兄「妹を腹パンするとお金がもらえるだって?」(110)

妹「うん」

兄「どういうルールなんだ?」

妹「私が痛ければ痛いほど高額のお金がもらえるんだよ」

兄「つまり思いっきり殴ればたくさんお金がもらえるわけだ」

妹「その通り!」

兄「出資は?」

妹「国だよ」

兄「国なら仕方ないな」

兄「メリケンはアリか?」

妹「道具はダメみたい」

兄「ダメか……頼れるのは己の拳のみってわけだ」

妹「うん」

兄「ふぅ……軽く準部体操していいか?」

妹「どうぞどうぞ」

兄「いっちに、さんっし! ごぉろく、しっちはちッ!」

妹「身体固いね」

兄「俺は帰宅部。これで普通」

妹「ふーん」

兄「今の態度、何かむかついたな」

妹「やる気上がった?」

兄「泣かしてやる」

妹「できるもんならど」

兄「おらぁッ!」 ボコッ 妹「うく……ッ」

兄「はぁ、はぁ……どうだ!」

妹「……三円」

兄「なんだと?」

妹「三円。全然痛くない」

兄「うくっ、とか言ってたろッ!?」

妹「殴られ慣れてないもん、痛いよ。でも今は全然」

兄「くっ、このぉ!」 ボコッ ボコッ

妹「……っ……五円」

兄「ご、五円っ!? たったッ!? たった五円ッ!?」

妹「三発目は慣れたから」

兄「……」

妹「兄って……貧弱?」

兄「……」 プツンッ

妹「この調子じゃ一生かかっても、本一冊も買えな……」

兄「おらぁッ!」 ブンッ

妹「ひ……っ! く、うっ、ひ……ぃっ」 ガクッ

兄「どうだよッ!? まだ痛くないかッ!? あぁッ!?」

妹「き……キックは……ルールいは……ん……っ」

兄「知るか!」

妹「最……低……ッ」

兄「……あ、悪い。その、カッとなって」

妹「……」

兄(気まずい……)

妹「……」

兄「じゃ、じゃあな」

兄(逃げるわけじゃない……逃げるわけじゃない……)

兄「……俺は何を間違えたんだ」 フラフラッ

兄「妹に貧弱なんて言われて……」

兄「くそ……俺が、俺が悪いんじゃない……俺が悪いんじゃない……」

「おらぁッ!」「ごふッ」「へばるには早いだろうがよ!」

兄「な、なんだ、あれは……喧嘩?」

漢「けっ。殴りがいもねえぜ」

兄「……」

漢「なに見てんだ」

兄「い、いえ、あの……強いな、と思って」

漢「あぁ?」

兄「俺なんて、人も満足に殴れないし、その癖、すぐに切れるし」

兄「全然ダメだな、って」

漢「……お前、名前は?」

兄「兄です」

漢「俺を殴ってみろ」

兄「え?」

漢「いいから殴ってみろ」

兄「でも」

漢「お前はそれでも金玉付いてんのかッ!?」

兄「ひっ!? うわぁぁ!」 ポフッ

漢「腰が入ってねえんだよ!」

兄「こ、こし?」

漢「お前の拳は肩だけで殴ってるんだよ。そんなもんが効くわけないだろうが」

兄「な、なるほど」

漢「まず下半身だ。走り込みから始めろ」

兄「え?」

漢「強くなりたいんだろう」

兄「……は、はい!」

数週間後

兄「……」 ゴゴゴゴゴッ

妹「あ、兄?」

兄「なんだ?」

妹「なんか……変わった?」

兄「ああ。まあな」

妹「そ、そうなんだ」

兄「妹」

妹「なに?」

兄「殴るぞ」

妹「え?」

兄「殴るぞ」

妹「……え?」

兄「殴っていいんだろ?」

妹「い、いいけど……」

兄「いいんだな?」

妹「い、いいよ」

兄「……」

妹「……」

兄「腹に力入れろ」

妹「お腹に?」

兄「しっかり入れろよ」

妹「うん……んっ」 キュッ

兄「ふぅ。……おらぁッ!」 ブォンッ

妹「へ、うぐぇ……ッ、う、ぎッ、い……いッ……いッ……」 ビクビクンッ

兄「……」

妹「い……ッ、い……ッ、いだッ……いだ……い゛……ッ」

兄「で?」

妹「痛いぃ……痛い……っ」

兄「で、いくらなんだよ?」

妹「う……う……っ」

兄「いくらかって聞いてんだよ!」

妹「ご……五二三円……」

兄「安いな」

妹「うぅ……う……っ」

兄「俺さぁ、欲しい物があるんだよね」

妹「ほ、欲しいもの……?」

兄「パソコン買い換えたいんだよね」

妹「ぱ、パソコン!?」

兄「十万もあればいいかな」

妹「も、も、もっと安いのあるよ!」

兄「やっぱ良いの欲しいじゃん?」

妹「私が使ってるあげるから」

兄「俺が今使ってるのの方が新しいじゃん」

妹「で、でも、十万円分も殴られた私っ!?」

兄「……なあ、妹」


兄「死ぬかもしれない一発と、死ぬほど痛い数発……どっちがいい?」

妹「どっちもやだ! やだぁ!」

兄「逃げるなよ。しょうがない奴だなぁ」 ギュッ

妹「ひっ、ひぃぃっ!」

兄「おらよ、っと」 グイッ

妹「は、放して、放して!」

兄「どっちも嫌なら仕方ないよな。死なない程度に痛いくらいにしとこう」

妹「そ、それ、それがいい!」

兄「つまり、さっきの拳だな。一発五百円だから、二百発か」

妹「に、にひゃ?」

兄「まあ大丈夫だ。内臓にダメージ入れば一発分の値段も勝手に上がるだろ」

妹「や、やだ、やだぁぁ!」

兄「いっぱぁぁつ!」 ブォンッ

妹「ひ、ぐ……うぇ、えぇぇ……ッ」

兄「にぃぃぃはつ!」 ブォンッ

妹「うご……ぉ……ぉ……」 ビクンッ

兄「さぁぁぁんはぁぁつ!!」 ブォォンッ

妹「ぎゅ、う、うぇ、うぇぇぇ……ッ!」 ブルブルッ

兄「よぉぉぉんはぁぁつ!!!」 ブォォォンッ

妹「やめ、やめ……、えぐぅ……ッ!?」

兄「……痛いか?」

妹「あ、あっ、あぐ、うっ、うっ……」 ピクピクッ

兄「いくらだ?」

妹「うぐ、う、うぅ……」

兄「いくらかって訊いてんだよ」

妹「さ、三四九〇円……」

兄「まだまだだな」

妹「も、もうやめて……死ぬ……死んじゃう……」

兄「……同じ所ばかり殴ってると、本当に死ぬかもな」

妹「う、うん、死んじゃう! 死んじゃう!」

兄「ここ、殴るぞ」

妹「え……?」

兄「ほら、下っ腹殴るもの飽きたし、たまに上の方をな」

妹「え……え……?」

兄「いくぞぉぉ!」 ブォォンッ

妹「ひ……おぶッ、ぐ、うげぇェ……ッ」

兄「……」

妹「う、うぇ、おぇぇぇぇ……ッ」 ビチャビチャッ

兄「もう一発いくぞ」

妹「おぇ、うぇぇ……!」 ブンブンッ

兄「にぃぃぃはつ!」 ブゥゥンッ

妹「うぐぇぇぇッ! えぶっ、うッ、うッ!」 ビチャッ ビチャッ

兄「さぁぁぁんはつ!」 ブゥゥゥンッ

妹「うぶぅぅぅ! うぐぇ!? うぐうぇぇッ!?」 ビグビグンッ

兄「……」

妹「うぶっ、うっ、うぶ……っ」 ビクビクンッ

兄「ふぅ」

妹「うふぇッ、え……え……ッ」

妹「あ……あ……?」

兄「吐き終わったか?」

妹「う……」

兄「今の合計は?」

妹「は……八七……七五円……」

兄「まだ一万円にもなってないのか。残念だ」

妹「……はぁ……はぁ……」

兄「おいおい、今からそんな調子じゃ、十万円になる頃には死んじゃうぞ?」

妹「う……うぅ……」 ポロポロッ

兄「俺だって、妹に死んで欲しくはないんだけどな……」

妹「じゃ……やめてよ……っ」

兄「なんていうかさ……俺、お前を殴って三円って言われた時、男として恥ずかしかったんだよ」

妹「……」

兄「たった三円だぜ。俺の拳に三円の価値しかないって言われてさ、変わりたいと思ったんだよ」

妹「そんなの知らないよ……」

兄「大丈夫だ。変わった俺をこれからたっぷり知ってもらうんだからな」

妹「やだ……やだぁ……!」 ジタバタ

兄「うぉ?」 スルッ

妹「はぁ……はぁ……!」 タッタッ

兄「……まあ、いいか。一度に十万を稼ぐ必要もないわけだし」

妹(殺される……)

妹(逃げなきゃ……)

妹「はぁ……はぁ……」

「おっと」

妹「きゃっ」

漢「大丈夫か?」

妹「た……助けてください!」

漢「ほう」

妹「……」

漢「で、そろそろ事情を話してくれなきゃあ、俺にも何ともできないんだがな」

妹「……あの」

漢「ん?」

妹「私、帰ります……」

漢「ああ?」

妹「失礼しました……」

漢「いやいや。さすがにそのまま帰すわけにはいかねえだろ。何かあったんだろ?」

妹「でも」

漢「話せよ。悪いようにはしねえさ」

妹「……それで、兄が、私のお腹を何度も、何度も……」

漢「なるほど、な。……ちょっと見せてみろ」

妹「見せる、って……」

漢「腹だよ、腹」

妹「……」

漢「見せて減るもんじゃねえだろ」

妹「……はい」 ピラッ

漢「……こいつは酷いな」

妹「……」

漢「あんだけ教えてやったのに、こんな汚ねぇ殴り方しやがって」

妹「あ、あの、それって」

漢「あ? あいつに殴り方を教えてやったのは俺だって話だよ」

妹「え? え?」

漢「見てみろよ、この痣。打点が散りすぎてまばららで汚ねぇ」

妹「ちょ、ちょっと、あの」

漢「俺ならもっと綺麗に、もっと苦しませてやれるのにな」

妹「ひ……っ!?」

漢「ん? 何怯えてるんだよ。お前だって知ってたんだろ?」

妹「な、何を?」

漢「殴った奴は金をもらう。それと同じ額だけお前も金をもらう。そういうシステムなんだからよ」

妹「ど、どうしてそれを?」

漢「俺にも昔な、家族がいたんだよな」

漢「俺は妹じゃなくて、姉貴がな」

漢「昔の俺は細っちくて、弱くてな」

漢「姉貴は俺が強くなるように鍛えてくれてなぁ」

漢「姉貴を殴ると、姉貴も俺も幸せになる」

漢「金もたくさん貰ったな」

漢「ただ……ちょっとな、俺は、人を殴るのが好きになりすぎてな」

漢「……ああ、まあ、事故だったな。ああ」

漢「一日中、ずっと姉貴を殴ってたら、姉貴、死んじまってな」

漢「何か言ってた気もするなぁ。やめて、とか、痛い、とか。すぐに言わなくなったから、まあ、大丈夫だと思ったんだけどな」

漢「まあ、事故だな、事故」

漢「あれからはちゃんと俺も手加減はするようにしてるんだけど、こうな。鍛えると面白そうな奴とか、殴りがいがありそうな奴とか見つけるとな」

漢「放っておけないんだよな」

漢「……なあ。あんたを殴ると、俺もあんたも幸せになれるわけだしさ……な? 今度はちゃんと手加減するからよ。な?」

兄「……と、そうだ。漢さんに報告しておかないとな」


兄「漢さん、漢さん!」

漢「……あぁ、誰だッ!?」

兄「うわ! な、なんですか、漢さん」

漢「……ああ、お前か。で、何か用か?」

兄「いや、漢さんにお礼言っとかないとな、と」

漢「お礼?」

兄「いやぁ、漢さんに鍛えられたおかげで俺、変われましたよ!」

漢「そうか。そりゃ良かったな。俺もお前を鍛えたかいがあるぜ」

兄「……あれ」

漢「あんだ?」

兄「……」

漢「あんだよ?」

兄「失礼します」

漢「おい!」

妹「……ぅ……ぁ……」 プランプランッ

兄「……」

漢「ったく、勝手に入るなよな」

兄「漢さん、これ」

漢「お前の妹だろ? 偶然会ってな。殴りがいありそうだったから、ついな」

兄「俺、聞いてないですよ」

漢「言ってないからな。まあ、面白かったぞ。小便やら胃液やらで床が汚れちまったが、まっ、後で片づけりゃいいさ」

兄「……漢さん」

漢「だから何だよ」

兄「人ん物横取りしちゃあ……いかんでしょう……」

漢「ほう」

兄「漢さん……あんた、やりすぎましたよ」

漢「やりすぎたら何なんだ? あぁ?」

兄「はははっ」

漢「ははははっ」

妹「……ぅ……あ……?」

妹(あれ……ここ……)

妹(どこだっけ……)

兄「あんた、遊びすぎなんですよ」

漢「違いねえな……」

兄「人を痛ぶることばっか考えてるから、こうなるんですわ」

漢「けっ……」

兄「右腕、もらいますわ」

漢「好きにしろ」

兄「よいしょ……と」 ボキィッ

漢「……っ」

兄「養生してくださいや」

妹「……」

兄「病院行くぞ」

妹「兄……」

兄「……」

妹「なんで?」

兄「背中、乗れよ」

妹「……」 ギュッ

兄「よし」

妹「……」

妹「…」

妹「」

妹「」ガクッ

兄「……」 スタッ スタッ

妹「……」

兄「思うにだな」

妹「ん」

兄「俺がお前をあんなにも殴りたかったのは、お前に認めて欲しかったからだ」

妹「……?」

兄「男のプライドを傷付けられた俺はだな、お前を殴らずにはいられなかったわけだ」

妹「……」

兄「しかしだ。俺はお前が嫌いだから殴りたいんじゃない。お前を俺の物にしたいから殴りたいんだ」

妹「狂ってる……」

兄「ああ。狂ってるさ。でもな、俺は漢さんみたいに『誰でもいい』なんて思えないな」

兄「あの人は誰でも彼でも痛ぶりたがる。俺のこともな。だから負けた。そこが俺とあの人の違いだな」

兄「なあ、妹」

兄「俺はこれから毎日お前を殴るから、俺を憎みたいだけ憎んでいいぞ? どうしようが俺はお前を殴るから」

妹「……死ね……キチガイ……」

一ヶ月後

兄「……やっぱり、いないか」

兄「漢さんは、もう戻って来ないだろうな」

兄「……」

兄「ありがとうございました」

妹「……帰ってきた」

兄「妹、どこだー?」

妹「……」

兄「また隠れてるのか。ったく、いい加減無駄だって気付かないかねぇ」

妹「……」

兄「そこだろ」 ガチャッ

妹「ひっ!?」

兄「やっぱりな。ほら、早く出て来いよ」

妹「放して!」

兄「ははははっ」

妹「……死ね! 死んじゃえ!」

兄「俺が死ぬ時はお前に殺されたいもんだな。さあ、今日も始めようぜ」 ブゥゥンッ

妹「うぐぇ……ッ……!」

兄「合計は?」

妹「……十万、飛んで、三一円……っ」

完!

おい、妹をきちんと殺すところまでやれよ

時間があれば今の三倍は妹を殴らせてたとは思う
誰か腹パンSS書きたい人いたら好きに書いていいんだよ?

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