魔王「女ってことがバレちゃったよ!」(125)

魔王「クフフ……美味だ」

部下「取れたての新鮮な人肉でございます」

魔王「しかし量が足りぬな。もっと持って参れ」

部下「ハッ!」

魔王「クフフ……」

バン!

部下「魔王様!城内に町民と見られる人間が侵入して参りました!」

魔王「なに?チッ、警備の者は何をやって……まあいい。丁度食後の運動をしたかったところだ」

魔王「私が出よう」

ザッ!

魔王「控えろ愚民ども!!」

「あ、あれが魔王!?」「なんて強そうなんだ」「あの装備は何だ!?」

魔王「私は今気分が良い。今なら命だけなら見逃してやらんこともないぞ」

町民「ふざけんな!うちの村、何人がてめえのエサになったと思ってんだ!」

魔王「ふん。貴様は今までに食べた飯粒の数を覚えているか?」

町民「この野郎……!みんな、かかれェーッ!!」

魔王「一分、いや三十秒だな」

ザクッ!グサッ!ギャシュ!

町民「ぐああーっ!」

魔王「他愛もない……。部下ども、きちんと食料室まで運んでおけよ」

魔王「ふう。疲れてはいないが、汗をかいてしまった」

魔王「私は今からシャワーを浴びる。誰も入ってくるでないぞ」

部下「ハッ!了解しました!」

ガチャッ!

魔王「…………」

魔王「あー、つかれたぁ……。よっこらせ」

ガシャン、ガシャン

魔王「装備めっちゃ重いし……女だと舐められるから、わざと重装備にしたんだけど失敗かなあ」

魔王「でも今更バラすことなんて出来ないよね。魔王だし」

魔王「……シャワー浴びちゃおっ」

魔王「ふんふふ~ん♪」

魔王「泡風呂~!くらえ泡光線ーっ」

魔王「あはははっ!ぎゃあ~」

魔王「よーし今度はすぺしゃる泡ミサイルを」

コンコン!

魔王「あおうッ!!」

部下「魔王様!」

魔王「…………なんだ!私は今入浴中だぞ」

部下「申し訳ございません。しかし、どうやらあの騒ぎは陽動だったらしく、町民の一人が城内へ侵入している模様です」

魔王「なに……?フン、ネズミ一匹。放っておいても問題ないだろう」

部下「ですが万が一に備えて、魔王様のお部屋も警備の増強を……」

魔王「いらんいらん!ネズミ一匹殺せぬようで何が魔王だ。私のことは心配せず、とっととひっ捕らえてこい!」

部下「ハッ!了解しました!」

魔王「……もお。せっかく楽しんでたのにぃ」

魔王「でも町民もよくやるよなあー。死ぬって分かるでしょフツー」

魔王「たっく命知らずはこれだから……」

ドン!

魔王「んぁ?」

町民「ついに突き止めたぞ魔王部屋!出て来い、諸悪の原因よ!!」

魔王「げっ、まじかよ。あいつら何やって……」

町民「っ!?な、何故こんなところに裸の娘が……!貴様、もしや囚われて」

魔王「わわ!こっち見んな変態!まおうキック!」

町民「げぷやぁッ!!」

魔王「ふう。この魔王の肉体が見れるとは運の良いやつめ……」

部下「いたぞ!!侵入者だ!!」

魔王「んあ?」

魔王「侵入者なら私が倒して……」

部下「早く取り囲め!魔王様の安否を確かめるんだ!!」

魔王「わっ、何で私を囲むんだよ!服、服着させろ!」

部下「魔王様の姿がないぞ!!」

部下「貴様ァ!魔王様をどこにやった!!」

魔王「魔王ならここにいるわ!早く服――」

魔王(っ!そっか、この姿だと私がわからないのか!)

魔王「み、皆の者、一度下がれ!」

部下「黙れ暴君めが!一糸纏わぬ身とは舐められたものよ!」

魔王「わ、こっち見んなよ変態!」

部下「さて、もう逃げ場はないぞ。大人しく魔王様の居場所を吐け」

魔王「だから魔王は私だっつに……頼むから服だけでも着させてよ」

部下「娘の分際で何を申すか!その命今に終わらせてくれる!」

魔王「やば……」

魔王(さすがにこの人数で装備無しはキツイ……ど、どうしよ)

部下「かかれェ!!」

魔王「くっそ、魔王チョップ!」

部下「ぐひ!」

魔王(ひとまず撤退しかないっ!)

部下「!窓から飛び降りたぞ!追え、追ええ!」

魔王「いっててて……部屋が四階なの忘れてた」

魔王「どーしよ。城はお祭り騒ぎだし、しばらくは近づけないよなぁ……」

魔王「てか私裸。こんなの見られたくない」

魔王「どうしよどうしよ!寒いし!外出たから体汚れちゃったし!」

部下「いたぞ!あそこだ!」

部下「侵入者め、覚悟しろォ!!」

魔王「わわ、もう見つかっちった……!」

部下「逃げるな!観念しろ!!」

魔王「ひい、服欲しいよぉ……」

タタタタッ!ザッザッザッ!

魔王「はあ。はあ。とりあえずあそこに身を隠すか」

部下「……!チッ、見失ったか。探せ、この辺りにいるはずだ!」

魔王「…………」

部下「魔王様の居場所を何としても吐かせるのだ!!」

魔王「……だから魔王は私だってのぉ……ああ、寒い」

魔王「へっ……へっくしょーん!!」

部下「いたぞ、あそこだ!」

魔王「うわっ、何故バレた!?やば!」

部下「もう逃げられんぞ!くらえ――グハッ!?」

魔王「……え?」

勇者「よってたかって女の子相手に武器向けんなっつの。大丈夫か?」

魔王「あ……はい」

魔王(え、こいつもしかして……)

勇者「みんな!この娘を守るぞ!」

魔法使い「ええ!」

戦士「おうよ!」

賢者「了解ですっ!」

ザシュッ、ガキンッ!

部下「ぐああああああ」

魔王(勇者御一行……!?)

勇者「ふう……怪我、してねえか?」

魔王「え、あ……おう」

魔王(どうしよ……でもま、私が魔王なんて分かるはずないし)

魔王「フン。一応礼を言っておこうか」

勇者「ああ。……でさ、」

魔王「?」

勇者「その……とりあえず、服。着たほうがいいんじゃねーか」

魔王「わわぁっ!!」

村・宿舎

賢者「でも良かったんですか?魔王城に向かう途中だったのでは……」

勇者「女の子をあのままにしてらんねーだろ。仕方ないさ」

魔法使い「そんなこと言って、魔王にビビッてたんじゃないの~?」

戦士「はは!勇者は臆病者だな!」

勇者「アホか……お、上がったみたいだな」

魔王「え……あ」

魔法使い「湯加減どうだった?この温泉結構有名なんだよー」

魔王「ふ、ふん。悪くはなかったな」

魔王「…………」

魔法使い「にしても可愛いね~!どこ出身?可愛いもの好きの賢者にはたまらないでしょ~」

賢者「え、あ……はい」

魔王「!?」

勇者「おいやめろって。困ってんじゃんか」

魔法使い「なによー。この娘の裸見たやつが気取ってんじゃないわよぉ」

勇者「ふ、不可抗力だ」

戦士「ははは!裸ならいくらでもワシが見せてやるぞ!」

賢者「ちょっ、戦士さん脱ぎ始めないでください!」

魔王「…………」

魔王「おい、主ら」

勇者「うん?」

魔王「主らは……勇者一行で、間違いないのよな?」

勇者「ああ。そうだぜ」

魔王「フン。そうか」

魔王(やっぱそうなのかぁ……。ど、どうしたらいいんだろ。油断しているうちに倒す?)

魔法使い「やーん、何でそんな仏頂面なのー?ほら笑顔笑顔~!」

魔王「ぬ、ぐ……」

勇者「おい魔法使い!」

戦士「ガハハハ!パンツを穿き忘れた!」

賢者「もうっ、やめてください戦士さん!」

魔王(……四対一だし、まだいいよね……)



魔王「はあ……やっと外に出てこられた」

魔王「にしてもどうしよ……。今城に向かったところで、部屋に入れなければ意味ないし」

魔王「最悪味方に殺されるかもしれんのよなあ」

魔王「……いやでも、もし勇者たちの首を持っていけば、すんなりいくのではないか……?」

魔王「そうだ。それがいい。今やつらは寝ているし、私なら音を立てずに」

勇者「よっ。こんなところで何やってんだ?」

魔王「わああ!!」

勇者「うわあっ!?」

勇者「どうしたんだよいきなり……びっくりした」

魔王「そ、そっちが急に話しかけるから!」

勇者「くすっ」

魔王「……?」

勇者「ああいや、やっと砕けた話し方になったなあって。今まで無理してたからよ」

魔王「む、無理などしておらんわ。こっちが素である」

勇者「そうかあ?俺はさっきの方が好きだけど」

魔王「!き、貴様の好みなど関係ないわ!」

勇者「あはは。ま、元気そうでよかったぜ」

勇者「一人でこんなとこいるから、落ち込んでるのかと思ってさ」

魔王「別に……」

勇者「そっか」

魔王「……な、何故隣に座る」

勇者「ん? 駄目か?」

魔王「だ、だめじゃないけど……フン。まあよいわ」

勇者「…………」

魔王「……お主ら、魔王城に向かう途中だと行ったな」

勇者「え?ああ」

魔王「やめておけ。返り討ちにあうのがオチだ」

勇者「…………」

魔王「あの城の魔物は特別強い。命を捨ててまで向かうところではなかろう」

勇者「……そういうわけにもいかねーよ」

勇者「ここの村。最初は百人くらいいたんだ」

魔王「?」

勇者「それがさ、日に日に減って行って、今じゃ二十人もいない」

勇者「俺が向かうのを止めるってのは、つまり、その二十人を見殺しにするってことだ」

勇者「んなことはできねー。絶対にな」

魔王「…………人を殺す奴らが、憎いということか?」

勇者「憎い? あー、ま、そうだな」

魔王「フン。しかし主らも、あちらからしてみれば同じことだろう。同胞を殺されてるのには変わりない」

勇者「殺してなんかいねーよ」

魔王「え?」

勇者「動けなくするだけだ。命まで取りはしねえ。そんなことしたら魔王と一緒だからよ」

魔王「フンッ。戯言だな。たとえ貴様がそんなマネをして、村人を救おうとも、それは一時的な終戦に過ぎない」

魔王「魔王を殺したところで次の魔王が生まれ、そして貴様が命を奪わなかった輩は再び武器を取り戦う」

魔王「同じだ。いたちごっこを悠々とやるに過ぎん」

勇者「……俺は殺さない」

魔王「?」

勇者「俺は魔王を殺さない。魔王と話して、そして魔物を解放してもらうんだ」

魔王「なッ……」

勇者「もう戦うのは止めよう。人と争うのは止めようってな」

魔王「…………そんなの、無理に決まってる」

勇者「でもそうしなきゃ、お前の言った通り何も変わらねえ。そうだろ?」

魔王「…………」

勇者「っと、そろそろ寝ないとな。お前も早く戻れよ?風邪引くぞ」



戦士「ぐはぁー、よく寝た!体力満タンだぜえ」

魔法使い「いよいよだね。道具もばっちし!」

賢者「あれ、そういえば昨日の女の子はどこに行ったのでしょうか……?」

勇者「あ、そういや……」

勇者(アイツ……)

魔王「おい!」

勇者「おわっ、びっくりした。いたのか」

魔王「私も魔王城へ連れて行ってもらおうか!」

勇者「は?」

魔王「だから、私も魔王城までお供すると言っているのだ!」

賢者「え……でも、それは」

魔法使い「そうよ。これは遊びじゃないんだから、そもそも誰のためにここまで戻って来たと思ってんの」

魔王「フン。しかし戦力が増えるに越したことはないはずだが?」

戦士「オイオイー。娘一人増えたところで足手まといになるだけだぜー?」

魔王「ほう。ならば試してみるか……?」

戦士「はん。ガキだからってワシは容赦せんぞ」

勇者「やめろ、戦士!」

戦士「しかしのう!」

勇者「相手は、俺がする」

勇者「どちらかが参ったと言うか、気絶した時点で負けだ」

魔王「ふん、ぬるいな。よいぞ、かかってこい」

勇者「……いくぞ!」

ガシャン!

魔王「遅い」

勇者「ッ!」

魔王「くらえ魔王……じゃなかった。普通のキック!」

ゲシィ!

勇者「ぐはッ!?」

魔法使い「勇者ぁ!」

勇者「く……っそ!」

魔王「本気でかかってこないか。私はただの娘じゃない」

勇者「……そう、みてえだなァ!」

魔王「っ!」

勇者「悪いがお前はここでお留守番だ!」

魔王「遅いと言っておろう!」

勇者「おわっ!?」

魔王「ハッ!」

カキィン!

賢者「勇者さんの剣が!」

魔王「……ふん、勝負あったな」

魔王(普段の装備をしていないおかげで、体がめっちゃ軽いわ)

勇者「お前、一体……」

勇者「いや、分かった。俺の負けだ。お前を連れて行くよ」

魔王「ふん」

戦士「なぬぃ?そんなに強いならばワシとも手合わせ」

勇者「やめろ。俺の実力はお前も分かってるだろう。味方同士体力を削りあう必要はない」

戦士「ぐぬぬ……」

魔法使い「まさかあの女の子がこんなに強いなんて」

賢者「驚きです……」

勇者「だけど仲間にするには一つだけ条件がある!」

魔王(別に仲間じゃなくてもでいいのに……)

勇者「仲間ってのは、信頼し合うものだ。お前の話し方にはどうも壁を感じるから、素のままでいてもらう」

魔王「は!?」

魔法使い「たしかにどーも固いのよねえ。こんなに可愛いのに」

戦士「確かにその年代の娘とは思えんのう」

魔王「ま、待て!ふざけるな勝負は私が勝ったのだぞ!」

勇者「でもそうしなきゃ、お前のことをみんなは信頼できない。一緒に戦えない」

勇者「仲間ってのは、命を預けあうもんなんだ」

魔王「…………」

魔王「わかったよ。ど、努力はする」

賢者「これで本当の仲間ですねぇ~」

道中

勇者「魔物が出たぞ!みんな戦闘準備!」

魔王(このまま城へと潜入して、上手い具合に部屋へ入ろう)

魔法使い「くらえ!サンダー!」

魔王(そして装備を着れば元通りだ。そう、こいつらは利用するだけ……)

『俺は魔王を殺さない。魔王と話して、そして魔物を解放してもらうんだ』

魔王(……利用するだけだ)

勇者「おい!そっちいったぞ!」

魔王「え?わっ、あぶね!」

魔王城

勇者「ついに到着したな」

賢者「回復薬も減っちゃいましたねえ」

魔法使い「でもいつもよりかは減り遅くない?この子がいたおかげかも」

魔王「ふん。まあ私の力は」

魔法使い「ほら固くなってるぅ~!」

魔王「む、ぐ……わ、私はそこそこ強いからぁ」

賢者「あははっ」

勇者「みんなそろそろ行くぞ!気を引き締めろ!」

勇者「くっ、なんつー魔物の数だ」

魔法使い「レベルも相当だよ……」

戦士「なんのこれしき!」

賢者「みなさん気をつけてください!」

魔王(そろそろいいかな……)

魔王「あの、私ここで一旦別れるね」

勇者「っ、何言ってんだよ!?」

魔王「あ~ええと、私こう見えてもスパイが得意で!あっという間に魔王の部屋を探せると思うの!」

勇者「でも危険すぎる――」

魔法使い「いーんじゃない?このまま戦っても辿り着く前にやられそうだし。それに彼女、ぶっちゃけこの中じゃ一番強いじゃん」

賢者「勇者さんも怪我が……」

勇者「っ……」

魔王「決まりだね。それじゃ、任せといて!」

魔王「……よっし、作戦通り」

魔王「さて、さっさと戻って装備しなおさないと」

魔王「ここの階段を上がって……」

部下「ちっ、勇者の連中め、ちょこざいな!」

魔王「わわ!あぶね……よし、行ったね」

魔王「ここの角を曲がれば……」

魔王「あった。私の部屋!えへへ、案外早く戻れたじゃん」

ガチャ

魔王「ん?」

魔王「え?」

魔王「…………は?」

魔王「きっ、貴様誰だ!!」

魔王(あ、あれ?私の部屋に私が……ってんん!?)

魔王「ちょ、あんた!人の装備勝手につけて何やってんの!」

魔王「何を言っている!これは俺の装備だ!貴様こそ魔王に何の用だ!!」

魔王「いや私が魔王だっつーの!」

魔王「どう見ても俺が魔王だろうが!!」

魔王(ふざけんなよ~~~!何で知らないやつが装備つけて、魔王気取ってんのさ!)

魔王「くっそ……偽魔王、悪いけどそれ返してもらうよ」

魔王「誰が偽だ。ふん、小娘、やれるものなら……ん?貴様どこかで見覚えが……」

魔王「問答無用!ハアッ!」

ガシンッ!

魔王「いたッ!かたッ!」

魔王「フハハハ!この最強装備に素手で挑もうとは良い度胸よ!」

魔王「ぐああ……こりゃ結構手ごわいぞぉ」

勇者一行

魔法使い「うらあ!」

戦士「おんら!!」

賢者「はいッ!」

勇者「…………」

魔法使い「ちょっと勇者!さっきから何腑抜けてんのよ!」

勇者「え……ふ、腑抜けてなんかいねえよ!」

戦士「気になるんか?あの娘のこと」

勇者「っ……」

魔法使い「…………ばかね。ほら、さっさと行きなさいよ」

勇者「え?」

魔法使い「アンタみたいな腑抜け、いてもいなくても変わらないっつってんの!早くあの娘を追いなさいよ!」

戦士「ここは任しときぃっ!」

賢者「勇者さん頑張ってきてください!」

勇者「ッ……みんな、ありがとう。絶対に死なないでくれよ!!」

魔王「ふんっ、やあ!」

魔王「クフ。小娘よ、馬鹿にしておるのか?」

魔王「むぐ~!!」

魔王(だめだ、やっぱ装備なしじゃ相手になんない!だれよこんな無茶苦茶な装備作ったの!)

魔王「隙ありッ!」

魔王「わあっ!」

魔王「フハハハ!弱い娘だ!相手にならん!」

魔王「こ、このぉ……」

魔王「まだ立ち上がる気か?ホレッ」

魔王「きゃあっ!!う、ぐぐ……」

魔王「ハハ!最強とは最高の気分だ!!」

魔王「くっそ……」

魔王「強いということがこんなに素晴らしいことだとはな。知らなかった」

魔王「ついつい人間を殺すのにも躊躇いが失せてしまったよ。あまりに脆い」

魔王「魔王がこんな気分だとは思いもよらなかった!!」

魔王(くう……)

魔王「人を殺し続ければ世界すらも手に入れられる!フハハ!強さはこのためにあるのだ!!」

魔王(それは……違う)

ドンッ!

勇者「それは違う!!」

魔王「ッ!?」

勇者「力っていうのは、誰かを守るためにあるんだ!人を殺め続けるなんて馬鹿げている!そんなの本物じゃない!」

勇者「お前もその仮面を脱いで、本当の自分を見せろ!!」

ガシュッ!

町民「なっ……!」

魔王「え!?」

勇者「あんたは……人間?」

町民「ク、クフ、ハハハハハッ!!」

魔王(あいつは確か……!)

勇者「おい、大丈夫か。下がってろ」

魔王「え、うん……」

町民「よく来たな勇者ァ!」

勇者「ッ。あんたが魔王……なのか?」

町民「いいや、俺はお前の想像通りただの町民。人間だ」

勇者「それが何故こんなところに!」

町民「ハッ。この際そんなことは問題じゃないんだ……。俺は力を手にして知ったよ」

町民「強者こそがこの世界を治めるのだと!」

勇者「なに?」

町民「勇者……お前は何の目的を持ってここに来た?」

勇者「魔王を説得して……戦いを止めてもらう」

町民「ハッ!馬鹿げているなあ!そんなことは無理に決まっている!」

勇者「なんだと?」

町民「俺の町の人間、ほとんどが魔王に食われた!!」

町民「女だろうが子供だろうが関係ない!見境なくあいつらは食った!襲った!!」

町民「そんな奴らに説得?話し合い?笑わせるな!」

町民「無理なんだよ――所詮弱者は、強者には勝てないんだ!」

勇者「…………」

町民「俺は力を手にして分かった。弱者は足手まといにしかならない。この世界の害虫だ」

町民「強い者こそが生き残り、自分の身を守れる者こそがその地を治める!」

町民「そうすれば……フフ、勇者。貴様の望み通り、戦乱も終わるぞ」

勇者「…………なってねえ」

町民「ああ?」

勇者「それじゃあ誰も!幸せになってねえ!!」

勇者「戦いだけが終わればいいんじゃない。それじゃあ死ぬのと変わらない」

勇者「みんなが笑って、幸せにならなきゃ意味がないんだ」

勇者「村のみんなも、国のみんなも、魔法使いも戦士も賢者も、こいつだって!」

魔王「!」

勇者「みんなが救われなきゃ意味がねえんだ!」

勇者「俺はとめる!終わらせてみせる!!」

町民「ハッ!ぬかせ弱者が!!貴様一人で何が出来る!!」

魔法使い「一人?どこ見てんのよ」

戦士「遅くなったな、勇者」

賢者「お仲間参上っ……です」

勇者「みんな!」

勇者「よく聞け。あんたは弱者が何も出来ないと言ったが……」

勇者「弱いやつだって、集まれば強くなるんだ!あんた一人に負けなどしない!」

町民「ほざけえええ!!」

勇者「ハアッ!」

魔法「プリザド!」

戦士「うらあ!」

賢者「くらってください!」

魔王(すごい……町民の攻撃をものともしていない)

町民「クソッ……ざけんな。ざッけんなよ!」

勇者「終わりだ!」

町民「うぐぁあ!!」

勇者「はあ……はあ……」

町民「チッ、こんだけ力を手に入れたってのによ……」

町民「あんたの言うこと、少しだけ理解できた気がする。そういや俺も、町のみんなの力を借りてここに来れたんだ……」

勇者「……俺は救うよ、世界を」

町民「そうか……へへっ。でもよぉ、さっき言った通り、魔王は最低な野郎だ」

町民「たとえば、平気で仲間を騙すくらいの……な」

魔王「!?」

町民「ハッ、思い出したぜえ……。てめえだろ、魔王ってのは」

勇者「え?」

魔王「…………」

町民「最初はただの小娘かと思っていたが、あの時魔王の部屋にいた。そしてあっという間に俺を蹴散らしていった」

町民「ただもんじゃねえ……てめえだろ、魔王」

魔王「…………」

勇者「なに言ってんだよ。そんなわけねえだろうが」

魔法使い「そうよ。こんな可愛い娘のどこが魔王なのよ!」

戦士「この後に及んで騙そうとしてるのかあ?」

賢者「嘘はよくないです!」

勇者「なあ、お前も否定してやれよ」

魔王「…………」

勇者「なあ、オイッ」

魔王「…………」

勇者「なあ……!」

魔王「……勇者、お前の考えは間違っているよ」

勇者「えッ」

魔王「魔王を説得して争いをやめてもらう?なら今まで戦っていたやつらはどうなる」

魔王「そいつらが受けた痛みは、どこに返せばいい?」

魔王「そいつらの憎しみは、どこにぶつければいい?」

魔王「人間にしたって同じだ。何の罰も受けずに終戦なんて、そんなの認める人の方が少ない」

勇者「おまえ……なにいってんだよ」

魔王「お前の言葉は、ただの理想論にすぎないってことだ」

勇者「そんなこと言ってんじゃねェ……!なんでお前が、そんなことを言ってんだよ!!」

魔王「教えてほしいか?私が魔王だから」

勇者「は?」

魔王「ほら、どけ愚民。邪魔だ」

町民「ぐあっ」

魔王「ふぅー。うん、まだ使えるな。ようやくこれで本領を発揮できる」

勇者「おい!待てよ!!」

魔王「なんだ?まだ交わす言葉が必要か?」

魔王「私は魔王だった。この姿を見せていなかったから部下に疑われた。追い出されたところにお前らが来た」

魔王「そして再びここへ戻るために、利用させてもらった。どうだ、まだ疑問があるか?」

勇者「なんで…………そんな……」

魔法使い「うそでしょ……?」

戦士「…………」

賢者「っ……」

魔王「かかってこい勇者。戦いを終わらせたければ私を殺せ」

勇者「ふざけんな……ふざけんなッ」

魔王「私はお前の安い説得など受ける気にはならん。来ぬならこちらから行く」

ブンッ!

賢者「きゃあっ!」

勇者「賢者ッ!?」

ブンッ!

戦士「うごぉっ!」

勇者「やめろォ!!」

魔法使い「勇者、もう黙っていられないわ……」

勇者「おい待てよ、おい」

魔法使い「このままじゃやられる。そういうわけにはいかないのよ」

魔王「フン。貴様は少しだけ賢いようだな」

魔法使い「黙りなさい、魔物風情が……!勇者の気持ちを何だと思っているのよ!!」

勇者「やめろ!」

ブゥンッ!

魔法使い「うあァッ!」

魔王「ハッ……脆い」

勇者「…………」

魔王「さあ、どうする?お仲間はみんなやられたぞ」

勇者「俺は……お前とは戦いたくない」

魔王「甘えもいいところだな。よくここまで死なずに来れたものだ」

魔王「ならば貴様も死ぬがいい!!」

勇者「ッ……!」

魔王「ハアッ!!」

勇者「う、あああああああああああ!!!」

グサァ

勇者「ッ……」

魔王「…………」

勇者「…………え?」

魔王「……ぐっ、ガハァッ」

バタリ

勇者「え、な……なんで」

魔王「フン…………ふんっ…………」

魔王「……これか。城内、いや、この辺り一帯に聞こえればいいけど……」

魔王『あー、あー、すべての魔物に命ずる!!』

魔王『今すぐ戦いをやめ、武器を捨てよ!!』

魔王『もう争う必要はない!命を奪い合う必要はない!!』

魔王『この戦を始めたのは、すべての元凶は私にある!私に怒りをぶつけ、私に憎しみをぶつけろ!!』

魔王『もう――戦いは、終わりだ』

勇者「お前……なんで、どうして……」

魔王「……言ったでしょ。おまえのはただの理想論だって」

魔王「何の犠牲もなしに戦いが止むことはないのよ。だとしたら私が、たくさんの命を奪ってきた私がすべてを背負う」

魔王「ま、それでもどうにもできないものは、あんたが何とかして。私もうすぐ死ぬし」

勇者「最初からそのつもりで……?」

魔王「えへへ。かっこいいでしょ」

勇者「…………」

魔王「女ってことをひた隠しにして、悔やんだこともあったけど、今思えば悪くなかったかな」

魔王「こうして、恋も出来たし」

勇者「おまえ、おまえ……っ」

魔王「あはは。あー、いってて。やば、そう長くないな……ほら泣くな」

勇者「もう戦いは終わったんだから……勇者と魔王が仲良くなっていても、大丈夫だよな」

魔王「え?……っ」

勇者「っ…………ありがとう。本当にありがとう」

魔王「…………」

魔王「私も、ありがとう」

数年後

勇者「世界は平和になった」

勇者「そりゃ、あの後もいろいろあったけど。でも本当に、魔物たちの憎しみはあいつが請け負ってくれたらしい」

勇者「それだけあいつが、信頼されていたってことかもしれない」

勇者「もう魔物と人間が争うことはないと思う。俺がさせないしな」

勇者「あいつのためにも、俺は――」

魔法使い「ちょっとあなたー!早く晩御飯の支度してー!」

勇者「あ、おう!今行く!」

戦士「勇者~、腹減ったぜえ」

賢者「ちょっと戦士くん。いじきたないって」

勇者(俺は行きぬくよ。本当に……)

勇者「ありがとう。魔王」

           Fin

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