橘純一「決めた!僕は紳士になる!」(144)

橘「いきなりで申し訳ないんだねどね」

橘「……僕さ、このままではいけないと思うんだ」

梅原「お?急にどうしたんだ?」

橘「お宝本に目がなくて、女の子を見ればすぐに際どい妄想をして……」

橘「自分で言うのも何だけどさ、まさに女性の敵って感じだよね……」

橘「今年こそは、と息巻いてたけど……こんなダメな男に振り向いてくれる女の子なんているわけないよ……」

田中「うんうん、橘君なんて早く逮捕されちゃえばいいのにね!」

橘「だからさ……僕、ちゃんとしようと思って」

梅原「ほう?」

橘「ぼ、僕!紳士になろうと思う!!」

橘「煩悩まみれの生活とはサヨナラするんだ!」

梅原「……いや、無理だろ」

田中「あはは、頭大丈夫?」

橘「い、いや!僕の決意は揺るがないぞ!」

橘「とりあえず、お宝本コレクションは処分するよ」

橘「……というか、実はもう処分してきたんだ」

梅原「な、何だって!?俺に一言も言わずにか!?」

橘「うん、ごめんね?」

橘「……今さ、焼却炉から煙が上がってるだろ?」

梅原「ま、まさか……?」

橘「うん、そのまさかなんだよ」

橘「今日、朝一番で登校して全部放り込んできた」

梅原「な!?も、勿体ねぇ!?」

橘「これは僕の決意表明なんだ!そう、退路は自分で絶った!」

田中「橘君のお宝本を燃やした煙を吸ってたかもなんて……頭がクラクラしてきた」

梅原「そうか……ここまでするほど本気なんだな?」

橘「うん、でもこれはまだまだ序の口さ!」

橘「まずね、生活態度を改めてようと思ってて」

橘「登校時間を少し早めにして、授業の予習でもしようかと思うんだ!」

橘「もちろん、放課後は図書室でその日の復習をするよ!」

橘「紳士たるもの、やっぱり皆のお手本にならなきゃいけないよね!」

梅原「何だか絢辻さんみたいだな」

田中「きゃ、キャラ被りはご法度だよ!?」

橘「それとね、紳士たるもの些細なことで動揺してはいけないと思うんだ」

梅原「リアクション大きいもんな、大将」

田中「うん、最早リアクション芸の域だよね」

橘「だけど、いきなりそんな鋼の心臓を手に入れるのは無理だろ?」

橘「……だからさ」

橘「少なくとも、突発的な情事……そう!ラッキースケベに対しては平常心を保てるよう努めようと思うんだ!」

梅原「な、何だって!?それって……」

田中「か、考え直して!?ね!?」

橘「いや!最初に言ったけど、僕は煩悩とサヨナラするんだ!」

橘「色欲まみれのままじゃ紳士には……なれない!」

橘「僕は!紳士になるんだ!!」

~一ヶ月くらい後~

生徒A「何だか……最近の橘君って凄いよね?」

生徒B「うんうん、前とは別人というか……格好良くなったよね!」

生徒C「え?私は前から格好いいと思ってたよ?」

ワイワイガヤガヤ

梅原「……本当に変わっちまうとはなぁ、大将」

田中「……うん、何だかね?」

絢辻「あら?喜ぶべきことじゃないの?」

絢辻「私の仕事も減ったし、クラスの雰囲気も前よりよくなったし」

梅原「いやさ、確かにそうなんだけどな?」

田中「毎日の生活に張りがないというか……」

棚町「最近のアイツ、つまんないのよ!」

絢辻「……あ、確かに面白味はなくなったわね」

梅原「そういえば、我らが紳士・橘はどこに行っちまったんだ?」

田中「あー、さっき森島先輩に呼ばれて教室出て行ったよ?」

棚町「あらあら、早速紳士効果があったのかしらねぇ?」

絢辻「……何それ、面白くない」

梅原「ん?どうした?絢辻さん?」

絢辻「面白くない!はっ?何それ!?」

絢辻「……あたし、少し様子見てくる」

棚町「あ、ならアタシもご一緒しちゃおうかな?」

~屋上~

橘「森島先輩?お話というのは……?」

森島「うん、あのね?」

森島「……橘くんさ?私のこと嫌いになっちゃった?」

橘「……えっ?」

森島「だ、だって最近の橘君何かよそよそしいよ?」

森島「私がふざけても冷静に流しちゃうし……」

橘「そ、それはですね……」

森島「ねぇ!?私、何かした!?」

森島「謝るから!悪いことしちゃってたなら謝るから!」

橘「いえ、先輩に何かされたということはないのですが……」

森島「じゃあ何でなのよ!?」

橘「そ、それは……」



森島「……紳士に?」

橘「えぇ、紳士になると決めたんです」

森島「うーん、紳士かぁ……橘くんらしい発想ではあるわね」

森島「でも、私は……前の橘くんの方が素敵だったと思うし、好きだよ?」

森島「あ!ねぇねぇ?紳士の橘くんとしてはさ?」

森島「えい!」ピラッ

森島「こ、こうして私が膝裏とか見せちゃったらどうするのかな?」

橘「え?いや……そのですね?」

森島「むむむっ……やっぱり反応小さいなぁ」

森島「……私決めた!」

橘「な、何をですか?」

森島「私が卒業するまでに、橘くんを前の橘くんに戻してやるわ!」

橘「えぇ!?」

森島「今のキミは正直退屈よ!悪い意味でマジメ君過ぎるわ!」

橘「そ、そんな……僕、紳士になるために今日まで毎日頑張ってきたのに……」

森島「ふふふっ、私が全身全霊を持ってキミを前の可愛い子犬ちゃんに矯正しちゃうんだから!」

森島「覚悟なさい!?」

橘「か、覚悟!?僕、何をされるんですか!?」

絢辻「あ、森島先輩?あたしもそれ、協力します」ヌッ

棚町「アタシも協力しま~す」ヌッ

橘「あ、絢辻さん!?薫!?」

絢辻「よく考えたら、あたしが勝ち取ってきたポジションを橘君風情に奪われるのは不愉快だし」

棚町「アンタねぇ、素直に前の純一の方がよかったことを認めなさいよ?」

森島「わぉ!三人寄ればなんとやらね!」

絢辻「じゃあ作戦会議でもします?」

棚町「そうね、昼休みに食堂でご飯でも食べなから話し合いますか!」

森島「うんうん!そうしよ!そうしよ!」

絢辻「あ、橘君?紳士なあなたならまさかやらないとは思うけど」

絢辻「盗み聞きなんてしにきたら……埋めるわよ?」

橘「う、埋める!?どこに!?」

キーンコーンカーンコーン

絢辻「あ、チャイムなっちゃった」

棚町「ヤバッ!そういえば次の授業移動教室じゃん!?」

森島「わ、私は体育だったわ!」

絢辻「……急ぎましょう」タタタッ

棚町「えぇ、さすがにマズイわ」タタタッ

森島「じゃあね、橘くん!また後で!」タタタッ

橘「は、ははっ……僕どうなっちゃうの?」

~次の日の朝~

橘(こうやって朝一番に登校するのも慣れればなんてことないよね)

橘(そういえば、結局昨日はあの後何もなかったなぁ……)

橘(いや、何もないに越したことはないんだけども)

橘(……僕、何かを期待しちゃってるのかな?)

橘(さて下駄箱に着いたことだし、上履きに履き替えますか)

ガチャッ

橘(……ん?何か入ってるな?)ゴソゴソ

橘(……よっと、何だろうこれ?)

橘「……こ、これは!?」

橘「僕が涙を流しながら焼却炉に放り込んだ、お宝本ランキング一位の『飛び出す温泉』じゃないか!?」

橘「な、何でここに……?」

橘(……ってあまりのことに思わず取り乱しちゃったよ!)

橘(紳士はうろたえない!輝日東の紳士はうろたえないッ!)

橘(……そっか、これ森島先輩達の仕業か)

橘(まさかお宝本ランキング一位を下駄箱に忍ばせておくなんて……)

橘(……ってなんで僕のお宝本ランキングが把握されてるんだ!?)

橘(……)ゴクリ

橘(でも、どうしよう……このお宝本)

橘(ここに放置するわけにもいかないし……)

橘(よし、取り敢えず鞄に入れておこう)

橘(か、勘違いしないでよね!?べ、別にお持ち帰りして読んだりしないんだから!)

~教室~

橘(うぅっ……鞄に入ってるお宝本のせいで、予習に全然集中できないよ)

橘(な、なんていうか……引き裂かれた自分の半身を見つけてしまったような……)

橘(い、今は教室にいるの僕だけだし……)

橘(気分転換に読んじゃおうかな?)

橘(……ってイカン、イカンなぁ!)

橘(煩悩は捨てたはず!僕は紳士なんだ!)

橘(こ、こんなお宝本……!)

橘(仕方ないな、梅原の机にでも入れておこう)

橘(こ、これは逃げなんかじゃないぞ!?)

橘(決して!『後で借りればいっか!』とかそういうことではございませんから!)

橘(よ、よし!そうと決まれば早速行動だ!)ゴソゴソ

絢辻「あら?今日も早いのね?感心感心」

橘「!?」

橘「あ、絢辻さんも早いね……おはよう!」

絢辻「おはよう、橘君」

絢辻「プレゼントは気に入ってもらえたかしら?」

橘「プ、プレゼント?」

絢辻「あら?下駄箱に入ってたでしょ?」

絢辻「お・た・か・ら・ぼ・ん」

橘「あ、絢辻さんが入れたの!?」

絢辻「えぇ、あたしが入れましたけど。それが何か?」

絢辻「あれ買うの、ものすっごく!恥ずかしかったんだから」

絢辻「気に入ってもらえると嬉しいな?」

橘「いやだなぁ、絢辻さん?僕は紳士を目指してるんだ」

橘「いくら絢辻さんが恥を忍んで買ってきたとはいえ、こんなもの受け取るわけには……」

橘「……って、絢辻さんが買ってきたの!?」

絢辻「えぇ、あたしが買いましたけど?」

絢辻「わざわざ本屋を何軒も回り、店員さんに在庫の確認をし……」

絢辻「普通の書店じゃ置いてないみたいだから、少しいかがわしい本屋の暖簾もくぐり抜け……」

絢辻「やっと買えたのが、その『飛び出す温泉』よ?」

絢辻「……ちなみに制服で買いに行ったわ」

橘「制服で!?」

絢辻「本来18歳未満閲覧禁止の不適切な図書だけど、店員さんもさすがに苦笑いして売ってくれたわ」

絢辻「あの笑顔……あたしが穢されたようで屈辱だったけどね」

橘「な、なんてことだ……絢辻さんがそんな思いをしてまで……」

橘「そのシチュエーションをかんがえるだけで……僕、僕!」

橘「……って、その手には乗らないぞ!?」

絢辻「あら?十分面白い反応してくれたじゃない?」

絢辻「ふふっ、効いてる効いてる」

絢辻「ちなみに今の話はね?……嘘よ?」

橘「よかった……お宝本を大事に抱えた女子高生はいなかったんだね?」

絢辻「えぇ、それは梅原君に借りたの」

橘「何だ……梅原も持ってたのか」

絢辻「あなたはあの時いなかったから知らないだろうけど」

絢辻「『う、梅原君!?私にお宝本を貸して欲しいの!!』って叫びを教室中に響かせてやったのよ?」

橘「ど、どっちにしろハードなことになってる!?」

絢辻「そんなあたしの痴態の上に成り立ってるお宝本を……受け取ってくれないんだ?」

橘「だ、だって……僕は……」

絢辻「そう……もっと恥ずかしいことをしろっていうのね?」

橘「えっ?」

絢辻「……し、仕方ないわね」

絢辻「じゃあ、これも橘君にあげるわ」ゴソゴソ

橘「え~と……これはお宝漫画?」

絢辻「さっきね、すぐそこのコンビニで買ってきたの」

橘「そ、そんな!?学校の近くのコンビニで!?朝ご飯を買うようなカジュアルな感覚でお宝漫画を!?」

絢辻「……店員さんのニヤついた笑いが凄く気持ち悪かった」

橘「……すっかりお宝女子高生じゃないか」

絢辻「……ねぇ?まだ足りない?足りないなら今からもう一冊買いに……」

橘「だ、ダメだよ!?そろそろ一般生徒の登校時間だ!」

絢辻「別にいいわよ、もう」

橘「よ、よくないよ!」

絢辻「こんなのあなたにやられた、あの時の恥ずかしさに比べたら大したことないわ」

絢辻「……あたしね、以前のあなたを取り戻す為なら何でもしようって誓ったの」

絢辻「……だからっ」

橘「わかった!わかったよ!」

橘「とりあえず、このお宝本達は受け取るから!」

橘「それ以上いけない!」

絢辻「……仕方ないわね、今回はこれで引き下がってやるわ」

絢辻「……次、覚悟しておきなさい?」

橘(絢辻さん……あの目)

橘(こ、怖い!次は何をされるんだ!?)

橘(でも、僕は!紳士になるのを諦めないぞ!)

~昼休み~

棚町「ねぇねぇ?純一?」

橘「うん?」

棚町「アタシ、ちょっとバイトのし過ぎか肩が凝っちゃってて」

橘「……お疲れ様です」

棚町「ちょっと!?アンタ紳士なんでしょ?こうなったら紳士的に判断して揉みなさいよ!?」

橘「……ここは紳士的に拒否をしたいんだけど」

棚町「あ、ありがとう!さすが紳士を目指してるだけあるわね!」

橘「話を聞いて?ね?」

棚町「ここじゃなんだし、二人っきりにらなれるところいこっか!」

橘「だから!僕の話を聞いてくれないか!?」

棚町「れっつごー!」

橘「……ごー!」

世界はまだ紳士の活躍をのぞんでいる…!!

怪盗紳士ブルブラン

新・保守時間目安表 (休日用)
00:00-02:00 10分以内
02:00-04:00 20分以内
04:00-09:00 40分以内
09:00-16:00 15分以内
16:00-19:00 10分以内
19:00-00:00 5分以内

新・保守時間の目安 (平日用)
00:00-02:00 15分以内
02:00-04:00 25分以内
04:00-09:00 45分以内
09:00-16:00 25分以内
16:00-19:00 15分以内
19:00-00:00 5分以内

家でも紳士を貫いてたら美也が心配して泣き出すよな

これはいわば、純一にヒロイン達が猛烈熱烈なアピールをしかけることと同義!!


そんな現状を七咲が黙ってみていられるのか…!?

~ポンプ小屋~

橘「……何でポンプ小屋?」

棚町「いや~、はははっ。ここなら確実に二人っきりでしょ?」

橘「……うん、そうだね」

橘(ご丁寧に椅子まで準備しちゃって……確実にここで何かを仕掛けてくるな?)

橘(いいだろう!その挑戦、紳士的に受けてやる!)

棚町「……んしょっと」ゴソゴソ

橘「薫?何で髪を上げてるんだ?」

棚町「え?肩揉むのに邪魔にならない?」

橘「そういうものなのか?」

棚町「そういうものよ」

棚町「さ、揉んでちょうだい!」

橘「……」モミモミ

棚町「んっ……あっ……気持ちいい~!」

橘(このわざとらしいリアクション!)

橘(それに……髪を上げることでうなじまであざとく見せてきちゃって)

橘(『か、薫のうなじ……こ、これは!?』)

橘(……とでもいうと思ったか!?)

橘(残念だったな!薫?お前の企みなど、紳士の僕には明け透けて見えるよ!)

橘「お力加減はいかがですか?」

棚町「んっ……も、もっと強くして!」

橘「かしこまりました」モミモミ

棚町「あっ……いいっ!その力加減凄くいい!」

橘(ふふふっ、効かぬわ!薫よ、その程度か!?)





棚町「ふぅ、アンタのお陰でだいぶ楽になったわ」

棚町「……ねぇ?素敵な紳士さんにもう一つお願いがあるんだけど?」

橘「え?何?」

棚町「バイトって立ちっぱなしの動きっぱなしだから、足にも疲れが溜まってて」

棚町「だから足もマッサージしてくれない?」

橘「……確かに。薫の職場じゃ足にも疲れが溜まっちゃうよね」

橘「うん。この際だし、ついでに足もマッサージするか」

橘「……って足!?」

棚町「んふふっ、お願いね?」

棚町「そこからじゃ揉めないでしょ?あたしの前にきなさいよ」

橘「で、でも……」

棚町「何?スカートが気になるって?」

棚町「あははっ!あんた紳士なんでしょ?紳士はスカートの中を覗いたりしないはずじゃない?」

棚町「だから何も問題ないし……ほら!さっさとやりなさい?」

橘(くっ……こっちが本命だったんだな!?)

橘(さっきのわざとらしい演技は、僕を油断させる為に……意外な伏兵がいたもんだ!)

橘「薫の言う通りだ、紳士は覗きなんてしない!」

棚町「じゃ、足の裏から頼むわね?」

橘「わかったから、足だせよ!」

棚町「は~い!」

橘「…………」モミモミ

棚町「気持ちいいよぉ……純一ぃ……」

橘(わ、悪ノリが過ぎるんじゃないか!?)

橘(それに……スカートを意識しなくても……)

橘(視界にパステルピンクが!桃色の布地がチラチラと!)

橘(……だ、ダメだ!こんなことで負けるわけにはいかない!)

橘(平・常・心!平・常・心!)

橘(煩悩は……ここから出ていけ~!)

棚町「ね、ねぇ?次はふくらはぎを……」

橘「ふ、ふくら!?……わかった、任せてよ」

棚町「お願い……ね?あ、あん!」

橘(うぅっ……長期戦になりそうだ……)





橘「さ、さぁ!他に揉んで欲しいところはないのか!?」

棚町「ん……もうないわね」

棚町「すっごく気持ちよかったよ?純一?てんきゅ!」

橘(や、やっと終わった……)

棚町「ま、『今日の所は』だけどね」

橘「つ、次もあるの?」

棚町「は?当たり前でしょ?バイトはほぼ毎日あんのよ?」

棚町「ん~、今日は身体も軽くなったし、思いっきり働けそうね!」

橘(必要以上に思いっきり働いて疲れを溜めてくるんだな?そうなんだな!?)

棚町「あ、昼休みも終わっちゃうし戻ろっか」

橘「そうだな、そろそろ戻ろう」

~放課後~

橘(ふぅ、今日の授業も終わりか)

梅原「大将?今日も図書室で勉強していくのか?」

田中「紳士の嗜みしてくの?」

橘「うん、日課になってるし」

橘「それに何だか最近勉強するのが楽しいんだよね」

田中「えぇぇぇ!?どうしよう!?今日は傘持ってきてないよ!?」

梅原「か~っ!やっぱり変わっちまったんだな!」

梅原「じゃあな、橘!勉強頑張ってな!」

田中「えへへ、今度色々教えてね?」

橘「うん。じゃあ、また明日」

~廊下~

森島「橘く~ん!」パタパタパタ

橘「あ、森島先輩。どうしたんですか?」

森島「ねぇねぇ?今から時間あるかな?」

森島「ちょっと買い物に付き合って欲しいんだけど」

橘「え、え~と……」

橘(図書室で勉強するつもりだったんだけど……)

橘(森島先輩……僕が急に変わろうとしたせいで傷ついちゃったみたいだし……)

橘(あの時の森島先輩……泣きそうな顔をしてたな……)

橘(女性を泣かせるなんて、それこそ紳士失格だよね?)

橘(でも、勉強もしたいし……)

橘(よ、よし!こうなったら!)

橘「すみません……どうしても今日の授業で復習したい所があって……」

森島「えぇ!?……マジメ君なんだから!」

森島「せっかく、今日はひびきの勉強会お休みだから誘いに来たのに……」

森島「フンだ!橘くんなんて、もう知らない!」

橘「待って下さい!ぼ、僕に一時間……いえ、30分でいいんで時間を頂けますか?」

森島「え?時間を?」

橘「はい!その時間で復習して、それが終わったらお買い物にご一緒しますので!」

橘「……ダメですか?」

森島「も、もう!仕方ないなぁ!」

森島「わかったわ、一時間だけ待ってあげる」

森島「でも、それ以上は一秒も待ってあげないんだから!」

橘「は、はい!ありがとうございます!」





橘「……先輩?お待たせしました」

森島「ん……?あ、もう一時間経ってたんだ?」

橘「はい、約束通りちょうど一時間です」

森島「ふわぁ~、私寝ちゃってたのね?」

橘「大丈夫ですか?お疲れみたいでしたが……」

森島「うん、平気。それに橘くんと買い物に一緒に行けると思うと元気が湧いてくるわ!」

橘「ははっ、それは光栄です」

森島「じゃ、行きましょっか!」

橘「あ、そういえばどこへ買い物をしに?」

森島「ふふ、着いてからのお楽しみよ!」





橘(僕は!完全に油断していたッ!)

橘(そうだよ!そもそも紳士をやめさせるって、森島先輩が言い始めたことじゃないか!)

橘(なのに、ホイホイと着いてきちゃって……)

橘(よく考えれば、森島先輩とお買い物……この組み合わせから出てくるのは一ヶ所しかないだろ!?)

森島「わぉ!ねぇねぇ?この下着可愛くない!?」

橘「……ははっ、そうですね」

森島「もう!紳士なんだったら、このくらいでうろたえないでよ!?」

森島「それとも?橘くんは紳士廃業かな?」

橘「な!?僕は紳士です!廃業した覚えなどありません!」

森島「紳士さん、紳士さん?」

森島「このブラとこっちのブラ、どっちが私に似合うかな?」

橘(なんてことだ……ラブリーなの?セクシーなの?どっちが好きなの?だなんて……)

橘(……って、何番煎じかわからない、くだらないことを考えてる場合じゃない!)

橘(ここは紳士的に……そう、あくまで紳士的に客観性を踏まえて選択しなくては!)

橘「え、えーっと、そっちの大人っぽい黒いのも素敵なんですが……やはり先輩にはこっちのちょっと可愛らしいヤツの方が」

森島「うんうん!私もそう思ってたところよ」

森島「よし!これ試着してくるね?」

橘「は、はい」

森島「……あれ?橘くんは下着売り場で一人になっても平気なのかな?」

橘「そ、それは……辛いですね」

森島「でしょ?でも、一緒にくれば解決よ!」

橘「な、なるほど!」

橘「……って、えっ?」

梨穂子なら「最近の純一は頼もしぃなぁ」くらいに思って普通に好感度上がってる

橘(……試着室の前で待機ね、そりゃそうだよ)

橘(そんな『森島はるかプレゼンツ!わぉ!ドキドキ生着替え!でもここから先は通行止めなの!このっ!このっ!』なんてあるわけないじゃないか……)

橘(……うん?何で僕は残念がってるんだ?)

橘(イカン、イカン!気を引き締めなくては!)

森島「橘くーん?ちゃんとそこにいる?」

橘「は、はい!ここにいますよ!」

森島「あのさ?ちょっと見て貰えるかな?」

橘「み、見るって……」

森島「うん?実際に身につけたところを見て欲しいんだけど?」

橘「……えぇ!?」

橘「は、恥ずかしくないんですか!?」

森島「え?それは恥ずかしいけど……」

森島「橘くんさ?紳士なんでしょ?下心満載のいやらしい目で見たりしないんでしょ?」

森島「……だったら、別にいいかなって」

橘「で、でも!さすがに……」

森島「もう!紳士を目指すなら女の子に恥をかかせないの!」

橘(た、確かに!一理ある!)

橘(そ、そうだよ!別に僕はいやらしい気持ちで先輩の下着姿を見るわけじゃない!)

橘(ただ紳士的に似合ってるかどうか教えてあげるだけだ!)

橘(そこには何の問題ないよ!むしろ問題があると思う方が汚れた考えなんだ!)

橘(……なら、迷うことなんてない!)

橘「せ、先輩……見せていただけますか?」

森島「……うん。私を見て?」

橘「で、ではカーテンの隙間から……」

紳士なら「女の子はもっと淑女らしく」と窘めるところだが

森島「……どうかな?」

橘(こ、これは!)

橘(やっぱり森島先輩はスタイルが……違う!そこじゃなくて!)

橘(紳士的に!あくまで紳士的に見ろ!橘純一!)

森島「ねぇ?黙ってないでさ……何か言ってよ?」

橘「……いいと思います。先輩の魅力をよく引き立てているというか」

橘「すごく……綺麗です」

森島「……うん、そう言って貰えると嬉しいな」

森島「じゃあ……これ脱いで制服着るから」ゴソゴソ

橘「は、はい!失礼しました!」

橘(し、紳士的に振る舞えたよな!?大丈夫だよな!?)





森島「んー!橘くんのお陰でいい買い物ができたわ!」

森島「早速明日つけて学校に行かなくちゃ!」

橘「はははっ、お役に立てたようでよかったです」

森島「……でも、橘くんの心にはズッガーンとこなかったかな?」

橘「ズッガーン、ですか?」

森島「うん。ショック療法で戻そうと思ってたんだけど」

森島「もうちょっと別の方法を考えなきゃいけないみたいね」

森島「よーっし!お姉さん頑張っちゃうぞ!」

橘(えっ?絢辻さんといい、薫といい……)

橘(まだ続くの?こんなことが?)

橘(……いや、これは紳士になる為の試練に違いない!)

橘(この際だ!僕の中の悪いものを出し切ってしまおう!)

~数日後~

橘「………おはよう、梅原」

梅原「おう、今日も朝からお勉強とは学生の鑑だねぇ!」

梅原「……って、おい。何か日に日にやつれ過ぎじゃないか?」

橘「ふふふっ……朝は絢辻さんが、昼は薫が、放課後は森島先輩が、毎日毎日僕の中のよくないものを刺激してくるんだよね……」

梅原「う、噂には聞いてたけどよ?相当過酷みたいだな?」

橘「う、うん……」

梅原「……なぁ?無理すんなって」

橘「む、無理なんかしてない……よ?」

梅原「いやいや、そんなにやつれた顔で言われても説得力ないぜ?」

橘「梅原……」

梅原「『紳士たるもの模範的であれ!』とはいうけどよ、少しは休むことも大事だぜ?」

橘「で、でも……僕は……」

田中「そうだよ!橘君は少し休んだ方がいいよ!」

橘「田中さん……いたの?」

田中「最近の橘君は見てられないよ」

田中「そんな頑張り方してたら、紳士になる前に死んじゃうよ?」

橘(べ、別にみんなが僕に変なちょっかいを出さなければいいだけなんじゃ?)

梅原「というかな、大将?こんな考え方もあるぜ?」

梅原「煩悩を捨て去るってのは、ストイックで格好いいんだけどよ?」

梅原「橘の周りにいる女の子にしてみれば、『お前に魅力などない!』って言われてるのと同じなんじゃないか?」

橘「そ、それは……」

梅原「……紳士ってのはよ、自己満足の為に女の子に失礼なことをするのか?」

橘「!?」

梅原「……とかなんとか偉そうなこといっちまったけど」

梅原「いつも斜め上だったお前ともう一度遊びてぇなって、我儘を言ってるだけなんだけどな、俺は」

橘「梅原っ……僕っ、僕!」

梅原「どうした?」

橘「自分の中の出来すぎた紳士像に囚われて、大事なことを忘れてた気がするよ……」

橘「そうだよ!僕はみんなともっと仲良くなる為に『ちゃんとしなきゃ』と思ったわけで……」

橘「みんなと距離を作る為に紳士を志したんじゃない!」

橘「……というわけで、梅原?」

橘「今日は休む!紳士休業だ!」

梅原「おう!……と、くれば?」

橘・梅原「お宝本しかないだろ!」

田中「えぇぇぇ!?き、切り替え早過ぎるよ!?」

まあ男の心理が一番理解できるのは男なわけで

橘「いやー!絢辻さんが毎朝毎朝僕の下駄箱にお宝本を放り込んでいくせいで、気付いたらこんなに貯まってたんだよね!」ドサッ

梅原「おいおい!全部大将の好みど真ん中じゃねぇか!」

梅原「絢辻さん……さすがだぜ!」

橘「よし!このお宝本達で新しいランキングをだな……」

梅原「早速かよ!?どれだけ溜まってたんだ!?」

橘「ふふっふー、慣れないことはするもんじゃないよね!」

梅原「まったく調子がいいヤツだな!」

橘・梅原「ハーッハッハッハー!」

田中「うわぁ……極端すぎるてびっくり」

田中「でも、橘君の目が久しぶりに生き生きとしてる気がするよ」

田中「うん!よかった、よかった!」

絢辻「ちょ、ちょっと!?橘君!?教室でそんな本を開いて何のつもり!?」

橘「こ、これはね?絢辻さんが僕にくれたお宝本達が魅力的過ぎて我慢できなくてさ!」

絢辻「や、やめて!声が大きいって!」

ザワザワ……

絢辻「ちょ、ちょっと来なさい!話があるわ!」ガシッ

橘「ちょ、絢辻さん!?」

絢辻「行くわよ!?」ズルズル

橘「ひ、引っ張らないで!?」

橘「梅原!?黙って見てないで助け……うわぁぁぁぁぁ!!」

梅原「……絢辻さん、生き生きとしてんな」

田中「あははー、丸く収まった感じだね!」





橘「……というわけで、私橘純一はオンとオフを使い分けられる大人の紳士を目指そうかと思いまして」

絢辻「……どうせオフの時の方が多いんでしょ?」

棚町「えぇ、間違いないわね」

森島「わぉ!あの橘くんが帰ってきたのね!?」

橘「それでね、みんなには迷惑をかけちゃったからね。紳士として、何か埋め合わせをしたいんだけど……」

絢辻「ふふふっ、あたしなんてお宝ハンターの二つ名を得てしまったんだから……覚悟しなさいよね?」

棚町「そ、そんな!うちのファミレスに一ヶ月通うなんてしなくていいのに!純一ったら!」

森島「えー?じゃあ、私はね!」

橘「……紳士ってやっぱり大変なんだな」



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