kofとまどマギクロスです
とは言っても出てくるキャラは多分八神庵とアッシュ・クリムゾンだけです
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——幾つもの言葉が脳裏を掠める。
『【俺たち】の歴史』 『過去』
『時代を繋ぐ扉』 『やり直せる』
『未来』 『この世界』
全てが、白く染まってゆく中………———
「彼」は、視界の隅に僅かな「翠」が映ったのを感じた。
気が付くと男は薄暗い場所に立っていた。
その場を知らしめる為の幽き光は臙脂……鼻腔を詰る不快感は目に見えぬ塵によるものだろう。
まどろみに似た感覚は四肢に鉛を着させ、一寸先に見える己の掌も痺れに震えていた。
暗闇に眼が馴染むと、彼……八神庵は己の存在を確認した。
手足の感覚を取り戻し、指が開閉される度に爪が手の平に食い込み、痛みを生んだ。
—————………
——— 終わった。全てが、元通りだ。
そう確信した彼は、開かれた手の平を見つめていた。
しばらくすると、庵は口元に僅かな笑みを浮かべ、しばし忘れていた紫炎の揺らめきを頭の中で念じる。
—— 出て来い、と。
己以外を飲み込み焼き尽くす、戦慄の紫。
蛇のように鞭のように撓り上るソレは、この暗闇に灯る松明となる。
………はずだった。
だが彼の意思に反し、手の平からは炎どころか煙一つ上がる様子も無い。
—— 馬鹿な、と。
胸中で呟いた言葉は、失意、焦燥、疑問を含んだ。
—— そんな筈はない。確かにアイツは消え……
ッチュン!!
鼓膜に響いた音が黙考の時を終わらせる。
—— !!
音として認識するにはあまりに早く通り抜けた響き。
それが硬い壁にぶつかって弾けた銃弾の音だと即座に理解出来るのは、かつて銃口を向けられた経験があるからだ。
残響に惑わされる事無く、音の発生源の方角に向かい身構え、待つ。
刹那、それは現れた。
いや、現れたと言うには可笑しい。
薄暗い通路から見えたのは、白い「何か」だ。
まるで猫とウサギを併せたかのような、不思議な生物……否、八神庵の知り得る知識の中に、この面妖な小動物の記憶は無かった。
その小動物……猫もどきは八神庵に目もくれずに、股の下を潜り抜けて走り去っていった。
その僅か遅れて、足音。
残響による歩幅……火薬の匂い……銃声の主、であろう。
足音が近付くにつれ、歩幅が狭まり、緩やかになっていく。
それは銃声の主であろう者が、こちらに気が付いたからだ。
………空気が張り詰める。
暗闇から現れた、主。
艶やかな黒髪、燕尾服に似たドレス、左腕に円盤を着け、右手には軍人が持つような大口径の手銃。
そして……まだ幼さの抜けきらぬ、少女だった。
………
お互いが対峙し、睨み合うかのように立ち尽くす。
僅か数秒であったであろうが、その間はお互いの存在に対して感情を抱かせるには充分な時間だった。
『なにものだ』
互いの視線がそう語る。
同時に、相手に困惑が悟られぬ様に振舞うのも同様。
胸中にて無言の対話で探り合う、心理戦。
能面の如き無表情に、暗く澱んだ瞳……その身に纏う気配は、只の少女とは言い難い。
殺気、怒気、闘気。狂気。
人が纏う気と言うものは様々あるが、この少女から感じるものはどれにも該当しない、純粋なる『冷気』だった。
——『凍気』と表すべきか。
この少女は何かが違う。
人外の化生ならば数多く見てきた……だが、この少女は今まで見てきた存在とは一線を画している。
そう告げたのは、八神庵の戦士としての直感だ。
そして同じ答えに行き着いたであろう目の前の黒髪の少女も、八神庵を見据える。
”……たすけて…… ”
瞬間、お互いの意識が殺げた。
すると少女は八神庵の横をすり抜け、走り去る。
『邪魔しないで』
通りすがりの一瞥で黒髪の少女はそう告げていた。
……普段の八神庵ならこの時点で『フン』と鼻で笑い、この場を立ち去っていた。
そして今日この日と言う出来事も、記憶より零れ落ちて霧散するべき事。
はずだったが、この時ばかりは思考を巡らせるよりも先に黒髪の少女の後を追っていた。
何故かは庵自身にも解らなかった。
そうせざるを得なかった訳でも無く、かつて『ヤツ』の女を助けた様な気紛れでもない。
”……たすけて……! ”
この頭の中に響く謎の声によって引き寄せられている、のか。
しかしそういう事でも、無い。
庵「チィッ……!」
乾いた喉の奥から出た言葉は、得も言われぬ感覚による悪態であった。
薄暗い通路を抜け、駐輪場を駆け、行き着いた場所は、工具が置かれた仄暗い物置部屋だった。
天井から垂れる鎖や、埃のかぶったビニールシート。
交通止めの看板や積み上げられた角材があちこちに置かれ、相当に広い。
何処かの建物の中だとは理解したが、それでも記憶に無い場所だ。
走狗の如き疾走していた黒髪の少女が足を止めると、八神庵もそれに倣う。
その眼差しの先には、黒髪の少女と同い年……ぐらいの、別の少女。
桜色の髪を両脇に結わえた少女がその場にペタリと座り、先程の白い猫もどきを抱きかかえていた。
桜色「ほむら、ちゃん……?」
ほむら「そいつから離れて」
知り合いか、と胸中で独りごちた。
桜色「だ、ダメだよ!この子、怪我してる……」
ほむら、と呼ばれた少女が一瞬、殺気を放つのを感じた。
冷たく、そして明確なまでの敵意を込められたソレは、この挙動不審な桜色の髪の少女を怯ませるのは充分すぎただろう。
だがその敵意は座り込んだ少女ではなく、もっと別のモノに対して向けられている。
八神庵には、ソレが白い猫もどきに向けられているものだと解っていた。
数歩、ほむらが座り込んだ少女の元へと歩み寄る。
ひっ、と一瞬怯える様子を見せる。
すると突然、ほむらは振り向いた。
ほむら「……」
邪魔者は消え失せろ、と目で言っている。
ほむらが振り返ったことにより、座り込んだ少女もようやく八神庵の存在に気が付いたようだった。
桜色「あの……ほむら、ちゃん。その人、は?」
怯懦、疑念、声を震わせながら訊ねる様は、憐れなまでに弱々しい。
ほむら「……知らないわ。他人よ」
八神庵とほむら、それ以外の答えは無い。
ほんの数分前に顔を合わせただけの間柄でしかないのだから。
庵「……」
八神庵がゆっくりと一歩足を進めると、顔を引きつらせて明らかに怯える座り込んだ少女。
反面、ほむらに臆する様子はない。
目の前の男に敵意が無い事を、感じ取っているからだ。
不意に、突風のような轟音。
併せて眼前に広がる、白い粉塵。
庵「クッ!?」
女の声「まどか! 転校生! こっち!!」
唐突に襲い掛かった白煙は消火器によるもの。
八神庵は思わず身を引いた。
桜色「さやかちゃん!!」
呼吸を止め、喉にこそばゆい霧を手で払いのける。
濃厚な白い粉塵が視界を覆い、全てを白く染め上げた。
庵「チィッ!!」
思わず舌打ち。
しばらくし、霧が晴れると……少女達の姿はその場に無かった。
………
…………
危害を加えるつもりなど毛頭無い……どうにも釈然としなかった。
「きっと暴漢か何かと勘違いされたんだろうネ」
!!
宙を舞う粉塵の残滓が漂ったまま静止する。
空気の振動すら止まったかのような、無音の空間が広がる。
そして、後方から聞こえた癪に障る声。
庵「……アッシュ!」
振り返ったその先に立っていたのは……八神庵が、例外的に『この世で一番目障りな存在』と認識した男。
——アッシュ・クリムゾンだった。
飄々として人を小馬鹿にしたかのような軽い声に、相手をこき下ろす眼。
あいも変わらず苛立ちを募らせる顔だった。
………だが、何故この小僧がここにいる? と八神庵は思った。
アッシュ「ボンジュール、ムッシュ・八神。今の君のマヌケな顔を写真に収められないのが残念で仕方ないヨ」
灰色に染まった周囲の空間、そして肌と髪は白、服が黒の二色だけのモノトーンになったアッシュ。
全てが『止まっている』あの時の空間を髣髴させた。
庵「……早々に化けて出るとはな。三途の川までしっかり案内してやらねばならんか」
アッシュ「コワイコワイ、相変わらず凶暴だネ。でも残念、今のボクは幽霊でも妖怪でも無いのサ」
足もあるでショ? と子供のように微笑むアッシュに、庵は苛立ちを隠せなかった。
庵「殺し損ねた、と言う訳か。ならばもう一度」
アッシュ「ハイ、ストップストップ。血の気が多くていけないネ、ムッシュ」
やれやれ、と言いたげに大げさなジェスチャーで庵の言葉を遮る。
アッシュ「やっと君を『見つけてあげた』のにさー。こーんなになじられるなんて思わなかったヨ」
庵「な」
アッシュ「何の事だ、アッシュ」
庵が口を開く前に、言うべきはずだった言葉を先に言うアッシュ。
無論、八神庵の口調や低い声をマネして。
アッシュ「アハ、なんちゃってネ。……えっとさ、あのバカにボクが乗っ取られちゃった時のコト、覚えてるかな?」
あのバカ……というのは、アッシュに瓜二つだったサイキと言う、あの男の事だろう。
アッシュ「あの時に色々ヘマしちゃったからサ、ちょっと厄介なコトが起こっちゃったみたいなんだよネ」
口を尖らせながら、話を続けるアッシュ。
アッシュ「長々と説明するのメンド臭いから簡単に言うヨ? ムッシュ・八神。君は今、別次元の世界に居るのサ」
庵「……冗談にしては下らなすぎるな」
アッシュ「つまんないジョークは好きじゃないよ、ボク。時の扉の空間で戦ってた皆は無事に元の世界、時代に帰っていった……」
指でくるくると宙に円を描くアッシュ。
アッシュ「でもネ、何でか知らないけど君だけは違った。大きな因果の力によって、君の潜った扉だけは行き先が大きく捻じ曲げられた」
回していた指に、もう片方の手の指を当てて動きを止め、×字を作る。
アッシュ「つまり、この世界は君の知らないどこかの世界。『八神庵』と言う存在が後から加わった次元の世界」
庵「……俄かには信じられんな。ましてや貴様の言葉など」
言葉を吐き捨てる、庵。
アッシュ「君にはメーワクかけたし、結構ガンバったんだけどなあ。ヒドイ言われようだよね、ホント」
まあ良いヨ、と言うとアッシュの目の前に小さな円形の鏡が出てくる。
アッシュ「ボクにはマドモアゼル・神楽の力が僅かに残ってるからサ。君がこの時代で困らないようアドバイスしてあげるヨ」
庵「………アッシュ」
アッシュ「君から借りた勾玉の力を返してあげたいトコだけど、無いからね」
庵「何だと」
アッシュ「消えちゃったんだ、いきなりね。幸いボクは『こういった存在』だから、ボクなりに探してみるつもりだけど」
庵「………」
アッシュ「睨まれても困っちゃうなあ。今更君にウソついた所でボクに得なんてないでしょ?」
鏡が指先でつつかれると、淡い光を放ち始めた。
アッシュ「ま、取り合えずさっきの女の子達を追いかけなよ。この世界の君はそうするのが宿命みたいだからサ」
淡く光る鏡に映るのは、さっきの少女達。
黒髪と桜色に加え、青色と一人増えている。
アッシュ「神楽の鏡は偽らない……君を見つけられたのもコレのお陰なんだからネ」
庵「貴様の指図を受けろと言うのか?」
アッシュ「ボクじゃなくて、神器の導きさ。まあ元の世界に帰りたくないって言うなら別に従う必要は無いヨ」
ボクのやりたいコトは全部終わったんだしさ、と付け加える。
——チッ、と舌打ちの音が漏れた。
アッシュ「ア・ビヤント。ムッシュ・八神」
————
ほむら「こんな時に……」
よりによって美樹さやか、鹿目まどかの二人を巻き込んでしまうとは不覚だった。
さやか「ちょ、ちょっと何よこれ……どーなってんのさ!?」
まどか「さっきまでは確かに、道が……あ、あそこ! な、何かいる!?」
—— 蝶、花、荊……ワシャワシャと紙を揉むような物音と共に空間が広がってゆく。
—— 紫、赤、黄、黒……原色の光が降り注ぎ、妖しく彩られた花園を形成する。
—— 嘲笑、胎動、無垢……物陰から現れる純粋な悪意の群。
ほむら「二人とも、ここから動かないで」
さやか「な、何? 転校生、その手に持ってるのって、じゅ、銃!?」
まどか「ほ、ほむらちゃん……!」
ほむらをじっと見つめるまどかの視線が刺さるかのように痛い。
先程までこの拳銃でインキュベーダーを撃っていた事に、まどかは勘付いたのだろう。
故に、その視線から感じる感情は、恐怖と畏怖の入り混じった、複雑なもの。
……まどかとインキュベーダーを接触させてしまったのは失敗だったが、今ここで二人を助けると言うのは後々の信用に繋がる。
『キュウベぇの敵だが、人々の味方』と言う印象をつけられるのは大きい。
ここは是が非でも、二人を守らねばならない。
ぼうっ、と淡い紫色の光が拳銃に宿る。
魔力による強化だ。
ほむら「心配しないで。貴方達は私が守るわ」
だんだんと型を成し、数を増やす使い魔。
綿花にヒゲ、葉の形は蝶……首を揺らしてハサミを鳴らして獲物に対する歓喜の表現。
円陣を組んで踊るその様は、キャンプファイヤーでも行っているかのようだ。
烏合の衆ね、と胸中で呟く。
ほむらは腰を落とし、拳銃を構えた。
その時———
あぎゃ、っと使い魔の断末魔が聞こえた。
—— 巴マミ、が? いえ……
銃声はしていない。
眼だけで追うと、そこには先程の男が立っていた。
血のように真っ赤な髪の毛を靡かせ、高い背丈、広い肩幅。
鋭い目付きに、空虚な瞳……対峙した人間は間違いなくこの男の事を『危険』と認識するだろう。
さやか「うぇっ!? さっきの!?」
美樹さやかは使い魔を倒した事よりも、この赤毛の男が現れた事のほうに驚いているらしい。
赤毛「…………」
ほむら「………」
赤毛とほむらの視線がぶつかる。
そんな二人の様子を、美樹さやかとまどかは緊張の面持ちで見つめる。
—— 手伝ってやる。
見ず知らずの他人と以心伝心、と言うのも可笑しいものだが、赤毛の男の目を見るだけで何を考えているのか、伝わってきた。
—— お願いするわ。
ほむらが銃弾を発射すると同時に、赤毛の男は駆け出した。
魔力の込められた銃から放たれる弾は、黒紫色の彩を纏いて駆け抜ける。
弾丸が使い魔に当たった瞬間に魔力は爆ぜ、弾け飛ぶ。
赤毛の男が腕を振り払うと、その手から爪痕の軌跡が走る。
猛獣の鉤爪の如く鋭い爪に飲み込まれたら最後、抉り剥がされる。
撃つ。裂く。
撃つ。裂く。
二人が織り成す攻撃にはまるで無駄が無く、そして隙が無い。
お互いコミュニケーションを取っている訳でもないのに、己が狙うべき標的を的確に見定めて仕留める。
百戦錬磨の為せる技。
赤毛の男が何者かは解らないが、少なくとも並の人間ではないと言うのは確かだ。
そもそも魔法少女以外に使い魔を認識する事は不可能のはずなのに、この男には『見えている』のだ。
だが、今はこの二人を、まどかと美樹さやかを守る事が優先。
ひとまず赤毛の男の事は捨て置いて良い。
さやか「な、なんなんだよあの二人……」
まどか「す、すごい……」
確実に確実に一体ずつ化け物を仕留め、お互いの邪魔をする事無い動き。
はたから見るほむらと赤毛の男の動きは、まるで『長い間、コンビを組んでいる』かのように合致していた。
戦闘経験が豊富なほむらと赤毛の男にとっては、別段特別な事ではなく、戦いの流れを熟知した動きなだけ。
三人を囲んでいた化け物達が少しずつ、減っていく。
すると突然、まどかとさやかの足元から帯状の何かが巻き上がる。
眩しくて暖か味のある黄金色のソレは二人を包むと、ドーム状に変化した。
さやか「うわっ!?」
まどか「きゃっ!」
「ちょっとお邪魔するわよ?」
軽やかな声に、ほむらと赤毛の男が静止する。
声のした方に顔を向けると、花園のフェンスの上に立つ金色の少女の姿があった。
—— 巴マミ……
ほむらは胸中で金色の少女の名を呼ぶ。
威風堂々とした佇まい、自信に満ちた声音に思わず懐かしさを覚えた。
マミ「彼女達に結界を張らせてもらったわ。その位は許してくれるでしょう?」
まどかとさやかを包むのは、彼女の魔法から作られたリボンの障壁。
僅かに首を傾げ、不敵な笑み。
『戦いの手は貸さなくても大丈夫でしょう?』と、言っているのだ。
巴マミにとってそれは相手への挑発や軽侮などではなく、瞬時にほむらの戦闘力を見極めた上での発言だ。
無闇矢鱈に魔法少女が共同戦線を張るのは、使い魔との戦闘以上に危険、という部分も占めているのだろうが。
—— チッ
赤毛の男が舌打ちを漏らした。
……巴マミの事を知らないであろうこの男にとっては、発言の真意が掴めないのも無理はない。
赤毛の男の眉の端が僅かに釣り上がったのは、巴マミの言葉を挑発と受け取ったからだろう。
—— カシャッ
灰色に染まる空間。
光も時も止まった世界。
ほむらが己の左腕に装着された小さな盾の中に手を差し込むと、その中から散弾銃を取り出す。
赤毛の男を戦力として過小評価している訳ではない。
だが巴マミからの援護が期待できない以上、大勢の敵を一掃するにはこの方が手っ取り早いと判断した。
カチッ、ダンッ!! カチッ、ダンッ!! カチッ、ダンッ!! カチッ、ダンッ!!
轟音が体に響き、骨を震わせる。
使い慣れぬ散弾銃を盾の中に収めると、ほむらは髪を梳いた。
—— カシャッ
周囲に群がっていた使い魔達が散弾の礫によって一斉に消し飛び、霧散する。
赤毛「……」
マミ「凄い魔法ね」
ぐにゃり、と空間が歪み溶け始めると、巴マミは消え行くフェンスから飛翔し、まどかとさやかの元へと降り立った。
さやか「も、戻った……」
マミ「もう大丈夫。魔女は逃げたみたいだから。……あら? その制服。貴方達、見滝原の生徒みたいね?」
リボンの障壁を解き、頭をおさえて蹲っていた二人に微笑みかける。
まどかが抱いているキュウベぇを一瞥した後に、ほむらの方に向き直る。
マミ「すぐに追いかければ間に合うと思うわ。この子達は私に任せて?」
ほむら「………」
マミの視線が赤毛の男へと映る。
さやか「て、転校生!! はやくそいつから離れて!!」
まどかを覆い隠すように庇う、さやか。
先程からそうだったが、さやかはこの赤毛の男を暴漢だと決め付けているようだ。
QB「ま、マミ、気をつけて。その子は僕を……」
傷だらけのキュウベぇがまどかの腕の中で呟く。
……巴マミの空気が変わった。
マミ「どういうことかしら。返答によっては、あなたへの態度を変えないといけなくなるわ」
朗らかな声から一転し、鋭い棘を含んだ声音で再びほむらを見る。
使い魔から人々を守る正義の魔法少女、と言う第一印象から、キュウベぇが警戒を促す危険な存在へと認識を変えたのだ。
ほむら「私が用があるのは、魔女じゃないわ」
マミ「そう……。キュウベぇは私の大切な友達なのだけど、どうして傷だらけなのかしら?」
まどか「ほ、ほむらちゃんが、この子を……?」
さやか「え? うわ、何だソレ」
さやかはようやくまどかが抱えているモノに気が付いた。
ほむら「………」
マミ「何も言いたくないなら聞かないであげる。この子達を助けてくれた事には違いないでしょうからね」
ほむらとマミが互いに睨み合う。
ほむら「見逃してあげる、とでも言いたげね」
マミ「物分りが良いのね、その通りよ」
自信に満ち溢れた顔でほむらに言葉を返す。
ほむら「………」
踵を返し、マミ、まどか、さやかの三名に背を向ける。
ゆっくり歩を進めて赤毛の男の横を通り、この場から去っていった。
コツン、コツンと木霊する足音が遠のいていくと同時に、今度は三人の視線が同時に同じ対象を見つめる。
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