高木「そうだ。そろそろ君にも、この仕事を任せられるかなと思ってね」
P「今までの候補生は社長がスカウトされてましたからね……いやぁ、光栄ですね」
高木「それで、だ。この会議室を面接に使おうと思うのだが……」
高木「すまないが、今回は君一人で応対してもらいたい」
P「お、俺だけでですか?」
高木「その日、どうしても外せない用事が出来てしまってね」
高木「君に押しつけてしまう形になってしまって、本当に申し訳ないのだが……」
P「……分かりました。俺に全部任せてください」ドン
高木「悪いね。これが今回面接に来る、アイドルのタマゴ達の履歴書だ」パサッ
高木「会議室までの案内は既に音無君に任せてある。君はここで待機しておいてくれ」
P「内容はどうしましょう?」
高木「一人ずつ入室しての個人面接になるが、その内容は君に一任する」
P「……俺の自由にしちゃっていいんですか?」
高木「まぁ、私はその場にいないからな。君のやる事にとやかくは言えんよ」
高木「だが、君に任せる仕事の本当の目的は……彼女達の、本質を見抜く事だ」
高木「それだけは、くれぐれも忘れないでくれたまえ」ニヤッ
P「はい!」
~当日~
P「(765プロのプロデューサーになって、はや数ヶ月……)」
P「(社長にこういう仕事を任されるってのは、それだけ信頼されてるって事だよな)」
P「(個人面接か……そういや、入社以来だったな。今回は立場が逆だが)」
P「(……俺に上手く出来るだろうか……)」ソワソワ
P「(良く考えたら、その人の人生を左右する訳だからな……)」
P「(……考えるのはよそう。もう一度、履歴書を確認しておくか)」ペラッ
コンコン
P「どうぞー」
ガチャッ
「失礼します」
P「はい」
「高森藍子、16歳です。今日はよろしくお願いします」ペコリ
P「はい、よろしくね。俺はこの765プロのプロデューサーです。どうぞ、座って」
藍子「失礼します」ストン
P「ま、そう堅くならずに。今日はどうやって来たのかな?」
藍子「電車を何度か乗り換えて、徒歩でこちらに来ました」
P「ふーん……見つけるの大変だったでしょ、ここ」
藍子「はい、少し迷ってしまいましたけど……二階の文字を見て、ここかなって」
P「お、良く分かったね。あれに気づかない人、意外と多いんだよね」
藍子「そうなんですか」
P「……君、落ち着いてるね。緊張はしてない?」
藍子「あ、私普段からこんな感じなんです。周りからも良く言われます」
P「(結構大人びてるんだな……うちの16歳共にも見習ってほしいよ)」カキカキ
P「――で、アイドルになりたいと思ったきっかけとか、理由はないかな?」
藍子「私、夢があるんです」
P「へぇ。どんな夢だい?」
藍子「皆が優しい気持ちになれるような、微笑んでくれるようなアイドルになる事です」
P「なるほどねぇ。その夢は立派だけど……うちの業界って、正直厳しいよ?」
藍子「………」
P「君と同じ夢を持ってる子は、たくさんいる。それに……」
P「一人だけが座れる席を巡って、その子達が互いに争う弱肉強食の世界なんだよ。簡単に言っちゃうとね」
P「そんな中で挫折しちゃう子も、珍しくないんだ……俺は、できれば君にそうなって欲しくは」
藍子「望むところですよ」
P「(ふむ……自信も十分。今のところ、文句のつけようはないな)」カキカキ
P「――うん、ここまでで良いかな。今日はどうもお疲れ様でした」
藍子「ありがとうございました」ペコリ
P「気をつけて帰ってね」
藍子「では、失礼します」
P「(……最近の16歳って、皆ああなのかな。礼儀から何まで完璧だったが)」
P「(一人目がこれだと、ハードル上げちまうかもしれんなー……いかんいかん)」キュポッ
ゴクゴク
P「麦茶うめぇー」プハー
コンコン
P「はいどうぞー」
ガチャッ
「あら……そちらにおわすのは、お兄様でしょうか?」
P「……はい?」
P「……まず、そちらの自己紹介からお願いしたいんですが」
「わたくし、榊原里美と申します」ペコリ
P「榊原さん、ね……(この子の履歴書は……あるな)」ペラッ
P「俺はこの765プロのプロデューサーです。今日はよろしくね」
里美「……それでは、お兄様ではない、と?」
P「いや、君とは初対面、のはずなんだけど」
里美「そうでしたか……わたくしは、なぜここに?」
P「えっ……いや、ここ、アイドル候補生の採用面接会場なんだけど」
里美「?……それではわたくし、あいどるになるのですか?」
P「(……何なんだこの子は……いや、うちじゃ珍しくないけども)」
P「……しかし君、良く似てるなぁ」
里美「どなたに似ていらっしゃるのでしょうか」
P「いや、うちに四条貴音ってアイドルがいるんだけどね。その子にそっくりでさ」
里美「……他人の空似ではないでしょうか」
P「(……喋りとかそっくりなんだがな……)」
P「えーっと……それじゃ、好きな食べ物とか、教えてくれないかな」
里美「らぁめん」
P「えっ」
里美「ではなく、甘い紅茶や菓子などを嗜んでおります」
P「そ、そうか……」
P「――と、こんなところかな。今日はお疲れ様でした」
里美「わたくし、あいどるになれるのでしょうか」
P「それは後日、こちらから通達させていただくので……」
里美「分かりました」スタスタ
クルッ
里美「ほぇぇ……」
ガチャッ バタン
P「……えっ」
P「何?ほぇぇって何?……帰りの挨拶なの?」
P「(個性的っちゃあ個性的だが……うーん)」
P「(やっぱ実際に会ってみないと、分からない事ばかりだな。面接って大事だ)」ウンウン
コンコン
P「どうぞー」
ガチャッ
「こ、こんにちはー!」
P「はい、こんにちは」
「は、はじめまして!小日向美穂、永遠の十七歳でぇーっす☆」キャピッ
P「……小日向美穂、ちゃんね」チラッ
美穂「身長155cm、体重42kg!趣味はひなたぼっこ!」
美穂「誕生日は12月16日で星座はいて座、血液型はO型で出身は熊本です!」ドヤァ
P「あ、あぁ、うん……そう、履歴書に書いてあるね」
美穂「はっ!?……す、すみませんプロデューサーさん、ちょっと緊張しちゃって!」テヘッ
P「?……確かに、俺はこの765プロのプロデューサーだけど。良く知ってたね」
美穂「あっ……あ、案内してくれた事務員の人に聞いたんですよ!」
P「ホントかい?仕事はしてくれないのに余計な事はするんだな、あの人……」
美穂「……悪かったですね」ボソッ
P「?……何か言ったかい?」
美穂「な、何でもないですよ?」アセッ
P「じゃあ早速質問、良いかな」
美穂「はい!」
P「アイドルになりたいと思ったきっかk」
美穂「モテカワスリムな恋愛体質の愛されガールになりたかったからです!」
P「………」
美穂「……どうかしました?」
P「す、すまない、もう一度お願いできるかな。良く聞こえなかったもんだから」
美穂「モテカワスリムな恋愛体質の愛されガールになりたいんですっ!!」クワッ
P「わ、わわ分かった!ち、ちゃんと聞こえました、はい!」
P「(……すごい気迫だ……)」
P「――聞きたいことはこれくらい、かな。それじゃ、お疲れ様でした」
美穂「プロデューサーさんとお仕事できる日を、楽しみにしてますね☆」キャルルンッ
P「は、はぁ……気をつけて帰ってね」
ガチャッ バタン
P「………本当に17歳か、あの子?」
P「……いや、アイドルに憧れ過ぎたアイドルマニアなのかもしれんな……うーん」
コンコン
P「どうぞー」
ガチャッ
「にゃっほーい!きらりだよー☆」
P「!?」
P「えっと、君が、諸星きらり……ちゃん?」
きらり「そうだよー☆」
P「お、俺は、この765プロのプロデューサーだ。今日は、よろしく……」
きらり「おっすおっす、ばっちし!」グッ
P「早速だけど……君、何歳?」
きらり「えっとぉ……17歳だよー☆」
P「(顔写真は、ウェーブのかかったセミロング?だっけ……本人、だと思うが……)」
P「……ちょっと聞いていいかな」
きらり「にゃは☆いいよー?」
P「履歴書には182cmって書いてあるんだけど……」
P「どう見ても君、150cm以下だよね」
きらり「………にょわーっ☆ま、間違えちゃったー、ごめんなさいー」ペコリ
P「いやいやいやダメでしょ、履歴書間違えちゃ」
P「つーかスリーサイズもこれ全部デタラメでしょ?何で君こういう事を……」
きらり「……きらりん☆」
P「いや、きらりんじゃなくてね……」
きらり「きらりん☆」ウルウル
P「………」
P「……えっと、じゃあ何か特技はありますか」
きらり「ありますよー☆」
きらり「きらりんのきゅんきゅんぱわーで、心も体もスッキリさせちゃいます!」
P「きゅんきゅんぱわーっすか……」
きらり「せーのっ、きらりん☆」ギュッ
P「………」
きらり「どうですかー?」ギュッ
P「……いいね」ホッコリ
P「――とまぁ、こんな感じかな……今日は、お疲れ様」
きらり「ありがとうございましたー!」ペコリ
ガチャッ バタン
P「…………おかしい。何故かデジャヴを感じる」
P「……俺は、アイドル候補生の採用面接をやってる、はずだよな……」
P「残りは……あと二人か」ペラッ
P「大分こなした感じだが……社長も大変だったんだなー」
コンコン
P「どうぞー」キュポッ
P「(お茶飲んで仕切り直すか……)」ゴクゴク
ガチャッ
「ふぁぁ……おはようございます~」
P「ブーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
P「ゲホッ、ゲホッ……」ポタポタ
「やなせみゆき、14才です~」ニコッ
P「」
P「………あずささん?何やってんです?」
美由紀?「……やなせみゆき、14才です~」
P「………」ジー
美由紀?「と、都会は、まだよくわからなくて~……」
P「(申し訳程度に結んだサイドテール……身の丈に合わないクマさん……)」
美由紀?「あたし、道覚えるの、にがてなんですよ~」
P「(言い表すならば、子供服を着たあずささん……!)」
P「(つーか合ってるのが顔写真しかねぇ……何これ?どういうことなの?)」
P「(……俺の目がおかしいの?俺がおかしくなっただけなのか?)」ゴシゴシ
美由紀?「……あの~」
P「……何でしょう」
美由紀?「……お兄ちゃんって、呼んでも……いいですか?」
P「」
P「(……耳までおかしくなったのか、俺は)」
P「(“お兄ちゃん”?え?……えっ?何で?)」
P「(……これは、試されているのか……?)」
P「え、えっと……柳瀬美由紀、ちゃん?」
P「今さっき会ったばかりの人に“お兄ちゃん”はちょっと……」
美由紀?「……だめ、ですか?」
P「だめじゃないよ」キリッ
美由紀?「やったぁ~!」ギュッ
P「」ティン
美由紀?「またみゆきと遊んでくださいね~、お兄ちゃん」
P「我が765プロは、いつでも君を待っているぞ」キリッ
ガチャッ バタン
P「………」ニヘラ
P「さ、次でラスト……」
P「つってもな。履歴書はもう信じられ………ん?」ピラッ
P「スリーサイズ……105-64-92だと!?」ガタッ
P「………」
P「……も、もう一度だけ、信じてみるか……」ゴクリ
コンコン
P「どうぞー」
ガチャッ
「失礼します」
「及川雫、16歳です……よろしくお願いします」ユッサユッサ
P「………」
P「………おい」
雫?「何でしょう」ユッサユッサ
P「少しは似せる努力をしろ」
雫?「……な、何のことです?」ギクッ
P「……人前で腕組みはやめてくれないか?礼儀だろ?」
雫?「………」
ボトッ ボトッ
テイン テイン テイン ……コロコロコロ
雫?「………」タラリ
P「………」
雫?「……う、うわー大変だー。む、胸がもげてしまったー」
P「………千早」
雫?「………」グスッ
P「……キャスティング考えたのは誰だ」
雫?「……音無さんです」
ガチャッ
美穂「だ、駄目よ千早ちゃん!それは言わない約束……」
P「………」
ガチャッ
高木「ドッキリ大☆成☆功!はっはっは」
高木「アイドル候補生に扮した、現役アイドル達の採用面接はどうだったかね?」
P「………」
小鳥「………」
千早「………」
高木「いやぁ、最後まで気づかず面接をやり抜くとは、思いもよらなかったよ」
高木「君はまさにプロデューサーの鑑だ!素晴らしい!!」パチパチパチ
P「なぁーんだドッキリだったんですかー、うわー、騙されちゃったなー」ポリポリ
小鳥「あ、あはは……そ、それじゃ私はこれで」ソロリ
P「……あ、そうだ。“小日向美穂”さん」
小鳥「…」ビクッ
P「“小日向美穂”さん」
小鳥「……も、もうやだなぁ~プロデューサーさん、あれはドッキr」
P「“小日向美穂”さん」
小鳥「………は、はひ」
P「明日からレッスン、一緒に頑張りましょう」ニコッ
小鳥「え゙っ」
~翌日~
小鳥「……15……16……も、もうらめぇ……」ヘナヘナ
P「永遠の17歳がこの程度の腹筋でへこたれてどうするんですか」
P「体力作りは基礎中の基礎ですよ、“小日向美穂”さん」
小鳥「わ、私が悪かったです……だ、だから、もぉ………」
P「俺と一緒に仕事できる日を楽しみにしてたんでしょう?」
P「俺より“若い”んだからもっとシャキッとしないと、シャキッと」
小鳥「……ひぎぎぎ……」
響「ぴよ子も大変だなー」
真「自業自得だと思うけど」
春香「ドッキリやるなら最後まで手を抜かないのは鉄則ですよ、鉄則!」
P「しかし、この履歴書……全部ドッキリの為に用意したってのか」ペラッ
P「途中まで完っ全に騙されてたなぁ。最初の子とか、採用する気満々だったんだけど……」
P「……そういや誰だったんだ、この子……?」
律子「どうしました?プロデューサー殿。浮かない顔しちゃって」
P「ん?あぁ、いや……何でもないよ」
P「……最初っから理想のアイドルなんて、いないもんだなぁ」
律子「ふふっ……そうですね」
おわり
画像は用意できなくてすまんかった
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