうなったら最後の手段として、フランスのSERN本拠地まで取りにいってやろうか。
……それも良いかもしれない。
マッドサイエンティストにふさわしいし、なによりこんな無為な時間を過ごさなくてよくなる。
ダルにハッキングを任せて、IBN5100を保管してるところを調べてもらい、後はこっそり進入すればいい。
それで全てがうまくいく。
いや、それよりもSERNの工作員を脅した方が早いんじゃないか?
ミスターブラウンなら、今まで機関が回収したIBN5100のありかを知ってるかもしれないし、
もちろんプロが口を割るわけないが、脅せばなんとかなるかもしれない。
そういえば、奴の娘が居たな
あの娘を人質にIBN5100を要求して、
紅莉栖「岡部!」
岡部「…………あぁ、紅莉栖か……どうした……?情報はあったか?」
岡部「…………あぁ、紅莉栖か……どうした……?情報はあったか?」
紅莉栖「どうしたも何もないわよ……、岡部……根詰めすぎじゃない……?」
岡部「何を言ってるんだ……、今せっかくいいアイディアが浮かんだと言うのに」
紅莉栖「ねぇ、少し休んだ方がいいんじゃない……?……今の岡部の顔……ひどい表情よ、」
岡部「………………」
紅莉栖「私、その岡部の顔……見たことある気がするの……」
岡部「…………」
紅莉栖「夢みたいに曖昧なんだけど、岡部が今みたいにすごい思いつめてる光景を見たことがある……」
(……これはおそらく、リーディングシュタイナーが発動しているせいだ。)
紅莉栖「まゆりのために、すごく頑張ってて……、でも岡部も倒れそうで……」
(……そういえば、ルカ子、フェイリス、まゆりもリーディングシュタイナーを発動していたな
発動のタイミングは、皆バラバラだったが、何か規則でもあるのだろうか……)
紅莉栖「もう私、岡部のそんな姿見たくない……、お願い。少しでいいから休んで……」
(……フェイリスは確か倉庫の中だったな。追い詰められてる時に発動したんだ……)
紅莉栖「もし、岡部まで倒れたりしたら……わたし……」
(……まゆりが発動したのはいつだったか。………………確か、あれは墓地の前で)
一瞬の閃光のような。
水面に落ちた小石の、波のような。
形容しがたい何かが頭の中を駆け巡った。
その一瞬の思波は
木々の揺らめきのように、そよ風のように
頭の奥底から、吹いてきて
ふと、考えるのを止めてしまうような。そんな余韻を残して消えていく。
そして、違和感は
一瞬の静寂を置いて、
暴風のような、激しい何かになって押し寄せた。
岡部「……っ……あっ……!」
まるで警鐘のように、頭の中で声が響く。
頭を抑えて蹲ってしまいそうな痛みも同時に起こる。
自分の身に何が起こっているのかさっぱりわからない。
考えることもできない。
ただただ、頭の中で何かが響いている。
『……いだせ。』
遠くで誰かの声がする。
だが、それよりも遥かに大きな声でかき消されて全く聞こえない。
頭の中にスピーカーを入れた様に、内側から聞こえるその声は、
初めは小さかったのに、次第に大きく、強くなっていった。
そして、ついにその声は知覚できるほどになった。
『思い出せ。』
そして同時に、紅莉栖の声も聞こえた。
「まゆりが……」
その単語を聴いた瞬間、頭の中の声はいっそう激しくなった。
直後、自分が何か忘れていることに
そして思い出さなければいけない、何かがある事に気づいた。
そう知覚した瞬間。
今までの記憶がフラッシュバックしてきた。
まゆりに関する全てが駆け巡る。
そのほとんどがあの三週間の出来事だった。
まゆりの死。それが形を変えていろいろよみがえる。
何十、何百とあるそのシーンを全て片隅においやり、奥底に埋もれたその記憶を探ろうとする。
奥へ、一歩奥へ、そして行き止まりに近いような場所に、
ひとつ『異質』なそれがあった。
俺はそれに手を伸ばす。
あと少しで、届きそうな位置にある。
それに手を伸ばす。
何か、忘れてはいけないことを。忘れてしまった俺が、思い出すために。
手を伸ばす。その周りとは明らかに異質なそれを掴むため。
めいいっぱい伸ばす。
ここで、思い出さなかったら、たぶん二度と思い出す事はできない。
それは絶対に嫌だ。
俺はもう後悔なんてしたくないんだ。
今!この時!この瞬間!全てをかけてでも思い出してやる!
そして、指がそれに触れた瞬間。
風が
駆け抜けた。
力強い旋風のような。だけど荒々しさは全くない。
一瞬のうちに夜の嵐から、春の高原に移ったみたいに。
頭の中の景色が、色を変えた。
今
記憶はよみがえった。
岡部「…………………………」
紅莉栖「ちょ、ちょっと……、岡部、大丈夫……?」
岡部「………………」
紅莉栖「岡部ったら!」
岡部「…………見つけた……」
紅莉栖「…………え?」
岡部「……ダル、紅莉栖……出かけるぞ」
ダル「ほぇ?」
紅莉栖「……どういうこと?」
岡部「IBN5100を見つけた」
紅莉栖「……っ!?」
ダル「まじで!?」
岡部「紅莉栖は人数分の手袋、ダルはスコップとシャベルを用意してくれ」
ダル「オーキドーキ!さすがオカリン!」
紅莉栖「ちょ、ちょっと岡部!事情を説明してよ!」
岡部「事情を説明するよりも、現場に来てもらったほうが早い」
紅莉栖「現場?、現場って……?」
岡部「…………墓地だ」
【土蝉のメッセージコード】 13章 前半 完
椎名まゆりの祖母 墓地
紅莉栖「……さて、いい加減説明してもらうわよ」
ダル「オカリン、墓地にシャベルなんてもってきて何をする気?墓荒らしはマジで勘弁なのだぜ……」
岡部「…………6年前に、まゆりの祖母が亡くなって、まゆりがしばらく失声症の様な状態になっていた事は話したな……」
紅莉栖「え、えぇ……でもそれが?」
岡部「まゆりは祖母が亡くなってから、毎日、本当に毎日ここに来てたんだ」
ダル「…………」
岡部「俺も毎日まゆりを見てた。ちょうどこの立ち位置、視線は少し違うが」
紅莉栖「…………」
岡部「俺があの頃を思い出すと、浮かんでくる光景はいつもこれだ。この立ち位置から、この視点からの光景だ」
紅莉栖「……それで?」
岡部「そして、それは数ヶ月前の記憶でも同じだ」
紅莉栖「数ヶ月前?、それって世界改変の前の話?」
岡部「あぁ、俺がシュタインズゲートに到達しようと四苦八苦してる時のことだ。その時も、まゆりはここに来ていた」
「そして、俺はその様子をまたここから見ていた。」
「いつもと変わらない光景だった。6年前から見続けてきた光景だ。」
「俺はさっき、その懐かしい光景をひたすら思い浮かべていたんだ」
「すると一つおかしな記憶があった」
「現在の年と同じ背格好のまゆりが、墓場に居る光景だ」
紅莉栖「……?それの何がおかしいの?」
岡部「最初は俺も気づかなかった。違和感も何も感じなかった。ただまゆりが墓場に居る光景だからな」
ダル「…………?」
岡部「だが、おかしいんだ。その記憶は。」
紅莉栖「……どういうこと?」
岡部は、コメカミに手を当てつつ、先ほどまで立っていた墓場側面から移動する。反対側へ。
岡部「その記憶では、まゆりはこちら側から写っていた。ちょうど先ほどの立ち位置から真逆のこちら側だ」
紅莉栖「…………」
岡部「おかしいんだ。そんな事絶対にありえない」
紅莉栖「……ど、どうして?」
岡部「入り口から墓をまたぐ位置にある、こちらから『俺がまゆりを眺める』事はありえない」
紅莉栖「………意味がわからない」
岡部「要するにだ。俺はこちらからまゆりを眺めた事は一度も無い。ただの一度もだ。」
ダル「で、でも、一回ぐらいは有ったんじゃない?オカリンの記憶違いでさ」
岡部「いや、絶対にありえない。」
紅莉栖「どうしてなの?」
岡部「俺がまゆりより先にこの墓地に来た事がないからだ。俺は必ずまゆりよりも遅れてここに来る。当然だ。まゆりを探しにここに来ているのだから」
紅莉栖「……なるほどね。……要するにまゆりが居る光景って事は、まゆりを探しに来た記憶ってことで」
岡部「そうだ。……探しているなら、そしてまゆりが祈っている光景が見えるという事は、まゆりの後ろを通って、まゆりに気づかれる事なく、こちら側から眺めているはずが無いのだ」
紅莉栖「……、確かにその光景がおかしい事は理解できたわ。…………でもそれが?」
岡部「さっき、この光景の違和感差に気づいた時、ふと疑問が思い浮かんだんだ。」
ダル「…………」
岡部「この光景は俺の記録には無い。だが俺の記憶にはある。それは一体何故だ」
紅莉栖「夢でも見ていたとか……?」
岡部「あそこまで鮮明な記憶は夢ではないと断言できる。」
紅莉栖「……ならいったい」
岡部「結論は一つだ。あれは俺の記憶じゃない」
紅莉栖「……は?………ならなんだって言う………………、………………リーディングシュタイナー?」
岡部「……あぁ、間違いない。この記憶はリーディングシュタイナーによって得た物だ。」
紅莉栖「ちょ、ちょっと待ってよ。それはいくらなんでも結論が早急すぎじゃない?」
岡部「確かに無茶苦茶に聞こえるかもしれん。……だが、なんと言えばいいのか……。一度そうだと思ったら、認識できてしまったのだ」
紅莉栖「……?、リーディングシュタイナーの力を……ってこと?」
岡部「あぁ、今なら断言できる。……この光景はリーディングシュタイナーによって得た記憶だ」
ダル「それよりさ、オカリン。このシャベルとかは何のためにもってきたん?」
岡部「……この記憶は、俺に『思い出せ』と言って来た」
ダル「……ほぇ?」
ダル「……ほぇ?」
岡部「希望にただ縋っただけのように見えるが、俺には、この記憶こそが、この現状を打破する鍵になると確信している」
紅莉栖「……現状……?…………IBN5100のこと?」
岡部「……あぁそうだ」
紅莉栖「……って事はまさか……」
岡部「あぁ。今から墓の周辺を掘り返す」
ダル「ちょちょちょ!待った待った!オカリン!それって犯罪じゃね!?」
岡部「犯罪だろうが、なんだろうが、もう俺にはこの第六感を信じる以外無い」
ダル「ていうか!記憶がおかしいからって墓地を掘り返す事に何もつながらない件について!」
岡部「……俺は確信してる」
ダル「なにが?」
岡部「俺の中にある、なんというか、本能みたいな物が、ここを探れと言ってるんだ……」
ダル「……これで、本当にIBN5100が埋まってたらご都合主義すぎるだろ……jk」
岡部「……今は、そのご都合主義こそ、望んでやまない物だがな……」
紅莉栖「……岡部……。本当に自信があるのね?」
岡部「……この予想が外れてたら……、俺にはもう手がない」
紅莉栖「……本当に……、その記憶は岡部のものじゃないのね……?」
岡部「その答えは、…………ここにある」
紅莉栖「…………わかったわ。掘りましょ」
ダル「……オカリン……夜うなされたら添い寝を希望するのだぜ……」
岡部「……余計うなされるだろ……」
そうして墓を掘り返す事にした岡部一行。
「どこから掘り返すか?」という題に、全員一致でまず墓裏から、となった。
ダル「それじゃ、いくぜよ……」
岡部「……うむ……」
ザクザク、と小気味良い音を立てて、シャベルが土をすくって行く。
橋田が豪快に土を掘り、横で岡部がスコップで細部を調べる。
そうして作業していく事3分。
ある程度、穴も深くなったところでダルが言った。
ダル「……あれ?シャベルの先に何か当たったかも」
岡部「っ!?本当か!?ダル!」
ダル「う、うん!もうちょい掘り返してみるお!」
慎重に作業すること2分。
ついに地面深くから、箱のような物の上部が見えた。
ご都合主義万歳だ。
俺は、心の中でそう思った。
紅莉栖「……信じがたいけど……、本当に出てきたわね……」
岡部「あぁ……、だが……この大きさは……」
見えてきた箱上部の大きさは、大体A4タイプの紙よりちょっとだけ大きい物だった。
岡部「……そんな……、まさか……」
大体箱中部まで見えてきたところで、岡部はたまらずスコップ片手に手で掘り返そうと躍起になった。
そうして出した箱は、腐敗しにくそうな銀色のものだった。
だが、その大きさは到底IBN5100が入るようなものではなく、
またその重さも、IBN5100のそれとは決定的に違っていた。
墓の前に箱を置き、一同はそれを呆然と見下ろす。
ダル「……オカリン、開くよ」
岡部「……あぁ」
ガコッという重苦しい音と共に蓋が外された。
そして、中にあったのは、
果たして白い紙だった。
一枚ではない。その量はゆうに100枚はあるようだった。
岡部「…………これは……?」
岡部はそれらの半分を手にとって眺めてみる。
限りなく茶色に近いそれらの紙は、歴史を感じさせる。
そして、そこに記されていたのは、数字と、アルファベット、そして記号だ。
英語の様な、しかしちゃんとした文章ではない。
なんだこれは。
岡部はそれらを眺めて、思案に耽る。
「……ん?これってプログラミング言語じゃない?」
ダルの声が聞こえた。
紅莉栖「プログラミング言語?」
ダルは、残された半分の紙のうち数枚を手に取り言う。
ダル「うん。これってプログラム言語の構文規則と意味規則について書いた紙じゃね?」
どの言語かはさっぱりだけどさ。
そう言い閉めるダルの言葉は、岡部の耳に届かない。
紅莉栖の言葉も全く聞こえない。
いや、誰の、どんな言葉も今の岡部には届かない。
岡部「………………」
紅莉栖「……?岡部?」
岡部「………ついに見つけた」
紅莉栖「……え?」
ダル「……ん?」
岡部「……IBN5100だ…………」
紅莉栖「ちょ、ちょっと……岡部?」
ダル「き、気持ちはわかるけどさ……、IBN5100は無かったっしょ……」
岡部「違う!今、たった今見つけたのだ!お前が見つけたのだ!」
ダル「……オカリン……」
岡部「そんな目で俺を見るな!これだ!これがIBN5100だと言ってるんだ!」
左手に持った紙束を右手でパンパンと叩いて見せる。
その顔は笑みを隠し切れず、また興奮も滲み出ていた。
紅莉栖「……どういう事?」
岡部「こ、これは!このファイルは!IBN5100の機能の規則書だ!」
紅莉栖「IBN5100の機能って……、あの独自のプログラムを解析するって言う?」
岡部「そうだ!そのユニ-クな言語は、IBN5100でしか解析できないが、これがあれば違う!」
ダル「……って事は、これってIBN5100で使われてる言語について書かれてるってこと?」
岡部「あぁ!それしか考えられん!」
紅莉栖「……橋田。本当にその紙で、IBN5100の言語がわかるの?」
ダル「……た、確かに、ちゃんとした規則について書かれた物があれば、それを使ってデコードソフトを作れるけど……」
紅莉栖「……本当にIBN5100なの……?」
岡部「絶対だ!ここに来てIBN5100以外なぞ有り得ん!」
紅莉栖「信じられない…………」
岡部「だが事実だ!やはり俺の力は正しかった!」
紅莉栖「……じゃあついに見つけたのね……」
岡部「あぁ、ついに、俺たちの計画の一歩目が始まった!ようやくスタートできるんだ!」
手を空に伸ばし、高らかに宣言する岡部の右ポケットが揺れる。
携帯の着信バイヴだった。
開くと、一通のメールが着信していた。
差出人:sg-epk@jtk93.x29.jp
件名:なし
本文:ラジ館屋上
岡部は確信した。
これは、この書類は、間違いなくIBN5100の物だ、と。
この場面。このタイミングで、このメールが送られてくる事の意味。
おそらくは、俺の望む人物が、俺の望む物を持って、そこに居る。
岡部はそう胸に秘め、足を進めた。
【土蝉のメッセージコード】 13章 後半 完
疲れたわ。
ちょい休憩する。
てか伸びねぇなw
雑談勿体ない
>>156
どうせ1000まではいかんと思うし、スレが落ちる心配するより保守がてらにダベっててくれよw
たぶんこの勢いなら300までには終わると思う
ほす
【諸行無常のグーゴルプレックス】 14章
数十分後、岡部たちはラジ館屋上についた。
ドアを開けた瞬間からわかっていたが、そこには何もなかった。
紅莉栖「ねぇ、岡部。本当にラジ館でいいの?」
岡部「あぁ。間違いない」
ダル「誰も居ない件について」
岡部「……俺の考えだと、後少しで現れるはずだ」
紅莉栖「……何が?」
岡部「……何というより、人なんだが……、おっ、来るみたいだ……」
言い切る前に、事態は起こった。
岡部達が立っているところから前方に10歩ほど進んだ場所。
ある一点を中心として、半径数メートル程度の空間がゆがむ。
ちょうど蜃気楼のように翳りを見せたそれは、次に光を放ち、姿を見せ始める。
紅莉栖「ちょっちょっ!何!?」
ダル「オカリン!すっごいまぶしいんだけど!」
岡部「…………待ちくたびれたぞ……」
まばゆい光を放っていたその空間は、最後に一際強く光を出し、その姿を完全に現した。
岡部「……ようやく……、また姿を見ることが……できた」
果たしてそこに現れたのは、岡部が待ち望んだ、
まゆりが不可思議な死を遂げてから、いつ出てきてくれるのかと、死ぬほど焦がれた
タイムマシンだった。
期待
プシュー、という音を立てて、タイムマシンのドアが開く。
ゆったりとしながら上部から倒れてくるドアの奥には、真っ白い煙が漂っていた。
果たして、ドアが完全に開き、奥から出てきた人物は。
「ふー……。ついた……のかな?」
岡部「久しぶりだな……。鈴羽……」
紅莉栖「……え?」
ダル「……だれぞ?」
鈴羽「……あれ?……え?何でみんながここに居るの!?」
岡部「メールをもらったんだ……。おそらく、未来の俺から」
鈴羽「……あぁー……、なんとなくわかったよ」
紅莉栖「ちょ、ちょっと!岡部どういうこと!?」
ダル「状況説明キボンヌ!」
岡部「……あー、なんて言えばいいのか……、とりあえずラボに戻るとするか……」
鈴羽「……その方がよさそうだね……」
やれやれ、という仕草を見せつつ、
俺は、内心小躍りしたくなるぐらい興奮していた。
ここに鈴羽が現れた意味。
タイムマシンが完成してるその意味。
そして、何より、未来の俺からメールが届いたその意味。
その全てが
「俺達が将来タイムマシンを作る事に成功した」事を指し示していた。
俺はようやく達成したんだ。
第一の問題にして、最大の難関のIBN5100取得。
ラボに戻り、
円卓を中心に4人が集まる。
鈴羽が、珍しそうにラボを見渡しているが、そんな時間的余裕は俺にはなかった。
岡部「……お前が、この世界に来ているって事は……、俺達はタイムマシンを完成させた……って事でいいんだよな?」
鈴羽「うん。……おじさん達は2036年にタイムマシンを完成させたよ。」
完成させた。
その一言を聞いた瞬間、胸からあふれてくる何かが止まらなかった。
ダル「まじで!?僕達タイムマシン本当に開発しちゃうの!?てかっ普通にスルーしてたけど、あなたは一体誰なん!?」
紅莉栖「そ、そうよ!まず彼女が誰なのかを私達に紹介するところから始めるべき!」
岡部「……あぁ、そうか……お前達は会ったことがないのだったな……、……彼女は…………えっと……」
一瞬口ごもってしまった。
前の世界の話をするべきか。
彼女は、お前の娘だよ。とダルに言ってあげるべきか。
β世界では、俺と一緒にSERNに立ち向かって、無限ループにも付き合ってくれたんだよ。
と、言ってあげるべきなのか。
一通り思案してみて、直ぐに思った。
言うべきではない。
彼女は、未来から来た俺達の協力者。それだけでいい。
不必要な情報は、未来改変につながる。
ここは極力、鈴羽の情報を明かさないで
鈴羽「お父さんの娘だよ」
岡部「うぉおおぃ!」
ダル「……は?」
紅莉栖「…………え?」
鈴羽「だーかーら!お父さんの娘だって!橋田至の娘の橋田鈴羽だよ!」
岡部「ちょちょちょっ!ちょっと待て!大丈夫なのか!?」
鈴羽「なーにが?」
岡部「それを言っても大丈夫なのか!と聞いてるんだ!」
ダル「……ちょ、ちょ……オカリンのそのあわてっぷり…………ひょっとしてmjbn?」
紅莉栖「この慌て様は、マジ話でしょうね……」
、._、..ヽ ,_ _,.,
vX壬ゞ!三ミ彡ヾノ
ソ彡ミ~~ヽ~l`´ソ~リヽ
彡ミ` ー- ― |
ξ` (●)(●)| ,. -──- 、
彳 (__人__)ノ / § ヽ.
.| ` ⌒´ } 、ιゝ|,.<ニ二二二ニ>、|ノν,
.ヽ .} .):::::::/ ─ ─ \::::::ε
ヽ .. ;:.; ,ノ χ::/.―{(●)}-{(●)}―.\::ζ
/ニ=ヽく ,=、 γ|ミ. (__人__) 彡|(
| ´⌒\ |Dr| \. `⌒´ ./
| /|ヽ、二」.⌒) / \
( ^) だから♪
( ) ̄
( | | )
( )|
( | | )
( ^o) 1秒ー♪
 ̄( )
( // )
(o^ ) ごとに~♪
( )ヽ
| |
..三 \ \ V / (o^ ) 三 世界ー♪
三 \ \ V / ( )ヽ 三
三 \ \ | / / / 三
三 ( ^o) \ V // / / 三 線をー♪
三/( ) \ V / (o^/ 三
三 ヽヽ \ | /( / 三
..三/( ) \ V / (o^ ) 三 越ーえてー♪
三 ヽヽ^o) \ V / ( )ヽ 三
三 \ )\ | (o^/ / / 三
鈴羽「大丈夫だよ。だってオカリンおじさん達が言っても良いって言ったんだよ?」
岡部「……な、なんだと……」
鈴羽「その程度じゃ自分達の世界線はズレないからって、」
岡部「そ、そうなのか……」
ダル「ちょちょちょ!僕の娘って話をもっと詳しくキボンヌ!できれば妻と他の子供の話も!」
紅莉栖「た、確かに将来の話は、気になるわね……」
鈴羽「うーん、詳しく話してあげてもいいけど……」
岡部「ダメだダメだ!今は一刻も早く事態を掌握したいんだ!……ダル!お前の奥さんの話は、後で暇なときにしろ!」
ダル「そ、そんな~、オカリン……これマジで生殺しだよ……」
紅莉栖「ち、ちなみに……わ、私の話とかは……?」
岡部「紅莉栖!お前まで!」
鈴羽「………………」
紅莉栖「……な、何かしら……?」
鈴羽「紅莉栖おばさん、改めて思うけど、すっごい美人だね……写真で見るより美人だよ」
紅莉栖「え、えぇっ!?な、な、な、何をいきなり!?」
鈴羽「オカリンおじさんが惚れちゃうのもわかるよー」
紅莉栖「…………え?」
岡部「す、鈴羽!!余計な話はそれぐらいにして、俺の話に答えろ!」
紅莉栖「岡部うるさい。鈴羽さん。詳しく」
岡部「紅莉栖!お前までそっち側に行ってしまったら事態がぐちゃぐちゃになってしまう!」
結局、事態が掌握するまでにかかった時間は、数十分だった。
シュタゲほど二次創作が面白い作品もないな
岡部「…………もういいだろう。鈴羽。そろそろ話に移ってくれないか?」
鈴羽「オカリンおじさんが誰と結婚するかの話?」
紅莉栖「くわしく!………、一応だからね!一応!」
岡部「もういい!、2036年の話を聞かせろ!」
鈴羽「2036年の話か、…………何から聞きたい?」
岡部「本題からだ。…………お前は何故ここに来た?」
鈴羽「……それは一番答えにくい……かな」
岡部「……答えにくい?…………どういうことだ?」
鈴羽「うーん、……なんて言えばいいのか……、おじさんを救うためって言えばいいのか…………まゆりおばさんを救うためって言えばいいのか……」
岡部「ま、まゆりを救うだと!、や、やはり救えるのか!?そのためにお前が来たのだな!?」
この話まとまるものとして期待
鈴羽「ちょ、ちょっと!おじさん!おちついて!」
岡部「ま、まゆりの死因はなんだったのだ!?アトラクターフィールドの収束は関係あるのか?!」
紅莉栖「岡部っ!落ち着け!」
慌てて立ち上がる俺を制するように、紅莉栖が隣に来る。
紅莉栖「……あんたが慌てちゃだめでしょ……」
岡部「…………あぁ……」
紅莉栖「あんたは私達の……ボスなんだから、もっと冷静になって……」
岡部「……すまなかった」
鈴羽「続き、話してもいい?」
岡部「話してくれ」
鈴羽「わかった。…………まず最初に、おじさんが一番知りたがってる事から言うね」
岡部「……あぁ」
鈴羽「まゆりおばさんは、アトラクターフィールドの収束によって死んだ」
岡部「……っ!」
紅莉栖「…………予想……通りね」
鈴羽「おばさんが死ななきゃいけなくなった原因は」
岡部「…………俺の死……か?」
鈴羽「……そう。…………2000年のオカリンおじさんの問題で、だよ」
岡部「……やはり……そうか……」
紅莉栖「ちょ、ちょっと待って!って事はやっぱり、岡部は2000年時点で死ぬ予定だったの?」
鈴羽「うん。……おじさんは、間違いなく1999年から2000年にかけての一ヶ月で死ぬ予定だった」
紅莉栖「…………」
鈴羽「でもそれを改変した人が居たんだ。」
岡部「……それがまゆり……か」
鈴羽「…………さすがおじさん達だね。……説明する前からわかってたみたい」
鈴羽「おじさんはそこで死ぬはずだったんだけど、まゆりおばさんが救った」
岡部「……ちなみに、俺の死因はなんだったんだ?」
鈴羽「……それを説明するのも……なんというか、難しいというか……」
岡部「……わかった。…………お前の好きな順序で説明してくれ」
鈴羽「…………うん。」
鈴羽「……えっと……それじゃ……何から言おうかな……」
岡部「………………」
紅莉栖「………………」
ダル「………………」
鈴羽「……とりあえずね。…………まゆりおばさんはリーディングシュタイナーを持っているんだよ。オカリンおじさんよりも強力な」
岡部「………………は?」
紅莉栖「………………は?」
ダル「………………は?」
岡部「……詳しく聞こうか……」
鈴羽「そもそもね。おじさんの力って、完全じゃない……らしいよ。」
岡部「……俺の力が……完全じゃない?」
紅莉栖「それってどういうことかしら?」
鈴羽「オカリンおじさんの力って、世界線移行する際に、記憶を保持したまま、移動ができるって物だよね?」
岡部「……あぁ、他の人物は、世界線移行に伴い、記憶もその世界の物に改変される。俺にはその制約がない。」
紅莉栖「……よくよく考えてみると、たいしたチートぶりよね……」
鈴羽「オカリンおじさんは、世界線移行前の記憶を保持したまま改変後の世界にいけるだけでしょ?」
岡部「……どういう意味だ?」
鈴羽「まゆりおばさんは、改変後の世界の記憶も得る事ができるの」
岡部「…………は?」
鈴羽「だから、まゆりおばさんは、世界線を移行すると、その世界での記憶も前の記憶も両方保つ事ができるって事」
紅莉栖「…………つまり、二度分の人生の記憶があるってこと……?」
鈴羽「まぁ、簡単に言うとそうだね」
岡部「…………信じられん」
鈴羽「だから、まゆりおばさんが世界線を移行するたびに記憶はどんどん溜まっていく」
岡部「……そんなの……脳の機能に障害が起こるに決まってるではないか……」
鈴羽「そうだね。…………だからこそオカリンおじさんは2000年に死んだわけだし」
岡部「……っ!?」
オカリンのリーディングシュタイナーのデメリットがないバージョンか
オカリンおじさんって原作の呼び方?
鈴羽は全員フルネーム呼びじゃなかった?
紅莉栖「ちょ、ちょっと!それってどういう意味!?」
鈴羽「おじさんのリーディングシュタイナーって、元々は完全だったらしいんだよ。」
岡部「……俺もまゆりと一緒の……?」
鈴羽「うん。でもさっき言った通り、普通の人間には、その力に耐えられない。必ず死ぬ」
岡部「ひょっとして、2000年の俺が救われたのは……」
鈴羽「そう。その力に制限をかけた人が居たから」
紅莉栖「……それが……まゆりなの?」
鈴羽「そうだよ」
岡部「ま、待て!お前の話からすると、まゆりも生きてちゃおかしい事になるぞ!」
紅莉栖「そ、そうよ。岡部が死ぬのならまゆりも死んでないといけないはずでしょ?」
鈴羽「うーん…………、そこらへんは詳しくはわからないんだけど、簡単に言っちゃうと、まゆりおばさんは生き残っちゃったわけ」
岡部「…………無理やりだな……」
紅莉栖「……ま、まぁ死ぬ人と死なない人が居るってわけね……それで?」
鈴羽「まゆりおばさんが能力に目覚めたのは、2004年の終わりごろらしい」
岡部「……2004年だと……、それは……まさか祖母が死んだ年か……?」
鈴羽「……うん。……直接関係があるのか、わからないけど、とにもかくにもその時に力に目覚めた」
紅莉栖「ちょ、ちょっと待って……、じゃあまゆりが、失声症になったのって……」
鈴羽「そうだよ。その時まゆりは能力に目覚めて、死ぬかどうかの瀬戸際だった」
岡部「ま、待て待て!……おかしいぞ!あの時まゆりは普通に外出できるほどには元気だったぞ?」
鈴羽「オカリンおじさんは寝込んだまま動けなかったんだよね?」
岡部「あ、あぁ……熱が出て死にそうだった」
鈴羽「まゆりおばさんは、感情を失うところだった」
岡部「…………どういう意味だ」
鈴羽「要は人それぞれ、危篤の状態は違うって事だよ。身体的病気とは違うんだ。脳の、いわば未開発領域の問題だからね」
紅莉栖「つまり、リーディングシュタイナーは、脳のどこかにその力の領域があるのね?」
脳科学専攻の助手が輝きだした。
鈴羽「で、簡単に言うと、何日か峠を彷徨ったまゆりおばさんは、何とか自我を保つ事ができた」
岡部「…………」
鈴羽「それだけじゃない。さらに面白い事も起こった」
紅莉栖「……面白いこと?」
鈴羽「これはたぶん……リーディングシュタイナーの本質というか、真に能力と呼べる物なのだと思うけど」
岡部「……真のリーディングシュタイナー……」
鈴羽「まゆりおばさんは、あらゆる世界線を観測できるようになった」
紅莉栖「……つまり、…………どういうこと……?」
岡部「……お前の説明はいちいち大雑把すぎる……」
鈴羽「だーかーら!まゆりおばさんは、他世界線上の自分とリンクすることができるってこと!」
岡部「……それは俺も同じなのではないか……?」
鈴羽「全然違うよ。……おじさんは、今私の目の前に居る、この岡部倫太郎が唯一無二の存在でしょ?」
岡部「……当たり前だろう」
鈴羽「まゆりおばさんは違う。おばさんは、どの世界の自分とも記憶を共有する事ができる」
紅莉栖「…………ちょ、ちょっと待ってよ…………それってつまり……」
鈴羽「うん。……おばさんはタイムリープして、その世界線を経験しなくても、その世界線上の知識が手に入る」
俺は言葉を失ってしまった。
鈴羽のいう事を整理して考えてみると、それはつまり。
まゆりが存在している世界線上なら、どんな突拍子のない世界でも、その記憶を好きに共有できるという事だ。
ちょっと待ってくれ。
自分が存在している世界なら、どんな世界でも……だと?
たとえるなら、まゆりが80歳まで生きるとしよう。
いや、より正確に言うなら、80歳まで生きる世界があるとしよう。
まゆりは、そのどの年齢の記憶も好きに共有できるという事だ。
言っておくが、59歳のいついつの記憶なんて、簡単な話じゃない。
その全ての世界に、数十億の人間の、数百の国の、また数え切れない要素が絡んで、世界は分岐する。
史上最大量の知識を得たってすごいな
まゆりは天然アホの子なんかじゃなかった
それは、一体どんな量だ?
それは、一体どんな数なんだ?
今現在から、60年後までに、世界がどれだけ分岐すると思っているんだ?
その数は、もはや人間が数える為に作った単位を遥かに超越するだろう。
その全ての記憶が、一人間の頭にぶち込まれる。
なるほど。
俺が死ぬ理由も理解できた。
鈴羽「おばさんは、一旦力に目覚めると、その力を制御する事に成功した」
紅莉栖「要するに、死に掛かっていたのは、その他世界の記憶を得る力にでなく、その得る量に制限が効かなかったから、だと?」
鈴羽「そう。おばさんは、自分で世界の記憶を取捨選択できるようになった。つまり望む世界線の記憶だけ得られるようになったんだ」
紅莉栖「な、なんというか……もう無双状態ね……」
ダル「ヘヴン状態もいいところだお……」
オカリンはPCでたとえるとオーバーヒートして熱でて
まゆしぃは処理落ちみたいなもんかな?>>225
鈴羽「で、ここからが重要なんだけど、まゆりおばさんが力に目覚めた初めての……、って何か言葉がおかしい気がするけども……」
ごにょごにょと鈴羽が口ごもる。
鈴羽「つまり能力に目覚めたのは、オカリンおじさんが死んだ世界で、だった」
紅莉栖「それはつまり……、まゆりが岡部を助けないA世界でって事ね……」
鈴羽「……A世界?……助けなかった世界の事?」
岡部「そうだ。俺と紅莉栖の間では、俺が死んだ世界をA世界。俺が生き残る世界をB世界。そして今居るこの世界をシュタインズゲートと呼んでいる」
鈴羽「シュタインズゲート……か、…………えっと、どこまで話したっけ……。」
紅莉栖「まゆりが覚醒して、からね」
鈴羽「そうそう。おばさんが覚醒した後、まず取った行動は、オカリンおじさんが死なない世界線の検索だった」
岡部「……俺が死なない世界の……検索?」
鈴羽「そう。おばさんは、オカリンおじさんを救える世界線を必死で探した。これから死ぬ人を事前に助ける事は、覚醒したおばさんには余裕だった」
「まゆりおばさんは、もう一人じゃない。どの世界のおばさんもどの世界の自分と共有できるんだから、もう一固体のアイデンティティは必要なかった」
「例えばD世界の24歳のおばさんが、一番望む世界線上に居るなら、そのおばさんがオリジナルになればいい」
「同じ様に、誰かに生きていてほしいなら、その人が生きている世界線上に居るおばさんが、オリジナルになればいい」
「でも、それじゃおじさんを救えない。覚醒前にだけは、どうやってもいけないんだ」
「まゆりおばさんは、どうしてもおじさんを助ける事はできなかった」
何故なら、俺が死んだのは2000年で、まゆりが力に覚醒するのは2004年だからだ。
どうしても、2000年のまゆりは、他世界の記憶を共有する事ができないまゆりは、オリジナルにはなれなかった。
人格めちゃくちゃになりそう
鈴羽「おばさんは落胆……という言葉じゃ、足りないくらいに、意気消沈した。どの世界を見ても、おじさんを助ける事ができなかったから」
紅莉栖「………………」
鈴羽「でも、おばさんは諦めなかった。今、過去がダメなら、未来の世界を、と検索をかけた。」
「あらゆる世界を検索した。それこそ気が遠くなるほど。常人なら気が狂っているほどに」
「そうして何年……、いやおばさんには時間の概念はないんだけど……」
「どれくらいの時間を費やしたのか……、おばさんはついに見つけた」
「オカリンおじさんが生きている、奇跡の様な世界を。」
紅莉栖「ど、どうやって見つけたの……?……ありえないでしょ……もう死んでるんだから……」
鈴羽「まゆりおばさんは……、タイムマシンが開発された世界線を見つけた」
紅莉栖「……あっ!……そうか……その手が……」
岡部「……なるほど…………確かにタイムマシンが開発される世界ならば…………俺を救うことも…………」
鈴羽「……簡単に言ってるけど、これは半端じゃないほどのウルトラCだった」
岡部「……どうしてだ?」
紅莉栖「というより、タイムマシンが開発される世界なら、簡単に見つけられると思うのだけど……」
鈴羽「制限を忘れてない?……おばさんが見れるのは、おばさんが生きている世界線だけだよ」
岡部「…………?それがなんだ?」
紅莉栖「…………っ!…………も、もしかして……」
鈴羽「……やっぱり紅莉栖おばさんは頭が良いよ……本当に天才なんだと思う……」
岡部「どういうことだ!ちゃんと説明してくれ!」
紅莉栖「つまり…………まゆりが生きている時代に、タイムマシンは…………開発されない……って事……?」
鈴羽「正解だよ。さすが紅莉栖おばさん。」
岡部「ちょ、ちょっと待ってくれ!俺はSERNがタイムマシンを開発した世界を知っているし、俺達が作った世界も知っている」
現にお前も、今そこにいるではないか!
俺は、たまらず立ち上がり、鈴羽に向かって指を刺す。
鈴羽「……ねぇ、本当にSERNがタイムマシンを開発できると思う?」
岡部「…………どういう意味だ?」
鈴羽「言い方が違ったかな……、本当にSERNが数十年足らずで、タイムマシンを発明できると思う?」
岡部「……そ、それは…………」
素直にYESと言えない問いだった。
タイムトラベルは、あのSERNが何十年も前から組織的にやっている実験だ。
試行錯誤を繰り返し、トライアンドエラーで成果を積み上げてきた。
その数十年の努力の結晶があのゼリーマンだ。
どう考えても、あと10や20年足らずで人を自由自在にタイムトラベルさせることができるようになるとは思えなかった。
岡部「だ、だが現にSERNはタイムマシンを開発して…………俺達だって、リープマシンを作る事に成功して………………」
そこまで言って気づいた。
【リープマシンを作る事に成功して?】
何か違和感を感じる。
何だ、この感じは。
途轍もない、お釈迦さまの手の上で踊らされているような。
何者かの意思に突き動かされているような。
そんな圧倒的気持ち悪さを感じた。
なんだ。一体なんなんだ。
鈴羽「気づいた?」
岡部「………………」
鈴羽「おじさん達が、リープマシンを作ったときの事……思い出して……」
世界がぐにゃりと、音を立てて曲がる。
吐き気を催すほどの圧倒的不快感。
今すぐにでも、トイレに駆け込んで吐きたい。
そんな俺を前に、鈴羽は容赦なく『真実』を告げる。
残酷に。無慈悲に。
そして、何より俺を思って。
鈴羽「……………本当に『最初』からタイムリープマシンを作る気だった?」
この一言を聞いた途端。
何かが俺の中ではじけた。
最初から違和感は有った。
都合よくまゆりが電子レンジをほしがり。
都合よくその電子レンジがリープマシンになり。
都合よく借りたラボの下のブラウン管がリフターになり。
都合よくラボの回線上とSERNの回線が直結しており。
そして、都合よく。
【紅莉栖と出会えた】
鈴羽「…………その全ては、まゆりおばさんが手を下して、世界改変を行った結果だよ」
岡部「……あ、あ、……あぁぁ…………」
鈴羽「……ショックだよね…………ごめんね。こんな話して…………」
紅莉栖「…………お、岡部…………」
俺は、膝をついて、顔を伏せ、泣きはらしたい思いでいっぱいだった。
こんな事ってあるか。
俺が、生きてきた人生。
自分で、自分の意思で、自分の力で、今の自分が居る。
そして、過去、まゆりを救うために、体感時間で何年も費やした、あの出来事が。
全て、他人の意思によるものだったのだ。
こんな事ってないだろ。
「う、……ぐ、……うぐっ…………っ…………」
紅莉栖「お、岡部…………しっかり…………」
鈴羽「…………本当にごめん。…………できることなら、伝えたくなかった。……あたしも…………おばさんも」
ダメだ。
このままじゃ『俺』は壊れてしまう。
自我が保てない。
だめじゃ
「あ、……がぁっ…………あぁがぁあ!!あああぁぁぁぁああぁっ!!!」
気を失います
【諸行無常のグーゴルプレックス】 14章 完
疲れた。休憩。
てか本格的に腕が痛いんだが……、これはまさか腱鞘炎って奴か。
タイムリープして、スレ立てを止めさせねぇとな。
原作者じゃないから微妙だけど、
何かあったら質問に答えていくよ。
>>240
そうだね。
実に上手い説明だと思うよ。
>>268
他にもシュタゲSS書いてる?
>>203
まとまる……というのは、主観の問題であり、俺が纏まっていると判断するものを、あんたが纏まっていないと……(ry
つまり期待してくれってことだよ。
>>219
この世界線上では、SERNが岡部達に気づかない。
だから、橋田も離婚する必要がなく、隠居する意味もない。
だから普通にオカリンとも接点がある。
>>232
演技です。
あれは演技なのです。
本当は神です。
超越者なのです。
>>271
シュタゲSSはコレが始めて。
他のSSは、まどかとけいおんと、あと最近書いたのがヒカルの後って奴だな。
まゆしぃはタイムリープマシンを岡部達が作るよう自身が誘導した世界線を観測したってことでおk?
>>275
勝ちました?
>>279
微妙に違う。
世界線を観測するって行為はただ『見る』だけじゃない。
例えば、ある世界を観測する。
「俺が普通にPCで19時からクッソ無駄な時間を使ってる世界だ」
この世界は、さまざまな世界に分岐している。
例えば、俺が20時で書くのを止める世界。
21時で止める世界。
その分岐は限りないほど多い。
そしてまゆりは、その分岐を一つずつしらみつぶしに探していくんだ。
それこそ数え切れないほどトライアンドエラーを繰り返して。
そうして一歩、一歩と、改変した後の世界をまた観測して、さらに改変してを繰り返して、原作のリープマシーンが完成される世界をようやく見つけた。
>>280
知ってる奴が居るとは驚きものの木
ちょうど14章の終わりのレスから一時間経ったところで書き始めるわ。
俺が目覚めたのは、それから数時間経った後だった。
気づくと、俺はソファーに寝ており、横には、深刻な面持ちをした助手と鈴羽が座っていた。
ダルは……まぁいいや。
紅莉栖「……あっ…………岡部…………気づいた?」
岡部「…………あ、……あぁ……」
鈴羽「………………」
鈴羽がなきそうな顔でこちらを見ていた。
そんな顔しないでほしい。
お前が悪いわけじゃないのに。
岡部「…………すまなかった……鈴羽」
鈴羽「…………え…………?」
岡部「……お前に、こんな辛い事をいわせる役目を負わせて…………」
鈴羽「……そ、そんなこと!…………こんなの……おじさんの苦しみに比べれば…………」
俺はソファから身体を起こし、頭を触ってみる。
うん。
まだ混乱は残ってるけど、
もう大丈夫だ。
もう、気持ちの整理はついた。
支援
岡部「…………思えば…………俺はずっと加害者だったんだな……」
紅莉栖「…………え……?」
岡部「過去の世界で…………俺はお前達に…………今の俺と同じ様な事を味合わせてきたんだ……」
紅莉栖「……で、でも……それは……」
岡部「いや、…………同じ事だ。…………俺はあの世界の、……唯一無二のお前達を……自分の都合で作ったり、消したりしたんだ」
紅莉栖「…………岡部…………」
岡部「だから、今俺が味わっているのは…………罪滅ぼしのようなものなんだ…………」
鈴羽「…………おじさん…………」
岡部「……鈴羽…………だから自分を責めるのはもう止めてくれ」
鈴羽「…………うん…………わかった。…………もう逃げないよ」
岡部「…………よし。………さぁ!円卓会議の続きを始めようではないか!」
俺は、唐突にソファから飛び上がると、そう高らかに叫んだ。
紅莉栖「…………あ、久しぶりの鳳凰院凶真…………」
鈴羽「……ぷっ……、あっはっはっは!…………そのネタ、もうこの時からやってたんだ!あっはっは!」
紅莉栖「……えっ……?…………ちょ、ちょっと……もしかして未来でも……?」
鈴羽「うん!オカリンおじさんの18番だよ!」
紅莉栖「や、やめて!…………岡部!そのネタはもう今日で封印して!」
そうして俺達の円卓会議は再開した。
鈴羽「さて、………………どこまで話したっけ?」
紅莉栖「まゆりが、岡部が生きている世界線を見つけたところまでよ」
鈴羽「そうだったそうだった。…………えっと、そう。おばさんが見つけた世界線、……これをB世界……?だっけ?」
紅莉栖「まぁ私達が便宜上つけただけだけどね」
鈴羽「そのB世界を見つけた時のおばさんの喜びようはなかった。」
「歓喜なんて言葉じゃ補えないくらいの喜びだった」
「それはそうだよ。体感時間ではもう悠久と言ってもいいほどに年が経っているんだから」
「砂漠に落とした一粒のビーズを見つけたぐらいって言えば一番わかりやすいのかな」
だけど、喜んだ分、悲しみはそれ以上だった。
鈴羽「その世界では、抗いようの無い事態が待っていた」
岡部「…………SERNがタイムマシンを開発してしまう…………のだな……?」
鈴羽「そう。当たり前だよね。そのSERNが開発したタイムマシンによって、おじさんを助けに行くんだから」
紅莉栖「……そうね」
鈴羽「まゆりおばさんは、その開発したタイムマシンに載っておじさんを助けに行く世界を観測してみた」
「容易におじさんを助ける事はできた。なんたって今のまゆりおばさんはプロのリーディングシュタイナーだからね」
「でもその後が、大変だった。」
「おじさんを助けるためにSERNがタイムマシンを開発する世界線上を軸に世界を観測しているからか」
「どんなルートを辿っても、ディストピアが形成されてしまう」
「おばさんは困惑した。どんな世界をのぞいても、どんな世界を調べても、その全てがディストピアにつながるのだから」
当然だ。
SERNがタイムマシンを開発している世界線上なら、どんなイレギュラーがあったとしても、ディストピアが生まれてしまう。
鈴羽「それでもおばさんは諦めなかった」
「観測を止めなかった」
「その結果、あるひとつの奇策が生まれた」
「それは、SERNが作ったタイムマシンでおじさんを助けた後に、SERNではなく、別人にタイムマシンを作ってもらうという物だった」
紅莉栖「ちょ、ちょっと待って!そんな事して何の意味があるの?」
鈴羽「別人がタイムマシンを作れば、そのタイムマシンに載ってオカリンおじさんを助けに行く事ができる」
紅莉栖「それは答えになっていないわ。SERNがタイムマシンを開発してしまう世界線上なら、どっちにしろディストピアが形成されるでしょ?」
支援
鈴羽「だから、別人にタイムマシンを作らせた後に、SERNがタイムマシンを作らない世界を観測すればいい」
紅莉栖「い、意味がわからないわ…………それじゃ矛盾が生じるでしょ……?」
鈴羽「いいや、起こらないよ。SERNのタイムマシンが他人のタイムマシンに変わるだけだから」
紅莉栖「ま、まゆりはSERNのタイムマシンでタイムトラベルするんでしょ……?なら制限がかかって他人のタイムマシンじゃ記憶が………………あ、……」
鈴羽「……そうなんだ。…………まゆりおばさんだけは、収束に当てはまらないで、時間改変ができる」
紅莉栖「ていうか……そもそも、他人がタイムマシンを作れるのなら…………SERNがタイムマシンを開発した世界でなく、その人が開発した世界に行けば良いんじゃ……」
鈴羽「……それは絶対に無理だよ。」
紅莉栖「な、なんで?実際に作っているんだから、観測すれば………………っ!」
鈴羽「本当に察しが良い人と話してると楽だね。実感するよ」
岡部「…………どういうことだ?」
紅莉栖「…………岡部なの……?」
鈴羽「……正確に言えば違うけど…………、うん。……そう、オカリンおじさんの生存が、タイムマシン開発の鍵だった」
紅莉栖「…………なるほど…………通りでSERNのタイムマシンを利用して、岡部を助けなきゃ、新たなマシンができない……」
鈴羽「……ここからが重要だよ……」
「ようやくSERN以外のタイムマシンを観測できたまゆりおばさんは、今度は如何にしてディストピアが形成されない世界に到達できるのかを探し始めた」
「これこそが、たぶん、おばさんの世界観測史上、最も時間のかかった作業だと思う」
「まず、第一条件は、おじさんがタイムマシンを開発できる環境に居る事」
「この条件は、比較的容易だった。特定のラボに、特定の機材と特定の人材を容易した世界を観測すればいい」
「その仮定の中で、第二条件が生まれた。」
「それは、牧瀬紅莉栖が父親に殺されない事。」
「後で言うけど、これが最難関だった。……その理由は…………おじさんならわかるよね?」
あぁもちろんだ。
俺が何年費やしたと思っている。
鈴羽の話は、まだまだ続く。
鈴羽「そして第三条件、世界戦争が起きない様、タイムトラベル論文を流出しない事。」
「これは第二条件とリンクしているから割合するよ」
「次に第四条件、これは少し特殊なんだけど、牧瀬紅莉栖が岡部に好感を抱きつつ、タイムトラベルの危険性を認識する事」
紅莉栖「ふぉぉおい!余計な事は言わんでいいぞ!」
岡部「……紅莉栖……今はまじめな話をしてるんだ……少し黙ってくれ」
紅莉栖「……あ、……ご、ごめんなさい…………」
岡部「で、鈴羽……、その条件がクリアしてるという事は、今この牧瀬紅莉栖は俺に好感を持っているのか?」
鈴羽「もちのろんだよ。今すぐ結婚できるほどに」
紅莉栖「shut up!」
鈴羽「そして第五条件、SERNにタイムマシン開発を悟られない事」
「これはもう言わなくても理由はわかるよね?」
「この条件が意外に難しかった。何故なら、IBN5100が必要だから。」
「これは後の条件と重なるんだけど、タイムマシンが存在しない世界線上でこの条件をクリアするのは至難だった」
「何故なら、いくらまゆりおばさんが神に等しいと言っても、IBN5100はもう既に存在しないから」
紅莉栖「IBN5100がもう存在しない……?」
鈴羽「そう。おじさん達もがんばって探したらしいけど、無駄だったみたいだね。もうこの地球上にIBN5100は存在しない」
「あるとしても、それは機能しないか、内部的要素が完全に書き換えられたものだよ」
「おばさんは困った。SERNに全てのIBN5100を壊される前に、なんとか入手しないといけないのに、おばさんは2004年以前にいけない」
「こんなところでも、この制約はキバを向いた」
「おばさんは真剣に考えた。考え抜いた。そして見つけた。自分だけに仕える奇策を」
岡部「……タイムマシンが存在してある世界に行き、IBN5100を分析した…………のだな……?」
鈴羽「そう。これで第五条件がクリアできた」
「そして第六条件。…………SERNがタイムマシンを開発しない事。…………これはシュタインズゲートに到達……と言い換えても正しいかな」
シュタインズゲートの到達。
これは言い換えれば、俺、まゆり、紅莉栖の三名全員が生存しており、
かつ、SERNがタイムマシンを開発する事なく、ディストピアが形成されることもなく、世界大戦も起こらない。
そんな夢の様な世界線のことである。
鈴羽「でも、この条件を考えたとき、初めて矛盾が生まれる」
紅莉栖「タイムマシンが開発されない…………のね?」
寝落ちか?
ほ
鈴羽「そう。シュタインズゲートでは、紅莉栖おばさんがオカリンおじさんとタイムリープマシンを製作する時間が存在しない」
「ゆえに、リープマシンも、タイムマシンも、両方製作される事の無い世界だ」
「だからこそ、矛盾する。…………オカリンおじさんが生きている事に」
紅莉栖「…………なるほど…………、確かにこの世界線上で、岡部が生きているのはおかしいわ」
鈴羽「うん。誰も岡部おじさんを助けに行く事ができないからね。私も、紅莉栖おばさんも、そしてまゆりおばさんも」
紅莉栖「なのに、岡部はこうして生存して、……世界をシュタインズゲートに移行させた。タイムリープマシンもタイムマシンも開発させることなく」
鈴羽「普通なら、矛盾が生じて、おじさんは生きていられないはずだよね?」
岡部「……あぁ、俺は死んでいるからな。」
鈴羽「でもおばさんは諦めなかった。今までも同じ様な困難にぶつかって来て、何度もウルトラCで乗り切った」
「諦めなければ道は開く。利用できるものは何でも利用した」
「そのおばさんが、最後の最後に、とんでもない物を利用した」
岡部「……いったい……なんだと言うのだ…………」
紅莉栖「…………まさか…………」
鈴羽「そう。…………おばさんは、自分の死を利用した」
岡部「……何度も悪いが…………意味がわからない……」
鈴羽「よく考えて。おじさん。…………現在この世界線上では、まゆりおばさんは生きていない。」
「なら、誰が2000年のおじさんを助けに行くの?」
岡部「……そ、それは…………だから、タイムマシンが開発されていないこの世界線上では……、俺を助ける事は絶対に……」
鈴羽「何でタイムマシンが開発されないの?」
岡部「何故って、それは、リープマシンが作成されることが…………っ!」
鈴羽「作ってるじゃん。今、この瞬間。おじさん達が。」
岡部「ま、待て…………頭が混乱する…………って事は何か…………?…………俺にタイムマシンを作らせるため……それだけの為にまゆりは死んだ……って言うのか?」
鈴羽「正確に言うと違う。…………でも大まかに言えば合ってるよ」
紅莉栖「…………一つ、いいかしら……?」
鈴羽「……いいよ」
紅莉栖「岡部自身がタイムマシンを開発するのは、矛盾が生じないかしら?」
鈴羽「そう。死ぬはずのおじさんを助けるためのタイムマシンをおじさんが作る事はできない。」
「でも他人ならそれができる」
紅莉栖「…………はぁ…………わかったわ。理解した………………私なのね?」
鈴羽「そうだよ。…………紅莉栖おばさんがタイムマシンを作るんだ」
紅莉栖「ちょっと待って……、その理論で言うと、リープマシンは岡部が作ってるんだから、私が完成させても矛盾が生じない?」
鈴羽「……これは…………その何ていうか…………オカリンおじさんに悪いんだけど……」
岡部「……ん?…………どうした?」
鈴羽「実は、タイムマシン発明に……おじさんが関与している部分って…………ほぼ0なんだよね……」
岡部「……な、なに!?」
紅莉栖「…………ぷっ!」
紅莉栖は、たまらず噴出してしまった。
シリアスな場面だと言うのに、なんと締まらない奴なのだ。
鈴羽「考えてみて、……紅莉栖おばさんが作成したタイムトラベル論文って、おじさんが1%でも関与してた?」
紅莉栖「…………確かに……、あれは岡部と知り合う前に書いた論文だから…………」
鈴羽「これで矛盾は解消された」
紅莉栖「ま、待って!まだ、まだまだ矛盾はあるわ!」
鈴羽「うーん……、これ以上突っ込まれても面倒くさいんだけどなぁ……」
紅莉栖「そ、そもそもまゆりが死んだ今!誰が岡部を助けに行くの!?まだ2000年の岡部は助かってないはずよ!」
鈴羽「もう薄々わかってるでしょ?……紅莉栖おばさんだよ」
紅莉栖「ちょ、それこそ矛盾が生じるわ!私はその時代の岡部を救えない!救い方を知らない!」
鈴羽「いいや、知ってるはずだよ。」
紅莉栖「なんでそんな事言えるの!?」
鈴羽「まゆりおばさんが、そうなるように布石を打っているから」
紅莉栖「……ふ、布石…………?」
鈴羽「例えば…………、おじさんがIBN5100の規則書を見つけた時、どうやったの?」
岡部「……あ、あれは……確か俺の中の記憶が………………っ……」
紅莉栖「……まさか…………」
鈴羽「そう。あれも全部まゆりおばさんの力」
紅莉栖「た、他人にまで彼女の力は及ぶわけ!?」
鈴羽「簡単に言うけど、直接的に脳に記憶を与えてるわけじゃない」
「彼女は、彼女の望む世界を観測した後、その世界をできるだけ他の世界でも再現しただけ」
岡部「…………さ、再現だと……?」
鈴羽「再現することで、望む世界線を多く作った。」
「そうすることによって、彼女は、彼女の望む世界線を、他の世界線より、他人の脳にほんのわずかに印象深くさせることに成功したんだ」
岡部「それに何の意味が………」
鈴羽「人は誰しもが、リーディングシュタイナーの能力を潜在的に持つ」
紅莉栖「……つまり、望む人物に、印象深く特定の世界線を刷り込むって……ことね」
鈴羽「そういう事」
紅莉栖「…………って事は……何かしら…………、私は2000年の岡部を救う方法を知っている……という事かしら……?」
鈴羽「そうなってくるね。ただ、今はまだ知らないと思うよ?その時になって、初めてリーディングシュタイナーが発動するようになってると思うから」
紅莉栖「…………なんだか、いろいろ煙にまかれたようにしか思えないわ…………」
鈴羽「でも、矛盾はないでしょう?」
紅莉栖「ちなみに聞いておくけど、岡部が存在しないなら、私が岡部を助けに行く理由にならないけど……?」
鈴羽「それを聞く?………今説明したばかりだよ?」
紅莉栖「…………矛盾もまゆりの力にかかれば形無しってわけね……」
鈴羽「さて、残す話はあと一つだね。」
岡部「ひとつ?」
鈴羽「オカリンおじさんは、紅莉栖おばさんが助けに行くとして、残ったのはまゆりおばさんだけだよ」
岡部「そ、そうだ!あいつの超人っぷりにすっかり忘れていたが、そもそもの目的があいつを救出することではないか!」
紅莉栖「そういえばそうだった…………自殺みたいな事をしてたからすっかり忘れていたわ……」
岡部「あ、あるのか!?あいつを救う方法が!」
鈴羽「それは私からは言えない。」
岡部「……ど、どういうことだ!?」
鈴羽「…………携帯。…………携帯に着信が着てない?」
岡部「け、携帯だと……?」
俺はズボン右ポケットに入れたままだった携帯を取り出して、画面を見る。
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本文:なし
『よう。俺
ていうのは相変わらず慣れない物だな。
まぁ慣れようとするこの環境がおかしいんだがな。
さて、今回で二回目か?俺からメールを送るのは。
つっても、俺の記憶上じゃ、これが始めてなんだがな。
まぁ察しの悪いお前でも、俺からのメールと来れば何の事かはもうわかるだろ?
あぁそうだ。…………まゆりだ。』
『まゆりを助けるためにいろんなことをしたよな。
α世界線、β世界線、そしてシュタインズゲート。
まだお前は、まゆりがこの世界を作り出したことに対して、困惑を隠せないかもしれない。
まぁでもなんだ。
女の子に、ここまでしてもらうってのも、男冥利に尽きる。
そうは思わないか?』
『おそらくまゆりは、永遠と呼んでも間違いないほどの時間を俺達の為に使ってくれたんだ。
なら、今度は、お前が助けに行く番。
そういう物だろ?
あぁ、なに今回は、前回みたいに痛い思いはしなくていい。
お前がただ、まゆりにもう一度会いたいと、そう思えば全てが上手くいく。
その点は心配…………いらねぇよな。
だって。
俺は、お前で。
お前は、俺なんだから。』
『じゃあ最後に助ける方法を説明するぞ?
って言っても、方法は使い古された物って言ってもおかしくないのか?
こんな事言ってる時点で、もう既にネタバレなんだけどな。
あぁ、もったいぶっちまったな。
そんなつもりはねぇんだ。今言うよ。
さぁ。
自分をもう一度騙しに行こうぜ。』
俺は。
携帯を閉じて。
空を見上げて。
笑った。
『あ、それとな、救急救命士に変装するときな、マスクつけていけよ?
流石に、マスク無しだと、アホな俺でも気づくぞ?
あ、後親御さんに事情を説明するのを忘れるな?結構手間取るぞ。あれ。
っと、長くなっちまったな。こんなに話すつもりはなかったんだが。
まぁ何だ。
最後は、やっぱりアレで閉めるか?
アレってなんだよって寒い事言うなよ?
いいか?
準備はできたか?いくぞ?』
俺は、携帯を握った手を高らかに掲げ
そして空を見上げて、言った。
「『エル・プサイ・コングルゥ』」
こんな言葉に意味など無い。
だが、物事の全てには意味がある。
『そういうものだろ?』
「そういうものだ」
俺は、空を見上げて、
これからすべき事を想像して、
その面倒くささに苦笑しながら、
まゆりに早く会おうと、そう思った。
【真シュタインズゲート 到達】
完
乙!
本編やってないけど面白かった乙です
やってたらもっと楽しめたのかな
>>336
そりゃもったいない!
損してるよ!
いや、このSSじゃなくて、本編をやってない事が。
あんなに面白くて、興奮するものないって言うのに!
いや、このSSじゃなくて、本編をやってない事が。
さぁ今すぐ見るんだ!
いや、このSSじゃなくて、本編を(ry
>>1乙
かなり楽しめたし完成度も高いし非常に良かった
最後駆け足だった印象はあるけど
>>338
うむ。
最後はもう少し、ゆっくりやろうと思ったんだけど、仕事の時間での。
本当は、過去おかりん救出場面と
まゆり救出場面をやるつもりだったんだが、サルと忍法のせいで。
完成させるために●まで買っちまったよ……、何してんだ俺……
TIPS No.1
『対面の価値』
「それじゃあ!お父さん!ご同行お願いできますか!?」
まゆり父「は、はい!わかりました!」
「奥さんと、彼氏さんは、ご自宅の方で待機をお願いします!」
まゆり母「……は、はい……」
岡部「……わ、わかりました……」
「よし!OKだ!発進して大丈夫だ!」
そういうと、まゆりを載せた救急車がまゆり家の前から姿を消した。
「もう大丈夫?」
「あ、あぁ……もう姿は見えないから……大丈夫…………の、はずだ……」
「正直この服すっごい蒸れるんだけども……どうなん?」
「その文句は、そこで寝てるラボメンに言ってやれ」
まゆり「……………………」
ダル「……というわけなんだけども…………まゆ氏……」
紅莉栖「大体、救急車偽装とか、どんだけお金かける気よ……。岡部…………お金はきっちり返しなさいよ?」
「その請求もそこで寝てるラボメン行きだ」
まゆり「……………………」
「さて、いつまで狸寝入りを決め込むつもりだ?ラボメンナンバー002。椎名まゆり」
まゆり「…………普通……こういう時は、お姫様にちゅーって決まってるのです…………」
まゆりが、寝たままの姿勢で、まぶたを閉じたまま呟く。
「……スマンが、世界を自由自在に改変しまくった英雄を、俺はお姫様なんて呼べないな」
まゆり「…………じゃあオカリンは、まゆしぃの事、これからなんて呼ぶ気なのかな…………」
「そんなの決まっているだろう」
「こんな手間をかけさせて、そして自分の身体をも投げ捨てるような奴を、ほっとくことはできん」
「そんなお前はやっぱり、これからも」
岡部『俺の人質だよ』
TIPS No.1 fin.
TIPS No.2
『その合言葉は』
はぁ……はぁ……。
はぁ……はぁ……。
寝苦しい。
身体が動かせない。
死ぬほど暑い。
もう自分はこのまま死んでしまうのではないか……?
視界が霞む。
脳が焼ける。
こんな風邪……、今まで経験した事がない。
あぁ、自分はこんな年で死んでしまうのか……。
『いや、あなたは死なないわ』
誰かの声がした。
幻聴だろうか……、今、両親は家に居ないから、
なら一体……、この声をかけてきたのは、誰なんだ。
声はまだ聞こえる。
『あなたはこんなところで死ぬべきじゃない。もっと生きないとダメ』
無茶言わないでくれ……。
今にも死にそうなんだ……。
『大丈夫……今から楽にしてあげるから……もうその苦しみは終わる』
誰なんだ。
医者なのか?
なら注射でも何でもいいから、早く俺を楽にしてくれ。
もうこんな地獄みたいなのは嫌なんだ。
『心を落ち着かせて……、空気を飲み込んで……、吐いて』
『呼吸を繰り返して、あるがままの酸素を吸いなさい』
『そして、自分の中にある、空気を自然に吐き出すの』
『あるがままに、したいがままに、全てを自然に行って』
無茶言うな……。
そんな事ができるような状態じゃないのは見てわかるだろ……?
いいから治してくれよ…………。
お願いだから…………。
『あなたはできる。私は知ってるわ。あなたならできる』
できねぇよ…………。
『なら勇気が出る言葉を教えてあげる』
……なんだよ……
『ある魔法使いの口癖よ。その言葉を口にすれば、あなたもきっと、その娘と同じ事ができるようになる』
……なんだ……、一体なにを言ってるんだ…………。
『その娘も君と同じ病気にかかったけど、気合で治しちゃったんだよ』
…………
『だからその娘の魔法の言葉を教えてあげる』
……もう、だめだ………意識が………
『良い…………?…………言うわよ…………?』
『トゥットゥルー!』
ばっ!
布団を払いのけ、上半身を勢いよく起こしてみる。
そして、あたりを見渡す。
何も、誰も居ない。
そのまま、自分の額を手で触ってみる。
ひんやりと、していた。
自分は今まで、なにをしていたのか……?
先ほどまで、確かに熱でうなされていたはず……なのに。
今は、その面影すらない。
自分は本当に死ぬほどの病気にかかっていたのか……?
何もかも曖昧な、ふわふわとした感覚だった。
ただ、それでも。
何か、大切な物を。
大切な人に、もらった気がする……。
「…………フッフフー…………だっけ…………」
頭に、微かに残る、小気味良いメロディー。
何でだろう。
すごく、いい気分だ。
俺は、意味もなく。
布団の上を飛び回ってみた。
「トゥットゥルー!……あっはっはっは!」
こんな愉快な事は、最近じゃ滅多に無かった。
あまりに愉快だから、
今度、あいつに教えてあげるとしよう。
TIPS No.2 fin.
TIPS3まで書こうとしたけど、さすがに時間も時間だし、ここでおしまい。
物語は、謎を残したほうが終わりが綺麗なのさ!
というわけで!
おつかれ!
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