委員長「手伝ってもらえますか?」 (9)

優等生「……」

委員長「……?」

優等生「手伝うって、なにを?」
委員長「この荷物、運ぶのを」

優等生「……他の子に頼めば」

委員長「でも」

優等生「私、勉強で忙しいの」

委員長「そうですか……邪魔してしまってごめんなさい」

優等生「……」

私は、教科書に落としていた視線をはじめて上に向けた。ちょうど委員長が私に背を向けたところだった。委員長の手には高く積まれたノートがあって、今にも崩れそう。私はそれでも動くつもりはなかった。

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人と関わることが嫌いだった。
嫌いだし、特に女同士の関係はあまりに面倒くさい。つねに二人以上でいなければなにもできない。一人でいることを良しとしない、バカばかり。
そんな彼女たちと関わるくらいならば、数式や英単語と向き合っているほうがずっとマシだ。

私は軽くメガネを押し上げる。
委員長がかなにかにひっかかって転んだらしく、抱えていたノートのタワーが教室のドアの前にばらけ落ちていた。
それを数人のクラスメイトが「大丈夫!?」なんて声をあげて駆け寄りノートを拾うのを手伝い始める。
委員長はペコペコ謝って起き上がる。

「もう、ドジだなあ」と誰かが笑い「手伝うよ委員長」とまた誰かが言えば、彼女は「ありがとうございます!」ととても嬉しそうな顔をしていた。

私はまたメガネを押し上げる。
最初から、自分のまわりの人間に頼めば良かったのだ。私は思いながらまた教科書に視線を戻した。

しかし、委員長はその日から、幾度となく私に手伝いを頼んで来るようになった。

優等生「……」

委員長「この書類、とても大事なんです」

優等生「だったらなおさら人に頼むものじゃないでしょう」

委員長「優等生のあなただから頼めるんです」

優等生「真面目だって言うんなら残念ながら違うわ」

委員長「違うんですか?」

勉強ばかりしてるからみんな優等生だとか真面目だとか言うんでしょうけど。
そう言いかけて、結局やめた。
その代わりに私は口を閉ざした。

委員長は一枚の紙を持ったまま、居心地悪そうにそれでもまだ私の机の前に立っていた。

委員長「あの……」

優等生「もういいでしょう。いつも言うけど、あなたを手伝う気はないしそんな義理もないから」

手伝ったところでなにを得るでもない。だいたい、委員長は基本的に一人でなんでもやってしまうのだ。そうでなくても、彼女には他にも頼れる人間は大勢いるのに。
私がその中に組み込まれることは嫌だった。

委員長「義理は!確かにないけど……私の、委員長としての義務があるんです!」

優等生「義務?」

委員長「義務、です」

授業と授業の間の休憩時間で、へたをしたら昼休みよりもうるさい教室の中。
委員長の、妙に芯の通った声が耳に残った。

委員長「あなたと話す義務があるんです」

優等生「……なに、それ」

いつも一人でいる私を、クラスに馴染めていない、とかわいそうにでも思っているのだろうか。だとしたらそれはーー。

委員長「最初の頃に比べたら、だいぶ答えてくれるようになりましたね」

優等生「……」

委員長「義務だって言ったけど、ほんとはそれが嬉しいから」

その言葉のとおり、委員長はとても嬉しそうに微笑んでいた。
私はメガネを押し上げ、そのときどこから「委員長!」と声がした。委員長が「はーいっ」と私から視線を逸らした。

委員長「呼ばれてるので、行ってきますね」

優等生「勝手にして」

委員長「はい、勝手にします」

彼女はまた、その顔を輝かせ言った。

その理由に気付いたのは、彼女が持っていた書類を勝手に置いていったからだった。

どうやら彼女はまだ懲りずに私に手伝いを要求するつもりらしかった……。

今日は以上

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