勇者「フラグを折って強くなる」(92)
勇者「街を出て早十日……」
勇者「おかしい……一向にLvが上がらない」
勇者「そもそも経験値が入らないのは何故だ?」
勇者「敵が弱すぎるからか? いや、そろそろ本気で苦しくなってきているし、流石にそれはないな」
勇者「……一先ず、次の町で装備を整えるか」
勇者「さて、後は道具屋で薬草を……」
町娘A「……」チラッチラッ
勇者(毎度の事だけど、目立つんだよなぁ)
町娘B「見て見て! 勇者様よっ!」ヒソヒソ
町娘C「キャーカッコイイー!」ヒソヒソ
町娘A「あぁ……以前、こちらに来られた時と変わらず凛々しい方……」ヒソヒソ
勇者(そういえば、この町は兵士と共に巡回したっけか)
町娘A「きょ、今日こそは……!」ヒソヒソ
町娘B「お、玉砕っ」ヒソ
町娘C「砕けろっ」ヒソ
町娘A「不吉過ぎるからやめて!」ヒソヒソ
勇者「……?」
町娘A「あ、あの勇者様!」
勇者「え、は、はい?」
町娘A「その……魔王を倒し、世を平和になさった後でも構いません! 付き合ってください!」
勇者(ええぇぇーー!)
勇者(好意的に見られる事は確かにあるけど、ここまで面と向かって言われるとは……)
勇者(困ったな……彼女を傷つけずになんて言えばいいか)
勇者「私にはそのような口約束はできません」
町娘A「あ……うう……」
勇者「……何時命を落とすか分からない戦いなのです。もしかしたら魔王を倒す事も適わないのかもしれません」
町娘A「そ、そんな事は……!」
勇者「ですので、私には貴女に無責任な約束はできないのです。どうかご了承下さい」
町娘A「い、いえ! あたしこそいきなりご迷惑な事を!」
町娘A「で、ですが、覚えておくだけでも、してくれませんか……?」
勇者「っ! ……申し訳ありません。私めには魔王との戦いに集中したいので……」
町娘A「あ、うう……ありがとう、ございました……」
勇者(うっわぁぁぁ! 駄目だ! 絶対傷つけた! どう言い返せっていうんだ!)
*勇者はLv2になった!*
勇者「!?」
勇者「れ、レベルが上がった? 何が?」
勇者「……」
勇者「一旦、占い師の爺さんの所に戻った方がいいな」
勇者「爺さーん!」
爺「なんじゃ、十日余りで根をあげたか?」
勇者「違う! 俺の強さを見てくれ!」
爺「ふむ……」
爺「うむ? どれだけ戦いを避けて来たのだ?」
勇者「それも違ーう! 魔物化した野犬やらなんやらしっかり倒しながら進んでいたさ!」
爺「なら何故未だにLv2なのじゃ?」
勇者「俺が知りたい。というよりLv2になった時に……」
爺「にわかに信じがたい話じゃのう……」
勇者「俺だって信じられないけど、そこで初めてレベルが上がったんだ」
爺「どれ……試してみるかのう」
勇者「試すって……」
爺「今日一日、町にいるとよい。そして声をかけてくる女性を全てあしらうのじゃ」
勇者「最低だ」
爺「弱いままでよいのか?」
勇者「うっぐ……」
勇者「しかも爺さんと一緒にか」
爺「近くで見ていた方が判断し易いからのう」
爺「ほれ早速来たぞ」
町娘A「あら、勇者様。どうなさったんですか?」
勇者「少しあってね……故郷の空気が吸いたくなったんだよ」
町娘A「そんなまだ十日ほど……あ」
町娘A(きっとあたし達ではとても想像のつかない険しい旅なのかも知れないっ!)
町娘A「あの、勇者様。勇者様さえよろしければ、そのあたし……」
勇者「悪いがそういう気はない」
町娘A「あ、あはは……そうですよ、ね」
勇者「」orz
*勇者はLv3になった!*
爺「ふぅむ」
勇者「……どう思う?」
爺「うむ、間違いないな」
爺「何故こうなったかは分からぬが、お前さんは間違いなく」
爺「フラグを折る事で強くなる、フラグクラッシャーなのじゃ!」
勇者「最悪だ」
勇者「何だよその逆八方美人……」
勇者「俺だって人並みに恋ぐらいしたいよ……しかもフラグクラッシャーって」
爺「恐らくだが、お前さんの行動の評価で折れるフラグには経験値が入らないとみていいだろう」
勇者「何で分かるの?!」
爺「悪行に走った所で、まずフラグが立っていなければ意味もなかろうて」
爺「世の中そう上手くはいかんよ」
勇者「最悪だ」
勇者「はー……」
爺「これからどうするのじゃ?」
勇者「とりあえず明日、また次の町に向かうよ」
爺「道具を使って直前の町にいけばいいじゃろう」
勇者「ちょっともう戦闘がしんどいからさ……地道にレベル上げしないと」
勇者「それにここでやると故郷なのに帰れなくなる……」
爺「うむ……」
勇者「Lv3だしここまでは凄い楽になったなぁ」
勇者「さて……」
町娘A「あれ、勇者様?」
町娘B「一週間前にここを発ったはずですが……」
勇者「色々とありまして、一度故郷に戻っていたのですよ」
町娘A「故郷って隣町wwww」
町娘B「勇者様面白ーいwww」
町娘A「今日は宿を取られるのですか?」
勇者「そうですね、明日の早朝に出発する予定ですので」
町娘B「あ、でしたら少しお話とか……」
勇者「明日に備えたいので遠慮しますね」
町娘A「……そうですか」
町娘B「……行こうよ町娘A」
宿屋にて
勇者「か、加減が難しい」Lv7
勇者「流石にやりすぎだよな……」
勇者「一日に何人振ったんだろう……うあー勿体ねーー!」
勇者「我慢だ……ここは耐えるべきなんだ」
勇者「ぅぅちくしょ……ちくしょう……」
勇者「早く、早く魔王を倒して平和な生活を……」ガサガサ
犬「ハッハッ」
猫「……」ジッ
勇者「おお、なんだお前ら。懐っこいな」モフモフ
犬「ハッハッハッ」パタパタ
猫「……」スリスリ
勇者「……」モフモフ
勇者「……」モゾモゾ
犬「ワフッ!」パタパタ
猫「にゃぁ」スリスリ
勇者「こいつら……メスだ」
勇者「何処までだ。俺には何処までフラグが立つんだ」ガクガクブルブル
犬「ハッハッ!」パタパタ
猫「……」スリスリ
勇者「うぐ、お前達を連れてはいけないんだ!!」ダッ
犬「ワンッ! ワンッ!」ダダ
猫「……にゃあ」ポツーン
勇者「うおおおお!!」ドドドドド
犬「ワン! ……クゥーン」タタ トテトテ
勇者「うおおおおおおおお!!」
*勇者はLv12になった!*
ボストロール「ゴアアアア!」
オーク「ガアアアアアア!」
勇者「ぐ!」ガガガ
勇者「うおおおお!!」ズバン
ボストロール「ゴギャアアア!」
オーク「グアアアアア!」
勇者「ふう……ふう……まだだ。もっと強くならなければ魔王にはっ!」グッ
勇者「この程度のボスならいざ知れず……」
ボストロール「……」ムク
オーク「……」ムク
勇者「なにっ! 起き上がれるだと?!」
ボストロール「ニンゲンモ ナカナカヤルナ」ポッ
オーク「ハジメテ オトコニ マケタ」ポッ
勇者「裏ボス……だと!」
ボストロール「ワタシヲ ウケトメテクレーー!!」ドダダダ
トロル「オヨメニ シテー」ドダダダ
勇者「ぐああああ! 来るなああぁぁ!!」
ボストロール「イケズゥ~ン」
勇者「気色悪い声をっ!! まともな人型は最低条件だ!!」
トロル「ナレレバ ミヤコヨォ」
勇者「慣れるかっ!! こうなったら物理的に断るっ!」
村人「そっだらよぉ、ボストロールとトロルの首が落っことってよ」
村人「傷がずっぱりいっででよ。ありゃぁ一刀両断だぁ」
村人「だげども、その魔物の顔、えんらく嬉しそうな表情だっただぁ」
勇者「ぐ……強い」
騎士「ふん、人間にしてはよくやったといったところか」
騎士「しかし、この程度で魔王様に楯突くとは愚かな事だ」
勇者「……しかし、この程度、倒れる訳にはいかない!!」ダンッ
騎士「ほう……なるほど」
騎士「しかし、心意気だけで力量の差は埋まらん」チャキン
勇者「それでも、乗り越えるんだ。多くの人々が待っている! 平和の世を!」
騎士「ならばその心、力でもって折ってくれよう」
勇者「ならその力、心でもって捌いてやろう」
勇者「ふう……ふう……」
騎士「馬鹿な……この私が」ガックシ
勇者「これで残るは魔王のみ……!」クルッ
騎士「……な! 私に止めを刺さないのか!」
勇者「俺は魔王を倒す為に戦っているが殺戮者ではない。勝敗は決し、戦意を失った者に向ける剣はない」
騎士「なんと……」
騎士「ふっ、そうか……。これほどの者であれば、敗北さえも光栄に思えるな」ガチャ
騎士「勇者よ……そなたも兜を外し顔を見せてはくれまいか」ファサァ
勇者(金髪美人騎士……だとっ!!)
騎士「なんと凛々しい……ふふ、私はそなたに負けたのか」ズイ
勇者「な、何を」
騎士「良いではないか……よもや、この私が男に敗北し、あまつさえ胸をときめかす等とは」キュン
勇者(うおおお! 俺はこのフラグも折らないといけないのか!!)
騎士「魔王様の忠義はあれど、負けた今となってはお前とは男と女だ」ドキドキ
騎士「例え一夜限りの恋でも構わん。夢を見させてはくれまいか?」スリスリ
勇者(立つなー立つなーーーわしのジョーーー!)
勇者「ま、魔王の配下と交わるなどおぞましい事を」プイ
騎士「あ……そうか、そうだな」シュン
騎士「不快な思いを……させてしまい……すまない」ズーン
勇者(あぎゃあああ、おあああああああ! あががががが!!)ズダダダ
*勇者はLv36になった!*
勇者「ここに……魔王が」ゴゴゴ
勇者「何ていうプレッシャーだ」ブルル
勇者「だがっ!」バン
魔王「ほう……意外と遅かったな」
勇者(仮面か。表情は分からないが……声からしても余裕が感じられる)ブル
勇者(おわー負けそー)ブルル
魔王「フハハハ! どうしたぁ! その程度かぁ!!」ブォン
勇者「うおぉ」ガギィン
魔王「ぬるいっ!」ブゥン
勇者「くぅっ」ガッ
魔王「敵前で体勢を崩すとは愚かな……止めよ!」ブォ
勇者「ば、爆破魔法!!」カッ
魔王「ぐ……この距離で爆破魔法とは」ガラガラ
勇者「うおおお!」バッ
魔王(真横にっ! しまっ)ガッ
勇者「ぐっ」ドザァ
魔王「うっ」ドガッ
魔王「……く、捨て身か」
勇者「だが、剣を落としたお前を馬乗りする事ができたぞ」チャキン
魔王「ふ……私を殺すか。いいだろう」
勇者「魔物の侵攻を止めろ。俺は殺し屋ではない」
勇者「お前がこれ以上の侵略をしないというのであれば、俺はこれ以上殺さずに済む」
魔王「は……ふははは! なんだそれは? 随分な偽善者じゃぁないか!」
勇者「例えお前が諸悪の根源であろうと……殺さずに済むなら、誰にも死んでほしくないんだ」
魔王「……」
勇者「魔王、お前の負けだ。今すぐに侵略を止めろ」
魔王「一つ聞いてもいいだろうか?」
勇者「なんだ?」
魔王「余がそれを受け入れたとして……今からお前と良好な関係を築けるのだろうか?」
勇者「……んん?」ウーム
勇者「人間達との間に溝はあるだろうが、お前にその意思があり歩み寄ろうというのであれば」
勇者「俺のほうからも歩み寄るが?」
魔王「そうか……ならば」キィン
魔王「これで魔物達はこの地に戻ってくる。戦は終わりだ」
魔王「まさか余が負けるとはな……」カパ
魔王「だが、これで良かったのかも知れんな」ファサァ
勇者(おわあああぁぁ! ここに来ても美少女ぉぉぉぉ!!!)
魔王「その、なんだ……できれば勇者には、ずっとここにいてほしいのだ」ジッ
勇者「う、潤んだ目でこちらを……」
勇者(待てよっ魔王が降伏した今、これ以上戦う理由も無い!)ハッ
勇者(ならこの子のフラグを折る必要は……!)
魔王「いきなりこのような事を言われても困るだろうが……余は」
勇者「魔王」ガシ
魔王「ゆ、勇者?」
勇者「人間との溝は大きいものだろう。だからこそ和平の象徴が必要だ」
勇者「魔王……俺と共になってくれないだろうか」キリッ
魔王「勇者……」カァ
チュンチュン
魔王「勇者……余は幸せだぞ」
勇者「俺もだよ……魔王」ナデ
魔王「ふふ……ん?」
窓「○(●)・'<○>●゚<>(o)(◎)」ジー
魔王「ひっ」ビク
勇者「うぉっ」ガタタ
窓「<◎>●Φ(゚)<l>《○》」ガチャ
ズルユウシャサマーズルルャサマーズルズルサマー
ズルセメテヒトヨズルズルワタシモズルアナタノコガズルル
勇者「うおおおおぉぉぉぉ!!」
魔王「ひいいいぃぃぃぃ!!」
その後、勇者はたくさんの子宝に恵まれて幸せに暮らしましたとさ
勇者「フラグを折って強くなる」 完
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