美希「もうミキには何にも見えないけど」(182)
P「よっ、美希」
美希「ハニー!もう約束の時間よりも1時間遅れてるの!」
P「ああ、ごめんな、ちょっと道に迷って」
美希「そういう嘘はいいの、ハニーが病院までの道を何回も間違えるなんて絶対有り得ないの」
P「俺だって道に迷うさ、というか何だかそういう言い方だと俺が完璧超人みたいじゃないか」
美希「ミキはその通りだと思うな~」
P「ははは…俺は一体美希にどう見られてるんだよ…」
美希「………」
最近のハニーはミキにつまんない嘘ばっかり付いてる
前はお土産を買い忘れて一回コンビニに戻ったとか
今日みたいに道に迷って結局タクシーを使って来たとか
そんな嘘
美希「ねぇ、ハニー、皆はどうなの?」
P「……皆か」
美希「うん、765プロの皆は今どんな感じなの?」
P「………」
いつもハニーはこういう話題を振ると喋らなくなっちゃう
何だかミキに皆の事、765プロの事を話したくないみたいな感じになるの
ハニーの顔は見えないけど、多分そうだと思うの
P「皆…うまくいってるよ」
美希「……春香は?」
P「春香はレギュラー番組の数をどんどん増やしていって、映画の主役にも抜擢されたよ」
美希「千早さんは?」
P「最近はアルバムを出したよ、今週で発売から3週間目なのに未だにオリコンは一位独占だ」
美希「……そっか」
正直ハニーの言ったことは全部知っていたの
見えないけどテレビの音声は聞こえるから
皆頑張ってる、テレビを付けてると皆の声がいつも聞こえてくる
ミキも一緒にいるみたいな気分になるの
でも本当は一緒にいないの
もういれないの
美希「何だかミキがいなくても765プロは大丈夫なんだね…安心したの…」
P「何言ってるんだよ、お前がいないと765プロは765プロじゃない」
美希「………」
P「早く戻って来い美希、皆待ってる」
美希「………」
ハニーはこういう話題はいつも避けてる
なのにこういう話題で最後にハニーがいつも言うのは
「戻ってこい」
戻れるわけないのに
美希「うん…ミキも頑張る…」
P「………」
P「俺も一緒だ美希、一緒に頑張ろう」
美希「………うん」
ハニーは今でも美希が事務所に戻れるって言ってくれてる
そんな嘘をついてまで励まさなくてもいいのに
もしかしてハニーは無神経さんなのかも
ミキがどれだけあのキラキラしたステージに戻りたいのかも知らないくせに
簡単に言っちゃうんだもん
………
何だかこんなこと考えてるミキ、イヤなの
P「そういえば何で時間が分かったんだ?」
美希「テレビ番組が始まる時間帯で分かるの、今はテレビショッピングが流れてるから3時30分ごろかな?」
P「おぉ、合ってるよ美希、すごいなあ」
美希「………」
全然嬉しくない
前まではどんなことでもハニーが褒めてくれれば嬉しかったのに
ああ、そっか、目が見えなくなった途端にミキ、性格も悪くなっちゃったのかな
P「それで美希、ちゃんとご飯は食べてるのか?」
美希「……その話題はやめてほしいの」
P「そういうわけにはいかない、ちゃんとご飯食べないと元気になれないんだぞ」
美希「別にミキ、あんなおいしくないの食べるくらいなら元気になんてならなくてもいいの」
P「そういうこと言うんじゃない、病院食だって作ってくれる人が頑張って作ってるんだから」
美希「……でも食べられないの…」
P「……それじゃあ今度、美希がちゃんと病院食を食べたら外食に連れて行ってもいいぞ」
美希「…本当?ハニー?」
P「ああ、本当だ、だからちゃんと食べてくれ、美希」
美希「……分かったの…ミキ、頑張って食べるの」
P「ああ、好き嫌いしちゃいけないぞ」
………ハニー、嘘ついてごめんね、やっぱりミキ、今日も残しちゃうの
それに全部食べたらハニーの嘘が本当になっちゃうし
それで本当に全部食べて連れてってなんて言ったら、ハニー、絶対困っちゃうの
だからきっと、また嘘を重ねるはずなの
P「でもごめんな、毎回俺ばっかり来ちゃって、皆仕事があってな…」
美希「別にミキ気にしてないの、ハニーと小鳥が来てくれてるだけでとっても嬉しいの!」
P「そっか…それじゃあ今度休みが空いた奴が居たら連れてくるから」
美希「うん、楽しみにしてるの」
P「おう…あ、そういえば響の奴最近になってまたペット増やしたらしいぞ」
美希「……へぇ~…」
P「またそいつがこの国で簡単に飼えるような動物じゃなくて…」
美希「………」
ハニーは皆のことをとっても嬉しそうに話すの
多分事務所で皆で楽しくおしゃべりしてるのかな
ミキも寝てばっかりじゃなくていっぱいお話しておけばよかったの
でもミキも自分からハニーにお話したいな
こんな所に居るから話題なんて全然無いけど
ハニーに聞いて欲しいな、ミキのこと
P「じゃあもう行くよ、また明日来るから」
美希「ハニー、ミキももう大人だから一人で大丈夫なの……だからお仕事頑張ってきてほしいな」
P「何言ってんだよ、俺のプロデュースしてるアイドルをずっと一人にさせてたまるか」
美希「……ハニーはお仕事よりもミキを優先してくれるの?」
P「当たり前だろ……でも流石にこれ以上居ると社長に怒られるな…また明日までいい子にしてるんだぞ、美希」
美希「うん…でもハニー、ミキはもう大人だからいい子って…」
P「………」
ぎゅっ…
P「……ごめんな…美希…本当にごめんな…」
美希「………謝らないで欲しいの…ハニーは全然悪くないの」
P「………それでもだよ……お前をこんな体にさせて…ごめん…」
美希「………」
ハニーはたまに帰る前にミキを抱きしめてくれるの
でもいつも謝ってくるの、悪かった、ごめんって
数時間前の気遣いみたいなのはもう全然無くて
ミキのことを考えてるように言ってるけど、本当は考えてないような
まるで懺悔してるみたいなの、ミキ、神様なんかじゃないのに
P「じゃあな美希、また明日」
美希「うん、また明日ねハニー」
P「あっ、明日は病院の庭でも散歩してみるか、ミキが良かったら帰るついでに先生に許可取ってくるけど」
美希「うん、ミキお散歩したい」
P「分かった、じゃあな美希」
美希「うん…じゃあねなの、ハニー」
美希「………」
多分また明日もハニーは遅れてくるの
言い訳も言って
本当はお仕事で忙しくてなのにわざわざ嘘なんて付いて
そんなにミキとお仕事の話したくないのかな
ミキ、アイドルのことについてそんなに気にしてないのに
気にしてるのはハニーだけなのに
あ、でもハニーの戻って来いっていうセリフはいつも引っかかるの
それは、仕方ないよね、うん、仕方ないの
なんでこう美希を嫌な目に合わせるのか、書いてる奴の精神を疑う
P「いい天気でよかったぁ~、な?美希」
美希「うん、でも良かったの?ハニー?」
P「ん?何が?」」
美希「だってまだお昼前なの…お仕事だってあるのに…」
P「そんなもん、美希に会うために片付けてきたに決まってるだろ」
美希「……そっか…ありがとうなの、ハニー…」
P「おう」
美希「………」
やっぱりハニーはとっても優しいの
本当はお仕事だっていっぱいで皆のことも見なくちゃいけないのに
もうアイドルでもない美希の所に毎日来てくれる…
すごく嬉しいの…でも…
ミキって…ハニーにとって負担なのかなってたまに思っちゃうの…
……やっぱりミキってイヤな娘
美希「ねぇハニー……ミキ、自分の足で歩けるの」
P「何言ってんだよ、今はまだ危ないから車椅子に決まってるだろ」
美希「……でもミキ…ハニーの迷惑になるようなことはしたくないの」
P「どうしたんだよ突然…ミキがそんなこと考えるなんて」
美希「っ…もう!ミキだってちゃんと人の事を考えられるよ!ハニーの馬鹿!」
P「はは、ごめんな、でも車椅子押すぐらい大した事無いって」
美希「……じゃあもういいの」
ハニーはやっぱり無神経さんなの
ミキだって自分の力でちゃんとハニーの隣を歩けるって
ミキはハニーの負担なんかじゃないって
そう、知ってほしかったのに
P「うーん…ちょっと暑くなってきたか…」
美希「だって夏なんだよハニー、暑いに決まってるの」
P「そりゃあそうだな、にしてもあっちー…」
美希「……もう部屋に戻ろうハニー、ミキも何だか暑くなってきたの」
P「そうだな~…じゃあ戻るか」
Prrrr...
P「あ、ごめん美希ちょっと待っててくれ……あっ、もしもし…はい…」
美希「………」
P「ごめん美希…俺もう行かなくちゃいけないみたいなんだ…」
美希「うん、了解なの、お仕事頑張ってきてね」
P「ああ、それじゃあお前の部屋までちょっと急ぐぞー!」
美希「うん!ゴーゴー!なのー!」
医者「どうでした?お散歩は?」
美希「……楽しかったの、とっても」
医者「そうですか、それはなによりです、楽しいや嬉しいという感情が一番の特効薬ですからね」
美希「………」
医者「そういえば彼はもうお帰りに?」
美希「うん、ハニーはとっても忙しいから…」
医者「そうですか…それじゃあまた来るので今日はちゃんとご飯食べてくださいね、星井さん」ガラ…パタン…
美希「はいはーいなの」
美希「………」
ちゃんと分かってるの、ハニーはお仕事が忙しいって
でもハニー言ってたの
お仕事よりもミキのことを優先してくれるって
ミキをずっと一人にしないって
美希「………ミキの…馬鹿」
こんなこと考えちゃうミキなんて、きっとハニーも嫌いなの
でも止まらないよ、ねえ早く来てよ、ハニー
P「はぁー…まさか降って来るなんてな…」
美希「今日はちゃんと天気予報で午後から降るって言ってたの、ハニー」
P「そうだったのか……しくじったぁ…」
美希「もう…じゃあハニー、ミキのほうに頭を寄せてきてほしいの」
P「お、おお…」
美希「えっと……あっ!ハニーの頭見つけたの!…でも何だかすごいビチャビチャしてるの…」
P「仕方ないだろ、雨に濡れてきたんだから」
美希「ふふん、それじゃあミキがハニーの頭を拭いてあげるの」
P「え…べ、別に良いって…それくらい自分で出来るって…」
美希「いいからいいから、ミキに任せてほしいの、ハニー、そこのタンスの上から二番目の棚からタオル取ってほしいの」
P「こ、これか?」スッ…
美希「うん、ありがとうなの、じゃあ乾かしてあげるね、ハニー」
P「……ああ」
美希「あーめあーめふーれふーれかあさんがー♪」
P「……美希ってそういう歌も唄うんだな」
美希「んー?ハニーはミキのプロデューサーなのにそんなことも知らなかったのー?」クシャクシャ…
P「いや…何だかミキがそういう歌唄うと落ち着くなって…」
美希「………ハニーはミキの歌好き?」
P「ああ、好きだよ、大好きだ」
美希「っ…そっか…」
P「だからもっと聞かせてくれ、今、俺だけが聞ける美希の歌」
美希「うん…ちゃんと聞いててね、ハニー」
嬉しかったの
ハニーに褒められて、素直にすごく嬉しかったの
こんな気持ち、すごく久しぶりで、とっても体が温かくなったの
そっか…やっぱりミキ、ハニーを責めたり、疑ったりしても
大好きなんだ
美希「はい、もう髪の毛乾いたと思うの」
P「うーん…心地よすぎて眠りそうだった…」
美希「眠っちゃったら看護婦さんに怒られるよ、ハニー」
P「ふーん…優しそうに見えるけど怒るんだな、あの看護婦さん」
美希「そうなの!あの人は優しそうに見えてミキが前にご飯残したら怒ったの……すごくうるさかったの…」
P「それは美希が悪い、それに言っただろ、ちゃんと食べたら外に一緒に食べに行くって、行きたくないのか美希は?」
美希「……ハニー…それって冗談じゃないの?」
P「冗談?何言ってんだよ、わざわざ嘘つく意味なんてないだろ、だからちゃんと残さず食べるんだぞ、美希」
美希「………うんっ」
嘘じゃなかったの
ハニーは本当に目が見えなくなったミキと一緒に病院の外に行こうと思ってたんだ
慰めるための嘘じゃなくて、本当だったんだ
他の人に見られたりしたら絶対ハニーに迷惑なことが起きるのに
それでもハニーは、ミキと一緒に行ってくれるんだ
P「何度も言うけど残すんじゃないぞ、美希」
美希「分かったの、ハニーと外食に行くためにミキ、頑張るの!」
P「そっか、俺も美希と久しぶりに行く外食は楽しみなんだから、今日のご飯は絶対ちゃんと食べるんだぞ」
美希「うんっ!」
P「よし、じゃあ明日までに何処に行きたいか決めておけよ、出来るだけ美希の希望通りに俺も頑張るから」
美希「ふふーん、ハニーもちゃんと考えておいてほしいの、ミキは普通のデートじゃ満足しないんだよ」
P「うるさい……じゃあまた明日な、ミキ」
美希「うん!また明日なの!ハニー!」
看護婦「あれ?美希ちゃん何かいいことでもあった?」
美希「うん!あのね看護婦さん!ハニーが明日ね、ミキをデートに連れて行くって!」
看護婦「そう、よかったわね、それじゃあ補助具用意しておかなきゃね」
美希「そんなのいらないの、ハニーがミキを連れて行ってくれるんだから」
看護婦「そういうわけにもいかないの、じゃないと私が外出許可を許さないわよ」
美希「もう!看護婦さんはいけずなの!」
看護婦「これも美希ちゃんのためなんだから、それじゃあはい、今日のご飯」コト…
美希「……今日も来たの」
看護婦「ちゃんと食べないとデートなんて浮ついたことさせないわよ~」
美希「分かってるの……あんまりおいしくないけど……ミキ、頑張るの!」
看護婦「……そう…頑張ってね、美希ちゃん」
美希「うん、いただきまーすなの!」
その日はちゃんと残さず全部食べたの
そしたら看護婦さんも褒めてくれて明日のデート頑張ってって言ってくれたの
初めて看護婦さんのこと、ミキ、好きになったの
何だかミキ、人を好きになる感覚が自分勝手な気がするの
でも、人を好きになるのは自分勝手だもんね、仕方ないの
明日はどんなお洋服で行こうかな
看護婦さんが合わせてくれるって言ってくれたけど、大丈夫なのかな
けど多分ハニーだったらどんな格好しててもきっと褒めてくれるに決まってるの
だってミキが好きになったハニーは、そんな優しい人なんだもん
早く明日になってほしいの
『悪い美希、今日行けなくなった!』
『来月にあるライブの打ち合わせが急遽今日することになったんだ!先方の都合が悪いから今日にしてくれって言ってさ』
『だから今日は行けそうに無い、本当にごめん!』
『また今度暇な時は絶対に行く、だから今回は本当に、本当にごめん美希!』
そう言ってハニーは部屋から走って出て行ったの
その後、看護婦さんはミキのこと慰めてくれたけど、別にミキは気にしてないの
ミキがアイドルの時もハニーはすごく忙しそうにしてたんだし
このくらいちゃんと予想できたことだから、あんまりショックじゃないの
でも一つだけ
ミキ、自分では見れないけど頑張って可愛くなったの
看護婦さんと一緒に色んなお洋服合わせて、お化粧もちょっとして、おじいちゃんや先生にも見てもらったの
皆可愛いって、これならハニーもイチコロだって
なのにハニー、言うことだけ言ってミキのことは何にも言わなかったの
それだけが少しだけ、ショックだったな
小鳥「美希ちゃーん!小鳥さんが来たわよー!」
美希「あ、小鳥」
小鳥「ふふふふ、はいこれ、最近事務所の近くに出来たケーキ屋さんのケーキ、とってもおいしいから一緒に食べましょ?」
美希「……うん…ありがとうなの、小鳥」
小鳥「いえいえ」
美希「ねえ、小鳥」
小鳥「んー?」
美希「何で最近ハニーは来ないの?」
小鳥「……プロデューサーさんは来月のライブのためにてんてこまいで…だから代わりに私が来たんだけど」
美希「…そっか」
普通に幸せな美希が見たい…
これはそう映画かなんかの撮影だそうに違いない
小鳥「っ!ご、ごめんね美希ちゃん!私なんかが出しゃばって来て!プロデューサーさんのほうが良かったわよね!」
美希「……ううん、ミキ、小鳥が来てくれてとっても嬉しいの…だから小鳥が良かったらでいいからまた今度も来てくれたら、ミキ、嬉しいな」
小鳥「………あぁん!もう美希ちゃん可愛すぎぃ!」ダキィッ
美希「あはは!小鳥くすぐったいのー!」
嘘じゃなくて本当に小鳥が来てくれてミキは嬉しかったの
確かにハニーじゃないからちょっと残念だけど
小鳥も優しいし、ケーキも持ってきてくれるからすごく嬉しいの
……何だか今のミキって現金さんだね、ちょっと反省なの
それに小鳥が話す事はハニーの話す事よりもおもしろいの
あ、こんなこと言ったら、ハニーに怒られるかな
でも会えないから、怒られようがないよね
ハニーがミキの所に会いに来なくなってから2週間が経ったの
小鳥が言うには来週がライブだから今が一番忙しいらしいって
だからミキも我慢しなくちゃいけないんだよね
それにハニーだってきっとミキと会えないから寂しがってるに決まってるの
……えへへ、それはちょっと言いすぎかな
でもそうだったらミキ、嬉しいな
なんかもう胸が痛い
サァー…
看護婦「雨ますます強くなってきたわね」
美希「………」
看護婦「じゃあ美希ちゃん、ご飯になったらまた来るから」
美希「…うん」
看護婦「後最近、またご飯残してるようだから前みたいにちゃんと食べてね、じゃないと彼に言っちゃうわよ」
美希「……分かったの…」
看護婦「………」
美希「………」
看護婦「それじゃあもう戻るから、お腹ちゃぁ~んと空かせておきなさい、分かった?」
美希「はいなの…」
看護婦「………」カラカラ…ピシャン…
サァー…
美希「雨止まないの…」
美希「もしハニーが今日暇が出来て、ミキの所に来たりすることになったら絶対また濡れて来るの」
美希「そうなったら風邪引いちゃうから、早く止んでほしいなあ」
美希「………」
美希「そういえば…前にハニーとデートするって言ってた日に看護婦さんが持ってきてたの…歩く時に必要な棒…」
美希「………」
どうしてミキ、あの時あんなことしたんだろ
絶対に先生や看護婦さんに怒られるって分かってたのに
絶対に上手くいくはずがないって分かってたのに
絶対にこんなことしてもハニーは喜ばないって分かってたのに
ねぇ、ハニー、ミキどうしちゃったんだろう
おい…
おいやめろ
サァー…
美希「えへへ…雨に濡れるのも久しぶりなの…」
カッ…カッ…
美希「でも良かったの…雨だからあんまり歩いてる人が居なくて…これなら事務所にも簡単に行けそうなの」
カッ…カッ…
美希「………」
美希「ここが焼き鳥屋さんの前だから…こっちをまっすぐだったはずなの」
カッ…カッ…ドンッ!
美希「あっ!ご、ごめんなさいなの!」
男「あ…こちらこそ…」
美希「本当にごめんなさいなの…それじゃあ……え、えっと…今はどこに…」
カッ…カッ…
男「……よろしければ目的地まで同行しましょうか?」
美希「えっ…?」
男「ああ、大丈夫ですよ、変なことは絶対にしないので」
美希「あ…あ、あの…ミ、ミキは…ミキは…」
男「………?」
美希「っ!ご、ごめんなさいなのっ!」タッ…
美希「ミキ…最低なの…」
カッ…カッ…
美希「優しくしてくれたのに…あんなことして…」
カッ…カッ…
美希「………」
ミキ、いつの間にか人と接するのが恐くなったのかな
ハニーや小鳥、病院の皆となら大丈夫なのに
あんな優しくしてくれた人を恐がるなんて
やっぱり、今のミキ、ダメなミキなの
アイドルの頃のキラキラしたミキは少しも残ってなくて
今のミキは真っ黒で全然キラキラしてないの
こんなミキで、ハニーに会ってもいいのかな
カッ…カッ…
美希「……ミキ…今どこを歩いてるのかな」
カッ…カッ…
美希「……寒いなあ……病院のベッドに戻りたいの…」
カッ…カッ…
美希「でも…どうやって戻ればいいのか全然分からないの…」
カッ………パシャンッ…
美希「……もうダメなの…歩けないの…」
美希「………」
美希「ごめんなさい…ハニー……勝手なことして…」
美希「きっと…怒るよね……でも…ミキ…」
美希「ハニーが居なきゃ…こんな暗い所……生きていけないの…」
美希「………」
美希「ハ…ニぃ…」
サァー…
美希「………ん…温かい…の…」
P「っ!こ、小鳥さん!美希が起きました!」
美希「……ハニーの…声…?」
P「そうだよ俺だ美希!……はぁ…本当によかった…」
美希「………ミキ…今ハニーと…一緒なの?」
P「ああ一緒だ!俺はちゃんとここに居るぞ美希!」ギュッ…
美希「え…へへ…ハニーの手……温かいの…」
P「美希の手が冷たすぎるんだよ……なあ美希…どうしてこんなことしたんだよ…」
美希「……分からない…の……ハニーのこと考えて…たら…体が動いちゃったの…」
P「っ……ごめんっ…ごめん美希…」
美希「……ハニー…ミキも…ごめん…なさい…なの……えへへ…これで…ハニーと…おあいこなの…」
P「っ……美希…本当に…本っ当にごめん!」
その後もずっとハニーは謝ってたの
ごめん、ごめんって
ハニーは悪くないのに、全部ミキが自分勝手なことしただけなのに
本当はちゃんと謝らなきゃいけないのはミキの方なのに
看護婦「なんてことしたのっ!」
美希「……ごめんなさいなの」
看護婦「ごめんなさいじゃないでしょ!あなた、自分が仕出かしたこと分かってるの!?」
美希「……分かってるの…本当にごめんなさいなの…」
看護婦「っ!……馬鹿!こっちがどれだけ心配したかも分からないくせに!」
美希「………」
看護婦「………今日は美希ちゃんがいつも残すメニューをそろえてあげるから」
美希「……看護婦さん」
看護婦「分かったら、今度はそんなことしちゃだめよ」
美希「……分かったの…ありがとうなの…看護婦さん」
P「ごめんな、俺のせいで」
美希「もういいの、それにお見舞いに来てくれたのにそんな話しないでほしいな」
P「……そうだな、ごめん」
美希「後!ハニーは謝りすぎなの!……ミキは謝られるよりもハニーの楽しい話が聞きたいな」
P「………じゃあ皆の話をしようかな」
美希「!…うん……でもハニーが自分から皆の話をするのって…珍しいの」
P「ん?そうか?」
美希「そうなの…何だかミキに気を遣って、アイドルの話は避けてたみたいで」
P「……はは、バレてたみたいだな」
美希「バレバレなの……でもミキは気にしてないし、普通に話してほしいの」
P「そうだったのか…じゃあ話すよ」
美希「……うん」
それから一時間くらいハニーは皆について話してくれたの
その声はとっても嬉しそうでミキも何だか嬉しくなったの
それで今週はライブだから皆気合が入ってるって
何だかそれを聞いたらミキも気合が沸いてきちゃったの
………
やっぱりミキ、アイドルだった頃のミキを忘れられそうにないの
美希「……ねえ、ハニー」
P「ん?」
美希「デートの約束は辞めていいから、皆のライブにミキ、行きたいの」
P「………美希、お前は本当にいいのか?」
美希「うん、ミキもいい加減アイドルとしてのミキから吹っ切れたいの……いつまでもモヤモヤするのはイヤなの」
P「………」
美希「それに皆がミキが居なくても765プロのアイドルとして頑張ってるのを、ミキも見てみたいの」
P「………」
美希「えへへ…本当は何にも見えないけど……それでもミキ…見に行きたいの…前までのミキと、アイドルとしての皆と、お別れをしたいの」
P「………」
美希「ダメかな…ハニー?」
P「………」
P「分かったよ、美希」
美希「……ありがとうなの…ハニー」
「準備は出来たかー?」
看護婦「ちょっと待ってくださーい!……はい、これでおっけー」
美希「ね、ねえ看護婦さん…ミキ…可愛いかな?変じゃないかな?」
看護婦「可愛い可愛い、やっぱり夏場はそういう肌を露出した服がいいわね」
美希「……そっか…ありがとうなの!看護婦さん!」
看護婦「うんうん……後もしも、何かに失敗して落ち込みそうになったら今度こそはちゃんと私に相談しなさい、分かったわね?」
美希「……ありがとうなの…看護婦さん…」
看護婦「いいわよ、はい、ドアの前まで連れてきたから……後は自分で行けるわね?」
美希「うん…それじゃあ行ってくるの!」タッ…カラカラ…
看護婦「はい、行ってらっしゃい」
バタン…
看護婦「……頑張ってきなさいね、美希ちゃん」
P「よし、行くか美希」
美希「!…むぅ、ハニー!」
P「な、何だよ?」
美希「前々から思ってたけど、いつものミキよりも可愛くなったんだからちゃんと褒めてほしいの!」
P「あ、ああ…うん、似合ってるよ、流石美希だ」
美希「……ありがとうハニー…嬉しいの」
P「それじゃあ改めて、行くぞハニー!」
美希「うん!」
小鳥「きゃー!美希ちゃーん!」
美希「小鳥…久しぶりなの」
小鳥「もう!あの雨の日以来じゃなーい!私も忙しかったから会えなかったけど心配してたのよー!」
美希「ありがとうなの…小鳥…」
「っ!み、美希じゃない!」
美希「この声……律子!…さん」
律子「ふふ…前よりも私の呼び方が不自然になってるわね、美希」
美希「うぅ…ごめんなさいなの…」
律子「もう別にいいわよ……あ、それでプロデューサー…」
美希「……律子…さんも忙しそうなの」
小鳥「そりゃあねえ、何せ最後にあるサプライズ企画が待ってるんだから」
美希「………サプライズ?」
小鳥「そ、美希ちゃんも楽しみにしておいてね」
美希「………」
<ウォォォォォォォォォォ!
美希「すごい盛り上がりなの…」
P「……そうだな」
美希「……ねえハニー?」
P「ん?」
美希「ミキ…ダメだったの…全然吹っ切れないの…アイドルとしてのミキがずっとウズウズして止まらないの…」
P「………」
美希「……ごめんなさいなの…あんな事言っておきながら……ミキは全然忘れられないの…捨てられないの…」
美希「もう何にも見えないのに…アイドルとしての道を諦められないの!」
P「………」
美希「でも……ハニー…もう我慢できないの…ここに居たらミキおかしくなっちゃうの…だからもう帰って…」
P「よく言ったよ、美希」パシッ
美希「えっ…?」
P「行って…来いっ!」トン…
美希「ハ…ニー…?」タッタッタ…
『今日は皆さんに朗報があります!それは前に事故に合ってずっと入院していた、そう!彼女が!戻ってきたんです!』
この声…春香の声なの…
『けど彼女はその時の事故のせいで心に恐怖を覚えちゃいました、でも今日は皆の力でその恐怖を倒しちゃいましょう!』
事故……恐怖……
『さぁ!呼んであげてください!彼女の名前を!そしておかえりって!皆さんの声で言って上げましょう!せーっの!』
彼女…名前……それって…
「「「「「「「「美希ぃぃぃぃぃっ!!!!おかえりぃぃぃぃぃ!!!」」」」」」」」
美希「っ!」
春香「おかえり、美希」
美希いいいいィィィィ!!
可愛いよおおおおおおお
うおおおおお!!!美希ぃいいいいいい!!
美希「おかえりって…な、何でなの…ミキ…もう何にも見えないんだよ…皆の所に戻れないんだよ…」
千早「何言っているのよ、美希はアイドル以外似合わないのよ」
美希「千早さんの声……でも…目が見えないアイドルなんて…」
真「目が見えないからってアイドルをしちゃいけないなんて、もしそんなこと言う人が居たらボクが許さないよ!あ、美希は別だから安心して」
雪歩「そ、そうですよぉ!美希ちゃんがアイドルじゃないなんて…考えられないよぉ!」
美希「………でも…」
真美「でもじゃないっしょ→、それにミキミキは765プロのアイドルじゃないと真美は認めないんだYO!」
亜美「右に同意ー、それにミキミキがいつまでも似合わない病人でいるなんて……亜美が発狂しちゃうってーの!」
美希「………皆…」
伊織「それにわざわざライブの衣装まで着て来てるんだから……アイドルとして戻りたくないなんて言い訳聞かないわよ!」
美希「えっ!……これ…ライブの衣装だったの…」
貴音「はい、まこと似合っておりますよ美希」
響「似合いすぎてるんだぞ、美希!自分も負けてられないなー!」
あずさ「やっぱり美希ちゃんはキラキラしていないとね、病院のお洋服を着てる美希ちゃんなんて想像できないわ~」
やよい「うっうー!美希さんが居ない765プロなんて765プロじゃありません!だから美希さん、戻ってきてください!」
美希「………」
春香「ほら、美希の前にだって美希がアイドルの美希に戻ってほしい人たちがいっぱい居るんだよ」
春香「ねー!皆ー!」
「「「「「「「「うぉぉぉおぉぉおおおぉおぉおおおお!!!!!!」」」」」」」」
美希「……皆…」
美希「………」
美希「ミキ…ミキは…」
美希「ミキは…アイドルの、アイドルの星井美希にもう一回戻りたいの!」
美希「だからもう自分に嘘はつかないの!ミキは、ここに居る皆のところに戻りたいの!」
美希「目が見えないなんて関係ないの!だってアイドルとしてのミキはまだここにいるんだもん!」
美希「ミキは……みんなの所に戻りたいのっ!」
暗かった
起きた時はまだ夢を見てるのかと思ってた
けど違ったの
よく覚えてないけど、ミキは事故のショックで目が見えなくなったって聞いたの
ハニーから聞いた話だと、ライブの会場の鉄筋が落ちてきて、その時のショックで見えなくなったらしいの
それからハニーは何度も言ってたの、自分がそんな仕事をもらってきたせいだって
ハニーは全然悪くないのに、何度も謝ってたの
ミキ、その時のことは覚えてないからあんまりショックじゃないけど
目が見えないショックとアイドルを辞めなきゃいけないショックの方がミキ的には大きい気がして
そして、そんなミキからハニーや皆が離れてしまう不安が、一番大きかったの
でも、誰も離れなかったんだね
美希「………」
美希「……キラキラ…してるの」
美希「真っ暗だったはずなのに…すごくキラキラ光ってるの…」
美希「……そっか」
美希「ミキ…見えてるんだね…」ポロ…
美希「皆が……ミキを助けてくれた、キラキラ光った皆が……ミキ…見えるんだね…」ポロポロ…
美希「………み…みんな…」
美希「みんなあああああああああ!ありがとうなのぉぉおおおおおぉ!!!」
「「「「「「「「うぉおおおぉおおぉお!!!!!美希ぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!!!!」」」」」」」」
春香「…よし!それじゃあ最後の曲は『CHANGE!!』……美希、いけるよね?」
美希「うん…!いけるの!」
ミキ、もう一度輝けるかな
皆みたいにキラキラ光れるかな
分かんないし自信ないの、まだ目の前の道は真っ暗なの
だから皆見てて、今、ミキの全力を
そして一緒に作って、ミキの道を
美希「いっくよー!みんなぁぁぁぁぁっ!!!」
ミキも変わらなきゃ、ミキだけがキラキラするんじゃなくて皆で一緒にキラキラ輝けるようなミキに
そして変わったら今度こそみんなにちゃんと言わないといけないの
ありがとう、みんなって
美希「今までありがとうございましたなの!」
医者「よかったよ、ちゃんと目が見えるようになって」
看護婦「本当に…本当に良かったわ……あぁ!今までありがとう美希ちゃぁぁぁぁん!」
美希「うん…今までありがとうなの看護婦さん、あ!次にライブがあったら皆も絶対誘うの、楽しみにしててね」
P「……それじゃあ行こうか、美希」
美希「うん!」
「「「「「じゃあねー!美希ちゃーん!」」」」」
P「ははは…流石美希だな…」
美希「……皆いい人達だったの…また会いたいな…」
よし、治ったならいい
美希「ねぇ、ハニー、もしも美希がこれからずっと何も見えなかったらどうするつもりだったの?」
P「どうするつもりって……ずっと傍に居るよ、何があっても」
美希「……そっか」
P「はは、何だか口説いてるみたいで恥ずかしいな…ははは…」
美希「………ダメだよハニー」
P「…何が?」
美希「もしハニーと一緒になったら…皆が作ってくれた道がまた真っ暗になっちゃうの」
P「……皆が作ってくれた道?」
美希「でもね、ちゃんとミキが自分の道を作って、歩いて行く道が見えるようになったらまた言ってほしいの」
P「………」
美希「その時には絶対ミキ、嘘つかないで自分の気持ちを伝えるから……ね?ハニー?」
P「…そうだな、それじゃあとっとと事務所に戻ろうか、午後からレッスンだし…」
美希「もう!ハニーのおばかさん、忘れちゃったの!」
P「……何を?」
美希「前にデート出来なかったんだから、今からするの!ほら、早く行こ!ハニー!」
P「い、いや!ライブに行く条件にデートの件は…」
美希「でもハニー…ミキを突然皆の前に押したんだから……これでどっこいどっこいなの~…だからほら!早く行くの!ハニー!」
P「……仕方ないな、午後の仕事までだぞ」
美希「うん!」
あの時のミキには何も見えなかったはずけど
本当は見えたはずなの
だってミキの近くにはこんなにキラキラ光った宝物がいっぱいあったんだもん
見えないわけがないの
そうだよね、みんな、ハニー
そして、何にも見えなかったミキ
皆全部、ミキの宝物
もう絶対に、失くさないの
end
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i ,'i/ `,ニ=ミ`-、ヾ三''―-―' / .|
iイ | |' ;'(( ,;/ '~ ゛  ̄`;)" c ミ i.
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'ノ .. i )) '--、_`7 (( , 'i ノノ ヽ
ノ Y `-- " )) ノ ""i ヽ
ノヽ、 ノノ _/ i \
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乙
美希かわいいいいいいいいいいいいああああああああああああああ
ノヘ,_
,へ_ _, ,-==し/:. 入
ノ"ミメ/".::::::::::::::::. ゙ヮ-‐ミ
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ノ:::|:::l{::.|」ム‐ ゛ ,,-、|::|:|:::: ノ / / / | _|_ ― // ̄7l l _|_
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