女騎士(決闘と結婚言い間違えた・・・)
>>3が続き描きます
kskst
>>3
早くしろカス
ほ
ザワザワ…
王子「…なに?」
女騎士「あ……」
団長「あの馬鹿者が…!」
・
・
・
文官『いやはやお上手ですな…さすがは隣国の第一王子殿…』
王子『当たり前だ!はーっはっは!…む?酒が足りんぞ?…この国は客の招き方も知らんのか?んん?』
文官『…い、今お持ちいたします』
女騎士『………』
団長『…抑えろ。この宴は姫様と王子殿の婚約を祝うための…』
女騎士『祝う?…ただ隣国の圧力に屈しただけではありませんか!?』
団長『………』
女騎士『やりたい放題の相手に媚びへつらいながら姫様を差し出し…我々は何のための騎士団なのですか!?』
団長『…言うな』
女騎士『ぐっ…!』
王子『しかし、姫はまだなのか?主賓が揃わんのでは宴も盛り上がらんだろう?』
文官『ははっ…そ、それがどうも準備に時間をとられているようでして…』
王子『準備、なぁ…?』
文官『…は、初めての顔合わせとなりますゆえ、念入りにと…』
王子『…まぁよい』
文官『もうしばらくお待ちを…』
王子『…だが』
文官『は?』
王子『酌くらいは用意せよ。男を眺めながら待っていてはオーガの雌でも人間の美女と間違ってしまうかもしれん」
文官『は、ははっ…さようで…』
王子『良い女を頼むぞ?はーっはっはっ!』
宮女『………』トクトク…
王子『………』
文官『い、いかがでございましょう?急ではございましたが、城内でもえりすぐりの…』
王子『つまらんな…』
文官『は?』
王子『この程度の美女など見飽きているわ。…俺は"良い女"を頼んだのだがな?』
文官『し、しかし…そのようなことを言われましても具体的に何が良い女なのやら…』
王子『この国の文官どもは頭が固いな。…酒、酌とくれば後はなんだ?』
文官『…料理、でございましょうか?』
王子『馬鹿が。…接待だろうが』
文官『せ、接待?』
王子『会話で俺を楽しませるのだ。…黙って酒をつぐだけならいるだけ無駄だ』
文官『は、ははっ…検討いたしますのでしばしお待ちを…』
女騎士『それでなぜ私が!?』
団長『殿下のご趣味は狩猟と聞く。他の宮女にそのようなことわかるはずがあるまい?』
女騎士『私は宮女ではありません!』
団長『わかっている』
女騎士『ならば…』
団長『…お前もこの宴の重要性をわかっているだろう?』
女騎士『…くっ…』
団長『姫様の心の準備が済むまでの時間だ。…何もできなかった我々だが、せめてそれくらいはして差し上げたい』
女騎士『団長…』
団長『…すまん』
女騎士『…わかりました。しかし、私は宮女ではありません。多少の粗相はお許しください』
団長『それは私の判断することではない。…が、くれぐれも殿下の機嫌を損ねるような真似はするなよ?』
女騎士『………』
女騎士『…女騎士と申します』
王子『ほぅ…まぁ、顔立ちは合格といったところか』
女騎士『………』ギリッ…
文官『ご期待に沿えますかどうか…なにぶん宮仕えではございませんので、至らぬ点があるかと…』
王子『いちいちうるさい。…もうよい、下がれ。用があれば呼ぶ』
文官『は、ははっ…』
女騎士『では、失礼します』トクトク…
王子『うむ』
・
・
・
女騎士『…猪を召し上がられるのですか?』
王子『豚も似たようなものだろう?少し肉質が硬いがな』
女騎士『しかし、血抜きから含めて自ら捌かれるとは…』
王子『我が国の祖は狩猟民族だ。獲得した獲物は献上されたのち、長たるものによって分配される。配下をまとめることも重要だが、それもまた……』
王子『…ゆえに王も一人の狩人…いや、戦士として己を磨く。優れた戦士こそ上に立つべしとの考えが我が国には伝統的にあるのだ』
女騎士『さようでございますか…(意外にも話の出来る御人であるらしい。…しかし…)』
王子『俺も第三王子とはいえ、15で初陣を果たしている。まぁ、知っているとは思うが…』
女騎士『…はい。殿下が今や筆頭将軍の一人であることは隣国である我が国も知る所でございます』
王子『そんな大層なものではないがな。いわゆる親の七光と言うものだ。はーっはっは!』
女騎士『………(感じる威は確かなものがある…これが隣国の王子…)』
王子『にしても…』
女騎士『はい』
王子『お前はやたらと狩猟や軍事に詳しいようだが…?』
女騎士『それは…』
団長『………』
騎士『…どうやらうまくやっているようですな』
団長『うむ…』
騎士『しかし、あの跳ねっ返りがよく…』
団長『あれも馬鹿ではない。この婚姻の意味を多少なりとも理解しているからこそ、あの場に…』
『その言葉、取り消していただきたい!』
団長『………』
騎士『だ、団長…』
団長『あの馬鹿者が…!』
ザワザワ…
王子『取り消せとは何をだ?俺はお前に咎められるようなことを言った覚えはないがな』
女騎士『我が騎士団を…我が国を馬鹿にしたではありませんか!』
王子『ああ、そのことか。…女が所属するような騎士団が国第一の軍事力?馬鹿にしているのはお前達の方だろう?』
女騎士『それ以上の侮辱は殿下といえど…!』
王子『…俺といえどなんだ?言ってみよ』
女騎士『…っ…!(…な、なんという圧力だ…しかし…!)』
王子『さきほど話したように、我が国では力なき者は上には立てん。騎士ともなればそれは精兵中の精兵だ。それを…』
女騎士『わ、我が国とてそれは同じだ!(…恐れるな…ここで引いては私もかの国の圧力に屈したと同じ…)』
女騎士『いかに殿下の兵が精強といえど、決してそれに劣るものではない!(せめて我が騎士団の気概を見せつけてやらねば…!)』
王子『女が何をぬかす!戦のなんなるかもわからんようなヤツが兵を語るな!』ガタッ!
女騎士『私が女であることを理由にその論法は成り立ちは…』
王子『黙れ!女がでしゃばるような国だからこうして戦いもせず、我が国に媚びるのだろうが!』
女騎士『……!』
女騎士『…こ、こんな侮辱は初めてだ…!』
王子『侮辱とは立てる面子があって初めて成立するものだ。こと軍に関して女の貴様にそんなものがあるというのか?』
女騎士『……!(…言え!言うんだ!ここまでけなされて…馬鹿にされて…!)』
女騎士『…け…(国に仕える騎士として…命を失おうとも黙っているわけにはいかない!)』
王子『どうなのだ!?』
女騎士『け、結きょんを申し込む!』
王子『…なに?』
女騎士『………(や、やってしまったぁぁぁあああ!!!)』
『女がなにをぬかす!戦のなんたるかもわからんようなヤツが……』
文官1「ま、まずいぞ!殿下が…そなた!止めに行け…!」
文官2「そ、そう言われましても…」
団長「失礼する!」ダダッ…
文官1「おあ!?」ドカッ!
団長「あの馬鹿者め…!殿下に一体何を…!」
騎士「いかがなさるおつもりで!?」
団長「知るか!ともかくなんとしてもこの場を収めなければ…!」
『どうなのだ!?』
団長「くっ…お待ちを!殿k…」
『け、結きょんを申し込む!』
団長「………あ?」
王子「俺の聞き間違いでなければ結婚を申し込む、と言ったように聞こえたのだが…」
女騎士「………」
王子「…どうなのだ?」
団長「も、申し訳ありません、殿下!」
女騎士「……あ」
団長「この者はまだ若く、こういった場には慣れておりません!」
王子「………」
団長「おそらくは場の空気に当てられてわけのわからないよまい言を…」
王子「…よい」
団長「は?」
王子「くっくっく…はーっはっはっ!」
団長「…殿下?」
王子「面白い女だな。まさか口論から結婚を申し込まれるとは思わなかったぞ」
女騎士「あ…ぅ…ぁ…」
王子「まぁ、おそらくは決闘と言うべき所を噛んでしまったのだろうが…普通はありえんだろ?くっくっく…まさに傑作だった!」
女騎士「………」
王子「…しかしよくこの場で俺に一歩も引かずになぁ…」
団長「まことに申し訳ありません…殿下が狩猟を好むとのことでしたので…」
王子「ふむ…」
文官「で、殿下ー!」バタバタ…
団長「これは文官殿…(肝心な時に…この役立たずが!)」
文官「なにやら騒ぎがあったようで…さきほどの娘がなにか粗相を?」
王子「いや…なかなかに楽しませてもらった」
女騎士「………」
文官「そ、そうでございますか…あ!姫様の準備が整ったようですので、今こちらの方に…」
王子「うむ」
団長「では我々はこれで…女騎士、行くぞ?」グイ…
女騎士「え……」
団長『…しっかりしろ。この馬鹿者が…宴をめちゃくちゃにするつもりか?』
女騎士『…は、はい…』
王子「………」
文官「殿下?どうかなさいましたか?」
王子「…気に入った」
文官「は、はあ?」
騎士「…では警護は私どもが」
団長「頼む。すぐに戻る」
騎士「はっ!」
・
・
・
詰め所
団長「さっきも言ったが…」
女騎士「………」
団長「お前は宴をめちゃくちゃにするつもりだったのか?」
女騎士「そ、そんなことは…!」
団長「幸い大事には至らなかったようだが…この婚姻にどれだけの価値があると思っている?」
女騎士「………」
団長「隣国と戦いになれば民や兵士、金…どれほどの損失があるか…」
女騎士「…では…」
団長「…なんだ?」
女騎士「では黙っていればよかったというのですか!?私のせいで騎士団が…国が馬鹿にされたというのに…!」
団長「それだけで決闘とは浅慮といわざるをえない」
女騎士「……!」
団長「…そもそも言えていなかったがな」
女騎士「…ぅ…」
団長「身の丈を省みずに背伸びをすれば足を掬われる。いつも言っていただろうに…ましてやあの場でお前は国を背負っていたのだぞ?」
女騎士「…はい…」
団長「まぁ自ら転んだことで最悪の事態は防げたのだ。自身の抜けっぷりに感謝するのだな」
女騎士「………」
団長「今日はもう休め。今回の件の責任は後で問う…いいな?」
女騎士「はい…」
女騎士「………」
女騎士「私はなんということを…」
女騎士「…しかも意を決して放ったつもりの言葉を噛むとは…」
女騎士「………」
『け、決きょんを申し込む!』
女騎士「…消えて無くなってしまいたい…!」
・
・
・
ワイワイ…
姫「………」
王子「………」グビッ…
文官「やはり美男美女が並ぶと違いますな!お似合いの二人でござ…」
王子「うるさい。黙れ」
文官「は、ははっ!申し訳ありません…」
王子「…折り合いは付けられたのか?」
姫「……?」
王子「弱国の王女とはいえ、俺のような男に無理矢理嫁がされることにだ」
姫「…国のためです…仕方がありません」
王子「ふん。…つまらんヤツだな」
姫「………」
王子「おい」
文官「ははっ…い、いかがなさいましたか?」
王子「宴はもう十分楽しませてもらった。俺はそろそろ休ませてもらおう。部屋に案内しろ」
文官「はっ…しかし、せっかくお二人が揃いこれからというときに…」
王子「休む。…いいな?」
文官「は、ははっ!」
女騎士「もう嫁がれるのですか!?いくら婚姻の宴を開いたとはいえ早過ぎるのでは…」
団長「そうではない。これは…簡単に言えば人質と同じだ」
女騎士「人質…」
団長「建前は風習の違う他国に嫁ぐための花嫁修業だが…実際は姫の身柄を抑えておきたいだけだろう」
女騎士「…そのようなこと…!」
団長「隣国は北と東の国で緊張状態が続いている。約定があるとはいえ、後ろに不安を作りたくないのだろうな」
女騎士「………」
団長「姫様もお辛いことだろう…」
女騎士「はい…」
団長「…そうだった。お前に対する処罰だが…」
女騎士「…はい。覚悟はできております…」
団長「姫様付きの護衛の任務につくことらしい」
女騎士「…は?」
団長「本来ならば除名処分なのだが、王子側から提案…というよりも圧力があってな…」
女騎士「…どういうことでしょうか?」
団長「俺に聞かれてもわからんよ。…長期任務になるだろうが、お前としては救われた形かもしれんな」
女騎士「…救われた…?」
団長「帰ってきてから除名、というわけにもいかんだろう?」
女騎士「では…!」
団長「…異国での任務だ。姫様には及ばずとも辛いことがあるだろうが…くじけるなよ?」
女騎士「はっ!」
女騎士「他の兵ともども護衛の任につきます、女騎士と申します」
姫「そうですか…よしなに」
女騎士「はっ…」
兵士「女騎士殿、殿下が御呼びです。至急、先導隊の方までお越しください」
女騎士「先導隊?馬車ではないのか?「
兵士「殿下は指揮官として軍を預かっておりますので…」
女騎士「なるほど。…いまいく」
姫「………」
女騎士「しばし持ち場を離れます。では…」
・
・
・
先導部隊 中核
王子「本隊との連絡は?」
部下「はっ!予定通り国境付近に到着したとのことです」
王子「うむ。では補給を急がせろ」
部下「はっ!」
ドガラッ…
女騎士「………」
部隊長「…ではそのように」
王子「うむ。本隊と合流するまでは馬車の周りを歩兵で固め、騎馬は…む?」
女騎士「………」
王子「しばし待て」
部隊長「はっ!」
王子「どうしたのだ?ずいぶん複雑な顔をしているが」
女騎士「…お、御呼びとのことですが…何か?」
王子「うむ。嫁の顔が見たくなった、というのはどうだ?はーっはっは!」
女騎士「ぐっ…!」
王子「くっくっく…冗談だ。天幕にて待て。話がある」
女騎士「…悪趣味な…」ボソッ…
王子「…聞こえているぞ?」
女騎士「…申し訳、ありません…!」ギリッ…
王子「待たせたな」
女騎士「………」
王子「今日はずいぶん無愛想だな。昨晩はあんなにもかいがいしく酒を…」
女騎士「…お止めください!」
王子「ふっ…そうこなくてはな」
女騎士「…話とはなんでしょうか?あまり姫様のお傍から離れるわけにはいかないのですが…」
王子「そう、そのことだが…お前達の兵士は姫のそばに置くことはできん」
女騎士「!…それでは約束が違うではありませんか!」
王子「最後まで聞け。…姫を入れるのは男児禁制の修道院なのだ。兵士はもとより俺とて自由には入れん」
女騎士「…そのような話聞いておりませんが」
王子「ふむ。確かに話していなかったな…」
女騎士「話していない…まさか約定を違えるつもりおつもりか!?」ガバッ!
王子「ほぅ…腰に手をあてて何をするつもりか?」
女騎士「は…!(しまった!剣はここにくる前に取り上げられて…)」
王子「お前は少し思慮深さが足りんようだな。剣があったとして俺をここで切ればどうなるか…予想くらいつくだろう?」
女騎士「ぐっ…!」
王子「…はっきり言っておこう」
女騎士「……?」
王子「お前が俺を信じていないように、俺もお前達を信じてはいない」
女騎士「………」
王子「小規模な護衛隊とはいえ他国の軍を領内に留めるのは怖いものだ」
女騎士「…昨晩とは打って変わって慎重なのですね?」
王子「これは長期的な不安要素だ。慎重にもなる」
女騎士「………」
王子「軍は切り離すとはいえ、お前と姫の使用人には制限はない。それで納得せよ」
女騎士「…話はそれだけでしょうか?」
王子「そうだな…細かい点はまだ良いだろう」
女騎士「では失礼します」
王子「…いや待て」
女騎士「…は?」
王子「昨晩は酒が入っていたとはいえ、暴言を吐いた。…すまなかったな」
女騎士「………」
王子「どうした?もう話はない。下がって構わんぞ?」
女騎士「はっ…失礼します」
ラストだけ書く
王子「さあイクぞっ!しっかりと我が子を孕むがいいっ!」
女騎士「や、約束がちがっ!!…?!な、なぜ私の身体はこんなにも悦んでいるのだっ?!…く、悔しい…っ!」ビクビク
ドプドプドプッ…!
王子「ハァハァ…なかなかに…良かったぞ…」
女騎士「……ハァ…ハァ…(ああ、なぜこんなにも嬉しいのだ……)」
王子「どうだ?我と共に国を治める気は無いか?この英雄王、愛でると決めたものには悪いようにはせぬぞ」
女騎士「…………」
女騎士「……分かり…ました……どうか…お側に…」
王子『では出発!』
部下『はっ!』
オオオ…
・
・
・
城 バルコニー
王「………」
大臣「…行ってしまわれましたな」
王「ふん。小僧が…意気がりおって」
大臣「しかし、護衛隊の話を飲んでまで姫を囲うとは…なかなかのキレ者と思われますが…」
王「…それが枷になると言うならば外せばよい」
大臣「…よろしいので?」
王「国を想うのならば姫に異論もあるまい…」
大臣「ははっ…」
ドガラッ…
副官「殿下!ご無事で!」
王子「副官か、ご苦労。…しかし俺は婚姻の宴に行っただけだぞ?無事も何もあるまい」
副官「ははは、さようでしたな。しかし姫様の花嫁修業などとは事前の予定になかったもので…」
王子「宴の前に王と会談したのだが、どうにもきな臭くてな。念のためだ」
副官「…わかりました。調査させましょう」
王子「いや、構わん。姫がこちらにいる限り、よほどのことがなければ手は出せんだろう」
副官「はっ!」
王子「…それよりも面白い者を連れてきた。後で紹介しよう」
副官「面白い者ですか…?」
王子「宴のエピソードも交えてな。くっくっく…」
姫「行軍が止まったようですが…」
女騎士「本隊と合流したようです。軍を一度再編してから行軍するのでしょう」
姫「…戦でもないのに物々しいのですね」
女騎士「それだけ姫様を重要視しているということです。…ご安心を」
姫「はい。ありがとうございます」
ドガラッ…
兵士「女騎士殿ー!」
女騎士「何か?」
兵士「殿下より編成についてご指示が…」
女騎士「わかった。各部隊長に指示に従うよう連絡を」
兵士「はっ!…し、しかし…」
女騎士「?…なんだ?」
兵士「な、なぜか女騎士殿宛に会食のお誘いの一文が…」
女騎士「…会食?駐屯地すら三日はかかると聞いたが…そんなものどこでやるというのだ?」
兵士「それは存じ上げませんが…」
女騎士「…見せてみろ」
兵士「ははっ」
女騎士「………」
『親愛なる女騎士殿。
これから数ヶ月、長い付き合いになるであろう我が友人ないし、花嫁を歓迎し、ささやかながら食事の用意をさせてもらった。
部下や使用人ともども振るって参加されたし。
隣国第三王j…
グシャ!
女騎士「………」
部下「お、女騎士殿?」
女騎士「…馬鹿にしているのか…!」ギリギリッ…
部下「なりません!ここから先は殿下の本営です!いくら姫様のお付きとはいえ許可無しには…」
女騎士「話があるだけだと言っているだろう?取り次ぐだけで良いから…」
副官「何を騒いでいる?」
部下「これは副官様…それが…」
女騎士「副官?」
副官「…女?騎士のいでたちではあるが…女がなぜ我が軍に?」
女騎士「…貴殿らの軍属ではない。私は姫様付き護衛隊の女騎士だ」
副官「護衛隊の…女騎士?…なるほど確かに…」
女騎士「?…高官とお見受けするが…至急、殿下に取り次いでいただきたい」
副官「それは構わんが…用件を聞いてもよろしいか?」
女騎士「この妙な一文について真意が知りたい」
副官「ふむ…」
ギル「セイバーにはあの女騎士の面影がある…かつて我が唯一惚れた…」
綺礼「いいから早く続きを語るのだ」
ギル「おいおいそう急くな。では話に戻ろう…そしてその副官は…」
ワイワイ…
王子「はーっはっは!また噛み付いたのか?お前は?」
女騎士「ぐっ…!」
王子「風習を知らんとはいえあの書面にまで食いつくとは思わなかったぞ?」
副官「我が国では客人をもてなすに際し、伝統的に狩猟を行う。今回は人数と姫様の今後のご予定から簡略的に行うことにしたのだが…」
王子「まぁよい。昼間知らせなかった俺にも責はある」
女騎士「…一言言ってくだされば…」
王子「知っているかと思ったのだ。騎士という要職についているならば多少は他国について知っているのではないかとな?」
女騎士「………」
王子「しかしまぁ…城に着いたならまずは歴史書を渡さねばならんか」
女騎士「くっ…!ありがとう、ございます…」ギリッ
王子「くっくっく…」
ワイワイ…
副官「…そういえば姫様のお姿がないようだが…」
女騎士「気分が優れぬとのことだ。慣れぬ長旅の疲れもあろうが…」チラッ…
王子「………」
女騎士「…何より心中を察していただきたい」
副官「しかし、顔をお出しになるくらいは…」
王子「…よい。姫については客と呼ぶ必要もないだろう」
副官「…はっ」
女騎士「………」
王子「お互い思う所はあるだろうが…まずは我が国へようこそ。数ヶ月という時間が長いか短いかはわからんが、よろしく頼む」
女騎士「はっ」
ギル「くっくっく!あの時の女騎士の顔といったら無かったぞ綺礼!」
『全軍停止!』
『はっ…全軍停止!』
女騎士「姫様」
姫「…はい」
女騎士「どうやら駐屯地に到着したようです」
姫「そうですか。…ここは要塞のようですが…」
女騎士「ようではなく、要塞そのものでしょう。隣国南部の防衛拠点かと思います」
姫「………」
女騎士「ここまでくれば道のりは後半分。お疲れでしょうが、いましばらくのご辛抱を…」
姫「わかっています」
副官「…というわけだ。要塞内に貴殿らの部隊を入れることはできん」
女騎士「しかし『…ここは』
女騎士「………」
副官「南部の防衛線の要なのだ。…本来なら貴殿にも内部には入って欲しくはないのだが…わかっていただきたい」
女騎士「…承知した」
副官「結構。夜営地は要塞外ならばどこを選んでくれても構わん。しかし、場所だけは後で……」
・
・
・
要塞 東塔
女騎士「…意外に小綺麗なのだな」
姫「………」
副官「あまりじろじろと見てもらっては困るのだが…」
王子「構わん。この塔が戦場になる頃には要塞は墜ちたも同然だからな」
副官「これは殿下…」
回り道し過ぎじゃね
王子「不都合はないか?」
女騎士「…隊が中に入れないのを除けは特には」
王子「不満か?だが認めるわけにはいかん」
女騎士「…わかっております」
姫「…殿下」
王子「うむ?これはこれは…お姫様が口を開くとは珍しい」
女騎士「殿下!」
王子「この三日間…いや、四日間か。姫自ら俺に話しかけたことなどなかったのでな」
姫「…申し訳ありません」
女騎士「姫様、何も頭を下げるようなことでは…」
副官「…それで姫様、なにかご用件でも?」
ギル「少々疲れたか?くっくっ」
綺礼「いや…ただ多少下半身が冷えてきたようだ」
姫「使用人が…水場は何処かと」
副官「水場でございますか?」
姫「ええ、私が湯浴みをするのにと…」
女騎士「そういえばこの三日間、姫様にはご不便を…気が付かず申し訳ありません…」
姫「いえ、旅とはそういうものと聞いておりましたので…」
王子「…まぁよかろう。副官、案内をしてやれ」
副官「はっ」
王子「部屋への案内は俺がしよう。ついて来い」
コンコン…
『失礼します』
王子「入れ」
副官「早馬のご報告にあがりました」
王子「父上からか?」
副官「いえ、東部の第一王子様からでございます」
王子「兄上から?…話せ」
副官「はっ…東部に不穏の報あり。援軍の用意を頼む、とのことです」
王子「東国が…この時期にか?」
副官「隣国との婚姻の話は諸国にも伝わっているはず…妙ですな?」
王子「うむ…」
副官「それで我々はどのように?」
王子「…念のため、軍の半数お前に預けここに置く。まずは姫を俺の城まで送らねば身動きがとれん」
副官「…はっ」
王子「送り届けた後は伝令を送る。…それと北部に探りを入れろ」
副官「連合の可能性があると?」
王子「それを探るのだ」
副官「はっ!」
王子「…急がねばならんな」
ギル「何をしている綺礼?」
綺礼「すまないギルガメッシュよ…待ち切れずに携帯のエロ写メで抜いてしまった…」
ギル「ほう…よく見るとその逸物…なかなかどうして見事ではないか…」レチュル
綺礼「うあっ!?な、何をするのだっ?!」
ギル「興味が移ったわ!お前のその宝具の威力を我に見せてみよっ!!」ジュブジュブ
綺礼「アッ!まだイッたばかりで敏感なのに…ッ!!」
部隊長「御呼びでしょうか?」
王子「騎兵を先行させる。お前は歩兵を率いて後から来い」
部隊長「はっ」
王子「姫の護衛隊にも馬を回してやれ。少し急ぐ」
部隊長「了解しました。では…」
・
・
・
女騎士「強行するのか?」
兵士「はい。そのようです」
女騎士「何かあったのか…」
姫「…どうしました?」
女騎士「いえ、ご心配なさらず…ただ、少し急ぐようです」
姫「………」
女騎士「詳しいことはわかりませんが…ここは既に隣国の領土の奥深くです。危険は無いでしょう」
姫「…そうですか」
最初の宴でエロまで持っていけば良かったのに
あんたSSに向いてないよ
『開門!開門ー!』
ゴゴゴ…
王子「ご苦労」
女騎士「ここが殿下の城ですか?」
王子「そうだ。しばらくはここで生活をしてもらう」
女騎士「………」
王子「部下、部下はいるか?」
部下「はっ!御呼びで?」
王子「姫様達を案内して差し上げろ。強行軍でお疲れだろうからな」
部下「はっ!」
王子「本来なら俺が案内すべきなのだが…やることが出来てしまったのでな。許せ」
女騎士「…東国ですか?」
王子「耳が早いな。まぁ、そういうことだ。落ち着いたらゆっくりと話そう」
女騎士「私とですか?」
王子「軍事の話など姫が興味を持つと思うか?」
女騎士「………」
王子「副官は置いてきてしまったしな。…この数日、お前の指揮振りを見てきたが、悪くない」
女騎士「…それはありがとうございます…」
王子「では急ぐのでな。今日はゆっくり休むと良い」
女騎士「………」
王子「…結局は誤報だったと?」
伝令「今すぐに、というわけではないようです」
王子「では今までと変わらんではないか…兄上め」
伝令「しかし、国境付近に軍が集まっているのは確かな情報です」
王子「ふむ…では副官にはそのまま待機と伝えろ」
伝令「はっ」
王子「…北の情報はまだ何もないのか?」
伝令「はい…特に変わった報告は入っておりませんね」
王子「………」
王子「…と、言うわけだ。まぁ進攻の危険性は高まったようだが…」
女騎士「そのようなことを私に話して良いのですか?」
王子「東国のことか?…構わん。今のお前に話した所でどうなるものでもない」
女騎士「………」
王子「…まぁ、隣国の反応は注視すべき点ではあるが…姫がこちらにいるのに軍を興すとは思えんしな」
女騎士「…姫様は道具ではありません」
王子「知っている。…が」
女騎士「……?」
王子「人には皆、役割というものがある。農民は地を耕し、兵は国のために戦う…」
女騎士「………」
王子「それらの行為にのみ注目すればそれはその行為をなす道具と呼べるのではないか?」
女騎士「…上に立つものの見方ですね」
王子「他を従えるにはそのような見方も必要だということだ」
女騎士「…では姫様にはどのような役割があると?」
王子「お前の好きそうな言葉を選ぶならば戦を止める役割がある、だろうな」
女騎士「…属国となってですか…?」
王子「…ふむ。痛い所をついてくる」
ご飯
女騎士「…殿下、真面目にお答えください」
王子「すまんな。わざとではないのだが…」
女騎士「殿下が皮肉屋なのはこの二週間ほどで理解しましたが…我が国については引けません」
王子「ふっ…」
女騎士「…何を笑っているのですか?」
王子「そう怒るな。別にお前の国を馬鹿にしているわけではない」
女騎士「そうは思えないのですが…」
お風呂
王子「それだ」
女騎士「……?」
王子「俺に対して真っ向からぶつかってくる目。俺はそれが気に入っている」
女騎士「急に何を…」
王子「そうやって俺と同じ目線で話すヤツは父や兄の他にはいない」
女騎士「………」
王子「だからつい楽しくなってしまうのだろう」
女騎士「…殿下、そのようなことは姫様にお求めください」
王子「姫か…」
女騎士「政略結婚とはいえ、殿下の奥方となるお方です。ならば私よりも姫様に…」
王子「あいつはそのことを諦めている」
女騎士「それは…」
王子「俺が話をしてもただ頷くだけだろう。…いや誰と話をしてもだ」
女騎士「………」
王子「人形に話しかける意味などない」
女騎士「…姫様をそのようにしたのは殿下ではありませんか!?」
王子「それは違うな」
王子「姫を人形にした直接の責任はお前の国の王にある」
女騎士「な…!?無礼な…!」
王子「誰に嫁ぐかは問題ではない。何の為に嫁ぐかが問題なのだ」
女騎士「…ならばなおさら殿下のせいではありませんか!?姫様を嫁にと望んだのはそちらの…!」
王子「確かに我が国は長期的な停戦を求めて婚姻を求めた。…ではそちらは何を求めたのだ?」
女騎士「それは…こちらも停戦を…」
王子「我が国からの攻撃を避けたかっただけだろう?」
女騎士「……!」
王子「俺が道具としての姫を求めたことは否定しない。しかし、それは婚姻の儀をすませた時点でほとんど終わっているのだ」
王子「自身を殺して国の為にあれ。今、姫を縛りつけているのは…」
女騎士「…黙れ!」
王子「………」
女騎士「貴様が姫様を利用していることに変わりはない!」
王子「…すまんな。こんな話をするつもりではなかったのだが…」
女騎士「………」
王子「…今日はここまでにしよう。また何かあれば呼ぶ。…ではな」
・
・
・
女騎士「………」
女騎士「…くそっ!」ドガッ!
大臣「陛下、姫に追従した者より書簡が…」
王「ふむ…」
大臣「…どうやら落ち着いたようですな」
王「そのようだな…」
大臣「…しかし真によろしいので?」
王「くどい。…子はまた作ればよい。しかし、国はそうはいかん」
大臣「………」
王「…隣国の力は強大だ。このままではいずれ近隣諸国は併呑される。むろん、我が国もな」
大臣「…はい」
王「…やれ。時機はお前に任せる」
大臣「はっ…」
王「失敗は許されん。わかっておるな?」
大臣「…必ず」
女騎士「姫様、こちらにはもう慣れましたでしょうか?」
姫「ええ、皆とても良くしてくださいますから…」
女騎士「………」
姫「………」
女騎士「…姫様」
姫「なんでしょう?」
女騎士「姫様はこの婚姻をどうお考えなのでしょうか?」
姫「………」
女騎士「………」
姫「…仕方のないことだと思います」
姫「ですが私が犠牲となることで国が救われるならば…」
女騎士「犠牲など…そのようなことは…」
姫「…良いのです。私も王女として生まれた身、自身の価値がどのようなものかくらいは理解しているつもりです」
女騎士「自ら道具であることを認めるというのですか!?それでは…!」
姫「それ以外に誰が私に何を望むというのです…?」
女騎士「…姫様…」
使用人『姫様ー、そろそろ休憩のお時間は…』
姫「…わかりました。すぐに行きます」
女騎士「………」
副官「なに?また東国が?」
伝令「はっ!…国境付近に駐屯していたらしい部隊と小規模ながら戦闘があったとの報です」
副官「本格的な進攻ではないのか?」
伝令「あまりまともに戦う様子ではなかったと…」
副官「ふむ…」
伝令「北方でも緊張が高まっているとのことです…まさか二国による…」
副官「それは我々の考えることではない。…一刻も早く殿下に伝えろ」
伝令「はっ!」
副官「………」
王子「…姫を愛せだと?」
女騎士「はい。…姫様はひどく孤独でいらっしゃいます。ですから自らを道具であるかのように…」
王子「………」
女騎士「姫様は誰かに必要とされたいのです。ですから…」
王子「…馬鹿馬鹿しい」
女騎士「な…!」
王子「そんなことに付き合うほど俺は暇ではない」
女騎士「…未来の奥方となるお方なのですよ!?それを…!」
王子「…俺は第三王子だ」
王子「王家の血という意味でならば、俺は兄上の替え玉に過ぎん」
女騎士「……?」
王子「だが将軍としてならば第二兄上を凌ぎ、兄上と同列だ。…わかるか?」
女騎士「…話が見えませんが…」
王子「必要とされたいのならば価値を示せという意味だ」
女騎士「………」
王子「まぁ示す気がなくとも、見出だされる場合もあるがな…いずれにしろ俺から見て姫にはなんの魅力もない」
女騎士「しかし…」
王子「妻を愛することは夫の責か?残念だが、俺にそんな価値観はない。必要ないものを大事に囲う収集家でも、ない」
女騎士「っ…!」
王子「…睨んでも俺は動かんぞ?
女騎士「…失礼しま…」
王子「何も俺だけが姫の支柱候補ではあるまいに…」
女騎士「…なんだと!?」
王子「うん?」
女騎士「殿下は…姫に姦通しろとおっしゃるのか!?」
王子「…姦通?…くっくっく…はーっはっはっ!」
女騎士「な、何がおかしい!」
王子「い、いやすまん…あまりにも突拍子のない言葉が飛び出したのでな…」
女騎士「…突拍子のない…?」
王子「くっくっく…」
女騎士「で、殿下…!?」
王子「王女を支えるのは男だけ、とは…お前は存外、ロマンチストのようだなぁ…?」
女騎士「…うっ…」
王子「勇ましく構えていても中身は少女といった所か…」
女騎士「…殿下!」
王子「わかった、わかった。もう止めにする」
女騎士「…本当にお人が悪い…」
王子「…聞こえているぞ?
女騎士「…聞こえるように言ったのです」
王子「…ふむ」
姫「………」
女騎士「姫様?」
姫「…はい?何か…」
女騎士「よろしければ…お茶でもご一緒しませんか?」
姫「お茶?貴女と?」
女騎士「はい」
姫「………」
・
・
・
修道院 中庭
姫「しかし…急にどうしたのです?今までこんなことは一度も…」
女騎士「恥ずかしながら…」
姫「……?」
王子『お前がこうやって俺の元に来ることが、既に姫を支えようとする行為であるとなぜ気づかん…』
王子『姫がそれを感じ取れないというなら行動で示…なに?何も言えなかった?馬鹿が…』
王子『俺にはずけずけとモノを言うくせにそういう時にはだんまりか?…まったく、役に立たん口だな…』
・
・
・
女騎士「は、恥ずかしながら…殿下に諭されました…」
姫「…殿下に?」
女騎士「はい。…姫様は以前、王女としての価値以外、誰からも必要とされていないと言われましたね?」
姫「…ええ」
女騎士「…その時、私は何も言えなませんでした」
姫「………」
女騎士「そのことをです」
姫「………」
女騎士「姫様が誰からも必要とされていないというのは間違いです」
姫「………」
女騎士「少なくとも私は姫様を必要だと思っていますし…支えたいとも思っています…」
姫「…それは私が王女だからでしょう?気遣いはうれしいと思いますが…」
女騎士「そんなことはありません!確かに姫様は仕えるべき主ですが、それだけならば私はこんなことをしたりはしません!」
姫「こんなこと…?」
女騎士「…向かい合わせに飲むお茶会など…しゅ、主従関係ではありえませんでしょう?」
姫「………」
女騎士「…ひ、姫様?」
姫「……フ…」
女騎士「……?」
姫「フフッ…」
女騎士「…姫様?な、何か間違いでも…」
姫「いいえ。ごめんなさい…確かに単なる主従関係ではこういったことはあまりしませんね」
女騎士「そ、そうでございましょう?」
姫「…ありがとう…私にも私個人を心配し、大切に思ってくれる方がいたのですね」
女騎士「はい!姫様がお気付きになられなかっただけで、国には姫様を大切に思う者はたくさん…」
姫「………」
女騎士「あ……」
女騎士「申し訳ありません…舞い上がってしまって…姫様の立場も考えず、余計なことを…」
姫「…構いませんよ。傍にいなくとも、祖国から見守っていてくれるということだけで十分です」
女騎士「………」
姫「…そろそろ休憩時間も終わります。私はこれで…」
女騎士「…姫様」
姫「…はい?」
女騎士「私は姫様の婚姻を持って護衛の任を解かれます。しかし…」
姫「………」
女騎士「いつか必ず…必ず姫様のお傍に戻ってまいります」
姫「…ありがとう、女騎士…」
伝令「…以上です」
王子「うるさいな、東国は。…まるで飛び回るハエだ」
伝令「はっ…」
王子「しかし北も不穏な動きか…まったく、どうなっているのだ…」
伝令「………」
王子「これはもうのんびり出来そうにないな。…各部隊長を呼べ」
伝令「はっ!」
ザワザワ…
女騎士「……?」
王子『兵糧の備蓄は?』
部下『全軍を賄うとなりますと…およそ三ヶ月分ほどです』
王子『足りん。買い足せ』
部下『はっ!』
女騎士「なにやら慌ただしい様子ですが…ご出陣ですか?」
王子「…兵舎にまで入ってくるな」
女騎士「私と使用人どもは自由、とのことでしたので」
王子「…ならば兵舎以外は、と付け足そう。出て行け」
女騎士「…はっ」
女騎士「…そんなことになっていたのですか」
王子「近く戦が起こると見て間違いない。だがその前に…」
女騎士「…南部の東方面の残党ですか?」
王子「そうだ。ハエに紛れて跳び回っている。…しかし、詳しいな」
女騎士「歴史書が役に立ったようです」
王子「ふむ。日頃、ただ遊んでいたわけではないようだ…」
女騎士「…どういう意味です?」
王子「近頃、お姫様とずいぶん仲が良いようではないか?…報告を受けているぞ?」
女騎士「…それは…」
王子「…今後も頼む。俺はしばらく城を空けることになりそうだからな」
女騎士「………」
王子「…なんだ?」
女騎士「いえ…今、今後も頼むと…」
王子「別に俺は姫を飼い殺しにするつもりはない。…良い方向に向かっているならば歓迎はする」
女騎士「…なら自分で手を差し出せば…」
王子「まだ言うか?…俺が欲しいのは自立した人間だ。俺に依存する者ではない」
女騎士「それはつまり姫様を…」
伝令『報告、報告ー!』
王子「…うむ?」
王子「隣国からの使者だと?」
伝令「謁見を望む。とのことで、既に首都の方では了承されたとの報告を…」
王子「ふむ。…ご苦労」
伝令「はっ!」
王子「無下にするわけにもいかんか…この忙しい時に…」
王子「しばし待て。書状を書く」
伝令「承知しました」
王子「………」
そろそろ寝るす
書くとすれば明日の昼過ぎ
お休みなさい
王子「後は頼む」
部隊長「はっ!お気をつけて!」
王子「うむ」
・
・
・
護衛隊 詰め所
女騎士「もう出られたのか?予定では数日先と…」
兵士「なんでも急ぎの用事が出来たとか…詳しくはこちらを」
女騎士「ふむ…」
兵士「………」
女騎士「我が国からの使者が?…そんな話は聞いていない」
兵士「火急だったのでは?」
女騎士「ここには姫様がおられる。どうやら既に首都の方には連絡が言っているようだし…一報があってもよさそうなものだが…」
兵士「確かに…」
女騎士「…しかし、ともかくは姫様にお伝えせねばな。少し空ける」
兵士「はっ!」
ドガラッ…
王子「…副官か。出迎えご苦労」
副官「はっ…しかし、使者などこの忙しい時に…」
王子「俺もそう呟いた。…が、一応は妻の出身国だ。黙って傍観するわけにもいかん」
副官「騎馬の準備は整っております」
王子「うむ」
・
・
・
隣国 国境
大臣「お出迎え、痛み入ります」
王子「慌ただしくてすまんな。…せめて一報あれば多少はマシになったのだが」
大臣「殿下のお手を煩わせることはないかと。…東の方が騒がしいようですので」
王子「…ふん」
副官「首都軍までの先導は我が軍がいたしましょう。ご安心されたし」
大臣「重ね重ねのご好意、感謝いたします」
王子「配置はいつもの通りに」
部隊長「はっ!」
団長「殿下、お久しぶりでございます」
王子「…お前は確か宴の席にいた…」
団長「隣国騎士団長、団長と申します」
王子「ふむ…顔に見覚えはある」
団長「光栄でございます。…道中、よろしくお願いします。して…」
王子「…なんだ?」
団長「よろしければ姫様達の近況をお聞かせいただければ、と」
王子「姫?…元気でやっている。詳しい話は道中、時間を見つけて話そう。今はそんな暇はとれんのでな」
団長「はっ。ありがとうございます」
大臣「先導、感謝いたします」
王子「まだ礼を言うのは早い。帰りもある」
大臣「もっともですな。…殿下も謁見の場に?」
王子「当然だ。南部は俺の管轄なのだからな」
大臣「…それは結構。きっと有意義な話となりましょう」
王子「なに?」
大臣「では…」
王子「………」
副官「殿下、お疲れ様でございます」
王子「…妙なことになった」
副官「…は?」
・
・
・
謁見の間
大臣『…と、我が王は申しておりまして…何とぞご検討を』
父王『東国への牽制か…』
大臣『ははっ…国境付近に我が軍を駐屯させれば東国もうかつには動けぬかと』
父王『………』
大臣『我が国との盟友関係は周知の事実。後詰めが後ろに控えた状況は非常に効果的に…』
王子『待たれよ』
大臣『王子殿下…』
王子『南部一帯の指揮権は私にある。盟友とはいえ他国からの干渉を…』
父王『待て』
王子『…父上』
父王『北、東国の動きは見過ごせぬ。近々、進攻があるとわしも考えておった所だ』
王子『………』
父王『東の国境は広く、また最悪の事態として、北との二国連合を考えれば厄介極まりない。ゆえに…』
大臣『…南部の兵を動員できれば対処もしやすくなりましょう』
父王『…その通りだ』
王子『我が軍を差し出せと?』
父王『隣国との婚姻は何のためか?』
王子『………』
父王『お前の軍を遊ばせておくわけにはいかん』
王子『そのようなことは…!』
父王『わかっている。しかし、有事の際、援軍として向かうだけの時を考えよ』
王子『………』
父王『それにお前は婚姻を控えた身だ。…戦地に赴いて花嫁を待たせるつもりか?』
王子『………』
大臣『では返答は可、ということで?』
父王『うむ。王にはよろしく伝えてくれ』
大臣『ははっ』
父王『少し詰めたい所がある。貴殿も王子とともに別室に来てもらいたい』
大臣『かしこまりました』
王子『………』
副官「そのような提案が…して詳細は?」
王子「兵の半数が兄上達の軍に回されることになった」
副官「半数…!」
王子「父上は出来ることなら東国を押し込みたい考えらしい」
副官「………」
王子「…まさに俺だけ仲間外れというわけだ。父上にすれは息子の婚姻への手向けといった所だろうが…」
副官「しかし…隣国には何の益があるというのです?我が国のためだけに駐屯とは…」
王子「それもまた俺への手向けだそうだ。まぁこちらはその先に我が国からの庇護を見据えているのだろう」
副官「…確かに兵の損失無しに恩を売る機会ではあるかもしれませんが…それはまた…」
王子「俺は幸せ者だなぁ…そうは思わんか?」
女騎士「殿下も謁見に参加するおつもりのようです」
姫「そうなのですか?」
女騎士「要塞付近で一筆をとられたようで、今日書簡が…」
姫「意外にまめなのですね…」
女騎士「ええ、非常に皮肉った文ですけれど…例えば…」
『大臣の愛想笑い。胡散臭いことこのうえなし。ゆえに謁見にて真意を知るべし』
女騎士「このような風に…」
姫「………」
女騎士「連絡役として私も殿下とはたまに話しますが…」
姫「…やはり虐められるのですか…?」
女騎士「い、いえ…そのようなことは…」
姫「………」
女騎士「…殿下は口は悪い方ですが、心まで悪い方ではないと思います。でなければ…」
姫「……?」
女騎士「私と姫様がこうして談笑することもなかったでしょう」
姫「そうでしょうか…」
女騎士「…ここに来てから殿下とお会いになることがなく、お気になさるのはわかりますが…」
女騎士「………」
姫「…どうしました?」
女騎士「良いことを思いつきました!」
姫「良いこと…?」
王子「諸事情により我が軍は再編をすることになった。部隊長は…」
伝令「殿下…」
王子「なんだ?北か東に動きでもあったか?」
伝令「いえ…姫様からお手紙が…」
王子「なに?」
・
・
・
要塞 私室
王子「…手紙、な」
『失礼します』
王子「入れ」
副官「はっ!各部隊長より軍備の詳細が…」
王子「急がせずともよかったものを…どのみち、使者を送り帰さねば指示など出せん」
副官「殿下の指導の賜物でしょう。いかなるときも我が軍は…」
王子「…お前まで世辞を言うのか?要塞の軍はお前に一任してあっただろうが」
副官「…申し訳ありません。出過ぎた真似を…」
王子「いや…お前を狸どもと一緒くたにはできんな。…すまなかった」
副官「…いえ」
王子「………」ビリッ…
副官「……?」
副官「そちらは…北、東国方面の報告でしょうか?」
王子「…個人的な手紙だ。返事くらいは書かねばならんだろう」
副官「さようですか」
王子「まったく、余計な仕事を…」
副官「…お邪魔のようですので私はこれで」
王子「うむ。…この手紙以外に伝令はなかった。明日も予定通り行軍する」
副官「はっ」
女騎士「姫様!」
姫「はい、何か…」
女騎士「殿下よりお手紙のお返事が…!」
姫「…ほ、本当ですか…?」
女騎士「はい、こちらに第三王子と…」
姫「………」
女騎士「…お邪魔になるといけませんので私はこれで…」
姫「ま、待ってください!」
女騎士「…姫様?」
姫「…怖いのです…さ、先に見てもらえませんか?」
女騎士「…しかし…」
女騎士「良いですか、姫様?同時にですよ?目をつむってはなりませんよ?」
姫「…は、はい」
女騎士「………」ガサッ…
『親愛なる我が妻へ
女騎士「…姫様…!」
姫「あ……」
まずはそこにいるであろう女騎士。お節介、まことにご苦労。
女騎士「…これ…は…」
姫「………」
話…いや、筆が逸れたな。しかし、慣れない我が国の文字で……
姫「………」ガサッ…
姫「………」ガサッ…
女騎士「…姫様」
王子「我々はここまでだ」
大臣「お見送り、感謝いたします」
王子「当然のことだ。…駐屯する軍についての詳細は必ず俺の元に送れ」
大臣「心得ております」
団長「はっ!」
王子「…それと王にもよろしくと伝えてほしい」
大臣「ははっ…」
王子「………」
副官「殿下、そろそろ…」
王子「わかった。…それでは隣国城までの道のり、何もないとは思うが気をつけて……」
副官「再編はどのように?」
王子「全体を守備するには兵が圧倒的に足りん。南部守備の要である要塞に集中させる」
副官「はっ…ではそのように」
王子「俺は城に一度戻るが…その後は適時往復する」
副官「了承しました」
王子「よし、大筋は決まったな。後は…これだ」
副官「…またお手紙ですか?」
王子「…のようだな。この間の返事らしい」
副官「それは…ようございましたね?」
王子「馬鹿を言え。誤字脱字が多過ぎて読むだけでも大変なのだぞ?…修道院は何を教えているのだ…」ガサッ…
副官「………」
女騎士「殿下、姫様よりお手紙です」
王子「…城にいるときまで手紙でやり取りする必要があるか?」
女騎士「姫様は自由に外出ができないのです。殿下との繋がりは手紙でしか…」
王子「お前がたきつけたのだろうが…」
女騎士「…お嫌なのですか?」
王子「俺が返事を書くのは礼儀のためだ。そこに嫌いも好きもない」
女騎士「………」
王子「…なんだ?」
女騎士「これは姫様なりの自己表現なのです。…それはお忘れないようお願いします」
王子「………」
女騎士「そういえば…」
王子「今度はなんだ?報告が済んだのなら…」
女騎士「我が国との共同作戦の噂を耳にしました」
王子「…アレはそんなものではない」
女騎士「ついに戦が始まるのでしょうか?」
王子「…隣国からの提案は守備的なものだ。…これを好機と見て戦を仕掛けることは考えにくいのだが…」
女騎士「……?」
王子「…報告によれば北で軍が興った」
女騎士「…北で…」
王子「ついに始まるようだ」
女騎士「東国ではないのですか?」
王子「…同盟を結んだとの話は聞いていないが…うるさい東のハエのことだ。便乗してきてもおかしくはないな」
女騎士「二面戦とは…」
王子「兄上達は大変だろうな…しかし今の状態ではただ信じる他ない」
女騎士「…軍の縮小の話は本当だったのですね」
王子「…俺の仕事は南部各地の火消しくらいだろう。…楽なものだ」
女騎士「………」
姫「…それで間違いを指摘されたのですが…」
女騎士「………」
姫「…どうかしたのですか?」
女騎士「いずれ姫様の耳にも入りますかと思いますが…」
姫「…はい」
女騎士「…北方で戦が始まるようです」
姫「…戦が…」
女騎士「あまりこの地域に影響はないとのことですが…多少は空気も張り詰めましょう」
姫「…そうかもしれませんね。ここにいる者は皆、噂好きですから…」
女騎士「しかし、ご心配には及ばないとだけお心にお留めください」
姫「わかりました」
ご飯とお風呂
王子「…やはりな」
部隊長「東も動きましたか?」
王子「うむ。…しかし、東南方面とは…隣国の牽制とやらもたいしたことはなかったか」
部隊長「なぜ東南から…首都や第一王子殿下の城からはずいぶんと離れておりますが…」
王子「それに隣国軍とも近いな。陽動…か?」
部隊長「本隊は北と?」
王子「北国と呼応する形での進攻だ。二国間で何か約定があってもおかしくはない」
部隊長「………」
王子「…とりあえずはこの東南からの軍だけは注視する必要がありそうだな」
部隊長「はっ!」
コンコン…
『女騎士です』
王子「入れ」
女騎士「はっ…御呼びとのことですが、何か?」
王子「俺はしばらく要塞で指揮を取る。何かあればそこに連絡をしろ」
女騎士「わかりました」
王子「それと…」
女騎士「………」
王子「いつもの手紙だ。…ついでに持って行け」
女騎士「はっ!ありがとうございます!」
ドガラッ…
王子「………」
副官「殿下、お待ちしておりました」
王子「すぐに軍議…というほどのものではないが、とにかく状況を把握したい」
副官「はっ…こちらへ」
・
・
・
要塞 指令室
副官「現在、北方では睨み合いが続いております」
王子「それは知っている。三日前にも同じ報を受けた。…本格的な戦闘はまだなのか?」
副官「はい」
王子「侵略戦だというのにずいぶんとのんびりしたものだな」
副官「東国軍の動きを待っているのかもしれませんな」
王子「うむ…」
副官「報告ではさらにもう一軍、東部への進軍を確認したとのことです」
王子「どこ辺りにだ?」
副官「中央です」
王子「中央…それが本隊か?」
副官「おそらくは…」
王子「ふむ…」
王子「第二兄上はともかく、兄上はどう対応しているのだ?」
副官「そのことで書簡が…」
王子「…東南部の敵をなんとかしろか?」
副官「似たようなものです。…隣国の軍を動かしてほしいと」
王子「………」
副官「最善は寸断でしょうが、脅かすそぶりだけでも進軍は遅らせられますからな」
王子「中央のみに集中したいのはわかる。俺もそれは考えた。…しかし、隣国軍か…」
副官「いかがいたしますか?」
王子「………」
団長「北方と東で軍が興ったと?」
騎士「はっ!現在、隣国は二面戦を強いられる形に…」
団長「二国の怪しい動きは聞いていたが…同時進攻か。よほど隣国を倒したいと見える」
騎士「我々は動かずとも良いのでしょうか?」
団長「国境を越えてまでの援護は約定にはない」
騎士「しかし…」
団長「よほどのことがない限り、隣国を…」
ザワザワ…
団長「ん?」
騎士「…なにやら騒がしいようですが…」
大臣「皆、ご苦労である」
団長「大臣様」
大臣「おお、団長殿か」
団長「はっ…しかし、何故このような所に…」
大臣「…現在の情勢を見るに、我が国の軍がこの場にいることは非常に大きな意味をもつ」
団長「はい。存じております」
大臣「ただし、動くならばだ。…残念なことにそれは我が軍には許されん。そういう約束だからな」
団長「………」
大臣「これは政治的な問題なのだよ」
団長「では大臣様は今から隣国王の元へ行かれると?」
大臣「まさか…今からではとても間に合わんよ」
団長「では…」
大臣「軍事についてだけならば南部一帯を一任されている者がいるだろう?」
団長「…殿下ですか」
大臣「軍を動かす許可を得るだけならばそちらで十分と言えよう?」
団長「はっ…ではすぐに仕度を」
大臣「そうではないぃ…まったく愚直というか馬鹿というか…」
団長「…は?」
大臣「我々は頼られる側なのだよ」
団長「つまり…待つ、と?」
大臣「そうだ。その懇願に迅速に対応するために私はここに来たのだ」
団長「…了解しました」
大臣「…まぁ、それだけではないが…」
団長「大臣様、何か?」
大臣「いや、なんでもない。それより椅子を頼む。立ち話は腰が痛くて敵わん」
団長「はっ…今用意させます」
大臣「………」
副官「…と我が国は現在、非常に苦しい状況にあります」
大臣「わかっておる。して、我が軍は何をすればよいのか?」
副官「東南を進行中の敵軍があります。その横腹を食い破っていただきたい」
大臣「そちらの領地を進軍することになるが…よろしいか?」
副官「はっ…そのことに関しては領地を直轄される第三王子殿下の了承を得ております」
大臣「あいわかった。必ずやご期待に応えてみせよう」
副官「ありがとうございます。…しかし助かりました。大臣殿が前線にて我々を待っていて下さったとは…」
大臣「姫の嫁ぎ先として我れらが王は隣国のことは気にかけておられる」
副官「はっ…ありがたく」
女騎士「…我が軍に援軍を?」
姫「はい。先日受け取った手紙に…」
女騎士「なるほど…東南を抑えるのですね」
姫「それほど状況は厳しいのですか?」
女騎士「私は他国の騎士ですので、詳しくはわかりませんが…南方というのが問題なのだと思います」
姫「………」
女騎士「北、東に対応するため、南は軍備が手薄したから…」
姫「ではこれで勝てるのでしょうか?」
女騎士「はい、必ず。…我が軍が東南の敵を片付ければ後は陣容の厚い地域です。凌ぎ切ることでしょう」
姫「そうですか…よかった…」
女騎士「これも姫様と殿下の婚約の実益でございましょう。きっと殿下もお喜びだと思います」
姫「…そのようなこと…」
女騎士「東南さえなんとかなれば殿下もこちらに戻ってこられると思うのですが…」
姫「………」
・
・
・
要塞
ワー!ワー!
王子「敵を門に取り付かせるな!…弓兵隊は何をモタモタしている!?」
部下「はっ!いましばらく…!」
王子「ぐぅ!!一体どういうことなのだ!?これは!?」
『墜とせぇ!』 『梯子をかけろぉ!!』
王子「これは…隣国の軍ではないか!!」
副官『案内はこの者に。貴殿らは我らが領地に疎い。土地勘のある者が必要だろう』
伝令『よろしくお願いいたします』
団長『かたじけない』
副官『私は殿下にこの吉報を伝えに戻ります。後はお願いいたします』
大臣『うむ。任せておけ』
団長『…大臣様もご一緒されるのですか?』
大臣『…また何かあると困るだろうからな。身辺警護はよろしく頼むぞ』
団長『はっ…では出陣!』
・
・
・
街道
大臣『今、どの辺りか?』
伝令『はっ!ここから東に4日ほどでおそらくは東国軍と接触するかと…』
大臣『ではこの辺りか…よし』クィ
敵隊長『はっ!』
団長『……?』
ドスッ!
伝令『…え…?』
大臣『案内、ご苦労だった。ゆっくり休むといい』
団長『だ、大臣様!?一体何を…』
大臣『北西に転進せよ』
敵隊長『はっ!…全軍転進!』
団長『…これは…一体…』
大臣『…ああ、それと君は指揮官から降格だ。今後は部隊長として我が軍を支えてほしい』
団長『なん…ですと…!?』
団長『大臣様は隣国を裏切るおつもりか!?…このような時機を狙って…他国から我が国への信はどうなるとお考えか!?』
大臣『騎士団長ごときに政治の話などされたくはない』
団長『これは信義の問題です!…盟を結んだ相手の寝首をかくなど…豚にも劣る!』
大臣『一方的な盟約だ。そしてこれは盟約を破る、ではなく謀略をめぐらすというものだが?』
団長『そのような詭弁を…!』
大臣『それにこれもまた盟約なのだよ』
団長『…なにを…?』
大臣『北国、東国とのな。かりそめの盟を結び、しかるのち背をつく。すべては予定通りなのだ』
団長『…姫様を差し出したこともですか!?』
大臣『…隣国の力は大き過ぎる。ここで潰さねば我等が潰される。姫様もわかってくださるだろう』
団長『そのようなこと…王が認めるはずが…』
大臣『これは王の意思だ。…もうよい。下がれ』
団長『…できません!大臣様、今ならばまだ間に合います!何とぞ…』
大臣『………』クィ
王子「おのれ…!卑劣な真似を!」ドガッ!
副官「申し訳ありません…まさかこのような…いかような処罰も受ける覚悟で…」
王子「何を受ける必要があるか!?盟を反古にし、あまつさえ反逆をした奴らにこそ首を差し出す義務がある!」
副官「ははっ…しかしこの状況、いかに凌ぐか…」
王子「ぬぅ…」
副官「奇襲により伝令は出せず、裏切りの報が伝わったとしてこの状況で援軍は…」
王子「…数の上ではそこまで絶望的な差はない。南部全軍を結集できればの話だが…問題はそれを成せる者がいるかだ」
副官「………」
王子「異変に気が付くまでなら数日と言った所だろうが…」
副官「…そんな短時間で?」
王子「これを出しそびれてな」
副官「…なるほど、手紙ですか」
王子「筆まめが幸いしたようだ。…しかし、アレの立場は今や敵国の王女…」
副官「………」
王子「どう転ぶかまったくわからん…」
副官「当てにはできませんな。…近隣の指揮官はどうです?」
王子「難しいな。軍は東に多く配置してある。おそらくは奴らに封鎖されるだろう」
副官「光明が見えませんな…」
王子「…まったくだ」
王子「首都の近衛隊か、兄上達からの援軍か、散っている俺の軍か…いずれにしても増援を待ち篭城するほかあるまいな」
副官「…殿下お一人ならば何としてでも脱出させて…」
王子「よせ。俺一人逃げたとて意味がない。兵の半数を失っては南部は敵の手に墜ちる」
副官「それは…」
王子「…この状況は見方によっては敵を足止めしている状態だ」
副官「………」
王子「他所の情勢が好転するまでいかに堪えるか。…結局はこれに尽きる」
副官「…はっ」
王子「………」
女騎士「…まだ手紙は来ないのか?」
伝令「来ておりませんね…」
女騎士「今までこれほど返事が遅れたことはなかったのに…」
伝令「隣国の軍が動くとの報がありましたのでそのことに掛かり切りなのでは?」
女騎士「だとよいのだが…」
伝令「報告書の中に手紙を見つけましたらすぐにお届けしますので…」
女騎士「すまない。頼む」
伝令「はっ!」
女騎士「………」
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