和「宮永さん、私のリー棒も受け取ってください」咲「う、うんっ!」(527)

和「そんなオカルトありえません!!」ガバッ

 早朝。和、起床。

和(今日はインターハイ県予選団体戦決勝だというのに……私はなんて夢を……!)

――――――数時間後・県予選会場・清澄控え室

咲「えっ!? 決勝の他校のオーダーが直前で変更になった? 部長、それ本当ですか?」

久「本当も何も、オーダー発表ならさっきされていたじゃない。見てなかったの?」

咲「すいません……おトイレに行っていて」

久「ま、うちはいつも通りだから、あなたと和は控え室で休んでいるといいわ。先は長いからね」

咲「わかりました。行こ、原村さん!」

和「は、はい/////」

和(まさか今朝のは正夢……! なんて、そんなことはないですよ……ね……?)

祝・アニメ二期!

・アニメの出来がすばらだったので咲SSです。

・内容、喋り方、打ち筋、能力に違和感、矛盾あるかもですすいません。

・微妙に手牌描写がありますが、萬子:漢数字、筒子:○つき数字、索子:ローマ数字、字牌:漢字、赤:[]つき、となっております。

・公式の大会ルールがどうだったかは忘れてしまいましたが、このSSでは喰いタンあり、赤四枚(五、Ⅴ、⑤、⑤)、ダブロンあり、W役満なし、大明槓からの嶺上開花は責任払い、となっております。

・嫁のことはぜひ応援してあげてください。

 二十一世紀。

 世界の麻雀競技人口は一億人の大台を突破。

 我が国日本でも、

 大規模な全国大会が毎年開催され、

 プロに直結する成績を残すべく、

 高校麻雀部員達が覇を競っていた…………。

 これは、

 その頂点を目指す、

 少女たちの――あったかもしれない――軌跡!!

<咲――その花は何度でも咲く――>

――――――風越・控え室

福路「いってらっしゃい」

池田「いってらっしゃいだしっ!」

**「はいっ!」

――――――龍門渕・控え室

透華「わかっていますわね? 今年もわたくしたちの優勝で決まりだと観客に見せ付けてくるのですわ!」

**「うん、任せてよ」

――――――鶴賀・控え室

かじゅ「頼んだぞ」

蒲原「ワハハ、ま、楽しんで打ってくるといいぞー」

**「はいっす」

実況『さあいよいよ決勝が始まります。先鋒戦、各校どんな闘牌を見せるのか!』

先鋒戦前半
東:片岡優希(清澄) 南:国広一(龍門渕)
西:東横桃子(鶴賀) 北:吉留未春(風越)

タコス「(タコスうまうまだじぇー!)よろしくだじぇ」

一「(清澄の先鋒、また東場の起家か。ひとまず様子見ってところかな)よろしく」

モモ「(先輩……私、頑張るっすよ)よろしくっす」

みはるん「(立ち上がりは大事だよね。でも、さすがに先鋒は緊張するなぁ)よろしくお願いします」

『先鋒戦前半を開始します。対局者は席についてください』

タコス「じゃ……始めるじぇっ!!」

 回される賽――しかし、神はサイコロを振らない。

 全ては必然。この場にいる誰もが確信している――己の勝利。

 それでも……勝者はただ一人。

 インターハイ県予選団体戦決勝、その火蓋が今切って落とされる!!

 先鋒戦――開始!!

東一局親タコス

 互いに互いの出方を伺う張り詰めた空気……!

 そんな中、最初に仕掛けたのはやはりこの人!!

 東の風を味方につけ、天高く舞い上がる――一枚の凧!!

 四巡目。

タコス「先制親リーだじぇっ!!」

一(早いな。一発が恐いし、ここは現物から落として回し打ちかな)タンッ

モモ()タンッ

みはるん(四巡目の親リー……こんなの読めないよ)タンッ

タコス「――来たじぇっ!! メンタンピン三色一発ツモドラ一、8000オール!!」

一(これはこれは…………)

みはるん(うわぁ……いきなり飛ばしてくるなぁ)

タコス(タコス力を無事チャージした私に敵はないじぇ! このままどこまでも突っ走るじょ!!)

 清澄・片岡優希――早くも独走態勢っ!!

タ:124000 一:92000 モ:92000 み:92000

東一局一本場親タコス

 七巡目。

タコス「まだまだ行っくじぇー、リーチッ!!」スチャ

一(東場で爆発するタイプ……実際に対戦してみるとこんなに心が折られそうになる雀風はないよね……。ま、衣や透華ほどじゃないけど)タンッ

モモ()タンッ

みはるん(まるで華菜ちゃんを相手にしてるみたいだなぁ)タンッ

タコス「ほい来たじぇっ!! リーチ一発ツモドラ一赤一…………裏三!! またまた8000オールの一本場は8100オールだじぇ!!」

一(うわっ……またか。これは放っておくとさらに手が付けられなくなるタイプなのかな。ボクより純くんのほうが相性良さそうだよ)

モモ()

みはるん(先鋒戦が始まったと思ったら二連続の親倍一発ツモかぁ。困るなぁ。いくら東場に強いからって限度ってものがあると思うんだけど)

タ:148300 一:83900 モ:83900 み:83900

東一局二本場親タコス

 一巡目。

タコス「天和ならず……!! しょうがない――ダブルリーチで勘弁してやるじぇっ!!」タンッ

一「…………清澄、リー棒は?」

タコス「うおっ!? そうだったじぇ……」スチャ

一(ったく、西切りのダブリー。こんなのどうしろって言うのさ。……いや、こうするんだけど)タンッ

タコス(……う?)

モモ(………………)タンッ

タコス(こ、この流れはまさか……!)

みはるん(なるほどね……はい、これでおしまいっと)タンッ

 卓上に並ぶ四つの西――四風連打、流局!!

タコス(で、でも……甘いじぇ。私の親はまだ終わってないっ!!)

タ:147300 一:83900 モ:83900 み:83900 供託:1000

東一局三本場親タコス

 一巡目。

タコス(配牌リャンシャンテンドラ三……流されたってなんだってことないじょ。タコス力は全然落ちてないじぇ!!)タンッ

一(さて、さっきはお茶を濁してみたものの、清澄が親なことに変わりはない。かと言ってボクには純くんみたいにうまく流れを操ることはできないしなぁ……)タンッ

モモ(…………)タンッ

みはるん「それ、ポンです」タンッ

 三巡目。

モモ(…………)タンッ

みはるん「チー」タンッ

 四巡目。

タコス「リーチだじぇっ!!」タンッ

みはるん「ポンです」タンッ

タコス(一発消されたじぇ……。ツモは……ならずだじぇ!)タンッ

みはるん「ポン」タンッ

タコス「じょ……?」タンッ

みはるん「ロンです。断ヤオ赤一。2000の三本場は2900です」

一(風越……。最高で四暗刻、少なくとも対々くらいは狙えたその手を序盤から崩して断ヤオ。
 早和了りで清澄の親を流すため? 鳴いて場を荒らすのも目的だったのかな)

モモ()

みはるん(あぁあ……公式戦で裸単騎なんてしたの久しぶりかも。こんな打ち方をしていたら後で絶対コーチに怒られる。
 でも、とりあえず清澄の親は流した。これ以上好きにはさせない)

タコス(思いっ切り警戒されてるじょ。強者は辛いじぇー!)

タ:143400 一:83900 モ:83900 み:88800

 以降、意図的に東場を荒らす風越・吉留。龍門渕・国広もそれに同調。

 片岡はペースを乱され、テンパイ、リーチするも和了れず。

 東二局親一。十一巡目、みはるんツモ。白のみ300・500。

タ:143100 一:83400 モ:83600 み:89900

 東三局親モモ。九巡目、タコスリーチ。その巡、現物を切ったモモを一が直撃。断ヤオドラ二、3900。

タ:142100 一:88300 モ:79700 み:89900

 東四局親みはるん。七巡目、みはるん、モモのヤミテンに放銃。平和一盃口、2000。

タ:142100 一:88300 モ:81700 み:87900

 そして――南入……。

南一局親タコス

タコス(うぅ……タコス力が抜けていくじぇ……)タンッ

一(さて、ここからかな)タンッ

モモ()タンッ

みはるん(東場の借りはきっちり返す)タンッ

 五巡目。

モモ()タンッ

みはるん「チー」タンッ

タコス(風越のメガネっ娘……また早和了りする気満々っぽいじぇ。でも、南場を早く回してくれるのはありがたいじょ)タンッ

みはるん「ロンです」パタパタパタッ

タコス(…………じょ?)

みはるん「中混一一通ドラ一赤一……12000」

タコス(これは……やばい気がするじぇ……)

一(風越が動き出した……じゃあ、ボクもそろそろ攻めようかな)

タ:130100 一:88300 モ:81700 み:99900

南二局親一

 十一巡目。

一「リーチ」スッ

モモ()タンッ

みはるん(来ましたか……龍門渕)タンッ

タコス(うぅ……安牌ないじょ……仕方ない、とりあえずスジだじぇ……)タンッ

一「ロン。メンタン三色一発、12000だよ」

タコス「じょー…………」

タ:118100 一:100300 モ:81700 み:99900

南二局一本場親一

一(清澄の……そうは言っても東場のリードは大きい。ここは連荘しないと……)

 八巡目。

一「リーチ」スッ

モモ()タンッ

みはるん(強気ですね、龍門渕)タンッ

タコス(こ、今度は安牌あるじぇ!!)タンッ

モモ「それ、ロンっす。タンピン一盃口、3900の一本場は、4200っす」

タコス(そっちはノーマークだったじょ!?)

一(ちぇっ、さっきもその前もツモ切りだったからまだ張ってないと思ったんだけどな。
 見たところ手替わりを待ってたわけでもなさそうだし……ボクの親リーを警戒してダマってたのかな)

みはるん(鶴賀の人……なんか影薄い……くせに自己主張の激しいおっぱい……!
 それに比べて清澄と龍門渕は……ふん、勝った!!)

タ:113900 一:99300 モ:86900 み:99900

南三局親モモ

タコス「ノーテンだじぇ」

一「ノーテン」

みはるん「ノーテン」

モモ「テンパイ」

タ:112900 一:98300 モ:89900 み:98900

南三局一本場親モモ

 十三巡目。

モモ()タンッ

みはるん「ロンです。三暗刻ドラ一赤一、8000は8300」

タ:112900 一:98300 モ:81600 み:107200

南四局親みはるん

 七巡目。

モモ「ツモっす。チャンタのみ、300・500。……これで前半戦終了っすね」

 このとき、吉留と国広はふと違和感を覚える。

みはるん(あれ……? 鶴賀? いつの間に張ってたの……? というか、待ちに待った私のラス親をそんなゴミ手で……!)

一(鶴賀……そう言えば存在を忘れてたな。って……早和了りもいいけど、点差見えてないのかな。
 いや、無名高だからって侮るわけではないけど……それとも何か他に意図が……?)

タコス(ふうー。なんとか南場を凌ぎ切ったじぇ……!)

タ:112600 一:98000 モ:82700 み:106700

 先鋒戦前半、東場で稼いだ片岡、そのリードを守って逃げ切り。

 誰もが片岡の派手な和了に魅入られ、次を期待する。

 しかし、その裏で密かに進行していた一つの異常――。

 龍門渕・国広、風越・吉留、両名とも片岡の制圧に気を取られ、まだその異常には気がつかない。

 往々にして目に見える脅威などさして大きな脅威とはならない。

 本当に恐ろしいのは……目に見えない脅威。

 探知の網をすり抜けて、闇色の戦闘機が、間もなく空へ飛び立つ。

 そこから先は――独壇場。

 先鋒戦――真の戦いは……これから!!

先鋒戦前半終了
一位:タコス+12600(112600)
二位:みはるん+6700(106700)
三位:一-2000(98000)
四位:モモ-17300(82700)

東一局親タコス

タコス(前半後半……合計二回も東場が来るのは嬉しいじぇ!!)

一(なんだかんだでボクは前半原点割れ。トップの清澄とは14600点差。
 単純に同じ戦略を取れば同じ結果が得られると仮定すれば、この半荘が終わる頃にはそれが29200点差に開いている。
 それじゃダメだ。もっと別のやり方を考えなきゃ……どうする……?)

みはるん(また東場か……さっきは荒らしてみたけど、結局南場でその分を取り返せないと意味がない。
 清澄は南場になると精細は欠くけど……オリるときはきっちりオリる。さすがにそうそう直撃を狙うことは難しい。
 となれば……私のやるべきことは……)

モモ(………………)

 五巡目。

タコス「ガンガン行くじぇっ!! リーチっ!!」スチャ

一「(早いっ!! 衣じゃないけど高そうで嫌な感じだよ。今のボクの手じゃたとえ打ち合いが出来たとしても分が悪い……。
 仕方ない、とりあえず一発は消させてもらおうかな)……チー」タンッ

みはるん()タンッ

モモ()タンッ

 次巡。

タコス「じょーーーツモれずだじぇっ!!」タンッ

一(さて、もしかしてこのツモが清澄の当たり牌なのかな……っていうのはさすがに弱気過ぎるか。けど、これは一応抱えておこう)タンッ

 九巡目。

一「ツモ。發ドラ一赤一、1300・2600」

一(まあ、こんなもんかな。基本は早く回して、期待値が高ければ打ち合い。安手でも極力ドラを使ったりして点数を上げる……。
 芸がないような気もするけど、東場の清澄とまともにぶつかるのはリスクが高い。
 衣や透華ほどではないにしろ、この人も常識が通用しないタイプみたいだし。……まあ、それでも勝つのはボクだけど)

みはるん(龍門渕……やっぱり清澄は警戒するんですね。さっきみたいに東場は早く流すつもりですか。さて……それに対して私はどうするか……)

タコス(うぅ……親が流されたじぇ……)

タ:109000 一:104200 モ:81400 み:105400

東二局親一

 十二巡目。

タコス(こうなったら……ヤミでぶちかますじぇ……!)タンッ

一(あ、これは……またなんかヤバい感じ。でも、連荘したいから安手だけど突っ張ってみるか……?
 いや、せっかくさっきツモったばかり。ここで無闇に点棒を減らすわけにはいかない)タンッ

みはるん(龍門渕、清澄にテンパイ気配が出た途端にオリですか。勝負できるような手ではなかったのかな……?
 けど、親でそれはちょっと弱気過ぎますよね。ま、そっちがそういうスタンスならうちとしては大歓迎。去年の雪辱はばっちり果たしますよ)ツモッ

みはるん(清澄……さっきまでの清澄なら今のはリーチしていましたよね。学習したんですか……。
 だけど、得意の東場でそんな小細工をするようになったあなたなんてもはや恐くない。私はもう東場でもオリません。
 清澄……張りたかったらヤミで満貫でもハネ満でもテンパイすればいい……けど、私はそれの上を行く!!)

みはるん「……リーチです」タンッ

モモ()タンッ

タコス(うう……風越のそれ……惜しかったじぇ……!)タンッ

一(風越……そんな危険牌でリーチ……!? 相当高い手を張ってるのか……前半は四暗刻を捨ててまで場を荒らしてきたのに……)タンッ

みはるん(これくらいであっさり引いていたら名門風越でレギュラーは取れない。
 清澄……東場の速攻タイプ。ほぼ毎局リーチする上に、満貫以上が当たり前の高火力……けど!!)タンッ

モモ()タンッ

みはるん(うちの華菜ちゃんはもっとすごい……! 調子のいいときの華菜ちゃんなら倍満ツモでも安いほう。
 こっちが引けば引くほど火力が上がっていって、あっという間に飛ばされる!)

タコス(うぅ……ツモれずだじぇ。風越のメガネっ娘……追っかけたいけどここでこのツモ切りは明らかに危険じぇ……。
 仕方ないじょ、ここは一旦崩してチャンスを待つじぇ!)タンッ

一(清澄がオリた……! くっ……さっき崩してさえいなければ今のは鳴けてテンパイだった……!
 安手だったけど風越のチャンスを潰すことくらいはできたかもしれなかったのにっ……!)タンッ

みはるん(そして……そんな華菜ちゃんからでもしたたかに直撃を取れるのがうちのキャプテンだ……!!
 それに二人とも東場を過ぎれば危機が去るわけじゃない。南場になったってあの二人は止まらない……! 私は――そんな人たちとずっと卓を囲んできた!
 このくらいの状況を切り抜けられないような力で勝ち取れるほど……名門風越のレギュラーは甘くない!!)ツモッ

みはるん「……ツモッ!! メンタンピン三色一盃口ツモ……裏二!! 4000・8000です!!」

一(風越……!)

タコス(じょー……)

みはるん(さあ、連荘してやるっ!!)

タ:105000 一:96200 モ:77400 み:121400

東三局親みはるん

 十巡目。

タコス「(さっきは引いてダメだったじょ……なら、押して押して押しまくるじぇっ!!)リーチ!」スチャ

一(んー。さっき崩したのが尾を引いてるのかな……? 思うように手が進まない。
 いやいや、そんなの迷信だよね……落ち着けボク。冷静に、今できる最善のことを)タンッ

みはるん(清澄、押してくる気満々……。それでこそって感じですね。いいです。受けて立ちますよ!)

みはるん「リーチ!」スチャッ

 風越・吉留、清澄・片岡に真っ向から立ち向かう、気合のリーチ。

 普段のおっとりとした性格からは想像もつかないその強気な闘牌に、控え室で待機する部員たちの応援にも熱が入る。

 しかし、風越キャプテン・福路美穂子だけは怪訝な表情でモニターを見つめていた。

福路(何か妙だわ……! 吉留さん……よくその場を見て……!!)

 しかし、福路の願い、届かず。

「……いいんすか? それ……通らないっすよ」

 沈黙は――破られた。

モモ「それ、通らないっすよ……」

みはるん(鶴賀……? いたの? っていうか何を言ってるの……だってこれは清澄の現物……)

 倒されるモモの手牌。霧が晴れるように明らかになる捨て牌と――リー棒。

モモ「ロンっす。リーチ一発チャンタドラ一……裏が乗って12000っす」

 吉留――戦慄。

みはるん「なっ、リーチ!? しかも一発って……! あなた、ちゃんとリーチ宣言しましたか!?」

モモ「したっすよ」

みはるん「そ……んな……!?」

一(鶴賀……!? 今の和了りはなんだ……? 風越の言う通りだ……いつの間にリーチしてた……?)

タコス(じょー……?)

みはるん(鶴賀のおっぱい……どういうこと!?)

 鶴賀・東横、ついに参戦!!

タ:104000 一:96200 モ:90400 み:109400

東四局親モモ

モモ(清澄のタコスさん、龍門渕の鎖さん、風越のメガネさん……。さすがに決勝の先鋒戦……みなさん強いっす……)タンッ

モモ(けど……もう手遅れっすよ。あなたたちの目に私は映らない。私のリーチはダマと同じ……私が当たり牌を切っても相手がフリテンになるだけ……)タンッ

モモ(ここからは……ステルスモモの独壇場っす!)タンッ

 九巡目。

タコス「リーチだじぇ!」スチャ

モモ(清澄のタコスさん、前半と同じく東場は止まらないっすね。風越が勢いを呑んだようにも見えたっすけど、お構いなしっすか。
 でも……もはや私には関係ないこと)ツモ

モモ(さて、張ったっすね。清澄は筒子の染め手が濃厚。ここでド真ん中無スジの五筒は明らかに危険牌……けど、だからなんなんすか。
 私はもう……オリないっすよ)

モモ「……リーチっす……」スチャ

タコス(来い来い来いっ――)ツモッ

タコス「じょー! 赤いのっ! 私はお前をずっーと待ってたじぇ!! ツモ、一発! メンホン白赤一……裏は――乗らず! 残念、4000・8000だじぇ!!」

モモ(なあっ……!!)

みはるん(また倍満一発ツモですか。清澄……十分高いですよ……)

一(ふう。東場の清澄……さすがに完全には抑えられなかったか)

モモ(清澄……!! 私の出した当たり牌を見逃した直後にツモってフリテン回避……!? しかもそこで赤五筒をツモってくるとかどんな化け物っすか……!?
 私自身が放銃しなかったのは不幸中の幸いっすけど……結果的に清澄はツモと一発と赤一がついて出和了りなら満貫だった手が倍満……しかも私は親っかぶり……!)

モモ(いや……落ち着くっす。私のステルスが破られたわけではない。たまにはこんなこともある……それだけのことっす。
 それに次からは南場……。清澄……! 私から持っていった点棒……利子つけて返してもらうっすよ!)

タコス「あれ? なんかリー棒も一本ついてきたじぇ! ラッキー!」

モモ()イラッ

一(え……!? 鶴賀……またリーチしてたのか。しかも清澄が当たり牌を見逃してる……? これはもうそういうことだって考えていいのかな……?
 それにしても……今の清澄の見逃しはヒントだな。なるほど、捨て牌が見えなくても、ツモなら無関係に和了れる!)

みはるん(清澄……まさかツモれる自信があっての見逃し――ってことはないと思うけど。最後の最後にやってくれましたね。
 それにしても鶴賀のおっぱいは一体なんなの?
 姿は忌々しいおっぱいが目に入らなくなるからいいとして、捨て牌が見えなくなるなんて異常過ぎる……こんな打ち手は……風越にはいなかった……)

タ:121000 一:92200 モ:81400 み:105400

南一局親タコス

 八巡目。

モモ「それ、ロンっす。メンホン南北。12000」

タコス「じょー!?」

一(また鶴賀の見えないリーチ……! しかもその捨て牌……第一打からしてあからさまな染め手!
 捨て牌やリーチが見えないのを最大限に活用して手を高くしてくるなんて……やっぱりこの人……確信を持って消えているんだ……)

みはるん(鶴賀のおっぱい……! くっ……前半戦がやけに大人しかったのはこういうことだったんですか。なんて許しがたいおっぱい……!)

タ:109000 一:92200 モ:93400 み:105400

南二局親一

一(さて、テンパイしたはいいものの……鶴賀の動きがまるで見えない……どうしたもんかな)タンッ

 流局。

一「テンパイ」

みはるん「ノーテン」

タコス「ノーテンだじぇ」

モモ「テンパイ」

一(うわ、鶴賀の……やっぱりリーチしてたのか。危ない危ない)

モモ(龍門渕の鎖さんのテンパイ……確か後半はずっとツモ切りだった。
 ということは十五巡目で清澄を見逃したのはわざとってことっすか……私のステルスを警戒してる? ……厄介っすね)

みはるん(うわぁ……鶴賀のおっぱいまたいつの間にかリーチしてる……!?
 困ったなぁ……清澄は爆発力があるだけだったから対処の仕様もあったけど……こんなおっぱい……どうやって戦えばいいの……?)

タコス(……なんだかよくわからないけど大変なことになってる気がするじぇ……)

タ:107500 一:93700 モ:93900 み:103900 供託:1000

南二局一本場親一

一(鶴賀の……捨て牌が見えない。リーチには気付けない。
 オマケにあっちが当たり牌を振り込んできてもこっちは必ず見逃す――今までの感じをまとめるとそんなところかな。
 こんな相手は初めてだよ……でも、全国には同じくらい厄介な相手がゴロゴロいた。まさか新設の無名高にこんな隠し玉がいたとは思わなかったけど。
 ただ、悪いね。去年のボクならいざ知らず、今年のボクには経験がある。そのくらいでは揺るがないよ)タンッ

一(さっきは清澄相手に弱気になって風越に出し抜かれた。清澄は南場になれば引っ込むからいいと思ってたけど……鶴賀はそうじゃない。
 きっと最後まで見えないままだ。オマケに鶴賀はラス親……大人しくしていたら全部持っていかれる)タンッ

一(ただでさえボクは今最下位なんだから……これ以上離されるわけにはいかない……!)タンッ

一(捨て牌が見えない? リーチには気付けない? オマケにあっちが当たり牌を振り込んできてもこっちは必ず見逃す? だからなんだっていうんだ……!
 衣と麻雀したときに比べれば全然恐くない。要するに清澄がやったみたいにやればいいんだ。相手より早くテンパイしてツモで和了る!
 そんなの……これまでやってきたようにやればいいだけだ!!)タンッ

 十二巡目。

一「(来た、テンパイ。鶴賀がもう張っている可能性は十分にあるけど……いや、勝つためにはこれくらいのピンチで自分を曲げていちゃダメなんだ。
 まっすぐに――正攻法なボクで行くっ!)……リーチ!」スチャ

みはるん(龍門渕のリーチ……! うぅ……ここは現物でオリたいけど……でも、鶴賀の当たり牌がまったく読めないし……く、通れっ!)タンッ

モモ(鎖さん……今度はリーチしてきたっすね。出和了りをするつもりがないのはさっきの見逃しで予想がつく。
 ってことは私より早くツモれる自信があるってことっすか……。ただ、こっちも二巡前にリーチかけてるっすからね。
 ツモしかできないあなたと、誰からでも和了れる私……どっちが早いか勝負っす!!)タンッ

 十五巡目。

みはるん(お願い……通って……!)タンッ

モモ(くっ……出てこいっ!)タンッ

タコス(当たるんじゃないじょー!)タンッ

一(来いっ……!)ツモッ

一「ふぅ……ツモ。リーチツモドラ三赤一……! 6000オールの一本場は、6100オール」

モモ(鎖さん……!? 私の当たり牌を抱えての三面張……! 偶然とは言え、やってくれるじゃないっすか……)

一(おっと、やっぱり鶴賀もリーチしてたか……。けど、こうして和了ってしまえば問題はない!)

タコス(じょー!? 南場でのトップ転落は死亡フラグだじぇっ……!!)ウルウル

タ:101400 一:114000 モ:86800 み:97800

南二局二本場親一

 十三巡目。

一(と、さっきはうまくいったけど。
 やっぱりツモのみで和了るのは無理があるな……この手牌でこの巡目まで来ちゃったら鶴賀の見えないリーチとは勝負にならない。ここは大人しくオリるか。
 大丈夫……鶴賀はテンパイしているかもしれないけど、清澄に合わせておけばボクが鶴賀に振り込むことはない)タンッ

みはるん(うーん、張った。けど……鶴賀のおっぱい。何も見えない。どうしよう……いや、でもここは……!)

みはるん「通らば……リーチっ!」タンッ

モモ「通らないっす。メンタンピン……裏一……7700の二本場は8300っす」パタパタパタ

みはるん「……はい……」

モモ(これで三位……このまま全員ブチ抜くっす!)

一(風越の……もしかしてこういう相手には慣れてないのか?)

みはるん(ううう……また鶴賀のおっぱい……いつの間にリーチしてたんですか……?)

タコス(さっきから我最強に空気だじぇ!)

タ:101400 一:114000 モ:95100 み:89500

南三局親みはるん

 八巡目。

みはるん(ダメだ。目を凝らしても集中しても全然見えない……。こんなの本当に麻雀なの?
 どうしよう……最後の親……ここで逆転したいのに、鶴賀の動きがどうしてもわからない。どうしたらいいの……私……どうしたら……!)タンッ

モモ(風越のメガネさん……最後の親だっていうのにかなり戸惑ってるみたいっすね……思うつぼっす)ツモッ

モモ「……リーチっす……」スチャ

モモ(本当は龍門渕から取りたいっすけど……鎖さんはさっきから清澄に合わせて打ってる。となると直撃は無理っぽいっすね。
 ま、そっちがダメなら風越から点を奪えばいい。名門風越と差が開くならそれはそれで悪くないっす……)

 九巡目。

みはるん(イーシャンテン……どうしよう、形は悪くない。けれど、どうしても振り込むイメージが頭から離れない。
 捨て牌が見えないなんて……反則だよ……。ちょっと違うかもしれないけれど……もしかして去年の天江衣と対戦したときの華菜ちゃんはこんな感じだったのかな……?
 華菜ちゃん……華菜ちゃんなら……こんなとき……どうする……?)

――――――回想・風越女子校内

池田「ここは押せ押せだしっ!」

みはるん「押せ押せって……華菜ちゃんはこんな状況で親リーと勝負するの?」

池田「負けてるなら押しが当然だしっ!」

みはるん「私は……でも、ここは一旦オリて次のチャンスを待つのが正解だと思う。ここで勝負できるのなんて……それこそ華菜ちゃんかキャプテンくらいだよ」

池田「まあ、みはるんならそうかもね。けど、あたしはずうずうしいしっ! それに……もう負けるのは――絶対嫌だしっ!!」

みはるん「華菜ちゃん……」

――――――

みはるん(華菜ちゃん……。去年の決勝……あの天江衣に負けたあとでも……華菜ちゃんは華菜ちゃんのままで……あのときよりもさらに強くなってみせた。
 華菜ちゃんは……やっぱりすごいよ……私と違って……)

 出会ったことのない類の強敵に、弱気になる吉留。

『っていうか、みはるんくらい強いなら、もっとずうずうしくても全然いいと思うしっ!』

 そんな吉留を励ますように、思い出の中の池田が笑う。

 つられるように、吉留も微笑む。

みはるん(でも……そっか……! そうだよね……華菜ちゃん……! ありがとう!
 不思議だな……華菜ちゃんのことを思い出したら鶴賀が急に恐くなくなったよ。うん、私いま……少しだけ華菜ちゃんの強さの秘密がわかった気がする!
 ここは勝負っ! 私も華菜ちゃんみたいに強くなるんだっ!!)タンッ

モモ(一発ロンはならず……と、ツモもならずっすね。そうそう清澄のタコスさんみたいにはいかないっすか……。
 それにしても……風越のメガネさん、今少し笑ったような……?)タンッ

タコス(全然テンパイできないじぇ……)タンッ

一(そろそろ鶴賀がリーチした頃かもな……)タンッ

 次巡。

みはるん(そうだよね……よくよく思い出せば、ヒントは龍門渕がいっぱい残してくれた。
 見えないなら出和了りはしない。ただ相手より早くツモって、和了る。なんだ……!!
 そう考えれば普通の麻雀だ。相手より早くテンパイして和了る。それを続けていけば……相手が誰だろうと勝てるっ!!)ツモッ

みはるん「通らば――リーチです」スチャ

モモ(残念……それは通しっすよ)タンッ

タコス(南場はつらいじぇ……!)タンッ

一(風越……持ち直したか?)タンッ

 十八巡目。

みはるん「ツモです。リーチツモ三暗刻……裏三。6000オール」

モモ(ま……そんな……!? 龍門渕に続いて風越もっすか!!)

みはるん(どうですか、鶴賀のおっぱい!! あなたの好きにはさせません!)

一(鶴賀のリー棒を掻っ攫っての逆転トップ……。もう恐いのは鶴賀だけだと思っていたけど、さすがは名門風越。
 まだ死んでないってわけか。面白い……望むところだっ!)

タコス(じょーーー!? 原点割れたじょーーー!!!)

タ:95400 一:108000 モ:88100 み:108500

南三局親みはるん一本場

モモ(去年の優勝校龍門渕、それに名門風越。考えが甘かったっすね……。
 さすがは決勝……みなさん私の姿は完全に見えてないはずなのに……そう簡単には勝たせてくれないっす……。
 いや、もちろん弱い相手だとは思っていなかったっすけど……完全なステルスモードに入ったっていうのにこの様……もしステルスがなかったらどうなっていたか……さすがに少し自信をなくしそうっす……)タンッ

 モモ、前半の半荘を思い出す。消えることに専念していたとはいえ、他校の猛攻の前に一人沈み。

 さらに後半、ステルスを最大活用して先制リーチをかけるも、結果的には清澄、龍門渕、風越の三校全てにツモ上がりを許してしまう。

 現状はいくらか取り返したものの変わらずの最下位。ラス親とはいえ残り局数もあと僅か。ここで反撃できなければ、とんだ道化で終わってしまう。

 小さく溜息をつくモモ。しかし、その心は折れない!

『私は君が欲しい!』

モモ(先輩……私を見つけてくれた先輩……!! こうしている今もモニター越しに先輩が私を見てくれている……!
 だったら……弱気な姿なんて見せるわけにはいかないっすよね……! 先輩……私頑張るっすよ!
 私は……私を見つけてくれた先輩のために……必ず逆転してみせるっす!! だから……先輩――見ていてください!!)タンッ

――――――鶴賀・控え室

蒲原「モモのやつステルスモードなのに随分苦戦してるなー。いや、他の面子がそれだけ手強いってことかー」ワハハ

かじゅ「なに……モモなら心配は要らないさ。普通に打っても十分に逆転できる。
 そもそも私があいつを麻雀部に誘おうと思ったときには、あんな特技があるなんて知らなかったしな」

蒲原「そうだったー、そうだったー」ワハハ

かじゅ「モモ……相手に不足はないぞ。思う存分打ってこい!」

――――――対局室

モモ(先輩……! 先輩の声が聞こえた気がするっす! 私……勝ちます。絶対勝って……全国に行くっす。そして……これからも先輩と一緒に麻雀をするっす!!)タンッ

 その後、モモはメンタンピンツモで風越の親を蹴る。

モモ「ツモ、1300・2600の一本場は1400・2700」

 オーラスに突入。風越・吉留と龍門渕・国広はモモのステルスを警戒するも、ステルスそのものを突破することはできず放銃。

モモ「ロンっす。5800」

 モモ、まずは風越を直撃。

モモ「それ、ロンっす。7700の一本場は8000」

 次いで龍門渕を撃ち落す。

一(鶴賀……さすがに粘るな……!)

みはるん(おっぱいのくせに……ツモってまくってやる!!)

モモ(まだまだ……!!)

タコス(南場だからなんだっていうんだじぇ……! 私は最後まで前に進んでやるじぇ!)

 そして、モモ怒涛の三連続和了からの、南四局二本場親モモ。

タコス「やっとツモれたじぇ。リーチツモ……裏はなし。500・1000の二本場は700・1200だじょ!」

 先鋒戦を終わらせたのは、この日南場での初和了りを決めたタコス。

先鋒戦後半終了!!
一位:モモ+23500(106200)
二位:一-100(97900)
三位:みはるん-7400(99300)
四位:タコス-16000(96600)

 名門風越と前回優勝校・龍門渕を押さえての、無名校・鶴賀・東横桃子の堂々たる一人浮き!

タコス(うう……後半はいいとこナシだったじぇ……)

一(ごめんね、みんな。負けちゃった……。けど、すごく楽しかったよ)

みはるん(鶴賀のおっぱい……この借りはいつか必ず返します!)

モモ(先輩……見ていてくれたっすか……!)

 こうして先鋒戦は終了する。

 いくらかの休憩を挟んで、次は次鋒戦となる。

実況『初出場・鶴賀学園が頭一つ分浮いた状態からの次鋒戦。勝負はまだまだこれから。一体どんな結末になるのか!』

次鋒戦前半
東・文堂星夏(風越) 南・染谷まこ(清澄)
西・井上純(龍門渕) 北・加治木ゆみ(鶴賀)

まこ「(最初はとりあえず様子見かのう……)よろしゅう」

文堂「(龍門渕の井上……不可解な鳴きに注意が必要。清澄は染め手が好みで、勢いに乗ると止まらなくなるタイプ。
 鶴賀は……あまり情報がないが、これまでの試合結果を見る限り、実力的には鶴賀のナンバーワンと見ていい……油断は禁物だ)よろしくお願いします」

井上「(ったく国広くんのやつめ……見てろよ……速攻で取り返してやる)よろしくな」

かじゅ「(モモが取ったリード……ここで私が追いつかれるわけにはいかない)よろしく」

 次鋒戦――開始!!

東一局親文堂

文堂(テンパイ……ヤミで11600。ここはリーチはしないほうがいいかな)タンッ

まこ(風越、さっそくテンパったんか?)タンッ

井上「(させねーよ)……チー」タンッ

かじゅ(龍門渕が鳴いたか……。井上純、妙な鳴きをすることの多い選手……となると、こうして今私がツモった三索は本来龍門渕がツモるはずだったもの……何か意味があるのかもな。一応持っておくか)タンッ

文堂(三・六索来い……! く、發か。ツモれず……まあ、チャンスはまだまだある……)スッ-

 と、そのまま發をツモ切りしようとした文堂の手が止まる。

文堂(待て待て……! 龍門渕の井上が鳴いたら要注意だってキャプテンにあれほど言われたじゃないか……!! なら、ここで素直にツモ切りするのは危険かもしれない)タンッ

まこ(なんじゃ風越、テンパったと思ったんじゃが気のせいじゃったか?)タンッ

井上(風越……ツモ切りしてくると思ったんだがな。気付かれたか? しかし……ま、気付かれたところで流れが今オレに来ていることに変わりはない)ツモッ

井上「ツモだ。發ドラドラ、1300・2600」

文堂(さっきの發……切っていたら直撃だった)

まこ(おっと、そっちは見とらんかったのう)

かじゅ(ふむ……)

文:96700 ま:95300 井:103100 か:104900

東二局親まこ

 八巡目。

まこ「(ほいじゃあ、最初の和了りは取られてしもうたが……リーチはわしがいただきじゃ。どれ、挨拶代わりじゃ!)……リーチ」スチャ

井上「ポン」タンッ

まこ(っと、龍門渕……さっきのといい変な鳴きしよってからに。そういや過去の牌譜もそんなんじゃったのう)

かじゅ「(このままだとまた龍門渕のツモるはずだった牌が私に来てしまう……なら、ちょっと試してみるか)……チー」タンッ

井上(ん、鶴賀がオレの手出しを鳴いただと……?)

かじゅ(さて。あとは風越がどう出るかだが……ここか?)タンッ

文堂「(鶴賀の手出し……鳴けばテンパイ。待ちも手広い。これで親リーを蹴る!)……ポンっ!」タンッ

まこ「ツモ。メンホンツモ……裏はなしじゃ。4000オール」

かじゅ(なるほど……ツモを回すとこういうことになるのか……)

井上(鶴賀の……今の鳴きはわざとだったのか……? よくわからねえ……何を考えている……?)

文堂(く、清澄……連荘はさせない……)

文:92700 ま:107300 井:99100 か:100900

東二局一本場親まこ

 十一巡目。

まこ「ほい、もう一発親リーじゃ!」タンッ

井上「(またかよ……連荘で調子付かれると厄介そうだな。潰しておくか)チ……」

かじゅ「ロンだ。七対子ドラドラ。6400の一本場は6700」

まこ(張っとったんか鶴賀……というか、なんじゃそのわけのわからん和了りは……!)

井上(鶴賀のやつ……さっきの鳴きといい……こいつはこいつで面倒臭そうだな。流れが見えにくい)

文堂(鶴賀……これでまだ和了ってないのは私だけか……次こそは……!)

かじゅ(さて、これでさっきの清澄の親満の分は取り返したな)

文:92700 ま:100600 井:99100 か:107600

東三局親井上

 十巡目。

文堂「(テンパイ……! 三面張の高め三色……龍門渕が親なのが恐いけど、ここで攻めないでいつ攻めるっ!!)リーチッ!」タンッ

まこ(おお、今度こそ高そうじゃ)タンッ

井上「チー」タンッ

かじゅ「…………チー」タンッ

井上(なっ……鶴賀……!?)

文堂「ツモですッ! メンタンピン三色ツモ、裏二。4000・8000!」

かじゅ(役ナシ確定の鳴きか……我ながら意味不明だ)

井上(倍満の親っかぶりかよ。風越の当たり牌……鳴かずに抱えていたほうがよかったか? いや、でも……それじゃオレが和了れねえしな。
 ……っていうか鶴賀のやつ、本当に何のつもりなのか全然わかんねえ。せっかく流れを変えてもこいつに乱されちまう……どうすりゃいい……?)

文:108700 ま:96600 井:91100 か:103600

東四局親かじゅ

 六巡目。

かじゅ「リーチ……」スチャ

文堂(親リー……今のところトップはうち……振り込みは避けたい)タンッ

まこ(鶴賀のリーチ……さっきの和了りを考えると……ちょっと不気味じゃのう)タンッ

井上(鶴賀……よくわかんねえが……いい気になるなよ……!)タンッ

かじゅ(ん、リーチがかかったのに龍門渕が鳴かなかった……? この場は鳴かなくてもいい――ということなのだろうか……)ツモッ

井上(どうしたんだよ、鶴賀。和了りじゃないなら早く切れよ)ニヤッ

かじゅ(なるほど……鳴かなくていい場合もあるのだな。
 流れ――というものがあるとして、鳴かないほうがむしろ自分に分があるときは大人しくそれに身を任せる。
 へえ……一体どこまで見えているのか。本当に不可解だ。しかし……まあ、保険はかけておくものだな……)

かじゅ「カン」パラッ

井上(なああっ……!? オレの当たり牌を暗槓!? つーことはこいつ元々手の内にオレの当たり牌を三枚持ってやがったのか……?
 リーチをかけてきたのは……もし鳴きでツモ順がズレてオレの当たり牌を掴まされても暗槓できるように……? くそっ、んなこと有り得てたまるか!)

かじゅ(嶺上はならず……ま、そりゃそうだ……)タンッ

 流局。

かじゅ「テンパイ」

井上「ノーテン」

まこ「ノーテン」

文堂「ノーテン」

文:107700 ま:95600 井:90100 か:105600 供託:1000

東四局一本場親かじゅ

 十一巡目。

かじゅ(下手にリーチをかけると龍門渕が潰しに来る。かといって黙っていると……)タンッ

文堂「リーチです」スチャ

まこ「追っかけじゃあ」スチャ

かじゅ(……こうして他校が攻めてくる。困ったものだ)

井上(ちっ、鶴賀が気になるっつーのに風越と清澄が同時リーチかよ。
 鶴賀の動きが読めねえこの状況でじたばたするとかえって傷が広がりそうだしな……仕方ねえ……ここは大人しく打っとくか……)タンッ

かじゅ「ポン」タンッ

井上(鶴賀……?)

文堂()タンッ

かじゅ「ロンだ。断ヤオドラドラ。5800の一本場は、6100」

井上(おいおい……そんなオレみたいなことしやがって……!)

文:100600 ま:94600 井:90100 か:114700

東四局二本場かじゅ

文堂(マズい……最初の和了りで龍門渕警戒かと思ったら……!)タンッ

まこ(んー、さっきからけっこういいの張っとるんじゃけどのう)タンッ

井上(このままじゃマズいってのに……鳴けねえ!)タンッ

かじゅ「ツモ。平和ツモ赤二。2600は2800オール」

文・ま・井(鶴賀が止まらない……!!)

かじゅ(さて、これで三本場。私にしては少々力が入り過ぎな気もするが……仕方ない。モモのあんな闘牌を見たあとでは……欲も出るというものだ)

文:97800 ま:91800 井:87300 か:123100

東四局三本場かじゅ

 十六巡目。

かじゅ「チー」タンッ

文堂(これで鶴賀が三副露。染めているわけでもなければ、チャンタも断ヤオも三色もない。
 一通は私が止めているから問題ないとして、他に可能性があるのは役牌……まだ河に一枚も出ていない東か)タンッ

 次巡。

かじゅ()タンッ

文堂(え……ノータイムで東をツモ切り?
 東を暗刻で持っているならカンをしてもよかった場面だと思うが……それともこの巡目、さっきのチーは役無しの形式テンパイ狙い?
 なら……私もここはテンパイを崩さずにいくのが妥当か)タンッ

かじゅ「ロン。ダブ東ドラ一。5800の三本場は、6700」

文堂(東持ってたんですか!?)

かじゅ(ふう……これでさっきの風越の倍満分は取り返したか)

文:91100 ま:91800 井:87300 か:129800

東四局四本場かじゅ

 六巡目。

文堂(鶴賀、さすがにもう張ってるなんてことはない……か?)タンッ

まこ(手はいいんじゃがなぁ。あと一歩で和了れん)タンッ

井上(ダメだ。変わらず流れが読めねえ。
 普通に強いだけならまだやり様があるが……こいつはところどころで打ち方が不規則になる……カメレオンでも相手にしてるみたいだ)タンッ

かじゅ(おっと、また張ってしまった。これはあとで痛い目を見るかもな。リーチは……龍門渕が何かしてくるかもしれない……かけないほうがいいか)タンッ

まこ「ポン」タンッ

井上(清澄……? わざわざ自分から流れを悪くしにいって……なんのつもりだ?)タンッ

まこ「お、それもポンじゃ」タンッ

井上(オレが言えたことじゃねーが、わけわかんねー鳴きしやがって)タンッ

かじゅ(ふむ……)タンッ

まこ「それ、ロンじゃ。混一のみ。2000の四本場は、3200」

かじゅ(その手ならいくらでも高めを狙えただろうに。仕掛けてきたか……清澄)

文:91100 ま:95000 井:87300 か:126600

南一局親文堂

 まこ、脱、眼鏡!!

まこ(さーて。やっとどんなもんか掴めてきたのう。とりあえず、風越と龍門渕は過去の牌譜通りっちゅう感じじゃな。まあまあ運が向いてくれば勝てなくはない相手じゃろ)タンッ

まこ(ただこの鶴賀の加治木とか言ったか……牌譜……この大会の分しかなかったからようわからんかったが……目の前にしてみると随分やりにくい相手じゃの。まるで久でも相手にしとるみたいじゃ)タンッ

まこ(久も鶴賀も……普段の打ち筋はデジタルじゃのに時々オカルトめいたことをし出す……どっちにも言えるんは、最終的にそれで勝てるっちゅうところかの)タンッ

まこ(鶴賀の……こういう静かで隙なく強いタイプにゃあ……下手に噛み付かんほうが身のためかもしれん。
 ほうかと言って……このままやられっぱなしじゃ一年生どもに示しつかんからの)タンッ

 まこ、先鋒戦が終わったあとの、タコスの涙を思い出す。

 後輩がやられた分は――先輩が取り返さなければならない!!

まこ(ま、やるだけやってみるしかなさそうじゃ!!)タンッ

 その後、まこは積極的に鳴き、安手の早和了りで場を流していく。

 南一局親文堂、まずは風越・文堂から1000点の和了り。

まこ「ロンじゃ。チャンタのみ。1000」

文:90100 ま:96000 井:87300 か:126600

 南二局親まこ、かじゅにテンパイ気配。その流れを乱そうと鳴いた井上の手出しを、まこが狙い撃つ。

まこ「ロン。断ヤオ赤一。3900」

文:90100 ま:99900 井:83400 か:126600

 南二局親まこ一本場、今度も鳴きからのツモ和了り。

まこ「ツモ。東混一。2000は2100オールじゃ」

文:88000 ま:106200 井:81300 か:124500

 南二局親まこ二本場、まこの早和了りに、井上も得意の鳴きで対抗。結果はまこの放銃で、井上の勝利に終わる。

井上「ロンだ。断ヤオドラ一赤一。3900は4500」

まこ(ま、そうそう楽はさせてくれんじゃろうな)

 南三局親井上、連荘したい井上と積極的に仕掛けるまこの一騎打ちの様相。勝者はしかし、二人の鳴き合いの中で静かに手を進めていた、かじゅ。

かじゅ「ツモ。タンピン一盃口ツモ。1300・2600」

井上(ちっ……鶴賀の……!)

まこ(鶴賀……こりゃあ大変なのと当たってしまったのう)

 南四局親かじゅ、配牌、ここまで攻めあぐねていた文堂に勝負手が入る。八巡目、文堂渾身のハネ満確定リーチ。

文堂(ここで……和了しなくては……!!)

 しかし、井上の鳴きによって不発。文堂の一人テンパイによる流局で終了。なお、供託リー棒はこの半荘トップのかじゅの手に入ったものとする。

次鋒戦前半終了!!
一位:かじゅ+23500(129700)
二位:まこ+2800(99400)
三位:文堂-10600(88700)
四位:井上-15700(82200)

次鋒戦後半
東:井上 南:文堂 西:まこ 北:かじゅ

東一局親井上

井上(ふう……休憩があってよかったぜ。おかげで落ち着けた。前半は鶴賀に踊らされてかなり焦っちまったな……ちっ、オレらしくもない。
 しかし、鶴賀……このままタダで終われると思うなよ……)

まこ(鶴賀がラス親か……嫌な感じじゃのう。さっきは色々小細工してみたが……どれも決め手に欠ける。どうしたもんかのう……)

文堂(わかっていたことだけれど……決勝戦は今までの相手とは段違いだ……正直、私なんかじゃ歯が立たない……でも……でも……)

かじゅ(またラス親か。あまりいい予感はしないな。私はモモと違って後半になれば強くなるタイプというわけでもない。
 鍍金がはがれる前に片を付けなければ……)

 次鋒戦後半――開始!!

 次鋒戦後半は、しかし、前半と打って変わって静かな場となった。

 東一局親井上、かじゅの一人テンパイ、流局。

文:87700 ま:98400 井:81200 か:132700

 東二局一本場親文堂、全員ノーテン、流局。

文:87700 ま:98400 井:81200 か:132700

 東三局二本場親まこ、後半戦初の和了りは、前半戦から勢いに乗るかじゅのヤミテン。

かじゅ「ロン。七対子混老頭、6400は7000」

まこ(げっ……またそういう記憶にないことをしよってからに!)

かじゅ(なんとか和了れた……。このまま無事に済めばいいが……どうだろうか。
 清澄と風越からはかなり警戒されているし……それに先程からやけに龍門渕が大人しい……何を企んでいる……?)

まこ(前半の鳴きの嵐が嘘のようじゃのう。
 みんな龍門渕の井上を警戒しとるのかリーチがかからんし……そしてわしの手は悪過ぎじゃ……これじゃ和了るに和了れん……)

文:87700 ま:91400 井:81200 か:139700

 そして、今局のかじゅの一見不可解な和了りを見て、次局ついに――風越・文堂が悪足掻く!!

東四局親かじゅ

文堂(キャプテン……! キャプテン……私は……!)タンッ

――――――回想・風越女子校内

福路「文堂さん、レギュラー入り、おめでとう」

文堂「ありがとうございますっ! 精一杯頑張ります!」

福路「大丈夫よ。あなたは強い。ここは運やまぐれでレギュラーになれるところじゃない――名門風越よ。
 あなたはもっとあなたの強さに自信を持っていいと思うわ」

文堂「強さ……でも、キャプテンや池田先輩から見れば……私なんて全然……」

福路「そんなことないわよ。私や華菜や吉留さんと卓を囲んでも、文堂さんがトップのときもあったでしょう?」

文堂「いや……それはでも……先輩たちが打ち合っている中で最後にたまたま自分がツモれたとか……そんなのばかり。
 練習試合を見たりしていても、やはりいざというときの先輩方には、私にない何かがあると思うんです!」

福路「それは……あるとしたら、経験かもしれないわね」

文堂「経験……ですか……?」

福路「例えば、文堂さん。あなたは、この局で逆転しなきゃ勝ち目はないっていう場面で、五面張と地獄単騎……どちらの待ちを選ぶ?」

文堂「そんなの……五面張に決まってますよ。よほどの確信もなく……どうしてそんなわざわざ自ら悪い待ちにするようなことを……」

福路「そうね。私もそう思うわ。私も地獄単騎なんて滅多にしない。けれどね……」

文堂「けれど?」

福路「世の中にはね、ここだっていうとき、わざと自分から悪い待ちにして……しかもそれで結果的に勝ってしまう……そういう人もいるの」

文堂「そんな……漫画みたいなことが!?」

福路「あるのよ。にわかには信じられないかもしれないけど、そういう摩訶不思議な麻雀を打つ人が……実際に全国にも県にもたくさんいる。
 その代表格が今度の県予選に出てくる龍門渕の天江衣……華菜でさえ去年は歯が立たなかった相手よ」

文堂「天江衣は……確かにそうですが……。それでも、キャプテン! 私は……それでも五面張を選びます。
 そうやって――この風越でもレギュラーを取ったんです!」

福路「ふふふ、そうそう。それくらいの気迫が欲しいわね。文堂さんは素直で優しいから……それがあなたの強さであり、弱さでもあるわ。よく覚えておいてね」

文堂「は……はい!」

福路「それと、もう一つ。麻雀は運や技術を競うだけの競技じゃないわ。
 色んな人がいる。あくまでデジタルに徹する人、天江衣のように不思議な和了りを連発する人。
 でも……大切なことはね、文堂さん。あなたがどれだけ勝ちたいと思っているかなの。
 どれだけ勝てると信じているか……最後に笑うのは、そういう――強い信念と確かな誇りを持った人なのよ」

文堂「信念と誇り……ですか。なら……キャプテンの信念と誇りは……何ですか? もしよければ教えてください……」

福路「決まっているわ。私の信念は私がこの風越のキャプテンであるということ。そして私の誇りは……あなたたち……この風越の仲間よ」

文堂「……! キャプテンっ!!」

――――――

文堂(キャプテン……! 私は……勝ちたいです!! 相手がどんなに強くても……勝ちたい!! みんなのために……勝ちたいですっ!)タンッ

 そう思う文堂の気持ちが届いたのか――九巡目、文堂テンパイ。

文堂(来た……これで一萬を切れば五面張。少し遠回りをしたような気もするけど……いつまでも黙ってはいられない。リーチだっ!)

 と、いつもなら迷わず一萬を切って五面張に受けるところを、文堂の手が止まる。

『あなたがどれだけ勝ちたいと思っているかなの』

 文堂の脳裏に、福路の言葉が蘇る。

文堂(私は勝ちたい……勝つための五面張……今まで私はそうやって打ってきて……名門風越でレギュラーを取った! ここだって、一萬切りが当然だ……!)

 けれど――と文堂は卓上と、卓を囲む面子に目を向ける。

文堂(鶴賀の三年生……予選の牌譜を見る限りオーソドックスなタイプの打ち手だと思っていたけれど、さっきの七対子混老頭……あんなのがオーソドックス? 本当か……?
 それから要注意人物、龍門渕の井上……この人こそまさにオカルトの塊みたいな人。鳴きで流れが変わるとか……そんなの迷信に決まってるのに。
 それと清澄……前半戦、面前で進めていけばもっと高めを狙えた手を崩して……鶴賀の連荘を止めてみせた。そのあとも鳴きを自在に使って和了って……あの鶴賀の勢いの中でプラス和了り……)

文堂(私は……私はどうだろう……? 私は本当に……勝つための麻雀をしてきただろうか?
 教科書通りに打って、練習通りに打って……それで私は勝って勝って……風越のレギュラーになって……それでどこか満足していたんじゃないか……?)

文堂(それじゃダメなんだ……! 今までと同じように打っても……この人たちにはまるで敵わない。さっきだって何もできないうちに半荘が終わってしまった……。
 確かに私は手本や見本の通りに打っていたかもしれないけれど……それでも負けは負けでしかない……!!)

文堂(私は……私は一体誰を相手に麻雀をしていたんだ……!? いつも正確なコンピュータか? 有名なプロか? 厳しいコーチか? 風越の部員のみんなか……?
 いや、違うっ!!
 私が今勝たなくちゃいけない相手はそうじゃない! 龍門渕の井上純、鶴賀の加治木ゆみ、清澄の染谷まこ!!
 考えるんだ……!! この場……この人たちの裏をかいて勝つために……私が今すべき最善のことを!!)

 そして、文堂はドラ表示牌――九萬を見る。それから、井上、かじゅ、まこの捨て牌に目をやる。

文堂(この感じ……ひょっとすると筒子――私の当たり牌は抱えられているかもしれないな……。
 だとしたら、いくら五面張でも和了ることは難しい。それならいっそ一萬単騎のほうが……。地獄待ちになっちゃうけど、二萬や四萬が場にけっこう見えている。
 少なくとも私なら、ドラを考慮に入れてもこの状況で一萬単騎の地獄待ちをしているなんてことは想像できない……。
 そうだ……! 私がそれを想像できないのなら……どうして私がそんな待ちをしていると周りに読める……?
 読めるはずがない。いつもの私なら……こんなことは絶対にしない! 実際……さっきまではしていなかった!)

 文堂、願うことはただ一つ――己が勝利!!

文堂(いつも通りじゃ勝てないときもある。練習通りにやったってうまくいかないときもある。セオリー通りじゃ立ち行かなくなるときもある――それでも……私は勝ちたい……!!
 私は……この人たちに勝つんだ!!)

 文堂、一萬地獄単騎で受けるために八筒に手をかけ、かつてない心臓の高鳴りを抑えながら、静かに発声。

文堂「……リーチ」スチャ

まこ(風越……弱ったのう、ここはオリとくしかないか)タンッ

かじゅ(風越のリーチ……清澄はひとまずオリ、龍門渕は鳴いてこない、か……さて)ツモッ

かじゅ(テンパイ……一萬を切ればヤミでも十分高めの手……)

 かじゅは河を見る。

かじゅ(一萬……あるとしたら地獄単騎か。しかし、風越のこの選手……前半戦からそうだったが、リーチをしてくるときには必ず広い待ちの高い手で勝負してきた。
 過去の牌譜も綺麗な手作りをしていたし……ドラを考慮に入れても……ここで彼女が地獄単騎とは考えにくい……)タンッ

 かじゅ、打、一萬。

 瞬間、文堂――開眼ッ!!

文堂「そ、それ、ロンッ! リーチ一発ドラドラ――」

 裏ドラを捲る。裏ドラ表示牌は――九萬!

文堂「裏二!! い、12000っ!!」

かじゅ(……なんと……!?)

文堂(やった……!! 和了れたっ! 大丈夫だ……私はまだ戦える!! 私でも風越の……みんなの力になれるんだ!!)

 風越・文堂、会心の一撃にて東場終了。南場へと移る。

文:99700 ま:91400 井:81200 か:127700

南一局親井上

かじゅ(風越の……驚いた。過去の牌譜からも実際に打った感じからも全く予測できなかった……これは一本取られたな)タンッ

かじゅ(さすがは名門か……まさか対局中に強くなるとは。いい選手が揃っている。しかもこれで一年生か……来年のモモたちが対戦したとして……果たして勝てるだろうか……)タンッ

かじゅ(いや、今は来年のことなど考えまい……ただ、目の前の対局に集中しよう)タンッ

かじゅ(いかんいかん……少し気が昂ぶっているな。楽しい……モモや津山や妹尾もそうだが……人が目の前で成長するというのは見ていて嬉しいものだ)タンッ

かじゅ(風越の……しかし、いい後輩ならうちにもいる。鍛えればもっともっと強くなりそうなやつらがな……。私はあいつらを……全国の舞台で遊ばせてやりたい!)タンッ

 十巡目。

かじゅ「ツモ……純全帯三色ドラ一。2000・3900」

かじゅ(これでプラスに戻した。勝つのは……うちだ……!)

文:97700 ま:89400 井:77300 か:135600

南二局親文堂

 この局も途中までは静かに進行。十巡目を過ぎて、痺れを切らしたようにまこが鳴いて仕掛ける。しかし、不発。

まこ「テンパイ」

文堂「ノーテン」

井上「テンパイ」

かじゅ「ノーテン」

文:96200 ま:90900 井:78800 か:134100

南三局一本場親まこ

 この局もまこ以外鳴かず。しかし、まこは形式テンパイすら取れず、流れる。

まこ「ノーテンじゃ」

文堂「ノーテン」

かじゅ「ノーテン」

井上「テンパイ」

文:95200 ま:89900 井:81800 か:133100

南四局二本場親かじゅ

かじゅ(龍門渕……本当に大人しい。しかし、前局と前々局はテンパイしていた。
 安手ではあったがリーチで裏を狙うこともできたろうに……なぜ動かなかった……?)

まこ(しまったのう……この半荘はまるでツキに見放されとる。このザマじゃ先輩の面目丸つぶれじゃて……)

文堂(鶴賀のラス親……連荘はさせない!)

 三者三様の思惑を余所に――このオーラス……龍門渕・井上が静かに動き出す。

井上(長かった……長かったぜ……!)

 井上はこのときを待っていた。即ち、全ての流れが自分に来る、この瞬間を。

井上(このオレが半荘やって一度も鳴きもリーチもしなかったことなんてあったか……? いや、普通のやつでも半荘ずっと鳴かないなんてことはあまりない……)

井上(それもこれもこのときのためだ……! それが証拠にホラ……配牌時点でこの手牌……!)

井上(前半は他家の当たり牌を回すのに躍起になっちまったが――いや、いつもならそれで問題なくオレが和了れるんだけどよ――鶴賀がそれをさせてくれなかった。
 せっかく人が流した当たり牌を本人のところまで運びやがって……絶対狙ってやがった……。たぶん、よくオレの牌譜を研究してたんだろ……感心するぜ)

井上(けど……わかってるか? 鶴賀……! お前はもう……今のオレから逃れることはできない……!!)

 七巡目。

井上「……リーチだ」スチャ

かじゅ(龍門渕……この半荘で初めてのリーチ。絶対に何かある……一発で親っかぶりなどご免だからな……一応念を入れておくか……)

かじゅ「ポン」タンッ

 かじゅ、井上のリーチ表示牌を強引に鳴き、井上の現物切り。回しながらの食いタンを目指す。

井上(いいのかよ、鶴賀。オレのを鳴いたら次にお前がツモるのは……)タンッ

文堂()タンッ

まこ(くぅ……鳴いて和了れるんならいくらでも鳴くんじゃが……)タンッ

かじゅ(このツモは……本来龍門渕が一発でツモるはずだったもの……これは――切れない)タンッ

 静かな緊張感に包まれたまま、山牌が消費されていく。

 そして、かじゅは自らの手牌の奇妙な仕上がりに、やっと井上の真の意図に気付く。

かじゅ(まさか……そうか龍門渕……そういうことか……!)タンッ

井上(今更気付いても遅いぜ、鶴賀っ!)タンッ

かじゅ(私がツモ順をズラしてから、私がツモったのは全て井上の手にいくはずだったもの……。
 その中にはきっと井上の当たり牌も含まれているのだろう……だからあのときからずっとツモ切りはしなかったが……。
 いや、違うな。ツモ切りをしなかったのはそれだけが理由じゃない……なぜなら……)

井上(鶴賀の手牌……なんとなく想像つくぜ。
 なにせ、オレが今まで我慢に我慢を重ねて引き寄せたいい流れ――つまりオレのツモが……あのときから全部お前に入っているんだからな!
 今頃お前の手は間違いなく満貫以上に仕上がってるだろうぜ。それをここに来て……ラス親で連荘したいはずのお前に……崩せるか?)

かじゅ(さっきからのこのバカみたいな引きの良さ……! 龍門渕……黙っていても十分に和了れただろうに!
 わざわざ私を嵌めるために罠を張ったのか……私を……自分と勝負させるために……!)

井上(さあ……鶴賀、もうすぐ海底だぜ……お前はどう出る!!)

 十七巡目。

かじゅ(海底を目前にしてテンパイ……どう和了ってもハネ満。もし仮に海底ツモなんてことになったら……親倍か。
 しかし、テンパイを取るために捨てざるを得ないのが――明らかに井上の危険牌。この状況を狙って作ったというのか……? 龍門渕……化け物め……!!)

 かじゅ、長考。

かじゅ(落ち着け、私。私には今大きく分けて二つの選択肢がある。
 一つは、ハネ満の手で井上と勝負する。その場合は、井上から直撃を受けて終了、私が勝って連荘、どちらも和了れずに流局して再び私の親、その他……の四パターン。
 鶴賀のことを思えば……私がここで点を取らねば――蒲原はいいとして――津山や妹尾で他校を出し抜くのは厳しい。
 そのためにはこの親でもっと稼ぐ必要がある……)

かじゅ(もう一つの選択肢は……勝負を諦めてオリる。幸い井上の現物はまだ手の内にある。テンパイを崩せば、残る巡目は海底のみ……逃げ切るのはたやすい。
 そうなれば、ここで次鋒戦が終了し、あとは他のメンバーに託すことになる……)

かじゅ(さて……私はどうする……? 勝負か……オリか……!?)

 そのとき、かじゅの脳裏に蘇る、いつかの後輩の笑顔――。

『先輩っ! 私は勝って先輩と一緒に全国に行きたいっす!! 先輩ともっと一緒に麻雀をしていたいっす!』

かじゅ(あのとき……私はモモのその言葉に……答えられなかった)

 そして、かじゅは、己の切るべき牌に手をかける。

かじゅ(ああ……私はやはり……卑怯者なのかもしれないな)

 長考の末にかじゅが辿り着いた結論。

 切ったのは……井上の現物。

 かじゅは勝負を――オリた。

 次の瞬間。

まこ「ろ、ロンじゃ! 一盃口のみ。1300の二本場は……1900!」

かじゅ「!?」

まこ(しもうたぁ! こんなことならさっき張ったときにリーチしとくんじゃった……!)

かじゅ(清澄の……ロンと言われた瞬間に心臓が止まるかと思ったぞ……)

井上(鶴賀……散々悩んだみたいだったが……しっかりオリたか。
 絶対仕掛けてくると思ったのになぁ……中々どうして最後まで隙を見せなかった……心から完敗だぜ。けど……次はオレが勝つ!)

まこ(わしの修行不足じゃったのう。鶴賀の……こんなに色んな顔を持ってる打ち手はなかなかおらん……勉強させてもらったわ。ありがとうのう)

文堂(終わった……。キャプテン……見ていてくれましたか……? 私は……少しは強くなれましたか……? 少しはみんなの役に立てましたか……?
 キャプテン……)パタッ

次鋒戦後半終了!!
一位:文堂+6500(95200)
二位:かじゅ+1500(131200)
三位:井上-1400(80800)
四位:まこ-6600(92800)

 次鋒戦、結果は無名校鶴賀・加治木ゆみが他を押さえての圧倒的な一人勝ち! 前回優勝校・龍門渕は鶴賀に大きく引き離されての最下位。

 果たして勝負の行方は!!

実況『先鋒戦から目を見張るほどの活躍を見せている初出場・鶴賀学園。しかしこの中堅戦……ここまで劣勢の前回優勝校・龍門渕からついにあの選手が登場します!
 鶴賀は果たしてリードを守りきることができるのか……引き続き目が離せません!!』

中堅戦前半
東:竹井久(清澄) 南:天江衣(龍門渕)
西:妹尾佳織(鶴賀) 北:深堀純代(風越)

衣「よろしく」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

久「(出てきたわね……龍門渕の天江衣。全国区の魔物……私の力でどこまでやれるか……勝負よっ!)よろしく」

かおりん「(三つずつ……三つずつです! えっと……他に加治木先輩が言っていたのはなんでしたっけ……)よ、よろしくお願いします!」

深堀「(龍門渕の天江……私のやるべきことはこの点棒をできる限り守ってこの半荘二回を終わらせること。
 飛ばされなければ……キャプテンと池田さんがなんとかしてくれる……!)……よろしくお願いします……」

 中堅戦前半――開始!!

東一局親久

 誰もが天江衣に注目する中、最初の和了りは、風越・深堀。

深堀「あ……ロンです。東混一……5200」

かおりん「はっ、はい!?」

久(鶴賀の子……あんな見え見えの染め手に普通振り込む?
 先鋒と次鋒はかなり強い人だったけれど、新設校で部員が少ないらしいから……選手の力にはバラツキがあるのかしら)

衣(わーい衣の親番だー)

 そうして……地獄が始まる。

久:92800 衣:80800 ド:100400 か:126000

 東二局親衣、東一局は様子見だったといわんばかりに、衣、御戸開き。

衣()ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 放たれる魔物の気配。久と深堀が震える。

久(うっわー……これはうちの咲より性質が悪そうね……!)

深堀(これが……池田さんの言っていた天江の力……耐える!)

 数巡後。

かおりん()タンッ

衣「ポン」タンッ

久(天江の鳴き……? これはもしかして……)

深堀(噂の海底コースってやつか……止めなければ……)

 しかし、久も深堀も成す術もなく、ただ見ていることしかできない。底無しの地獄が行き着く先は――魔の海底……。

衣「ツモ……海底撈月。ダブ東ドラドラ。4000オール」

久(あらあら、好き勝手暴れてくれるわね)

深堀(くっ……どうにかしないと……!)

久:88800 衣:92800 ド:96400 か:122000

東二局一本場親衣

深堀(天江の親を流さなければ……このまま嬲り殺される。どうにかして……)

かおりん()タンッ

深堀「チー!」タンッ

深堀(よし……これでイーシャンテン!)

久(風越……和了ることに気を取られているわね……危険だわ)タンッ

衣()タンッ

深堀「それ、ポン!」タンッ

久(ああ、もう……それを鳴いちゃったら……!)タンッ

深堀(これでテンパイっ! ……えっ……待て……私、今なんてことを……!)

久(これで天江が海底コース!)

深堀(しまった……!)

衣()ニヤッ

 十七巡目。

衣「……リーチ」スチャ

かおりん(んー、なんだかずっと手が進まないですね……)タンッ

深堀(くっ……テンパイしてるのに……最後の一枚が出てこない!)タンッ

久(天江……今のツモ切りリーチは……そういうことなのよね。お願い、誰かこれで鳴いて!)タンッ

深堀(それじゃない……!)

 重く冷たい水底に溺れる三者。

 その中で悠々と月を掴み取る魔物が一人。

 それは神か悪魔か――。

衣「ツモ。リーチ一発ツモ断ヤオ海底撈月……裏三。8000は8100オール」

 魔物・天江衣――降臨!!

久(ひゃー……天江衣……本当に信じられない打ち手ね……!
 中堅戦が始まって早々、二度の海底ツモで最下位から一気に独走トップだった鶴賀を抜き去るなんて……これが全国区の魔物……!)

深堀(くそっ、まだだ……できることはあるはずだ!)

久:80700 衣:117100 ド:88300 か:113900

東二局二本場親衣

久(天江衣……この異常な海底ツモは明らかに狙ったもの。
 となれば……咲が嶺上を連発するように、天江の能力は海底ツモだってことでいいのかしら……? いや……)タンッ

久(違う……天江の牌譜……むしろ出和了りのほうが多い。
 他家の手をまとめて抑えつつの海底……その力を見せつけておいて……焦って和了ろうとする相手の不用意な一手を出和了り。そういうケースもあった……)タンッ

久(かと言って……天江の出和了りを警戒しながら手を作っていたのでは……結局はテンパイが間に合わず、天江が海底で和了って連荘……その無限連鎖。
 なんていうか、本当に魔物って感じだわ)タンッ

久(でもね、天江衣。あなたが強ければ強いほど……この場がどうしようもなければないほど……私はわくわくしてくるのよねっ!
 逆境が何? 相手が魔物だから何? そんなピンチこそ……私は望むところっ!)タンッ

久「(さーて、なんだかんだでテンパイしちゃったわ。さっきまでイーシャンテンが限度だったのに。それとも……これも天江の思い通りなのかしらね。
 普通に打つなら……ここは浮いている端っこを切って手広く構えるのが自然。それなら断ヤオもつくし、運がよければドラも乗る……。
 ただ……私にとっての自然は……残念ながらそっちじゃないのよ!)……リーチ!」タンッ

衣(ん……? 清澄の……わざわざ自ら点を下げた? 振り込んで来ると思ったが……しかし、ならばこちらが先に和了るまで)タンッ

かおりん()タンッ

久「ロン! リーチ一発……裏二。8000は8600よ!」

かおりん「は、はいぃぃ!」

衣(……!? 衣の親が流された!! 清澄の悪待ち……それと……先程から妙な捨て方ばかりする鶴賀……小賢しいっ!!)

久(ふう……なんとか和了れたわ……。ただ、結果的に龍門渕を浮かせてしまった……。できればツモりたかったのだけれど。
 ただ……今の感じだとツモは無理だったかもしれないわね。私が和了れたのは鶴賀の無警戒な振り込みのおかげって気がするわ。
 天江の力に対抗するためには……私一人じゃダメ……他の協力が不可欠。ただ……どうもあの鶴賀の人の打ち筋が安定しないのよね……どうしたものかしら)

深堀(清澄……! 有難い。これで天江の親はひとまず終了だ)

衣(許さない! 衣は子供より親やるほうが好きなのに!!)

久:89300 衣:117100 ド:88300 か:105300

東三局親かおりん

深堀(う、この感じは……)タンッ

久(あっちゃー……調子に乗って鶴賀のを鳴いちゃったのは失敗だったかな。でも、白のみだけどテンパイ……。
 お願い、鶴賀でも風越でもいいから差し込んで……!)タンッ

 十七巡目――海底を目前にして、天江衣、ツモってきた九筒を見もせずに河に叩きつけ、二度目の海底直前リーチ。

衣「……リーチ」スチャ

 と、衣のリーチを受けて、鶴賀・妹尾、手が止まる。

衣「……どうした、鶴賀。鳴かないのなら早くツモれ」

かおりん「あ……えっと、その……すいません! ……ちょっと整理するので待ってください」アセアセ

久(鶴賀……?)

深堀(鶴賀……整理するって……なんて雀頭以外を一つずつ区切って数える必要が……)

 このとき、鶴賀の異常にいち早く気付いたのは――魔物・天江衣。

衣(!? ……まさか……そんな……清澄ばかりまばっていたら……!?)

かおりん「あっ、よかった、ちゃんと揃ってる! ロン、です! えっと、なんだったっけ……これは……」パラパラパパラ

 倒された鶴賀・妹尾の手牌を見て、卓を囲んでいた全員が絶句する。

 それは一・九・字牌だけで構成される、最も出易い役満の一つ。

かおりん「よくわからないけどとにかくすごいやつです!!」

深堀(親の役満……!)

久(信じられない……)

衣(………………!!)

かおりん「えっと……これ、何点でしょうか……?」

 国士無双――親の役満は、48000点!!

久:89300 衣:69100 ド:88300 か:153300

――――鶴賀控え室

蒲原「ワハハ。佳織のやつ、やってくれたなー」

睦月「佳織さん……いつの間に国士無双なんて覚えていたんですか? まだ役満は教えてなかったはずですが」

モモ「先輩、何か知ってますか?」

かじゅ「いや……妹尾が天江とぶつかると知ってな、私が念のためにと思って国士だけは教えておいたんだ」

睦月「なぜ……?」

かじゅ「天江の牌譜を研究したんだが……天江が連続和了をするとき、他家はイーシャンテンからずっと動けなくなる。
 ぎりぎり他家と協力して鳴きが成立すればまだいいほう。たった一人で手を作るのはほぼ不可能な状態に陥るんだ。ただ……」

モモ「ただ……なんすか?」

かじゅ「一人で手を作ろうと思ったときに、テンパイできる可能性が僅かだがあった。それが、国士無双。
 初心者の妹尾が実力で全国トップクラスの力を持つ天江衣を下すのはどう贔屓目に見ても不可能だ。
 だから妹尾には……なんだか手が進まないと思ったらとにかく一・九・字牌を一つずつ揃えろと言っておいた。
 そのうちのどれかが雀頭になっていればとにかくすごいやつが和了れるから、とな。まさか本当に和了ってしまうとは思っていなかったが……」

蒲原「けど、和了っちゃたわけかー。しかも親の役満を天江に直撃とは。さすがは佳織だー!」

モモ「さすがは先輩っすねっ! ちなみに、他には天江対策で何か言ってあるんですか……?」

かじゅ「そうだな……あとは、どうしようもないくらい手が悪いときでも、七対子なら最速で七回ツモれば和了れると吹き込んでおいたくらいだが……」

蒲原「確かに。国士は十四回ツモらなくちゃいけないからなー」ワハハ

――――――

東三局一本場親かおりん

深堀(あれ……? 鳴けるぞ……手が進む)

久(さっきの役満直撃で天江衣の力が弱まった……? そんな可愛らしい性格だとは思えないけど……でも、今なら和了れる!)

かおりん()タンッ

深堀「ろ、ロンです! 断ヤオ赤二、3900の一本場は4200!」

久(風越……鶴賀の下家は鳴きやすそうで羨ましいわ)

久:89300 衣:69100 ド:92500 か:149100

東四局親深堀

天江()ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

深堀(ぐ……手……手が進まない……)タンッ

久(うーん……天江衣……一回休んでさっきよりもさらに元気になった感じね。役満直撃も火に油だったかしら)タンッ

久(このまま黙っていれば天江は海底コースには乗らない。ただ、乗らないなら乗らないで、天江自ら強引に鳴いて自分に海底をもってくる……。
 けど、現実として、どう見ても初心者の鶴賀が、マグレだかなんだかわからないけどあの天江衣を叩き落としたのは事実。
 ここでこっちが引く理由はないわ……どうせ天江に海底を持っていかれるくらいなら……ここはちょっと無理してみましょうか!)

久手牌(二二四四[五]五六七七八九九西・ドラ九)

 ここで、深堀が打、三萬

久「チー!」タンッ

久手牌(二四[五]五六七七八九九/二三四・ドラ九)

 これを見た衣、打、七萬

久「ポンっ!」

久手牌(二四[五]五六八九九/七七七/二三四・ドラ九)

久(これで萬子の清一が見えてきた……さて、私はここで何を切る……?)

 そして、久、打、赤五萬

衣(その手で五萬……しかも赤? 清澄、何を考えている……?)

かおりん「そ、それポンです!」タンッ

衣(鶴賀……!? く、わかっているのか、その鳴きでは役無しのはず……反射的に赤ドラに飛びついたのか……?
 まさか清澄はそれを狙って……!?)

深堀()タンッ

久(ツモ……はいはい最後の七萬。待ってました――さて、ここで二萬を切れば三面張の清一。高めで倍満……となれば、当然切るのはここよねっ!)タンッ

久手牌(二四五六八九九/七七七/二三四・ツモ七・ドラ九)

 ここから、久、打、九萬。

衣(なっ……! 九萬切り? 清澄、倍満ほどになっただろう手をわざわざ安くして……なんのつもりだ……?)

かおりん「それもポンですっ!」

衣(この――初心者……!? また安易にドラを鳴いて……それじゃ役無しだというのがわからないのか!!)

 その次巡、久の手に八萬が入る。

久手牌(二四五六七八九/七七七/二三四・ツモ八・ドラ九)

久(おっと、ここで八萬……? その意味はなんなのかしらね……。よし……決めた。これでどう!)

 久、打九萬。三萬カンチャン待ちテンパイ。

衣(清澄……!! くっ……なんてこと……)ツモッ

衣手牌(一二三三六ⅤⅥⅥⅦⅧ④[⑤]⑥・ツモ六)

衣(清澄の……まさかここまで狙っていたのか? これでは三萬が切れない……!
 本来ならばさっさと捨てるはずだったものを……二度もツモ順を飛ばされたことで結果的に当たり牌を掴まされるなんて……! 悔しいが……ここはツモ切りか……)タンッ

久(ん、天江が睨んできてる? なんかよくわからないけど、うまくいったみたいね!)

 次巡、久の切った四索を衣がチー。ツモ巡がズレる。

 このまま行けば海底牌をツモるのは天江衣。

 二人の和了り牌はともに残り一枚の三萬!

久(こんなふざけたことして和了れなかったら……あとで和に何を言われるかわからないわね……!)

 そして――海底の一歩手前、久、自らのラスヅモに手を伸ばす。

 盲牌、久、微笑。

 ツモ牌が宙に舞い上がる!

 久、それを右手で掴み――そのまま卓上に叩き付け、手牌を倒す。

久「ツモ! 清一、2000・4000!!」

久(いける……! やり方次第では私もあなたに勝てる……まだまだ戦えるわ、天江衣!)

衣(清澄……!!)

久:97300 衣:67100 ド:88500 か:147100

南一局親久

久(ってまたまた……これは火に油どころの騒ぎじゃないわよ……イーシャンテンどころかリャンシャンテンにも持っていけないなんて。……風越、これは鳴ける?)タンッ

深堀(それじゃない……! しかし、清澄の……天江を抑えてくれるのは嬉しいが……できればもっと穏便にやってほしかったような……)

 痛いほどにピリピリと冷えた空気。静かに進行していく場。一つの鳴きすら許さない衣の支配。

 そしてやってくる――魔の十七巡目。

衣「リーチ……」スチャ

かおりん(またこんなところでリーチ……天江衣さん……まるで初心者みたい!!)タンッ

深堀(今回は鶴賀も鳴けるものを出してくれない……く、清澄!)タンッ

久(残念……もうこれしかないわ、風越)タンッ

深堀(ぐ……ダメだ……!)

 衣、海底に手を伸ばし、月を掬う!

衣「リーチ一発ツモ、ダブ南ドラドラ海底撈月……裏三! 6000・12000!!」

久(ひゃあ……さっきの満貫で持ち直した分を一瞬でパーにされたわ。天江衣……本当に楽しませてくれるじゃない! 燃えるわっ!!)

深堀(天江……役満直撃からもう復帰した……ああ……逃げ出したい)

久:85300 衣:91100 ド:82500 か:141100

南二局親衣

 この局も配牌から衣の支配のすさまじさが伺える。

久(何よこれ……九種九牌ならぬ八種八牌かしら……これじゃ流せもしない。私も国士とか狙っちゃおうかな)タンッ

深堀(なんか……天江衣の力……どんどん強くなってないか……? ぐう……こんなの……私には荷が重いですよ……)タンッ

 十五巡目、衣、鶴賀の打牌をポン。

 これで衣は海底コース!

久(ここで連荘を許したら、たぶん今度こそ殺される……! 風越っ!)タンッ

深堀(清澄……ダメだ……。こんな……二人がかりでも止まらないなんて……!)

 十七巡目、衣、打西。

かおりん「あっ……! それポ――なんでもないですっ!!」

深堀(鶴賀!!? 役無しでもいいから鳴けるなら鳴いてっ!!)

久(今……鳴けたの……? 天江の支配下にあるこの状況で……?)

衣(鶴賀……? 妙だ。さっきは役無しでも鳴きを入れていたのに……いや、あれはドラだったからか……?)

 衣、この時点ではまだ気付かない。

 鶴賀・妹尾が自風でもドラでもない西をこの終局間際まで二枚抱えていたことの意味……。

 そしてテンパイを崩さないためとは言え、自ら海底がズレるような打牌をしてしまったという……その計算の食い違いに……。

 衣の西切り。直後の、妹尾のツモ。

かおりん「あ……ツモですっ!」パラパラパラパラ

深堀(え………………?)

久(は………………?)

衣(鶴賀……そんな……!!?)

 晒された妹尾の手牌。

かおりん「ツモ、七対子。役牌……はつかないんですよね。ドラはないので800・1600です!」

深堀(鶴賀……そんな……実戦では初めて見る……!)

久(確かに七対子ツモは800・1600。けど、鶴賀……あなたのそれは桁が違うわよ……)

衣(こんなの……こんなのは――衣の知っている麻雀ではないっ!!)

かおりん「えっ……どうしました?」

 妹尾の手牌。確かに対子が七つ揃った、紛れもない七対子!

 ただし……その全てが字牌であるとき、対子は煌く巨星となる!!

 大七星――字一色七対子!!!

 800・1600改め、8000・16000!!

 鶴賀・妹尾、二度目の役満ッ!!

久:77300 衣:75100 ド:74500 か:173100

 しかし、二度の役満を目の前にしても、その程度で戦意を喪失するような天江衣ではなかった。

 全国区の魔物。

 去年のインターハイの最多獲得点数記録保持者。

 牌に愛された子――天照大神の一人――龍門渕の天江衣!

 その後の南三局、南四局をきっちりと海底ハネ満ツモで締めくくり、その底知れぬ強さを見せ付け、中堅戦前半戦終了!!!

中堅戦前半終了
一位:かおりん+32900(164100)
二位:衣+18300(99100)
三位:久-21500(71300)
四位:深堀-29700(65500)

――――――対局終了後・対局室

久(ふう……なんだか心臓に悪い半荘だったわね。
 けど……全国大会で三校を同時にトバすなんて離れ業をやらかす天江衣と対戦して、半荘一回の失点が二万点と少しなら安いものなのかしら……。
 にしてもあの鶴賀の子がなぁ……いや……彼女にはむしろ感謝すべきなのかもしれないけれど……完っ全に予測不能なのよね……困ったわ。
 でも……私もこのままでは終われない。……後半は足掻いてみせる!)

深堀(さすがの天江衣……鶴賀と清澄がいなければどんなことになっていたか。残るは後半戦のみ……いや……しかし……この面子を相手に私は本当に耐え切れるのか……?)

衣(鶴賀の……こんな相手は初めてだ。まるっきりの素人……初心者、か。そう言えば衣は初心者と麻雀を打ったのはこれが初めて。
 理解不能な手作り……捨て牌が不規則で計算が狂う……鳴きも無茶苦茶……。しかもなぜかテンパイ気配や手の高さが読めない……。
 まさか……本人がテンパイや点数の高さを自覚していないから……?
 原因はわからないが……とにかく……本当にこんな相手は初めてだ……。
 衣がいつものようにやっても勝てない相手……か……)

かおりん(嘘……私、かかか、勝っちゃいました……!? あの天江衣さんに!?)

 ここが決勝戦の折り返し!!

 中堅戦後半へ――続く!!

>>2です。

申し訳ありません。ご飯を食べてくるので、三時半くらいまで止まります。

もしよろしければ保守お願いします。

今夜のあちが放送までには終わらせたいと思っています。

本当にすいません(汗)

たしかに>>1は何だったんだ?IDも違うし

>>2です。

保守ありがとうございました!
支援もありがとうございます!
読んでくれてありがとうございます!

>>153さん

>>1さんはスレ立て代行さんです。自分ではスレ立てができなかったので(汗)

では、中堅戦後半いきます。

中堅戦後半――開始!!

久:71300 衣:99100 ド:65500 か:164100

東:深堀 南:衣 西:久 北:かおりん

東一局親深堀

 俄然力を増してくる天江衣。夜が近いからだろうか――。

久(このままじゃ……またずるずると海底コースね)タンッ

深堀(天江の海底……親っかぶりは勘弁したいが……)タンッ

 そして、一つの鳴きも入らないまま、十六巡目。

衣(いつも通りだ……力は充足している。それが証拠にあと二巡で衣が海底……既に手は出来上がっている。ハネ満は確実の好手……)タンッ

 衣、打、ドラの九索。

かおりん「ポンですっ!」タンッ

衣(しまっ……また鶴賀がドラを……!! いつの間に九索を抱え込んでいた……?
 いや、それよりも……! その鳴きではまた役無し……それどころかテンパイにもならないはず!!
 衣を海底からズラすため……?
 いや、鶴賀はそんなことをしない……そもそもどう鳴けば誰が海底になるのかすら理解していない初心者なのでは……!!)

深堀(有難い、鶴賀!)タンッ

衣(くっ……どうしたら……どうしたらいい……!?)タンッ

久(鶴賀の……天江を海底からズラしたのはいいけど……さっきの役満のこともある。まさか清老頭ってことは……いや、さすがにないか……?)タンッ

かおりん(ツモ……九索……。あ、これでテンパイできました!)タンッ

深堀(鶴賀の……ドラ三が見えているのは恐いが……しかし、このままなら天江に海底はいかない! 私の親はノーテンで流れてもいい……とにかく天江には和了らせない!)タンッ

衣(……こんな……バカな……衣が海底を和了れないなんて……!!?)タンッ

久(本来は天江に行くはずだった海底……それを鶴賀がツモる。下手すれば河底がありそうで恐いけれど……さて、どうなるか……!!)タンッ

 妹尾、海底牌を手にする。しっかりと手牌を確認して、それを倒す。

かおりん「ツモです。海底ドラ四。2000・4000」

久(えぇ……! 天江を回避してもこれなわけ!? ただ……考えてみるとちょっと面白い現象かもしれないわね。今度咲と同卓したときは私も嶺上狙ってみようかしら)

深堀(……もう勘弁してくれ……)

衣(こ……衣の海底が盗られた――!?)

 鶴賀の初心者・妹尾――後半戦でも止まらず!!

久:69300 衣:97100 ド:61500 か:172100

東二局親衣

 衣の支配の中で、その掌中に収まらない打牌を無作為に無意識に行う妹尾は、衣の天敵かもしれなかった。

深堀「チー!」タンッ

 深堀、妹尾の捨て牌を拾い――テンパイ。

久「ポン」タンッ

 久も妹尾の捨て牌によって手が進む――テンパイ。

衣「(鶴賀……! どうしてそこでそんな牌を切れる! 一体どんな打ち方をしていればそんなことが……!!)ポンッ――!」タンッ

 衣、久から強引に鳴いて、自分を海底コースに乗せる。

久(しまった……また天江が海底……! けど、今度はテンパイしている……待ちは悪いけれど……むしろ悪いからこそ……和了ってみせる!)タンッ

かおりん()タンッ

深堀(清澄もテンパイしているのか……なら、天江の親を流すためにもここは清澄に振り込み……?
 いや、でも、うちは今最下位で清澄も三位だ。うちと清澄で点のやり取りをして場を進めたのでは、それはそれで天江や鶴賀の思う壷……)タンッ

衣(烏合の衆がちょろちょろと……蹴散らすっ!)タンッ

 テンパイしたものの、衣の支配の中で久と深堀は身動きが取れないまま、間もなく海の底を迎える。

 十七巡目。衣、ツモる――山から引いてきたのは、北。

 既に手は出来上がっている。自身の和了り牌でもない北。しかし、ここで衣の手が止まる。

衣(これを切って……次に海底をツモって連荘。清澄と風越はもう虫の息……ここまできてしまっては和了れまい……だが……!)

 衣、対面の妹尾に目をやる。妹尾、衣の視線には気付かず、自分の手牌を見て何かを数えている。

衣(いつもなら……こんなところで迷ったりはしない。北を切って、海底を待って……和了る。そうやってずっと勝ってきた。今まで……それでなんの問題もなかった……。
 だが……この状況はなんだ……!!?)

 衣、河を見る。妹尾の捨て牌――極端にヤオ九牌が少ない。

 衣は自分から見えるヤオ九牌の数を数える。

 一筒が残り二枚……その他は……一枚……どれもこれも最後の一枚が見えない。

 そして衣の持つ北は唯一――衣から四枚見えている牌。

 脳裏に過ぎるのは、前半戦でのあの和了り。

『よくわからないけどとにかくすごいやつです!!』

衣(鶴賀の……感覚を信じるなら、テンパイすらしていないように思える……が、果たしてこの相手を前にして……衣のこの感覚は正しいのだろうか……?
 今までこれを信じて……信じるままに打ってきて……それで負けたことなどない……)

『お前のは麻雀を打ってるんじゃない。打たされてるんだ』

衣(こういうことなのか……?
 感覚の通じない相手……感覚を乱す相手……衣の支配を受け流し、何の前触れも気配もなく役満を和了ってくる相手……そんな相手を前にして……衣は如何にせん!)

 衣、小さく溜息。

衣(いいだろう……感覚を信じるなら――ここは当然の北切り。次巡に海底をツモって連荘。今まではそうやって打ってきて、そうやって勝ってきた……!!)

 衣、北を握る手が震えていることに気付く。

衣(なるほどな……確かに……それでは所詮感覚の傀儡に過ぎなかったというわけか……そうではなく……己の感覚を選択肢の一つとして戦う……。
 そういう麻雀を……衣は……これからはしてもいいのかもしれない……)

 衣、しばし逡巡するも、北切りを決意。

衣(だが……!! 今回はこれを選ぶ。鶴賀の気配は全くの無。そもそも振り込みすらしない! そして海底を和了って衣の勝ちだ!!)

 衣、対面の妹尾を見据える。

 妹尾、ふと気付いたように顔を上げ、衣を見返す。

 衣、運命の北を河に置く。

衣「和了るか、鶴賀の」

かおりん「ご、ごめんなさい……ちょっと、今、確認してるところでして……」

 鶴賀・妹尾、雀頭以外の手牌を一つ一つ区切り、指折り何かを数え上げる。

衣(衣は今までの自分と同じ打ち方を選んだ。でもこれで――この自分が敗衄するようなことがあるのなら……)

かおりん「お待たせしました……! ちゃんと揃ってました……ロンです……えっと」パタパタパタパタ

 場に三枚見えていて、残り一枚しかなかった北。

 それを和了れる役は、ルール上、一つしかない。

かおりん「えっと……とにかくすごいやつです!!」

 鶴賀・妹尾、再びの国士無双。

 子の役満は――32000点……。

久:69300 衣:65100 ド:61500 か:204100

『とにかくすごいやつです!!』

 その、妹尾の初心者丸出しの発言に、衣は意図せず微笑する。

衣「その役の名は国士無双――この世で最も強い者が和了るに相応しい役満だ……鶴賀の初心者、よく覚えておくがいい」

かおりん「は、はい! ありがとうございますっ!」

 鶴賀・妹尾、煌く巨星――太陽のような笑顔。

 その光は――孤独な月を照らし出す。

 その熱は――深く冷たい海底に届く。

 深海のように重苦しく暗かった先程までの場が嘘のように、暖かく、溶けていく。

衣「鶴賀、勝負はまだ終わったわけではない! 最後に勝つのは衣のほうだ!!」

かおりん「わ、私も頑張ります!」

久(あらあら、急に仲良くなったわね。微笑ましいことだわ)

深堀(!!? そうだ……! 確かに天江の言う通り……勝負はまだついてないじゃないか……!!
 私は何を弱気になっていたんだ……! 無名校の鶴賀がここまでの活躍を見せたんだ……守るだけじゃない……ここからは私も勝ちに行く……!!)

 ついに麻雀を打ち始めた魔物・天江衣。

 幸か不幸か――中堅戦後半はまだ続く!

東三局親久

 この局から、衣の支配は一見して薄らいだ。

 六巡目。

久(どういうこと……? けど、張れるのは有難い!)タンッ

かおりん(が、頑張らなきゃ……!)タンッ

深堀(攻めるっ!)タンッ

衣「チー!」タンッ

久(天江……海底狙いでもない鳴き? 今度は何をするつもり……?)タンッ

かおりん(えっと……ここはこっちのほうがよさそうかな……?)タンッ

衣「ロン! 三暗刻東白、8000!」

かおりん「ひゃ、はいい!」

久(早いっ! 巡目が回ると鶴賀の手牌が読みにくくなるから、海底は狙わず速攻に切り替えたってこと!?)

深堀(天江衣……本当になんでもありか!!)

久:69300 衣:73100 ド:61500 か:196100

東四局親かおりん

 八巡目。

久(今回も例の力は感じない……天江、打ち合いをしようってことかしら……? いいわ、受けて立つ!)

深堀(来たっ! テンパイ、これで……やっと……!)――リーチ!」タンッ

天江「ポンッ!」タンッ

久(風越、それに天江も張ったか……私も張ったけど、いくらテンパイできるからってここでこれは出せないわ……)タンッ

かおりん(えっと……えっと……これかな?)タンッ

深・衣「ロンっ!!」

かおりん「ひ……はいぃ!!」

久(ダブロン!? うわっ……さっきのは出さなくて正解だったわね。
 けど、鶴賀の人、わかってはいたけど本当に初心者なのね……でもなんというか……むしろ永遠にそのままのほうが強いのかも、この子の場合)

深堀、8000。天江、7700の和了りにて、東場終了!

久:69300 衣:80800 ド:69500 か:180400

南一局親深堀

深堀(ぐぬぬ……天江……衣……!)

久(本当に……気持ちいいくらいやりたい放題やってくれるわね……! この子は……!!)

 衣、自然に進めば海底が舞い込んでくる南家になった途端、能力発動――イーシャンテン地獄。

 じわじわと進んでいく場。

 十七巡目、衣、ツモ切りリーチ。

 久と深堀は鶴賀の妹尾に淡い期待を抱くが、今回の妹尾は動かず。

 これで最後の希望も絶たれた。

衣「ツモ! リーチ一発ツモ海底裏一……2000・4000!」

久:67300 衣:88800 ド:65500 か:178400

南二局親衣

久(テンパイ……天江、今度は海底狙いじゃないみたいね。さて、当然ここはリーチするとして……さっきのツモの意味を考えれば……私はここで切るべきなのは……これよね!)リーチ!」タンッ

衣「ロンッ! 断ヤオドラ一赤一、7700!」

久(なあ!? うわっ、その捨て牌でそこを単騎待ち!? 完璧に私の打ち筋を読んだってことじゃない……!!)

久:59600 衣:96500 ド:65500 か:178400

南二局一本場親衣

衣「ロン、南ドラ三。12000は12300!」

かおりん「はいぃぃ!」

久:59600 衣:108800 ド:65500 か:166100

南二局二本場親衣

衣「ツモッ! 断ヤオ海底撈月赤一。2000は2200オール」

かおりん(あわわわわ……!?)

深堀(この……!! 化け物め……!!!)

久(これで六連続和了……! 出和了りしたり海底したり……止まる気配がないわね!!)

久:57400 衣:115400 ド:63300 か:163900

南二局三本場親衣

 十巡目。

久(テンパイ……。さっきは天江に完全に読まれていた……今更だけど、天江は海底牌だけじゃなく相手の手牌や手の高さまで見切っているわけ……?
 単純に打ち合いならなんとかなると思ったけれど……そうでもなかったみたいね。場そのものを支配する力……ってとこかしら。
 まあ、それならそれで……高度な支配だからこそ――鶴賀がそうだったように――抜け道はあるはず!)

久「リーチ」タンッ

衣(む、清澄……さすがに同じ手は食わないか……!)

かおりん(リーチ……! わわわ……ここ……?)タンッ

久「ロン。リーチ一発タンピン一盃口赤一……裏はなし。12000の三本場は、12900!」

久(しまったなあ……ちょっと気付くのが遅かったかしら。前半が始まったときからそうだったけれど……この場を制する鍵になるのは天江ではなかったんだわ。
 鶴賀の初心者……この子をどう扱うかが……この場の突破口になる!)

深堀(清澄の和了り……そうか! 鶴賀を狙うことで結果的に天江を抑える……!! 無理に天江に挑む必要はないのか……!!
 この場を切り抜けようと思うなら……そっちのほうが現実的!)

久:70300 衣:115400 ド:63300 か:151000

南三局親久

久(さあ、この親で稼ぐわよっ!!)タンッ

かおりん(み、みなさん強いです……! さっきから何もさせてもらえません!!)タンッ

久「ポンッ!」タンッ

久(考えろ……私! より早く、より高く和了るにはどうすればいいか!)

かおりん(えっと……えっと……)タンッ

深堀(まだできることはある……!)タンッ

久「ポン!」タンッ

久(さあ……来いっ!)

かおりん(うーん……ここ、ですかね……?)タンッ

久「ロン。發混一ドラ一、11600!」

かおりん(わわわっ……! なんか大変なことになっている気がしますっ!)

久(さて……これで私も十分あなたに手が届く。そう簡単には勝たせてあげないわよ、天江衣っ!!)

衣(清澄の……衣の力を理解していながらいささかも絶望の色が見られない……面白い!)

久:81900 衣:115400 ド:63300 か:139400

南三局一本場親久

衣(己が無力さを思い知るがいい!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

深堀(ぐぐ……! ここに来てまたか……!)

久(勝つためには容赦ないわね……それでこそ天江衣……倒し甲斐があるわ!)

 十一巡目。

深堀(天江の鳴きが入って……このまま黙っていたらまた天江に海底を持っていかれる。それは……絶対に避ける!)

かおりん(んー。今更ですが……なんだか今日はたまに寒気がするときがありますね。ま、気のせいですよねっ!)タンッ

深堀(鶴賀の……これなら鳴ける……! しかし、これを鳴くとかえって手が悪くなってしまう……。
 この巡目……天江が海底を和了るつもりなら、ここでズラしたところでまた天江が強引に鳴いてくることは十分にありうるが……。
 しかし、どの道ここで鳴かなければ結果は見えている……ならば……!)

深堀「チー!」タンッ

衣(風越……清澄の真似事のようなことを。しかし、そんな安手、和了られたところで仔細なし!)タンッ

久(風越……やっぱり鶴賀の下家はやりやすそうね。ただ……今回は天江の上家で海底の親っかぶりがあるから、それを考えるとプラマイゼロかな)タンッ

かおりん「そ、それカンですっ!」チャ

衣(鶴賀……!? 無闇にカンをするなど初心者のやること……!!)

かおりん(うう……できるからついカンしてみたけど……全然手が進みませんでした……)タンッ

深堀「か……それ、カン!!」

衣(なっ、風越――そのカンは……!)

深堀(これは……鶴賀の捨て牌がカンドラで……今のカンで私のところにカンドラが四枚……!
 食いタン赤一2000点の手が一気にハネ満まで跳ね上がった! しかも……嶺上牌で手が進んで――テンパイ!)タンッ

衣(くっ……風越の……掴まされたか……!)タンッ

久(天江がオリた……? よし、それならもう海底はない!)タンッ

かおりん(あっ! やった! これでイーシャンテンですっ!!)タンッ

深堀「そ、それロンです! 断ヤオ赤一ドラ四、12000の一本場は12300!!」

かおりん(ひゃわわわわわ……!!?)

久:81900 衣:115400 ド:75600 か:127100

南四局親かおりん

 中堅戦、オーラス。

 初心者ながらも、加治木の教えた天江対策をしっかりと実行し、その期待以上の活躍を見せた、鶴賀・妹尾佳織。

 時に悪待ちを駆使し、魔物・天江衣を相手に最初から最後まで臆することなく策を巡らし奮闘した、清澄部長・竹井久。

 飛ばされなければ御の字――その方針に従い、結果としてここまで一度も天江から直撃を喰らうことなく凌ぎ切った、風越・深堀純代。

 しかし、この中堅戦、最後を飾ったのはやはりこの人……。

 龍門渕――魔物・天江衣!!

衣「ツモ……対々三暗刻赤一……海底撈月……! 3000・6000!!」

 牌に愛された子――天江衣、この日八度目の海底撈月を鮮やかに和了り、中堅戦に幕を下ろす!!

久(あぁあ……終わってみれば天江衣の一人勝ち。これが全国区の魔物かぁ。本気でこんなにやり込められたのは初めてかも……。
 でも、楽しかった……! 私ももっと頑張らなくちゃね!)

深堀(耐え切った……! 池田さん……キャプテン……あとはお願いします!!)

衣(勝った……。そうか……麻雀で勝つというのはこんなに嬉しいものだったのか。そして……負けるのはこれの逆……。
 今まで……衣は随分とひどいことをしてきたのだろうな……)

かおりん(ひゃああああ……後半はすっごい負けちゃいました……!
 これが全国レベルの麻雀ですか。加治木先輩の助言がなかったら今頃どうなっていたかわかりませんでしたね……。
 けど、戦えてよかったです……! あっ、そうだ!)

かおりん「あ、あの、天江さん!」

衣「鶴賀の……。どうした?」

かおりん「あ、あのっ! 私みたいな初心者でよかったら、また一緒に麻雀を打ってくれませんか? 私もあなたみたいに強くなりたいんです!」

衣「!! お前は……衣とまた麻雀を打ってくれるというのか……?」

かおりん「はいっ!! もちろんです。こんな私でよかったら!!」

衣「鶴賀……!」パアアアア

久「あ、そのときは私も混ぜてよねー。あなたたちみたいな楽しい打ち手はなかなかいないもの」

衣「ぬ、清澄!」

深堀「じゃあその……面子が足りなかったら呼んでください」

衣「風越の!」

久・深・かおりん「あと、次は私が勝つから(勝ちますから)!!」

衣「は、はは……あはははははっ! 烏滸言をっ!! 有象無象の下等生物どもが調子に乗って……!!!
 構わん、いくらでも勝ちに来るがいい――全員まとめてトバしてやるっ!!!」

 中堅戦。天江衣の活躍で前回優勝校・龍門渕が暫定トップ!!! 鶴賀が僅差でそれに続き、名門風越と清澄が二校を追う展開となった!!

中堅戦後半終了!!
一位:天江衣+28300(127400)
二位:竹井久+7600(78900)
三位:深堀+7100(72600)
四位:妹尾-43000(121100)

実況『中堅戦が終わったところでトップは龍門渕高校。僅差で鶴賀学園が追い駆けます。
 このまま二校のどちらかが飛び出すのか、それとも清澄と風越の逆転はあるのか。勝負の明暗を分ける副将戦、間もなく開始です!』

池田「(天江衣に借りは返せず、か。
 けど……それとこれとは今は関係ない。あたしは風越の副将としてここにいる……みんなが今までやられた分をまとめて取り返す!
 そして……うちの逆転優勝だしっ!!)よろしく」

ともき「(風越のスコアラー池田華菜……去年は衣に完封されていたけれど、その実力は間違いなく県内トップクラス。
 それに原村和……去年のインターミドルチャンピオン。透華の話ではあのネット最強の『のどっち』の正体でもあるとか……こちらも強敵と見たほうがいい。
 それから鶴賀の……データはあまりないけれど、これまでの面子を考えるとこの人も一癖あるかもしれない……)……よろしく……」

睦月「(みんなが頑張ってプラスにしてくれた点棒……大切にしなきゃ……絶対に守ってみせる……!)よろしくお願いします!」

和「(相手が誰であろうと……関係ありません)よろしくお願いします……」

 そうして、対局室の扉が閉じようとしていた、そのとき。

咲「原村さん……!!」バンッ

和(えっ!? み、宮永さん……! まだ眠っていたはずでは……!?)

咲「頑張って!!」

係員「こら、キミ。もう対局が始まるから……」

咲「あ、す、すいませんっ!」ダダダダダダ

和(み、宮永さんが見てる……///////!! か、勝ちますっ!!)

 宮永咲――フラグ立直!!

 副将戦前半……開始ッ!!

副将戦前半
東:津山睦月(鶴賀) 南:池田華菜(風越)
西:原村和withエトペン(清澄) 北:沢村智紀(龍門渕)

東一局親睦月

 副将戦前半、まずは鶴賀・睦月から先制のリーチが入る。

 三巡後。

睦月「ツモです。リーチツモドラ一……。2000オール」

睦月(……精一杯……私なりにできることを……)

池:70600 と:125400 和:76900 む:127100

東一局一本場親睦月

 五巡目、和、特急券を獲得。

和「ポン」タンッ

ともき(『のどっち』が動き始めたか……?)タンッ

睦月(う、さすがにもう張ってるなんてことは……)タンッ

和「ロン。中ドラ一赤一、3900の一本場は、4200です」

睦月「はい……」

池:70600 と:125400 和:81100 む:122900

東二局親池田

 十一巡目。

ともき「ツモ……チャンタドラ二ツモ……2000・4000」

池:66600 と:133400 和:79100 む:120900

東三局親和

 十巡目。

和「リーチ」スチャ

ともき(むむ……これは……)タンッ

睦月(現物、現物……っと)タンッ

池田()タンッ

和「ツモ。リーチ一発ツモ平和……裏はなし。2600オールです」

池:64000 と:130800 和:86900 む:118300

東三局一本場親和

 七巡目。

和「リーチ」スチャ

 八巡目。

ともき「リーチ」スチャ

睦月(現物がないときは……生牌じゃない字牌から……!)タンッ

池田()タンッ

和(…………)タンッ

ともき(…………)タンッ

睦月(……字牌がなくなったら……次は……)タンッ

 九巡後。

ともき・和「テンパイ」

睦月・池田「ノーテン」

 流局。

池:62500 と:131300 和:87400 む:116800

 対局を観戦していた誰もが思う。

 静か過ぎる……。

 天江衣・妹尾佳織の印象的な活躍があった大荒れの中堅戦。

 その余韻がまだ残る中で始まった副将戦は、しかし、非常に淡々と穏やかに進行していた。

 しかし、それは嵐の前の静けさ。

 嵐を巻き起こすのは無論この人――。

 去年の苦い経験を糧に……、

 一年間の厳しい鍛錬を積み……、

 汚名返上!

 名誉挽回!!

 絶対の雪辱を誓う彼女が!!

 副将戦ここまで唯一沈黙を保っていた彼女が!!

 そろそろ…………混ざるッ!!!!

 名門風越のスコアラーにして押しも押されぬNo.2。 

 池田華菜――満を持して始動ッ!!

東三局二本場親和

池田(どいつもこいつも……大人しいな。特に清澄のインターミドル……全然大した力を感じない。
 元々力が外に出るタイプじゃないのかもしれないけど……それを抜きにしても……さっきからの気の抜けたような闘牌……まるで身が入ってないみたいだ。
 これくらいの打ち手なら準決勝の相手のほうが強いくらいだったし)タンッ

池田(全中王者と言っても所詮中学レベルってことなのか? ま、決して弱いやつじゃないんだろうけど。
 でも、こっちは去年の決勝から……ずっとあの天江衣を想定して……夢にまで出てくる天江の幻影と……戦って戦って……一年間……この日のために鍛えてきたんだ……!
 正直……今のあたしにお前の相手なんて役は不足もいいところだし……!!)タンッ

池田(例えば……もしかして今お前は本調子じゃないのかもしれないけど……あたしは気が短いほうなんだ。
 相手に合わせて力を出し惜しみするような失礼な真似はしないし……! 最初から最後まで……全力で叩き潰すっ!!)タンッ

池田(インターミドル……お前がどれだけ強いのかはまだ正確にはわからない……! けど……どんなにお前が強くたって……華菜ちゃんはもっと強いし……!!
 見せてやる……高校の麻雀――名門風越の麻雀を……!)タンッ

 そして、六巡目。

和「リーチ」スチャ

池田「そいつは通らないし……ロン!」パラパラパラパラ

 池田、手牌を倒す。それは本日三度目の――。

池田「国士無双……32000の二本場は、32600」

 池田、和を睨むように見る。

 和、しかし、眉一つ動かさない。

和「はい」カチャ

池田(って動揺なし!!? うわっ、なにこいつ超可愛くないしっ!! この……見てろよインターミドル……!! 南場に行く前にお前をトバして終わらせてやるしっ!!!)

池:97100 と:131300 和:54800 む:116800

東四局親ともき

 七巡目。

池田「リーチだしっ!」スチャ

和()タンッ

ともき(……風越の池田……面倒な相手……)タンッ

睦月(現物がないときは……)タンッ

池田「それ、ロンだし! リーチ一発ドラ三……裏一、12000!」

睦月(うっ……!?)

池田(鶴賀、現物がないなら字牌から切ってくるんだろ? 見え見えだし。さて……これで鶴賀は撃ち落した……! 残るは……龍門渕、お前だけだしっ!!)

ともき(むむむ……)

池:109100 と:131300 和:54800 む:104800

南一局親睦月

 七巡目。

ともき「(……風越……突き放す……)リーチ……」スチャ

睦月(こ、今度は現物がある……!!)タンッ

池田(と……ツモった。ツモのみ1100……)

 池田、対面のともきを一瞥。そして、小さく首を振る。

池田(ダメだ……これを和了って流すだけじゃ……龍門渕は倒せない……まだ……まだだ!)タンッ

 次巡。

池田(フリテンだけど……一盃口がついて2000……違う……もっと……!)タンッ

 次々巡。

池田(ドラツモ……4000……違う……もっともっとだ……!!)タンッ

 次々々巡。

池田(フリテン解消……! リーチをすれば……高めでハネ満……!!)

 池田、再び卓を囲む面子を一瞥。

池田(見たところ清澄はオリ……鶴賀もオリか。まったく……どいつもこいつもわかってないな……!
 そんな麻雀で勝てるほど……去年の優勝校・龍門渕は甘くないんだよ。そう……! うちが確実に勝つためには……まだ……これじゃ全然足りないしっ……!!!)タンッ

 その次巡、池田、一索ツモ。そこから雀頭の三筒を落とし、さらにその次巡――!!

池田「リーチせずにはいられないな」ピッ

ともき(ここで追っかけ……どういうつもり……風越……?)

和()タンッ

ともき(く、ツモれず……)タンッ

睦月(一発には絶対に振り込まない……!)タンッ

池田(龍門渕……リーチをすればあたしが大人しく引き下がるとでも思ったか……? 二万点以上もリードがあればうちから逃げ切れると思ったか……?
 もしそうだとしたら華菜ちゃん笑っちゃうな……! 去年……!! あの敗北!! あのときからあたしが!! どんな気持ちでこの日が来るのを待っていたか……!!
 わからないとは言わせないっ!!!!)ツモッ

池田「ツモッ!! リーチ一発ツモ平和……純全三色一盃口……ドラ一――裏二……!! 数え役満――8000・16000!!」

ともき(ま……た……?)

和()

睦月(そ……そんな!?)

池田(これで逆転トップだし……!! 見たか龍門渕……! 今年こそ!! 今年こそ勝つのはうち……風越女子だっ!!)

池:142100 と:122300 和:46800 む:88800

南二局親池田

 十三巡目。

池田(おいおい……せっかく清澄をトバして終わらせようと思ってたのに……よりにもよって今くんなよ)

 池田、ツモ牌を見て、溜息。

 少し迷った後、手牌を倒す。

池田「四暗刻単騎ツモ……16000オール」

ともき(ま……そんな……風越……)

睦月(……ば……化け物……!!)

池田(これで八万点差……けど……まだダメだし。当たり前だけど勝負は終わるまでわからない……! この親で稼げるだけ稼いでやるしっ!!)

池:190100 と:106300 和:30800 む:72800

 風越・池田、怒涛の四連続和了! 内三回が役満……!! 副将戦開始時72600点から117500点もの荒稼ぎで190100点の断トツ!!

 誰もが更なる池田の独走と、名門風越の復活を思い描いた――その刹那。

和(………………あれ?)カチャ

 このとき!

 ここにきて!

 やっと! ついに!! とうとう!!!

 彼女の頬が赤く染まる――ッ!!!

和(………………なんだかものすごく点棒が減っている気がします……!!)

 池田の連続和了に……眠れる天使――  完  全  覚  醒  !!!!

和(宮永さんに格好悪い姿は見せられません……すぐに取り返します!!)

『おはよう、のどっち!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』

南二局一本場親池田

 六巡目。

ともき「(風越……調子に乗っている……させない……)……リーチ」スチャ

睦月(くっ……どうしてそんなにすぐテンパイを……)タンッ

池田「(ふん、安牌ないけど、鳴いて回して和了ってやるし!!)チー」タンッ

和()ヒュッ

ともき(ツモならず……)タンッ

睦月(当たらないで……)タンッ

池田(押せ押せだしっ!)タンッ

和()ヒュッ

 九巡目。

和()ヒュッ

 十巡目。

和()ヒュッ

 十一巡目。

和()ヒュッ

 十二巡目。

和()ヒュッ

――――――

と・池「テンパイ」

睦・和「ノーテン」

 目覚めた天使の第一戦!

 それは見惚れるほどにパーフェクトな――オリッ!!

池:191600 と:106800 和:29300 む:71300 供託:1000

南二局二本場親池田

池田「リーチだしっ!!」スチャ

ともき「……リーチ」スチャ

睦月(二人同時……! 困った……仕方ない……これは対子だったけど……)タンッ

和「ポン」ヒュッ

 發――特急券ッ!!

ともき(む……一発消された)タンッ

睦月(清澄に鳴かれた發……とりあえず、これは安牌!)タンッ

池田(ツモ…………れずだしっ!!)タンッ

和「ロン」パタッ

池田(!? 清澄……!!?)

和「發中混一ドラ一赤一。12000の二本場は12600です」

池田(おまっ……ええ!? なんでそんなに顔を赤くしてるんだし……!? 大丈夫かよ!? 病院行けよっ!!)

池:178000 と:105800 和:44900 む:71300

南三局親和

 五巡目、和、肩慣らしのようにツモ、2100。

和「ツモ。平和ツモ、700オール」

池:177300 と:105100 和:47000 む:70600

南三局一本場親和

 八巡目、和、ヤミテン、7700。

和「ロン。南ドラ二、7700は8000」

ともき(……清澄……さっきまでとは別人……これは要注意……)

池:177300 と:97100 和:55000 む:70600

南三局二本場親和

 九巡目。

池田(清澄の……急に和了り出した。とうとう本領発揮ってわけか。なるほど……インターミドルの肩書きは伊達じゃなかったみたいだし。
 っていうかこれだけ打てるのになんで最初からそうしなかったしっ!)タンッ

和「ロン。三色赤二、11600は12200」

池田(にゃっ!? それ前巡鶴賀が出してたしっ!! 直撃狙いって……にゃあああホント可愛くないし!!)

池:165100 と:97100 和:67200 む:70600

南三局三本場親和

ともき「ノーテン」

睦月「テンパイ」

池田「ノーテンだし」

和「テンパイ」

 流局。

池:163600 と:95600 和:68700 む:72100

南三局四本場親和

池田(ほい来た断ヤオドラ四赤三! ほぼ全てのドラは華菜ちゃんに集まるんだしっ!!)

池田「リーチだし!」タンッ

和「ロン。白のみ、2000は3200」

池田(にゃあああああああ!!?)

睦月(……清澄の連荘……このままじゃうちが……最下位……転落……!)

池:160400 と:95600 和:71900 む:72100

南三局五本場親和

 五巡目。

和「リーチ」ヒュッ

ともき(……清澄が立て直してきた……早い……手が追いつかない……)タンッ

睦月「(……や……安手でもいいから上がらなきゃ……)そ、それポン」タンッ

池田(ツモ……よし、張った張った……! タンピン三色ドラドラ……どう和了ってもハネ満!
 さて、インターミドル。たぶん序盤で手替わりを待ってたんだろうけど、さっきからヤミテンで人を狙い撃ちにしてくれちゃって……今度は逆にこっちから狙い撃ってやるし。
 華菜ちゃんをコケにしたことを後悔させてやるっ!!)

 池田、平和に受けるための浮き牌を手に掴み、それを河へ。

 しかし、打牌する直前、脳内に電撃のように駆け抜けた叱咤。

『池田ァァ! おまえが倍満振り込んで風越の伝統に泥ォ塗ったの忘れたのかよ!』

 瞬間、池田の頭が、真っ白になる。

 気付けば、牌を握る手が震え、視界が滲んでいた。

 涙を拭って、池田、深呼吸。

池田(……いや……この状況でこれが清澄の当たり牌かどうかなんて……キャプテンでもないのにわかるわけがないけどさ……)

 池田、掴んだ牌を手に戻し、点棒を確認。

池田(160400点……これは……あたしの点棒じゃない。
 みはるんが最善を尽くして、文堂が自分の殻を破って、深堀さんがあの天江衣から必死に守り切った……あたしたちのみんなの……大切な点棒……)

池田(あたしは何をやっているんだ……?
 役満を和了ったくらいで……二位と六万点以上差があるからって……明らかに高めの親リー相手にたかだか子のハネ満で直撃狙い……?
 はは……バカげてる。そうじゃないだろ池田華菜……! あたしはこの一年間何をしてきた? 思い出せ……! みんなと共に高め合って……あたしが何を得てきたのかを……!)

 そして、池田、今一度河を見回す。

 それから放たれた一打は、平和を崩す形での、四萬。

 清澄の現物であり、且つ――。

睦月「ろ……ロンですっ! 白、赤一! 2000の五本場は……3500!!」

池田「はいよ……」カチャ

池田(そう言えば……去年のキャプテンがそうだったっけ……バカツキしてた龍門渕を他家を上手く使っての抑え込み……。
 ま、自分から振り込んでおいて上手く使ってるも何もあったもんじゃないけど。
 キャプテン……あたし……あのときのキャプテンと同じ学年なんですよ……? キャプテンはどう思いますか……?
 今のあたしが……去年のキャプテンと戦ったら……どっちが勝つと思いますか……? なんて……そんなの! 決まってる!)

 池田、人知れず微笑む。

池田(絶対絶対キャプテンだしっ!!)

 池田、再度点棒を確認。

 何度数えても、増えもしないし、減りもしない。

 和了れば増え、和了られれば減る――ただそれだけの長細いプラスチック。

 しかし、そこにはきっと何かが宿っている。

 この場についた者にしかわからない――何かが……。

池田(あたしの後にはキャプテンが控えている……! 役満はただのラッキーだった。
 本番はこれから。あたしの仕事は確実にうちのリードのままでこの副将戦を終わらせること。無理して他家をトバそうなんて考えなくていい。
 っていうか……うちの優勝を決めるのは……絶対にキャプテンであってほしいしっ!!)

 池田、大きく息を吸い込んで、場に集中する。

池田(何度でも言ってやる……! 勝つのは……あたしたち風越だっ!!)

池:156900 と:95600 和:70900 む:76600

南四局親ともき

 睦月は身体の震えが止まらなかった。

睦月(寒い……。私はどうしたら……どうしたらいいんだ……いや、それよりも……どうして私は……)タンッ

睦月(風越の池田華菜……半荘一回の間に役満を三回も和了ってみせる選手。
 龍門渕の沢村智紀……前回優勝校の副将を任されるほどの力を持った実力派の選手。
 清澄の原村和……去年のインターミドルチャンピオン……つまり、今年の高一で最も注目されているルーキー……対して、私はどうだ……?)タンッ

睦月(他家がリーチをしてきたら放銃が恐くてベタオリしかできない……。
 ここまでで和了れたのはたったの二回……取った点数は一万点……あとは……いいように点を取られていく一方……反撃もできない……)タンッ

睦月(私だって……頑張ってきたつもりだった。勉強してきたつもりだった……。
 私は加治木先輩や蒲原先輩みたいに強くないし……桃子みたいな不思議な力もない……佳織さんみたいな運もない……だから……私なりにできることはなんでもやった……!
 足手まといにはなりたくなくて私は頑張ってきた……!!
 そう……思っていたのに……!!)タンッ

ともき「リーチ」スチャ

睦月(また龍門渕のリーチ……私の手は……なんだこれ……? サンシャンテン……? ひどい……こんなの……オリるしかないじゃないか……)タンッ

池田(龍門渕……ただでは転ばないか……!)タンッ

和(リーチが来たということはそれがそうで……ブツブツ)ヒュッ

ともき(……一発こず……)タンッ

睦月(安牌……現物……よかった……三枚もある……これなら今回は放銃しなくて済むかな……)タンッ

池田「チーだし」タンッ

睦月(あ……。風越に鳴かせてしまった……これでテンパイか……?)

和(そのチーならあれがそうで……ブツブツ)ヒュッ

ともき(風越が張った……? く、先に和了る……)タンッ

睦月(どうしよう……風越の捨て牌……捨て牌なんて……見たって読めないよっ!!
 現物以外信じられない……スジとか字牌とか……だって、さっきはそれを読まれて私は風越に振り込んだ……。どうすればいい……? 何を切れば……?
 とりあえず……少なくともリーチしている龍門渕にだけは振り込まないように……)タンッ

和「ポン」ヒュッ

ともき(清澄……オリてなかった……むむ)タンッ

睦月(清澄も……!? まさかテンパイ……三人同時に……? っていうか清澄……そんなにすぐ打牌を選べるってどういうことなの……?
 私はこんなに毎回……考えて考えて打って……それでも振り込む。清澄はあんなに早く打って……なのにあんなに勝てる……。ダメだ……格が違う……)タンッ

池田(清澄も張った? どこで待ってる……?
 いや、ここはオリよう……清澄に振り込む可能性が一番高いのはリーチしている龍門渕だし。それで前半が終わってくれるなら悪くない)タンッ

和(次にあれならその次は……ブツブツ)ヒュッ

ともき「ツモ……リーチツモ一盃口……裏一。3900オール」

睦月(3900オール……! はは……龍門渕……! 私の精一杯だった一万点を……たった一回のツモで取れる……!
 これが……!! これがここでは普通なんだ……!!
 これがこの人たちの普通なんだ……ははは……私みたいな弱いやつが……どうしてここにいるんだろう……場違いだったんだ……最初から……)

ともき(……どうにかラス親で原点復帰……まだまだ……)

池:153000 と:107300 和:67000 む:72700

南四局一本場親ともき

睦月(もう……家に帰りたい……帰って眠りたい。麻雀なんて私には向いてないんだ。
 きっと風越みたいに高い手をバンバン和了れて……清澄みたいに計算が速くて……龍門渕みたいに冷静で柔軟な……そういう選ばれた人がやる競技なんだ。
 私みたいな凡人が……こんなところ――県大会の決勝……それも副将戦なんかに……人数合わせでも出るべきじゃなかったんだ……)タンッ

睦月(点棒……ひどいな……桃子と加治木先輩と佳織さんが強豪相手に勝ち取った分を……たった一回の私の半荘でこんな……あっという間に……取られて……!
 どんな顔してみんなに会えるんだよ……! こんなことなら……いっそ誰か飛ばしてくれないかな……)タンッ

ともき「……リーチ」スチャ

睦月(また来た親リー……早過ぎるでしょ……。三人ともそうだけど……本当に同じ確率で手牌が配られているのかな……どうして私だけいつも遅いんだろう……。
 あ……。そうか……。私が弱いから……か……)タンッ

池田(足掻いてくるな……龍門渕。まずは現物から……)タンッ

和(その捨て牌ではあれがああだったからここは……ブツブツ)ヒュッ

ともき(一発……ならず。この面子相手ではツモだけが頼りなのに……)タンッ

睦月(ああ……さっきので現物が尽きた……現物が尽きたら……次は生牌じゃない字牌……。
 あはは……私……考える力もない……。言われたことしかできない……それじゃ……私がここでこうして打っている意味なんてあるの……?
 コンピュータでもよかったんじゃないか……? いや、私よりきっとそっちのほうが勝率はあったかもな……)タンッ

池田(んーこれは無理だし。オリるし)タンッ

和(それのときはそうでそれから……ブツブツ)ヒュッ

ともき(……来い……くっ……)タンッ

睦月(えっと……字牌が尽きたら……スジの一・九だったっけ……)タンッ

池田(よし、オリるだけなら安牌いっぱいあるし!)タンッ

和(ここが入ったときはこうしてと……ブツブツ)ヒュッ

ともき「ツモ。リーピンツモ……裏は乗らず。1300は1400オール」

ともき(さっきから鶴賀も風越も清澄も手堅い……。ヤミで和了れるならそれでもいいんだけれど……点数が伸びないんじゃ風越までは手が届かない……。
 それに……若干だけど、清澄は先制リーチを仕掛けたほうが大人しくなってくれる……勝負手が来るのなんて待っていられない。
 ここは……意地でも連荘する)

睦月(龍門渕……二連続ツモ。いいなぁ……。やっぱり全国レベルにもなると引きが違うのかな……。ああ……連荘できたらきっと気持ちいいんだろうな……)

ともき(次が正念場の……二本場)

池:151600 と:111500 和:65600 む:71300

南四局二本場親ともき

 八巡目。

和「リーチ」ヒュッ

ともき「(清澄が来たか……ここは……しかし、引けない)……リーチ」タンッ

睦月(だああ、もうっ! 久しぶりにテンパイできそうだったのに……! 二人してリーチなんて……!
 ……ああ……いいや……そうか……ここで清澄に振ればこの場が終わる……なら……それもいいか……)タンッ

池田(うおっ、鶴賀も押し……!? これってまさかの華菜ちゃん大ピンチだし!)タンッ

和(この場合だと一発の確率はどれくらいでしょうか……ま、狙いませんけどそんなの……しかしリーチしたあとはあまり考えることがなくて楽ですね)ヒュッ

ともき(一発……こ……ない……)タンッ

睦月(あ……テンパイした……?
 どうしよう……いっか……どうせ振って終わらせるつもりだったんだ……迷うことなんてないや……考えることもない……リーチしちゃえ……)

睦月「……リーチ……」スチャ

池田(三人同時!? うう……これは何を切っても振る気がする……! にゃあ、通れっ!)タンッ

睦月「あ、ロンです……えっと、リーチ一発白……裏三……12000は12600です……」

池田(にゃあー!? 三人同時リーチに対して安牌ゼロ……からの打牌がよりにもよって鶴賀に直撃!? リーチ白のみに一発と裏がついてハネ満とか……!!
 絶対龍門渕のリーチのほうが安かったに違いなかったしっ! にゃーもーこんなの笑うしかないしっ!!)

池田「ハハハ……」

睦月(えっ……?)

ともき(リー棒を持っていかれた……しかし、一時に比べれば風越も大分落ちた……まだ勝てる……)

和(……宮永さん……)

睦月(風越の……今……笑ってなかったか……?)

 睦月、これまで堪えていたものが、半荘終了で気が緩んだところに、一気に溢れてくる。

睦月(風越の……!! そう言えばさっきも清澄の連荘のとき……私の安手に差し込んできた感じだった! じゃあ今の笑いは……そういうことなのか……?
 私みたいな雑魚からならハネ満くらいはいつでも取り返せるって……そんな……そんな……!! じゃあ……清澄も!? 龍門渕も……!?
 対局中に私があんなに悩んでいたのなんて……全部この人たちから見れば……!! ははは……バカみたい……!!
 私なんて何をしたって何を和了ったってどこに振り込んだって……この人たちには関係ないんだ……! どうせ私が……弱い……から……!!)

 睦月、弾けるように席を立って、零れそうになる涙を隠し、真っ赤な顔で叫ぶ。

睦月「も――もう麻雀やめるっ!!!」

 睦月、そのまま駆け出して、対局室から逃げていく。

 残された三人は、突然のことに、ただその後ろ姿を見つめることしかできなかった。

和(最後にハネ満を和了っておいて何を言っているんでしょうか。私だってこんなに恥ずかしいのに……宮永さんが見ている前で……こんな無様な……)ウルルル

 和、咲のことを考えたらもらい泣き。エトペンで顔を隠しながら、やはり逃げるように対局室を出る。

 池田、椅子にもたれて睦月の出ていったほうを眺める。

池田「麻雀やめる……? ふん、このあたしから最後の最後でハネ満和了っといて勝ち逃げとか許さないしっ!」

ともき「誰かさんが役満和了って凹ますから……」

池田「いやいや、鶴賀の中堅じゃないけどあんなのただの偶然だし。いや、誰かさんのリーチを掻い潜っての数え役満は華菜ちゃんの貫禄勝ちだったけど。
 というか、たった半荘一回の大負けで一々やめるなんて言うなよなぁ」

ともき「その通り……誰かさんなんて大事な県大会決勝の大将戦でボロクソに点を毟られて倍満振り込んで伝統校の歴史に泥を塗ったというのに……こうしてぬけぬけと麻雀してる……」

池田「ふふーん、負け惜しみにしか聞こえないしっ!! 悔しかったら役満和了ってみろしっ!!」

ともき「それは私のキャラじゃない……あと、まだ負けてない。後半戦がある……」

池田「そうだったな……。しかし、鶴賀の副将、後半までに回復できそうかな。自棄になった打牌はそれはそれで恐いけど……」

ともき「たぶん……きっとどこかの誰かさんが無意識に彼女を傷つけるようなことをしたのではないかと……。
 きっと彼女は誰かさんのせいで心に一生残るような深い傷を……」

池田「ちょ、言いがかりだしっ!!」

副将戦前半終了
一位:池田+66400(139000)
二位:和-14300(64600)
三位:ともき-16900(110500)
四位:睦月-35200(85900)

――――――鶴賀・控え室

睦月「すっ……すいませんでした!!!」ポロポロ

かじゅ「つ、津山……?」

蒲原「どうした……むっきー、何が起きた……?」

睦月「私……私なんて……副将戦を戦う器じゃなかったんです……! こんなに負けて……私、ごめんなさいっ!
 私じゃ……みんなの迷惑にしか……! ならなくて……!」ポロポロ

モモ「む、むっきー先輩……」

妹尾「そ、そんなことないよ。さっきの私のほうが大失点だったよ!」

睦月「いや、もう失点の大小とか……そんな次元じゃないんです! 私……打っててわかったんです。あの人たち……ものすごく強い……!
 先輩方と同じくらい……! そんな人たちから見れば……私なんか場にいてもいなくても同じ……!
 私は……私には……みんなと一緒に戦えるような力なんてないんです……!
 今からでもいい……誰かもっと強い人を代理に……私なんてこのチームにいないほうがいいんです……!!
 ごめんなさいっ! 私はもう……何もかもが恐くて……これ以上……麻雀を打ちたくないんですっ!!」ポロポロ

モモ「むっきー先輩……」

妹尾「睦月さん……」

かじゅ「……おい、津山、言いたいことはそれだけか」

睦月「え……あ……あの……ごめんなさい……!」

蒲原「ワハハー。もっと他に言うことがあるだろー」

睦月「あの……本当に……みんなの頑張りを……守れなくて……」

 加治木、見かねて睦月を抱き寄せ、先ほどの牌譜を睦月の目の前に突きつける。

かじゅ「あのな……結果をよく見ろ、津山」

睦月「……だから……私はマイナス35200点の断ラスで……」

蒲原「もー何を言っているんだねキミはー」

かじゅ「津山、お前が戦ってきた相手は誰だ。言ってみろ」

睦月「風越の池田華菜……龍門渕の沢村智紀……清澄の原村和……です」

かじゅ「そうだ。池田は風越の点取り頭。県内でも指折りのスコアラーだ。それから沢村、彼女は前年度優勝校・龍門渕で最も隙のない選手だ。
 あとは原村、知っていると思うが彼女は去年のインターミドルチャンピオン。今年の高校一年の中で最も注目されている選手の一人だ。
 それがお前の戦ってきた相手だ。わかったな?」

睦月「はい……だから私なんかとは格が違うと……」

かじゅ「格? なんだそれは? 誰が測っている? 誰があいつらとお前で格が違うと言った? そいつを今すぐここに引っ張って来い!」

睦月「あの……」

蒲原「あのなーむっきー。ユミちんが言いたいのはこういうことなんだよ。むっきーはあの池田とあの沢村とあの原村と戦ってきた。
 その結果が……これ。よーく見てみなってー」

睦月「だから見なくとも結果は私の負けで……」

かじゅ「違う。風越が139000点でトップ。次いで龍門渕が110500点。三位がうちで85900。
 負けたのは明らかに最下位の清澄だ。なんと64600点だぞ。トップと七万点差だ。こんな点差は少なくとも私じゃひっくり返せない」

蒲原「対してうちはどうかなー? 二位の龍門渕とは24600点差。風越とは53100点差。龍門渕なら親満、風越なら親倍直撃ですぐ背後を取れる。
 その程度の差しか開いてないんだよー」

かじゅ「蒲原の言う通りだ。お前はあの三人と戦って、十分勝負できる点差まで持ちこたえた。その結果を誰が責める。なぜ謝る。もっと胸を張れ。
 お前がここに帰ってきて言うべき言葉は『ごめんなさい』じゃない。笑顔で『やってやりましたよ!』だ」

睦月「でも……」

かじゅ「大体だな。前半のお前の闘牌には見所がいっぱいあったぞ。まず先制ツモ。すばらしい。あと、他家の打ち合いの中でよく耐えた。よくオリた。
 お前が食らった直撃は原村と池田からの二回だけだ。
 いいか、津山。お前の食らった直撃とお前が食らわせた直撃を比べれば、お前はほぼプラマイゼロなんだよ。それのどこが『ごめんなさい』なんだ」

睦月「でも……私が直撃を取れたのは……風越が清澄の連荘を止めるためにわざと振り込んできたからで……。
 あと、最後のハネ満だって……あれは自暴自棄でリーチしたらたまたま……」

蒲原「ワハハ、わざと振り込んでくれたのかー? だったらそんな有難いことはないぞー? あと、たまたま取ったハネ満かー。
 じゃあ、狙って取ったハネ満とそれって具体的にどこが違うんだー?」ワハハ

睦月「それは……でもっ!! そんなことを言ったら……結局……私は負けて……負けたんですよ! 私は!!」

かじゅ「負けたからなんだ。私以外はみんな負けたぞ。
 モモは前半、消えないうちはやられ放題だったし、妹尾の後半なんか他の三人からいいように狙い撃ちされて大負けだぞ。だけどそれがどうした。
 お前が負けたら鶴賀が負けるのか? はは、偉くなったもんだな、津山。私たちがまだいるというのにもう部長気取りか」

蒲原「そーそー。っていうかさー、むっきー。負けて逃げたらそれこそ勝ったやつの思うつぼじゃないか。いいかー? 負けたらバイプッシュ。勝つまでバイプッシュ。
 逃げたりやめたりするのは勝ってからすればいいじゃないか。それなら絶対負けないんだぞー?」

睦月「私……」

かじゅ「津山、確かにお前は負けた。次も負けるかもしれない。だったら、もっと強くなってみせろ。津山、私の言いたいことがわかるか?

 確かにお前は私や蒲原より弱いかもしれない。でもな、私たちは五人で鶴賀なんだ。代えは利かない。代える気もない。

 そして……全国で私たちが勝ち抜くためには……どうしてもお前が必要なんだ。

 津山、何度でも言う。

 私たちにはお前の力が必要だ。いてもいなくても変わらないなんてことは絶対にない。

 だから……負けてもいい。それでお前が強くなってくれるなら……この副将戦は私たち鶴賀にとって値千金だ。

 幸い相手はみな全国レベルの強者……こんなにいい実戦相手がそうそういるものか。教わってこい。盗めるものは盗んでこい。

 あいつらがどうして強いのか――それを肌で感じて、お前の力にしてみせろ。

 わかったか、津山。お前は鶴賀の立派な一員なんだ。そもそもお前がどんなにやめたいと言っても部長の蒲原が許可しない。

 いいな、だから好きなだけ負けてこい」

睦月「……私……は……」

かじゅ「まだやめたいならこんな話もあるぞ。風越の池田はな、去年龍門渕の天江衣に倍満を放銃してトバされた。名門風越がまさかの全国を逃したという歴史的なトビだ。

 本人は今年天江にリベンジする気満々だったみたいだが、どうだろうな。今日の天江と池田……同じ卓を囲んだら案外池田がまたトバされて終わりそうな気がするぞ。

 県内トップクラスのスコアラーなんて、所詮はそんなもんなんだよ。

 それから清澄の原村だが……知っているか? 清澄の原村と片岡は同じ中学の出身……二人ともこうして県大会の決勝に出てくるほどの選手だ。

 しかし、その原村と片岡擁する中学はな、団体戦ではなんと予選で早々に敗退しているんだ。原村は個人で全国優勝をしたに過ぎない。

 そして、私たちが今やっているのは個人戦ではない。団体戦だ。みんなの気持ちを背負う団体戦の経験に関しては、原村とお前はどっこいどっこいくらいなんだよ。

 蓋を開ければそんなものなのだ、インターミドルチャンピオンなど」

睦月「……先輩……」

かじゅ「みんな……負けたり勝ったりして強くなっているんだ。みんな対局中はくよくよ悩んでいるし、裏目ったのを後悔したり放銃を怖れたりする。

 誰だってそうだ。かく言う私だって、次鋒戦のオーラスでは卑怯にも井上との勝負をオリた。あの天江衣でさえ……妹尾に振り込んだときは手が震えていたぞ。

 とんでもない力があろうが役満を和了ろうが……結局はみんな同じ人間なんだ。

 大切なことはだな、津山。お前がどれだけ勝ちたいと思うかだ。

 そして――お前がどれだけ自分を信じることができるかだ。

 お前が信じるお前なら……私たちもそれを信じよう。お前を責めることはないし、お前の負けはみんなで泣いてやる。

 だから安心して負けてこい。お前の全てをぶつけてこい。結果はみんなで受け止める。それがチーム――団体戦だ。わかったか?」

睦月「あ、の……私……」

かじゅ「まだわからんならとっておきで沢村の話をしてやるが……」

睦月「加治木……先輩……! その……大丈夫です。ありがとう……ございました」

蒲原「おっ! 勝てそうな気がしてきたか、むっきー?」

睦月「全くしません……今すぐ家に帰りたいくらい恐いです……でも……」

かじゅ「でも……なんだ?」

睦月「まだまだ……! 頑張れると思いました……! 私にできることが……もっともっとあるような気がしてきました!!」

蒲原「おー! その意気だっ、むっきー!」

モモ「むっきー先輩!」

かおりん「睦月さんっ!」

かじゅ「うむ、じゃあそろそろ休憩が終わる。行ってこい、津山。大丈夫だ。たとえ十万点差がついても蒲原が取り返してくれるからな」

蒲原「ユミちん十万点はちょっと……」

睦月「わかりました!」

蒲原「ちょ、むっきー!?」

睦月「やるだけやってきますっ!!」タッタッタ

蒲原「おーいーせめて六万点差が限度ー……って行っちゃったなー」

かじゅ「まったく……手のかかる後輩どもだ」

モモ「えっ、『ども』って先輩!?」

蒲原「いいからいいから。ここからはむっきーのターンだよ。静かに見守っていようぜー」ワハハ

かおりん「そうだねっ!」

――――――対局室

睦月「あ」

ともき「あ、鶴賀の……」

池田「帰ってきたな」

睦・池「あ……あの……」

睦月「……ああ、すいません。なん……でしょうか?」

池田「えっと……その、だし……」

睦月「?」

池田「華菜ちゃんさ! なんつーか昔っからこうずうずうしくてウザいところあるからさ……! その……何かムカってきたことがあっても気にすんなしっ!
 たぶん本人に悪気はないしっ!! だから……華菜ちゃんのこととかどうもいいというか、麻雀とは全然関係ないっていうか……とにかく麻雀は続けろよ!
 ここでお前にやめられて……鶴賀が棄権にでもなったらうちのキャプテンの活躍が見れないしっ!! わかったな!!?」

睦月「は……はい! こちらこそ……さっきは対局後だというのに変なことを言ってすいませんでした……」

池田「わ、わ、わかればいいんだしっ!!」

睦月「後半もよろしくお願いします。今度は……私も簡単にはやられません」

池田「ふん、望むところだし!」

ともき「……しかし最後に勝つのは……私……」

池田「勝手に言ってろしーっ!!」

 と、そこに和も戻ってくる。

和「……? 何か、皆さんで話していたんですか?」

池田「ああ? 後半は誰が勝つかって話だよ」

和「あ、それなら私ですよ」

池田「こ、の……一年……っ!!」

『後半戦間もなく開始します……対局者は席についてください』

池田「ふん、清澄のインターミドル。お前が起親だし!」

和「なるほど。わかりました」

ともき「ちなみに私は西家」

睦月「私は南です」

池田「ふふ、お前ら今頃気付いたな……! 華菜ちゃん北家、ラス親だしっ!! ボコスカ連荘しまくって全員トバしてやるしっ!」

と・和「いいから席について(ください)」

睦月(喋ってみればよくわかる……。みんないい人たちなんだな……そして……みんな自分の勝ちを信じて戦っている……。
 そんな人たちと卓を囲んでいたのに……大負けしたくらいで飛ばされてもいいなんて……さっきの私はなんて失礼だったんだろう……!
 よし……後半戦こそはっ!!)

 ちなみにここから遡ること数分。

和「み、宮永さん……!」

咲「原村さん……」

和「そ、その……か、勝ちますよっ! つ、次は絶対!!」

咲「ええ……? 絶対……? でも、原村さん、いつも半荘一回くらいじゃ強い弱いは測れない、どんな人でも絶対に勝つなんてありえないって……」

和「それはそれです。いいんです。気持ちの問題ですから」

咲「はあ……」

和「確かに半荘一回だけなら、どんなに強い人だって大負けすることはあります。弱い人が和了りまくることだってあります……。けど、私はこうも思うんです」

咲「うん?」

和「本当の本当に強い人なら……きっと一生に一度くらいは……絶対に勝てる半荘というか……そういうのもあるのかもしれないなと――そう思うんです。
 いえ、思うだけです。勝ちたいときに絶対勝つなんて……そんなオカルトありえません……でも、そういうのを信じたいって気持ちを持つことは……いいのかもしれないと思ったんです」

咲「うん……そうだね……!」

和「これ……宮永さんを見ていて思ったんですよ……?」

咲「えっ!? あ、そ、そうなの!? なんか照れる……////」

和「あの……そういう赤面は……感染するのでやめてほしいのですが/////」

咲「はっ、原村さんだって……さっきの南二局からずっと赤い……よ」

和「あれは……! なんというか……いいじゃないですか、そっちのほうがうまく打てるんですから!」

咲「そ、そうだね!」

和「…………宮永さん……」

咲「な……何?」

和「次は――絶対勝ちます。勝って宮永さんに託します。たとえこれが一生に一度の……私の絶対に勝てる半荘だとしても……ここで使うのは全く惜しくありません。
 だから……見ていてください!」

咲「う……うん/////」

和「じゃ、私は対局室に戻りますので……////」

 宮永咲――二度目のフラグ立直!!

 副将戦後半――開始ッ!!

副将戦後半
東:和 南:睦月 西:ともき 北:池田

東一局親和

 七巡目。

池田(さて、テンパイ。断トツの今はリーチしたくないけれど、しないと役ナシ……手替わりでどうにかなるわけでもない……ならここは当然!)

池田「リーチだし」スッ

和()ヒュッ

睦月(風越が先制リーチ。対してこちらは……手なりで進めてやっとイーシャンテン……清澄は……さすがにいきなり危険牌は切れないみたい。それはそうか。誰だって一発なんか食らいたくない……なら、私も……)タンッ

ともき(風越……さっきの終盤から大人しかったというのに自ら危険を冒して先制リーチ? ひょっとしてリーのみ……とか? ただ……こちらはそれ以下の手……勝負にならない)タンッ

池田(さっきから全員きっちりオリやがって……こういう相手はやりにくいしっ! でも、関係ないしっ! 華菜ちゃんツモるしっ……にゃ、ツモれず……!)タンッ

――――――

池田「テンパイ」

和「ノーテン」

ともき「ノーテン」

睦月「ノーテン」

ともき(風越……リーチしなければ役ナシのくせにドラ三赤一とか……ツモか裏が乗ればハネ満……後半でも勢いの衰えは期待できそうにない)

睦月(オリたぞ……最後まで! あのまま行っていれば放銃していたかもしれないけど、清澄も龍門渕もオリだったから安牌が増えて助かった。
 私には捨て牌から風越の手を読むなんてことはできないけど……相手の点数を見切って押し引き判断とか無理だけど……そんなの……できないなら周りの人がどう対処しているか見て真似してみればいいんだ。
 なんたってこの人たちは私よりずっと強いんだから!)

池:141000 と:109500 和:63600 む:84900 供託:1000

東二局一本場親睦月

 八巡目。

睦月(テンパイ。タンピンの三張面……高め三色の絶好形。ここは行くしかないよな……。三人の捨て牌……うう、さっぱりだ。
 けど……恐いけど……この恐さは乗り越えないといけない恐さだ……! もしこれで当たったりしたらそのときはまた別のやり方を考える!)

睦月「リーチ……」スチャ

ともき()タンッ

池田()タンッ

和()ヒュッ

睦月(三人ともオリたか……? でも、この待ちでこの巡目なら十分ツモ和了りも期待できるはず……一発はならなかったけど)タンッ

和「ポン」ヒュッ

睦月(げっ……清澄にドラポンさせてしまった……! オリたんじゃなかったのか……?)タンッ

ともき()タンッ

池田()タンッ

和「ツモ。中ドラ三、2000・3900の一本場は2100・4000」

睦月(うわぁ……清澄……フリテン覚悟で一発放銃を回避して、そこからドラ鳴きでツモ和了りに持っていくなんて……!
 ただオリるだけじゃない……チャンスがあればフリテンでも和了りを目指す……そしてたぶん、うまくいかなかったらいかなかったできっちりオリ切るつもりだったんだろうな。
 今の私には考えられない選択肢の幅……これが全中王者の麻雀……!)

池田(うわ、清澄の和了り……ちょっと格好いいしっ!)

池:138900 と:107400 和:73800 む:79900

東三局親ともき

 副将戦、幾度もテンパイ・リーチするものの我慢を強いられてきたともき、ここに来て一発逆転の勝負手が入る!

ともき「(この点差……この相手……出し抜くためには……ここはリーチせずには済まされない)……リーチ」スチャ

 ともきの手、三暗刻ドラ三、リャンメン待ち……ヤミの出和了りでも親満。リーチをかければ親ハネ確定。しかし……ともきはさらに上を目指す。

ともき(清澄のインターミドルは底知れない……風越は天井知らず……鶴賀からは二人ほどの脅威は感じないけれど、リーチにはしっかりオリてくるから出和了りは期待できない……)タンッ

ともき(私は……純のように何かが見えるわけではない。一のように小さい頃から麻雀に親しんで思い入れがあるわけでもない。衣や透華のように身の内に魔物を飼っているわけでもない……龍門渕で最も地味な打ち手……それが私……)タンッ

ともき(けれど……きっと勝ちたいと思う気持ちなら……私はみんなに引けを取らない。いや、ひょっとすると一番かもしれない……。
 勝って当然の衣、性格の悪い純、目立つことが第一の透華、フェアプレイを好む一……四人にとって麻雀で勝つことはきっと結果でしかない……ただ、私は違う。
 私にとって麻雀は……ゲームは……勝たなければ意味がない……)タンッ

ともき(私はゲームが好き。勝負が好き。だから麻雀も好き。だって……頭を使って……スリルを感じて……リスクを犯す……あの感覚がたまらない。
 そして何より……最後に私が勝つから……面白いんだ……)タンッ

ともき(透華に出会えて本当によかった。麻雀は楽しい。勝てるかどうかわからない相手と全力で戦って……それでも最後に私が勝つから楽しい。
 勝てない麻雀なんてつまらない。泣きたくなるほど大嫌い……。
 だから私は……誰が相手でも妥協なんてしない……できる限りデータを集めて……対策を練って……そして……絶対に勝つ……)ツモッ

ともき(来た……。普段ならここはスルーだけど……ここが勝負の分かれ目……絶対に決めて見せる……)

ともき「……カン」パタ

睦月(親リーの暗槓……!)

和(この決勝戦……そう言えば何度かあったカン。でも、最初に嶺上開花を決めるのは宮永さんであってほしい……! そんなオカルトありえませんけど……!!)

ともき(嶺上はならず……いや、それよりもカンドラが乗らなかったのが悔やまれる……けど……これで裏は増やした……暗刻の多いこの手なら……三倍満も決して夢ではない……)タンッ

池田(うにゃあああああああ!? ぐるぐる回し打ってたらここに来てカンドラモロノリッ! 美味し過ぎるしっ!!)タンッ

ともき(風越の池田……その顔はまさかカンドラが……く、本当に面倒なやつめ……)

――――――回想・一年前・県予選団体戦決勝直後

ともき「あら……衣。今回はあまり遊んでこなかったのね……あんな早々に風越を飛ばすなんて……何か見たいテレビでもあった……?」

衣「否、衣はもっと遊んでいたかった。それなのに風越が……」

ともき「風越が……どうかした?」

衣「うむ……他の者はもう諦めていたようだったが、風越だけはちょこざいな悪あがきをしてきた。だからつい勢い余って飛ばしてしまった……不覚。
 ぴったり0点にしてやるところだったものを……」

ともき「確か……風越の池田華菜……私たちと同じ一年……」

衣「ともき、心しておくがいい。風越のあいつはかなり面倒だ。
 手がバカ正直過ぎて衣の敵ではないが……しかし、油断しているとどんな状況からでもこちらを喰いにくる」

ともき「たとえ点数がゼロになっても……?」

衣「そこまではさすがに皆目無見当。ただ……あれも一年というのなら、来年も再来年も……ずっとこの県にいるのだろう。
 できれば今回で再起不能にしておきたかった」

ときも「いや、あの振り込みじゃしばらく牌を握れないと思うわ……あの子」

衣「それならば良し。しかし、あいつがまた衣たちの前に立ちはだかるときがあるとするならば……用心しておくがいい。
 衣も……次があるなら本調子のときに叩き潰す」

ともき「へえ……風越の池田……ねえ……」

――――――

ともき(衣の言っていた通り……風越の池田……バカ正直に高い手を突っ張ってくる……。親リーで引っ込んだと思っていたが……私が仕掛けたカンで息を吹き返してきた……)タンッ

池田(ツモれず……! けど、これは龍門渕の安牌……次のツモに賭ける!)タンッ

ともき(衣……あなたはたぶん……たくさんのいい打ち手を摘み取ったのと同じくらい……たくさんのいい打ち手を育てたのかもしれない……私たち四人のように……)タンッ

池田(またツモれず……でも、これも龍門渕の安牌だからまだまだセーフ。早く次のツモ来いしっ!!)タンッ

ともき(このまま……流局か……? それとも風越か……? いや……私が……ここで和了ってやる……!)

池田(親リー蹴り飛ばしてやるしっ!!)

 そして――十七巡目。

池田「ツモだし……断ヤオツモ赤一ドラ三……! 3000・6000!」

 瞬間、ともき、思わず天を仰ぐ。

ともき(……やら……れた……。けど……私はまだ諦めたわけじゃない……。親はもう一度来る……それまでに立て直して……連荘でまくる……)

池田(ふう……マジ危なかったしっ!)

池:151900 と:100400 和:70800 む:76900

東四局親池田

 十巡目。

池田(さっきはなんとか打ち合いに勝ったけど……いや、これはどうだろう……)

 池田の手牌、既に萬子のメンチンをテンパイ。赤と一盃口がついてどう和了っても倍満確定。

池田(また華菜ちゃん無双だと思ってたけど、どっちかっていうと夢想だったかもしれないしっ!)

 池田のツモ。生牌の西。清澄の捨て牌を一瞥。三巡前にリーチしている。

池田(この西……不吉な臭いがプンプンするし。かといってこれを抱えて混一狙いにいったところで……)

 龍門渕、二巡前にリーチ。捨て牌からして萬子の染め手が濃厚。互いに互いの当たり牌を抱えている可能性が大きい。

池田(前門の虎、後門の狼……か。なら、あたしは虎を選ぶ。前に進んでいたいから。どんな状況に置かれようと……天江衣に追いつくために……あたしはこれからも前に進み続ける!)

 そして、池田、打、西。

和「ロン。リーチチートイ……裏二。8000です」

池田「はいよ……」チャ

ともき(……風越……私ではなく最下位の清澄に振り込むほうを選んだか……)

池田(清澄の……しれっと裏を乗せてくるとかやっぱ可愛くないしっ!!)

池:143900 と:99400 和:79800 む:76900

南一局親和

 序盤、鶴賀・睦月からリーチが入る。しかし、全員オリ。

鶴賀「テンパイ」

和「ノーテン」

池田「ノーテン」

ともき「ノーテン」

 流局。

池:142900 と:98400 和:78800 む:78900 供託:1000

南二局一本場親睦月

和「ツモです。メンホンツモ、2000・4000は2100・4100」

睦月(うう……また清澄の満貫ツモで親流された……!)

池田(清澄、さっきにも増して隙がなくなってるな。休憩中に何があったか知らないが……本当に前半序盤のあれはなんだったんだってくらいに無茶苦茶強いし。
 インターミドルチャンピオン……原村和、か。天江衣に次いで個人的にぶっ倒したいやつランキング二位にしとくしっ!)

池:140800 と:96300 和:88100 む:74800

南三局親ともき

ともき「テンパイ」

和「ノーテン」

池田「ノーテン」

睦月「ノーテン」

ともき(……大丈夫……まだ反撃のチャンスはある……)

池:139800 と:99300 和:87100 む:73800

南三局一本場親ともき

 ともき、前半同様、ラス親で粘りのツモ。

ともき「ツモ。リーチツモ赤一……2000オールは2100オール」

池:137700 と:105600 和:85000 む:71700

南三局二本場親ともき

 ともき、今度は鳴きを入れてテンパイ。

 しかし、その次巡。

池田「ロンだし。ダブ南白赤一。8000は8600」

ともき(……しまっ……た……)

池田(逆転狙いで手が重くなったところを狙い撃ち……。天江衣……お前にはある意味感謝しないといけないのかもしれないな……。
 去年あたしをトバしたこと……後悔してももう遅いしっ!!)

池:146300 と:97000 和:85000 む:71700

南四局親池田

池田(この半荘トップは清澄……あたしは今のところ一応プラスか。ここに来てラス親が重く感じるな。
 始まる前は連荘とか言ってたけど、別にここで清澄からトップを奪う必要はないのに……親っかぶりの危険が常に付きまとう……ウザ……)

 この局、しかし、池田の思いとは裏腹にいい引きが続く。

池田(うわ……また一索……ヤオ九牌のドラが暗刻で固まったし。赤もこんなときにぞろぞろ集まってくんなし……!
 お前らドラは有難いけどリーチしないと役にならないからヤミだと出和了りできないんだしっ!!)

 それでも、ドラを抱えることで他家の打点が下がると積極的に考え、淡々と手を進めていく池田。

 その――対面。

睦月(ツモ……これだと平和ツモ……1300。リーチしておけばよかったかなぁ。これを和了れば……その瞬間に副将戦終了。前半のオーラスだったら……ここで終わりにしてただろうな……)

 睦月、卓上、そして卓を囲む面子を見回す。

睦月(結局ここまで私だけ焼き鳥……はは……先輩方はああ言ってくれたけど……負けていいなんて……やっぱり嫌だ……私が……私が嫌だ……!!
 ここでツモ和了りをして終わるくらいなら……! 私だって……私だって……一矢報いるくらいのこと……してみせるっ!!)タンッ

 睦月、和了り拒否。拒否してから手牌を再び見る。なぜか、さっきまでと同じはずなのに、全く違ったものに見える。

睦月(なんだこの手……三色も十分見れるじゃないか……! リーチして……フリテンになっても清澄みたいにツモで引いてくればメンピン三色ツモ……満貫……!
 いやいや……! とにかくまずは引くことだ。皮算用ならいくらでもできる……!!)

 睦月、次巡、次々巡と的確な引き。

睦月(三色……本当についた。けど……これじゃフリテン……)タンッ

 その次巡。睦月、再び和了り牌をツモる。

睦月(平和ツモ三色……5200……これなら和了ってもいい……かな……)

 睦月、山牌を見る。まだ……ツモはあと五回残っている。

睦月(はは……! これ……あとで絶対後悔するパターンかも……!!)タンッ

 睦月、二度目の和了り拒否。雀頭を崩す。

睦月(まだ河にはドラも赤も見えていない。誰かが抱えているのかもしれないけれど……山に残っていないなんてどうして断言できる……?
 いや、それにドラではなくとも……単騎待ちならフリテンは解消。この手なら、ヤオ九牌が来ればチャンタか純全帯もつくし……十分高い……!)

 次巡、睦月、ドラの一索を引き当てる。思わず、身震い。

睦月(これは……ダマでも純全帯三色ドラドラでハネ満。ツモれば倍満……リーチをかければ……出和了りでも倍満確定……どうする……!!)

 睦月、しばし目を閉じ、イメージする。

 それは決して悪いイメージであってはいけない。

 できる限り――いいイメージ。

 例えばそう、前半の風越・池田の数え役満のような……見ている者が震えるほどの――美しいイメージ。

睦月(私も……あんな風に……なれたら……!!)

 睦月、ドラの一索で単騎待ち。不要牌を河に置き――曲げる!!

睦月「リーチですっ!!」スチャ

 睦月のこのリーチ……観戦室から見れば、当たり牌を全て池田に抱えられている絶望的なリーチ。

 しかし、このリーチによって、何もなければドラを抱えたままこの局を終わらせようとしていた池田の思考が――揺れる。

池田(鶴賀のリーチか。ツモられるのは勘弁したいな。さて……とりあえず前巡は一発回避したものの、ここで何を切る……?)

 睦月のリーチに対し、先程はツモってきた睦月の現物をそのまま切った池田。今回ツモったのは、しかし、またも不吉の象徴・生牌の西。池田の手が止まる。

池田(西は対面の役牌……しかもまだ生きている。捨て牌を見てもチャンタ気配バリバリ……どうする……手を崩すか?
 ただ、そうかと言って赤とくっついてる中張牌を切るのもな……清澄も龍門渕も鶴賀のリーチにツモ切りだったから張ってる可能性は十分にある。
 はは、華菜ちゃんまたまた大ピンチ。さっきから高いのを張るか安牌ゼロ状態か……生か死か……極端な二択だし……)

 池田、思考を進める。

池田(或いは……ドラの一索……。二索はあたしから四枚見えているから、当然あるのは単騎待ち。
 この状況ではけっこうよくある待ちだ……ま、しているとしたら誰か一人ってことになるけど……)

 池田の脳裏にまたあの言葉が浮かぶ。

『池田ァァ! おまえが倍満振り込んで風越の伝統に泥ォ塗ったの忘れたのかよ!』

 振り込み――その苦々しさは、振り込んだ池田自身がよくわかっている。

 だからこそ――今日まで池田は精一杯強くなるための努力をしてきた。きっと校内の誰よりも……或いは県内の誰よりも……。

池田(あたしは……でも……あれから本当に強くなれたのだろうか……? 天江衣に勝てるほど……成長できたのだろうか……?)

 池田、覚悟を決めて、打牌を選ぶ。

池田(いやいや……そうじゃなかった。あたしが強いか弱いかなんて今は関係ないんだ。忘れていたわけじゃない。あたしは……みんなと勝つために……ここに戻ってきた。
 そのために……この点差この状況……あたしがすべきことは何か……? 和了らせない……振り込まない……そして……うちのトップで副将戦を終わらせる。
 それがあたしのするべきことだ……ならここは……こうだろ……!)

 池田、テンパイを崩しての、打、六萬。睦月の現物であり、清澄と龍門渕にはスジ。

 ロンの声は――かからない!

池田(このまま無傷でオリ切って副将戦終了だしっ……!)

 同巡、和、暗刻で抱えていた西を打つ。

 池田、それを見て、つい溜息。

 そして、淡々と山牌が消費されていき――。

睦月「テンパイ」

池田「ノーテン」

ともき「テンパイ」

和「ノーテン」

 終局。なお、供託リー棒はこの半荘トップの和の手に入ったものとする。

和(終わった。宮永さん……見ていてくれましたか……?)

ともき(……風越……完全にやられた……)

睦月(和了れなかったか……。はは……これは……やっぱり後悔するパターンだったな……)

池田(鶴賀はドラ単騎だったのか。危ない危ない。
 華菜ちゃん……また課題が一つ……これからは他家が張ってもキャプテンくらいにばっちり読んでもっと上手にかわせるようになってやるしっ!)

副将戦後半――終了!!

副将戦後半
一位:和+19900(84500)
二位:池田+5800(144800)
三位:ともき-12000(98500)
四位:睦月-13700(72200)

――――――対局室。

 対局終了後、池田、「これはきっとウザがられる」と思いつつも、つい睦月を呼び止める。

池田「おい、鶴賀の津山とか言ったな」

睦月「風越の……池田さん。なんでしょうか……?」

池田「あたしさ、本当は天江と戦いたくてここまで来たんだ。だから、今日の面子見てどこかがっかりしてた。
 でも……今は違う。お前らと戦えてよかったって思ってる。あたしなんかまだまだだって……再確認できたし……すごく勉強になった。ありがとうな。
 それと……最後のリーチ、華菜ちゃんの真似っこするのは十年早いけど……華菜ちゃんはああいうの嫌いじゃないしっ! 悔しかったら次は一発でツモってみろしっ!!」

睦月「……!! こ……こちらこそ……勉強させてもらいました……!!」

池田「うちが全国行くときは鶴賀も練習試合に付き合ってくれよな。そこでいっぱい対局するんだしっ!
 あと、またいつか麻雀やめたくなったら今度は華菜ちゃんが相談に乗ってやってもいいしっ! じゃ、言いたいことはそれだけだしっ!」

睦月「はい……またよろしくお願いします……。あ、でも……」

池田「にゃ?」

睦月「こんな私が言うのもなんですが……全国に行くのは……私たち鶴賀です」

池田「にゃはっ! ずうずうしいにもほどがあるしっ!!」

睦月「いや、あなたにだけは言われたくありませんよ……」

――――――鶴賀・控え室

 睦月、帰還。出迎えるチームメイト。

かじゅ「津山、よく頑張ったな。いい闘牌だったぞ」

蒲原「むっきー、今度は誰にも振り込まなかったじゃないかー」

モモ「むっきー先輩、お疲れ様です!」

妹尾「最後のリーチ、すごく格好よかったよっ!」

 笑顔の四人に迎えられた瞬間、睦月、対局室では絶対に泣くまいと堪えていた涙が、込み上げる。

睦月「私……私は……!! 私は負けました……!!」ポロポロ

かじゅ「うん。負けたな。ラスだっただけじゃない。鶴賀も最下位に転落だ」

睦月「はい……!! 私……すごく……負けたのが……みんなの力になれなかったことが……!! すごく悔しいです……!!」ポロポロ

蒲原「そうだなー。それは悔しいだろうさー。それで……むっきーはこれからどうするー?」

睦月「はい……!! もっと勝てるようになるまで!! いつかちゃんと勝つまで……!! 私……麻雀をもっと続けます……!! 私は!! もっと麻雀で勝ちたいんです!! だから……どうか……こんな私を鶴賀の一員のままで…………いさせてください……!!」ポロポロ

かじゅ「……よく言った、津山」

蒲原「そーだそーだー。それになー、むっきー。負けられるときに負けておかないとな、いつか勝ちたいときに勝てなくなるもんだ。
 今回のむっきーはいい経験をしたんだよー」

睦月「はい……ありがとうございます……!」ポロポロ

かじゅ「ほら、津山。これで涙を拭け」

睦月「……ありがとう…………ございます……」

 睦月、加治木からハンカチを受け取って、ソファに泣き崩れる。モモと妹尾、睦月を励ますように睦月の両隣に添う。

 そして、そんな後輩たちの姿を立ったまま見ている加治木と、蒲原。

かじゅ「本当に……完膚なきまでにやってくれたものだ」

蒲原「まったくだー。うちの可愛い後輩を泣かせやがって頭くるよなー」

かじゅ「おい、蒲原。わかってるだろうな?」

蒲原「ああ……わかってる。ワハハ……」

 ワハハ――そう言って笑うも……その顔はもはや笑っていない!

蒲原「撃ち落せばいいんだろう、風越を」

 鶴賀・大将――蒲原智美……出陣!!

――――――風越・控え室

 天江衣の記録を塗り替えて本日の前後半合計獲得点数ハイスコアを叩き出し、最下位だった風越を一気にトップまで押し上げた、池田華菜。

 しかし、そんな誇るべき結果を持ち帰った池田を待っていたのは……。

久保「池田ァァァァ!! テメェさっきの闘牌……!! ありゃなんだァ!!」

池田「はいぃぃぃぃ!! す、すいません……!!」

久保「マグレで役満和了ったからって調子に乗りやがって……!! そういうところがまだまだ甘いって言ってんだよ池田ァァァァァ!!」

池田「はぃぃ…………!! すいません…………」

 久保、しょげて縮こまる池田を睨みつつ、舌打ち。

久保「わかってんのかァ? 今のテメェじゃ天江とやっても勝てねえぞ。オーダーがズレてよかったな。なァ、池田ァァ!!」

池田「は……はい! さっきの中堅戦……天江も今年は更に強くなっていました……! あの天江に勝つのは今のあたしでは無理です……だから、コーチ……!!
 あの……清澄の原村……あいつの牌譜があるなら全部見せてください……! あの打ち回しができれば……もっと天江に近づけるような気がするんです……!!」

久保「そうだなァ……テメェみたいなバカにつける薬なら原村の他にもいくらだってあるだろうよ……あとでまとめてやるからしっかり研究しとけ!!」

池田「は……はい!!」

久保「この大会が終わったら龍門渕から天江を呼んでテメェと打たせてやるからな。そこで今度こそ勝てよ!!
 テメェが天江レベルと打って勝てるようになんねえとうちが全国優勝するのは無理なんだよ。だからそのときまで死ぬ気で練習しろ!!
 わかったかァ!! 池田ァァァ!!」

池田「は…………はい!!!」

池田(って……! コーチもう全国に行った気でいるしっ!? いや……! そりゃそうか……なんたってうちの大将は……!!)

久保「おい、福路。言ってみろ。風越の主将であり大将であるテメェの仕事はなんだ?」

福路「名門風越を優勝に導くことです」

久保「わかってんならいい。さっさと行って決めてこい。池田のバカがトップになった時点で方々に連絡して強化合宿の段取りを進めておいたからな。
 負けたら承知しねえぞ!」

福路「はい、大丈夫です。絶対に……優勝するのは私たちです」

久保「はん。相変わらず返事だけは達者だな、テメェはよ!」

 風越・大将――福路美穂子……開眼!!

――――――龍門渕控え室

ともき「……衣が去年風越をトバした反動がどうして私に……」

衣「オーダーがズレたのなら仕方あるまい。本当なら衣が返り討ちにしてくれるところだったのだが」

井上「風越のはそんなでもねえ感じしたけどな。清澄のほうがヤバそうだったぜ。ま、どっちみちオレなら勝てた」

ともき「うるさい……鶴賀相手に手も足もでなかったくせに」

井上「ばっ! あれはあれだよ……サシの勝負に拘らなければオレが勝ってた。…………っていうかお前ちょっと泣いてないか?」

ともき「……黙れ……オンナ男……」

井上「せめてオトコ女にしろよっ! つーかオレは背が高いだけで全然正常だろうが。お前みたいなネットオタクよりはよっぽど普通だ」

一「まあまあ二人とも喧嘩しないで……」

ともき「ああ……一……あなたも私たちと同じ……マイナス収支組……」

一「はぁ!? 何言ってるのともきー!? ボクのマイナスはあってないようなものでしょ!? 前後半合わせてたった2100点だよ!?」

井上「何を言ってんだ国広くん、大小なんて関係ねえよ」

一「もー! ええー? どうしてこの流れでボクが責められる感じになってるのさ。ねえ透華、聞いてよっ。ともきーと純くんがひどいんだ!」

透華「……えっ!? あ……ええ、そう。そうですわね……一はよくやりましたわ……」

一(え……? 透……華……?)

ともき(……これは……不完全な気もするけれど……)

井上(……まさか……県予選で見ることになるとは思ってなかったな……)

衣「とーか!! とーかが衣たちの大将だ。相手はなかなかどうして油断大敵! 思う存分暴れてくるがよかろうっ!!」

透華「そ、そんなことは言われなくてもわかっていますわ……それじゃあ……行ってきますわね……!」

一(と、透華……!!?)

 龍門渕・大将――龍門渕透華……異変!!

――――――清澄・控え室

久「とうとうここまで来たわね。気分はどう、咲?」

咲「ちょ、ちょっと緊張しています……」

タコス「咲ちゃん、対局前におトイレ行ったほうがいいじょー」

咲「そ、そうだね」

まこ「なんじゃ珍しく萎縮しとるのう。わりゃぁこと麻雀だけは生意気じゃと言うんに」

咲「いえ……ちゃんと気持ちは整っているんですけど……。なんだかさっきから寒気が止まらなくて……」

和「宮永さん、大丈夫ですか……?」

咲「う、うん。たぶん……気のせいだと思う……心配しないで。私、勝つよ。勝ってみんなと全国に行くんだもん」

久「じゃあ……私たちの分まで頼んだわよ、咲!」

タコス「全員トバしてしまえばいいじょー!」

まこ「お前さんのことは心配しとらんけえの。好きなように、楽しんで、思うように打ったらええ!」

和「宮永さん……! 頑張って……!!」

咲「はい……。行ってきます……!!」

 清澄・大将――宮永咲……登場!!

――――――対局室

東:福路「よろしくお願いします」

南:蒲原「お手柔らかにー」

西:透華「よろしくですわ……」

北:咲「よろしくお願い……します……!」

 大将戦前半――開始!!

実況『さて、ここでこれまでの戦いを振り返ってみることにしましょう。

 先鋒戦前半、東発速攻の清澄・片岡、開始早々二度の親倍ツモでリードを広げます。

 各校、積極的に片岡を封じにかかりましたが、前半戦はそのまま片岡の逃げ切りで終わりました。

 後半、三校から警戒された片岡、東場で思うように和了れず。

 そんな中でまずは風越・吉留、次いで龍門渕・国広が頭一つ抜け出します。

 しかしその後、それまでラスに甘んじていた鶴賀・東横が奇妙な和了りを連発。

 結果は東横の見事な一人浮きとなりました。

 次鋒戦前半、序盤は四校が凌ぎを削り合う展開。

 しかし、東四局に入って抜け出したのが鶴賀・加治木。東横の稼いだリードを更に広げます。

 中盤以降、清澄・染谷が加治木に抵抗するも、加治木がそれを振り切って終局。

 またも無名校・鶴賀の一人勝ちとなりました。

 後半、このまま加治木の独走かと思われましたが、東四局、風越・文堂が加治木を直撃。

 止まらないように思われた加治木に待ったをかけます。

 その後は各校決定打が出ず、膠着状態のまま終局を迎えました。

 中堅戦前半、龍門渕・天江、その圧倒的な力をもって、最下位だった龍門渕を東二局の時点でトップに引き上げます。

 しかし、その直後、鶴賀・妹尾が天江に親の役満を直撃。

 鶴賀・妹尾は南二局でも字一色七対子を和了ってみせ、他を大きく引き離し、トップでこの局を終えました。

 後半、鶴賀・妹尾、東場開始早々に海底ツモ、二度目の国士無双とさらにリードを広げます。

 しかし、妹尾の活躍もそこまででした。

 まずは天江が妹尾に満貫を直撃してからの六連続和了。

 以後、これまでの苦境を跳ね除けるように清澄・竹井と風越・深堀も鶴賀を直撃。

 そんな大荒れの中堅戦でしたが、前後半を通してプラスで和了ったのは天江衣ただ一人。

 龍門渕・天江、その強さを遺憾なく見せつける結果となりました。

 副将戦前半、中堅戦の高打点合戦が嘘だったかのように各校手堅い和了りで場が進行。

 そんな中、東三局二本場にて風越・池田がこの日三度目となる国士無双を清澄・原村に直撃。

 池田はその後も立て続けに役満を和了り、副将戦開始時の点差を見事にひっくり返します。

 終盤、清澄・原村の目覚しい活躍で風越のリードが多少削られたものの、大きく崩れることもなく、そのまま風越・池田が逃げ切って終局となりました。

 後半、前半同様、風越・池田と清澄・原村の両選手が場を支配します。

 龍門渕・沢村、鶴賀・津山、途中勝負を仕掛けるもその力及ばす、終局を迎えました。

 また、この時点で風越・池田が本日の前後半合計獲得点数のハイスコアを記録。

 名門風越の復活を見ている者に知らしめました。

 副将戦終了時点の各校順位は以下の通りです。

 トップが他を大きく突き放しての名門・風越女子、144800点。

 次いで、ほぼ原点の前回優勝校・龍門渕、98500点。

 その後ろに三位清澄、84500点。

 四位鶴賀学園、72200点となりました。

 そして――大将戦。

 清澄・宮永を除き、各校の部長がチームの命運を背負って顔を揃えた運命の一戦。

 しかし、その前半はあまりに一方的な結果に終わりました。

 場に唯一の一年生、清澄・宮永咲。

 その圧倒的なまでの――完封負けです』

――――――鶴賀・控え室

モモ「あっ、帰ってきました!!」

妹尾「わわ、どうやって迎えるのが一番いいかな!?」

 鶴賀・大将、蒲原智美。大将戦前半……結果。

 一位:蒲原+29800(102000)

 鬼気迫る闘牌を見せ、トップ帰還。

蒲原「ワハハ。なんだかバカみたいにツイてなー。さっきは。こりゃ明日は槍が降るぞー」

 控え室に戻ってきた蒲原。

 出迎える鶴賀の面々。

睦月「蒲原先輩……」ポロポロ

蒲原「むっきー泣くなよー。まだ終わったわけじゃないぞー」

睦月「でも…………」ポロポロ

かじゅ「でもじゃない、津山。その涙は最後までとっておけ。もったいないだろ」

 加治木、睦月の背中を優しく叩き、それから、蒲原の前に立つ。

かじゅ「…………」

蒲原「…………」

 鶴賀三年、加治木、蒲原、両名しばし見つめ合う。

 二人とも、そのまま無言で片手を頭の上に挙げて、その平手を――思いっきり叩き合う。

 心地よいハイタッチの音が鶴賀の控え室に響く。

かじゅ「お前が大将で心からよかったと思うぞ、蒲原!」

蒲原「ワハハ。そいつは嬉しいなー、ユミちん!」

モ・妹・睦「うわああああああああああ!!!!」

 直後、後輩にもみくちゃにされる加治木、蒲原。

 どちらも、まんざらでもない笑顔だった。

――――――風越・控え室

久保「福路……テメェ」

福路「期待に副えず……申し訳ありませんでした……コーチ」

 氷のように冷え切った空気。

 部員一同、固唾を飲んで見守る。

 池田、万が一久保が手を上げた場合、いつでも福路の前に身代わりで飛び出る構え。

久保「ふん……次は蹴散らせよ。いいな?」

福路「…………はい」

 久保、そのまま携帯を持って控え室を去った。

 風越・大将――福路美穂子。大将戦前半……結果。

 三位:福路-7200(137600)

 失点はしたものの、チームとしては十分に首位を保持。

池田「キャプテン……!」ウルウル

みはるん「キャプテン……!」ウルウル

文堂「キャプテン……!」ポロポロ

深堀「キャプテン……!」ドムドム

 部員一同、目には涙。

 しかし、福路の目に涙はない。

 後輩の敗北に涙を流しても。

 自分の敗北には決して涙を見せまいという、キャプテンとしての――意地。

福路「ごめんなさい。リードを広げるつもりだったのに……削られてしまったわ。けれど……次は必ず勝ってみせる。勝って優勝する。
 みんな一緒に……笑って表彰台に立ちましょうね」

部員全員「キャプテーーーーーン!!!!!!!」

――――――龍門渕

一「あっ、透華!! 気がついた!?」

透華「あら……わたくし何を……ここは……? えっ? た、大将戦はどうなりましたの!!?」

井上「さっき前半が終わったとこだよ。で、前半が終わった直後にお前と清澄がぶっ倒れてな。今は休憩を延長してる。
 あと三十分経っても二人の意識が戻らないようなら、後半は明日に延期だとさ」

透華「前半が終わったですって!? き、記憶にございませんわよっ!? そんな……わたくしはどうなりましたの?」

ともき「牌譜……見る?」

透華「ええ……」

衣「衣は見ていて楽しかったぞ、とーか!」

透華「………………こ、こんなの……こんなのわたくしじゃありませんわ!!」

 龍門渕・大将、龍門渕透華。大将戦前半……結果。

 二位:透華+14100(112600)

 淡々とした和了りでトップ風越に迫る。

 しかし、注目すべき彼女の功績は、恐らく記録には残らない。

 牌譜から読み取ることは決してできない、冷たい気配。

 それは、同卓した者にしか、感じられなかっただろう。

――――――仮眠室

咲「…………ん……あ……」

和「宮永さん! 気がつきましたか!!」

咲「あ……私……? あれ……ここは?」

和「仮眠室です。宮永さん、対局が終わったあと、気を失って倒れたんです。龍門渕の人も倒れて……そちらはチームメイトが控え室に連れていきました。宮永さんは……こっちに」

咲「え……? どうして私は清澄の控え室に運ばれなかったの……?」

和「それは……みんながそのほうがいいって言ったので。起きたときにみんなの顔があったら……宮永さんが辛いかもって。
 それで……私一人で付き添うことになったんです。お身体の具合は大丈夫ですか……?」

咲「身体はなんともないよ。心配かけてごめんね。でも……ああ……そっか。私……負けちゃったんだよね……」

 清澄・大将、宮永咲。大将戦前半……その結果。

 四位:咲-36700(47800)

咲「……自分でも……何が起こったかよくわからないんだ……急に身体が寒くなって……カンも何もできなくなっちゃった……」

和「宮永さん……」

咲「ごめんね、原村さん……私…………勝てなかったよ……」

和「み、宮永……さん……!!」

 肩を落として、目を伏せる咲。そんな咲の姿を見て、和の目から、涙が零れる。

和「……宮永さん……! 宮永さん……! 宮永さん…………!!」ポロポロ

咲「え……どうして原村さんが泣いてるの……?」

和「だ、だって……宮永さんが……そんな顔するから……! そんな……負けが決まったみたいな……顔……!!」

咲「あ……ご、ごめん……!」

和「本当ですよ……!! たった一回の半荘を負けたくらいで……なにを弱気になっているんですか……!!」

 和、ここぞとばかりに咲に抱きつく。

和「半荘一回で……強い弱いは測れません……! 宮永さんみたいな強い人でも……負けることはあります。でも……!!」

 和、咲の顔に自分の顔を寄せて、涙ながらに訴える。

和「それでも……宮永さんなら……! 最後には勝ってくれるって……!! 私……信じて待っているんですから……!!
 だから……そんな顔しないで……勝てなかったなんて……言わないでください……!! 宮永さんが負けて終わるなんて……そんなのありえませんよ……!!
 そんな終わりはありえません!!」

 咲、和から目を逸らして、照れるように、微笑む。

咲「私は……大丈夫だよ、原村さん。まだ……戦えるよ……」

和「宮永さん……?」

咲「ごめんね……そんなつもりじゃなかったんだけど……へ、変な顔しちゃって」

和「み、宮永さんの顔は変じゃありませんよ! とても綺麗ですっ!!」

咲「は、原村さん……//////?」

和「し……失言でした……///////」

 咲、和、抱き合っていることが急に恥ずかしくなって、離れる。

咲「えっと、その、原村さん」

和「なんでしょうか……?」

咲「私は大丈夫だよ。だから……最後まで見ていて……約束だよ」

和「は……はい!!」

咲「私……次は絶対勝つよ。勝って、原村さんと全国に行くんだ」

和「わかりました……。ごめんなさい、私……勘違いして取り乱したりして」

 和、乱れた服と髪を整えて、咲を見つめる。

和「信じて待っていて……いいんですね?」

咲「うん、もちろんだよ」

和「じゃあ……待っています。みんなと……あなたが勝って帰ってくるのを……!」

咲「うん……ありがとう」

 さて、このとき実は影から二人を覗いていた三人。

タコス「うわああああ! のどちゃんヘタレだじぇ! どうしてあそこで押し倒さないんだじぇ!!」

久「いやいやここはこれでいいのよ……! わかってないわね……それは優勝してからのお楽しみ……!!」

まこ「二人とも、とんでもなく悪趣味じゃのう……」

――――――対局室

 その後、透華、咲の自己申告により、対局は再開することとなる。

透華「清澄、具合が悪いならわたくしは明日でも構いませんでしてよ?」

咲「いえ、大丈夫です。ご迷惑をおかけしてすいませんでした。そういう龍門渕さんのほうは……?」

透華「わたくしはこの通りなんともありませんわっ!」

咲「そうですか……よかった。万全じゃない人を倒すのは……なんだか悪いような気がしていたので……」

透華「あなた……今さらっととんでもなく失礼なことおっしゃいませんでした?」

咲「あ、いえ……」

蒲原「ワハハ、強気だねえ、ルーキー」

福路「でも、そういう宮永さんのほうこそ、本当に万全なの?」

咲「はい。もちろんです。具合が悪いときに勝てるようなみなさんじゃないことは前半でよくわかっていますから。
 だから……心配も……手加減もしないでください。そうじゃないと……勝ったときに嬉しくありません」

蒲原「頼もしい一年生だなー」ワハハ

福路「いいでしょう。わかりました。あなたがそう言うのなら……後半も全力をもってお相手します」

透華「まったく、そんなの当然のことですわっ!」

咲「じゃあ……みなさん。大将戦後半も……よろしくお願いします」

 大将戦後半――開始!!

大将戦後半
東:蒲原智美(鶴賀) 南:福路美穂子(風越)
西:宮永咲(清澄) 北:龍門渕透華(龍門渕)

東一局親蒲原

蒲原(さーて、泣いても笑ってもこれが最後の半荘かー。
 トップ風越とは35600点差……さっきはなんだか調子の悪そうだった清澄から和了って稼いだけど……今回もそううまくいくかなー?)タンッ

福路(清澄の宮永さん……あの上埜さんが大将に持ってきた人。
 前半は龍門渕の妙な気配に圧倒されていたような感じだったけれど……今回その龍門渕がいつもの雰囲気に戻った……となれば……この後半で宮永さんは絶対に何かをしてくる……。
 これは……点差を考慮しても……一番の危険人物はやはり宮永さんかしらね……)タンッ

咲(見ていてね……原村さん!)タンッ

透華(先程はわたくしらしくない闘牌でしたわね……。そんなので勝っても全然嬉しくありませんわ! 今度こそわたくしらしく勝たせていただきますの!
 わたくしはラス親……華麗にまくって終わらせてさしあげますわ!)タンッ

 七巡目。

咲「カン」

透華(加槓……? ドラを増やすつもりでしょうか)

蒲原(有難い。ドラがなかったけど、これならカンドラか、リーチで裏ドラが乗るかもしれないなー)

福路(宮永さん……大将戦に入って初めてのカン。予選の牌譜を見る限り……ここは嫌な予感しかしない……ついに動き出すというわけね)パタッ

咲「ツモ。嶺上開花。400・700」

蒲原(えー……嶺上開花……? いやーまーそれはいいとしても清澄……最下位のくせに随分安い手で和了ったなー……さっぱり狙いがわからんぞー)

透華(清澄……何を考えていますの……?)

福路(やはり……嶺上開花。そしてその和了りの形……嶺上開花以外では役無し。点数はともかく……今の宮永さんのカン……明らかに嶺上開花を狙いにいったものと見ていいでしょう。
 上埜さん、どうやらあなたはとんでもない人を見つけたみたいですね……)

咲:49300 キャ:137200 と:112200 ワ:101300

東二局親福路

 十巡目。

咲「カン!」パタッ

透華(また……!?)

蒲原(今度は暗槓かー……まさかまた嶺上開花なんてことは……)

福路(生牌はしぼっていたんですが……暗槓ではどうしようもありません……)パタッ

 咲、嶺上牌をツモり……テンパイ。

 そして――。

咲「もいっこ、カン!」パタッ

透華(連槓……!?)

蒲原(おいおい清澄……)

福路(二連続……! これは……予選の牌譜にはなかったけれど……!)

咲「ツモ。嶺上開花。70符2飜……1200・2300」

 嶺上の花……完全開花は――間近ッ!!

咲:54000 キャ:134900 と:111000 ワ:100100

東三局親咲

福路(開始早々二連続の安和了り……まるで肩慣らしですね。そして……ここで宮永さんの親……これはそろそろ大きいのが来る……?)タンッ

咲()タンッ

透華(清澄の……いつか廊下ですれ違ったときに衣のような気配を感じましたが……まさか本当に……あなたも魔物を飼っているんですの……?)タンッ

蒲原(ここで清澄の親か……嫌な予感しかしないなー)タンッ

咲「ポン」タンッ

 咲、蒲原の六筒をポン。

透華(六筒ポン……? よくわかりませんわね……単純に食いタンで親の連荘狙い……?)タンッ

蒲原(さて……清澄。何をしたいのかはよくわからないけど……こっちも張ったからなー。今更安手で回したことを後悔するなよー)タンッ

福路(鶴賀がテンパイしたようですね……直撃は避けたい。宮永さんは気になるけれど……見たところ宮永さんの手は張ってすらいない。
 あまり神経質になり過ぎるのもよくないかしら……)タンッ

 清澄・宮永咲――その名の通り、可憐な嶺上の花を見事に咲かせ、二度の嶺上開花。

 しかし、各校――或いは咲を一番の危険人物と警戒する福路すらも――咲の真価をまだはっきりとは理解していなかった。

 もちろん、この点差、連続和了したとは言え、清澄が圧倒的劣勢なことに変わりはない。

 だがそれも、後に嶺上使いとまで呼ばれるようになる宮永咲にとっては、無関係なのかもしれなかった。

 対局の様子をモニター越しに見守っていた観客の中には、少なからず、そう感じた者もいただろう。

 咲、ツモ――六筒。

咲「カン!」カンッ

透華(加槓……! またですの!?)

 咲、嶺上牌を手の中へ。

 イーシャンテンからのテンパイ。

 そして、まだ手の内に残っている、槓材。

 まさか――と誰もが思う。

 そう……咲はここで止まらない――!!

咲「もいっこ、カン!」カカンッ

蒲原(二連続……!! また嶺上開花……!?)

 そのとき観客からははっきりと見えていた、三連続三度目の嶺上開花!!

 しかし……咲はそれでも止まらない!!

 その花は――何度でも咲く!!

咲「……もいっこ、カン!!」カカカンッ

福路(なっ……!? 三連続カン……!! 上埜さん……!!!)

 見ている者の誰もが、咲き乱れ、咲き誇るその花に息を飲む。

 嶺上開花和了拒否――からの――同巡三度目の槓!

 喰いタン一飜――張ってすらいなかったその手が――たった一巡で華麗に変貌する!!

咲「ツモ……嶺上開花…………断ヤオ対々三暗刻三槓子……8000オール」

 晒された手牌に、卓を囲む三人が、ようやく宮永咲の異常性を認識。

 その存在の大きさに――身を震わせる。

福路(……やってくれましたね……!!)

透華(意味不明!? 意味不明ですわっ!!)

蒲原(いやーこれはなー……ユミちんならこの子どうするよー?)

 清澄・宮永咲――完  全  開  花  !!!!

咲:78000 キャ:126900 と:103000 ワ:92100

東三局一本場親咲

 七巡目。

咲「カンッ!」カンッ

透華(来た……!)

蒲原(いやいや、また嶺上開花なんてそんなバカな……)

咲「もいっこカン!!」カカンッ

福路(いや……二連槓では嶺上開花はできないはず……だって宮永さんはまだ……)

咲「…………」タンッ

透華「えっ……?」

咲「切りました」

透華「ああ、いえ、わかっていますわよ……!」

透華(そうですわよね……そうそう嶺上開花なんて和了られたらたまりませんわ!)タンッ

蒲原(清澄のカン……今度は嶺上開花ではなかった……いやー、ワハハ。ホントわっけわっかんないなー。でも……まあ……それはそれとして……)タンッ

福路(宮永さん……たぶんリャンシャンテンからの二連続カン。たとえ嶺上で有効牌が来たとしてもテンパイ止まり。
 でも……宮永さんが自在にカンで手を進められるのだと仮定すれば……ここはテンパイを待ってから嶺上開花を狙うはず。
 それなら親の連荘でまたチャンスが来るはずだったのに。なぜ……?)タンッ

 福路、嶺上牌で手を進めてテンパイした咲の当たり牌をかわす、打、八筒。

 その、瞬間。

蒲原「ワハハ。風越、それは通らないなー」パラパラパラ

福路(鶴賀……!? しまっ……警戒を怠ったわけではなかったけれど……!! そして……その手は……!)

蒲原「断ヤオドラ四。8000は8300」

福路(その捨て牌とその和了り……! 私の読みを逆手にとって……点が下がるのも構わず迷彩をかけていたなんて……!
 しかも……宮永さんのカン……あれでドラ四が加わって……ただの断ヤオが満貫に……!!)

 福路、そこで一つの可能性が頭に浮かぶ。

福路(え……ちょっと待って……! じゃあ宮永さん……まさかこれを見越してわざと嶺上開花を和了らずにカンのタイミングを早めたの……!?)

 福路、その手牌。咲の大明槓を防ぐために生牌をしぼりつつ、さらに咲の暗槓をも警戒して、安手ながらも既に三面張テンパイ。

 咲が槓材を揃える前に、早和了りで咲の親を終わらせようという手作り。

福路(宮永さん……自分の手では私の早和了りに追いつかないと判断して……カンで自分に注意を向けさせておいて私が鶴賀に放銃するように仕向けた……?
 しかも……カンドラで鶴賀の手を高めることで結果的にトップであるうちの点を下げることにも成功している……。
 宮永さん……嶺上開花を自由に和了るだけならまだどうにかなると思っていましたが……今のを故意にやってのけたというのなら……正直、恐ろしいです)

蒲原(うーん……一盃口がつかなくて満貫止まりに終わったのはさすが風越ってことなのかなー。
 けど……ま、これで完全に射程距離。絶対に撃ち落してやるからな。待ってろよー、風越)ワハハ

咲:78000 キャ:118600 と:103000 ワ:100400

東四局親透華

透華(まったく! ですわ! わたくしさっきから何もさせてもらえませんの! こんなの屈辱ですわ。
 いえ、まあそれも仕方がないのかもしれませんわね。この面子、さすがのわたくしも苦戦必至ですわ。
 しかし……清澄……どうやら衣と同じ魔物の類だと思ったほうがよさそうですわね。ただ……わたくし……こう見えて魔物退治は得意でしてよ……!
 一体誰が……あの天江衣をこの舞台に引っ張ってきたと思ってますの……!)タンッ

透華(さて。さっきからヤミで張ってますのに全然出てきませんの。まあ待ちは広いですからそのうち出てくるとは思いますけれど……。でも……でもですわっ!!)

 そのとき、透華のアホ毛、立つ。

透華(そんなんじゃ目立てませんの! 今頃ギャラリーの目は清澄の嶺上開花に釘付けに決まってますわ!! そしてきっと誰もがまた清澄の嶺上開花を期待しているに違いありませんの!
 そんな中でヤミテンを和了っても……きっとわかってくれるのは一部の玄人だけ。清澄よりも目立って、なおかつわたくしが和了る……そのためには……!)ツモッ

 透華、たった今ツモった一索と、先程咲が蒲原から鳴いた二索の明刻を一瞥、そして――。

透華(ぶちかましてやりますわっ!!)タンッ

 三巡後。

透華「いらっしゃいまし! リーチですわっ!!」スチャ

蒲原(龍門渕……さっきとはまるで雰囲気が別人だけど……これはこれで厄介だなー)タンッ

福路(龍門渕……妙なところで妙なリーチをしてきましたね。
 見たところ待ちの広い手のようだったから、てっきりヤミで和了りを待つのかと思っていましたけど……この数巡で一旦テンパイを崩してまで手替わりをした。
 何か意図がある……?)タンッ

咲「カン!」カンッ

蒲原(また来た、清澄……!)

福路(宮永さんの加槓……。あ、そうか……! そういうことなのね……龍門渕……!!)

透華「その嶺上、取る必要ありませんわっ!!」

咲(え……!?)

透華「リーチ一発槍槓!! 7700ですわっ!!」

咲(えええー!?)

咲(龍門渕さんの槍槓……!! 信じられないよ……!!
 なんか変なことしてるような気はしてたけど……それ……高め三色の平和と断ヤオと三面張と――全部崩して私の加槓を狙ったってこと…………だよね。
 そんな……びっくりだよ……! さっきの龍門渕さんは別として、普段の龍門渕さんは原村さんみたいな打ち手だって聞いてたのに……)

透華(やりました!! やってやりましたわっ!! どうですか、見ましたか!? わたくしのこの華麗な狙い撃ち!!!
 清澄の嶺上開花を抑え込んでの一発和了りっ!! 絶対目立ってるに違いありませんわ!!)

透華「さあ、わたくしの連荘でしてよ!!」コロコロ

――――――龍門渕・控え室

一「透華……ボク心臓が飛び出るかと思ったよ」

衣「愉快痛快! 抱腹絶倒!!」

ともき「……目立つためだけに色々なものを捨てた……」

井上「いやまあ過程はどうあれ結果は最高だろ。あのまま待ってても透華の当たり牌は風越と鶴賀の手の中。黙ってたらテンパイ流局が積の山だった状況を覆したんだからよ」

咲:70300 キャ:118600 と:110700 ワ:100400

東四局一本場親透華

福路(龍門渕……前半と比べても遜色のない強敵……見事な槍槓……)タンッ

福路(もちろん……わかっていたことです。この場の誰一人として……簡単に勝たせてくれるような相手ではない。
 そう……魔物は清澄だけではない……鶴賀も……龍門渕も……この場に魔物は三人いる……! そう思って打たないといけませんね……)タンッ

福路(焦らずにいきましょう……私は名門風越のキャプテン……ここで負けることは許されない……!)タンッ

 十巡目。

福路「ツモ。タンピン一盃口ツモドラ一……2000・4000は、2100・4100」

蒲原(この人は本当に隙がないなー)

透華(あー! わたくしの親が流されましたわっ!! わたくしは子供より親やるほうが好きなのに! ですわっ!!)

咲(うーん……なんかイマイチな感じだよー……)

咲:68200 キャ:126900 と:106600 ワ:98300

南一局親蒲原

蒲原(風越……なんだかんだでこの大将戦一度もトップから転落していない。
 っていうかさっきの直撃……よーく思い返してみると……あれが風越にとってこの大将戦初の放銃だったわけで……。
 ぶっちゃけこの人のほうが清澄以上に信じ難い打ち手だよなー……。
 となると……ここはツモ和了りに期待するしかないかー)タンッ

 八巡目。

蒲原「ツモ。リーチ一盃口ツモ。2000オール」ワハハ

蒲原(これが最後の親……できる限りのことをやるしかないなー。最善を尽くして、そこにさっきくらいのバカツキが味方してくれれば……ここから風越をまくるのは決して不可能じゃないはず。
 ただなー……あの清澄がなー……あの倍満以降大人しいのが……恐いっちゃ恐いけど……うーん。
 ま、なんにせよ、まだまだここで終わらせるわけにはいかないよなー。
 モモと……ユミちん……佳織に……むっきー……私はみんなと笑って終わりたい……。
 みんな……最後まで見ててくれよ。
 無理でもいい……無茶でもいい……絶対に勝って帰るからなー……)ワハハ

咲:66200 キャ:124900 と:104600 ワ:104300

南一局一本場親蒲原

 五巡目。

福路「ツモです。白ドラ一、500・1000は600・1100」

蒲原(うわっ、風越早いなー……。親が流されたかー……)

福路(親の連荘などさせません!! このまま私が逃げ切ります……!!)

蒲原(逃げる気満々って感じだな……ワハハ……そうこなくっちゃなー……)

咲:65600 キャ:127200 と:104000 ワ:103200

南二局親福路

咲(うーん……なんかおかしいよ……。力は十分な気がするんだけど……何か違う……。家族麻雀や合宿最終日での感じ……あれがまだ……)タンッ

『ここ……この割れ目が……割れ目がこすれて気持ちいいじょ……』

咲(あ――! 思い出した……!!)タンッ

透華(清澄……対局中になにをもぞもぞと……?)タンッ

蒲原(ん、清澄……どうした……?)タンッ

福路(宮永さん……?)タンッ

 咲、おもむろに靴を――そして靴下を脱ぐ。

咲(……これだ!!)

 咲、裸足ッ!! 魔王力を最大まで高めた! そして、裸足状態での最初のツモ!

 既に嶺上開花の構えに入っていた咲、そのツモで暗槓が成立!!!

咲「カン!!」カンッ

 清澄・大将宮永咲――ここで本日四度目の……!!

咲「ツモ。嶺上開花ツモ赤一……1300・2600です!!」

咲:70800 キャ:124600 と:102700 ワ:101900

南三局親咲

福路(宮永さん……また安手の嶺上開花……それで私の親が流れたのはどちらかと言えば助かりましたが……ただ、これで終わるわけがありませんよね)タンッ

福路(東場……肩慣らしのような二連続和了からの親の倍満……。またそれを狙うつもりですか……? しかし、そう何度も何度も……同じ手は食いません……)タンッ

 九巡目。

福路(さて……ここで六萬ツモですか。先程からカンチャンの四萬待ちでテンパイしている私はここで当然この六萬を残し、四・七萬のリャンメンに切り替えるために三萬を切ります。ただ……)

福路手牌(********三五六六六・ツモ六)

福路(宮永さん……恐らくはもうテンパイしている。見えている範囲では……恐らく二・四・五萬待ち)

咲手牌(*********三三三四)

福路(この三萬は宮永さんの当たり牌ではない。しかし……宮永さんならここで三萬を大明槓する可能性がある。大明槓のツモは責任払い。
 本来当たり牌でもなんでもない三萬で……私が親の宮永さんから直撃を受けることになる。
 リャンメン待ちを捨ててでもここは六萬打ちが正解かしら……。でも……ここでこの六萬が来た……このことに……何か意味があるような気もします……)

 福路、熟考。

福路(そう言えば……中堅戦の天江衣。海底を連発する全国区の魔物。ただ……その天江がいるなかで……中堅戦一度だけ天江以外の人が海底を和了った。
 鶴賀の妹尾さん。鳴いてツモ巡をずらし……そして……自分が天江に代わって海底。同じ魔物を相手にするのに……これはヒントかもしれません)

 福路、前巡、前々巡のことを思い出し、さらに思考を進める。

福路(宮永さんはずっと手替わりしていない。宮永さんはかなり前からテンパイしていた。なのに……最下位にもかかわらずなぜかリーチをかけなかった。
 その理由の一つは……リーチ後では大明槓ができないから。それと……もう一つ)

福路(宮永さんのその手では……リーチをすると大明槓だけでなく暗槓もできなくなる。それでは嶺上開花は和了れない。
 結論として、宮永さんが今までリーチをしなかったのは、大明槓か暗槓のチャンスを待っていたからということになる。
 つまり……よほどの確信を持って、嶺上開花を和了れると思っているわけね)

福路(天江衣に海底牌が見えるように……宮永さんには嶺上牌が見えているのかもしれない。
 だとすれば……当然宮永さんは四萬を嶺上でツモって和了り。最初から二・五萬で和了るつもりなんてない。それならとっくにリーチをかけている。
 きっと……宮永さんの眼には嶺上の四萬しか映ってないんだわ)

 福路、自分の手牌を確認し、そして、その両眼に見える範囲で、もう一度咲の手牌をイメージする。

福路手牌(********三五六六六・ツモ六)

咲手牌(*********三三三四)

福路(四萬待ち、か。私と…………同じね……!!)

 福路――仕掛けるッ!!

福路「カン!!」パラッ

咲(!?)

 福路、嶺上牌に手を伸ばす――盲牌、瞬間、微笑!!

福路「ツモ――! 嶺上開花ツモ断ヤオドラ一。2000・4000!!」

 福路、咲、交錯する視線――!!

咲(わ……私の嶺上が……盗られた……!!!?)

 咲――動揺ッ!!

福路(さあ――これで突き放したわよっ!!)

 福路――磐石ッ!!

咲:66800 キャ:132600 と:100700 ワ:99900

咲(そんな……!! 嶺上牌だけじゃない……嶺上開花まで盗られるなんて……! 嶺上開花は……私だけの……私の名前と同じ役なのに……!!)

福路(ふふふ……驚いてる驚いてる。海底を和了られたときの天江もそうだったけれど……あなたたち魔物は自分の領域を侵されるのが一番応えるみたいね。
 さて、宮永さん。これであなたのラス親はおしまいよ。龍門渕は当然連荘狙いでくるだろうけれど、そんなことは私がさせないわ。
 最後にもう一度私が和了って終局。それでうちの優勝が決まる。宮永さん……上埜さんに大将を任された一年生……あの天江衣と同等の魔物。
 けれど、わかっているわよね? 今の嶺上開花で私とあなたの点差は65800点。役満直撃でも私をまくることはできない。
 それでも……あなたはここから逆転するつもり……? そんなことがもしできるとしたら……それはそれで……見てみたい気もするけれど……)

咲(こんなのってないよ……! 私の嶺上開花……!! 誰かに盗られたまま終わるなんて……そんなの絶対に嫌……!!)

福路(でも……ダメ! やっぱり優勝するのは……私たち風越よ!!)

咲(そうだよ……! これくらいで諦めるわけにはいかない……!! 嶺上の花は私だけのもの……何度だって咲かせてみせる!!
 そして……私たちが優勝するんだ……!!)

福路(最後の一局……必ず……勝ってみせる!!)

咲(最後の一局……咲くのは……私!!)

 果たして勝利の花は誰の元に咲くのか――!!

 インターハイ県予選団体戦決勝……ついに最後の一局へ!!

南四局親透華

咲:66800 キャ:132600 と:100700 ワ:99900

透華(この親で連荘……まくって優勝……!! 勝って目立ってやりますわっ!!)タンッ

蒲原(この点差……倍満直撃でもちょっぴり足りないかー。これは思っていたよりもきっついぞー。でも……みんなが見てるからなー。これくらいで諦めるわけにはいかないさー)タンッ

福路(勝つのは風越です……! ここで私が和了って……私たち風越が最強であることを証明します)タンッ

咲(……原村さんと約束したんだもん……私……絶対に勝つよ……)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 そして、場は静かに進行していく……。

――――――観戦室

「の、和先輩のお友達さんの手……すごいことになってます……!」

「いや……他の人たちの手もなんだかえらいことになっているような……」

「ねえ……これ……誰が勝つと思う……?」

「わからない……勝ってほしいところなら……決まってるけど」

――――――対局室

 十一巡目。

福路(ツモはならず。それにしても、ここで……一筒)

福路手牌(二二二四四五[五]六六七八九九・ツモ①・ドラ西)

福路(宮永さんの手……明らかに筒子の染め手。この一筒が宮永さんの当たり牌でもあるだろうし、大明槓の可能性もある)

 福路、点差を確認。

福路(この状況……もし宮永さんから役満の直撃を受ければ……優勝は龍門渕……)

 福路、小さく首を振る。

福路(いや……それはありえないわ。宮永さんはまだ私に勝つことを諦めていない。この状況で他校の優勝を決めるような和了りは絶対にしない。それは信じましょう。
 この卓にいる全員が……まだ勝ちを諦めていない。となれば……)

福路(ここはこの一筒を切っても問題はない。逆に、例えばこの一筒を抱えたままテンパイするとして……そのために切らなくちゃいけなくなる九萬は……龍門渕の当たり牌。
 宮永さんの動きには最大の注意が必要だけれど……現実的に、龍門渕に振り込むほうが遥かにリスクが高い)

透華手牌(一一七七八八九⑤⑥⑦ⅦⅧⅨ・ドラ西)

福路(やはり……ここは一筒。宮永さん……何を狙っているかはわからないけれど……カンしたければすればいいわ!)

 福路、打、一筒。

咲「カン!!」ボッ

福路(本当に来た……大明槓……!!)

透華(清澄……!?)

蒲原(清澄……何をする気だ……!!?)

咲手牌(②②②②③③③③④[⑤]/①①①①・嶺上ツモ④)

咲「もいっこ、カン!」ボボッ

咲手牌(③③③③④④[⑤]/①①①①/②②②②・嶺上ツモ④)

咲「もいっこ――カンッ!!」ボボボッ

咲手牌(④④④[⑤]/①①①①/②②②②/③③③③・嶺上ツモ⑤)

 咲、嶺上開花和了。嶺上開花清一対々三暗刻三槓子赤一――数え役満!!!

 しかし――当然和了り拒否!!

 咲、打、嶺上牌の五筒!!

 福路、咲の打五筒を見て、ひとまず安堵の溜息。

 しかし、直後に気付く!

 魔物――宮永咲の真意に!!

福路(し――まった!! まさか……そんなことって……!! そういうことなの……!? 宮永さん……!!)

 三連続カン。

 当然増える――ドラ!!

 三枚捲られたカンドラ表示牌は――六萬、九萬、九索!!

 即ち、七萬、一萬、一索が……ドラッ!!

透華手牌(一一七七八八九⑤⑥⑦ⅦⅧⅨ・ドラ西・一・七・Ⅰ)

 透華、高めでも平和一盃口だった手に……ドラ四がつく!

 もちろん……それはヤミでも十分な手。最低でも親満。ツモか一盃口がつけばハネ満。親で連荘が狙える現状なら、わざわざリーチをする必要などない。

透華(わかっていますわ……ヤミでも十分。ここを和了って、次にもう一度でも二度でも和了ればいいだけの話……)

 しかし、そこは、龍門渕透華!!!

透華(ツモ和了りができるのならそれで問題はありませんけれど……どの道ツモで和了れる運命にあるのなら……リーチがかかっているかいないかなんて無関係!!)

 透華、山から牌をツモる。それは自分の当たり牌でも風越の当たり牌でもない牌。

 透華……風越・福路を見据える。

透華(風越……あなた相手に連荘ができるなどと……わたくしそんな都合のよいことは考えていませんの!
 それならば……このワンチャンス……!!
 リーチでハネ満を確定させ、ツモではなく……あなたにハネ満を直撃する……! それならその瞬間に私たちの優勝ですわっ!!)

 透華、ツモ牌を河に置き、曲げる!!

透華「――リーチですわっ!!」ゴッ

透華(不確定な未来などわたくしはアテにしませんの! 今……この今に逆転のチャンスが舞い込んできたのなら……! それを掴み取ってこそのわたくしですわ!!
 風越……悪いですわね……!!
 今年もまたわたくしたち龍門渕の優勝ですわよっ!!!)

 透華のリーチを見た蒲原、思わず、笑みが零れる。

蒲原(ワハハ……これは……笑うしかないなー)

蒲原手牌(三三三四五六七ⅠⅠⅠ西西西・ドラ西・一・七・Ⅰ)

蒲原(これなら三暗刻がつかなくても、リーチをかければリーチドラ七で倍満。それを風越に直撃すれば……龍門渕の出してくれたリー棒も合わせて逆転できるじゃないかー。
 もしくは七萬を一発で引いてくれば……一発ツモ三暗刻ドラ一がさらに加わって数え役満……直撃じゃなくてもひっくり返るぞー)

 蒲原、山から牌をツモる。それは自分の当たり牌でも風越の当たり牌でも龍門渕の当たり牌でもない牌。

蒲原「ワハハ。これは私もリーチするしかないなー」スチャ

蒲原(ついに捉えた……あとは撃ち落すだけ。見ていろー、風越)

 龍門渕と鶴賀の二人同時リーチ。

 しかし、風越・福路、この同時リーチに対する動揺は――皆無!

 なぜならこのとき、

福路手牌(二二二四四[五]五六六七八九九)

透華手牌(一一七七八八九⑤⑥⑦ⅦⅧⅨ)

蒲原手牌(三三三四五六七ⅠⅠⅠ西西西)

 ドラ表示牌は南・六・九・Ⅸ。

 さらに河を合わせれば……。

福路(この状況……たぶん私と龍門渕と鶴賀の三人で当たり牌を持ち合っている。
 完全な膠着状態……龍門渕と鶴賀はリーチをしてきたけれど、かえってリーチで二人の手が固まったから、私が手を崩さない限り二人が和了れる可能性はゼロに確定した。
 このままツモ切りを続けていけば、三人テンパイで流局。親の連荘は嫌だけれど……そうそう逆転できるような高い手など作れないでしょう。今度こそ私が和了って、おしまいにします……)

 福路の両眼から見れば、龍門渕と鶴賀の脅威はもはやないと言ってよかった。

 しかし、そんな福路でも見切ることのできない――拭い切れない最後の不確定要素が、清澄・宮永咲!!

福路(宮永さん……とんでもないことをしてくれましたね。
 宮永さんのカンドラによって手が高くなった龍門渕と鶴賀……その二校から場に出された二本のリー棒……これで……これで宮永さんは私を射程に捉えた……この状況で宮永さんが私から役満を和了れば……ほんの200点差ですが……清澄の勝利……逆転が可能……!
 本当に……魔物としか言いようがありません……!!)

 福路、山から牌をツモる。

 それを見て、福路、唇を噛む。

福路(これが……これがあなたの麻雀ですか……!? 清澄……宮永……咲…………!!!)

 福路が掴んだツモ牌は、四筒。

咲手牌(④④④[⑤]/①①①①/②②②②/③③③③)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

福路(落ち着きましょう……私。一つずつ、私が今何を切るべきか……考えましょう……)

 深呼吸をしてから、福路はその両眼で、卓上の全てを見る。

福路(これはダメ……これはダメ……これはダメ……これはダメ……これはダメ……これはダメ……これはダメ……これはダメ……これはダメ……これはダメ……これはダメ……これはダメ……これは……ダメ)

 福路、端から順番に手牌の十三牌を、全て伏せる。

福路(ダメ……! どれも切れない……!! 切った瞬間にうちの優勝が消える――そんな牌は……絶対に切れない!!)

 となれば、自動的に、消去法で、当然の打、四筒。

福路(これだけが……まだ一縷の望みがある牌。なら……ここはこれしかない……他に切る牌がないのだから……これしか……ない……)

 福路、四筒を河に置こうとして、手が止まる。

福路(これしかない……か)

 そして、福路、三人から見られないように、僅かに微笑む。

福路(例えば……いつか……まだ見ぬ私の後輩たちが……部に残る私の牌譜を見たとしましょう……)

 福路は未来の風越のことを思う。

福路(この状況……私がこのまま四筒を切って……もしそれで風越が負けるようなことがあったとして……それを見た子たちは……私の牌譜から何を感じるかしら……)

 当然の、一打。自動的な、一打。消去法の、一打。

福路(私がここで四筒を切る……そのことに変わりはない。けれど……私のこの一打はきっといつまでも部の歴史に残る。
 名門風越のキャプテンとして……県大会の決勝……大将戦後半……オーラス。その最後になるかもしれないこの一打。
 それをいつか……私の……風越の後輩たちが見る。その子たちは……一体……そこから何を感じるかしら。
 いいえ……違う。私は……その子たちに……何を伝えたいかしら……)

 福路、点棒を確認。

福路(吉留さん、文堂さん、深堀さん、華菜……それに部員のみんなと……久保コーチ。みんなのおかげで私はここまで来ることができました……。本当にありがとう……。
 私は最後まで……風越のキャプテンとして……名門風越の名に恥じない麻雀を打とうと思います。私は私の信念を貫きます。
 そして……私は私の誇りに……たくさんの未来の後輩たちに……風越の素晴らしさを伝えたいと思います……!)

 福路、その両眼で、咲を見つめる。

福路「宮永さん……あなた、ここで勝てると思っているのですか?」

 咲、急に話しかけられて、戸惑いながらも、毅然と返事をする。

咲「はい。勝って、全国に行きます。みんなと約束しました。それに私には……全国で戦いたい人がいるんです」

福路「そうなの……。でも、あなたは全国がどういうところか……知っていますか?」

咲「い……いえ」

福路「私は……多少だけれど知っているつもりです。全国には――あそこには……今のあなたでは敵わないような人が……たくさんいます」

咲「は、はい……。それはなんとなくわかります。頑張ってもっと強くなって……そういう人たちにも勝てるようになりたいと思います」

福路「そっか……さすがですね、あなたくらい頼もしい一年生はそういないですよ」

咲「あ、ありがとうございます……」

 福路、ここで、ゆっくりと四筒を河に置く。

福路「宮永さん……もし、あなたが全国に行くというのなら、そのときは……私たち風越も一緒につれていってほしいんです」

咲「え……? どういう……ことですか?」

福路「こういうことです」

 福路、河に置いた四筒を、曲げる。

 そして、点棒箱から千点棒を取り出し、宣言。

福路「リーチ……」チャ

咲「風越……さん……?」

福路「もしあなたが全国へ行くというのなら、このリー棒は私たち風越からの餞別です。受け取って……そして……失くさずにとっておいてください。
 また来年……私ではない……私の後輩たちが……必ず取り返しにいきますから」

咲「風越……さん……!」

 すると、このやりとりを見ていた蒲原と透華が、同時に笑った。

蒲原「ワハハ。風越、面白いことを言うなー。よーしそれなら清澄。ここでもしお前が勝ったら……うちのリー棒も持っていっていいぞー。
 ちゃんと大事に取っておけよー。来年利子つけて返してもらうからなー」

咲「鶴賀さん……!!」

龍門渕「仕方ありませんわね、清澄! あなたが勝ったときはわたくしたちのリー棒も持っていってよろしくてよ。
 ただ……鶴賀や風越と違ってわたくしたちは二年……この手で取り返しに行かせていただきますから覚悟しておいてくださいまし!!
 うちの衣はそれはそれは恐ろしいですわよ……せいぜい腕を磨いて備えておくことですわねっ!」

咲「龍門渕さんも……!! はいっ!! ありがとうございます。私……私たち……絶対にみなさんの分まで……全国で勝ってきます……!!」

 咲の言葉を聞いた三人、揃ってそれを笑い飛ばす。

福路「宮永さん……もしかしてもう勝った気でいるんですか? 勝負はまだ終わってないのに」クスクス

蒲原「大した自信だなー。本当に面白いやつだよ、清澄」ワハハ

龍門渕「さあ、風越は牌を切りましたわよ。鳴くわけでもないなら早くツモってくださいまし。わたくしは気が短いのですわっ!」フフン

咲「みなさん……! はい……わかりました……! でも……やっぱり勝つのは清澄です!! 全国に行くのは――私たちです!!!」

咲「カン――!



        ツモ……!




               嶺上開花…………
















                      …………四槓子……!!」

――――――風越・控え室

 風越・福路、帰還。

池・み・文・深「キャプテン……!」ウルウルウル

福路「みんな……」

池・み・文・深「わああああああああああん!!!!」ボロボロボロ

 部員全員、号泣して福路に抱きつく。

 福路、ちょっと困り顔。

 そこに、携帯を持った久保、登場。

 久保の放つ覇気によって、部員たちは福路から引き離される。

 そうして福路の前に立つ久保。福路、深々と頭を下げる。

福路「申し訳ありませんでした」

久保「頭を上げろ、福路。私はそんな台詞を聞きに来たわけじゃねえよ。ただ……最後のリーチ。ありゃなんだ。言ってみろ」

福路「あれは……あれが……私たちの――風越の麻雀です!!」

久保「テメェ……福路――!!」

 久保、手を上げる! 池田、飛び出せず! 福路、覚悟は出来ている!

 しかし、振り上げられた久保の手はそのままそっと福路の頭の上に置かれ――、

久保「……よくわかってんじゃねえか……」

 久保、そう言って福路を自らの胸に抱き寄せる。

福路「!! は……はい……! ありがとうございます……コーチ……!!」ウルウル

 福路、必死に涙を堪える。久保、そんな福路を見て、溜息。

久保「いいから……泣きたいなら泣けよ。キャプテンであるテメェの涙を受け止めるのは、監督である私の仕事だ」

福路「で……でも……! それではコーチのお召し物が汚れてしまいます……!!」ウルウル

久保「バカ野郎!!」

 久保、福路の目を見つめる。

久保「テメェのその綺麗な瞳から零れた涙が……汚ねえわけねえだろうが!」

福路「コ……コーチ……!!!」ポロポロッ

池・み・文・深(コーチやっべええええええええええええ……!!!)

久保「おい池田ァァァァァァ!!!」

池田「は、はいぃぃ!!?」

久保「なに羨ましそうにこっち見てんだ池田ァァ!!」

池田「は、はい!! すいませんっ!!」

久保「そんなに羨ましいならテメェが来年風越を優勝させればいいだろうが池田ァァァ!!!」

池田「は、はい!! は……え……?」

久保「テメェが来年風越のキャプテンとして県予選決勝の大将戦で龍門渕の天江と清澄の宮永を同時にトバして優勝決めろっつってんだよ池田ァァァァァ!!!」

池田「は、はいいいい!!」

久保「そしたら観客席からこいつが泣きながらテメェに抱きつきにくるだろうがそれくらいわかれよ池田ァァァァァァ!!」

池田「わ……!! わかりましたっ……!!!! 来年こそ……!! 来年こそ絶対にうちが優勝して全国に行きます!!!!」

 久保、微笑。

久保「今の言葉は忘れねえからな! そうと決まれば、テメェらァ!」

全員「はいぃぃ!!」

久保「ホテルを連泊できるようにしておいたから、今日は全員ゆっくり休みやがれ!!」

全員(今日のコーチマジやべええええええええええ!!!)

――――――鶴賀・控え室

 蒲原、帰還。

モモ「お疲れ様っす!!」

妹尾「お疲れ様!!」

蒲原「おお、モモに佳織。出迎えご苦労。いやーまいったまいった勝てなかったー。いやー本当にメンボクないー」

睦月「蒲原……先輩……!!」

蒲原「おー、むっきー。取り返せなかったよ。悪かったなー」

睦月「いえ……そんなことは……いいんです……!」

蒲原「そっかー。じゃあまー、むっきー。来年の鶴賀をよろしく頼んだぞー」

 蒲原、そう言って睦月の肩に手を置く。

蒲原「今年はこうやって決勝まで来れたんだ。きっと来年は新入生がわんさか入ってくるからなー。自分だけじゃなく後輩もみっちり鍛えてやるんだぞー?
 そんで来年……むっきーたちの全国応援に行くの、私もユミちんも楽しみにしてるからなー!」

睦月「はいっ! 先輩……! 私……頑張ります……!」

蒲原「おー。その意気があれば大丈夫そうだなー。なあ、ユミちん?」

 加治木、小さく溜息をついて、無言で蒲原の元に歩み寄る。蒲原の首に腕を回す加治木。二人はそのまま控え室の外へと出て行く。

モ・妹・睦「え?」

――――――鶴賀・控え室・外

かじゅ「あのなぁ、蒲原」

蒲原「なんだよー、ユミちん」

かじゅ「負けたときくらいは泣いてもいいんだぞ」

蒲原「さすがユミちんは男前だなー。モモじゃなくても惚れそうだー」

かじゅ「心配するな。みんなには黙っといてやるから」

 加治木、強引に蒲原を抱き寄せる。

 蒲原、諦めたように加治木の肩にもたれる。

 加治木の肩は、震えていた。

 蒲原と、同じように。

 たった二人の三年生。

 部の始まりからここまでを。

 共に歩んできた仲間。

 その二人の間に。

 見栄や意地は――不要。

蒲原「……なあ……ユミちん……」

かじゅ「……なんだ……蒲原……」

蒲原「……負けちったよー……」

かじゅ「……そうだな……」

蒲原「……私たち……みんなで戦うのはこれで最後かー……」

かじゅ「……ああ…………そうだな……」

蒲原「……ワハハ……ワハハハ…………」

かじゅ「…………蒲原……何を……笑っている……」

蒲原「……おいおい……ユミちん…………これが……笑ってるように見えるのかー……?」

かじゅ「……わかってるだろ…………お前と同じだ…………今の私は何も見えん……」

蒲原「……ワハハ……だーよなー……ワハハハハハハ………………」

――――――龍門渕・控え室

 龍門渕透華、帰還。

井上「よう、帰ってきたな」

ともき「……お疲れ様……」

一「おかえり、透華」

衣「うむ。いい半荘であったな」

 透華を暖かく迎える四人。透華、少し目が潤む。しかし、そこは龍門渕透華、笑顔で胸を張る。

透華「残念ながら優勝はできませんでしたわ!」

井上「おう、そうだな」

透華「これは来年リベンジするしかないですわね!」

ともき「うん……わかってる」

透華「それまでにまた強くなるんですわ!」

一「そうだね。またみんなで頑張ろう」

透華「そうと決まれば特訓! 特訓ですわ!!」

衣「ちょ、ちょっと待って……とーか……」

透華「衣……。なんですの?」

衣「来年……それが終わったら、そのあとはどうなるのだ……?」

 不安げな表情で尋ねる衣。しかし、衣以外の四人は、微笑っている。

井上「お前は何を言ってんだよ、衣」

ともき「……そんなのわかりきったこと……」

一「もちろん決まってるよ。ね、透華」

透華「ええ。来年も再来年もそのあともみんな一緒ですわ!! わたくしたちはもうただの友達じゃない――家族みたいなものなのですわよ?
 家族なら……これからもずっと一緒に決まってますわっ!!」

衣「か……ぞく……!」

 衣、感極まって透華に飛びつく。一、井上、ともき、それを見守る。

衣「とーか……みんな――ありがとう……!!」

実況『清澄・宮永咲。オーラスでの見事な四槓子ツモ。大明槓からの嶺上開花ツモは責任払い。
 他家の出したリー棒を含めて65800点差をひっくり返し、大逆転。清澄高校の優勝を決めました。なお、大将戦並びに大会結果はごらんの通りです』

大将戦前半
一位:蒲原智美+29800(102000)
二位:龍門渕透華+14100(112600)
三位:福路美穂子-7200(137600)
四位:宮永咲-36700(47800)

大将戦後半
一位:宮永咲+54000(101800)
二位:蒲原智美-3100(98900)
三位:龍門渕透華-12900(99700)
四位:福路美穂子-38000(99600)

総合優勝
一位:清澄高校
二位:龍門渕高校
三位:風越女子高校
四位:鶴賀学園高等部

ベストファイブ(前後半合計獲得点数一位)
先鋒:東横桃子(鶴賀)
次鋒:加治木ゆみ(鶴賀)
中堅:天江衣(龍門渕)
副将:池田華菜(風越)
大将:蒲原智美(鶴賀)

半荘獲得点数上位
一位:池田華菜+66400点(副将戦前半)
二位:宮永咲+54000点(大将戦後半)
三位:妹尾佳織+32900点(中堅戦前半)
四位:蒲原智美+29800(大将戦前半)
五位:天江衣+28300点(中堅戦後半)

役満和了
・国士無双(妹尾佳織・池田華菜)
・字一色(妹尾佳織)
・四暗刻(池田華菜)
・数え(池田華菜)
・四槓子(宮永咲)

Most Valuable Player
宮永咲(清澄)

My Yome Player
竹井久(清澄)

――――――対局室

 対局が終わっても、戦いの跡はまだ卓上に残っていた。

『嶺上に――咲くは五輪の――赤い花』

 この決勝――後にその記事を書くことになった誰かが……そんな見出しを提案したとかしないとか。

 その花を咲かせた当の本人は、しかし、眼下の花ではなく、対局室の高い天井を見上げて呆然としていた。

咲(……勝った……)ボー

和「宮永さん……!!」

咲「は、原村さん……!! みんなもっ!!」

タコス「咲ちゃんなかなか帰ってこないから迎えにきたじぇー」

まこ「お疲れ様じゃ。わりゃあ本当にようやってくれたのう」

久「それで、咲。どうだった、大将戦は?」

咲「大将戦は……すごく、楽しかったです……!」

久「そう。それはよかった」

和「あ……宮永さん、そのリー棒……」

咲「あ、これね。風越さんと、龍門渕さんと、鶴賀さんからもらったんだ」

久「またえらいものを受け取ってしまったわねえ」

咲「はい。でも……これで、全国で戦う理由が増えました!」

久「そうね。県の代表として精一杯戦いましょう」

咲「はいっ!」

 和、リー棒を持つ咲の手を、両手で包む。

和「宮永さん、勝ってくれると信じてましたよ」

咲「ありがとう。私もね、最後の嶺上、絶対引けるって思ったよ」

 和、咲、少し見つめ合って、同時に笑い出す。

和「そんなオカルトありえません」

咲「あ、それ言われると思った」

 その後、清澄の五人は表彰式の前に一枚の写真を撮った。

 そこに写っていたのは五輪の大花。

 美しい――笑顔の花が――咲いていた。

<槓>

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年04月01日 (火) 23:23:02   ID: NNUcT444

これは、スッゴい面白かったです。楽しい作品をありがとうございました

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom