Ⅳ「謝罪したいんだ」 凌牙「は?」 (39)
ファミレスにて……
凌牙「いきなりこんな所に呼び出して来たかと思えば……謝罪って何だよ?」
Ⅳ「言い方が難しかったか? 俺は『ごめんなさい』と謝りてえんだよ、凌牙」
凌牙「いや、『謝罪』の言葉の意味はさすがに分かる。俺が聞きたいのは何について謝罪したいかって事だ」
Ⅳ「当然、俺がお前の妹にやっちまった事についてだ」
凌牙「その事については……まあ完全に許した訳じゃないが、一応WDCでもう謝っただろ?
正直キャラが変わり過ぎて面食らった記憶もちゃんとあるぞ」
Ⅳ「確かにお前にはごめんさいをした。だがお前の妹、神代璃緒にはきちんとごめんなさいしてないからな」
凌牙「だから『謝罪』の意味は知ってるから『ごめんなさい』とか使わなくて良い。つーか使うな。
男のお前がシリアス顔でそんな事言うのもなんかイラッとするから」
※若干のキャラ崩壊注意
Ⅳ「妹は元気か?」
凌牙「元気過ぎて困るくらいだ。今朝も俺を起こす時、『あさま山荘起こし』と称して頭にけん玉ぶつけてきやがった。
おかげで朝から煮えたぎりそうになったぜ」
Ⅳ「それは何よりだ。だが無事元気を取り戻したとしても、俺があいつにやった罪が消える訳じゃねえ」
Ⅳ「俺はあいつを苦しめた。それは謝って済む問題じゃないかもしれねえが、筋は通したいんだ」
凌牙「まあ良い心掛けじゃねーのか……それで?」
Ⅳ「それでって何だよ?」
凌牙「いや、謝りたいんなら勝手に謝りに行けば良いだろ? 何でその事をいちいち俺に話すんだよ。
言っておくが別に俺はその事を止めたりはしないぜ、止める理由もないしな」
Ⅳ「その質問に答える前に凌牙、逆にお前に質問したいんだが良いか?」
凌牙「何だよ?」
Ⅳ「妹は、神代璃緒は俺を恨んでいるか?」
凌牙「どうだろうな? そういえば退院して以降、不思議なくらいお前の話はしないが……」
Ⅳ「いや、絶対に恨んでる。少なくとも俺にうらみ念法を仕掛けたいくらいには恨んでいるはずだぜ」
凌牙「俺の妹は眼鏡掛けてないし、前髪もわかめじゃねーよ」
Ⅳ「それとデュエルしたから分かるんだが、お前の妹って上品そうに見えて意外と気性も荒いだろ?
デュエル中も俺のファンサービスを尽く拒否っていたからな」
Ⅳ「だから俺の顔見たら謝罪の言葉も聞かずに、いきなりぶん殴られる気もするんだよ。『最初はグー』の掛け声と共に」
凌牙「まあ可能性としてはあるかもな」
Ⅳ「別に殴られても良いんだが、それでもやっぱり暴力はいけませんねだと思うんだよ。
正直お前らとはもう争う気は無いし、出来れば穏便に事を解決したいというか……」
凌牙「……もしかしてお前びびってんのか、璃緒に?」
Ⅳ「なっ、この俺がびびっているだと? 極東エリアチャンピオンのこの俺が? おかしな事を言うなぁ、シャー君は!
そんな事ある訳がないだろ! まったく、おかし過ぎて茶がヘソを沸かすぜ!!」ドキドキ
凌牙「落ち着け。後シャー君はやめろ、キモいから」
Ⅳ「という訳で決してびびっている訳じゃないが、俺が神代璃緒に謝罪する時はお前も着いて来てくれないか?
お前が傍に居れば少なくとも問答無用で殴って追い返されるって事態だけは避けられそうだし」
凌牙「別にそのくらいは構わねーけど……」
Ⅳ「引き受けてくれるのか! さすが凌牙、俺の一番のファンだけはあるな!!」パァァ
凌牙「但し本当に傍にいるだけだからな。後、ここの支払いはお前に任せたぞ」
Ⅳ「むしろもっと注文して良いぞ! 気にするな、これは俺からファンサービスだからな!
店員さーん、メニュー持って来てー!!」チリーンチリーン
凌牙(どんだけ1人で謝りに行くのが嫌だったんだよ)
…………
Ⅳ「ふぅ~食べた、食べた。お腹パンパンマンだぜ」シーハー
凌牙「何か俺より食ってたな、お前」
Ⅳ「ああ、正直言うと最近あんまり食べてなかったんだ。その、なぜか緊張して……」
凌牙「そこまでかよ……まあ良い。とりあえず璃緒は今日は1日家に居ると言っていたからな、さっさと行くぞ」
Ⅳ「なっ、もう行くのか? しかし凌牙、まだ心の準備が……」
凌牙「こういうのはさっさと終わらせといた方が良いんだよ。それに延ばせば延ばすだけ後から行き難くなるぞ?」
Ⅳ「くっ、確かに一理ある……だが謝りに行くなら、何か菓子折りの1つでもファンサービスしないと。
くそ、何処かに和菓子屋でもないか?」キョロキョロ
凌牙(意外と真面目な奴だな。そして面倒くさい)
Ⅳ「そうだ、確かあの橋を渡った向こうに源吉○庵が……」
凌牙「そんなとこ行かなくても手土産ならそこのコンビニで何か買えば良いだろ?」
Ⅳ「ふざけんな、コンビニで買ったもので俺の誠意が伝わる訳がねえだろ!
俺はお互いに気持ち良く和解がしたいんだよ!!」
凌牙「璃緒はそこのコンビニのプリンが好きなんだよ。多分下手な和菓子よりそっちの方が喜ぶぜ?」
Ⅳ「なっ、それを早く言え! そうと決まればさっさとこのコンビニのプリンを買い占めるぜ、凌牙!!」ダッ
凌牙「俺も飲み物でも買うか」トコトコ
店内……
Ⅳ「見ろよ、凌牙。このデザートの数をよぉ……腹いっぱいのはずなのにどれもこれも美味そうに見えるぜ」ゴクリ
凌牙「最近のコンビニスイーツは総じてレベルが高いからな。ついでにカロリーも高い」
Ⅳ「高レベル主体とは俺のギミパペを思い出すぜ。ところでプリンだけじゃなく自分用にも何か買って良いと思うか?」
凌牙「金を出すのはお前なんだから好きにすれば良いだろ」
Ⅳ「よし、ならこのババロアを買おう。働かない兄貴に代わって毎日頑張っている自分へのファンサービスだ」
凌牙「じゃあ俺は飲み物選んでるから」スタスタ
Ⅳ「いや、だがこっちエクレアも捨て難い……おい、凌牙、待てよ! どっちが良いと思う?」
…………
Ⅳ「とりあえずこれだけ買っとけば問題ないだろう」
凌牙(まさか本当に店にあったプリン買い占めるとは……店員、大変そうだったな)
Ⅳ「凌牙が買ったのは飲み物だけか。何を買ったんだ?」
凌牙「ただのコーヒーだ。そう言うお前も何か飲み物を買ってたな」
Ⅳ「ああ、買ったぜ……ド○ペをな!!」チテキインリョー
凌牙「好きなのか、それ?」
Ⅳ「いや、前から一度飲みたいと思っていたんだが、飲むのは今日が初めてだ」
凌牙「無駄にチャレンジャーだな。それ好き嫌い別れるって聞いたが……」
Ⅳ「舐めるなよ、凌牙。噂ではこいつは炭酸の入った杏仁豆腐みたいな味らしい……そして俺は杏仁豆腐が大好きだ!」ドヤ
Ⅳ「という訳で早速飲むぜ! ドロー!!」プシュ
凌牙(何を引いたんだ? ああ、プルタブか)
Ⅳ「…………」ゴクゴク
Ⅳ「…………」
凌牙「……どうだ?」
Ⅳ「ああ……何ていうか、杏仁豆腐というか……子供用の風邪シロップみたいな……」
Ⅳ「匂いも独特で……まあ、決して不味くはないから……好きな奴は好きだと思う……うん」
凌牙「素に戻ったみたいになるなよ」
Ⅳ「おかしいぜ。片桐プロとかは凄く美味しそうに飲んでたのに……」ゴクゴク
凌牙「俺もコーヒー飲むか。こっちは無難な物を選んで良かったぜ」
Ⅳ「…………」ゴクゴク
凌牙「…………」ゴクゴク
Ⅳ「…………」ゴク…ゴク…
凌牙「…………」ゴクゴク
Ⅳ「……なあ、凌牙」
凌牙「ん?」
Ⅳ「俺からのファンサービスだ。このドク○を受け取れ」スッ
凌牙「いらねーよ。自分で買ったんだから責任持って全部自分で飲め」
Ⅳ「遠慮すんなよ。本当に不味くはないんだが、よくよく考えたら俺って炭酸苦手だったわ」
凌牙「よくよく考えなくてもそれくらいは買う前に気づけよ」
Ⅳ「これ以上飲んだらポンポン痛くなるかもしれねえんだよ。頼むから代わりに飲んでくれ」
凌牙「ポンポンとか言うな、気色悪い。俺はコーヒーあるから要らねえって」
Ⅳ「てめえ、俺の一番のファンのくせに俺のファンサービスを拒否るとでも言うのか? そんな事許さねえぞ、凌牙!!」グググ
凌牙「おい、馬鹿、押し付けんな! そもそも何が悲しくてこんな往来でお前と間接キスしないといけないんだよ!?」グググ
Ⅳ「男同士の回し飲みなんて普通だろうが! 良いから口開けろ、口! 缶ごと突っ込むぞ!!」グググ
凌牙「そんな大きいのが入るか! つーかそんなに押したら缶から中身が溢れるだろうが!!」グググ
Ⅳ「凌牙ぁぁぁ!!!」ググググ
凌牙「Ⅳォォォ!!!」ググググ
ビチャ!!
…………
凌牙「着いたぞ」
Ⅳ「ほう、結構良い所に住んでんじゃねえか」
凌牙「見えすぎた世辞なんて要らねえよ。さっさと入るぞ」
Ⅳ「待て、凌牙。やはり今日は止めておいた方が良いかもしれねえ」
凌牙「はあ? ここまで来て何を言ってんだよ?」
Ⅳ「まだ身体がベトベトしてる感じがするんだよ。一応公園で洗ったが匂いも残っている気がするし……」
凌牙「確かにお互いに少し薬品みたいな匂いがするな……ていうかこうなったのは全部お前のせいだろうが」
凌牙「だが璃緒はそこまで気にしないと思うぞ。それにわざわざ手土産も用意したんだろ?」
Ⅳ「確かにそうだがいきなりこんな大量のプリンを押し付けられたら逆に戸惑わないか?」
凌牙「気付いたのは偉いが、遅過ぎだな」
Ⅳ「それに謝罪に来るならキチンとした身だしなみで来るべきだと思うんだ。それなのに今日は見ての通り普段着だ」
凌牙「…………」
Ⅳ「さらに最近少し髪も伸びて来ている。散髪にも行っておいた方が良いかもしれない」
凌牙「…………」イラッ
Ⅳ「おまけに心の準備も出来ていないしな……俺はな、謝るならやはり万全の状態で謝りたいと思うんだ」
凌牙「…………」イライラ
Ⅳ「そういう訳だから凌牙、ここまで来て悪いが今回の謝罪は先送りにするという事で……」
凌牙「今帰ったぞ、璃緒~。客も来てる~」ガチャ
Ⅳ「MATTE! まだ心の準備が出来てないって言っただろう!?」アセアセ
璃緒「お帰りなさい、凌牙。思ったより早かったわね」
凌牙「大した用でもなかったからな」
Ⅳ「おい、そんな事言うなよ! こっちは真剣なんだぞ!?」
璃緒「あら、そちらの方は……?」
Ⅳ「!?」
Ⅳ(遂に、遂にご対面しちまったぜ……神代璃緒に!)
Ⅳ(くっ、いざ本人を前にすると何を言えば良いのか分からねえ。何せあの日以来の再会だからな)ゴクリ
璃緒「…………」
Ⅳ(さあ、憎き俺を前にお前は一体どうする? 殴るか? 罵声を浴びせるか? それとも……)
璃緒「えっと……どちら様でしたっけ?」
Ⅳ「覚えられてすらいなかったぁぁ!!」ズサァァァ
凌牙(ヘッドスライディング……昭和みたいだがなんて思い切ったリアクションを取るんだ、こいつは)
凌牙「お前、こいつの事本当に覚えてないのか?」
璃緒「う~ん、入院する前の記憶が何だか曖昧で……凌牙の友達なのよね?」
凌牙「いや、別に友達では無いんだが……」
璃緒「でもお客様には代わり無いんでしょう? 初めまして、凌牙の妹の璃緒です。兄がお世話になっています」ペコリ
Ⅳ(この笑顔に、この言葉……本当にこいつは、俺の事を覚えていないのか?)
Ⅳ(待てよ……という事はここで謝る必要は無いんじゃないのか? 本人も覚えていないんだし)
Ⅳ(それにあの記憶はこいつにとっても早く忘れたい記憶のはずだ。
ここで俺が下手な事を言ってその事を思い出させるのは、逆に神代璃緒を苦しめる事にならないか?)
Ⅳ(むしろここはただの客として振る舞った方がお互いの為に……)
Ⅳ「…………」
Ⅳ「……なるとでも本気で思ってんのか、馬鹿野郎が」ボソッ
璃緒「え?」
Ⅳ「すまなかった、神代璃緒!!」ゴスッ
璃緒「ちょ、いきなり地面に頭を叩きつけて……だ、大丈夫ですか? 今鈍い音がしましたわよ!?」ビックリボー
Ⅳ「お前を傷つけ、長い間苦しめていたのは……この俺だ!!」
璃緒「まさかあなた……Ⅳ!?」
凌牙「…………」
Ⅳ(何が覚えてないからこのままで良いだ……そういう問題じゃねえだろ、これは!)
Ⅳ(俺はこいつに酷い事をした! 悪い事をした! そして悪いと思うなら謝るのは当然の事だろ!)
Ⅳ(それが人としての、筋ってもんだろうが!!)
Ⅳ「それだけじゃねえ。俺は傷ついたお前を利用して、お前の兄である凌牙をも陥れた最低な男だ」
璃緒「…………」
Ⅳ「その事を許して欲しいなんて都合の良い事を言うつもりもない。この土下座も単に俺の自己満足かもしれない」
Ⅳ「だが俺は本当にお前に、お前達に悪い事をしたと思っている。その事だけは分かってくれ」
凌牙「Ⅳ……」
璃緒「…………」
璃緒「頭を……上げて下さい」
Ⅳ「!」
璃緒「確かにあなたは、私達兄妹に酷い事をしましたわ」
璃緒「私と、私の大切な凌牙を苦しめた」
璃緒「何か理由はあったんでしょうけど、それは代わりの無い事実ですわ」
Ⅳ「…………」
璃緒「だけど凌牙はそんなあなたを『お客』と言ってここに連れて来た」
璃緒「それに今の貴方と凌牙はとても親しい間柄に居る……2人を見ればすぐに分かりますわ」
凌牙「フン……」
璃緒「つまりそれはもう凌牙は貴方を許しているという事」
璃緒「凌牙が許しているのなら、私も貴方を許しますわよ」ニコッ
Ⅳ「この俺を……こんな俺を許してくれるというのか?」
璃緒「もう過ぎた事ですわ。それに貴方の真摯な気持ち、ちゃんと私の胸に届きましたから」
Ⅳ「すまない、神代璃緒……そして、ありがとう」ウルウル
璃緒「だからもう気にする必要はありませんわ。尤も……」
璃緒「払うものはキッチリ払って貰いますけどね♪」
Ⅳ「……………………え?」
璃緒「実はもし貴方が謝りに来たら何時でも渡せる様にこういうのを用意してましたの。はい」ゴソゴソ
Ⅳ「これは……請求書?」
璃緒「貴方のせいで受けた治療費や入院費、精神的苦痛に対する損害やその他諸々をまとめたものです」
Ⅳ「何か凄い0が並んでる気がするんだが……?」
璃緒「だってそれだけの事をあなたはしたんですもの。悪い事をしたと思うなら、言葉だけでなく行動でも示さないと♪」
凌牙(あー、こいつ全然許してないな。顔は笑っているけど目が本気だ)
璃緒「もし断るというのならちゃんとした所に行ってもよろしくてよ。
だけどそうなればお金の問題だけで済む話ではなくなる事もあるでしょうね。一歩間違えれば私、死んでいたんですから」
Ⅳ「」
璃緒「そういえば凌牙はあなたの一番のファンらしいですわね。なら今日から私も貴方のファンになりますわ」
Ⅳ「」
璃緒「これから『色々』と仲良くしましょうね、Ⅳ♪」
『この世には殴られた方がマシな事もある』――新たなファンと出会いに、Ⅳはその事を強く痛感する事となった。
おわり
読んでくれた人、ありがとうございました。
>>36
面白かったよ
あんたも中の人のファン?
>>38
潘さんも細谷さんも好きです。でもみかこしはもっと好きです。
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