響「台風」春香「一家」 (45)


はなれていてもだいじょうぶ。
となりとおもえばとなり。

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「――――――――」

げんかんで、春香はそんなことを言われました。
外は台風のせいで大雨がふっていました。
お気に入りのカサをさして、春香は家出をすることにしました。
家を出てすぐに、お気に入りのカサはおれてしまいました。


ぴんぽーん。

響「はーい! 今行きまーす!」

エプロンのまま、響はげんかんに行きます。
悪い人が来るときは、みんなが教えてくれるので安全です。
ペットロックです。

「お届けものです」

雨の中ご苦労様です。と響は思いました。
すこしだけぬれてしまった段ボール箱を受け取ります。
サインをします。
ちょっと重いなーと。響は思いました。
中身は、実家からのおくりものでした。
たくさんの食べものと、数本のペットボトルが入っていました。

響「ん? なんだろうこれ」

ミネラルウォーターのペットボトルを持ちます。
手紙が入っていることに、響は気が付きました。
手紙には、飲み物がなにかと書かれていました。
プロデューサーさんや、社長さんにどうぞと書かれていました。

響「いや、こんなものに入れてきちゃだめだろ」

響は少しあきれました。
でも、とてもうれしくなりました。


外はひどい雨です。
泣きたくなるくらい、ひどい雨です。
ポケットに手を入れるとおさいふがありません。
電車に乗れません。
春香はお風呂に入りたいなー。と思いました。


響はおくりものをかたずけました。
飲みものはキッチンに置きっぱなしでも大丈夫です。
本でも読もうかなー。と響は思いました。

ぴんぽーん。

また呼びりんが鳴りました。
ねこ吉が少しびっくりしています。どうやら知らない人みたいです。
響は少し気をつけながらドアを開けます。
響はびっくりしました。

春香「……えへへっ、と、泊めてくれないかな?」

ずぶぬれの春香が立っていました。
子犬みたいだなー。と響は思いました。


春香「…………」

ねこ吉(あの子暗いよ)ニャー
うさ江(雨だからね)キュー
うさぎはキューと鳴くみたいです。きゅーとです。
いぬ美(あんたじゃないんだから違うよ)ワン
ワニ子(……)
オウ助(喋れよ)シャベレヨ

春香「ご、ごめんね……」

響「別にいいぞ。
  はいタオル、ちゃんと拭かないと風邪引いちゃうからな」

ねこ吉(ミルク! ミルク!)ニャーニャー

響「こーらー、ねこ吉のじゃないの。ねこ吉のはあっち」

ホットミルクはねこにはあつすぎて危ないです。
さっきからキッチンでかぽんかぽんしていたのはこれでした。

春香「……ごめんね」

響「くーらーいーぞー! 春香らしくないし、どーしたんだ?」

春香は両手にカップを大事そうにかかえたまま、うつむいています。
ゆげが顔にあたっています。
響は春香をじっと見つめます。
響はそっとしてあげることにしました。

響「おいしい?」

春香「うん。おいしい」

響「そっか、よかった」


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ━||:


ねこ吉(なでて! なでて! お腹なでて!)ニャーッ
いぬ美(こら、はしたない)ワン
ねこ吉(だってご主人がそうしろって)ニャー

春香「かわいいなぁ」
春香はねこ吉のおなかをなでなでします。
ねこ吉は気持ち良さそうにごろごろします。

響「人が来るとこびるんだよねこ吉は。なー」

ねこ吉(なー)ナー

春香「わたしもねこ飼いたいなー」

響「ブリーダーさんに貰っておいてあげようか?」

春香「あ……でもうちペットとか飼えないから……」

響は春香の家ってペット禁止だっけ? と思いました。
少し明るくなった春香の顔がまた暗くなってしまいました。
響は、春香が好きなので笑ってほしいなと思いました。

響「……!」

響は小鳥が言っていたことを思い出しました。

小鳥『テトリスをすると失恋の痛みを忘れるみたいよ』

失恋以前に恋人がいたかどうかも怪しい人の言葉なので
響はほんとかなー? と思いながら聞いていました。

小鳥『単純作業がいいらしいわよ』

仕事中に携帯でテトリスをしながら言っていました。
響は仕事中にテトリスる大人になりたくないなー。と思いました。

響「春香!」

春香「なに響ちゃん」

響「お腹減ってない?」グーッ

あまりのタイミングのよさというかわるさでした。
響は少し恥ずかしくなりました。
別にダイエットをしてるわけじゃありません。

響「…………」

春香「ふふっ。うん減ってる」

響「一緒に作ろうよ! ゲロゲロキッチンだよ!」

げろげろキッチンって名前的にどうかなーとボクは思いました。
あとレミーのレストランって食品衛生法的に大丈夫ですか?


響のキッチンはとてもキレイです。
今日とどいたおくりものも、ちゃんと整理されています。
でも、とどいたのみものはそのまま置いてあります。

響「春香! 何食べたい?」

春香「えっと、あったかい物が食べたいかな」

響と春香は同じエプロンを着ています。
青色でチェックのエプロンです。

響「じゃあシチューとか?」

春香「うん。いいと思うよ」

うさ江がにんじんをじっと見ています。
ねこ吉が牛乳をじっと見ています。
ブタ太がベーコンを見ています。

響「こーらー。みんなのえさはあっち!
  これは自分たちのご飯!」

みんなはすごすごとたいさんしていきます。

響「うん! じゃ春香は皮むきお願い!」

春香「うん」

二人とも、なれた手つきで下ごしらえをしています。
にんじんやタマネギやジャガイモがきれいになります。
とんとんと、ほうちょうの音が気持ち良さそうに響いています。

響「はるかー。ルー取ってー」

春香「はい響ちゃん」

ぐつぐつとなべが喜んでいます。
ななめに切られたフランスパンもこんがりと焼けています。
キッチンはいいにおいで包まれています。
響は楽しいなー。と思いました。
春香はゴーヤーって苦いのかなー。と思いました。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ━||:


食べるのが大好きな人が旅をしました。
自分が好きな食べ物を見つける旅です。
山を越えたり海を渡ったり空を飛んだりしました。
でもなかなか自分が本当に好きな食べ物が見つかりません。
食べるのが大好きな人は困りました。
そして食べて食べて食べてたべて食べ続けて気づきました。

「バターだ。ボクが好きな食べ物はバターだ!」

結局高カロリーな物が好きなんですね。
そんなわけでバターは至高の食品です。

響「おいしい?」

春香「うん!」

バターをたっぷりぬったフランスパン。
湯気を立てるクリームシチュー。
もちろん熱を伝えないように木の器に入っています。
スプーンも木製です。
こっそり作った焼き野菜のマリネもあります。

響「えへへ。やっぱ料理は愛情だよね!」

春香「うん。愛情は最高のスパイスって言うしね!」

言いましたっけ?
ともかくおいしそうなお夕食です。
食べるたびに、サクサクと香ばしい音がはじけます。
スプーンですくうたびにほふほふします。
響は細かいことはいいかなー。と思いました。
春香が笑ってるからいいかなー。と思いました。
おかわりは二人ともしました。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ━||:


響「ふー、お腹いっぱいだぞー」

春香「もう動けないよー」

二人とも手を後ろについておなかを楽にしています。
ハム蔵もまねをしてころんと転がりました。
シマ男は二人の胸元に飛び込みたいなーと思いました。
へび香はそんなことしたら食ってやると舌をぺろぺろしました。

春香「こんなにお腹いっぱいになるまで食べたの久しぶりー」

シマ男は飛びました輝く双丘に向かって。

春香「きゃっ! も、もうびっくりしたぁ」

両手をいっぱいにのばして、ふかふかをたんのうしています。
そこを変われとボクは思いました。
シマ男は頭をくりくりとされて、気持ち良さそうにしています。
そこを変われとボクは思いました。

響「もうシマ男はえっちなんだからー」

シマ男は響に首をつままれてたいさんさせられます。
へび香が舌をぺろぺろしました。
シマとヘェビーばりの逃走劇が繰り広げられています。

響「よし、お風呂洗ってくるね。入るでしょ?」

春香「え、わわわるいよ響ちゃん!」

響「なーに言ってるんだ!
  いっぱい食べたらお風呂にはいって寝る! 基本だぞ」

春香「だ、だって勝手に上がり込んじゃったわけだし……」

響「いいの! 自分がそうして欲しいんだからいいの!」

響はてくてくとお風呂掃除に行きました。
少しおこっているようにも見えます。

春香「わ、私はお皿洗っておくね!」


かちゃかちゃとお皿が音を立てます。
しゃーっと水が流れる音が聞こえます。

春香「…………」

考え事をしながらも手が止まることはないです。
お皿は少なかったのですぐに終わりました。
洗い終わったお皿を食器立てに立てます。
春香はふぅっと息を一つ吐きました。
なんだかため息に似ていました。

春香「……」

置いたあったミネラルウォーターを開けてごくっと飲みます。
ごくっとですだいたい40ccくらいです。

春香「っ⁈」

へんな味が春香の舌をおそいました。
でも飲み込んでしまいました。
春香はそのままキッチンの水を飲みます。
舌のぴりぴりはなくなりました。
春香はこの飲み物は何だったんだろうと思いました。
ペットボトルの中身は響のお母さんが貰って来た古酒です。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ━||:


響「お風呂わいたよー」

響の声に少しエコーがかかっています。

春香「私はあとでいいよぉ」

響「だーめ。あの土砂降りの中歩いて来たんでしょ。
  風邪引いちゃうから春香が先!」

春香「でもわるいよ」

響「いいから入る!
  嫌って言うなら浴槽に放り投げるからな!」

響が春香をぐいぐいと押します。
春香が押されながらふらふら歩きます。

春香「わかった! わかったよぉ!」

響は春香を押して楽しそうにしています。
春香が少しふらふらしていることに気づいていません。
そうこうしているうちに脱衣所に到着しました。
一人暮らしにしてはすこし広めです。
響がタオルの場所とかを教えてあげようとすると。

電話(ボクを見ろ! ボクの声を聞け!)プルルルル

電話が鳴りました。

電話(マナーモード? 嫌だね! ボクは鳴るね!)プルルルル

響「あー、うん。適当に使っていいよ!」

響は返事も聞かずに走って行ってしまいました。
春香の顔がほんのり上気していました。


響「はい、響です」

P『おうお疲れ。どうだそっちも雨すごいか?』

響「うん。ざーざーだぞ」

P『そっかご苦労なこったな』

響「それでなんの電話?」

P『……春香が居なくなった。
  親御さんと相談して捜査願いを出したところだ』

響「えっ? そ、捜査願い?」

P『ああ、それで一応春香が行きそうなところに片っ端から電話をかけてるんだけど。響、心当たりはないか?』

響「えっと、あるぞーっていうか家にいるぞーていうか」

P『まじ?』

響「うん。本当……ねぇプロデューサー」

P『まじかー絶対千早の家だと思った。あ、小鳥さん春香みつ』

響「プロデューサー!」

P『おおごめんごめん、なんだ?』

響「えっと、
  春香はいるんだけど、きょ、今日一日は泊めて欲しいんだ。
  春香のお父さんとお母さんには悪いんだけど……
  その、なんていうか……
  たまには一人になれる時間も必要かなーって思ったり……して」

P『わかった。じゃあよろしくな。ご両親には俺から伝えておく』

響「え? い、いいのか?」

P『春香の親友がそう判断したんだろ?
  ならその意見を尊重するよ。春香をよろしくな』


響は春香は家出してきたのかー。と思いました。
なんだか自分と似てるなー。とも思いました。
だから今はそっとしてあげようと思いました。
脱衣所の扉を開けます。
シャワーの音が聞こえます。

響「はるかー、着替えとかここに置いておくからなー」

返事はありません。

響「あ、シャンプーの場所とかわかる?」

春香「らいじょふだよ」

響「うわっぷ!」

急にお風呂の扉が開きました。
春香は手にシャワーを持ったままでした。
シャワーは出しっ放しです。

響「……うへぇー」

春香「あっ、ごめぇんね」

響は雨にふられたみたいにびしょぬれになりました。
ぽたぽたと髪から水てきが流れています。
春香の頭の上にライトがぱっと光りました。
お風呂場なので切っておきますね電気危ないし。

春香「ひびきちゃんもはいろうよ!」


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ━||:


ぱさっとふくをかごに入れます。
すっぽんぽんです。
すっぽんぽんです。
響がすっぽんぽんなのです。
ダンスできたえているのでひきしまったすっぽんぽんです。
ポニーテールをほどいて少ししおらしくみえるすっぽんぽんです。
ぷにっとしたすっぽんぽんとか毛のないすっぽんぽんとか。
すっぽんぽんとかすっぽんぽんとかなのです。
電じゃないのです響なのです。
最近プロデューサー兼提督が多くないですか? のです。
あとクッキー焼いてた人なのです。
ちなみにボクはどっちもしてないのです。
なのです。

響「入るぞー」

がちゃんとドアを開けると、もくもくとくもります。

春香「どぞぉー」

くったりした春香がとけていました。
響はかわいいなーと思いました。
丸みがあるすっぽんぽんでした。
お腹の曲線とか胸の曲線が芸術的なすっぽんぽんでした。
おへその穴とか首筋がすっぽんぽんなすっぽんぽんでした。
すぽぽぽんがすっぽぽんなすっぽんぽんでした。
響は恥ずかしくなったり悪いことをしてる気分になりました。
いつも使ってるお風呂用のいすに座ります。
髪を洗おうとシャンプーに手を伸ばすと。

春香「あー! わたしがあらってあげう!」

とシャンプーを取られてしまいました。

響「いいよ自分でするよ」

春香「だーめ。わたしがするのー!」

春香は手にシャンプーを取り出します。
響からは見えていませんが、ほとんど床に落ちています。
しっとりとぬれている響の髪にわしゃわしゃとします。


春香「かゆいところはありませんかー」

響「大丈夫だぞー」

春香「ひびきちゃんかみながくてきれいえいいなー」

響「え、えへへっ」

響は目をつむりながら照れ笑いをしました。

春香「わたしものばおすかなー」

響「ん? 春香も伸ばすの?」

春香「ちはやちゃがねーついんてーるするとかわいいんだよー」

響「へーそうなのかー」

春香「うん! いきなりしょうてすとやるぞーってかんじで」

響「……へ? 春香なにいってるん」

春香「そうだよーはるかっていうんだおー」

響は目を閉じながら何となく思い出しました。
古酒入りのペットボトルの位置がずれていたような。
電話取ったときになーんか量が減ってたような。
あー間違ってのんだのかー。と思いました。
泡盛(40%)を間違ってのんだのかー。と思いました。

春香「えへえーひびきつあんがふたりいるー」

いないいない。
いたらわけて。


春香「むー、ちょっとおやくさん! おっきすぎですよ!」

響「うゃぁあ! ど、どこ触ってん! やめ春香やめて!」

春香の適当なわしゃわしゃのせいで響は目を開けられません。
開けると目がシャンプー地獄です。
響はシャンプーハット捨てなければ良かったなー。と思いました。

春香「こーーんなにちいさいのにここだけおっきいってずるい!
   おきゃくさんもそうおもいますよね」

響「誰だよお客さんって!」

春香「ん? ひひきちゃんここむしさされ?」

響「違う違うから! やめっん」

春香「だいじょうぶ!」

響「だいじょばない! シャワー! シャワーかして!
  目が開けられればこっちのもんだから!」

残念ながらシャワーは浴槽のなかに浸かっています。
そのほうがいいですもんね世間的に。


春香「ん? ここにあながあるよ?」

響「おへそだよ! はるかにもあるでしょ!」

春香「あー! ほんとうだー。ひびきちゃんものしりー」

響「ほめられた気がしないんっ」

春香「すべすべー。おなかすべすべー」

響「くすぐったい! くすぐったいから止めて!」

春香「あしもすべすべー。ろぼっと!」

響「違うよ! それアシモ!」

春香「あしもふ?」

響「近いけど違う!」

春香「あしもふ~」

響「あぅ……ば、バカばか! ばか春香!」

春香「あーいおりのまえー」

響「あっ、や」

春香「おおぷにぷに」

響「ちょっ、だ……っ」

春香「ぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷに」

響「くふ、ひぁ! ん……ぁ」

春香「あはははみえみてひびきちゃん! おっきくなった!」

響「や! いぅ……っあ。ひっ……!」

春香「おーおー」

響「あ、ああっ! ぅ、はあっ。いぅいっいっちゃ」


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ━||:


春香「ひびきちゃーん。きれないー」

響「はいはい。ちょっと待ってて」

響はすこしくったりしながら春香にパジャマを着せてあげます。
湯疲れですかね。
春香はぽかぽかして体からゆげが立っています。
顔は少し不満顔です。

春香「……なーんでおおきさおなじなのー!」

響「知らないよ! 春香のお母さんに聞いてよ!」

春香「ぱじゃまかわいー」

響「はいはい。手上げて」

春香「んー」

響はひとりでできるかなを見ている気分になりました。
じっと見ているとふらふらと春香がゆれています。

春香「ねむいー」

響「はいはい。もうねましょうねー」

春香「うん。ねる」

響は春香の手を握ります。
とてとてと春香が響の後ろをついてきます。
響は後ろをついてくる春香をみたらそれでいいや。と思いました。


ここは響の寝るお部屋です。
ちいさな電気でまわりがほのかにてらされています。
いつもは一人でねる響ですが、今日は違います。

春香「だっこー」

響「重いからやだ」

春香「えー」

響「ほら、もうちょっとだから頑張って」

春香はうつらうつらしながらベッドに向かいます。
響はそれを優しく支えています。
ぽすんと春香がベッドに倒れ込みました。

春香「おいでー」

春香は自分のとなりをとんとんと手で叩いています。
響は少しどきっとしました。

響「う、うん」

響が春香のとなりでねむります。
春香は響がとなりにいるのを見て安心したように目を閉じます。
せまいベッドで少しきゅうくつそうにしながら。
響が掛け布団を響と春香にかけます。

春香「……ぽんぽん」

響「? どうしたの春香」

春香「てんてんいたくてねれない」

春香がなみだ目で響を見ています。
響は枕に頭をつけていますが春香はそこから少し下です。
だから上目遣いです。

響「てんてん? あぁ頭が痛いんだね」

響は多分酔ってるせいだろうなー。と思いました。
お酒の後だし薬は怖いなー。と響は思いました。
なので頭を優しくなでてあげることにしました。

春香「……ん」

ちょうど春香の頭を抱えるようなかっこうになります。
すぐに春香のねいきが聞こえました。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ━||:


響もねようとしましたがなかなかねつけませんでした。
たまに春香が起きてしまうからです。
二人でベッドを暖めて2時間くらいがたちました。

響は自分のお腹に抱きつくようにして眠っている春香を見ます。
先ほど起きたばっかりですがすやすやと気持ち良さそうです。

響「……なんで春香は家出してきたんだー?」

響は春香がねていると思って考えを口に出しました。
春香が家にきてくれて、響はうれしかったです。
でも春香が悲しそうな顔を何度かしていたのが響はいやでした。
響は春香に笑って欲しかったのです。

春香「……っ」

ちいさなちいさな声が響の胸にこだましました。

春香「みんな……みんなわたしがおきらくだって…………っ」

それは押し[ピーーー]ような声でした。

春香「わたしらしくないって……わたし、らしく……」

悲しみを風にしたような声でした。

春香「らくてんてきでまえむきで。それで……それで?」

響「…………」

響「そっか、春香はみんなが知らない場所で泣いてたんだね」

それは何かを許すような声でした。

響「みんなが知らない場所で、我慢してたんだね」

朝のやわらかい光のような声でした。

響「いいよ。自分の前では泣いてもいいよ」

春香「……っ! ひ、ひびきちゃんっ……!」

響「大丈夫。自分が一緒だから。ね?」

ぱちんとまくらもとの明かりが消えました。
あとは音だけが残りました。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ━||:


ちゅんちゅん。
どこかでことりのなき声が聞こえます。
ぴよぴよ。
どこかで小鳥がカメラを回す音が聞こえます。
幻聴です。

もぞもぞと春香が起きようとしています。
おふとんがあったかいのでなかなか目を開けられません。
なんだか頭も痛いです。
昨日の記憶があまりありません。
そもそもここはどこだろう? と思い春香は目を開けます。

春香「!」

メタルギアなんちゃれのようなビックリマーク。
目の前に響の顔がありました。
すやすやとねいきがほほにあたります。
ゆっくりと響を起こさないように離れます。
なんかの間違えでぺけぺけしちゃいそうだ。と春香は思いました。
響はすやすやと気持ちよさそうにねています。
春香はなんとなくいいなー。と思いました。
春香は天使の寝顔ってこんなのかなー。と思いました

響「……ん。だめぇ」

響がくねっと寝返りをうちます。
春香からすこし離れます。
春香は上半身だけ起こして響を見ています。
昨日のことは思い出せそうにありません。

響「だめはるかー」

春香「……?」

響はくねくねしています。
別にくねくねじゃないので見てもくねくねにはなりません。
くねくね。

響「だめぇだよはるかー、いっちゃうー」

どんなゆめ見てるんだろう? と春香は思いました。
後生ですから混ぜて欲しいなとボクは思いました。
春香はそっとほどかれた響の髪を手ですくってみました。
さらさらと指の隙間から流れていきます。

響「んーおっきいー。ひゃいらないー」

春香の頭の上には、おっきなはてなマークが浮かんでいます。
春香は響に変な性癖の種を植え付けたことは忘れているみたいです。


響「……あー、変な夢見たぞー。絶対昨日のせいだー」

春香「どんな夢?」

響「…………」

春香「?」

春香はきょとんとした顔をしています。
響はうがっとした顔をしています。
どんな顔だよ。

響「……忘れて」

春香「いや」

響「お願い」

春香「ダメ」

響「なんくる」

春香「ないさ」

響「お願い」

春香「イヤ」

響「…………」

春香「……だめぇだよはるかー、いっちゃうー」

響「!」

春香「どこにいっちゃうの?」

響「…………」

春香「んーおっきいー。ひゃいらないー」

春香「なにがおっきいの?」

響「…………ぅ」

響の顔が真っ赤です目がしめっています、泣きそうです。
それを見て春香はなんだかぞくぞくしました。
もっといじめたくなりました。


響「……えっと、その…………」

響はたまに春香の顔を見てそしてすぐ目をそらします。
そんな響を見て春香はかわいいなー。と思いました。
いじりたくなるかわいさでした。

響「……ご、ごめんなさい」

でも春香は響に昨日何かをゆるしてもらった気がしたので。

春香「うん。いいよ」

春香も響をゆるしてあげることにしました。
そしてぎゅっとしました。
なぜかそうしないといけない気がしたからです。

春香「おはよう、響ちゃん」

響「うん。おはよ春香」


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ━||:


台風一家という言葉があります。
台風が過ぎても、家族はいっしょという意味です。
うそです。
げんかんから見える空は、とてもあおです。
みんなが春香のお見送りにあつまっています。
ねこ吉が春香の足元でじゃれています。

響「自分も行かなくても平気?」

春香は響が貸してくれた洋服を着ています。
昨日の今日でまだお洋服が乾いていないからです。
さながらペアルックです。
女の子どうしのペアルック、あると思います。

春香「うん、もう大丈夫」

春香が笑って答えました。
青空に負けないような笑顔でした。
まぶしいなーと響は思いました。
そして、少し寂しくなりました。

響「そっか」

春香「うん」

響が何かを言おうとして、何度も口を動かします。
でも声は出ません。
先に喋ったのは春香でした。

春香「ありがとう響ちゃん」

青空のように澄んだ言葉でした。

響「ありがと春香! うれしかった、楽しかった!」


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ━||:


春香と春香のお父さんが仲直りしたのはいうまでもありません。

がなはるはもっと流行って欲しい。がなはるがなはる。

おしまいです。おちなくてごめんね。

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