フレンダ「し、死にたくない……」QB「それが君の願いだね?」 (1000)

前スレ
フレンダ「し、死にたくない……」QB「それが君の願いだね?」 - SSまとめ速報
(http://hibari.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1310999885/)

また最初から貼ってくの?

すまない、あと数レスで終わったんだが……

>>3
板変わったし、前スレの分貼るよ
SS速報の住人が全員が全員、●とか持ってるわけじゃないしね

 フレンダは逃げ疲れていた。

 壁に背を持たれて座り込み、息を荒く吐き出しているだけ。もう何もできなかった。

 足はもう動かない。逃げて逃げて、逃げ続けて、もう心臓も足も、壊れそうなくらい疲労している。

 どこかで爆音が響く。あのレベル5の、絶対的な力が脳裏を過ぎる。
 そして、その力は、今は自分を[ピーーー]ために向けられているのだとわかって、さらに体が震える。

 怖い。怖ろしい。殺される。

フレンダ「嫌だ……嫌だ……死にたくない……」

 絞り出すように、誰へとなんて意識せずに懇願する。また、爆音が響いた。

フレンダ「誰か……助けて……」

 助けになんて、誰も来るはずがない。わかってる。でも、言わずにはいられない。爆音が響いた。

フレンダ「助けて……助けて……」

 ただただ、壊れたレコードのように、同じ言葉を繰り返す。意味なんてないのはわかってた。

「呼んだかい?」

 すると、その場に似合わない、明るい声が横から答えた。

フレンダ「ひっ……」

 驚いたフレンダは横に転がるようにして、後ずさる。だが、すぐにそれは、フレンダの恐れてるモノではないとわかった。

「酷いなあ、これでも愛らしい姿をしていると自負しているんだけど」

 それは白かった。真っ赤な目をした、ウサギのような、猫のような、少なくとも、フレンダの見たことのない生物であることは確かだった。

フレンダ「誰……?」

 恐る恐る、聞いてみる。人語を話してるせいか、思わず、何、ではなく、誰と聞いてしまった。

QB「僕はキュゥべえ! 君のような素質のある女の子を探していたんだ」

 果たして、それは正解だったらしい。それは、キュゥべえは確かに日本語で返答してきた。

フレンダ「素質……?」

QB「そう、素質。魔法少女の素質さ。僕は君たちと契約して魔法少女になってもらいたくて、ずっと素質のある女の子を探してるんだ」

QB「もちろん、ただで、とは言わないよ? 魔法少女になってくれたら、なんでも願いを一つ、叶えることができるのさ」

フレンダ「何でも……?」

 思わず、フレンダは復唱した。その言葉は、酷く魅力的だった。

QB「そう、なんでもさ。大抵のことは可能だよ」

「フゥゥゥゥレェェェンンンダァァァァ? どぉーこに隠れちゃったのかにゃー?」

フレンダ「ひぃっ!」

 その時、地獄の底から響くような、悪意と殺意と恐怖を練り固めたような声が響いた。

フレンダ「し、死にたくない……」

 反射的に、声が出る。

QB「それが君の願いだね?」

 それに、キュゥべえが答えた。

フレンダ「死にたくない……死にたくない! 魔法少女でもなんでもいい、私は死にたくないっ!」

 欲望を、感情を、願望を、フレンダは無表情のキュゥべえに向けて一気に吐き出す。

 突拍子もない話なのに、信じたかった。もう藁にも縋る気持ちだった。

QB「よし、契約成立だ」

 その気持ちにキュゥべえは快活に答えた。

 キュゥべえの耳の辺りから伸びる触手のような器官が、フレンダの胸元へ伸びる。

 すると、フレンダの胸元から光が溢れ、そこに球体が形成されようと——

フレンダ「えっ?」

 その瞬間、真っ白の閃光がフレンダの視界を焼き尽くした。

フレンダ「きゅ、キュゥべえ!?」

 キュゥべえと名乗る最後の希望がその激しすぎる光に飲み込まれたという事実を遅れて認識し、遅れて慌てる。

 だが、どこを見渡しても、キュゥべえの姿はない。

 当然だ。あの光、粒子でも波形でもない曖昧な電子の奔流に飲み込まれて生きてるわけがない。跡形が残ってるわけがない。

 見れば、フレンダが背中を預けていた壁、ビルに大きな穴が空いていた。つまり、ビルごと貫通した光が、キュゥべえを焼き尽くしたということになる。

 こんなことができるのは、当然、一人しかいない。

「見ぃーつけた」

 その一人が、白い光を纏った悪魔が、穴から顔を出した。

「ったく、手間かけさせやがって。さっさと殺されてろっての」

フレンダ「え……あ……」

 もう逃げられない。腰が抜けて、立ち上がることすらできない。必死に、手だけで這って逃げようとするが、一歩で追いつかれた。

「でも、この私からここまで逃げたってことは評価してやろうかしらね。よし、提案。その小憎たらしい顔と、フレンダご自慢の脚線美の、どっちを吹き飛ばしてほしいか、選ばせてあげる」

 悪魔がにこりと笑う。フレンダはそれだけで限界だった。

「あーん? なんだなんだ、フレンダったら濡れ濡れじゃない。それじゃ決定ね。
 そのビッチな下半身に『原子崩し』をプレゼントだ」

 悪魔が手をかざす。意思一つで軍隊に匹敵する力を持った手をかざす。

フレンダ「ゆ、許して……」

「は……? アハハハハハハハハ!」

フレンダ「む、麦野……?」

 突然笑い出した、仲間に、フレンダは少し安堵を覚えた。なんだかんだで、仲間なのだ。きっと、精一杯謝れば以前みたいに……

麦野「絶対に、許さない」

 そんな淡い希望は一瞬で打ち砕かれた。

 フレンダの記憶は、そこまでだった。

——
フレンダ「……あれ?」

 フレンダが目を覚ますと、そこは天井があった。つまり、屋内だった。

フレンダ「ここは……」

 辺りを見渡す。現状確認をすると、自分はベッドに寝かされていたようだった。

 真っ白なシーツに真っ白なベッド。そして、真っ白なカーテン。病院のようだった。

フレンダ「あれ……私ってば、どうしたんだっけ……」

 記憶を掘り返す。フレンダは、垣根帝督に追い詰められて保身のために、仲間の、『アイテム』の情報を売った。

 その場は逃がしてもらったのはよかったが、それが『アイテム』のリーダー、麦野にバレて、粛正を受けるところを逃げて。

 そして、殺されたはずだった。

 しかし、フレンダは、生きてる実感があった。

フレンダ「まさかここが天国ってわけ……?」

「いや、ここは僕の戦場であり、休息所だよ?」

 ふと、呟くと、どこからともなく、答えが返ってきた。

「おはよう、気がついたようだね?」

 それは、医者だった。初老の男性で、白衣を着てるのだから、やはり医者だろう。

フレンダ「ゲコ太……」

 思わず口走ってしまうくらいの、強烈な印象は、それだった。カエルのような顔をした医者だった。

「ん?」

フレンダ「な、なんでもないわけよ」

 しかも聞こえていたらしい。失礼そうなので、フレンダは慌てて取り繕った。

「そうかい? しかし、驚いたよ? 君は腰から下がまるまる無くなっていたというのに、肉体的に生きてたんだ。しかも徐々に再生していってね?
 君は『肉体再生』の能力者か何かかい?」

フレンダ「えっ……」

 そんなはずはない。フレンダは、正真正銘の、正常の人間のはずだった。

「お陰で処置は簡単だったよ? ほとんど手を加える必要もなかったね?」

「それでも、体は回復しても、精神的なダメージが深刻なようでね……この一ヶ月、眠り続けていたんだよ?
 まあ、あれでも生きてたってことは、下半身を生きたまま焼かれたということになるから当然だろうけどね?」

フレンダ「ひぅ……」

 記憶が呼び覚まされる。あの電子に焼かれる悪夢のような記憶が。

「ああ、すまないね、辛いことを思い出させてしまったね?
 でも大丈夫、目を覚ましたのなら、もう検査だけで、退院できると思うよ?」

フレンダ「生きてる……んだよね」

 右手を見つめて、握って、開いて、握って。

 結局、検査が終わった後、フレンダは退院した。今はとりあえず昼食を取ろうと、ファーストフード店に来ていたところだ。

 学園都市はどうも慌ただしい。店内の会話に耳を傾ければ、何やら第三次世界大戦が終わったとかなんとか、そんな話を誰もがしていた。

 どうやら眠っていた一ヶ月の間に色んなことがあったらしい。情報を入手する手段を持たないフレンダには、まるで異郷の地へと放り出されたような感覚だった。

 護身のために一応武器は調達したが、暗部の方には連絡する気はない。生きてると麦野に知られれば、また粛正されようとするのは目に見えている。

フレンダ「はぁ……結局、これからどうすればいいってわけよ」

QB「魔法少女として戦うしかないんじゃないかな」

 溜息を吐きながらフライドポテトを食べていると、不意に声を掛けられた。

QB「やぁフレンダ、目が覚めたんだね」

フレンダ「きゅ、キュゥべえ! 生きてたんだ!」

 見ると、テーブルの上に、フレンダに取引を持ちかけた、あの白い生物キュゥべえがいるではないか。
 フレンダにとって、これは僥倖だった。仲間も、知り合いからも断絶されたフレンダの、唯一の顔見知りとも言える相手だったからだ。

QB「く、苦しいよフレンダ」

フレンダ「あ、ごめん」

 感激のあまり、思わずキュゥべえを抱きしめていたフレンダだったが、言われて解放する。

QB「ふぅ、わけがわからないよ」

 解放されたキュゥべえは毛繕いをするように前足で自分の顔を撫でる。

フレンダ「それで……結局、魔法少女ってどういうわけなのよ?」

QB「あの時は切羽詰まっていたみたいだからね、説明は省略したけども……君は生き残りたいと願って、その願いは叶った。その代償として君は魔法少女として魔女と戦う義務が課せられたんだ」

フレンダ「ちょ、ちょっと待って。願いってなんだったわけよ、魔女ってなによ」

QB「君は生き残りたいと願ったのだろう? だから本来は死ぬはずのあの怪我でも、生き残ることができたんだ。つまり、願いが叶ったってことだね」

QB「魔女は、人に呪いと災いをもたらす存在さ。そして、魔法少女が退治するべき敵でもある」

フレンダ「そんなファンタジックな……」

 信じられない、そんなような口調で呟いて、フレンダはストローを咥える。

フレンダ「いや、私が今ここで生きてること自体がファンタジックか……」

 しかし、すぐに思い直す。そう、思い返せば、あの状況から生き残れるわけがないのだ。

フレンダ「魔法、か……この科学の街でそんなものがあるなんてね」

QB「わかってもらえたなら助かるよ」

 キュゥべえは毛繕いが終わったらしい。ポテトを勝手に食べ始めていた。

フレンダ「それで、結局魔女と戦うってどうすればいいわけ?」

 ファーストフード店で食事を終えた一人と一匹は、秋空の街を歩く。

QB「基本的に、ソウルジェムを使って探すって方針かな?」

フレンダ「ソウルジェム?」

QB「ほら、君の左手についてる指輪があるだろう?」

フレンダ「いつの間に……」

 言われて気がついたが、よく見れば左手の中指にいつの間にか身に覚えのない指輪が嵌められていた。

QB「そこからソウルジェムを出すんだ。感覚としてわかってるはずだよ」

フレンダ「むむむ……こうかな?」

 フレンダが軽く念じると、左手の中に何かが生まれた。

 それは、卵のような形をした宝石らしきもの中心に埋め込まれ、その周囲を骨組みで囲われ、下を台座で支えられ、頂きにアクセントを添えられた外見をしていた。
 宝石のように見える部分は仄かに黄色の光を放っている。

QB「それがソウルジェムさ」

フレンダ「へぇ……綺麗ね」

QB「大事にしておくれよ? それは君たちの分身と言っても過言じゃないくらい大切なものだからね」

QB「さあ次はそれの光に注目するんだ」

QB「ほら、歩く度に光が強くなっているのがわかるだろう? ちょうどこの先に魔女がいるみたいだ。
  魔女のような、魔翌力の強い存在がいると、それに反応してソウルジェムが光るのさ」

QB「基本的に、それを目印にして魔女を捜し出し、退治するっていうのが方針かな?」

フレンダ「……なんか、意外と地味」

QB「現実というのは往々にしてそんなものだよ、フレンダ」

フレンダ「魔法なんて言ってる時点で現実も糞もないと思うんだけどなあ」

QB「魔法も、魔術も、現実には確固として存在するものだよ」

フレンダ「まあ、だから結局私も生きてるってわけなんだけどね」

 ふと、フレンダが立ち止まる。

QB「どうしたんだい?」

フレンダ「私ってば、本当は死んでたわけよね?」

QB「そうだね。あそこで僕と契約しなければ君は間違いなく、肉体的な死を迎えていただろうね」

フレンダ「つまり、これは私の第二の人生というわけね」

QB「うーん、ずっと生きてるから第一も第二もないと思うのだけど、君たちがそう思うならそうなんだろうね。君たち人間の考えることはよくわからないや」

フレンダ「……よし、決めた!」

フレンダ「人に災いと呪いをもたらす魔女? そんなブッソーなもんはこのフレンダちゃんがぶっ倒してやるってわけよ!」

フレンダ「暗部で働いてたのも今は昔! 心を入れ替えて、正義の魔法少女として頑張っちゃうわけよ!」

フレンダ「誰もが小さい頃から憧れる魔法少女……それが私ならやらない理由はないっしょ!」

 おー、とフレンダはソウルジェムを握った右手を強く天に突き出す。

QB「……一応補足しておくけど、僕は普通の人には見えないから、今のフレンダはとても奇妙な人として注目されてるんじゃないかな?」

フレンダ「えっ」

——
フレンダ「ここが魔女の根城ってわけね……」

 スキルアウトが闊歩していそうな、裏路地を進むこと十数分、フレンダは一際ソウルジェムが反応する場所に辿り着いた。

 そこは人気のない倉庫だった。窓は割れて荒れ放題、壁には恐らくスキルアウトがしたであろう落書きで満載。

 明らかに使われていない、廃倉庫のようであった。

フレンダ「さて、突入と」

QB「その前に変身しておいた方がいいんじゃないかな?」

フレンダ「へ、変身?」

QB「魔法少女としての戦闘モードに切り替えることだよ。そのまま戦うのは些か面倒だからね」

フレンダ「変身まであるなんて……いよいよ魔法少女ってわけね……!」

 フレンダがソウルジェムを握って、変身後の自分をイメージする。誰に教えられたわけでもないが、変身の方法はなぜか理解していた。

フレンダ「おおっ! 本当に変身できた!」

 変身した自分の全身を確認して、興奮するフレンダ。

フレンダ「すごいすごい! 本当に魔法少女ってわけよ!」

QB「喜ぶのはいいけど、まずは魔女退治が先決じゃないかな?」

フレンダ「わかってるってわけよ。それじゃ、とつにゅー!」

 倉庫へ入ると、そこは異世界のような空間が広がっていた。

 倉庫に入ったはずなのに、そこは倉庫ではまるでなく、奥に扉の鎮座する、子供の部屋のよう。

 そして中空を舞う人形、人形。そして人形。しかもそれらはだまし絵のような形をして、現実では絶対にあり得ない形をしていた。

 フレンダが入ったことに人形たちは気付く。動かないはずの顔が動き、全員が全員、笑ったような顔になる。

フレンダ「うぇっ……なんだこれ」

 あまりの壮絶な非現実感に、フレンダは苦い顔をした。

QB「これは使い魔だね。魔女の手下さ。本体の魔女はこの奥にいるんじゃないかな」

フレンダ「そういう意味じゃないんだけどね……よっしゃ、じゃあいっそやりますか!」

QB「じゃあまずは魔法少女としての武器を——」

 キュゥべえの言葉を最後まで聞かずに、フレンダは使い魔の群れへと突っ込む。

QB「ああ、もう」

 説明を聞かずに飛び出したフレンダに、キュゥべえは溜息を吐いた。

 当然だ。さすがに魔法少女として身体能力は強化されていても、それだけでは魔法少女になったばかりの少女が使い魔には勝てるわけがなかったのだ。

 だが、キュゥべえの予想は外れる。

フレンダ「ひゃっほう!」

 銃声が何発も響き、人形たちの体が砕かれていく。

 フレンダの両手には拳銃が握られていた。そこから吐き出される銃弾は寸分違わず、全て人形に命中している。

 とても人間業ではなかった。

フレンダ「体軽っ! これが魔法少女パワーってわけ!? すごい!」

 銃の反動など、存在しないように玩具の人形を撃ち抜くその銃こそ、玩具のように見えるほど。

 弾倉が空になると、フレンダはマガジンを捨て、服の中からさらにマガジンを取り出し、弾を補充する。

 さらに撃ち抜かれること数体、小さな人形では歯が立たないことを使い魔たちが理解したのか、十数体の人形が一つに集まる。

 するとそれらはまるで粘土のように混ざり合い、一つの巨大な人形へと変貌する。

 しかしフレンダは焦ることはない。銃を躊躇いもなく捨て、服の中から、手品のように新たな武器を取り出す。小型ミサイルだ。

 発射されたそれは巨大な人形という巨大な的に見事、命中し、爆発。

 二分も掛からない内に、夥しい量の人形たちは全て撃墜され、跡形もなく消え去っていた。

QB「僕の話をもう少しゆっくり聞いてくれると嬉しいんだけどな」

フレンダ「結局、使い慣れた武器が一番ってわけよ」

フレンダ「さてと、次行くわけよ」

 その後もフレンダの快進撃は続いた。

 扉を開けると同じような子供部屋がその奥に続いており、さらに人形が同じように存在する。

 しかしフレンダの相手にはならなかった。

 その人形たち、つまりは使い魔たちは全て近代兵器の前にひれ伏し、誰もフレンダを止めることはできなかった。

 かと、思われた。

フレンダ「はぁはぁ……どこまで続いてるわけよこれ……」

 もうどれだけ進んだだろうか。どんなに進んでも、一向に目的の魔女にはたどり着けない。

 フレンダの装備はもちろん有限で、もう拳銃のマガジン一つしか残っていなかった。

フレンダ「やばっ……弾切れ……」

 そして、それも尽きる。

 人形が、三日月のように裂けた口を大きく開けて、武器の尽きたフレンダを食らわんと肉薄する。

 それに反応してフレンダは靴の踵からナイフを出す。そのまま踵落としを食らわせ、人形は沈黙。塵になる。

QB「フレンダ!」

 その時、キュゥべえが叫んだ。

 見上げるとそこには、天井に蜘蛛の巣を張り、その中央に座した巨大な蜘蛛の怪物のようなモノがいた。

QB「あれが魔女だ!」

フレンダ「くっ……!」

 キュゥべえが二言目を叫ぶと同時に、その蜘蛛は極太の糸を吐き出す。間一髪、フレンダはそれを避ける。

フレンダ「なるほどね、獲物が弱るのを待ってたってわけ……!」

 二撃目、三撃目と続いて、極太の糸が吐き出される。フレンダは必死に避ける。

 だが、すぐにフレンダは気がついた。避けて避けて、避ける先には子供部屋の角があることに。

 つまり、誘導されていたのだ。

 そしてそれに気がついて、気がついたからこそ、動揺し、反応が遅れる。

 今度の糸は、避けられなかった。

フレンダ「あうっ!」

 その糸はやはりというか、粘着性を持っているらしく、思わず左腕で防いだはいいが、そのまま一本釣りのように引っ張られる。

フレンダ(結局、私はこうなる運命ってわけ……!?)

数レスで終わりなら叩かれてもパートスレにすりゃ良かったのに

 その時、フレンダの脳裏にキュゥべえの言葉が過ぎる。

フレンダ「そうだ、武器、武器!」

 思い出して、イメージ。右手に何かが生まれた感触があった。

 見ると、それはナイフだ。しかもただのナイフではなく、サバイバルナイフだ。

フレンダ「なるほど、生き残るだけにサバイバルナイフねー、ってこれでどうやって戦えっていうわけよー!」

 そんなことをしてる間にも、さらに引っ張られる。物理的に考えれば、フレンダの体重からすればもう体が浮き始めているほどの力だったが、魔法パワーか、フレンダはまだ踏ん張ることができた。

フレンダ「こなくそっ!」

 とりあえず、この糸を切らなければ状況は変わらない。

 手にしたサバイバルナイフを思い切り糸に振り下ろすと、ブチブチという、まるで血管を人間の筋をまとめて切り裂くような、気持ち悪い手応えがあった。

 糸は綺麗に切れたらしく、フレンダは自由を取り戻す。

フレンダ「切れ味はいいみたいだけど……こんなのじゃ攻撃できないってわけうわっと」

 再び、糸による攻撃。今度は避ける。

フレンダ「……いや、もしかして」

 ふと、フレンダは思いついたように、意識を集中させる。そしてイメージする。
 思い描くのは、大量の、ナイフ。
 手応えは、確かにあった。

 見れば両手にナイフが四本ずつ、計八本、指の間に出現していた。

フレンダ「なるほど、こういう使い方ってわけね!」

 合点がいったように、フレンダはそれを投げる。

 勢いは、人間のものではなかった。魔法によって強化された筋肉が、強力な投擲を可能にしていた。

 ナイフは全て蜘蛛の魔女に命中した。蜘蛛の魔女がつんざくような悲鳴をあげる。

フレンダ「まだまだ、終わらないってわけよ!」

 フレンダは構わず、ナイフをさらに手中に出現させると投げる。そしてさらに投げる。
 目にも止まらぬスピードで大量のナイフを投げ続け、まるで機関銃のような威力を発揮した。

 ほどなくして、魔女の体は崩壊する。異世界のような空間だった倉庫が、元の廃倉庫の景色へと戻る。

 黒い何かが地面に落ち、コーンという、小気味の良い音を立てた。

フレンダ「た、倒した……?」

QB「危なかったね、冷や冷やしたよ」

フレンダ「ま、天才美少女魔法戦士フレンダちゃんにかかればこんなもんよ」

QB「魔法戦士じゃなくて魔法少女だけどね」

そういやSS速報嫌いって言ってたけどSS速報の何が嫌いなんだよ
連投規制や忍法帖ないし1レスも改行160行、6000バイトまで書き込めるし
保守の必要ないしどう考えてもVIPよりもいいとこだろ

>>27
もう一度建て直してるから、ね・・・

>>30
連投規制あるよ
sambaが25秒。VIPは最小3秒
あとSS速報は定期的に落ちる
何より、急かされなかったら俺は多分、書ききれない

——
フレンダ「これで、とどめ!」

 フレンダがナイフを投げる。するとそれは足の付いた蛇のようなモノ、魔女に直撃。

 魔女はほどなくして姿を維持できなくなり、崩壊した。

フレンダ「ふぅ……」

 結界も崩壊し、通常の風景、病院に戻ってフレンダは安堵の息を吐く。

QB「大分手慣れてきたね。あのクラスの魔女も簡単に倒せるなんて、凄い成長スピードだよ」

 どこからともなく現れたキュゥべえがフレンダの肩に乗る。

フレンダ「何をっ! 私は最初から強いってわけよ」

QB「最初は危なっかしくて見てられなかったけどね」

フレンダ「結局、最初は慣れてなかっただけってわけよ」

QB「だからそう言ってるじゃないか」

フレンダ「むぅ……」

 言い返せなくなって、フレンダは視線を落とす。

 すると、ソウルジェムが反応を示していることに気がついた。

QB「どうやら、また魔女が出現したようだね」

QB「これは、割と遠いね」

 すたっと地面に降りて、ソウルジェムの点滅を見上げて、キュゥべえが言う。

フレンダ「でも、魔女がいるなら行くしかないってわけよ。それが私の使命っ!」

QB「いや多分、そっちの方面は大じょ……ああ、行っちゃった」

 すぐさま魔法少女に変身したフレンダは、強化された身体能力でキュゥべえの言葉を聞かずに飛び出していく。

 キュゥべえは軽く溜息を吐くと、ゆっくりと、そのフレンダの後を追っていった。



「あれは……フレンダなのか……?」

 それを、物陰から見ている人間がいたことには、二人とも、気がつかなかった。

杏子「鬱陶しい!」

 佐倉杏子が槍を大きく振るう。すると蛾のように杏子の周りに集まっていた蝶の姿をした使い魔が蜘蛛の子を散らすように、散開した。

 魔女は目前。繭に籠もった姿をした魔女で、どうやらあれが本体らしい。

 近づくと先ほどの蝶の使い魔が大量に押し寄せて、近づけない。

 杏子の武器は槍であるため、戦いづらいことこの上ない。

 恐らく、魔女側も、それを見抜いてこその作戦なのだろう。

杏子「だけど、甘いんだよな」

 にやりと杏子は笑う。

 槍を握る手に力を籠める。

 イメージする、槍の変形する姿を。多節棍としての槍を。

 そして、それを振るおうと、その時になって、

フレンダ「せいやっ!」

 数えるのも億劫なほどの大量のナイフが繭の魔女に降り注いだ。

杏子「……は?」

 魔女は悲鳴をあげる暇すらなく、崩壊する。結界も次いで崩壊する。

フレンダ「いやー、私ってばやっぱり才能あるじゃないかな。大丈夫?」

 呑気な声と共に、闖入者が姿を現した。フレンダだ。

杏子「何しやがんだおい」

 剣呑な空気を漂わせて、睨み、杏子は言う。

フレンダ「えっ……なんかちょうどいい位置にいたからやっちゃおうかなっと」

 怒られたのが意外な風にフレンダは答えた。

杏子「そういうことじゃねえよ。あたしが戦ってるのが見えなかったのか?」

 カシャリと、杏子は槍を持ち上げて、穂先をフレンダへと突き付ける。

フレンダ「そ、そんなに怒らなくてもっ……どうせ魔女を倒すならお互い倒せる時に倒した方がいいってわけよ。
      それで助かる人は変わらないんだからさ」

 慌てて、フレンダは弁解する。

杏子「何を寝ぼけたことを言ってやがる。
   ……いや、なるほど。あんた新人か」

 杏子の声が若干、穏やかになるのをフレンダは感じた。

フレンダ「新人は新人でも、期待の天才新人ってわけよ」

 空気が落ち着いたところで、ふふんと自慢げにない胸を反らすフレンダ。

杏子「何か勘違いしてるようだけどな……」

 呆れた風に言いながら、杏子は槍を下ろす。

杏子「魔法少女ってのは慈善事業じゃあないんだ。生きるために必要なグリーフシードを集めるために戦ってるに過ぎないんだよ。
   そこで、実力もないくせに変なお節介なんて焼いてると後悔するのはあんただよ」

フレンダ「何をぅ……」

杏子「人助けのために魔女を倒す? 努力目標としては結構結構。だけどな、そんな甘ったれた気持ちで、子供の夢物語みたいなことやってたら——
   いつか死ぬぞ?」

杏子「食物連鎖って知ってるか? 学校で、小学生でも習う簡単な自然の摂理さ。
   弱い人間を魔女が、使い魔が食う。成長した使い魔や、魔女を食べて、あたしたちがいる。ただそれだけのことさ」

フレンダ「まさか……アンタ、グリーフシードのためだけに戦って、グリーフシードのためにならないことはするなって言いたいわけ?
      例えば、使い魔に人が襲われても、見殺しにするとか、そういうわけ?」

杏子「理解が早いじゃないか。当然っしょ。誰でも得にならないことはしないしない」

フレンダ「……どうやら私とアンタは気が合わないみたいね」

 フレンダの手の中で、金属音がした。ナイフを生み出す音だ。

杏子「お、やるってのかい?」

 それに敏感に反応した杏子が再び穂先を上げる。

 フレンダはそれを鋭く睨むと、即座に行動できるよう、重心を落とした。

杏子「やるってんなら、いいぜ。
   ——その代わし、あたしは強いよ?」

 杏子も両手で槍を握り、臨戦態勢を整える。

フレンダ「上等!」

 答えと共に、フレンダは手の中に生まれたナイフを投げつけた。


QB「ああもう、困ったな……」

 その二人を眺めていたキュゥべえが、独りごちる。

QB「こんなことをしてる場合じゃないってのに……仕方ない、彼女を呼んでこよう」

 フレンダが投げつけたナイフが目視するのが難しいほどの速度で杏子に迫る。

 これに対し杏子は正確に、かつ迅速に、全てのナイフを難なく槍で叩き落とす。

 さらに間を開けずに、矢のような速度でフレンダに接近。槍を思い切り叩き付ける。

 ゴバッという凄まじい音が響いた。

 しかし、手応えはなかった。

杏子「避けたか」

 まるで爆撃があったかのように大穴が空いたコンクリートにフレンダの姿はなかった。

 自分の威力を誇ることもなく、即座に杏子は槍を振るいながら、半回転。

 ナイフが、背後に迫っていたが、全て叩き落とされる。

フレンダ「うへっ……背中に目でもついてんの!?」

 見ればフレンダは壁にナイフを突き刺し、足場にしながら高い位置に立っていた。

杏子「新人がやろうとすることくらいわかってるさ」

 杏子はその場で槍を振るう。同時に、槍はただの槍から多節棍へと変化し、フレンダの位置まで伸びた。

フレンダ「げっ!」

 慌てて飛んで、フレンダは避ける。
 壁は大きく抉れ、コンクリート片が辺りに撒き散らされた。

杏子「新人は、魔法少女になる前の感覚が残ってるんだよな。
    だから、攻撃も、一般人に有効なものばかりやりたがる」

 空中に逃げたフレンダを目で追いながら、杏子は言う。

フレンダ「食らえっ!」

 そんな余裕綽々の杏子にフレンダはナイフを投げつけるが、やはりそれは軽々と弾かれる。

杏子「ダメなんだよ、それじゃ。魔法少女相手に、そんな常識的な戦い方をしちゃダメだ」

 杏子が獲物を狙うような目で、フレンダを睨み付ける。

 フレンダはぎょっとして、さらにナイフを投げつけるが、やはり弾かれる。

杏子「そして、急に超人的な身体能力を手に入れたから、新人はそうやってすぐに空を飛びたがる」

 再び、杏子は両手で槍を握る。

杏子「煙となんとやらは高いところが好きってな。空中は逃げ場がないってのは、バトル漫画の定石っしょ」

 そうして、多節棍となり、伸びた槍がフレンダに叩き付けられた。

 当然、杏子の言う通り、フレンダに避ける術はなかった。

 フレンダもただ受けるだけではない。かろうじて、ナイフを両手に生み出し、それを盾にすることはできた。

 だが、もちろん、空中で踏ん張りが効くはずもない。

 鈍い音が響いて、フレンダはコンクリートの地面に激しく叩き付けられた。

杏子「ま、こんなもんか」

 ふぅ、と軽く息を吐いて、杏子は槍を背負う。

 だがすぐに杏子は軽く首を傾ける。杏子の顔があった場所をナイフが勢いよく通り抜けた。

杏子「おっかしいな、今のが直撃してたら全治半年は堅いはずだったのに」

 見れば、フレンダはまだ健在だった。

 両足でしっかり地面を掴み、両手にナイフを持って直立していた。

杏子「回復系の魔法か、面倒だ」

 杏子はそれを見て笑う。

フレンダ「終わったと勘違いするのは、まだ早いってわけよ!」

 言葉と同時、フレンダは大量のナイフを投げつける。

 数えるのは到底間に合わない。機関銃のようなナイフの連射だった。

杏子「今度は数ってか!」

 だが、杏子が多節棍モードの槍を大きく振るうと、それらは全て叩き落とされる。

 どんなに投げても、結局、杏子に一本も届かないどころか、傷一つ付けられなかった。

 フレンダは、それに一切動揺しなかった。

 それどころか、それを確認するより早く、フレンダは駆け出す。

 杏子の速度には及ばないが、それでもフレンダの速度は常人を遥かに超えていた。

杏子「何っ!」

 杏子が槍を戻すより早く、フレンダは杏子の懐へと潜り込み、ナイフで直接切りつける。

 かろうじて杏子は槍の柄で受け止めた。

フレンダ「ふふん、リーチの差は重々理解してるってわけよ。だから、懐に入っちゃえば、槍よりナイフの方が有利!」

 フレンダはナイフに力を籠め、杏子は槍に力を籠める。ギリギリと、小競り合いとなる。

杏子「回復系の魔法と言っても、あれだけのダメージを受けた直後に、こんな素早い反応はできないはず……!?」

 初めて、杏子の表情が焦りへと変貌する。

 その様子ににやりと、フレンダは笑った。

フレンダ「結局、詰めが甘いってわけよ!」

 受け止められたナイフとは別に、もう片手にナイフを生み出し、フレンダは切りかかる。

杏子「——なんて言うと思ったか?」

フレンダ「えっ」

 ナイフを振り下ろしたはずのフレンダは、手応えがなくなったのを感じた。

 いや、手応えがなくなったのではない。

 手が、肩から先が、丸々なくなっていた。

杏子「こっちだって武器くらいいくらでも作れるっての。そして、こいつは伸縮自在だ」

 杏子の手には、もう一本、槍が握られていた。
 柄が片手で持てるくらいの、最早槍というより、短剣に近いような槍だった。

 それで、腕を切り落とされたと、フレンダは遅れて認識する。

杏子「あんたこそ、甘かったな」

 その事実に動揺するフレンダ。その隙をついて、もう片手も切り飛ばされる。

フレンダ「あぐっ!」

 さらに追撃。杏子はフレンダの文字通りがら空きとなった脇腹を回し蹴りで思い切り蹴飛ばした。

 フレンダは吹き飛ばされ、ノーバウンドで壁に叩き付けられた。

 その様子を見て、今度こそ杏子は終わった、と判断した。

杏子「安心しな。魔法少女ならゆっくりと治していけばその腕はくっつくさ。回復系のあんたなら尚更ね」

 もう用はないと言わんばかりに、フレンダに背を向けて、立ち去ろうとする。

フレンダ「いいや、結局甘いのはそっちってわけよ」

 だが、後ろからまだ声を投げかけられる。

杏子「はぁ……? いい加減に諦め——」

 呆れたように溜息を吐き、振り向く杏子。

 そして、フレンダの様子を見て、杏子は言葉を失った。

 フレンダは健在だった。切り落とされたはずの両腕は、既にくっついていた。
 そして、その新しい両腕で何かを持っていた。

 それはマラカスのような形をしていた。金属の棒に、先端に楕円形のものがくっついていた。
 もちろん、そんな玩具などではないことは杏子でもすぐにわかった。

 携帯型対戦車用ミサイルだった。

杏子「はぁっ!?」

 杏子は今度こそ、本当に焦った顔をした。

 それでも、もう遅かった。しゅぽっという気の抜けた音と共に、先端のミサイルは発射される。

 避けても爆風が襲いかかり、防いでも爆風が襲いかかる。直撃なんて以ての外。

 打つ手無しだ。

杏子(くそっ……!)

 自分の甘さを嘆き、苦し紛れに結界を張ろうとする。

 結界を張っても、防ぎきれるかどうかはわからない。それでも、そうする他なかった。

 しかし、それは杏子に届くことはなかった。

 銃声が響いて、ミサイルは空中で爆発する。

フレンダ・杏子「なっ……」

 杏子は驚き、フレンダも予期してなかったのか、一緒に驚いた。

「まったく、佐倉さんは……また喧嘩しているの?」

 落ち着いた声が、新たに加わった。

杏子「お前は……」

 こつこつと、靴の硬い音が室内で反射する。

「今はそんなことをしてる場合じゃないでしょうに」

杏子「マミ……」

——
QB「君たちには困ったよ。せっかく戦力を集めたのに仲間同士で戦っちゃ意味がないじゃないか」

 ぶすっとした表情の杏子、同じくそっぽを向いてるフレンダ、そしてあきれ顔で紅茶を飲む金髪でドリルな少女、マミ。
 ついでにキュゥべえ。

 三人と一匹は揃ってファミレスに来ていた。

マミ「こらキュゥべえ。テーブルの上にあがっちゃダメっていつも言ってるでしょ」

 そう言ってマミはテーブルの上のキュゥべえを抱え、膝に抱く。

フレンダ「戦力を集める? どういうわけよ」

QB「そういえばまだフレンダには言ってなかったね。この学園都市は、今、極めて異常な状態にあるんだ」

フレンダ「異常?」

QB「そう、異常さ。例えば、そうだね……この三日間、君たちが倒した魔女の数は何体だい?」

フレンダ「いち、にー、さん、よん、ご−、ろく、なな、はち……八体ね」

杏子「七体」

マミ「私は今日来たばかりだから三体よ」

フレンダ「それがどうしたっていうのよ」

QB「杏子、マミ、君たちならわかると思うけど、この街の魔女はいくらなんでも数が多すぎるんだ」

QB「正直言って、これは自然発生のレベルじゃない。明らかに多すぎる」

フレンダ「確かにこんなに戦い続けてたら体が保たないなー、と思ってたけど、やっぱり多いだ」

マミ「普通、魔女ってのはそうそう毎日見つかるものじゃないわ。それが毎日、しかも一日に数体も出てくるなんて異常すぎる」

フレンダ「どうしてそんなに多いわけよ」

QB「わからない。ただ、僕はこれに人為的な、作為的な意図が絡んでると思ってるよ。だから君たちを呼んだのさ」

フレンダ「でもなんで外部から呼ぶ必要があるの?
     学園都市に侵入するのは結構大変だし、学園都市なら少女はたくさんいるからみんな契約させればいいわけじゃない?」

QB「それがそうもいかないんだ。素質がある子は中々いないし、学園都市の少女と契約しても、戦力にならない場合がほとんどなのさ。フレンダは特別だけども」

フレンダ「どういうこと?」

QB「それが僕にもメカニズムはよくわからないんだよね」

杏子「そんなことよりだ、本当に魔女が人為的に増やされてるとして、一体誰が、何のためになんだ?」

 シャクシャクと注文したシャーベットを潰しながら杏子が割り込む。

QB「まったく見当が付かないよ。僕の契約した少女の中でも、そんなことをする子の心当たりは今のところないんだよね。
  そもそも、目的がわからない。魔女を増やしたって、人間にも、魔法少女にも、百害あって一利無しだろう?
  例え魔女の作り方を考案できた魔法少女がいても、自分で魔女を作ってグリーフシードを集めるより、自然発生する魔女を倒した方が効率的だしね」

フレンダ「……学園都市なら、ありえるわよ」

 ぽつりと、フレンダが言った。

フレンダ「し、死にたくない……」QB「それが君の願いだね?」★2

フレンダ「魔法、魔女なんて、普通の人間からしたら未知の存在。
     学園都市の研究者が見つけたら研究しないわけがないってわけよ」

マミ「でもそんなものを研究して何の意味があるの? 魔女は人に災いをもたらす、邪悪と災害が顕現したような存在よ」

 ショートケーキを食べていたマミが言う。

フレンダ「そう、普通に考えて、魔女は害しか生まない。でも、もしそれが敵対する国に発生したら?」

杏子「まさか……学園都市は魔女を兵器として利用しようって言うのか?」

フレンダ「その可能性は大いにあり得るわけよ。だって、証拠は残らない、因果性もわからないなんて、これほどテロにぴったりな兵器はそうそう存在しないわよ」

フレンダ「昔、ロシアの巨大なショッピングセンターで孵化の時間を人工的にコントロールしたベニオオアシグンタイアリっていう人食い蟻を使ったテロ事件もあったわけだしね」

マミ「そんなこと……できるの?」

 チョコレートケーキを食べ終えて、苦々しそうになったマミが言った。

QB「不可能だね。グリーフシードの孵化タイミングはそうそうコントロールできるものではないし、そもそも普通の人間は魔女を認知することすらできない。
  しかもこれだけの量だ。恐らく、使い魔を成長させたものだと考えるのが妥当だろう。そうしたら、さらにコントロールは困難だ」

フレンダ「この学園都市で不可能なんて、あり得ない。魔法、魔女、そんなオカルトも、きっと学園都市が研究すればすぐに解明できちゃう。
     ……昔、そういう実験も聞いたことあるしね」

QB「……まったく、人間の考えることはわけがわからないよ。兵器ならもっと効率の良いものがあると思うけどね」

マミ「ともかく、佐倉さんも、貴方も、喧嘩してる場合じゃないのはわかってもらえたかしら?」

杏子「あたしは別に戦わないってなら、わざわざ戦う気なんかないけどな」

フレンダ「うっ……でも……」

杏子「まあ、その信念を曲げたくないなら強くなればいいさ。そこのマミみたいにな」

マミ「あら、佐倉さんがそんなこと言うなんて珍しいわね」

杏子「うるせー」

マミ「まあまあ、いいじゃない。今はみんな仲良く、ね?」

フレンダ「仲良く、かあ……」

杏子「はぁ……わかってるよ。ただし、仲良くじゃなくて、共同戦線だ」

杏子「自己紹介が遅れたな、あたしは佐倉杏子だ」

マミ「巴マミよ」

フレンダ「私はフレンダ・セイヴェルンよ。よろしくね」

フレンダ「それで、この後どうするの?」

 ファミレスから外を見れば、既に日は傾いていた。

フレンダ「学園都市の夜は早いわよ。完全下校時刻になればバスとかほとんど止まっちゃうから動くなら早くの方がいいわね」

 フレンダが時計を見て、言う。

マミ「そうね……まずは拠点ね。雨風凌げる場所が欲しいわ」

 チーズケーキを食べ終えたマミが提案した。

杏子「それなら適当なホテルがちょうどいいな」

マミ「そうね。ねえセイヴェルンさん、どこかいいホテルを案内してくれないかしら?」

フレンダ「学園都市のホテルは選り取り見取りよ。この時期に観光客なんてほとんどいないから、どこでもすぐに部屋を取れちゃうってわけ」

杏子「そうか、そりゃ都合がいい。適当なところを勝手に使わせてもらうとするか」

マミ「ダメよ、佐倉さん。そんなことしたらお店の人に迷惑がかかるでしょ」

杏子「そんなこと言っても金ねーぞ」

マミ「いいわよそれくらい、私が出しておいてあげるわ。緊急事態だしね」

杏子「ま、タダで泊まれるならあたしはいいけどさ……」

もしかして>>52で書いた方がいいの……?

数レス分だけあっちで先に投下しろよ
こっちはこっちでやればいい

>>64
それだ

すまん、あっちで書く気にはなれなかった
こっちであとで貼り直して明後日にでも書くよ

ちょっと今日は寝かせてくれ

マミさんに救済はあるのか…

みんなありがとう
忘れてたけど、酉を表示しておこうと思う

>>76
実はこのSSはチートなマミさんが書きたくて書き始めたんだ……

ごめんね、遅れてごめんね
せっかくSS速報来たから結末変えようと思って考え直してたの
今から改訂しながら続き貼る

——
 路線バスを乗り継いで十数分、三人と一匹は第三学区に到着した。

杏子「おいおい……大丈夫なのかよここ……めちゃくちゃ高級っぽいぞ……」

フレンダ「第三学区には外部からの客が比較的多いからもし、二人の侵入がバレたとしても誤魔化しやすいってわけよ」

杏子「それにしたってなあ……」

 杏子は乱立する見上げると首が痛くなるほどの高層ビル群を見て、辟易する。

 それらは外装から綺麗な状態が保たれていて、金をぼったくっても文句を言わせないぞと言わんばかりだった。

フレンダ「あ、前に麦野たちと泊まった時にサービスがいいところみっけ」

 その内、一際大きなホテルにフレンダはずかずかと入っていく。入り口にはガードマンが張り立ちっぱなしになっており、警備はいかにも頑丈そうだ。
 続いて、マミも入る。

杏子「うへえ……」

 遠慮がちに杏子もついて行く。

 ガードマンと目が合い、慌てて目を逸らす。
 恐らく、不審そうな目で見られている、もしくは場違いという目で見られているのだろうと考え、杏子は気分が少しだけ重くなった。

杏子「はぁ……無理矢理侵入しようとしなくてよかったな、こりゃ……」

 フレンダがチェックイン。チェックイン時にフレンダが別の名前を名乗っていたが、杏子が聞くと、使える偽名と身分証をストックしておいたらしい。

 チェックインを済ませると、三人はすぐに食事を取ることにする。案内係に聞くと、和洋中華、様々な料理のレストランがホテル内にあるらしい。

 三人は特にこだわりはなく、その内の一つであるバイキングレストランへと向かった。

 バイキングと言っても、さすがは高級ホテルと言うべきか、一つ一つの料理が通常のレストランでは相当な料金を取られるレベル。

 杏子には全ての料理が輝いてるように見えた。

杏子「おいっ、これ本当にいくらでも食べていいのか!?」

フレンダ「ま、まあ、バイキングだし……」

 目を輝かせてそんなことを聞く杏子にフレンダは驚いた。
 戦闘時のイメージがついていたので、その落差に脱力したとも言える。

杏子「よっしゃ、たくさん取ってくるからな!」

マミ「食べきれる量だけ取ってくるのよ」

杏子「わかってる!」

 子供のようにはしゃぎながら、料理へと向かう杏子。

杏子「やべえ、これかなり美味いぞマミ、フレンダ!」

 そしてすぐに杏子の大声が聞こえてきた。杏子の方を見れば、とても楽しそうな顔をして手を振っている。

フレンダ「……なんか、杏子のイメージが最初とは違うんだけど」

マミ「無理してるのよ、あの子も」

 フレンダは半ば呆然として呟き、マミがそれに答える。

 マミはもう料理を取ってきたらしい。手には適当に取ったスパゲティの皿が乗っていた。結構大盛りだ。

フレンダ「予想外に妹キャラってわけね。私の妹とはまるで違うけど」

マミ「あら、妹がいるの?」

フレンダ「私に似てかっわいい小学生の妹が一人、ね。どうやら私ってば戸籍上は死んでる扱いになっちゃってるから会いには行けないけど」

マミ「妹……いいわね、家族がいるっていうのは」

 遠い目をして、マミが呟く。

フレンダ「マミも妹とかいるの?」

マミ「いないわね……家族もみんな事故で死んじゃったわ」

フレンダ「あぅ……ごめん」

 興味本位で聞いて答えにフレンダは謝り、シュンとする。

マミ「いいのよ、昔のことだし、ね。惜しむらくは、その時、願いで自分だけの命を願っちゃったことかな?」

フレンダ「マミも生きたいから魔法少女になったんだ……」

マミ「『も』、ってことは、セイヴェルンさんも?」

フレンダ「まあね。あの時はどうなるか冷や冷やしちゃったわけよ」

マミ「そうだったの。なんだか私たち、気が合いそうね」

フレンダ「なーんか、深いところで似てる気がするってわけよ」


杏子「なあ、二人とも! 店員さんに頼んだらこんなにケーキもらえたぞ!」

フレンダ「ちょ……それ、普通に注文しただけで別料金じゃ……」

杏子「えっ……」

——
浜面「本当だって、見たんだよ!」

 学園都市の個室サロンの一室で浜面は力説する。

浜面「フレンダの幽霊を!」

絹旗「はぁ……ついに超浜面菌が脳にまで達してしまいましたか。幽霊なんて非現実的な……」

浜面「B級映画見てるお前が言うかっ!?」

絹旗「はいはい、どんな格好してたんですか? 三角巾でも超被って、うらめしやーとでも言ってたんですか?」

浜面「いや、なんか変な格好してたんだよな。フレメアみたいなフリフリの格好で……」

絹旗「15点」

浜面「まったく信じてないなお前!」

 ぎゃーぎゃーと喚き会う浜面と絹旗。そんな二人を尻目に、一人ジュースをストローで吸い上げながら上の空な麦野、そしていつも通り眠たげな目をした滝壺。

 アイテムのメンバーが集まっていたところだ。

滝壺「はまづら……」

 ふと、くいっくいっと、浜面の袖を滝壺は引っ張った。

浜面「おお、滝壺なら信じてくれるよなっ」

 それに浜面は救世主を見つけたと言わんばかりに感激する。

 しかし、滝壺はそんな浜面をジト目で見つめて、一言。

滝壺「言っていい冗談と、悪い冗談があると思う……」

浜面「あ、あれ……? 滝壺サン、怒ってらっしゃる……?」

 浜面が恐る恐る尋ねると、滝壺はそれに答えず、プイッと顔を背けてしまう。

 「信じてくれよ滝壺ぉ」と懇願する浜面に、当然です、という風に憮然とする絹旗。

 そんな三人を尻目に、麦野は溜息を吐いた。

麦野「フレンダの幽霊ね……会えるものなら会いたいわね……」

——
 杏子、フレンダ、マミはホテルの一室に泊まっていた。

 一室と言っても、豪勢なもので、キングサイズのベッドで三人は悠々と寝られる環境だ。

 そこで、佐倉杏子は目を覚ました。

 本能的に、結界を張る。

 次の瞬間、部屋の入り口、扉を貫通した銃弾が三人を襲った。

マミ「何事!?」

フレンダ「へぁっ!?」

 爆音のような衝撃に、残り二人も起きる。

杏子「わからねえ、だけど敵襲なことは確かだ!」

 しばらく掃射が続いた後、扉と壁がボロボロになり、崩壊。外にいるものが見えた。

 それは、機械だった。ずんぐりとした人型で、黒い装甲に覆われている。
 右手に当たる部分には大型の機関銃が握られており、あれで攻撃してたことが窺える。

 それを見て、フレンダはぎょっとした。

フレンダ「『駆動鎧』(パワードスーツ)……!?」

 駆動鎧は機関銃を投げ捨てると、杏子の張った結界へと突進する。

 ぐしゃり、と駆動鎧が衝撃でひしゃげるが、構わず、何度もその巨体を叩き付ける。

杏子「ぐっ……やべえ、もたねえぞ!」

 三度目の体当たりで結界はひび割れ、杏子が顔を歪めた。
 その間に、マミとフレンダは変身を済ませる。

 そして、四度目の激突で杏子の張った結界は破れた。

 パリンという、乾いたものが砕かれる音が響き、杏子の結界が消失する。

 間髪入れずにマミがマスケット銃を放ち、フレンダがナイフを投げる。
 しかしそれは当たらない。巨体に見合わない俊敏な動きでそれは易々と回避される。

 さらにその回避の瞬間、その巨体が光に包まれるのを三人は目撃し、驚愕した。

 光に包まれたと思うと、ひしゃげたはずの駆動鎧の体は元の綺麗な形となる。

 だが、三人が驚いたのは修復されたことではない。

マミ「魔力……!?」

杏子「嘘だろ……こいつ魔法少女だ!」

 駆動鎧は蜘蛛のように地面を這う姿になると、一飛びでドアまで後退する。
 飛びながら、捨てた機関銃を拾い上げ、銃口を三人に。

杏子「やべえ!」

 今度は結界を張る暇がなかった。

 機関銃の壮絶な掃射が放たれる。

 三人は床に伏せ、間一髪で避けるが、部屋は滅茶苦茶になる。特にイベントがないためか、左右隣の部屋に宿泊客がいないのが幸いだった。

 ジリリリリリと、緊急警報が鳴り響く。

 どたどたと、大勢の人間の足音が聞こえた。
 警備員だろうか、武装した大人が数人やってくる。

 駆動鎧はそちらに目もやらず、機関銃だけを向けて掃射でなぎ倒す。爆音と絶叫が廊下に響いた。

杏子「やりたい放題だな、おい!」

 その隙を突き、変身を済ませた杏子が槍を持って飛びかかった。

 駆動鎧はそれに鋭敏に反応し、槍を機関銃で受け止める。

 杏子が着地するより早く、駆動鎧は杏子の胸元へと、空いた手を伸ばした。

 それも杏子の胸元には到達しない。銃声が響く。マミのマスケット銃の銃声だ。

 マミの放った銃弾は正確に駆動鎧の腕を打ち抜き、それによって腕の軌道が逸れ、結果、腕は杏子に当たらない。

 その一連の流れでぎょっとした杏子はすぐさま後退する。

杏子「こいつ……ソウルジェムを正確に狙ってきてやがる!」

 再び、駆動鎧による機関銃の掃射。今度は反応が間に合い、マミがリボンを大量に発生させ、壁を作る。

 リボンの壁に銃弾が突き刺さる凄まじい爆音が室内に響いた。

杏子「ちくしょう、なんだこいつは!」

フレンダ「『駆動鎧』! 人間の身体能力を上げるための機械ってわけよ!」

マミ「つまり、ロボットってわけね!」

 掃射の音が止む。すると再び、腹の底に響くような音がし始める。

 また突進で破ろうとしているのだろう。

フレンダ「まあ、厳密に言えば違うんだろうけど! とりあえず、この部屋じゃ狭すぎてどうしようもないってわけよ!」

 リボンの壁は頑丈らしく、巨体の突貫でもびくともしなかった。

フレンダ「多分、あのタイプは機動性を犠牲にした装甲重視のパワータイプ! この部屋じゃ圧倒される!」

杏子「じゃあどうすんだよ!?」

フレンダ「ぶっちゃけ、逃げるしかないっ!」

 駆動鎧は突破は無理と考えたのか、重低音が止む。

 次はバガンという、砕ける音がした。コンクリートが砕ける音だ。

フレンダ「まさか……!?」

 そして、次にまたその音がする。

 フレンダたちの真上で。

 駆動鎧が、天井を砕いて降ってきた。

 さらに素手を振り回す。単純なパンチだ。

 だが質量と速度が相まって威力は凄まじく、低い風切り音が鳴る。

 標的は、障害と判断されたのか、マミ。

マミ「くっ……!」

 思わず、マスケット銃で受け止めるが、マスケット銃は砕かれ、マミはそのままノーバウンドで吹き飛ばされた。

フレンダ「マミっ!」

杏子「何が機動性を犠牲にしただ! 無茶苦茶素早いぞ!」

フレンダ「中身が魔法少女だから!? そんな反則な!」

 ぐるり、と今度はフレンダの方を駆動鎧が顔を向ける。

フレンダ「げっ!」

 駆動鎧が腕を振り上げる。フレンダは真っ青な顔をして、反応が遅れた。

マミ「はい、そこまで」

 その腕が振り下ろされようとする、その瞬間。大量のリボンが駆動鎧の拳から溢れだした。

 リボンは駆動鎧に絡みつき、駆動鎧の動きを止める。

フレンダ「マミ……!?」

マミ「さっき殴られた時にリボンの種を植え付けておいたのよ」

 服の汚れを払いながら、マミが歩いてくる。凄まじい勢いで吹き飛ばされたが、ダメージは少ないらしい。

 だが、駆動鎧の動きを止められたのも一瞬。ブチブチと、ちぎれる音と共に巨体が少しずつ動き出す。

マミ「まだ足りないのね」

 そこで銃声が三発。マミの放った銃弾が駆動鎧に直撃する。

 しかし、もちろん、駆動鎧には大した傷がつかない。

 それでもマミは慌てない。着弾した地点からさらにリボンが生まれ、厳重に駆動鎧を包み込む。

フレンダ「おおっ!」

 それでもまだ駆動鎧は止まらない。ギシ、ギシと、音を立てながら少しずつ動こうとする。

マミ「さて、二人とも下がっててね」

 次に、マミは自分の体よりも大きなフリントロックの銃を空中から取り出すように、作り出す。

杏子「おいちょっ……」

 それを見て、慌てて杏子はフレンダの手を引っ張り、駆動鎧から距離を取った。

マミ「ティロ——」

杏子「伏せろフレンダ!」

マミ「——フィナーレ!」

 巨大な銃から巨大な銃弾が放たれる。それはリボンに雁字搦めにされた駆動鎧をノーバウンドで吹き飛ばした。

 吹き飛ばされた駆動鎧は壁にぶつかっても止まらず、廊下の壁すらも貫通。結局、駆動鎧は向かい側の部屋まで吹き飛んで、初めて地面に叩き付けられた。

 駆動鎧の体は大きく変形し、ぴくりとも動かない。

杏子「や、やったか……?」

 杏子が覗き込むようにして、恐る恐る確認する。

 見ると、駆動鎧は仄かに光に包まれていた。変形した機体が少しずつだが、確かに修復されていくのが見える。

杏子「おいおい……あれでもダメなのかよ!?」

マミ「とにかく、今の内、逃げるわよ!」

フレンダ「おっけー!」

杏子「ああ!」

 ぎょっとする杏子の手をマミが引っ張る。

 三人はそれ以上駆動鎧に追撃せず、破られた部屋の窓から逃走した。

——
 夜の学園都市は静かだ。基本的に学生で構成されるこの都市で、深夜に出歩く人間は極端に少ない。

 いるとしても、教師か、夜遊びしているスキルアウトくらいだろう。

 夜の路地裏で、三人は息絶え絶えに座り込んでいた。

 既に第三学区は抜け出していた。スキルアウトが屯している辺りなのだろう、壁に大量の落書きが書き散らされている。

杏子「一体なんだってんだあいつは……」

 杏子は息絶え絶えに、どこからともなく取り出した水を一口飲み、マミに渡す。

マミ「私たちが学園都市に侵入したのがバレちゃったのかしら」

 それを受け取ってマミも水分を補給する。続いてフレンダへ。

フレンダ「それなら警備員が派遣されるってわけよ。あんなの、どう見ても表の人間じゃない。私が昔いたのと同じ、学園都市の暗部、裏の人間よ……!」

 フレンダも受け取り、飲んだところで空になる。そして空になったペットボトルを投げようとして、手を止めた。

フレンダ「とにかく、もう表だっては動けないわけよ……」

——
 浜面は今日もパシリだ。

 アイテムの面々でファミレスで屯しているが、浜面だけは席に座れず、ジュースを運ぶ機械となっていた。

服部「は、浜面っ」

 そんな浜面の下に、浜面の悪友である、服部半蔵が飛び込んで来た。

服部「助けてくれ、お前の仲間が俺たちのところで無茶苦茶やってるんだよ!」

浜面「はぁ? 仲間って……」

 そう言われて浜面はアイテムの面々の顔を見る。

浜面「誰がなんだ?」

服部「あの金髪の女だよ! フレメアの姉の!」

浜面「……は?」

 浜面は怪訝な顔をする。当然だ、フレンダは死んだわけだから、そんなことできるはずもない。
 だが、浜面は自分の見かけたフレンダの幽霊を思い出す。

浜面「もしかして——」

麦野「ちょっとその話、聞かせてちょうだい」

 浜面が思いついたように何か言おうとして、興味を示した麦野の言葉に遮られた。

——
 フレンダ、マミ、杏子の三人は第七学区に来ていた。

 あれから一晩中、三人は駆動鎧が現れては撃退し、現れては撃退し、の繰り返しだった。

 疲労困憊。そして辿り着いた先がスキルアウトのねぐらだ。

 攻め入ってくる敵に備えて罠が張り巡らされてるそこは、何もないよりかは安全だと考え、スキルアウトたちを制圧し、一時的に奪い取ったのだ。

マミ「はあ……こんなことしたくないのだけども」

 震え上がるスキルアウトたちを見て、マミは溜息を吐く。

杏子「いいんじゃねーの。緊急事態だよ緊急事態」

 食料品を勝手に漁って食べる杏子。

フレンダ「ちょっと、私の妹に何かしたわけ!?」

スキルアウト「し、知らねえ……それは服部さんのものだから……」

 たまたまフレメアの写真を見つけたフレンダが、スキルアウトに詰め寄る。

 やりたい放題、滅茶苦茶な状況だった。スキルアウトは困ったような顔で、しかし逆らえずに従っている。

 そして状況はさらに滅茶苦茶になる。

 ゴバァッという凄まじい音が響き、アジトの入り口が吹き飛ばされた。

スキルアウト「ひぃいっ」

杏子「ちっ……もう嗅ぎつけやがったか!」

 しかし、今までとは毛色が違った。

 見れば、ずっと三人を襲撃し続けている駆動鎧はいない。しかし、数が増えていた。

 全二十五体。モデルはHsPS-15。学園都市の技術を詰め込んだ、オールラウンドタイプだ。

マミ「あのロボットはいないみたいね」

フレンダ「数が尋常じゃないってわけよ!」

杏子「おいおい……」

フレンダ「これ、むしろ今までよりピンチなんじゃ……」

 すぐさま出口を探すが、完全に窓の外にも駆動鎧の姿が見えた。どうやら二十五体よりもさらに多いらしい。

マミ「仕方ないわね……」

 それを見て、マミが一歩踏み出した。

マミ「みんな、下が——」

 だがその後の言葉はその後の言葉は遮られる。
 真っ白い光線が轟音と共に外から入り込み、駆動鎧をまとめて数体吹き飛ばしたからだ。

「なーんか物騒なことになってるわね」

フレンダ「えっ……」

 その声を聞いた瞬間、フレンダは全身の筋肉が硬直するのがわかった。

 その声をフレンダは知っている。焼き付いた痛みと共に、記憶に焼き付いてる。

杏子「次から次へと! 今度はなんなんだよ!?」

 杏子が腰を落として臨戦態勢を整える。と、そこで顔を真っ青にして、硬直してるフレンダの姿に気がついた。

杏子「おい……フレンダ……?」

フレンダ「麦……野……」

 掠れた声で、フレンダは呟く。

 こつこつこつ、と靴音が響く。

「これは超ただ事じゃないですね」

 フレンダは次いで、知ってる声を確認した。しかし、そんなことはどうでもよかった。

「おい、フレンダ、いるのか!?」

 知ってる男の声がする。しかし、そんなことはどうでもよかった。

「まあ、こいつらを片付けるのが先でしょ」

 そして、駆動鎧の隊列に空いた穴から、五人の人間がスキルアウトのアジトに足を踏み入れた。

浜面「フレンダ……」

 浜面仕上だ。アイテムのパシリをやっていた男だ。

絹旗「フレンダ……!?」

 絹旗最愛だ。アイテムのメンバーで『窒素装甲』の能力を持つレベル4だ。

滝壺「フレンダ……」

 滝壺理后だ。アイテムのメンバーで『能力追跡』の能力を持つレベル4だ。

麦野「フレンダ……生きてた、の……?」

 麦野沈利だ。アイテムのリーダーで『原子崩し』の能力を持つレベル5で、

 ——フレンダ・セイヴェルンを残虐に殺した張本人だ。

フレンダ「あ……うわぁぁぁぁあああああ!!」

 その姿を認めた瞬間、フレンダは全身の金縛りが解けた。

 生存本能が逃げろと告げていた。魔法少女が入ったしつこい駆動鎧より、数十体の駆動鎧の隊列より、
 ただただ、あのレベル5が怖ろしかった。

 周囲の状況なんて、全てが吹き飛んだ。

 無作為に、無謀に、無責任に、フレンダは麦野たちのいる方向とは真逆の方向に走り出す。

 当然、その先には駆動鎧がいて、そこに突っ込めば殺されることなど目に見えていても、だ。

杏子「待てよ!」

 取り残されそうになった杏子がフレンダの腕を掴み、引き留める。

フレンダ「はなっ……離して! いや、いやぁぁぁぁあああ!」

 だが、フレンダは半狂乱で暴れ、杏子の腕を振り払う。

 腕力としては杏子の方が上回っていたが、無茶苦茶に暴れるフレンダを抑えきることはできなかった。

 フレンダはまた逃げ出す。向かう先の駆動鎧が臨戦態勢を整えた。

杏子「おいっ……!」

 一度手を振り払われた杏子が後を追おうとする。

 その脇を、青白い光線が駆け抜けた。

 光線は駆動鎧に直撃する。当然、駆動鎧が耐えられるはずもなく、真っ赤に融解する。

 人間が乗っていたはずの兵器の上半身が解けて消え去った。

フレンダ「あ……」

 その光景を目にしたフレンダが、足を止める。へたり込む。

 かつて殺された瞬間が、下半身を焼き落とされた瞬間が、脳裏に過ぎった。

杏子「なんだよ……なんなんだよあんたら!」

 闖入者の五人を睨み付ける杏子。

浜面「お前達の助太刀だよ、一応な」

 睨み付けられた内の一人の男は困ったような顔をしながら後頭部を掻いて言った。

 レベル5の力は圧倒的だった。
 集まった駆動鎧は麦野が原子崩しを放ち、腕を振るうだけでなぎ払われる。
 機関銃の掃射が行われるも、巨大な原子崩しの壁を作るだけで通用しない。

 あっという間に、駆動鎧の軍勢は壊滅した。

杏子「すげえ……」

 圧倒的な力に、杏子は思わず感嘆の声を漏らす。

マミ「大丈夫?」

 それを気にせず、マミはフレンダに語りかけるが、フレンダは呆然としたまま反応しない。

滝壺「ねぇフレンダ」

 そのフレンダに滝壺が話しかける。ぴくり、とフレンダが反応した。

滝壺「話を聞いてほしい……」

フレンダ「…………ぃ?」

 ぼそり、とフレンダは呟いた。

フレンダ「誰も私を、殺さない……?」

 再び、フレンダは呟く。滝壺は今度は聞き取れた。

滝壺「……うん」

——
「駆動鎧部隊、撃退された模様です」

「あの数をか? 敵はたったの三人だぞ」

「それが……あの学園都市第四位が邪魔をしたようで……」

「第四位? ああ、『原子崩し』か」

「いかがいたしましょう? 第四位が敵に回るとなると、今、私たちが対抗できる戦力と言えばUMAくらいしか……」

「いや、UMAを動かす必要はない。第四位と言えば、ほら、実験中のアレがあっただろう」

「もしかして……あの特殊モデルの駆動鎧ですか?」

「それだよ、それ」

「しかし、あれはまだ問題点が多く……」

「長期駆動ができないことくらい、わかってる。近くまで来るまで運んでから動かせばいい」

「戦力と考えましても……」

「超能力者に匹敵するくらいの性能はある。体調が万全じゃない『原子崩し』ならいけるはずだ」

「了解しました」

「それとだ、人工UMA部隊は今、いくつ動かせる?」

「四……いや、三体でしょうか。一体は今朝からの使用でもうすぐ制御限界を越えるでしょう」

「いや、いい。どうせやつらを片付けられればいいんだ、人工UMA部隊なんぞ、いくらでも補給が効く。全機出せ」

「了解しました……」

「まったく……想定外には想定外が重なるものだな」

——
 再び、ファミレス。奥から、麦野、絹旗、滝壺に対面して、マミ、フレンダ、杏子の順で座っていた。

 浜面は当然、ドリンクバー係だ。

マミ「話は大体わかったわ。つまり貴方たちはアイテムという組織のメンバーで、フレンダとは元仲間だった、ってことね?」

麦野「そっちの話はにわかには信じられないわね。魔法、魔法少女、そして魔女。こんな科学の都市で、そんな荒唐無稽な話は、ね……」

杏子「あんたが殺したって言うフレンダが生きてるのが何よりの証拠だ」

 俯いたままのフレンダが杏子の言葉にビクッと反応する。

絹旗「しかし……魔法、ですか……」

マミ「やっぱり信じられないかしら?」

絹旗「正直言えば、信じがたいですね。魔法と言わないまでも、この学園都市でなら、なんらかの方法があるかもしれませんし」

杏子「少なくともだ、あたしらの調べてる案件に学園都市が関わってる可能性はでかい」

絹旗「それには確かに超同意ですね。話を聞く限り、襲撃のタイミングが超良すぎます」

浜面「でも、なんでもありの学園都市だって言っても、そんな実験あり得るのか?」

滝壺「私は聞いたことあるよ。私と同系統の能力の女の子が、そういう実験されたって」

杏子「ということは、手がかりはそいつか」

滝壺「ううん、その子はなんでも実験に参加してるだけの子だから……それに、その実験をすると、体が壊れちゃうらしいから、そんなに実験できないと思う」

麦野「まあ、確かに、そういう実験を回されるのは大抵『置き去り』だからな」

 麦野の言葉を聞いた瞬間、杏子が机を激しく叩いて立ち上がった。

杏子「『置き去り』!? おいちょっと待て、学園都市ってのはそんなことやってるのか!」

浜面「お、おい、どうしたんだよ急に……」

杏子「どうしたもこうしたもねえ、『置き去り』の実験をしてるやつを教えろ! ぶっ殺して来てやる!」

絹旗「そんなの教えたって、超どうにもなりませんよ」

 激昂する杏子に、絹旗が冷静に答えた。

杏子「そんなのやってみなくちゃわからないだろ!」

絹旗「超わかりますよ。私も、実験をされた『置き去り』ですから」

杏子「……!」

 さらりと言う絹旗に、杏子は言葉を失った。

麦野「諦めろ、それをどうにかするっていうことは、学園都市の暗部を丸々敵に回すってことだ。
    そんなことできるやつなんざ、この学園都市にはトップ以外、一人もいねえ」

杏子「くそっ」

 言われて、乱暴に座り直す杏子。

マミ「落ち着いて佐倉さん、らしくないわ」

QB「その慌てる理由を、是非とも僕にも聞かせてほしいものだね」


 そんな声が、ファミレスの窓から聞こえた。

 フレンダ、マミ、杏子、麦野、滝壺がその声に反応する。
 対して、浜面と絹旗は他五人の様子に、きょとんとする。

 そこには、うさぎのような、ねこのような、白くて赤い目をした生物、キュゥべえがいつの間にか鎮座していた。

麦野「お、おい……なんだその生物……」

絹旗「麦野……? 何を言ってるんですか?」

 絹旗が、まるで中空を見て喋っているような麦野に怪訝な目を向ける。

QB「僕はキュゥべ」

滝壺「……可愛い」

 キュゥべえが自己紹介をしようとした瞬間、滝壺がキュゥべえの耳から伸びる器官を掴んで、引っ張り上げた。

QB「ちょ……痛い、痛いよ!」

 そしてそのまま滝壺は悲鳴を上げるキュゥべえを抱きしめる。

QB「ギブ、ギブギブ! 締まってる締まってる!」

 キュゥべえが暴れるが、滝壺はしっかりとホールドし、離さない。

 その様子を見て、絹旗と浜面は唖然として表情をしていた。

マミ「離してあげてくれないかしら? その子はキュゥべえ。私の友だちなの」

 言われて、滝壺は少し不満そうにしながら、キュゥべえを解放する。

フレンダ「まあ、その、魔法少女にしてくれる、私の命の恩人ってわけね。いや、恩猫かな……」

 そこでファミレスに入ってから初めて、フレンダが口を開いた。

杏子「そして、いたいけな少女を騙すペテン師さ」

 気にくわなそうに、続けて杏子が言う。

QB「酷いな、杏子。僕は嘘を言った覚えは一度もないよ」

 キュゥべえはそう言いながらも、まるで気にしてない風で、とてとてと机の上から、マミの膝元へと逃げる。

麦野「へぇ……こいつがね……」

 麦野はマミに撫でられて、丸くなるキュゥべえを見つめる。

滝壺「うさぎ……」

 抱きしめたいのか、うずうずとした様子で滝壺もキュゥべえを見つめる。

浜面「ちょ、ちょっと待て、お前ら一体何の話をしてるんだ?」
絹旗「えっ、これ状況がわからない私が異常なんですか? 浜面と一緒なんて超嫌だ!」

 遅れて、状況を把握してない二人が一気に問い詰める。

杏子「ああそうだった、魔法少女か、素質のある人間にしか見えないんだったな」

マミ「ということは、麦野さんと滝壺さんは魔法少女の素質があるってことね」

 ふむふむ、とマミと杏子は得心したように言う。

浜面「ちゃんとわかるように説明してくれ……」

 それに浜面は困ったような声しか出せなかった。

麦野「いや、なんか白い生物がいるのよ。今は巴が抱いてる」

絹旗「はぁ……?」

 麦野も困ったように説明するが、やはり絹旗と浜面は困惑したままだ。

フレンダ「ねぇ……キュゥべえ、みんなに見えるようにできないの?」

 おずおずと、フレンダが聞く。

QB「できないことはないけど……正直、オススメしないね。
  一度これをやると珍獣扱いされて捕まえようとする人間が出てくるんだ。
  まったく失礼しちゃうよ」

杏子「なんでもいいから、話が進まないからやりやがれ」

QB「うーん……しょうがない」

 キュゥべえはそう言うと、姿を現した。
 もちろん、元から見えている五人には何の変化もないように見えたが、残りの二人の顔が驚きに染まるのは見えた。

浜面・絹旗「ち、超珍獣だあああああああ!」

QB「だから僕は珍獣じゃないってば」

 オーバー気味に驚く二人に、キュゥべえは呆れるように愚痴を吐いた。


QB「それで、君がそんなに焦っているのはどういうわけなんだい、佐倉杏子?」

杏子「……別に面白い話じゃねえぞ」

杏子「あたしが前に魔女を倒した時、その魔女に襲われてた家族がいたんだよ」

杏子「別に人助けをしようとしたわけでもないし、たまたま、魔女を倒したらその家族を助けることになっちまっただけなんだけどな」

杏子「その家族の父親と母親は命は助かっても、昏睡だった。ゆまっていう娘がいたんだけどな、そいつだけは無傷で、中々残酷な話だったよ」

杏子「ゆまはあたしについて回るようになってな……あたしを助けるために魔法少女になりたいとも言いだしてた」

杏子「あたしはそれを拒否してたんだけどな、ドジっちまって、結構ヤバイことになった」

杏子「それをゆまに見られちまったらしくてな、あいつはそこの、キュゥべえの言葉に乗せられて、魔法少女になっちまったんだよ」

杏子「過ぎちまったことを嘆いても仕方ねえ。あたしはゆまを連れて行くことにした」

杏子「だけど、問題はその後だったんだよ。ゆまの願いは、家族を治すこと。それで親は全快した」

杏子「でもその親が問題でな……母親がゆまを虐待してたんだよ」

杏子「なんとかしようと、あたしがお節介を焼くと、もっと面倒なことになった」

杏子「虐待を父親に密告したはいいが、父親も父親で、今度は問題の根源のゆまを学園都市に送りつけると言いだしたんだよ」

杏子「そして母親も了承して、ゆまは学園都市に送られた。でもそのまま二人はまた魔女に襲われて食われちまった」

杏子「結果、ゆまは学園都市で言う『置き去り』になっちまったんだよ」

杏子「あたしのやりにきたことは簡単だ。一つ、ゆまを探し出す。二つ、ゆまの姿を見て、辛そうなら力尽くでも連れ戻す。ただそれだけさ」

マミ「へぇ……やっぱり佐倉さんは優しいのね」

 話を聞いて、マミが杏子を見て、笑った。

杏子「勘違いすんじゃねえよ。あたしはただ、ゆまが妹にダブって見えて、ほっとけなかっただけだ」

マミ「それでも十分、優しいわ」

杏子「ふん……」

 マミに言われて、杏子はそっぽを向く。

フレンダ「妹がいたんだ」

杏子「……死んじまったけどな」

フレンダ「うっ……ごめん」

杏子「過ぎたことだ、気にすんな」

フレンダ「……決めた、私は杏子に協力する」

杏子「はぁ?」

フレンダ「私にも妹がいるんだよね。だから杏子の気持ちはわかるわけ」

杏子「別に見返りは何も出せねーぞ」

フレンダ「そんなものいらないってわけよ。
     私からすれば杏子もなんか妹っぽいしね」

杏子「なんだそりゃ……」

 憮然とする杏子を見て、フレンダはにへへ、と笑う。

麦野「その話は大体わかった」

 そこに、麦野が割って入る。
 麦野の声を聞くとフレンダはビクッと震え、縮こまった。

 そんなフレンダを見て、麦野は表情が暗くなる。

麦野「肝心の、今起きてる魔女大量発生の異変、とでも言うべきか? そいつはどうする?」

麦野「こんなの、調べるのは途方もないわよ。手がかりが襲ってくる敵しかないし」

QB「それについては大丈夫、僕にアテがあるんだ」

浜面「アテ?」

QB「マミと杏子が来るよりもっと早くからとある魔法少女に調べてもらっていてね、最近の駆動鎧の動向から、相手のしっぽを掴んだって連絡が入ったんだ」

杏子「おいおいちょっと待て、あたしらは囮だったってわけか?」

QB「まさか! たまたま調べていたところに、なぜか君たちが襲われるようになったからの僥倖だよ」

杏子「納得できないけど……まあいいか。情報が手に入るんならそれに越したことはない」

マミ「さて、この後はどうしましょうか。今はホテルすら取れないし、夜は辛いわ」

絹旗「それなら、アイテムとして働いてた時に超使ってたアジトはどうでしょう?」

フレンダ「なるほどね……確かにあそこなら私のトラップもしっかり仕掛けてあるから安心して眠れるかも」

浜面「妥当だな」

杏子「じゃあ、そこを一晩借りるわ」

 よし、っと杏子は立ち上がる。

QB「おっと、忘れるところだった」

 と、そこでキュゥべえがマミの膝元から机に上り、とてとてと麦野達がいる方に向かい、笑顔を作って言う。

QB「麦野沈利、滝壺理后。僕と契約して魔法少女に」

杏子「やめい」

 言葉は、杏子が下した拳骨で中断された。

——
杏子「おいおい……何が安全だ」

 ファミレスを後にした七人は一番近いという、マンションに向かっていた。

 立地の割には値段が高すぎるということで、入居者のほとんどいないマンションで、昼間でも人気の少ない辺りだ。
 そして、だからこそ、アイテム面々は好き勝手やっていたとのこと。

 だが、そのマンションに着いて、全員が全員、苦々しい顔をした。

 マンションの前に、人影が五人分見えた。二足歩行の人の形をしてたが、それは大きく人からかけ離れていた。

 四体はずんぐりとした人型で、黒い装甲に覆われている。
 右手に当たる部分にはそれぞれ大型の機関銃が握られている。

 深夜、フレンダたちを襲った、魔法少女が入った駆動鎧と同型だった。

 しかも、それは四体。

 さらにもう一体、四体の駆動鎧を背後に控えさせた、今まで見なかったような、真っ白なライダースーツにフルフェイスを被ったような、すっきりとした風貌の駆動鎧もいた。
 こちらも手に銃を持っているが、大きな機関銃ではない。一般人でも片手で持てるような拳銃サイズ。
 しかし外観は従来の拳銃よりかけ離れていて、まるでSF映画に出てくるレーザー銃のような形をしていた。また、それはケーブルが真っ白の駆動鎧に向けて伸び、接続されている。

「よぉ、わざわざやってきてくれてゴクロウサン」

 先頭の白い駆動鎧が皮肉たっぷりに言う。男の声。どうやらリーダー格のようだ。

浜面「くそっ……回り込まれてたのか!?」

麦野「でもどういうことだ……仮にもアジトだ、しっかりと情報管理してれば、割れるわけがない」

 能力をすぐにでも発動できるよう、麦野は演算を開始する。

 絹旗が、情報管理と聞いて、ちらりとフレンダの方を見る。

フレンダ「わ、私は違うってわけよ!」

 その視線に焦って、フレンダは必死に弁解する。

「いやいや、そんなにぞろぞろと連れ立ってたら、嫌でも目立つだろ」

 馬鹿にするような口調でライダースーツの男は言う。

絹旗「それを超重々承知で、だからこそ二手に分かれて行動したはずですが」

 手近にあった標識を引っこ抜きながら、絹旗が否定した。

「ああ、そうだったのか。まあ、今のは嘘だ。単純な話、上にはお前達の動向はお見通しなんだとよ」

麦野「チッ……どこまでの上層部がこの件に関わってるんだよ……」

 事態の最悪さを理解して、麦野は舌打ち、そして歯ぎしりする。

 アイテムのアジトを知り、さらに、恐らく学園都市の衛星を使って七人を監視していたとなれば、かなりの権限を持った人間が黒幕ということになる。

 それも、かつてのアイテム以上、それを指示していた電話の女以上の。

「そんなことはどうでもいいんだ。こっちの命令は、単純。
 最悪死体になってもいいから『原子崩し』と『能力追跡』を回収し、残りを消せ、それだけだからな」

杏子「この戦力相手に、できると思ってるのか?」

「まあ、できるだろ。『原子崩し』さえなんとかすればだけどな」

麦野「私も甘く見られたもんね」

「来いよ『原子崩し』。こっちの最大戦力は俺だ。お互い最大戦力同士をぶつけてフェアにいこうじゃねえか」

麦野「ほざいてろ」

 麦野が人差し指をライダースーツの男に向ける。そこからいつも通り、能力を発動すれば貫いて終わり、のはずだ。

 しかしそれよりも早く、銃弾がライダースーツの男に到達する。

 ライダースーツの男はまるで銃弾が見えてるかのように易々と避けた。

マミ「私たちも甘く見られすぎだわ」

 銃弾を放ったのはもちろんマミ。いつの間にか変身を完了させたマミが銃を構えていた。
 見れば、フレンダ、杏子も同じく変身を完了させている。

マミ「銃使い同士、仲良くするっていうのはどうかしら?」

 にこりと笑って、麦野より一歩前に立つマミ。

マミ『後ろのロボットさん、装甲が厚いし、銃が使えないとすぐに接近戦をしてくるから苦手なのよね。
   適材適所ってことでいきましょ』

 同時に、六人の脳内に直接響くようなマミの声が聞こえた。

浜面「これは……!?」

マミ『テレパシーよ。できれば、顔に出さないようにしてほしかったけど』

麦野『魔法少女ってのは『精神感応』(テレパス)までできるのか』

マミ『これはキュゥべえが仲介に立っていてくれるお陰だけどね』

 マミは六人にウィンクを飛ばす。

「はぁ……まあいいか。人工UMA一体に苦戦する雑魚なら五分もかからないだろ。『原子崩し』はそれからでも遅くない」

マミ「残念ね、三分もかからないと思うわ」

「さて、起動、と」

 マミの言葉を無視し、ライダースーツの男は銃の引き金を一度引く。

 すると、モーターの駆動音が鳴り出し、男の被るヘルメットの顔面部に文字が現れた。

 その文字を見た瞬間、浜面は驚愕する。


 ——Equ.Meltdowner。ヘルメットの顔面部に、確かに、はっきりと、青色のLEDライトでそう書かれているのを浜面は確認した。

浜面「巴気をつけろ! そいつ、かなりヤバい!」

 無作為な動作でライダースーツの男はマミに銃口を向け、引き金を引く。

 その銃口の方向を見極めたマミが、発射される前に回避行動を取り、それが正解だと悟った。

 真っ白な、光線が放たれた。

 じゅわっという、水分が蒸発する音と共に、アスファルトが真っ赤に融解する。

 滝壺は、麦野は、絹旗は、フレンダは、浜面は、知っていた。それが何であるか、ヘルメットの文字と、現象から、すぐに予想がついた。

麦野「どういうことだおい……私の能力のパクリじゃねえか!」

フレンダ「マミ……!」

 事態を危険視したフレンダがマミの下へ駆け寄ろうとする。が、それは叶わない。

 ずんぐりとした巨体からは想像もできないほど俊敏な動きで、四体の真っ黒な駆動鎧が立ち塞がったからだ。

フレンダ「くっ……マミ、気をつけて、それはどんなものも貫通する絶対の攻撃ってわけよ!」

 すぐに駆けつけられないと判断したフレンダは、マミに警告する。

 その予想は当たっていたらしく、再び銃口を向けられて、マミが作ったリボンの壁は易々と撃ち抜かれた。

 フレンダの警告が届いたのか、マミは壁が破られる前に回避行動を取り、光線を避ける。間一髪だ。

「まあ、単発じゃ当たらないよな」

 そう言って、ライダースーツの男は何かを投げる。カードだ。

麦野「拡散支援半導体……!」

 続いて、ライダースーツの男はそれを原子崩しの銃で撃ち抜いた。

 カードに光線が当たった瞬間、光線は幾十にも枝分かれし、豪雨のようにマミを遅う。

フレンダ「マ——」

 枝分かれしたと言っても、一発一発が一撃必殺の絶対攻撃だ。最悪の事態を想定したフレンダがマミの名前を叫ぼうとする。

 しかし、言葉は発せられない。マミに気を取られたところを真っ黒な駆動鎧の蹴りが容赦なく襲いかかったからだ。

 轟ッ!! という凄まじい音が響き、フレンダの体は玩具の人形のように空中に投げ捨てられる。

麦野「フレンダッ!!」

 麦野も吹き飛ばされたフレンダに意識を移動させてしまう。

 当然、それを許す敵ではない。

 気がつけば、麦野の眼前に巨大な機関銃を構えた駆動鎧が迫っていた。しかし、機関銃の引き金は引かれない。

 単純な打撃で、鈍器として、駆動鎧は機関銃を麦野に、横殴りに叩き付けた。

 麦野は魔法少女ではなく、人間だ。レベル5と言っても、体は人間だ。
 そんなものを食らえば、一溜まりもなかっただろう。

杏子「あぶねえ!」

 それを間一髪、杏子が押し倒し、事なきを得る。

 フルスイングを空振った駆動鎧だが、体制は一切崩さない。そのまま足を上げて、二人を踏みつけようとする。

 杏子はそれよりも早く麦野を抱えて地面を転がる。駆動鎧から距離を僅かだが取ると、すぐに立ち上がり、麦野を抱えて距離を取る。

杏子「全員しっかりしやがれ! あたしらが安全圏ってわけじゃないんだぞ!」

 杏子が叱咤する。

浜面「でもフレンダが……!」

杏子「フレンダなら大丈夫だ! あんな程度で死ぬわけがない!」

絹旗「浜面、後ろ!」

 三体目。浜面の背後にいつの間にか駆動鎧が機関銃を構えていた。

 銃口が浜面に向けられている。浜面と一緒にいる滝壺にも、だ。今度は機関銃の正当な使い方がされるようだった。

フレンダ「その通りってわけよ!」

 だが、引き金は引かれない。駆動鎧の横っ腹に小型ミサイルが直撃し、駆動鎧は炎に包まれる。
 ミサイルは、フレンダの放ったものだ。

浜面「フレンダ!」

 見ればフレンダはあれだけ激しく吹き飛ばされたというのに、傷一つない、無傷のままだ。

麦野「くそっ……無茶苦茶だ!」

 浜面は自分の実力の無さを理解しつつ、滝壺を守るため。
 麦野と杏子とフレンダは効率よく防壁を張るため。
 絹旗は取り残されないため。

 浜面と滝壺、麦野と杏子、絹旗、そしてフレンダで散開していた六人は一度一箇所に集まる。

杏子「こいつらの内の一体は厄介だぞ……いくらぶっ壊しても魔法で回復してきやがるからな」

 六人が集まったことにより狙い所だと判断されたのか、三体の駆動鎧が機関銃を構え、六人に向ける。

麦野「どういうことだ?」

 そして、一斉掃射。鼓膜が壊れるかのような、爆撃のような音が鳴り響く。

杏子「詳細はわからねえ、でも敵に魔法少女がいるってことは確かだ!」

 それに対応して、杏子とフレンダが結界を張る。二重に張られた結界は銃弾を一切通さない。

浜面「俺たちもだけど、巴は大丈夫なのか!?」

杏子「ああ、マミのことなら心配いらねえよ。悔しいけどな」

フレンダ「で、でも……」

杏子「マミはな、お人好しすぎるんだよ。
   馬鹿正直に正義の味方なんてやっちゃってさ、グリーフシードも落とさない使い魔までご丁寧にお掃除してくれるんだ」

フレンダ「それなら尚更余裕がなくてヤバイんじゃないの!?」

杏子「逆だよ逆。使い魔まで倒す、『余裕』があるんだよ。つまりいつも力をセーブして戦ってるんだ。
   それでいて、あたしら現実主義のベテラン魔法少女に襲われても、撃退する強さがある」

 掃射の音が止む。

杏子「認めざるを得ねえよ、マミの才能は。そして、今のマミはこの街に溢れる魔女のお陰でグリーフシードがたんまりある」

 結界越しに見れば、駆動鎧は四体に戻っていた。フレンダがミサイルを直撃させたらしき駆動鎧は仄かに光に包まれ、修復していっている。

杏子「今のマミは、下手な軍隊より強いんじゃないか?」

 そして、突貫。速度は以前戦った時よりもさらに速い。

杏子「ま、他人の心配をするより、今は自分らのやることを片付けるぞ」

 多大な質量の物体が、高速で結界に激突しようとする。
 速度が上がれば上がるほど、威力は爆発的に膨れあがる。二重の結界でも保つかどうか。

 それを理解しているフレンダと杏子が再び散開しようとして、

麦野「そういうわけ、ね!」

 その心配がなくなった。飛び込んで来た駆動鎧を麦野の原子崩しが吹き飛ばしたからだ。

麦野「伏せてろッ」

 続いて、両手から、そして義眼に当たる瞳から原子崩しを発射する。

 それぞれ、残り三体の駆動鎧を正確無比に狙ったものだ。

 原子崩しは電子だ。つまり、攻撃速度は秒速百五十キロメートルだ。

 当然、避けられるはずもない。それで三体は終わる、と麦野は思っていた。

麦野「なっ!?」

 だが、麦野の予想は大きく外れる。

 それぞれ三体の駆動鎧の前に、結界が出現する。

 原子崩しは結界に突き刺さり、弾かれた。

 原子崩しは曖昧な電子のまま発射する、干渉不可の攻撃だ。それはあらゆるものを貫く矛にもなるし、あらゆるものを防ぐ盾にもなる。

 物理的に考えたなら、だ。

 物理的にはあり得ない現象がそこで起きていた。

 その現象がどういうことかを知っている二人が、驚きの表情を顔に貼り付ける。

杏子「なん……だと……?」

フレンダ「こいつら全員が全員、魔法少女!?」

 すると三体は、どこからともなく、手元に何かを生み出す。

 杖だ。細長い棒に、先端に球体状のものがついている。三体が揃いも揃って、それを持っていた。

杏子「あれは……!?」

 その杖を見て、杏子はさらに驚愕する。

 駆動鎧はそれを振りかぶった。

 ドゴン、という低い音がした。

 見えない三発の一撃が、杏子とフレンダが作った結界を叩く。それだけで、結界は砕けて崩壊した。

フレンダ「なんなのあれ!」

杏子「衝撃波だ!」

 衝撃波。音速を超えて空気中を伝播する、振動の波。不可視で高速の攻撃。

麦野「また厄介なものがぞろぞろと……!」

 駆動鎧たちは再び振りかぶる。二重の結界を容易に破るほどの威力だ、それを食らっては一溜まりもない。

麦野「全員しっかりと掴まれ!」

 意味を考えるより早く、五人は麦野に捕まった。そして麦野は両腕から原子崩しを噴射し、ジェット噴射のように五人を乗せて飛ぶ。

 麦野たちがいた箇所に衝撃波がぶつかり合い、大音量のパァンという乾いた音が六人の鼓膜を叩いた。

絹旗「超どうなってるんですか!? 一体だけが魔法少女じゃなかったんですか!?」

杏子「そんなのこっちが聞きたいくらいだ!」

 安全圏に移動しても、一息吐く時間すらない。

 駆動鎧たちはすぐに追撃せんと、こちらを向いていた。

滝壺「何……あれ」

 だが、滝壺が指さした方角を見て、五人は三体の駆動鎧のことが意識の外へと消えた。

 それは、麦野が原子崩しで吹き飛ばした駆動鎧だ。それが、どうにも様子がおかしい。

 全身が熱と衝撃で変形しているのに、一向に修復する気配がなかった。

 それどころか、内側から壊すかのように、さらに変形して行っている。

 変化は、次の瞬間に起きた。

 凄まじい突風が吹き荒れて、麦野たちの方向に向かおうとした駆動鎧たちが吹き飛ばされる。

 変形した駆動鎧が、操り人形のように脱力して宙を浮く。そして、その首の後ろに当たる部分から、何かが飛び出した。

 ソウルジェムだ。そのソウルジェムは内側から割れて、すぐに形を失う。そうして、

杏子・フレンダ「なんだ……これ……」

 魔女が出現した。

——
マミ「意外だったわ、そんなこともできるのね」

 拡散支援半導体による攻撃で、アスファルトはマグマのように、どろどろに溶けていた。

 しかし、マミはそこにはいない。電子の雨が到達するよりも早く、動き出していたのだ。

「なんだ、速いんだな、アンタ」

マミ「それほどでもないわ」

 ステップを踏むように、円を描くように、マミは距離を取りながら素早い速度でライダースーツの男の背後に回る。

マミ「さて、お返し」

 次にマミの背後に大量のマスケット銃が出現した。

 数十、なんてレベルではない。百は優に超えていた。

 それらはまるで見えない手に引き金を引かれたように、ひとりでに発砲する。

 弾幕。雨と言うのも生ぬるい。弾丸の台風がライダースーツの男を襲う。

「そんな豆鉄砲が通用すると思ってるのか」

 それに対し、ライダースーツの男は両手で原子崩しの銃を構え、発射する。

 極太の、真っ白な光線が発生し、弾幕を吹き飛ばす。

 百を超えた弾丸は一発の弾丸で撃ち伏せられた。

マミ「応用が利くのね、それ」

 声はさらに別の方向から聞こえた。
 駆動鎧のマインドサポートで感覚を強化されているライダースーツの男だったが、それでも見失うほどの速度だった。

マミ「これはどうかしら?」

 声の方を向けば、マミが巨大な銃を構えていた。

マミ「ティロ・フィナーレ!」

 大砲のような銃声と共に、巨大な弾丸が放たれる。

「無駄だって言ってるだろ?」

 ライダースーツの男は一切慌てない。原子崩しの銃をマミの方向に向けると、銃口から薄い膜のようなものが広がった。

「これは学園都市第四位、『原子崩し』の能力を可能な限り再現し、装備することを目的に作られた駆動鎧だ」

 弾丸は原子崩しの膜に触れると、ジュッという音を立てて、蒸発する。

「干渉不可の最強の矛で、最強の盾だ。そんな下手な攻撃が通ると思ったら大間違いだぞ」

 マミは、それでも余裕を崩さない。

マミ「そうね、こんな攻撃でも、わざわざ防ぐってことは、通ればダメージがあるのね」

 パチン、とマミが指を鳴らす。すると、先ほどの巨大な銃が現れた。

マミ「しかも、わざわざ防いだってことはこのくらいの攻撃になると、貫ける自信がないか、もしくはそれ以外の理由があるか、で吹き飛ばしながら攻撃ができないってことよね?」

 しかし数は一つではない。百を超えていた。いや、もっと多かった。

「んな……!?」

 先ほどの弾幕を作り出したマスケット銃群すら越える、圧倒的な数の、巨大な銃身がマミの背後に出現していた。

マミ「さて、私の下手な鉄砲でも、数を撃てばどうなるのかしらね?」

 そして、引き金が引かれる。

マミ「ティロ・フィナーレ・フルオート!」

 爆撃が、降り注いだ。

「くそが!」

 ライダースーツの男は即座に原子崩しの膜を発生させる。

 もちろん、原子崩しは干渉不可なので、それだけで弾丸は届かなくなる。

 周囲に着弾した際の爆風が膜に守られていない方向からライダースーツの男の体を叩くが、駆動鎧で強化された肉体はその程度では動じない。

 だが、ライダースーツの男は、焦っていた。

 このEqu.Meltdownerは未完成だ。大きな欠陥があった。

 生み出すエネルギーに対して、廃熱が間に合わないのである。

 この駆動鎧の内部は通常、使うだけでもすぐに蒸し焼き状態になり、人間の体には耐えられない。

 だからこそ、『発火能力』のレベル3であり、熱に耐性のあるこの男こそがギリギリ使えるのだ。

 しかし、いくら中身の人間が熱に耐性があったからと言って、機械の部品の耐性が上がるわけではない。

 長時間の連続使用は御法度だった。だからこそ、拮抗するであろう攻撃に対しては防御に最適化されたプログラムが優先される。

 結局、マミがティロ・フィナーレの爆撃を叩き付けた時点で、勝敗は決していた。

 マミの爆撃は止むことがなかった。

 ほどなくして、ライダースーツの男の視界に、駆動鎧の内部のディスプレイに、大量の赤い文字が表示される。

 EMERGENCY! EMERGENCY! EMERGENCY! 即座に能力の使用を停止してください!

 そんなことを言われても、ライダースーツの男は防御を停止するわけにはいかない。

 あまりの熱に許容限界を超えた原子崩しの銃はオーバーヒートを起こし、爆発する前に安全装置が働き、強制終了となる。

 原子崩しの膜が消える。絶対的な盾が消える。

「ガァッ!!」

 ライダースーツの男は爆撃に直に晒され、撃ち抜かれ、撃ち抜かれ、撃ち抜かれ。吹き飛ばされた。

 手応えを確認して、マミは爆撃を終了する。

マミ「ふぅ……三分なんてとんでもなかったわね。二分もかからなかったわ」

——
 それは、巨大な本だった。

 パラパラパラパラと勢いよくページが捲られ、あまりに乱暴にページを捲ったせいで、ページが千切れ飛ぶ。

 千切れ飛んだページが麦野達の下へ飛来する。

 そこには、子供の書いた絵が描かれていた。

 誰もが一目でわかった。槍を持った杏子の絵だ。

杏子「あたしだと……?」

 次の瞬間、絵の中の杏子が笑う。動かないはずの絵が動く。

 多節棍にした槍を振りかぶり、思い切り振ると、槍の穂先が絵の中から飛び出してくる。

 子供が書いた曖昧な線のままの姿をした槍が、麦野達に襲いかかった。

 麦野、滝壺、フレンダ、杏子は避ける。

 だが、浜面と絹旗は何が起こったのかわからない風で、立ち尽くしていた。

麦野「何してんだ避けろ!」

絹旗「は——」

 槍が直撃し、絹旗がノーバウンドで吹き飛ばされる。

浜面「絹旗ッ!?」

 突然吹き飛ばされた絹旗を見て、浜面は素っ頓狂な声を上げた。

フレンダ「このっ……!」

 フレンダはナイフを生み出し、飛んできた杏子が描かれた紙の一ページに投げつける。

 ビリッという破ける音と共にページは真っ二つになり、空中に溶けるようにして消えた。

杏子「そうか、魔女は最愛と仕上には見えねえ!」

 鳥が羽ばたくような音が響く。見れば、十一のページが中空に浮かんでいた。

 鬼のような形相をした麦野、三日月のような口で笑う杏子、目を丸くして驚いた顔のマミ、泣きそうな顔のフレンダ、
 造形が滅茶苦茶な駆動鎧、金髪でランドセルを背負った少女、残虐な顔をしたイルカのぬいぐるみを抱えた少女、
 大きな謎の仮面を被った人型、青を基調としたフリフリのスカートに蓮をかたどったような杖を持った少女、
 うつろな目をしてゴーグルを額にかけた茶髪の少女、そしてネコのような耳をした帽子を被った少女。

麦野「こいつら、もしかして……!?」

 麦野の脳裏に、最悪の予想が過ぎる。

 果たして、それは当たっていた。

 麦野の絵が人差し指を向ける。そして、次の瞬間、その指から光線が放たれた。

 それは紙から外へ、二次元から三次元へと出現し、杏子を貫こうとする。

 正真正銘の、原子崩しの一撃だった。

 だがそれは届かない。麦野という存在がいる限り、電子に直接干渉し、曲げることができるからだ。

麦野「気をつけろ、絵に描かれたやつと同じ能力を使ってくるぞ!」

 そう言って、麦野は原子崩しを発射。自分の絵を貫く。

 どうやら、こちらの攻撃に受動的に反撃することはできないらしい。

 あくまで、攻撃ができるだけのようだ、と麦野は解釈した。

フレンダ「でもなんで魔女がこんなところに!?」

 仮面を被った人型から伸びた羽を避け、ナイフを突き刺してフレンダは言う。

杏子「わからねえ! なんなんだよホントになんなんだよこれはよ!」

 槍を多節棍モードにし、造形が滅茶苦茶な駆動鎧の絵を切り裂く杏子。

 その時、背後から連続した爆音が響いた。残り三体の駆動鎧たちの機関銃だ。

 間一髪、麦野が原子崩しの壁を発生させ、銃弾から全員を守る。

麦野「前門の虎後門の狼、ってか? クソが!」

 イルカのぬいぐるみを抱えた少女から赤子のような手が伸びる。数えるのが億劫なほど、数百だ。

 凄まじい爆風が巻き起こり、麦野、フレンダ、杏子、浜面、滝壺の体に空気が叩き付けられる。

浜面「滝壺っ!」

 その瞬間、浜面が滝壺を抱きかかえる。

 結果。麦野、杏子、フレンダは散り散りに吹き飛ばされ、浜面と滝壺だけが同じ場所に留まった。

浜面「なんだ、何が起きてるんだ!?」

滝壺「魔女が出てきた」

 淡々と、しかし熱っぽく滝壺は言う。

浜面「魔女って」

滝壺「はまづら、右に逃げて!」

 浜面が聞き返すより早く、滝壺は警告する。
 浜面は滝壺の指示に従い、右へと転がる。すると今まで二人が倒れてた場所で爆発が巻き起こった。

 その爆風に体を打たれ、さらに浜面と滝壺は転がる。

浜面「くそっ……麦野たちは!?」

 見渡すと、状況は最悪だった。麦野も、フレンダも、杏子も。吹き飛ばされてから復帰した駆動鎧と交戦していた。
 こちらには来れそうにはない。

 つまり、魔女と戦えるのは、浜面と滝壺だけだった。

浜面「ちくしょう……やるしか、ねえ!」

滝壺「やるって……どうやって?」

浜面「滝壺は見えてるんだよな? それならまだやりようはある」

 滝壺を支えながら、立ち上がる浜面。

浜面「まずは絹旗を拾いに行く。絹旗ならあれくらいのダメージはどうってことないはずだ」

滝壺「上から来る!」

 滝壺に言われて浜面は前方にダイブ。遅れて、バチィっという激しい音がした。電撃の音だ。

浜面「ちくしょう、どんな敵なんだよこいつは」

滝壺「本体は本の形をしてる。紙のページを飛ばしてきて、ページに色んな人の絵が描かれてる。その描かれた人の能力で攻撃してくるみたい」

浜面「そんなのありかよ……いや、本? 電撃……いける!」

滝壺「伏せて!」

 滝壺の言葉通り、浜面は伏せる。その上を銃弾が飛び去っていった。

浜面「まずは絹旗の下までどうやって辿り着くか……だな」



QB『そんな危険な賭けより、もっといい方法があるよ』


 浜面が行動に移そうとしたその時、二人の脳内に、言葉が響いた。

 辺りを見渡すと、遥か遠く、浜面たちが目指していたマンションの一室の、ベランダにそれはいた。

 キュゥべえだ。

滝壺『いい方法?』

 テレパシーで滝壺が聞き返す。

QB『簡単さ。滝壺理后、君が魔法少女になって、魔女と戦えばいいんだよ』

浜面「なっ……」

QB『願いはそうだね、そこの浜面仕上を助けたい、とかがいいんじゃないかな。
  実は困ったことに、回復系の魔法を習得する願いじゃないと、魔法を使う度に体がダメージを受けて、まともに戦えないんだ』

浜面『ふざけるな! 魔法少女になったら、一生、戦い続けることになるんだろ!?』

QB『うーん、でも、このままだと君たちは確実に死んでしまうよ? 普通の人間が魔女に勝てるわけないからね』

滝壺『はまづらのためなら……私は』

浜面「やめてくれ滝壺! せっかく助けたのに、もう自由になったのに、もうやめてくれ……」

滝壺「はまづら……」

QB『やれやれ、君にまでテレパシーを繋いだのは失敗だったかな』

 そこで、浜面は光明を得たのを感じた。

浜面『おいキュゥべえ、お前、テレパシーを仲介することができるんだったよな?
   俺から、絹旗へ、仲介させることはできるか?』

QB『できないことはないね。でもそんなことして何の意味があるんだい? 絹旗最愛も魔女は見えないよ?』

浜面『見えなくても、やりようはいくらでもある。繋いでくれ』

QB『やれやれ、仕方ないね。それが夢物語だと悟って、契約したくなったらいつでも言ってね』

 ぶつり、と何かが繋がった感覚が浜面の脳神経を駆け抜ける。

浜面『これがテレパシーか……』

絹旗『は、浜面!?』

浜面『お、繋がった! 大丈夫か絹旗!?』

絹旗『超問題はありませんね。これは、テレパスですか?』

浜面『キュゥべえに手伝ってもらって、魔法少女のテレパシーを繋いでる。それよりだ、無事ならよかった。すぐに動けるか?』

絹旗『超行けますよ』

浜面『よし、じゃあまずあのぶっ壊れた駆動鎧のところまで行ってくれ。続きはまた連絡する』

浜面「滝壺、その紙のページってのは残り何枚だ?」

滝壺「八枚みたい」

浜面「さっき電撃を撃ってきたのはどのページかわかるか?」

滝壺「うんわかる。前に戦ったことある人に似てる」

浜面「よし、完璧だ。——さて、人間の底力、見せてやろうじゃねえか」

——
麦野「オラァ!」

 俊敏に動く駆動鎧が、麦野に襲いかかる。

 原子崩しの弱点である、能力があまりに強力なために狙いが難しいというのを完璧に把握している動きだった。

 だが、駆動鎧は想定外の反撃を受ける。

 肉弾戦を麦野に挑んだところ、なんと、腕を掴まれて投げ飛ばされたのだった。

麦野「はっ! 私が能力一辺倒だと思ったか!」

 自身の大きな質量と相まって、激しく地面に叩き付けられる駆動鎧。

 そんな駆動鎧に麦野は容赦なく原子崩しを浴びせる。

 上半身が溶け、中の人間が見えるが、それでもすぐに回復に移行する。そこをまた麦野は原子崩しで攻撃。そして回復。

 それを数回繰り返す内に、駆動鎧は動かなくなる。

麦野「その装甲と機動力、火力で混戦は得意みたいだけどな、ちょっと機械に乗ったくらいでレベル5とのタイマン勝負に勝てたら苦労しないんだよ」

——
 フレンダがナイフを投げる。装甲に突き刺さることもなく、それは弾かれる。

 どう考えても、火力不足でしかなかった。

 駆動鎧が杖を振り回す。すると衝撃波が発生し、不可視の攻撃がフレンダに迫る。

フレンダ「うわわわわわ」

 杖が振られようとしているのを確認した時点でフレンダは大きくジャンプする。足元すれすれで衝撃波が通り抜け、フレンダは安堵した。

 だが、それも束の間。すぐに空中では逃げ場がないことを理解した駆動鎧が衝撃波の追撃を行おうとする。

フレンダ「にゃろっ!」

 焦って、ナイフを投げる。しかしそれは見当違いの方向に突き進み、駆動鎧は意に介さない。

フレンダ「ちょ、ちょ、たんまー!」

 涙目になって手をバツの形にするフレンダ。しかし駆動鎧は容赦しない。杖を振り下ろす——

フレンダ「……なんてね」

 ——瞬間に、足元が、駆動鎧の脚部が吹き飛んだ。 

フレンダ「うーん、残念。私相手にこんなに時間をかけちゃったのは失敗よね」

 見れば、駆動鎧の足元にテープのようなものが張り巡らされていた。そして、そのテープ上に、先ほど投げたナイフが落下している。

フレンダ「結局、私の本命はこっちなわけよ。それ、ドアとかを焼き切るツールなんだけど、その上に乗ってれば足を吹っ飛ばすくらいの威力は出るってわけ」

 両足が吹き飛び、駆動鎧は仰向けに倒れる。すぐさま、それを修復しようと、足のあった辺りが光に包まれる、が、フレンダが無造作に投げた爆弾で駆動鎧はさらに大破する。

フレンダ「アンタで一番厄介だったのはその機動力なのよね。だからまずはそいつを削がせてもらったわけ。
     さてと、そっちがいくらでも修復できても、こっちの弾数もたくさんあるわけだし、どっちが尽きるのか根性比べでもしよっか」


 結局、この不公平な根性比べは、フレンダが勝ったわけであった。

——
 駆動鎧が衝撃波を放つ。

 しかし杏子は軌道を完璧に見切り、当たらない。

 駆動鎧が機関銃を発砲する。

 しかし杏子は素早い動きで照準を合わせさせず、当たらない。

 駆動鎧が肉弾戦を挑む。

 しかし杏子は完璧に動きに息を合わせて、当たらない。

杏子「あんたの戦法、ロボットみたいに同じようなものばっかりなんだよ」

 杏子の槍が多節棍になり、駆動鎧は鎖で雁字搦めにされた。

杏子「何度も何度も。そうやって同じ戦い方してれば誰でも攻略できちゃうっての」

 駆動鎧はもがくようにして必死に鎖を引きちぎろうとするが、それは一切動かない。

 さらに、杏子はもう一本、槍を生み出す。

 それを、思い切り駆動鎧に叩き付けた。ぐしゃりと装甲が変形し、ノーバウンドで吹き飛ばされる。

 杏子は思い切り地面を蹴り、加速する。吹き飛ばされる駆動鎧を追い、それが地面へと着地する前に真上から叩き付けた。

 あまりの威力にバウンドする駆動鎧を追撃。下から打ち上げるように突き上げる。

 滞空時間が伸びた駆動鎧にさらに追撃。目にも止まらぬ速度で何度も何度も、切りつける。

 回復速度なんて追いつかない。回復する前に杏子が連続で攻撃し、駆動鎧は損傷していく一方だった。

 やがて、中身の魔法少女の魔力が尽きたのか、駆動鎧は回復しなくなる。

 そうして、駆動鎧は沈黙した。

杏子「まだ生きてるはずだ。あたしは手加減したぞ」

 倒れたまま動かない駆動鎧に、杏子は槍を向けて言った。

杏子「さて、質問に答えてもらおうか。
   あんたらは何なんだ?
   どうして魔法少女がこんなことをする?
   どうして全員が同じ魔法を使う?
   どうして、その杖と、攻撃方法を使う?」

 駆動鎧は答えない。

杏子「まあ、いいさ。中身を引っ張り出して聞いてやるよ」

——
滝壺「はまづら、左、そこ」

浜面「これで三枚目!」

 浜面と滝壺は、紙のページ、本の魔女の使い魔を駆逐していた。

滝壺「また左。そこ」

浜面「よし、四枚目!」

 この使い魔は確かに攻撃の威力は怖ろしいものだったが、こちらの攻撃に対しては無防備で、しかも拳銃の銃弾一発で倒れてしまうほど、脆いものだった。

滝壺「次は真上」

浜面「五枚目!」

 攻撃も単調で、ワンパターンの攻撃を浜面と滝壺のいる位置を狙って放つだけ。

滝壺「右、もっと右。うんそこ」

浜面「六枚目!」

 使い魔の攻略は、容易だった。

滝壺「っ! 魔女の本体が来た! はまづら逃げて!」

浜面「やべえ!」

 だが、それは使い魔だけの話。本体の魔女は銃の照準を合わせようにもすぐに逃げ、とても当てられるものではなかった。

 しかも間違って使い魔を全て倒してしまったところ、再び十一体の使い魔を呼び出してくることも判明している。

 また、使い魔を倒すと、この魔女にページの絵が戻るらしく、使い魔を倒せば倒すほど、魔女が強大な力を使うことになっていた。

浜面「もう六体も倒しちまってるところに来やがったか!」

 魔女のページが開く。マミと、青い服の少女のページだ。

 巨大な銃身が現れる。蓮を象った杖が振るわれる。

 浜面の逃げる先を予測した攻撃が襲いかかった。

滝壺「はまづらっ!」

 それに気がついた滝壺が浜面を抱きしめて、静止する。

 二つの攻撃は浜面の一歩先に降り注ぎ、大爆発を起こした。

 爆風に身を叩かれて、二人の体が宙を舞う。

 背中から地面に叩き付けられて、浜面は肺の中の空気を残らず吐き出した。

浜面「ガッ——た、滝壺!」

 叩き付けられて、すぐに浜面は滝壺の姿を確認する。

 滝壺も同じく地面に叩き付けられ、ジャージは地面に削られて穴が空き、見るからに痛々しい姿だった。

浜面「くそっ……滝壺、滝壺っ!」

 すぐに滝壺の下へと駆け寄る浜面。

滝壺「ん……大丈夫」

 幸い、大事には至ってないらしい。滝壺はすぐに浜面の声に応えた。

浜面「よかった……魔女はどこにいる?」

 言われて、滝壺は周囲を見渡す。

滝壺「さっきのでかなり距離が空いたみた——はまづら左に逃げて!」

 滝壺の言葉に即座に反応し、浜面は滝壺を抱えて左に転がる。

 遅れて、先ほどまでの場所に原子崩しの光線が降り注いだ。

滝壺「使い魔に囲まれてる。三体いる。頭の上!」

浜面「もう追いついたのかくそっ!」

 言われて、浜面は真上に発砲する。銃弾は使い魔に当たった。

絹旗『浜面、ぶっ壊れた駆動鎧のところに超辿り着きましたよ!』

 その時、絹旗の声が脳内に直接響いた。

浜面『よし、来たか! 機関銃はまだ使えそうか!?』

絹旗『なんとかいけますね』

浜面『その駆動鎧、絹旗の能力で装甲剥がせそうか?』

絹旗『それは余裕ですね。麦野のお陰でぐちゃぐちゃですし』

浜面『よし! まずは装甲をぶっ壊して、中の人間を取り出してくれ。そしたら人間が乗る部分を露出させておいてくれ』

絹旗『超わかりました』

浜面『それが終わったら機関銃と持てるだけの弾を持ってそこを脱出してくれ』

絹旗『超了解です』

滝壺「はまづら、右!」

浜面「おう!」

 言われて、浜面は発砲する。八体目。

浜面「滝壺、とっても言いたくないが、頼みがある」

滝壺「頼み?」

 きょとんとした顔で滝壺が聞き返す。

浜面「まず、絹旗と合流してくれ。絹旗は機関銃を持ってる。
   あいつの能力を使えば、使えないこともないはずだから、魔女の位置を教えてやってくれ」

滝壺「でも、それを当てられるとは思えない」

浜面「当てなくてもいいんだ。ただの威嚇射撃でいい。それで魔女を避けさせて、あの壊れた駆動鎧の位置まで誘導してくれ」

滝壺「はまづらはどうするの?」

浜面「俺は細工することがあるから先に駆動鎧のところに行ってる。
   恐らく、魔女は魔法少女の素質のある滝壺を狙うはずだ。俺のところにはページが来るはず。
   最後の一ページにすれば、半々で、見事に分かれるはずだ。逆になったら、ページを倒して、魔女の十一ページを解放して、魔女を無力化してからやり直せばいい」

滝壺「……はまづらは、どうするの?」

 不安そうな顔をして、滝壺が聞く。

浜面「大丈夫だ、俺は何もしない。魔女たちが自滅するだけだ」

滝壺「……わかった」

浜面「それと、もう一つ。何があっても、キュゥべえと契約しないでくれよ」

滝壺「……うん」

 静かに滝壺が頷いたのをみて、浜面は内心安心した。

浜面「よっし、残り二体はどこだ?」

滝壺「少し遠い。今、こっちに走ってきてるきぬはたとの間にいる。あと、魔女の近くに残り一体と、例の電撃のページ」

浜面「魔女の近くか……厄介だな。絹旗の方にいるってことは、やっぱり一体が向かってるってことか」

滝壺「そうみたい」

浜面「まずはそっちの方に走るか」

 浜面と滝壺は、絹旗の方へと走り始める。

 その瞬間、ページが一枚、こちらに向かってくるのを滝壺は確認した。

滝壺「……! ページがまた一ページこっちに来た。電撃のページ」

浜面「本当か! そりゃ好都合だ!」

 次に、滝壺は絹旗に向けて、ページが攻撃しようとしているのを確認する。

滝壺『きぬはた、前に思いっきり飛んで!』

絹旗『え、あ、はい』

 滝壺の言葉に応えて、絹旗が飛ぶ。その背後で圧縮された空気が爆発を起こし、絹旗をさらに前へと吹き飛ばした。

浜面「絹旗っ!」

 そして吹き飛ばされてきた絹旗を、浜面は受け止める。

 浜面は受け止めた際に、思い切りスカート部分を捲り上げ、薄い布に包まれた小さな桃を鷲掴みにした。

絹旗「ぎゃっ……ちょ、浜面! どこを超触ってるんですか!」

浜面「『窒素装甲』で殴るな馬鹿!」

絹旗「超変態! 変態! 変態!」

 顔を真っ赤にして、絹旗は浜面の背中を叩く。

浜面「今はそれどころじゃないっての! 滝壺、絹旗を追ってたページは!?」

滝壺「もう目の前に迫ってる!」

浜面「相変わらずページは速いな!」

 絹旗を下ろす暇もなく、銃をがむしゃらに前方へ乱射する浜面。それは使い魔に当たり、使い魔は程なくして消滅する。

浜面「よし、完璧だ。滝壺、後は作戦通りに頼む!」

滝壺「わかった」

 絹旗を下ろすと、すぐに浜面は逃げるようにして、駆動鎧へと向かう。
 それと確認して、滝壺は絹旗の腕を引っ張りながら魔女本体の方へと向かう。

 滝壺と絹旗が魔女本体へと向かったと認識した使い魔は、浜面を追跡し始める。

 浜面が走り続けてるとすぐに、機関銃の音が聞こえ始めた。誘導開始だ。

 浜面には見えないが、程なくして、魔女本体は駆動鎧の下へと到着した。

 魔女と一緒に残っていたページは絹旗の持つ機関銃によって、撃ち散らされていた。

 遅れて、浜面も駆動鎧に到着する。

浜面『二人とも、射撃をやめてくれ!』

 テレパシーで伝えると、すぐに射撃は止む。

 その隙に、浜面は駆動鎧のコックピット部へと乗り込んだ。

浜面「はっ……まんまと罠に嵌ったな、くそったれ共」

 浜面には見えないが、遅れて、使い魔のページが到着する。

 浜面の逃げる背後で、ずっと電撃を放ち続けていた、使い魔のページが、駆動鎧という機器の重要部に入り込んだ浜面の下へと到着する。

浜面「知ってるか? 駆動鎧のコックピットってのは、マインドサポートとか、そういう繊細なモンが大量に備え付けてあるんだ。駆動鎧の全体に接続されてるんだよ」

浜面「ついでにな、駆動鎧は電動だ。電池ってのは、危ないんだぜ?」

浜面「リチウムポリマー、リチウムイオン、燃料電池。こういう最新の充電池はエネルギーの密度が高い。エネルギーの密度が高いってことは、つまりは裏を返せばそれだけ危険ということでもある」

浜面「そこで本来は保護されてるはずのむき出しになったコックピットに強力な電撃を浴びせたら、そのエネルギーが暴走する危険性がある……
   つまり、駆動鎧ってのはな、大きな爆弾になるんだよ」

浜面「まあ、考えることのできないお前達にわかるはずもないだろうけどな」

 電撃が来るタイミングは完璧に把握していた。
 電撃が来るタイミングで、浜面は離脱する。
 電撃は浜面には当たらず、コックピットに突き刺さる。


浜面「——楽勝だ、魔女ども」


 爆発。

 浜面は体が爆風によって大きく運ばれる感触を味わった。

 その背後で魔女は爆発に包まれ、崩壊する。

 人間が、魔女を倒した瞬間だった。

——
 ライダースーツの男は、爆撃にもみくちゃにされ、見るも無惨な姿になっていた。

 むしろ生きてることが不思議なほどの損傷だ。

マミ「さて、貴方たちの黒幕のことでも教えてもらいましょうか」

 そんな姿を見ても、マミは一切容赦のない声で詰問する。

「はっ……勝ったつもりでいるのか?」

 馬鹿にしたように、ライダースーツの男が言う。

マミ「この期に及んで、まだ負けたつもりになれないの?」

 それに対して、マミは呆れた声で返答した。

「なれないな。むしろ逆だ。お前がこの距離に近寄った時点で、俺の勝ちなんだよ」

 自信たっぷりに、男は言う。

マミ「へぇ……?」

 マミはまったく信じない。余裕は崩さない。

「このライダースーツみたいなのだって立派な駆動鎧なんだよ。
 この距離からなら全速力で突進するだけで、お前が引き金を引く前に、お前が反応する前に轢き殺せる」

マミ「で、勝利宣言をしたいの? 私が貴方だったら無言で実行してるところだけど?」

 マミは冷たく言い捨てる。

「はっはっは、違う違う」

 男が笑う。どうやらこちらの余裕も本物のようだ、とマミは認識する。

「取引をしようって言うんだよ。どうせ、お前のお仲間はあの人工UMA部隊にやられるだろうよ。
 あれは見た目は人間に見えても、中身はとんでもない怪物だからな」

 恐らく、銃を向けた後からでも、全速力で轢き殺せるというのは本当なのだろう。

「そこでだ、お前、学園都市暗部の『新入生』になるつもりはないか? それだけの実力があれば第一線で戦える。
 学園都市は今は是が非でも戦力が欲しいんだ。お前なら歓迎されるだろうよ」

マミ「貴方にそこまでの権限があるとは思えないけど?」

「俺の上司、つまりお前らの言う黒幕が、とてつもない研究をしている。
 UMAに関する、能力開発を根本からひっくり返すような研究だ! 権限なんてすぐに手に入るさ」

マミ「断る、って言ったら?」

「今すぐにでも、轢き殺すさ」

マミ「まあ怖い。それじゃ答えは一つしかないわね」

——

 ビクン、と麦野が焼き尽くした駆動鎧が痙攣した。

——

 もぞり、とフレンダが砕き尽くした駆動鎧が動いた。

——

 ぶるり、と杏子が拘束した駆動鎧が震えた。

——

麦野「まさか……」

フレンダ「まだ生きてるわけ?」

杏子「なんだ……?」


 轟ッ!! と三箇所から嵐のような突風が吹き荒れる。

 駆動鎧たちは操り人形のように脱力して宙に浮くと、首の後ろから、何かが飛び出した。

 ソウルジェムだ。ソウルジェムは内側から割れて、すぐに形を失う。

 魔女が、三体出現した。

——
 ライダースーツの男は、爆撃にもみくちゃにされ、見るも無惨な姿になっていた。

 むしろ生きてることが不思議なほどの損傷だ。

マミ「さて、貴方たちの黒幕のことでも教えてもらいましょうか」

 そんな姿を見ても、マミは一切容赦のない声で詰問する。

「はっ……勝ったつもりでいるのか?」

 馬鹿にしたように、ライダースーツの男が言う。

マミ「この期に及んで、まだ負けたつもりになれないの?」

 それに対して、マミは呆れた声で返答した。

「なれないな。むしろ逆だ。お前がこの距離に近寄った時点で、俺の勝ちなんだよ」

 自信たっぷりに、男は言う。

マミ「へぇ……?」

 マミはまったく信じない。余裕は崩さない。

「このライダースーツみたいなのだって立派な駆動鎧なんだよ。
 この距離からなら全速力で突進するだけで、お前が引き金を引く前に、お前が反応する前に轢き殺せる」

マミ「で、勝利宣言をしたいの? 私が貴方だったら無言で実行してるところだけど?」

 マミは冷たく言い捨てる。

「はっはっは、違う違う」

 男が笑う。どうやらこちらの余裕も本物のようだ、とマミは認識する。

「取引をしようって言うんだよ。どうせ、お前のお仲間はあの人工UMA部隊にやられるだろうよ。
 あれは見た目は人間に見えても、中身はとんでもない怪物だからな」

 恐らく、銃を向けた後からでも、全速力で轢き殺せるというのは本当なのだろう。

「そこでだ、お前、学園都市暗部の『新入生』になるつもりはないか? それだけの実力があれば第一線で戦える。
 学園都市は今は是が非でも戦力が欲しいんだ。お前なら歓迎されるだろうよ」

マミ「貴方にそこまでの権限があるとは思えないけど?」

「俺の上司、つまりお前らの言う黒幕が、とてつもない研究をしている。
 UMAに関する、能力開発を根本からひっくり返すような研究だ! 権限なんてすぐに手に入るさ」

マミ「断る、って言ったら?」

「今すぐにでも、轢き殺すさ」

マミ「まあ怖い。それじゃ答えは一つしかないわね」

 そこでマミは言葉を一度切って、溜める。

マミ「——断るわ」

 そして、満面の笑みを作って言い放った。

「そうか、後悔するな——んだこれ!?」

 ライダースーツの男が力をこめようとした瞬間、スーツの銃創から大量のリボンが飛び出した。

 マミは未だに笑顔のまま、何も動じない。

マミ「ごめんなさいね、私、銃が本領じゃないの。本領はこっちなのよ」

 リボンは瞬く間にライダースーツの男を古代エジプトのミイラのように包み込む。

マミ「着弾した弾は全てリボンになるわ。勝ったつもり、じゃなくて、最初から勝っていたのよ」

 そんなライダースーツの男を背に、手をひらひらと振りながら、バイバイと言おうとした時に、マミは言葉を失った。

 視界に入ったのは、残りの六人の戦闘。

マミ「どういうこと……なんでこんな場所に魔女があんなに……っ!?」

 三体の魔女が生まれているのを、巴マミは確認した。

——
 携帯電話のようなものが宙に浮いていた。その液晶画面に魔女の姿が映し出され、ドット絵で描かれた手紙が画面から放たれる。

 首が三つあるインコのような怪鳥が羽ばたいていた。三つの首からはバス、テノール、ソプラノの、聞くだけで気分の悪くなる歌声が放たれる。

 大きな深緑の色をした氷の結晶が宙を浮いていた。触れたものを緑に変色した後に腐食し、崩れ落ちさせる緑色の気味の悪い雪が放たれる。

フレンダ「くぁっ……」

 滝壺に狙って放たれたドット絵のメールを、フレンダの背中が盾になって受け止める。

浜面「フレンダ!」

フレンダ「大丈夫ってわけよ、すぐに回復するから」

 魔女の見えない浜面と絹旗、そして直接的な戦闘能力を持たない滝壺。この三人を、フレンダは必死に守っていた。

杏子「くそっ……まずは一匹に集中するぞ!」

麦野「やれるもんなら……やってるわよ!」

 さらに麦野も、疲弊していた。当然だ、麦野は病み上がりだ。こんなに激しい連続的な戦闘に耐えられるはずもなかったのだ。

 その麦野を庇いながら、杏子は戦う。圧倒的劣勢だった。

マミ「ティロ・フィナーレ!」

 その時、砲弾のような一撃が、深緑の氷の結晶の魔女に直撃した。

 一撃で魔女の全身は砕け、魔女は崩壊する。コーンという音を立てて、グリーフシードが地面に落ちる。

マミ「一体何があったの!?」

 マミが慌てて六人に駆け寄る。合流だ。

杏子「説明は後だ、こいつらを片付けるぞ!」

 飛んできたドット絵のメールを、杏子が槍で弾く。

マミ「ええ、そうね……!」

 マミはそう言って、マスケット銃をインコの魔女に向け、放つ。

 するとインコの魔女は悲鳴のような甲高い声を上げた。

全員「ぐぅっ……」

 その声を聞いた七人は耳を押さえ、苦々しい顔をする。

 弾丸は、なぜかその声が響くと共に減速し、地面へと落ちた。

フレンダ「音の壁ってわけ……!?」

マミ「生半可な攻撃じゃ通らなそうね……」

杏子「この中で一番火力があると言えば、マミか沈利だ。どっちか行けるか?」

 ちらり、と杏子は二人を見る。

麦野「誰に口聞いてんだ?」

 当然だ、と言わんばかりに怒気を表す麦野。

滝壺「ダメだよむぎの。むぎののAIM拡散力場、今すごく不安定」

 そんな麦野を、滝壺が制止する。

麦野「くそっ……」

 滝壺に言われては、麦野も反論できなかった。

フレンダ「マミは?」

マミ「さっき、大技使いすぎちゃったから、後一発か二発が限度かも」

フレンダ「十分!」

 三頭インコの魔女がバスの声を響かせる。
 しかし、生まれたのは音ではなかった。衝撃波だ。

フレンダ「ぐっ……」

 それにフレンダが対応し、結界を張る。受けきったはいいが、フレンダもかなり消耗していた。

杏子「おいフレンダ……お前ソウルジェムがヤバイぞ……!」

フレンダ「大丈夫、もう少しいける……マミっ! 私と杏子が結界を張るから、その間に思いっきり、あの鳥類にぶちかましてやって!」

マミ「……了解っ!」

 そうして、杏子とフレンダが、全員を包むように結界を張った。

 魔女たちは追撃の手を休めない。携帯電話の魔女はメールの爆撃を、三頭インコの魔女はバスの声による衝撃波を放っていた。

フレンダ「あぐっ……」
杏子「うあっ……」

 携帯電話の魔女の攻撃は数は多いけれど、一発一発の威力がそれほどでもないので問題なかったが、インコの衝撃波は一撃一撃が重く、まさしく響いた。

 だが、その攻撃も長くは続かない。マミが、巨大な銃身を出現させたからだ。

マミ「ティロ・フィナーレ!」

 何度目かわからないほどのティロ・フィナーレ。攻撃に反応して、三頭インコは甲高い声を上げて音の壁を作るが、マミの銃弾の前にそんな壁は意味がなかった。

 マミの一撃が炸裂し、インコの体が崩壊する。コーンと、黒いグリーフシードが地面に落ちた。

浜面「やった!」

 歓喜の声を上げるのも束の間、先ほどの音波攻撃で限界だったのか、今度はフレンダが倒れた。

絹旗「フレンダ……!」

 魔女の見えない浜面、絹旗。AIM拡散力場が安定せず、暴走の危険性がある麦野。倒れたフレンダ。直接的な戦闘能力を持たない滝壺。魔力の限界が近いマミ。疲労困憊の杏子。

 その七人に、最後の魔女は一息すら吐かせなかった。

 ドン、と低重音が響く。携帯電話の魔女の、携帯電話のスピーカーに当たる場所からだ。

杏子「嘘だろっ……!」

 一撃一撃が、軽い魔女だと思っていた。だが、この魔女も、重く響く衝撃波攻撃を行ってきた。

 杏子が反射的に結界を張ったが、一撃、二撃、三撃と攻撃が加えられる度に、杏子の限界が近づいてきた。

杏子「やべえ……!」

 そして、四撃目で、結界が割れる。

 六人に逃げることを促そうとしたが、間に合わない。

 衝撃波の、五撃目が、放たれる。

杏子(どうする……!?)

 全滅必至、かと思われた。

 その衝撃波が放たれた後、音速を超える一撃が放たれた後。

 いつの間にか、認識能力を超えて、黒い影が七人の前に現れた。

「ふん」

 黒い影が結界を作って、一撃を止める。楽々と止める、強度のある結界だった。

杏子「お前は……!」

 黒い影を、黒い魔法少女を見て、杏子が反応する。

 黒の魔法少女は次の瞬間には携帯電話の魔女に接近していた。

 携帯電話の魔女の画面を、一撃で砕く。

 魔女は砕けて、崩れ落ちた。

 グリーフシードが気味の良い音を立てて、地面に落ちる。

QB「やれやれ、間に合ってよかったよ」

 全てが収束して。

 キュゥべえがどこからともなく現れた。

QB「貴重な戦力をこれ以上減らされたら困るからね。助かったよ」

 そうして、キュゥべえは黒い魔法少女に話しかける。



QB「——呉キリカ」

——
 ばさり、とキリカが一枚の紙を机の上に投げ捨てるようにして広げた。

 結局、あのマンションのアジトは場所が割れていたために使えなかった。

 そもそも、マミとEqu.Meltdownerの戦闘の余波で、マンションは外観からしても滅茶苦茶になっていたので、物理的にも使用不可だった。

 そこで八人と一匹は適当な個室サロンを取り、そこに集まっていた。

 キリカが取り出したのは学園都市の地図だ。

 その地図のとある地点に真っ赤なバツ印が書き込まれている。

キリカ「この地図に記されてる場所が敵の、というより今回の事件を引き起こした研究の核がある研究所だよ。
   あと、私の確認した限りだと、敵の戦力は今日戦ったので最後みたいだね」

 うずうずしながら、キリカが言う。

杏子「敵の研究?」

マミ「……UMAね」

 杏子が聞き返したところに、キリカではなくマミがぼそりと答えた。

キリカ「へー、あいつらはそう呼んでるんだ」

杏子「ゆま!?」

 その言葉に、キリカは興味がなさげに、杏子が激しく、それぞれ反応する。

滝壺「ゆまじゃなくてUMA。未確認動物ってやつだね」

 杏子を制するように滝壺が訂正する。

杏子「なんだ……」

 言葉に反応して勢いよく立ち上がった杏子であったが、その言葉に安堵してソファーに深く座り込んだ。

キリカ「どうして知ってるんだい?」

 一応、とでも言う風にキリカが聞く。

マミ「そこの人が口走ったのよ。UMAに関する、能力開発を根本から覆す研究だって」

 視線だけで、部屋の奥の床に捨てられるように放置されていたリボンでミイラのようになった人型をマミは示す。

マミ「まあ、それ以外はだんまりなんだけどね」

 続いて、困ったようにマミは言う。
 杏子はあんなに厳重に巻き付けられてたら黙るも何もないと思ったが、口にはしなかった。

キリカ「ま、どうでもいいんだけど。キュゥべえが織莉子のために約束を守ってくれるなら、なんでも」

 ちらり、とマミに抱かれたキュゥべえを見るキリカ。

QB「それはもちろん守るさ」

 キュゥべえは軽快な声で言う。

フレンダ「というか、UMA、未確認動物って……」

 フレンダはそんなキュゥべえをジト目で見つめた。
 気がつけば、全員の視線がキュゥべえに集まっている。 

QB「なんだい、その視線は?」

浜面「どう見てもどう考えてもお前だろ」

 不思議そうに、心当たりがまるでないように聞くキュゥべえに思わず浜面は突っ込んだ。

QB「失礼な。僕はそんな捕まるようなヘマを侵さないよ」

 不満そうに意外そうにキュゥべえは反論する。

絹旗「そこの超珍獣が捕まらなくても、そのでっかい耳毛一本から、果ては体毛一つでも、なんでも情報があれば研究できちゃうのが学園都市ですよ」

QB「いくらなんでもそれは無理があるよ」

 補足する絹旗に、キュゥべえは話を聞かない子供を宥めるようにさらに反論する。

QB「まあ、仮に僕の体の一部を、果ては死体を人間が手に入れたとしよう。
  でも、そんなものを研究したって、魔女に辿り着くと思えない。君たちは、人間の死体を調べて、相対性理論を説き明かすことができるのかい?」

浜面「できるさ。学園都市には記憶を読み取る能力者だっている。下手したらお前の体の一部を入手するまでもなく、いた場所がわかるだけで研究できちまうかもな」

QB「それも無理だと思うけどね。僕は通常の人間には認識できない」

フレンダ「魔法少女の素質のある『読心能力者』だったら?」

 常識的なキュゥべえの反論に、非常識的な反論の浜面。
 そこにさらにフレンダが割って入る。

QB「学園都市では能力者は学生だけなんだろう? それならたまたま魔法少女の才能のある女の子で、たまたま読心能力者で、たまたま天才科学者で、たまたま僕のいた痕跡を見つけたということになるよ。どんな天文学的な確率だい?」

 あり得ない、と言う風にキュゥべえはフレンダの意見も否定する。

 そこで、手を鳴らす音が二回響いた。マミだ。

マミ「はいはい、そこまで。議論はいいじゃない。敵の本拠地がわかったんだからそこに行けばわかるわ」

 議論で興奮した三人と一匹をマミが宥める。

杏子「そうだな、案ずるより産むが易しってやつさ。明日にでも奇襲をかけりゃいい」

 注文したお菓子盛り合わせのポッキーを食べながら杏子も続ける。

麦野「私らのやることは変わらないわよ。そこに乗り込んで、こんな面倒なことやらかして、私らにちょっかい出した馬鹿をぶち殺す。それだけだ」

 そして、麦野が締めた。

キリカ「じゃあ、私は織莉子のところに帰るから」

 場が収まったと思うと、すぐにキリカが立ち上がった。

マミ「あら……共闘してくれないの?」

キリカ「私はただ、この魔女大量発生事件の真相を調べるように、っていうキュゥべえが出す条件を飲んだだけだよ」

 マミが残念そうに引き留めるが、キリカは一秒でも早く帰りたいとでも言う風に早口に切り上げる。

マミ「全然真相じゃないと思うんだけど」

 それでもマミは引き下がらない。

キリカ「もうどうせ終わるんでしょ? それより私は一刻も早く織莉子のところに生きたいんだ。
    もう一週間も織莉子の顔を見てないなんて織莉子の声を聞いてないなんて織莉子を感じていないなんてああもう気が狂いそうだ!」

 そんなマミにさらにキリカは口を早くして、一気に言い切った。

マミ「そ、そうなの……じゃあ、送っていくわ」

 その様子を見て、マミは初めて少しだけ引き下がる。

キリカ「いいよ、どうせ敵の戦力なんかもう残ってないんだし」

マミ「念には念よ。こんな安易に全戦力投入なんてするとは思えないし……」

 しかし、キリカはマミの新たな提案も辞退する。まだほっとけない、と言う風に今度は引き下がらないマミ。

キリカ「いいってば。これでも私は腕には自信があるんだ」

 キリカもそれを甘受しない。

マミ「貴方がよくても、私がよくないの」

 マミはやはりそれを許さない。平行線だった。

杏子「あー、マミのお節介が発動してるなあ。もう素直に従った方がいいよ」

 その二人を見て、杏子が呆れたように、でも、ほんの少しだけ微笑まし気に横から言った。

 お菓子の詰め合わせはもう空になっており、どこからか取り出したポテトチップスを食べている。

キリカ「はぁ……恩人にでもなろうっていうのかい?」

 困ったようにキリカが言う。周りに助けを求めるように目を向けたが、助け船の到着は絶望的のようだ。

マミ「そんなことにならないのが一番の幸せね」

 ふふん、とマミが言った。

キリカ「それもそうか。
    ……そこまで言うなら、まあ、よろしくお願いするよ」

 キリカはその言葉には同意し、渋々マミの提案を受け入れる。

 それに反してマミは嬉しそうに立ち上がった。

マミ「……貴方とはこの出会い方で良かった、そんな気がするわ」

 ふと、マミがそんなことを言う。

キリカ「同感だね。魔法少女なんて、いつ殺し合いが始まるかわからないものだし。私と織莉子は別だけど」

 遠い目をして、キリカが言う。
 その様子にマミは少しだけ引っかかるものを感じたが、敢えて追求しないことにした。

 そうして、話のまとまった二人は個室サロンを出て行こうとする。


滝壺「待って」

 その二人を、唐突に滝壺が呼び止めた。

 全員の視線が滝壺に集まる。

 そして満を持して、滝壺は眠たそうな目をしながら言った。

滝壺「もう、キュゥべえ抱いて、いい?」

QB「え……ちょ……」

 マミについて行こうとしていたキュゥべえが、ビクンと反応した。

 そんなキュゥべえをマミが優しく抱き上げる。

マミ「……優しくしてあげてね?」

 そして、優しく滝壺に引き渡す。

QB「待っ——」

 今度こそ、マミとキリカは個室サロンを後にする。

 キュゥべえは逃げようとするより早く、滝壺に抱きしめられた。

——
「Equ.Meltdowner、人工UMA部隊、共に、全滅のようです……」

「全滅だと!? あれだけの戦力を投入して、全滅!?」

「その、巴マミという外部からの侵入者が、どうやら超能力者級の力を持っているようで……」

「巴マミ、なるほど、この常盤台にでもいそうなこの女か」

「はい」

「ちょうどいい、その巴マミがグループから離れたようだ
 ——UMAを投入しろ」

貼るだけでも結構疲れるな……ちょっと飯食ってくる

続きを貼るけど、これは今日中だとあまり改訂しないところを貼って終わりそうだ……

——
麦野「なあフレンダ、ちょっといいか」

 マミとキリカが出かけた後、ふと、麦野は再会してから初めて、フレンダに話しかけた。

 その瞬間、フレンダはビクッと大きく体を震わせて、杏子の後ろに隠れる。

 ガタガタと、激しく体を震わせていた。

杏子「お、おいフレンダ……」

 フレンダの尋常ではない怯えようを見て、杏子は困惑する。

麦野「……やっぱりダメか」

 そんなフレンダを見て、麦野は顔を曇らせた。

 無理もない。フレンダは一度、麦野に拷問のような殺され方をしているのだから。

 それを知っている浜面と絹旗もその様子を見て無言になり、空気が重くなる。

滝壺「大丈夫だよフレンダ」

 そこで、滝壺がふと言った。

 動かなくなったキュゥべえをソファーに寝かせて、杏子の後ろのフレンダの下へ歩み寄る。

 そして優しく、フレンダの頭を撫でる。

滝壺「むぎのは、昔みたいなむぎのじゃないよ。話を聞いてあげて」

 滝壺に説得されて、フレンダは麦野と二人きりになった。

 他のメンバーは、近くの遊戯施設に屯している。

 個室サロンをちょっとしたホテル代わりに使う客も多いので、ほとんど備え付けのようになっている遊技場だ。

杏子「あの二人だけにして大丈夫なのか?」

 キューでビリヤード台のボールを弾きながら杏子が聞く。

滝壺「大丈夫だよ」

 端的にキュゥべえを抱いた滝壺が言う。

滝壺「それに、むぎのは多分、みんなに見られたくなかったと思う」

杏子「……そうかい」

 かつん、と小気味の良い音がしてボールが弾かれる。ボールはボールに当たり、そのボールもボールに当たり。
 連鎖的に当たり、いくつものボールが一度に穴に落ちる。

 浜面は、期待していた。これで、麦野とフレンダが和解すれば、アイテムは晴れて仲間割れする前の姿に戻る。
 いや、もっと良いものになる。

 欠けていた、戻らないはずのものが戻ってくる奇跡。

浜面「まったく、奇跡も、魔法も、あるんだな……」

——
 マミとキリカは魔法少女の姿で夜の学園都市を爆走していた。

キリカ「グリーフシードがたくさんあるっていうのは本当に便利だね。ただの移動にも魔力が存分に使えるよ」

マミ「でもこれに慣れちゃダメよ。元の街に戻れば、すぐにいつも通りになるんだから」

キリカ「わかってるさ。でも今は今で助かったよ。一刻も早く織莉子に会いたいからね」

マミ「ふふっ……織莉子って人のことが本当に好きなのね」

 微笑ましいと言わんばかりに笑いながらマミが呟いた。

 その言葉に、キリカが唐突に足を止める。

 先行しすぎそうになったマミも慌てて足を止めた。

キリカ「好き!? そんなもんじゃない! 私は織莉子を愛している!」

マミ「え、えっ……」

 突然激昂したキリカにマミは困惑した。

キリカ「好きだとか、大好きだとか、愛を単位で表すなんて、愛の本質を知らないのさっ!」

マミ「く、呉さん、落ち着い」

 マミは宥めようとする。しかし、その言葉は最後まで続かなかった。

 ばさり、と翼のはためく音が背後から聞こえたからだ。

 その瞬間、マミとキリカは弾かれたように音の方向を振り返る。

 尋常じゃない空気がした。尋常じゃない予感がした。尋常じゃない圧力がした。

 それは小さかった。身長はマミの胸元くらいしかないだろう。

 真っ白で、顔も鼻も口もないのっぺりとした楕円形の顔面部。

 黒い皮膜を使った大量のケーブルがうねるようにして絡み合い、足が二本、手が二本の人型を作っていた。

 ケーブルが多すぎるためか、身長に似合わず、それはずんぐりとした体躯だった。

 特徴的なのはその背中。

 一対の、純白の羽が生えていた。

マミ「何者?」

 即座に右手でマスケット銃を生み出し、現れた何かに銃口を向けるマミ。

 それは、目のない顔でマミを見つめてるようでもあった。

 次の瞬間、マミは肩の力が抜けたのを感じた。

マミ「えっ——」

 否、それは勘違いだ。肩の力が抜けたのではない。


 肩口から。右の腕が。なくなっていた。

マミ「ガァッ!?」

 続いて、突然爆発が巻き起こる。

 反応する間もなく、マミは爆風に叩かれてノーバウンドで宙を舞った。

キリカ「何者さっ!」

 同じく、マミの隣にいたはずのキリカがいつの間にか、現れた何かの背後に回っていた。

 爆発のダメージは皆無の様子。

 キリカの魔法は自分以外の速度を遅くする魔法だ。

 それを発動させていたキリカは悠々と爆風を避け、さらに両手に出現させたかぎ爪の攻撃範囲内に相手を捉えていた。

 キリカは、全てが遅くなった世界でマミの受けた攻撃が見えていた。

 正体は羽だ。あの一対の羽がキリカでも反応するのがやっとなほどの速度でマミの方に伸び、マミの腕を切り落としたのだ。

 だったら答えは簡単。キリカはその羽をもいでやることにしたのだ。

 しかし、その目論みは外れる。

キリカ「あれっ!」

 金属の、硬いものがぶつかり合う音がした。

キリカ「か、ったー!」

 羽は傷一つついていなかった。羽ばたく姿や、ふわりとした見た目に反して、それはかなりの硬度を持っているらしい。

 ぐるりと、パーツのない顔がキリカの方を向く。

キリカ「やばっ……」

 一対の羽がキリカの方に向けられた。
 そして羽が動き出す、その瞬間に。

マミ「ティロ・フィナーレ!」

 マミの強大な一撃が炸裂する。

 防御する暇もなく直撃、に見えたが、羽はもうキリカの方を向いておらず、マミからの攻撃を防ぐために使われていた。

 その隙にキリカは羽の届く位置から逃げ出す。

キリカ「危ないところだったよ! キミは恩人だ!」

マミ「本当に恩人になるような事態になってしまったわね」

 片腕を失いながらも、両足でしっかりと立つマミ。その横に、いつの間にかキリカが到着している。

キリカ「あれは敵かな? おっかしいな、もう敵はいないはずなのに」

マミ「だから言ったでしょ。安易に全ての戦力を出してくるわけないって」

 マミの放った砲撃によって生まれた煙幕が晴れていく。

 羽には、傷一つついていなかった。

マミ「これもさっきのライダースーツの人みたいなものかしら?」

 その羽が動く。準備していたためか、今度はマミにもそれが見えた。

 二人の力で二重の結界を張る。しかし、羽はそれを容易に貫通し、二人の下へ届く。

 破られるのがわかっていたかのように二人は即座に反応し、バックステップ。羽を避けた。

 羽は二人がいた地点の地面に突き刺さる。バガンという凄まじい音をさせながら、その地点はまさしく爆発した。

キリカ「ふざけまくってる威力! こんなの手に負えないよっ!?」

マミ「いや、これくらいならなんとかなるわ。
   羽は一対、しかも私の攻撃をわざわざ羽で守ったってことは、やっぱり本体の強度はこっちの攻撃で破れる程度ってことよ」

キリカ「でもどうやって当てるのさっ、あの羽の攻撃があんなに速いってことは、防御も速いってことだし!」

マミ「なら数で押せばいいだけよ」

 マミがそう言うと、数百のマスケット銃がマミの背後に、宙に浮いた状態で出現する。

マミ「呉さんは、みんなに一応知らせてきてもらえないかしら? ちょっと本気を出すから、この辺りにいたら危険だし、ね?」

 そう言って、マミはキリカにウィンクする。

キリカ「……わかったよ、恩人。全速力で知らせてくる!」

マミ「よろしくっ!」

 キリカが離脱。するとそれを追いかけるように、羽が動こうとする。

マミ「よそ見してていいのかしら?」

 その瞬間、マミの銃撃が放たれた。

 弾幕だ。文字通り弾の幕、避けるスペースなど存在しない、銃弾のカーテンだ。

 白い羽を背負った何かは、キリカへの追撃をやめ、すぐに銃弾のカーテンに対して羽のカーテンを構築する。

 最早、爆撃だった。あまりの威力に地形が、景色が、まったく別の姿へと変貌する。

 厚いアスファルトの層が衝撃で砕け飛び、巻き上げられる。それは後に雨のように地上へ降り注ぐだろう。

 それでも、羽は無傷。

 だが、マミはもちろんそれは百も承知のこと。
 空へと飛び出したアスファルトの破片が落下を始めるより速く、すでにマミは敵の背後へと回っていた。

 そして、その背後には既に、数百のマスケット銃が。

 再び、爆撃。

 あまりに速すぎる激しすぎる連続攻撃に、もし浜面が見ていたら、マミが銃弾で挟み撃ちにした、と答えるだろう。

 マミは一対の羽が防御のために両方使われていたのを、確かにこの目で確認していた。

 そして、マミがその気になって肉体を強化すれば、羽は十分に反応できる速度だった。

 つまり、燃費を完全に無視し、持てる限りの魔力で短期決戦の全力で行けば、羽の速度すら、上回ることが可能だった。

 その羽を上回る速度で、マミは連続的な爆撃を行ったのだ。

マミ「ちょっとやりすぎちゃったかしら?」

 ばらばらとアスファルト片の雨がやっと降り始める。

 煙が少しずつ晴れていく。

 敵の姿が確認できるレベルに。

マミ「——っ!」

 なる前に、土煙から純白の羽が飛び出してきた。

 マミは当然、それを避ける。

マミ「防御が間に合ってたのね! いいわ、間に合わないほどの回数を繰り返してあげ——」

 そして、敵の様子を確認して、マミは言葉を失った。


 羽の速度が間に合ったのではなかった。

 マミの攻撃が遅かったわけではなかった。

 繰り返せば、速度の差で勝てるものではなかった。

マミ「嘘……」

 三対だった。六枚だった。

 羽が、三倍の数に増えていた。

 そして、パーツのない顔面部に、英語の文字が浮かび上がっているのを、マミは目撃した。

——
 個室サロンの部屋に麦野とフレンダは二人きりで残された。

麦野「フレンダ……」

 麦野がゆっくりとフレンダに歩み寄る。

 ビクッと身を固めるフレンダ。思わず、目を瞑る。

フレンダ「えっ」

 そのフレンダを優しいものが包み込んだ。

 恐る恐る目を開けてみると、フレンダは信じられないものを目にした。

 麦野に、抱きしめられていた。

フレンダ「む、麦野……?」

 じゃれながらふざけてフレンダから麦野に抱きつくことはあっても、麦野から抱きつかれたのは初めてだった。

 フレンダが困惑していると、抱きしめられる力がさらに強くなる。

フレンダ「ちょ……麦野、痛いってば……」

麦野「……め……ンダ」

 ふと、耳元で、麦野が小さく言った。

フレンダ「えっ?」

 思わず、フレンダは聞き返す。

 信じられない言葉を聞いた気がした。

麦野「ごめんな、フレンダ」

 今度ははっきりと聞こえた。

 それでも、フレンダは我が耳を疑った。

 謝っていた。あの麦野が。

麦野「生きてて、よかった」

 信じられないほど優しい声で麦野が言う。

麦野「殺した張本人の私の私が言うのもおかしいだろうけどさ、フレンダが生きてるって最初聞いた時、嬉しかった」

 驚きすぎて、戸惑うしか、フレンダは対応策が思いつかない。それだけに、意外すぎることだった。

麦野「謝って許されることじゃないのはわかってる、でも謝らせてくれ。

   ——本当に、ごめんなさい、フレンダ」

フレンダ「ちょ、ちょっとやめてよ麦野らしくないってば……」

 麦野の謝罪にフレンダは困ったような声で答えた。

 それに対して、麦野は無言で、さらに強く、フレンダを抱きしめる。

フレンダ「……そもそもさ、最初に裏切ったのって私じゃん。
     下手したら、私の方が麦野たちを殺すことになってたのかもしれないってわけよ」

 しばらく無言が続いた後、フレンダが再び口を開く。

フレンダ「私には、謝られる権利も、価値もないよ……」

 そう言って、麦野の抱擁をやめさせようとするが、麦野はしっかりと抱きしめたまま、動かない。

フレンダ「私さ、麦野に殺されて、でも魔法少女になって助かって、人生をリセットできたとか思ってたのよ」

 頑なな麦野の様子にフレンダは抱擁をやめさせるのを諦める。

フレンダ「それで、二度目の人生だ、一度目のように自分のためだけに生きるのはやめて、せっかく手に入れた魔法の力でみんなを助けようとか調子のいいことを考えてた。

     でもさ、結局私ってば、何も変わってなかったってわけよ。

     改心したつもりで、麦野たちみたいに強い力を手に入れて、調子に乗ってただけだった。

     麦野たちが浜面の昔いたところのアジトに入ってきた時、私、逃げ出したんだ。

     自分が絶対勝てない相手、麦野が私を殺しに来たと思ったらさ、決めたことが全部どうでもよくなった。

     改心も、人助けも、全部放って、全部投げ捨てて。とにかく生きたいと思った。

     あの時は、一緒にいたマミも杏子もピンチだったはずなのに、みんな見捨てて、自分だけ逃げようとした。

     ……結局、馬鹿は死んでも治らなかったわけよ」

 フレンダの独白を、麦野は静かに聞いていた。

 再び、沈黙が落ちる。

麦野「それなら、これから治していけばいいだけでしょ」

 ややあって、麦野が静かに言う。

麦野「私だって前はクソッタレだったわよ。
   仲間の、あんたたちの命なんかいくらでも補充の利く駒としか考えてなかった。自分のことしか考えてなかった」

 ふと麦野は義手に目を落とす。

麦野「そこにさ、浜面がさ、私をぶっ飛ばして、全部変えてくれたのよ」

フレンダ「あの浜面が麦野を?」

 信じられない、そんな風にフレンダは聞き返した。

麦野「あいつはあれでもやるときはやる男よ。あいつの力で、私は変わることができた」

 麦野が義手ではない手で、フレンダの頭を優しく撫でる。

麦野「フレンダは無理しすぎなのよ。自分だけの力で、すぐに自分を変えようとしてる。
   そんなの、できるわけないじゃない」

麦野「せっかくの二度目の命よ。ゆっくり、これから治していけばいいのよ。

   ——人生は、長いんだから、ね?」

杏子「緊急事態だ!」

 その時、ドバンと乱暴に扉が開けられた。

 入り口が思い切り開け放たれて、扉の外に席を外していた四人と一匹、そして帰ったはずのキリカが見える。

 同時に、こっちから見えるということは、あちらからもフレンダを抱きしめている麦野の姿が見えるわけで。

麦野「あ……こ、これは違——」

 真っ赤になってフレンダを離し、あたふたとする麦野。

杏子「そんな場合じゃねえ!」

 そんな麦野の様子に構わず、杏子が続ける。

杏子「マミがヤバイのと戦ってるらしい! すぐに行くぞ!」

——
浜面「嘘……だろ……」

 そこは、まるで大災害が襲ったかのような景色だった。

 アスファルトは根こそぎ捲りあげられ、下の地面が見えている。

 深夜で誰もいなかったと信じたいほど、ビルは滅茶苦茶に崩壊し、ドミノ倒しのように倒れていた。

 尋常じゃない戦闘があったのが窺える。まるで戦略兵器が被害を撒き散らしたかのようだ。

フレンダ「マミ……?」

 その中心に、マミはいた。

 いや、マミらしきものがあった。

 下半身はなかった。首から上もなかった。

 かろうじて残ってる上半身が、マミの着ていた服を着ている。

 それが、恐らく、その物体がかつてマミだったものだろうと主張していた。



 巴マミが、死んでいた。

杏子「くそっ……何が敵の戦力は残ってないだ!? まだ全然あるじゃねえか!」

絹旗「超やめましょうよっ。呉のせいじゃありません」

 激昂した杏子がキリカの胸ぐらに掴みかかる。そんな杏子を絹旗が慌てて抑えた。

浜面「どうするんだよ……巴を倒す敵がまだ残ってるってことだろ……」

 絶望したように、枯れた声で浜面は呟く。

麦野「確かに、巴マミの力は本物だった。下手すりゃ、私以上だったかもしれないくらいにな」

フレンダ「つまり、レベル5の上位か、それに匹敵する何かがいるってわけ……?」

 震える声で、フレンダは問う。

麦野「……そういうことになるわね」

 苦々しく、麦野はそれに答えた。

杏子「でも、そんなのがいるのか?」

麦野「心当たりはある。こんな無茶苦茶な戦闘をできるやつがな」

杏子「誰なんだそれは……?」

 恐る恐る、杏子は聞く。

麦野「……『一方通行』。学園都市第一位のレベル5だ」

 重々しく、麦野がその名を口にした。

 その名前を出した瞬間、杏子とキリカ以外の全員に緊張が走る。

QB「それはないと思うよ」

 この場にそぐわない、明るい声がその可能性を否定した。

 キュゥべえだ。どこからともなく、四足歩行の白い動物がとてとてと歩いて来た。

滝壺「あれ、サロンに寝かせてきたのに……」

麦野「どうしてそれがわかる?」

QB「簡単さ。杏子、フレンダ、キリカ。君たちならわかるはずだよ。二人とも、意識を集中させて、この場に残った魔力を探ってみればいい」

杏子「……わかった」

フレンダ「えっと……こう、かな?」

 目を瞑り、深呼吸するかのようにして魔力を探る杏子とキリカ。フレンダもその二人を見て、見よう見まねで魔力を探る。

QB「マミの巨大な魔力に誤魔化されがちだけど、よく探ってみるんだ」

杏子「……これは!?」

 杏子が目を見開いて驚く。

QB「気付いたようだね。そう、ここにはマミとキリカ以外の魔法少女の魔力が残っている。敵は魔法少女だよ」

フレンダ「確かに……」

杏子「いや、あり得ねえ、そんなわけがねえ! 嘘だッ!」

 突然、半狂乱になって否定する杏子。

フレンダ「きょ、杏子、どうしたってわけよ?」

QB「ふぅ……まったく、どうしてこんなに確たる証拠があるのに嘘だと思うんだい?」

 呆れたような声でキュゥべえは言う。

杏子「間違いだ……こんなの何かのトリックだ! あり得ねえ! だってこれは……これは……」

 探れば探るほど、杏子の中に確たる証拠が突き付けられる。

 杏子の声が徐々に小さくなり、静かになったのを見て、キュゥべえは溜息を吐いた。

 そして、改めて、キュゥべえは言う。


QB「その通りだよ。巴マミを殺したのは

  ——千歳ゆまさ」

——
 七人と一匹は、再び個室サロンに戻ってきた。

 マミの亡骸を連れて。

 マミの亡骸は、悲しいほどに軽かった。下半身も、頭も、右腕も失ったそれは、見るのも憚れるほど無残だった。

 それでも、ライダースーツの男と共にフレンダたちを襲ってきた駆動鎧の中の少女たちのように、かつてのコネを使ってこの遺体を片付けようとは思わなかった。

 どうしようもなく、魔法で鮮度を保ち、個室サロンまで持ってきたのだった。

杏子「ゆまは……ゆまは、こんなことをするやつじゃねえ……」

 個室サロンに戻り、重い空気の中、杏子がまず口を開いた。

杏子「あいつは……優しいやつだ、そして、強いやつだ。
   あたしのために人生投げ捨てて魔法少女になって、魔女にやられた嫌いだったはずの親どもを蘇らせて……
   少なくとも、こんなことは絶対にしないやつだ」

QB「でも、結果として、千歳ゆまの魔力があそこに残っているよ?」

杏子「うるせえわかってる!」

 杏子が怒りに任せて机を叩く。木製の机は杏子の力に耐えきれずに割れた。

 机の上に乗っていたガラス製のグラスが床に落ちて、パリンという音をたてて割れる。

絹旗「そ、そうだ、あそこに魔力が残ってたってだけで、犯人と決めつけるのは超早計じゃないですか?
   ただ巻き込まれただけの可能性も超ありますし!」

QB「残念ながらそれはないよ。マミとマミを倒すほどの敵との戦いに巻き込まれて生き残るほど、千歳ゆまは強くない。
  なのに、あの場所に来たときと、帰ったときの、両方のパターンの魔力が残っていたのさ」

絹旗「っ……!」

 思いついたように絹旗が言うだが、まるで感情がないようなキュゥべえの言い分に、返す言葉を失った。

麦野「おいキュゥべえ。客観的な意見を聞きたい。この面子で、マミを倒したやつに勝てると思うか?」

 努めて冷静に、麦野が問いかける。

QB「うーん、厳しいんじゃないかな? 正直言って、マミは別格の強さだ。
  威力だけなら確かに沈利が上回るかもしれないけど、総合的に見たら、マミが一番強いからね。
  そのマミすら上回る敵を倒すのは、余程の作戦がないと無理だと思うよ」

 しかしキュゥべえの答えを聞いて、麦野もすぐに押し黙った。

フレンダ「じゃ、じゃあ、学園都市の願いが必要な、他の誰かに魔法少女になってもらうのは……」

杏子「ふざけたこと言ってんじゃねえ!」

 フレンダの提案を、杏子が一喝する。

フレンダ「だ、だって……」

QB「うーん、それはとても魅力的な提案なんだけど、非現実的じゃないかな。学園都市の魔法少女は戦力にならないんだ」

フレンダ「どういうこと……?」

 ふぅ、と一息吐いてから、キュゥべえは答える。

QB「困ったことにね、学園都市の少女が魔法少女になっても、変身したり、魔法を使う度に体に深刻なダメージを負ってしまうんだ。
  むしろ、今戦えてるフレンダが奇跡的だよ」

 なんでもないようなことのように、キュゥべえは語る。

フレンダ「何それ……! 私、聞いてない!」

QB「聞かれなかったからね」

 声を張り上げるフレンダをキュゥべえはさらりと流す。

麦野「どういうことだ」

 そこで再び、静かに麦野が口を開いた。

QB「残念ながら、これは僕たちにもメカニズムがわからないんだ」

麦野「誤魔化してんじゃねえ。どうして、それを知りながら学園都市で魔法少女を作ろうとしてやがる?」

 鋭い声で麦野は追求する。しかしキュゥべえは動じた雰囲気も出さない。

QB「それは君たちが契約することで、僕にもメリットがあるからさ」

麦野「メリットだと? ……いや、その前に一つ質問に答えろ。今日の夕方、襲ってきた駆動鎧の中身の魔法少女から魔女が生まれたのはどういうことだ?」

杏子「魔女が、生まれた、だと……?」

 その質問、キュゥべえより先に杏子が食いついた。

麦野「薄々感づいてただろ? 駆動鎧の中からソウルジェムが飛び出して、魔女が出現した。小学生でもわかる答えだ」

杏子「なんだよ……なんなんだよそれ……」

QB「やれやれ、質問ばかりだね。どちらも話が繋がってるし、まずは前者から話そうか」

QB「君たちはエントロピーというものを知っているかい?」

麦野「当然」

絹旗「超当たり前です」

滝壺「小学校で習った」

フレンダ・杏子・浜面「えっ」

 常識と言うかのように麦野、絹旗、滝壺は言い、それにフレンダ、杏子、浜面が思わず意外そうな声をもらした。

QB「知ってるなら話が早いね。この宇宙のエントロピーは増大し続けてることは知っているだろう? 断熱系でのエントロピーの減少は、自然状態ではあり得ない。
  その最終形にあるのが宇宙の熱的死だ。僕たちはそれを回避するために熱力学の法則に従わないエネルギーを求めていたんだよ」

杏子「いや待て待て、わけがわからん。わかるように説明してくれ」

フレンダ「右に同じく」

浜面「同じく」

 キュゥべえが一口で言い切る。そこで、杏子、フレンダ、浜面の三人が慌てて制止した。

QB「簡単に言うとだよ、宇宙はこのままではエネルギーが足りなくなってしまう、だから従来とは違う、新しいエネルギーが必要なんだ」

浜面「いきなり宇宙とか……何を言ってるんだ……」

QB「まあ、話を続けるとだよ。そのエネルギー源が、君たち魔法少女なんだ。君たちの感情によって発生するエネルギーは熱力学の法則を凌駕する画期的でまったく新しいエネルギーだったんだよ!」

 怪訝な顔をしながら思わず、浜面は呟いた。それに対して、まるで誇らしげにキュゥべえは言う。

QB「そして、そのエネルギーが放出される瞬間が、君たち魔法少女が絶望して、もしくはソウルジェムが穢れきって魔女になる瞬間なんだ。
  希望から絶望への落差がエネルギーを生み出しているってわけだね」

杏子「おいちょっと待て……魔法少女が魔女になるだと!?」

 理解が追いつかない様子だった杏子だが、その一言に反応した。勢いよく立ち上がり、キュゥべえを睨み付ける。

QB「特段おかしなことじゃないだろう? 君たちの世界では成長途中の女性のことを少女と呼ぶ。なら、いずれ魔女になる少女のことは魔法少女と呼ぶべきじゃないか」

杏子「っざけんな!」

 杏子の右手に槍が出現する。続いて狭い室内で器用に振り回し、穂先をキュゥべえに向けた。

QB「やめてくれないかな、僕という個体を殺しても、代わりはいくらでもいるけど、こんな僕でも死んでしまったらエネルギーの無駄なんだ」

 毛繕いをするように、愛らしい動作をしながら、キュゥべえは言った。そのギャップに、全員が絶句する。

QB「僕たちの星で完結できたら最高だったんだけどね、生憎、僕たちは感情というものを持ち合わせていなかったんだ。非常に残念だよ」

 残念と言いながらも、キュゥべえの言葉には感情がこもってない。その矛盾に、誰かが歯ぎしりをした。

フレンダ「ふざけたこと……言わないでよ! 私たちはキュゥべえの餌ってわけ!?」

 フレンダも杏子と同じく立ち上がる。同時に右手にナイフが生み出された。

QB「僕たちの、なんて酷いなあ。僕たちは、宇宙の未来に向けて頑張ってるんだよ。君たちも感謝するべきじゃないかな?
  これから数百年、数千年先になるかわからないけど、君たち地球人も僕たちの仲間入りをするんだろう?」

 困った子供を宥めるように、キュゥべえは言う。

フレンダ「このっ……」

 フレンダのナイフを握る手に力が入る。

滝壺「やめようよ、フレンダ」

 そんなフレンダを、滝壺は言葉で制止する。

フレンダ「でも……っ」

 泣きそうな顔をして滝壺を見つめるフレンダ。しかし、滝壺は冷静に首を振る。

滝壺「キュゥべえをいじめても、何も解決しないよ。私たちは、私たちのできることをしないと」

QB「まったくわけがわからないよ。僕たちは仮にも、君たちを知的生物と認めた上で、願いを一つ叶えるという最大限の譲歩をしているというのに……何が不満なんだい?」

 何を考えてるんだと言わんばかりの口調。杏子の槍を握る手に力が入るが、滝壺が杏子を見つめ、制止する。

麦野「それ以上喋るな」

 静かに、怒気を含めて麦野が言った。

麦野「それ以上喋ると、殺したくなる」

QB「やれやれ……嫌われたものだね。君たちはいつもそ」

 麦野の言葉に反して、キュゥべえは答えた瞬間、青白い光線に体を焼き尽された。

 今度は、滝壺が止める暇もなかった。

麦野「喋るなって言っただろ」

 沈黙が落ちる。戻ってきたばかりの時よりも、さらに重い沈黙だ。

キリカ「ふわぁ……話終わった?」

 その沈黙をキリカの声が破った。

浜面「お前……あんな話を聞かされて、平気なのか?」

キリカ「別に。私はそんなことには興味ないからね。私が興味あるのは織莉子のことだけさ」

浜面「そ、そうか……」

キリカ「んーん、むしろ、私にはなんでキミたちがあんな話で落ち込んでるのかわからないよ。
   人間だって有限、魔法少女だって有限。人間が寿命を迎えたら肉塊になって、魔法少女が寿命を迎えたら魔女になる、それだけだろう?」

 大きく伸びをしてキリカは言う。

キリカ「別に今日明日に寿命が来るわけじゃないし、今考えるのは、今日明日に死にそうな現状のことじゃないかな? 私は織莉子のところに生けないなんて死んでも嫌だよ」

フレンダ「それも、そうね……いつか魔女になるって言っても、結局、私が一度死んで生き返ったことは確か。
     二度目の人生、そんな長いものにはならないかもしれないけどさ、最初から、私のやることは変わらないってわけよ」

 手の中のナイフを消して、フレンダはキリカの意見に頷いた。

杏子「そうだな……いつか魔女になるなんて、今心配することじゃない。私も、ゆまの様子を確かめる、この事件の真相を確かめる、そのやることは変わらない」

 杏子もぼふんとソファーに座り直して同意する。次いで、全員を見渡す。

杏子「あんたらはどうするんだ? 別に魔法少女ってわけでもないし、いっそ他人事でもいいんだぞ」

絹旗「今更超何を言ってやがるんですか」

 憮然として、絹旗は言う。

浜面「ここまで来て、後に引けるわけないだろ?」

 意外そうに、浜面は言う。

滝壺「一蓮托生」

 端的に、滝壺は言う。

麦野「それに私らは、フレンダのためにやってやろうと思ったのよ。フレンダが抜けないなら、私らも抜ける理由はない」

 そしてきっぱりと、麦野が言った。

フレンダ「麦野ぉ……」

麦野「はいはいよしよし」

 その言葉にフレンダは感極まった様子を見せ、麦野はそんなフレンダの頭を慈しむように撫でた。

——
「主任、緊急事態です!」

「どうした?」

「例の『原子崩し』のグループがこの研究所に向かっています!」

「馬鹿な、どういうことだ……!?」

「場所が割れたとしか……」

「どうして場所が割れるんだ! どうしてやつらが来る必要がある! 私たちは狩る側だ、やつらが来るなんて、ただの自殺行為だぞ!」

「わ、わかりかねます……」

「壊れたUMAの修理にあとどれくらいかかる?」

「パーツの交換のみで、三十分もあれば……」

「三十分! そんな時間があればやつらはここに辿り着く!」

「で、ですが……」

「人工UMA部隊は!?」

「まだ戦闘可能な肉体年齢に達するまで通常プランで成長促進剤を投入すると四日は……」

「構わん、今すぐ全て投入して無理矢理にでも成長させろ!」

「しかし、そんなことをしては肉体崩壊が……」

「そんななりふり構ってる場合か! 今の状況がどんなものかわかってるのか!?」

「それは……」

「巴マミとの戦闘でUMAは激しく損傷、すぐに動かせる人工UMAもいない……
 この状況で、こちらの場所が割れ、常識的に考えれば自殺行為のはずの襲撃を仕掛けられる。
 どう考えても内通者がいるとしか思えない!」

「内通者……!」

「狩る側が狩られる側になるだと? そんな馬鹿なことがあってたまるか!
 どんな手を使ってもいい、UMA修復までの時間を稼げ!

 やつらに、目にものを見せてやる」

——
フレンダ「……ここってわけね」

 携帯の地図ソフトとキリカの持っていた地図を見比べて、確認。

 フレンダと杏子とキリカと麦野と絹旗と滝壺と浜面は、目的の、全ての真相が詰まった研究所にやってきた。

 それは小規模な研究所だった。一戸建ての家が三軒収まる程度の敷地に、白い、小綺麗な建物。

杏子「お出迎えが待ってやがるよ」

 そこの入り口に、不釣り合いな真っ黒の機体が並んでいた。

 駆動鎧。魔法少女が入り、フレンダたちを散々苦しませた技術の塊。

 それが全部で十四体。

浜面「戦力、全然あるじゃねえか……」

キリカ「おっかしーなー。あと四日は補給できないはずなのに」

 状況を見て水分の失われた声の浜面に、キリカは悪びれもしない。

麦野「外注か、何かは知らないが、やることは変わらない、だろ!」

 そう言って、麦野は原子崩しを発射する。

 それは駆動鎧の内の一体に直撃し、爆発。さらにそのまま腕を振るって、二、三体目も原子崩しが貫いた。

 四体目になって初めて駆動鎧は反応する。

 何重もの結界が発生し、原子崩しの光線を弾き飛ばした。

フレンダ「こいつらも魔法少女なの!?」

杏子「一体どうなってやがる、そんなホイホイ連れてこれるもんじゃねーぞ!」

 その様子に武器を生み出しながら驚く杏子とフレンダ。

キリカ「そんなのどうでもいいよ」

 気がつくと、キリカはもう他のメンバーのところにはいなかった。

 キリカは駆動鎧の張った結界に爪を叩き付ける。一度ではない。一瞬で五度だ。

 動きを遅くする魔法を使って、相対的に速くなったキリカの連続攻撃。一撃一撃が重い威力を持っており、それは結界を軽々と食い破った。

キリカ「みんなこんなのに苦戦してたの?」

 駆動鎧たちが結界が破られて、次の行動に移る前に、キリカは既に駆動鎧の懐に入っていた。

 両の手のかぎ爪が駆動鎧の腹部を貫通する。そのままキリカは両開きのドアを開くように、両手を広げた。

 そうして、キリカに襲われた駆動鎧は上下真っ二つとなった。

浜面「は、はええ……」

 キリカの動きを見て、浜面が感嘆の声をこぼす。

麦野「いや、あいつが速いだけじゃない、駆動鎧どもの反応が明らかに鈍い。こいつらは雑魚ね、さっさと潰すわよ」

——
「くそっ! もう全滅か! UMAの修復まで、あと何分だ!?」

「パーツの交換は終了しました! 残りはソフトウェアのインストール……かかる時間は三分です!」

「三分……ならいい、私たちが直接出迎えよう」

——
 数分とかからず、駆動鎧の部隊は全滅。研究所前で動くのはフレンダたちのみとなった。

杏子「オラァ!」

 戦闘の余波でひしゃげたドアを杏子が蹴り開ける。

 杏子に続いて、残りの六人も研究所に突入する。

「ようこそ、水穂機構・新病理解析研究所へ」

 そこに、男の声が出迎えた。

 中年の男だった。脂汗を顔中に貼り付け、頭頂部には髪がない。

 その隣には縮こまるようにして震えている若い男がいた。

 二人とも白衣を着ているところから察するに、研究者のようだった。

杏子「誰だテメーらは」

 鋭く睨んで、杏子が槍を突き付ける。

「なあに、今はまだ名乗るほどの者じゃないさ」

 中年の男はニヤニヤと、気色悪い顔を貼り付けたまま答える。

杏子「じゃあどうでもいい、ゆまの居場所を教えるか、死ぬか、好きな方を選ばせてやる」

「UMA? そうか、君たちはあれが目的だったのか!」

フレンダ「とぼけない方がいいってわけよ。この研究所に、ゆまって子がいるのはわかってるってわけよ」

 ナイフを構えたフレンダも一歩前に出る。ハッタリではない。この研究所にはマミの散った場所で感じた魔力が確かに漂っていた。

「そう焦らない。おい、玄関のモニターにUMAの水槽を映せ」

 中年の男が天井の角を向いて、一言。

 すると、フレンダたちの左手から光が射した。その方向を見れば、大きなモニターが壁に貼り付けられている。

「見たまえ、これが私たちの研究だよ」

 そのモニターに、少女が映し出されていた。

杏子「ゆまっ!?」

 少女は一糸まとわぬ姿で水槽に浮いていた。起きる様子はなく、まるで生気を感じさせずに水槽を漂っている。

 耳、鼻、口、と体のありとあらゆる穴にチューブが接続され、また、体中に電極が張り巡らされていた。

「そうUMAだよ。初めて発見したとき、そう自称したんだ。彼女の生態には驚いたよ」

 男は自分の成果を自慢するかのように言う。

「体中、いくら調べ尽くしても、肉体は人間と変わらないのだが、彼女は既存の能力研究では説明のつかない能力を持っていた。同時に、宝石のようなコアを持ち、それが無事である限り、人間なら死ぬような実験も、耐え抜いた。
 最早この生物は、既存の生物学すらも覆す! まったく新しいUMAなのだよ!」

杏子「テメェ……ゆまに……ゆまに何しやがった!!」

「何って、至って普通の人体実験さ。精神が壊れてしまったのか、起きなくなってしまったがね」

 そこが、杏子の限界だった。

杏子「こっんの糞禿げェェェェェェェ!」

 激昂した杏子が床を蹴る。

 中年の男はそれを予想していたらしい。若い男の首根っこを掴み、杏子の前に差し出した。

「ひぎぃっ」

 若い男に腹部に深々と杏子の槍が刺さる。若い男は激痛に白目を剥いて、すぐに意識を失った。

絹旗「清々しいほどの超クズですね……」

 見下すように、絹旗が睨んで言った。

「なんとでも言うがいいさ。ほら、もう三分だ」

杏子「は? 何を言って——」

 その瞬間、奥の壁を突き破って、純白の羽が飛び出してきた。

 間一髪、杏子は反応して、避ける。しかし、避けきれない。

 僅かに擦っただけで杏子は激しくはじき飛ばされ、床を転がった。

 そして、壁に空いた穴から、それは歩いて来た。

 それは小さかった。身長はフレンダの胸元くらいしかないだろう。

 真っ白で、顔も鼻も口もないのっぺりとした楕円形の顔面部。

 黒い皮膜を使った大量のケーブルがうねるようにして絡み合い、足が二本、手が二本の人型を作っていた。

 ケーブルが多すぎるためか、身長に似合わず、それはずんぐりとした体躯だった。

 特徴的なのはその背中。

 一対の、純白の羽が生えていた。

「今は、この子がUMAだ。これは能力者を再現したちょっと特殊な駆動鎧でね、ここには人間が乗ることが必須だった。そこで、こいつにUMAのコアを組み込んだんだ」

 UMAの肩を叩きながら、誇らしげに男が言う。

「そうしたら、見事に起動してくれたよ! この技術を応用すれば『多重能力者』も夢じゃない!」

杏子「この禿げ……!」

 はじき飛ばされた杏子だったが、大きな怪我はないらしい。すぐに立ち上がる。

「加えて自我もないようでね、全てプログラムした通りに動いてくれる。しかし、発想力、思考力は人間のものを使うことができる。無人兵器としてもこれは画期的だ!」

浜面「腐ってやがる……」

 浜面が滝壺を守るようにして立ち、銃を構える。

キリカ「学園都市なんてみんなそうじゃないの?」

 キリカが動きを遅くする魔法を発動し、かぎ爪を構える。

麦野「そうね、まあまた学園都市らしく、胸くそ悪い研究者だこと」

 麦野が原子崩しをいつでも発射できるように演算を始める。

絹旗「『木原』の人間ですかね? それにしては超小物ですけど」

 絹旗が殴りたいものをすぐに殴り飛ばせるように拳に窒素を一際纏わせる。

フレンダ「どちらにせよ、あれだね」

 フレンダが片手にナイフを構えたまま、時限式爆弾を取り出す。

滝壺「ブチコロシ確定ってやつだね、きょうこ」

 滝壺が浜面の後ろに隠れながら研究所に流れる異常なAIM拡散力場を読み始める。

杏子「当たり前だ……!」

 そして起き上がった杏子が六人の下へ戻り、槍を構える。

「せいぜい頑張りたまえ」

 UMAが、起動した。

 背中の羽を羽ばたかせ、僅かに宙に浮く。

 ぶわっと、背中からさらに二対の羽が追加される。

 羽は計三対、六枚。

 まるで歪な天使のよう。

 そして、のっぺりとした顔面部に、英字が青色LEDライトで示されていた。

 浜面が、それを見て、驚愕する。

浜面「嘘だろ……!?」

 英字は、こう書かれていた。


 ——FIVE_Over.Modelcase_"DARKMATTER"


浜面「気をつけろみんな! あれは、学園都市第二位を、垣根帝督を越える駆動鎧だッ!!」

 音が消し飛んだ。

 UMAが軽く羽ばたいたと思うと、爆発が巻き起こる。

 研究所の入り口が、杏子が、フレンダが、キリカが、麦野が、絹旗が、浜面が、滝壺が、吹き飛んだ。

 研究所の入り口に面する方向が、丸ごと更地になっていた。

フレンダ「大丈夫、みんな!?」

 真っ先に起き上がったのは、フレンダだった。爆発をまともに受けても、フレンダには傷一つない。

杏子「なんとか、な……」

キリカ「私たちなら平気だよ」

 魔法少女二人が立ち上がる。

絹旗「私の取り柄は超頑丈なことなので」

麦野「これくらいどうってことないわよ」

 能力者二人が立ち上がる。

浜面「運良く瓦礫がクッションになったみたいだ」

滝壺「はまづらがいたから大丈夫」

 残る二人も立ち上がる。

 そんな七人の上空に、UMAが物理法則を無視するかのような動きで、浮いていた。

フレンダ「もう来たわけっ!?」

 ナイフは通用しないとの判断か、フレンダは懐から小型のミサイルを取り出す。

杏子「待て! あれの中にはゆまのソウルジェムが埋め込まれてるんだぞ!」

 だがそれを放とうとしたフレンダを、杏子が慌てて制止した。

フレンダ「じゃあどうしろって言うわけよ!」

杏子「無力化してソウルジェムを引っ張り出す!」

フレンダ「そんな無茶な!」

 そうして言い争ってる二人へ、翼が目にも止まらぬ速度で伸びる。

フレンダ「くっ……」
杏子「話し合ってる時間もねえってか!」

 そうして、二人が結界を張ろうとして、

麦野「どいてろ!」

 麦野が原子崩しの盾を作る。

 電子と羽が激突し、その組み合わせでは決してあり得ないような、甲高い音が響き渡った。

麦野「こいつの攻撃ににお前らのバリアは恐らく意味がない!」

 間髪入れず、別の翼が横殴りに襲いかかる。

 だが、麦野がもう一つ、原子崩しの盾を発生させた。羽はそれで止まる。

杏子「すまねえ!」

 その隙に、杏子が銃弾のように飛び出した。

杏子「うらぁっ!」

 杏子は伸びていた羽に、思い切り槍を叩き付ける。

 槍と翼が激突し、その組み合わせではあり得ないような、ゴッキィィィンという耳をつんざく音がする。が、羽には傷一つついていなかった。

 一瞬、攻撃で杏子の動きが止まる。そこにUMAは目敏く反応する。

 さらに別の羽が杏子に襲いかかった。

フレンダ「何やってんのさ!」

 間一髪、フレンダが杏子を突き飛ばして、羽は空を切る。

杏子「無力化だよ! こいつの攻撃手段は羽だ、羽を潰せば無力化できる!」

フレンダ「……なるほど!」

 得心したように、フレンダも手榴弾を取り出し、羽へと投げつけて攻撃する。

 凄まじい勢いで投げつけられた手榴弾は羽と激突し、衝撃で本来の爆発のタイミングを迎える前に爆発した。

 しかし、やはり羽は無傷。汚れすらついていなかった。

フレンダ「でもこんなのどうやったら壊せるわけー!」

 二枚の羽がフレンダと杏子を襲う。しかし二人は、麦野たちの下へ再び戻りながらこれをなんとか回避する。

 麦野たちへも二枚の羽が襲いかかっており、原子崩しの盾で一瞬、動きが止まっていた。

 フレンダがそれにナイフを投げつけるが、やはり弾かれて、効果はない。

キリカ「二人ともさっきから何やってるのさ!」

 再び集結したところで、キリカが叱咤する。

フレンダ「いや、あの羽壊せないかなー、って」

杏子「そうしたら無力化できるだろ?」

 さも大発見のように、二人は言う。

キリカ「それは無理だよ! 私と恩人がやってもダメだった!」

麦野「私も無理だと思うね。私の原子崩しとぶつかっても消滅しないってことは、この世じゃあり得ない硬度を持ってるってことになる。
   まさしく第二位の能力通り、な」

フレンダ「ダメかっ……」

 経験者と、超能力者の言葉にフレンダは落胆する。

 そこへ、今度は四枚の羽が左右、前、上空から襲いかかる。

 麦野の原子崩しの盾は両手から生み出している。つまり、二枚が限界。

麦野「逃げろ!」

 麦野が鋭く指示する。
 キリカと杏子とフレンダは魔法少女の身体能力で、絹旗と麦野は能力で、浜面と滝壺を連れて退避した。

麦野「くそっ……厄介だな……」

絹旗「麦野以外防御不可の攻撃に、ソウルジェムの人質ですか……どうすれば……!」

 七人は能力者と、魔法少女とで二組に分散。これでUMAが羽の枚数を分散してくれるのならば、非常にやりやすいだろう。

 だがそれは根本的な解決にはならない。逃げ続けていれば、いつか追いつかれる。

 そもそも、UMAを攻撃しようと、二枚の羽が常に防御用にストックされていて、攻撃が通りそうもなかった。


QB『大分困っているようだね』


 そこで、麦野、絹旗、浜面、滝壺の脳内に、キュゥべえの声が響いた。

浜面『お前、生きてたのか……!』

QB『言っただろう? 代わりはあるって』

 羽が二枚、襲いかかる。運が良いのか、羽は分散されたようだ。

QB『それよりも。君たちが戦っている千歳ゆま、あれをどうにかする方法があるんだ』

麦野『一応言ってみろ』

QB『もう予想はついているようだね。簡単さ、僕と契約して』

麦野『断る』

 キュゥべえの言葉を遮り、麦野は即答する。

QB『やれやれ……一番手っ取り早い方法だと思うんだけどな』

麦野『言いたいことはそれだけか?』

QB『いいのかい、君たちじゃ、恐らくアレに勝つのは無理だと思うよ? 中のソウルジェムごと破壊するという方針をとっても、ね』

絹旗『そんなの、やってみなくちゃ超わかりませんよ』

QB『やるって、具体的に何をやるんだい?』

絹旗『そ、それは……』

QB『少なくとも、あの翼を壊す方法は、君たちの今の持ちうるカードの中には存在しないことは確かだね』

絹旗『っ……』

QB『そもそも、無力化してソウルジェムを取り出す、と杏子は言ったけど、それがどこにあるかなんてわかるのかい?』

滝壺『わかるよ』

 横から、滝壺が言った。

浜面『本当か!?』

滝壺『うん。まずあの駆動鎧、多分、能力で作られたものだと思う』

 二枚の羽の攻撃が、唐突に止んだ。運がいいのもここまでらしい。

 フレンダたち、魔法少女の組に力を集中させる判断を取ったようだ。

滝壺『魔法と能力は相容れないものなのかもしれない。明らかに一部分、バランスが崩れてる場所があるよ。

   多分、そこにソウルジェムが埋め込まれてる』

QB『……そうかい。でも、それがわかったとして、どちらにせよ、君たちがあの翼を攻略不可能な事実は変わりないんだよ?』

浜面『……いや、攻略可能だ』

 思いついたように、浜面が言いだした。

浜面『翼が壊せないなら、壊さなきゃいい。あいつが今の戦法を続けるなら、ソウルジェムの場所がわかるなら、打つ手は、ある』

——
杏子「運がいい、こっちが二手に分かれたお陰か、羽の数が分散してるぞ!」

 二枚の羽がフレンダたちを襲う。

 その速度は、杏子ならともかく、通常、フレンダ程度では反応するのも難しいほどのはずだった。

 しかし、キリカの魔法は、速度を遅くする魔法。その恩恵を受け、相対的に速くなったフレンダは、なんとか避けることが可能になっていた。

 そうして、二枚の羽は杏子たちのいた場所を襲うが、三人は既にそこにはいなかった。

 外れても、爆発が巻き起こる。地面にクレーターができ、爆風が避けたはずの三人の体を叩いた。

キリカ「くっそー、やっぱり滅茶苦茶な威力だっ!」

フレンダ「二枚だって言っても、こんなの避け続けてたら体が保たないってわけよ!」

 爆風に体を運ばれながらも、上手く体勢を立て直した二人が地面へと着地する。

 だが、安堵の息を吐く時間すらUMAは与えない。

 その時には、既に羽がフレンダとキリカに追撃を行っていた。

キリカ「もう来たか……!」

フレンダ「げっ……」

 身体能力に優れたキリカは余裕を残しながらも避けるが、羽の生み出す風圧は、最早爆風だった。

 キリカはその流れに逆らわず、風に乗って、羽からさらに距離を取る。

 一方フレンダはなんとか反応が間に合った程度だった。手に持ったナイフを盾のようにして、羽を受け止める。

 当然、そんなもので防げるはずがない。

 ナイフを砕き、貫通し、フレンダの肉体を羽が貫通した。

杏子「フレンダァ!」

 その羽を、杏子が槍で切り裂こうとする、否、叩き砕こうとする。

 凄まじい金属音が衝撃波として撒き散らされ、槍は自身の力に耐えきれず、折れる。

 それでも、もちろん羽は無傷。杏子の努力が虚しくなるほどに、無意味だった。

 しかしその感情を認識する暇はない。

 キリカを攻撃していたはずの羽が杏子の体を串刺しにせんと肉薄していた。

 轟ッ!! 羽と羽がぶつかり合い、再び音が消し飛ぶ。爆発が起きた。

杏子「がはっ……」

 爆発に吹き飛ばされた杏子が、数度バウンドし、地面に叩き付けられる。

 幸いなことに串刺しにはならなかった。

キリカ「だから無駄だって言ってるって!」

 キリカが間一髪のところで杏子を突き飛ばしたからだ。

杏子「お前、それ……!」

 見ると、キリカには何かが足りなかった。

 腕だ。左腕の、肘から先が抉れるようにしてなくなっていた。

キリカ「ん? ああ、これ。いいよ、痛覚遮断してるから」

 なんでもないように、キリカは言う。

キリカ「むしろ腕一本だけで儲けものさ。恩人はよくもあんな化物と一人で戦えたものだね」

杏子「そりゃ、そうだが——っ!」

 再び、UMAは攻撃を行っていた。

 今度は、羽ではなかった。ずんぐりとした、あの機体が矢のように杏子とキリカの下へと飛んできたのだった。

 差し出されるのは小さな拳。

杏子「何っ!?」

 杏子の意識が羽ではないと判断したことにより、反射的に、杏子はその拳を受け止める。

 それは明らかに失策だった。

 鈍くて湿った、嫌な音と共に、杏子はノーバウンドで吹き飛ばされる。

キリカ「こいつ!」

 キリカは悲観などしない。

 チャンスとばかりに、間髪入れずにキリカがかぎ爪でUMAに切りかかる。

 ソウルジェムなど、気にせずに。

 しかし、そんな容赦のない攻撃も、羽に軽々と受け止められ、さらに別の羽がキリカのかぎ爪を砕く。

 そして、キリカの脇腹にUMAの蹴りが突き刺さった。

キリカ「あぅっ!」

 一度地面に激しく叩き付けられた後に、バウンドしてキリカは大きく打ち上げられる。

 そこに、羽が迫っていた。キリカの肉体を両断せんと、振り下ろされていた。

 その時、羽に爆発が巻き起こる。

 威力のあまり起こる爆発ではなく、単純な爆弾の、爆発。

 その爆風に運ばれて、キリカが宙に投げ出される軌道が大きく逸れた。

 ギロチンのような勢いの羽が、先ほどまでにキリカが通ろうとしていた軌道を両断する。

 しかし、キリカには当たらない。

キリカ「——はっ!」

 連続的に起きる事態に対応しきれずもみくちゃになったキリカは背中から地面に着地する。肺の中の酸素が残らず吐き出された。

フレンダ「キリカ、大丈夫!?」

 そこに、フレンダが駆け寄った。見れば、フレンダは未だ無傷だ。いや、無傷のはずがない。

 確かに、フレンダは一度羽に貫かれていた。深々と貫かれ、鮮血を撒き散らしていた。

 それでも、フレンダは無傷だ。血の汚れすら、服についていなかった。

 だがキリカにはそんなことはどうでもいい。キリカは重大なことに気がついたのだ。

キリカ「だいじょうばない! あいつ、学習していってるよ!」

フレンダ「学習!?」

キリカ「羽だけの攻撃じゃ効率が悪いって判断されたのか、肉弾戦もやってきた! しかも、羽より速い!」

フレンダ「ってことは、長引けば長引くほど、強くなるってわけ……!?」

 絶望的な表情で、フレンダは言う。

 その二人の会話はそれ以上続けられなかった。

 ばさりと、羽ばたく音がする。

 弾かれるようにそちらを見ると、先ほどまでは二枚をフレンダたちへの攻撃に、二枚を麦野たちへの攻撃に、二枚を自身の防御に回していたUMAが。

 防御を解き、麦野たちへの攻撃を止め。

 六枚の羽をフレンダたちに向けていた。

キリカ「重点的に、こっちから攻撃するつもりか……!」

 UMAは一際大きく、羽を羽ばたかせる。烈風が舞い起こる。

 逃げ場はない。大規模な広範囲攻撃だった。

 フレンダがキリカを抱きしめるようにして、盾になる。だが、踏ん張りは効かない。

 そのまま二人は風に身を切り裂かれて、吹き飛ばされ。
 さらに烈風が今度は上空から地面へと吹きつけ、二人は地面にめり込むほど激しく叩き付けられる。

 もちろん、勢いを殺す着地など、成功するはずはない。

フレンダ「あぐぅ……!」

 フレンダがクッションになり、盾になり、キリカに大きなダメージはない。

 それでも状況は最悪だった。UMAの羽で中程から両断されたビルが、二人の下へ倒壊してきたのだ。

キリカ「やばっ——」

 ビルが二人を押し潰すより早く。巨大な槍が倒壊してきたビルに突き刺さった。

 ビルは砕け、また吹き飛ばされ、フレンダとキリカへ降り注ぐのは小さな欠片のみとなる。

 杏子だった。杏子が、巨大な槍を形成し、投げやりのように凄まじい速度で射出したのだった。

杏子「大丈夫かっ……!」

 杏子が二人の下へと舞い戻る。

フレンダ「だいじょうばないって! こんなのどうしようもないわけよ!」

 フレンダが焦燥しながら言う。フレンダの体中に刻まれた切り傷はいつの間にか消え去っていた。

浜面『いや、どうにかする方法はある!』

フレンダ「浜面っ!?」

 そこで、三人の脳内に直接浜面の声が届いた。テレパシーだ。

杏子『どうにかする方法だと、今すぐ教えろ!』

 気がつくと、UMAがまた目前へと迫っていた。

 今度は吹き飛ばされない。羽の攻撃でないなら、三人の作った結界で受け止めることが可能だった。

浜面『こいつは『未元物質』の能力を使ってるからって、何も垣根本人、能力者じゃない! 駆動鎧だ!』

 拳と結界が激突する。ゴパッと爆音が鳴り響くが、それは確かに停止した。

浜面『能力が攻略できなくても、能力を使えなくすればいい!
 前に『超電磁砲』のモデルと俺はやり合ったことがある、そのモデルはレールガンを放つ銃身があった!』

 羽が展開される。四枚の羽が、二枚の羽の二倍の威力で三人へと襲いかかった。

浜面『それなら、こいつにも『未元物質』を作り出す部位があるはずだ! そいつを壊せば、こいつは能なしになる!』

 間に合わない、と判断したキリカが、全力で魔法を発動させた。

 大幅に羽の速度が低下する。その隙に、三人は三方へ散り散りとなった。

杏子『でもそんなもん、どこにある!?』

 UMAはまだ敵が散開した状況を効率的に処理することができないらしい。動くまでに、ラグが生まれた。

浜面『滝壺の話だと、全身に能力が供給されてるが、顔面と羽の根本が特に強いらしい。そのどちらかを壊せば、あるいは!』

 幾度攻撃しても回復し、のれんに腕押しのフレンダ。UMAから見て、唐突にスピードを上昇させることのできるキリカ。そして基本的な身体能力が最も高い杏子。

浜面『常識的に考えれば、顔面部が一番重要かもしれない。でも相手は『未元物質』だ、俺は羽が怪しいと思ってる……いけるか!?』

 UMAが選択したのは、杏子だった。

フレンダ『やってみる価値は、あるってわけよ!』

 そうして、杏子へと向き、フレンダから背を向けたUMAの背中に、フレンダはナイフを射出した。

 しかし当然それは羽の壁に弾かれる。

 ナイフは一瞬の内に数十発放たれたが、一本すら届かない。

 ちらりとフレンダの方向をUMAが振り返ると、杏子へと向かいながらも、フレンダを両断しようと羽を振り回す。

フレンダ「わわっ!」

 フレンダは大きくジャンプし、これを躱す。

 その隙に杏子はさらに遠くへと逃げた。燃費など考えない、全力疾走だ。

 それでも、UMA本体がコンスタントに出せる速度と五分五分程度だった。

フレンダ「結局、数で押してもダメってわけ……!」

 全力疾走の杏子に追いつこうとするのは効率が悪いと判断したのか、UMAは烈風攻撃に切り替える。

 大きく羽ばたくと、烈風が舞い起こり、竜巻が生まれた。

キリカ『いや……数はありかもしれないね。恩人がやっていたよ!』

 その烈風は、直接杏子を狙ったものではなかった。フレンダを狙ったものでも、キリカを狙ったものでもなかった。

キリカ『恩人は一人で多段攻撃を行おうとしてたけど、私たちは人数がある! この人数差で多段攻撃を仕掛けよう』

 瓦礫だ。戦闘の余波で倒壊したビル、建物の亡骸が上空へと舞い上げられる。

 UMAが再び羽ばたく。羽を羽ばたくだけでは絶対に起きないような、上空から地面へと叩き付けるような烈風が吹き荒れた。
 その烈風に加速させられ、砲弾となった瓦礫の雨が地面へと降り注ぐ。マミの連続攻撃のような、爆撃が降り注いだ。

キリカ『作戦は、そうだね、私と佐倉杏子があの羽を引きつける、その間によろしく頼むよ』

 瓦礫たちは空気抵抗で発生した熱で真っ赤に染まり、まさしく空襲のよう。

フレンダ『それでいいわけ!?』

 最早、それは隕石だった。一撃一撃で地面に大きな穴が空き、衝撃波と爆風が撒き散らされる。

杏子『あたしは構わねえ! あいつの速度に追いつけるのは、あたしとキリカだけだからな!』

 三人は、結界を傘のようにして張る。ドガガガッと流星の雨が降り注いだ。

フレンダ『……了解!』

 結界によってなんとか身を守ることができたが、その代償は大きい。杏子は、足を止めて防御する他なかったのだ。

 そんな杏子に、猛スピードでUMAが迫る。

キリカ「私たちのことを忘れてるよっ!」

 そのUMAより速く、いやそのUMAを遅くして、キリカがUMAに追いつく。

 肉体を狙って、かぎ爪を一閃。しかし、それは羽に受け止められる。

 その間に杏子も体制を建て直す。今度は逃げるのではない、直接向かって行く形になった。

 そんな二人を、UMAは六枚の羽を振り回して撃退しようとする。

 キリカが再び、最大限に魔法を発動し、速度を低下させる。魔力の消費など度外視の最大限だ。

 そうして、杏子とキリカは難なく羽を避ける。

杏子「フレンダ、今だ!」

フレンダ「おっけー!」

 その隙を狙って、フレンダがナイフを大量に射出した。速度は音速を優に超えている。

 こちらも、魔力の消費スピードを考えない、最大の攻撃。

フレンダ「行ッッッけェェェェェェ!」

 ——だが、その努力も虚しく。羽はそれを防ぎきる。

 顔面部から、さらに一枚、七枚目の羽が生まれていた。

杏子「こいつ——ここに来てまだ隠し球を……っ!?」

 楽々とナイフを防いだ後、一対を杏子に、一対をキリカに割り当てたUMAは、残りの一対をフレンダへと割り当てる。

フレンダ「えっ——」

 最大の攻撃を放った後か、フレンダの反応が遅れた。
 羽はフレンダの体を透過していた。いや、フレンダの体が、両断されていた。

 フレンダの下半身が、吹き飛んだ。



フレンダ「——今だよ、麦野!」

麦野「よくやった、フレンダ!」


 そうして、全ての羽が攻撃に割り当てられた瞬間。

 青白い光がUMAの背面を焼き尽くした。

 UMAは反応すらできなかった。

 UMAが、戦闘開始から初めて、自分の意思に反して、宙を舞う。

 純白の羽が、『未元物質』の羽が、虚空に溶けるように消える。

 どしゃりと、UMAが受け身も取れずに地面を転がる。

 UMAは、ぴくりとも動かなくなった。

絹旗「フレンダ、超大丈夫ですか!?」

 そこに、浜面、麦野、滝壺、絹旗が合流した。

フレンダ「まあね、なんともないってわけよ」

 フレンダは、力強く直立していた。

 吹き飛んだはずの下半身が、服ごと再生されていた。

杏子「おいおい、どんな魔法だよ……もうそれは回復魔法の域じゃねえぞ」

 そんなフレンダを見て、杏子が呟く。

フレンダ「へっへーん、フレンダちゃんは無敵ってわけよ」

 自慢げに、ない胸を反らすフレンダ。

浜面「やった、のか……?」

 そんな六人を尻目に、浜面は恐る恐る、UMAを覗き込む。

 UMAは静止しているように見えた。それを見て、浜面は安堵の息を吐く。

浜面「ふぅ……なんとかなっ」

 ——たか、とは、続かなかった。


 UMAがふらりと、立ち上がった。

杏子「こいつ、まだ……!?」

 臨戦態勢を整える杏子。

キリカ「いや、様子がおかしい!」

 同時に、キリカが重要なことに気がついた。

 UMAの体が、仄かに光っていた。

フレンダ「嘘……まさか……」

 吹き飛ばされて、ボロボロになった体を光が包む。


 ——傷が、物凄い速度で、修復されていっていた。


 ばさり。再び、三対、六枚の羽がUMAの背後に形成される。

麦野「こいつもぶっ壊しても再生するのか——っ!!?」

 UMAの顔面部に英字が青色LEDで浮かび上がる。

 Restart、と。

——
 遠くで連続した爆発音が聞こえる。凄まじい戦闘のようだ。

 FIVE_Over.Modelcase_"DARKMATTER"に組み込まれたゆまと、フレンダたちの戦闘は研究所からどんどん離れて行っているらしい。

 研究所の入り口を守っていた駆動鎧たちは粉々になっていた。

 キュゥべえがその駆動鎧のコックピットを、耳から伸びた器官で開ける。

QB「なるほど、事件の真相はこういうことだったんだね」

 そこに、千歳ゆまが乗っていた。

 別の駆動鎧のコックピットを開けても、そこにも千歳ゆまが乗っていた。

 そこは、千歳ゆまだらけだった。

QB「千歳ゆまの体細胞クローン、だね。しかしすごいなあ、クローンと言ってもそのままの姿になるとは限らないのに、瓜二つだ」

 しかし、ほとんどは、人の形をしていなかった。指が六本あったり、あり得ないところから爪が生えていたり、どこかしらの肉体が崩壊して、絶命していた。

QB「ここまでそっくりだと、やろうとすれば千歳ゆまに成り代わることすら可能なんだろうね。それで、千歳ゆまの因果の糸を、このクローンたちも引き継ぐことができた」

 キュゥべえが何かを咥えて引っ張り出す。ソウルジェムだ。

QB「さらに驚きなのが、このソウルジェムだ。材質が僕らの作り出すものとまったく同じ……魂の取り出し方なんてどうやって入手したんだろうね」

 それは、濁ったまま、色を失っていた。

QB「しかしこれは欠陥品だよ。感情のないクローンのソウルジェムを作っても、願いもなしに強制的に作っても、無から絶望では落差はない。まるでエネルギーになりやしない」

QB「これじゃ徒に魔女を増やすだけじゃないか」

 はぁ、と溜息を吐いて、キュゥべえはソウルジェムを足元に落とす。

 それを足で踏みつけると、ソウルジェムはパリンという小さなを音を立てて割れて、消えた。

QB「まったく迷惑な話だよ。処分する僕の身にもなってほしいものだね」

 また別の駆動鎧からソウルジェムを取り出すと、踏みつぶし、割る。そしてまた取り出し、割る。

 キュゥべえは幾度もそれを繰り返す。

 ふと、先ほどまで続いていた戦闘音が止んだのがわかった。

QB「おっと、そろそろ僕の出番かもしれない」

 ソウルジェムを割る作業を止めて音のしていた方を見るキュゥべえ。

 そして、とてとてと、キュゥべえは戦闘が繰り広げられていた場所に向かって歩き出した。

ここから先を割と書き直したいと思う
とりあえず、アリアと伝播女とタイバニとセイクリと神メモとシャナとアンパンマンとべるぜとゴーカイジャーとオーズとプリキュア見てくる

>>216
つまり明日まで書かないというわけだな

改訂ポイントまとめてくれると嬉しいんだが

>>217
土曜日は深夜53時半までだから、ほら、あれだよ
……ごめんなさい

>>218
今までの改訂ポイントは本当に些事
分割点を変えたり、違和感を感じたところをちょいちょい直しただけ
これからは色々変える予定

            _∧_∧_∧_∧_∧_∧_∧_∧_
     デケデケ      |                         |

        ドコドコ   < >>1まだーーーーーーーー!!? >
   ☆      ドムドム |_ _  _ _ _ _ _ _ _ _|
        ☆   ダダダダ! ∨  ∨ ∨ ∨ ∨ ∨ ∨ ∨ ∨
  ドシャーン!  ヽ         オラオラッ!!    ♪
         =≡= ∧_∧     ☆

      ♪   / 〃(・∀・ #)    / シャンシャン
    ♪   〆  ┌\と\と.ヾ∈≡∋ゞ
         ||  γ ⌒ヽヽコ ノ  ||
         || ΣΣ  .|:::|∪〓  ||   ♪
        ./|\人 _.ノノ _||_. /|\
         ドチドチ!

スコココバシッスコバドドトスコココバシッスコバドドトスコココバシッスコバドドトスコココバシッスコバドドトスコココ
スコココバシッスコバドドドンスコバンスコスコココバシッスコバドト _∧_∧_∧_∧_∧_∧_

スコココバシッスコバドドト从 `ヾ/゛/'  "\' /".    |                    |
スコココバシッスコハ≡≪≡ゞシ彡 ∧_∧ 〃ミ≡从≡=< >>1まだーーー!!!!!  >
スットコドッコイスコココ'=巛≡从ミ.(・∀・# )彡/ノ≡》〉≡.|_ _  _ _ _ _ ___|
ドッコイショドスドスドス=!|l|》リnl⌒!I⌒I⌒I⌒Iツ从=≡|l≫,゙   ∨  ∨ ∨ ∨ ∨ ∨ ∨
スコココバシッスコバドト《l|!|!l!'~'⌒^⌒(⌒)⌒^~~~ヾ!|l!|l;"スコココバシッスコバドドドンスコバンスコスコココ

スコココバシッスコバドドl|l|(( (〇) ))(( (〇) ))|l|》;スコココバシッスコバドドドンスコバンスコスコココ
スコココバシッスコバドド`へヾ—-—    —-— .へヾスコココバシッスコバドドドンスコバンスコスコココ

 シーン
         =≡= ∧_∧

          /   (・∀・ ) <はい
        〆   ┌  |    | .∈≡∋
         ||  γ ⌒ヽヽコノ   ||
         || .|   |:::|∪〓  .||
        ./|\人 _.ノノ _||_. /|\


趣味はなんですか?          ssを書くことです……
     
   ( ゚Д゚)                 (゚Д゚; )

    |  ∞   ___            ノ ノ. |
    | ̄L`L  |  |           」´」 ̄|


ss?
具体的にどういったものですか?  そ、創作小説……みたいなもので……

   ( ゚Д゚)                 (゚Д゚; )

    |  ∞   ___            ノ ノ. |
    | ̄L`L  |  |           」´」 ̄|


他に何かアピールは?         えーっと……。

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それでは結果は
一週間以内に連絡します。      あ、はい……

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他にカップリングのアピールは?         ほむ×まどとフレンダ×麦野です!

   ( ゚Д゚)                 (゚∀゚ )

    |  ∞   ___            ノ ノ. |
    | ̄L`L  |  |           」´」 ̄|


滝壺×麦野と
最終話BパートのほむQもアイシテ     あ、はい……

   ( ゚Д゚)                 (゚Д゚; )

    |  ∞   ___            ノ ノ. |
    | ̄L`L  |  |           」´」 ̄|

遅れてすまない、今から投下する

——
 絶望的だった。

 ふわりと、重力を無視するかのように、UMAが浮かび上がる。

 羽がばさりとはためく。それだけで、並の風力使いを凌駕するような強風が吹き荒れた。

 UMAは、健在だった。

 あれだけ努力して、やっと倒して、全てが終わったと思ったのに、結局、UMAは今も、損傷は一つもなく駆動していた。

杏子「結局、どんなに頑張っても、あたしは誰も、ゆま一人すらも救えないのかよ……」

 からん、と杏子が槍を落とす。ソウルジェムが濁る。

キリカ「こんなのどうしろって言うんだい……ここで死んだら織莉子に会えないじゃないか……」

 だらり、とキリカが脱力する。ソウルジェムが濁る。

 その二人に限らず、誰もが脱力していた。どうしようもない、と絶望していた。

 フレンダ以外は。

フレンダ「みんなしっかりしてよっ!」

 UMAが羽を振り回す。フレンダはそれを庇うようにして六人を突き飛ばす。
 必死に、フレンダ一人だけが生きる努力をしていた。

フレンダ「まだ、まだ終わったわけじゃないってば!」

 泣きそうになりながら、フレンダは全員を説得する。しかし、誰も、答えない。

QB『そうだよ、まだ終わってはいないさ』

 そこで、鼓膜を通さずに声が届いた。キュゥべえの声だ。

フレンダ「キュゥべえっ!?」

 キュゥべえの魅力的な言葉に、フレンダは地獄に垂れる一本の蜘蛛の糸を掴んだように喜んだ。

QB『この状況をどうにかしたいなら簡単さ。理后、沈利。君たち二人のどちらかが僕と契約して魔法少女になればいいのさ』

 しかし、続く言葉にフレンダは落胆する。

フレンダ『まだ、まだそれ以外にも手段が残ってるわけよ!』

QB『へぇ、どんな手段だい?』

フレンダ『そ、それは……』

QB『どんなに破壊しても、彼女は瞬時に再生するよ。だけど、マミと違って一度破壊するのにここまで疲弊する君たちに何度も破壊する力はないよね?』

フレンダ『そんなの、やってみなくちゃ……!』

QB『じゃあ、それができたと仮定しようか。でも、その先にあるのは魔力の尽きた千歳ゆまの魔女化だよ? 僕は、君たちがそれを望んでないと解釈しているのだけど、違ったかな?』

フレンダ『……っ』

浜面『無理、なのか……』

QB『だから僕は最初からそう言ってるじゃないか』

 その言葉に、フレンダもついに押し黙る。

QB『さあ、早く決断した方がいいよ。二人のどちらが僕と契約して魔法少女になるのかを、ね』

 キュゥべえに言われて、はっとする。

 上空に、UMAが羽を広げて、浮かんでいた。

 その羽から、大量の羽毛が降り注ぐ。一撃一撃が物理的にはあり得ない硬度を持っている未元物質の羽毛が。

 当然、それはフレンダ一人で庇いきれるものではなかった。

麦野「くそがっ……!」

 そこで、キュゥべえに言われて、絶望的な希望を示されて、僅かに再起した麦野が原子崩しの盾を展開した。

 ドリルがコンクリートを叩くような、凄まじい連続音が鳴り響いた。

滝壺『……私が契約するよ』

 その様子を見て、静かに、小さく、しかし、力強い言葉で滝壺が言った。

浜面「滝壺……っ!」

 滝壺の言葉に、情けない声を上げる浜面。やめてくれ、と言いたかったが、滝壺の強い目を見て、浜面は何も言えなくなる。

滝壺『はまづらは何度も私を守ってくれた。今度は、私に守らせて』

 滝壺は浜面の両手を握って言う。浜面は何も言えず、しかし、くしゃくしゃにした顔で首を横に振った。

麦野『いや、私が契約する』

 その滝壺の案を、麦野が却下した。

麦野『これで昔やったことがチャラになるなんて、都合の良いことは考えてない。でも、私にやらせてくれ』

QB『僕はどっちでもいいんだけどね。君たち二人は二人とも、とてつもない因果を秘めている。マミに匹敵するレベルの因果をね』

浜面『お前は黙ってろ……!』

 UMAは再起した麦野を見て、戦法を変える。面でしか展開できない盾を突破するための、全方位からの烈風攻撃だ。

フレンダ『麦野も、滝壺も、二人ともやめてよっ! 魔法少女になるって死ぬってことだよ!?』

 烈風をフレンダが作り出す結界が受け止める。

麦野『でも、それ以外にどうするのよ……!』

 凄まじい強風に、ぎしぎしと唸り声を上げる結界。恐らく、長くは保たないだろう。

フレンダ『まだ、まだきっと何かがある……あるはず……』

 思いつかず、フレンダの顔はどんどん曇っていく。

 その時、浜面の脳裏に、この事件の黒幕の、厭らしい中年の男の言葉が思い出された。

浜面「いやある……あるぞ、こいつをなんとかする方法!」

 だが耐えきれず、結界が割れた。烈風が七人の下へと吹き込む。

 しかし、その烈風は七人を傷つける前にせき止められる。キリカと杏子の結界に、だ。

杏子「本当かっ!?」
キリカ「本当かいっ!?」

 浜面の言葉に、杏子とキリカも再起したのだ。

浜面「思い出してみろ、あの禿げの言葉をよ! コアを、つまりソウルジェムを組み込んだら動き出したって言ってただろ!
   それなら、ソウルジェムをあいつから取り出せば動きが止まるし、ゆまが魔女化することもないんじゃないか!?」

杏子「……そうか」

 しかし、浜面の続く言葉に、杏子は再び声から元気を失う。

杏子「それをな、さっきやっておけばよかったんだよな……でも、もうできない。
   あいつは学習していってる。つまり、あたしらの羽の根本を狙う戦法はもう使えない。
   しかもさっきは奇襲で成功したようなもんだろ? もう、一つだって壊せやしない」

 ぎしぎしと、再び烈風に押され始めた。

浜面「でも、根本を壊せば一時的に羽が使えなくなることには変わりないんだから……」

杏子「なら、どうやるんだよ! 言っておくけどな、あいつの能力発生装置は一つじゃねえんだ、三つあるんだよ!
   沈利みたいなパワーがあるなら一度に壊せるかもしれないけどな、他のやつじゃ一つずつしか壊せない。敵もそんなの学習してるに決まってるだろ!
   なら沈利以外を無視して、一つずつ壊されても、他の羽で守りながら回復させればいいだけ、そんな策を取られただけで終わりなんだ!」

浜面「確かに、それは百も承知だ。あいつの最優先対象は麦野だろうよ。だからこそ、いけるかもしれない」

杏子「……本当か?」

浜面「ギャンブル、だがな」

杏子「……わかった、やってやろうじゃねえか」

 杏子の結界に、再び力が戻る。烈風を跳ね返す強度になる。

浜面「麦野、大体わかってると思うかもしれないが、お前にすごく辛い役目を頼みたいんだが、いいか?」

麦野「私をどこの誰だと思ってる? 学園都市第四位の『原子崩し』麦野沈利様よ。
   テメーら雑魚のできない仕事をやるのは当然だろ。 ——囮でも、なんでもな」

浜面「……すまん!」

 決断して、浜面は意識を集中する。

浜面『おいキュゥべえ、聞こえてるか、またテレパシーの中継を頼むぞ!』

QB『やれやれ。最後のあがきだね。いいよ、さらに絶望したところから契約すれば、大きなエネルギーが得られるからね。
  失敗するように祈りながら協力してあげるよ』

浜面「よし、トリプルセブンを出しに、行くぞ!」

 全員の戦闘意思を、UMAは認識する。

 そこで烈風による攻撃は意味がないと判断し、羽による直接攻撃へと切り替えた。

 標的は、麦野。

麦野「オラァ! どっち狙ってんだウスノロ!」

 原子崩しを噴射のようにして、麦野は高速移動する。

 さらに原子崩しの光線を数発放つ。

 UMAはこれに的確に反応する。羽を原子崩しの軌道上に挟み込み、遮断。
 さらに別の羽で麦野の移動する先を予測し、その先へと振り下ろす。

 人間の体は高速で移動することに対応するように出来ていない。

 反応が間に合わず、麦野は自滅する、はずだった。

麦野「ガキの思考だな、単純だ」

 麦野はそれを既に予測していた。別方向に原子崩しを噴射し、急転換を図る。

 先に行動しておけば反応が遅れても、問題がないというわけだ。

麦野「さて、レベル5との詰めチェスごっこだ。機械と人間、どっちが頭がいいのか、試してみようじゃない」

浜面『よし、ここまでは予定通り……あとはもう一つ、障害がある』

 散り散りになって、浜面がテレパシーで伝える。

浜面『言っておくが、作戦なんてもんじゃない、本当にギャンブルだ』

浜面『まずは麦野が囮になってる間に、どうにかして羽を一対壊す』

浜面『そして羽が減ったところに最速の呉がその隙を突いて二対目を、さらに全員で多段攻撃を仕掛けて三対目を壊す、これしかない』

杏子『はっ……予想はしてたけど、本当にろくでもないギャンブルだな。勝てる気がしねえ』

 自虐的な杏子の声が脳内に響く。

キリカ『そもそもどうやって一対目を壊すのさ?』

 続いて、追求するようにキリカの声。

浜面『それは……』

 それに対して浜面は言い淀む。答えがわからないのではない、答えがわかってるからこそ、だった。

杏子『まあ、あたしらの誰かが一人、犠牲になりながら特攻ってところが筋だろうな』

浜面『……っ』

 その答えを、軽口を言うように杏子が代弁した。思わず、浜面も意味のない制止を口に出そうとしてしまう。

杏子『いいんだよ、ゆまがこうなったのはあたしが原因でもある。あたしが特攻して——』

フレンダ『いや、私が行くってわけよ』

 覚悟を決めたように言う杏子を、フレンダが遮った。

杏子『は!? 何を言ってやがる! あんなもんに特攻したら肉片一つ残らず消し飛ぶぞ! お前がどんな回復力を持ってようと、一溜まりもない!』

フレンダ『結局、ゆまちゃんが助かっても、杏子がいなかったら意味ないでしょ?』

杏子『じゃあ、あんたは赤の他人のために命を捨てられるって言うのか!? あんたも死んだら悲しむやつがいるだろ!』

フレンダ『大丈夫ってわけよ。壊すのは一対だけでいいんでしょ? それなら、それだけなら、私に考えがあるのよ』

 激昂したように言う杏子に、フレンダは冷静に抑える。

フレンダ『思い出してみてよ、麦野がさっき壊した時のことを。あいつは反応すらできてなかったわけよ。いくらなんでも、原子崩しの速度に反応できないなら、普通に麦野が突破できるはずってわけ』

杏子『どういうことだ……?』

フレンダ『つまり、致命的な欠陥があるってわけよ。例えばそう、特定の動作をするとフリーズをする、とかね』

杏子『そんなことがありえるのか……?』

絹旗『あり得ないってわけじゃないですね。一応、学園都市で超使われてた旧型の駆動鎧もそういうバグはあると聞いたことはあります』

フレンダ『そういうこと』

浜面『……任せて、いいんだな?』

フレンダ『浜面が誰に向かって口聞いてるわけ? このフレンダちゃんなら余裕ってわけよ』

浜面『……わかった! それなら、一対目はフレンダに任せるぞ』

フレンダ『どんとこい!』

浜面『それなら、あとの作戦は単純だ。呉はフレンダが一対目を壊した時にすぐに追撃できる場所に待機して、時が来たら全力で壊す』

キリカ『了解だね』

浜面『絹旗は杏子から槍を受け取っておいてくれ。二対目が壊れたら、絹旗と杏子は投げ槍で、麦野とフレンダはできたら、一斉攻撃だ』

絹旗『超わかりました』

麦野『了解』

フレンダ『わかったってわけよ』

浜面『そして、三対目が壊れたら、誰かがソウルジェムを即座に取り出す。それで、問題は誰がそれをするか、だが……』

杏子『あたしがやるさ』

 再び言い淀む浜面に、杏子が今度こそと言わんばかりに答えた。

浜面『……いいのか? 下手したら返り討ちに遭うかもしれないんだぞ』

杏子『あたしだって責任を感じてるのに、安全圏から投げ槍だけってのはないだろ、やらせてくれ』

キリカ『私は反対かな』

 そこにキリカが割り込む。

キリカ『失敗したらまたやり直しの重要なところでしょ? それを佐倉杏子に任せるのは反対だね』

杏子『なんだと!?』

キリカ『だってキミだけ、本気で戦ってないでしょ?』

杏子『なっ……あたしだって本気で戦って——』

キリカ『じゃあ、なんで自分の魔法を使わないのさ?』

杏子『……っ』

 キリカが氷のように鋭い声で詰問する。杏子は言葉に詰まった。

キリカ『私の魔法は周囲の動きを遅くする魔法。フレンダの魔法はよくわからないけど、どんな傷も瞬時で回復する魔法。
    じゃあ、キミの魔法は何? 武器を生み出して、肉弾戦で挑むなんて、誰でもできるよ』

杏子『それは……』

 答えようとして、杏子は続く言葉が出ない。

フレンダ『ま、まあまあ! 最後は一番身体能力が高い杏子に任せるのは適任だと思うわけよ! それも杏子の強みでしょ!』

浜面『呉、お前には全力で二対目を壊してほしいんだ。もう一度突っ込むことを考えて出し惜しみしてダメでした、じゃ根本が崩れちまう』

キリカ『……それもそうか。ごめんね、変に割り込んじゃってさ』

浜面『話はまとまった。頼むぞフレンダ、麦野も長く保つってわけじゃない、急いでくれ』

フレンダ『了解っ!』

——
 杏子の心にキリカの言葉が深くしこりとして残る。

 『じゃあ、キミの魔法は何?』

 自分は何ができるだろうか。

 肉弾戦は、キリカに負ける。硬さは、絹旗に負ける。火力は、麦野に負ける。柔軟さは、フレンダに負ける。発想力は、浜面に負ける。特殊な感知能力は、滝壺に負ける。

 自分のふがいなさに、腹が立った。かつて、フレンダに、自分は強いと言ったのが思い出される。

 そんなわけがなかった。杏子が、この中で一番弱かった。

 そんな自分に。

杏子「あたしにできること……あたしの全力は……」
——

——
麦野「くそっ……まだかっ!」

 フレンダはトラップを仕掛けるらしく、少し時間がかかると言った。しかし、その時間が過ぎるのは麦野にはこれまでにないほど待ち遠しく、長く感じた。

 麦野が逃げ続けてしばらく。UMAは徐々に麦野の思考パターンを学習し始めたのだ。

 自分がこう出れば、次はこうなる。そんな情報を収集しながら、高性能のCPUがパターンを解析し、人間の発想力が可能性を提案していく。

 徐々に、徐々に。羽の一閃は麦野へと近づいていった。

フレンダ『麦野っ! トラップ仕掛け終わったってわけよ!』

 その時、麦野の脳内にフレンダの声が響き渡った。

麦野『行けるのかっ!?』

フレンダ『私の予想が合ってれば、多分!』

麦野『はっ……じゃあ、私の命、フレンダに預けるぞ! どこに誘導すればいい!?』

フレンダ『麦野のいる逃げてる方向の逆の、保険屋の二つビルに挟まれてるところ!』

麦野『わかった!』

 フレンダの言葉を信じて、麦野は方向を急転換する。

 今までのパターンにない行為に、UMAは大きく攻撃を外した。

 しかし、すぐに今までのパターンに戻る麦野に、UMAは再び徐々に徐々に距離を狭めようとして、攻撃を続ける。

麦野「人工の頭脳が人間に追いつくのが先か、ビルに着くのが先か……!」

——
 フレンダは麦野を待っていた。手が震えた。足が震えた。確信はなかった。予想でしかなかった。

 これが失敗すれば、少なくとも、自分は死ぬだろう。二度目の命が潰えるだろう。

 保身ばかりで生きてきたフレンダにとって、それは信じられないほどの恐怖だった。

 しかし、フレンダは逃げない。麦野のためにも、仲間のためにも、もう自分のためだけには逃げない。

 麦野が、見えてきた。

 ジグザグに噴射で飛び回る麦野に、羽が当たりそうで当たらない距離までに迫っていた。

フレンダ「麦野っ!」

 思わず、フレンダは呼びかける。麦野はそれに反応するかのように、速度を上げた。

 麦野がビルを横切った。

 そして、麦野を追うUMAがビルに挟まれる位置へと、到着した。

フレンダ「食らえっ!」

 フレンダが、手元のキーを押す。遠隔操作用のリモコンだ。

 その瞬間、空を飛ぶUMAの下部、ビルの根本から爆発が起きた。

 指向性の爆薬だ。

 爆発は足元からUMAを焼き尽くさんと、襲いかかる。

 しかし、そんなものはもちろんUMAには通用しない。

 突然の爆発にもUMAは余裕を持って防御行動を取る。

 羽を二枚、爆発の方向に向けた。それだけで爆発は届かない。

 同時に、ビル内でも凄まじい連鎖的な爆発が巻き起こる。

 ビルがくの字に折れ曲がる。崩壊する。

 しかし、そんなものはもちろんUMAには通用しない。

 羽を二枚、ビルの方向に向けた。それだけでビルは吹き飛ばされる。

 同時に、麦野が逃げ去った前方、そして今まで通ってきた後方から小型ミサイルが飛来する。

 しかし、そんなものはもちろんUMAには通用しない。

 羽を二枚、前後に向けた。それだけでミサイルは意味を失う。

 六枚は使用した。しかし、上下前後左右全てが守られている。

 しかし、根本に潜り込めば、隙だらけに見えた。

フレンダ「こなくそぉ!」

 そこに、フレンダがナイフを持って特攻していた。爆発が始まった瞬間から、駆けだしていた。

 UMAの背中に辿り着く。無防備になった能力の、未元物質の噴射口が見える。ナイフを思い切り振り下ろす。

 当然。そんなものはUMAには通用しない。

 仮面から七枚目の羽が生まれる。七枚目の羽はナイフをいとも簡単に阻害する。

 一枚目と二枚目の羽が、自由になった。

 フレンダを、もう修復されないように、肉片一つ残さないように、完膚無きまでに破壊するためにUMAは羽を振るおうとする。

フレンダ「まだまだ、終わらないってわけよ」

 UMAの足元が、再び爆発した。指向性の爆薬だ。

 UMAはいつでも殺せるフレンダは後回しとし、自由になった一対を爆発の対処へと使う。

 そこで、UMAはインストールされた物理現象では、能力では、想定できないことが起きてるのが見えた。

 崩れたはずのビルが、治っていた。倒れていなかった。

 今、まさに倒れようとしていた。

 UMAは慌てて二対目の羽をビルの方向へと向ける。状況が把握できる材料が足りなかった。

 UMAの頭脳が計算する。しかし、該当するデータがない。状況が飲み込めない。

 そこに、前後から、同じビデオを再生したかのように、同じ軌道でミサイルが飛んできた。

 UMAは、一瞬反応が遅れる。CPUが、戸惑ったように見えた。

 しかし、それもすぐに羽を前後に出して無効化される。

フレンダ「いつから私の魔法が回復魔法だと錯覚してたわけ?」

 再び、六枚の羽が使われた。その瞬間を狙って、フレンダは手に持ったナイフを思い切り投擲した。

 先ほどと同じ速度の奇襲。それにも関わらず。

 仮面の七枚目は、反応できなかった。

フレンダ「残念でした! 私の魔法は——形状記憶の魔法ってわけよ!」

 羽が一対、消える。

 フレンダの魔法。形状記憶。一度記憶したものの形状を再現することができる魔法。回復魔法ではない。

 羽が消えてから、UMAは状況を理解した。

 どんなダメージを与えてもすぐに再生するのは、回復していたからではない、形状を元に戻しただけ。
 フレンダが魔法少女として戦っても何も傷を負わないのはこの魔法により、肉体の形状を記憶したままの姿で保っていたから。
 そして先ほどの不可解な二度目の攻撃は、ビル、小型ミサイル、指向性爆薬などの形状を記憶し、それを元に戻したから、だ。

 気付いた時にはもう遅かった。UMAはしてはならないという行為を、学習し、理解していたが、せざるを得なくなった。

 してはならないという行為。フリーズする行為。

 フレンダは、UMAが麦野の攻撃に反応できなかったのはフリーズによるものだと仮定した。それは当たっていた。

 それならば、フリーズする条件があったはずだ。フレンダは考えた。普段あり得ないことが起きる前に、UMAは何か特殊な行動をしていなかったか、と。

 それこそが、七枚目の、羽。

フレンダ「アンタの七枚目は隠してたんじゃなくて、使いたくなかった、わけね!」

 考えてみれば、最初にUMAが現れた時、一対の羽のみを出現させていた。羽を最初から出現させておくなら、三対出現させておいた方が効率が良いはずである。

 しかし、それをしない。そうしない方が効率が悪い理由がある。つまり、維持コストがかかるということだ。

 この機体の維持コストは電力しかあり得ない。電力が大量に消費されるのはなぜかと考えれば答えは一つ。

 CPUだ。羽の枚数が増えると、CPUに負荷が大量にかかるのだろう。

 そして、使いたくないと予想される七枚目の羽。そこから、フレンダは一つの可能性を見いだした。

フレンダ「こいつが余裕を持って連続的に動かせるのは六枚まで!
     七枚目まで使うとCPUに余裕がなくなる!
     そこでもう一度六枚使わせれば、処理速度が追いつかなくなり、一瞬だけフリーズする、ってわけよ!」

キリカ「フレンダ=セイヴェルン、キミも恩人だね」

 二枚の羽がフレンダを襲おうと、向けられる。

 そこに黒い影が飛び出した。呉キリカだ。

 キリカは速度を低下させる魔法を最大限に使う。これが最後とばかりに、最大限まで魔力を消費する。

 フレンダを狙い、一対しか動かせなくなった羽では完全にキリカの動きについて行けなくなる、

 はずだった。

キリカ「なっ……!」

 羽の速度が増した。キリカの魔法は解かれていない。

 にも拘わらず。キリカのかぎ爪を、羽は悠々と受け止めた。

キリカ「しまっ——」

 防御はできなかった。腕が一本なかったからだ。攻撃で腕を使ってしまったからだ。

 反撃が来る、そう身構えた瞬間。

 杏子の槍が物凄いスピードで飛来し、UMAの背中に突き刺さる。

 槍の飛んできた方向を見ると、一斉攻撃用に渡されていた槍を絹旗が投げていた。
 だが、同時にそれは一斉攻撃する予定の、本来の人数が足りなくなること。

 フレンダに向けられていた二対目の羽が消える。

浜面『麦野、行けるか!?』

麦野『もう用意してるっての!』

 焦った浜面の呼びかけに麦野は即座に答える。浜面は一瞬だけ安堵し、

浜面『よし——』

 我が目を疑った。

 二対目の羽は壊されたのではなかった。UMAが、選択して捨てたのだ。

 二対目を犠牲にして、三対目は、既に動き出していた。

 つまり、浜面の作戦は、読まれていた。

 最後の攻撃は、絹旗、杏子、そして可能ならば麦野とフレンダで行う予定だった。

 先ほどの攻撃で、絹旗は、攻撃手段を失っていた。フレンダは攻撃できるまで態勢を整えてなかった。

 つまり、攻撃可能なのは、麦野と、杏子。

 そして、杏子とは肉弾戦で分があるUMAが選択したのは。


 麦野沈利の確殺だった。


 三対目の羽が麦野を貫いた。

 攻撃のために準備し、まさか自分が攻撃されるとは思ってなかっただろう麦野の胸部を深々と貫通した。

フレンダ「む……ぎの……?」

 衝撃で、麦野の体が吹き飛ばされる。

フレンダ「麦野おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

麦野「そんなに叫ばなくても聞こえるわよ」

 そんな声が、麦野の吹き飛んだ方向とはまったく別の方向から聞こえた。

 同時に、原子崩しがUMAの背中に突き刺さる。羽が的確に対応し、それはかき消される。

麦野「どっちを見てるんだ?」

 次に世界が歪む。無残な姿の麦野が、幻のように消える。

 そして、世界が前と後ろに反転した。

フレンダ「えっ……!?」

 いつの間にか、全員が、本来の風景とは逆の方向を向いていた。

杏子「幻覚だよ」

 声と原子崩しの飛んできた方向を見ると、杏子と、
 麦野がそこに健在していた。

杏子「これがあたしの魔法、あらゆる人間を騙し、陥れ、狂わせる、魔女のような魔法さ。
   ……二度と使いたくなかったけどな」

 さらに背後から、同じ杏子の声が聞こえる。

杏子「おかしいと思ったんだよ。キリカの攻撃を防ぐ速度はあるのに、絹旗の投げ槍を防げないわけがないってな
   そこで、気がついた。こいつが一番脅威と思ってるのが何か思い出した。
   だからあたしが対処したのさ」

 振り返れば、杏子と麦野がそこにもいた。いや、そこかしこに点在していた。

 気がつけば、UMAを多数の杏子と麦野が取り囲んでいた。

杏子「さぁて、問題です、本物はどれでしょう? ご自慢のセンサーで確かめてみやがれ!」

 UMAは判断できない。全てのセンサーが、全ての演算結果が、そこにいる全ての杏子と麦野を本物だと判断を下していた。

 だからこそ、どれを攻撃していいのかわからない。結果、UMAが取った策は。

 全ての杏子と麦野を攻撃するしかなかった。

 当然。それを見逃す麦野ではない。

 攻撃に移った瞬間、UMAの大量の原子崩しの光線がUMAに浴びせられる。しかし、正体は一つ。

 多数に見えて、一つの光線がUMAの背面を焼き尽くした。

 最後の一対が、消える。多数の幻覚も消え、杏子と麦野は二人に戻る。

キリカ「なるほどね」

 そんな杏子を見て、得心したようにキリカが呟いた。

麦野「さ、行ってきな」

 ぽん、と麦野が杏子の背中を押す。

 そして、杏子が落下したUMAの下に風のように飛び出した。

 対して、UMAは回復が追いつかない。七枚目の、仮面の羽を出して応戦する。

 杏子に羽が突き刺さる、とUMAが認識した瞬間、それは消えた。

 UMAの左側から、杏子が唐突に現れる。

 そこで初めて、UMAが格闘しようと構える。

杏子「遅えよ」

 UMAが迎撃するより早く、杏子が、UMAの胸元に腕を突っ込んだ。

 迫っていた杏子は幻覚だ。本物の杏子は、さらなるスピードでUMAに迫っていた。当然、UMAは反応できない。

 そして杏子はその胸元に埋め込まれたゆまのソウルジェムを掴む。

 ギチギチギチと、ケーブルが無理矢理切断される音が響く。

杏子「ゆまを、返してもらうぞ!」

 そうして、千歳ゆまのソウルジェムが、UMAの胸元から取り出された。

 UMAの顔面部の青色LEDの英字が消える。

 そうして今度こそ、UMAは機能を停止した。

——
杏子「クソ禿げぇ!」

「ひぃっ!」

 杏子が研究所の扉を蹴り破ると、中年の男が裸のゆまを水槽から取り出し、研究所から逃げだそうとしていたところだった。

杏子「テメェの持ち物はこっちだろ」

 そう言って、杏子は胸部に大穴の空いたFIVE_Over.Modelcase_"DARKMATTER"を投げ捨てる。

杏子「ゆまの体、返してもらうぞ」

「ば、化物め!」

 中年の男は吐き捨てるように言うと、ゆまを投げ捨てて逃げ去っていった。

杏子「ゆまっ!」

 逃げた男など構わず、杏子はゆまの下へ駆け寄る。

 杏子がソウルジェムをゆまの手に握らせると、とくん、とゆまの心臓が動き出す音がした。

 しかし、目を覚まさない。

杏子「ゆま……ゆまっ!」

 杏子が必死で呼びかける。泣きながら、呼びかける。

 涙がゆまの顔面に落ち、ぴくり、とゆまの体が動いた。

ゆま「キョーコ……?」

 ゆまがゆっくりと目を開け、問いかける。

杏子「ああ、杏子だ、あたしだよ……!」

 ゆまを抱きしめる杏子。

ゆま「キョーコ、助けに来てくれたの……?」

 理解は追いついていないはずだ。

 しかし、相当辛い目に合わされていたのだろう。

 杏子を見たゆまの第一の感想が、それだった。

杏子「ああ、そうさ……帰ろう、あたしらの街に」

——
キリカ「……そういえば、おかしくないかな?」

 UMAを倒した後。研究所の方に飛んでいった杏子以外の六人が安堵していたところでキュゥべえが事件の真相を説明していた。

 そこで、キリカがふと言いだした。

キリカ「あの禿たちって、千歳ゆまを研究して、人工の魔法少女を作ってたんでしょ? それなら私たちも格好の研究材料ってわけだよね。なんで殺そうとしてきたんだろ?」

QB「うーん、僕には人間の考えることはよくわからないからね」

フレンダ「……確かに、考えてみれば、おかしなことがありすぎるわね。私たちの居場所も行動も全てバレてたわけだけど、あの男は上層部ってわけでもないだろうし……」

麦野「……おいおい、ちょっと待て。ということは、フレンダたちが狙われてたのは、この事件と関係ないってことになるぞ」

フレンダ「結局、そう考えるのが妥当ってわけね」

QB「どうでもいいんじゃないかな。狙われてるなら学園都市を抜け出せばいいだけの話さ」

フレンダ「学園都市を……か」

——
「くそ……化物どもめ……私の研究が……くそ……くそ……私の名前は歴史に残るはずだったのに……ガキが、化物がっ……!」

「殺してやる……」

「まさかMARの遺産を使うことになるとはな……」

「大人をナメ腐りやがって……UMA共々、皆殺しだ!」

——
麦野「学園都市を出て行くだと!?」

QB「それが合理的じゃないかな? だって、学園都市にいたら一生狙われ続けるんだよ?」

浜面「せっかくアイテムが揃ったのに……」

フレンダ「別に、学園都市の外に出たって、会えなくなるわけじゃないし、いいんじゃない?」

麦野「フレンダ……」

 麦野の声のトーンが落ちる。

フレンダ「なーにらしくない声出してるのよっ! さすがに学園都市の外じゃ暗殺なんて無茶はできないっしょ。
     元々、この学園都市じゃ死んでる扱いなんだし、外に消えちゃっても問題ないわけよ」

麦野「それも……そうね。これからは学園都市の外でいつでも会えるのよね」

フレンダ「そういうこ——」

 その瞬間、フレンダの笑顔が固まった。

 全てが終わったと思ってた。UMAを倒して終わりだと思っていた。

 そこに、巨大な駆動鎧がいた。

 右手に巨大なレールを構え、この距離から空中放電を起こすほどの多大な電力を使ってる兵器が見えた。

 『原子崩し』の銃。『未元物質』の羽。そして次は——『超電磁砲』。

 矛先は、麦野。

フレンダ「麦野っ!」
麦野「がっ……」

 考えるより、体が動いていた。

 突然のことで、力の加減はまったくできてなかった。

 魔法少女の強化された筋力で、麦野の体が大きく突き飛ばされる。

麦野「何すんだフレ——」

 そして、麦野は極太の、オレンジ色の光線に消えるフレンダを見た。

 石の焼ける音がする。

 肉の焼ける匂いなんて残ってなかった。跡形も残ってなかった。

麦野「フレンダァァァァァァァァァ!」

 ——ソウルジェムなんて、残ってるはずもなかった。

「くそっ……『原子崩し』は殺せなかったか……まあいい、これでまずは一人だ」

 オレンジ色の光が飛んできた方向からあの厭らしい中年の男の声がした。

浜面「テメェ……生きてたのか!?」

キリカ「佐倉杏子は、詰めが甘いね……」

 声の方向を振り返る。

 それは巨大な機械の塊だった。駆動鎧だ、それも巨大なサイズのものだ。

 右手の部分に巨大なレールが備え付けられ、そのレールからフレンダのいた場所まで、一直線にオレンジ色に熱せられた地面の跡が続いている。

絹旗「よくも、フレンダを……!」

 全員が、臨戦態勢を整える。

「UMAが最大の戦力だと思ったか? 自分用に兵器を残さないと思ったか間抜けめ!」

 下品な男の笑い声と共に、再び大電流が、高電圧が、レールに発生する。

 そして巨大な金属の弾丸が放たれた。音速など優に超えたそれは空気摩擦による熱で真っ赤に燃え上がり、地面を変色させるほどの熱を撒き散らしてやってくる。

 それは巨大な砲弾だ。身構えて、どうにかできるものでも、逃げて避けきれるものでもない。

 標的は、浜面と滝壺。二人が反応した時には、全てが遅かった。

 だが、それは真っ白い壁に阻まれる。原子崩しで作られた盾だ。

麦野「おい……ジジイ、テメェ……」

 ゆらりと、麦野が立ち上がる。

「『原子崩し』から自殺志願か? 間抜けめ、こいつはとある『木原』の人間が個人で開発した序列第三位『超電磁砲』の能力を再現した駆動鎧だ。さすがにファイブオーバーとはいかないが、『超電磁砲』の威力だけなら本人に匹敵する! 序列第四位の貴様が勝てると思うなよ!」

 再び充電が完了する。砲身は、麦野に向けられた。

「では、その希望に答えて貴様からだ原子崩しァァァァァ!」

 そうして、オレンジ色の砲弾は麦野に放たれる。

麦野「楽に死ねると思ってんじゃねェェェェぞ糞禿げェェェェェェェ!」

「はっ——?」

 しかし、砲弾が描く、極太のオレンジ色の軌跡は圧倒的な青白い光に焼き尽くされた。

「な……なんだこれは!?」

 見れば、砲身がなくなっていた。丸々、蒸発していた。

 そして、麦野を見れば、彼女の左手から、巨大な腕が生えていた。悪魔の腕のような、かぎ爪のついた禍禍しい原子崩しの腕が。

 麦野がその腕を振るう。UMAとの戦闘によりコンクリートが捲り上げられ、剥き出しになっていた地面が、さらに抉れた。

 クレーターが生まれ、溶岩が生まれ。中年の男の乗った駆動鎧は下半身が吹き飛んだ。

「がっ……」

 足場を失い、足を失い、斜めに巨大な駆動鎧は崩壊する。衝撃で胸を打ち、肺の中の空気が吐き出された。

「ど、どういうことだっ!? やつは序列第四位じゃないのか!? 第三位以下ではないのか!? ——くそっ!」

 慌てて、男は緊急脱出装置のボタンを押そうとする。しかし、それより早く、駆動鎧の上部が吹き飛んだ。

 コックピットが露出する。

 そしてそこに、駆動鎧の上に、両腕から悪魔のような白い腕を生やし、鬼のような形相をした、麦野沈利がいた。

 男は次の反応すら間に合わなかった。麦野の左目から光線が放たれ、男の耳が焼け落ちる。

「ぎゃああああああああああ!」

 痛みに、熱さに、男は絶叫する。

 構わず、麦野は左足を原子崩しの腕で掴む。左足が焼け落ちた。

「がぁはっ……」

 男が白目を剥いて、痛みに声を失う。それでも、麦野は次の行動へと移った。

麦野「苦しんで死ね」

 虐殺。

——
杏子「なんだ……こりゃあ……」

 杏子がゆまを連れて戻ると、そこは地獄絵図だった。

 絹旗とキリカと滝壺と浜面は言葉をなくし、ただ立ち尽くしていた。

 両手を無くし、血をぼたぼたと垂らしている麦野が立ち尽くしていた。

 そして、麦野の足元に、丸い何かが転がっていた。

 目と耳と口と鼻とを焼き尽くされた人の頭だった。

杏子「み、見るなゆまっ……」

 その光景に、杏子は思わずゆまの目を覆う。

麦野「……ああ、佐倉か」

 麦野が杏子の方を振り向く。

 それは、おおよそ、人の顔をしていなかった。

 左目から大きく崩れ、火傷が広がり、皮膚が捲れ。端正な顔をしていたはずの、麦野の面影はどこにも残っていなかった。

麦野「フレンダが、殺されたよ。こいつにな」

 そう言って、麦野が足元の首を踏みつぶす。ぐしゃり、と湿った音と共に、それは形を失った。

杏子「えっ……殺されたって……え?」

 杏子は未だ状況が掴めない。困惑するしかなかった。

麦野「おいキュゥべえ、いるんだろ?」

 ふと、麦野がどこかに呼びかけた。

QB「僕の出番かい?」

 ぴょこり、と。赤い目に白い体の生物が物陰から飛び出してくる。キュゥべえだ。

杏子「まさか……お前——」



麦野「契約だ」


QB「……いいんだね?」

 静かに、キュゥべえが聞き返す。

浜面「麦野っ!?」

 その言葉を聞いて、やっと浜面は我に返った。

浜面「おいやめろ麦野! そんなことをしたらフレンダが何のために——」

麦野「死んだのか、って?」

 麦野の、怖ろしいほどに空っぽになった言葉で、浜面はぞくりとした。

麦野「馬鹿だよな……フレンダは……私は、一度、フレンダを殺したって言うのによ……その私を、守るために死ぬとか、馬鹿でしょ、本当に……」

浜面「でも、それじゃ、それじゃ……」

麦野「黙ってろ、浜面」

浜面「……っ!」

 一言で、浜面は言葉を続けることができなくなる。

 そこに、とてとてとキュゥべえが歩み寄った。

QB「さあ、君の願いを言ってごらん? その願いと引き替えに、君は魔法少女になる」

麦野「わかってるさ」




麦野「私の願いは——」








麦野「全てを巻き戻せ。私がフレンダを殺そうとする前に、私を含めて全てをやり直させてくれ」





QB「その願いは……っ!?」

滝壺「むぎの……」

 力強く言い放つ麦野に、滝壺がはっとしたような、思いついたような顔をした。

麦野「私が契約したら、意味ないのくらいわかってる。なら、これをなかったことにするんだよ」

 そこで、初めて麦野が笑った。

麦野「おいキュゥべえ。なんでも願いが叶うんだったな? だったら、やり直しだよ」

QB「その願いは、叶えちゃいけない! 君が契約したのに、その契約されたことまで戻されてしまう! 因果律の崩壊だ、世界が崩壊してしまう!」

 初めて、キュゥべえが焦ったような声を出す。しかし、もう契約は止まらない。

麦野「ほら、叶えろよ、詐欺野郎!」

 世界が、巻き戻される。

——————

エイワス「今回も、失敗だったか」

アレイスター「こうなることがわかっていたと?」

エイワス「何度も失敗するのは見てきたね」

アレイスター「フレンダ=セイヴェルン。因果の中心である彼女を殺せば、この世界は続くというのは確かだったな」

エイワス「それを確認しても、もうすぐ君は忘れてしまうのだけどね。まあ、私は暇つぶしのために、それをまた君に教えることだけはしてあげるさ」

エイワス「次の世界では終わると良いのだがね」

という終わりです

あ、書き忘れた
>>264からほとんど全部書き直したからかなり変わってるはず

以下補足と裏設定というか本編に詰め込みきれなかった設定
・エイワス以外誰も記憶を持ち越さず、エイワスもループ脱出に非協力的なので、全員このまま半永久的に同じループを繰り返します
・アレイスターも事態の異常さを把握してないので、この世に現れた異物の実験のついでに襲わせることしかしません
・キュゥべえが言った世界の崩壊とはこのこと。この世界は介入がない限り永遠にあの座標に固定されたままになります
・UMAがファイブオーバーというのも、覚醒前ていとくんと比較した話で、覚醒後ていとくんが生成した未元物質を使っているので覚醒前を一部で越えるのは当然だったりします
・FIVE_Over.Modelcase_"DARKMATTER"は通常の人間には耐えられない、もしくは耐えられるように設計すると巨大になりすぎる代物ですので実用性は皆無です
・ソウルジェム生成技術は禁書はグロいと言われる時によく挙げられる脳みそをクリスマスケーキのように切り分ける実験と、霊装『天使の涙』量産化の技術とかでできんじゃねみたいに考えてます
・本の魔女のページの絵は実は全部登場キャラクターだったりします。ゆまの妹達とでも呼ぶべきクローンたちが短い人生の中で触れたものが元になってます
・マミさんは実はUMAと対等に戦えてました。スタミナ切れで負けただけで、みんながもっと早く辿りついていれば助かってました
・織莉子の記憶もリセットされるので、例え織莉子は同じ予知をしても同じ警告を繰り返すだけです
・ほむほむが未来からやってきたりしても、ほむほむ自身も巻き戻されるのでほむほむも異常を認識できません。そもそも本編時系列が春と秋なので(ry
・平行世界が分岐するわけじゃないので誰かの魔力が強くなったりすることはありません
・エイワスがやろうとすればフレンダもいつかはまど神クラスになることも可能っちゃ可能ですが、エイワスにはそんなつもりはありません
・フレンダの魔法は普段は使えません。体を動かす度に重症を負うので常に魔法を使い急激にソウルジェムが濁っていってます
・なので例え麦野がフレンダを生き返らせたとしても、学園都市の魔女大量発生が解決した時点ですぐにGS不足になり、フレンダの余命は残り僅かです
・同時に、それは麦野や滝壺が魔法少女になった場合にも適用されます

・最終的にはループに飽きたエイワスが魔法少女になって生き残ったフレンダを誰かと会う前に殺すことで世界はやっと前に進みます

・麦野が願いを変えることでもループは収まります。ただし、そうした場合は麦野が魔法少女になるので最終的に麦野は破滅です


せっかくSS速報に来たわけだし、この結末以外の誰もが笑って終われるハッピーエンドルートも書く

絶対に笑ってはいけない魔法少女

マミ「円環の理…」
ほむほむ「ほむぅぅううwwwwww」ブフゥゥ

ってネタを思い出した

早く続きが読みたいのぜ!

                                       . ..--、            /)
                                     〈: : : :./ヽ       / {ィ
                              _   {`¨¨´!  ハ   , -=ニ>='
                            ,--(∨(_ノ/{ | / }-=ニ>'"  -=ミ

                                V⌒ ,-‐〃 (_/-'_ノ:::/       ノノ
                               ゝ-(/l  人{//::::::::::::::::l7        /
           -++-、             〈`´}-へ!〈{::/(乂ヽ:::::::::::|_
                           `¨ ̄ ̄ ̄     }:::::::::::::{                   l|
          __. --=ミ            /      r--{:::::::::::::人       __.-‐=ミ       厂_〉
     /     }:_: : : : : :.ヽ          〃(      く´  ヽ==彳丁!     /:./ !_/ヽ>,   ./{__ フ
   十       / ハ`ーr—へ、_)Yl_      ゝ---—   `く// / !| .|/      Y  |/= __=、 /:::::/i !
   十       l〈- \ト、 -=ミ   ⌒!              |: :.7‐‐r':.::7       |  ! | ヽ_ノイ:::::/丶
    ヽ       V= =` >==-ミ\  し,              !::./   !:.::/      /(__/ //!厶':::::_/)、
           f⌒V⌒く/:::::::::} }  く__ノ           /:./  /:.:/      〉  l// {:::::::厶 ト、{::::..、  ,   //
          `Yゝ__/_〉:::/:ノ,イ l ゝ='               〃У   ,:.:.:′     / / // !l∧::::∠」::|' `ヽ::::メ、/_///
           |:::::|ヽ:::∨:::::/:〈 )ノ             「 :{  /:.:/       .ゝ{/ l l .!|  }:::::::::::::!   `ヽ:://r_)
           `ー'`''ヘ:::::_:イ:::::Y!                 `¨  '.:./      、_) ) ゝ, ト==!:::::::::::::::.   〃ヽ{/
               _ ノトミ===イへ               /.:/        `ー ' ノ^ー/乂:::::://ミx=、
                〈/ / /!T´    }              人/             {//TT==く-/: : : : }
               /∨.// .! l| l _l/                   {--し,            〈/ =イ|ヽ /:.,イ: :./
                / : :/7--Lノ´                   `¨´             ∨ ||_!_/:.7 {: :/
            〈: : 〈/: : :/                                  `¨ !: : :' i: :′
            ヽ: :.{: : 〈                                     l: : :' ./.:′

              \:ヽ: :'.                                    |:.:/_/:./
               ヽ:\: .                                     /: /.{{: :{
               イ}}='ヘ: :,                                     {: :/ ゞ=!
                 `¨´ ∧: 〉                                  ,: :/  `¨
                 〈{{ツ                                  ノ:./
                                                     {{: :.!
                                                   ゞ={

                                                       `¨

とりあえず出来てるところだけ投下する

『そこでだよ』

 ぞぐん、と言葉に出来ないような衝撃が麦野の全身に染み渡った。

『君の願いがどういう事態を巻き起こすのか、まだまだ理解が浅いね』

麦野「誰だッ!?」

 願いを言おうと、魔法少女になろうとした瞬間に水を差された麦野は得体の知れない何かに呼びかける。得体の知れない何かを探す。

 ぐるりと一周、辺りを見回しても、そこにいたのは、フレンダを除いたアイテムの面々、そして魔法少女の三人だけだ。

 誰かの声だとは思わなかった。それほどまでに、麦野が感じたその声は異質だった。

浜面「む、麦野……?」

 突然、豹変したようにも見える麦野に、浜面は恐る恐る呼びかける。

麦野「出て来やがれ……!」

 だが、そんな浜面を気に掛ける暇などなかった。ある種の強迫観念が麦野を支配していた。

 この声の主は、決して看過できる存在ではないと、動物的本能が告げていた。

「なるほどね、インキュベーターという存在に触れたためか、私という存在を、より理解できるようになっている、ということか」

麦野「なっ……!?」

 気が付いた、いや、気はずっと確かだった。しかし、気付かなかった。一瞬たりとも油断をしていなかったのに、何も気付けなかった。

>>348はミスだ
忘れてくれ

『そこでだよ』

 ぞぐん、と言葉に出来ないような衝撃が麦野の全身に染み渡った。

『君の願いがどういう事態を巻き起こすのか、まだまだ理解が浅いね』

麦野「誰だッ!?」

 願いを言おうと、魔法少女になろうとした瞬間に水を差された麦野は得体の知れない何かに呼びかける。得体の知れない何かを探す。

 ぐるりと一周、辺りを見回しても、そこにいたのは、フレンダを除いたアイテムの面々、そして魔法少女の三人だけだ。

 誰かの声だとは思わなかった。それほどまでに、麦野が感じたその声は異質だった。

浜面「む、麦野……?」

 突然、豹変したようにも見える麦野に、浜面は恐る恐る呼びかける。

麦野「出て来やがれ……!」

 だが、そんな浜面を気に掛ける暇などなかった。ある種の強迫観念が麦野を支配していた。

 この声の主は、決して看過できる存在ではないと、動物的本能が告げていた。

「なるほどね、インキュベーターという存在に触れたためか、私という存在を、より理解できるようになっている、ということか」

麦野「なっ……!?」

 気が付いた、いや、気はずっと確かだった。しかし、気付かなかった。一瞬たりとも油断をしていなかったのに、何も気付けなかった。

 周囲の景色が、まるで変わっていた。

 漆黒を塗りつぶしたような景色だった。上下左右全てが黒で、奥も手前も黒で、墨の中を漂っているような場所だった。

 どこまでこの黒が続いているかなんて到底知覚することはできず、その得体の知れないモノが存在するのにふさわしいともいえる空間だった。

 得体の知れないモノは、麦野の目の前に存在していた。

 長い金髪の女性のように見えた。

 光り輝くような長身で、ゆったりとした白い装束を纏っていた。

 表情は異質だった。あらゆる感情を含んでいて、なお、人とはまるで別の感情を秘めた、平坦な顔つきだ。

麦野「何モンだ……?」

 麦野の両腕に当たる部分に腕が生える。『原子崩し』の腕だ。

「それを説明しても、君はまだまだ知識不足で理解できないだろう。感じることはできるだろうがね」

 『原子崩し』の腕は圧倒的な威力を誇る。麦野がその気になれば、目の前に軍隊がいたとしても、指を一本動かすような感覚だけで、それを蹴散らすことができる。

 しかし、目の前の存在は動じない。同じく、麦野自身もわかっていた。

 ——勝てる気がしない、と。

「そうだな、自己紹介程度で許してくれないか? 私はエイワス。表現は無理だろうが、言うなればhboie在abだ」

 エイワスと名乗った存在の言葉がブレる。エイワスという音源の軸があるのに、そこから声が発せられず、別方向から聞こえるような、声として成り立たないモノとなる。

エイワス「やはり無理か。ここでもヘッダが足りないというのか……インキュベーターの力でそれなりの世界になっていたと思っていたのだがな」

 完全に麦野の理解を超えていた。何を言っているのかがわからない。宇宙から電波を受信しているような、考えの根本が違う存在だった。

エイワス「ああそうだな、宇宙から電波を受信している、というのは言い得て妙だ。私の性質はどちらかと言えばそちらに近いとも言える」

麦野「何を言っている……?」

 麦野の脳内ではこの存在の発言は処理できなかった。麦野はただ、意味の説明を求めるしかない。

エイワス「何、私はただ、君のやろうとしていることの意味を教えに来ただけさ。いい加減、この世界にも飽き飽きしてきたところなのでな」

エイワス「君は、本当にその願いで誰かが救われると思っているのか? 君がやろうとしていることは因果律への反逆だ。君如きがそんなことをしても、ロクな結果になりはしない」

 如き、という言葉に麦野がぴくりと反応するが、エイワスは気にせず続ける。

エイワス「君の願いは、全てを巻き戻す、ということだろう? それをやっても、君たちは何回でも同じことを繰り返し、ここに辿り着いて、またループするだけさ」

麦野「そんなの……やってみなくちゃわからないだろ……っ!」

 まだ言葉にしていない願いの内容を知られていた驚きよりも、怒りが勝った麦野が反論する。

エイワス「わかるさ。何度も何度も、七十二億三百四十一万二千九百七十三回も繰り返してれば、嫌でもわかるさ」

麦野「はっ……?」

 提示された奇想天外な数字に、麦野は一瞬惚ける。エイワスは構わず続ける。

エイワス「人間という生物が、そんな簡単に変われると思ったのかい? 自分の胸によく手を当ててみるがいい。ああ、今は手がないんだったか。さっきのは比喩だから気にしなくていいけども、よく考えてみるがいい。

     ——君は本当に変われたのか?」

 ドクン、と麦野の心臓が一際大きく跳ねた。

『そこにさ、浜面がさ、私をぶっ飛ばして、全部変えてくれたのよ』
『あいつはあれでもやるときはやる男よ。あいつの力で、私は変わることができた』

 自分の、フレンダに言った言葉が、脳内に蘇った。

 変われた? そんなはずはなかった。麦野の残虐な本性は、平和という子守歌で眠らされていただけで、奥には健在だった。

 あの研究者の男への憎しみによってそれが爆発し、あの男を残虐に殺したばかりだった。

 結局、麦野は何も変われていなかった。

 そのことに気が付いた麦野は心臓が締め付けられるような痛みを感じた。次に息が荒くなる。それは強烈なストレスに晒される人間の反応。

エイワス「何、気にすることはない。人間が変わることができないのは歴史が証明しているのだからな。何千年も人間は、技術は進歩しても、行動原理は何も進歩しちゃいない。それが人間というものさ」

麦野「なら……ならどうすりゃいいってんだ……!」

 それでも麦野は諦めず、しかし、半ばストレスをぶつけるようにして、エイワスに言葉をぶつける。

エイワス「完璧な解決方法などありはしない。どこかの誰かも、計画に綻びが生じる度にそれを利用して完璧になったつもりでいるが、全然完璧であるわけがない。人間なのだからな」

 その言葉が終わったと思った瞬間、エイワスは麦野の眼前に迫っていた。いや、迫った瞬間などなかった。

 まるで最初からそこにいたかのように、エイワスは麦野の眼前に屹立していた。

エイワス「この世界に起こっている真実を、君に与えよう。そこから先をどうするかは、君たち人間が考えることさ」

 指が、エイワスの指と思われる器官が麦野の額に当てられる。

 そして圧倒的な情報が流れ込み——

——

浜面「む、麦野……?」

 突然、豹変したかのように見える麦野に話しかける浜面。

 しかし、その後麦野は俯いて黙りこくってしまい、浜面たちの言葉に無反応になってしまった。

 先ほどの、麦野の感情が爆発した虐殺を見ていた浜面は、目の前の存在が怖ろしくて、近寄ることができなかった。

 突然叫びだしたかと思えば突然沈黙するその姿は、より怖ろしかった。

 ふと、その時、麦野の体がぴくりと動いた。

 そしてガバッと顔を上げると、キュゥべえを鋭く睨み付ける。

麦野「今度こそ契約だ」

QB「やっとかい? いきなり騒ぎ出したり、いきなり黙ったり、まったく君たちはわけがわからないよ」

 鋭い視線を物ともせず、キュゥべえは呑気にぴょこぴょこと麦野に近づいていく。

QB「さあ君の願いはなんだい?」

麦野「私の願いは——」



麦野「フレンダを、フレンダ=セイヴェルンを魔法少女でもなんでもない、普通の少女として生き返らせてほしい」

滝壺「えっ……?」

 麦野の願いに、一番意外そうだったのは滝壺だった。

絹旗「ちょ、ちょっと待ってください! それじゃ超意味ないんですってば!」

 焦ったように絹旗が麦野を制止しようとする。

QB「契約成立だ」

 しかし、契約は止まらない。麦野の胸元から光が生まれ、それは奇妙な装飾に覆われた宝石へと変貌する。

 そして、別のところに光が生まれた。麦野の真横に、光源もなしに細長い光が発生し、それは徐々に形を整えていく。

 手が二本。足が二本。頭が一つ。それは人型になった。

 全体的に丸みを帯び、胸部には幽かにわかる程度でも膨らみが生まれ、それが少女であることを示すように形作っていく。

 そうして、金髪の髪を地面に広げた状態で、傷もなく、ソウルジェムもなく。正真正銘の人間として、生まれたままの姿のフレンダが、そこに生まれなおした。

フレンダ「あれ……? 私ってばどうしたんだっけ……」

 すぐにフレンダは起き上がる。その隣に麦野がいた。

 契約により魔法少女となった麦野は体表面の傷だけは完治していた。寝ぼけたままのフレンダは、両手がないことになど気付かず、いつも通りの麦野がそこにいると思った。

 ふと麦野がフレンダに笑いかけた。

フレンダ「むぎ——」

 その笑顔はフレンダが見たこともないくらいに清純で、慈愛に満ちていて、透き通った輝きを持っていて——

 ぶしゃりと、トマトを潰すような、湿った音がした。笑顔から鮮血が吹き出した。

フレンダ「——の……?」

 ごとり、と麦野の体が体重によって地面へと叩き付けられる。

 そうして、麦野は動かなくなる。

フレンダ「えっ……?」

 能力者は魔法を使えない。それをフレンダが理解するのは、数瞬後のことだった。



 ——数日後。

杏子「くそっ……ダメだ、いくら探しても使い魔一匹すらいねえ」

 杏子がゆまを連れて芳しくない表情でアイテムのアジトに舞い戻る。

 そこではキリカ以外のメンバーが揃い麦野がベッドで寝かされ、大量のグリーフシードが転がされていた。

 倒れた麦野は幸い、死ぬことはなかった。魔法少女の治癒能力で、常に回復していて、これ以上ダメージを負うことはなかった。

 それでも、麦野は起きなかった。キュゥべえが言うには、魔法による治癒速度と、魔法少女としてソウルジェムで体を動かそうとする場合のダメージが拮抗しているため、起き上がることができないとのことだった。

 当然、治癒能力を常に使っているということは、ソウルジェムは急速に濁り続けるということ。その速度に先の事件で溜まりに溜まったはずのソウルジェムですら尽きようとしていた。

 フレンダは、麦野を治すために契約したいと言った。しかし、それは麦野の願いと相反するために、麦野より強い力がなければ契約できないと言われた。

 麦野は契約直前に、突如、あり得ないほどの因果を宿し、とてつもない魔法少女になってしまったらしい。フレンダ一人の力では、どうしようもないときっぱりと言われてしまった。

 どうしようもなく、しかし麦野の延命のために魔女を探していたが、それも見つからない。どん詰まりだった。

浜面「どうするんだよ……もうグリーフシードも残り少ないぞ……」

 浜面が呻くように言う。

杏子「……一つだけ方法がある」

フレンダ「本当!?」

 ぼそりと言った杏子に、フレンダが飛びかかるようにして食いつく。

杏子「何も学園都市で魔女を探す必要はねえ。もっと他の、大量の魔女がいるような狩り場に行けばいい」

絹旗「でも、そんな超都合の良い場所って……」

杏子「あるんだよそれが」

フレンダ「どこってわけ……?」


杏子「——見滝原市。マミのテリトリーだった場所だ」

——

アレイスター「どうやら、巴マミ、佐倉杏子、フレンダ=セイヴェルンは完全な白のようだな」

 ドアも窓も階段も廊下もエレベーターも通気孔すら存在しないビルの中で、男にも女にも、子供にも老人にも、聖人にも囚人にも見える『人間』、アレイスター=クロウリーが呟いた。

土御門「だから最初からそうだと言っている……! こっちだって目星はついてるんだ」

 その呟きに、アロハシャツに金髪、そしてサングラスという胡散臭さを体現したかのような少年、土御門元春が答える。

アレイスター「それなら良い。彼女らの殺害命令は取り下げよう」

 アレイスターはその言葉に含まれた怒気を意に介さずに無感情に言う。

アレイスター「それで、目星がついたというのは誰かね?」

 すると土御門は無言で幾枚かの書類を地面に投げ捨てる。

 そこには黒髪の少女の写真が貼られており、『最重要危険人物』と書類の中心に赤い判子が押されていた。

土御門「暁美ほむらという魔法少女だ。この次元融合現象で一番怪しいのは、次元に干渉する魔法を持った彼女だ」

 どうせ知っているくせに、と土御門は思いながらも言わない。滞空回線のことを知っているのは秘密にしておかなければならない。

QB「その話、非常に興味深いね」

 するとそこに、どこからともなく、白い生物が現れた。猫にも兎にも見える、赤目の生物。キュゥべえだ。

土御門「いつの間に……!?」

 その姿を確認して驚愕する土御門。それもそうだ、この窓のないビルの中には案内がなければ入ることなどできないはずだった。

 しかし、その生物は確かにそこにいた。

QB「やあ久しぶりだね、エドワード。いや、この場合は初めましてかな?」

 キュゥべえはそんな土御門を無視して、アレイスターへと話しかける。

アレイスター「なるほど。確かに記憶がないのに、記憶がある」

QB「おっと、記憶と言えばリリスのことを出すのはやめてほしいかな。彼女は絶大な魔法少女だったけど、あの最後は当然の結果だよ」

 興味深そうな声色でアレイスターが言い、キュゥべえがそれに答える。

土御門「何の……何の話をしている?」

 土御門はそれが理解できない。それなりに情報を得る立ち回りのはずだが、一切の、会話の欠片すら理解できなかった。

QB「最初から、彼女たちが犯人ではないことはわかっていたんだろう? 彼女たちに殺害命令を出したのは、僕に対するコンタクトだね?」

 アレイスターは無言。

QB「いいだろう、協力してあげるよ。僕もあのイレギュラー、暁美ほむらには辟易していたんだ」

 それでも意思疎通ができているように、キュゥべえは喋り続ける。

QB「それじゃ、早速行こうか元春」

土御門「はっ……?」

 唐突に話しかけられ、土御門は一瞬、反応が遅れた。

QB「君も行こうとしていたところなんだろう? じゃあ一緒に行くのが合理的じゃないかな。

  ——見滝原市に、ね」

ほむら「どういうこと……この時間軸には、巴マミがいない……!?」
さやか「恭介を守れるのはアタシしかいないじゃん……するよ、契約!」
神裂「『救われぬ者に救いの手を』(Salvere000)! 私が貴方を救います、美樹さやか!」
QB「初めて見るよ、こんなに因果の集まった街は……」
土御門「暁美ほむら……甘く見ていた……!」
キリカ「織莉子の恩人になってくれるって言うなら、手を貸すよ」
まどか「魔法じゃない……魔術なら私だって!」
フレンダ「まさかこんな簡単に外に出れちゃうなんてね。杏子の魔法すごい」
杏子「これが……さやか、なのか……?」
ほむら「ワルプルギスの夜が起き上がる……本当の地獄はこれからよ……!」
ジーンズ店主「冗談じゃねえぞ……こりゃあ……天使じゃねえか……」

QB「これで君たちはもう打つ手がなくなったね。さあ、まどか。僕と契約して、魔法少女になってよ!」


※画面は開発中のものです。予告なく仕様が変わることがあります。

ここまで書いた。今思ったけど、これもっと前に書いても問題なかったね
これからまどマギ小説版下巻と超電磁砲SS�七巻読んで続き書き溜める
もう一作分くらい書く予定

とりあえず最初の少しだけだけど、一区切りついたところまで書いたので投下します
長らく待たせてしまってごめんなさい

——

「はぁっ……はぁっ……」

 それは、不可思議な世界だった。

 確かに今は夜だが、その暗い空間は見るからにおかしなものがあった。

 空中で静止する銃弾。白い人型の機械達——駆動鎧だ。

 それに十分距離を置いた地点にて、一人の少女が、おおよそ少女とは思えない速度で走っていた。

 黒い衣装に身を包んだ少女だった。左手に盾を装備し、黒く長い髪を靡かせている。

 カチリと時計の針が回る音がした。すると次の瞬間に静止していた全ての物体が従来の物理法則に従って動き出す。

 銃弾は白い駆動鎧達の頭部に間接に、寸分違わず命中し、駆動鎧達は少女を追いかけようとした動きのまま、つんのめる。

 だが、それを少女は確認しない。すぐ目の前に、新しい同型の駆動鎧が高速で迫っていたからだ。

 駆動鎧は少女の華奢な体を砕かんと、突進する。列車にも匹敵する速度で迫る鉄の塊だ、あれを受けたら少女は一溜まりもないだろう。

 カチリと時計の針が回る音がした。すると駆動鎧達はまるで凍ったかのように静止する。

「一体、何体いるのよ……!」

 少女が軽機関銃を取り出す。連続する破裂音と共に銃弾がばらまかれ、ばらまかれた瞬間に空間に固定された。

 少女はそのまま、止まったままの駆動鎧を飛び越えて、さらに駆ける。

 カチリと時計の針が回る音がした。その瞬間、駆動鎧も銃弾も動き出す。

 銃弾の速度と駆動鎧の速度が合成され、幾多もの銃弾が駆動鎧の外装を砕き、中身まで傷つける。

 それも少女は確認しない。ただひたすらに駆け抜けるだけだ。

「この数の駆動鎧を投入しても、制圧できないか」

 そんな少女の進行方向に、ふらりと男が現れた。

 胡散臭い男だった。金髪にサングラスをかけ、もう寒いだろうに、アロハシャツを着ている男だ。

 その異様な出で立ちに似合わず放つ雰囲気に、少女は思わず足を止めた。

「……貴方たち、何者なの?」

 少女は盾に手を掛けながら、鋭く男を睨む。少女は盾から武器を取り出せる。何かあれば即座に攻撃できる体制だ。

「答えると思うか?」

 男が呟いた瞬間、少女は驚愕する。

 少女のソウルジェムが、男に反応していた。

「魔力……!?」

「暁美ほむら。お前が何をしたいかは知らん。しかし、俺たちも、邪魔をされたら困るんだよ」

 ぱらりと黒い紙片が男の手元から落とされた。

「黒キ色ハ水ノ象徴。其ノ暴力ヲ以テ道ヲ開ケ!」



——
「……騒がしい登場ね」

 見滝原総合病院。そこに入院していた美国織莉子はベッドからふと起き上がると、誰に向けたのか、そう呟いた。

 いつの間にか、そこには別の少女がいた。黒の衣装に身を包み、長い黒髪を靡かせる少女だ。

「私が来るのも予知していたのね」

織莉子「それだけが今の私に唯一残された力だもの」

 二人とも、驚くような気配はない。暗い病室で、二人は淡々と会話する。

「それなら、私の目的もわかってるわよね?」

 少女が、盾から銃を取り出す。引き金に指を掛けた。

織莉子「わかっているわ。でも私はそれを甘んじて受け入れる。どうせ、私はもう何もできないのだから」

 織莉子が言った瞬間、月を隠していた雲が流れたのか、織莉子の全身を月明かりが照らした。

 その姿に少女の引き金を引く指が止まる。

 織莉子は、少女の知る織莉子の姿をしていなかった。

 まるで病人のように痩せ細り、かつて壮美だった顔つきは土気色に染まり見る影もない。

「何よ……それ……」

織莉子「呪い、よ」

 弱々しく、織莉子は微笑む。

「呪いなら魔女を倒せばいいじゃない。貴方が動けなくても呉キリカがいるでしょう?」

織莉子「魔女の呪いじゃないわ。これは人間の呪いよ」

「人間……?」

織莉子「そう、人間。呪術師……いや、魔術師ね。この世には魔法少女以外にもそういう魔を操る存在がいるの」

織莉子「私の父は政治家だった。だからこそ、父が失脚した後でも恨みを持つ相手がいたんでしょうね。その誰かが、魔術師を雇って私に呪いをかけたのよ」

「魔術師……? 何を言っているの、貴方は」

織莉子「あら、貴方もさっき会ったのではないの? あちらの方で、魔法少女でも魔女でもあり得ないような、突然現れては消える魔力の反応を感じたわよ」

 言われて、少女ははっとする。織莉子が言っているのはあのアロハシャツの男のことだ。

 確かに、あの男は不可解だった。先に襲ってきた機械達はともかく、あの男は魔法少女でもないのに単身で異能を使って攻撃してきたのである。

 そんなことは、少女の知る知識ではあり得ないことだった。

「あれが……魔術師」

織莉子「こんな結末は最初は予知していなかったわ。予知できたら、対処ができたかもしれない」

織莉子「私の見る未来は、どんどん変わって行っているわ。私の能力に異常は無いはずなのに、ね」

織莉子「そして、貴方が私を殺しに来たことで、私はこれからの未来がどうなるかはわからなくなってしまった。だから、せめて貴方に託すために、私はかつて見た景色を貴方に教えるわ」

 そこで織莉子は一拍置いた。少女は静かに次の言葉を待つ。

織莉子「近く、ワルプルギスの夜がやってくる」

「……知ってるわ」

 ようやく出た言葉に、少女は少し落胆して、答える。

織莉子「……やっぱり、貴方はイレギュラーね。でも、それを撃退しても、今度はワルプルギスの夜を上回るほどのとてつもない魔女が出現する。その魔女によって、世界は滅ぼされてしまうわ」

「それは実現させない」

 そんな少女に少し驚きながら織莉子が続ける言葉に、少女は強い言葉で返す。

織莉子「……貴方は何者なの?」

「教える義務はないわ」

織莉子「それもそうね、これから死に行く私が知ったところでどうしようもないもの」

 少女はそう言われて、口を噤む。

織莉子「……最後に、キリカに会いたかった、かな」

——

「暁美ほむら……甘く見ていた……!」

 アロハシャツの男は、口から血を垂らし、腹部に空いた大きな傷を右手で押さえながら、呟いた。

「あわよくば、と思っていたが、そう上手くはいかないな……まあいい。目的の探知用魔術は発動できたんだ」

 傷は、暁美ほむらと呼ばれた少女につけられたものではない。男が魔術を使うことで起きる拒絶反応に依るものだ。

「これでいいんだろ? アレイスター……」

 ふと、男は視界の端に白い機械の足を認識した。学園都市へ帰還させられる証だ。

 それを確認した男は暗い安心に身を任せて、意識を手放した。



——

「ということで、転校生です。自己紹介をお願いしますね」

「……暁美ほむらです。よろしくお願いします」

 率直に言えば、暁美ほむらの混乱は極めに極めていた。

 美国織莉子を襲撃した夜に現れた謎の機械、男に加え、彼女の持ちうる知識では、あり得ないことがそこで起きていた。

 彼女の知る魔法少女はいなかった。巴マミも、佐倉杏子も、千歳ゆまも、呉キリカも。誰も、ほむらがいくら探そうと、見つからなかった。

 極めつけに、担任の教師は、知らない女だった。

 その女は、おおよそ教師には見えない格好をしている。

 腰に届きそうなくらいの黒い長髪をポニーテールで纏めているまでは良い。問題は服装だ。

 端で結んだティーシャツからはヘソが覗いていて、足の付け根辺りからの生地を片方だけばっさりと切り落とされたジーパン。

 教師とは思えない、扇情的な服装だった。

 おまけに、腰からはなぜかほむらの身長よりもさらに大きい、武器として使用するには不便極まりないだろう日本刀をウェスタンベルトで固定し、下げているときた。

 こんな格好の教師があってたまるものか、とほむらは思う。しかし、現実に目の前の女は教師で、しかもほむらが転校してくるクラスの担任を本来受け持っていたはずの教師に代わっていたのだ。

ほむら(銃刀法とか大丈夫なのかしら……)

 疑惑の目を教師に向ける。

 教師は一瞬、その目に気がついた風に目を合わせたが、すぐに知らんぷりをするように逸らした。


——

 ホームルームが終わり、各時間軸で恒例の質問攻めがやってくる。

ほむら「ごめんなさい。何だか緊張しすぎたみたいで、ちょっと、気分が……保健室に行かせて貰えるかしら」

 ほむらはクラスメイトにそう言い放つ。いつも通りの回避方法。

「それなら、私が連れて行ってあげようか?」

ほむら「ありがとう、でも係の人にお願いするわ」

 クラスメイトのお節介な申し出をそうして断り、ほむらはクラスの保健委員の席へと歩いて行く。

ほむら「鹿目まどかさん、保健係よね? 保健室まで案内をお願いできるかしら」

 保健委員——鹿目まどかは唐突にやってきたほむらにびっくりしているようだ。

 何度目かわからないやりとり。何度目かわからない鹿目まどかの反応。

まどか「う、うん、案内するね」

 それでも、保健委員としての仕事を果たそうとする鹿目まどか。

 それを確認したほむらは勝手に進んでしまう。案内するはずのまどかがついて行く形で教室を後にした。

 廊下を歩くと一時間目の準備があるのか、生徒はまばらだった。

 ほむらは道を知ってるかのように、確かな足取りで進んでいく。まどかはそれにおどおどしながらもついてくる。

まどか「あ、あの……私が保健係だって知ってたの……?」

 おそるおそる、という風な感じでまどかが尋ねる。やはり、まどかは変わらない。

ほむら「担任の先生に聞いたわ」

 もちろんそれは嘘だ。担任の名前を聞いただけで、あの格好に面食らってしまったほむらはそんなことを聞く余裕などなかった。

まどか「そ、そうなんだ……あ、保健室は……」

ほむら「こっちよね」

 案内を待たずして、ほむらはつかつかと進んでいく。その早足にまどかも焦りながらついて行く。

まどか「あ、うん……あれ、保健室の場所知ってるの……?」

 まどかの質問に、ほむらは、今度は答えない。

まどか「あ、暁美さん……?」

 不安になって、まどかはほむらに話しかける。

ほむら「ほむらでいいわ。何かしら?」

 その他人行儀な呼び方に、ほむらはもどかしくなった。だが、顔には出さない。

まどか「あ、いや、えっと、その……変わった名前だよね……?」

 まどかの言葉に、ほむらは無言を返す。

まどか「あっ、変な意味じゃなくてね、その、燃え上がれー、みたいな感じで……かっこいいな、って……」

ほむら「——っ!」

 そのまどかの言葉に、ほむらの記憶が蘇る。かつてのまどか、いや、未来のまどか、別のまどかの姿が。

 ギリッと、ほむらは思わず、歯ぎしりをしてしまう。その音が聞こえてしまったのか、まどかがビクッと反応した。

ほむら「鹿目まどか」

 唐突に立ち止まり、ほむらが振り向いた。それに慌てて、まどかも足を止める。

ほむら「貴女は自分の人生が、貴いと思う? 家族や友達を、大切にしてる?」

まどか「えっ……わ、私は、その、大切だよ? 家族も友達もみんな、大好きで大切だよ……?」

 突然の質問にも、まどかはおそるおそる答える。しかし、その言葉には確かに芯があって、本当のことだと、ほむらには理解できた。

ほむら「……そう。それなら、今と違う自分になりたいだなんて、絶対に思わないことね」

 そうして、ほむらはまた背を向ける。

ほむら「——さもなくば、すべてを失うことになるわ」

まどか「えっ?」

ほむら「貴女は鹿目まどかでいればいい。今までと同じく、これからもずっと……」

 そう言うと、ほむらは背を向けて、再び歩き出す。

 遅れて、まどかも駆け足でついて行く。

 いつも通りの光景。いつも通りの忠告。そして、いつも通りのまどか。

ほむら(変わらないわね……まどか。今度は、救ってみせる……!)

 まどかに顔を見せず、ほむらは一人、決意を新たにする。

 そんないつも通りの始まり方。

 ただ一つ、それを影から見ていた、帯刀した教師の姿が、いつもの光景と違った。


——

 学校での一日が終わり、ほむらはすぐに下校する。

 そして、拳銃を片手に、廃墟の中を走る。

 とある白いものを追って、だ。

 拳銃から銃弾が放たれる。それは寸分違わず白い生き物に命中し、それは絶命する。

 だが、すぐにまったく同じ姿をした生物が影から現れ、逃げ出す。ほむらはすぐに反応し、引き金を引いたが、それに命中はしなかった。

ほむら(まず、まどかとの接点を持つであろう今日を切り抜ける……!)

 運良く銃弾を回避しし、背を向けて逃げるその生物をほむらは追う。

 次の瞬間、数発の銃声が重なって響いた。白い生物はそれを察知するかのように事前に動き、回避行動を取る。

 しかし、それでも回避しきれなかったようで、銃弾が白い体を掠め、赤い内面を露出させていく。

ほむら(被害を最小限に抑えて、まどかに助けを呼ぶ時間を稼ごうっていう魂胆ね。でも、させない)

 ピン、という軽い金属音が響いた。白い生物の逃げる先に、何かが放り込まれる。

 手榴弾だ。

 耳をつんざく轟音と共に、爆発が巻き起こった。白い小さな体はその衝撃で木っ端微塵となる。

 事前に爆発音に対して備えていたほむらの聴覚は麻痺しない。その鋭敏な感覚が、背後でまたもや発生する足音を捉えた。

 振り向かずに、ほむらはすぐさま手にある拳銃の銃口を音の方向に向け、引き金を引く。

 湿った、小さく、それでも確かな重量のある何かが地面へと叩きつけられる音がした。

 振り向いて確認すると、木っ端微塵になったはずの白い生物がまた、そこにいた。銃弾は掠っただけのようで、すぐにその生物は逃げ出した。

 白い生物は角を曲がって、ほむらの視界から消える。

ほむら「ちょこまかと……」

 すぐにほむらは追いかけようとした。しかし、

まどか「あなたなの……?」

 そこで、ほむらのよく知る、大切な友達の声が聞こえた。

ほむら「しまった……!」

 ほむらは、急いで角を曲がる。

 そこで、ほむらは最も、忌諱していた事態を目にした。

 学校の制服の鹿目まどかが、そこにいた。白い生物を抱いていた。

ほむら(出会ってしまった……!)

まどか「えっ……ほむらちゃん……?」

 まどかがほむらに気づき、困惑の表情をする。

 ほむらは思わず切歯扼腕した。焦りと怒りと憎しみを込めた視線を白い生物に突き刺す。

ほむら「そいつから離れて」

 低い声で、ほむらは言う。

まどか「だ、だめだよ……この子、怪我してる……」

 まどかはその声に怯えるように震えたが、それでも白い生物を見捨てられずに、反抗した。

ほむら「貴女には関係ないわ」

 そんなまどかの努力も意に介さず、ほむらは確かな足取りでまどかに近づいていく。

まどか「ほ、ほむ——」

 嘆願の声を上げようとした瞬間、ほむらの姿が真っ白な煙に包まれた。続いて、展開について行けずに惚けたまどかの手を誰かが掴む。

さやか「まどか、こっち!」

 まどかの親友、美樹さやかだ。

まどか「う、うん……」

 まどかはさやかの手に引かれて、白い生物を抱いたまま、そこを離脱する。

 二人と一匹が離脱した、すぐ後、周囲の景色が歪んだ。

ほむら(薔薇園の魔女の結界……今回はこのパターンなのね……)

 連続的な急展開でも、ほむらは焦らない。これでも、ほむらの経験上、想定内の話——

ほむら(出会ってしまった……!)

まどか「えっ……ほむらちゃん……?」

 まどかがほむらに気づき、困惑の表情をする。

 ほむらは思わず切歯扼腕した。焦りと怒りと憎しみを込めた視線を白い生物に突き刺す。

ほむら「そいつから離れて」

 低い声で、ほむらは言う。

まどか「だ、だめだよ……この子、怪我してる……」

 まどかはその声に怯えるように震えたが、それでも白い生物を見捨てられずに、反抗した。

ほむら「貴女には関係ないわ」

 そんなまどかの努力も意に介さず、ほむらは確かな足取りでまどかに近づいていく。

まどか「ほ、ほむ——」

 嘆願の声を上げようとした瞬間、ほむらの姿が真っ白な煙に包まれた。続いて、展開について行けずに惚けたまどかの手を誰かが掴む。

さやか「まどか、こっち!」

 まどかの親友、美樹さやかだ。

まどか「う、うん……」

 まどかはさやかの手に引かれて、白い生物を抱いたまま、そこを離脱する。

 二人と一匹が離脱した、すぐ後、周囲の景色が歪んだ。

ほむら(薔薇園の魔女の結界……今回はこのパターンなのね……)

 連続的な急展開でも、ほむらは焦らない。これでも、ほむらの経験上、想定内の話——

ほむら(いや……これは不味い!)

 ではないことが起きていた。

 巴マミが、いないのだ。

 本来ならば、ここで魔女が襲ってきても、巴マミが彼女達二人を助けるので、この時点での安全が保証されている。

 しかし、今回はその巴マミがいない。それどころか、あらゆる魔法少女がいない。

 つまり、あの二人を魔女から守ることができる魔法少女はほむらの他には、存在しないのだ。

 焦るほむらに、球体に髭をつけたような謎の何か——使い魔達が群がってくる。

ほむら「なんてこと……!」

 ほむらは使い魔達に向けて、弾を撃ち尽くす。空になったマガジンを捨て、新たなマガジンをセットし、また使い魔の数だけ銃弾を吐き出させる。

 銃弾はすべての使い魔に命中し、使い魔は霧散する。それを確認するより早く、ほむらは駆け出した。

ほむら「まどか……っ!」

 悲痛の表情を浮かべながら。

とりあえず以上です。
>>413-414はミスだからどっちか飛ばしてくだしあ

フレンダはしばらくお休みってわけよ

待たせすぎてごめんなさい
これからなるべくペース上げるけど、プライベートが忙しいからまちまちになるのは許してもらえると嬉しい
これから投下する

————

さやか「な、なによこれ……」

 それは奇妙な姿をしていた。

 スライムのような柔軟性のある体に多数の触手。そして体表面に咲き乱れる薔薇。

 この世で存在するにはあり得ない形を、それはしていた。

まどか「い、いやっ!」

 奥に鎮座するその薔薇の怪物を取り巻くように、球体に髭をつけた小さな、これもまたあり得ない形をした化物が大量に蠢く。

 その小さな化物は薔薇の怪物からまるで溝を伝う水のように流れ出し、まどかとさやかを取り囲んだ。

さやか「や、やめろ、くんな!」

 本能的な恐怖が二人の筋肉を硬直させる。

 錆びた鋏を開閉させるような身の毛のよだつ音が鳴り響く。邪気と無邪気が混じったような狂った笑い声が響く。

 それが二人に徐々に迫って——

「『七閃』!」

 背後から鋭い声が響くと共に、大量の小さな化物の水流が突然上書きされるように中央から真っ二つに割られた。

 小さな化物達は衝撃で霧散し、その跡として地面に何かで凄まじい力で切り刻まれたような溝が出来上がる。

『馬鹿野郎! お前が飛び出てどうする!』

 続いてくぐもった男の声が響いた。背後からだ。

まどか「えっ……えっ?」

 まどかが思わず振り向く。そこにいたのは。

まどか「神裂……先生……?」

 諸事情で休みとなった、まどかの母の友人である担任の教師に代わって新しく担任になった教師の姿だった。

神裂「とはいえ、このまま放置しておいたら彼女たちが危険でした」

 教師——神裂は携帯電話で誰かと話しながらゆっくりと歩いてくる。先ほど響いたくぐもった男の声が電話先だろう。

 そんな神裂に薔薇の怪物が気が付いたらしい。怪物から神裂に向かって触手が勢いよく伸びる。あまりのスピードにまどかとさやかは叫び声を上げることすら間に合わなかった。

 しかし、その触手は目標には届かない。神裂が腰に下げた長大な刀の柄に軽く触れるとまるで見えない刃に切り刻まれるかのように、弾ける音を立てて触手が微塵になる。

 一瞬の出来事すぎてまどかとさやかは声を上げようとしたことすら忘れて、立ち尽くす。

『それでも暁美ほむらに対しての接触を考えると——』

神裂「戦闘が終わったらまたかけ直します」

『あ、おい、おっぱ』

 何やらこの場にそぐわない単語の欠片が全員に聞こえた気がするが、神裂は無視した。

 まずは目の前の怪物、魔女の対処。つまり、見滝原中の生徒二人を守ることだ。

神裂「鹿目まどか、美樹さやか。安心してください。貴方たちの安全は保証しますよ」

 神裂はちらりと二人の方を見て、よく通る声で宣言する。二人はその言葉に答えようとしたが、それより早く魔女が動き始めた。

 触手が神裂に通用しないと判断した魔女は使い魔を走らせる。

 膨大な数の蝶の羽を持った使い魔が神裂を取り囲む。続いてけたたましい音を立てながら、使い魔は神裂へと突進した。

 全方位から大量の弾丸を浴びせられることになる神裂。使い魔に埋もれた神裂はまどかとさやかの視界から消える、が次の瞬間に神裂を中心とした爆発が起きたように使い魔たちは吹き飛ばされた。

 そこで三人は気が付いた。使い魔は神裂を倒すために放たれたのではない。

 目眩ましをするために、魔女が逃げるまでの時間を稼ぐために、足止めとして使われたのだ。

神裂「遅い!」

 だが、そんなものは神裂には何の意味も持たなかった。

 神裂が強く地面を蹴り駆ける、というより、ほとんど飛ぶ。あまりの脚力に足場となった地面は砕け、衝撃波と爆発音が撒き散らされる。

 神裂はその爆発音が到達するより早く、一歩で魔女へと追いついた。

 魔女の横に並んだ神裂は地面を砕き、爆発を起こすほどの脚力で魔女を横から蹴りつける。まるでバットで打たれたボールのように魔女は鋭角に方向転換し、壁へと叩き付けられた。

神裂「これで、終わりです」

 神裂が先ほど触れた時と違い、しっかりと刀の柄を握り込む。

 体を捻り、体制は居合抜きに。そして白刃が煌めく——

神裂「なっ!?」

 寸前に今度は神裂が何かの衝撃によって吹き飛ばされた。

 吹き飛ばされた神裂と、壁に埋まった魔女との間に、新しい人影がいつの間にか立っていた。

さやか「な、なんなの……」

 高速で連続的に展開される戦闘によって砂埃が晴れる。そこにいたのは、黒い装束に身を包んだ少女。

神裂「何者ですか?」

 吹き飛ばされたはずの神裂は、既に体勢を整えてる。刀の柄に触れ、いつでも戦える体勢だ。

「あれ?」

 その神裂を見て、乱入者の黒い少女は不思議そうな顔をした。

神裂「先ほどの攻撃、高度な隠蔽の術式を使ってるわけでもないのに術式が解析できない……貴方は魔法少女、ですね?」

 言い逃れはできない、とでも言う風に神裂は言葉を継ぎ足す。

「あれれー、黒い魔法少女どころか一般人じゃん。魔女に群がる魔法少女を狩ればいつか本命に当たると思ってたのにな」

 しかし少女はかぎ爪のような武器を右手に展開し、左手でそれの刃を撫でながら、まったく関係の無いことを言う。

「出来ればあの魔女をそのままにしておいてほしかったんだよね。ついでにそこにいるの殺して欲しかったから」

まどか「ひっ……!」

 かぎ爪で黒い少女はまどかとさやかを指し示す。指された二人は縮み上がるように抱き寄った。

神裂「何故ですか、彼女たちは一般人ですよ?」

「キミには、関係ないよ!」

 やっと話が通じたと思うのも束の間、神裂は黒の魔法少女が物凄い速度で迫るのを察知した。

 人間が動かせる筋肉の限界を超えた速さで神裂はその少女のかぎ爪による一撃を受け止める。

 少女の一撃もまた、人間が動かせる筋肉の限界を超えた重さを持っていた。だが、神裂は今度はそれを鞘に収まった刀で軽々と受け止める。

神裂「先ほどは不意を突かれただけですよ。その程度の力では『聖人』である私に勝ち目はありません」

 歯を食いしばり力を籠める少女に、それを涼しい顔のまま受け止める神裂。小競り合いになったが、差は歴然だった。

 ぐっ、と神裂は力をさらに強める。それだけで少女は押し返される。それでも、少女は笑みを浮かべた。

「言ってることはよくわからないけど、私の目的は別にキミに勝つことじゃないから」

 その言葉で、神裂はハッとした。

神裂「魔女っ!」

 誰にも狙われなくなった魔女がまどかとさやかを襲う、という最悪の想像は当たらなかった。

 魔女は単純に、脅威である神裂を排除しようと、神裂に向かって大量の触手を向けていた。

「じゃあね」

 少女は一言と共に、高速で神裂から離れる。魔女の触手の奔流から逃げる。

 神裂も避けようとする、

神裂「なっ……!」

 ——が少女の一言の瞬間に突如触手のスピードが上がり、対処できずに流れに飲まれてしまった。

 しかし、そんなものはやはり神裂には通用しない。破裂音と共に大量の触手は一瞬で粉塵になるまで切り刻まれ、魔女は激痛に叫び声を上げる。

 それでも、神裂は最悪の次の想像が当たった光景を目にしていた。

 少女がまどかとさやかの目の前でかぎ爪のある手を振り上げていた。

神裂「しまっ——」

 神裂は思わず手を伸ばす。それと同時に少女の手が振り下ろされる。

 そして、金属音が響いた。

 そこには黒い魔法少女がいた。黒い魔法少女がどこからともなく、もう一人現れていた。

 黒い魔法少女のかぎ爪を、黒い魔法少女が盾で受け止めていた。

まどか「ほむら……ちゃん……?」

さやか「え、転校生?」

 その新しい黒い魔法少女——ほむらを認めて、まどかは見上げた。さやかはぽかんとした。

「あはっ……強ち……」

 まどかとさやかに切りかかった黒い魔法少女は。

「ハズレじゃなかったみたいだねェェェェェェ!」

 鬼のような形相で激昂した。

書き込めてなかった

とりあえずここまでで
ねぐらさえ見つけられればまた一週間後くらいに投下できると思う

————

 ——数日前、病院で呉キリカはそれを目にした。

キリカ「何……これ……」

 そこには美国織莉子がいた。いや、いるはずだった。

 しかしそこにいたのは。あったのは。

 脳漿をぶちまけ、ベッドを赤色と異臭で汚し、力なく人間の形を失った患者服を着た死体だった。

「呉キリカ、遅かったようだね」

 呆然と立ち尽くすキリカの背後から声が投げかけられる。

 残念そうでありながらどこか空虚で感情のない声、キュゥべえの声だ。

キリカ「嘘だ嘘だなんでここにこんなものがなんで織莉子の部屋になんでなんでなんでなんで嘘だ嘘嘘嘘嘘」

 そんな声もキリカの耳には届いてないらしい。目の前の凄惨な光景を受け入れないために、キリカは情報をシャットダウンしようとする。

QB「あと少し早ければ、だったね。ついさっき、美国織莉子は殺されてしまったところだよ」

 ぐるん。キュゥべえの一言に反応し、すべてを拒絶していたままの無表情でキリカが首だけ動かして振り向いた。

キリカ「誰が……誰が織莉子をッ!」

 表情は一瞬で変化したキリカは激昂して一歩でキュゥべえの元に歩み寄り、締め上げるようにして持ち上げた。

 あまりの力にキュゥべえの小さな体はゴキリと嫌な音を立てて、首と胴体があり得ない角度で曲がる。そのままキュゥべえの体は力を失う。

QB「『黒い魔法少女が自分を殺しに来る』、そう織莉子は言っていたよ」

 背後から再び声。血まみれのベッドの影から声の主が、もう一体の新しいキュゥべえが顔を出した。

キリカ「どういうこと……さ……?」

 キリカが生体反応を発しなくなったキュゥべえの亡骸を部屋の床に投げ捨てる。

 その亡骸にキュゥべえはとたたと音を立てずに猫のように駆け寄り、口をつけた。

QB「はむはむ……僕も直接見たわけじゃないからね。はむっ。今みたいに、はむ、その織莉子の元へやってきた黒い魔法少女に僕は殺されていたんだ」

 まったく同じ姿の亡骸を共食いのように咀嚼するキュゥべえ。異常な光景だが、キリカは今はそれを気にするところではない。

キリカ「つまり……その黒い魔法少女が……織莉子を……」

 幽鬼のようにゆらりと項垂れさせながらキリカは確認のように呟く。

QB「げふっ。少なくとも、織莉子はそう予見していたようだね」

 それに死んだキュゥべえを食べきったキュゥべえが答えた。

 そうして、呉キリカは動き出した。美国織莉子のやろうとしていたことを引き継ぎ、美国織莉子を殺した者に復讐するために。

もうちょっと書けてるところはあるけど、区切りが悪いので、少しだけだけど書けてる分の区切りの良いところだけ投下しました
13日のアニメイズというイベントと15日のコミトレというイベントさえ終われば一息吐けるので、そこから投下スピードが物凄く上がると思います

区切りの良いところまで投下するます


————

ほむら「貴方の思い通りにはさせないわよ、呉キリカ」

キリカ「じゃあまず死んでよッ!」

 キリカは激昂しながらも攻撃を受け止めたほむらの性質を一瞬で看破した。

 キリカの戦闘スタイルはかぎ爪状の武器による近距離戦闘だ。身体能力には確かに自信があったが、それにしてもほむらの抵抗は弱々しかった。

 そこからキリカはほむらを特異な固有魔法を使うタイプの一点特化な魔法少女だと断定。

 このまま力押しで攻撃し続けても攻略できる、そう考えたキリカが攻撃に力を籠めた瞬間、非常に都合の良いものを視界の端に捉えた。

 薔薇園の魔女が、触手を伸ばそうと体勢を整えてたのだ。

ほむら(まずい……!)

 ほむらが戦慄した瞬間、しかしそれは杞憂に終わる。

 猛烈な衝撃の襲撃が魔女を真横に吹き飛ばしたからだ。

 衝撃の発生源は、神裂。

キリカ「んなっ」

 その轟音にキリカの意識が一瞬だが、神裂の方向に向けられる。ほむらにはそれで十分過ぎる隙だった。

 カチリ。キリカが思考能力を割いた僅か過ぎる時間、その間にほむらはキリカの目前から姿を消す。

ほむら「貴方が何者なのかはわからない」

神裂「ッ! いつの間に……!」

まどか「あ、あれ……?」
さやか「へ……?」


 次にほむらが現れたのは神裂のすぐ隣。そして、その隣に状況に着いていけないまどかとさやかの二人も連れて、だ。

 キリカも、神裂までもその移動を感知することすらできなかった。

 聖人である神裂が感知できないとなれば、人知を越えたスピードか、特殊な何かの移動法しかない。神裂は警戒を強める。

ほむら「でも、貴方と私のここでの目的は一致してるようね」

 しかしほむらは神裂の様子を無視して言葉を進める。

神裂「……」

 数瞬の無言。ほむらの言葉に態度に必要以上の敵意がないことを察すると、神裂は必要以上の警戒をやめた。

神裂「……そうですね。貴方も一般人の二人を守りたいと考えているのはわかります」

 そして、二人はキリカと魔女を一瞥。

神裂「ここは一つ、共闘といきましょうか」

 神裂はほむらが何を言いたいのかを、明確に言葉にする。


 ほむらは言葉ではなく、行動で答えた。

 まず、状況を理解できないまま硬直しているまどかとさやかにほむらが手を向けると二人の周囲に光で円が描かれる。

 それを確認した後に、どこからともなく軽機関銃を取り出したほむらはそれを魔女に向けて掃射した。

 破裂音と金属がコンクリートを砕くすさまじい連続音が響き渡るが、それより早く魔女は巨体を機敏に動かして銃弾の雨から逃れる。

 それが、再度戦闘が開始した合図。

 神裂が刀に一瞬手を触れると、まるで見えない刃に刻まれたかのように光に包まれたまどかとさやかの周囲に地面に文字や記号や円が描かれた。

神裂「気休めですが、ここから動かないでくださいね」

 そして二人に言うと同時にコンクリートの床を踏み砕くほどの脚力で一気に加速すると、魔女の逃げる先に回り込む。

 神裂が刀に手をかける。抜刀術を行うには長すぎる長刀で、魔女を一閃、しようとした。

 神裂という脅威の襲来に魔女は素早く対応し、方向転換。結果、彼女の攻撃は空振りとなる。

神裂(速い……いや、相手が人間ではない分、思考速度や反応速度という面でアドバンテージがあるわけですか)

 聖人とは言え人間だ。様々な魔術などで身体能力を強化し、思考速度や反応速度を上げてはいるが、元々人間ではない魔女はさらにその上を行く。

神裂(二度も攻撃を生半可に当てたせいでタイミングが読まれるようになってしまった、というところでしょうか)

 単純な、直線的なスピードはなくとも各行動での遅延が神裂より少ない魔女はより機敏な行動が可能だった。

 そう、神裂が魔女の性質を看破したところに。

神裂「——ッ!」

 聖人の神裂すらも凌駕する猛烈な速度でキリカが神裂に斬りかかっていた。

 気づいたのは良いが、それでも神裂は反応が間に合わない。魔女とは真逆の、聖人の強化された反応速度を超えるほどの単純なスピード。

キリカ「あれっ?」

 音が遅れてやってきて金属音が鳴り響いた。

 気がつけば神裂とキリカの間にはにはほむらがいて、盾を構えて攻撃を受け止めていた。

 ついでと言わんばかりに地面に何かが落ちた。

 思わずキリカの視線はその何かに向かう。その一瞬の隙にほむらは再び姿を消した。

 その何かは、手榴弾。

 爆風が舞い起こる。粉塵によって空間が埋め尽くされ、手榴弾の破片が凶器となってキリカに襲いかかる。

 神裂は本人の感知できぬ間に移動させられていて、手榴弾の脅威から逃れることができた。

 まるで理解が追いつかない現象だが、神裂にとっては都合が良い。神裂は魔女を追撃すべく疾走を開始した。

 魔女は機敏に反応する。神裂の動きとは違う角度で逃げ、そしてその先にはいつの間にか拳銃を構えたほむらがいた。

ほむら「挟み撃ちね」

 直後、重なった銃声が響き、その銃声が魔女に届くより僅かに速く十五発の弾丸が魔女へと向かう。

 魔女は逃げようとした。しかし後ろには神裂が控えていることに気づく。

 魔女のアドバンテージは人間より優れた思考速度、反応速度による後出しじゃんけんだ。だが今逃げたならば、後出しで選択できるのは神裂の方。

 そのアドバンテージがない魔女は当然、聖人には対抗することができない。

「————!」

 絶体絶命と悟った魔女が奇声を上げる。死に際に足掻きと言わんばかりにほむらへと触手を伸ばす。

 その触手によって装弾数限界だった拳銃の弾丸は叩き落とされるだろう。しかし、触手が届く前に魔女は消える、とほむらと神裂は予感していた。

 触手を伸ばす、つまりほむらへの攻撃という選択をした時点で魔女は神裂への対抗手段をなくしたからだ。

キリカ「はぁっ!」

 だからこそ、手榴弾で吹き飛ばされたはずのキリカが横から割って入って来ることを二人は完全に想定していなかった。

神裂「なっ!?」

 キリカは神裂にかぎ爪を叩き付ける。もちろん聖人である神裂にとってキリカの攻撃は反応さえ間に合ってしまえば怖いものではないのだが、今回はその効果は覿面だった。

 反応が間に合っても、キリカの攻撃の対処に時間を割いてしまえば、本来の目標を討伐することは敵わなくなる。

 つまりそれは、

ほむら「あぐっ……!」

 暁美ほむらが魔女の攻撃に晒されるということで。

まどか「ほむらちゃん!」

 キリカの攻撃を確かに受け止めた神裂は魔女の触手によって縛り上げられるほむらの姿を目撃して、そして次の瞬間にさらなる触手の奔流に飲み込まれ、その姿を見失う。

 ほむらの飲み込まされる瞬間を目撃したまどかの悲痛な声が響く。

キリカ「出来れば私の手で殺したかったけど……ッ!」

 キリカもそれをしっかりと確認し、一息吐こうとしたところですぐに意識は戦闘に引き戻された。音速で急接近した神裂の居合いによる一撃がキリカを両断しようとしたからだ。

 聖人の速度にも負けない速度でキリカはその場を脱出し、こと無きことを得る。

 キリカが見れば、ほむらが飲み込まれた直後でも、神裂は戦闘意欲が衰えてない様子だ。

キリカ「現実主義だね!」

神裂「『七閃』!」

 神裂の攻撃はそれだけでは終わらない。刀の柄に触れると地面に爪痕を残すほどの猛烈な勢いで見えない斬撃がキリカに襲いかかる。

キリカ「でもさ、それ見えてるよッ!」

 キリカはその見えない斬撃に対し虚空をかぎ爪でひっかくことで対応する。それだけで規則的に出来ていたはずの地面の痕跡の流れが変わった。

キリカ「ワイヤーなんて当たるわけないよ。同じ戦闘速度の領域で見えないわけないでしょ?」

神裂「ええ、貴方なら見えていると信じてましたよ」

 すると神裂も同じく虚空を掴む動作をする。何もない空間に血が伝い、赤色の線が生まれる。

 神裂が掴んだのは、自身の放ったワイヤー。

キリカ「まさか!」

 その行動に、直感に従ってキリカは弾かれたように背後を振り向いた。

 視線の先ではキリカのかぎ爪と神裂の手によって本来のルートを外れたワイヤーが地面を抉りながら暴れ回っていた。そして、その先には、魔女。

 だが、キリカの直感も杞憂に終わる。

 元々、魔女はキリカとの協力関係などは築いていない。キリカが戦ってるから、という理由で気を抜くわけがないし、いつでも攻撃に晒されるものだと準備している。

 結局、後出しの権利がある魔女にとって、ワイヤーを避けることなど容易いことだった。

キリカ「なんだ……最後の策も外れたね」

 安心の色を含めた言葉を吐きながらキリカは再び神裂の方を向く。

神裂「いいえ、外れてませんよ。ちゃんと当たりました」

 だが神裂は淡々と二言。

 ブチリ、と弾力のあるものが千切れる音がした。

 魔女の悲鳴が結界内を埋め尽くす。

キリカ「なっ……」

 再度、キリカは魔女の方を振り返った。だが魔女は健在。千切れたのは、触手。

 そして触手に包まれた中からほむらの姿が一瞬見えたと思えば、次の瞬間に魔女が爆散していた。

神裂「魔女本体を狙ったのはブラフです。ああすれば、本体は逃げるしかなく、触手の管理はおざなりになります」

 キリカが神裂の言葉に反応して前に向き直ると、彼女は既に刀を握り、居合いの体勢を整えていた。

ほむら「そして、逃げるという選択をさせていればその瞬間は攻撃を当てることができる。私も一応、攻撃速度には自信があるのよ」

 そして後ろからほむらの声が聞こえる。また振り返れば、彼女はキリカに銃口を向けていた。

ほむら「全て打ち合わせ通りね。礼を言うわ、神裂火織」

キリカ「いつの間に……」

ほむら「テレパシー。魔法少女の基本よ、忘れたの?」

キリカ「でも、魔法少女同士じゃ……」

神裂「プロトコルさえわかれば、私ならば魔術で対応することは容易ですよ」

キリカ「うぐ……」

神裂「さあ、降伏していただきましょうか」

 魔女が倒され崩壊していく結界の中、神裂が刀の柄を握ったまま、キリカににじり寄る。

 どれだけキリカが速くても、囲んでいるのは音速で移動する聖人に、まるで『瞬間移動』かのように一瞬で移動するほむら。

 逃げられるはずがなかった。

キリカ「二対一は……さすがに分が悪いね」

 しかし、キリカはまだ余裕を崩さない。困ったような表情をしながら、ほむらの方をきちんと向いた。

キリカ「……次は、絶対殺す」

 そしてぼそりとキリカが呟いた。その呟いた瞬間の表情が、絶望寸前の表情であることにほむらが気付いた瞬間に、

神裂「スタングレネード!」

 神裂が叫んだのはもう遅かった。

 ほむらの方を振り向いたのは、自分の体でほむらに何をしているのかを、つまりスタングレネードを落としていることを悟られないため。

 つまり、キリカはほむらの魔法の正体を大方目安を付けていた。

キリカ「特別製だよ」

 閃光と同時に、音ではなく衝撃波が二人の体を叩いた。

 衝撃波で体が硬直する。鼓膜が耳鳴りで塗りつぶされ、網膜も情報を得る器官として成立しなくなる。

ほむら「やられた……!」

 常人以上の身体能力を持つ二人は、数瞬で目と耳と筋肉の機能を回復した。

 しかし、呉キリカはもう目の前から消え去っていた。

 キリカの魔法はほむらも把握している。神裂も、どのような効果になるのかを大体理解できる。だからこそ、もう追っても無駄だと判断せざるを得なかった。

神裂(しかし、さっきのもの……)

 だが、神裂が問題視するのはそこではなかった。

神裂(彼女が去り際に使ったスタングレネード、あれは……)

ほむら「それで、貴方は何者なのかしら?」

 そこで神裂の思考をほむらが遮った。ほむらは既に消えたキリカには興味が無いらしい。

神裂「……すみませんが、私は貴方との話し合いの場を持つことはできません」

 一瞬考えてから、神裂は答える。

ほむら「逃がすと思う?」

 そんな神裂に対しほむらは銃口を向けた。

神裂「やめておいた方がいいと思いますよ」

 オートマチックな拳銃は引き金を引くだけで弾が射出される。しかし、神裂に臆する色はない。

神裂「貴方も、今の戦いで気が付いたのではないですか? 私が、普通ではないと」

 そのまま神裂はただの改装中の部屋となったそこを歩いて後にする。

 結局、ほむらが引き金を引くことはなかった。



まどか「お、終わったの……?」

「ふぅ、助かった」

さやか「うぇっ!? まどか何それ喋った!」

「それとは酷いな。僕にはキュゥべえという名前があるのに」

まどか「キュゥべえ……?」

「僕は君たちにお願いをしにやってきたんだ」

まどか「お願い……?」



QB「——ねえ二人とも。僕と契約して、魔法少女になってよ!」

少しだけだけどここら辺まで
使い魔が途中から空気になってるけど、あの髭玉は戦闘の余波で色々と吹き飛ばされてます
薔薇園が滅茶苦茶でゲルちゃん涙目

投下するます


————

さやか「さーて、説明してもらおうかね謎の転校生クン! 何が一体どうなってるのさ!」

 ビシィッとほむらに人差し指を突き付け、裁判官にでもなりきったかのように追求するさやか。

さやか「突然現れた謎のマスコット、変な何か! 不思議な先生はバトル漫画キャラで電波転校生は動物虐待の爆弾少女! わけがわかりません!」

まどか「さ、さやかちゃん……」

 そんなさやかをまどかが宥めようとするが、結局、おろおろとするだけで何も効果はなかった。

 ——魔女を討滅した後、ほむらはまどかとさやかを自宅へと案内することにした。

ほむら(衝撃的な光景をまどかに見せちゃったから心配だし、もうインキュベーターと出会ってしまったからには隠すのは不可能ね……
    可能ならばまどかに知られないまま一ヶ月を過ごす予定だったのに、まさか転校初日でバレちゃうなんて……)

 はぁ、と溜息を吐いて、そこまで考えてほむらは思考を切り替える。

ほむら(いや、キリカが動いてるということは、この時間軸では最悪の事態が有り得るということ。先に知らせておく方が安全だったかもしれない。不幸中の幸いね)

さやか「さあさあ黙ってないでゲロっちまったらどうだい!?」

 そこでほむらの思考をさやかが遮る。さすがにちょっと我慢できないので適当に説明してやろう、とほむらが考え始めたところで、

QB「それについては僕から説明するよ」

 ほむらにとって憎い、白い生物が口を挟んだ。

 思わず、ほむらはその邪魔者をギロリと睨む。

まどか「ほむらちゃんもそんな怖い顔しないでよぉ……」

 まどかの言葉にハッとするほむら。

ほむら(わけのわからない状況の連続で不安なまどかをこれ以上不安にさせてどうするの……)

ほむら「まどかがそう言うなら……」

 自己嫌悪に陥りながらも、決してそれは表に出さず、いつも通りの無表情に戻す。

 本当は笑顔でも作りたいのだが、そこまで露骨に接してしまうとまどかに執心してるのが発覚してしまうかもしれないのであくまでほむらは無表情。

QB「それで、話しても良いかい?」

ほむら「……構わないわ。私も一から全部説明するのは面倒だもの。でも説明不足があれば補足させてもらうわ」

QB「僕は事実をありのままに伝えるだけなんだけどね」

さやか「あーもうっ! ゴタクはいいから早く説明してよ!」

 わけのわからない状況の連続で不安になっているのは何もまどかだけではない。元気を装ってはいるが、ここまで説明を要求するさやかも不安にまみれているのだ。だからこそ、話が遅々として進まないほむらとキュゥべえに彼女は横槍を入れる。

 そんなさやかの様子をまどかだけは気付いていた。

QB「そうだね。まず、この暁美ほむら、そして君たちを殺そうとしていた呉キリカについて説明しようか」

 もちろん感情の読めないキュゥべえはそのまま話を続ける。

QB「彼女たちは魔法少女さ」

まどか「魔法……少女……?」

QB「そう、魔法少女。契約により魔女と戦う使命を負った少女たちさ」

さやか「ちょっと待った待った。契約って何さ、魔女って何さ」

QB「君はせっかちだね、美樹さやか。順を追って説明するよ。まず、契約というのは——」

ほむら「こういうことを」

 突然、キュゥべえの言葉を遮って、ほむらが手のひらを全員の前に差し出した。そこにソウルジェムが乗せられている。

まどか「綺麗な宝石……」

 まどかが見とれるようにぼそりと呟いた。

QB「素質のある少女はどんな願いでも一つだけ叶えてもらう代わりに、魔法少女になる。魔法少女になったら、呪いを撒き散らす魔女を倒す使命が課せられる」

さやか「どんな願いでも……?」

QB「その契約する子の素質にもよるけど、大抵は何でも叶うよ」

 さやかがごくりと唾を飲む。何を考えてるのかわかりやすすぎて、ほむらは溜息を吐きたくなった。

QB「そしてこれがソウルジェム」

 そんなさやかの様子も無視してキュゥべえはとてとてとほむらに近づくと、ソウルジェムを前足で指した。

QB「僕と契約して魔法少女となった少女から生まれる宝石で、魔力の源だよ」

ほむら「そして魔法少女の本体ね」

 キュゥべえの言葉のすぐ後ろにほむらがすかさず一言を継ぎ足した。

 その一言にキュゥべえの耳がぴくりと動く。

さやか「本体ってどういうことさ?」

 言葉の意味が理解できない風にさやかが聞く。

ほむら「ソウルジェムが魔力の源なんてのは当然よ。私たちの魂はそこのインキュベーターに抜き出され、このソウルジェムに変化させられるの。それが契約というもの」

QB「暁美ほむら……君は一体……」

ほむら「何をしているの? まだ説明の途中でしょう。さっさと続けなさい」

 訝しげな声のキュゥべえをほむらは一言で切り捨てる。

QB「……そうだったね。次は魔女について説明しようか」

 ややあって、キュゥべえは言葉を続けた。

さやか「魔女か……なんか禍々しい感じだね」

QB「そのイメージは大体正しいよ。魔法少女が振り撒くのが希望だとしたら、魔女が撒き散らすのは絶望。魔法少女が願いから生まれた存在なら、魔女は鈍いから生まれた存在だね」

まどか「呪いから生まれた存在……」

さやか「うむむ……難しい……」

 まどか魔女の脅威をイメージしたのか僅かに怯えた表情を見せ、さやかは理解がついていかない様子で必死に思案する。

ほむら「要約すると、魔法少女が呪いを溜め込めば魔女になるってことよ」

さやか「はぁなるほど……ってええっ!?」

 さらりとほむらが一言補足する。さやかはオーバーリアクションなくらいに飛び退いた。

QB「本当に、君は一体何者なんだい……?」

 感情のこもってない赤い瞳でキュゥべえはほむらを睨む。

ほむら「これでわかったでしょう? この害獣が信用ならないってことが。こいつは自分に不利な情報は絶対に話はしないわ」

 キュゥべえの視線もほむらは無視。

ほむら「魔法少女になるということは魂を抜き取られてソウルジェムにされるってこと」

 言いながら、手のひらのソウルジェムを目で指し示す。

ほむら「そして、その成れの果ては魔女」

 言いながら、倒した魔女がいた方角を目で指し示す。

ほむら「魔法少女になる契約なんて、絶対にしちゃダメよ」

とりあえず少ないここまで
アニメの一話くらいまで終わり
ぐちゃぐちゃになるからまるで指標としては役に立たないけど

これからは小出しにして頻繁に投下するスタイルにします

投下

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まどか「お、おはよっ!」

仁美「おはようございます、ってあら……?」

さやか「おはようまど……か、と転校生……」

ほむら「……おはよう」

 翌日。いつも通り、さやかと仁美は多数の生徒と同じように登校していた。

 そこにまどかが挨拶をして合流する、いつも通りの登校シーン。

 しかし、そこでさやかと仁美はいつもとは違う特別なものを目にした。

 まどかに小判鮫のようにくっついて離れないほむらだ。

仁美「えっと……暁美、ほむらさんでしたかしら?」

ほむら「ほむらでいいわ、志筑さん」

 ほむらは端的に言う。

仁美「それではほむらさん、と……」

さやか「ってかなんで転校生がいるわけ?」

 仁美が礼儀正しく挨拶しようとしたところに、さやかが割り込んできた。

まどか「その、ほむらちゃんとは来る途中で会ったの」

 さやかの言葉にほむらに代わってまどかが答える。しかし、どこか歯切れが悪い。

仁美「まどかさん……? 顔色が優れないようですが……」

 そのまどかの微妙な変化に付き合いの長い仁美はすぐに気が付いた。

 さやかが一瞬焦る。どう考えても、まどかの様子が少しおかしい原因は昨日の出来事しかない。

ほむら『まどか、昨日のことなら気にしないで』

 すかさず、ほむらがテレパシーでまどかに話しかけた。まどかは唐突に脳内に響く声にびくりと肩を震わせるとほむらの方を見る。

ほむら『私が最初言ったように、まどかはこれまで通りのまどかでいればいいの』

 ほむらも同じく、まどかと顔で向かい合うとまたテレパシーで言った。

まどか『でも……ほむらちゃんもいつか魔女、になっちゃうんだよね……』

 テレパシーでもまどかの声には元気がない。その元気のなさがほむらの身を案じてる証とほむらはわかって、だからこそ心苦しくなる。

ほむら『それはまだ先のことよ。人は誰だっていつかは死ぬ。私はそれが少し早いだけ。今気にすることじゃないわ』

 しかしほむらはそんなまどかを安心させる話術など持っていない。ただ、論理的に安心できる要素を言うしかない。

まどか『で、でも——』

さやか「二人してなーにやってんのさ!」

 その論理的な言葉にまどかが何か感情的な反論しようとしたところで、二人の視界にさやかの頭が割り込んできた。

さやか『まどか、その辺にしておきな。仁美に怪しまれてるよ』

 ついでにノーモーションでテレパシーを一言。

まどか「あっ……」

 さやかの言葉にまどかははっとした。思わず、仁美を見る。

仁美「まぁ……まぁまぁまぁまぁ!」

 まどかが見ると、赤面した顔を隠して、しかし、しっかりと指の隙間から様子を窺う仁美がそこにいた。

仁美「まだ出会ってから一日しか経っていないのに、もう目と目で語り合う関係だなんて! やはり、お二人は運命の出会いだったのですわね! まどかさんが夢で見たのもやはり運命! 前世で結ばれた関係なのですわ!」

 さっきまで黙っていたのが嘘のように言葉のマシンガンを放つ仁美。まどかとさやかと、ほむらまでもがぽかんとしてしまった。

仁美「さやかさん!」

さやか「は、はい?」

 すると仁美は突然、そんなぽかんと馬鹿みたいな顔をしたさやかの手を握った。

仁美「お二人の邪魔はいけませんことよ!」

 そのまま仁美はさやかの手を引き走って、どこかへ連れ去ってしまう。

まどか「ひ、仁美ちゃーん? ……行っちゃった……」

 ぽつんと二人で残されたまどかは自然とほむらの様子を窺う。心なしか、ほむらの表情が少し明るくなったように感じられた。

ほむら「……都合良く勘違いされたようね。良かったわ」

まどか「良くないよっ!?」

短いけど今日はここまで
また明日投下するます
明後日も投下するます

今更だけど誤字、っていうか勘違い発見
>>403のところを訂正します
【見滝原総合病院】→【見滝原市立病院】

投下

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 学生の本分は勉強だ。それは魔法少女と言えど、一般人らしい文化的生活を送るなら、当然受け入れなければならない。

 だから、例え教師が何者かわからなくても、教師がバトル漫画に出てくるような超人であっても、学校という敷地で対面するのは仕方の無いことだ。

 そして英語の授業。奇抜な格好のあの教師と、ほむらとまどかとさやかは再会することになる。

さやか『転校生、見られてるよ』

ほむら『気付いてるわ』

 英語の授業が始まってしばらくして、板書を書き写す時間にさやかがほむらにテレパシーを送った。

 教師である神裂がほむらの方を凝視していたからなのだが、ほむらにとってはいらぬ世話だ。

 素人であるさやかの見え見えの警戒に気が付かれたのか、神裂は何事もなかったかのように、自然とほむらへの視線を外す。

さやか『結局、あの先生も魔法少女なわけ? そういう歳には見えないんだけど』

 鋭い殺気のようなものが一瞬教室に蔓延したが、素人であるさやかは気がつかない。

ほむら『魔法少女ではないわ』

さやか『だったらなんなのさ』

ほむら『なんでも私に聞けば答えが返ってくると思ってるの?』

さやか『なるほど、事情通の転校生も知らない、か』

 ほむらの方をずっと見ていたまどかは淀みなくシャーペンを動かしてたほむらの手が一瞬止まったのに気が付いた。

ほむら『……大体の目安はついてるわよ』

さやか『大体の目安って?』

ほむら『……魔術師』

さやか『まじゅちゅし?』

ほむら『まじゅつし、よ』

 思わず溜息を吐くほむら。

 それにより、神裂に再び注目されたことにほむらは気付いた。

さやか『魔法少女と何が違うの?』

ほむら『わからないわ。でも、魔法少女のように異能を操ることは確かよ』

さやか『やっぱり知らないんじゃん』

ほむら『……昼休み、屋上に来なさい』

さやか『うぇっ!? ご、ごめんなさい、さやかちゃん調子乗ってました!』

 がたがたっとさやかが椅子に座ったまま音を立てるのが聞こえた。神裂の視線がさやかに移る。

ほむら『違うわよ。ここじゃテレパシーでも安心して会話できそうにないってこと』

さやか『あ、さいですか……』

ほむら『ついでにここじゃ貴方の首も絞められないしね』

さやか『やっぱり怒ってんじゃん!?』

ほむら『冗談よ』

さやか『うぅっ……助けてまどか、転校生があたしのこといじめる……』

まどか『これはさやかちゃんが悪いと思うな』

さやか「そんなーっ」

 友人からの思いがけない追撃で、さやかは心の声を口から出してしまった。

 慌てて口元を隠しても、もう遅い。突然、ショックな声を上げたさやかにクラスメイトの注目が集まる。

神裂「……美樹さやか。少しは集中したらどうですか?」

さやか「あ……はい」

 教師の鋭い叱責に、さやかは小さく丸まった。

推敲終わってるのはここまで
また明日、一応書けてる残りを一気に投下します
さやかちゃんは可愛い

投下

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 見滝原中学の屋上は開放されている。昼休みとなれば、大勢の生徒で賑わう人気スポットでもある。

 そこで、ほむらとまどかとさやかの三人は昼食を取っていた。

 昼休みは短いようで案外長い。だから会話が必須となるわけだが、

まどか「そういえば、わたしたちって普通にテレパシーで会話してたけど、キュゥべえはどこにいるんだろう?」

ほむら「私のバッグの中に詰め込んであるわ」

 などと、他愛のない会話をしながら、誰も昨日の魔法少女の、踏み込んだ話題には触れない。

 まどかも、さやかも、色々と聞きたいことはあったのだが、これ以上は聞いてはいけないような、そんな気がしていた。

さやか「それで、んぐ、あの先生って何者なんだろうね」

 だからこそ、魔法少女ではない話題として、サンドイッチを咀嚼しながらさやかは言った。

ほむら「だから——」

神裂「魔術師ですよ」

 ぞくり、とほむらは背後に悪寒を感じる。弾かれるように振り向くと、屋上の入り口に件の神裂教諭が立っていた。

 無意識にほむらはソウルジェムの形状の一つである指輪を触ってそこにあるのを確かめる。

さやか「せんせー、魔術師ってなんですかー?」

 さやかが授業で質問するかのように聞いた。

 さやかとまどかにとってはよくわからない力を使うとしても、自分たちを助けてくれた人間には変わりないのだろう。それが一層、ほむらの緊張をかき立てる。

神裂「美樹さやか、貴方がイメージしている通りのものですよ」

 気が付けばもう一つおかしなことにほむらは気が付く。あんなに賑わっていた屋上には、いつの間にか神裂とほむら達の四人しか存在しなくなっていた。

ほむら(学校では安全と思っていたけど、そういうわけでもないのね……)

神裂「教えられるのはここまでです。美樹さやか、鹿目まどか。貴方たちはこれ以上、関わらないでください」

さやか「えっ」

 予想以上につっけんどんな対応に、さやかは一瞬困惑する。

 神裂のその刺々しい様子に、ほむらは静かに立ち上がると、まどかとさやかを庇うようにして神裂と向き合った。

神裂「この世界には裏の世界、というものがあるのです。どうしても関わると言うのでしたら、私たちにも取るべき処置というものがあります」

 神裂の言葉に屋上の空気が凍った。ほむらはすぐにでも魔法少女に変身できる体勢を整える。

さやか「な、何をぅ……こっちには転校生がいるんですからね……!」

 さやかがほむらの後ろに隠れながら呟くような声で言った。

神裂「……断言しましょう。昨日確認した限りでは、暁美ほむらでは私には敵いませんよ」

 きっぱりと、神裂は言い切った。

神裂「私は魔術師である以前に、世界に二十人といない聖人です。私個人の戦力が国際的にどのような影響力を持つかと言うと、核兵器一つ分に相当します」

さやか「は、はぁ……?」

神裂「簡単に言うと、貴方たちの目の前に核ミサイルの発射スイッチを握った人間がいるってことですよ」

 神裂の言葉に、さやかはあまりの規模に明確なイメージが思い浮かばないのかぽかんとし、まどかは核兵器というものを見滝原を破壊し尽くすような爆弾と想像して唾を飲んで怯えた表情をする。

 そんなまどかの表情を見て、ほむらの表情が僅かに歪んだ。

ほむら「そんな忠告をされなくても結構よ。この二人は、私がこれ以上関わらせたりしない。むしろ、貴方たちの勢力がそういうスタンスで助かるわ」

 ほむらが冷たく言い放つが、その言葉の意味に空気は僅かに軟化する。

神裂「……それならば、良いのですが」

ほむら「それでも、私も、私の守りたいものがあるわ。守りたいものを脅かすなら、容赦はしない」

 しかし、続けられた言葉に空気が再び張り詰める。

 その言葉を最後に、しばらくの間、空間を無言が支配する。聞こえる音は屋上を吹き抜ける風の声だけとなる。

まどか(どうしよう……二人とも怖いよ……)

 何かしなければ、取り返しのつかないことになりそうな焦燥感に駆られたまどかが、緊張から手が震え、持っていた箸を落とした。

 からん、と小さな音が静寂を破る。

神裂「……話はそれだけです。おとなしく、楽しい学生生活を謳歌することをお願いしますよ」

 それをきっかけに時間が動き出し、神裂が最後の忠告を言う。

 そのまま神裂は屋上の扉を閉めて、校舎の中へと帰って行った。

————

 夜、丑三つ時。それなりに都会と言えど、やはりまだまだ田舎に属する見滝原は静寂に包まれていた。

 その静かな時間の一空間に、甲高い笑い声が響く場所があった。

 魔女の結界だ。

神裂「『唯閃』!」

 しかし、それもすぐに静かになる。神裂の一閃によって凱旋門の形をした魔女は切り伏せられ、霧散し、グリーフシードに変化する。

 静かになった夜道で、神裂は長すぎる長刀、『七天七刀』を鞘に収めた。

「おーおー、見事なお手並みなこって」

 そんな神裂の背中に男の声が投げかけられる。

神裂「はぁ……見ていたのでしたら、手伝ってくれても良かったでしょうに」

「無茶言うなよ、俺だって見えてるわけじゃないんだから」

神裂「それでも、感じることはできるのでしょう?」

「それだけで戦えるのはお前とタイマン張れるやつくらいだろ。そもそも俺は本職じゃないっての」

 神裂が振り返ると、そこにいたのは二十代の男だった。

「こんなことを手伝わされてるお陰でまた仕事が溜まっちまって困るぜ。せっかく中学生の佐天ちゃんからまた注文が来たってのによ」

 男はロンドンで小さなジーンズショップを経営してる商売人だ。

 しかし、その裏では魔術も心得、『必要悪の教会』から仕事を押しつけられる実力者でもある(と、彼を知るとあるツアーガイドの少女には専らの評判だ)。

神裂「それで、要件はなんでしょうか?」

ジーンズ店主「暁美ほむらについて。あれほど接触を控えろって話だってのに、こう二日連続で接触するのはどういう考えだ?」

 先ほどまでのおどけた調子は鳴りを潜め、鋭い言葉が神裂に突き付けられる。

神裂「……彼女の魔法はおおよそ把握しました。直接コンタクトを取っても問題はないでしょう」

 しかし、神裂は一切調子を変える様子はない。

ジーンズ店主「次元に関係する能力だから慎重に、って話だったんだが」

神裂「問題ありません。現時点で彼女ができるのは恐らく、単純な能力のみ」

ジーンズ店主「その能力ってのはなんだ?」

神裂「時間停止、ですよ」

ジーンズ店主「時間停止だと……?」

 ジーンズ店主は神裂の言葉を聞いて、胡散臭そうな顔をする。

ジーンズ店主「そんなの、今の魔術でも余程の大魔術じゃない限り不可能だろうが。未来の魔術師が時間を操作できるって噂は聞いたことあるが」

神裂「相手は魔法少女ですよ。我々の常識が通用するとは限りません」

ジーンズ店主「そうは言ってもなあ……」

 魔術の心得があるだけ、ジーンズ店主は信じがたいらしい。

神裂「しかし、私が問題視しているのはそこではありません」

 そんなジーンズ店主の思考を遮って、神裂は話題を切り替えた。

ジーンズ店主「なんだと?」

神裂「暁美ほむらを付け狙う謎の魔法少女がいるのですが、彼女が問題です。学園都市の兵器を使ってましたよ」

ジーンズ店主「おいおい……」

 ジーンズ店主は面倒臭そうに頭を掻く。実際、面倒な事柄だからなのだが。

ジーンズ店主「暁美ほむらに直接的な危害を加えるのは禁止されてるはずだろ。学園都市が裏切ってるってことか?」

神裂「いいえ、恐らく学園都市から盗んできたものでしょう。しかし、問題は学園都市がそれを看過しているということです」

ジーンズ店主「問題だな、それ」

神裂「問題です」

 神裂の言葉を最後に、沈黙が降りる。

ジーンズ店主「どちらにしろ、まだどうしようもないな。引き続き、このままの仕事で行くか」

 ややあって、ジーンズ店主が沈黙を破った。

神裂「……そうですね」

 神裂もジーンズ店主の言葉に同意する。

 そうして、二人は別々に夜の闇に消えていった。

投下終了
ジーンズ店主って長いから店主にしようかな……

投下

————

さやか「おまたせ」

まどか「あれ、早いね?」

 まどかとさやかは見滝原市立病院に来ていた。主にさやかの用事にまどかが付いてきた形だ。

 ほむらは掃除当番ということで今日は別々に帰る形となり、今はいない。

さやか「せっかく付き合ってもらったのに悪かったんだけど、今日はなんか都合が悪いみたいでさ。わざわざ来てやったのに恭介のやつったら失礼しちゃうよね」

まどか「あはは……上条くんにも色々あるんだよ、きっと」

さやか「可愛いさやかちゃんが来ているというのに会えない色々ってなんだってんだいまったく」

 さやかが納得がいかないようにぶつくさと文句を垂れる。

 そんないつも通りの日常が戻ってきたかのような錯覚に、まどかも自然と笑顔が戻ってきた。

さやか「……昨日さ、恭介にCD持って行ったんだ」

 脈絡もなく、突然さやかは言い出した。

まどか「あ、前に選んでたやつかな」

 僅かに違和感を覚えながらも、話の内容自体にはまどかにも心当たりがあった。

さやか「そう、それ。そしたらさ、恭介ったら喜んではしゃいじゃってさ、二人で聴こうってことになったんだ」

 ふと、さやかの表情が暗くなる。

さやか「気が付いたら、恭介、泣いてた。それであたし気が付いたんだ。なんて残酷なことをしてたんだろうって」

まどか「さやかちゃん……?」

 どんどんさやかの声のトーンが落ちて行く。さやかが俯いていく。そのことに気が付いたまどかがさやかの顔を覗き込んだ。

さやか「恭介は、どんな音楽を聴いても、もうそれを演奏することは叶わない。なのに、あたしはその現実を押しつけるように、恭介に音楽を聴かせてた」

 そこでまどかが見たさやかの表情は、とても思い詰めた表情で——

さやか「もし、あたしが化物になることで恭介が救われるなら——」

まどか「だ、だめだよ!」

 思わずまどかは小さく叫んでさやかの言葉を遮った。

まどか「そんなことされても、上条くんは喜ばないよ。きっと、自分の手のためにさやかちゃんが犠牲になったって知ったら今以上に苦しむと思う。もう音楽も楽しめなくなると思う。自分を犠牲にして人を助ける心は確かに綺麗だけど、残された人のことも考えなくちゃだめだよ!」

さやか「ま、まどか……」

 必死に涙を瞳に溜めながらまどかは説得するように言葉を続けた。

 そこまで必死になって考えてくれる親友にさやかは感動して、顔を上げて、歪なものを目にした。

さやか「何、あれ……」

 さやかがまどかの後ろを指を指す。まどかが振り返ってその方向を見ると、そこは病院の壁だった。

 壁に、何かが刺さっていた。

 卵のような、真っ黒のもので、黒い靄のようなものを放っている。

QB「あれは、グリーフシードだ!」

 どこからともなく、キュゥべえが現れて行った。

まどか「グリーフシード?」

 キュゥべえの神出鬼没さは最早知っていたことなので、今更まどかもさやかも突っ込むことはない。

 ただ、疑問に感じた言葉を繰り返す。

QB「簡単に言えば魔女の卵さ。あれは不味いよ、もう孵化しかかってる! 早く逃げないと!」

まどか「ええっ!?」

 珍しく焦ったような口調のキュゥべえにまどかもさやかも焦りを加速させられた。

さやか「待って、魔女が孵化したら病院の中にいる人たちはどうなっちゃうの!?」

QB「魔女は生命力を吸い取る。病院中の患者の生命力が吸い取られて、大変なことになるだろうね……」

まどか「そんな……!」

QB「でも、僕と魔法少女じゃない君たちじゃ残念ながらどうしようもないよ。逃げるしかない」

 そういうしている内に、グリーフシードから発せられる靄のような空気が、魔女の魔力が辺りを浸食していく。

 使い魔のけたたましい邪悪な笑い声が鼓膜を震わせる。

まどか「そ、そうだ、ほむらちゃん……もう掃除当番も終わって……」

さやか「ダメだ、さっきから電話かけてるけど、ずっと呼び出し中で出やしない!」

 いつの間にか携帯を取り出してたさやかが、まどかの希望を即座に絶った。

さやか「……まどか、学校に行って神裂先生を呼んできて」

 絞り出すように、さやかが言う。

まどか「さやかちゃんはどうするの……?」

 さやかが何を考えてるのか、まどかでも見当が付いた。それでも、その考えを認めたくないまどかは恐る恐るさやかに尋ねる。

さやか「あたしはここで、こいつを見張ってる」

まどか「そんなの……!」

 そしてまどかの予想は的中した。その事実にまどかは泣きたくなる。

さやか「早く行って! 間に合わなくなっちゃうから!」

まどか「で、でも……」

 ここでさやかを置いていくことは、親友を見捨てると同義だ。そもそもさやかには何もできないのだから。

 まどかには、そんな残酷なことはできなかった。

QB「さやかには僕がついてるよ」

 そこでキュゥべえがさやかの肩に乗りながら言った。

QB「暁美ほむらにしろ、神裂火織にしろ、二人には僕のテレパシーが通じる。それならば、魔女の目の前で陣取って、道案内することでよりスムーズに魔女の元へ辿り着けるはずだ」

 まどかは絶句した。合理的な理由ができてしまったことで、いよいよさやかと一緒にここを離れることができなくなってしまったからだ。

さやか「お願いまどか……あたしには、恭介を置いて逃げ出すなんてこと、できないの……」

 消え入りそうなさやかの声。それを聞いて、まどかはもう何も反論できなくなってしまった。

まどか「……さやかちゃん、絶対に間に合わせるから、絶対に無茶しないでね」

 覚悟を決めるしかなかった。

 そうして、まどかは見滝原中学までの長い道のりを走り出す。

————

 ホームルームが終わり、掃除当番を任された暁美ほむらはクラスメイトが軽く引くくらいに効率的かつスピーディに掃除を終わらせた。結果、普通に掃除した場合の三分の一程度の時間しかかかっていない。

 それでも浪費してしまった時間はそれなりのもので、ほむらは早くまどかの安全を確認したく、魔法少女に変身してまでまどかの元へと走った。

 ビルの屋上と屋上を渡って飛んで。車よりも速く彼女は疾走する。

 まどかはさやかの付き添いで見滝原市立病院に向かうと言っていた。時間からして、まだそこにいるはずだろう。

ほむら(ここしばらく魔女は出ていない……だから今日も何もなければ……っ!)

 そうして病院に急いでる途中、ソウルジェムが反応しているのに気が付いた。

 魔女の反応だ。

ほむら(こんな時に……この魔力の強さは、お菓子の魔女ね……!)

 そうしてソウルジェムから目を離そうとした瞬間。一際強い魔力をすぐ近くに感じた。

 魔力の方向にとっさに盾を向け、結界を張るほむら。

「みぃーつけた」

 それに一瞬遅れて、重い衝撃がやってくる。

ほむら「くっ……!」

 防御を展開したことによりダメージはないが、空中にいた彼女の軽い体は吹き飛ばされた。しかしほむらはすぐに空中で体勢を立て直すと、ビルの屋上に着地する。

「今日こそちゃんと死んでよ?」

 聞けば、聞き覚えのある声だった。

 見れば、見覚えのある黒い少女がいた。

ほむら(本当に、こんな時に……!)

ほむら「呉……キリカ!」

キリカ「暁美ほむら!」

 そうして再度、二人の黒い魔法少女は対峙する。

投下終わり
話の焦点として当ててるのはフレンダサイドとほむらサイドだけど、それ以外の裏で起きてる出来事は後でダイジェストでいいよね・・・
上条さんサイド、美琴サイド、グループサイド、ステイルサイドの話とかあるけどまどマギのキャラほとんど出ないから

がっつり書いてくれても嬉しいな

投下


————

 結局、まどかは学校まで走ることはなかった。

 どう考えても、自分が走るより病院の入り口で待機してるタクシーを使った方が早いからだ。

 そうして、タクシーに乗ってすぐにまどかは学校へと到着した。

まどか「ありがとうございました! おつりいいです!」

 なけなしのお小遣いを投げ捨てるように運転手に渡し、職員室に向かってひたすら走る。

神裂「どうかしましたか?」

まどか「か、神裂先生!」

 と、その途中の廊下でまどかは目的の人物と合流することが叶った。

まどか「助けてください! さやかちゃんが……さやかちゃんが!」

 もうほとんど反射的にまどかは神裂に泣きながら縋り付いた。

神裂「……話を聞きましょう」

 あまりに必死なまどかに神裂もただ事ではないことを理解する。

 そのまま必死に手を引くまどかに引かれて校門を出ると、まどかが起こったことをありのままに話しだした。

 病院に魔女の卵であるグリーフシードがあったこと、それが孵化寸前なこと、さやかがそれを監視するために命を危険に曝していること。

神裂「急ぎますよ!」

 順番も言葉もめちゃくちゃに、とにかくまどかが話した結果、神裂は状況を理解したらしい。

 まどかの体を横抱きで持ち上げ、一瞬で音速に加速する、とその瞬間に、神裂は異変を察知した。

 神裂の様子につられて、まどかも異変に気が付いた。

 見えたのは男子生徒だ。神裂の受け持つクラスの生徒の一人で、名前は、

まどか「中沢……くん……?」

 その異様な様子に、思わずまどかは呟いた。

 虚ろな目をしていた。力なく猫背になっていた。足取りは重かった。

 そして、頬には不思議な紋章のようなものが浮かび上がっていて。

神裂「魔女の口づけ……!」

 神裂は苦虫を噛み潰したような表情をして、呟いた。

まどか「それって、なんですか……?」

 あまりに怖ろしい顔をする神裂にまどかは恐る恐る聞いてみた。その質問に神裂の顔がさらに険しくなる。

神裂「……簡単に言えば、魔女のマーキングですよ。これから襲う獲物につける、ね」

まどか「それって!」

神裂「その通りです。今出現している魔女は、二体います……!」

まどか「そんな……」

 神裂が突き付けた現実にまどかは言葉を失った。

 ほむらは連絡がつかない。動けるのは神裂しかいない。

 つまり、さやかか中沢のどちらかを見捨てるしかない、ということだ。

まどか(わたしが魔法少女になれば……)

 と、そこまで考えて思い直す。ほむらの話が正しければ、それでは根本的な解決にはならないのだ。

 まどかは何も出来ない自分が悔しくて仕方なくなる。どうしようもない現実に対して何も出来ない。

神裂「私です。魔女の対処、できますか?」

 ふと、神裂がどこかに電話をかけ始めた。話の内容からまどかは僅かに希望を覚え、

『無茶言うな。ちょっと魔術使えたってそもそも俺には魔女は見えないんだぞ』

 それは電話先から漏れる声に即座に断ち切られた。希望を抱いた分、落胆は大きい。

 だが、そこでまどかは何かが引っかかった。電話先の声は男だった。その男も魔術が使えるらしい。

まどか「あのすみません……」

 魔法ではなく、魔術。最後の希望がそこに見えた気がした。

まどか「その魔術ってわたしにも、使えませんか?」

 瞬間、神裂の表情が凍る。

『……使えないことはないな。元々、魔術っていうのは才能のない人間のために生み出された技術だ。そこのお嬢ちゃんが天然の能力者でもない限り、使えるようにできてる』

 電話先の言葉に神裂の顔は困難に直面して強ばった表情から、何も寄せ付けない冷たい表情へ変化した。

まどか「それなら、わたしは魔女が見えるから、魔術を教わって——」

神裂「それはダメですよ」

 まどかの言葉を遮って、きっぱりと神裂は拒絶した。

神裂「先日忠告しましたよね、この世界には裏の世界というものがある、と。私たちから魔術を教わるということは、その裏の世界に足を踏み入れるということです」

まどか「それでも……それでも、さやかちゃんと中沢くんのどちらかを見捨てるなんてわたしにはできません……!」

 神裂は脅すように言うが、それでもまどかは屈しない。神裂の、核兵器に匹敵する人間の眼光に、まどかは真正面から向き合った。

 足が竦みそうで、体が震えそうで、それでも親友とクラスメイトを守りたくて。そんな優しくて強い意志がまどかの目からは窺えた。

『許してやれよ。今は緊急事態だ。レクチャーは俺がする』

神裂「……そうですね」

 しばらく向き合った二人だが、電話先の声に神裂は嘆息を漏らし、先に折れた。

神裂「しかし、魔女を倒そうなんて考えないでください。魔術というものはプロが使って初めて兵器として成り立つものです。貴方はあくまで、逃げるため、それが不可能ならば時間稼ぎに徹してください」

 そう言って、神裂は男に繋がったままの携帯電話をまどかに渡す。それを確かに受け取ったまどかは力強く頷いた。

神裂「私も可能な限り迅速に魔女を片付けてそちらへ向かいます」

 次の瞬間、神裂は風を置いて走り出した。まどかもそれを背に、再び病院まで走り出す。

ここまで
また明日来る


>>519
書いてもただの禁書SSなので……

投下


————

キリカ「っだぁ!」

 キリカは音すら置いてほむらに肉薄した。

 ほむらは銃を構える暇もない。仕方なく、キリカの攻撃に対して手にある盾と正面に集中して発生させた結界で対応し、なんとか受け止める。

 しかし、キリカの攻撃は一撃では終わらなかった。

ほむら「くっ……!」

 二撃、三撃と彼女は黒い疾風となって攻撃を重ねる。ほむらもそれに対して防御しようとするが、圧倒的なまでのキリカの速度に対処は徐々に遅れ、四撃目。

キリカ「取った!」

 ついに防御は決壊させられた。

 ほむらの盾は三撃目をなんとか防いだばかり。対処は遅れ、四撃目に対しては完全な無防備だった。

 そうしてキリカの魔爪がほむらの柔らかい肉を食いちぎる、その瞬間に。

 カチリ。

 ほむら以外の全てが凍ったように物理法則を無視して動きを止めた。

 ほむらの魔法である時間停止能力だ。

ほむら「魔力は温存しておきたかったのだけど」

 あらゆるものが止まった世界でほむらは一人呟きながら、固まったキリカの脇を通り抜け、背後を取る。

 続いてゆっくりと懐から拳銃を取り出し、銃口をキリカに向けた。

ほむら「残念ね。貴方は戦力にはなるけど、危険すぎるわ」

 ほむらは躊躇いもなく引き金を引く。

 銃弾は射出され、そしてその直後に他のあらゆるものと同じくして空中で固まった。

 再び、カチリと音がした。

 その瞬間に凍っていた世界は動きだし、銃弾はキリカを襲う。

 攻撃が当たったと思っているキリカに、完全な死角からの攻撃。ほむらはこれで終わると思っていた。

 しかしキリカは攻撃が空振った瞬間にその勢いを利用して体を捻った。つまり、銃弾が来るのをわかっているように、避けた。

キリカ「あまり甘く見ないで欲しいな!」

 そうしてキリカは再度加速する。体をさらに捻り、一回転するとほむらの肉を掻き毟らんと接近を図った。

キリカ「前回の戦いでキミの魔法はもう把握して——」

ほむら「それで?」

 カチリ。再び世界は停止する。

 迫り来るキリカに相対して、七発。背後に移動してさらにまた七発。計十四発の銃弾をほむらは発砲した。

 十四発の銃弾は例外なく空中で静止する。ほむらが魔法を解除すれば大量の、音速の金属片がキリカを挟み撃ちにすることになる。

 そしてほむらは古いマガジンを捨て、拳銃に新しいマガジンをセットしてから時間停止を解除した。

キリカ「——いるよ!」

 時の流れが生き返り、十四の銃弾がキリカに向けて牙を剥く。

 だが、それでもキリカの肉体を傷つけることは叶わない。キリカは瞬間的にさらに加速すると、かぎ爪で弾丸をいくつか弾き、弾丸が弾丸に激突するように方向を変えさせた。あとは連鎖反応のように弾丸によって方向を変えさせられた弾丸が他の弾丸の方向を変え、とすべての弾丸はキリカを避ける軌道となる。

 連続音が弾け、一発の弾丸がほむらの元へ跳ね返ってきた。

ほむら「厄介ね」

 ほむらはそれでも動じず、首だけを動かして弾丸を避ける。

ほむら「でも、いつまで避けられるかしら?」

 カチリ。再び世界の時間が停止した。

 色褪せた世界でほむらはゆっくりとキリカに近づく。

 そして、止まったキリカの眼前に銃口を突きつけ。

 無言で引き金を引いた。

 銃弾はやはり、射出された瞬間に空間に固定される。

 キリカの眉間まであと数センチメートルという、空間に。

 カチリ。そして再び世界は動きだす。

 コンマ一秒もなかった。音速の弾丸は数センチメートルというあってない距離は一瞬で詰める。

 そうしてキリカの頭は真っ赤なザクロになる、はずだった。

 僅か数センチ。時間にしてマイクロ秒の世界。

 その一瞬よりも短い刹那の時間で、キリカは瞬時に銃弾が迫っているという事実を認識して、避けてみせた。

ほむら「なっ!?」

 さすがにこれにはほむらも驚愕した。

 この好機を逃すキリカではない。瞬時に回避から攻撃に移行する。

 隙を突かれたほむらは盾を構えるので精一杯だった。

 キリカの攻撃が盾の上に突き刺さる。防御はしたものの、キリカの攻撃は重く、ほむらの軽い体は防御ごと吹き飛ばされてしまった。

 ノーバウンドでビルの屋上のフェンスに叩きつけられるほむら。フェンスは衝撃でひしゃげるが、なんとかほむらの体を受け止めきった。

ほむら(いくら魔法を使って身体能力を強化した上に時を遅くする魔法を使っても、あれを避けられるはずが……!)

キリカ「驚いてるみたいだ、ねッ!」

 だが、安心する暇はない。フェンスに埋まったほむらをキリカが追撃するからだ。

 今度は真正面から来るとわかりきっているため、ほむらはキリカの魔爪攻撃をしっかりと盾で受け止めた。腕力差では負けるが、フェンスを背にしたことによりほむらはキリカと拮抗する。

 防戦一方、と見せかけて、ほむらはそれで終わらない。三秒遅れて発動する次の一手を吹き飛ばされながら仕掛けていたのだ。

 正体は、キリカの背後に転がるピンの抜かれた手榴弾。

 そして爆発。攻撃に集中していたキリカの背後を、爆風と衝撃波と手榴弾の破片とコンクリートの破片が襲う。

 だが背後からの奇襲に対しても、キリカは爆発の方向を一瞥することもなく、強固な結界を張って対応した。

ほむら(これも防がれるの……!?)

キリカ「そんなもので私を殺せると思ってるなら、甘く見過ぎなんじゃないかな?」

 キリカの腕力にほむらは押されていく。背にしたフェンスがほむらの命綱だが、魔法少女の腕力に、ほむらが耐えきれなかった分の力をダメージとして蓄積し、フェンスは徐々に歪みを広げていく。

ほむら(さっきの攻撃も、まるでわかっているような……まさか!)

 ガチン、と何かが壊れる音がした。ほむらの背にあるフェンスは一気に変形し、皮一枚で繋がっているような状態になってしまう。

 あと一撃、防御の上からでも攻撃を加えられたらフェンスは崩壊するだろう。それをキリカもわかって、かぎ爪を展開したもう片手を振り上げた。

ほむら「近くに、三国織莉子がいるのね……!」

 魔爪が振り下ろされる瞬間、ほむらの一言でキリカの動きが固まった。

キリカ「は?」

 キリカの表情がキョトンとしたものになる。

キリカ「プッ……アハハハハハハハハ!」

 次に、唐突に笑い出した。

キリカ「ふざけてんの?」

 直後、表情の温度が一気に下がり、無表情になると、

キリカ「織莉子を、私の愛する織莉子を殺したのはッ! お前だろうがァァァァァァァァ!!」

 ボルテージを一気に上げるように激昂してほむらに魔爪を叩き付けた。

ほむら「かはっ……!」

 フェンスは倒壊。ほむらはコンクリートの床に背中から叩き付けられ、肺の中の空気が一気に吐き出された。

 予想外の時間差に対応策が取れなくなったほむらにキリカは馬乗りになり、マウントポジションを取る。

ほむら「ど、どういうこと……!? 私が織莉子を殺した!?」

キリカ「とぼけるの、とぼけるの、ねえ今更とぼけるの? 織莉子を知ってて織莉子の病室に来て織莉子の魔法を知ってて、それでとぼけるの?
    ふざけんな、ふっざけんなよッ!」

 そこからかぎ爪で殴打。さらに殴打。殴打。殴打。

ほむら「ちょっ……待って!」

 ほむらが言葉をかけてもキリカは止まらない。

 一発一発が重いキリカの攻撃が直撃しては一溜まりもない。ほむらは結界を張り、苦し紛れの防御を展開した。

キリカ「織莉子はもういないんだよ! 私の愛した織莉子にはもう会えないんだよ! お前が殺したせいで! お前のせいで!」

 そして結界の上からキリカは殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。

ほむら「呉キリカ、話を——」

 殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。

キリカ「ネタバレしてあげようかッ! 私がお前の攻撃を避けられたのは周囲に薄く何重にも結界を張っておいて! それが破られた瞬間に! 肉体を自動的に動かす魔法をかけておいたのさ!」

 殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。

キリカ「魔法少女ってのは! ソウルジェムが本体だからねッ! 抜け殻の肉体に対してならこういうこともできるんだよォッ!」

 殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。

ほむら「私の話を……聞きなさい!」

 殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。

キリカ「でもそこには織莉子はいない! 織莉子の魔法はない! お前のせいで!」

 殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。

キリカ「お前を殺して、織莉子が恐れたワルプルギスの夜を越える魔女になる人間を殺して! 私も死ぬ!」

 殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。

キリカ「それが私の今の願いだよ!」

 前面に集中することで強度を増したほむらの結界だが、キリカの怒濤の連撃に徐々に綻びを見せ始める。

ほむら(まずい、話が通じない……!)

 このままでは殺される、ほむらはそう危惧して、

 大量の銃声が爆音のように鳴り響いた。

 自動的にキリカの体が動き、自分を守るように、そして結果的にほむらも守られるように結界が展開される。

 そこに大量の銃弾が突き刺さり、さらに大音量が鼓膜を攻撃する。

 銃声が止み、砕けたコンクリートが粉となって出来た土埃が晴れる。

 そして、襲撃者の正体が見えた。

ほむら「何よ……これ……」

 襲撃者は大勢だった。ほむらたちのいたビルの屋上の入り口に、向かい側のビルに、道路を挟んで向かい側のビルにもいた。

 ずんぐりした体だった。ドラム缶を被ったような巨大な頭をしていた。巨大なショットガンのようなものを持っていた。

キリカ「学園都市のロボット!? どうしてここに、こんな時に!」

 HsPS-15。通称『ラージウェポン』がそこにいた。

投下終わり
キリカとほむらって色々と似た者同士だよね

追記
青空文庫版
http://db.tt/1oiETUzD
誤字とか修正してあったり、ルビ表記とかに対応してたりするから楽しんでくれてる人は青空文庫対応ソフトで読むと幸せになれるかも
随時追加修正はする
あとで学園都市編も編集してアップするつもり

昨日投下するつもりが寝てしまって投下できなかった
今から投下する


————

 足が震えて、肩が震えて、今にも逃げ出したくて。

 それでも美樹さやかはグリーフシードの監視に徹していた。

さやか「まどか、まだかな……」

 何か口に出してないと気が狂いそうで、さやかは呟いた。

QB「まだ時間はかかるんじゃないかな? まどかの脚力ではそんなに速度は出ないだろうし」

さやか「……うん、そうだね……」

 そんなさやかにキュゥべえは現実的な推論で答える。

 あまりに簡潔すぎる応答にさやかは繋げる言葉を失った。

さやか(転校生が言ってた通り、本当に感情がないんだ……)

 どうしても喋る台詞が出てこなくて、無言でキュゥべえを見つめながらさやかは考える。

QB「どうしたんだい、何か不思議なものでも見つけたのかい?」

さやか「……なんでもない」

 不気味なものを見るようなさやかの視線にキュゥべえはトンチンカンな質問をした。やはり、感情がないらしい。

 ——まどかが走り出してからすぐに、さやかの周囲は魔女の結界に取り込まれた。元々、グリーフシードの目の前にいたさやかは結界の最深部に引きずり込まれる形となり、今は不気味な静けさを持つグリーフシードと対面している。

 そしてまどかが走り出して十数分。さやかにとっては、もう一時間以上にも感じられた、その時。

 ドクン。

 と、グリーフシードが脈を打った。

さやか「ひっ……!」

 思わずさやかは後ずさる。尻餅を着きそうになったが、なんとか足に力を集中して持ち堪えた。

QB「これは……」

さやか「ど、どうしたの……?」

 キュゥべえが訝しげな声を上げた。不安が、さやかの精神を埋め尽くしていく。

QB「まずいよ、これは。どこか近くで強力な魔力が激突している。その刺激で孵化が早まるかもしれない」

さやか「そんな……!」

 果たして、その不安は的中した。あまりに理不尽な現実に、涙すら浮かんできた。

QB「でも、まだ慌てるような時間じゃないよ。多少、魔力の刺激があっても、これくらいならまどかが戻ってくるまではなんとか——」

 ドクン。

 キュゥべえの続ける言葉にさやかは安堵しかけたが、その言葉はグリーフシードから伝わる二度目の鼓動で区切られた。

QB「いや、前言撤回だね。これはまずい……どこか別の場所でも魔女が発生したらしい」

さやか「何それ……!?」

QB「言った通りのことさ。これだといくつもの魔力が共鳴し合って、グリーフシードはすぐにでも孵化してしまうよ!」

さやか「嘘……でしょ……」

 酷すぎる現実にさやかの声は掠れた。

 ドクン!

 その絶望に応えるように、悪夢の卵はさらに強く脈を打つ。

さやか「それじゃあたしたちどうなるの!?」

QB「十中八九、僕とさやかは命を落とすことになるだろうね」

 そのキュゥべえの言葉に、さやかは怯えより怒りが沸き上がった。

さやか「そうじゃない、病院のみんなはどうなるの、って聞いてるんだよ……」

QB「同じことだよ。魔女の結界はこの病院を丸ごと包む。生命力を吸い取られて、弱っている人間なら死んでしまうだろう。患者とかなんかは、特にね」

 ドクン!

 再度、グリーフシードは脈打つ。

さやか「ふざけないでよ……」

QB「僕は至って真面目だよ?」

 ドクン! ドクン!

 その脈の間隔がどんどん狭まっていって。

さやか「ふざけないでよ! 病院のみんなは、恭介は関係ないでしょ! いい加減にしてよ! なんで魔女とか魔法少女とか、そんなものに巻き込まれなくちゃならないのさ!」

QB「それは仕方ないよ。魔女の脅威は誰にも等しく降りかかる。だから魔法少女たちが頑張って退治してるんじゃないか」

 ドクン! ドクン! ドクン! ドクン! ドクン!

 言い争いをする声にも覆い被さるようになってきて。

さやか「あんたが魔女を作ったんでしょうが! なんでそんなことが言えるのさ!」

 ドクン! ドクン! ドクン! ドッドッドッドッドッドッ!

QB「そんなこと言われても、魔女になってしまうのは構造上、仕方の無いことだからね」

 鼓動が最早、さやかの心音よりも早くなって。

さやか「……もういい」

 ドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッ!

さやか「恭介を守れるのはあたししかいないじゃん……するよ、契約!」

QB「……いいんだね?」

 ドッドッドッドッドッドッドドドドドドドドドドド!

さやか「化物になっても、守れる力があるなら、あたしにしか出来ないなら、何にだってなってやる……」

QB「わかったよ。君の願いはなんだい?」

 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!

さやか「あたしの願いは……願いは恭介の腕を治すこと」

 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!

QB「——契約は成立だ」

 ——パリン。

 そうしてその日、見滝原市立病院で一人も魔法少女と、一体の魔女が生まれた。

投下終わり
さやか☆マギカ(ハードモード)

誤字発見訂正
>>547
さやか「あたしの願いは……願いは恭介の腕を治すこと」

さやか「願いは……あたしの願いは恭介の腕を治すこと」

投下


 烈風が舞い起こる。光が悪趣味な結界内を照らし上げる。

さやか「これが……あたし?」

 さやかはまじまじと自分の姿を見た。

 藍色を基調とした衣装。背中にマントを翻し、硬質な胸当てを備えた軽装の鎧とでも言うべき姿は、今の今まで着ていた見滝原中学の制服とはまるで違い、さやか自身でも魔法少女、つまりは異形の者へと変貌したのがすぐにわかった。

さやか「化物、って言うからさ、身構えてたけど、見た目はかっこいいじゃん」

 自分の体を確認して、さやかは呟く。

QB「さやか構えて! 来るよ!」

 そんな能天気なことをしているさやかに、いつの間にか近くからいなくなっていたキュゥべえから鋭い叱責が飛んだ。

 一気に現実に意識を引き戻されたさやかは慌ててグリーフシードの、魔女の様子を確認する。

 それはやけに足の高い椅子の上にちょこんと座っていた。

 まるでまどかの持っていそうなぬいぐるみにも見えた。

 魔法少女アニメにマスコットとして出て来そうな愛らしい姿で、商品化されれば小さな女児から大きなお友達の心までしっかり掴みそうな『モノ』だった。

さやか「え、あれが魔女……?」

 以前、自分とまどかを襲った魔女と比べて、あまりに禍々しくない、イメージと乖離した姿にさやかは戸惑う。

QB「お菓子の魔女……油断しない方がいい、その魔女はとても強力な魔女だ!」

 そうキュゥべえが言うが早いか、お菓子の魔女は行動を始めていた。

 さやかはグリーフシードの目の前にいた。つまり、魔女の座る椅子の長い足の足元にいるということだ。

 よって魔女はさやかとの距離を縮めるために椅子の足元を目がけて椅子から転げ落ちるように自由落下を開始した。

さやか「あわわっ……!」

 魔女は九・八メートル毎秒毎秒の加速度でどんどんスピードを上げながらさやかの元へと接近する。

 さやかが慌て始めた頃には既に魔女はさやかの頭から三メートルほどの高さにまで落下していた。

さやか「く、くんな!」

 反射的にさやかは振り払うように目を瞑って腕を振る。圧縮された綿を殴ったような感触がした、とさやかは思った。

さやか「あれ……?」

 ドゴンという重いものが激突する音がして、さやかは目を開けた。すると何も考えずに振った拳がヒットしたのか、魔女は何回かバウンドしながら遠くまで吹き飛ばされていた。

さやか「お、おぉ……これが魔法少女パワーか……」

 自分の手を確認して、握ったり開いたり。

QB「さやか、何してるのさ! 早く武器を出して!」

 自分の力に自分で驚いてるさやかに二度目の叱責が飛ぶ。

さやか「新人にあんまり無茶を言わないでよね……!」

 武器を出す、という指示に対してさやかは聞き返すことはなかった。なんとなく、まるで自分の体を動かすにはどうすればいいか知っているように、武器を生み出すにはどうすればいいのかが自然とわかっていたからだ。

 さやかはバサリとマントを翻す。するとマントが一瞬隠した空間にさっきまで無かった剣が一本、地面に刺さるようにして出現していた。柄の部分に手を保護する大きな鍔のついた片刃の長剣、サーベルだ。

さやか「行っくぞお!」

 サーベルを抜いたさやかは掛け声と共に地面を強く蹴る。一瞬で高速鉄道に匹敵する速度まで加速し、魔女までの距離を一気に詰めた。

 速度を威力に変換するように、体重を載せて魔女に一閃。ぬいぐるみのような小さな体は撥ね飛ばされるようにして宙を舞った。

さやか「次!」

 間髪入れずにさやかは空中に浮いた魔女の体を追いかけるようにして再度地を蹴る。魔女は数メートル上空まで舞い上がっていたにも関わらず、彼女の体はそれを軽々と追いつく跳躍を見せた。

 今度こそ、魔女とさやかは目と鼻の先で対面する。

さやか「だぁっ!」

 そして魔女が何か行動をするより早く、さやかはサーベルを振り下ろした。魔女は重力加速度を大きく超えた加速度で地面へと叩き付けられる。

さやか「まだまだ!」

 さらに着地したばかりの魔女にサーベルを投げつけ、追撃。

 魔法少女の腕力で投げつけられたサーベルは矢のような速度で魔女に命中し、直立するようにして突き刺さった。

さやか「ふぅ……なんだ、楽勝じゃん」

 それを背にして、さやかは綺麗に着地すると、一息吐くように呟いた。

さやか「さーて、とどめと参り——」

QB「さやか!」

 余裕たっぷりにサーベルを出そうとしたところで、キュゥべえの叫び声が彼女の耳に届く。

 がぶり、と肉の食いちぎられる音がした。

投下終わり
さやかちゃんは馬鹿な子じゃないよ、不安に押し潰されそうだけど、それでも元気でいられる強い子だよ

投下

さやか「あ……がっ……」

 間一髪、キュゥべえの声は間に合った。

 声に反応して危険を察知したさやかは本能的に身を捩り、どうにか迫り来る何かの直撃は回避した。

 それは、恵方巻のようだった。

 根本はお菓子の魔女。そこからそれは伸びていた。

 直径はさやかの身長ほどもあったが、あまりにも全長が長いため全体像を見ると紐のように見えた。

 それが、さやかの肉を咀嚼していた。骨を噛み砕いていた。血を啜っていた。

さやか「う、うそ……」

 さやかは、左腕が、肩から先が消失していた。

 血がぼたぼたと垂れ、脇腹を伝う、というより、流れる。

 痛みはあまり感じられなかった。でも、腕の感覚も何も感じられなかった。

さやか「う、うわああああああああああああああああああああ!!」

 さやかはそれで腕がなくなったのを実感した。

 体の一部の損失。つい数分前まではただの女子中学生だったさやかにはその現実は衝撃的すぎた。

 くるりと口元を血で濡らした魔女が振り向く。

さやか「ひっ……」

 死が鮮烈に、近くに感じられた。

さやか「く、くんなくんなくんな!」

 ばさりとマントが翻ると大量のサーベルが出現した。さやかは狂ったようにそれを魔女に投げつける。

 目にも止まらない速度でサーベルは恵方巻のような体をした魔女に飛来し突き刺さるが、魔女の口から脱皮するかのように新しい魔女が出現して攻撃は意味を成さない。

さやか「あああああああああああああああああああああああああああああ!」

 いくら攻撃しても魔女の進撃を止められないと理解したさやかは魔女に背を向けて逃走する。

 一飛びで数メートル飛び、また数メートル飛び、を繰り返そうとして、がぶりというまた音が聞こえた。

 さやかは物凄いスピードのまま前のめりに倒れ、地面に顔面をぶつけた。あまりの速度にそのままバウンドし、何度も地面に体を打ち付け、やっと俯せになって停止する。

さやか「な、なん——」

 突然バランスを失ったことに違和感を覚えて足元を見ると、見た瞬間に言葉を失った。

 今度は、足がなくなっていた。

 脛の半ばから下が消えて、赤い液体を垂れ流していた。

 そして足を確認するために後ろを向いたせいで、後ろに迫っているものが見えてしまった。

 すぐ後ろに、魔女がいた。

 それはデフォルメされた恵方巻のような顔でぺろりと可愛らしく舌なめずりをしていた。

 まるで、「いただきます」と宣言しているかのように。

さやか「い……嫌……」

 がばり。魔女の大きな口が開けられる。

 そこで精神は限界だった。

 ショートパンツに暖かいものが広がる感触があった。

さやか「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 がぶり。


 そして魔女の口が閉じられた。




さやか「……あれ……?」

 思わず目を閉じてしまったさやかだが、いつまで経っても自分が食われることはなかった。

 魔女はさやかを追い越してさやかの後ろにある足の長い机を食べていた。

 さやかがそれを認識した直後、魔女の口腔内が爆発。

 魔女は口から黒煙を吐き出しながら、脱力する。

「結局、最初から助けてれば良かったってわけよ」

 聞き慣れない調子の良い少女の声がした。

「途中で手を出したら魔法少女のテリトリー争いになる可能性もあるだろ。最初にあたしらが会った時のことをもう忘れたのか?」

 聞き慣れない乱暴な少女の声がした。

「お姉ちゃん大丈夫?」

 聞き慣れない幼い少女の声がした。

さやか「だ、誰……?」

 恐る恐るさやかが見上げると、三人の少女がいた。

 金髪の快活そうな少女。ポニーテールの赤を基調にした衣装の少女。猫耳のような帽子を被った少女。

「私はフレンダ、フレンダ=セイヴェルン。こっちが佐倉杏子で、こっちの子が千歳ゆま」

 金髪の少女がポニーテールの少女、帽子の少女を順に顔で指して言った。

杏子「安心しな、あたしらは助っ人だ。通りすがりの魔法少女と、」

フレンダ「元魔法少女のね」

 そうして、時間を越える二つの因果は交差する。

投下終わり
やっとフレンダ出せた……
さやかちゃんマジミネラルウォーター

ごめん、俺、もしかしたら大きな思い違いをしてたかもしれない
設定資料集にはさやかちゃんはフツーにパンツと書いてあるが、このパンツというパンツ、俺は短パンのことだと思っていた
パンツじゃないからあんなミニスカートでも恥ずかしくないんだと思っていた……
清涼飲料水が広がったのはショートパンツ→パンツに訂正する

あと、今日まどマギ展に行って来て記念ブックレットもらって読んだけど、虚淵的には見滝原市は未来都市だったんだね
まどかが好きな歌手が氷川きよしだったり、世界人口が69億人だったりして現代だと思って、今の前橋をイメージして書いてたから田舎って書いちゃったわ……
公式見てみたら「近年になって急速に開発が進み」ってあるね。前橋の魔法少女が現実では都市としての代名詞を奪っている高崎へのコンプレックスから都会化を願ったりしたんだろうかw
http://www.madoka-magica.com/special/keyword/mitakiharacho.html
ともかく、学園都市に比べたら、ってことにしておいてくれると嬉しい
(公式サイトでは見滝原町になってるけど、病院が見滝原市立病院なので恐らく見滝原市見滝原町だと思われるってか俺は思ってる)

という訂正だけ

投下する


ゆま「はい、これで治ったよ」

 さやかの目の前に現れた少女たちの内、一番幼い少女、ゆまが杖を振るうとさやかの体が光に包まれた。

 すると光の中の傷が一瞬で消え去った。失った足の先、左腕までもが服ごと再生する。さやかの神経に確かな感覚が戻ったのがまやかしではない証明だった。

さやか「あ、ありがと……」

 さやかは未だに状況の変化についていけたわけではないが、自分の体を治癒してもらったことだけは理解して、とりあえずお礼を言う。

杏子「さて、と。まずはあいつを片付けるか」

 ポニーテールの少女、杏子はさやかの体が完治したことを確認すると、どこからともなく槍を出現させて恵方巻きのような魔女を睨んだ。

 睨まれた魔女はそれに反応するように攻撃行動を開始する。

杏子「だりゃぁっ!」

 杏子は強く地を蹴った。

 一飛びで数メートルもジャンプした彼女は一瞬でお菓子の魔女に接近し、剛性の柄がしなるほどの勢いで槍を叩きつける。

 威力で魔女の細長い体がくの字に折れ曲がる、ように伸びた。

杏子「なにっ!?」

 ゴムのような弾性のある反応だった。その体によって衝撃は分散させられ、破壊力は魔女に伝わらない。

 魔女は攻撃を受けても、体が変形しても進路を変えなかった。素早く杏子の背後に回り、さらにとぐろを巻くように一周し、正面に再度現れてから口を開ける。

 杏子をまるまる飲み込めるほど大きく開けられた口。さやかの肢体を食いちぎった口。

杏子「チッ!」

 杏子は即座に槍を多節棍モードへ変換し、それを背後斜め下にある高い椅子の長い足まで伸ばした。槍がその椅子に巻き付いたことを感触で確認すると杏子は槍を一気に縮め、空中にある自分の体を素早く移動させる。

 その直後、魔女の口が閉じられた。しかしもちろん空振り。

 杏子は垂直な椅子の足に地面と平行になるようにして立った。

杏子「やっぱり速ぇなオ——ッ!」

 そして即座に魔女の様子を確認しようと前を向くと、直前に大口を開けた魔女が迫ってきていた。

 本能的に足場を蹴ったがもう遅い。杏子の瞬間的な移動範囲をまるまる飲み込む巨大な口からは逃げられそうもなかった。

杏子(やべえ……!)

 だが、魔女が食らったのは杏子ではなかった。

 杏子が迫り来る口と牙に構えた瞬間、魔女の顔面が爆発した。

フレンダ「直撃ってわけよ!」

 金髪の少女、フレンダが放ってた携帯型ロケットランチャーの弾丸を魔女は食らったのだ。

杏子「助かったよ、けど……」

 フレンダの横に着地しながら杏子はお礼を漏らした。

 爆発によって生まれた黒煙が晴れる。

 魔女は口から残りの黒煙を吐き出しながら脱力していたが、未だ健在。やはり小型ミサイル一発では有効なダメージを与えられないようだった。

フレンダ「うっそぉ……」

杏子「こいつ、速さも堅さも尋常じゃないぞ」

 フレンダは驚愕し、杏子は警戒を強める。

杏子「あいつの戦いっぷりを見る限りまるっきり素人の新人みたいだし、こいつは荷が重すぎたな」

 杏子はさやかを目で示す。

さやか「し、仕方ないでしょ! 今さっき契約したばかりなんだから!」

 それに反論するようにさやかは言い訳をした。

杏子「今さっきだと? ってことは、あー、そういうことか……それは悪い……」

 その内容に杏子はばつの悪そうな顔をする。

 表情と後ろめたそうな口調にさやかは、この乱暴そうで優しい少女が何を考えてるのかおおよそ察することができた。

フレンダ「私たちが着いた時はもう戦ってたからてっきり先客かと思っちゃったわけよ」

 フレンダの続く言葉にその察知は確信になる。

さやか「……いいよ、別に。あたしは覚悟して契約したから。魔法少女がどんなもので、最後がどうなるか、知った上で決めたことだから」

 さやかは静かに強い口調で言った。その言葉と様子に三人は目を見張る。

さやか「それでも、叶えたい願いと助けたい命があった、ただそれだけのことだよ」

 強い決意がそこにあるのが、さやかのことを何も知らないフレンダたちでもわかった。

杏子「……へっ。魔女にビビってちびってたくせに言うじゃねーか」

さやか「んな!? あ、あれは」

ゆま「来るよ!」

 さやかが真っ赤になって弁解しようとしたところで、ゆまが鋭く叫んだ。

 全員は瞬時にその意味を理解する。魔女の攻撃が再開したのだ。

 杏子とゆまは即座に結界を張った。さやかもそれに一瞬遅れて、重ねるようにして結界を張る。

 魔女の攻撃は単純だった。あの質量とスピードを生かした体当たりだ。

 原始的にして圧倒的な粉砕力を持つ攻撃が三重の結界に突き刺さる。衝撃がすさまじい音となって周囲に拡散した。

ゆま「うぅっ!」
杏子「こいつ……!」
さやか「つ、強っ……」

 三重の結界すべてに罅《ひび》が入りながらも、魔女の巨体は受け止めきった。しかし魔女の攻撃はそれで終わらない。

 魔女が口を大きく開けた。結界ごと全員を飲み込む算段らしい。

さやか「や、やばいよ、これ持たないよ!」

 罅割れた結界では魔女の咀嚼には耐えられないだろう。さやかは再び明確になりつつある死に焦った。

 しかしそれはさやかだけではなく、誰もがわかってることだ。

フレンダ「いいから結界解いて!」

 さやか以外は誰も焦らなかった。フレンダなんてすでにロケットランチャーを構えていた。

 フレンダは杏子とゆまが魔女の攻撃を受け止めることを信じ、杏子とゆまはフレンダが受け止めてもなんとかしてくれることを信じていたのだ。

フレンダ「これでも食らってろっつーの!」

 フレンダの言葉通りさやかは結界を消した。杏子もゆまもそれに合わせる。

 その瞬間、二発目のロケット弾が魔女の腔内に打ち込まれた。至近距離からの爆発だが杏子とゆまが再度結界を張ったため、魔法少女ではないため肉体を強化できないフレンダでも被害を受けることはなかった。

フレンダ「一発でダメなら何発でも、ってね!」

 さらにフレンダは懐から八本の瓶を取り出し、全ての指の間に収めた。瓶の中には透明な液体がなみなみと入っている。

 即座に行動の意味を理解した杏子がフレンダの体を持ち上げ、さやかの手を引いてその場から脱出した。ゆまも急いで杏子に続く。

 担がれながらフレンダはその瓶を魔女に投げつけた。

 ガラスの割れる音がして、瓶の中身が魔女にぶちまけられる。液体が空気に触れたと思った瞬間、それは激しい音と共に爆発、炎上した。

 魔女は轟々と音を立てながら辺りを舐め尽くす炎に包まれる。

さやか「や、やった……!?」

杏子「まだだ!」

 荒れ狂う炎の海を見て一瞬安堵したさやかの希望的観測を杏子が即座に否定した。

 杏子の言う通り、あの爆発でも熱量でも、魔女を倒すことは叶わなかった。

 魔女は汚れすら感じさせない綺麗な体のまま、にゅるりと巨体を持ち上げて現れる。

 フレンダを投げ捨てるようにしておろした杏子が魔女と真っ正面から睨み合った。

 魔女は杏子たちを見下すようにさらに高度を上げると、大口を開けて再び突っ込んでくる、と思えば、

杏子「外れだよ」

 魔女は杏子たちを飛び越えてなぜか魔女の結界内に散らばるお菓子の一つに食いついた。

さやか「えっ……?」

杏子「ちょっとした魔法でな、あいつはお菓子があたしたちだと錯覚してるのさ」

 不思議そうにするさやかに杏子はおおざっぱに説明する。

フレンダ「杏子!」

杏子「おっ?」

 そんな杏子にフレンダが何かを投げ渡した。さやかにはそれがボールペンなどで書き損じた時に使う修正テープのように見えた。

フレンダ「打撃がダメならあいつを焼き切ってみるってわけよ!」

杏子「りょーかい」

 フレンダに言われて、杏子はその文房具のようなものを柄に当てた。

 すると槍の柄が一気に伸び、まるで生きた蛇のように空中を駆ける。

 伸びた槍に引っ張られるようにしてビーっと修正テープの芯が回る音がする。白いテープは伸びた槍の柄に一本の線を引いていた。

 意思を持ったかのように動く槍の柄は魔女という大蛇を締め上げるように何重にも巻き付いた。

 お菓子を杏子たちだと思って必死に貪っていた魔女はそれでやっと自分が勘違いしていることに気がついた。

 その時にはもうフレンダがペンのようなものを杏子の槍に投げつけていた。

 バシュッという弾ける音がして火花の線が杏子の槍を走った。

 修正テープのようなものはフレンダの愛用する小型の爆薬。ペンのようなものはそれの発火装置。

フレンダ「ただ一本線を引いて使うだけでも鋼鉄のドアも焼き切るこのツール、何重にも巻き付けたらどうなるか、ってね!」

 火線が魔女の円周を囲った。魔女が悲鳴を上げるかのように天を向いて口を大きく開ける。

 しかし魔女の口の中から出てきたのは悲鳴ではなく、新しい魔女の体だった。

フレンダ「硬い上に全身を攻撃しないとダメか……っ!」

 自分の提案した攻撃の効果のなさにフレンダは苦々しい表情になる。

 いくら攻撃してもダメージを与えても一瞬で倒さない限り際限なく新しい魔女が生まれるのが特性らしい。

 しかもその一体一体がダメージが通りにくく、おまけにスピードもパワーも申し分がないときた。

杏子「こいつはちょっと、いや、かなり骨が折れるかもしれねーな……」

 ベテランである杏子ですら冷や汗を浮かべるほどの魔女だった。さやかはそれに気がついて、改めて目の前の魔女を脅威に感じる。


まどか「さやかちゃん!?」


 そんな最悪な場所に、今さやかが最も来て欲しくない友人が現れたのは、

さやか「嘘っ……まどか、来ちゃダメ!」

 魔女が舌なめずりして、再び行動を開始した瞬間だった。

投下終わり
ほむほむがシャルを瞬殺できるのは攻略方法知ってるからってことで

今気が付いたけど、書き忘れてた
フレンダが投げつけた瓶の中身はイグニスね

すまない、昨日は体力的に無理だった・・・
今から投下する


  ————

ジーンズ店主『いいか、お嬢ちゃんには確かにいくつかの魔術を伝授した。幸いお嬢ちゃんは手芸部だったから俺が得意な服飾系の魔術を効率よく学ぶことはできただろう。俺の暗示で多少なりとも宗教防壁を構築できただろう。だが、それでもお嬢ちゃんは専門の教育を受けたわけじゃない一般人だ。安全に魔術を使えるのは三回、いや二回だと思っておいた方がいい。もう探査に一回使っている分、残り一回だ。それ以上使えば異界の毒に脳が犯されてとんでもない頭痛に襲われることになる。無理して使い続ければ、痛みで狂って廃人になっちまう。だから絶対に乱発しちゃいけない。ここぞ、という場面で使うんだ』

まどか「……はい!」

 電話越しの男の声にまどかは強く頷いた。

 まどかは結界の最深部に向けて走っていた。そこで最後のレクチャーとして注意点を聞かされていたところだ。

ジーンズ店主『俺は神裂の方を支援してすぐに送り届けるように努力する。お嬢ちゃんも絶対に無茶はするなよ』

 その忠言を最後に電話は切れる。

 まどかはいよいよ覚悟を決める時が来ているのを認識して、自分の手の中を強く見つめた。

 小さな手に乗った手芸用の針が一本だけ刺さった針刺、探査用の術式が行くべき方向を示している。結界の最深部まではもう目前のようだ。

 そしてまどかは結界の最深部に辿り着いて、親友が魔女に襲われそうになっている瞬間を目にしてしまった。

まどか「さやかちゃん!?」

 思わずまどかは親友の名前を叫んだ。その声を聞いたさやかが表情の色が驚愕、続いて真っ青になったのをまどかは見た。


さやか「嘘っ……まどか、来ちゃダメ!」

 さやかもつい声を張り上げてしまう。しかしそれは明らかな失敗だ。二人の声で魔女は新たな闖入者の存在に気が付いた。

杏子「一般人だと!?」

 それを諫めるべきである杏子さえも面食らうほどにまどかの登場は予想外だった。

さやか「なんで……」

 さやかはまどかがここまで来るとは考えもしなかった。

 まどかが呼び行ったのは神裂だ。神裂は人間だった頃のさやかでは目で追うことすらできない速度で駆けることができた。

 だからこそ、事態を考えれば結界の場所までまどかが案内した後は神裂だけが結界の最深部まで突き進むのが一番良い判断のはず。

 それはまどかにも理解できていたはずだ。まどかがどんなに優しい少女であっても、友人を助けるためならば確率の高い方法を選ぶはずだ。

 ところが、まどかの行動はさやかの予想だにしないものだった。

さやか「なんでまどかだけが来るの……!?」

 まどかは神裂を連れずに単身で結界の最深部まで乗り込んできていたのだ。

 当然、そんな格好の獲物を魔女が見逃すわけがない。

 攻撃準備の整っていた魔女は視線をさやかたちからまどかへとシフトさせた。

 つまり、標的はまどかになった。


フレンダ「まずいっ!」

 魔女の動きは高速だった。肉体が人間のフレンダは言うまでもなく、魔法少女であるゆまも、近距離戦闘に長けたさやかも杏子も魔女の動きには間に合わなかった。

さやか「だめえええええええええええええええええええええええ!」

 魔女は一瞬でまどかの眼前まで移動した。口が大きく開けられる。一般人であるはずのまどかは対抗策など無論持ってないはずで、そこで絶命する光景をさやかは想像した。

 しかし、そのさやかの予想は外れる。

まどか「わわっ!」

 まどかの目の前に小さなハンカチが突然舞い上がった。と思えばハンカチはほどけるようにして一本の糸になり、魔女に絡みついた。

 それは巨大な顔面を雁字搦めにし、口をより大きく開けさせようとする。魔女はそれに反発して逆方向に力を入れた。結果、二つの力は拮抗することになり、魔女の牙は止まる。

 その一瞬の現象にまどか以外の全員が意表を突かれた。

フレンダ「ど、どういうこと!? 『原石』!?」

杏子「いや、違ぇ! 魔力の流れがあった! でも、こんな魔力、魔法少女じゃあり得ねぇ!」

フレンダ「じゃあどういうことってわけよ!」

さやか「まどか……もしかしてあんた、魔術ってやつを……!?」

ゆま「それより、早く助けないと!」

 ゆまの言葉で三人ははっとした。牙で食らうことでは攻略できないと悟った魔女は口を大きく開けたまま攻撃方法を体当たりに切り替えてまどかを襲おうとしているのが見えた。


 一撃目の牙を容易に防いだ糸は二撃目の体当たりにはその効果を発揮しなかった。魔女が攻撃方法を切り替えた瞬間にただの糸のように千切れ、魔女の体を自由にしてしまう。

さやか「まどかッ!」

 最悪の場面を想定したさやかの悲痛な声が響く。だがその予想もまた外れることになる。魔女が糸に戸惑っている間にまどかはとっくにその場から逃げ出していたのだ。

 あまりに大きく口を開けすぎた魔女は前方を確認できなかったらしい。誰もいない地面へと顔面を突っ込んだ。

まどか「ど、どうしよう……もう一回分使っちゃっ……!」

 魔女は手応えがないことに気がついた。すぐに周囲の状況を確認してまどかを発見すると、今度こそ小さな体を叩き潰さんと大きな体を鞭のようにしならせる。

 人間であるまどかには反応をすることすら許さない。気がついた時には大きな影がまどかを覆い隠していた。

 それでも今度こそ、が間に合ったのはさやかと杏子だった。さやかはサーベルで杏子は槍で、魔女の圧倒的な質量を受け止めていた。

まどか「さやかちゃん、その姿……」

 そんな人間離れした力といつもとは違う姿のさやかを見てまどかは絶句した。つまり自分は間に合わなかったということになる。

さやか「そ、そんなことより、まどか、神裂先生は、どうしたの!?」

 巨大な重量を受け止めて息絶え絶えのさやかが言う。

まどか「それがね、他にも魔女が発生してね、中沢くんが襲われてね……でも、そんな……」

杏子「しっかりしやがれ! まだあたしらは死にかけてるんだぞ!」

 あまりに容赦のない現実にしどろもどろになってしまうまどかを杏子が一喝した。


まどか(そうだ、時間稼ぎ……まだもう一回ならいける、はず……!)

 杏子とさやかは精一杯だった。すなわち、この状況を切り抜けるにはその二人ではない三人目の力が必要となる。

まどか「こっちだよ!」

 魔女に向けて精一杯、自分の存在を誇示しながらまどかは巨大な影から脱した。

 魔女はもちろん、そのまどかに視線を向ける、その時。

まどか「『光あれ《ウェヒオール》』!」

 まどかは真っ青にインクが染み込んだハンカチを取り出して、日本語ではない言葉を声の限りに唱えた。その言葉を口にした瞬間、電撃のような痛みがまどかの脳内を駆け抜ける、が無視した。

 そしてまどかから光が、正確にはまどかの周囲に光が生まれた。

 光源を直視していた魔女は視界から思わぬ刺激を受けて怯む。

 するとさやかと杏子を押さえつける力が弱まった。杏子はその隙を逃さず、魔女の下から脱出する。

 反応こそ遅かったが、さやかも杏子に手を引かれることでチャンスに気づいて共に脱出することができた。

 ついでにさやかは途中でまどかを拾い、魔女との距離は一気に広がった。


杏子「おいあんた、何モンだ?」

 さやかがまどかを降ろすと同時、杏子は訝しげにまどかを睨んだ。

 まどかはその視線に一瞬怯えた表情を見せる。

杏子「さっきの言葉、あれは聖書の」

さやか「ちょっとやめてよ、まどかは助けてくれたじゃん!」

 その様子にさやかが敏感に反応した。庇うようにしてまどかの前に出る、前に魔女が再び動き出す。

 凶悪な邪蛇は目が慣れたのか、再び獲物を食らわんと鎌首をもたげていた。

杏子「チッ……まあいい、後でそのカラクリ、たっぷり聞かせてもらうぞ!」

 一瞬、杏子はさやかと睨み会うが、すぐに意識を魔女に切り替える。

フレンダ「杏子、準備できたってわけよ!」

 その時フレンダの声が響いた。その合図に杏子は獰猛に微笑んだ。

杏子「よし、任せろ!」

 もう杏子の気分は狩られる獲物ではない。魔女を狩る側だ。

 瞬間、杏子は爆発的に加速する。

 お菓子のちりばめられた地面は脚力で砕かれ、あまりの加速度に周囲に突風が吹き荒れた。

 杏子は真正面から魔女へと突貫する。魔女はその杏子を迎え撃つように頭をさらに上げた。

 魔女は頭を振り下ろす。こちらも爆発的な加速度で、高速で動く杏子という線を丸ごと叩き潰した。


さやか「ちょっ……突っ込んじゃ——」

 どごんという大音量の重低音が全員の胸を打つ。

さやか「——あれ?」

 さやかはそこで杏子が叩き潰されたと思った。考えるまでもない、あれはさやかと杏子、つまり身体能力が高く近接戦闘を得意とする魔法少女が二人がかりで受け止めてやっとの代物。単身突っ込んだ杏子は象に踏みつぶされた蟻のようにぺしゃんこになってしまうだろう。

 しかしその想定は大きく外れる。確かに地を駆け叩き潰されたはずの杏子は大きく飛んで魔女の頭上で槍を構えていた。

杏子「間抜けがっ!」

 その槍は巨大だった。それとの比較によってまるで大蛇のような魔女が通常の大きさの蛇だと錯覚するくらいだ。

 杏子はその槍を凄まじい腕力で投擲する。高速で叩きつけられた大質量は重力も相まって爆撃のような破壊をまき散らした。

 魔女は磔にされたように地面に縫い止められる。けれど、それでもやはりお菓子の魔女という強大な魔女は終わらない。

 口から新しい大蛇が生まれる。それはやはり傷一つない全快の肉体。

杏子「次から次へとゴキブリみたいに沸きやがって!」

 だが、それは杏子もわかっていたことだ。さらに杏子はもう一度巨大な槍をその手に出現させていた。


杏子「オラァッ!」

 さらにもう一発射出。再び破壊が撒き散らされ、衝撃波は空気を叩く。

 そしてまた魔女が生まれる。

 それは見るからに不毛な行為にのよう。のれんに腕押しだ。

まどか「すごい……」

さやか「だ、だめだ……」

まどか「えっ……?」

さやか「あの杏子ってやつは確かに強い、けど、こんなんじゃ倒せない!」

まどか「そんな……!」

 壮絶な連続攻撃に感嘆の色を漏らしたまどかだが、だからこそ、さやかの言葉により大きなショックを受けた。同時に自分たちが相手にしているのはとてつもない怪物なのだとまどかも理解して身震いする。

さやか「だから……」

杏子「お前は黙ってそこにいろ!」

 杏子は様子を見かねて動き出そうとしたさやかを声だけで制止、しながらさらにもう一発、巨大な槍が放つ。

 魔女が再び生まれる。まるで攻撃は意味を成してなかった、ように見えた。

 だがそこでさやかは気がついた。魔女の生まれる先にがいつしか一定の方向を向いていた。

 魔女が向かう先には、大量の白いテープ。


 さやかでも、もう杏子たちの意図は読めた。

フレンダ「私が罠を仕掛けて、杏子が誘導して、ダメージ受けたらゆまが回復。結局、いつもこの戦法なわけよ」

ゆま「ひっしょーせんぽーってやつだよね」

 いつの間にかさやかの隣にはフレンダがいた。ゆまも一緒にいる様子からして、ゆまの魔法を使ってここまで移動したのだろう。

フレンダ「ほら、魔女がポイントに来るよ」

 フレンダのどや顔な勝利宣言にさやかも魔女の様子を見る。

 まさしくそれは、魔女が白いテープに顔面を突っ込むところで——

さやか「って突っ込んじゃダメじゃん!」

 地面が砕けた。白いテープは地面ごと巻き上げられ、爆薬としての存在価値を失う。

 魔女もあんな見え見えの罠に引っかかるわけがないのだ。先ほどの攻防で白いテープは危険と判明しているなら、なおさらだ。

フレンダ「これでフィニッシュってわけよ!」

 それでもフレンダはどや顔をやめなかった。

 小さな電子音が響く。手には、リモコン。

 爆音と言うにも生温い程の音量が鼓膜を塗りつぶした。

 いくつもの爆発が連鎖的に起こり、黒を含めた紅蓮の炎が魔女のいる周辺を丸ごと包み込む。


 さすがの魔女も反応する暇はなかった。為すすべもなく、全身が炎に焼かれることとなる。

フレンダ「結局、起爆にはリモコンを使った方が早いに決まってるわよ」

 そんな身も蓋もないことを言いながら使い終わったリモコンを投げ捨てるフレンダ。

フレンダ「さーて、グリーフシードをいただ——」

 意気揚々と魔女に近づこうとして——フレンダの口も全身も硬直した。

 硬直したのはフレンダだけではなかった。杏子も、さやかも、ゆまも、まどかも、全員の動きが止まった。


 ——炎の中から、魔女が屹立するように顔を出していた。


フレンダ「冗談でしょ……ビルを丸ごと一つくらいはぶっ壊す威力なのに!」


QB「強大な魔女って最初に教えたんだけどなあ。神裂火織をあちらの魔女に割り当てたのは失敗だったよね」

投下終わり
明日からまた営業の仕事だから仕事中にSS書く時間が取れるー

遅れてすまない
今から投下する


杏子「クソッ……」

 お菓子の魔女は燃えさかる炎のカーテンを突っ切って再び接近を図ってくる。

杏子「散れ、まとまってたら魔女の思う壺だ!」

 杏子の合図でさやかはまどかを抱え、ゆまにフレンダが魔法をかけられる形で五人は三方に分かれた。

 誰もいなくなった空間に魔女が激突し、威力で地面に大きなクレーターが生まれる。

 魔女の攻撃は単純で種類も少ないものだった。

 だが一撃一撃が恐ろしく凶悪な攻撃がシンプルということは有効な対抗策など存在しないということにもなる。

 その上、あの無限にも思える回復力だ。かつて杏子とフレンダが戦ったファイブオーバーという圧倒的な敵と似ているようで真逆の存在、それがお菓子の魔女だった。

フレンダ「反則すぎるってわけよ……あんなのどうやって倒せば……!」

 最大の火力を以てしても、あの魔女には通用しなかった。

 純然で強大故に凶悪な魔女に正面から対抗するには、とんでもない火力が必要だろう。

 フレンダの脳裏にその候補が二人思い浮かんだ。

 あらゆるものを融解させる絶対的な攻撃力を持った『超能力者《レベル5》』の仲間を。

 ベテランの魔法少女であり、その実力は『超能力者《レベル5》』以上とキュゥべえにすら評される仲間を。

 確かにその二人ならこの魔女を真正面から攻略できただろう。しかしそんなことを思案しても無駄だった。一人は絶命し、一人は昏睡状態だからだ。


 そして無意識に想起した意味を思い直して歯噛みする。

 フレンダは既に魔法少女ではなくなっていたのは関係ない。この期に及んでまだ人に頼ろうとする精神がフレンダは自分自身で気に入らないのだ。

杏子「はぁっ!」

 見ると杏子が魔女に対して攻撃を再開していた。

 空中に飛び上がった彼女という格好の獲物に魔女が食らいつくが、空振り。いつの間にか背後に移動した杏子から魔女は強烈な打撃を受けて地面に叩き付けられる。

 そんな打撃も柔らかい体には大したダメージが与えられない。杏子もわかっているのか、落下の勢いを利用してさらに追撃を行った。

 それでもやはり魔女を倒すことは叶わない。口からさらに魔女が新しく生まれ、巨体を横薙ぎにして杏子を吹き飛ばそうとする。

 またそれも空振り。杏子の魔法による力で魔女は攻撃を一向に当てることができない。隙だらけになった魔女に再び杏子が槍で激しい攻撃を加える。

 その繰り返しだった。終わりの見えないループに見えるが、確実に終末は迫っている。

 魔法少女の魔力は有限だ。無限に現れる魔女と対抗するには心許ないを通り越して、無謀な挑戦だった。

さやか「こんっのぉ!」

 そこにさやかが加わって攻撃がより激烈になっても結果は変わらない。一定以上のダメージを受けた時点で魔女は肉体をリフレッシュし、全ての攻撃は徒労に終わる。

 それどころか魔女はすぐさま攻撃態勢に移っていた。視線の先は美樹さやか。


杏子「新人、動くなよ!」

さやか「何をっ!?」

 杏子が鋭く命令する。意図が読めなかったさやかは反論を口にしようとして、結果的に杏子の命令に従うことになった。

 すると魔女の攻撃、横薙ぎにされた巨体はさやかという標的を大きく外れる。

さやか「あれっ?」

 攻撃されると構えていたさやかが拍子抜けをした。

杏子「あたしの魔法は幻惑の魔法だ。魔女の認識をズラして、攻撃を外させ——」

 言葉は最後まで続かなかった。杏子のいる場所に魔女が尾(に見えるが、実際は全長の中程)を叩きつけたのだ。

ゆま「キョーコ!」

 ゆまの悲鳴が響く。

杏子「どういうことだおい……あたしは魔法を解除してねーぞ!?」

 幸い、攻撃がヒットすることはなかった。杏子のいる大体の位置は合ってはいたが、あくまでそれだけだった。

 杏子が驚いたのは、その『大体の位置が合っていたこと』だ。杏子の幻惑魔法は強力で、大体の位置を把握するのすら困難にさせることができる。そして実際、今もそうしていた。

 にもかかわらず、魔女は杏子のいる方向を確かに把握していたのだ。

 危険と判断した杏子はすぐさまその場から退避するが、空振りの攻撃に続けて暴れ回る魔女は大よそではあるが、確実に彼女に追っていた。

 その動きから杏子の推測は確信に変わる。

杏子「どういう原理か知らないが、あたしの魔法すらも攻略しつつあるって言うのかよ……!」

 より明確に、有限の制限時間が近づいているのを杏子は実感せざるを得なかった。

フレンダ「何か弱点とか、探さないと……」

 着々と追いつめられていく杏子とさやかを見てフレンダは焦りながら頭を精一杯働かせる。

QB「それよりも良い案があるよ」

 思案するフレンダに突然久しく聞かない声が投げかけられた。

フレンダ「キュゥべえ……」

 見ればフレンダとゆまのいる安全地帯にいつの間にかキュゥべえがいた。

QB「やあフレンダ、ゆま。久しぶりだね」

暗い気持ちで見るフレンダに対してキュゥべえは不釣り合いなくらい快活に答える。

QB「確かにフレンダ、君の考えは正しいよ。性質上、ほぼすべての魔女には弱点が存在する。でもそんなものを考えるよりももっと簡単にこの場を解決できる方法がある」

フレンダ「……また私に契約しろって言うわけ?」

 フレンダは聞き飽きたと言いたいような声を出す。その予想にゆまが表情を強ばらせた。

QB「まさか! ただの人間に戻った今なら確かに再契約は可能だし、君の素質は魅力的だ。それでも、あのお菓子の魔女には君が契約してもとてもじゃないけど正面からでは敵わないよ」

フレンダ「じゃあどんな方法なわけよ!?」

 状況が刻一刻と悪くなっていっているにもかかわらずはっきりとしないキュゥべえの言い回しにフレンダの苛立ちが募る。

QB「簡単さ、鹿目まどか……さっき乱入してきた少女が契約すればいい」

フレンダ「あの子?」

 解答は思いもしないものだった。キュゥべえに言われて、さやかに抱えられて遠くに退避したまどかの姿を目で探すフレンダ。

QB「彼女はとてつもない才能を秘めている。文字通りの意味の全能の神になることだって可能なくらいの才能さ。その力を以てすればあの魔女を倒すことくらい造作もないだろうね」

フレンダ「それが、どうしたのよ?」

QB「わからないかなあ、まどかに僕と契約してくれるよう、説得してくれないかって言ってるつもりなんだけど」

フレンダ「ふざけないで!」

 正直、キュゥべえの言いそうなことはわかっていた。それでも、この感情のこもっていない言葉には酷く感情を逆撫でさせられる。

QB「でも、まどかは君たちには関係のない人間だろう? その犠牲で君たちが助かるなら儲け物だと思うのだけど」

 弁明するかのようなキュゥべえの物言いだが、それによってフレンダの怒りはさらに増幅させられた。

フレンダ「結局、キュゥべえは人間って生物をわかりきってるわけね。反吐が出るわ」

QB「いやはや、わけがわからないよ」

 それ以上何も言うことはないと言わんばかりに、フレンダはキュゥべえを無視して行動を開始した。

 かと言って何か打開策があったわけでもない。悪足掻きに参加するだけだ。


 ちょうどお菓子の魔女はさやかと杏子の息を合わせた同時攻撃で地に伏していた。

 魔女が口を大きく開けた。つまりすぐに新しい魔女が生まれるというサイン。その前にフレンダは魔女のすぐ近くまで寄ると絵本から飛び出てきたような顔面に爆弾をたたき込む。

 爆発の衝撃で魔女の顔面がさらに跳ねた。そうして再度、自重で地面に叩きつけられた魔女は動かなくなる。

さやか「……? こ、今度こそやった……?」

 肩で息をしながらさやかがフレンダの横に立ってつぶやいた。

杏子「……いや、全然まだまだだ。あいつの魔力は消えちゃいねえ」

 同じくフレンダの横に立った杏子が絶望的な答えをさやかに返す。

 杏子の言ったことはまさしく正解だったらしく、多少の遅れはあったもののきっちりと新しい新しい魔女が魔女だったものの口から生まれ出していた。

杏子「キリがねぇな。一度退却するか」

さやか「それはダメ!」

 どうしようもなくなった杏子の提案にさやかが強く反発した。

さやか「この結界、元は病院なのよ……あいつをここで倒さないととんでもない被害が出ちゃう……!」

杏子「おいおいマジかよ……」

 さやかの言葉の中に恭介の名前は入っていなかったが、それでも彼女の目的は杏子に伝わったらしい。

 以前の杏子ならば馬鹿らしいと一蹴しただろう。しかし運の悪いことに、今の杏子にはそれを見過ごす気分にはとてもなれなかった。


フレンダ「かといって、どうするってわけよ? 現状の私たちの火力じゃあの魔女を倒し尽くすなんて不可能だし」

杏子「……そうだな。その上あいつはあたしの魔法すら攻略しつつある。このまま戦い続けてもあたしらの敗けは目に見えてるぞ」

 フレンダと杏子の分析を聞いてさやかはうつむいた。

フレンダ「力不足、とか考えてるんじゃないでしょうね? そんなこと考えても結局情強は改善しないわよ。考えるなら打開策ってわけよ」

 顔を見せないさやかにフレンダは厳しい言葉を浴びせた。ところがさやかはその叱責には反応を示さない。それはまるでまったく別のことを考えているようで。

さやか「その打開策、ってわけじゃないけど、可能性があることはあるんじゃないかな」

 ぽつりとさやかの口から出た言葉にフレンダは自分の考えが杞憂であったことを理解した。

 さやかが病院の中の人間を、特に上条恭介という想い人をどれだけ助けたいと思っているのか、必死なのか、フレンダもやっとわかった。

杏子「……言ってみろ」

 静かに杏子が続きを促した。


さやか「あの魔女は口から生まれてるよね。それだったら、口から中にかけて攻撃したらどうなるんだろ?」

杏子「それで?」

さやか「魔女の顔面とか口の中を攻撃した時、明らかに再生が遅かった。そこに攻撃してからでも再生するけど、もしかして次に生まれるはずの魔女まで同時に攻撃できてるんじゃないのかな? それなら、外と中から同時に攻撃して再生速度を上回る速度でダメージを与えれば——」

杏子「そんなの、わかってるんだよ」

 さやかの説明を杏子が遮る。

杏子「確かにその可能性はある、っていうかぶっちゃけ高い。でもな、リスキーすぎる。時でも止めて好き勝手できるならともかく、あの魔女はあたしらが攻撃してる間も動き続けるし、中に入ったやつは外からの攻撃のダメージを受けることにもなる。しかも失敗したら中に入ったやつは一発で死」

さやか「中にはあたしが入る」

 今度は杏子の反論をさやかが中断させた。

さやか「あたしの魔法は回復魔法みたい。さすがにあそこのちっちゃい子にはかなわないけど、常に回復し続けるあたしなら外からの攻撃を受けても失敗する確率は減るよね?」

 言いながらさやかはゆまを目で指した。

フレンダ「それでもアンタが死ぬ可能性が高いのは変わらないわけよ?」

さやか「……あたしの親友はさ、あたしが犠牲になって誰かを助けてもその人は喜ばないって言ってた。でも違うんだよね。あたしはあたしが犠牲になってでもその人を助けたいんだ。誰のためでもない、自分のためにその人を助けたい。たとえその人が悲しんでも、後悔しても、死んでほしくない。自分勝手かもしれないけど、それがあたしの契約した理由。他人のために魔法を使うんじゃなくて、自分のために魔法を使ってるのよ」

フレンダ「……っ」

 さやかの決意にとある仲間の姿を重ねて、フレンダの顔が歪んだ。


さやか「自分勝手って言われても、あたしは助けることをやめたくない。あたしが後悔するか助けられた人が後悔するかの違いしかないじゃん」

杏子「はっ、嫌いじゃないぜ、お前みたいな考え方」

 杏子は槍を構えることで答えを示す。

杏子「ただし勘違いすんな。犠牲になる前提じゃなくて、犠牲にならない前提でまずは戦いやがれ」

さやか「もちろん!」




QB「というわけなんだけど、君はどうするんだい?」

 いつの間にかフレンダの近くから移動していたキュゥべえが聞いた。

まどか「さやかちゃん……」

 聞かれたのはさやかの言葉を聞いて、顔を真っ青にしたまどか。

QB「彼女たちの作戦は僕がテレパシーで中継した通りのものだけど、正直言って成功率は相当低い。そして一人でも戦力を欠けば拮抗していた関係は崩れてすぐに全滅してしまうだろうね」

 キュゥべえはとてとてと可愛らしくまどかの足元に歩み寄って、見上げる。

QB「でもまどか、君ならその運命を変えられる。だから——」

まどか「うん、変える。魔法少女の力じゃない、わたしの力で」

 そう言って、まどかは取り出したハンカチを強く握りしめた。見れば鞄の中にはさらに大量のハンカチが詰め込まれていて、その全てがペンで何かが書かれていたり、糸で文字が綴ってあったりしていた。

 言うまでも無く歪なそれは魔術を発動させるために作られた即席の霊装。

QB「やめておいた方がいいんじゃないかな。君自身だってわかっているんだろう?」

 キュゥべえはそんなまどかに諭すような口調をする。

まどか「さやかちゃんが自分のために自分を犠牲にして上条くんを助けるのなら、わたしだって、さやかちゃんと同じことするもん……!」

 まどかは聞く耳を持たなかった。

 そうして彼女は走り出す。ただ一つの小さな武器を手にして、強大な魔女の元へと。

投下終わり
明後日に新幹線で東京行くつもりだからそこでじっくり書けるかも……

投下します


杏子「さて問題は、だ!」

 言いながら杏子はフレンダの首根っこをつかんで地を蹴った。

 さやかも即座にその意味を理解して、杏子と同じ方向に飛ぶ。

 二人のいた位置を魔女の口がスプーンでアイスを掬うように抉った。

杏子「どうやってかみ砕かれないであいつの体内に進入するかだ」

 地面を咀嚼しようとして魔女は違和感から苦い顔をすると、地面を吐き捨てた。杏子たちの飛んだ方角に。

 ただの不要物の投棄ですら、あまりの質量に凶悪な兵器と化す。

フレンダ「一番望ましいのはダメージを与えて魔女のリフレッシュの瞬間を狙うって感じね」

 猛烈な速度で岩塊が杏子たちを追うが、彼女らの飛び退く速度も相当なもので、相対速度はそれほどでもない。その速度は人間のフレンダでも対応できるものだ。

 だからフレンダは対処する。手元から可愛らしく装飾のされた細長い空き缶のようなものを取り出した。外見に見合わず、それは兵器。殺傷力よりも爆発力に注力したフレンダお手製の手榴弾だ。

 信管を抜いてタイミングを計り、岩塊にそれを投げつける。小さな破片を埋め込むなどで人を傷つける要素よりも、純粋に威力を追求したそれは凄まじい爆発を起こして岩を砕いた。

 粉塵に紛れて衝撃波や破片となった岩が辺りに散らばるが、杏子が結界を張ってこれに対処した。

杏子「だけど問題は……!」

 と、そこで岩の煙幕を突っ切って魔女が顔を出した。いや、正確には岩の煙幕ごと魔女が杏子たちを食らおうとした。


フレンダ「うわっ」
杏子「ちっ!」
さやか「やばい!」

 それぞれが驚きの声を上げる。迅速に動いたのはベテランの杏子だ。

 手に持ったフレンダをさやかに投げつけて弾き飛ばし、二人を攻撃圏外に。自分は槍を地面に伸ばして突き刺すと、棒高跳びのように空中を移動した。

 それでも。がぶりと。肉の千切れる音がした。

ゆま「キョーコ!」

 それに気がついたのは回復役として遠くから戦況を常に見つめ続けていたゆまだ。

杏子「ぐっ……そっ……!」

 杏子の腕が肩口ごと食いちぎられ、噛み跡はソウルジェムまであと数センチに迫っていた。

ゆま「今治すから——!」

 すぐにゆまは回復魔法を発動させようとする。だが、声を上げたのは大きな失敗だったらしい。

 魔女の興味はゆまに向いた。

さやか「こっっんにゃろう!」

 魔女がゆまを標的と定める、顔面をその方向に向けるその瞬間にさやかが弾丸のように飛び込んで、魔女の横っ面をサーベルで貫いた。

フレンダ「今の内に!」

 フレンダがゆまに呼びかけた。ゆまは頷くより前に魔法を発動させる。

 杏子の肉体が淡い光に包まれる。すると失われた部分を光が形作り、すぐにそれは肉質に変わって杏子の肉体が再生した。

杏子「これが問題だ。あいつにはもうあたしの魔法は通じない。隙を作るのは簡単じゃないぞ」

 肉体は全快にまで戻った杏子が苦々しい顔をして言った。

さやか「くそっ、あれだけじゃやっぱりリフレッシュ、とはいかないか!」

 魔女への攻撃の手応えの無さを実感して、さやかは歯噛みする。

フレンダ「いよいよ以て追いつめられてるってわけね……」

まどか『隙ならわたしが作るよ』

 フレンダが厳しい現状に険しい顔をしようとしたところで、三人の脳内に声が響いた。まどかの声だ。

まどか『ごめんね、実はさやかちゃんたちの話してること、キュゥべえに聞かせてもらってたの』

さやか「なん——」

まどか『でも、隙を作るだけならわたしに考えがあるの』

 さやかが絶句しかけるが、かまわずまどかは言葉を続けた。


フレンダ『でもどうやるってわけよ? 何か変なチカラ持ってるみたいだけど、あの魔女に対抗するのは生身の人間、それも素人じゃかなりきついわよ?』

まどか『さやかちゃんが魔女の口の中から攻撃できるようにすればいいんだよね? それならうってつけのものがあるの』

杏子『ちょっと待て。別にあたしはお前の実力を信用してるわけじゃない。ヘマやらかして作戦失敗なんてシャレにもなんねーぞ』

 シビアな思考で訝しげな杏子の声色が全員の脳内に広がる。

まどか『さやかちゃんは、わたしの親友だからわたしが……お願い信じて』

杏子『……完全な隙を作れるのか?』

まどか『うまくいけば、かなりの隙ができると思う』

杏子『……わかった。それなら、新人への合図はあたしがする。つまり、あたしがちゃんとチャンスと見極めてから作戦を開始する。あんたの策が中途半端ならあたしは新人を止める。それでいいか?』

まどか『うん、いいよ』

杏子『よしわかった、やってみろ』

さやか『ちょっと待ってよ! まどかは魔法少女じゃないんだよ!? なんで魔女と戦わなくちゃならないのさ!』

 まとまりつつある話にさやかが焦って横やりを入れた。当然だ、さやかにとっては親友を失いかねないのだから。

まどか『さやかちゃんは言ったよね。犠牲になるような方法で助けるか助けないかの違いは、自分が後悔するか助けられた人が後悔するかの違いしかないって』

さやか『……っ!』

 だが、自分の言った台詞を自分に返され、さやかは言葉を失った。そうなのだ、結局、まどかのしていることはさやかと同じこと。さやかに止める権利はなかった。

まどか『……頑張ってくるね』

さやか『まどか……っ!』

 だからさやかは懇願するしかなかった。しかしまどかとのテレパシーはもう切れていた。


杏子「来やがった!」

 親友の決意に打ちのめされそうになっている時間すらも魔女は許さない。体勢を立て直した魔女がすぐにさやかたちに襲いかかっていた。



まどか「……痛っ……」

 さやかたちとのテレパシーを切って、まどかは痛みに声を漏らした。

 もう魔術の使用の限界は越えていた。鈍い頭痛が常に脳内を蝕んでいる感触がする。

 痛みには波があり、たまに鋭い頭痛もやってきた。

 それでも、まどかは意志を曲げない。

まどか「まずは魔女をこっちにおびき寄せないと……」

 見ればさやかたちは魔女の巨体から逃げている途中だった。

まどか『こっちに向くようにお願い!』

 返答を聞かず、テレパシーを飛ばす。

 どうやらこの頭痛は魔術・魔法、つまり魔力に反応して脳を刺激するらしい。

 言葉は届いたようで、さやかたちの逃げる方向がまどかの方向に向いた。

 魔女が、死の象徴が猛スピードで近づいてくる。

 まどかは普通の女子中学生だ。その脅威に晒されて内臓全体が悲鳴を上げるくらい、心拍数が上がっていく。

 手に握ったハンカチが汗を吸う。

 その中で、今一度聞いた魔術の教えを繰り返す。会話を思い返す。


 ————

ジーンズ店主『——それはグレイプニルの伝承を元にした術式だ』

まどか『ぐれいぷにる、ですか?』

ジーンズ店主『そう、グレイプニル。北欧神話に登場する魔狼フェンリルを捕らえるために作られた魔法の紐だ』

まどか『魔法の、紐……』

ジーンズ店主『そいつの効果はまあ、食らいついてくる敵を捕縛する程度の簡単な術式だな。本当はもっと効果範囲が広いんだが、お嬢ちゃんの知識量じゃそこまでが限界だろう』

ジーンズ店主『いいか、魔術で大事なのは意味だ。科学的な思考は捨てろ。例えば、雷は魔術的に言えば神の火だ。雷を防ぐ術式があったとしても、科学的に同じものだろうがなんだろうが、その術式でコンセントからの電流は防げない。その電流には雷という意味がないからだ』

まどか『意味……』

ジーンズ店主『だからグレイプニルで捕らえられるのはあくまで噛みついてくる敵、だけだ。噛みついてくる敵の顎の力は止められても、それよりもっと弱い別の攻撃は防げない。その攻撃にはまた別の、その意味に合致した術式を使わないといけない』

ジーンズ店主『いいか、魔術戦は肉体戦じゃない、頭脳戦だ。それだけは肝に銘じておいてくれ』

 ————


 想起している内に、いよいよ魔女の一撃の射程範囲内にまどかは入ることとなる。

 あまりに強大な巨体。竦みそうな足に鞭を打って、まどかは魔女へと走り出した。

まどか「こっちだよ!」

 力の限り、まどかは叫ぶ。

 思わぬ獲物の登場に魔女の中での優先順位が変わる。具体的には中々決着がつかないさやかたちから、一口で終わってしまうまどかに、だ。

 魔女が口を大きく開ける。まどかにはそれがまるで洞窟の入り口のようにさえ見えた。

まどか「——『グレイプニル』!」

 霊装の名を一喝。その瞬間、まどかの手にしたハンカチがほどけていき、糸になる。糸となった霊装は食らいついてくる魔女を雁字搦めにし、動きを止めさせた。

まどか「ぁぐっ……」

 同時にまどかの頭を猛烈な激痛が襲う。あまりの痛みに視界がぼやけ、魔女の姿が曖昧にしか認識できなくなった。


さやか「——ど——」

 親友が何かを叫んでいる。しかし、頭痛によって処理能力の落ちた脳ではその意味を解析できなかった。

 ぼやけた視界の中で、誰かが魔女の腔内に飛び込んだのが見えた。作戦が開始しているのだろう。

 そしてそれに一拍遅れて魔女が再び動き出そうとしているのが見える。そう、結局グレイプニルで魔女を縛っても、それは急場凌ぎでしかないのだ。

まどか「『狼さん……狼さんはおばあさんを食べました』!」

 だが、鹿目まどかはそれで終わらせない。親友のためにグレイプニルという霊装をさらなる使い方へと進化させる。

まどか「『狼さんは赤ずきんも食べました』!」

 まどかは聖人やワルキューレ、仙人などの魔術的に特別な才能を持った人間ではない。『必要悪の教会』の構成員のように、魔術的に特別な訓練を積んだ人間でもない。

まどか「『お腹いっぱいの狼さんは』!」

 だから、今ある手札を組み合わせる。組み合わせて、別の物を作り出す。

まどか「『おばあさんのベッドで眠りました』!」

 まどかが言い切った瞬間、魔女の動きが凍ったように止まった。

 掠れた視界の中でも、その完全に止まった様子がまどかにも認識することができた。

まどか「や、やった……」

 激しい頭痛が脳内で警鐘が鳴らされてる錯覚すら起こす。それでも、まどかは結果に満足して、笑みを浮かべた。


 ——まどかがやったことは、効果範囲の狭い二つの魔術を組み合わせただけだ。

 まず、グレイプニルで『噛みついてくる敵』という意味を持った魔女を捕縛する。

 そして、グレイプニルは『魔狼』フェンリルを捕まえるための霊装だと電話先の男が言っていた。

 つまり逆を言えば、グレイプニルで捕まっている魔女は、『狼』という魔術的な記号を持つこととなる。

 まどかは男に一つ質問をしていた。

まどか『伝承を元にしてる、ってことは、その伝承って童話とかでもいいんですか?』

ジーンズ店主『ああ、問題ない。俺の専門からはかなり外れるが、実際に童話を使った魔術師っていうのはかなり多く存在する』

 そこで『赤ずきん』の物語を彼女なりに魔術の作法に従って、再現したのだ。

 素人であるまどかが『赤ずきん』を元にした魔術を完成させることができたのは彼女がそういう嗜好を持って、そういう話が好きだったために童話というものの理解度が深かったという偶然からだが。

 とはいえ、その効果はとてつもなく限定的だ。

 『人を食った狼を眠らせる』というだけの、実用性のまるでない魔術。

 にもかかわらず、まどかはそれを実用させた。そう、グレイプニルで縛られている魔女はその条件を満たすのだ。

 偶然ではない。条件を満たすように、まどかが操作したのだ。魔術の知識がある者ならば感嘆の息を漏らしただろう。

 同時にそれは外から攻撃する杏子たちの強化にも繋がる。赤ずきんでは狩人が狼を退治するからだ。


さやか『うらああああああああああああああああ!』

 魔女の体内から響くほどのさやかの声。魔女は空気を注入された風船のように体内から膨張していく。

 杏子の槍が、ゆまの衝撃波が、フレンダの爆弾が、外側からも魔女を襲う。

 魔女は逃げられない。狼として眠った魔女は固定されたまま無防備に攻撃を受け入れる。

 そして、許容限界がやってきた。

「————!!」

 ——ドパン、と。魔女は言葉にならない断末魔を上げながら体内から爆発した。魔女の肉片と血が周囲に飛び散り、結界内を穢していく。

さやか「はぁっ……はぁっ……」

 血まみれで魔女の体内から飛び出してきたさやかが地面へと着地した。

フレンダ「や、やったわけ……?」

 恐る恐るさやかの様子を覗き込むフレンダ。

さやか「はぁはぁ……ぶいっ……」

 そのフレンダに、さやかはVマークを見せた。そして手のひらの中にはグリーフシード。

杏子「へっ……やるじゃんかよ、新人」

 その様子を見て杏子も安堵した。


さやか「その新人呼ばわりやめてよね。あたしにはさやかちゃんっていう可愛い名前があるんだから」

杏子「自分で可愛いとか言うか、普通?」

 空気は一気に柔和になり、達成感と脱力感から笑みが零れ、

さやか「ひどっ、まどかも何か言っ」

 さやかは親友の様子を見て、絶句した。

 彼女は遠くにいた。それでも、魔法少女となったさやかの視力はまどかの異変を確かに捉えていた。

 顔を土気色にし、脂汗を流し、苦痛に表情を歪めている親友の様子を、しっかりと。

さやか「まどかっ!?」

 さやかはまどかの決意を甘く見ていた。あれだけのことを言っても、結局戦闘に参加するには魔法少女としての身体能力が必要で、まどかのやったことは言ってしまえばサポートに過ぎなかった。

 しかし、まどかの現状を見て、さやかは彼女の決意の意味を知る。

さやか「そんな嘘で——」

 けれども、現実は幸か不幸か、さやかに後悔する時間すら与えない。

 結界が崩壊する、それよりも早く、魔女の部屋の扉を突き破って黒い何かが投げ込まれるようにして飛び込んで来た。


ほむら「あぐっ……」

さやか「て、転校生っ!?」

 それは、傷だらけの暁美ほむら。

キリカ「まったく、ちょこまかとこんなところまで逃げて。まあ、この結界内で殺せば処理が楽だからいっか」

 そして、かつてまどかとさやかを殺そうとした、もう一人の黒い魔法少女。

投下終わり。待たせてごめんなさい

二重チェーンをしたはずの12万の自転車盗まれるわ、携帯用のリュウドの折りたたみキーボードが壊れるわで中々書く時間がなかった
来週から沖縄行くから、再来週から東京行くから癒されてくるわ

追記
まだまどポも超電磁砲PSPもやってないから矛盾あったらこっそり教えてくれ

魔術に科学的な思考は捨てなければいけないとありますが、科学が無関係ではないんですよね。
10巻のあとがきで、星座や天体を使った魔術は天文学の発展とともにいろいろあったみたいですしね。

そのあたりに突っ込んだ魔術は協定に触れるかも知れない上に素人には難しすぎるでしょうが。

投下


  ————

 澄み切った青空から大量の机と椅子が降り注ぐ。

 足場はまさに蜘蛛の糸の上。不安定極まりない戦場で、宿主の蜘蛛、委員長の魔女が神裂に対して猛攻を仕掛ける。

神裂「終わりです」

 だが、聖人である神裂にとって、そんなものが危機になるわけはなかった。

 刀を抜く必要すらない。鞘に入ったままの長刀が振るわれると机や椅子は砕かれ、委員長の魔女の攻撃は木片へと姿を変える。

 魔女はそれに対して脅威や恐怖や驚愕を感じる暇すらなかった。

 それより速く、弾丸すらも超える速度で神裂が魔女に肉薄していたのだ。

 あらゆるものを切断する絶対の一振りが振るわれる。パァンと、あまりの威力に切断音は破裂音にすら聞こえた。

 そうして、神裂は何の苦もなく魔女を倒し終えた、ところで。

ジーンズ店主『面倒なことがわかった』

 労いの言葉も省略した緊急連絡が神裂の鼓膜に飛び込んできた。

神裂「どうかしましたか」

 誰かが見ているわけでもない魔女の結界内では通信用の霊装を携帯電話に偽装する必要もない。しおりのような紙切れに対して神裂は話しかける。

ジーンズ店主『お前が暁美ほむらと接触した時、敵対していた魔法少女がなんで学園都市の武器を持ち出せてる理由がわかったんだよ』

 やや焦り気味にジーンズ店主は早口で言う。

ジーンズ店主『混乱が起きてるのは世界中でだが、どうにも学園都市内部はとびきり厄介なことになってやがる』

神裂「厄介なこととは?」

ジーンズ店主『クーデターだ。学園都市の『超能力者』の第一位と第三位、つまり今の学生トップ二人が主導して住民が学園都市に反旗を翻しやがったってわけだ』

神裂「いくら異能を持った学生と言っても、学園都市ならばそれを鎮める兵力があるはずですが」

ジーンズ店主『だからとびきり厄介なことになってるって言っただろ。このクーデターを主導してるのは学生だが、学園都市に反乱してるのは学生だけじゃない、教師どもも含まれてやがる』

神裂「学園都市では警察の役目をしている教師が、ですか……」

ジーンズ店主『わかっちゃいたことだが、学園都市は相当やばい研究をやっていた。魔法少女関連でそれが一気に明るみに出ちまって、学園都市で大騒動ってわけだ』

 話の途中で、魔女の結界が崩れていく。

ジーンズ店主『きっかけはあっちの学生サン第一位と第三位が木原……えー、あー、ちくしょう日本人の名前はわかりづらいな、ともかく、木原っていう研究者の研究を止めようとしていたことから始まった。研究は止められたが、その木原を擁する学園都市そのものに表の世界の住人の矛先は向かったってわけだ』

 風景は正常な夕焼けに戻ろうとして。

ジーンズ店主『今回の件で学園都市は対応にてんやわんや、外への技術流出を止めるシステムがザル状態ってわけだ。だから——』

神裂「なるほど、こういう輩が現れるわけですね」

 ジーンズ店主の話の腰を折り、神裂は突然刀の柄に手をかけた。

 刀が抜かれるわけではなかった。ワイヤーが彼女の手によってあやとりのように編まれ、神裂の周囲空中に紋様を描き出す。

 そこに爆音と共に鉛の雨が突き刺さった。しかし小粒の鉄はワイヤーに弾かれ、紋様の隙間を通ろうとする分量は見えない壁に阻まれるようにして神裂には届かない。

 それは大量のショットガンの掃射だった。音源は結界の外から神裂を囲んでいた数百体の駆動鎧。

 モデル名HsPS-15。通称『ラージウェポン』。

 ただし、魔術師である神裂はその機体の違和感に気がついた。

 それは駆動鎧の顔面部に当たるところに貼られた紙片、所謂お札。つまり、その駆動鎧には魔術サイドの技術が使われている。

神裂「中国に伝わる動く死体、キョンシーですか。なるほど、いくらセキュリティがザルと言っても管理しているのは学園都市、中の兵器をそのまま大量に盗み出すのは難しい。それでも廃棄されたものならば比較的手に入りやすい。ならばそれを修理する技術はなくても、キョンシー化して壊れたまま再利用すれば簡単に大量の兵力を用意することができるというわけですね」

ジーンズ店主『ちっ、もう嗅ぎつけてやがったのか!』

神裂「中華系マフィアの擁する魔術結社といったところでしょうか……倒すべき敵がまた増えてしまいました」

ジーンズ店主『無茶言うな、イギリスからの応援を待て! 学園都市の技術を使う魔術師なんて冗談じゃないぞ!』

神裂「問題ありませんよ」

 そう言った瞬間、神裂は音を超えた。次の瞬間には駆動鎧の顔面部に神裂の膝蹴りが突き刺さっていた。

 砲弾のような衝撃を受けた駆動鎧は他の機体を巻き込みながら吹き飛ばされる。

神裂「学園都市製兵器とは言え、型遅れの故障品。この聖人の私を相手にするのに、この程度の戦力しか用意できない敵ならばすぐに終わります」

 駆動鎧たちは俊敏に反応しようとする。しかし鉄の死体達が銃を構えるより速く、神裂はその場から離脱し、同時に別の駆動鎧の胴体を真っ二つに切り裂く。

神裂「まずはこのキョンシーを操る術者、つまり道士を倒し、美樹さやかが見張っている魔女を倒し、魔術結社を潰す。すべて日が沈むまでには終わりますよ」

 圧倒的な戦力に、魔術によって動く駆動鎧たちが足掻こうとする。

 神裂は多少物量でごり押しされたものの、結局道士が彼女を倒すことは叶わなかった。

短いけどここまで
また暇見つけて書いたら投下する

>>668
説明不足だった、現代科学的な思考ってことね
天文系に限らず原作で出てきた古代ギリシャ哲学の術式や錬金術なんてモロ科学だけど、それは前時代的考えで、
特に超電磁砲SS�であるように、魔術と科学で硫黄の解釈が別物だったりするしね
まあ、現代の素粒子とか量子とか扱った物理学ってどう見ても新興宗教だけどww

飛行機の中で投下分は書き切れた
今から投下する

酉忘れた


  ————

ほむら「ま、まず——」

 結界の中に転がり込んできたほむらは、その結界がどの魔女の結界か理解していた。

 お菓子の魔女の結界、つまりはまどかのいるはずの結界。

 そこにキリカを連れ込んでしまったことに戦慄して、焦って。そしてキリカはその隙を見逃さなかった。

 相対的に音を超えるまで加速したキリカはほむらに接近して魔爪を叩きつける。今までならば直前で反応していたほむらだったが、状況によって気が動転し、時間停止を発動できない。

 薄い胸から下が切り裂かれ、ソウルジェムの埋め込まれた腕が切り落とされる——という予想を青い影が覆した。

さやか「また、あんたか!」

 両手に構えたサーベルを交差させ、その交差点でキリカの攻撃をさやかがほむらを庇うようにして受け止める。

 思いもよらない横やりに驚いたキリカは、

キリカ「へぇ、キミ契約しちゃったんだ。じゃあ——」

 腕の力を強めて、

キリカ「殺すしかないよね」

さやか「う、うわっ」

 ふっと腕の力を抜いた。


 拮抗していた力関係が崩れると、さやかのバランスも崩れ、彼女は踏鞴を踏む。

 そんなさやかにキリカはすかさず回し蹴りを放った。勢い余って前のめり気味になっていたさやかのこめかみをキリカの踵が捉える。

さやか「がっ……!」

 横っ面にハンマーの一撃よりも強烈な打撃を受けたさやかの体は玩具の人形のように軽々と宙を舞い、高速で地面を何度もバウンドした。衝撃で力が抜けたさやかの手から剣は投げ出され、彼女は丸腰になる。

 そこにキリカが追い打ちをかけるように加速。かぎ爪を構えて、さやかの腹部に張り付いたソウルジェムを抉らんと肉薄する。

さやか「こっの!」

 と、そこで何度目かのバウンドの後のさやかが急に空中で体勢を立て直した。手品のようにマントの下から新しいサーベルを取り出すと迫るキリカに対しタイミングを合わせて一閃せんと刃を振り下ろす。

 黒い影と青い影が激突し、高速で物体を動かすエネルギーはどちらかを傷つける、

杏子「いい加減にしやがれ!」

 ことは赤い影の乱入によって叶わなかった。

 赤い影は言うまでもなく佐倉杏子。彼女はさやかの手から離れたサーベルを使って本来の持ち主のサーベルを受け止め、もう片手の槍でキリカの爪を受け止めていた。


キリカ「佐倉杏子、邪魔するならキミでも殺すよ?」

さやか「あんた……こいつの仲間だったわけ!?」

 鋭い殺気に板挟みになった杏子はチッと軽く舌打ちをした。

杏子「キリカ、さやか、二人とも落ち着け」

 ややこしいことになったと思いながら杏子は二人を宥める。

キリカ「落ち着く……? 落ち着く? 落ち着ける!? こいつらは、そこの売女は織莉子を殺したんだッ!」

 しかし、それが逆にキリカの逆鱗に触れたらしい。彼女が籠める力が強まるのを杏子は腕に感じた。

さやか「えっ……」

 逆にその様子のキリカに虚を突かれたのか、さやかの力は弱まった。

ほむら「違うと言っているでしょう、呉キリカ! 美国織莉子は私が到着した時には既に死に瀕していたのよ!」

キリカ「っざっけんなあああああああああああああああああ!」

 片方の力が強まり、もう片方の力が弱まったことにより杏子が籠めるべき力のバランスが崩れ、隙が生まれる。

 僅かな一瞬でキリカは加速し、ほむらの眼前に迫った。


 しかし今度はほむらの対応が間に合う。頭を潰さんと振り回されるかぎ爪を紙一重で回避。頬に赤い線が走るがほむらは気にせず瞬時に盾の中から取りだした拳銃をキリカの腹部に押しつけ、引き金を引く。

 瞬間、キリカは体を捻った。もちろんそれだけで銃弾を回避できるわけもなく、金属片が彼女の肉体を貫通し、内臓の機能も失わせる。通常の人間ならば確実に助からない傷だ。

 しかしそれで良かった。ほむらが狙っていたのは腹部のその先、つまりキリカの腰にあるソウルジェム。魔法少女であるキリカはそれが壊されない限り、壊れない。

 血を撒き散らしながら、回避行動の勢いでかぎ爪を下から上に切り上げる。が、空振り。さっきまで目前にいたはずのほむらは数歩後ろに下がっていて、それを認識した瞬間に体が自動的に動いた。

 遅れて銃声がキリカの耳に届き、時間停止からの攻撃を避けたことを遅れて理解する。すぐに攻撃を再開しなければ再び厄介な時間停止魔法を使われるだろう。

 だからこそ、キリカは背中から次なる攻撃手段を取り出した。それは太い筒のようなものだ。それには引き金がついていて、巴マミのマスケット銃を無骨に、そして太くしたものにも見えた。

 速度低下魔法の発動。同時に彼女は筒の引き金を引く。筒の側面にアルファベットが浮かび上がり、続いてドゴンという衝撃波のような爆音が周囲に響いた。

 その爆音が誰の耳に届くより早く、オレンジ色の閃光が宙を駆ける。

 アルファベットは、Equ.Railgunと書かれていた。

 ほむらの反応は当然間に合わなかった。音速の三倍を超えて飛来する人間の目には光線と大差なく見える物理攻撃がキリカの魔法によってさらに相対的に加速させられているのだ。

 だが、それはほむらに当たらない。発射されたのはあらぬ方向へと。結局マッハ3の銃弾は空気との摩擦熱によって虚空に溶けて消える。


キリカ「ぐっ……そ!」

 見ればさやかがキリカを押し倒していた。

 キリカが速度低下の魔法を発動していたのはほむらに対して、つまり前面のみ。

 その魔法の制約を受けないさやかが引き金が引かれてからレールガンが放たれる僅かな刹那にキリカへ突進していたのだ。

さやか「食らえ!」

 押し倒し、その上に馬乗りになったさやかがサーベルを両手で逆手持ちし、キリカの顔面に突き刺そうとする。

 キリカの魔法は速度低下、つまり分類するとなれば時間操作系の魔法だ。こうして動きを封じられてしまえばどうしようもない。

 だがそれは杞憂だった。矢のような何かがキリカとさやかの眼前を通過していったかと思えば、さやかの手首から先が消失していた。

 柄の砕かれたサーベルが宙を舞う。砕いたのは、杏子の槍だった。

杏子「いい加減にしやがれ、って言っただろうが」

 いつの間にか杏子はキリカとさやかのすぐそばにいた。

 次の言葉を誰かが口にする前に、杏子は手を失って無防備になったさやかを裏拳で殴り飛ばしてキリカの上から強制的に退けさせる。

 さらにキリカの視界に突然現れた縄が彼女を縛り上げた。幻惑魔法で見せた幻の縄だが、本人が縛られてると認識している間は拘束効果のある魔法だ。


杏子「おいゆま、このきかん坊とあのバカ新人の傷を治してやれ」

ゆま「う、うん」

 杏子の後ろに控えるようにして立っていたゆまが杏子の指示に従って魔法を発動させる。光が生まれてさやかとキリカをそれぞれ包むと二人の傷は一瞬で完治した。

杏子「さてと、冷静そうなあんたに説明してもらおうか」

 それを確認してから、改めて杏子はほむらの方を向いた。

ほむら「私だって知らないわ。呉キリカが何か勘違いをして、私たちに襲いかかってきて迷惑してるのよ……!」

キリカ「勘違っ!? 暁美ほむらァァァァァァ!!」

 ほむらの言葉を聞いてキリカが暴れ出す、が幻覚によって作られた拘束が彼女の体をぴくりとも動くことを許さない。

杏子「落ち着けよ、キリカ。おいあんた、何が勘違いなんだ?」

 ほむらとキリカの様子に呆れたようにため息を吐く杏子。

ほむら「何がも、何も、すべてよ。私は美国織莉子を殺してないわ。私が手を下す必要なんてなかったもの」

キリカ「嘘だッ!!! キュゥべえが言っていたんだ、お前が殺したって! あいつは信用ならないけど嘘は吐かないっ、お前が嘘吐きだ!」

 ほむらの言葉にキリカが牙を剥き、血走った目でターゲットを睨む。杏子は冷静にキリカの言葉を聞き流すことなく、その意味を捉えた。


杏子「キュゥべえが、か……」

ほむら「……何のつもり?」

 静かに、杏子は槍を手元に生み出すとその穂先をほむらへと向けた。

 ほむらも明確な敵対行為に警戒し、銃のグリップを強く握りしめる。

杏子「キリカの言うとおりだ、キュゥべえの情報には一定の価値がある。キュゥべえがお前が殺した、と言うなら、何かあるんだろ。キリカとは一度戦った仲でもあるしな、見ず知らずのお前よりこっちの方が信用できる」

ほむら「話にならないわ。私はやることがあるの。安全のためにそこの狂人を始末するっていう役目がね。事実無根のいちゃもんになんて付き合ってられない」

杏子「どっちにしろ、織莉子ってやつも殺すつもりだったんだろ?」

ほむら「……まどかを脅かすのなら、誰であってもその存在は許さない。それだけよ」

杏子「じゃあ話は簡単だ」

 杏子は軽く、開いた手をキリカへと向けた。するとキリカの体に巻き付いていた幻の縄は空気に溶けるようにして消え、彼女は自由となる。

杏子「確認のためにまずは死なない程度におとなしくなってもらうぞ」

 ゴッ! と、杏子は瞬時に加速する。それとほとんど同時、突き刺す、というより押しつぶすという表現の方が正しいほどの勢いで刺突が繰り出された。

 周囲に突風を生み出すほどの圧力の突きは、空振り。先ほどまでそこにいたほむらの姿は消えていて。

ほむら「結局こうなるのね」

 杏子の背後に、さやかのサーベルを逆手に持った状態で立っていた。


 刃はもう振り抜かれていて、杏子の首筋、頸動脈を正確に切りつける。

 白い首筋から夥しい量の鮮血が噴水のように吹き出し、杏子の体は力を失って崩れ落ちる。

 ほむらは軽くため息を吐きながらサーベルを軽く一振りして、刃についた血をふるい落とした。

杏子「幻だよ」

 と、そんなほむらの眼前に唐突に。杏子が槍を構えた状態で現れた。

 気がつくと、辺りにまき散らされていたはずの赤色は何事もなかったかのように消え去り、その水源である杏子の死体もどこにも見えない。

 ただすぐそばに脅威としての杏子が存在していた。

ほむら「くっ……!」

 本能的に体を捻るが、当然間に合うはずもない。心臓を狙った槍が少し外れ、ほむらの肋骨を抉る。

 口に鉄の味が一気に充満し、それでもほむらは反撃に移った。攻撃が終えたばかりの杏子に対して銃口を向け、引き金を連続で三回引く。

 しかし一撃で決められると思うほど慢心していない杏子はすでに近距離から離脱していて、ほむらの銃弾には当たらない。


キリカ「殺す!」

 攻撃直後は隙が生まれる瞬間。そこを縛めの解かれたキリカが狙わないはずがなかった。

 速度低下魔法を前面に全力でかけたキリカが魔爪を生やした左腕を伸ばし——

さやか「だぁっ!」

 その腕を横から突如現れたさやかのサーベルが一閃した。

 しかし結果はさやかの想像通りにはならなかった。

 金属と金属が激しくぶつかる音がしただけで、キリカの腕は両断されない。むしろさやかの剣閃が弾かれる結果となった。

 衝撃でキリカの魔法少女服の袖がボロ布のようになり、腕が見えた。ただしその腕は人の肌としては色が薄すぎる、病的というより機械的な、人工的な寒さの白。

 超人的な反応速度と視力を手に入れているさやかはそこにさらに人の肌にはないものを認識する。

 『Equ.DarkMatter』というオレンジ色の文字を。

さやか「ッ!?」

 その文字を認識するが遅いか、キリカがさやかの視界から消えた。

 キリカはさやかからの攻撃による衝撃に逆らわず、流れに体を乗せたのだ。

 軽業師のように空中で一回転し、足をさやかの頭の高さまで上げる。そのまま軽く曲げた足、その膝の裏をさやかの首筋に引っかけ、彼女の動きの流れをさらに後押しするように地面へと引き倒した。


さやか「ヴッ! っ、このっ!」

 さやかは地面に顔面から叩き付けられたが、すぐに起き上がって反撃しようとして。

キリカ「戦い方が素人すぎだね」

 首のすぐ隣、左右の地面にキリカの魔爪が突き刺さった。さやかは首を少し動かすとちくりという感触と共に首の皮が切れるのがわかった。

 つまり首を動かせば首が落ちるということで、それを理解したさやかは地面に縫い付けられたように仰向けのまま動けなくなる。

キリカ「隙を見せればすぐに飛び込んでくるし、効果的だと思えば同じ攻撃を繰り返す。本当に殺りやすいよ」

 さらにキリカは彼女の両手両足も塞ぐように、両手を足で挟み込みながら太股の上に馬乗りになった。

キリカ「別に首を刎ねてもいいんだけどね、それじゃ魔法少女は死なないから」

 そして、作り物めいた左腕を開いて、

キリカ「ちゃんと死ぬように殺さないと」

さやか「あっ……がっ……」

 さやかの腹部に突き刺した。

さやか「や、やめっ……」

 ぐちゃり、ぐちゃり、とまるで挽肉を捏ねるようにさやかの下腹部をいじりまわすキリカ。


キリカ「せっかく腕を失ったんだし、良い物にしてみたんだけど、これはいいよ、使いやすい」

 キリカの手がさやかの体内を蹂躙する度に体がビクンと震えた。

さやか「あ……あああああああああああッ!!?」

 さやか自身は痛覚を遮断しようとしているのに、魔法で邪魔されているのかキリカの手の感覚がありありとわかった。

キリカ「それじゃあ、」

 あまりの痛み、違和感にさやかは失禁しそうになるが、もう出るものもない。

キリカ「暁美ほむらを殺す邪魔をしたことを、暁美ほむら側についたことを後悔して苦しんでそして織莉子のために死ね」

 ブチブチ、と何かが引きちぎられる音がした。

 さやかの腹部にぽっかりと、穴が空いていた。ソウルジェムは奪い取られ、中の臓器すらも取り出されていた。

 キリカの手の中には青く光る命の宝石と、赤色の液体を滴らせる肉塊。この世のものでない物質で作られた腕がそれを握り潰そうとし。

 ザグン、と、肉が切り落とされる音がした。


キリカ「……あれ?」

 感触のなくなった左を見る。すると多節棍のようになった槍の穂先が正確無比にキリカの腕のあったところを通過した後、高く舞い上がってるのが見えた。

 異能の力を鍛えた腕は本来のキリカの腕ごと二の腕から切り落とされ、槍とはまた別の方向に宙を舞う。

杏子「死なない程度に、って言っただろ!」

 槍の操り主は無論、杏子。

キリカ「それはキミの方針だ、私には関係ない!」

杏子「冷静になれよキリカ。キュゥべえの情報には一定の価値があるけど、一定の価値しかない! こいつらから情報を引き出して考える時間も必要だ。織莉子ってやつのこと、この先にまだ真実があったらどうするんだよ」

ほむら「良い判断ね、佐倉杏子」

 二人が言い争いをしてる時間も、戦闘は続く。だから当然キリカも杏子も気を抜いたわけではない。

 しかし、杏子はほむらの魔法の正体を知らず、キリカはさやかを拘束するために、自分も固定されていて。

 結果、ほむらはフリーとなっていた。

 キリカの体が本人の意思とは関係なく動く。ほむら対策の結界による自動行動だ。

 そうして彼女はさやかの体の上から強制的に自動的に自主的に退くこととなり、さやかの体に自由が戻る。

 そのさやかのすぐそばにいつの間にかほむらが立っていた。


ほむら「お返しするわ、呉キリカ」

 いつの間にか拾っていた人工物の腕を軽く、キリカに投げつけるほむら。

 思わずそれを受け取ろうとして、気づく。

 その腕の両端と、肘の関節と、手首に。括り付けられた計四つの爆弾に。

 四つの爆発音が一つの大音量となって、キリカの五感を塗りつぶす。

キリカ「クッソ——っ!」

 当然。その程度で呉キリカという魔法少女は攻略できない。

 速度低下魔法の発動。爆発と共に後ろに飛んで、爆発の威力を軽減し、さらに結界まで張る。

 結界はさすがに壊れるが、二重の対策で威力が軽減させられた爆弾はキリカの命を脅かさない。

さやか「だっ!」

 だからこそ、ほむらは次の手を打っていた。

 爆炎を突っ切って、青い少女がキリカの眼前に現れる。

 それはまったく反応ができない、速さでは説明がつかない唐突な出現。腹部の大穴は火傷に切り替わっていて、しっかりとソウルジェムが輝いていた。

 明らかに時間経過的におかしな変化。つまり。


キリカ(暁美ほむらの魔法! 時間停止してあの新人が回復する時間を稼いだのか!)

 瞬時にキリカは状況を理解した。

 火傷はおそらく、傷口を塞ぐよりも魔力を体内の臓器を癒やすのに優先したため、傷を塞ぐ代替手段として傷口を焼いたもの。
 唐突な美樹さやかの出現は目の前にさやかを移動させてから時間停止魔法を解除したため。

 そして、爆発の瞬間を狙ったのは——

キリカ(私の暁美ほむら攻略法の攻略法……!)

 キリカのほむら対策とは、ほむらの魔法の仕様を突いたものだ。

 時間停止状態とはつまり、あらゆる変化がないということであらゆる干渉を受けないこと。つまり攻撃するには干渉を受ける状態、変化がある状態にしなければならない。しかし、そうすればそれは時間停止状態ではなくなるため、魔法の意味がなくなる。

 つまり、時間停止中に攻撃を当てることはできないのだ。

 だからほむらの攻撃は時間停止中にどんなに接近しようと、攻撃対象から見れば必ず命中する前にすぐそばに現れる。

 通常ではそこまで至近距離に接近した音速の攻撃を避けることなど思考も反応も間に合わず不可能なはずだが、キリカはそこでレーダーのように結界を張り、破られた瞬間に自動的に、反射的に反応することで対処を可能にした。

 しかし当然、キリカの対策にも穴はある。結界を破られた瞬間に反応するように設定しているなら、そのレーダーの役割をする結界を狂わせればいい。大量の誤情報を同時に与えればいい。

 それが、ほむらの放った爆弾。

 そしてさやかをキリカの眼前に出現するように時間停止中に移動し、攻撃したのだ。


 キリカは声を上げる暇すらなかった。

 さやかの剣はキリカの胴を通り抜け、背骨まで切り抜いた。

 けれども、体だけは本能的に動かせたのはキリカがベテランである証だろう。確かにソウルジェムを狙ったさやかの一閃だったが、微妙に外れ、彼女のソウルジェムは傷つかない。

さやか「損ねた……!?」

ほむら「十分よ」

 失敗に戦慄したさやかだったが、すぐ隣にまどかを抱いたほむらがどこからともなく現れる。

ほむら「佐倉杏子、今回は引かせてもらうわ。貴方たちより優先すべきことがあるの」

 ほむらに抱かれたまどかは顔を見たことがないくらいに真っ青にし、水でもかぶったかのように錯覚するほど制服を汗で湿らせて、誰でも危険な状態とわかるような異常な呼吸をしていた。

 その様子を見て、ほむらは歯ぎしりし、仲間であるはずのさやかでもぞくりとする表情を顔に映す。

杏子「そいつ——」

ほむら「……追いかけても無駄よ。圧倒的な速度を持つ呉キリカならともかく、貴方たちでは私の速度には追いつけない。そして、その呉キリカを治癒してる間に、私たちはもうさらに遠くに逃げてるわ」

 あまりに危ない様子のまどかを見て杏子は思わず声が出た。しかし再び彼女へと顔を向けたほむらが言葉を遮る。その瞳には明確な敵意が存在しているのを杏子は感じ取った。


ほむら「それともう一つ。この街にはもうすぐワルプルギスの夜がやってくる。あまり長居しない方がいいわ」

 言葉はまるで忠告のようだが、その内に秘める言外の意味を杏子は聞き取る。

ほむら「もう会わないことを祈ってるわ」

 その一言を最後に、ほむらと、その腕に抱かれたまどかと、その腕を握ったさやかの姿が消えた。

 杏子は思う。きっとあの言葉にはこんな続きがあっただろうと。

 ——次に会った時は容赦しない、という言葉が。


フレンダ「結局、この街に一体何が起こってるわけよ……」

 キリカが意識を失ったことで魔女の作った結界がようやく崩れていく。周囲は病院の姿へと戻っていく。

 その非現実的な景色の中で、魔法少女の高速戦闘について行けず見ることしかできなかったフレンダがぼそりと呟いた。

投下終了
推敲する時間が全然なかったから今回ひどかったかも……

やっと本編の三話辺りが終了……

お待たせしました……
少しだけど投下


  ————

 夕暮れ時の大通り。しかしそこに本来あるはずの活気はなく、誰一人いないがらんとした空間になっていた。

 その静かすぎる車道を、法定速度よりも圧倒的に速い人間が駆けていた。

 神裂だ。

 彼女が一足地面を踏むたびにコンクリートは砕け、重低音がまき散らされる。コンクリートは聖人の脚力に耐えきれず、舗装されていた道路が災害の後のようになっていった。

 それでも神裂は意に介さず音速すら超えて走る。

ジーンズ店主『おい神裂、少しスピードを落とせ! 隠蔽術式が追いつかねえ!』

 霊装を通じてジーンズ店主の声が神裂の脳内に直接響いた。

神裂「しかし、予想以上に時間を……いや、もう急ぐ必要はないようですね」

 ジーンズ店主の命令口調に反論しようとして、神裂は唐突に足を止める。

 聖人である神裂の超人的な視力が三人の少女の姿を捉えたからだ。

 そして、二人の表情から感情の色を認識する前に、一人の少女が人間を超えた速度で神裂の元へと飛び込んできた。

 青い装束に、片手に剣を携えて飛び込んできたのは、神裂にとっては見覚えのない姿の美樹さやか。

 剣先は神裂の眼前に突きつけられて、そこで止まる。


さやか「あんた、まどかにっ、何をした!」

 激昂の表情でさやかは神裂に詰問する。

 そんな攻撃意思を示されても神裂は冷静に状況を把握した。

 激しい感情が燃えてるのはさやかだけではなかった。一緒にいた残り二人の内一人、暁美ほむらも静かに、しかし燃えるように憤怒しているのがわかった。

 その理由はおそらくほむらの腕に抱えられた少女、鹿目まどかの容態。彼女は全身から汗を拭きだし、まるで重病人のように土気色の顔をしていた。

神裂「忠告はした、はずだったのですが」

 まどかの様子を見て、神裂は苦虫をかみつぶしたような顔をする。

神裂「すみません、これは明らかに私たちの失態です」

さやか「やっぱり、やっぱりあんたがまどかに何かしたのかっ!!」

 謝罪の言葉を聞いて、さやかは怒りの火に油が注がれたように感情が加熱された。

神裂「彼女、鹿目まどかには私たちが魔術の手ほどきをしました。同時に魔術の危険性を何回も忠告したのですが……無駄だったようですね」

さやか「危険性……!?」

神裂「魔術といっても、万能の技術ではありません。常人が魔術を使うと異界の毒が脳内に染み込んで行きます。私たち魔術師は宗教防壁などを構築することで脳内へのダメージを防止しているのです」

 言って、神裂はちらりとまどかを一別した。


神裂「鹿目まどかは特別に何かの宗教を信仰したりはしていませんでした。だからこそ、宗教防壁が薄かった。暗示で多生の防壁は構築できましたが、それでも使えて数回という警告を何度も何度もした上で、魔術を教えたのです」

さやか「そんな危険なものを、あんたはまどかに!?」

 そこで怒りで剣先が震えるさやかを制止するように、いつの間にか現れたほむらが二人の間に右手を割り入れた。

ほむら「私が聞きたいのはそんな情報ではないわ」

 ほむらの手はそのまま刀身を掴む。赤い血が白い肌に線を引いた。

ほむら「まどかの状態を改善させる方法を教えなさい、今すぐに。私も、感情を我慢するのはそろそろ限界なの」

 そこで神裂は気づいた。ほむらはさやかを止めたのではなく、本人の意志で抑えきれない怒りが剣を握らせただけということに。

神裂「……異界の毒を取り除く方法はあります。しかし、それは魔術の心得が必要です」

 そんな状態の二人を見て、神裂は自分の失敗により心苦しくなった。しかし、神裂はそれを表情には出さない。

さやか「つまり、あんたらに預けろって? ふざけんな!」

神裂「では、あなたたちでそれができるとでも?」

さやか「うぐっ……」

 言葉の意味を即座に理解したさやかが噛みついたが、冷静な仮面を被った神裂はそれを一蹴する。

ほむら「確かに今の私たちにはできないわ。それでも貴方に預ける必要はない」

 そこに、同じく冷静な仮面を被っただけのほむらが意見を割り入れた。

ほむら「手順を教えなさい。まどかに使えるなら私にも魔術は使える、のでしょう?」


神裂「……っ!」

 感情が昂ぶっていても、ほむらの思考は冷静ということに気付かされて、一番突かれてほしくない部分を突かれて、神裂の被る冷静な仮面にヒビが入る。

さやか「ちょっ……転校生!? 魔術使ったら今度はあんたが倒れちゃうでしょ!」

ほむら「知ったことではないわ。まどかを助けるためなら私はなんでもする、ただそれだけよ。それに魔法を扱う私たちなら少しは耐性があるはずよ」

 さやかにとってもほむらの提案は想定外だったようで焦って忠言するが、言われたほむらはなんともなしに強い決意を吐く。

さやか「……転校生、いや、ほむら。あんたがなんでそこまでまどかのために動くのかわからない、でもあんたの真剣さは認めるわ」

 鉄のように冷たく硬い意志の瞳をさやかは見た。

さやか「だからこそ、あたしがやる。元々、まどかがこうなった原因はあたしにもあるわけだし」

 その意志にさやか自信の思いも固められる。ふっと力を抜くとほむらが握りしめていたさやかの剣は虚空に溶けるように消え、さやかの衣装も見滝原中の制服へと戻った。

さやか「ってわけだからさ、あたしにやらせてよ」

 さやかはの虚空を掴んだまま固まっているほむらの腕に手を置き、神裂の方を見た。

神裂「致し方ない、のですね。落ち度は私たちにもありました。わかりました、手順と魔術の基本を教えます」

 神裂はその瞳にほむらとはまた別の温度の強い意志を確認し、もう何も言えないことを悟った。


神裂「ただし、二度目以降の魔術の使用は厳禁です。魔法少女と言えど、肉体は人間。対策もなしに魔術を使い続ければ脳が確実に崩壊します」

さやか「魔術なんて他に使う必要ないっての。あたしらは魔法少女なんだからね」

 神裂の忠告にさやかはまるで軽口のような自信を返す。

 ほむらは、無言でさやかの言葉を聞いていた。何を考えているのかさやかには理解できないが、なぜだかその無言が優しく感じられた。

とりあえずここまで

前期のアニメ、三話までしか消化してないものがあるのに今期のアニメがもう四話五話に突入してた……
な、何を言ってるのかわからねーが、俺も何が起きたのかわからなかった
超電磁砲PSPとかまどポが未だにほとんど開封しただけとか、BW2を両バージョン買ったまま放置してるとか、そんなチャチなもんじゃねえ……
もっと怖ろしいものの片鱗を味わったぜ……

生存報告きた!これで勝つる!
sageについてはなんか自治スレでとりあえず常にsageようかみたいな議論をしてた希ガス

投下


  ————

 翌日。いつもの帰り道で三人は無言だった。

 三人とは美樹さやかと、暁美ほむらと、志筑仁美。

 そこに鹿目まどかの姿はなく、同時にそれが三人の無言の理由になっていた。

仁美「鹿目さん、突然の頭痛で倒れて入院だなんて……大丈夫なのでしょうか」

 ぼそりと仁美が心からの心配を籠めて呟いた。

 その善意にさやかは心臓が握りしめられたような感触を覚えた。

仁美「最近の鹿目さん、何かで悩んでらしたようですし……」

さやか「い、いやー、でも幸い病院で良かったよ。処置が早かったから何事もなくて検査のために少し入院ってだけだし」

 胸の鈍痛をごまかすように、自分に言い聞かせるように、さやかは嘘を吐く。

 話としては、まどかは病院で突然の頭痛に倒れたということになっていた。

 一度学校に神裂を呼びに来た件に関しては放課してから時間が経過していて少数の生徒にしか目撃されていなかったため、隠蔽は容易だった(と神裂は言っていた)。

仁美「しかし……」

さやか「大丈夫だってば。昨日の時点でまどかは元気そうだったし。だから仁美は安心して習い事に行きなって」


仁美「はぁ、こういう時くらい休ませてくれても良いですのに……鹿目さんのお見舞い、行けなくて本当に残念ですわ」

さやか「明日には会えるってば」

仁美「……わかりましたわ。それでは鹿目さんによろしくお伝えください」

 そこで仁美は一拍置いて、

仁美「明美さんの愛の力があればきっと大丈夫ですわよね」

 そう言って仁美は最後にほむらにウィンクをする。

 ほむらは無表情の鉄仮面を張り付けていたが、仁美は彼女が少し照れたのを見逃さなかず、一人想像が正しかったのだと微笑んだ。

さやか「仁美ってば何言ってんだろ」

 一人だけ理解が追いつかないさやかは首を傾ける。

ほむら「貴方じゃわからないわよ、きっと」

さやか「なんだとー?」

 やや冗談を飛ばし合う二人だが、仁美が曲がり角に消えると。

さやか「……ほむら」

 まずさやかが声のトーンを一気に下げた。

ほむら「気付いてるわ」

 呼ばれたほむらはいつもと変わらない氷のような声で言いながら、右手についた指輪を目の高さまで持ってくる。


 指輪の中の宝石、ソウルジェムが遅く、しかし確かに点滅していた。

 つまりは、魔女の反応だ。

ほむら「さっさと片付けてまどかのお見舞いに行きましょう」

 当然のほむらの提案に、しかしさやかは首を振る。

さやか「この魔女はあたしが片付けるよ。ほむらは先に行ってて」

 静かに、言いなだめるようにさやかは宣言した。

ほむら「何を言っているの? 特殊な力を得たからと言って調子に乗るのは死を早めるわよ」

 呆れた口調でさやかに忠言するほむら。

さやか「精神的に不安定な状態で戦うのはもっと死を早めるんじゃないの?」

 返すさやかの言葉にほむらの眉がぴくりと動いた。


さやか「あんた、まどかのことが気になって仕方が無いんでしょ? 今日のほむらはいつもと全然違うよ」

ほむら「どこが違うと言うのかしら?」

さやか「付き合いは浅いけどさ、ほむらは何もないようなところで三回も転ぶドジっ子とは思えない」

ほむら「……」

 さやかの指摘に、ほむらは思わず無言を返す。

さやか「いつものほむらなら国語の時間に理科の教科書を広げたりしないし」

ほむら「……」

 無言。

さやか「いつものほむらならお弁当食べる時に中身を忘れたりしないし、箸と間違えてチョークを持ってきたりもしない」

ほむら「……誰にだってたまにはそういう日もあるわ」

さやか「チョークはさすがにあたしにだってないよ!?」

 やっと開いた口から出たのは言い訳で、それもさやかの知るほむらではなかった。

さやか「ともかく、今のほむらじゃあたしから見ても危なっかしくて仕方ないのよ。先にまどかの顔を見て安心してからこっち来てよ」

 そう言ってさやかは腕をまくってにかっと笑う。

 ほむらは溜め息を吐きながらも、内面でさやかの優しさに感謝することにした。

少しだけどここまで
仕事が忙しくなるまで書ける時間はある……はず

>>787
ちらっと自治スレ見ましたけど、こういうのは昔からあるもんなのでそれぞれのスレの希望に従って、でいいと思いますよ
このスレではどっちでも気にしなくていいかと

投下します


  ————

 ふと、鹿目まどかは目を覚ました。

 視界に出迎えたのは無菌的な白い天井。横を向けばクリーム色のカーテン。

 見慣れない景色。

まどか「あ、そっか……入院してたんだっけ……」

 自分の状況を思い出して、まどかは納得する。

 見滝原市立病院は静かだった。

 つい昨日まではここで死闘が繰り広げられていたなどとはとても信じられず、まどかは逆に非現実に染まっている気分になる。

 しかし、どちらも現実で、まどかは確かに倒れてここに運び込まれていたのだ。

まどか「今、何時かな?」

 時間が気になって、まどかは枕元の棚に置かれていた自分の携帯電話を手にとって開く。

 しかし液晶の光が点灯することはなく、電源ボタンを押しても反応がない。

まどか「そっか、充電しないまま寝ちゃったんだっけ……」

 寝る前の記憶を呼び起こして、自分の失敗に溜め息を吐いた。

まどか「充電器、どこかなあ」

 動かない携帯電話に格闘しても仕方がないのでそっと画面を閉じ、充電器を探そうとして、荷物を探そうとして、彼女は一度窓の方向を向いて。


まどか「えっ……?」

 窓の外に、気になるものを見てしまった。

まどか「仁美、ちゃん……?」

 視線が止まったのは病院の外の道路。そこによく知る友人が歩いているのが見えた。

まどか「今日はお稽古のはず、だよね……なんであんなところにいるわけ、ないよね……」

 まどかの視力は確かに良いものだし、病室の階数も高いもので確かに道路の状況はよく確認できる。しかし遠目なため人違いかもしれない。

 それでも、まどかの胸中が猛烈に騒ぎ出した。

 定例的な事実からの疑問。そして、あの生気を失った歩き方は、昨日目撃したばかりだ。

 神裂の言葉が思い出される。

神裂『魔女の口づけ……! 簡単に言えば、魔女のマーキングですよ。これから襲う獲物につける、ね』

 そこまで考えると、もういてもたってもいられなくなった。

 仁美らしき人物の歩く速度は遅かった。走れば間に合うだろう。

 しかし着替える時間はない。パジャマのままカーディガンを羽織って、裸足のまま靴を履いて。いつものまどかではおおよそしない格好で彼女は病室を飛び出した。

投下終了
速攻で書いた分だから短くてすまない
前より時間取れるようになった
深夜アニメがやってる時間に帰れるようになった
買い物をする時間ができた
モバイルバッテリーが満充電になる時間まで家にいられるようになった
通勤に県を跨がないって最高だわ……

昼間SS速報落ちてたのかな? 投下できなかった

今から投下開始


  ————

 呉キリカは今日も復讐の炎を原動力にして対象を探すために走り回っていた。

 上半身と下半身を分離させられてもソウルジェムは傷一つなく、肉体はゆまの魔法ですぐに全快した。

 しかしその頃にはほむらもさやかもまどかも見失った後で、キリカはまたも対象者を探すところから始めることとなる。

 今は魔女の反応があったため、そこに向かっているところだった。

 魔女がいれば魔法少女は当然集まる。そうすれば再び暁美ほむらと相見えることになるはずだ。

 ある程度近づいたと判断したキリカは人気のないところで一度立ち止まった。ここからはソウルジェムの反応を見ながら慎重に探す作業となる。

 と、そこへ。キコキコと。金属の軋むような音。

 図ったように車椅子を漕いで誰かが近づいてくるのがわかった。。

 特徴的な金属音にキリカの記憶の中からとある一人の強烈な人物が引き出される。

キリカ「あれ、学園都市からキミが出てくるって、どういう風の吹き回しだい?」

 背を向けたまま、キリカは背後の車椅子に話しかけた。

「状況が変わりまして。それにアナタがEquシリーズを起動させた信号を受信しましたので」

 女の声だった。落ち着いていて、柔らかく、それでありながらどこか病的な女の声。


キリカ「結界内でしか使わないように心がけてたんだけどな……やっぱりバレちゃうか」

「入ることができるということは、出ることもできますからね。秘密裏に使おうなんて魂胆は諦めてもらいましょうか」

キリカ「それにしてもキミが出てくるのは意外だったよ、」

 彼女特有のフレーズが出てきて、キリカは面倒なことになったと実感する。この女は、キリカに学園都市の力を授けた女だ。

 名前は。

キリカ「木原病理」

病理「おや、私の名前を覚えていたのですか」

 キリカの口から名前を呼ばれて意外そうな反応を返す病理。

キリカ「織莉子以外は興味ないんだけどね。キミほど特殊な人間を見たら嫌でも覚えてしまうよ」

病理「それは光栄ですね……さて」

 ガシャガシャガシャと。金属の部品同士で組み立てられる音。

病理「まずは私から逃げるのを諦めてもらいましょうか」

 次の瞬間、ドババババババ! と猛烈な連続音が破裂した。

 キリカは瞬間的に加速し、その場を離脱する。コンクリートがタングステン合金で叩かれ、発泡スチロールのように打ち抜かれ、ボロボロに形が崩される。

 病理の方を見れば車椅子から機関銃が飛び出していて、さらにそれがキリカの方を既に向いていた。


 認識したと同時、第二波がキリカを襲う。

 しかし当然そんなものがキリカに命中するわけがなく、相対的に加速した彼女は銃弾の雨を難なく避けると一気に病理との距離を詰め、魔法で武器であるかぎ爪を出現させて振るう。

 特殊な合金でできているはずの機関銃は安いプラスチックの玩具のように簡単に砕かれ、さらにもう一閃で車椅子ごと病理を切り刻まれる、ことはなかった。

 キリカが壊せたのは車椅子まで。病理はいつの間にかそこにおらず、遙か高くジャンプして、着地した後だった。

 その両足は機械的に白く、またオレンジ色の焼き印のように、『Equ.DarkMatter』という文字が表示されていた。

キリカ「これは、キミの親戚を殺したことに対する復讐?」

病理「『木原』にそんな行動概念は存在しませんよ。まあ、仮にも『木原』としてそれなりの地位を築いたテレスティーナを倒せたことは研究資料になりそうですが」

キリカ「相変わらずだね。人間の情ってものがないの?」

病理「それを貴方が言います、か!」

 次の瞬間に病理は明らかに人間の動きを超えた速度まで一気に加速した。

 『未元物質』の力を使った脚力で音速まで加速し、さらのその力を今度は攻撃に転用し、跳び蹴り。

 キリカの反応も俊敏だった。相手が動いた瞬間に速度低下の魔法を発動。音速まで達しているはずの病理のスピードが大幅に落ちる。

 病理の蹴撃は足場を砕き、衝撃でコンクリート・地面の破片・粉塵が巻き上げられた、が、それは誰の体も傷つけない。

 キリカは余裕綽々と飛び上がって攻撃を躱し、さらに追撃のために両手に魔爪を展開して。


病理「形状変化、イエティ参照」

 瞬間、キリカの視界を真っ白な毛むくじゃらの塊が埋め尽くした。

 対応までに確かに時間的余裕はあった。にも関わらず、それでも圧倒的な質量が彼女を包み、回避を許さない。

 それは病理の腕から爆発的に膨らみ伸びた『未元物質』が振り下ろされた結果だった。巨大な津波に飲まれるようにしてキリカは地面へと押し潰される。

病理「おや……?」

 あまりにも簡単に捉えられたことに疑問を持った、というように病理は首を傾げた。手応えは確かに彼女の神経を通ったし、今もキリカを押し潰している感触がある。

 とそこで、その感覚が増大していくことに気がついた。

病理「これはこれは……」

 その膨張スピードは加速度的に増加し、触覚情報から病理はキリカが何をしているのかを理解する。

病理「リミッターを外しましたか」

 ズバン! というほとんど爆発のような音がしたと思うと、病理の『未元物質』の腕がキリカを押し潰しているところから両断された。

 そこからは病理の腕と同色の巨大な羽が立ち上っている。根元は、キリカの腕。

キリカ「はぁっ……はぁっ……」

 羽は飴細工のように不自然に折りたたまれて、『未元物質』の、キリカの腕の中に吸い込まれて消える。


病理「やはり魔法少女だとリミッターをより多く外せるという推測は間違ってなかったようですねえ」

 自分の腕が切断されても、病理はその結果に満足そうに言った。

 結局、戦っているのはキリカ一人だけ。病理にとってはこれも実験に過ぎない。

キリカ「調子に乗ってるのも今の内だけだよ」

 そう言ってキリカは相対的に加速して、魔爪を展開して、病理に肉弾戦を挑む——と見せかけて眼前に迫った瞬間に病理を飛び越えた。

キリカ「プ・レ・ゼ・ン・ト」

 ただキリカは飛び越えただけではない、そこに学園都市製のスタングレネードという置き土産を残して飛び越えた。

病理「はい?」

 だがそんなものは病理が毛むくじゃらの『未元物質』を一振りすれば不発に終わる。

 その瞬間に確かに隙は生まれるので、キリカはそこに魔爪を叩きつけた。

病理「はぁ……」

 しかし木原病理にはその程度の攻撃など攻撃として成立しない。

 渾身の一撃は虚しく空振り。

 キリカの眼前にいたはずの病理は手品のように消え去り、キリカの視界に小さく映っていた、と思えばまたキリカの眼前に現れた。


病理「形状変化、リトルグレイ参照。まさか何の策もなしにこの程度の攻撃をしているわけではないですよね?」

 いつの間にか巨大な腕だった右腕は指にあたる部分に二つのオレンジを生やした人間らしい細さの腕に変わっていて、もう片手がキリカの喉元に迫ろうとしていた。

 本能的にキリカは全速力で後退し、伸ばされた腕から逃れる。

病理「まさか精神汚染を恐れているのですか? そんなもの、気にする必要ありませんよ」

 病理は何も掴めなかった手をそのまま伸ばしきり、虚空を掴んだ、ように見えた。

 するとさっきまでまるで存在していなかった真っ白の物体を彼女はいつの間にか手に掴んでいた。それは先ほどキリカに両断された腕の先。

 病理は未確認生物の推測構造を再現し、通常の生物を超えた力を振るう。

 今はリトルグレイを参照し、小型ながらも高性能な脳を手中に再現、そしてそこに能力を発現させたのだ。

 能力は『座標移動』。

 だがそんなものは木原病理という脅威の始まりに過ぎない。

病理「形状変化、インキュベーター参照」

キリカ「えっ……?」

 一言呟いて、病理は自身から分断された『未元物質』に口をつけた。

 あらゆるものを弾き、あらゆるものを切り裂く最硬の素材を病理はまるでマシュマロを頬張るようにむしゃむしゃと貪る。

 それはつまり肉体の中に『未元物質』を取り込むということで、精神汚染のことを考えれば正気の沙汰ではなかった。


病理「ふぅ、あまり美味しいものではないですねえ。おや、驚いているのですか? そんなことをして、第二位の力に意識が飲み込まれないのか、と」

 咀嚼の終わった病理がニタリと笑い、暗い瞳でキリカを見た。

 あまりの狂気にキリカの背筋に寒気が走る。

病理「それが、今はそうでもないんですよ。貴方たち魔法少女のお陰で」

 言って、病理は着ていたスカートをまくり上げた。

 そこにキリカは信じられないものを見る。

病理「便利ですよねえ、魔法少女って」

 両膝に、違う色のソウルジェムが埋め込まれていた。

 それぞれは若干濁り、どこかのソウルジェムハンターのように未使用のままというわけではないらしい。

病理「肉体に『Equ.DarkMatter』を移植すると第二位の力によって精神が崩壊していくわけですが、『Equ.DarkMatter』自体の素材にソウルジェムを使うとですね、間にソウルジェムの持ち主の精神が間に入ってくれるお陰か私の精神には何も影響がないんです」

 キリカも自身を大概狂っている方だと自覚していた。

病理「そしてこれがまた便利なもので、肉体とソウルジェムは相互作用し合うようでして、それを上手く利用すると肉体の脳からソウルジェムに作用してソウルジェム内の精神が壊れても修正することができるんです」

 しかし、それとはまるで異質だと、この病理はキリカから見ても狂っていると判断せざるを得なかった。

病理「逆を言えばです、ソウルジェムさえ汚染されなければ魔法少女の肉体に直接『Equ.DarkMatter』を移植したとしても、ソウルジェムから復元が効く。魔法少女の力を使えば精神汚染を気にせず『未元物質』が扱えるのですよ」


キリカ「所詮、私たちはキミたちにとってはモルモットに過ぎない、ってわけだね」

病理「科学はすばらしいでしょう?」

キリカ「そうだね、反吐が出るくらいにはすばらしいよ」

 この目前の存在に、キリカは出し惜しみをしていては勝てないと悟った。

キリカ「でもいいことを聞かせてもらったよ。キミには猫だって追い詰められたモルモットには噛み殺されることを教えてあげる」

病理「ほう……?」

キリカ「形状変化、サクラキョウコ参照」

 ミチリと音がすると、キリカの右腕、『未元物質』の腕から槍が生まれた。

キリカ「ずっと考えていたんだ」

 柄も刃も全て白で構成されるそれはあらゆるものを切り裂く『未元物質』の槍。

キリカ「UMAを参考にした肉体改造のプログラムデータはキミのお陰で私の脳にインストールされている」

 だが、キリカの用途はそれでは終わらない。

キリカ「それでも、私はただの劣化コピーでしかない。いつかキミと戦うことになったら勝ち目はない。ならどうしようか?」

 キリカが中空で槍を振るうと、白い粒子が撒かれたように病理の視界には映った。


『こ』
『う』
『す』
『る』
『の』
『さ』


 その瞬間、病理の聴覚は360度、前後左右からキリカの声を捉えた。

 気付けば、先ほどまでに意識を向けていたキリカは忽然と姿を消している——と思った時に体が傾いた。

 片足が、無くなっていた。ソウルジェムで作った『Equ.DarkMatter』ごと鋭い刃物で切り取られたように失われていた。

病理「いつの間に……いやこれは……」

 だが失われた片足はすぐに新しく作り出される。一つの『Equ.DarkMatter』が失われても、別のそれがバックアップとして働くのだ。病理にとってこの程度、ダメージでもなんでもなかった。

病理「幻覚能力ですか」

 ノーダメージどころではない。ヒントを与えられた『木原』である病理の頭脳は現象を即座に解析し、瞬間で正答を引きずり出す。

病理「なるほど、そういえばデータにありましたね。佐倉杏子という魔法少女は幻覚を見せることができると。その能力を再現し、私には貴方の存在を認識不可にした後に攻撃したわけですか。けれども詰めが甘いですねえ」

 さらに『木原』の分析能力はそこに留まらない。仕組みが理解された時には既に対抗策が打ち上がっている。

病理「形状変化、イエティ参照」

キリカ「かはっ……!?」


 病理は腕を前に押し出し、イエティを参照した力で前方を埋め尽くす。するとキリカの声がどこからか聞こえた。

病理「残念ですが、源流は同じ力。『未元物質』で脳に作用するウィルスを作ったようですが、それならば私はワクチンを作りましょう」

 見ればキリカは地面を激しく転がっていた。病理の目は転がる彼女の体を確かに捉えていて、幻覚は通用していないらしい。

病理「形状変化、チュパカブラ参照」

 追撃。病理の腕がさらに変化する。爆発的に膨張した腕はビデオを逆再生したかのように急激に収縮し、本来の人間の腕のサイズに戻ったかと思えば手に当たる部分には干からびた人間の口のようなものが生まれていた。

 その口が開くと細長いものが銃弾のような速度でキリカに突き出される。

 チュパカブラ。『細長い舌で獲物の肉体に穴を空け、その生き血を啜る』という未確認性物。

 しかし病理がそれを再現した場合、それ以上の脅威となる。『未元物質』としての鋭さを持った舌はあらゆるものを貫通する最強の槍となるからだ。

 キリカは当然避けられない。真っ白な舌は彼女の胸の中心を正確に貫通し、肉体を地面に縫い付ける。

病理「形状変化、イエティ参照」

 病理が何をしようとしているのか理解して、けれども声を上げる暇はなかった。

 細長いチュパカブラの舌は一瞬で膨張し、巨大なイエティの腕へと変貌する。

 小さく空けられていた胸の穴もその円周に従って広げられ、限界を超えて。

 ぶちゃりという湿った音を起てて、キリカの上半身は破裂した。


病理「さてこれで行動不能、ですね」

 残されたのはキリカの胸から下のみ。ソウルジェムだけはきっちりと無傷だ。

病理「魔法少女はこの程度じゃ壊れませんから本当に便利なものですが、思考する脳さえ潰せば——」

 結果に満足して、回収しようとして、出てくる言葉はそこで止まった。

 ギチギチギチギチギチと筋肉を無理矢理動かしたような音。

 それはキリカの右腕、この世のものでない物質の義手が猛烈な勢いでキリカの残された肉体まで物理的に伸びてきた音だった。

 『Equ.DarkMatter』がキリカだったものの断面に接続される、とその瞬間にキリカの裸の、つまり人間の肉体を素材とした上半身が綺麗な状態で再生された。

 時間にして、一秒もかからない致命傷からの復活。確かに第二位の力を使えば再生や代用は容易だ。しかし、

病理「完全な肉体としての再生……そして貴方に『未元物質』を移植したのは右腕だけのはずでしたが」

キリカ「形状変化、フレンダセイヴェルン参照。これは肉体再生じゃなくて形状記憶だよ」

病理「形状変化の出典は全て魔法少女ですか……!」

キリカ「正」
 『か』
  『ぃぃぃいいい』

 会話は途中で比喩でもなんでもなく、文字通り狂った。


『形』   『状』
 『変』 『化』
      『サク』
    『ラ』
 『キョ』
   『ウ』     『コ』
『参』
     『しょ』
『ぅぅぅぅぅううううううぅぅぅぅ』

 キリカの言葉におかしなエコーがかかり、あらゆる方向からキリカの声が聞こえ、病理は前後左右の区別がつかなくなる。

 それでも病理は何も焦らない。

病理「違う手法で幻覚を見せてきましたか。けれど、どんな手法でも貴方程度の頭脳で考えたパターンなど『木原』の私にとって逆算は容易ですよ」

 宣言通り、彼女が軽く指を動かすとそれだけで幻覚は解除された。

 歪んだ五感が正常に働き、キリカの様子をしっかりと病理の脳内へと伝達する。

 そして病理は認識する。自分の体積の数倍はありそうなほどの、巨大な『未元物質』の銃を構えたキリカの姿を。

 その時にはもう遅い。体中を白いリボンで覆われ、身動きが取れなくなっていて。

 銃口がしっかりと病理に定められた。

キリカ「形状変化、トモエマミ参照」

 その名前は、有名だった。特に『未元物質』を研究する病理にとって、第二位のファイブオーバー、それも魔法少女向けの特殊モデルを単独で破壊寸前まで追い詰めた彼女の名前はよく知っていた。

 つまり、それを再現した一撃の威力というものは、予想が付いた。


 銃弾が放たれる。一撃で音も色も周囲の景色形状風貌地形あらゆるものが吹き飛んだ。

 規模は半径数十メートルにも及び、クレーターが生まれ、範囲内のあらゆるものが無に帰った。

 と思われたが。

病理「さすがに驚きました、が、巴マミを再現するには出力不足ですね」

 木原病理は大穴の中心で、何事もなかったかのように立っていた。

病理「元々、貴方の『未元物質』は右腕のみですからねえ。そもそもの出力が違います」

 病理はキリカの成長にも余裕を崩さない。それは我が子の成長を喜ぶ母の顔——などではなく、実験動物が思わぬ結果を生み出したことに対する研究者の愉悦の顔色。

病理「なぜなら私は」

 その表情のまま彼女は服の胸元に手をかけ——思い切り引き裂いた。

病理「貴方とは移植してる割合が違いますから」

 その下からは裸の上半身が現れる、なんて生やさしいことではなかった。

 胸元から腹部まで、夥しい量の、色とりどりのソウルジェムが埋め込まれていて。

 キリカは理解した。あれは全て『Equ.DarkMatter』だと。


病理「とはいえ、さすがに手加減してる余裕はないようです。そろそろ本気で諦めてもらうことにしましょうか」

 キリカは戦慄した。あれだけ試しても、あれだけ手の内を晒しても、木原病理という『怪物』の底はまだ見えない。

病理「形状変化、ネッシー参照」

 木原病理の輪郭が歪んだ。

 人の形を失い、それは巨大な竜の姿へと変貌する。

 思わずキリカはごくりと息をのんだ。


病理「人間に敵うと思うなよ、『魔法少女(バケモノ)』」


 『怪物(ニンゲン)』による『魔法少女(バケモノ)』退治は理不尽なまでに圧倒的な質量差が蹂躙として成立させる。

投下終わり
キリカと病理おばさんはどっちも狂ってるから書いてて楽しい

投下します


  ————

 さやかとしばらく魔女の捜索だけしたほむらは少し遅れて見滝原市立病院へと到着した。

 受付でまどかの病室の場所を聞き、今はその個室の前に立っているところだ。

 コンコン、と入り口のドアをノック。

 しかし返事はなかった。

 病室のネームプレートの文字を確認する。

 鹿目まどか。確かにそう書いてあって、間違いはない。

 コンコンともう一度ノック。

 やはり返事はない。

ほむら「寝ているのかしら……?」

 病人の仕事は睡眠だ。それに人間は昼間の二時に眠気のピークが来るもので、その時間から寝始めれば今現在睡眠中なのは何も違和感のある話ではない。

 それでも、ほむらは心配性だった。勝手に入るのは失礼だとわかっていたが、一目でもまどかの顔を見なければ気が気でなかった。

ほむら(まどかの寝顔だけ見て、美樹さやかと合流しましょう)

 そっと、起こさないように静かにドアをスライドさせる。


 カラカラカラと、小さな音で扉を開け、中の様子を窺って——そこでほむらは自分の心配が的中してしまったことを知った。

 思わずズパン! という音がするほど勢いよく開けきり、扉は端に当たって衝撃で歪んで動かなくなる。

 けれどもそんなことはどうでもよかった。

ほむら「まどか……!?」

 病室には、誰もいなかった。

 本来ベッドにいるはずのまどかもいなかった。

 スリッパは投げ出されていて、代わりに外行きの靴がなかった。

 答えは、明白だった。

ほむら「っ……!」

 嫌な胸騒ぎが猛烈に湧き出してきた。

 さやかが対処に向かった魔女。そしてまどかの失踪。

ほむら「そうよ、電話……!」

 急いで鞄から携帯電話を取り出すと、まどかの電話番号にコールする。


『こちらはHMM madocaです。おかけになった電話は電源が入っていないか、電波の届かない場所にあるためかかりません』

 受話スピーカーから聞こえたのは、無機質な記録された音声だった。

 ほむらの焦りは頂点に達した。

 瞬時に魔法少女の服装へと変身すると、彼女は病室の窓から飛び出した。

 誰かに見られることなんて気にする余裕すらなかった。

 行き先は魔女の結界。

投下終わり
まどポやろうとしたらこんなこと( http://twitpic.com/atwrnh )になってたので情報が遅いかもしれません

ちなみに病理おばさんが使ってるソウルジェムは全部天然物です
キュゥべえは学園都市で結構色んな少女を魔法少女にして反動で殺してます
フレンダに営業かける前も、かけた後も一ヶ月の空きがありますからね
だからこそ、フレンダに対して「学園都市の少女で作った魔法少女は戦力にならない」と言えたのでした
そんな犠牲者を病理おばさんは絶望することを諦めさせて救ってあげたとも言えるのかもしれません

投下します


  ————

 魔女は人気のないところを好む。探すならそういうところからが鉄則だ。

 美樹さやかはほむらから教わった基本通りに魔女を捜索していた。人通りの少ない裏通りからソウルジェムの輝きだけを頼りに歩みを進めている。

 毎歩毎歩でソウルジェムの点滅間隔が短くなっていくのがわかる。方向は正しいようだ。

 次のY字路を曲がればその先には今や寂れつつある工場集合地帯があるはずだ。おそらくはどこかの廃工場辺りに魔女はいるのだろう。

さやか「あ、」
杏子「あ、」

 と、そこで聞き覚えのある少女の声。道の合流地点でさやかは思いがけない人物と遭遇した。

さやか「あんたは……えっと」

杏子「杏子だよ、佐倉杏子」

 赤い魔法少女服ではなく私服だが、目の前の存在は確かに昨日共闘し、かつ敵対した少女だった。

フレンダ「あ、昨日のお漏らし少女」

 杏子の後ろから続いて金髪の少女が出てきた。フレンダ=セイヴェルンだ。

さやか「お漏らし言うな! あたしには美樹さやかって名前があるって言ってるじゃんか!」

フレンダ「ごめんごめん」

 テヘッと舌を出した誠意のない謝罪をするフレンダ。


 よく見れば、そのフレンダの後ろに千歳ゆま、加えてさやかの知らない少年少女がいた。

「知り合いなのか?」

 グループ内唯一の少年が質問した。さやかから見ても頭が悪そうな、いかにも不良ですと主張しているような風貌の少年だ。

「超あれじゃないですか? 昨日言ってた新人魔法少女」

 答えを提示したのはまた別の少女。歳は小学校高学年から中学生辺りだろうか。丁寧な口調だが、決して目上に対して言っている風ではない。あと超可愛い。

 他にももう一人、眠たげな目をした少女がいたが、彼女はどこか上の空で何も喋らなかった。

さやか「あたしのことはいいの。で? あんたたちも魔女狙い?」

 思わず冷たい言い方になったと自分でも気が付いたが、さやかはそれでも良いと思った。

 この目の前の佐倉杏子は、さやかとほむらを殺そうとした狂人に荷担した危険人物たり得る存在だったからだ。

 それでも、一緒に戦った時の感触がそれを心の中で否定しようとして。だからこそ、さやかは無視ではなく質問という形を選択したのだった。

杏子「まーな。アタシらはちょっと多めにグリーフシードが必要だからさ」

 杏子はさやかの様子を気にせず、正直に白状する。

さやか「多人数で組んでるから? それだったらあたしも引く理由はないよね」

 杏子たちの行動理由を聞いて、さやかはポケットの中のグリーフシードを握りしめながら鋭く睨んだ。


 多勢に無勢とは思わなかった。昨日の記憶から考えれば、戦闘向けの魔法少女は杏子一人のみ。ゆまはあくまでサポート役であり、フレンダと他の新顔はそもそも魔法少女ですらない。

 つまり戦闘向けの魔法少女であるはずのさやかに対応できる戦力だけを見れば一対一と変わらないはずだからだ。

杏子「はぁ……結局そうなるのかよ」

 そんな素人らしい思惑を見抜いた杏子は思わず溜め息を吐いた。

杏子「いいぜ、やってやろうじゃん。力ずくでわからせるって方針は嫌いじゃないしな」

 そう言って杏子も目付きが変わる。意識を切り替えて魔法少女としての戦闘準備を開始しようとして。

フレンダ「ちょっとタンマ」

 フレンダが杏子の前の出た。

杏子「……フレンダ」

フレンダ「ここは私に任せてよ」

さやか「何? あんたがあたしの相手するの? なめてるの?」

 突然横から入ってきた部外者にさやかはかちんときた。

さやか「魔法少女でもないくせに出張らないでよ。言っとくけど、これは喧嘩じゃなくて殺し合いだよ? 命の保障とかないからね」

 瞬時に青い装束、魔法少女の姿に変身すると手に持ったサーベルの剣先をフレンダに向ける。


フレンダ「結局、それが素人の発想ってわけよ」

 まるで上から目線でやれやれと言うような口調でフレンダは諭す。

さやか「あたしはバケモノだよ? バケモノに人間が敵うと思ってんの?」

 その言いぶりにさやかの頭にさらに血が上った。もう杏子が止めてもさやかは止まらないだろう。

フレンダ「そんなこと言いながらどうせ人間が反応できない速度で峰打ちでもやって気絶させて終わり、そんな感じの戦闘をイメージしてるんでしょ?」

 しかしフレンダはさやかの甘さを見抜いていた。それがさやかには余計癪に障る。

 さやかはサーベルのグリップを強く握り込み、下半身に力を籠める。いつでも加速してフレンダを肉塊にもできる体勢を整える。

 それを理解してなお、フレンダは余裕を崩さない。

フレンダ「あんまり殺し合いってものをナメんじゃないわよ。学園都市の闇の暗さ、見せてあげる」

短くてごめんなさい
できるだけ暇を見つけて続き書きます

杏子「GS多めに必要です」

さやか「バトルだ!!」

何故そうなる

投下します


  ————

 それはさながら、映画のワンシーンのようだった。

 黄昏時の暗い夕日の中を八つ首の純白の巨竜が暴れ、それの周囲を純白の翼を持った少女が飛び回るという、見る者がいるならば思わず感嘆の息を漏らす迫力の図。

 しかし、それは無茶苦茶で破茶滅茶で。

 そこは何も人のいない魔女の結界内などではない。

 巨竜が一つのビルをその首で打ち砕き顎で噛み砕き足で踏み砕き。その度に大量の犠牲者が出ているはずだろう。

 どちらも正気ではなかった。狂気すらも通り越していた。

キリカ「はぁっ……はぁっ……」

 特に、呉キリカの姿はぞっとするものだった。

 首から下の左半身は全て白い膜で覆われ、人間の体という熱を感じさせない。左腕からは巨大な翼が肘の位置から伸びていて、それを天使と呼ぶにはあまりにもおぞましい。

 もう半身には大小様々の傷が付き、なぜか魔法少女の肉体のはずなのに血が止まらずに流れ続けている。魔法少女服すら修復する余裕がないのか、彼女の風貌はまるで全裸にぼろ切れを羽織っているだけのようにも見えた。

 対して、巨竜のこの世のものでない肉体は綺麗なものであった。当然だ、『Equ.DarkMatter』がある限り、病理はダメージを修復し続けることができるのだから。


病理「驚きましたよ、データ的には魔法少女の戦略的価値はここまで高いものではなかったのですが」

 しかし、追い詰められていたのは病理の方だった。

 病理、つまり巨竜の八つの頭の額にはソウルジェムが見えた。そして、それ以外の箇所には見当たらない。

 それは大量の『Equ.DarkMatter』をキリカは八つにまで減らしたということを意味する。

病理「けれど、貴方はここまででしょうか」

 にもかかわらず、病理は勝利宣言をする。

病理「『未元物質』を素材とした武器に魔力を通してさらに特異なものと変化させる、発想は良かったのですが」

 巨竜の口がそれぞれ、ニタァ、と身の毛もよだつ笑みを浮かべた。病理の意思としては微笑みのつもりかもしれないが、肉体がそれを表現するにはあまりに怪物すぎた。

病理「不死性を獲得した者同士の戦闘においては愚策すぎます。それではいつかソウルジェムが濁りきり、活動限界を迎えてしまうではないですか」

 病理の言葉はまったくもってその通りだった。キリカのソウルジェムは既にかなり消耗していて、残り僅か八つの『Equ.DarkMatter』を破壊するという目標はあまりに高すぎた。

 おそらく、全ての『Equ.DarkMatter』へと変えられたソウルジェムを砕き切る前にキリカ自身は魔女化してしまうだろう。

キリカ「そうだね……できれば、もう少し減らしてから使いたかったんだけど」

 それでもキリカは後がないという口調ではなかった。仕方なく、という風に左腕を前に突き出す。

 ドバッ、とキリカの左腕の白が爆発的に広がっていく。それは数十メートルにも伸びるほどの『未元物質』の翼。

病理「ああ、それと。『未元物質』プラス魔力の攻略法は解析し終わりました」

 その瞬間になって、病理は絶望的な言葉を呟いた。そして、その通りに伸びてきた翼に巨竜の八つの口が噛み付き。

 ボキリと。それはいとも容易く噛み砕かれ、力なく空に散っていく。


キリカ「知っていたよ、だから魔力なんて通してない。私が魔力を使ったのはこっちさ!」

 キリカの一言に病理ははっとした。その時には既にキリカの右手に何かが握られているのがわかった。

 それは光線銃のような形をしていた。一度引き金を引かれると電源が入るようで、すぐに銃身に兵器の性質を表す文字が表記される。

 『Equ.MeltDowner』と。

病理「そんなものまで持ち出して——」

キリカ「遅いよ、遅くしたんだけど」

 病理が反応する暇はなかった。キリカの動きが加速したかと思うと、光線銃の銃口から青白い、そして極太の電子の奔流が放たれる。

 それは学園都市第四位『原子崩し』の一撃を再現した兵器。だがそれは未完成品だ。発動の時に生み出す熱が大きすぎて、常人では扱えないという致命的すぎる欠陥が存在する不完全なもの。

病理「一○○パーセント出力……! しかしそんなものは——」

 キリカの速度に反応と判断が間に合ったのはさすが『木原』と言うべきか。

 例え第四位の超能力者『原子崩し』の能力を再現した一撃だろうと、病理が扱うのは第二位の超能力者『未元物質』の力。防げばそれで終わり、と病理は『未元物質』の壁を作ることのみで処理をする。

 しかし病理の判断は失敗だった。


病理「なっ……!?」

 物理攻撃では絶対に破れない壁を、物理法則上最強の電子は薄い紙を破るかのように容易に貫通した。

 それも、極太だったはずの電子線は数多の本数に枝分かれし、瞬時に首を七つまでもぎ取った。

 当然、その首のソウルジェムは砕かれたようだ。あまりの爆音にソウルジェムが割れる小さな音などかき消されてしまっているが、病理は七つの首から感覚がなくなるのを感じ取った。

 しかし、それよりも、病理が思考しなければならない問題があった。

病理「なぜ、第四位の力などで……」

 自身が作り出した防御壁が遅れて崩壊していく。

 そこで、病理は気がついた。

 空中に散っていく『未元物質』は自分の作った壁の破片だけではないことを。

 それは羽毛の形をしていた。ふわふわと、あれだけのことがあったのに不自然なくらい緩やかに落下していた。

 情報は、そこまでで十分だった。『木原』の頭脳は解析を即座に終了する。

病理「『未元物質』を『拡散支援半導体』として扱いましたね! 加えて回折により『原子崩し』としての性質が『未元物質』を貫通できるものと変化したわけですか」

 理解すれば病理にとってはもう何も怖いものなどなかった。

病理「しかし先ほどの一撃で私を仕留めきれなかったのは失敗ですねえ。そこまでの出力を上げてしまえば、冷却されるまでに時間を要しますから二発目はすぐには撃てませんし、そもそも」


 壁が全て崩れ去り、病理の視界がクリアになる。キリカの様子が確認できた。

病理「反動に肉体が耐えられるわけがありません」

 右半身を、熱で焼かれて炭と化したキリカの様子が。

病理「貴方の魔法少女参照の形状変化も魔力を消費していましたね? だからこそ、途中からフレンダ=セイヴェルン参照の形状変化ではなく、純粋に『未元物質』の力で傷を治癒していた」

 右半身は真っ黒になっていて、そこに白が覆い被さっていく。

病理「そう、そう! だから貴方はそうするしかない! 傷を癒やすために肉体を『未元物質』に置き換えなければならない!」

 病理の、巨竜の最後の頭が大きく口を開け、その中から舌に当たる部分に女性のシルエットが現れた。

病理「形状変化、インキュベーター参照。ソウルジェム以外を取り込ませてもらいますよ」

 その女性のシルエットが口を大きく開ける。人間サイズの口にもかかわらず、脅威は巨竜の口に勝るとも劣らないものに感じられた。

 インキュベーターを参照した形状変化は、彼らの共食いによるエネルギー伝達を再現する。つまり、『未元物質』を食らう『未元物質』となる。

 相手の精神も同時に取り込むことになるため、自分以外の者の装備した『Equ.DarkMatter』を食すのはリスクが伴うが、ここまで疲弊したキリカならば問題はないだろう。

 そうして食らって、ソウルジェムを持ち帰り、かつて取得したDNAマップから肉体を再生し、モルモットとして再利用しようと。病理が今後の計画について考え始めたところで。

 キリカの左腕に何かが握られているのかが、いや何かが担がれているのがわかった。

 それは、巨大な筒のように見えた。トリガーがついていて、つまりそれが大砲なのだと理解できる。

 電源が入る。LEDライトが文字を示す。

 表示は、『Equ.RailGun』。


キリカ「こっちは素直に、『未元物質』の銃弾だよ」

 それが放たれた。

 本来なら一○○パーセント出力の『Equ.MeltDowner』も、『Equ.RailGun』も、充電時間が必要のはずだった。

 しかしそれはキリカの固有魔法で限りなく短縮され、ほとんど意識せずに使用することが可能だった。

病理「それはテレスティー——」

 病理は即座に理解し、対応しようとした。しかし、それはなぜか間に合わない。

 学園都市第三位『超電磁砲』の力で加速させられた学園都市第二位『未元物質』の力が発射される。

 まともな軌道は描いていなかった。音速の三倍の初速で放たれた銃弾は空気摩擦ですぐに真っ赤に変色し、直進『しない』。

 まるで数学の図形を見ているかのように、綺麗な波形を描いて、さらに加速しながら空中を突き進む。

 あまりに速度を得た銃弾は常人を超えた魔法少女の目にすらもその姿を光線と錯覚させた。

 描いた軌跡により残像が横に広がり、空中を突き進むオレンジ色の刃にも見えた。

 つまり、天使の羽を持つ者による赤色の剣の一撃に見えた。


 木原病理は知らないだろう。自分の肉体の属性に。

 呉キリカは知らないだろう。自分の攻撃の性質に。

 それが、科学ではなく魔術ではどういう意味を持つかということを二人とも、知るはずがないだろう。

 本来ならば、木原病理のスペックでこの連撃には対応できた。しかし、それの持つ意味が偶然にも、あまりにも呉キリカに有利すぎた。

 それはさながら、ドラゴンという悪を滅する天使長という、いかにも勝利の約束されたシチュエーション。

 結果は、明白だった。

 ズドンという発射音が周囲に届いた頃には、病理の最後のソウルジェムと、彼女のシルエットが存在していた頭は蒸発していた。

 頭脳を失った巨竜の肉体が地響きを立てて崩れ倒れる。

 そうして、あれだけ不死身を誇っていた肉体は、ぴくりとも動かなくなった。

キリカ「はぁっ……はぁっ……や、やったかな……?」

 そこでやっと、キリカは緊張から解放された。

キリカ「手こずっ、た……学園都市は、厄介だね……」

 けれどもキリカの目的は病理の討伐ではない。

キリカ「早く、暁美ほむらと……織莉子の言ってた、あいつを、殺さないと……」

 思うように動かない肉体を無理矢理動かし、本来向かう予定だった地点へと足を踏み出す。


 同時にどこからともなくグリーフシードを取り出した。それを自分の腰のソウルジェムに当てて穢れを取り除く。一度でグリーフシードは使用限界を迎えてしまったが、これで肉体回復に魔力を回せるだろう。

 『Equ.DarkMatter』の調子を確かめる。病理との戦闘でだいぶ無理に使ってしまったせいか、思うように動かない気がした。この状態で形状変化を使うのは危険と判断。

 それでも彼女は目的を達成するために急ぐ。ただの歩みに固有魔法を使い、移動時間を短縮する。

 思うように動かないとはいえ、魔力と『未元物質』で強化された肉体と固有魔法により、目的地はぐんぐん近づいていって。


「呉キリカ、だな?」

 ぞわりと。キリカの全身の神経から危険信号が脳へと送られた。

 思わず、キリカは目的があるのをわかっていても足を止めてしまう。

 それほどまで、その声は危険を孕んでいた。

 男の声だった。

 聞こえたのは背後からだった。

 ゆっくりと、キリカはその方向へと振り向いた。

 それはスーツを着た金髪の男だった。整った顔立ちをしていて、姿勢も美しく、貴族という言葉が似合う男だった。

 年は若作りをしているようだが、三○代半ばだろう。ところどころに隠しきれない渋みが滲み出ている。


 だが、キリカはそんな男の容姿などどうでもよかった。

 見た目ではない。本能がこの男の内面を、実力を看破して。現在の自分の不調を鑑みて。

 最悪だと、警告していた。

キリカ「だ、れ……?」

 声が思わず掠れた。

「すまないな、騎士道に反するとはわかっているのだが、名乗ることはできない」

 どうして自分にはこんなに邪魔する者がいるのかと嘆きたくなった。

「名乗るとすればそうだな、私は、英国『騎士派』のトップを務めている騎士団長とだけ名乗らせてもらおうか」

 ——絶望的な第二戦が、開始される。

投下終わり
今度から20時間労働くらいになりそうなんで、続き書く時間見つけるのに頑張ります

投下します


  ————

 時は静止していた。それは決して魔法の力ではなく、物理現象として状況が膠着していた。

 それは、美樹さやかがフレンダ=セイヴェルンの眼前にサーベルの切っ先を突きつけている、という形で。

 チェックメイトだった。王手だった。二人の表情から、誰の目から見てももう勝負は決していたのがわかった。

さやか「なんで、よ……」

 フレンダの勝利ということが。

さやか「なんで、なんでただの人間のアンタにバケモノの私が……っ!」

 今にも泣きそうな表情でさやかは呪いを吐く。

フレンダ「『蜘蛛の意図(マリオネットスパーダーネット)』。本来は災害救助用の特殊繊維よ。電気信号でロボットハンドのように自在に動くし、その細さから潜り込めない場所はない。それでいて一本で大体八○○キログラムくらいは支えられる強度を持ってる。そうして『救助者の指示に従わない困った要救助者』の体を雁字搦めにして操り人形みたいに従わせて助けるの」

 暗い感情のこもった質問にフレンダはスペック説明で返した。

 よく見れば、細い何かが光を反射している。それは蜘蛛の糸のような何か。

 さやかの体中にかろうじて見える程度の細い糸が大量に巻き付いている。

 つまり、さやかの体の自由は既に奪われていたのだ。


フレンダ「私はね、魔法少女なんて存在がなければバケモノになる才能すらもなかったのよ。それでも、学園都市の暗部が超ご親切なことに私にバケモノと戦わせる機会をくれた。戦える機械もくれた。力は誰にでも持てるのよ。問題は、その先」

さやか「……っ」

フレンダ「結局、全部は戦略ってわけよ。あんたの敗因は私にトラップを仕掛ける時間を与えたこと。ちなみにね、拳銃一つで軍隊一つに匹敵する存在を倒す馬鹿もこの世には存在するのよ」

 フレンダの言葉に後ろの少年が反応したように見えたが、さやかにとってはもうそんなことどうでもよかった。

フレンダ「これが殺し合いよ。力を持っていたからって、力のない者を必ず殺せるとは限らない。今回は見逃してあげるから、たっぷり考えることね。仲間がいるあんたとその魔法なら戦う以外にもグリーフシードを手に入れる方法はあるわけだし」

 そう言いながらフレンダはさやかの脇を通り抜けていく。

フレンダ「じゃあ、急ぐってわけよ」

「お、おい……」

杏子「いいんだよ、あれで」

 さっさと先に進んでいってしまうフレンダに少年が声をかけようとして、杏子がそれを制した。

杏子「これで自分っていうものがわかるだろ。良くも悪くも、な」

 杏子はそれだけ言い残してフレンダについて行ってしまう。

「超そうですね」

「……はまづら、行こう」

 さらに少年以外の残りの少女も後に続いた。

「ああもう!」

 はまづら、と呼ばれた少年はワンテンポ遅れて、走って追いつき同じく後に続く。


さやか「あたしは……バケモノなのに……バケモノにまでなったのに……! っざけんなァァァァアアア!」

 後ろでさやかが叫んでいても、誰も振り向くことはなかった。

投下終了
次も推敲するだけだからすぐに投下できると思う
推敲する時間さえあれば……

あけましておめでとうございます。
年末やら冬コミやら帰省やら飲み過ぎて寝ゲロやらで投下する時間が取れませんでしたすみません……
今から投下します

あ、コテ忘れました申し訳ない


  ————

「案外無様にやられてるね?」

 力なく倒れた巨竜の死体に何者かが話しかけたのを病理は感じ取った。

病理「おやあなたは……もう動けるのですか? 精神データのインストール先が上条当麻によって撃退されたことによる精神逆流《メンタルフィードバック》でしばらくは植物人間のはずと聞いてましたけど」

 ニュルリと、その声に反応して、死体の中から女性が生えてきた。声は木原病理。やはり彼女はこの程度では死にはしない。

「ひゃはは、この私があんなモルモットに普通に魂全部預けると思う?」

 見れば、病理にとって知った顔があった。

病理「それもそうですね、所詮ただの魔法少女なんてレベル5にもまるで届きもしませんし。呉キリカがあそこまでの力を得ていたのも学園都市の研究があったからこそですし」

 病理は分析結果を提供する。この相手には魔法少女のことに関しては隠しても無駄だとわかっているからだ。

「……ふーん」

病理「巴マミのような特例はいるみたいですがね。千歳ゆまと呉キリカ、あと美国織莉子を見た限りでは単体平均の力はそれほどでもないと思っていた通り、やはり予想を超えることはできていませんでした」

 相手の僅かな変化に気付かず、病理は論を続ける。

病理「けれども、最後の一撃に関しては例外です。あれは原理がわかりませんね……ともかく、面白いデータが取れました。学園都市に連れ帰ってもらえますかね。見ての通り、既に制御を失いつつありますので、私が動こうとすると余計な被害が出てしまいます」


 両手を広げて、病理はやれやれと言った風なポーズをする。

「そうだね、普通に帰ろうか」

 それに、笑顔で相手は快諾した。


「その頭脳と肉体には、大事なデータが詰まってることだしね」


 おぞましい、病理なら理解できる笑顔で。

病理「……貴方」

「ところでさ、UMAの研究に関して。なんで第四位にあれだけの情報が漏れていたのか普通に気になるよねー」

 話が変わったように見えた。

病理「無意味な研究は諦めてもらって、利用する。それが私の『木原』です」

 しかし、病理はその話がここで出てきた意味を理解している。

「そうだよね、『木原』って普通にそんなもんだよね。じゃあ君を持ち帰るよ。大事なことだし二回言おうか」


 ぎちりと、空気が歪んだ。

病理「やはり貴方も——」


「——木原病理の頭脳と肉体には大事なデータが詰まってることだ死ね」

投下終了
細かくなってて申し訳ない
次もなるべく早く投下します

投下します


  ————

 そこは廃工場の中だった。夢遊病のように足下のおぼつかない老若男女様々な人種の人間が集まっていて、全員が全員重い空気に背中を押されていた。

「俺は駄目だ……こんな小さな工場すらも満足に切り盛りできなくて……」

 そのうちの一人が呟いた。四十代後半だろうか、しかしその暗い表情でさらに老けて見えている。呟いた内容からして、おそらくこの廃工場の持ち主だろう。

 首元には不可思議な、悪意の詰まったようなマーク。

 それは『魔女の口づけ』。そう、ここは魔女の結界だった。

まどか「ど、どうしよう……」

 そこに鹿目まどかは一人でいた。病室から飛び出したままの格好の、パジャマのままで。

 彼女が震えていたのは何も薄着の服装によって感じる寒さからではない。この状況からだ。

 おそらく、魔女はここにいるだろう。しかし、それを倒す力を持った魔法少女も、魔術師もいない。

 つまり、自分が頑張るしかないのだ。

まどか「やめようよ、仁美ちゃん、こんなこと!」

 唯一の可能性を信じて、まどかは目に涙を溜めて友人を説得する。

仁美「こんなこと? 何を言っているのですか、まどかさん。これは神聖な儀式ですのよ? ここにいる皆さんで素晴らしい世界に旅立つのです!」

 けれど、話はまるで通じなかった。


 それどころか、仁美の言葉に集まった人間全員が拍手をする始末。まどか以外の誰もが正気ではなかった。

まどか「えっ……?」

 そこに拍手しない人間が二人。頭を抱えた元経営者と、その妻らしき同年代の女性。まどかの母とは比べものにならないくらい、覇気のない姿だった。

 ただ、そんな女性が持っているバケツに、いやそんな女性が持っているからこそ、まどかが危機感を覚えたものがあった。

 それは塩素系の漂白剤。それは酸性のトイレ用洗剤。

 用途は、誰の目にも明らかだった。

まどか「それはだめっ!」

 塩素系の漂白剤と酸性の洗剤は混ぜるな危険、ということで有名ではあるが、まどかはその二つを混ぜるとどうなるか最近母に教わった。

 密閉された空間では、人を殺すことすらも可能な塩素ガスが発生するということを。

仁美「鹿目さん、どうかされましたか?」

 漂白剤の蓋が開けられ、バケツの中へと注がれていく。

 それを止めようと走り出したまどかの目前に仁美がすぐに立ち塞がった。

まどか「仁美ちゃん、あれは危ないものなんだよ!?」

仁美「大丈夫ですわ、生きている体なんて邪魔なだけ。鹿目さん、貴方にもすぐにわかりますから」

 説得を試みるが、魔女に心を奪われた友人にはやはり、言葉は通じなかった。


 そうこうしている間に一本目の漂白剤の容器が空になり、内容物は全てバケツへと移された。そして取り出されたのは、もう一本の漂白剤。

 こんなにも大量の素材から作られる毒ガスは自分を含めたこの場の全員の命を奪うだろう。

まどか「……っ、仁美ちゃん、ごめん!」

仁美「あらぁ?」

 今にも止める必要があった。まどかは仁美の制止を撥ね除けるように振り切って、バケツの元へと走る。

 仁美は激しく突き飛ばされたにもかかわらず、鈍い反応しか示さなかった。その正気ではない様子がまどかの焦りをさらに加速させる。

 そのままバケツを奪ってさらに逃走し、窓へと向かって放り投げた。

 バケツの重量はそれなりのもので、放物線を描かせる運動エネルギーは窓ガラスを楽々と破って、中身ごと外へとぶちまけられた。

まどか「はぁっ……はぁっ……」

 ひとまずの危機は去ったかもしれない。しかし、まだ本題が残っている。

仁美「まどかさんなんてことを……ここにいる皆さんに謝ってください!」

 正気ではない暗い瞳で睨み、激昂する友人に異様な恐怖を覚える。

 その友人の怒りに呼応するがのように、他の集まった人間全てがまどかを暗い瞳で睨み始める。

「そうだ謝れ……」

 誰かが言った。


「謝れ!」「謝って!」「謝ってよ!」「謝れ謝れ!」「謝るべきだとミサカは要求します」「謝りなさいよ!」「謝れ!」

 それを皮切りに、全員が口々に叫びだした、いや吠えだした。

 彼らはもう人の形をした猛獣だった。吠えながら、少女《エモノ》の喉元を食いちぎらんと殺到する。

まどか「い……いやっ!」

 殺される、とまどかは直感した。命の危機にさらされている立場が逆転した。

 自分が助けようとした人間から背を向けてまどかは逃げるしかなかった。

 つまりそれは人を助けるためには自分の力が不足しすぎているわけで。まどかは気がついて、恐怖と悔しさで涙が溢れてくる。

 歪んだ視界の中に冷たい鉄製のドアが見えた。その向こうに、猛烈に嫌なものがある予感がした。

 しかしまどかに選択の余地はない。命からがら、ドアを開けて小部屋に飛び込み、鍵を閉めた。

 一瞬遅れて激しく金属の板を叩く音が連続する。まるで安いゾンビ映画のように。

 この心許ない防壁が破られるのも時間の問題だろう。

まどか「なんで……なんでみんな……」

 理不尽な現実に打ちひしがれるまどかに、理不尽な現実は心を整理する時間など与えない。


「■■■■■■!」

まどか「えっ……うそっ……」

 背後で、少女の話し声のようなものが聞こえた。けれども、それは少女の声というにはあまりに悪意的で殺意的で電子的で非現実的で。

 少ない経験則からでも、声の主が魔女だと判断するのは容易だった。

まどか「や、やだ……」

 振り向いて確認すると魔女は殺意の体積を増していた。青い結界が現実空間を侵食していき、目の前の餌を体を飲み込もうとする。

 まどかは思わず後ずさろうとするが、背中はすぐに冷たい金属の扉。ドンドンドンと、獰猛な衝撃が扉を伝ってまどかの体を刺激する。

 前門の魔女、後門の暴徒。今度は逃げ道などなかった。

まどか「戦わなくちゃ……」

 背水の陣とでも言うには、あまりに残酷な決意。

まどか「わたしが戦わないと、みんな、みんなだめになっちゃう……!」

 そうして魔女の結界がまどかの全身を飲み込んだ。

 再び飛び込まされたこの世のものとは思えない異空間。あらゆるものがデフォルメされ、少女の笑い声にしては歪すぎる音声が上下左右あらゆる方向から聞こえてくる。

 天使のようなものがまどかに迫ってくるのがわかった。使い魔だろう。もうその時は迫っていた。

 自殺行為だとわかっていても。次に魔術を使えば自分の脳が焼き切れるとわかっていても。まどかは制服のポケットの中にある頼りない霊装を握りしめて呼吸を整え始めた。

 魔術を行使するのに不可欠な、魔力を精製する呼吸法。


 その瞬間に今までで一番大きな頭痛が脳を締め付けた。

 痛みは危険のサイン。明らかに致死行為だと、自分の肉体が自分に警告していた。

まどか「でも、それでも……わたしが……っ!」

ほむら「その必要はないわ」

 そうして、最後の引き金を引こうとしたまどかの耳に、これ以上ないくらいに待ちわびた声が聞こえた。

 視界がぼやけて、姿を確認することは叶わなかったが、間違いない。

まどか「ほ、むらちゃん……?」

 まどかに迫りつつあった天使の使い魔が突如弾けた。それはデフォルメされた空間には不釣り合いな、音速を超えた鉄の塊を撃ち込まれた人形のような反応。

 それをまどかが認識した瞬間に、ふわりと誰かに横抱き、所謂お姫様抱っこで抱えられるのがわかった。

ほむら「もう終わったわよ」

 同時。背後で爆発。魔女は火薬の作った炎に焼かれ、結界も崩壊する。

 瞬殺だった。あまりにもあっけなかった。まどかがあんなにも恐怖し、死を覚悟し、そうしてでも敵わなかっただろう相手が、造作もないという風に一瞬で片付けられた。

 これが人間と魔法少女の圧倒的な差。理不尽な現実。


ほむら「まどか……なんで、なんでそんなことをするの……!」

 そこまで考えて、ほむらの声でまどかは我に返った。

ほむら「貴方が死んだら、悲しむ人がどれだけいると思ってるの……! 自分を粗末にしないで!」

 痛みが和らいで、視界がクリアになりつつあった。

 まだよく見えなかったが、ほむらの表情が泣きそうになっているのはなんとなくわかった。

まどか「……ごめんね、ほむらちゃん」

 謝罪の言葉は、ここまでの行為に対するものか。それともこれからの決意に対するものか。

 しかし、酷く優しい言葉であったのは確かだった。

投下とりあえずここまで
なんか一気に投下したら20レス以上になりそうな勢いだからやっぱり分けます。
途中で追加しまくってたらキリがなくなっただけとも言う。

次は割と早めに数日以内に投下できると思います
土曜日辺りまでが目安です

投下します


  ————

 戦況は、圧倒的だった。

キリカ「くそぉっ!」

 音を置いてキリカは疾走する。それはもちろん魔力を湯水のように浪費する行為であるし、しかし目の前の怪物にはそれくらいの魔法を常用しなければその瞬間に呉キリカは終わっていた。

 目の前の怪物——騎士団長は学園都市を知ったキリカから見ても異常だった。

騎士団長「速度は中々。しかし攻撃が軽いな」

 相対的に音速すら越えているはずのキリカだったが、騎士団長は当然のようにその速度についてくる。

 キリカの魔爪による一撃は大抵の魔女なら一撃で粉砕する威力を誇るはずだが、騎士団長はそれを当たり前に受け止め、受け流し。結果キリカの攻撃は一切合切通らない。

 キリカの知識ではこの異常は説明できなかった。

 まず性別は男だ。魔法少女になるための最低条件すら満たしていない。にも関わらず、目の前の騎士は異様なほどに強大な魔力を撒き散らす。

 次の可能性としての能力者もあり得ない。学園都市製は年齢的にあり得ないし、『原石』だとしてもそもそも魔力を扱った時点で自滅しているはずだということは麦野沈利を見て知っている。

 理論が、理由が、理屈が。何一つわけがわからなかった、が。


キリカ「いや、もしかして!」

 一つだけ記憶の中にヒントがあった。

 魔法少女の強化された筋肉による蹴りを一撃。岩をも砕く威力だが、騎士団長はそれを片腕で平然と受け止める。

 返す刀で騎士団長。キリカの足を受け止めた手とは逆の手にある剣が動きの止まった足を切り落とそうと振り下ろされる。

 危機を感じたキリカは速度低下魔法の出力を最大限にまで上げる。体を捻ってもう片足で騎士団長の腕の防御を蹴り、反動でその場を脱出。

 その実際時間においてコンマ一秒後に刃が振るわれ、空振り——する前に軌道が変わった。

 まるでL字を描くように、無理矢理に、刃はキリカを追いかける。

 もうキリカはなりふりを構っていられない。左腕を、この世の物理法則では壊せない、しかし同じ物質との戦闘で疲弊した『未元物質』の義手を盾にして滅茶苦茶な剣筋を防御する。

 まるでバットで打たれたボールのようにキリカの体は吹き飛び、ノーバウンドでビル壁に叩き付けられた。

キリカ「が、はっ……」

 壁面は砲弾を受けたかのように崩れ、衝撃がビル全体を、轟音が空気を揺らす。

騎士団長「ふむ、それが学園都市製の新兵器か。私の力を受け止めても壊れないとは驚きだ」

 そこまでやっておいて、平然と騎士団長は分析するような口調で呟く。

キリカ「はぁっ……はぁっ……キミ、こそ、驚きだよ……魔法少女でも、能力者でも、木原でも、ない、くせに」

 対照的に、キリカは息絶え絶えにコンクリート片の山から立ち上がった。


キリカ「でもさ、キミと同類が、そういえばいたよね……カンザキ、だっけ、セイジンって言ってたけど、キミも、それ、だね?」

 しかし答えの足がかりを掴んだ、とでも言うべきキリカの口調に、騎士団長は申し訳なさそうな顔をした。

騎士団長「やはり、か。何も知らない君に対処をしなければならない私たちの力不足は歯痒いものだな」

キリカ「は……?」

 思わず。思いがけない返答からキリカの口から息が漏れた。

騎士団長「残念ながらハズレだ。私は聖人などという恵まれた存在ではない。これも全て術式で作った後付けの力に過ぎない」

キリカ「はっ……は? いやいやいやいや、何言ってるんだろうね、私」

 騎士団長の言葉に、キリカは笑い出した。今度は騎士団長の理解が及ばなくなる。

騎士団長「なるほど……いや……っ!?」

 呉キリカは精神が壊れかけていると、事前に情報として騎士団長の元にはあった。もしかして、それかもしれない、と騎士団長が処理しようとしたところで。

キリカ「考えてみればさ、キミがどんな存在とか、どんな原理とか、どんな真理とか、そんなの一切合切どうでもいいんだよね」

 異変に気付く。

キリカ「要はさ、私は暁美ほむらを殺して、ワルプルギスの夜を越える魔女になる魔法少女のソウルジェムを砕けばいいんだよね。キミなんかどうでもいいんだよね」

 キリカの口調に力が戻っていた。

キリカ「っていうかさ、どうでもいいのになんで私の前にいるの? 邪魔だよ、邪魔なんだけど」


 魔法少女の自然治癒能力は人間を遥かに超えたものだし、回復能力もある程度有しているともデータにはあった。

騎士団長「どういう……!?」

 しかし、それでは目の前の現象は説明がつかない。

キリカ「形状変化、フレンダセイヴェルン参照。形状変化、チトセユマ参照」

 気が付けば、キリカの肉体から傷が消え失せていた。服も、いつの間にか新品のように綺麗になっていた。

 あれだけのダメージが、痕跡を一切残さず消え去っていた。

キリカ「形状変化、サクラキョウコ参照」

 そして、次の瞬間に呉キリカの姿がブレた。

 単純な速度ではない。それならば騎士団長の超人的な感知能力が軌道を捉えるはずだ。しかし、まるでキリカの姿を確認できないまま、見失ってしまった。と思えば。

キリカ「形状変化、トモエマミ参照」

 目の前に。いつの間にか。キリカが巨大な真っ白な銃を騎士団長に突き付けていた。

キリカ「なんて言うんだっけ。そうだあれだ」

 避けるには時間がない。そして、キリカは知っている。

 この威力ならば、この距離ならば。どんな破壊力をもたらすのかということを。

キリカ「ティロ・フィナーレ!」

騎士団長「ゼロにする!」

 二人の声は、同時だった。

 そして轟音が鳴り響き。



キリカ「なん……で……?」

 貫かれていたのは、キリカだった。

騎士団長「なるほど。学園都市の新物質を使った未知の法則による肉体回復、幻覚、そして純粋な兵器といったところか。怖ろしいな、物理学の末が神話に繋がるという話は聞いたことがあるが、これは魔術とも類似点が見られる。しかし形状を武器らしい武器として設定したのは失敗だな」

 騎士団長は確かに直撃を受けていた。しかし、それでも彼は無傷。逆に接近したキリカの胸の中心を正確に剣で貫く反撃までやってのけた。

 だが、キリカにとっては肉体のダメージよりも、最大の攻撃の一つであるトモエマミの形状変化すらも通じなかったこと精神的なダメージの方が深刻だった。

騎士団長「『ソーロルムぼ術式』という。これによって設定された『武器』は約十分間、その威力を失うことになる」

キリカ「なに、それ……!」

 あまりにふざけていた。あまりに理不尽だった。あまりに酷いスペックだった。

 怒りすらこみ上げてきて、キリカの思考から慎重という要素がどこかに排出されてしまう。

キリカ「ふっざけんな!」


 無理矢理に体を捻って、刃で胸元の半分からを抉らせて、失って、キリカは磔のような状態から抜け出した。

 すぐさま、次の秘密兵器を取り出す。いや、取り出してしまった。

 右手には『Equ.RailGun』。左手には『Equ.MeltDowner』。

 同時に引き金を引いて、同時に学園都市が誇る二つの破壊的威力が騎士団長に音速など優に越えた速度で肉薄する。

 速度的に、範囲的に。避けられるはずがなかった。

騎士団長「ゼロにする!」

 しかし、出した時点で、キリカの兵器は価値を失っていた。

 騎士団長の一言で、それらはまるで威力を意味を価値を失った。

 直撃はした。しかし騎士団長は体勢が揺らぐことすらない。

 ダメージも、衝撃も、余波も。何もかもが通じていないようだった。まるで、幻で攻撃しているかのようだった。

騎士団長「設定する対象数に制限はないのでな。その武器は全て無力化させてもらった」

キリカ「なん——」

 ダン、という音がキリカの耳に届くより早く、騎士団長は次の行動を終わらせていた。

 音を越えて、キリカに肉薄したのだ。


 驚愕で反応が鈍ったキリカの対応は当然間に合わない。攻撃を放ったままの、第三位と第四位を再現した新兵器を突き出したまま、固まったままの状態で騎士団長の接近を許してしまう。

 そこから振るわれるさらに高速の剣筋がキリカが何かを思う前に、学園都市が誇る精密機器は粉々に砕かれた。

キリカ「——で……!?」

 そこで、やっとキリカの反応が追いついた。

 反射的に後退したが、もうキリカの両手に握られているのは、軍一つに匹敵する力を再現した兵器などではなく、ただのガラクタ。

 戦況は、圧倒的だった。

 ボタボタと値を垂れ流しながら、自分の肉体の修復すら忘れてキリカは立ち尽くす。

 敵う気がしなかった。絶望的とはまさにこのことだった。

騎士団長「おっと、まずいな。魔女化する前に意識は刈り取らせてもらおうか」

 そして騎士団長がさらに追撃に加速せんと前傾姿勢を取って。

 その足元に槍が突き刺さった。

騎士団長「む……?」

 そして次の瞬間、それは虚空に溶けるようにして消える。まともな現象ではなかった。

 魔術でもなかった。能力でもなかった。科学でもなかった。

 それ以外となれば、答えは一つ。



杏子「おいテメェ、アタシのダチになんてことしてやがる!」

フレンダ「さぁて、覚悟はできてるんでしょうね!?」


騎士団長「なるほど。魔法、少女か」

 キリカは思わざるを得なかった。

 彼女たちは自分の恩人にはなれるはずがないと。

 そして、絶望に鈍らされた反応が、彼女をさらに後悔させる。

 結局、勝負は一瞬で終わったのだった。

とりあえずここまで

というか『ソーロルムぼ術式』ってなんでしょうね、私も知りません
『ソーロルムの術式』なら知ってるんですけど

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年09月01日 (月) 19:48:46   ID: FhNRNlQp

これってちゃんと完結してないよね?
スレ立て日を2013/05/04~06/01で指定してこれの続編を探してみたけど該当無しだし(スレ番号992参照)
同じトリップの作品は他にないし…一体どうゆうこと?

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