れんげ「うちももう六年生なんなー!」 (90)

れんげ「三年生、こまちゃんが高校に行っちゃったのん」

れんげ「四年生、ほたるんと二人きり」

れんげ「そして六年生」

れんげ「とうとう、学校からうち以外いなくなりました」

れんげ「ねーねーが遅刻しても、楽しくないのん」

れんげ「放課後が来てもつまらないのん」

れんげ「田舎って、つまらないのんなー」

れんげ「……ひゅー、ひゅー」

ガサガサ

れんげ「具、お前もずいぶん長生きなのん」

れんげ「……あと数年、うちが高校に行くまでは、頑張って」

れんげ「ねーねーは今日も遅刻」

れんげ「具、一緒に本読むん」

れんげ「狸とは」

れんげ「狸とはムジナと呼ばれたりします、具はムジナでもあるんなー」

れんげ「狸がする狸寝入りとは気絶です、意外と臆病なんな、狸親父はふてぶてしいのに」

れんげ「狸とは寿命が10年ほどです」

れんげ「10年」

れんげ「もう5年、今が6年目」

れんげ「うちが高校に行くまであと3年くらい」

れんげ「……お前はうちとあった時はいくつだったん?」

れんげ「もう誰かが離れていくのは嫌、だからまだ駄目です、具はまだまだ長生きすること」

れんげ「家で一緒にご飯食べて、栄養付けようなー?」

れんげ「……」

れんげ「ねーねー」

一穂「んー、なんだいれんちょん」

れんげ「二人だけなのに学校まで来る意味あるのん?」

一穂「そうだねー、もしかしたら無いかもしれないね」

れんげ「じゃあ家でお勉強するん?」

一穂「だーめ、ちゃんと学校でお勉強するんだよ」

れんげ「ん」

一穂「それじゃあ終わったら言ってねー……Zzz」

れんげ「……」

れんげ「二人きり、家と変わらないのん」

れんげ「でもねーねーが言うなら、仕方ないのんなー」

れんげ「おばさん、本日もおひがらも良く」

雪子「いらっしゃいれんげちゃん、あの子達の部屋なら好きに入っても良いからね」

れんげ「うん、お邪魔します、なのん」

れんげ「……なっつんの部屋」

れんげ「昔は散らかってて、でも楽しい物が沢山あったのんな」

れんげ「今は片付いてて、うっすらと埃が被ってる」

れんげ「……」

れんげ「今でもなっつんの匂い」

れんげ「なっつんの膝に乗って漫画読んでた時の、あの頃のまま」

れんげ「……流石に今じゃ膝には乗れないかな?」

れんげ「さて、次はこまちゃんの部屋に行くん!」

れんげ「しかしこれはまあ、なんと」

れんげ「無理して大人ぶってる割に、可愛らしいものが多いのん」

れんげ「聞くところによると、こまちゃんはうちより結構背が低いのん」

れんげ「雪子さん調べなのん」

れんげ「こまちゃんの部屋は、ちょっぴり匂いが薄いのん」

れんげ「……1年が、すごい差を実感させてくる」

れんげ「やっぱりなっつんの部屋のが落ちつくのんな!」

雪子「れんげちゃん、西瓜切ったから食べなさい」

れんげ「あ、おばさんありがとう」

れんげ「なのん!」

雪子「やっぱり夏海がお姉さんしてたから、夏海の部屋の方が居心地良いのかしらね」

れんげ「……そんな感じ、なのん」

雪子「なんなら泊まってっても良いからね」

れんげ「もう少ししたら帰るのん」

雪子「そう、それじゃあお皿はこのまま置いていって良いから、好きにしててね」

れんげ「はい」

れんげ「今日も風が冷たい」

れんげ「去年はほたるんと雪でこまだるま作った」

れんげ「こまだるま以外にもまともな雪だるまも、カマクラも作った」

れんげ「今年は一人、雪遊びは卒業かな……」

れんげ「……」

れんげ「はっ! 気を抜いたら駄目なん!」

れんげ「今年もカマクラ作るん! 具と一緒にカマクラでダラダラするのんな!」

れんげ「だから今年も遊び倒すのん!」

れんげ「そして時間は流れるん」

れんげ「うちは今、中学3年生」

れんげ「最近のお姉ちゃんはなんだかバタバタしてる」

れんげ「うちが高校に行くための準備をしているらしい」

れんげ「みんながいなくなってから、四回目の冬」

れんげ「うちは、ひかげお姉ちゃんがいた高校を受けるために勉強してる」

れんげ「東京、ほたるんがいたところ」

れんげ「東京、ほのかちんがいるところ」

れんげ「なんだか夢が広がって来る、広がって来るのん!」

れんげ「ひゅー、ひゅー」

れんげ「具、きっとこれから会える日はかなり減るんだよね」

れんげ「寂しいね、ずっと一緒にいたかったんだけどな」

れんげ「でも、よく頑張ってくれたね、具」

れんげ「ずっとうちを支えててくれて、ありがとう」

れんげ「今日はお礼に、具が好きだったご馳走を用意したんだよ」

れんげ「食べてくれるかな?」

れんげ「……」

れんげ「それじゃあ、そろそろ帰るね」

れんげ「本音を言うと、あと数ヶ月、4月までは頑張って欲しかったな」

れんげ「でも、ありがとう」

れんげ「うちの大好きな具、本当にありがとう、また、必ず来るのんな!」

れんげ「春休み」

れんげ「もう中学生もおしまい、高校生になる」

れんげ「高校にいくための引っ越しの準備もしてる」

れんげ「でも、最後にすることがあるからうちは学校にいます」

れんげ「お世話になった校舎の大掃除」

れんげ「毎年うちと一穂お姉ちゃんの二人きりで大変でした」

れんげ「でも今年は、うち一人での大掃除です」

れんげ「一穂お姉ちゃんは部屋探しとか色々でしばらく東京に、ずるい」

れんげ「うちには出来ないことだから仕方ないけど、一人で校舎の大掃除は大変だな」

れんげ「……頑張るのん!」

れんげ「……」

れんげ「……あいつの二代目に一杯食わされてしまいました」

れんげ「でもトウキビ蒔いたから、きっと一穂お姉ちゃんがそのうち釣れ……」

れんげ「……ない!」

れんげ「そういえば、東京にいるんでした」

れんげ「……」

れんげ「……」

れんげ「こういうとき、隠されし脱出手段があるのが密室のお決まりなのん」

れんげ「すぅ……すぅ……」

ユサユサ

れんげ「んん……」

?「れんちょん、ねえれんちょん起きなよ」

れんげ「あれ、この声……」

夏海「はぁ、やっと起きたね」

れんげ「なっつん? なっつん!」

ガバッ

夏海「ちょっ、わあぁっ!」

ドサッ!

夏海「いやぁー、トウキビ拾ってたられんちょんが兎小屋で寝てるんだもん! ビックリしたってもんじゃないよ!」

れんげ「……」

夏海「ん? なに? そんな変な顔してさ」

れんげ(一穂お姉ちゃんだけじゃなく、なっつんも釣れました)

夏海「まあ良いや、それよりれんちょん、おっきくなったねー!」

れんげ「なっつんはすごくおっきくなってるのん」

夏海「そう? 最後に会った時とそこまで変わらなくない?」

れんげ「いや、変わってるのん、豊作なのん」

れんげ「ところでなっつん、どうしてこっちに?」

夏海「母ちゃんから電話あってさー、なんと、れんちょんの手伝いに来たんだよ!」

れんげ「なっつんが、大掃除の手伝いに?」

夏海「そーそー」

れんげ「わかったのん、うちは夢を見ているのん、目を覚ますとうちは小学一年生、ほのかちんと思いっきり遊ぶのんな」

夏海「うちが手伝うってことは夢レベルに有り得ないの!?」

れんげ「もしくはなっつんは本当はなっつんじゃなく、こまちゃんが成長した姿なのん」

夏海「うちはうちだから! 少しくらい信用してぇー!」

夏海「ってな感じで、姉ちゃんとほたるんは同じ大学でさ、今は三人で住んでるんだよね」

れんげ「三人で?」

夏海「そうそう、家事はほたるんがしてくれて、色んな手続きとかは姉ちゃんがしてくれてるんだよねー」

れんげ「……なっつんはなにしてるん?」

夏海「う、うちはほら! バイト! バイトしてるし!」

れんげ「バイト? なっつんアルバイトしてるん?」

夏海「すっげーしてるよー、最初にやってたパチンコ屋とか、玉運ぶだけで目茶苦茶重宝されたし!」

れんげ「……最初にやってた?」

夏海「ほ、ほらパチンコ屋ってタバコ臭くて空気悪かったからさ! あ、れんちょんそこまだ汚れてる!」

れんげ「このくらいならそこまで気にしなくても」夏海「甘い! 甘いよれんちょん!」

夏海「ざっとこんなもんよ!」

れんげ「なっつん、色んなアルバイトしてたんなー」

夏海「ふふん、バイトクイーンの夏海ちゃんとはうちのことさ!」

れんげ「……でも数年で何十個のバイトするって、辞めまくりなのん」

夏海「だって覚えることなくなって飽きて来たらやる気出ないしー、夏海ちゃん悪くないもーん」

れんげ「……」

夏海「そ、それに最近は雑誌の表紙にのったりもしたし? ほらー!」

れんげ「わぁー、なっつん、モデルさんもしてたんなー!」

夏海(ほたるんがこれより有名な雑誌に乗ったことは、言わないでおこう)

れんげ「昨日で大掃除が終わったのん」

れんげ「あの後、一人は寂しいだろうからと、なっつんの家に泊まることになったのん」

れんげ「久々のなっつん、話は弾んで、朝まで話をしてたのんな」

れんげ「うち、今まで地元から出るのは寂しいと思ってた」

れんげ「でも、都会の方にはみんながいる、寂しくないのん」

れんげ「だから、具も安心してね」

れんげ「これからの日々はいつもとは違う、そんな日々」

れんげ「だけどみんながいるなら、きっと楽しい日常が待ってる」

れんげ「うちももう高校生になるんなー!」

れんげ「すごく、すごく楽しみなのん!」

おしまい

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