あぎり「ソーニャが、死んだ?」(147)
――昼休み、学校の屋上。
ソーニャ「………」
私は備え付けのベンチに腰掛けて、少し古い型の携帯電話を耳にあてていた。
相手は組織の仲間だ。 当然、会話の内容は仕事の話。
???『……って感じで、こっちは上手く行ってますー』
ソーニャ「ああ……」
???『急な仕事だったけど、簡単だったから。 そのぶん、給料は安いんだろうけど……』
ソーニャ「…………」
???『……聞いてる?』
ソーニャ「ん? ああ、ごめん」
ちゃんと聞かなければいけないのに、どうも気が抜けてしまう。
最近はいつもこうだ。
???『まったく、あなたがそんなんでどうするんです?』
ソーニャ「……わかってるよ」
???『はあ……慣れないことしてるから、疲れてるんじゃないですかー』
ソーニャ「……?」
???『折部やすな……でしたっけ? あの子の何が良いのか……』
ソーニャ「……余計な詮索はするな」
???『はいはい』
ソーニャ「…………」
???『……まあ、ごっこ遊びもいいですけど、早めに本業に戻ってねー』
???『これ、あなたが頼んだ依頼なんですからね? 給料払えないとか、勘弁ですよ』
ソーニャ「……わかってるって、なんとか暇を作ってみるよ」
???『ならいいけど……じゃあね』
電話が切れた後も、私はしばらく携帯を耳にあてていた。
単調な電子音を聞きながら、少し考え事をする。
……私だって、わかってる。
慣れないことを、無理してやってることくらい。
でも、簡単にやめるわけにはいかない。
これは、私が始めたことだ。
やすな「……ソーニャちゃーん! 買ってきたよー!」
ソーニャ「……あ」
気がつくと、入り口のあたりにやすなが立っていた。
高く振り上げた手の先には、頼んでいた缶ジュースが握られている。
やすな「いやっふー……って、あれ?」
ソーニャ「おい、炭酸なんだからあんまり振り回すなよ!」
やすな「うん……」
ソーニャ「あーもう、見るからに膨らんでるじゃないか……」
やすな「…………」
ソーニャ「……? どした?」
やすな「……そ、ソーニャちゃん、それ……」
やすな「誰から、電話?」
ソーニャ「あ……」
ソーニャ「……ちょっと、仕事」
やすな「えっ……」
胸元へ寄せられた小さな手から、漫画みたいに缶ジュースが滑り落ちる。
さっきまで騒いでいたのが嘘みたいに、やすなの顔は青ざめていた。
ソーニャ「……なんだよ、なんか文句あるのか?」
やすな「だっ、だって! ついこの前……」
ソーニャ「言っておくが、もう二度とあんなヘマはしないからな」
足元に転がってきたジュースを、一度蹴りあげてから空中でキャッチする。
ちょっとした曲芸だが、やすなは何も反応しなかった。
……こんなことでは、気を逸らせないみたいだ。
やすな「そんなこと言っても……! 信用できないよ!」
ソーニャ「……あ?」
やすな「だって、いつもそうやってプロぶってたじゃん!」
やすな「……でも、全部嘘だった!」
ソーニャ「お前、喧嘩売ってるのか?」
やすな「本当のこと言ってるだけだもん! ……私にはそうやって威張ってるくせに」
やすな「この前の……あんな、あんな大怪我して! あんなに、長く学校休んで……」
ソーニャ「…………」
やすな「ソーニャちゃんなんて……ザコじゃん! ザコ! ざーこ!」
ソーニャ「……いい度胸だなお前」
やすな「ふん、ザコソーニャちゃんなんてもう怖くないもん! バーカ!」
ソーニャ「…………」
やすな「そんな弱いんだったら、もう殺し屋なんてやめちゃえ! じゃないと……ぶはっ!?」
さんざん振られた上にかどが凹んだ炭酸ジュースを、一息に開栓する。
追加で降るまでもなく、勢い良く噴出した中身がやすなの顔面を直撃した。
やすな「いっ……ったー!! 目がああっ!!」
ソーニャ「…………」
やすな「あああああ……ってやめて!? 残りをまんべんなくふりかけないで!!」
ソーニャ「捨てたら勿体ないだろ?」
やすな「だったら飲んでよぉ!!」
ソーニャ「飲めるかこんなもん!」
やすな「うう……ひどい……びしゃびしゃだよ……」
ソーニャ「……はっ、これくらいですんで良かったと思え」
やすな「うええ……ソーニャちゃんのばかあ……」
ソーニャ「馬鹿はどっちだ……じゃあな、そろそろ休みも終わるし、先に戻ってる」
やすな「待ってよぉ……行かないでよぉ……」
ソーニャ「べたべたくっつくな! こっちまでベタベタするだろ!」
やすな「うう……だって……」
やすな「ソーニャちゃん……死んじゃうよぉ……」
ソーニャ「……っ!」
やすな「そしたらやだよ……寂しいよ……」
ソーニャ「ばっ……馬鹿! そんな簡単に死ぬか!」
やすな「死ぬよ!」
ソーニャ「死なない!」
やすな「死ぬもん!」
ソーニャ「……死なないって言ってるだろ!」
やすな「ひっ……」
ソーニャ「…………」
やすな「…………」
ソーニャ「……悪かったよ、ちょっとやりすぎた」
やすな「……うう」
ソーニャ「ほら、これで顔拭け」
ハンカチを差し出すと、やすなは素直に受け取った。
ひとしきり騒いで、流石に落ち着いたらしい。
ソーニャ「……着替えあるか?」
やすな「今日、ジャージ持ってきてない……」
ソーニャ「……仕方ないな、私の貸してやるよ」
やすな「ほんと!?……なんか優しいね」
ソーニャ「厳しくして欲しいのか?」
やすな「してほしくないです!」
ソーニャ「……じゃあ先に行ってろ、私は代わりのジュース買ってから行くから」
やすな「私の分も買ってくれるの!? わーい!」
ソーニャ「おい、誰がそんなこと……おい!」
ソーニャ「……って、もう居ないし」
まあ、元気が出たならよしとしようか。
そんなことを考えながら、ジュースの缶を拾って屋上を後にする。
ソーニャ「…………」
……あんな顔をするなんて、思わなかった。
たかだか仕事の電話一本で。
あんなに……心配しているなんて。
???「まあ、それだけ愛されてるんですねー……ソーニャさんは」
ソーニャ「?……なんだ、居たのか」
???「ええまあ。 ちょっと予行演習でもしようかな、と思って」
ソーニャ「じゃあなんでわざわざ電話したんだよ?」
???「邪魔しちゃ悪いでしょ?」
ソーニャ「…………」
いつの間にか背後に立っていた長髪の女子生徒は、
まるで服装を自慢するように、その場でくるりと一回転した。
???「……どう? 似てます?」
ソーニャ「……ああ、完璧だ」
???「お褒めに預かり光栄です……」
???「……まあ、あなたほどじゃないと思いますけどねー?」
ソーニャ「やめろよ、聞かれてるかもしれないだろ」
???「大丈夫、もう教室に行ったみたいですよ」
ソーニャ「……そうですか」
???「……ちょっと、本物と見比べてもいいですか?」
ソーニャ「はいはい……」
同僚のしつこい誘いにはうんざりするが、物を頼んでいる身だ。 あまり大きな態度はとれない。
それに、どうせもうすぐ取り替え時期だ。
私はその場で、顔にかぶっていた薄いマスクを剥ぎとった。
あぎり「……心配しなくても、ちゃんと私に見えてますよ」
同僚の忍者は、人を小馬鹿にしたような顔で笑った。
偽あぎり「……それは良かった♪」
……私って、こんなに腹の立つ顔だったんだなあ。
………
―― 一ヶ月ほど前、自宅。
あぎり「……え? ソーニャが死んだ?」
組織から仕事の説明を受けている最中に、私は彼女が死んだことを聞いた。
ほんの、世間話のような感覚で。
上司「ああ、仕事中にドジったらしい」
あぎり「ドジったって……あの子が、そんな」
上司「確かにあいつは腕が良かったが……敵には事欠かない奴だったしな」
あぎり「はあ……それは、確実なんですか?」
上司「死体は俺も確認したよ、あれは間違いなく本人だ」
上司「元々、お前みたいに器用な真似が出来るやつでも無いし」
あぎり「…………」
彼女とは、ちょっとした知り合いだった。
会えば軽く話したり、時々仕事を手伝ったり。 いくらでもいる知り合いの一人。
もちろん、殺し屋の同僚にもそんな相手は居たし、仕事柄死んでいった者も少なくはなかった。
そもそも、明日の生死もわからないような職業の人間は、あまり深い人間関係を作りたがらないものだ。
それは私も、彼女も同じだった。
同じはずだった。
……その知らせを聞いてから一週間後くらいだったか。
私は正直、ソーニャのことを少し忘れかけていた。
あの時あれを見なければ、そのまま忘れてしまっていたかもしれない。
それとも、いつかは見るはめになったのかな。
私はソーニャを介して、彼女ともちょっとした知り合いだったから。
――放課後。 ソーニャの机がある教室の前。
本当にたまたま通りかかって、たまたま教室のドアが開いていた。
そしてたまたま、そっちの方を見ながら通りすぎようとした。
そこで、彼女の背中を見た。
彼女は自分の机に腰掛けて、隣の机をじっと見つめていた。
もう一週間くらいになるだろうか。
いきなり失踪して連絡がとれない友達が、座っているべき机。
自宅の場所も知らない彼女が、唯一待っていることができる場所を。
帰ってくるはずもないのに。
彼女は、じっと見つめていた。
その時、私が何を思っていたのかは……まだ考え中だ。
不憫に思ったんだろうか。 それはらしくないし、単なる悪ふざけだろうか。
流石に、そこまで外道になったつもりはないけど……
じゃあ、やっぱり何か、思う所があったんだろうか。
とにかく、私はソーニャの姿を完璧に真似た。
リアリティを出すために、体中に包帯まで巻いた。
変装は大の得意分野だった。 バレるはずもなかった。
実際、今の今まで、一度も怪しまれなかった。
でも、私は2つ体があるわけではない。
私がソーニャを演じるということは、呉織あぎりがいなくなったのと同じことだ。
簡単な分身の術や、集団催眠の術や、出席簿書き換えの術を使えば、周りには怪しまれないですむ。
しかし、私と彼女とソーニャが、一堂に会するような事態は話が別だ。
だからそんな時は、同僚の忍者に私の代役を頼み込んできた。 もちろん有料で。
あの同僚も、内心では私を嘲笑っているんだろうか。
もう、一ヶ月くらいになるのかな。
私はいまだに、その馬鹿げた茶番劇を続けていた。
というより、やめられなかった。
誰かと深く付き合っていれば、当然昔のままでは居られない。
私もきっと、彼女に何かの影響を受けてきたんだろう。
だから、やめることはできない。
……彼女に初めてソーニャの姿で接したとき、どんな反応が帰ってきたか?
それは、だれにも教えたくない。
特に理由は無いけれど、自分の胸の内にしまっておきたい。
そう答えたら、同僚ははっきりと、声に出して私を笑った。
………
――――――――――
形意拳、というのがあるんだ。
中国の拳法で、それぞれ動物を模した十二形拳を……
何? 動物のモノマネ?
……アホっぽい?
ま、まあ、素人にはそう見えるかもしれないけどな。
こう見えても結構強いんだよ。 本当だよ?。
なんてったって、その使い手である私は、今まで任務を失敗したことが無い。
あの……なんとかって金髪の殺し屋も、確実に殺ったはずだ。
……はずだったのに。
なのに、なんだあれ?
すぐ目の前の道を。
あの金髪ツインテールが。
バカそうなお友達と一緒に、今日も元気に歩いてるじゃないか。
失敗した? そんなはずは無い。 でも奴は生きてる。
他人の空似? 影武者か? ……どちらにしても、簡単な解決方法は一つ。
もう一度殺す。 単純なことだ。
そうと決めたらさっさと行動に移ろう。 今すぐ追いかけて、息の根を止めよう。
……というわけで、私はその二人の後をつけることにした。
え? 私の名前? ……うるさい、殺し屋が簡単に言うわけないだろ!
――――――――――
………
やすな「……ねえソーニャちゃん、聞いてる?」
ソーニャ「……? ああ、なんだっけ?」
やすな「なんだっけじゃないよ、ちくわぶの話だよ!」
ソーニャ「ちくわ……」
ソーニャ「この暑いのに、おでんの話か?」
やすな「……ちくわぶは家の犬の名前だよ」
ソーニャ「……えっ?」
やすな「ほら、ソーニャちゃんも一度会ってるじゃん……」
ソーニャ「……そうだったっけ」
やすな「もう、しっかりしてよー」
ソーニャ「…………」
――べつの日。 通学路。
私は彼女と一緒に、他愛もない話をしながら下校していた。
彼女はいつものように、自分の身の回りのことを熱心に話している。
やすな「それがさ、この間半分になったすずめをくわえてきてさ……」
ソーニャ「ふーん……」
やすな「そういうのって猫だけかと思ってたけど、犬もやるんだねー」
ソーニャ「そう……」
……だけど、どうにも集中できない。
「本物」だけが知っている情報の存在に冷や汗をかきながらも、
私の意識は、背後の電柱、もっと言えばその裏に潜んでいる何者かに向けられていた。
……はっきり言って、奴の尾行は絶望的に下手だった。
存在を隠せていないのはもちろんのこと、視線や足音までもれなく伝わっている。
隣の彼女に気付かれていないのが奇跡のようだ。
しかしおそらく、この無能な殺し屋こそが……ソーニャの仇だろう。
ソーニャの死後、私はその相手についてできる限り調べていた。
情報によれば、奴は非常に高い身体能力を持った拳法家で、格闘戦では右に並ぶものが居ない。
つまり殺し屋としての技術は未熟だが、一旦補足してしまえば確実に仕事を成功させられるのだ。
たぶんソーニャは、奴を返り討ちにしようと思ったのだろう。
腕のいい殺し屋ほど、その選択肢をとるに違いない。
その結果、自分が返り討ちにあってしまった、ということだ。
それなら、私は違う方法をとれば良い。
ソーニャ「……あっ」
やすな「? どしたの?」
ソーニャ「教室に、ちょっと忘れ物したみたいだ」
やすな「……そうなの?」
ソーニャ「ああ、走って取ってくるから、悪いが先に帰っててくれ」
やすな「えっ……」
私はその場で振り返り、来た道を走って戻った。
奴が隠れている真横を通りぬけながら、その姿を一瞥する。
腰に上着を巻きつけた、バカそうな少女だ。
……なんだか嫌いになれない顔だな、と少し思った。
―――――――
あいつはすました顔でこっちを見ると、そのまま学校の方へ走り去っていった。
あのままついていって、人気のないところまで来てからとどめを刺すつもりだったのに……
おそらく奴も、それに気付いたんだろう。
放課後と言っても、学校にはまだたくさん人が居る。
その中に逃げ込まれれば終わりだ。
いくら私が強くても、人目につく場所では暴れられないからな。
……まあ、そうなる前に追いつけば良いだけの話だ。
追いかけっこには自信がある。
それにしても、私の尾行を見破るとは……相当やるな。
―――――――
――再び通学路。 そろそろ学校が見えてくる頃合いかな。
もう5分くらいになるか、ずっと走り続けているけど、未だに後ろの気配は消えない。
これでも全速力で、追いかけにくい場所を交えながら逃げてるつもりなのに……
屋根をつたっていけば塀を壊し、人ごみを抜ければ一般人をなぎ倒し、水上を走れば川を飛び越える。
馬鹿ではあるけど、能力の高さは本物だ。
工夫と回り道をしなければすぐに追いつかれていただろう。
でも、これで考えが決まった。
これくらいで誤魔化せる敵なら放置しても良いと思ったけど、それは無理らしい。
なら対応は一つ。
返り討ちだ。
―――――――
走り始めてから……どれくらいたったっけ。
色んな場所を走り続けて、自分が今どこを走っているのかもわからなくなってきた。
それなのに、奴は一向に戦おうという意思を見せない。
一度負けたから、私のことが怖いんだろうか?
まあいい。 いつまでも逃げていられるわけがない。
私と体力勝負しようなんて甘いんだよ。
実際、あいつと私の距離はだんだん縮まっている。
あと一回でも減速すれば、瞬時に詰められる距離だ。
つまり……次の曲がり角。
あれを曲がれば、全部終わり。
今回も仕事達成だ。
あーあ、走り回ってたら、なんだか腹が減ってきた。
これが終わったらカップ麺でも買って帰るか、っと。
奴の姿が塀の向こう側に消える。
カップ麺の前に、最後の仕上げだ。
私は速度を落とさずに、むしろ足に力を込めて、一気に塀を飛び越えた。
こういうのは気分がいい。 鳥になったみたいだ。
いつまでも楽しんで居たいけど、そうもいかない。
私は両足を揃え、アスファルトの地面に着地する。
そして一息に振り返り、あのすかした顔に渾身の一撃を……
あれ?
奴が居ない。 影も形もない。
飛びすぎたか?
慌てて振り向くと、そこには長い黒髪の女子高生が居た。
私に驚いたのか、ぽかんとした顔でこっちを見ている。
が、奴の姿は見えなかった。
前にも後ろにも居ない。 上にも下にも右にも左にも居ない。
消えた……? まさか。
私は近くにいた女子高生に声をかけてみることにした。
「おい! さっきここを、金髪の女が走っていかなかったか?」
「え? 金髪の……?」
「ああ、ツインテールの、目付きの悪い……」
「はあ……それなら確か、あっちの方に……」
そいつは眠そうな目をぱちぱちさせて、奴が元々目指していた方角を指さした。
どうやら、まだ学校に向かっているらしい。
こんなに足が速いなんて……まんまとやられたな。
「そうか……助かった、じゃあな!」
「いえいえ」
私は女子高生に軽く礼をして、奴が走り去っていった方に足を向けた。
そして全身の力を込め、地面を蹴って、
何をしたのか、自分でもわからなかった。
なぜか、頬に冷たい感触がある。 アスファルトに押し付けているみたいだ。
じゃあ私は倒れているのか?
それを確認しようにも、目の前は真っ暗だ。
まぶたを開けても、閉じても真っ暗だ。
耳も聞こえないし、それにつられたみたいに、三半規管も意味が無い。
上も下もぐにゃぐにゃになって、自分の姿勢すらわからない。
何が起きた? あいつに殺られたのか?
でもあいつは居なかったはずだ。 そもそもちゃんと殺したはずだ。
じゃあなんで?
まあいいか。 もう終わったことだ。
私は結局、一回も仕事を失敗しなかった。 そういうことにしとこう。
そう考えると、なんだか気分がいい。 鳥になったみたいだ。
これからは、いつまでも楽しんで居られるのかな?
ああ……でも。
どうせなら、お腹いっぱいで死にたかったな。
―――――――
あぎり「……終わりましたね」
私は殺し屋の死体を見下ろしながら、左手の吹き矢を慎重にしまった。
革製のケースは、にじみ出た猛毒によってすっかり変色している。
アナログなのもいいけれど、今度からは注射器とかも使おうか。
あぎり「すみませんねえ……苦無で刺したくらいじゃ死にそうになかったので」
あぎり「ちょっとだけ、強めのお薬を使わせてもらいました」
そばに屈みこんで、すこしごわっとした茶髪を撫でる。
干したての布団のような匂いがした。
元気な所といい、どこか子犬のような少女だ。
あぎり「苦しかったですか?……馬鹿ですね、私みたいな人間に背を向けるなんて」
もう少し賢ければ、長生きできたかもしれないのに。
それでなくても、こういう馬鹿で素直な人はあの娘を連想していけない。
別にためらったりはしない。 悲しいわけでもない。
ただ、もし彼女を殺せと言われたら……簡単に殺せてしまえそうで、気分が悪い。
あぎり「……さてと」
いつまでも遊んでいるわけにはいかない。 今は誰も居ないが、ここもいずれ人が通るだろう。
それまでにこの死体を、なんとかしなければ。
そもそもそのために、わざわざ学校の近くまで来たのだから。
……
――空き教室。 ここは元忍者同好会の部室でもある。
私はその隅に置かれたロッカーを、死体の隠し場所として選んだ。
隠し場所といっても、組織の連中が回収に来るまで、それほど長くはかからないだろう。
なら埋めたりする必要はない。 一時的に人の目を遠ざけられれば十分だ。
それなら、ここはかなり適した場所と言える。
ここには私と、彼女しか来ないから。
一応ロッカーの鍵を閉めた後、私はソーニャの遺品では無い方の携帯を取り出した。
走りながらメールした同僚には、私の格好をしてあの娘を見張っておくように頼んである。
しかし、電話に出た同僚は開口一番謝ってきた。
偽あぎり「すみませーん、対象の補足に失敗しましたー」
あぎり「……は?」
偽あぎり「今回の給料は要りませんのでー、それではー」
あぎり「はいはい逃げないで説明してください」
偽あぎり「それが……連絡があった直後に指定場所へ向かったんですが」
偽あぎり「折部……さんでしたっけ? もう居なかったんですよ」
あぎり「……追いかけましたか?」
偽あぎり「もちろん……でも、彼女の家まで行っても居ませんでした」
まずい。 殺し屋はあの一人だけじゃなかった……?
なら、彼女は人質に取られた? いや、とりあえずの情報源として? それとも関係者に間違われたか?
それなら今頃彼女は、どこかの組織に拘束されている? 尋問されている?
……殺された?
体中の血液が冷たく感じる。 頭だけが燃えるように熱い。
前髪を伝った冷や汗が、小さな音を立てて床に落ちた。
なぜすぐに確認しなかったのだろう。 死体なんて放っておけばよかったのに。
あの娘に何かあったら、誰を何人殺そうが意味ないのに。
偽あぎり「……ちょっと、聞いてます?」
あぎり「……は、い」
息が乱れて、上手く返事をすることができない。
一度深呼吸してから、改めて電話に注意を向ける。
偽あぎり「はあ……ちょっと落ち着いてくださいよ」
あぎり「…………」
偽あぎり「……たぶん、殺し屋は一人だけです」
偽あぎり「そもそも、ソーニャさんを殺ったのは単独の殺し屋ですよ?」
偽あぎり「それに、折部さんだって家にまっすぐ帰るとは限らないでしょう……」
あぎり「あ……」
偽あぎり「どうせ、大した説明も無いまま慌てて逃げてきたんでしょ?」
偽あぎり「おそらく、あなたを追いかけて行ったんだと思うんですけど」
あぎり「そ、そう……ですね」
あぎり「きっと、そうでしょう……」
思わずため息が漏れた。
急激に緊張がほぐれたからか、頭がガンガンする。
情けない話だ。
偽あぎり「それで? あなたは、今どこに居るんです?」
偽あぎり「……というか、どこに向かう、と言ったんですか?」
あぎり「えーと、学校の……」
空き教室に、と言いかけて口が止まる。
今、自分はどこにいて、彼女はどこに向かっている?
それはもちろん……
やすな「ソーニャちゃん!……って、あれ?」
ここだ。
やすな「あぎりさん?」
あぎり「あ、ああ……久しぶり、ですね」
……
――空き教室。
急に開いたドアの向こうには、ソーニャを探しに来た彼女が立っていた。
当然、そんな急なことに反応できるはずがない。
殺し屋を騙したときはマスクを剥ぐだけで良かったが、一瞬で逆をするのは不可能だ。
私は久々に素顔で……呉織あぎりとして、彼女に接しなければならなくなった。
やすな「久しぶり……?」
あぎり「あー……体感時間的に、ですよ」
やすな「はあ……まあいいや」
あぎり「あはは……」
やすな「それより、どうしたんですか? 一人で……」
あぎり「別に、大したことじゃありませんよ」
あぎり「ちょっと電話を……仕事のことで」
状況を察したのか、すでに通話が切れた携帯を持ち上げてアピールする。
単調な電子音が、虚しく部屋に響いた。
やすな「はあ……あ、そうだ」
やすな「あの、あぎりさん?」
あぎり「はい、なんでしょう?」
彼女は、特に疑問を持たなかったようだ。
好都合だけど、同時に、何か引っかかったような感触を覚える。
やすな「えっと、ソーニャちゃん見ませんでした?」
あぎり「ソーニャ?……はい、まあ」
やすな「本当!? どこに居たんですか?」
あぎり「あの、何かありました?」
やすな「ああ、その……さっき、忘れ物があるとか言って走って行っちゃって」
やすな「でも、なんだか、様子が変だったというか」
やすな「目が仕事をするときの目になっていたというか……」
あぎり「ああ、なるほどー……」
やすな「それで追いかけてきたんですけど、どこにも居なくて」
あぎり「なら、ちょうど行き違いになっちゃったんですねー」
あぎり「ソーニャなら、ついさっきここを出ていったばかりですよ?」
やすな「えっ? そうなんですか!?」
あぎり「ええ、何か探してたみたいですけど?」
やすな「……なんだ、本当に忘れ物かあ……」
彼女は明らかに怪しい言い訳を素直に信じているようだ。
それは彼女が単純だからか、それとも、それが望んでいた答えだからなのだろうか。
やすな「じゃあ、今から戻ろうかな……」
あぎり「たぶん、追いつけないとおもいますよー?」
あぎり「あなたを待たせてる、って言って急いで出て行きましたから」
やすな「あちゃあ……そうですか」
どちらにせよ、私には好都合だった。
このまま彼女が帰ってくれれば、それで終わりのはずだった。
やすな「ありがとうございました……それじゃあ」
あぎり「あ、ちょっと待って下さい」
やすな「え? なんですか?」
あぎり「……あなたは――」
それなのに、私はどうしても我慢できなかった。
あぎり「――どうして、ソーニャの仕事を邪魔するんですか?」
やすな「……え?」
あぎり「あなたが慌てて帰ってきたのは、ソーニャが仕事をするんじゃないかと思ったからでしょ?」
やすな「あ、まあ……そうですけど」
あぎり「どうしてですか?」
やすな「どうして、って……」
こんなこと聞く必要は無い。
それどころか、変な勘ぐりをされかねない。
それでも、私の口は止まらなかった。
あぎり「……あなたは、何故彼女に人を殺させたくないんですか?」
やすな「そ、そんなの……悪いことだからに決まって」
あぎり「嘘ですね」
やすな「えっ?」
あぎり「悪いことだと思ってるなら、その悪いことをしてきた彼女を軽蔑するでしょう」
あぎり「そんなこと……全然、ないじゃないですか?」
やすな「あ……えっと」
今の私は、どんな顔をしているんだろうか?
自分でもよくわからない。 けれど、今まで彼女に、周りに向けてきた顔じゃないのはわかる。
柔和で、曖昧で、何を考えているのかわからない笑顔。
いつからかずっと、他人に対して浮かべてきた作り笑い。
私は今、きっとそれを顔に貼り付ける余裕なんて無い。
あぎり「……本当のことを言ってください」
やすな「あの、えっと……」
やすな「……この前、ソーニャちゃんが、結構長く休んでて」
やすな「帰ってきた時も、すごい大怪我してて」
彼女が語り始めた内容は、私が想像していた通りだった。
でも、望んでいたわけじゃなかった。
矛盾した行動は、当然私の精神をえぐりだす。
やすな「それで……やっぱりこの仕事って、危ないんだな、って思って」
やすな「もう一回、こんなことがあったら……」
やすな「二度と、ソーニャちゃんが帰ってこないんじゃないか、って、思って……」
あぎり「じゃあ、やすなさんは……」
あぎり「ソーニャに、死んで欲しくないから」
あぎり「だから……いつも付いて回って、仕事を邪魔するんですね」
やすな「……だ、大事な、友達ですから……」
彼女は、あの時のことを思い出したのか、どこか泣きそうな顔をしていた。
私も今こんな顔をしているのかな、とふと思った。
思えば最初から、私は気づいていた。
人を殺すのは悪いこと、そう語る彼女は、きっとそんなことを言いたいんじゃないと思っていた。
人が必死になる時は、いつも単純な理由で動いているものだ。
彼女はただ、自分の大事な友達を失いたくなかっただけだろう。
命のやりとりなんて、危険な行為に手を染めて欲しくなかっただけだろう。
明日いなくなるともしれない相手だからこそ、毎日全力で遊んでいたのだろう。
それほど大事な、親友だったから。
あぎり「あ……は、はは」
口が不自然に歪んで、まるで笑っているように息が漏れる。
手から、漫画みたいに携帯が滑り落ちた。
やすな「あぎり、さん……?」
二人には広すぎる部屋に、単調な電子音が響く。
携帯電話……そう、携帯電話だ。
これを、持っていたのに。
仕事の、電話をしていたのに。
あぎり「じゃあ……」
なんで。 どうして?
あぎり「どうして……」
あぎり「……私は、邪魔してくれないんですか?」
やすな「……あっ」
彼女の顔がさっと青ざめる。
こんなに優しい子に、私はなんて残酷なことを言っているんだろう?
あぎり「私も、ソーニャと同じ組織の人間です」
あぎり「方法に違いはあっても、仕事は同じ……人殺しです、玩具の販売じゃありません」
やすな「あ……えと」
これはただの八つ当たりだ。 彼女は何も悪くない。
頭では理解していても、言葉は止まらない。
あぎり「……忍術って、人を楽しませるためのものじゃないんです」
あぎり「それはマジシャンの仕事で、私にできるのは……本当は殺しだけなんですよ」
あぎり「だから……だからいつも、そんな、死ぬかもしれない仕事をしてお金を稼いでいるんです」
それはきっと、一つの事実を……認めたく無かったからだろう。
あぎり「あなたは……ソーニャに死んで欲しくないから、仕事を邪魔するんですよね?」
やすな「……それは」
あぎり「でも、私のことはそう思わないんですね」
やすな「そんなこと……!」
当然だ。 醜い本性を隠して、いつも上辺しか見せないこんな人間に何の魅力があると?
至って普通の……当然の事実だ。
それでも……
あぎり「ああ……そうなんですかー」
……それでも、そうじゃないと思っていたのに。
あぎり「私は、あなたの……大事な友達じゃないんだ……」
やすな「……ち、違います」
あぎり「何が違うっていうんですか?」
やすな「私は、あぎりさんも……」
あぎり「……適当なこと言わないでください!」
私は全部知っている。 あなたは知らないだろうけど。
ソーニャが仕事の電話をするだけで、どんな顔をするのか。
ソーニャが少し居なくなったら、どんな背中を見せるのか。
ソーニャに再会したとき、どんなに泣いて、怒って、笑って、喜んだか。
やすな「っ……」
あぎり「私も……何ですか?」
それと、同じだと?
目眩がする。
あぎり「……適当なこと、言わないでください」
やすな「………」
気づくと、彼女は泣いていた。
それが何故なのか、私にはわからない。
私はただ、やってはいけないことをした、ということしかわからない。
あぎり「……すみません、変なこと言っちゃいましたね」
やすな「…………」
あぎり「今日はもう遅いですから……帰ったほうが、いいと思いますよ」
私がそう言うと、彼女は何も言わずに教室を出ていった。
……
――その日の夜、自宅。
私は制服のままで、布団の上に転がっていた。
当然明日も学校がある。 でも、行きたいとは思えなかった。
学校に行くなら、当然ソーニャとしてだ。
私ではなくソーニャとして、彼女と会い、話す。
今の私に、それが出来るだろうか?
これまで普通にやっていたことなのに、今は想像するだけで吐き気がする。
いや、前も同じだったに違いない。
無理をして、目をそらしていただけだ。
毎朝明るい笑顔で話しかけてくれるのも。
少し黙っていただけで、心配そうに顔を覗き込まれるのも。
すべてソーニャであって、私じゃない。
私が何を思って、何をしても、それは彼女には伝わらない。
わかっていたつもりなのに、それが嫌だった。
私自身が、彼女の友達でいたかった。
じゃあ、なんでこんなことを始めたんだろう?
その答えは、いつの間にか出ていた。
たぶん、知りたかったからだ。 彼女がどういう人間なのか。
組織で知り合った頃のソーニャは、冷徹で、人間味がなくて、殺すための機械のようだった。
それがいつしか、ただの人間に変わっていた。
変えたのは当然、彼女だ。
私はそれに興味を持った。
機械を人間にした彼女がどのような存在か、確かめてみたくなった。
そうして彼女と付き合っている内に、私は彼女が、ごく普通の、
少し馬鹿で寂しがり屋なだけの女の子であることを知った。
それなのに、私は彼女から離れられなくなった。
私もソーニャと同じように、ただの人間になっていた。
私は両手で、自分の顔を強く掴んだ。
口からは自然に嗚咽が漏れる。
私はどうすれば良い?
もう逃げることはできない。 明日ソーニャが登校しなければ、私との関係を疑われる。
そうなれば、彼女にソーニャの死がバレてしまうかもしれない。
いっそのこと、すべて話してしまおうか。
ソーニャが死んだことを伝えて、最初からやり直そうか。
でも、それはきっと、私自身が耐えられない。
こんなこと言える立場じゃないけど、これ以上彼女を悲しませたくない。
……どちらにしても、明日の朝までに決めなくてはならない。
あぎり「私はどうすれば、いいんでしょうか……」
あぎり「……やすなさん……」
――――――――――
――数週間後。 教室。
やすな「おはよう、ソーニャちゃん!」
ソーニャ「ああ、おはよう」
やすな「ふう……なんか暑いねえ」
ソーニャ「もうすぐ夏だからな」
やすな「あーあ、なんかかき氷食べたいなあ……」
ソーニャ「まだ流石に早すぎるだろ……」
やすな「そんなこと言って、去年は秋ギリギリに食べたじゃーん」
ソーニャ「……そういえばそうだったな」
やすな「そうだよ! もうあんな失敗はしたくないし、冷たいものは暑い時に食べたい!」
ソーニャ「そうは言っても、売ってないんだから仕方ないだろ?」
やすな「無いなら作れば良いじゃない! というわけで、帰りに氷買ってこ?」
ソーニャ「……まあいいけど、かき氷機まだ残ってるのか?」
やすな「おっ、珍しく乗り気だね? やっぱり暑いんだー」
ソーニャ「当然だろ? 私だって人間だ」
やすな「ふふん、大丈夫大丈夫、去年買ったのが……あ」
ソーニャ「どうした」
やすな「前にもう一回ドラアイス削ってみたら壊れたんだった……」
ソーニャ「…………」
やすな「どうしよう……」
ソーニャ「諦めろよ」
やすな「いや……あ! あ、でもなあ……」
ソーニャ「なんだ?」
やすな「その……あぎりさんが何か持ってないかな、って」
ソーニャ「ああ……まあ持ってるかもな」
やすな「…………」
ソーニャ「……どうした? あぎりと何かあったのか?」
やすな「え? う、うん……まあ、ちょっと」
ソーニャ「ふーん……でも、どっちにしろ無理だろ」
やすな「? 何が?」
ソーニャ「いや……聞いてないのか?」
ソーニャ「あいつ、もうこの街に居ないからな」
やすな「……え? 何で?」
ソーニャ「この前、仕事の都合で引っ越して行った」
やすな「そんな……何も知らされてないよ!」
ソーニャ「仕事が仕事だからな……私も住所は教えられてないし」
やすな「…………」
ソーニャ「……一生会えないわけじゃ無いんだ、そう落ち込むことでも無いだろ」
やすな「……そんなことないよ」
ソーニャ「……あっそ」
やすな「…………」
ソーニャ「…………」
ソーニャ「……そういえば」
ソーニャ「あいつが出ていく前に、運びきれない荷物とか、結構押し付けられたな」
ソーニャ「ほとんどパーティーグッズだったけど……何かあるかもしれない」
やすな「……え?」
ソーニャ「……探してみるか?」
やすな「……う、うん!」
ソーニャ「じゃあ、放課後私の家に寄るか」
やすな「えっ、いいの!?」
ソーニャ「目隠し耳栓付きでな」
やすな「ええー……」
ソーニャ「当然だろ? ああ、でも結構面倒なんだよな……」
やすな「じゃあ教えてよー、ソーニャちゃんの家」
ソーニャ「…………」
ソーニャ「まあそれくらい良いか……なんかあった時のために、な」
―――――
――放課後、ソーニャ宅。
あぎり「……ちゃんと、効いてますね」
私は彼女がすっかり眠っていることを確認して、顔のマスクを剥ぎとった。
薬の効き目は、もって10分ほど。
体に全く悪影響を残さないためには、これが限界の時間だった。
あぎり「こんなにかき氷食べて、お腹壊しますよ……?」
彼女の体を膝の上に乗せて、髪をすこし撫でてみる。
そこまで動かしても、寝言すら言わない。
薬のせいで、かなり深い眠りについているようだ。
それでいい。 今目を覚まされたら、私の姿を見られてしまう。
私は、彼女と二度と会わないことにした。
学校は転校扱いにして、町からも引っ越したという体にする。
家ももう、引き払ってしまった。 今ではここが私の家だ。
呉織あぎりが彼女の周りから消えれば、もう同僚に仕事を依頼する必要もない。
正体がばれる確率も、ずっと低くなる。
それが、私の出した結論だった。
彼女にとって、ソーニャがいなくなることはありえない。
だから、絶対に正体がばれてはいけない。
私がいなくなることで不安要素が消えるなら、それくらいお安い御用だ。
あぎり「でも……」
私は彼女を持ち上げて、そっと抱きしめた。
少し痩せ気味で小さな体は、想像よりも重く感じる。
……この10分間だけは、こうしていさせて欲しい。
ソーニャの代わりとしてではなく、私として彼女に触れていたい。
それくらいは、許されないだろうか。
あぎり「……ねえ、やすなさん」
あぎり「いつまで……こうして、二人で居られるんでしょうね?」
あぎり「やっぱりいつかは、バレちゃうんでしょうか……」
あぎり「変装はともかく、物真似は少し苦手ですし」
あぎり「……それとも」
あぎり「私も、ソーニャみたいに……」
あぎり「…………」
あぎり「……でも、それでも私は幸せですよ」
あぎり「だって、私はあなたを……」
……いや、やめよう。
あぎり「……本当の気持ちは、秘密にしておきますね?」
終わり
以上 読んでくれてありがとう
このSSまとめへのコメント
・・・面白かったです!!
良かった…良かった…。