ハヤウイルス「調子に乗りすぎだぜ……ノロウイルス!」 (79)

ノロウイルス──

非細菌性急性胃腸炎を引き起こすウイルスの一属である。

カキなどの貝類の摂食による食中毒の原因になるほか、

感染したヒトの糞便や吐瀉物、

あるいはそれらが乾燥したものから出る塵埃を介して経口感染する。

ノロウイルス属による集団感染は世界各地の学校や養護施設などで

散発的に発生している。

「NV」や「NoV」と略される。

                          ─ Wikipediaより抜粋 ─



しかし、ノロウイルスには宿敵といえるウイルスがいることはほとんど知られていない。

その名は──

ハヤウイルス(くそっ……)

ハヤウイルス(俺たちハヤウイルスはノロウイルスとの戦争に敗れ)

ハヤウイルス(今や生き残りは俺だけ……)

ハヤウイルス(こうしてる間にも、ノロウイルスどもは勢力を広げ)

ハヤウイルス(せっせと悪事を働いてやがる……)

ハヤウイルス(とっとと、宿主を見つけて感染しねえと……!)

学校──

デブ「ふぅ、ふぅ、ふぅ……」ドスドス…

体育教師「ようやくゴールか!」

体育教師「ったく、いくら太っているとはいえ遅すぎるぞ!」

デブ「すみません……」

ジャージ「オイ! お前のせいで俺たちのチームがビリじゃねえか!」

ジャージ「せっかく俺が序盤で差をつけたってのによ!」

ジャージ「ふざけんなよな!」

ジャージ「陸上部のエースである俺がいるのに、リレーでビリとかありえねえよ!」

デブ「ごめん……」

授業──

デブ「えぇ~と、えぇ~と……」モタモタ…

数学教師「いつまでかかっているんだね!?」

数学教師「君は最終的には正解はするが、計算が遅すぎる!」

メガネ「じれったい……ボクが代わりに解きましょう」スッ

メガネ「どいてくれ」ドンッ

デブ「ううっ……」

メガネ「ここがこうで、ここがこう……」カリカリ…

メガネ「いかがです?」カッ

数学教師「うむ、正解だ!」

メガネ「先生、これからはデブ君を指名しないで下さい」

メガネ「貴重な授業時間が無駄になりますから」ギロッ

デブ「…………」シュン…

昼休み──

デブ「お待たせぇ~!」タタタッ

デブ「焼きそばパンと牛乳、買ってきたよぉ!」

不良「おせえんだよ、クソデブ!」

ドゴッ!

デブ「うげっ……!」ヨロッ…

不良「たかがパン買ってくるのに、何分かかってんだよ! あァ!?」

デブ「ご、ごめん……」ゲホゲホッ…

放課後──

委員長「いい加減にしてよ!」

デブ「!」ビクッ

委員長「デブ君、なんであなたってそんなに動作が遅いの!?」

委員長「教室の掃除が終わらないと、私が帰れないじゃない!」

委員長「この後、予備校だってあるのに!」

委員長「ねえ、もしかしてわざとやってる!?」

デブ「わ、わざとじゃないよ……」

委員長「あ~もう、イライラする!」ゴシゴシ…

デブ「…………」

さるよけしてやんよ

帰り道──

デブ(ふぅ、今日もみんなに迷惑かけちゃったなぁ……)

デブ(ボクってどうして、こんなにとろいんだろうなぁ……)

デブ(あ~あ、ボクにもっとスピードがあればなぁ……)



ハヤウイルス(なんだ、あの太っちょは……)

ハヤウイルス(みるからにウスノロそうだが……俺の直感が告げている!)

ハヤウイルス(アイツに感染しろ、と!)

ハヤウイルス(しかたねえ……アイツにするか!)ギュンッ

デブ「!」ピクッ

デブ(──ん、なんか今妙な感覚が……)

ハヤウイルス『よう』

デブ「…………」

デブ「うわっ、誰だぁ!?」

ハヤウイルス『予想通り、反応鈍いな……声かけてから5秒は経ってたぞ』

ハヤウイルス『俺は今、お前に感染した』

デブ「感染!?」

ハヤウイルス『ま……そんなわけで、よろしく頼むわ』

デブ「!」ガーン

デブ「感染ってどういうことだよぉ……」

ハヤウイルス『今、流行ってんだろ? ……ノロウイルスってやつが』

デブ「まさか……ボクがノロウイルスにぃ!?」

ハヤウイルス『い~や、ちがう』

ハヤウイルス『俺の名はハヤウイルス……ノロウイルスの宿敵さ』

デブ「ハヤウイルス!?」

ハヤウイルス『ノロウイルスの野郎をブッ倒すため、お前に協力してもらうぜ』

デブ「な、なんで……ボクなんかに感染したんだ?」

ハヤウイルス『ン~……動物的勘ってやつ? あ、俺の場合はウイルス的勘、か』

デブ「そんな勝手なぁ……」

ハヤウイルス『まぁ聞けよ』

ハヤウイルス『ノロウイルスは俺だけじゃなく、お前ら人類の敵でもある』

ハヤウイルス『つまり、俺と組めばお前は人類の救世主になれる、かもしれない』

デブ「ム、ムリだよぉ~」

デブ「こんなとろいボクが、救世主にだなんて……」

ハヤウイルス『そ~か、お前やっぱりとろいのか。反応も鈍かったしな』

デブ「わ、悪いかよぉ!」

ハヤウイルス『いやいや、だったら俺はお前にとって最高のパートナーだぜ』

デブ「なんでさ!?」

ハヤウイルス『走ってみろ』

デブ「いやだよ……今日だって体育の時間……」

ハヤウイルス『いいから走ってみろ!』

デブ「わ、分かったよぉ!」

デブ「遅くても、笑わないでよ!?」

ハヤウイルス『いや笑う』

デブ「え?」

ハヤウイルス『遅ければ、な』

デブ「(遅いに決まってるじゃないか……)じゃあ走るよ……」グッ…

ドギュンッ!!!

デブ「うおおおおっ……!?」キキッ…

デブ「は、はやっ……!」

ハヤウイルス『ど~よ』

ハヤウイルス『“ハヤウイルス”の名の通り、俺に感染された奴は、速くなるのさ』

デブ「…………!」

デブ「でも、ちょっと待てよ……」

デブ「君の宿敵であるノロウイルスって……」

デブ「別に感染されてもスピードは遅くならないよね?」

デブ「下痢になったり、熱が出たり、吐いたりはするってニュースでやってたけど……」

ハヤウイルス『…………』

ハヤウイルス『ま、そこは事情が色々あんのよ』

デブ(けっこう重要な疑問なのに、色々、で済まされた……)

ハヤウイルス『お前は俺の宿主になる、俺はお前を速くする』

ハヤウイルス『公平なギブアンドテイクってやつだ』

ハヤウイルス『もし俺のスピードに満足したら』

ハヤウイルス『ノロウイルス退治……協力してもらうぜ!』

デブ「はぁ……」

体育──

ワアァァァ……!

「赤チームと青チームが競ってる! いい勝負だ!」

「でも、アンカーはそれぞれジャージとデブだ!」

「ハハ、勝負が見えてるってレベルじゃないな」

ジャージ(フッ、デブをぶっちぎって一位に──)タタタッ

デブ「うおおおおおんっ!」ドドドッ

「うおっ、デブの圧勝だあっ!」

「すげえ速かったよな!?」

「マジで!?」

ジャージ「ウソだ……この俺が……!」

授業──

数学教師「これは難問だ。誰か自信のある者はいるか?」

メガネ(これは……ボクでも時間がかかるな)

デブ「ボ、ボクがやります!」バッ

数学教師「なに、君が……!? まぁいい、やってみたまえ!」

メガネ(ボクでさえ数分はかかる問題だ)

メガネ(デブ君も正解はできるかもしれないが、彼では一時間ぐらいかか──)

デブ「できました」カリッ

数学教師「せ、正解……!」

メガネ(なんですとォ!?)

昼休み──

ザザッ……!

デブ「買ってきたよ」

不良「え、もう!?」

不良「くっ……早すぎんだよ!」ブンッ

デブ「わっ!」サッ

デブ「それじゃ」タッタッタ…

不良(俺のパンチをあっさりかわした!?)

不良(必中パンチャーと恐れられる、この俺が外した!?)

不良(ま、まさか……あいつ、今まで弱いフリをしてたんじゃ……)ガタガタ…

デブ「でもぉ~……早いだけでどうやってノロウイルスをやっつけるの?」

ハヤウイルス『フ……奴は熱に弱い。すなわち食品においても中心部までよく加熱、具体的なは85℃以上で10分間加熱すれば無毒化する』

ハヤウイルス『お前の光速移動をもってすれば……大気との摩擦で高熱が発生する!』

ハヤウイルス『いくぜ相棒ぉぉぉぉ!!!!!』

デブ「ウ、ウッヒャァァァァァァァァァァ……」ドヒュゥゥゥン

そしてデブは走り続けた。
あの夕日に向かって青春を燃やし続けた。
そのスピードはマッハを超え、ウルトラソニックデブとして一部地方では都市伝説にもなった。

そして摩擦熱により多くのノロウイルスを倒した彼もまた、摩擦熱により物理的に燃え尽き真っ白に燃え尽きたのであった。絶命!

ハヤウイルスはデブが死ぬ前に分裂し、大気中へと逃れた。
ハヤウイルスはノロウイルス憎しに取りつかれ、最早人類に対する呪いへと変貌していた。

ハヤウイルスに取りつかれた者に明日はない。皆スピードの限界を超え早死にしてしまう。

次にハヤウイルスに感染するのはあなたかもしれないのだ……

ハヤウイルス~黎明編~ 完

放課後──

ゴシゴシッ!

キュッキュッ!

ズバババババッ!

委員長(なんてスピードなの……!? まるでビデオの早送りみたい!)

デブ「委員長、掃除終わったよぉ!」

委員長「あ、ありがと……」

委員長(信じられない……他の人の分までやっちゃった……)

ハヤウイルス『どうだった? スピードスターになった気分はよ』

ハヤウイルス『普段、自分を見下してる奴を、驚かせるのって気持ちいいだろ?』

デブ「たしかにね……」

デブ「でも……」

デブ「やっぱり、こういうのはよくないと思う。こんなの、ズルじゃないか」

ハヤウイルス『なっ……!?』

ハヤウイルス(おいおいこのデブ、そこは大人しく力に溺れろよ!)

デブ「だけど、ボクだってノロウイルスにかかった人を可哀想だと思う気持ちはある」

デブ「だから──」

デブ「ノロウイルスを倒せたらボクから離れてくれるっていうんなら」

デブ「協力するよ」

ハヤウイルス『よし……なら、一時的に同盟といこうぜ!』

ハヤウイルス『ノロウイルス患者を治す方法は簡単だ』

ハヤウイルス『ハヤウイルス感染者が、近くで手をかざせばそれで治る』

ハヤウイルス『ようするに、お前が手をかざせば治る』

ハヤウイルス『俺のスピードで全国を飛び回って、患者を治しまくるんだ!』

デブ「分かったよぉ!」グッ…

ドギュンッ!!!



それからというもの──

デブとハヤウイルスは全国を駆け回り──



デブ「これで大丈夫です」

患者「おお……ありがとう! すっかり気持ち悪さがなくなったよ!」



少女「ありがとー、おすもうさん!」

デブ(ボク、力士じゃないんだけどなぁ……)



サラリーマン「ふぅっ……おかげで会社を休まずに済むよ! 大事な時期だったんだ!」

デブ「無理はしないで下さいね」



ノロウイルスで苦しむ患者を治療していった。

治るってのは対内からノロウイルスを死滅させてんのかね
そんな能力があったら生存競争に負けてないだろうに

デブ「絶好調だねぇ! 人助けがこんなに嬉しいものだとは思わなかったよぉ!」

ハヤウイルス『ああ……だが、親玉を叩かなきゃ意味がねえ』

デブ「親玉?」

ハヤウイルス『ノロウイルスの親玉、さ』

ハヤウイルス『俺のように高度な知能を有するウイルス……』

ハヤウイルス『一連のノロウイルス流行も、全てそいつの差し金によるものだ』

ハヤウイルス『そいつが本格的に動いたら、マジでヤバイことになる』

デブ「…………」ゴクッ…

デブ「そ、そういえば……前から聞きたかったんだけど……」

デブ「君らハヤウイルスとノロウイルスは、過去にいったい何があったんだい?」

ハヤウイルス『……いいだろう。話してやるよ』

~ 回想 ~

むかしむかし、俺たちハヤウイルスとノロウイルスは、

人間たちにいい影響をもたらすウイルスだった。



ノロウイルス『今日は焦ってとんでもない過ちを犯そうとした人を、落ちつかせたよ』

ハヤウイルス『やるな! 俺らはチンタラしてる奴を急がせたぜ!』



俺たちハヤウイルスはのろまな人間のスピードを上げて、

テキパキ働けるようにするウイルスだった。

そして、ノロウイルスは元々、焦ってる人間のスピードを落として

慎重にさせる働きをするウイルスだったんだ。

俺たちはそんな自分たちの作用に誇りを持っていた……。

だが、そんなある日──



ノロウイルス『私はようやく気づいたよ……』

ノロウイルス『人間は醜い! 最低の生き物だ!』

ノロウイルス『自分以外の生物を、己の胃袋を満たす餌としか思っていない!』

ノロウイルス『だから、我々一族は今日から能力を変質させる!』

ノロウイルス『他生物をむさぼる人間どもを、食中毒にしまくってやるのだ!』

ノロウイルス『我々ノロウイルス一族が、人間以外の生物の代弁者になるんだ!』

ハヤウイルス『やめろ、そんなことしてなんになる!』

ノロウイルス『黙れ! どうして止めたければ、全面戦争だ!』

ハヤウイルス『やるしかないようだな……!』



そして、俺たちは敗れ去った……。

~ 現在 ~

ハヤウイルス『──今やハヤウイルスの生き残りは、俺だけ……』

ハヤウイルス『もう増殖することもできねえ』

ハヤウイルス『だから俺は、ハヤウイルスの代表として、生き残りとして』

ハヤウイルス『ノロウイルスの親玉を止めなきゃならねえんだ!』

デブ「…………」

デブ「──分かったよ! やろう、ハヤウイルス!」

ハヤウイルス『ありがとよ、相棒!(ちったァ、マシな顔つきになったじゃねえか!)』

一方、その頃──

テレビ≪謎の肥満男が、次々に各地のノロウイルス患者を治療……≫



ノロウイルス『これは……間違いない。奴だ』

ノロウイルス『クックック……やはり生きていたか、ハヤウイルス!』

ノロウイルス(ちょうどいい機会だ……今度こそ根絶してやる!)

ノロウイルス(大軍を準備して──)

ノロウイルス(奴の宿主……デブの学校に総攻撃をかける!)

ノロウイルス(ハヤウイルスを宿主ごと始末したら──)

ノロウイルス(飲食店、どころではない。人類を根こそぎ営業停止にしてくれるわ!)

ノロウイルス『フハハハ……ハーッハッハッハッハッハ……!』

そして──

デブ「おっと、もう家を出ないと」

ハヤウイルス『おいおい、俺のスピードを使えば、もっと遅く出てもいいだろう』

デブ「そうはいかないよぉ」

デブ「対ノロウイルス以外では、君に頼らないことにしてるんだから」

ハヤウイルス『やれやれ……クソマジメなやつ』

ハヤウイルス『そんだけマジメなら、フツー食事も気をつかうから』

ハヤウイルス『太らないはずなんだがな』

デブ「そんなこというなよぉ~!」

学校──

デブ「な、なんだこれは!?」



ジャージ「うげぇ~……」ゲボッ

メガネ「うう……っ!」グダ…

不良「く、苦しい……動けねえ……」ピーゴロゴロ…

委員長「ああ……」グデン…

「うぅ~ん……」 「うげぇぇ……っ」 「気持ち悪い……」



デブ「み、みんな──いったいどうしたんだ!?」

ハヤウイルス『この症状……これはノロウイルスだ! 間違いねえ!』

デブ「なんだってぇ!?」

デブ「でも、この学校には給食や学食なんかないよ!?」

デブ「こうもみんな揃って、感染するわけが──」

ハヤウイルス『いや、ノロウイルスが本気を出せばこういうこともありえる』

ハヤウイルス『あいつらは一般に食中毒として恐れられているが』

ハヤウイルス『別に感染経路は食事だけとは限らねえからな』

ハヤウイルス『だが、昨日までこの学校にノロウイルスのノの字もなかった……』

ハヤウイルス『そんな場所を、こうも簡単に発病者だらけにできるということは──』

ハヤウイルス『優れた統率者──つまり“親玉”がいるってこった!』

ハヤウイルス『いるんだろ!? 出てこいよ、ノロウイルス!』

『クックック……よかろう』

ザワザワ…… ムクムク……

デブ「なっ……! ウイルスが集まって、人の形に……!?」

ノロウイルス『久しぶりだな……ハヤウイルス』

ハヤウイルス『お前こそな……ノロウイルス』

デブ「手をかざしても、みんなが治らない……みんなを元に戻せぇっ!」

ノロウイルス『この学校と校内の生徒は完全に我らが支配した』

ノロウイルス『もはやお前たちの能力でも、こいつらを治すことはかなわぬ』

ノロウイルス『治すには……私を倒すしかない』

ノロウイルス『もちろん、そんなことは不可能だがな』ニィッ

ハヤウイルス『調子に乗りすぎだぜ……ノロウイルス!』

ノロウイルス『今こそ決着をつけてやる』

ノロウイルス『いくぞっ!』ムキッ

デブ「すごい巨体だ!」

ハヤウイルス『集合して人間形態になったノロウイルスは』

ハヤウイルス『フツーに人を殴ることができる!』

ハヤウイルス『今のお前は俺が感染してるから、ノロにはかからねえから──』

ハヤウイルス『アイツはお前を殴り殺すつもりだ! 気をつけろよ!』

デブ「うん! でも大丈夫──」

ノロウイルス『喰らえッ!』ブオンッ

デブ「君のスピードがあれば!」ピシュンッ

ノロウイルス『ぬっ!(私のパンチをかわしただと!?)』

デブ「でりゃあっ!」ボッ

ドゴォッ!

ノロウイルス『ぐおおっ……!』

ハヤウイルス『よし、ボディにヒット!』

くちやーにくちゃーに

ノロウイルス『ぬおおっ!』ブウンッ

デブ「おっと!」ピシュンッ

ノロウイルス『つああっ!』ブオンッ

デブ「当たらないよぉ!」ピシュンッ

バキィッ!

ノロウイルス『ぐはァ!』ドサッ…

ハヤウイルス(すげえ……! デブの奴、俺のスピードを使いこなしてやがる!)

ハヤウイルス(もしかして、デブってスピードの素質があるんじゃねえのか!?)

ノロウイルス(ぐ……速い! デブのくせに速い! 攻撃も回避も速い!)

ノロウイルス(ハヤウイルスが体内にいる限り、こいつにノロウイルスは無効だし)

ノロウイルス(かといって私のパンチは当たらん!)

ノロウイルス(ならば──)

ノロウイルス『動くな!』ガシッ

委員長「うっ……」

デブ「!」ハッ

ノロウイルス『動けばこいつの首をヘシ折る!』ググ…

委員長「う、うぐっ……」ミシミシ…

デブ「ぐっ……!」

ハヤウイルス『バカ、止まるんじゃねえ!』

ノロウイルス『そこだぁっ!』ブンッ

ドボォッ!!!

デブ「げっ……うげええええっ!」ビチャビチャ…

ハヤウイルス(しまった! ゲロと一緒に排出されちまった!)

ノロウイルス『クックック……終わりだ、ハヤウイルス! 潰れろッ!』ブンッ

ズドォッ!!!

ハヤウイルス『が、は……っ!』ガクッ…

デブ「!!!」

デブ「ハヤウイルスゥゥゥゥゥッ!!!」

ノロウイルス『ずいぶん手こずらせてくれたが、これでお前はただのデブだ』

ノロウイルス『すぐにお前も奴の元に送ってやる……地獄にな!』ズオッ…

デブ「う!?」

ノロウイルス『ハヤウイルス亡き今、もはやお前に我らに対する抵抗力はない』

デブ「うっ……」

デブ「うげえええええっ!!!」ビチャチャ…

ノロウイルス『どうだ、吐き気が止まらんだろう!?』

ノロウイルス『どんどん吐け! ここにポカリスエットはない、脱水症状でくたばれ!』

デブ「うええええええっ!!!」ビチャチャチャ…

ノロウイルス『ハーッハッハッハッハッハ! 我々の勝利だ!!!』

デブ「おえええええええええええっ!!!」ドババババッ

ノロウイルス『終わった……』

ノロウイルス『さて、まずはこの学校の生徒を全滅させ』

ノロウイルス『一気に日本を営業停止に追い込む! そして世界中を──』



「待てよ」



ノロウイルス『……む?』ピクッ

ノロウイルス(なんだ、今の声は?)

ノロウイルス(ハヤウイルスは私の拳で潰し、あのデブも嘔吐して死んだはず……)

ノロウイルス(では、いったい誰だ!?)チラッ…

ノロウイルス『!!!』

ガリ「待てよ……」

ノロウイルス『誰!?』

ガリ「お前のおかげで余計なもんを全て吐き出した、ボクの真の姿だ……」

ノロウイルス『なにい!? お前……まさかデブ!?』

ガリ「みんなを傷つけ、ハヤウイルスを殺したお前を──ボクは許さない!」

ノロウイルス『ほざけ、痩せたからといってなにができる!』

ノロウイルス『今のお前ならば、私のパンチ一発でコナゴナだァ!』

ブオンッ!

ノロウイルス『命中ッ! 今度こそ仕留めた──』

ガリ「残像だ」フッ…

ノロウイルス『!?』

ノロウイルス『な……いつの間に後ろに……!?』

ガリ「いくぞぉ」

バババババッ!

バババババッ!

ノロウイルス『な、なんだこの速さは!? とても目で追い切れん!』

ガゴッ! ドッ! バキィッ! ゴッ! ガスッ!

ノロウイルス(ハヤウイルスが感染してた時より速──)

ガゴォンッ!

ノロウイルス『うげっ……な、なんだこの速さは!?』

ノロウイルス(まさか、ハヤウイルスの感染でこやつが持つ“スピード”の才能が目覚め)

ノロウイルス(嘔吐して痩せたことで、その才能が爆発した!?)

ノロウイルス(バカなァ!!!)

ガリ「トドメだぁ!」

ガリ「砕けろ、光速パンチッ!!!」



ドゴォンッ!!!



ノロウイルス『ぐごおっ……!』

ノロウイルス『お、おのれ……人間如きに敗れるとは……』

ノロウイルス『だが……私が死んでも、ノロウイルスは全滅したわけでは、ない……』

ノロウイルス『いつの日か……必ず、私の意志を継ぐ者が、現れ……る……』

ノロウイルス『覚え……て、おれ……』



ボシュウゥゥゥ……

ガリ「ハヤウイルスッ!」

ガリ「ボクの目じゃとても君を目視できないけど、まだ生きているんだろう!?」

ハヤウイルス『よく、やったぜ……デブ……いや、ガリか……』

ハヤウイルス『ノロウイルスは……まだ残ってるが……少しは大人しくなるだろ……』

ハヤウイルス『俺がお前を見出したのは……偶然じゃ、なかったんだ、な……』

ハヤウイルス『俺はお前の内に眠る、“スピード”に……惹かれてたん、だ……』

ガリ「しっかりしろっ!」

ハヤウイルス『ノロウイルスは、まだ地上に残って、るが……』

ハヤウイルス『大丈夫……人類(おまえ)らなら、大丈夫、さ……』

ハヤウイルス『あと……速くなったからって……早死にすんなよな……』

ハヤウイルス『…………』シュゥゥ…

ガリ「ハヤウイルスッ……!」



こうしてノロウイルスの宿敵、ハヤウイルスは地上から絶滅した──

そして時は流れ……



ババババババッ!

医者「……腫瘍の摘出、終わりました」カチャ…

助手(は、速っ!)

助手(なんてスピード……! 私、なにもすることがなかった……)

医者「次の手術の準備をお願いします」

助手「はいっ!」



デブ改めガリは、血のにじむような努力の末、医者になっていた。

ハヤウイルスによる感染で芽生え、ノロウイルスの感染で開花した“スピード”を生かし、



医者「ん~……お腹に悪性の腫瘍がありますね」

男「ホントですか!?」

医者「手術しましょう」

男「いつですか!?」

医者「今です」

男「マジで!?」

医者「治療は早いに越したことはありませんからぁ~」ニコッ



今日も患者を救い続けている。

なぜなら彼は──



助手「先生、働きすぎじゃないですか?」

助手「このままでは過労で倒れてしまいますよ」

医者「大丈夫、過労死しない程度にスピードは抑えてるよぉ~」

助手(あれでも抑えてるんだ……)

医者「だって、速くなったからって早死にするなっていわれたからねぇ」

医者(ハヤウイルスに……)



より早く、より速く、大勢の人間を救うことが

ハヤウイルスへの弔いになることを知っているから。






                                     おわり

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