渋谷凛「私の先輩は肉まんアイドル」 (194)

*肉まん注意*

*モバマスSS?*

*あんまん立入禁止*

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店長「渋谷さんねぇ~、もうちょっとこう、愛想よくならないかなぁ~」

凛「はあ……」

店長「せっかく綺麗なんだからさぁ、もっと……イラッシャイマセーって感じの声でさぁ~」

凛「……イラッシャイマセー」

店長「いやね、裏声でやってほしいってわけじゃないんだよ~」

凛「よくわからないです……」

店長「うーん、なんて言えばいいのかなぁ~」



凛(うちの花屋の手伝いでは貰えるお小遣いが少ないので、アルバイトを始めた)

凛(せめて服を買うお金だけでもと、シフト少なめに入れるバイト先を探したのだ)

凛(条件を絞ったバイト探しは難航するかと思いきや、案外すぐに勤め先が決まってしまった)

凛(それがこの、寂れたローソンだった)


店長「まぁここはお客さんも少ないし、列も出来にくいからね。ゆっくり慣らしていけばいいかな」

凛「はい」

店長「今日は大体のこと教えたつもりだけど、わからないことがあればいつでも聞いてね」

凛「はい、その時はお願いします」

店長「うんうん、渋谷さんしっかりしてるから、すぐに仕事覚えちゃうと思うよ~」


店長「あ、でも仕事中はピアス駄目ね~」

凛「あっ……すみません」

店長「始めてのバイトなんだよね? まぁ、何事も経験だと思ってさ」

凛「」はい

店長「色々失敗もあると思うけど、その度に覚えていこうね~」

凛「はい、ありがとうございます」


凛(店長は優しいし、しっかりしているし、とてもいい人だ)

凛(けど)


大学生「うぃーす、らっしゃっせー」

凛(この男の人と仲良くできるかと問われると、かなり疑問がある)

凛(見るからにやる気がなさそうで、どこか強面な大学生の男)

凛(裏でもほとんど話すことのない先輩だった)


「すいません、あんまん一つください」

大学生「あぁあーっす」

凛(この人、クレーム来ないのかな)


凛(バイトを始めて数日が経った)

「君、可愛いね、近所住み?」

凛(数日で、変な客が現れた)

「渋谷ちゃんっていうんだ、名前なんていうの?」

凛(面倒くさいので無視している)

「……チッ」

凛(こうして無視していれば去ってくれる聞き分けの良い人はまだ良い。悪いパターンがある)


「今日も渋谷ちゃんなんだ、ラッキー」

凛(この男は、しつこい部類の客だった)


「渋谷ちゃんって、やっぱ彼氏とかいるんでしょ?」

凛(とにかくタチが悪い)


凛「440円になります」

「ねえ、バイト何時に終わるの?」

凛「500円お預かりします」

「終わったらどこか行こうよ、奢るからさ」

凛「60円のお返しになります」

「ねえ、渋谷ちゃん、どう?」

凛「お客様、お釣りです」

「いや、それはいいからさ。ね?」

凛「困るんですけど」

「大丈夫、本当に全部奢るから、ね?」

凛「……」


凛(面倒くさいので、こういう時は同じバイトの先輩を呼ぶようにしている)


大学生「ぁああーっす、何、渋谷さん。なんかあったん」

「……チッ」

凛「まあ、はい」


凛(こういう時だけ、柄の悪そうな先輩は役に立ってくれる)

凛(呼び出せば、大抵の場合は相手が引き下がってくれた)


大学生「またぁ? 今休憩中だから、あんま呼ばないどいてね」

凛「……はい」

凛(けど、バイト先での人間関係は、上手くいっている……とは、言えなかった)

凛(悪いわけでもないんだけど)


「君どこ高?」

凛「410円になります」


「下の名前教えてよ」

凛「440円になります」


「渋谷ちゃん、メアド教えてよ」

凛「410円になります」


凛(私はやたらと声をかけられる)

凛(良い意味じゃない。変な男ばかりに声をかけられてしまう)

凛(客足の少ないコンビニだけど、私目当てで来る客は多いように感じた)


凛(あとこいつら、タバコ買いすぎ)

凛(私はタバコのついでかよ)


凛(軽く見られてることが、なんかムカついた)


凛「いらっしゃいませ」

「すいません、肉まんひとつください」

凛「普通の肉まんでよろしいですか」

「はい、安いやつで」

凛「はい」


凛(バイト自体には慣れてきた)

凛(最初は覚えることが多かったけど、覚えてしまえば、やることはそう多くない)

凛(楽な仕事、嫌な仕事もわかるようになってきた)


パカ


凛(仕事中のこうして中華まんを取り出す動作は、私にとってちょっとした休息だ)

凛(寒い冬、空調でちょっとは暖かい店内でも、手は冷えているから)

凛(一瞬だけでも暖かい中華まんの温もりは、私を癒してくれる気がして……)


ガサ……

凛(えっと、これを紙袋に入れて……)


(*・∀・*)……

凛「……ん?」


(*・∀・*)ウルノ?

凛「!?」


ガサ……


「あれ、その肉まんでいいですけど」

凛「……こっちの肉まん、少し古いものだったので、別のにします」

「あ、そう」


(紙袋)*・∀)ミィ


凛(見間違い、見間違い……それより、会計だ)


ガサガサ……

チャリン


凛「ありがとうございました」


凛「……」

(紙袋)*・∀・)……

凛(でもやっぱり……顔っぽいのがあるような……)


(紙袋)*・∀・)……

凛「なんだろこれ……」


(紙袋)*・∀・)何故売らなかったノヨ

凛「!?」


凛(肉まんが喋った)


( *-∀-)やっぱり保温器の中は快適ネ

凛(肉まんに顔らしきものがある)

凛(喋る)

凛(しかも、ちょっと動く)

凛(なにこれ)


(*・∀・*)そういえばあなた、新入りだったワネ

凛「えっ……」

(*・∀・*)初めて会う先輩に挨拶とかナイノ?

凛「……」

(*・∀・*)……

凛「はじめ……まし……て」

(*・∀・*)っ うん、挨拶は基本ヨ 忘れないようにネ

凛(なにこれ)


凛(なにこれ)


大学生「らっしゃっせー」

凛「いらっしゃいませ……」

( *・∀・)イラッシャーイ


凛(存在に気が付くと、私の意識は中華まんの保温器へ向くようになってしまった)

( *・∀・)肉まん美味しいワヨー

凛(このコンビニには、生きた肉まんが住み着いているらしい)


凛「あの……先輩」

大学生「んあ?」

( *・∀・)ナニヨ?

凛(お前じゃない)


凛「あの」

大学生「ぉん」


凛「……肉まんって、生きてるんですかね」

大学生「……は?」

凛「すいません、なんでもないです」


(*・∀・*)っ そんなの見ればわかるデショ

凛(この生物の存在に気付いているのは、どうやら私だけらしい)

( *・∀・)-3 まぁ、わからないことは訊く、その心構えはプラス評価ネ

凛(あと、ウザい)


凛「いらっしゃい、ませ」

「やあ凛ちゃん。今日は一人?」

凛(保温器の中で肉まんが生きていようが生きてなかろうが、私の仕事に変化はなかった)

「高校生でバイトって大変っしょ」

凛(相変わらず、軽そうな男はタバコのついでに私に話しかけてくる)

「大変だよね、女子高生とかって、色々お金使うし」

凛(気持ち悪い奴らばっかりだ)

凛(ある程度無視を続けていれば、相手も機嫌悪そうに去っていくんだけど)

「チッ」

凛(いつか私に被害が加わるんじゃないかと、内心では不安だった)


( *・∀)甘いワネ……

凛「っ!?」

( *・∀・)甘いわよ凛チャン……

凛「……なにが」

凛(肉まんと口をきいてしまった)


(*・∀・*)男に付け入る隙を与えているワ……

凛「は?」

( *・∀)いくら素材が良くても、それじゃあ駄目ヨ……それじゃあただの可愛い子止まりネ

凛「……」


凛(ウザい)


凛(肉まんは、常に保温器の中にいる)

(肉まん)*・∀・)まん) ムフ


凛(こんな得体の知れない物を人様に売りつけるわけにはいかないので、取らないようにしてるけど)

(肉まん)*-∀-)まん) スヤァ……


凛(先輩とかに、売られたり、廃棄されたりしてないんだろうか)


「肉まん2つくださーい」

大学生「ぁああーっす」


凛(あ……)


凛(先輩に取られてしまう)

凛(別に止めないけど)


大学生「にひゃくぁあ円になぁあーっす」


ガサガサ……

((( ;・∀)ヒィイ


凛(手を避けてる……それであの中で生き残っていたのか)

大学生「丁度ぁあありしぁーっす」

「はい、どうも」

大学生「ぁああしたー」


( *・∀・)一人になっちゃったワ……

凛(本当に、この中を住処にしているようだ)


大学生「あのさぁ渋谷さん、ありがとうございましたって挨拶くらいしようよ」

凛「あ、すみません」


凛(てゆーか、普段からその滑舌で話せよ)


( *・∀・)肉まん美味しいヨー♪


凛(肉まんは保温器の中で歌ったり、踊ったりしている)

( *・∀)っ そこのお兄さん、ひとつドウ?


凛(でも誰も、ケースの中で踊る肉まんには気づかない)

( *・∀・)-3 私の魅力に気づかないなんて、ダメダメネ!


凛(この生き物は何がしたいんだろう)

(*・∀・*)……ねえ凛チャン

凛「え、あ、はい」

凛(肉まんに敬語をつかってしまった)


(*・∀・*)肉まんが全部売り切れないワ……売れるように、ちゃんと私をプロデュースしてよネ

凛「はぁ……は?」


凛(プロデュースって何だ)


凛(どうやらこの肉まんは、自分をアイドルだと思っているらしい)

( *・∀・)ミックミックニシーテヤンヨー♪

凛(歌って踊れる肉まんアイドル、とかいうキャッチフレーズなのだとか)

凛(なんだそれ)


( *・∀・)……あのね凛チャン

凛「……なに」

(*・∀・*)私がいくら輝けるアイドルでもね……

凛「……は?」

(*・∀・*)しっかりプロデュースしてくれる人がいないと、上手く売りだせないのヨ

凛(言ってる意味はわからないけど、文句を言われているらしいっていうのはわかった)

(*・∀・*)肉まんが一気に品切れしちゃうくらいの売り込みをシテヨネ!

凛(最後の一個になるまでしぶとく残るくせに)


凛「私はちゃんと仕事してるんだけど」

( *-∀-)-3 フゥーッ

凛「なに」

( *・∀・)してる“だけ”ネ

凛「は」


(*・∀・*)今の凛ちゃんには“ハート”が感じられないワ

凛「……ハートって何」

(*・∀・*)っ 当然、心のことヨ

凛(私、肉まんに説教されてる)


( *・∀・)ハートのないレジ係なんて、肉汁のない肉まんみたいなモノ……

凛「……」

( *・∀・)あんまん一歩手前ってところネ

凛(……あんまん?)

(*・∀・*)ただ機械のように会計してるだけじゃ、それはたとえバイトであっても、一人前とはいえないワ!

凛「そんな事言われたって……」


凛(私の愛想が悪いのはいつものことだ)

凛(高校で仲の良い友達はいくらかいるけど、交友関係は広くない)

凛(私はそこで満足しているし、それでいいと思っている)

凛(誰かに……というか、肉まんにとやかく言われる筋合いはない)

(*・∀・*)そんなだから男に舐められるノヨ

凛「……は?」


凛「なに、舐められてるって」

( *-∀)そのままヨ ハートの無い凛ちゃんは、ただの大人しいだけの可愛い女子高生でしかないワ

凛「……」

( *・∀・)今の凛ちゃんは男にとっては格好の獲物でしかないノヨ

凛「……だからあんなに、気安く声をかけてくるのか」

(*・∀・*)ナンパはネ、人によっては無視だけじゃ対処できないこともあるのヨ?

凛「……」

( *・∀・)若い女が舐められたらおしまいヨ……只者ではないってところを、見せなきゃいけないワ

凛「……」

( *・∀)基本的に男なんて女を食い物くらいにしか思ってないカラネ……

凛(……なんで私は肉まんに男を教わっているんだろう)


凛「いらっしゃいませー」

凛(次の出勤日、私ははきはきと声を出すようにした)

凛(それまでも普通に出してはいたけど)

凛(男の人から舐められないためには、大人しい印象を与えてはだめだと思ったのだ)

凛(もっと誠実にバイトに取り組んでみた)

凛(真面目にやっているというところを見せれば、軽いノリで声をかけられることもないだろうと思ったから)


「……」

凛(その甲斐あってか、いつも声をかけてくる男が今日は話しかけてこなかった)

凛(よくわからないけど、効果はあったのかな)

凛(すでに私に話しかけても無駄だって、諦めてくれたのだろうか)

凛(実際どうなのかは、よくわからない)


凛「440円になりまーす」

凛(ていうか、いい加減タバコ以外買えよ)

凛(なんなの、こいつらは)


( *・∀・)まあまあ良い声出せるようになったジャナイ!

凛「……うん」

(*・∀・*)やっぱり凛ちゃんは才能がアルワネ!

凛「……才能?」

( *・∀・)ま、私ほどじゃないけどネ!

凛(肉まんの才能? 嫌だなそれ)

(*・∀・*)凛ちゃんはビジュアルが良い線いってるんだから、それ相応の自信を持たなきゃ駄目ヨ?

凛「はぁ……そう……」


凛(確かに、見た目の良さは友達からも言われるけど……)

凛(友達同士で互いを褒め合うなんて、よくあることだ)

凛(そういうのは全部社交辞令だと思っている)


( *・∀・)アナタガスーキ♪ シヌホドスーキ♪

凛(雨の日は客足も遠く、暇で暇で仕方がない)

( *・∀・)コノアイウケトメテー♪ ホシイヨー♪

凛(かといって先輩と喋るでもないので、適当に棚を整理くらいしかやることがなかった)

凛(肉まんの歌を聞きながら……)


( *・∀・)オトコラシーク♪ イイタイケード♪

凛「……ねえ」

(*・∀・*)ン? 何ヨ

凛「アイドルって、何するの」

凛(この子は結局食べられるんだろうけど)


( *・∀・)ソウネェ……より高級そうに、美味しそうに……可愛く見せるために、カシラネ

凛(……商品自らがセールスって、どうなんだろう)

凛(まあでも、アイドルってそういうものなのかな)

凛(よくわからないけど)


(*・∀・*)凛ちゃんもアイドルヤル?

凛「は? やらないけど」

(*・∀・*)っ 凛ちゃんくらいの素質なら、私の足元くらいだったら行けると思うワヨ!

凛「あんたの足元ってどのくらいだよ」

( *・∀・)っ コンクライ

凛(わからない)


( *・∀・)もったいないワネ……

凛「私、そういう素質とかないから」

凛「よく無愛想って言われるしね」

凛(その時点でもう駄目でしょ)

(*・∀・*)何言ってるノヨ、凛ちゃんはアイドルとしての第一条件をクリアしてるワヨ?

凛「え?」

( *・∀)だって、もう何人かファンがついてるジャナイノ

凛「ファン?」

( *・∀・)まだまだランクFってところだけどネ!

凛「ああ、そう……」

凛(肉まんとの会話に慣れてきている自分が怖い)


凛(肉まんと会話する私だけど、もちろん人間と話をしないわけではない)

凛(同じバイトの先輩に、上級生の人がいる)


女子「あ、渋谷さん。おはようございます」

凛「おはようございます」


凛(彼女は三年生の先輩。同じ高校の、ペタンク部に所属しているらしい)

凛(学校では会ったことがないけど、着替えの時に見慣れたカーディガンを着ていたので、私から気付いたのだ)


女子「大学生じゃなくて良かったよ、あの人ちょっと怖いしさー」

凛「今日、お客さん少ないといいですね」

女子「ねー」


凛(この人も悪い人ではない)

凛(悪い人ではないんだけど……なぁ)


女子「渋谷ちゃん、お客様への挨拶の時に笑顔作れないかな?」

凛(これだ)

女子「普段通りの感じで、はい」

凛(暇な時間を見つけては、笑顔の練習をさせられる)


凛「普段通り……普段通り……」ニマァ

女子「な、なんか違うわね」

凛「……すみません」

女子「笑顔は基本だから、慣れていきましょう」

凛「……はい」


凛(笑顔が造れない)

凛(仕事は真面目にやれるけど、こういうことには向いていない)

凛(なんか、無理だ)


(*・∀・*)笑顔はこうやってつくるノヨ

凛「……」

(*・∀・*)どうよこのきらめくエガオ

凛「……」

ヽ(*・∀・*)ノ ペッカァー

凛「……」

パカッ


(ノ・∀・*)ノ !?

凛「……」ツンツンツンツン

っ)=∀・;)な、ナニスンノヨゥ!


凛(笑顔がなくても仕事に支障はない)

凛(真面目にやっていればそれでいい)

凛(そもそも笑顔なんて、このバイトに何の関係もないものだ)

凛(大事なのは速さと、正確さと、丁寧さ)

凛(それらと比べれば笑顔なんて、あまりに小さすぎる、どうでもいいサービスだろう)


「すみません! からあげクン良いですか!」

凛「! はい、どちらにしますか」

凛(こんな時間に、可愛い子が来たなぁ)


「普通のやつと辛いやつとチーズのやつ全部ください!」

凛「えっ」

(肉まん)*・∀・)まん) スゲェ

凛(豪快に買ってくなぁ……友達の分もあるのかな)


「あと中華まんの所からも……」

凛(まだ買うんだ)

「あんまんとぶたまんと角煮まんとピザまんと~……」

凛(これもまた随分ともってくなぁ)


凛「それぞれ一つずつでよろしいでしょうか」

「いえ、あるやつ全部で!」

凛「えっ」


「あたしこのくらい食べないとおなか一杯ならないんですよねぇ~あはは」

凛(すごいなぁ……)


(肉まん)*・∀・)まん) ……

「……んっとー」

(肉まん)*・∀・)まん) ……

「じゃあ、それでおねがいします!」

(肉まん)*;∀;)まん) ミィー!?

凛「かしこまりました、ありがとうございます」


凛(あの子、肉まん以外をすべて掻っ攫っていった)

凛(紙袋に包むのも一苦労だった)


凛(けど途中から“あ、すぐ食べちゃうんでいいですよ”とかいって)

凛(手に持ってフゴフゴ食べながら出て行っちゃった)

凛(可愛い感じのまともな子かと思ったら、ちっともそんなことはなかった)


凛(でもどうしてだろう、あの子……)

凛(笑顔が、キラキラしてたな)

凛(私の造る笑顔と、どこが違うんだろう)


(肉まん)*=∀=)まん) どうせ肉まんは劣化ぶたまんヨ……

凛(……なんかこっちはよくわからない所で自信喪失してるし)


凛(今日も仕事前に、鏡の前で笑顔の練習)

凛「……」ニンッ

凛(……なんかヤバい笑顔だなこれ)

凛(笑える時は、普通に笑えるのになー)

凛(あの時の女の子みたいな笑顔は、なかなか造れない)


大学生「ぁあぁーっす」

凛「ありがとうございます」


凛(でもまぁ、なんとかなっている)

凛(真面目に取り組んでいるし、クレームがつくような仕事はしていないつもりだ)


凛「えっと……これはあっちの棚に補充して……」

「あの、すいません」

凛「はい、なんでしょうか」

凛(ああ、こいつの、この薄笑い)

凛(いつもの奴らと同じ用件なんだろうな)


「あなた、可愛いですね」

凛「は?」

凛(いけない、素の声が出た)

「ひっ、す、すみません」

凛(勝手に萎縮した)

「失礼しました、すみません。また来ます」

凛(勝手に謝られた)


凛(……どうも私は、まだまだ威圧感が漂っているらしい)

凛(早急に直すべきなのかもしれない)


( *・∀・)悩んでるみたいネ

凛「うん。まあ、ね」


凛(勘違いしないでほしい。私から相談を持ちかけたわけではない。断じて)


(*・∀・*)っ 私流の簡単な笑顔の作り方があるワヨ

凛「……言っておくけど、あんたみたいな口になるのは嫌だよ」

凛(ずっと開きっぱなしだし)

(*・∀・*)-3 大丈夫ヨ ちゃんとした方法ダモノ

凛「どうやるの」

(*・∀・*)ニ!

凛「…………に?」

(*・∀・*)口の形を、肉まんの“に”にするのヨ!

凛「……に」


凛「……」


凛「鏡、どっかに鏡なかったっけ……」

(*・∀・*)っ 精進するノヨ


凛「……に」


凛(まあ、笑顔に見えなくもない……かな)

凛(少なくともニンッ、よりはマシだ)

凛(口の形だけでも、印象はかなり変わる)

凛(顔全体で笑顔を造るよりもずっと楽だし、こっちの方が自然だよね)


(*・∀・*)ニヤニヤ

凛「……ハッ」


(*・∀・*)ニヤニヤ 私の助言で上手くいってるみたいネ

凛(なんだろう、助けてもらったのにこの苛立ちは)


(*・∀・*)ニヤニヤ 先輩としていつでもアドバイスはしてあげるワヨ

凛(いつにも増してウザい)


凛「ありがとうございます」


女子「……お、出来てるね」

凛「え?」

女子「うん、そういう表情のほうが、お客さんとのトラブルも起こりにくくなるし、良いと思うよ」

凛「やっぱり、そういう効果もあるんですか」

女子「仏頂面だとガキに舐められるんだ、これが」

凛「へぇー……」

女子「ずっと前に別のコンビニでバイトしてた時にね、罰ゲームか何なのか知らないけど、ニヤニヤ笑いながらコンドーム持ってきた中坊がいて、すごい気持ち悪かったわ」

凛「嫌ですね、それ」

(肉まん)*・∀・)まん) 私も握手会の時に似たようなことアッタワー

凛「今日お客さん少なくて楽ですねー」

女子「え? ぁあ、そうねー。いつもこうだといいんだけど」

(肉まん)*・∀・)まん) 売れっ子はツライワー


凛(本当に薄い、華やかとはいえない笑顔だけど、むすっとした顔を隠せるようにはなった)

凛(これで大分、仕事も板についてきたと言えるんじゃないかな)

凛(と、思っていたんだけど)


「渋谷ちゃん、いつもの20番のちょうだい」


凛(気安く話しかけてくる男は後を絶たない)

凛(常連みたいな人が定着したのは良いことなのかもしれないけど……)

凛(用意されたマニュアルでしっかり動きたい私にとっては、鬱陶しい以外の何物でもなかった)


凛「こちらのゴールデンバットですね」

「そうそう」

凛「240円になります」


凛(そしてまたタバコである)

凛(ていうか、みんなエコーかわかばかゴールデンバットしか買っていかないんだけど)


( *・∀・)y─┛ スパァー

凛「!?」


「ねえちゃんねえちゃん、何かお菓子買ってよー」

「真美、あなたはもう中学生になるんでしょう? おねだりはそろそろやめなさい」

「えー、良いじゃん。飲み物のついでにおーねがいー」


凛(あれ親子かな……いや、でも似てないなぁ。どういう関係だろ)


「……しょうがないわね。じゃあ、ひとつだけだから。わかった?」

「わーい! おざっす!」

「おざっすはやめなさい、買ってあげないわよ」

「ごめんなさい」

「そういう時だけ素直ね……ひとつだけよ」


凛(あ、そのままレジに来た)


「んーとね、んーとね」

( *・∀・)+ キラーン


凛(中華まんを見てる……今は丁度、肉まんがひとつしかないけど……)


「んー……」

( *・∀・)カムヒァ


「じゃあ、あんまんにする!」

( * ∀ )

凛(あーらら)


凛(相変わらず肉まんは最後の一個が売れないけど、バイト自体は順調そのものだ)

( *・∀・)モシモーボクガー♪ イツカーキミトー♪


凛(今週終わったら給料だし、それで服が買えるかな……)

( *・∀・)デアイー♪ ハナシーアウナラー♪


凛(遊ぶ時間は減るけど、学ぶことも多いし……悪くはないかな)

( *・∀・)ソンナートキハー♪ドウカーアイノー♪


凛(どうせやるんだし、一年くらいはここでバイトしてもいいかも)

( *・∀・)イミヲー♪ シッテクダサイー♪


凛(何事も、中途半端は嫌だしね)

((*・・∀・・*)) リンダリンダァアアアアアアアアア!

凛「うっさい」ガンッ

∑(ノ;∀;*)ノ ヒィ!


凛「いらっしゃいませ」

凛(あ)


「……」


凛(いつの時か私に“可愛い”とか何とか言ってきた、挙動不審のナンパ男だ)

凛(今日も挙動不審だ)


凛(順調な私の最近の気がかりといえば、こういう奴の存在だった)

凛(元々がヤバイ奴は、こっちがどうしたところでヤバイのだ)

凛(力任せに何かされると、それはもうたまったものではない)

凛(仮にヤバイ奴でないにせよ、元々が大人しい分、相手が何を考えているのかもわからないし……)


「ここで働いて、どれくらいになるんですか」

凛(無視しつつ会計だ。一度話すと、相手が図に乗るかもしれないから)


凛(そして、またこいつもタバk……)


凛(……ココアシガレット……)


「?」

凛「……32円になります」

「あ、はい」

チャリン

凛(謎だ……)


( *・∀・)y─┛ 金のない男は嫌いヨ

凛(……あっ、それもココアシガレットなのか)


( *-∀-)ウトウト……

凛(若い男たちは、もう気安く話しかけてこなくなった)

凛(そのかわり、あの挙動不審なサラリーマンが話しかけてくる)

凛(ナンパのような、しかしどこか角度のよくわからないアプローチは、露骨なものよりずっと不気味だった)

凛(……気持ち悪い)


「これくーださいっっっ!!!!!!!」

∑ * ∀ )パンッ

凛(うわ、うるさっ!)


凛「い、いらっしゃいませ」

「 お箸はいらないですから!!!!!!」

凛「か、かしこまりました」


凛(耳がキンキンする……なんだこれ)


凛「えと……510円になります」

凛(既にお客さんから千円札は出されているけど……しかし……)


「えっとー……んっとー……」

凛「……」

( *×∀×)ミィー……


「あっ!!!!!!!!!!!! 十円あります!!!!!!!!!!!!!!」

∑ * ∀ )ドパァン

凛「は、はい……1010円お預かりします……」


凛(なんでこんなうるさいの、この子は……)


凛「五百円のお返しです……」

「はい!!!!!!」

凛(うわっ)

「レシートはいらないです!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

凛(わかったよ!)


(死* ∀ )チーン

凛(鼓膜が破れるかと思った……)


凛(……いや、でもこういう勢いがあれば、あの根暗なサラリーマンも寄ってこないのかな)

凛(でも今の子みたいな凶器的な声なんて出せないし……)


凛「うーん……」

( メ・∀・)どしたのリンチャン

凛「……最近来る変な男、適当にあしらいたいんだけど」

( メ・∀・)今も適当にあしらってるジャナイ

凛「うん、けどあまりにもしつこいと、不安になるじゃない」

( メ-∀-)フッ……

凛「……なに、そのため息」

(メ・∀・*)まだまだアイドルとしての器が小さいワネ!

凛「……」


凛(いつから私はアイドルになったんだ)


( *-∀)ファンが多くいれば変な男も増えるモノ……

凛「……」

( *-∀-)男なんて星の数……その星達を独占するアイドルなら、ちょっと変なのがいるくらい受け入れなきゃネ

凛「いや、私アイドルとかじゃないんだけど」

(*・∀・*)アイドルになるしかない器ナノヨ

凛「なにその器……」

(*・∀・*)っ 可愛いのは罪ってことナノヨ!

凛「あっそ……」


( *・∀・)+ 私ってホント罪な肉まんネ!

凛(まぁ、気にしないようにするっていうのは、必要なのかな……)

凛(先輩に相談してみよう)


女子「ふーん、変な人ね」

凛「先輩は話しかけられる時とかって、どうしてるんですか」

( *・∀・)私はもっぱらネ……

女子「普通に無視よ。ちょっと機嫌悪い風な感じを出して、追っ払ってるわ」

凛「ちょっと機嫌悪い感じ、ですか」

女子「うん、眉根一つ動かさずだと、こっちが無理してる感じじゃん。“めんどくさ”って感じを出してやればいいと思うよ」

凛「なるほど……参考になります」

女子「渋谷さんならそういうのも結構画になりそうね。あ、悪いいみじゃなくて」

凛「はあ、そうですか……」

凛(今度やってみよう)

(肉まん)*-∀-)まん) ..zZZ


( *っ∀=)フニフニ

凛「いらっしゃ」

「ふむ……託されし想いをいざ、この地にて……」


凛「いま……せ?」

凛(えっ、なにあの子)

( *=∀=)?


「聖魔混合の汚泥、禁断の果実酒、造られし雫……」

凛(何か呟いてる……)


「……ククク、我が手から逃げられると思うてか。残党は……む?」

凛(全身真っ黒だし……何かぼそぼそ言ってるし……かわいくはあるけど)


「……」

凛(あ、こっち来た。会計かな)

「マクスウェルの悪魔よ、我が問に答えるがいい」

凛「!?」


「問おう、聖魔混合の汚泥を何処に隠した?」

凛「えっ」

「汝の選択に委ねよう。隠すも良し、差し出すもなお良し……」

凛(えっ、これ、なに)

凛(つまり私、今どんな状況にいるの?)


( *・∀・)っ 何うろたえてるのヨ

凛「!」

( *・∀・)ホットカフェオレどこにあるのか聞いてるだけジャナイ

凛(え!? そうなの!? 聖魔混合の汚泥が!?)

( *-∀-)っ こういうところでちゃんと気をきかせるのもアイドルヨ

凛(なんでわかるの……)


凛「……えっと」

「? 答える気になったか」

凛「あちらの……ホットドリンクのコーナーに、置いてあり、ます……よ」

「!」

凛(あ、顔が明るくなった)

「礼を言う、マクスウェルの悪魔よ」

凛「はい」


凛(なんとなく、で会話できるのかな?)

凛(っていうか、私は悪魔なんだ)


凛「……すごいお客さんだったな……」

( *・∀・)ソウ?

凛「なんか、雰囲気が……人を寄せ付けないっていうか……あらゆる意味で」

( *・∀・)それがアイドルってものナノヨ

凛「……あんたアイドルって言えばとりあえず大丈夫みたいに思ってない?」

ヽ(#・∀・#)ノ 失敬ナ! 私の審美眼は絶対ヨ!

凛「ふーん……」

(  *・∀)凛ちゃんもアイドルになれば、あの子の言葉くらいわかるようになるワヨ

凛「なにそれ、怖い」


凛(最近、アイドルというものがよくわからない)


凛(アイドル……)

凛(そんなものに憧れていた時期もあったな……)


凛(けどそんな憧れも、夢だったのはずっとずっと昔)

凛(すぐに自分の分ってものを弁えて、別世界のものだと思うようになっていた)


凛(今の私は、アイドルになれるんだろうか)

凛(私がアイドル……それって、おこがましいことなんじゃないのかな)


( *・∀・)キットワータシガイチバーン♪ デモアナターモソコソコカモー♪

凛「……」

( *・∀・)ソリャワタシートクラベルカラー♪ チョットブ ワルイノヨー♪

凛(いや……肉まんでもなれるものなら、私でもなれそうな気がしてきた)


「らっしゃぁっせー」

凛「いらっしゃいませ」

( *・∀・)ミクゥー

「渋谷ちゃん、20番ちょうだい」

凛「240円になります」


凛(私のレジに並ぶ客は依然として多い)

凛(私を見下すように軽口を聞いてくるような男は減ったけど)

凛(逆に、なんというか……親しみを込めて接してくる人が増えてきた気がする)


凛(きっとこれは、話し方を変えたりだとか、表情を変えたりだとか……)

凛(そういう小手先の対処では、どうしようもないのかもしれない)

凛(最近、そう思うようになってきた)


凛(肉まんの言う通り、どうしようもなく目立つ人っていうのはいると思う)

凛(そんな人が街中でスカウトされて、モデルやアイドルになるのだから)


凛(けどそれが私なのかっていうと、まだ、よくわからない)

凛(私だってよく賑わった街を歩いているけど、そんな声を掛けられたことはほとんどない)

凛(ナンパだったらいくらでもあるけど、モデルやアイドルになってくれ、はまだ、さすがに)


凛(肉まんは私にアイドルになれとうるさいけど……)

凛(私はモデルやアイドルになれない、その下の位置にいる人間なんじゃないかな)

凛(少し可愛いくらいの女の子が、誰でもシンデレラになれるわけではないのだ)

凛(私は、何者にもなれないけど、中途半端に面倒臭いものだけが寄ってくる……そんな灰被りなんだろう)


凛「えっと、これはこっちに補充して……」


凛(ちょっとだけモテて、ちょっとだけ鬱陶しい生活)

凛(それは普通の人からしてみれば、ちやほやされる良い人生なのかもしれない)

凛(けど私にとっては、そんなの煩わしいだけだ)


凛(……ほんと、いっそのことアイドルになれたら良いのにな)

凛(自分の力で、周りをあっと言わせてやれるようになれたら……この消えない煩わしさも、マシになるだろうに)


「あの、すみません」

凛(……こういう男から声をかけられても、少しは違った風に受け止められるかもしれないのにな)


凛「はい、なんでしょう」


凛(例の挙動不審な男だった)

凛(スーツ姿で、とにかく何でも声をかけてくる)

凛(買っていくものはココアシガレットだったりラムネだったり、甘い菓子類ばかり)

凛(正直、街中で遭遇したら、早歩きでスルーして逃げる程度には、危険な匂いのする男だ)


「前に、変な話の切り出し方をしてしまったことをお詫びします」

凛「はあ」

凛(物腰自体は丁寧だから、立場上無視もできない)


「実は渋谷さんにお願いがありまして」

凛「……それはこのお店に関係することですか」

「するかもしれません」

凛(やり辛い)


「ええと、どこにしまったっけな……あれ、どこだっけ、ちょっと待っててください」


凛(ストーカーから殺人事件に発展するニュースは、最近テレビでもよく見かける)

凛(この男を見ていると、ニュースで見るような暗い夜道や、被害にあった女性の顔写真がふと、浮かんでくる)

凛(すぐ表に出てこない、底知れない恐ろしさを勘ぐってしまうのだ)


「お、あった」

凛(例えば、今胸ポケットからナイフでも取り出したり、だとか……)

「僕はこういう者です」

凛「え?」


凛(それは名刺だった)

凛(いきなり名乗られても、と。そう思った)


「では、仕事の邪魔をしてすみませんでした」

凛「えっ」


凛(そして男は名刺だけを私に預けて、何も買わないままに去ってしまった)


凛「……なにそれ」


(・∀・* 三 *・∀・)凛ちゃんどこイッタノ?


( *・∀・)-3 ファンレターネ! 全盛期は私も一日五千通くらい来てたワヨ!


女子「どうしたの? それ」

凛「さあ……私にもよくわからないです。いつも話しかけてくる男の人が渡してきて」

女子「うわ、そんなの簡単に受け取っちゃ駄目じゃない」

凛「なんか、立場上断り辛いっていうか……」

女子「気持ちはわかるけどね……名刺かぁ」

凛「普通の名刺ですね」

女子「ちょっと見せて? 電話番号とか書いてあったらネットに晒そうかしら」

凛「はぁ……って、ええ、やりすぎじゃないですか」

女子「甘いわね渋谷さん、こういうのは徹底的に予防線を張って……ん?」


女子「この人、CGプロのプロデューサー?」

凛「?」


カチカチ

[ シンデレラガールズ・プロダクション ]


凛(アイドルプロダクション)

凛(あの男、アイドルのプロデューサーなの!?)


凛(先輩もプロダクションの名前だけは知っていたみたいだから、有名なんだろうけど……)

凛(けど、この名刺が本物かどうかはまた別の話で……)


凛(……とりあえず、電話をかけてみよう)

凛(聞いてみれば、あの男が本当にプロデューサーなのかっていうのも、わかるだろうし)


ポパピプペ

リンリンリリンリンリンリリンリン……


『はい、CGプロです』

凛(うわ、モノホンだ。事務員の人かな)


凛「すみません、えっと……お聞きしたいことがありまして、お電話を」

『はい、何でしょうか?』

凛「えっと……そちらに、花近さんというプロデューサーさんはいらっしゃいますか?」

『え? 花近さんですか?』

凛(そんな人はいない、かな?)


『はい……あ、花近はただいま席を外しておりまして』

凛(いることはいるんだ!)

『あと一時間ほどすればこちらへ戻ってくるかと……』

凛「あ、わ、わかりました、失礼します!」

『え、あの』

ガチャコーン


凛(つい勢いで切ってしまった)

凛(……って、あれ。ていうことはつまり、この名刺……)

凛(あの人がプロデューサーっていうのは、本当ってこと?)


凛「でもプロデューサーが私に、一体何の用で……」

( *・∀・)そんなの決まってるワヨ

凛「え?」

( *・∀・)+ スカウトに決まってるジャナイ!

凛「……スカウト?」

凛「私を?」

( *・∀・)プロデューサーが一人の女の子に声をかけるなんて、それくらいしか考えられないワ!

凛「……」


凛(なんか、一気にアイドルになれてしまいそうな雲行きになってきたぞ)

(;・∀・)ところで私もメジャーデビューできるように話を通してモラエルト……


凛「いらっしゃいませ」

(*・∀・*)マセー


凛(数日が経った)

凛(あの男は肝心なことを私に伝え忘れていたけど、たぶん、名刺の番号にかけ直してくれっていうことなんだろう)

凛(アイドル勧誘のつもりなんだろうけど、言葉足らずもいいところだ)


凛(……まだ、その返事は返していなかった)


( *・∀・)凛ちゃん、まだ迷ってるノ?

凛「まあ、うん」


凛(怪しい会社ではないと思う。それなりに有名な子も所属しているし)

凛(経営に一部黒い噂はあったけど、ネットで見た限りにはマトモそうなプロダクションだ)

凛(だけど、私は返事を迷っていた)


( *・∀・)凛ちゃん……これはチャンスナノヨ?

凛「うん……わかってる、こんなのは滅多に無いって事くらい」

( *・∀・)世の中はネ、凛ちゃんみたいに境遇や見た目に恵まれていない子だって多いノヨ

凛「わかってるよ……けど、これは私のことだし」

(*・∀・*)ソウネ……凛ちゃんの問題だから、私がとやかく言えたことじゃないワネ……

凛「……」


( *-∀-)っ けど忘れナイデ

凛「?」

( *・∀・)凛ちゃんほどチャンスに恵まれているシンデレラガールなんて、なかなかいないってことをネ

凛「……うん」

( *・∀・)世の中には、肉まんっていうだけでアイドルになれない子が沢山いるんだモノ……

凛「……うん?」


凛(次の日も、また次の日も)

凛(私は返事をためらっていた)


( *・∀・)リンチャンナウ! リンチャンナウ!! リンチャンリンチャンリンチャンナウ!!!

凛(日常を壊すのが怖かったのかもしれないし、いざ目の前に好機がやってきて、怖気づいたのかもしれない)

凛(名刺だけはじっと見つめていたせいで、すっかり電話番号を覚えてしまった)

凛(だけどまだ、この番号にかける事ができないでいた)


女子「いらっしゃいませー」

大学生「あっさっぇーぃ」

(・∀・* 三 *・∀・)オッオッオッオッ


凛(このバイトにも慣れてしまった)

凛(環境を変える決断が、どんどん怖くなっている)

凛(家の花屋のこと、学校の事……番号に指を触れようとして、色々なことを考えてしまう)

凛(……自分がこんなに臆病だったなんて)


ウィーン

凛「いらっしゃいませー」

(*・∀・*)マセー

凛(……あ)


みちる「ふっふー、一番乗りー!」


凛(前にたくさん買っていった子だ)

凛(あの時は、まさかウインドウの中ほぼ全てかっさらっていくとは思わなかったなぁ)


(肉まん)*・∀・)まん) マンマン♪

凛(でも今日は肉まんが5個以上あるし、なんとか……なるかな)


凛(この肉まんにも、すっかり馴染んでしまった)


ウィーン


法子「もう、みちるちゃん早いよぉ!」

みちる「ごめんなさい! でもお腹すいて、いてもたってもいられなくて!」

法子「えへへ……お昼のダンスレッスンから、みんな何も食べてなかったもんね」

みちる「うんうん! プロデューサーからコンビニでなら好きに買っても良いって言われたし、もう食べる気満々ですよ!」

(肉まん)*・∀・)まん) マンマァーン♪


凛(二人か……学生の人が買う時っていっぺんにレジに来るから、大変なことが多いんだよね)


ウィーン


かな子「あー、本当だ。ここにローソンあったんだねぇ」

みちる「ね、見落としがちでしょ?」

かな子「うんうん、ここだと近くて、いい感じだね」

法子「あ! あっちにドーナツ置いてある!」

( *・∀・)あんこ好きはクタバレ

凛(なんだか、騒がしくなってきた……)


ウィーン


愛「あー!!!!!!!! みなさんもう着いてたんですねー!!!!!!!!!!!!」

∑ * ∀ )パンッ

凛(マジで騒がしかった!)


法子「ふふふ、愛ちゃんは元気だね」

愛「はいっ!!!!! けど、お腹がすいてちょっとヘトヘトです!!!!!!!!!」

かな子「レッスン、厳しかったからねぇ。私もおなかペコペコで……何か甘いもの食べなきゃ」

みちる「パンは譲りませんよ!」

かな子「えー、そんなぁー」


凛(綺麗な子達が集まったなぁ……いつものこことは大違いだ)


みちる「あれ? 先輩はまだ来てないんですか?」

法子「あっ……おいてきちゃったかな」

愛「ゆっくり歩きたいらしいので、そろそろ来ると思いますよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


凛(先輩? まだ来るんだ……ていうことは、一気に女の子が五人っていうわけね)

凛(まぁ、あの大食いの子以外は、レジでもたつくっていうこともなさそうかな)


ウィーン


貴音「みなさま、遅れてしまいましたね。申し訳ありません」


みちる「あ、来ましたね! 待ってましたよ、四条先輩!」

法子「四条先輩! 今日はレッスンのお付き合い、ありがとうございました!」

かな子「でした!」

貴音「いえ、私は皆と共に技を高め合っただけのこと……そのような、先輩などとは……」

愛「そんな!!!!!四条さんは私にとって、先輩中の先輩ですよ!!!!!!!!!!!」

かな子「先輩中の先輩……?」


凛(レジも人いるし、なんとかなるよね)


法子「えっと、じゃあ私はこれと、これとー……っていうかこれ全部とー……」ガッサガッサ

凛(えっ、何やってるのあの子)

凛(えっ、なんであの子ドーナツのところ右から順にかっさらっていくの)


みちる「あ、この新発売の菓子パン美味しそうですね!」

法子「ほんとだ! あ、そのチョコチップスナックも買っておこうかなー」

みちる「コンビニの菓子パンってなかなか馬鹿にできなくてですねー」ガッサガッサ

凛(あの子はパンをさらい始めた……)


かな子「あー、冬限定だって!冬限定じゃ買うしかないよね!」ガッサガッサ

凛(いやあんたそれ冬限定以外のお菓子も全部カゴに入れてるから!)

凛(え!? この子達なにしてるの!? 集団カゴダッシュでもする気なの!?)


大学生「……べぇな……」

女子「……うわー」


凛(先輩たちもレジ近くに待機し始めた……)

凛(そりゃそうだ、目に見えて商品が棚から消えていくんだもん)


貴音「おお、これは……見たこともない味付けではありませんか……」ガロンガロン

凛(カップ麺が……)


愛「ごはん山盛り太郎つくろーっと」ガッサガッサ

凛(米類が……おにぎりが……)


凛(店のあらゆる食品が買い漁られてゆく……)


かな子「すいません、これお願いしまーす!」

凛「あ、はー……い……」


凛(ってなにこのカゴからあふれんばかりのお菓子!?)

凛(あんたら全員業務用スーパーいけよ!)


みちる「おねがいしまーす」

法子「まーす!」

凛(ああ、続々とレジが埋まっていく……)


ピッピッ

ヾ(*>∀<*)ノシ 凛ちゃんガンバレー


凛(終わらない……っていうか、後ろにもまだカゴ満載の子いるし、モタモタしていられない!)

凛(この子たちだけならいいけど、他のお客さんの迷惑になるのはまずい……急がなきゃ!)


ピッピッピッ


みちる「あ、からあげクン、あるやつ全部ください」

女子「はい、え。 全部ですか?」

みちる「はい、辛いのとチーズのも全部」

かな子「からあげも美味しいよねー」

愛「からあげ弁当が無かったので丁度いいですね!!!!!!!!!」

凛(何が丁度いいの?)


みちる「あと、それとー」


みちる「中華まんも全部ください」


凛「……!」


凛(中華まん……全部? ってことは……)


女子「かしこまりました」

パカッ


( *・∀・)凛チャン……

凛(肉まんも……!)


(*・∀・*)一足先にデビュー……してるワネ……

凛(肉まーん!)


凛(けど今はそれどころじゃない!)ピッピッピッ


ガサガサ

つ豚まん)ガシィ


( *・∀・)凛ちゃんはここに来て、すっごく成長シタワ……


つあんまん)ガシィ

( *・∀・)凛ちゃんがアイドルになるところを見れなかったのは残念だケド……


つピザまん)ガシィ

(*;∀;*)きっといつかステージの上で輝くって、信じてるワ!


つ*;∀;)ガシィ

凛(肉まーん!)


(紙袋)*;∀)ガサガサ

凛(肉まーーーん!!)


凛「あ、合計で5710円になります」

かな子「はーい。あ、そうだ。ちっちゃいスプーンあと4つくらい付けてくれますか?」

凛「かしこまりました」


(紙袋)∀)っ リンチャーン

女子「なかなか奥まで入らないなこれ……」グイグイ


みちる「帰ったらちょっとしたパーティですね!」

愛「ほんとに私もおじゃましていーんですか!!!!!?????」

法子「もちろんだよ! ご飯もドーナツも、皆で食べたほうが美味しいからねっ!」

かな子「スイーツもね!」

みちる(ドーナツもスイーツですよね)

貴音「机を囲み、志を同じくする仲間と共に食すらぁめん……それもまた、趣深いものですね」

(紙袋)=∀)出荷ヨー


凛(こうして嵐は去っていった)

凛(飲み物、食べ物……色々なものが一瞬にしてさらわれていったこの日の事を、私は生涯忘れないだろう)


凛(そして……一緒に買われていった、肉まん先輩のことも……)


  +(=∀=* )ゞ キラン


大学生「ぁあぇーっす」

女子「お疲れ様です」

凛「先輩、お疲れ様です」

大学生「えぃーっす」


女子「……なんだか、今日はすごかったね」

凛「ですね……」

女子「品出しとか……」

凛「別のバイトをやってる気分でした」

女子「ははは、確かに……」


凛「……」


ピッ


女子「ん、電話?」

凛「はい。電話を……かけようかな、って」

女子「そ。じゃあ、私もお先に、失礼しちゃうわね」

凛「お疲れ様です、先輩」


凛「……」


凛「さてと」


リンリンリリンリンリンリリンリン……


『はい、こちらCGプロです』

凛「もしもし、あの……そちらに花近、っていうプロデューサーさんはいらっしゃるでしょうか」

『花近ですね? ただいま替わります、少々お待ちください……花近さーん、あなたにお電話ですよー』


( *・∀・)+ サァ!

貴音「……面妖な」


ヒョイ


つ*・∀・)キャー

みちる「いただきまーす」

貴音「あ」

みちる「あー……んぐ、もぐ、フゴフゴ」

(*・∀( ギャァアアア!

みちる「フゴッ!?」

貴音「みちる!?」


凛(……バイト店員からアイドルに……ほんと、シンデレラみたいな話だよね)

凛(頼んでもいないのに、魔法をかけようとする肉まんが現れたり……)

凛(履いてもいないガラスの靴を届けに、王子様がやってきたり……)

凛(誰に話しても信じてくれないような、都合の良いシンデレラストーリーだ)


P「渋谷さん、お待たせしました。お弁当買ってきました」

凛「遅いよ、プロデューサー」

P「すみません、ほんとすみません。この時間帯はどこも混んでいて、買うのに……」

凛「お昼ごはん買うだけなのに、まったく……プロデューサーもたまには良いところ、見せてよね」

P「面目ないです」


凛(……私はアイドルになった)

凛(肉まん先輩がお買い上げされた光景の一体どこに、私の心は触発されたのだか……それは、今でもよくわからない)


凛(ただ、肉まんがお買い上げされたあの日の事は、ちょっとしたきっかけにはなったと思っている)

凛(ほんとにちょっとしたものだけどね)


P「午後から小室奈美さんと一緒のステージで……」

凛「小室、千・奈・美・さ・ん」

P「あ……小室千奈美さん、ですね。すみません」

凛「まったく、そのくらいしっかりしてよ……ん?」


凛(……私をアイドルにしてくれるプロデューサーさんは、ドジでまぬけでパッとしないけど)


凛「へえ、肉まん弁当なんだ」

P「はい、横浜なので……前に肉まんが好きとか、言ってましたよね」

凛「別に、好きとはいってないよ」

P「あれ……すみません」

凛「ふふっ」


凛(……まあ、悪くない、かな……)


パカッ


(エビチリ)*・∀・)シウマイ) ……

凛「……」


(エビチリ)*・∀・)シウマイ) ヤァ!

凛「……」


パタン


[弁当箱] ミィー!?


凛「……」


凛「なんだこれ」

P「?」



*おわり*

( *・∀・)φ+ 名作ネ! (・∀・*)スゲー

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