ドラえもん「今日はね、のび太君に土産話があるんだよ」 (63)

 ドラえもん「今日はね、のび太君に土産話があるんだ」

 ドラえもん「出来杉君って覚えてるかな。出来杉英才君」

 ドラえもん「小学校の頃はスポーツ万能成績優秀の」

 ドラえもん「ふふっ、こう言っちゃったら君に失礼だろうけど」

 ドラえもん「正にのび太君と正反対のような人間だった」

 ドラえもん「でも小学校まで」

 ドラえもん「中学校からは君が出来杉君の地位を脅かすほどに努力して成績を上げていった」

 ドラえもん「まあ運動に関しては出来杉君のほうがやっぱり上だったけどね」

 ドラえもん「君が出来杉君と交流があったのはどれくらいまでだったかな」

 ドラえもん「小学校では同じクラスで少し交流があった」

 ドラえもん「けどのび太君が中学校に上がるとクラスが分かれて交流がなくなっていったよね」

 ドラえもん「高校では出来杉君はみんなと違う学校に進学した」

 ドラえもん「あの事件があった一ヵ月後くらいかな」

 ドラえもん「出来杉君の方から僕にコンタクトをとってきた」

 ドラえもん「正直驚いたよ」
 
 ドラえもん「向こうはもう僕らのことなんて忘れて楽しいリア充生活を満喫していると思ってた
      からね」

 ドラえもん「少し脱線しちゃったかな。本題に戻るよ。何で出来杉君が僕に再び近づいてきたか」

 ドラえもん「それはね」

 ◆

 
 僕、出来杉英才は何でも出来る。
 過ぎるほどに。

 勉強だって運動だって僕にかかれば一番になれたんだ。
 だからかな。
 小学校を卒業する少し前くらいから僕は周りを見下すようになった。

 どんなに努力しても到底僕には届かないよ。
 君たちがやっていることは素手で空にたゆたう雲を掴むようなもの。
 世界は僕を中心に回っている。
 そう、思えたんだ。
 小学校までは。
 中学校から段々と変化していったんだ。

 野比のび太。

 小学校の頃は全くといって勉強なんて出来なかった彼は僕の心のよりどころだった。
 ただこのよりどころというのは決していい意味ではない。
 彼が底辺であればあるほど僕は優越感に浸れたのだ。

 その彼が、僕と同等の、いやそれ以上の成績と周りの信頼を得た。
 言うなれば――下克上。

 今まで虐げられていた者からの報復。

 僕はその時上辺だけの賞讃をおくった。
 上辺だけの、讃える気など全くない、空虚の言葉。

 思えばこれが最初だった。
 これが物語りの起点であり、僕の人生を狂わせ始める原点でもあった。

 ◆


 まさか、あの野比君が僕を抜いて首席になるとは思わなかった。
 この僕が次席、二番、ありえない。

 僕はいつも一番でなくてはいけないんだ。
 そう決まっているんだ。
 いや、そう決まっていた。
 
 野比君が初めての学年首席をとってからだ。
 僕はそれ以降ずっと次席になった。
 心中彼を恨んだよ。
 事は自らの責任であることは重々承知していたはずなのに。

 でも途中で転機があった。
 悔しいのはこれもまた彼自身によるものだということだろうか。
 
 野比のび太の不登校。

 ある日突然彼が不登校になり学校に来なくなったのだ。
 当然テストも受けていない。

 交流はもうあまりなかったが周囲との関係上残念そうに振舞った。
 だが心の中では満面の笑みを僕は浮かべていたのだ。
 
 これで、もう一度あの頃に。
 輝かしかったあの、僕が中心だった頃に。

 戻れる――はずだった。

 今までは眼中になかったしずちゃんが今回のび太君に取って代わって首席の座についた。
 おかげで僕はまた二位。

 どうやら僕は一位馴染んでいたように今度は二位に馴染んでしまったようだ。

 僕が中学校で首席になることは二度となかった。 

 自分の力ではもう中心に戻れない。

 その日、僕はそう悟った。

 そしてとうとう首席に返り咲くことは出来ずに、中学校を卒業した。

初期は太郎ですが修正されたので英才でいきます

 ◆


 高校は野比君たちとは他の学校を選んだ。
 これが功を奏したのか、それともただの偶然か僕は見事に首席の座をもぎ取る事に成功する。

 しかし今度はまた違う問題が出てきてしまった。
 中学時代も何度か似たようなことがあったのだが、今度は少しばかり悩まされた。

 陰湿ないじめ。

 剛田君のように力で直接的に干渉してくる低脳なら軽くあしらえるのだが今回はそうはいかな
かった。
 直接的干渉なら職員にでも報告――もとい相談すれば陥れることさえ可能だ。
 実際中学時代の先輩は町内では有名人になり、どこの高校も遠慮したようにその先輩の入学
を拒否していた。

 つまり、今回僕が受けている周囲の嫉妬は職員に訴える証拠がない、ということだ。

はいその人です

 形に残るような被害は一切なく、こちらを陥れるだけを考えたように行われる行為。
 低脳なクズどもには到底できるはずのない、僕のような人間にしかできない綿密に練られた計画。

 止めさせたくてもできない。
 自らの力では何もできない。
 あの時と同じように。
 
 そうして段々と学校に行くのも億劫になっていった。
 そんなことがしばらく続いたある日のことだった。

 
 ***「出来杉君、だよね」

 出来杉「そうだけど、僕に何か用?」

 ***「まあちょっとね」

 出来杉「そう……ところで君の名前は?」

 ***「ふふっ、覚えているはずもないか」

 出来杉「えっと、昔どこかであった?」

 ***「うん。小中学と同じだったよ」

 ガリベン「僕の名前は、ガリベン」

 出来杉「ああガリベン君か、ごめんね」

 ガリベン「思い出してくれてよかったよ」

 ガリベン「それと本編にほとんど登場しないモブなんて知らねぇよという人はこちらをどうぞ」
      http://img.jamilog.jami-ru.com/20120730_3039559.jpg
  
 出来杉「それで用って言うのは?」

 ガリベン「そうそうこっちが本題だったね」

 ガリベン「ちょっと分からない問題を教えてもらおうと思って」

 出来杉「そのくらい別にかまわないよ」

 ガリベン「この問題なんだけど……」

 出来杉「ああこれはまずここをこうして……」

 
 これがガリベン君との再開。

 この日をきっかけに、僕はガリベン君との交流を深めていった。

 ◆


 今日、ガリベン君に僕が被ってきた被害を打ち明けようと思う。
 今まで僕が誰にも相談せずに一人で背負い込んできた、あの日々を。
 大丈夫、ガリベン君にならきっと分かってくれる。

 出来杉「ねぇガリベン君」

 ガリベン「なんだい?」

 出来杉「実はね……」

 そこで僕は自分の今置かれている状況を赤裸々に語った。
 自分が言っても無駄なこと。
 確定するための証拠がないこと。
 そんな時に、ガリベン君がいてくれたこと。

 ガリベン「そう……確かに出来杉君はなんでも出来て敵が多そうだからね」

 ガリベン「でも、証拠があればいいんだよね」

 出来杉「だけど向こうはやることすること全てが形に残らないようにしているんだ」

 ガリベン「計算ずくの計画なんだろうけど、そういうものほどイレギュラーな事態に対処できな
     いんだ」

 出来杉「というと?」

 ガリベン「君がイレギュラーになればいいんだよ」

 出来杉「具体的には?」

 ガリベン「そうだな……これは僕が読んだ本にあったことなんだけど」

 ガリベン「その人はとても真面目な生徒で副会長」

 ガリベン「次の会長は誰もが彼とみんな思っていた」

 ガリベン「けど次の生徒会長選挙が始まるとある異変が起きる」

 ガリベン「彼がいきなり髪を金髪に染めてきたんだ」

 ガリベン「彼自身の意思でそうした」

 ガリベン「こうすれば生徒会長にならなくて済むと思った、というのが理由らしい」

 ガリベン「まあ本当の理由は現会長が好きで卒業して留学してしまう現会長と離れたくなかった
     からなんだけど」

 出来杉「簡潔にどうぞ」

 ガリベン「つまり君が普段絶対とらないような行動や言動だったりとかそういう事態になれば連中
     の何かが掴めるんじゃないかな」

 出来杉「それも一つの手だね」

 出来杉「ねぇガリベン君」

 出来杉「よければだけど、君に手伝って欲しいんだ」

 出来杉「犯人の証拠を掴むのを」

 ガリベン「もちろん協力するさ。一緒に頑張ろう」

 出来杉「ありがとう、これからもよろしく」

 その後僕たちはどのようにして犯人の尻尾を掴むかという議論をした。
 後日その結論は実行されることになる。
 きっとその数日後には犯人の正体を暴き出し、僕は幸せな学園生活を謳歌できるようになるだろう。

 ◆


 僕たちの議論して出した作戦はいたってシンプルだ。
 シンプルなだけに相手の目につきやすく、また相手のとる行動もこちらに分かりやすい。
 それに議論と言う議論もしていないと思う。
 実際集まってやったことは本を読んだりDVDを見たりとそういうことばかりしていた。

 今回の作戦とはつまり――パクリだ。

 ガリベン君の言っていた本のストーリーに基づいて動けばいい。
 そのために本を読みアニメ版DVDの一部を重点的に見た。

 簡潔にまとめる。

 さっきも言ったように基本的にはその作品の踏襲。
 髪を金髪に染めて一日生活すればいい。

 そうして相手の反応を見る。

 一日だけなら教師陣だってそう重い処分はせず注意だけで済むはずだ。
 だがそれは裏を返すと一日で済まさなければそれなりの処分を受けるということ。

 これまでの僕だったら絶対に実行しないような作戦だ。
 何でも完璧に、確実に、合理的に事を進めてきた僕だったら。

 でも今は一人じゃない。
 ガリベン君がいる。

 僕自身もどうかしていると思う。
 そんなのだってただ人が一人増えただけ。
 ただそれだけのことで僕はこの策を実行する。

 滑稽だよ。
 周囲を見下して、陥れて、嘲笑っていたこの僕が今は周囲の人間を頼りにしている。

 でも、それでも僕は今の彼との関係を壊したくない。
 だからこそ彼の提案したこの策をすぐに承諾した。

 
 モブ1「おい……あれ、出来杉だよな」

 モブ2「でも、髪が金髪になってるわよ……」

 モブ1・2「「何かあったのかな」」

 周囲の人間に何かあったの思わせる。
 そうすれば向こう側だってなんらかの反応を示すはず。

 教師「出来杉、ちょっとこい」

 やっぱりきた。
 無能な教師からの注意。
 自らの職業柄しなくてはいけない最低限のことだけを行う低脳。
 
 それからしばらく無能の無能による無能の自己満足のための時間が続いた。

 ガリベン「大丈夫だった? 出来杉君」

 出来杉「ああうん。あのむの――先生の言うことだってもっともだったからね」

 出来杉「明日には元の髪に戻すし」

 ガリベン「そのことなんだけど」

 出来杉「僕の髪の毛のこと? 大丈夫だよフサフサさ」

 ガリベン「いやそうじゃなくて」

 ガリベン「今日、何かあった?」

 出来杉「何もなかったけど……あ」

 出来杉「うん……」

 何もない。
 いつもだったら素直に喜べるのだが、今回に限ってそうはいかない。

 僕がこうすることによっての相手の反応を見るのがこちらの意図。
 それが何も起こらないと僕はただ学校に反発しただけのクズになってしまう。
 いや、これが向こう側の意図したことなのか。
 そう考えると今日何も起こらなかったこの事態はどうなる。

 分からない。
 この事態になったのが向こう側の過程だとしても最終目的だとしても僕がこうなることに利がある
のだろうか。

 だって向こう側の目的は僕への嫌がらせのはずだ。
 嫌がらせする相手がひねくれたら向こうの目的は達成され次の段階に移ると思っていたのに。

 ガリベン「何の反応も見られなかった」

 出来杉「大丈夫」

 ガリベン「大丈夫って、どうするんだい?」

 出来杉「……ける」

 ガリベン「え? 何?」

 出来杉「続ける」

 出来杉「この状態を続ける」

 ガリベン「何を言っているんだい今日でさえ先生に呼び出しを食らっていたのにこれ以上続ける
     なんて……」

 出来杉「だからこそ、だからこそなんだ」

 出来杉「ガリベン君が見せてくれた本にもあったよね」

 出来杉「どんな逆境でもあきらめない男の話」 

 出来杉「あの男のように僕は賭ける」

 出来杉「僕の破滅が先か、向こうが動くのが先か」

 ガリベン「出来杉君……」

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom