皇帝「帝国=悪という風潮をどうにかしたい」 (175)
~ 城 ~
皇帝「どうすればいい?」
側近「どうすればいい、とおっしゃられても……」
側近「もしかして、何かあったのですか?」
皇帝「うむ……これらを読んでみるがよい」バサッ…
側近「これは……?」ペラペラ…
側近(小説だ)
側近(戦記小説に、冒険小説……ファンタジー小説もある……)
側近(表紙に可愛いキャラが描いてあるものも……こんなの読むんだ、皇帝陛下って)
皇帝「これらはいずれも帝国が悪役として登場し」
皇帝「最終的に帝国を打倒するというストーリーになっている」
皇帝「なぜだ!?」
皇帝「なぜ帝国=悪なのだ!?」
皇帝「朕はとても悲しいぞ!」
側近(というか、我が帝国内で帝国が悪役な小説がこんなに出てるのが悲しい)
側近(それだけ作家が自由にやれてるってことでもあるが)
側近「それはさておき、皇帝陛下」
側近「嘆いていても事態は解決しません」
側近「なぜ帝国が悪役になるか、理由を考えていきましょう」
側近「そうすれば皇帝陛下も、きっと納得なさるはずです」
皇帝「うむ」
側近「元々帝国という言葉にはですね」
側近「“複数の国や地域、民族を統治している国家”という意味が含まれています」
皇帝「ほう、そうなのか」
側近「つまり、帝国を名乗っている時点でどこかしらの国やなにかしらの民族を」
側近「従わせている、ということになるわけです」
側近「ようするに、これが帝国=弱者を虐げている、というイメージに繋がるわけです」
側近「つまり、悪役にしやすいわけですな」
皇帝「なるほど、なるほど」
側近「もちろん、我が帝国も例外ではありません」
側近「我が国は戦争など、ここ二百年近く起こしておりませんが──」
側近「元々この国は、東に住むイースト民族と西にあったウェスト王国を」
側近「併合させてできた、という成り立ちがございます」
側近「仮に私が我が帝国をモデルに物語を書くとするなら──」
側近「イースト民族の若者や旧ウェスト国の王族を主人公にして」
側近「民族独立や王国復活のため、打倒帝国を目指させるでしょうね」
皇帝「なるほど……で、ラスボスは朕ということか」
皇帝「朕は武芸には秀でておらんから」
皇帝「あまり盛り上がらない最終決戦になるであろうな……」ショボン…
皇帝「こんなことなら、もっと武芸に力を入れておくべきであった……!」ガクッ
側近(なんで気に病んでいるんだ、この人は)
側近「まぁ……しょせんフィクションですから」
側近「か弱い皇帝陛下をラスボスに相応しい強さにすることは、いくらでも可能です」
皇帝「例えば?」
側近「例えば……肉体を強化改造する、とか……」
皇帝「ほう!」
側近「古の魔神と契約して、とてつもない魔力を手に入れたことにするとか……」
皇帝「ほうほう!」
側近「実は皇帝陛下のご先祖が凶暴な戦士で、その血に目覚めてしまうとか……」
皇帝「ほうほうほう!」
皇帝「なんだか強くなってきたような気がしてきた!」
側近「なってません」
側近「それに、なにもラスボスは皇帝陛下でなくともいいのですよ」
皇帝「どういうことだ」
側近「例えば、側近である私が実は密かに野心を持っていて」
側近「物語の中盤ぐらいで皇帝陛下に謀反を起こし、ラスボスになる──」
側近「というのも意外性があって面白いかもしれません」
側近「皇帝陛下がラスボスだろうと思い込んでいた読者は、あっと驚くわけですな」
皇帝「なにっ!?」
皇帝「側近よ、おぬしは朕に謀反をするつもりであったのか!?」
側近「は!?」
皇帝「裏切りおったな!」ギロッ
側近「いやだから……私が帝国を倒す話を作るならこうするってハナシですよ!」
皇帝「そ、そうか……」ホッ…
側近(いっそ本当に謀反してやろうか)
側近「──とにかく、帝国が悪役になる理由はこれでお分かりになったでしょう?」
皇帝「うむ、分かった」
側近「じゃあ、この話はこれでオシマイ──」
皇帝「よし……イースト民族の長と旧ウェスト王国の王族の末裔に」
皇帝「独立を持ちかけてみよう!」
側近「ふぇっ?」
側近「皇帝陛下? アンタ、突然なにをいいだし──」
皇帝「これも、“帝国=悪”という負のイメージを払拭するためだ!」
皇帝「側近よ、朕はやるぞ!」メラメラ…
側近(おお……! 皇帝陛下は、本気だ……!)
~ イースト民族集落 ~
長「……へ? ワシらの独立を承認する?」
皇帝「うむ」
皇帝「長らく、我が帝国が迷惑をかけてしまったな……」ペコッ
側近「申し訳ない……」ペコッ
長「いやいやいや! 突然頭を下げられましても!」
長「たしかにワシらはかつて帝国に併合されたわけですが、昔のハナシです」
長「むしろ、ワシらこそ帝国の文化を学んで豊かになった側面もありますしな」
長「ギブアンドテイク、というやつです」
長「ワシらはこれからも帝国民として暮らしていきますよ」
皇帝(なにっ……!?)
皇帝「いやっ……待ってくれ!」
皇帝「それでは帝国=悪のイメージを払拭できない!」
長「……へ?」
皇帝「このままでは、肉体改造を施された古の魔神の血に目覚めた朕が」
皇帝「側近に謀反を起こされ、しょぼいラスボス戦をすることに──」
長「!?」
側近「ストップ! ストォォォォォップッ!」ガシッ
側近「族長よ、失礼したっ! 皇帝陛下、集落から出ましょう!」グイッ
皇帝「し、しかし……」ズルズル…
側近「いいから、来いッ!」グイッ
長(なんだったんだ、いったい……?)
側近「なにをやっているんですか、皇帝陛下」
側近「今の生活で満足している者を、わざわざ帝国から放り出すことはないでしょう」
側近「あれはあれで、悪役の所業でしたよ」
皇帝「うむ……たしかに」
皇帝「朕は少々、焦っておったのかもしれぬ」
側近「ではそろそろ城に戻り──」
皇帝「だが、諦めたわけでもない」
皇帝「今度は旧ウェスト王国の末裔に会いに行くぞ!」
側近(ふえぇ……東から西に行くとかハードスケジュールすぎる……)
~ 旧ウェスト王国領地 ~
領主「独立を……?」
皇帝「うむ、おぬしにもウェスト王族の末裔としての誇りがあろう」
皇帝「どうだ、悪の帝国から独立して、ウェスト王国を再興してみんか?」
側近「どうだろうか……?」
領主「ハッハーッ! 皇帝陛下、今さらそんなつもりはナッシングさ!」
皇帝「ナッシング!?」
領主「ウェスト王国は滅ぼされたといってもほとんど無血開城だったと聞くし」
領主「現在、ボク含めて領民にも独立を望んでいるものはいないからねー!」
領主「ハッハーッ!」キラッ…
皇帝(歯が光った!)
側近(真っ白だ……!)
領主「それに、独立したら、また一から法やらなんやらを」
領主「メイキングしなければならないだろォ~?」
領主「ボクはそんな面倒なことは……ゴ、メ、ン、さ」キラッ…
皇帝(歯がキレイだ)
側近(すごくキレイな歯をしている)
領主「というわけで、せっかくの独立話はノーサンキューさせてもらうよ!」
領主「ハッハーッ! シーユーアゲンッ!」キラッ…
皇帝「…………」
側近「…………」
皇帝「……ダメだったか」
側近「まぁ、よかったんじゃないですか?」
側近「こういっちゃなんですが、彼は領主ぐらいは務まるでしょうが」
側近「一つの国を治める度量があるとはとても思えません」
皇帝「たしかに……一国を治めるには“重み”が足らぬな」
皇帝「あの妙な話し方も、王としては相応しくない」
皇帝「ただ──」
皇帝「歯はすごくキレイだったな……」
側近「ええ、歯はとてもキレイでしたね……」
~ 城 ~
皇帝「う~む、残念ながら独立はしてもらえなかったな」
皇帝「帝国の持つ“弱者を従えてるイメージ”の払拭は失敗か……」
皇帝「側近よ、他になにか手立てはないか?」
側近「では……フィクション中の帝国を参考にしながら」
側近「我が帝国の問題点を解決していく、というのはどうでしょう?」
皇帝「ふむ、面白そうだな」
皇帝「よかろう! やってみせい!」
側近「フィクションでの帝国をまとめますと──」カリカリ…
側近「だいたい、このようになります」カリカリ…
強大な軍事力を背景に他国を侵略
↓
国民を徹底的に弾圧
↓
暴政に耐えかねた反乱軍が決起
↓
死闘の末、悪しき皇帝は倒れ、帝国は滅亡
皇帝「朕が読んだ小説も、ほとんどがこんな感じだったな」
側近「強大な軍事力を背景に他国を侵略……これは大丈夫でしょう」
側近「国民を徹底的に弾圧……これも問題ありません。むしろ自由すぎます」
側近「暴政に耐えかねた反乱軍……これは──」
皇帝「側近よ」
皇帝「そういえば、最近“反乱軍”を名乗る若者の集団がいると聞いたことがある」
側近「ええ、私も耳にしております」
側近「時折、我が国の政策などを批判したデモを行ったりしているとか──」
皇帝「うむ」
皇帝「これだ……!」
皇帝「朕が彼らと平和的に和解すれば、その美談が国内外に広がり」
皇帝「帝国=悪のイメージを払拭できるかもしれぬ!」
側近(できるかなぁ……?)
~ 町 ~
ザッ……
皇帝「この町に反乱軍のアジトがあるのか」
側近「情報によりますと、そのようです」
皇帝「ふむ……」
皇帝「これ、そこの町民」
町民「なんだね、アンタ?」
皇帝「反乱軍のアジトは、どこにあるのだ?」
町民「ああ、アイツらか……アイツらなら、町外れの屋敷をアジトにしてるよ」
皇帝「ずいぶん、あっさり分かってしまったな」ボソッ
側近「ええ、探し出すのには苦労するかと思っていましたが」ボソッ
町民「──ったく、アイツらときたら働きもせずに……」ブツブツ…
~ 反乱軍アジト ~
「 ウ ェ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ イ ! ! ! 」
リーダー「イッキいっちゃいまぁ~~~~~す!」
金髪「ヒューヒュー!」
茶髪「いよっ!」
町娘「いっちゃってぇ~!」
「かっこいい~!」 「イッキ、イッキ!」 「イェーイッ!」
リーダー「…………」グビッグビッ…
リーダー「いっちゃいましたァ~~~~~!」ダンッ
ワーワー……! ヒューヒュー……!
皇帝「……なんだこれは」
側近「私にも分かりません……」
皇帝「あの……」
リーダー「ん、アンタらだれ?」
皇帝「朕は皇帝だ」
リーダー「え、マジ!? マジモンの皇ちゃん!?」
皇帝「うむ、本物だ」
側近(皇ちゃんて……)
リーダー「ウッソ、皇ちゃん来ちゃった!」
金髪「マジ!? ホンモノ!?」
茶髪「すげぇ~!」
町娘「ウッソォ~~~~~!」
「マジじゃん!」 「皇帝が直接来ちゃうとかパネェ!」 「やべぇ~!」
皇帝「朕は反乱軍であるおぬしらと、和解するためにやってきたのだが──」
リーダー「皇ちゃん、仕事熱心~! カックイ~!」ヒューヒュー
リーダー「別に俺ら、ガチで反乱軍とか名乗ってるわけじゃないのになァ?」
皇帝「へ?」
金髪「そうそう!」
茶髪「なんか“反乱”って言葉が、超クールじゃね? ってだけでさ」
町娘「かっこいいよねぇ~、アウトローって感じな響きだもん!」
リーダー「いわゆる、ファッション反乱ってヤツ?」
アハハハハ…… ワハハハハ……
リーダー「ま、せっかくだからさ、皇ちゃんも飲んでいきなよ」
皇帝「うむ」
側近(──って、飲むんかい!)
「 ウ ェ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ イ ! ! ! 」
皇帝「うぇ、うぇ~い」
リーダー「皇ちゃん、ノリ悪いィ~。恥ずかしがっちゃダ~メ!」
皇帝「す、すまぬ」オドオド…
金髪「よっしゃ、オレ一曲歌うわ!」ガタッ
茶髪「いよっ!」パチパチ…
ワイワイ…… ガヤガヤ……
皇帝「…………」ポツン…
側近(おお、なんということ……)
側近(皇帝陛下が……成り行きであまり知らない人ばかりの飲み会に来たはいいが)
側近(会話もできずノリにもついていけず、孤立してる人みたいになってる……)
側近(みじめすぎる……哀れすぎる……)グスッ…
皇帝「ところで……」
リーダー「なに、皇ちゃん?」
皇帝「ファッション反乱とはいえ、おぬしらはデモなどを行っていると聞く」
皇帝「なにか、朕に望むことはないのか?」
皇帝「帝国から悪のイメージを払拭するため、できるかぎりのことはするが」
リーダー「ン~……じゃあ」
リーダー「働かなくても金が手に入るようにして欲しい!」
金髪「それいい~!」バンバンッ
茶髪「町のオッサンどもが、働け働けうるせぇんだよな! 老害のくせによ!」
町娘「リーダー、頭いい~!」
「超ウケる~!」 「皇帝陛下、頼んま~す」 「サイコー!」
ギャハハハハハ…… ワハハハハハ……
皇帝「…………」
皇帝「おぬしら、楽しそうなのも結構だが──」
皇帝「少しはマジメに生きてみたらどうだッッッ!!!」
ビクッ……!
シ~ン……
皇帝「邪魔をしたな」
皇帝「朕は退出させてもらう」スッ…
側近(おお、さすがは皇帝陛下)
側近(やはり締める時は締めるお方なんだよなぁ……)
~ 城 ~
皇帝「せっかくの楽しい雰囲気を台無しにして、少し気の毒なことをしたかな」
側近「いえいえ、いいクスリですよ。彼らも少しは反省するでしょう」
皇帝「しかし、反乱軍と和解どころか、反乱軍に勝利してしまった」
皇帝「つまり、またも帝国=悪イメージ払拭に失敗してしまったことになる」
皇帝「う~む……」
皇帝「どうやら悪イメージの払拭は、想像以上に難しいのかもしれぬ」
側近(たしかに難しいよ……アンタの思考回路についていくのが)
皇帝「ならばいっそ、視点を変えてみるか」
皇帝「側近よ、逆に正義側というとどんな国家が挙げられる?」
側近「そうですねえ……王国とか、共和国になるのではないかと」
皇帝「それだ!」
皇帝「この国を、共和国にしよう!」
側近「ええ!?」
皇帝「そうと決まれば、成人以上の国民全員に選挙権を与えて選挙だ!」
側近「ええええ!?」
皇帝「大統領になってほしい人物と」
皇帝「どういう統治方式がいいかを書いて投票するのだ!」
側近「ええええええ!?」
皇帝「むろん、一番票を得た人物と統治方式を採用する!」
皇帝「ついに……我が国が悪でなくなる時がきたのだな!」
側近(こりゃあ、とんでもないことになったぞ……)ゴクッ…
投票日──
~ 投票会場 ~
ワイワイ…… ガヤガヤ……
皇帝「この会場にも、大勢集まっているな」
側近「ええ。投票率は100パーセント近い勢いです」
側近「なにしろ、この選挙でこの国の新たな支配者と支配体制が決まるのですから」
側近「もちろん、いかなる権力の圧力も通用しないようになっております」
側近「帝国民100万の民意を真に反映した選挙となるでしょうな」
皇帝「ちなみに朕はもちろん朕に入れたが……側近は誰に入れた?」
側近「もちろん、皇帝陛下ですよ」ニコッ
側近(自分に入れた、なんていえるわけがない)
開票日──
皇帝「いよいよ開票か」
側近「ええ、ちなみに開票は厳正に行われるのでご安心を」
皇帝「うむ、不正などがあっては困るからな」
皇帝(もしかすると、朕がこの国のトップでなくなるかもしれぬが……)
皇帝(これも我が帝国のため……)
皇帝(たとえ朕が平民になることになろうとも、帝国の名が消えようとも)
皇帝(朕に一片の悔いもない……!)
ザワザワ……
側近「お、どうやら開票作業が終わったようですな」
皇帝「どれ、結果を見てみるか」ドキドキ…
王制ローマ→「女が足りなきゃ隣国から奪え!土地が足りなきゃ隣国を滅ぼせ!ふははは!」
↓
共和制ローマ→「ひゃっはぁぁぁ領土拡大!領土拡大!地中海を支配せよ!世界は我らの物!」
↓
帝制ローマ「領土拡大禁止ね。防衛に徹しましょう。ローマ共栄圏の中でみんな仲良くしましょう」
古代ローマは本当に典型的イメージとは正反対なんだよな
王制・共和制ローマは本当にえげつない
>>106
コイツのせいってのは少なくないだろうな
投票結果──
~国のトップ~
1 皇帝 996,511票
2 領主 205票
3 長 109票
4 リーダー 28票
5 側近 1票
~統治方式~
1 皇帝による世襲君主制 996,539票
2 民主共和制 307票
3 寡頭制 5票
4 オットセイ 2票
5 側近による完全独裁体制 1票
>>107
ネロの暴君イメージは後世キリスト教の凄まじいネガキャンによるものよ
実際は暴君と呼ばれるほど悪いことをしたわけじゃない
バカだったのは確からしいけど
皇帝「…………」
側近「…………」
側近「あ、あの……皇帝陛下」
側近「選挙の結果……結局なにも変わらないということに決まりましたが──」
皇帝「うむ……」
皇帝「側近よ、おぬしには熱心なファンが一人おるようだな」
側近「え、ええ」
側近(無記名式の投票で本当によかったぁ……!)ホッ…
皇帝「…………」プルプル…
皇帝「なぜだッ!?」
皇帝「なぜ、朕が帝国をよりよいものにしようと頑張っておるのに」
皇帝「悪というイメージのある従来の帝国から離れさせようとしておるのに」
皇帝「なぜ、イースト民族やウェスト王国は独立せず!」
皇帝「反乱軍とは和解できず!」
皇帝「帝国から共和国にすることもできんのだ!?」
側近(なぜといえば……なぜこの人、こんなに人気があるんだろう)
皇帝「朕には我が国を、正義で善の国家にすることなど不可能なのか!?」
皇帝「選挙で勝ったからとはいえ、もはや朕にはこの国を治める資格はない!」
皇帝「朕は皇帝を辞めるぞ、側近ッ!」
皇帝「イースト民族とウェスト王国はもちろん強制的に独立」
皇帝「政治も民主制に移行する! これは皇帝命令だ!」
側近「わ、分かりましたッ! ただちに全国へ公布いたします!」
選挙で大勝した皇帝が、帝国トップの座を辞する──
この驚くべき知らせは、帝国中に衝撃を走らせた!
~ イースト民族集落 ~
長「なんだと!? 皇帝陛下が皇帝を辞める!?」
~ 旧ウェスト王国領地 ~
領主「ハッハーッ、それはホントのニュースかい!?」
~ 反乱軍アジト ~
リーダー「なんだって!?」
~ イースト民族集落 ~
長「ワシらのことを尊重し、頭を下げて独立まですすめてくれた皇帝陛下が」
長「皇帝を辞するなどおかしな話だ!」
長「城内で、なにかとてつもない陰謀が動いておるにちがいない!」
長「部族を率いて城へ乗り込むぞ!」
~ 旧ウェスト王国領地 ~
領主「ハッハーッ!」
領主「これはきっと皇帝陛下の身に、なにかあったにちがいない!」
領主「でなくば、ボクたちをいきなり独立させる理由がないからね!」
領主「皇帝陛下の危機を放ってはおけないね! 城へ出向こう!」キラッ…
~ 反乱軍アジト ~
リーダー「あの時の皇ちゃん──否、皇帝陛下の一喝があったから」
リーダー「今の我々がある」
リーダー「あれ以来、我々はマジメに働き、さらに本格的な訓練を行い」
リーダー「災害や犯罪者から人々を守る自警団組織を作り上げた」
リーダー「我々は民を守るためならば、あえて“反乱軍”を名乗ることもいとわぬ!」
リーダー「今こそ国に剣を向け、権力を奪われようとしている皇帝陛下を助ける時だ!」
リーダー「自由と平和と正義のため、存分に戦うのだ!」
金髪「ははっ!」ビシッ
茶髪「待っていて下さい、皇帝陛下!」ビシッ
町娘「必ずやあなたを救い出してみせます!」ビシッ
リーダー「行くぞ! 反乱軍出撃だッ!」バッ
ザンッ……!
おのれ側近め!
マジレスしてほしいんだけど
リアルで帝国主義とか叩かれてたわけだけど
ぶっちゃけイギリスとかそのあたりの国が海外を植民地化してるのも大概なんじゃねえの?っていうかなんか差があんの?
>>141
日本語でおk
~ 城 ~
皇帝(いざ皇帝の座を離れるとなると、なんだか寂しいものだな)
皇帝(しかし、朕にはこの国を治める資格などないのだ……)
皇帝(でも、だれか『やめないで』などと引き止めてくれれば、嬉しいのだが……)
側近「大変です! 皇帝陛下!」ダダッ
皇帝「どうした側近、朕はもう皇帝ではないぞ」
皇帝「おっと、“朕”はもう使えぬのか。それじゃ“俺っち”にでもしようか──」
側近「申し訳ありませんが、コントに付き合っているヒマはありません!」
側近「マジで大変です!」
側近「帝国領内の至るところで、皇帝陛下の決定を不服とする反乱が起き」
側近「各地の反乱軍が集まって結成された“連合軍”がこの城に迫っております!」
皇帝「なにい!?」
>>142
ジャイアン(イギリスとか)「お前のモノは俺のモノ!」
のび太(被植民地国)「うわーん漫画かえしてー」
スネオ(帝国)「ついでにそのゲーム機ももらっていくよ」
のび太(被植民地国)「そんなぁ」
ジャイアン(イギリスとか)「スネオ、お前人のもの取るのは最低だぞ」
これってなんかおかしくね
~ 城外 ~
ワーワー……! ワーワー……!
将軍「キサマら、今すぐ立ち去らないと強制的に排除するぞ!」
長「ワシらイースト民族の誇りのために」
長「帝国の名を、皇帝陛下を取り戻すのだ! それまでは撤退などせんぞ!」バッ
領主「再びウェスト王国を帝国に併合してもらうために」
領主「ボクたちは立ち上がったのさ!」キラッ…
リーダー「我ら反乱軍の目的はただ一つ!」
リーダー「民主主義から脱却し、皇帝陛下による帝政の復活だ!」ジャキンッ
将軍(うむむ……コイツらは敵なのか味方なのかよく分からん!)
皇帝「側近、どうしよ……?」ガタガタ…
側近「皇帝陛下、どうしましょ……?」ブルブル…
皇帝「まさか、戦いが始まったりはせんだろうな」
側近「今はまだ、帝国軍と連合軍の睨み合いだけで済んでいますが」
側近「このままでは、まちがいなく多くの血が流れますな」
側近「我が帝国始まって以来の大惨事となるでしょう」
側近「皇帝陛下が再び即位されなければ、収拾はつきますまい」
皇帝「やはり……それしかないか」
側近「どうしても皇帝陛下が皇帝に戻るのがイヤでしたら(私が代わりに──)」
皇帝「イヤではない」
皇帝「皇帝という地位は好きだし、やりがいも感じておる」
側近「(チッ……)では、すぐに戻ったらいかがです?」
皇帝「しかし、ここで戻ってしまうと今までやってきたことの意味が……」
側近「まあまあ皇帝陛下、ものは考えようですよ」
側近「たしかに、帝国=悪というイメージは存在するかもしれませんが」
側近「それは、それだけ帝国という言葉や体制が強大だから起こるのです」
側近「物語を読む上では、やはり悪役が強大でないと盛り上がりませんからね」
側近「帝国が悪役にされるのは『帝国はスゴイ! カッコイイ!』の裏返しなんですよ」
皇帝「おお、たしかに……!」
側近「それに、正義の反対はもう一つの正義なんて考え方もあります」
側近「このように考えると、帝国は別に悪でもなんでもないんです」
側近「物語の都合上、倒される側になってしまった正義なんです」
皇帝「うむうむ」
側近「そして、なにより──」
側近「仮に、帝国に悪というイメージがあったとしても」
側近「皇帝陛下や我々が善であろうと努めれば、それでよいではありませんか!」
側近「例えば、ウンチには“汚い”というイメージがありますが」
側近「もし、ものすごく清潔な物質や細菌だけで構成されたウンチがあったとすれば」
側近「そのウンチはまぎれもなく“キレイ”といえます」
側近「ならば我々は“キレイなウンチ”になろうではありませんか!」
皇帝「なるほど! たしかにそのとおりだ!」
皇帝「俺っち……いや朕は間違っていた!」
皇帝「朕は皇帝に戻るぞッ! 側近!」
側近「ははっ!」
側近(こんな理屈で納得してくれるのなら、もっと早くやっておけばよかった……)
~ 城門 ~
皇帝「朕は再び即位することを、ここに宣言する!」
皇帝「皆の者、安心して故郷に帰るがよい!」
ワーワー……! ワーワー……! ワーワー……! ワーワー……!
ワーワー……! ワーワー……! ワーワー……! ワーワー……!
長「おお……帝政の復活だ!」ジ~ン…
領主「ハッハーッ! これで我が国はめでたく、再び帝国に併合される!」キラッ…
リーダー「反乱をしたかいがあったというものだ……!」ウルッ…
……………
……
…
~ 城 ~
皇帝「ふむふむ……」ペラペラ…
皇帝「おお……この小説は善の帝国が悪の大王を倒すというストーリーだぞ!」
皇帝「しかも、主役の皇帝がすごくカッコイイではないか!」
側近「それはそれは、よかったですね」
側近(またスネられると面倒だから、私が人気作家に書いてくれと頼んだんだがな)
皇帝「しかしながら、側近よ。帝国とは、皇帝とは、一体なんなのであろうな?」
側近「さぁ……私は哲学には疎いものですから」
側近「しかし文献で読みましたが、遥か遠い世界の遠い国には──」
側近「歴代皇帝のほとんどが暗殺されて生涯を終えている……」
側近「なぁ~んて国もあるらしいですよ」
皇帝「それはまた大変だな……完全に貧乏くじではないか」
側近「もちろん、私のような側近がこうして気軽に意見をいうこともできぬぐらい」
側近「皇帝が圧倒的な権威を誇っている国もあるようです」
側近「ようするに、これはこう、とイメージを定めることにあまり意味はないんです」
側近「我々にできることは、そうしたイメージに惑わされることなく」
側近「常に最善を目指して生きていく、ということではないでしょうか」
皇帝「うむ、そうだな。よくいってくれた」
皇帝「よし、朕は善の帝国を目指して、精一杯生きていくぞ!」
皇帝「側近よ、議題をよこせ! 本日の政務を開始する!」
~おわり~
このSSまとめへのコメント
ほのぼのしてて良かった