伏羲「のう、そこのお主」 折木「」(114)
伏羲「のう、そこの眠そうな目をしたお主だ」
折木「………」
折木(ありのまま起こったことを話そう)
折木(学校の帰りに妙なヤツに絡まれた)
伏羲「分かっておるのだろう?無視するでない!」
折木(見た目の割に爺くさい話し方……何だあの格好?)
折木(怪しすぎる………)
伏羲「のう!」
折木(………見なかったことにしよう)スタスタ
伏羲「待てと言っておるだろうがボケ!」ビシュッ
ビュオォォォウッ!!
折木「…………っ!」ビクッ
ハラッ
折木(……髪が一房持って行かれた)
折木(つむじ風……?いや、『かまいたち』か?)
伏羲「すこーし頼みたいことがあるのだが、協力してくれんかのう?」シレッ
折木「…………」
伏羲「わしは旅の者で、この辺をウロウロしておったのだがどうにも小腹が空いてのう。
どこか桃を売っているところを教えてくれぬか?」
折木「今時旅の者って………」
伏羲「まぁそう言うな!どうだ、案内してくれんかのう?それ相応の礼はさせてもらうぞ?」
折木(…………正直死ぬほど面倒だ。だが………)
折木(ここで嫌だと言っても恐らくコイツはどこまでもついて来るだろう)
折木「…………はぁ。分かったよ」
伏羲「おぉ!お主見た目より話が分かるのう」
折木「そんなんじゃない。面倒事はさっさと片付けたいだけだ。
………『やらなくてはいけないことは手短に』、だ」
伏羲「何だそれは?」
折木「何でもない。行くぞ」
伏羲「うむ。……お、そう言えばまだ名前を訊いておらんかったな」
折木「………福部里志」
伏羲「言っておくがわしに偽名は通用せんぞ」
折木「……………………折木奉太郎」
伏羲「やはり偽名だったか」
折木「!!」
伏羲「かっかっか。青いのう」ケケケ
折木(………本当に何なんだ)
伏羲「奉太郎、か。わしは………あー、望とでも呼んでくれ」
…………
…………………
…………………………
折木「…………」スタスタ
伏羲「うーん、のどかなところだのう。西岐を思い出す」
折木「……ただの田舎だ」
伏羲「田舎も捨てたものではないぞ?こういうところで日がな一日寝てくらせたら最高だのう」
折木「…………まぁ、それについては否定しない」
伏羲「おお、お主話が分かるな」
折木「俺も、やらなくていいことならやりたくないからな」
伏羲「ふむ?」
折木「『やらなくてもいいことなら、やらない。やるべきことは手短に』。それが、俺のもっとーだから」
伏羲「………若いくせに、老子のようなことを言うガキだのう」ボソッ
折木「何か言ったか?」
伏羲「いや、何でもないぞ?」
折木「……もうすぐ商店街だから、桃ならそこの八百屋に売ってるだろ」
伏羲「おおそうか!この国の桃は最高だからのう!いやー楽しみ楽しみ!」
折木(……………この国?)
伏羲「ボサッとするな。行くぞ奉太郎!」テクテク
折木(本当に何なんだ………?)
…………
…………………
…………………………
折木「……………」
伏羲「うーん美味い!!やはり白○は最高だのう!」モシャモシャ
折木「……………」
伏羲「品種改良もここまでくるとは、人の知恵も侮れぬものだ」モッシャモッシャ
折木「おい」
伏羲「ん?おお奉太郎、お主もどうだ?一つくらいなら分けてやるぞ?」
折木「それは俺が買った桃だ」
伏羲「むぅ、細かい奴め」
折木「いや細かくない………はぁ。もういい」
伏羲「む?」
折木「アンタの相手を真面目にしても疲れるだけだと分かった」
伏羲「うむうむ。物わかりのいい人間は嫌いではないぞ。食べ物を恵んでくれる人間はもっと好きだがな」モシャモシャ
折木「そんなんじゃない。ただ疲れるのが嫌いなだけだ」
伏羲「ふむ……さっきもそんなことを言っておったのう?」
折木「そう。『やらなくてもいいことならやらない、やらなくてはいけないことは手短に』
『省エネ』が俺のモットーだからな」
伏羲「本当に老子のようなことを……いや、ナマケという意味では老子の方が上か」
折木「老子?道家の老子か?」
伏羲「何!?お主知っておるのか!?」
折木「いや、高校生なら誰でも知ってるだろ。世界史や倫理の教科書に載ってるからな」
伏羲「何ですと!?ちょ、ちょっと見してみ!」
折木「はぁ………?ええと………あった。ほら」ゴソゴソ
伏羲「ふおおおお本当に載っておる………」シゲシゲ
折木「…………?」
伏羲「うぬぬぬぬ……老子め、タダの怠け者のクセにわしを差し置いて後世の教科書に載るとは!!」
折木(まるで知り合いみたいな口ぶりだな……まさかな)
伏羲「許せーーーーん!!!」
グシャッ
折木「あ」
伏羲「あ」
折木「……………おい」
伏羲「す、すまぬっ!……ついカッとなって」
折木「…………………はぁ。まぁ、1ページや2ページ破れたくらいなら平気か」
伏羲「まぁ待て!そのくらいわしが何とかしてやる!」
折木「弁償ってことか?桃一個買えないヤツが何を……」
伏羲「まあ見ておれ!
むむむむ……………ハッ!!」
ビカッ
折木「っ…………!」
伏羲「どうだ?」
マッサラァァァァァ……
折木「…………本当に直ってる。新品みたいだ」
伏羲「だから言ったであろう?」フフン
折木「望、アンタ一体………」
伏羲「これで桃の礼はチャラだな。それでは奉太郎、達者でのう」テクテク
折木「ちょっと待て」ガシッ
伏羲「グエッ!?」
折木「アンタが破ったものを元にもどしただけだろうが。桃の礼はまだ受け取っていないぞ」
伏羲「ググッ……疲れるのはイヤと言っておったクセに細かいヤツだ……」ギリギリ
折木「だいたいどうやったんだ?どういうトリックなんだ」
伏羲「わ、分かった………分かったからフードを掴むのはやめてくれ………」ギリギリ
…………
…………………
…………………………
伏羲「ゲホッ……寒氷陣で普賢が手を振っておったわ……」
折木「それで?さっきのは一体何なんだ?」
伏羲「一体も全体も、破れた本を元通りにしただけだ」
折木「そんなことできるわけないだろ」
伏羲「フフーン、そう思うであろう?」
折木「は?」
伏羲「実はな奉太郎。
……………わしは道士なのだ」
折木「……………道士?」
伏羲「む。道士では通じぬか。
無理もない。今時人間界に来る道士はおらんからのう」
折木「…………それで結局何だ、道士って」
伏羲「うん?まぁ、お主らの馴染みのある言葉で言うと『仙人』ということになるな」
折木「はぁ?仙人?」
伏羲「正式には、わしは弟子を取っておらんので道士と名乗っておる」
折木「………………」シラーッ
伏羲「むっ、その眼、信じておらぬな?」
折木「いや、信じろという方が無理だろう。
懐から破れた俺の教科書が出てきた方がまだ納得できる」
伏羲「やーれやれやれ。若いくせに頭が固いのー」フイー
折木「む」
伏羲「よっしゃ。そこまで言うのなら証拠を見せてやろう」スクッ
折木「証拠?」
伏羲「うむ。………これが何か分かるか?」スッ
折木「さっきアンタがしこたま食べた桃の種だろ」
伏羲「うむ。美味かったぞ」
折木「そんなもので何を」
伏羲「それをそこの土に埋めよ」
折木「はぁ?」
伏羲「ホレ、スコップだ」キコキコキコーン
折木「何処から出した」
伏羲「いいからさっさと掘って埋めるのだ。『やるべきことは手短に』、であろう?」ニヨニヨ
折木「」イラァ
ザックザック
ポイポイ
ペタペタ
折木「…………これでいいのか」
伏羲「上出来だ。これに……」ゴソゴソ
折木「………まだ何か出てくるのか」
伏羲「コレを使うのだっ!」テレレッテレー
折木「…………それは?」
伏羲「桃の成長に効くハゲの薬だ!」
折木(どう見てもリ○ップだが)
伏羲「じぇいっ!」ピチョピチョ
シーン……………
折木「………何も起きないが」
伏羲「まぁ見ておれ」
ムクッ
折木「ん?」
伏羲「」ニヤッ
ムクムクムクッ
折木「嘘だろ……」
ムクムクムクズドドドドドドォーーーーーー!!
折木「い、一瞬で実がなった……」
伏羲「はーーーーっはっはっはっは!!!」
折木「なんだよこれ……どうなってるんだ?」
伏羲「見たか奉太郎!これがわしの力よ!」カッカッカ
折木「い、いや、ひょっとしたらその薬に仕掛けが…」
伏羲「疑り深いヤツだのー。……ならば周りを見るがよい」
折木「周り?」キョロキョロ
主婦「………丁目のスーパーで卵が……」
学生「……マジで?どんだけーww………」
老人「………今日こそは須藤さんから一局……」
折木「………だれもこっちに気づいてない…」
伏羲「うむ。ここから半径10メートル以内の事物をわしら以外の人間は認識できん。
……そういう空間を作った」
折木「望……アンタまさか本当に……」
伏羲「やーっと信じたのか?」
折木「…………これだけ証拠を見せられたら、な」
…………
…………………
…………………………
伏羲「さて、ようやくお主が信じたところで商談に移ろうかのう」
折木「商談?」
伏羲「桃の礼だ。お主の望みを言うてみい」
折木「俺の……望み?」
伏羲「たいていのことなら叶えてやるぞ?ホレホレ、言うてみい」ホレホレ
折木「望み………」
伏羲「男子高校生など欲の塊であろう?金か?名誉か?
あ、思春期ならば女かのう?」
折木「アンタ、仙人とか言ってた割に世俗の臭いが半端じゃないな」
伏羲「わしは昔からそうでのう!修行を面倒くさがって居眠りばかりしておった」
折木「……………」
伏羲「それよりも早よう望みを言うてみよ」
折木(……………)
折木「……………………ない」
伏羲「む?」
折木「俺に望みなんて、ない」
伏羲「ほう?………今時珍しいほど無欲だのう」
折木「…………べつに聖人君子を気どってるわけじゃない」
伏羲「ふうむ」
折木「分からないんだ………本当に、自分が何がほしいのか。何がしたいのか」
伏羲「……………」
折木「俺は面倒なことが嫌いだ」
伏羲「………わしの知り合いにも、『究極のナマケ』を開発した極度の面倒くさがりがおるが」
折木「そんなものに興味はない。ただ、『不必要なこと』が煩わしいだけだ。
そうやって俺は、必要最低限のことを、必要最低限の労力でこなしてきた」
伏羲「それが、さっき言うておった『省エネ』ということだな?」
折木「ああ、だけど………」
折木「そうやってるうちに、俺の行動原理から俺の意思は削ぎ落されていった。
全てを『やらなくてもいいこと』と『やらなくてはいけないこと』に分けていくうちに…………」
折木「俺は、『やりたいこと』が分からなくなってしまったんだ」
伏羲「…………プッ」
折木「!?」
伏羲「あーーーーーーーーーーっはっはっはっはっはっはっはっは!!!」ゲラゲラ
折木「お、おい」
伏羲「こ、行動原理…やりたいこととか…ブフッ!!プーップップップップ!」クスクス
折木「」
伏羲「ブッ!バァーッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!」ゲラゲラ
伏羲「ハハハハハハハハハハハッ!!!」
…………
…………………
…………………………
伏羲「あー笑った笑った。このわしを笑い死にさせる気か奉太郎」プププッ
折木「…………」
伏羲「年の割に達観しておると思っておったが。なかなかどうして、青臭いことを言うではないか、
え?奉太郎」
折木「…………そんなにおかしいか、俺の言ったことは」
伏羲「違う違う逆だ。お主が余りに月並みなことを言うのでのう」
折木「月並み?」
伏羲「おのれのアイデンティティに悩む思春期が月並みでなくて何だというのだ?」
折木「!」
伏羲「お主に限らず、お主ぐらいの歳の子どもは皆そういった悩みを抱えておるものよ。
程度の差はあれど、な」
折木「…………」
伏羲「しかし望みがない、か。
そう言ってきたのは『悟りに近づきたい』と言っておった坊主を除けば随分と久しぶりだのう」ウーン
折木「…………これ以上何もないなら、俺はこれで」
伏羲「おおそうだ!お主、わしと一緒に来ぬか?」
折木「…………は?」
伏羲「わしと旅をせぬか、と言うておる」
折木「」
伏羲「長いこと一人で旅をしてきたが退屈でのう。そろそろ道連れがほしいと思うておったのだ。
お主はどうやら、気が合いそうだからのう」
折木「それが、俺に何の得があるんだ?仙人にでもしてくれるのか?」
伏羲「いや、悪いがそれは無理だ。仙人になるには生まれつきの『素質』が必要なのでな。
まぁ、占いくらいなら教えてやれるがのう」
折木「…………ばかばかしい」
伏羲「そのかわり、浮世の煩わしさからは解放されるぞ?」
折木「!!!」
伏羲「さっき自分で言うておったではないか。『面倒は嫌いだ』、
『やらなくてもいいことはやりたくない』と」
折木「それは…………そうだが」
伏羲「それらぜーーーーんぶから解放されるのだ。割と最高の気分だぞ?」
折木「…………………」
伏羲「要するにお主、人と関わるのが疲れるのであろう?
ならば社会のしがらみから抜け出してしまうのが手っ取り早いと思わぬか?」
伏羲「親、友達、学校…………全部鬱陶しいのであろう?
ならばそんなものは捨ててしまえばよいのではないか?」
伏羲「おおそうだ、そういう世捨て人が集う集落にも心当たりがある」
折木「…………世捨て人が、集落?」
伏羲「個を消す仮面付きの、だがのう」
折木「……………」
伏羲「お主の言うそこでの『やらなくてはいけないこと』とは、自分の食うものを育てることだけだ」
伏羲「最高の省エネ生活だと思うのだがのう」
伏羲「さぁ、どうする?」
折木(どうする………)
折木(そもそもこんな荒唐無稽な話を信用してもいいのか?新手の詐欺か何かじゃないのか?)
折木(……………いや、無駄だな。既に十分すぎるほどの証拠を見せられた)
折木(そもそも詐欺ならもっと単純に金を巻き上げようとするはずだ)
折木(俗世を捨てる………俺が?)
折木(こいつは……望は浮世の面倒を全て捨てられると言った)
折木(それが…………俺の望み?)
折木(全部、『やらなくてもよく』なる……)
折木(……………そうだ)
折木(俺はずっとそれを望んでいたじゃないか)
折木(世捨て人?上等じゃないか)
折木(もとから『感情が死んでいる』と言われて久しいこの俺だ)
折木(いい機会だ。この際全部捨ててしまおうじゃないか)
折木(それで俺の省エネは完成する!)
折木(そうだ、それが俺の………………)
―――――私、気になります!折木さん!
折木「!!!!」
伏羲「……………今、お主の胸に思い浮かんだものは何だ?」
折木「あ………」
伏羲「誰の顔だった?」
折木「それは…………」
伏羲「まぁよい。のう奉太郎。人というのはな、そう簡単に何かを捨てることなど出来んのだ」
折木「…………」
伏羲「生きることとは面倒ごとの連続よ。進むたびに少しずつ色々なものを背負いこみ、
時にはおとし、そのたびに傷つきながらまた背負いこむ」
伏羲「闘いの中にあってもそうだ」
折木「闘い?」
伏羲「頭の中の自分が言うのだ。
『賢くなれ。面倒なものは切り捨てろ。そうすれば勝てる』とのう」
折木「……………」
伏羲「だが、捨てられんのだ」
折木「!」
伏羲「捨てられんのだよ。理屈ではないのだ。
わしの心が、魂魄が、『それ』を捨てたくないと聞かんのだ」
折木「…………俺には分からんが、それが、アンタの『やるべきこと』だったんじゃないのか?」
伏羲「そうだ……と言いたいが、違うな。単なるわしのわがままだ」
折木「わがまま?」
伏羲「そう。『誰も死ななければいい』『わしがまもればいい』、という、傲慢で自己中心的な願いだ」
折木「…………」
伏羲「だがのう、今となっては思うのだ。
傲慢で何が悪い、とな」
折木「?」
伏羲「自分の大切なものを背負いこんで何が悪いのだ。守りたいものを守って何が悪いのだ」
伏羲「それを決めるのは他の誰でもない、自分自身ではないか」
伏羲「それに口出しできるほどお前は偉いのか!………そう言ってやったことがある」
折木「…………何の話だ?」
伏羲「おお、何でもない。話がそれてしまったのう」
折木「傲慢な……願い………」
伏羲「む?どうした奉太郎?」
折木「いや、別に……」
伏羲「………奉太郎」
折木「何だ?」
伏羲「悩むことをやめてはならぬぞ」
折木「…………どういうことだ?」
伏羲「振り返ってもよい。立ち止まってもよい。だがな、進むことを諦めてはならん。
悩むことから逃げてはならんのだ」
伏羲「悩んで悩んで悩み抜いて、最後に自分の中に残ったものを、大切にするがよい」
折木「悩み抜く………」
伏羲「そうだ。大切なものは自分で決めるのだ」
伏羲「それが、お主の『導』となる」
折木「導…………」
伏羲「………説教くさくなってしまったかのう」
折木「………なぁ、望」
伏羲「何だ、奉太郎」
折木「さっきも言ったけど、俺は面倒ごとが嫌いだ」
伏羲「うむ」
折木「そんな俺にも見つけられるだろうか。
抱え込みたいものが。大切な―――『道導』が」
伏羲「………知らんわそんなもん」
折木「は!?」
伏羲「だーかーらー、何度も言うておるではないか。お主のことはお主しか決められんと」
折木「おい、じゃあ今までの話は…」
伏羲「現にお主はさっき自分で決めたではないか。
『行かん』、とな」
折木「…………あ」
伏羲「ふはは。そう、さっきのも選択の結果だ。お主が自分の心に従った結果なのだ」
折木「自分の心……ねぇ」
伏羲「…………顔がニヤけておるぞ、ムッツリめ」
折木「なっ!?」
伏羲「カカカっ。ダアホめ、男子高校生の考えておることなどお見通しだ」カカカ
折木「ぐっ」
伏羲「初めて会ったときからそのスカした態度が若干気に入らんかったのだ。
いーい気味だのう!」
折木「…………くっ」
伏羲「何だ、かかってこんのか?」ホレホレ
折木「……言っただろ、疲れるのは嫌いなんだ」
伏羲「………まあよい。それも『選択』だ。
…………さて、と。そろそろ行くかのう」
折木「えっ?」
伏羲「つかの間のよい退屈しのぎになった。感謝するぞ、奉太郎」
折木「そうか……今度は何処に行くんだ」
伏羲「もともと行くあてのないぶらり旅だからのう……
そうだ、美味いもののあるところに心当たりはないか。ナマグサ以外がよいのだが」
折木「………リンゴなら、隣の県の名産だが」
伏羲「リンゴか!たまにはそれもよいな。桃も最近飽き気味だしのう」
折木「桃…………あっ」
伏羲「あっ」
折木「そうだ、忘れるところだった。桃の礼をまだしてもらってないぞ」
伏羲「ち、馳走になったのう!美味かったぞ!ではさらばだ!!」ダッシュ!
折木「待てこのっ」
伏羲「疾っ!!!」ビシュッ
ギュオォォォォォゥゥッ!!!
折木「また……つむじ風?」
『じゃあな奉太郎!達者でな!!』
折木「くっ、待て!望!」
『ん?ああ、まだちゃんと名乗っておらんかったな!』
折木「何だって!?」
『わしの名は太公望!』
『またの名を伏羲!!始まりの人が一人である!!!』
ギュオォォォォォ…………ッ
折木「消えた………」
折木「何だったんだアイツは…………」
折木「夢……じゃないよな。目の前に桃の木があるし」
伏羲『自分の大切なものを背負いこんで何が悪いのだ。守りたいものを守って何が悪いのだ』
伏羲『悩んで悩んで悩み抜いて、最後に自分の中に残ったものを、大切にするがよい』
伏羲『それが、お主の『導』となる』
折木「導……か…」
「折木さん?こんなところでどうされたのですか?」
折木「!」
える「何かあったのですか?」
折木「ち、千反田………」
える「まあ!どうしたのですか、この立派な桃の木!」
折木「え、あぁ、これか?………さぁ、もとから生えてただけだと思うが」
える「いいえ、昨日ここを通った時にこんな立派な木はありませんでした」
折木「そうか………お前が言うんなら間違いないんだろうな」
える「ええ、間違いありません!」
折木「そうか………」
える「ひょっとして、何か御存じなんですか?」
折木「!」ギクッ
える「やっぱり御存じなんですね?」
折木「あのな、千反d(ry」
える「どうして一夜でこんなに大きな木が生えたのですか?」
折木(一夜どころか一瞬だけどな)
える「一体ここで何があったのですか!?」
える「私、気になります!」
折木「……………ハァ」
…………
…………………
…………………………
―――――夜
折木「…………疲れた」ドサッ
折木(下校早々ヘンなのに捕まるわ、千反田には見つかるわ)
折木(千反田は何とか誤魔化してきたが……)
折木(………なぁ、望)
折木(俺の選択は、本当に正しかったのか?)
折木(これからも面倒ごとを背負い続ける、この選択が………)
折木「……………違うな。
『正しさ』なんて何の意味もない」
折木(正しいかどうかよりも、俺自身が選んだこと自体に意味がある。
その選択の積み重ねが、俺の『導』になる、ってことか…………)
バサッ
折木「……ん。さっきの教科書か」
折木(本当に新品同然だな……それでいて、俺の名前や書き込みはそのまま……ん?)
折木「ここだけ折り目がついてるぞ……?」
パサッ
折木「……………」
折木「やれやれ、口ではああ言ってたくせに」
折木「負けず嫌いにもほどがあるだろ」クスッ
ポイッ
バサッ
~~~~~こうして周の軍師・呂尚(太公望)の活躍で…………
わしの名前は呂望だ!間違えるな↑
おしまい
終わりん。
今日引越しの準備しなきゃなのに何やってんだ……
じゃあの。
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