サシャ「じっくり吟味しましょうか」(133)


・サシャ「隠し味なんてどうでしょう?」の続きです
・長いので分割して投下します


―― 休日 夕方 女子寮 ミカサたちの部屋

サシャ「ミカサ、手鏡貸してくれてありがとうございました」ペコッ

アニ「……」フキフキ

ミカサ「これくらい、お安いご用。また何かあったら言ってほしい。できるだけ力になりたい」ギュッ

アニ「……」キュッキュッ

サシャ「ミカサにはお世話になりっぱなしですね。……私、何か返せたらいいんですけど」

アニ「……ちょっとどいて」フキフキ

ミカサ「気にしなくてもいい。たまに湯たんぽになってくれれば、私はそれで充分」

アニ「ねえ、掃除の邪魔」

サシャ「それくらいだったらいつでも、いくらでもやってあげますよ! 任せてください! ――さあミカサ、いらっしゃいませ!」ババッ

ミカサ「おじゃまします!」ダキッ

アニ「……」イラッ


アニ「……ミカサ。サシャ」

ミカサ「何?」ゴロゴロ

サシャ「なんですかー?」ゴロゴロ

アニ「あんたたち、私が掃除してるの見えないの? それともわかっててわざと床で寝っ転がってるわけ?」

ミカサ「気づいていても、やめられないこともある」ゴロゴロ

サシャ「やめられないとまらないー♪」ゴロゴロ

アニ「…………ふんっ!」ゲシッ

ミカサ「!!」ササッ

サシャ「あいたぁっ!? ――あ、アニ、何するんですか!」ヒリヒリ

アニ「休みの日だからって食っちゃね食っちゃねしてるんじゃないよ……! 掃除の邪魔!!」イライライライラ

ミーナ「……アニ、お母さんみたい」フキフキ


アニ「大体あんたたち、部屋の掃除は終わったの? 休暇明けに出す課題は? 全部終わったんなら外で遊んできな」イライラ

ミカサ「掃除は今朝終わらせた。課題は出された日のうちに片付けた。外は寒いから行きたくない」

サシャ「掃除は一週間前にしたばかりなのでたぶん平気です。課題は今日の夜やります。外は大好きですけどミカサがここがいいって言ったので動けません」

ミーナ「なんて対照的な二人」

アニ「せめてベッドの上に移動してよ。床が狭い」

ミカサ「わかった。――サシャ、一緒に私の布団の上でゴロゴロしよう」イソイソ

サシャ「わかりました。ゴロゴロしながらお話ししましょう」モソモソ

アニ「ゴロゴロしない!!」バンッ!!

ミーナ「お母さんこわい」ガタガタ


ミーナ「ところで、二人で集まって何の話? ……恋の話!? きゃっほうだったら私も混ぜて混ぜてー!」ピョン

アニ「部屋の中で跳ねるんじゃないよ。埃が飛ぶでしょ」

サシャ「違います。私の手鏡を買いに行く話ですよ、ミーナ」

ミーナ「手鏡? サシャ、持ってなかったの?」キョトン

サシャ「部屋に少し大きめのはあるんですけどね。今までそういうことを全然気にしてなかったので、小さいのは持ってなかったんですよ。今回ミカサに手鏡貸してもらいましたから、どういうものがいいか大体見当はつきましたが」

ミカサ「つきましたので明日買い物に行く。二人でデートする」

ミーナ「へー……ねえ、よかったらお店何軒か紹介してあげようか? 明日アニのマフラーと手袋買いに行くからさ、そのついでに」

サシャ「えっ、いいんですか?」

ミーナ「まあねー。地元民の私に任せといて!」エッヘン

サシャ「おおっ、頼もしいです!」パチパチパチパチ

ミカサ「四人でダブルデートとは……素晴らしい。自慢して歩こう」

アニ「しなくていい。それに女同士なんだからデートじゃないよ」


サシャ「えっ? 女同士だとデートにならないんですか?」

ミカサ「なる」

アニ「ならない」

ミーナ「そこに愛があればなるんじゃない?」

サシャ「それじゃあ、二対一でなるってことでいいですね」

ミカサ「異議なし」

アニ「ならないってば」

ミカサ「そう思うならアニ、よく考えてみて。――あなたはミーナとお出かけする時に、その普段着で外に出るの? 髪を整えたりはしない?」

アニ「……ある程度はするよ。外に出るわけだし」

ミカサ「なら、それはデートということになるはず」

アニ「なんでそうなるの」

ミカサ「デートに行く時はおしゃれしたくなる。おしゃれしたくなるのはデートに行くから。よって成り立つ」

アニ「無理矢理同じにしないで」


ミーナ「デートってことはぁ……サシャは報告しないといけない相手がいるよね?」ニヤニヤ

サシャ「報告……? 誰にですか? 外出届は出すつもりですけど」キョトン

ミーナ「違う違う、ライナーに決まってるでしょ? 陰でこっそりデートしてたって聞いたらきっと怒るよー?」

アニ「ただのお出かけだけどね」

サシャ「えっ……怒られたくはないですね。わかりました、ちゃんと報告することにします」

ミーナ「そうそう。報告・連絡・相談は大事だからねー」

ミカサ「……私も、エレンやアルミンに報告したほうがいいだろうか」

アニ「あんたまで真に受けてるんじゃないよ」

ミカサ「でも去年までは、私はエレンやアルミンとばかり一緒に出かけていた。こういう報告をしたことがない」

ミーナ「えっ? 他の女の子と出かけたりしなかったの?」

ミカサ「ない。街でミーナやクリスタと偶然会って、そのまま合流したことはあるけれど、事前に約束したのははじめて」


ミカサ「今までの休日は、こうやって……女の子の友だちだけで、出かける機会がなかった。ので、サシャやアニやミーナと一緒に出かけられるのは……楽しみ。とても」

アニ「……そうなんだ」

サシャ「明日はいい日にしましょうね、ミカサ」

ミカサ「うん。いい日にしよう」

サシャ「私も田舎暮らしで、同年代の女の子と遊ぶ機会なんてありませんでしたから……ミカサの気持ち、わかります」

ミカサ「……似たもの同士?」

サシャ「そうですね。ラブラブですね、私たち」

ミカサ「……うん。らーぶらーぶ」スリスリ





ミーナ「……アニ、私たちもやろう。ラブラブしよう」

アニ「しないよ」フキフキ

ミーナ「ほっぺすりすりしよう」

アニ「しない」フキフキ


サシャ「じゃあ、夕食の後にでもライナーに言っておきますね。明日ミカサたちと遊びに行ってくるって」

アニ「完全に保護者への連絡だね」

ミーナ「……待って、サシャ。誰と出かけるかはライナーに話しちゃダメ」

サシャ「でも、相手がわからないとライナーも不安じゃないですかね」

ミーナ「そう、それだよ。――ねえサシャ。このままじゃいつまで経ってもライナーとの仲は進展しないよ? たまにはライナーを振り回してみたらどうかな?」

サシャ「そんな……ライナーの身体を持ち上げるなんて、私には無理ですよ」

ミカサ「いいえ、そんなことはない。サシャも鍛えて筋肉がついてきている。持ち上げるくらいはできるかもしれない。今度試してみるといい」

アニ「そういう物理的な話じゃないと思う」

ミーナ「あのねサシャ。いつもそばにいることだけが、アプローチの方法じゃないんだよ?」チラチラ

アニ「ミーナ。雑誌置いたら?」

ミーナ「えっとね……『恋の駆け引きは極上のスパイス』なの。『少し離れたり態度を変えてみることも、男女の関係には必要』なんだって……なんだよ? わかる?」チラチラ


サシャ「すぱいす……?? ってなんですか?」

ミカサ「香辛料のこと。つまり胡椒の類」

サシャ「!? ――それってつまり、ライナーの身体からスパイスが滲み出てくるってことですか!?」ジュルリ

アニ「出るわけがない」

ミーナ「おおっと、ここでアニが冷静なツッコミ」

ミカサ「確証はないけどたぶんそう」

ミーナ「しかし聞いてない」

サシャ「私やります! ライナーを振り回します!」

ミーナ「あれーおかしいなー? やる気が変な方向に出たぞー?」

アニ「私、知らないからね」

サシャ「スパイスは何にかけましょうかね……むふふ、やっぱり芋でしょうか……」ウットリ


ミーナ「待って待って、落ち着いて。そもそも人の身体からはそんなもの出ないよ?」

ミカサ「そんなことはない。――例えば、ジャンの目からは黄金が出ると聞いたことがある」

アニ「……そうなの?」

ミーナ「アニ、騙されないで」

ミカサ「人魚姫の涙が真珠になるなら、ジャンから出た何かが金になってもおかしくないはず」

アニ「ああ……よく馬面って言われてるもんね、そういえば」

ミーナ「物語と現実をごっちゃにしないで。――そもそもミカサは誰からそんな話聞いたの? アルミンとか?」

ミカサ「ううん。コニーから聞いた」

アニ「じゃあありえるかもね」

サシャ「ええ。コニーは嘘を言いませんからね」

ミーナ「コニーはお馬鹿さんだってことをみんな忘れてるみたい。……おかしいなぁ、私が変なのかなぁ」ウーン...


サシャ「ええっと、つまり……報告するけど報告しなきゃいいんですね。よくわかりませんがわかりました」

アニ「……やめておいたほうがいいと思うけどね、私は。そもそも、あんたたちは小細工向いてないでしょ」

ミカサ「そんなことはない。私は技巧もそれなりに得意」

サシャ「私はそこまで得意じゃないですね」

アニ「ねえミカサ。――あんた、去年のエレンの誕生日プレゼント買う時にさ、アルミン連れて『デートに行ってくる』ってエレンに言ったでしょ」

ミカサ「うん、言った。……すごい、よく覚えている。アニの記憶力は素晴らしい。立派」パチパチ

サシャ「すごいですねー」パチパチ

アニ「それでエレンが相手してくれなかったって、その日の晩にミーナに泣きついてたじゃない」

ミーナ「――と、ミカサに私を取られて当時さびしい思いをしたアニちゃんが申しております」

アニ「拗ねてない」

ミーナ「まったまたぁ、アニったらツンデレさんなんだから!」ツンツンツンツン

アニ「……」ゲシッ

ミーナ「痛い!」バターン!!

アニ「……つまり私が言いたいのは、そういう真似は卑怯だってことだよ。『やらなきゃよかった』って後悔しても、私は知らないからね」


―― 同刻 男子寮 エレンたちの部屋

エレン「よっと……本はこれで全部か? アルミン」ドサッ

アルミン「ううん、まだあるよ」ガサゴソガサゴソ ヒョイヒョイ

エレン「……俺、男子寮と資料室もう五往復したんだけど」

アルミン「もうちょっと頑張ろうね。そろそろ半分だから」ガサゴソガサゴソ

エレン「はっ、半分!? あれだけ運んで半分もいってないのかよ!?」

アルミン「そうだよ」ガサゴソ

エレン「……ま、まあいいや。お前の本好きは今に始まったことじゃないしな。それで、焼却炉に持ってくゴミのほうはまとまったのか? そろそろ時間が――」

アルミン「うん、そっちは終わったよ。これで全部」ドサドサドサッ

エレン「」


ベルトルト「アルミン。このままだとエレンが腰痛になっちゃうよ?」

ライナー「そうだぞ、もう少しエレンの腰を労ってやれ」

エレン「そう思うなら手伝ってくれよ。さっきから何読んでるんだ?」

ライナー「今度の山岳訓練の資料だ。――今回は雪山だからな。備えも万全にしておかないと」ペラッ

アルミン「そっか、もうそんな時期かぁ。エレンやベルトルトも参加するんだよね?」

ベルトルト「うん。僕も班長だよ」

エレン「俺もな。……でも俺、班長って柄じゃねえんだけどなぁ」ウーン...

アルミン「エレンは他の誰かに指示するよりも先に、自分が動いちゃうもんね。確かに指揮役っぽくはないかも」

エレン「……やっぱり向いてねえよな」ショボン...

ライナー「いいや、こういうのも経験だ。訓練兵のうちに学べるものは学んでおいたほうがいいぞ、エレン」


ライナー「最初からうまくできる奴なんかいねえだろ。むしろどん底から這い上がってくるほうが、伸びしろがわかりやすくてちょうどいいと思うがな」

エレン「……けどよ、今のこの時期にどん底ってのも、それはそれで問題じゃねえか?」

ライナー「何言ってんだ。お前の長所はそのどん底から這い上がってくる根性だろ? 三年前の姿勢制御訓練のこと、忘れたとは言わせねえぞ。――大丈夫、うまくやれるさ」

エレン「そう……だよな。やれるよな、俺だって」

ライナー「ああ。……俺もどっちかと言えば自分が動くタイプだからな。お前の気持ちもわかる」

ベルトルト「……」

エレン「っし! 気合い入った! ありがとな、ライナー!」グッ

ライナー「そりゃよかった。――あまり無理はするなよ」

エレン「俺の辞書に無理なんて言葉はねえよ! あるのは根性・努力・駆逐の三つだけだ!!」キリッ

アルミン「はいじゃあゴミ捨て行ってみよう!」ドサドサドサッ

エレン「」


エレン「……ライナー、ベルトルト。俺、焼却炉までゴミを駆逐しに行ってくるけど他に何かあるか?」

ベルトルト「いや、今は特にないけどさ。仮にあったとしても頼みにくいよ……」

ライナー「普通の掃除にしちゃ、やけに量が多いな。なんでこんなに溜め込んでたんだ?」

アルミン「溜め込んでたんじゃなくて、大掃除してたんだよ。――ほら、卒業試験の後ってすぐに解散式でしょ? だから、比較的暇な今の時期にまとめてやっちゃう人が多いんだって」

エレン「今日は二人ともずっと寮にいたけど、大掃除やらないのか?」

ベルトルト「僕、あまり物は持たないようにしてるから。大掃除しなきゃいけないほど散らかってないよ」

ライナー「そもそも普段から綺麗にしておけば大掃除なんてもんはいらねえだろ」

エレン「正論すぎて」

アルミン「耳が痛い……」ズーン...

ライナー「……あっ、いや、その、すまん」アタフタアタフタ

ベルトルト「えっ、えーっと……そうだ、アルミンは物持ちいいもんね。僕も何度か助けられたりしたなぁ」アタフタアタフタ


エレン「アルミンはノートも多いんだよなー。冊数だけなら本よりも多いし」ペラッ

ベルトルト「……待ってエレン。今めくったノート中身、真っ黒だったよ?」

ライナー「アルミン、お前のノートは黒いのか? 黒板だったのか?」

アルミン「違う違う。本を読んで気になったところをノートに書き写してたんだ。それがどんどん増えちゃっただけ。……あっ、エレン。そっちの束はもう覚えちゃったノートだから捨ててもいいよ」

エレン「その都度捨てろよ。今更だけど」

アルミン「次から気をつけるよ。今更だけど」

ライナー「そっちに積んである本も処分するのか?」

アルミン「これ? ――ううん、これは資料室に寄付する本だよ」

ベルトルト「分厚い本ばかりだね。アルミンらしいと言えばそうなのかもしれないけど」

エレン「辞書みたいな専門書ばかりだから、司書のおばちゃんは喜んでたな。三回目辺りになったら流石に引いてたけど」

アルミン「こうして僕が置いていった本がさ、将来誰かの役に立ったらと思うと嬉しいよね」


ベルトルト「ところで、そっちいかがわしい本の山は?」

アルミン「……寄付するよ」

ライナー「資料室にか?」

アルミン「まさか。この部屋に何冊か隠しておくんだよ。――僕はね、将来ここの部屋を使った誰かが、この本を手にしたことで健全な生活を手に入れる……そういうことに幸せを感じるんだ」

ベルトルト「内容は不健全だけどね」

ライナー「しかし、この量じゃ隠すにしたって多すぎやしないか? どこにしまうのかは知らないが、この本全部が入るほどのスペースがあるとはとても思えないんだが」

アルミン「……ベルトルト。これは僕からの、ささやかなプレゼントだよ」スッ

ベルトルト「えっ? ……ああ、うん」

アルミン「ほら、ライナーにはこっちのお尻が素敵な女の子をあげるね。エレンにはこの黒髪の子を――」

エレン「俺たちに処分させる気満々じゃねえか!!」バシーン!!

アルミン「僕だって入団はじめはこんなことになるなんて思ってなかったんだよ!! なんでみんな僕に預けていくのさ! 木を隠すなら森の中って言っても限度があるだろ!! 自分で買ったいかがわしい本なんかこの中に片手ほどもないよ!?」

エレン「俺に黙っていつ買ったんだぁっ!?」

アルミン「ああああどうしようどうしよう!! これ一体どうしたらいいんだよ!!」グルグルグルグル


ライナー「……」

ベルトルト「……」

アルミン「……あれ? ライナー、ベルトルトどうしたの?」

ライナー「すまん、アルミン。――これはもらえない」

ベルトルト「僕も。ごめんね」

アルミン「ううん、それはいいけど……好みに合わなかった?」

ライナー「いや、ど真ん中ではあるんだが」ソワソワ

ベルトルト「正直家宝にしたいくらいなんだけど」ソワソワ

ライナー「いざという時にすぐ動けるように、物はあまり持たないようにしてるんだ。……だから、その本は受け取れない」

エレン「そういや、ライナーもベルトルトもやけに荷物少ないよな。いつもすっきりしてるとは思ってたけどよ」

ベルトルト「まだ何冊か残してるけどね。……試験で使うもの以外は、全部処分するつもりだよ」


アルミン「二人とも、手元に何も残さないの?」

ベルトルト「……残しても、荷物になるだけだから」

ライナー「兵士は身軽なほうがいいからな」

エレン「ふーん……そんなもんか。でも二人とも憲兵になるんだろ? 遠征の多い調査兵団や異動が多い駐屯兵団と違うんだから、身軽でいる必要なんかないんじゃねえの?」

ライナー「憲兵だって異動がないわけじゃないだろ。もちろん、他の兵団より頻度は低いだろうけどな」

アルミン「……ライナーとベルトルトは、兵士は身軽なほうがいいって思うの?」

ベルトルト「端的に言っちゃえば、そういうことになるのかな」

アルミン「……僕は、そう思わない。何冊か手元に残すよ。だって読みかけの本とかあったらさ、何が何でもこの場所に帰ってこようって思えるじゃないか」

エレン「おいおい、読みかけの本って……そりゃアルミンの話だろ?」

アルミン「……でも」

ライナー「すまんなアルミン、お前の考えを否定する気はないんだ。――ただ、俺たちがそうだってだけで」

ベルトルト「……」

ライナー「変な空気にして悪かったな。――そっちの本、運ぶの手伝わせてくれ」

アルミン「……ううん、僕こそごめん。お願いするね」


―― 夕食前 女子寮 廊下

クリスタ「焼却炉、混んでたねぇ」スタスタ...

ユミル「何をそんなに燃やすものがあるんだかな」

クリスタ「でも部屋も綺麗になったし、今日は気持ちよく寝られそうだよね!」

ユミル「ああ、クリスタが頑張ったからな。さっぱりした気持ちで寝られるってのはいいもんだ」ガチャッ



                                   \グチャァッ.../



           \デローン.../



ユミル「……部屋間違ったか?」

クリスタ「ううん、合ってるよ」

ユミル「……」

クリスタ「……」ゴソゴソ


クリスタ「サシャ、出ておいでー。あめちゃんあげるよー」パンパン

サシャ「お菓子ですか!? ください!!」モゾモゾ ヒョコッ

ユミル「てめえよくもクリスタが折角綺麗にした部屋をここまで汚してくれやがりましたなこんちくしょうが」メリメリメリメリ

サシャ「ぎゃあああああごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」ジタバタジタバタ

クリスタ「ユミル、どうどう! サシャの頭が変形しちゃう!」グイグイ

ユミル「……ちっ」ポイッ

サシャ「あうっ。……うう、お尻に続いて頭とは、今日は厄日ですね」サスサス

クリスタ「ねえサシャ、こんなに広げて何かあったの? 探しもの?」

サシャ「はい。あの……これの中身、知りませんか?」パカッ

クリスタ「空箱?」

ユミル「ああ、ライナーにもらった髪ゴムか」

サシャ「箱に入れておいたはずなんですけど、今……今見たら、なくなってて」

ユミル「……顔真っ青だぞ、お前」


サシャ「いったいいつ落としたんでしょうか……それとも、寝ぼけて食べたとか……?」ブツブツ

クリスタ「……」チラッ

ユミル「……」チラッ

クリスタ「……おおきなくりのーきのしたでー♪」スッスッ

サシャ「……? あの、クリスタ? 何やってるんです?」

クリスタ「はーいじゃあ一緒にやってみよー。――おおきなくりのーきのしたでー」スッスッ

サシャ「は、はぁ……おおきなくりのーきのした――ああっ! ありましたぁっ!」サワサワ

クリスタ「うっかりさんだね、サシャ」クスクス

サシャ「……というか、何も歌わなくたって『頭を触れ』って言えば終わる話だったんじゃ」

ユミル「何言ってんだサシャ。天使は歌を使わないと下々の民に言葉を伝えられないんだぞ」

サシャ「なんと」

クリスタ「真に受けないでね、サシャ」


サシャ「……また後で慌てそうなのでしまっておきましょう。もう夜ごはん食べて課題やってお風呂に入るだけですし」シュルッ

クリスタ「そうだね、そうしたほうがいいと思うよ。――でも代わりにそれをつけてたってことは、いつもの髪ゴム使い切っちゃったの?」

サシャ「そうなんですよ。今朝三つくらいブチブチ切れちゃいまして……なんでこういうものって一気にダメになるんですかね、不思議です」ウーン...

ユミル「私もそうだぞ。不思議だな」

クリスタ「でも、髪ゴムがないと不便だね。サシャの髪、広がりやすいから」

ユミル「私のやるか? 確か何本かあるぞ」ゴソゴソ

サシャ「いえ、明日ついでに買いに行くのでいいですよ。平気です」

ユミル「明日? なんだ、どこか出かけるのか?」





サシャ「はい。――実は、デートなんですよ!」


―― 夜 食堂

ライナー「……いや、知らないが」

クリスタ「えっ、ライナーとデートじゃないの?」

ユミル「あぁーっ、浮気かぁー。お前がしっかり手綱握っとかないからだぞぅー(棒)」

ライナー「……」メキッ

ベルトルト「ライナー、スプーンが曲がってるよ」

ライナー「……曲がってないぞ」グイッ

ベルトルト「今、自力で元に戻したでしょ」

ライナー「気のせいだ」

クリスタ「……ちょっとユミル、からかうのはよくないよ」ヒソヒソ

ユミル「まあまあ、そう怒らずによく考えてみろよクリスタ。……髪ゴムなくしただけで顔青くする奴が、浮気なんてするわきゃないだろ」ヒソヒソ

クリスタ「……それはそうかもしれないけど」


ユミル「というわけでどうすんだ? 相手探しに行くか? 行くのか? 行っちゃうのか?」ニヤニヤ

ベルトルト「……」チラッ

ライナー「……いいや。探さない」

ユミル「おっ、意外な反応」

ライナー「大体なんで俺がサシャの人間関係まで面倒見なきゃいけないんだ?」スカッ スカッ

ユミル「……」

ベルトルト「……」

クリスタ「ライナー、あのね……さっきから、パン掴めてないよ。一生懸命空気掴んでるよ?」

ライナー「休日くらい、あいつの好きにすればいいんじゃないか? 俺には関係ない」カツカツ

ユミル「……」

クリスタ「……」

ベルトルト「ライナー。フォークじゃスープは飲めないよ」

ライナー「……」


ライナー「……ところで、サシャは一緒じゃないのか? 食堂には一緒に来てたよな?」チラッチラッ

ユミル「あっちでエレンとミカサとアルミンと四人で食べてるぞ。なんか話があるらしくてな」

ライナー「……」チラッ





サシャ「今日のスープ、味がいつもより薄いです」ションボリ

アルミン「まだ壁内との流通が完全に戻ってないらしいからね。具も少なめだし、調味料もかなり減らしてるのかも」

サシャ「……切ないです」シュン

アルミン「あと何日かすればまたいつもの食事に戻るよ。――元気出して、サシャ」

サシャ「はーい……」


ミカサ「エレン、アルミン。――私は明日、街へ出かける」

アルミン「明日? ……ごめん、明日は僕付きあえないや。エレンと二人で行ってきてくれる?」

エレン「俺も部屋の片付けあるから無理だぞ」

ミカサ「違う。二人を誘ってるわけじゃない。他の人とお出かけする」

アルミン「他の人?」

ミカサ「デートしてくる」

エレン「そっか。がんばれよー」

ミカサ「……」

アルミン「エレン、せっかくミカサが話してくれてるんだからもう少し聞いてあげようよ。――ねえミカサ、誰と出かけるの? デートってことは他の男の子?」


エレン「そんなこと聞かなくてもわかるって、アルミン。―― 一緒に食べてるってことは、相手はサシャだろ?」チラッ

サシャ「おおっ、エレンにしては鋭いですね。……バレてしまっては仕方ありません。その通りです」フーッ

エレン「なんでドヤ顔してんだ」

アルミン「サシャと二人で出かけるの? ミカサ」

ミカサ「ううん、違う。アニとミーナも一緒。だから四人。ダブルデート」

アルミン「へえ……珍しい面子だね」

エレン「お前、アニと仲悪くなかったか? 一緒に出かけて大丈夫かよ」

ミカサ「犬と猿だって共通の目的があったら仲良くする。桃太郎のように」

エレン「何の話だ」

サシャ「つまり心配ないってことですよ。それに、明日は私やミーナもついてますし!」

アルミン「そうだね、サシャがいるなら大丈夫かな。……明日はミカサのことよろしくね、サシャ」

サシャ「任せてください! なんてったって私のほうが一つ年上ですからね!」


エレン「ふーん。――まあいいや、いってらっしゃい。お土産よろしくなー」フリフリ

ミカサ「……」

アルミン「エレン、もうちょっと気の利いたこと言ってあげなよ。――明日はいい思い出作れるといいね、ミカサ」

ミカサ「……うん。作る」

アルミン「ところでどうしてサシャは空気に座ってるの? きつくない?」

サシャ「……お尻が痛くて、椅子に座れないんです」プルプルプルプル...





クリスタ「距離が遠くて声が聞こえないね」

ライナー「……ちょっと待て。あいつ座高伸びたんじゃないか?」ガタッ

ユミル「知らねえよ。本人に聞いてこい」

ベルトルト「ライナー、行儀が悪いよ。座って」グイ


―― 夕食後 食堂近くの廊下

サシャ(話し込んでたらすっかり遅くなっちゃいましたね。帰ったら課題を片付けてー、お風呂に入ってー、明日の準備してー……あっ、ライナーに報告もしないと――)テクテク...

ライナー「おい、サシャ」

サシャ「ふぁい?」クルッ モグモグ

ライナー「……歩きながら物を食べるな」

サシャ「あっ、あー……これはですね、違うんですよ。私がやめてって言ってるのに、食べ物が無理矢理口の中に入ってきたんです。だから、私のせいじゃないんです」コソコソ

ライナー「……明日、出かけるんだって?」

サシャ「そうですけど……あれっ? 誰から聞いたんですか?」

ライナー「クリスタとユミルだ。――デートらしいな」

サシャ「はい、そうですよ!」

ライナー「……そう、か。デートなのか」


ライナー(やっと、俺以外のいい男を見つけたんだな)

ライナー(先のない俺よりも、壁内の誰かと結ばれるほうが、サシャにとっては断然いい。祝ってやらないとな。…………ん?)

サシャ「……」ジロジロ

ライナー「……なんだ? 俺の顔に何かついてるか?」

サシャ「スパイス出ませんね」ボソッ

ライナー「は?」

サシャ「いえ、なんでもないです」

サシャ(うーん、振り回し方が足りないんでしょうか。ライナーからスパイスが出る気配が全くありませんね……あっ、そうだ)

サシャ「ライナー、ちょっと後ろ向いてくれます? そっちのほうがやりやすいので」

ライナー「別に構わんが……これでいいか?」クルッ

サシャ「はい、大丈夫ですよ。――それじゃあ失礼しますね」ダキッ


ライナー「……」

サシャ「ふぐぐぐぐ……」ギューッ

ライナー「……サシャ。お前何してるんだ」

サシャ「ちょっとした実験です……っ! うぐぐぐぐ、持ち上がりませんね……っ!」グイグイ

ライナー「……放してくれ」

サシャ「え? ――すみません、痛くなっちゃいました?」パッ

ライナー「そうじゃない。……そういうことは、もうやめろ。デートの相手に勘違いされたら、お前が困るだろ?」

サシャ「勘違い……?」キョトン

ライナー「お前が誰かに抱きつくような格好を見たら、怒るだろうが」

サシャ「大丈夫ですよ、ちゃんと了解取ってますから!」

ライナー「……気軽に他の男に触らせるなんて、そいつは随分懐が広いんだな」

サシャ「そういえば、結構懐には余裕があるみたいですね」ウーン...

サシャ(夏に四人でハンバーグを食べに行った時、ミカサに秋物一着選んでもらったんですよね。懐かしいです)

ライナー「……」


サシャ(というか、ライナーに嫌がられちゃいましたね……男の人が女の人に物理的に振り回されるのは、いい気がしないのかもしれません。ミカサが担ぎ上げれば、エレンはいつも思いっきり抵抗しますし)

サシャ(でも、ここでスパイスを諦めるのはもったいないですよね……うーん、いっそライナーに「スパイスが欲しい」って正直に相談してみましょうか。案外すんなりと手伝ってもらえるかもしれません)

ライナー「……お前にも、いい奴が見つかったんだな。サシャ」

サシャ「へ? まあ、そうですね……とてもいい人ですよ!」

ライナー「明日は楽しんで来いよ」

サシャ「? そのつもりですけど」キョトン


ライナー(相手は結構いい加減な奴みたいだが……ここで、俺が引き止めるのは野暮だよな)

ライナー「……」

サシャ「……? ライナー、元気ないですね。スープはちゃんと飲みました? 薄くても全部飲んだほうがいいですよ? ……あ、そうだ」ゴソゴソ

サシャ「元気がない時は何か食べるのが一番ですよ。――というわけで、これどうぞ。クリスタからのもらいものなんですけどね、飴玉です」コロン

ライナー「……サシャ」

サシャ「はい、なんでしょう?」





ライナー「――出かけるなら、明日は立体機動装置をつけていけ」

サシャ「……はい?」


サシャ「つけていけって言われても……そんなことしたら出かける前に独房にぶちこまれちゃいますよ。無事に訓練所の外に出たとしても、今度は駐屯兵に捕まっちゃいますし」

ライナー「街で悪漢に絡まれたらどうする」

サシャ「走って逃げます」

ライナー「走って逃げたら迷子になるかもしれないぞ」

サシャ「……まあ、否定はできませんが」

ライナー「道がわからないからといって怪しげな路地には入るなよ? 迷子になった時は駐屯兵でいいから声をかけろ」

サシャ「そこまで子どもじゃないですよ。訓練所まで、ちゃんと一人で帰れます」

ライナー「そもそも明日はどこに行くか決まってるのか? 相手との打ち合わせは済んだのか? 貴重な休みなんだから行き当たりばったりで行動するのは避けろよ? 道に迷う原因にもなるからな」クドクド

サシャ「……」

ライナー「ああそうだ、靴はすぐ動けるように履き慣れた靴を履いていけ。スカートは万が一のことを考えてやめたほうがいいな。最近特に冷え込んできたから温かくしていけよ。でもあのマフラーは今回はやめておくんだな。長すぎて扉に挟んだり踏まれたりしたら大変だ。手袋は持ってるのか? 帽子があるなら被っていけよ? 明日は晴れるらしいから軒下に行くんじゃないぞ? 上から雪が落ちてきたら危険だからな」クドクドクドクド

サシャ「……」ムカムカ


サシャ「……ライナー」

ライナー「課題は今日のうちに片付けておくといいぞ。明日は余裕を持って門限の十分前までには帰ってくるんだ。そうだ、財布とハンカチだけは忘れるなよ。帰ってきたら手洗いうがいはしっかりやれ。お前は食い物のことを考えると周りが見えなくなるんだから、一緒に出かける奴のこともちゃんと考えてやれよ?」クドクドクドクド

サシャ「ライナー」

ライナー「なんだ」

サシャ「そんなに心配されなくたって、自分のことくらい自分で始末つけられます。……私、ちっちゃい子どもじゃないんですよ」

ライナー「でも俺より年下じゃないか」

サシャ「一個だけじゃないですか。――それに、明日はライナーより強い人と行くので大丈夫ですよーだ!」ダッ

ライナー「あっ! ――おい待てサシャ! 話はまだ終わってないぞ!」ダッ

サシャ「知りませんライナーなんかぁっ!」アッカンベー


―― しばらく後 女子寮 ユミルたちの部屋

サシャ「……」カキカキ

クリスタ「……ねえユミル。机に向かってるってことは、サシャは今課題をやってるんだよね?」ヒソヒソ

ユミル「ああ、明日出かけるらしいからな。今しか片付ける時間ないんだろ」ヒソヒソ

クリスタ「でも、なんか……怒ってない?」

ユミル「奇遇だな、私にもそう見える。…………サシャ、わからないところあったら言えよ。見てやるから」ポンポン

サシャ「……」クルッ

サシャ「……」

サシャ「……」ムカムカ

サシャ「ふんがー!」スクッ ゴロゴロゴロゴロ

クリスタ「!? サシャ、どうしたの!?」


サシャ「私は! 私は!! 子どもじゃありませんよーっだ!! むきーっ!!」バリバリバリバリ

ユミル「うるっせえな野生動物かお前は!!」

クリスタ「サシャ、どうどう! ――ほら、さっきあげた飴でも食べて落ち着いて?」

サシャ「……すみませんクリスタ。さっきの、ライナーにあげちゃいました」シュン

クリスタ「そうなの? 別にいいけど……じゃあもう一個あげるね?」ゴソゴソ

サシャ「えっ、いいんですか? やったー!」バンザーイ

ユミル「……お前、あの飴をライナーにやったのか? 一つしかなかったのに?」

サシャ「そうですよ? なんだか元気がなかったのであげてきました」ペロペロ

ユミル(サシャが食べ物を分けただと……? しかも、自分の取り分を失ってまで……!!)

クリスタ(うーん、尚更浮気してるようには見えないんだけどなぁ……明日は、誰とお出かけするんだろう……?)


―― 同刻 男子寮 エレンたちの部屋

ライナー「俺より強い男子って誰だと思う?」

ベルトルト「寝たら?」

ライナー「……」

ベルトルト「……」

ライナー「俺より強い男子って誰だと思う?」

ベルトルト「二回言わなくても聞こえてたよ。……格闘術の話ならエレンってことになるんじゃない? 君、訓練中は手を抜いてるし」

ライナー「そうか。 ――おーいエレン、ちょっと投げさせてくれないか?」

エレン「は?」キョトン

ベルトルト「いやいやいやいやちょっと待った待った」ガシッ


エレン「やだよ。投げられたら痛いだろ」

ライナー「そうか、ならいい。――ベルトルト、他には?」

ベルトルト「他にはって……アルミンは頭がいいけど、それが強いってことにはならないだろうし」

ライナー「おーいアルミン、ちょっとチェスやらないか?」

アルミン「今日はもう少し本の整理したいから、また今度ね」

ライナー「そうか、頑張ってくれ。――ベルトルト、他には?」

ベルトルト「……ジャンは立体機動のトップクラスだよね」

ライナー「よし」スクッ

ベルトルト「よしじゃないよ座って」グイグイ


ベルトルト「なんなの……なんなの君、黙って話できないの? 野生動物か何か?」

ライナー「黙ったままじゃ話はできないぞ、ベルトルト」ハッハッハ

ベルトルト「何かあったんだね?」

ライナー「……ここじゃ話せん。少しいいか?」

ベルトルト「わかったよ。――エレン、アルミン。僕たちちょっと出てくるね」スタスタ...

エレン「おう、点呼までには戻ってこいよー」フリフリ

アルミン「行ってらっしゃーい」フリフリ

エレン「……なんだ、二人で連れションか?」

アルミン「ううん、違うよ。何か話があるみたい」

エレン「ここで話せばいいのになー」

アルミン「そうだよね。……何か、都合の悪いことでもあるのかなぁ」


―― しばらく後 兵舎裏

ライナー「――ということがあったんだ」

ベルトルト「うん、そもそも食堂で言ってたことと今やってることが丸っきり違うんだけどそれは置いておくね。――ライナーはさ、デートの相手を突き止めたいの? それとも自分のほうがその相手より強いことをサシャに証明したいの?」

ライナー「両方だな」キリッ

ベルトルト「なるほどね、大体わかった。……でもさ、自分を強く見せたいんだったら、サシャの前でやらなきゃ意味がないと思うよ」

ライナー「……それもそうだな」ポンッ

ベルトルト「あと対象が無差別過ぎるから、相手を突き止めるまでは自重してね。……とはいえ君より強い訓練兵って、僕にはミカサしか思い当たらないんだけどな」ウーン...

ライナー「何言ってるんだ、ミカサは女だぞ?」

ベルトルト「知ってるよ。――他に何かヒントはないの?」

ライナー「そうだな……そういや、懐が広いって言ってたな。――待てよ、もしかしたら教官かもしれない」ハッ

ベルトルト「わあ。禁断の恋だね」

ライナー「……真面目に聞いてるか?」

ベルトルト「真面目に聞いてほしいならやる気をガンガン削ぐようなこと言わないでくれるかな。――そんなに気になるなら、サシャに直接相手を聞いてくればよかったのに」

ライナー「!? その手があったか……! ベルトルト、お前頭いいな!」バシバシ

ベルトルト「君が馬鹿になっただけだろ」


ベルトルト「そこまでご執心なのに、『嘘でもいいから付き合う』って選択肢が出てこないのが君らしいよね」

ライナー「そんなことしたらあいつに失礼だ。――それに、これ以上嘘は吐きたくない」

ベルトルト「今更嘘の一つや二つ増えたところで、あの子は気づかないと思うけどな」

ライナー「いいや、意外とあいつは鋭いぞ。前に食事の癖を見抜かれたことがあっただろ。観察力も無視できないものがある」

ベルトルト「ああ……アニも入れて四人で街に行った時ね。確かにあの時は驚かされたな」

ライナー「それだけじゃない。――俺たちの秘密も、あいつにはバレてる」

ベルトルト「……まさか君、話したの?」

ライナー「んなわけあるか。『隠し事がある』ってことがバレてるんだ。お前が提案したように、仮にあいつと付き合うことになったとして――」

ベルトルト「なったとして?」

ライナー「……なれたらよかったなー」ボソッ

ベルトルト「もしもし? 現実逃避は後からにしてくれる?」

ライナー「……なったとして、だ。そうすれば、少なからず俺の態度にもおかしなところが出てくるだろ? その違和感に気づいたサシャが、中身を確かめようと足を突っ込んでくる可能性は捨てきれない」

ベルトルト「それは……厄介というか、面倒だね」


ライナー「……なあ、ベルトルト。あいつ、変わったと思わないか?」

ベルトルト「え? ……そうかなぁ、食い意地は前とは変わってないと思うけど。食べ物与えたら今でも簡単に寝返りそうだし」

ライナー「正直、新鮮な海の幸でもぶら下げればあっさりついてくるんじゃないかとは俺も思う」

ベルトルト「だよね。……だから、やっぱりあの子はちっとも変わってないと思うよ」

ライナー「けどな、あいつは入団してからつい最近までずっと芋女だったんだぞ? ……いや確かに第一印象はそうだったがだからといって女扱いしてなかったわけじゃないしそれに」

ベルトルト「ライナー、ライナー。落ち着いて」

ライナー「……つまりだな。今のサシャはそうじゃないだろ。前だったら考えられないくらい、真剣でひたむきだ。俺にはもったいないくらいのいい奴だ」


ライナー「自分を騙して、嘘を吐いて兵士としてあいつと接するってことは……いい加減な気持ちで、真剣なあいつと向きあうってことだ。そういうことはしたくない」

ライナー「かといって、俺たちの任務には巻き込めない。……巻き込みたくない、が正しいな。もし全部話すことになって、全てを理解した上で『ついていく』と言われたとしても、俺はあいつを置いていく」

ライナー「どう足掻いても、俺はあいつの隣にはいられない。だからこそ、今はできるだけ正面から応えてやりたいんだ」

ライナー「そのせいで、いずれあいつが傷つく結果になったとしても……中途半端なクソ野郎にだけはなりたくねえんだよ。あいつに幻滅されたくないんだ」

ベルトルト「……さっきの君を見たら幻滅すると思うけど」

ライナー「えっ……そ、そうか。幻滅されるか」シュン


ベルトルト「なんで君は、そうやってきつい道ばかりを選ぼうとするのかな。自分に厳しいのもほどほどにしなよ?」

ライナー「お前こそ、代案は出したが勧めはしないんだな」

ベルトルト「偽の恋人に本気になってもらっちゃ困るからね。――つまり、君に対するサシャの気持ちがどうであれ、だ」



ベルトルト「……伝える気も、応える気もないんだよね?」



ライナー「……どっちも無理だろ。――それに、ついさっき怒らせちまったからな」

ベルトルト「怒らせたって……何かあったの?」

ライナー「ああ。あっかんべーされた」

ベルトルト「何それ羨ましい」ギリッ

お待たせしてすみません 今日は取り敢えずここまでー ダブルデート・亜種は明日以降
保護者たちの受難は続く

>>1です 今日残りを全部投下予定だったんですがライサシャパートをがっつり直したくなったので途中までにします すみません
というわけで再開


―― 翌日昼 女子寮 ミカサたちの部屋

ミカサ「……」ゴソゴソ

アニ「ミカサ。服選びに何分かけてるの」

ミカサ「デートだからおしゃれしないといけない。服は吟味しなくては」ゴソゴソ

アニ「……」イライラ

ミカサ「これはどう?」ピラッ

アニ「……いいんじゃない」

ミカサ「適当に答えられると、いくら私でも傷つく」シュン

アニ「……しょうがないね。手伝うから早く決めな」ハァ

ミカサ「アニは意外と優しい」

アニ「意外とは余計だよ。……これはどう? 羽織ってみてよ」スッ

ミカサ「年上なだけはある。――羽織った」モソモソ

アニ「一つしか違わないでしょ。……色が合わないね。別のはある?」


ミカサ「うん、こっちにある。……でもエレンを痛めつけるのはよろしくない。そこは直してほしい」ゴソゴソ

アニ「好きでやってんじゃないよ。いつまで経っても女の子との話し方を覚えないあいつが悪い」

ミカサ「……ここだけは、いつも平行線」ムー...

アニ「あんたの過保護は目に余るよ。エレンも息苦しいんじゃない」

ミカサ「それは大変。呼吸は大事」

アニ「……あんた、比喩くらいわかるでしょ」

ミカサ「アニは冗談が通じない」

アニ「……」

ミカサ「ところで立体機動装置は持っていったほうがいい?」

アニ「あんたは壁外にでも行くつもりなの?」


ミカサ「よく考えてみて。――もし、アニがよからぬ輩に連れ去られたとして」

アニ「ないよ」

ミカサ「例えばの話。連れ去られた時、そいつらを追いかけるために機動力は必要。相手が銃を持っていることも考えれば武器も必要」

アニ「いらないよ。要人警護じゃあるまいし」



ミーナ「……今日のアニは、いつもよりちょっとお喋りだね」クスッ

サシャ「そうなんですか?」

ミーナ「うん。トロスト区に大雪も降るわけだよ。夕方から天気崩れるかもね」

サシャ「上着持って行ったほうがいいですかねー」ウーン...

ミーナ「上着はいいけどフードは被っちゃダメだよ、髪型崩れちゃう。……はいサシャ、できたから鏡見てみて」スッ

サシャ「……おおー」ジーッ...


ミーナ「サイドを編み込んで髪ゴムでまとめたの。いつものポニーテールとはちょっと違う感じでしょ?」

サシャ「……ほどくの大変そうです」

ミーナ「帰ってきたらやってあげるよ。ちなみにアニはハーフアップにしたんだ。ミカサは着替え終わったらカチューシャ風にまとめるつもり」

サシャ「ミーナは前髪しか編み込んでないみたいですが、自分の分はいいんですか?」

ミーナ「正直、自分の髪をいじるより他人の髪をいじる方が楽しいんだよね。サシャの髪は長くてやりがいがあるし、ミカサやアニはサラサラしてるし」

アニ「……ミーナ、サシャ。編み込み終わったならあんたたちも手伝ってよ」

ミーナ「アニが手がけたコーディネート見てみたいから嫌」

サシャ「お菓子食べてるので無理でーす」モグモグ

アニ「……」イライラ


―― 午後 トロスト区 街中

ミーナ「うーん、いい天気! ――こうやって一緒に街に出たのは久しぶりだね、アニ!」ノビー

アニ「もう帰っていい?」

ミーナ「やだなぁ、まだ店にすら着いてないよ?」アハハ

アニ「肩に鬱陶しいのが引っ付いてるんだよ」シッシッ

ミカサ「鬱陶しいとは心外。私はアニの首回りを暖めるために全力を尽くしている。アニはもっと喜ぶべき」モフモフ

サシャ「あっちからいい匂いしませんか?」フラフラ...

アニ「そっちじゃないでしょ」ガシッ

ミーナ「ねーねーアニー早く行こうよぉー」グイグイ

アニ「……」イライライライラ


ミーナ「そうだ! せっかくのデートなんだから、色々それっぽくしようか?」ポンッ

アニ「しない」

ミーナ「じゃあ私からやるね。――ごめーん、待った?」キャピッ

アニ「ミーナ、尻出しな。蹴ってあげるよ」

ミーナ「違うよアニ。そこは『ううん、私も今来たところ』って答えなきゃ」

ミカサ「デートのお作法なら、私も知っている。……だーれだ」ササッ

アニ「前が見えない」

サシャ「おっと、それは危険ですね。ああそうだ、足元滑りますから気をつけてくださいね、アニ」

アニ「なんでみんな私にいろいろしたがるの?」

ミカサ「私はアニのマフラーだから」

ミーナ「私はアニの親友だもん!」

サシャ「ええっと、じゃあ私はアニの……アニの、なんでしょう。一応格闘術の特訓してもらってますから弟子になるんですかね? ねえ、アニは何がいいですか?」

アニ「……どうでもいい」


―― しばらく後 とある雑貨店

ミーナ「はーい到着! ここです!」ジャーン!!

サシャ「おおおおー……なんかお店の中がぴかぴかしてますね」キョロキョロ

ミカサ「服も売ってる。小物もたくさん置いてある。……いろいろある」キョロキョロ

ミーナ「ここの店はね、動物ものが多いんだよ。――今日はこの肉球手袋をアニにおすすめしようと思ってさ!」スッ

アニ「普通のがほしい」

ミーナ「……ベルトルトの前でにゃあにゃあ言ったとき、満更でもなかったくせに」ボソッ

アニ「あんたの尻をミカサの腹筋みたいにしてあげようか?」

ミカサ「六つに割れるのなら見たい」ワクワク

サシャ「私も見てみたいです」ワクワク

ミーナ「暴力反対!」ササッ


アニ「とにかく、私は一人で見てくるから。あとは三人で勝手に回ってて。じゃあね」スタスタ...

ミカサ「あっ……行ってしまった。残念」シュン

サシャ「せっかく一緒に来たのに、別行動はさびしいですね」

ミーナ「まあまあ、アニはいつもああだから気にしない気にしない。――えーっと、サシャは手鏡でしょ、アニは手袋とマフラーでしょ……あれ? ミカサは何を買いに来たの?」

ミカサ「今日はサシャの付き添い。後は、エレンとアルミンに贈る卒業祝いの下見に来た。ここなら行きつけのお店と傾向が違うから、斬新な物を見つけられそう。助かる」

ミーナ「いえいえ、どういたしまして。――なら、まずはサシャの手鏡を探そうか。どういうのがいいとか、そういう目星はついてるんだっけ?」

サシャ「大きさは、できれば手のひらより小さめのほうがいいです。後は……持ち歩いてる間に割れないかと思ってヒヤヒヤしたので、鏡面が隠れるのはないかなーって思いまして」


ミーナ「手鏡っていうと……この辺かな。この辺り一帯が全部手鏡」スタスタ...

サシャ「うーん……いっぱいありますね。選ぶの大変そうです」

ミカサ「……! サシャ、こういうのはどう?」スッ

ミーナ「どれどれ? ……なるほど、スライド式かぁ。少し値は張るけど、割れる危険性はぐっと減るね」

サシャ「大きさもちょうどいいですね。……じゃあ、これにします」

ミーナ「えっ、これでいいの? もう少し悩んだら?」

サシャ「いいえ。……ミカサが選んでくれたので、これでいいんです」

ミカサ「……照れる」テレテレ

ミーナ「そう、じゃあこれにしよっか。――ただし蓋の柄がたくさんあるんだよねー、この手鏡」ズラッ

サシャ「へっ?」

ミーナ「時間はたっぷりあるからじっくり悩んでね!」ニッコリ

サシャ「……はい。頑張ります」


ミーナ「ねえミカサ。エレンとアルミンに贈り物はいいけど、自分のものは何か買わないの?」

ミカサ「特に必要ない。生活必需品はこの前揃えたばかりだから」

ミーナ「ええー、せっかく来たんだからいろいろ見ようよ。……ほら、これなんかどう? 寒がりのミカサにぴったりだと思うんだけど」スッ

ミカサ「……? これは何?」サワサワ

ミーナ「毛糸のぱんつ」

ミカサ「そのまま履いたらごわごわしそう」

ミーナ「そりゃそうだよ。――これはね、ぱんつの上に履くぱんつなの」

ミカサ「!? ……そんなものが存在するの?」

ミーナ「あるんだよ。そういうぱんつがあるんだよ」

ミカサ「この世界は……摩訶不思議だ」

ミーナ「私は寝るときだけ履いてるんだけどね。……かなりあったかいよ?」ニヤリ

ミカサ「……試着してくる」イソイソ

ミーナ「はーい、いってらっしゃーい」フリフリ


アニ(この手袋、指の先に動物の顔がついてる。……どう考えても邪魔だね。作った奴はどういう神経してるんだか)サワサワ

アニ(……でも、かわいい)キュン

サシャ「それを買うんですか?」ニュッ

アニ「!? ――なっ、何? 何の用?」ササッ

サシャ「あのですね、手鏡を買おうと思ったんですけど……蓋の柄をどっちにしたらいいのかわからないので、アニに聞こうと思いまして」

アニ「柄なんて鏡には関係ないでしょ。好きな方にしなよ」

サシャ「どっちも好きなので決められないんです。――ぶたさんとうしさんのどっちにしたらいいと思います?」

アニ「……」

サシャ「お肉としては断然うしさんなんですけど、ぶたさんはしっぽがかわいらしいんですよね。どっちにしたらいいんでしょう」ウーン...

アニ「……花柄とかないの?」

サシャ「お花ですか……そういえば、一つだけありましたね」

アニ「じゃあ、それにしな。そっちのほうが長く使えるから」

サシャ「そうですか、わかりました。お会計してきます。あと髪ゴムも買わないと」ダッ

アニ「店の中で走るんじゃないよ」


ミカサ「アニ、アニ。――この毛糸のぱんつの柄は、くまさんとうさぎさんとねこさんのどれにしたらいいだろう」ピラッ

アニ「……見せるわけじゃないにしても、そういう柄はやめときな。人格疑われるよ」

ミカサ「かわいいからいいと思ったのだけれど、アニがそう言うならやめておく。――エレンやアルミンに相談してくればよかった」シュン

アニ「ぱんつの柄を相談されるあいつらのことも少しは考えな」

ミカサ「アニはどれを買うの? よかったら相談に乗る」ズイッ

アニ「……白と黒で迷ってるんだけど」

ミカサ「白は汚れが目立つからよくない。黒は重たい印象があるからやめておいたほうがいい。だからこっちの灰色にしよう」スッ

アニ「…………白と、黒で、迷ってるんだけど」

ミカサ「どっちも選べないから間を取った」

アニ「……」

ミカサ「それに、アニはどれを巻いても似合うと思う。だから尚更選べない」

アニ「参考にならないよ」

ミカサ「ごめんなさい」シュン

アニ「もういい。……灰色にする」ハァ


―― しばらく後 店の外

サシャ「サシャ・ブラウス、会計終了しました!」バッ!!

ミーナ「はーい、お疲れさま。ミカサとアニが戻ってくるまでここで待ってよっか」

サシャ「はい、待ってましょう。……ところで、ミーナは何か買わなくてよかったんですか?」

ミーナ「うん、今日はいいの。特に欲しい物もなかったし」

サシャ「そうだったんですか? ……なんだか付き合わせてすみません。行きたいところとかあったらこの後行きます?」

ミーナ「行きたいところにはもう行ったよ」

サシャ「……?」

ミーナ「私ね。……こうやって、友だちとわいわい騒ぎながらお買い物してみたかったんだ」


ミーナ「地元だから友だちはいるんだけどさ。お互い街を知り尽くしちゃってるから、どうしても遊ぶっていうよりは買い出しみたいになっちゃうんだよね」

ミーナ「もちろん、つまらないわけじゃないんだけど……少しだけ物足りなくってさ。だから、今日はサシャやミカサに喜んでもらえて嬉しかったな」

サシャ「……楽しかったです。とても」

ミーナ「うん、ありがとう。――それにさ、こういう思い出なら……アニも憲兵団に持って行けるでしょ?」

サシャ「? 思い出?」

ミーナ「だって、どうせアニに卒業祝い渡そうとしても『荷物になるからいらない』って嫌がられるに決まってるもの。だから、今日の思い出がアニへの卒業祝い。……まあ、ちょっと押し付けがましいやりかただったとは自分でも思うんだけどね」


サシャ「……そんなことないです。私は、とてもいい思い出になりましたよ。ミーナがお店を紹介してくれて、ミカサが見つけて、アニが選んでくれたことを……きっと手鏡を見る度に、思い出すと思います」ギュッ

ミーナ「……そっか。それなら嬉しいな。――あっ、二人とも出て来たよ」



ミカサ「そういえば、最近ニンニンしてない」スタスタ...

アニ「しなくていいよ」スタスタ...

ミカサ「この前出かけたときには、アルミンをニンニンした」

アニ「アルミンをニンニンってわけがわからないんだけど」

ミカサ「変装の術を施した。結構似合っていた。ので、またアルミンをニンニンしたい」

アニ「はいはい。よかったね」


ミーナ「あれ? アニ、結局何も買わなかったんだ?」

アニ「何軒か見てからにしようと思ってね。あそこは傾向が偏ってたし」

ミーナ「じゃあ、もう少し回ってみようか。……ミカサとサシャはどうする?」

ミカサ「お付き合いする」ズイッ

サシャ「付き添いましょう」ズイッ

アニ「子守りはもうごめんだね。……後は私の買い物だけだから、ついてこなくてもいいよ。ここからは別行動にしよう。二人はその辺でも散歩したら?」

サシャ「そうですね……よし、行きましょうミカサ。あとはミーナに任せておけば大丈夫ですよ」

ミカサ「でも、アニにはいろいろ相談に乗ってもらった。私も相談に乗りたい」

サシャ「じゃあ、代わりに私の相談に乗ってください。――というわけで、二人ともごゆっくりー」スタスタ...


ミーナ「……」

アニ「……」

ミーナ「……えーっと」

アニ「今日は三人でやけに私に絡んできたよね。――何の嫌がらせ?」

ミーナ「……ごめん。嫌がらせのつもりじゃなかったんだけど」シュン

アニ「……私はね、人から好意を向けられるのに慣れてないんだ。こういうのは苦手なんだよ」

アニ「だから、あんたやミカサやサシャがしてくることに……どう応えたらいいのか、私にはわからない」

アニ「……どうしたらいいか、わかんないんだよ」

ミーナ「アニ……」





ミーナ「じゃあ苦手は克服しよう! 私も手伝うからさ!」

アニ「人の話聞いてた?」


ミーナ「どうしようもこうしようもないよ。アニがやりたいようにしていいんだよ? ……でも今日は色々押し付けすぎちゃったかも。ごめんね?」

アニ「……私の、やりたいように?」

ミーナ「うん。そういうことをやりあえるのが親友でしょ?」

アニ「……そう思ってるならさ、あんたもいつも通りでいてよ」

アニ「無理に頑張らなくていい。いつものあんたのほうが……私は好き、かな」

ミーナ「……あははっ、そうだね。了解。気をつけるよ」

アニ「……あと、次のお店は動物柄がないところにして」

ミーナ「はいはーい、わかりましたよっと。――そういえば、肉球手袋は気に入らなかった?」

アニ「………………好きだけど、あんなかわいいの似合わないよ」


―― 同刻 街中 とある路地

ライナー「なあ、ベルトルト。今回のことはちょうどいい機会だったとは思わないか? これでやっとサシャも俺の手から離れたってわけだからな。おかげで清々した」

ベルトルト「ふぅん、そうなんだ。…………で、なんで街に僕を連れ出したの?」

ライナー「……」

ベルトルト「ねえ」

ライナー「……開放的な気分になったら、こういう賑やかなところに来たくなるだろ?」

ベルトルト「僕、関係ないよね」

ライナー「……」

ベルトルト「関係ないよね?」

ライナー「まあいいじゃないか。――久しぶりに二人で街に出たんだしよ、なんか食うか?」

ベルトルト「僕はサシャじゃないんだけど」

ライナー「……」

ベルトルト「ライナー?」

ライナー「……」ポリポリ


コニー「おーい、ライナー! ベルトルトー!」ブォンブォン

ライナー「……? ――コニーか? こんなところで何してるんだ?」

コニー「教官におつかい頼まれてよ、シャフト買いに来たんだ!」ブンブン

ベルトルト「……コニー。その長いシャフトは何の部品かな」

コニー「なんだ、見てわかんねえのか? 立体機動装置だよ」

ベルトルト「入らないよ……装置に入らないよ!」ダンッ!!

コニー「なんで二回言った?」

ライナー「大事なことだからな」

ベルトルト「そんな長いの入るわけないだろ! ちょっとおつかいのメモ見せて!」

コニー「えー……ちゃんと買ってきたんだけどな。ほらよ」クシャッ

ベルトルト「なんでメモがくしゃくしゃなんだよ…………ああああやっぱり!! 単位間違ってるじゃないか! 本当はその十分の一だよ!?」

コニー「ああ、それでか! 何故か全然金が足りなかったんだよなー」

ベルトルト「足りなかったんだよなーじゃないよ! ――ごめんライナー、僕コニーについておつかい済ませてくるから、あとは一人でしょんぼりしてて」

ライナー「しょんぼりって…………まあいい、行ってこい」シュン


―― 同刻 街中 とある噴水前

ミカサ「迷った」

サシャ「迷いましたね」

ミカサ「どうしよう」

サシャ「どうしましょうね」

ミカサ「……」

サシャ「……」

ミカサ「ごめんなさい」ヘコヘコ

サシャ「すみませんでした」ヘコヘコ

ミカサ「色々目移りしてるうちに、知らないところへ来てしまった」

サシャ「私も、食べ物の匂いに釣られてフラフラしてたら道がわからなくなっちゃいまして」

ミカサ「……仕方がない。二人でその辺をお散歩しよう。そのうち知ってる道に出るかもしれない」

サシャ「そうですね。こういうのもお出かけの醍醐味ですよね、ええ」


ミカサ「でも、迷ったおかげで何やらいっぱいチラシをもらった」ガサガサ

サシャ「取り敢えず食べ物屋さんとそれ以外に分けましょうか」ガサガサ

ミカサ「地図が載ってるチラシはないだろうか」ガサガサ

サシャ「あっ! ――ミカサミカサ、見てくださいよこれ!! 今度大通り近くに新しい食堂ができるみたいですよ! しかも開店日はお肉が食べられるみたいです!」ワーイ

ミカサ「本当だ。……今度、エレンやアルミンを誘って行こう」

サシャ「開店日は、えーっと……卒業試験直前ですね。忙しいかもしれませんけど、お肉の魅力には敵いませんよね……!」ジュルリ

ミカサ「サシャ、涎が垂れてる」

サシャ「おっといけない」フキフキ

ミカサ「……サシャはライナーと行くの? 食堂」

サシャ「えっ? ……どうなんでしょうかね。私としては行きたい気持ちはあるんですけど。どうせ他に誘う人もいませんし、おいしいものは一緒に食べたいですし」ウーン...


ミカサ「そういえば、ライナーに今日のことは報告した?」

サシャ「ええ、しましたよ。――っていうか聞いてくださいよ! ライナーってば私のことちっちゃい子ども扱いするんですよ、酷くないですか!?」

ミカサ「ちっちゃい子ども?」

サシャ「そうですよ! 迷子…………にはなりましたけど。服とか今日の日程はともかく、帰ってきたら手洗いうがいしろって、そんなこと言わなくてもいいと思いません!?」

ミカサ「それはライナーが過保護」

サシャ「ですよね! ふんがー!!」ムキーッ!!

ミカサ「でも、気持ちはわかる。――きっとサシャがかわいくて仕方がないのだろう」

サシャ「へっ? …………え、えと、そうなんですかね」モジモジ

ミカサ「私もエレンやアルミンに言い過ぎてしまうことがあるからわかる。……ところで今回は、一緒に行きたいとは言われなかったの?」

サシャ「……そういえば、言われませんでしたね」

ミカサ「珍しい。釣りの時は体調が悪くても来たのに。他には何か言ってなかった?」


サシャ「ええっと……確か『楽しんで来いよ』って言われました。それになんだか元気がなかったんですよね」

ミカサ「スパイスは出た?」

サシャ「出ませんでした。――もしかして、スパイス出すのって身体に負担がかかるんでしょうか」ハッ

ミカサ「そうかもしれない。ミーナは特に何も言ってなかったけれど」

サシャ「それでライナーはあんなに辛そうな顔をしてたんでしょうかね。――でも、ライナーのあんな顔、前にも見たことあるような気がするんですよね。いつだったのかは思い出せないんですけど」ウーン...

ミカサ「つまり、前にもスパイスが出たことがあったの?」

サシャ「そうかもしれませんね。私が気づいてなかっただけで、あったのかもしれません」

ミカサ「前にも出たことがあるなら、またスパイスが出る可能性も高いはず。もう少しライナーを振り回してみる?」

サシャ「……」

ミカサ「……? サシャ? どうしたの?」


サシャ「ミカサ。……やっぱり私、スパイスは諦めます」

ミカサ「? どうして?」

サシャ「なんていうか……辛いというよりは、色々我慢してるみたいに見えたんですよね。――言いたいことがあるのに、言えないでいる、みたいな」

サシャ「……えっと、すみません。私も、何を言ってるのかよくわかってないんですけど。――でも、ライナーにあんな顔をさせるくらいなら、おいしいものなんかいりません。我慢します」

ミカサ「……ごめんなさい。もう少し振り回してみろだなんて、軽率なことを言った」シュン

サシャ「いえ、ミカサは悪くないですよ! やったのは私ですし! ――けど、結局アニの言った通りになっちゃいましたね。……やらなきゃよかったです」

サシャ「帰ったら、ちゃんとライナーに振り回したことを謝らないといけませんね。怒られるかもしれませんけど」

ミカサ「でも、今のサシャの言葉を聞いたらライナーはびっくりすると思う。おいしいものをいらないなんて言うサシャを、私ははじめて見た」

サシャ「……正直もったいない気はするんですけどね」ジュルリ

ミカサ「台無し」クスクス

サシャ「すみません」エヘヘ

昨日より短くてすみませんが今日はここまで 続きは明日
気合い入れて直すのでもう少し待っててください


―― とある路地 古本屋の前

ライナー(ベルトルトとも別れちまったし、街に出て来てもやることなんかないな。……帰るか)スタスタ...

ライナー(おっ、あそこの屋台ははじめて見るな。……うまそうだなー)チラッ

ライナー「……」

ライナー(いかんいかん、なんであいつの思考まで伝染してんだ!)ブンブン

ライナー(……さっさと寮に戻ったほうが良さそうだな。ここは誘惑が多すぎる)スタスタ...



エレン「おーいライナー! こんなところで何してんだー?」フリフリ


ライナー「……エレンか」

エレン「よっ! ――朝っぱらから寮にいないと思ったら、ライナーも街に出てたんだな」

ライナー「ちょっと野暮用でな。お前こそ、なんで街まで出て来てるんだ? 掃除は終わったのか?」

エレン「アルミンの付き添いだよ。流石に全部は資料室で引き取ってもらえなくってさ。燃やして処分しちまおうかと思ったんだが、アルミンが『捨てるのはもったいない』って言い張って、トロスト区中の古本屋回ってるんだ。今ので三軒目」

ライナー「なるほどな。……ところで、ミカサはいないのか?」キョロキョロ

エレン「あいつはあいつで用事だよ。それに、その……いっ、いかがわしい本もあったからな。言えねえだろ。こういうのは」モジモジ

ライナー「まあ……言えないよな。だがお前やアルミンがいないとなっちゃあ、今ごろ一人で暇してるかもな」

エレン「いや、今日はあいつ他の奴と遊びに行ってるぞ?」

ライナー「他の奴? 誰だ?」

ミカサ「ひみつ」


エレン「……」

ライナー「……」

ミカサ「こんにちは。今日はいい天気。素敵」

エレン「お前どこから来たんだ」キョロキョロ

ライナー「立体機動で飛んできたのか?」キョロキョロ

ミカサ「違う。走ってきた。程よく汗をかいたので、冷たい風が気持ちいい」シャラーン

エレン「髪掻きあげるな」

アルミン「ごめんエレン、お待たせ! ……あれ? なんでミカサがいるの?」キョトン

ミカサ「エレンに呼ばれた気がしたから」


アルミン「そっか、なら仕方がないね。――サシャと買い物だったんだよね? 楽しかった?」

ミカサ「楽しかった」コクコク

ライナー「……サシャと?」

エレン「……? なんだライナー、サシャから聞いてなかったのか?」

ライナー「いや……俺は、デートって聞いたんだが」

エレン「? 二人で出かけるんだからデートであってるじゃねえか」

アルミン「二人で出かけるからって全部が全部デートなわけじゃないんだよ? エレン」

ライナー「……そうか、なんだ、ミカサとだったのか。…………そうか」


アルミン「ところでミカサ、お店で何買ってきたの? そっちの紙袋は何?」

ミカサ「毛糸のぱんつ」

エレン「……」プイッ

ライナー「……」プイッ

アルミン「ぱっ……!? だっ、ダメだよミカサ! そういうことは大きな声で言っちゃだめ!!」

ミカサ「でもエレンとアルミンに報告しないと。……そうだ、色は相談すべきだっただろうか。柄はくまさんとうさぎさんとねこさんはやめて、水玉にしてみたのだけれど」ガサガサ

アルミン「袋から出すのはもっとだめだから!! ミカサしまって! エレンからも何か言って!」

エレン「黒のほうがよかったな。黒に白の水玉」

ミカサ「なるほど……では、予備はそれにしよう。今度買ってくる」

アルミン「なんでアドバイスしてるの! そうじゃないでしょ! そうじゃないでしょ!!」ダンダンダンダン!!


ライナー「アルミン落ち着け、地団駄を踏むんじゃない。迷惑になるから静かにしろ。なっ?」ポンポン

アルミン「……ふーっ、ふーっ」プルプルプルプル...

ライナー「よしよし、どうどう。――ミカサはそれ早くしまえ、女の子なんだから恥じらいとか慎みを持とうな? エレンもアドバイスしてやるのはいいが、ミカサが自分で選んで買ってきたものにも一言くらい言ってやれ」テキパキ

エレン「赤に白の水玉は派手だと思う」

ミカサ「私もそう思ったけれど、アニが勧めてくれたのでこれにした。……ちなみに、隣にあった星柄は恥ずかしいので自重した」テレッ

アルミン「星柄は恥ずかしいのにくまさんぱんつは履けるの……?」

ミカサ「かわいいから履ける。星柄はスタイリッシュすぎる」

ライナー「……ん? そういやミカサ、お前一人なのか? サシャはどうした? 一緒だったんだよな?」キョロキョロ

ミカサ「ついさっきまで一緒にいたけどはぐれた」

ライナー「お前それを早く言えよ!!」ダッ


―― 街中 とある路地

サシャ「ミカサー? どこですかー?」スタスタ...

サシャ(ミカサ、いませんね……ちょっと目を離した隙に、どこ行ったんでしょう)キョロキョロ

サシャ(アルミンに、ミカサのことお願いされたのに……あーあ、私ってば何やってるんでしょう)トンッ

サシャ「あっ……すみません」ペコッ スタスタ...

男「――ちょっと待ちなよ。人にぶつかっておいて、それだけってことはないんじゃないの?」

サシャ「えっ? ――あの、急いでて、周りが見えてなかったんです。ごめんなさい」

男「急いでたら人にぶつかってもいいの? なあ」

サシャ「そうじゃなくて……わざとじゃないんです。よろけてしまいまして、その……」

男「だから何? 何なの? 本気で謝ってる? 君、謝る気あるの?」

サシャ「え、えっと……ごめんなさい、すみませんでした」


サシャ(ミカサもアニも、誰もいないんです。自分で、自分でなんとかしなきゃ……)ギュッ

男「なんかさぁ、言われたから謝ってるだけにしか聞こえないんだけど」

サシャ「そんなこと、ないです……」

男「聞こえないんだけどぉ?」ズイッ

サシャ「!」ビクッ

男「何? なんでびびってんの? 俺が悪いわけ?」

サシャ「そ、そうじゃなくて……えっと……」







    「すみません! ――そいつが何かしましたか?」


サシャ「あ……」

男「……? あんた誰だよ」

ライナー「こいつの連れです。何かしたのなら失礼しました。――おい、行くぞ」グイッ

サシャ「は、はい……えっと、本当にすみませんでした」ペコッ

男「ちょっと待てって、まだ話は――」

ライナー「……まだ何か?」

男「……い、いや、なんでもねえよ。次からは気をつけろ」ボソッ

ライナー「はい、気をつけます。――それでは」スタスタ...


サシャ「? ?? ……えっと、私と一緒に来たのはミカサのはずなんですが」

ライナー「ああ、合ってるぞ」

サシャ「ですよね……そうですよね? 私の連れってミカサですよね? ――でも、なんだか手が大きくなってませんか?」

ライナー「そうか? 大きさはあまり変わってないと思うけどな」

サシャ「そうですか……? なんだかゴツゴツしてて男の人みたいですよ?」

ライナー「男だからな」

サシャ「声もなんだか低いですし」

ライナー「声変わりはとっくの昔に終わった」


サシャ「変装の術ってすごいですね……! 本人みたいです」ニンニン

ライナー「残念だったな。変装の術じゃなくて本人だ」

サシャ「……?」キョトン

ライナー「本人だ」

サシャ「……ライナーなんですか? ミカサじゃなくて?」

ライナー「だから本人だって言ってるだろ。何回言わせるんだ?」

サシャ「……寮から立体機動で飛んできたんですか?」

ライナー「違う。……歩いてきた」

サシャ「でも、心なしか手が汗ばんでるような……あっ」パッ

ライナー「気のせいだ」フキフキフキフキ

サシャ「……汗、思いっきり拭いているように見えるんですけど」

ライナー「気のせいだって言ってんだろ」ゴシゴシゴシゴシ


サシャ「……ライナー」

ライナー「なんだ」

サシャ「そんなに心配されなくったって、自分のことくらい自分で始末つけられます。――私、ちっちゃい子どもじゃないんですよ?」

ライナー「そうだな」

サシャ「後から来て、おいしいところだけ掻っ攫ってくなんて……ずるいですよ。私、全然いいところないじゃないですか」

サシャ「さっきだって、一人でなんとかできました。ただちょっと、前に絡まれたこと、思い出して……動けなくなっちゃっただけで、……っ」

サシャ「本当に、怖くなかったんですよ? へっちゃらだったんです。――今だって……寒くて、震えてるだけ、なんですから。こんなのなんにも怖くなかったんですから、一人でも平気です。一人でも……」

ライナー「ああ、そうだな。……過保護なのは、俺だ」

サシャ「…………すみません。素直じゃありませんでしたよね、私。――来てくれて、ありがとうございました。嬉しかったです。とても……安心しました」

ライナー「……さて、何のことだかな」


ライナー「大体な、ああいう輩の相手をまともにするんじゃない。走って逃げるんじゃなかったのか?」

サシャ「そういえばすっかり忘れてましたね。――けど、ああいう絡まれ方ってはじめてで、どうしたらいいかわからなくて……ええっと、私も身長伸ばしたほうがいいんですかね」

ライナー「なんでそうなる。そもそも伸ばそうと思って伸びるもんじゃないだろ」

サシャ「でもさっきのライナーみたいに、相手を高いところから睨みつければイチコロだと思うんですが」

ライナー「睨みつける?」

サシャ「こんな感じに」ジーッ...

ライナー「……」

サシャ「……」ジーッ...

ライナー「……」ササッ

サシャ「あっ、ちょっと! 手で隠したら睨めないじゃないですか! こっち見てくださいよこっち!」ピョンピョン

ライナー「……睨みつけるのは禁止だ。それに、俺相手だと上目遣いになってるから意味ないぞ」

サシャ「そんな……そしたら私はどうやって対抗すればいいんですか!」

ライナー「ありゃお前みたいに馬鹿正直な奴に難癖つけたいだけだから、相手するだけ時間の無駄だ。最初に言った通りさっさと逃げろ」

サシャ「うっ……そうですね、すみません」シュン


ライナー「……お前、俺が言ったとおりにしてきたのか? 走れる靴履いてきたんだろうな?」ジロジロ

サシャ「ちゃんと守りましたよ。靴は高さがないものにしましたし、服も動きやすいのを選んだつもりです」ムー...

ライナー「服装はいいみたいだが……その髪はなんだ? お前そんなややこしい結び方できたのか?」

サシャ「ああ、これですか? これ、ミーナがやってくれたんですよ」

ライナー「ミーナが? ……ほー、あいつ器用だな」ジロジロ

サシャ「ミカサの髪の毛編み込んでるのを見てたんですけど、手際もよかったですよ。私が髪ゴム使いたいって言ったら、ちゃんとそれに合うアレンジにしてくれましたし」

ライナー「これだけ器用なら、技巧の成績はもう少し伸びてもおかしくないと思うんだがな……そうだ、技巧で思い出した。さっきおつかい中のコニーと会ったぞ」

サシャ「コニーですか? コニーって、前も教官に小屋の修理頼まれてたんですよね。色々頼まれやすいんでしょうか。……そうそう、コニーと言えばこの前余ってたみかん分けてくれたんですよ! しかも、早く食べないと傷むからって六つも! ユミルとクリスタにも分けろって言われて――」

ライナー「ちゃんと分けたんだろうな?」

サシャ「もちろん分けましたよ? ……一個ずつ」

ライナー「おい」

サシャ「……だってお腹空いてたんですもん」

ライナー「お前なぁ……」ハァ


サシャ「……」

ライナー「……」

サシャ「……何の話してたんでしたっけ?」

ライナー「……さあ?」

サシャ「……」ウーン...

ライナー「……」ウーン...

サシャ「……ああっ!! 思い出しました! 私の髪の話です!ポンッ

ライナー「そうだそれだ! ――そんな髪型で出歩くんじゃない! だから絡まれるんだろ!!」ガミガミ

サシャ「えっ? ええー……?? 怒られるなら思い出さなきゃよかったですね……」ショボン...


ライナー「……それで、この後の予定は? 他にもどこか行くのか?」

サシャ「ええっと、特には決めてません。……あっ、でもミカサを探さないと」

ライナー「ミカサはエレンたちと一緒にいるから大丈夫だろ。さっき会った」

サシャ「そうですか。なら安心ですね」ホッ

ライナー「……デートの相手って、ミカサだったんだな」

サシャ「はい、そうですよ。『ライナーより強い』ってあらかじめ言ったじゃないですか」

ライナー「…………わかるわけねえだろそんなもん」ボソッ

サシャ「そんな難しいこと言ったつもりはないんですけど……でも、結果的には騙してることになっちゃいましたよね。振り回してすみませんでした」

ライナー「そう思うなら、最初にはっきり言えよな」ハァ

サシャ「……騙してたことは、怒らないんですね」

ライナー「飼い犬に噛まれたと思えば大したことない。……でもそうだな。これくらいで許してやるよ」ベチンッ

サシャ「あいたぁっ!? ……うう、でこぴんなのに痛いです」サスサス

ライナー「これくらいはいいだろ? 騙したって自覚があるならな、もう少ししおらしく振る舞ったほうが――」


ライナー(……騙してるのは、俺か)

ライナー「……」

サシャ「……ライナー? どうかしましたか?」

ライナー「いや、なんでもない。――ミカサとの買い物は楽しかったか? サシャ」

サシャ「はい、とっても楽しかったです! ……そうそう、今日はミカサだけじゃなくて、アニとミーナも一緒だったんですよ」

ライナー「アニも一緒だったのか? ……あいつがミカサと遊びに行くとはな。珍しい」

サシャ「そんなことないですって! アニとミカサ、とっても仲よしでしたよ? 二人で何を買うか相談してるのを遠くから見たんですが、すごく楽しそうでした」

ライナー「ほう……あいつらがなぁ」

ライナー(……あの柄はアニが選んでやったのか)ウーン...

サシャ「それとですね、ミカサが卒業祝いをエレンとアルミンに贈りたいって話してて……あ、これ内緒ですからね? 二人に喋っちゃだめですよ?」シーッ

ライナー「ああ、わかった。エレンたちには言わないように気をつける。――それで?」


サシャ「他に、ミーナもアニに何か贈り物しようって考えてたみたいです。……そういう話を、今日はしてきました」

サシャ「クリスタやユミルとはそういう話をしてなかったので、実感なかったんですが……これまでにお世話になった人とか、大切な人に何かを贈りたいって気持ちは、私にもありまして」

ライナー「……ああ」

サシャ「ミカサやミーナがやるから、ついでに私もっていうわけじゃないんですけど。――私、いつもライナーには助けてもらってますし、他にもたくさんもらってばっかりで……この前ハンバーグは作りましたけど、やっぱり何か手元に残る物を渡したいんです」

サシャ「ライナーは、何かほしいものありませんか? 私があげられるものだったら、何か一つ……贈りたいなって、思うんですが。どうでしょうか」

ライナー「……サシャ」

サシャ「はい? なんですか?」







ライナー「――そういうものは、受け取れない」


サシャ「……そう、ですよね。迷惑ですよね。ごめんなさい、変なこと言って」

ライナー「違う。迷惑なんかじゃない。お前の気持ちは嬉しい。……だが、あまり物は持たないようにしてるんだ」

サシャ「それは……荷物になっちゃうから、ですか?」

ライナー「……そうだな。間違ってはいない」

サシャ「……そうですか」

ライナー「……」

ライナー(……これでいいんだ。俺が……俺たちが故郷に帰る時は、今手元にある荷物は全て壁内に置いていくことになる)

ライナー(今の関係だって相当やばいってのに……何か形に残る物を俺が受け取ったら、残されたサシャがいらない疑いをかけられるかもしれない)

ライナー(……俺がやってることは、間違ってない。――だが)

ライナー(ああ、ちくしょう……こんな悲しそうな顔は、サシャにはさせたくなかったな)

ライナー(本当は……誰にだって渡したくない。触らせたくない。隣にいてやりたい)

ライナー(……なんで、好きになっちまったんだろうな)


ライナー「……もう帰るぞ。最近は日が落ちるのも早い。暗くなる前に訓練所に戻ろう」グイッ

サシャ「……」

ライナー「サシャ、行くぞ」

サシャ「――食堂が、できるんです」

ライナー「……食堂?」

サシャ「今度、大通りの近くに、新しく食堂ができるんです。卒業試験の、直前になっちゃうんですけど」

ライナー「……」

サシャ「一番最初に、二人で街に出かけた時……氷菓子を食べましたよね。覚えてますか?」

ライナー「……ああ。ちゃんと覚えてるぞ」

サシャ「あの氷菓子、すごく甘くて、おいしくて……その日の夜は、ミカサに教えるのがもったいないくらいでした」


サシャ「今だって、あの時の味は忘れられません。――でもそれって、ライナーと一緒だったからって思うんです。他の誰でもなくて……ライナーと一緒じゃなかったら、あそこまでおいしくなかったと思います」

サシャ「だから……一番最初は、ライナーと一緒に行きたいんです。他の人じゃ、だめなんです」

ライナー「……サシャ、あのな」

サシャ「物は無理でも! ……思い出は、持って行けますよね? 手元に、置いておけますよね?」





サシャ「それとも……私との思い出も、持って行けませんか? 邪魔に、なっちゃいますか……?」


ライナー「……」

サシャ「……こっち、向いてください。ちゃんと私のほうを見て、喋ってください」

ライナー「……」クルッ ――ガシッ

サシャ「……? あの」

ライナー「……人が黙ってるのをいいことに、好き勝手言いやがって」グッ...

サシャ「!? いた……っ! らっ、ライナー、肩が痛いですっ……――ふぎゃっ!?」ゴンッ!!





ライナー「……邪魔なわけ、ねえだろ」


ライナー「……」

サシャ「……」

ライナー「……すまん。なんでもない」スッ

サシャ「……」

ライナー「……? サシャ、頭押さえてどうした?」

サシャ「……ひっ」ジワッ...

ライナー「日?」

サシャ「ひっ、額が、額が割れそうですぅ……」グラグラ

ライナー「額? ――あっ! 悪い、加減するの忘れたな、強すぎたか!?」オロオロ


サシャ「なんなんですか……なんなんですかもうっ!! 断るにしたってやりかたってものがあるでしょうが!!」

ライナー「!? い、いや、今のは違う! 違うんだ! 断るためにやったんじゃ――」オロオロ

サシャ「そりゃあこっち向いて話せって言ったのは私ですけどね、両肩掴むのはともかく頭突きはないでしょう頭突きは!! 見てくださいよほらここ真っ赤っかですよ真っ赤っか!!」ジンジンジンジン

ライナー「おおー……思ったより腫れてるな。かわいそうに」ヨシヨシ

サシャ「アニといいライナーといいどうしてみなさん私のことばしばし叩くんですか私は楽器じゃないんですよ!? これ以上馬鹿になったらどうしてくれるんですかぁっ!!」

ライナー「一周回ってよくなるかもしれないぞ」

サシャ「……身長縮んだらライナーに請求しますからね」

ライナー「そりゃ怖いな」


ライナー「……」ポリポリ

サシャ「……」ゼエハア

ライナー「これ以上ここで騒いでたら迷惑になるな。……続きは戻ってからにしないか?」

サシャ「……やだ」フイ

ライナー「やだって……お前なぁ」

サシャ「だって、答え聞いてないです。……返事、くれないんですか?」

ライナー「後からじゃ、……ダメだよな。その様子だと」

サシャ「嫌です。……今がいいです。今、ください……」ギュッ...

ライナー「んなこと言われたって……試験前だろ? まだ一ヶ月以上もあるし、当日はどうなるかわからんぞ?」

サシャ「それでもいいです。後からじゃ意味がないんです。……たった今、ライナーが思ってる答えが、欲しいんです」


ライナー「今の時点の、俺の答えか」

サシャ「はい。……教えてください」

ライナー「…………わかった。行こう」

サシャ「……いいんですか?」

ライナー「新しくできるって食堂にも興味があるしな。……ただし、当日になってみないと本当にどうなるかわからないからな? それでもいいんだろ?」

サシャ「いいです。充分です。……じゃあ、楽しみにしてますね」


―― 夕方 食堂近くの廊下

ミカサ「――それで、毛糸のぱんつの柄はアニが選んでくれた。私は代わりにマフラーを選んであげた」ペラペラペラペラ

エレン「ああ、そうだなー……うん」

ミカサ「エレン、アルミン。私の話を聞いてる?」クイクイ

アルミン「聞いてるよ……ずっと聞いてるよ……」

エレン(その話はもう十五回目だって、ミカサ……)ゲンナリ

アルミン(流石の僕も辛くなってきた……)グッタリ

エレン(……っていうか、あいつの趣味派手だな)

アルミン(あのアニが、あんな柄をねえ……)

ミカサ「それと、アニにアルミンの話もした」

アルミン「えっ、僕の話も? なんだか照れるなぁ……どんな話?」テレテレ

ミカサ「アルミンがニンニンしてにゃんにゃんした話」

アルミン「えっ」


ミカサ「……! ――二人が帰ってきたみたい。ちょっと行ってくる」イソイソ

アルミン「うん、行ってらっしゃい。先に食堂に行って席取っておくね」

ミカサ「ありがとうアルミン。じゃあ行ってくる」タタタッ

アルミン「いってらっしゃーい」フリフリ

エレン「……やっと行ったか。あいつ、街からここまでずっと喋りっぱなしだったぞ」ハァ

アルミン「いいことじゃないか。今日のミカサ、すごく楽しそうだったよ」

エレン「ミカサがよく一人で行動してる理由がわかった気がするな……女子寮でも俺たちの話しかしてないんじゃねえか?」

アルミン「でも、今日はアニやサシャやミーナの話ばっかりだったね」

エレン「……」

アルミン「お兄ちゃん離れされるとさみしい?」クスクス

エレン「……うっせ」ムスッ

アルミン「あはは、ごめんごめん」


―― 屋外 女子寮近く

ミカサ「おかえり、サシャ。ライナー」タタタッ

ライナー「おう、ただいま。……ところでミカサ、この背中についてるひっつき虫をなんとかしてくれ」

ミカサ「サシャは虫じゃない」

ライナー「比喩だ比喩。……訓練所に入った途端これなんだ。このままじゃお互い寮に戻れないからな、なんとか頼む」

ミカサ「なるほど、それは大変。……とうっ」ベリッ

ライナー「どうも。……裾伸びてないか?」チラチラ

ミカサ「びろんびろんになってる」

ライナー「……戻って着替えてくる」ハァ

ミカサ「うん、また後で。サシャは私に任せてほしい」

ライナー「頼んだぞ。じゃあな」トボトボ...


ミカサ「サシャはすごい。私はエレンやアルミンのシャツをびろんびろんにしたことがない。どうやってやったの? 何かコツはある?」

サシャ「……」

ミカサ「……? サシャ、どうしたの? 元気がないみたい。医務室に行く?」

サシャ「……ねえミカサ。お昼にした話、覚えてますか?」

ミカサ「食堂ができる」

サシャ「そっちじゃないです。……私、あの顔をいつ見たのか思い出しました。さっきライナーに頭突きされた時、ピンと来たんです」


サシャ「このまま放っておくと、何か……何かよくないことが起こる気がするんです。あの時、あの次の日は……布団から出られなくて。でもこのまま放っておいちゃいけないような気がして、追いかけたんです。……あの時は、私から頭突きしちゃったんですけど」

ミカサ「……」

サシャ「えっと、すみません。自分でもまだ考えがまとまってなくて……変なこと言ってるって自覚はあるんですが、誰かに話したくて」

ミカサ「いい、大丈夫。――ちゃんと聞いてるから、続けて」

サシャ「……私、知ってるんです。この、胸がざわざわする感じ」

サシャ「あの時は、ライナーに拒絶されたからだと思ってました。だから胸が痛いんだって……ざわざわするんだって、思いこんでました。もちろんそれもあったと思います。でも、それだけじゃないんです」

サシャ「何か……触れちゃいけない何かがある気がするんです。もうちょっと、踏み込んだところに。それに触るなって、触っちゃいけないって……あの時は、直感的に悟ったんだと思います」

サシャ「今日……今日だけじゃ、ないんですけど。でも、あの時と同じ顔を、ライナーはたまにするんです。それがなんだか……行っちゃいけないところに行った時とか、見ちゃいけないものを見た時の感覚と、似てるんです」

サシャ「今までは、それを見ないふりしてたんです。それでいいと思ってたんです。……でも、よくないんです」

ミカサ「……どうして?」


サシャ「この何かをなんとかしないと……これから先、仮にライナーの隣に並んだとしても、私のことを見てもらえません」

サシャ「私がやらないと、ダメなんです。他の人じゃなくて、私を見てほしいんだから……私がやらないと」

サシャ(……やっぱり、私から動かなくちゃ)

サシャ(このままだと、きっと……私が知らないうちに、置いていかれる)

サシャ「ミカサ。――少しだけ、手を貸してくれますか?」

ミカサ「もちろん。何をしたらいい?」



サシャ「……少し、調べたいことがあるんです」





おわり

終わりです。途中乙くださった方、いつも乙くださる方ありがとうございます
次回、サシャから密命を受けたくノ一ミカサが巨人の謎に迫るニンニン活劇 ではなく、いろいろ終わりに向けて切なかったりきゅんきゅんしたりほのぼのしていきます
きゅんきゅんが足りない方は、前回の話のお尻に『ライナー「ポッキーゲーム?」』というイチャイチャするだけのSSをくっつけたのでそちらをどうぞ

んでもって今回のオマケはジャンの目から黄金が出る話です。本編は置いといて軽い気持ちでお読みください


―― ある日 食堂近くの廊下

ジャン「……うっすいな、今日のスープ」

マルコ「物資不足は食料品や生活必需品にモロに出るよね。雪が降る前に買い出し行っておいてよかったよ」

コニー「買い出しかー。――そうだ、明日は立体機動装置の部品買ってこねえと」ガタッ

マルコ「教官に頼まれてたのだよね? 一人で大丈夫? 行ける?」

コニー「ガキじゃねえんだし一人で行けるって。マルコも必要な部品あったら言えよ? 俺が買ってきてやるからさ!」

マルコ「じゃあネジを頼もうかな。予備を買い足しに行こうと思ってたところだったから」

コニー「おう、任せとけ! ジャンはいいのか? ついでに行ってやるけど」

ジャン「俺は自分で行くからいらねえよ。……あーあ。明日は休日だし、俺もミカサと遊びに行きてえなぁ」ハァ

マルコ「無理だよ」

コニー「無理だろー」

ジャン「……もういっそ女子なら誰でもいいから誘ってくれねえかな」チラチラ

マルコ「そういう態度はよくないよ、ジャン」

コニー「そうそう、いつかしっぺ返し食うぞ」


ミーナ「あっ! ――ジャン、いたいた!」

ジャン「ん? アニとミーナか。なんだ?」

アニ「ちょっといい? 話があるんだけど」

ジャン「話……? なんだよ急に」

アニ「いいから、ちょっとこっち来て」グイッ

ジャン「うわっ!? おい、腕引っ張るなよ!」ヨロッ

マルコ「!?」ガタッ

コニー「?」キョトン

ミーナ「ごめんねマルコ、コニー。ジャンは少し借りてくね?」スタスタ...

マルコ「……」

コニー「行っちまったな。……なあマルコ、ジャンのスープどうする? このままじゃ冷めちまうよな」

マルコ「……そうか、ついにジャンにもモテ期が来ちゃったかぁ」

コニー「モテ期ってなんだ? あとスープどうする?」

マルコ「僕らには無縁の言葉だよ、コニー。……どうせモテモテで戻ってこられないだろうから、スープは二人で分けることにしよう」イソイソ


―― 食堂近くの廊下

ジャン「……で、なんだよ話って。まだメシ食い終わってねえから手短にな」

ミーナ「安心して、ジャン。たぶんアニが納得したらすぐ終わるからさ」

アニ「ミカサからあんたの話を聞いてね。確かめてみようってことになったんだ」

ジャン「えっ? ミカサが俺の話を……?」ドキーン

アニ「あんた目から黄金が出るんだって?」

ジャン「…………は?」

アニ「あんた目から黄金が出るんだって?」

ジャン「……あー悪い、どうやら耳が遠くなったみたいだ。もう一回言ってくれるか?」

アニ「あんた目から黄金が出るんだって?」

ジャン「……」チラッ

ミーナ『「本気」と書いて「マジ」と読む』サササッ クルクル

ジャン(ええー……?)


アニ(ジャンから黄金が出たら、ライナーからスパイスが出ることもありえるかもしれない。……ちゃんとこの目で確かめておかないと気が済まないからね)フフン

アニ「それで出るの? 出ないの? 正直に答えてくれる?」

ジャン「いや出ねえよ? 当たり前だろ」

アニ「ふん、なるほどね。……あくまでシラを切るわけだ」

ジャン「俺がしらばっくれてお前に何の得があるんだ」

アニ「一粒千金だからね、億万長者になる絶好の機会だ。あんたが教えたくない気持ちもわかる。でもね――私たちも真剣なんだよ」キリッ

ミーナ「真剣なのはアニだけだよー?」

ジャン「俺も真剣に対応したいところなんだけどよ、いい加減イライラしてきたんだが。腹も減ってるしな」イライラ

ミーナ「がんばってー」フリフリ


アニ「どうやっても自分からは出さない気だね。わかったよ。――じゃあ飛びな」

ジャン「はぁ?」

アニ「飛べって言ったんだよ。揺すられたらポロッと出てくるかもしれないだろ?」

ジャン「なんだその理屈」

アニ「これで出てこなかったら諦めるからさ」

ジャン「……」チラッ

ミーナ『たぶんそのうち一人で納得するからもうちょっと付き合ってあげて? お願い』グイングイン ミョローン

ジャン「……わかったよ。やりゃあいいんだろやりゃあ」チッ

アニ「話が早いね。――さあ、やってみて」

ジャン「……」ピョン

アニ「……」

ジャン「これでいいか? 俺戻るからな?」

アニ「真剣さが足りない」

ジャン「お前は真剣になる方向が間違ってる」


アニ「動作の端々から無理矢理やらされてる感が見え隠れしてるんだよね。もうちょっと頑張ってみようか」

ジャン「すっげー、俺こんなわがままな奴はじめて見たー」

ミーナ「がんばれー」フリフリ

ジャン「そもそもなんで俺から黄金が出るなんて話になってんだ? ミカサが本当にそんな話したのか?」

アニ「今はそんなことどうでもいいでしょ?」

ジャン「何言ってんだ一番大事なところだろ」

アニ「重要なのは、あんたが真面目に飛ぶことだ」

ジャン「真面目にって言われてもよ……」ポリポリ

アニ「ほら、鳥の気持ちになってごらん……? 立体機動が得意なあんたのことだ、きっとできるよ……!」ウフフ

ジャン「……」チラッ

ミーナ「ふぁいとー、いっぱーつ」エイエイオー

ジャン(……鳥の気持ち、なぁ)ウーン...


ジャン「……」ピョン パサパサ

アニ「……何あんた、ふざけてるの?」イラッ

ジャン「ふざけてねえよ。……こんなくだらねえことにいつまでも付き合ってられるか。俺もう帰るからな」スタスタ...

ミーナ「おつかれー」フリフリ

アニ「そっか、やっぱり出ないのか……。じゃあミカサは嘘吐きだったってことになるね」

ジャン「……ちょっと待った。ミカサは嘘なんかつかねえぞ」ピタッ

アニ「それはどうかな。……あの子だって人間だ。嘘の一つや二つくらい吐くに決まってるよ」


ジャン「いいや、ミカサは嘘なんかつかねえ!! ――見てろよアニ、俺は……ミカサが嘘なんかつかねえってことを証明してみせる!!」ピョンピョンピョンピョンピョンピョンピョンピョン

アニ「ジャン……! 嬉しいよ、そこまでやる気になってくれたんだね……!」ウルッ

ミーナ(……ジャンに後でパン分けてあげよっと)





クリスタ「……ねえねえユミル。ジャンがアニとミーナに捕まってるよ?」

ユミル「見ちゃいけませんクリスタ。行きますよ」スタスタ...

クリスタ「でもジャンが吠えながらぴょんぴょこジャンプしてるよ? 手を羽根みたいに小刻みに動かしてるよ?」ズルズル...

ユミル「おやめなさい。あれを助けてもいい子にはなれませんからね」スタスタ...

というわけでオマケもおしまい 次回のジャンは予定通り書ければそこそこ幸せ のはず

お待たせして申し訳ないので宣伝 
ライサシャSSの隙間時間&気分転換に書いていた『コニー「モノクマ、そしてキャンディ」』というSSが(まだ番外編が残っていますが)この前一旦完結しました
クロスオーバーではなく、キ○ガイを装ったほのぼのSSとなっていますので、よかったら待つ間の暇潰しにどうぞー コニーが主役です
あっちでトリップは付けてませんが、確かライサシャSSと同じ日に更新した日があったはずなので、それが本人証明になると思います

こっちは土曜までには更新するのでもうちょい待ってね!

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom