魔あ王「なんで私こんな名前なの」側近「さあ」 (401)

※山なし落ちなし気の向くままに
※sage進行
※亀更新


魔あ王「いや、おかしいでしょどう考えても」

側近「そうなのですか?」

魔あ王「この『あ』って何よ」

側近「さあ?」

側近「!」

側近「そういえば、魔あ王様」

魔あ王「どうした」

側近「生前、先代魔王様が『うっかりコントローラの操作ミスった』と仰っておりましたが……」

魔あ王「なんてこった」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1384941449

側近「魔あ王様」

魔あ王「なんだ」

側近「どんなイントネーションなんですか?」

魔あ王「魔↑あ↑王↑」

側近「上がりっぱなしじゃないですか」

魔あ王「魔↓あ↓王(デスボイス)」

側近「女の子がそんな声なんて」

魔あ王「魔↓あ↑王」

側近「あ、それっぽいです」

魔あ王「しかしだね、こんな変な名前でも人間どもは魔王と呼んでくれる」

側近「そうですねぇ」

魔あ王「まあ、当然かな。私のこんな名前を知るはずもない」

魔あ王「天界の奴らとは大違いだ」

魔あ王「お父様と私が交代していることすら、知らないはずだからな」


勇者「お前が魔あ王かああ!」

魔あ王「」

魔あ王「ちょっとまって、側近」

側近「はいなんでしょう」

魔あ王「あいつ誰?」

側近「勇者ですね」

魔あ王「なんでここに?」
側近「さあ」

魔あ王「」

勇者「何をごちゃごちゃ言っている! [ピーーー]ぇ!」ズバァ

sagaたら?

>>5
あれ。sagaしたはずなのに

テスト

魔あ王「やっつけちまった」

側近「魔あ王様、お強い」

魔あ王「まあ、王だしね」

側近「…………それ、ギャグで言ってます?」

魔あ王「ん? ……あ! いや、そういうわけではなくてだな!」

側近「魔あ王様、つまんないです」

魔あ王「ちがうって言ってるだろ!」

側近「まあ、王様ですしね」

魔あ王「ぐぅ……!」

側近「まあ、王様」

魔あ王「やめてそれすごくつらい」

側近「今どんな気持ちですか」

魔あ王「すごくつらいです」

側近「来週の忘年会でギャグとして披露したらどうですか?」

魔あ王「死んでもいやだ」

側近「魔あ王様のギャグだから笑わなければいけないのに笑えない。これは辛いですよぉ」

魔あ王「……面白そうではあるなぁ」

数時間後。

側近「そういえば、勇者のなきがらはどうしました?」

側近「私、片付けてないんですが」

魔あ王「私は知らないよ?」

側近「えー……めんどくさい予感がします」

勇者「魔あああああ王うう!」

魔・側「あちゃー……」

勇者「魔ああァ王ううぅゥ! 以前は不覚をとったが、今回はそうはいかん!」

側近「『あ』も『う』も増えましたね」

魔あ王「そういうのいいから」

勇者「何をごちゃごちゃ話している……! いくぞ!」

魔あ王「あのさあ、勇者。私の名前をどこで知」

勇者「うるさい! 先手必勝!」

魔あ王「ああもう! 後手必殺!」

勇者「ぶべらっ!」

側近(弱いなぁ……)

魔あ王「側近ー。蘇生出来ないように、封呪しといてー」

側近「じゃあ爆散させないで下さい。ムリです」

魔あ王「えー……。あ。肉片が消えた」

側近「今頃蘇生されてますよ」

魔あ王「ゾンビよりしぶといなぁ……」

側近「僕の名前はヤン坊♪」

魔あ王「僕の名前は魔あ王♪」

側近「二人あわせてヤンマーだー♪」

魔あ王「きーみと僕とでヤンマーだ♪」


側近「こんなのどうです?」

魔あ王「あんたがヤン坊だけどいいの?」

側近「私ヤン坊ですし」

魔あ王「マジか」

魔あ王「ちょっとまって。あんた種族何だっけ?」

側近「イヤ○クックです」

魔あ王「!?」

側近「正確には天使とイヤンクックのハーフです」

魔あ王「魔王の側近が天使って、あんた」

側近「父は天界を追放されたあげく堕天しましたから、正確には堕天使ですね」

魔あ王「ふ、複雑な家だな」

側近「父に『イヤ○クックが孕むとは思わなんだ。娘よ、産んですまん』って土下座された時にはもう」

魔あ王「キッツいな」

側近「でも私に獣姦趣味はありませんので」

魔あ王「や め ろ」

魔あ王「んじゃあさ、本当の姿っていうかなんというかさ」

魔あ王「親の特徴って受け継いでんの?」

側近「ああ、それならば。まず、耳」ピョコン

魔あ王「フード被ってるみたいな耳だな」

側近「そして、羽」バサア

魔あ王「親の翼まんまなんだな。真っ白だけど」

側近「最後に、尾っぽです」ボロン

魔あ王「ここは普通にイヤンクックなんだな」

側近「以上、性感帯です」

魔あ王「かわいいと一瞬でも思った私がバカだった」

側近「魔あ王様も、先代魔王様と朱鯨様の良い部分を、しっかりと受け継いでおりますよ」

魔あ王「そ、そう?」

側近「先代魔王様が格闘派でおりましたので、その力強さを。逞しさを」

側近「先代后様のおおらかな優しさを。心の広さを」
側近「私の眼には魔あ王の中にしっかりと映っております」

魔あ王「……でも、私はお父様みたいな格闘技も、お母さんみたいな水の魔法も使えないよ?」

側近「『まだ』使えないだけでございます」

魔あ王「むぅ……」

側近「覚えますよ、いずれ。『しおふき』などの技を」

魔あ王「絶対に許さない」

休憩

ほのぼのしたい

魔あ王「西方の魔軍の統率が危ういそうだ」

側近「一大事ですね」

魔あ王「なんでも、女の私じゃあ付き従うだけの器量が無いだとか」

側近「それはそれは」

魔あ王「残念ながら、一度私の強さを見せつけねばあるまい」

側近「……口調の割には嬉しそうですね」

魔あ王「まあな。なんてったって――」

勇者「魔あ王! 今日こそお前を倒す!」

魔あ王「……側近ー。やっちゃって」

側近「かしこまりました」

勇者「いいだろう! お前から先に葬って」


   フィンガー・フレア・ボムズ
側近「五 指 爆 炎 球」

勇者「」

側近「……蒸発してしまったら、封呪ができないことを忘れていました」

魔あ王「行こうか」

側近「はい」

あれ。五指爆炎弾だっけ

――万魔殿――

魔あ王「ついた」

側近「乗せてくれた白竜さん、相変わらず速かったですね」

魔あ王「竜族には足を向けて眠れないよ」

魔あ王「……んでだ。ここのボスは、確か」

側近「アークデーモンですね」

魔あ王「そう、そいつ」

魔あ王「どんな奴だっけ」

側近「仮にも魔界西方の領地の主ですのに……。忘れるとは……」ジロッ

魔あ王「うるさいなぁ」

側近「プライドが高く、野心家」

側近「肉弾戦も遠撃戦もそつなくこなす戦闘力。魔族の内ではトップクラスの知性を持ちます」

魔あ王「あんま強くなさそう」

側近「なんてことを」

魔あ王「お父様もお母様も、天龍のおじいちゃんだってそれぐらい出来ただろうし」

側近「そりゃ、まあ」

魔あ王「さっくり説得しよう」

側近「物理で?」

魔あ王「拳といいなさい」

門番オーク「おいお前達、何者だ?」

魔あ王「貴様らの主に用がある。呼べ」

門番オーク「何を言っている? 顔も身も何処の馬の骨とも知らぬお前らに主様と」

魔あ王「こいつ私の事を知らないみたいだぜ。去年の忘年会でお父様が跡継ぎの発表をしたのに」ヒソヒソ

側近「アークデーモンから伝達されてないみたいですね。……そりゃ好き放題やり始める訳ですよ」

魔あ王「…………面倒くさいなぁ、もう。側近」

側近「はいなんでしょう」

魔あ王「耳、塞いどいて」

門番オーク「? 先程から何をごちゃごちゃと」

アーク「ふむ。『蜘蛛の糸』はまだ垂れ下がっておるのか」

アーク「ならば、天界制圧は糸が切られてしまう前に行わねば」

アーク「くく、ついに私の野望が実現しようと」


\アークデーモン!!!!/

\出てこぉおおおおい!/

アーク「」

アーク「門の方からとんでもない声が聞こえたが」

アーク「ふむ。行ってやるか」

魔あ王「ふぅ。流石に聞こえたかな?」

側近「あぅう……クラクラします……」キーン

魔あ王「ごめんごめん。まあ耳塞いでたから大丈夫だったでしょ?」

側近「耳塞いでても大ダメージですよ……」

門番オーク「」ピクピク

魔あ王「門番は泡吹いて倒れちゃった。穏便にいきたいんだけどなぁ」

側近「拳で?」

魔あ王「そう。穏便に拳で語り合いたい」

側近「語り合う? 語るだけでは?」

魔あ王「まあ頭を叩きのめせば、他の奴らも言うこと聞くでしょ!」

魔あ王「案の定、屋敷からは野次馬がぞろぞろと」

側近「ケルベロスにガーゴイル、下級デーモン等々……」

魔あ王「ギャラリーが多い方が都合が良いかな」

側近「あ、アークデーモンが来ましたよ」

アーク「これは……」

アーク「オークがやられており、そして人型の魔族が2体」

アーク「見たところ姉妹のようだが、この魔界の西方の主に対し、このようなマネをするとは」

アーク「ふむ」

魔あ王「怒ってるみたいだね……。どうしようか」

側近「嬉しそうに相談しないで下さい」

アーク「やはり死をもって償うか、或いは」

アーク「蝋人形にして、仲良く飾ってやろうか!」クワッ

魔あ王「くるよ! 側近は下がってて!」

側近「かしこまりました」

魔あ王「アークデーモンの翼って、脆いのね」

アーク「ぐっあ……ぁ」

魔あ王「飛ばれたら厄介だけど、流石に両方もいじゃうのも可哀想だから片方で許してあげるねぇ」

魔あ王「そもそも私は穏便に解決したかったのに」

側近(相手を楽しそうに踏みつけながら言う台詞ではないですね)

アーク「く……そ……! 【地獄の雷よ】!」

魔あ王「ん? なんか雲が」

アーク「【焼尽くせ】!」

魔あ王「え、え?」

アーク「落ちろ!!」ピシャアアン!!

魔あ王「ぎゃああああ!!」

側近「魔あ王様!」

アーク「はぁ……はぁ……。まさか奥の手まで使うことになるとは……」

魔あ王「」

側近「……」

アーク「――次は、その姉。貴様の番だ」

側近「私はもう、帰って魔あ王様へ治療を施したいのですが」

アーク「何を言って……!」ピタッ

アーク「今、なんと? その小娘が、先代魔王様の娘、だと?」

側近「……あなたは覚えていないのですか」

アーク「ふ、は」

アーク「ふはははははは! このような年端もいかぬ小娘が本当に今代魔王だと!? 本当にあの男の眷族だと!? 甘いにも程がある!」

アーク「先代魔王程の力があるわけでもなく、ましてや雌だ! 去年の暮れに奴が後継ぎの話をした時は、間違い無く冗談だと思っていたが……こいつは笑い物だ!」

側近「あの、申し訳ないのですが」

アーク「ちょうどいい! 貴様らを殺して、天界征服の前に魔界を我が手に収めてやろう!」

側近「……魔あ王様から、あなた方の忠誠が足りぬとのお言葉でした」

アーク「そのような小娘が主ではな! これからも変わらぬ、変える気もない」

側近「そうでございますか……」

アーク「終わりか? それでは、貴様ら揃って首を刎ねて」

魔あ王「いったああああいよおおぉう!」


アーク「」

魔あ王「もう!なにあれ、ふざけてんの!」

魔あ王「雷は苦手なのにあんなことしちゃってさぁ! 死ぬかと思ったよもう!」

側近「あ、あの、魔あ王様。お身体は……お怪我は……」

魔あ王「大丈夫な訳ないでしょもう!あーもう!もう!髪の毛もアフロみたいになってるしさぁ!」

アーク「……【地獄の雷よ】」

側近「!? 魔あ王様、危ないっ!」

魔あ王「だいたいアークデーモン! お前は去年の忘年会に来てただろ! 私を忘れるなんて」クドクド

側近「聞いてない!?」

アーク「【焼き尽くせ】!今度こそ、くたばれぇっ!」ピシャアアン

魔あ王「うぉっ! 危なっ!」ヒョイッ

アーク「」

側近「」

アーク「なん……だと……」

魔あ王「こんなすっとろいの当たんないよ! スローすぎてあくびがでるよ! こんなんじゃ勇者にすら当たんないよ!」

アーク「なっ」

魔あ王「さっき寝ながら聞いてたけどさ、『天界征服』だって? 馬鹿言ってんじゃないよ! あんたみたいな器用貧乏、ろくに使えやしないよ!」

アーク「」

魔あ王「それに思い出した! お父……先代魔王様もあんたのこと『主人公みたいな雑魚キャラでただのかませ』って言ってた理由が分かったよ! まるで基礎がなってないよ!」

アーク「」

魔あ王「まがりなりにもトップなんでしょ!? しっかりしなよ! 呪印の書き取りからやり直して、そっから低級、中級、上級って積み上げなさい! だいたい種族が高級の奴らは簡単に上級魔法を覚えられるからって基礎をないがしろにし過ぎだよ。そんなんだからいつまでも器用貧乏のままなんだ。力はゴーレムに届かないし、知性や素早さは龍族に及ばない。唯一長所の魔法はろくに磨かれてない……」クドクド

アーク「」

側近(ボコボコだぁ)

アーク「く、くそおおお!」バッ

魔あ王「ああ、もう」ガシッ

アーク「く、そ!放せええっ!」

魔あ王「――力付くで従わされるか、自分の意思で従うか、部下の目を考えてごらん?」ボソッ

アーク「……ッ!」

魔あ王「魔族トップクラスの脳ミソなら、どうしたらいいか分かるよね?」ボソボソッ

アーク「……」ギリギリッ

アーク「……」

アーク「…………」フゥッ

アーク「わかりました」

アーク「私は魔あ王様に忠誠を以てこの身を、心を捧げる事を誓います」

魔あ王「素直でよろしい」

魔あ王「……それじゃ、帰るから。基礎からやり直したらまた呼んでね。採点してあげるから」

アーク「……」

魔あ王「あ、それと。あんたも一応幹部なんだから、今週末の忘年会には出席するようにね」

アーク「……」

魔あ王「返事は?」

アーク「……わかりました、魔あ王様」


魔あ王「じゃあねいん」

アーク「…………」

アーク「行った、か」

ガーゴイル「アークデーモン様ぁ! お怪我はありませんかぁ!?」

アーク「……」

ガーゴイル「それに、アークデーモン様が忠誠を捧るなんて、あのお方はいったい何者なんでしょうかねぇ?」

アーク「……黙れ」

ガーゴイル「あ、いえいえ! あなた様が忠誠を誓った方ならば、私どもはこぞってついていきま」

アーク「黙れと言っている!」

ガーゴイル「ごるぱ」ズブシャァ

アーク「…………クソッ!」ハァ‥ハァ

アーク(なんなのだあいつらは!)

アーク「…………」

アーク「行った、か」

ガーゴイル「アークデーモン様ぁ! お怪我はありませんかぁ!?」

アーク「……」

ガーゴイル「それに、アークデーモン様が忠誠を捧るなんて、あのお方はいったい何者なんでしょうかねぇ?」

アーク「……黙れ」

ガーゴイル「あ、いえいえ! あなた様が忠誠を誓った方ならば、私どもはこぞってついていきま」

アーク「黙れと言っている!」

ガーゴイル「ごるぱ」ズブシャァ

アーク「…………クソッ!」ハァ‥ハァ

アーク(なんなのだあいつらは!)

>>40
うわなかったことにしてくれ

sage忘れたしんじゃう

前作も面白かったしsageとか特に気にする必要はないんでは?

>>43
前作のスレタイ教えてくれない?

――魔あ王城――

魔あ王「やー、彼が話のわかる奴で助かったよ」

側近「まったくですね」

魔あ王「帰りも白竜さんにお世話になったし、龍じいに明日遊びに行くって伝言も頼めたし」

側近「効率がいいのは素晴らしいことです」

魔あ王「この名前はあんまり効率が良さそうじゃないけどね」

側近「発音しにくいですしね」

魔あ王「うむぅ……改名しよっかなあ」

側近「えー」

魔あ王「『あ』の音が無駄だと思うんだ」

側近「無駄がない物に魅力なんてありませんよ」

魔あ王「名前も?」

側近「ええ。とっても可愛い名前だと思います」

魔あ王「……そ、そう?」

側近「面白いですし」


魔あ王「…………」ジトー

側近「魔あ王様の反応は、とっても可愛いですよ?」

魔あ王「うるさいなあっ、もう」


勇者「魔あああおおおおう!!」


魔あ王「」

側近「」

魔あ王「……あの呼び方はかなり無駄が多いが」

側近「……無駄が多いのも考えものですね」

魔あ王「ちっとも可愛くないや」

側近「ある程度無駄は省く必要がありますね」

勇者「何をごちゃ


(中略)


勇者(過去形)「」

魔あ王「ほんと弱いなー」

魔あ王「側近ー。あのさー」

側近「はい、なんでしょうか」

魔あ王「なんでこいつ毎回ここまでたどり着いてんの?」

魔あ王「そんなにここの警備ザルだったっけ?」

側近「……」

魔あ王「?」

側近「お金が……」

魔あ王「なん……だと……」

側近「人件費は高いんですよ……」

魔あ王「人じゃないのに?」

側近「高いんです!」

魔あ王「」

魔あ王「で、でも、さ。お父さんが私の前の代に稼いだお金は……」

側近「全部ゲームに消えました」

魔あ王「なんてこった」

魔あ王「じ、じゃあ、忠誠心ってものが」


側近「…………」

魔あ王「黙んないでよぉ!」

側近「だって、魔あ王様って」

側近「子供じゃないですか」


魔あ王「」



側近「変な名前ですし」


魔あ王「」


側近「でも、それが魔あ王様の可愛い所でも……って、魔あ王様?」


側近「おーい」


側近「!」

側近「し、死んでる……」

魔あ王「生きてるよ!」

魔あ王「とにかく!」

魔あ王「お金がいる!」

側近「現実逃避してませんか?」

魔あ王「お金は大事だ!」

魔あ王「だから、働かないと!」

側近「はたらく魔あ王様……!」

魔あ王「そうだ!」

側近「わたしはアルシエル役でもちーちゃん役でいいですよ」

魔あ王「?」

側近「こっちの話です」

魔あ王「でも今、魔界は不況だし……」

側近「履歴書もろくに見てもらえないかもしれませんよ?」

魔あ王「経歴:魔王一年って書いたら、流石に引かれちゃうかな?」

側近「いえ、変な名前だからです」

魔あ王「」

側近「やっぱり名前って就職に影響するんですよ」

魔あ王「……ど、どうにかして、お金を稼がないと」

魔あ王「忘年会のために、何かを売る事になってしまう!」

側近「別に私はそれでも」

魔あ王「あんたのアイマスクが一番の候補ね」

側近「大変ですね! なんとかしないと!」

魔あ王「何かないか何かないか…………」

魔あ王「…………!」

魔あ王「そ、そうだ!」


勇者(過去形)「」

魔あ王「こいつは、ほっといても復活するよね?」

側近「! 名案ですね!」

魔あ王「よし」


魔あ王「……脱がすぞ」

魔あ王「尻の毛まで毟ってやった」

側近「立派な装備ですねぇ」

魔あ王「いい値段になると思うんだがなぁ……」

側近「勇者のだから、プレミアが付いたりして」

魔あ王「ははっ。それなら、私の私物はもっと高値で売れるに決まってるさ」


側近「……試してみます?」

きゅうけい。

日常→お出かけ→繰り返し→忘年会

って流れでいきます。


ちーちゃんはあざとかわいい

>>43
毎回最初の更新の時だけ上げますね。

>>44
『舞園 鳥』の検索で一発のはずです。

自分で言うのもアレですけど。

―――闇市―――


魔あ王「……なんだここ」

側近「闇市です」

魔あ王「……悪魔以外に人間も、天使もいるぞ」

側近「商売はウィンウィンですからねぇ。よっぽど頭が固くないか大きな戦争をしない限り、なくなりませんよ」

魔あ王「……いいのか?」
側近「人間界と天界は法で禁止されてますね」

魔あ王「魔界は?」

側近「魔あ王様次第ですね」


魔あ王「……あれ?」

側近「先代魔王様は許していたので、ここまで活発な市が出来上がりました」

魔あ王「……お父様が」

側近「人間界のゲームをしたいと」

魔あ王「城にあるあれはここで買ったのか」

側近「その通りです」

魔あ王「……回ろうか」

側近「はい」

魔あ王「あれはなんだ?」

側近「魔法珠ですね。中に魔法が込められてて、割ると発動するんですよ」

魔あ王「ほほう。私は見たことないが、それは?」

側近「人間の作った物なんですよ。魔法使い以外の者でも魔法を使えるように、と」

魔あ王「なるほどなるほど」

側近「……まあ、別の用途で使われだしてからはあんまり流行らなくなってしまったんですけどね」

魔あ王「?」


側近「魔あ王様には、まだ早いです」

魔あ王「むー」

魔あ王「……火の魔法珠を、尻に詰めて、割る。すると、尻から火が出る。」

魔あ王「来週の忘年会で、どうだろうか」

側近「死にますよ? いろんな意味で」

魔あ王「アークデーモンにやらせない?」

側近「名案ですね」

魔あ王「やっぱり魔王たるもの、悪モノじゃないとね」

側近(いい笑顔だ……)


――――

アーク「ん?」

アーク「なんだか悪寒が……」

――――

魔あ王「これは?」

側近「心眼の指輪ですね。天使が作った物です」

魔あ王「ふうん。綺麗なだけ?」

側近「相手の心が読めるようになります」

魔あ王「サトリの存在意義が消えそうだよ」

側近「心眼の指輪は、一回しか効果を使えないんですよ」

魔あ王「ははあ、なるほどね」

側近「……3つ、買っていきましょうか」

心眼の指輪×3
→-9万ビル


魔あ王「……ちょっとトイレ」

側近「はいはい」

魔あ王「あ、あの絨毯大きい!」

側近「大きいですねー」

魔あ王「小さい頃から、ああいう大きな絨毯が欲しかったんだよね」

側近「……高いですよ?」

魔あ王「――東の巌窟王も持ってた気がするんだけど、譲って貰えないかなぁ」

側近「あーー……彼、ですか」

魔あ王「どうした?」

側近「ちょっと、昔に……ささ、進みましょう」

魔あ王(ごまかされた気がする)

商人「はい、これが『ミグミグ属のブランケット!』出品者は天界出身の『ぎっぷりゃー』さん! それでは、1万ビルから!」

「2万!」「2.5」「4万出すぞ!」

商人「はい、4万! 4万よりも上の方はいませんか?」



商人「はい、ではミグミグ属のブランケット、落札でございます!」



魔あ王「……ここは?」

側近「競り市です。ざっくり言えば、オークションですね」

魔あ王「どういうシステムなの?」

側近「出品者は落札額の2割を手数料として持っていかれる、それだけです」

魔あ王「……落札してみたい」

側近「部下の忠誠心を競りにかければ、お金は足りるかもしれませんがねぇ」

魔あ王「ごめんなさい」

側近「さて、今日は私達が出品する側です」

魔あ王「こいつらを売るんだな?」


『勇者の鎧』

『勇者の兜』

『勇者の剣』

『上質な服』

『上質な下着』

『作りたてのかつら』

側近「ええ、その通りです」

魔あ王「しかし、人間がいるのに勇者の物を売ってもいいのだろうか」

側近「人間も、倒した魔物の毛皮を売ってますよ?」

魔あ王「――ああ、わかった」

魔あ王「……ちなみに、忘年会にはいくらぐらいいるんだ?」

側近「7000」

魔あ王「……え?」


側近「先代魔王様は、毎年7000万程で済ませておりました」


※全財産:約600万ビル


魔あ王「」

側近「まあ、なんとかなりますって」

魔あ王「絶対にムリだよぉ!」

側近「魔あ王様は初めてなので、このデータカードに記入をして下さい」

魔あ王「あ、ああ。わかった」

魔あ王「……書いたぞ」

側近「それじゃ、出品しましょうか」


魔あ王(側近が得意気にしてる……)

魔あ王(店の人間が出てきた……と思ったら、側近にめちゃくちゃ頭を下げてる)

魔あ王(お得意様なのかなぁ。側近は私の方を指しながらなんか話してるし)

魔あ王(あ、店の人がこっちにきた)

店主「はじめまして、魔あ王様!」


魔あ王「あ、う」


店主「側近様からお話を伺いました。先代魔王様のご令嬢でいらっしゃいますか」

店主「魔あ王様の寛大なお心の上にこの市は成り立っているのでございます。是非とも今日はお楽しみ下さい」

魔あ王「あ、ああ、うん」

魔あ王(どうしよう)

魔あ王(やりにくい)

側近「それでは、今日私達が出品するのはこの6点ですから」


店主「かしこまりました」

店主「本日の目玉商品として、夕刻から始めさせていただきます」

側近「ああ、あと、魔あ王様が出品なさるようなので」

店主「! それは、それは」

店主「魔あ王様、何をご出品なさりますか?」


魔あ王(…………)


魔あ王(…………どうしよう)


魔あ王(パンツ、脱げる空気じゃない)

魔あ王「なんだかんだで出品してしまった」

側近「……今、魔あ王様はノーパンですか」

魔あ王「そうだ、スースーする」

側近「王ともあろうお方が、なんとまあはしたない」

魔あ王「こういう時だけそういう扱いすんの?」

側近「まあ、王ですしね」

魔あ王「ああもう!」


側近「そろそろ始まりますよ!」

魔あ王「……信じられない」

側近「私の名前で出品しましたからねぇ。信用度が違いますよ」

魔あ王「自分の下着が、あんな高値で売れるなんて……」ゴクリ

魔あ王「やっぱり城に置いてあったあの本は正しかったんだ」

側近「………………どの、本ですか?」

魔あ王「ゴメンナサイ」



『勇者の鎧』
→1620万

『勇者の兜』
→1120万

『勇者の剣』
→1980万

『上質な服』
→1040万

『上質な下着』
→1200万

『作りたてのかつら』
→690万

『魔あ王様のパンツ』
→1700万

計 +9350万

手数料 -1870万

総計 +7480万ビル

魔あ王「ところでさ、なんであんなお金がポンと出てくるんだ? こんな怪しい所なのに」

側近「ここしか売ってないからですよ」

側近「……そもそも、魔界のここまで来ることさえ、人間や天使からしてみれば命懸けですし」

側近「やはり、軍資金は大量に用意してくるのは基本のはずです」

魔あ王「ふうん」

>>78訂正

魔あ王「ところでさ、なんであんなお金がポンと出てくるんだ? こんな怪しい所なのに」

側近「ここでしか売ってない物がたくさんあるからですよ」

側近「……そもそも、魔界のここまで来ることすら、人間や天使からしてみれば命懸けですし」

側近「やはり、軍資金は大量に用意してくるのは基本のはずです」

魔あ王「ふうん」

少年天使「おねーちゃん、おねーちゃん! 魔あ王様なの?」

魔あ王「……!?」

天使「よかったら、サインちょうだいよ! ねえねえ、お願いだからさ!」

側近「魔あ王様、行きましょう」

魔あ王「え……でも、サインぐらい」

天使「お願いだよ、ちょうだいよぉ!」

魔あ王「ほ、ほら、ね?」

側近「い き ま し ょ う」

魔あ王「……別にサインぐらいいいじゃんか」

側近「競売にかけられるだけですよ?」

魔あ王「そんなの分かんないよ?」

側近「心眼の指輪」

魔あ王「!」

側近「自分のサインを競売にかけられて、良いことなんて1つもありません」

側近「イメージダウンにつながるだけです」


魔あ王「う…………」

側近「相手を疑ってかかる事が大事なんです。特に、こういう所では」

魔あ王「ごめんなさい……」

側近「…………もう、帰りましょうか」

――魔あ王城――

魔あ王「……国って複雑なんだね」

側近「ええ、それはもう」

魔あ王「なんだかやってける自信がなくなっちゃうよ」

側近「はは。今まで問題なくやってきたじゃないですか」

魔あ王「んー……」

側近「無理に頑張る必要はないんですよ?」

側近「歴史をさかのぼれば、戦闘狂で事務がからきしの魔王様の時代もあったわけですし」

魔あ王「…………」

魔あ王「そうだね」フゥ

魔あ王「……そろそろ勇者が来るかな」

側近「おそらくは」

魔あ王「またお金になってもらおうかな」

側近「勇者1回で7000万。美味しいですねぇ」

魔あ王「1日2回来るとして、1億4000万。12時間働くとして、だいたい時給1100万」

側近「まあ、王属が闇市に出品できるのは1年に1回ぐらいなものですけどね」

魔あ王「えっ」

側近「……王が何度もあんな所で荒稼ぎしてると知れたら」

魔あ王「あ、そっか」

側近「まあ先代魔王様も、この時期になると困窮して闇市に出かけていたんですけどね」

魔あ王「トーチャン……」

側近「主にゲームやマンガを買っていたせいですね」

魔あ王「」

魔あ王「腹へったよう側近」

側近「言葉遣いがよろしくありませんね」

魔あ王「お腹が空きましたわ」

側近「寝っ転がった状態でそんな誇らしげに言われても」

魔あ王「ヤン坊ー。作ってよー」

側近「はいはい」

魔あ王「唐揚げがいいなぁ」

側近「かしこまりました」

魔あ王「げふー。美味しかったよー」

側近「それはどうも」

魔あ王「やー、相変わらず料理上手だねぇ」

側近「魔あ王様はヘタクソですよね」

魔あ王「卵焼きは作れるからいいじゃん」

側近「……アレを卵焼きと言い張るのですか」

魔あ王「…………傷つくなぁ」

魔あ王「ゲームやるよ!」

側近「人間は偉大ですね」

魔あ王「あいつらは娯楽の天才だよ」

側近「天使は?」

魔あ王「鉱業だね。魔族は農業」

魔あ王「うまく出来た世界だねまったく」ポチポチ


テレーン♪

イツモココロニタイヨウヲ!

側近(ずいぶんと懐かしいゲームを……)

タイヨー!

魔あ王「……この銃、天使の奴らなら作れるんじゃないかなぁ」

魔あ王「側近ー」

側近「はいなんでしょう」

魔あ王「ポケモンやろー」

側近「…………」


【魔王『側近ー、ポケモン対戦しようぜー』


魔王『はあ!? ヌケニンとかふざけんなし!』


魔王『うぎぎ……!』】


魔あ王「――どうした?」

側近「ああ、いえ。やりましょう」

魔あ王「なんできゅうしょにあたるの!」

側近「…………」

魔あ王「ああああもう!」

側近(……負けてあげるつもりが、一匹で全滅させてしまいました)

側近(わざとじゃないです)

魔あ王「もう寝る! 側近、電気消して!」

側近「はいはい」

「側近ー」


「寝たー?」


「……寝てないよね?」


「どっちが早く寝るか、競争ね」



「スタート」




(…………)



(…………)



(…………お)



(……と……ぅ……)

魔あ王「おきた」

側近「私も起きましたよ」

魔あ王「勉強も終わらせた」

側近「嘘をおっしゃい」

魔あ王「勉強やだー! 側近とゲームしたいー!」

側近「ごねないで下さい」

魔あ王「今日から私、正直に生きようと思うんだ」

側近「それは無理です」

魔あ王「テテーン!」

側近「なんですか、それ」

魔あ王「昨日、こっそり買ってました!」

魔あ王「人間界にしか存在しない、オシャレなアクセサリー!」

魔あ王「眼鏡(がんきょう)です!」

側近「またまた……」

魔あ王「これを付けると!」

側近「付けると?」

魔あ王「賢さが!」

側近「賢さが?」

魔あ王「上がる!」

側近「……」

魔あ王「…………気がする」スチャ

魔あ王「どうよ!」

側近(どうっていわれてもー)

側近「えーと」

魔あ王「うんうん」

側近「その、なんというか」

魔あ王「うんうん!」


側近「少し、残念です」
魔あ王「」

側近(……あんまり眼鏡が似合うタイプじゃないんですよねー)

魔あ王「そ、そ、そうか」

側近(あ! やっちゃった!)

魔あ王「すまんな、側近。無駄遣いして」

側近(あー! あー!)

魔あ王「でしゃばったマネをしてごめんなさ

側近「いえいえいえ! 無駄だなんてとんでもない! 私が使いますよっ!」スチャ


魔あ王「…………」


側近「…………」


魔あ王「…………」クスッ


側近「」

魔あ王「悪かったって! 私が悪かったって!」

側近「どうせ私なんか使えない大臣ですよーだ」

魔あ王「ふふっ、付けたままヘソ曲げる側近面白い」

側近「」

魔あ王「ああっ、ごめんっ!」

側近「もう外します!」

魔あ王「それはダメ!」

側近「」

側近(さっきチラッと鏡を見ましたけど)

側近(これ、そんなに似合ってませんかね?)

側近(…………)

側近(…………)チラッ

魔あ王「何見てるの?」

側近「そんなことより勉強は終わりましたか?」

魔あ王「」

側近「ほらほら、手が止まってますよ!」

魔あ王「数学きらいー!」



オマケ

【魔あ王の解いてる問題】

・自然数において、連続して合成数、つまり素数でない数が連続して並ぶ区間(領域)を『素数砂漠』と呼ぶ。

・例えば、『24、25、26、27、28』は全て合成数であり、『24から始まる素数砂漠』といえるだろう。

・では、100個以上の合成数が並ぶ素数砂漠は、どのような数から始まるか。1つ答えなさい。


(答えは需要があれば)

魔あ王「人間数学ってさ」

魔あ王「ぶっちゃけ生きていくのに必要ないよね?」

側近「ええ、必要ありません」

魔あ王「だったら!」

側近「けれども、考えるというのは大事なことです」クイッ

魔あ王(ごく自然に眼鏡をクイってやった……)

側近「それに」

側近「王たる者、ある程度の教養は必要かと」クイッ

魔あ王(気に入ったみたいだ……)

側近「人間数学が終わったら、次は天界数学ですよー」

魔あ王「やだー!」

魔あ王「やっと終わったよ」

側近「お疲れさまでした」

魔あ王「んじゃ、今日も忘年会の準備をしないとね」

側近「具体的には何を?」

魔あ王「今日は東の岩窟王の所と、天龍のじいちゃんの所に遊び……忘年会のお知らせに行くよ!」

側近「わかりました」


魔あ王「そういえば、側近って巌窟王の事が苦手だったよね?」

側近「そんなことないですよ……」

側近(…………)

魔あ王「巌窟王の所に行くの、久しぶりだなぁ。小さい頃に何年かゴーレムと修行してもらって、それっきりだし」

魔あ王「それと。彼の所には、でっかい絨毯があるんだよ。肌触りのいいやつ。同じの買いたいからついでに聞こっか」

側近「……そう、ですね」

―――巌山―――

魔あ王「いやー、高いねー」


側近「……」ゼェゼェ


魔あ王「どうしたの、側近。息が荒いよ?」


側近「ちょっ……あの……、頼みますから」


魔あ王「ほらほらー急がないと日が暮れちゃうぞー」


側近「背中から降りて下さい!」

魔あ王「側近ちからもちー」

側近「嬉しくないです!」

魔あ王「そんなこと言わずに」

側近「降りて下さいよぉ!」

魔あ王「もーちょい、もーちょいだから!」

側近「ひー……」

魔あ王「あ! 洞穴が見えたよ!」

側近「…………」

魔あ王「……どうしたの? 足、止めちゃってさ」

側近「あの、魔あ王様」

魔あ王「?」

側近「私、外で待ってていいですか?」

魔あ王「えぇー……」

側近「本当にお願いします! ムリなんですよ!」

魔あ王「魔あ王の側近たる者、好き嫌いがあるようでは勤まりませんなぁ」

側近「う……」

魔あ王「ほらほら、行きますよー」

側近「…………」

巌窟王「…………誰だ」

魔あ王「私だよん」

巌窟王「…………ああ、お前か」

魔あ王「おひさー」

巌窟王「…………おひさ、だ」

魔あ王「あ、側近もいるよ!」

側近「ぅぅ…………」

巌窟王「………………! 小娘か」

魔あ王(私のが小娘なんだけどねぇ……)

側近「お、お久しぶり、です」


巌窟王「………………久しぶりだな」


側近「…………」


巌窟王「………………」


側近「…………」


巌窟王「…………【潰れろ】」

側近「ちょっ!?」バッ

魔あ王(側近が飛び退いたと思ったら、そこに大きな岩が落ちてきた)

魔あ王(物騒な魔法だなぁ)


巌窟王「………………避けるな。また、絨毯にしてやろうとしたのに」

側近「もう2度とゴメンです!」

巌窟王「………………あの時は、お前から挑んで来ただろう?」

側近「それは……そうですけど!」

魔あ王「なになに何の話?」

側近「魔あ王様には関係ない話です!」

巌窟王「………………ああ、あれはだな……」

側近「わー! わー!」

少女『燃えろ燃えろぉ!』

少女『なんだよもう! 産んですまなかったって!』

少女『父さんも姉ちゃんも、大っ嫌いだぁ!』

少女『あっはっは! 燃えろぉ!』

少女『……ん?』


巌窟王『………………』


少女『なに、オッサン』

巌窟王『………………俺の土地を、荒らすんじゃない』

少女『うっせぇ! 焼くぞ!』

巌窟王『…………ゴーレム』ズッ

少女『土人形か! しゃらくせぇ、燃えろぉ!』

巌窟王『………………』

少女『どぉした、おしまいか!?』

巌窟王『………………後ろだ』

少女『――――え』

少女『離せクソこのやろう! ぶっころしてやる!』

巌窟王『…………逆さ吊りにしても、お前は五月蝿いな』

少女『もう一体ゴーレムとかずりーぞ!』

ギャーギャーワーワー


巌窟王『………………ゴーレム』

巌窟王『叩き潰せ』

少女『は』



――ペシャン!



少女『』ペラン ペラン

巌窟王『………………』

巌窟王『………………』

巌窟王『………………漏らしてるな』

巌窟王『………………洗って、絨毯にでも使うか』

巌窟王「…………と、いうことがあってだな」

側近「…………」

魔あ王「潰されても死なないの?」

巌窟王「………………俺の得意な分野だ。敵の捕獲に使える」

側近「あれは死んだ方がマシですよ!」

側近「なんであんなので120年も過ごさなきゃいけなかったんですか! 青春の半分が絨毯で消えましたよ!?」

側近「しかも! ボロボロになったからって競売にかけて!」

側近「魔王様に買われなければ燃やされてましたよ!」

巌窟王「………………あれは、お前だと忘れていた」

巌窟王「………………うっかりしていた。もうしないから、安心して【潰れろ】」

側近「だーかーらー!」ヒョイ

魔あ王(仲がいいなぁ)

側近「だいたい!」

側近「あなたの悪趣味な癖にはうんざりしてたんですよ!」

側近「なんですか標本作りって!」

側近「片っ端から生き物を土で固めたり、ぺしゃんこにして飾ったり!」

側近「頭おかしいんじゃないんですか!?」

巌窟王「………………お前を尻に敷いて、よく分かった」

巌窟王「………………お前は、絨毯になるべきだ!」クワッ

側近「なるべかない!」

魔あ王(小さい頃は気付かなかったけど)

魔あ王(変態なんだなぁ…………巌窟王)

魔あ王(私は潰されなくてよかったよ)



魔あ王(…………あれ?)

魔あ王(…………絨毯?)


巌窟王「………………そういえば、魔あ王……サマ。お前もこいつに座っていたはずだぞ」

側近「!?」

魔あ王(アカン)

巌窟王「………………布団に使っていたら寝小便を垂らしてな、掃除が大変だった」

魔あ王「」



側近「」



側近「」

魔あ王(……どうしよう)

魔あ王(気まずい)

巌窟王「………………そういえば、魔あ王サマ。お前も綺麗な肌をして」

魔あ王「お断りします」

巌窟王「………………ぬう。それでは、俺のコレクションを」

魔あ王「見ません」

巌窟王「………………ぬう」

魔あ王「本題に入ります」

巌窟王「………………うむ」

魔あ王「今週末、忘年会があるので、是非とも出席をお願いします」

巌窟王「………………! もうそんな季節か!」

巌窟王「………………わかった、準備しておこう」


魔あ王「どうもありがとうございます」

巌窟王「………………土産に持っていくのは、何がいい?」

魔あ王「生物以外でお願いします」

魔あ王「それでは」

側近「…………失礼します」


スタスタ……


巌窟王(…………あの小娘が魔王、か)


巌窟王(先代魔王の影にすがるばかりなら、俺が廃棄処分してやろうかとも思っていたが)


巌窟王「はてさて…………」ニヤニヤ

休憩。


尻に敷く(物理)

側近は昔壊れてた設定。

側近「こんなとこ、さっさと離れましょう」

魔あ王「んじゃ、おぶって」

側近「」



魔あ王「……側近の肌って、柔らかいね」

側近「それはどうも」

魔あ王「すべすべしてるね」

側近「ありがとうございます」

魔あ王「絨毯に向いてるかもね」

側近「向いてませんよ!」

魔あ王「冗談、冗談だよぉー」

側近「まったく……」

魔あ王(……いつか頼んでみよう)

魔あ王「このまま近くの龍じいの所に行こ?」

側近「……白龍さんは呼ばないんですか?」

魔あ王「白龍さんはタクシーじゃないっ!」

側近「私もタクシーじゃないですよっ!」

魔あ王「ほらほら急ぐ急ぐー」

側近「うひー……」

魔あ王「肉弾戦大得意なんでしょ?」

側近「それはそれ、これはこれですよぉ……」

魔あ王「肉弾戦(意味深)」

側近「……投げ捨ててもいいんですよ?」


魔あ王「ゴメンナサイ」


魔あ王「…………ん?」

側近「どうしました?」

魔あ王「いや、天使があっちの龍じいの家の方に向かって飛んで……」

側近「ひょっとしたら目的地が同じかもしれませんよ?」

魔あ王「えー……やだー……」

――龍ヶ陵――


魔あ王「…………」


智天使「…………」


天龍「オレの名は、天龍!」


側近「」


側近「」

側近(どうしてこうなった)

側近(……忘年会に誘いに来たまでは良かったんだ)

側近(天龍の爺様が何かに変身しているのは、いつものこと)

側近(問題は、智天使……天界の上部の1人とばったり鉢合わせたこと)

側近(向こうはこっちを知らないみたいだったけど、先代魔王様の名前が出てから一変)

側近(殺気が痛い……)


魔あ王・智天使「「あの」」

魔あ王・智天使「「……先にどうぞ」」

魔あ王・智天使「「被せんのやめてくんない?」」


魔あ王「…………」イライライラ

智天使「…………」ニヤッ

魔あ王「上級天使は心が読めんのか?」

智天使「さあ?」

魔あ王「ニヤニヤしやがって……」

智天使「そう見えるのは、貴女が何か疚しいからでしょう」

魔あ王「…………」

智天使「変な名前がコンプレックスですか?」

魔あ王「……うぜぇ奴だな、お前」

智天使「魔王相手にうざったくない天使なんていませんよ」

魔あ王「屁理屈はいいんだよ!」

智天使「屁理屈も理屈ですとも」

魔あ王「…………」

魔あ王「――へぇ。『読心の魔法』なんてあんのか」

智天使「……いえ?」

魔あ王「『心眼の指輪』」

智天使「……面倒な物を」

魔あ王「術式を開きっぱなしだと、疲れるみたいじゃん」

智天使「…………」

魔あ王「使うの、止めなよ」

智天使「……いいでしょう」

魔あ王「嘘つくんじゃねぇよ」

智天使「…………」チッ


天龍「……喧嘩なら、外でやってくれんかの?」

魔あ王「ごめんなさい」

智天使「すいません」


側近(天龍の爺様もいつの間にか人型に戻ってるし)

天龍「それで、何の要じゃ? 智天使」

魔あ王「!」

智天使「これは、これは」ニヤ

天龍「さっさとせい」

智天使「はい、慎んで申し上げます」

智天使「今週末に

天龍「断る」

智天使「」

智天使「…………え?」

天龍「また、この話か……」

天龍「……毎年誘われるんじゃよ、年末は」

天龍「魔界と天界と人間界と、忘年会から誘われて、の」

天龍「儂は、どこのにも行かんというのに。それを分かって熾天使は自ら来んでお前を遣わせているのかもしれんが……」

智天使「なぜ」

天龍「…………中立、だからじゃな」

智天使「お戯れを」

天龍「んん。儂らがいないと、安心して忘年会が出来ないじゃろ?」

智天使「‥‥‥」

天龍「ん?」

智天使「分かりました。それでは失礼します」

天龍「ほっほ。儂の代わりに朱龍を遣わせるから、もてなしてやれ」

智天使「ありがとうございます。丁重に致します」

側近(苛立ってるなー)

智天使「…………」ピタ

側近(?)

智天使「…………」

側近(私の顔を見て、立ち止まった?)

智天使「…………名前を、教えてくれ」

側近「」

魔あ王「」


智天使「?」

側近(な、な)

魔あ王(なっ!)

側近(ナンパですか!?)

側近(え、ちょっ、えっ?)

魔あ王「何のつもりだよ!」

智天使「ナンパだ」

魔あ王「」

側近「―、――です」

魔あ王「お前も言わなくていいから!」

智天使「そうか、ありがとう」スタスタ

魔あ王「」

側近「」ボーッ


天龍「…………若いのう」

天龍「さて」

天龍「魔あ王、お主は何故ここに来た?」

魔あ王「…………」

天龍「はよう言わんか」

魔あ王「…………今週末、忘年会があるから龍じいにも参加して欲しかったんだけど」

魔あ王「ムリみた

天龍「よし分かった」

魔あ王「」

魔あ王「え、え?」

魔あ王「でも、龍じいは何処のにも行かないって」

天龍「あれは嘘じゃ」

魔あ王「」

天龍「何を驚いとる?」

魔あ王「え、え? だって、龍じいって中立だから、えっと」

天龍「……儂が参加するとまずいと?」

魔あ王「…………」

天龍「ふむ。確かに、本来ならそうかもしれんが」

天龍「平和な世の中じゃからな」

魔あ王(そんな感じでいいのか!?)

天龍「変身して参加すればバレまい」

魔あ王(嘘でしょ!?)

魔あ王「で、でも! 読心とかされたら! ほら、さっきの智天使にも読まれてたかも」

天龍「あんな若僧のは効かんわ」

魔あ王「」

天龍「儂が何年生きとると思っとる」

天龍「術式を通した読心なんぞ、ああして、こうして、ホイじゃよ」

魔あ王(さっぱり分からない)

天龍「幹部でもないサトリが連座するわけでもあるまい」

魔あ王「そうだけど……」

天龍「なんじゃ? 儂が出席するのは嫌か?」

魔あ王「嫌じゃないけど、なんていうか」

天龍「なら、別に構わんじゃろ」

魔あ王「…………」

天龍「旨い酒をたらふく飲ませてくれい」ニヤ


魔あ王「……わかったよ」

天龍「…………それよりも、魔あ王」

魔あ王「……何?」

天龍「もっと他に、聞きたい事があるんじゃろ?」

魔あ王「…………」

魔あ王「…………」

魔あ王「…………」


魔あ王「…………うん」


魔あ王「私のお父さんは、どこにいるの?」


天龍「――――やはり、聞きたいか?」

魔あ王「うん」

天龍「……側近。お前も近くに座れ」

側近「…………」スッ

天龍「……よし」

天龍「その前に、1つ」

天龍「聞くという事は、覚悟が

魔あ王「全部済んでるよ。その上で、聞くから」

天龍「…………そうか」フゥ

天龍「…………よく、聞け」

「先代魔王――お前の父は」


「…………もう、何処にもおらん」


「ああ。死んだ」


「流行り病だった」


「……人間界で、力尽きた」


「骸が、どうなったかは知らぬ」


「ただ。魔界と人間界との溝を埋めようとしていた」


「その道中だった」


「……裏切りでも、戦いでも、何でもない」


「病に、倒れた」


「本当は、半年と持たず、死ぬ病だった」


「だが、彼奴は耐えた」


「…………お主のためじゃよ」



「ボロボロの身体で、継承を告げた後」



「家を出た」



「そして…………」

魔あ王「…………」

天龍「…………終わりじゃ」

側近「…………」


魔あ王「――ありがとう、龍じい」

側近(……俯いてしまった)

側近(支えてあげないと、いけないのに)

側近(こう慰めよう、ああ励まそう、色々と考えていたのに)

側近(なんて声をかけたらいいのか分からない……)

天龍「…………」


魔あ王「…………」フゥ


魔あ王「龍じい。もう一個、聞きたい事があるんだ」


天龍「……なんじゃ?」


「私の名前って、何でこんななの?」



「」



「」



「」



「」



「」



「……知らぬ」



「……そっか」

――――

天龍「……行ったか」

青龍「天龍サマ……」


天龍「あんな、小さかった子も」


天龍「大きくなるんじゃなぁ……」

――――

――天空――
智天使(読心が通らないとなると、天使の筈……)

智天使(どこかで見たことがある顔立ちでもあった)

智天使(だが)

智天使(魔王に仕えているとなると……堕天したか?)

智天使(堕天使が処刑される事を知らない筈がないが……)

智天使(だとしたら、なぜ私の前に姿を表した?)

智天使(……少し、堕天した者のリストを漁ってみるか)
――――

ちょっと休憩。


ほのぼのできるか…?

天龍ネタは正直すまんかった。

>>96
101!は2から101までの全ての自然数を約数に持つから、2≦k≦101である自然数kに対して101!+kは合成数。
よって100個以上の合成数が並ぶ素数砂漠の一つは101!+2から始まる。
……これでおk?

――魔あ王城――

魔あ王「…………」


側近「…………」


魔あ王「…………」


側近「…………」


魔あ王「…………」


側近「…………」


側近(どうしよう)

側近(魔あ王様は、さっきから何も話さないし)

側近(こちらからも声がかけれない)

側近(1人にしてあげるべきなのか……)


魔あ王「……側近」

側近「はっ、はい!」

魔あ王「ご飯まだ?」

側近「あ」

魔あ王「ふー。ごちそうさま」

側近「いい食べっぷりでしたよ」

魔あ王「オムライス、美味しかったよ」

側近「それはそれは」

魔あ王「……ありがとう、ね」

側近「どういたしまして」

魔あ王「……お風呂入ってくるよ」

魔あ王(…………)


魔あ王(…………)


魔あ王(…………温かい)


魔あ王「…………あ」


魔あ王「たとえばー」

魔あ王「ゆるい幸せがー」

魔あ王「だらっとー続いたとするー」


魔あ王「きっとー」


魔あ王(……歌詞忘れた)

魔あ王「あがったよー」

側近「はい、私もお風呂に入ってきますね」


魔あ王「うー」


魔あ王「…………ん」


魔あ王(そういえば、今日はあいつ、来なかったな)

魔あ王(…………人間かぁ)

魔あ王「難しいなぁ……」

側近「魔あ王様! 魔あ王様!」

魔あ王「!? どした!?」

側近「目が、目が!」

魔あ王「……眼鏡、曇ってるよ」

側近「あ……」

魔あ王「裸でいると、風邪ひくよー」

側近「…………はい」

魔あ王「側近ー」

側近「はいなんでしょう」

魔あ王「水飲み過ぎじゃない?」

側近「のぼせたんですよ」

魔あ王「へー」

魔あ王「……眼鏡、外さないの?」

側近「…………」ゴクゴク

魔あ王(外せばいいのに)

側近「外しません!」クイッ

魔あ王(何が彼女をそうさせるのか)

側近「魔あ王様ー」

魔あ王「なにー?」

側近「辛いなら、言って下さいね」

魔あ王「…………ん。わかった」

側近「本当ですか?」

魔あ王「うん……じゃあさ」


魔あ王「ぎゅってして」

側近「はいはい」キュッ

魔あ王「…………」ギュッ

側近「魔あ王様」

魔あ王「…………なに?」

側近「髪、乾かさないと風邪ひきますよ?」

魔あ王「ひいてもいいもん」ギュッ

側近「そうですか」ナデナデ

魔あ王「…………」


側近「…………」ナデナデ

魔あ王「……側近、いい匂いがする」

側近「魔あ王様と同じ匂いですよ」

魔あ王「側近の方がいい匂い」

側近「それは嬉しいですねぇ」

魔あ王「側近の心臓、どきどきしてるね」

側近「生きてますからね」

魔あ王「……そうだよね」ギュッ

側近「…………」キュッ

魔あ王「…………側近」

側近「なんでしょうか」

魔あ王「……言っていい?」


側近「ええ」


魔あ王「なら、言うよ」


側近「どうぞ」


魔あ王「…………」


魔あ王「一人に、しないで……」ポツリ


側近「誓いますとも」


魔あ王「………………ありがとう」

側近「魔あ王様……」

魔あ王「なにー」

側近「あの……」

魔あ王「んー」

側近「……そろそろ、放してください」

魔あ王「やだー」ギュッ

側近「お願いですから」

魔あ王「ひとりにしないでー」

側近「しませんから!」

魔あ王「うー」ギュー

側近「……ゲームしましょう」

魔あ王「やろうやろう」パッ

魔あ王「……」ピコピコ

側近「……」ピコピコ

魔あ王「! なんでトゲゾー避けれるの!」

側近「ふふふ」

魔あ王「くっそー……!」

魔あ王「あと一週あるし!」

側近「頑張って下さいねー」

魔あ王「キーッ!」


側近「あっ」


魔あ王「コースアウトしてやんのー!」

側近「…………」

魔あ王「……え、えと。目が本気だよ?」

魔あ王「なんで負けるの……」

側近「修行が足りませんね」

魔あ王「ふぐー……」

側近「それじゃあ、もう寝ましょうか」

魔あ王「んー」

「側近ー」


「もう寝たー?」


「寝てないよね?」


「……一緒に寝ていい?」


「……おじゃましまーす」


「側近あったかーい」


(…………)


(…………)


(…………ぁ)


(…………やっぱ)


(…………さみしい)

魔あ王「側近おねしょしてやんのー」

側近「してないです!」

魔あ王「朝起きたら私の布団の中にいたし」

側近「魔あ王様が来たんでしょうが!」

魔あ王「魔界地図ー」

側近「魔あ王様のでしょ!」

魔あ王「……本当に側近してないの?」

側近「してません!」

魔あ王「側近、朝からトイレに行ってないよね?」

魔あ王「いつもは起き抜けに行くのに、今日に限っておかしいねぇ?」

魔あ王「そういえば、昨日の晩にいっぱい水を飲んでたみたいだけど?」

魔あ王「夜中トイレに立った訳でもないよね?」

魔あ王「あれれー? おかしいぞー?」


側近「」


側近(私が……したのか?)


魔あ王(ちょろい)

魔あ王「おねしょー」

側近「やめて下さい」

魔あ王「今日は勉強の代わりにお掃除しなきゃですね!」

魔あ王「側近がおねしょをしてしまいましたから!」

魔あ王「ついでに、城も掃除しましょー!」


側近「なんですかそのキャラ……」

魔あ王「ほうきー」

側近「円くはかないで、四角く、隅まではきましょうね」

魔あ王「てやー!」ツンツン

側近「ちゃんばらもやめてください。埃が飛びます」

魔あ王「えー?」ツンツン


側近「……さりげなくお尻に刺そうとするの、やめてもらえませんか?」


魔あ王「むりー!」ズブッ

魔あ王「あっ」

側近「」

側近「雑巾がけって腰が痛くなりますよね」

魔あ王「そうだねぇ」

側近「4つん這いの魔あ王様」

魔あ王「やめて」

側近「何を」

魔あ王「…………」


側近「こう、もっと、なんというか恥じらいを」

魔あ王「や め て」

魔あ王「シャボン玉!」

側近「洗濯、ちゃんとやって下さい」

魔あ王「えー。だって側近の魔界地図じゃん」

側近(納得いかない)

魔あ王「そういえば、側近が絨毯だった時って」

側近「…………」



『――――! ――――!』

『………………ゴーレム。しっかり絞って、渇かしておけ』


『――――……』ギチギチ


『………………シワをとりたいな。熱した岩で延ばすか』


『‥‥‥‥・・・・』ジュウウ


『………………また漏らしてやがる。やり直しだ』




側近「…………」

魔あ王(遠い目をしている)

側近「何も、ありませんでしたよ?」ニコ

魔あ王(触れないでおこう)

魔あ王「お父様の部屋」

側近「…………」

魔あ王「…………」

側近「…………」

魔あ王「……また今度でいっか」

側近「……そう、ですね」

側近(ゆっくり、受け止めればいいんですよ。きっと)



「側近ー。部屋掃除してくんない?」

「ゲーム面白いんだぞ! バカにすんな!」

「あああ捨てないでくれー!」





側近(…………)ギュ

魔あ王「?」

魔あ王「終わったー!」

側近「終わりましたね。お疲れ様です」

魔あ王「掃除をすると、気分がいいねー!」


側近「そういえば昨日の問題、合ってましたよ」

魔あ王「どんなんだっけ」

側近「素数砂漠のやつです」

魔あ王「あー、あれか」

魔あ王「当然よっ」ドヤッ

側近「新しい問題、やりますか?」

魔あ王「」

側近「えー?」



まさか解答が来るとは夢にも思わなかった……。
>>138
大正解です。
魔あ王の かしこさが あがった!

魔あ王「昨日の勉強を生かして術式を組んでみました」

側近「……こっちに向けないでくれます?」

魔あ王「『相手の人生のうち7番目に大切な物を消滅させる』魔法です!」

側近「え ぐ い」


側近「……あれ? 魔あ王様は魔法使えないんじゃ」

魔あ王「…………」

側近「成功しないと思いますけど! こっちに向けないで下さい!」

魔あ王「ざんねん、発動しなかった」

側近(よかった)

魔あ王「魔法の才能はからきしだなぁ」

側近「だからしおふきを」

魔あ王「…………」

側近「……そもそも、私もあまり得意じゃないですしね」

魔あ王「しおふき?」

側近「ち が い ま す」

側近「肉弾戦よりかは、魔法が得意じゃないってことです」

魔あ王「……じゃあさ」

「ちからくらべしよ?」

魔あ王「」ピクピク

側近「…………」

側近(あぶなかった)


魔あ王「……ずるいぞ! なんで急に尻尾が出てくるんだよ!」

側近「でちゃいました」

魔あ王「だからって後ろからぶつことないじゃん! それ、始めから出しててよ!」

側近「服が破れますもん!」

魔あ王「うー……!」

側近(とは言っても)

側近(魔あ王様も私も、全然本気を出してる感じじゃあないんですけどねー)

魔あ王「服破れてるし! 側近のばーか!」

側近「」

魔あ王「側近ー」

側近「はいなんでしょう」

魔あ王「半けつー」

側近「……口が悪いです」サッ

魔あ王「変な名前だから別にいいじゃん」

側近「関係ないですよ?」

魔あ王「ええー……」

魔あ王「破れた服はどうするの?」

側近「縫います」クイッ

魔あ王(そんなかっこうで眼鏡を上げられても……)

魔あ王「!」

魔あ王「今、側近の魔界地図を競売にかけて新しい服を買えばいいと、お告げが!」

側近「断固拒否します」

側近「それに、もうシーツも洗ってしまいましたし」

魔あ王「……もう一回作る?」

側近「作りませんし、あれを作ったのが私だと納得してませんからね!?」

魔あ王「お尻を出してる側近が言っても説得力が……」

側近「」

魔あ王「見られた方がいいとか見られたいとか、逆に、ね?」

側近「あ?」

魔あ王「」

魔あ王「側近は翼もあるから飛べるし」

魔あ王「魔法も使えるし」

魔あ王「肉弾戦も強いとか、ずるいよ!」

側近「……だから、どっちかというと近接の方が得意なだけで」

側近「魔法などは、アークデーモンのそれよりかは使いこなせないと思いますよ?」

魔あ王「本音は?」

側近「…………得意な分野なら、器用貧乏のあれよりかは」

魔あ王「魔法教えて」

側近「ええ、構いませんよ」

側近「魔あ王様は、母方が水に強かったのでそういう魔法が強くなると思うんです」

魔あ王「ほうほう」

側近「私は、火の系統が得意ですね」

魔あ王「うんうん」

側近「さっぱり分からないです」

魔あ王「」

側近「……とりあえず、初級としてはその物が出せる……私なら火ですね。それを出せるようにならないと、上級魔法も使えませんから」

魔あ王「……水を、出す」

側近「ああ、といっても体液じゃダメですよ。具体的にはおし

魔あ王「言わせないよ?」

側近「それで、出せるようになったら好きなようにアレンジして」

魔あ王「むー……」

側近「少し練習してみてください」


・・・


魔あ王「頭痛くなってきた」

側近「かしこさが足りませんね」

魔あ王「?」

側近「新しい事をする時には、強い頭が必要なんですよ」

魔あ王「と言うと?」

側近「ざっくり言えば、勉強です」

魔あ王「」

側近「強い頭を作る一番の方法は、勉強ですからねぇ」

魔あ王「……ほ、他にはないの?」

側近「身体か精神が死にそうなぐらい磨り減ると、頭のネジが外れるのでそれでコツを掴めれば」

魔あ王「勉強します」

側近「さっき組んでた術式はどうしたんですか?」

魔あ王「本に載ってたのをそのまま」

側近「そんな術式が載ってる本が……」

魔あ王「あとは、対象をスライムにする魔法とか」

側近「絶対使っちゃダメですよ! 暴発したら死にますから!」

魔あ王「フリ?」

側近「ちがいます!」


側近「……本の術式は練習にはいいですけど、実戦じゃ使えませんからね……」

魔あ王「なんで?」

側近「失敗しやすいのと、威力が完全に出し切れないから、ですね」

側近「人間数学で、公式を天下りに与えられた物だと勘違いするのと同じです」

魔あ王「応用が利かないと?」

側近「その通りです」

魔あ王「そういえば、この前に勇者を蒸発させたやつ、あるじゃん」

側近「ああ、はい」

魔あ王「技名自分で付けたの?」

側近「」

魔あ王「ふぃんがー・なんちゃら・なんとか、みたいな」

側近「あ、あれはですね。城にあるマンガにある技を真似たら出来たってだけで

魔あ王「技名を言う必要は無いと思うけどね」

側近「う」

魔あ王「あれでしょ、小さい頃、パンチに合わせて口で『デュクシ』とか言っちゃってたんでしょ」

側近「」

側近「……言ってないですし」

魔あ王「へーえー」

魔あ王「へーーーえーーー」

側近「ええ言ってましたとも! 何が悪いんですか!」

魔あ王「恥ずかしくないの?」

側近「…………」ギリッ

魔あ王(側近いじめたのしい)

魔あ王「魔法の実演講義してよ」

側近「いいですけど、対象がいませんよ?」

魔あ王「ああ、確かに」


勇者「魔あああああっ! 王ぅううううっ!」」


魔あ王「」

側近「」

魔あ王「……もしかして、勇者?」

勇者「そうだ! 今日こそお前を倒す!」

魔あ王「……どうしたの、頭?」

勇者「知るかぁっ! 教会で起きたらこうなってたんだよっ!」

側近(かわいそう)


勇者「何故か装備も何もかもが無くなってるし……神父には変態扱いされるし……!」

ブツブツアーダコーダ

魔あ王「あいつ、どうしよう」

側近「だいぶ傷付いてますね」

勇者「あれも、これも! 全部お前のせいだぁあああっ!」ズアッ

魔あ王「それは違うよ!」ドガッ

側近(違わない)

勇者「ぐっ……! だが、これぐらい!」

魔あ王「だって加減したもん」

勇者「」

魔あ王「今日は、いろいろ聞きたい事があるからね」


側近(悪い顔だ)



魔あ王「おとなしくしてたら、別に痛くしないけど」

勇者「く、くそおおぉっ!」バッ

魔あ王「……面倒くさいなぁ、もう」


――――

――

――――

――
「これから、いろいろ質問するけど」


「勇者。お前の態度次第で、その聞き方は大きく変わる」


「優しく、1つ1つ聞いていくも」


「拷問のように、苦痛を伴うも」


「全て、お前次第だから」


「……あ、殺さないよ?」


「だって、復活しちゃうじゃん」


「……? 何を――――」

魔あ王「ほんっと信じられない! 自爆とか今時流行んないよ!?」

側近「……私もびっくりしました」

魔あ王「肉片は飛ぶし、何も聞けないし、意味分かんないよもう!」

魔あ王「あのハゲは命を粗末に扱いすぎだよ!」

側近「まったくです……」

側近(せっかく綺麗にしたのに、面倒ですね……)

魔あ王「ふぅ」

側近「やっと綺麗になりましたね」

魔あ王「専用の部屋とか作るべきかもしれないね」

側近「勇者専門部屋……ですか?」

魔あ王「説得するための部屋だね」

魔あ王「拳で」

側近「お金があれば」

魔あ王「……忘年会が終わったら、なんとかしよう」

側近「ところで、魔あ王様。忘年会の準備は進んでますか?」

魔あ王「幹部は招待してってるけど?」

側近「……まさか、料理を食べるだけで終わりにするつもりですか?」

魔あ王「…………だめ?」

側近「ダメですよ! 他にいろいろ準備しないと!」

魔あ王「例えばお父様は何をしてたの?」

側近「酒を飲みながら皆でゲームをやって、負けたのに一発芸など」

魔あ王「それでいいじゃん!」

側近「自滅するつもりですか?」

魔あ王「……みんな、そんなに強いの?」

魔あ王「でもさ、料理以外はそんなに大掛かりな準備をする必要はないよね?」

側近「まずは、やることを決めましょう」

側近「ゲーム、一発芸、ちからくらべ、ちえくらべ、のどじまん、ねやごと等々……」

魔あ王「のどじまん……」

側近「1つ、2つぐらいあった方が盛り上がると思いますよ」

魔あ王「……普通に大騒ぎできればそれでいいかな」

魔あ王「それで、今日はどこに行こうかな」

側近「……やっぱり、今日も出かけるんですか」

魔あ王「年がら年中暇してる奴らばっからしいだからね。呼びにいかないと忘れられちゃうよ」

側近「それもそうです……ん?」

魔あ王「……誰か来たみたい」

側近「誰でしょうね」

――魔あ王城・玄関――

??「こんちゃー!」

魔あ王「あ、蟲遣いのにいちゃん!」

蟲遣い「去年ぶりッスね! 嬢ちゃんも元気ッスか?」

魔あ王「元気っすよ!」

蟲遣い「それは良かった!」ゲラゲラ

魔あ王「また何か、面白い虫を見せてくれるの?」

蟲遣い「いいッスよ! ――と、その前に」


蟲遣い「お、側近の姉ちゃん――アクセサリー、つけてるんスね」

側近「ええ、彼女から貰って」

蟲遣い「いっそう賢そうに見えるッス。素敵ッスよ」

側近「それはどうも」

蟲遣い「そろそろコッチと結婚して欲しいんスけど」

側近「お断りします」ニコ

蟲遣い「厳しーッス!」ゲラゲラ

魔あ王「まあ、上がってよ」

蟲遣い「はい、これお土産ッス」

魔あ王「つぼ?」

蟲遣い「蟲壺っすね。中に身体にいい蟲がいっぱい入ってて、腕とか突っ込んだら治療してくれるんすよ」

魔あ王「へぇー」

側近「私は使いませんよ?」

蟲遣い「あと、気持ち良くなって肉欲も大きくなるッスね。まだちっちゃい嬢ちゃんにはあんまし関係ない話ッスけど」

魔あ王「…………」

側近「使いませんからね?」

蟲遣い「限度を超えて使い過ぎると、中毒になっちまうんで気をつけてくださいね!」ゲラゲラ

魔あ王(…………ちっちゃくないし)

魔あ王「それで、今日はどうしたの?」

蟲遣い「ああ、それなんスけど」

蟲遣い「皆まだ来てないんスか?」

魔あ王「?」

蟲遣い「あれっ。忘年会って今日じゃないんスか!?」

魔あ王「……5日後だよ?」

蟲遣い「」

側近「相変わらずバカですねぇ」

蟲遣い「そーゆーのは思っても口に出さないんもんスよ!」

蟲遣い「あっれー……」

蟲遣い「コッチの勘違いだったんスかねぇ」

蟲遣い「毎年これぐらいの日に忘年会があったはずなんスけど……」

魔あ王「正確に覚えてないの?」

蟲遣い「そっス。けど、10年ぐらいはそのだいたいでなんとかなったんスから、大丈夫かと」

魔あ王(大丈夫なわけがない)

蟲遣い「それに、うちのババアにも忘年会いつ? って聞いたら今日、って答えられたんすよ」

魔あ王「騙されてるよそれ!」

蟲遣い「ええっ!?(本気ッスか!?)」

魔あ王「ええっ!?(こいつ本気か!?)」

蟲遣い「どーりであのババア、のんびりしてるはずッスよ……。靴下なんて編んじゃって」

魔あ王「……さっきから、そのババアっていうのは」

蟲遣い「ああ、麒麟(キリン)のババアのことッス」

蟲遣い「同じ樹海に住んでるからコッチは仲良くしようとしてんのに、あいつはコッチに嫌がらせばっかしてくるんスよ」

蟲遣い「しかも、最近はなんだかコッチの後をつけ回してくるし……たまったもんじゃ無いッス! それに比べて、側近さんは……」

側近「こっち見ないでください」ニコ

蟲遣い「しびれるッスよぉ!」ゲラゲラ

蟲遣い「まあ、早く来ちゃったのは仕方ないッスね。魔王様とゲームでもして帰るッスよ」

側近「!」

蟲遣い「それで、魔王様は」キョロキョロ

魔あ王「…………」

側近「蟲遣い、ちょっとこっちに来てください」

蟲遣い「急になんスか!? 告白ッスか!? 期待しちゃうッスよ?」

蟲遣い「……えっと」

側近「…………」

蟲遣い「ごめんなさい」

魔あ王「……別にいいよ」

蟲遣い「去年のあの発表は、てっきり冗談なのかと……」

側近「…………」

蟲遣い「ホント、申し訳ないッス」

魔あ王「別にいいって」

蟲遣い「ありがとうございます…………魔あ王様」

魔あ王「嬢ちゃんでいいよ」

蟲遣い「そんなそんな!


魔あ王(…………悪気がないのは分かるけど)

魔あ王(やっぱ、傷つくなぁ)

蟲遣い「さて。それでは。魔あ王様は」

魔あ王「嬢ちゃん」

蟲遣い「……嬢ちゃんは、最近の調子はどうなんです」

魔あ王「普通にして」

蟲遣い「…………はは、参りやしたねぇ」

蟲遣い「んじゃあ、お言葉に甘えます。嬢ちゃん、最近身体の調子はどうッスか?」

魔あ王「ふつう」

蟲遣い「なんでも、最近嬢ちゃんの所に人間がやってきてるとかなんとか」

魔あ王「ああ…………あれ、ね」

蟲遣い「なんか、ヘンなんスよね」

蟲遣い「なんで、このクソ平和な時期にそんな事をするんでしょうか」

蟲遣い「……下種の勘繰りかも分かんないッスけど。戦争のきっかけを作ろうとしてるようにしか思えないッス」

蟲遣い「人間界でも天界でも、国王の下に暗殺者を仕向けられたら、一発で戦争ッス」

魔あ王「……的を得ないよ。もっとはっきり言って」

蟲遣い「……人間は、魔界と戦争をしたがっていると思うんス」

蟲遣い「……正直。負ける気がしないッス。けど、なんか嫌な予感もバリバリあって、よく分かんないんスよ」

蟲遣い「勇者のせいで戦争が始まってもよし、勇者が頭を殺すことができればそれもよし」

蟲遣い「たぶん、勇者の首根っこを捕まえて国の方に行けば、知らぬ存ぜぬで通される」

蟲遣い「早い話、向こうはコッチ達を悪者にしたいみたいなんス」

魔あ王「……覚えとくよ」

蟲遣い「お願いしやす」

蟲遣い「んじゃ、コッチは側近さんと一緒に帰るんで」

側近「はあ?」

蟲遣い「軽い冗談ッスから、もっとキツイことを言ってもいいんスよ?」

側近「さっさと帰ってください」

蟲遣い「はいはーい喜んで! うちのババアにも伝えとくッスね!」

「まったく……」


「……側近は、あの人が好きなの?」


「いいえ?」


「まあ、言い寄られて悪い気はしませんけどね」


「ふーん」


「じゃあ、側近は」


「好きな人とか、いるの?」


「…………今は、いませんね」


「そう」


(…………なんか)


(おもしろくない)

――魔あ王城・玄関――


「絶対に殺す! 俺は、なんとしてでも! …………ん?」



「……噂なんてするもんじゃ無いッスねぇ」


「なんだ、お前は……?」


「アンタがお熱な魔あ王様の、お友達ッス」


「! なら……」


「お前はたぶん。かわいそうなやつッス」


「信じてる奴らからも騙されてるんだと、コッチは思ってるんスけど」


「それでも、嬢ちゃんに殺しをさせんのは感心できねえッスよ」


「うるせえぇえ!」


「…………ムカつくッスねぇ」

――魔あ王城――

魔あ王「さて、側近」

側近「はい」

魔あ王「どうしよっか」

側近「勇者を寝返らせるのが、一番かと」

魔あ王「でも、あいつ自爆すんだよねぇ」

側近「…………」

魔あ王「まーいったなー……」

魔あ王「こっちが悪者にされると、天界まで敵に回しちゃうんだよねぇ。あいつらは私達の事が嫌いだし、攻めてくるよね」

側近「おそらくは」

魔あ王「そーなったら2対1で勝てないしなぁ……」

魔あ王「んー……。勇者が騙されてるって分からせれば早いんだけど……」

側近「とりあえず、今は」

魔あ王「うん」


魔あ王・側近「忘年会の準備」

魔あ王「正直、勇者に負けない限りはどうって事は無いしね。こっちからも攻めないし」

魔あ王「期待の外れた向こうも、今頃あぐねてるてるんじゃないかな?」

側近「そうですね」

魔あ王「それに、考えてもどうしようもないし」

魔あ王「さっさと準備しちゃおうか」

魔あ王「どうする?」

側近「南のもう片方も、蟲遣いが伝えてくれるそうですし」

魔あ王「んじゃあ、残りは北だ。お母様の故郷」

側近「……北は遠いですし、今日はもう遅いですから」

魔あ王「そだね。明日にしよう」

魔あ王「ちょうど、白龍さんにも休みが必要だろうし、ね」

側近(よく言えますね……)

側近「今日はどこにも行かなかったから、時間がたっぷりあります」


・・・

魔あ王「…………」グデー

側近「…………」グダー

魔あ王「…………暇」

側近「ええー。だらだらって素敵じゃないですかー」

魔あ王「うー……。そういえば、側近」

側近「なんですか?」

魔あ王「側近って、ここに来るまで、何やってたの?」

側近「…………じ、絨毯を120年」

魔あ王「それより前」

側近「あっはい」

側近「お父さんと、お姉ちゃんとで暮らしてて」

側近「お父さんから母についてのカミングアウトをされて、家出をして」

側近「彼らとは、それっきりです」

魔あ王「会いたくないの?」

側近「……もう、会えませんね。きっと」

魔あ王「……ごめん」

側近「いえいえ」

側近「魔あ王様は、ここに来るまでは何をしていたんです?」

魔あ王「私は、天龍のじいちゃんの所に預けられてたね」

魔あ王「生まれた時から、ずっと」

魔あ王「基本的な礼儀とか戦闘は、そこで叩き込まれて」

魔あ王「時々来てくれる父さんから、いろいろ教えてもらったりもしたし」

側近「……忘年会に出席するのは?」

魔あ王「去年が初めてだね。何時も通り父さんが来て、『忘年会に行くぞ』って」

魔あ王「んで、忘年会が終わった後」

側近「この城に来た、と」

魔あ王「そゆことー」

魔あ王「側近はさ、私が初めてここに来た時から、ずっと私の『側近』だよね」

側近「……まあ、実質的にはそうですね」

魔あ王「なに? お父様に私の事をよろしく、だとか頼まれたの?」


側近「」


側近「」


側近「はい」


魔あ王(…………今、明らかに動揺したね。でも)

魔あ王「……聞かないでおくよ」

側近「ありがとう、ございます」

魔あ王「私が後を継いでから一年間、何もなかったねぇ」

側近「魔あ王様の作ってくれた平和のおかげですかねぇ」

魔あ王「――ずっと前から気になってたんだけどさ」

側近「はい」

魔あ王「その年って単位がよく分かんないんだよね」

魔あ王「天界も魔界も、人間界も、よく統一できたねぇ」

側近「……先代魔王様に教えてもらった話なんですが」

側近「歴史的に一番古い世界は、人間界なんですよ。昔は人間しかいなかった、って説があるぐらいですし」

魔あ王「へぇ」

側近「天使も私達魔族も、人間に何かを足したような姿をとる事が多いじゃないですか」

魔あ王「そうか?」

側近「私の格好だって翼としっぽが生えたような感じじゃないですか。魔あ王様なんて、ほとんど人間みたいなものですし」

魔あ王「……ちっちゃいしっぽが生えてるよ?」

側近「?」

魔あ王「母さんの方のだね」

側近「ああ……そうです、か」

魔あ王「……?」

側近「人間が先にあの姿になったのか、それとも魔族か天使か、なんて議論が絶えないんですよ」

魔あ王「わりとどうでもいい」

側近「ですよねー」

魔あ王「早けりゃえらいわけでもないしね」

魔あ王「もっとのーんびーりいこうよ」

側近「ええ」クスッ

側近「そういうところは、魔……先代魔王様そっくりです」

魔あ王「そう?」

側近「はい」

側近「顔立ちも、歩き方も。そっくりです」

魔あ王「えー? 天龍のじいちゃんには、顔はお母さんに似てるってよく言われたよ?」

側近「んー……そうですか?」

側近「私は、魔王様に似ていると思いますがねぇ」

魔あ王「北の海は遠いから、明日の準備をしよう!」

側近「はい」

魔あ王「ご飯を食べたら!」

側近「……作ってきますね」

魔あ王「美味しいのをお願いねー!」

側近「今日は野菜たっぷりのカレーにしようかと」

魔あ王「」

側近「明日、帰って来たときには時間が無いと思うので、明日もこれです」

魔あ王「」

魔あ王「……やさい?」

側近「はい」

魔あ王「やだー!」

側近「ダメです」ニコッ

側近「……綺麗にズッキーニだけ避けましたね」

魔あ王「嫌いだもん」

側近「食べないんですか?」

魔あ王「食べるの?」

側近「食べ物ですよ?」

魔あ王「なんてこった」

側近「……さあ、早く」

魔あ王「側近ってさ、よく見ると美人だよね」

側近「…………」

魔あ王「眼鏡も似合ってるし、頭もいいし」

側近「……そ、そうですか?」

魔あ王「うん! 自慢の側近だよ!」

側近「ありがとうございます。それじゃ、魔あ王様も野菜、食べてくださいね」

魔あ王「」

魔あ王「うええ……」

側近「はい、よく食べました」

魔あ王「ごちそうさまは言わないよ」

側近「じゃあもう一杯つぎましょうか」

魔あ王「ごちそうさま」

側近「さっきも言いましたけど、明日もこのご飯ですからね」

魔あ王「」

魔あ王「準備しよう」

側近「はいはい」

魔あ王「……実は、行ったこと無いんだよね。南も、北も」

魔あ王「蟲遣いが来てくれなかったら、白龍さんに乗せてってもらってただろうし」

側近「…………あれ?」

側近「魔あ王様の母様は、確か」

魔あ王「んー。小さい頃に死んじゃったらしいんだよね。よく覚えてないんだ」

側近「‥‥‥‥」

魔あ王「あ、気を遣わなくてもいいよ。ろくに覚えてないし」

魔あ王「産んでくれた、って事実だけで十分嬉しいから」

側近「‥‥そう、ですか」

魔あ王「うん。なんだかんだいっても血の繋がりって有難いものなんだよね」


魔あ王「そういう意味では、『会えない』同士、私たちって似てるかもね」

側近「‥‥ええ」

側近「そうかもしれませんね」ニコッ

魔あ王「んじゃ、明日着る服だけ決めて、お風呂に入ろっか」

側近「はい」


側近(…………)


側近(‥‥‥‥)


側近(・・・・)

魔あ王「おふろー」チャプン

魔あ王「あ゙ー……」

魔あ王(…………さて)

魔あ王(側近は、お父様から私の世話を見るよう、頼まれてない)

魔あ王(みたい)

魔あ王(…………何だか、違和感)

魔あ王(なんだろうなぁ……)



魔あ王(…………)



魔あ王(――――はは)

魔あ王(ずいぶんと冷静だね、私)

魔あ王(実感が全然湧かないや)

魔あ王(……なんでだろう)

魔あ王「…………ん」

魔あ王「君がー大人になーってくそのー季節がー♪」

魔あ王「悲しーいうたーで溢れないようにー♪」

魔あ王「……」

魔あ王(人間はすごいなぁ)

魔あ王(悲しい歌を作る天才だ)

魔あ王「あがったよー」

側近「はいはい」

魔あ王「眼鏡外して入りなよ」

側近「そいつはできませんね」クイッ

魔あ王「……あのさ、ちょっといい?」

側近「はい?」

魔あ王「なんでそんなに気に入ってるの?」

側近「ああ。頭良さそうなの、ってカッコいいじゃないですか!」

魔あ王「そ、そう?」

側近「そうですとも!」

魔あ王「まあ、あんたがそう言うんなら、それでいいんだよ……」

側近「ふぅ」

魔あ王「んー。よし、今日はゲームやらずに寝よう」

側近「明日は遠出ですからね」

魔あ王「んじゃ、電気消すね」


魔あ王・側近「「おやすみなさい」」

「…………」


「…………」


「側近ー」


「寝たー?」


「……寝た?」


「…………おやすみ」


(…………)


(…………)


(…………ん)


(…………ぁ)








(魔あ王様は、もう寝ましたね)

(さて……)

――???――


「この部屋に入るのも久しぶりですね……」

「…………ほこりっぽいです」

「…………ゲームも、マンガも。積み上げっぱなしで」

「いつ帰ってくるんでしょうね」

「覚えてますか?」

「昔、私が勝手にゲームもマンガも捨てて、すっごい怒って」

「また、絨毯にしてやるーって」

「…………」

「…………あ」

(…………そっか)

(もう、いないんだ)

(!)


(アルバムだ)



『市で、こんなものを買ってきたぞ』

『カメラ、というらしい』

『側近。こちらを向け。笑え』


『せーの、でスイッチ押すからな? せーの』




「はは。懐かしいですねぇ」


ペラ

(…………わぁ)

ペラ

(…………)

ペラ

(…………)

ペラ


(……私の写真しか無いじゃないですか)


ペラ


(…………)


ペラ


「あ」


(終わってる……)

(……魔王様のが無いんじゃ、意味がないですよ)

「魔王様は、私がいないとダメですねぇ……」

(私は)


(選ばれなかった)


(……バカみたいだ。私がいないと、なんて言っちゃってて)


(…………)


(…………)


(……どうして)


(私は魔あ王様のお母さんじゃないんでしょう)


(しょうもない嫉妬でしょうか)


(――彼女に仕えることを、苦しく思う自分がどこかにいる)


(すり替えてるみたいな気分)


(彼女の喜ぶ顔を見る度に、自分が泥棒みたいな気分になる)


(…………)


(…………)


(…………ああ)


(しょうもない)


(それとも――――)






「…………私は」

「弱いんですよ」


「……魔王様ぁ」


――――

――

休憩。

これで登場人物は全部文章の中に出した……はず。

忘れてた。

オマケの2
【がんばれ】


麒麟「ふんふんふーん♪」

蟲遣い「あ゙ー、疲れた。最近の人間ってあんな強いんスか……」ブツブツ

麒麟「あら、お帰りなさい」

蟲遣い「」

蟲遣い「……なんでお前がコッチの家にいるんスか?」

麒麟「愛ゆえ、ね」

蟲遣い「意味わかんねぇッス」

麒麟「分かんなくていいわぁ」

蟲遣い「……さっさと出てって欲しいんスけど」

麒麟「つれないわぁ! 幼なじみでしょう?」

蟲遣い「カンケーねーッス」

麒麟「あらあらぁ……」

蟲遣い「寄んなバカ! やめろォ! 来んな!」

――氷海・上空――

 魔あ王城から北へ進むと、海に、水平線にぶち当たる。物語でしか見たことのなかった真っ青なそれは、ごく自然と私の気分を高揚させた。

 白龍さんが、振り落とされたら200%助かられない、なんてことを言う。水の中には肉食の魔族がいるらしい。おおこわいこわい。

 そして、その水平線の向こう側。空気が冷たく、重くなっていくにつれて靄がかかっていき、ほんの1メーター先の見通しすら立てられなくなる頃に。

 小さな島が目前に現れる。

 魔界最北端の島。

 俗称、『さいはての島』。

 荒ぶ吹雪と氷葬が名物のこの島は、岩山と、海岸から少し離れた1つの街しか存在しない。

 そして、その街が私達の目的地だ。

 ――昨年の忘年会では、北からの出席は無かった。
 東西南北。それぞれ統治している者がいるはずなのだが、事情で来れなかったのか。側近も詳しい事は知らないらしい。

 なんでも、朱鯨――お母様の姿も、1度しか見た事がないとか。


 ともかく、その島に行けば分かるだろう。そう考えて、向かう。

魔あ王「側近、氷葬って?」

側近「ざっくり言えば、亡骸を岩山に放置する、お葬儀の一種です」

魔あ王「?」

側近「数週間もすれば、冷えて美味しいお肉に」

魔あ王「え……」

側近「嘘です。岩山の奥深くに遺体を並べておくと、数年もすれば氷漬けになって、オブジェみたいになるんですよ」

魔あ王「へぇ」

側近「遺体の顔色が悪くならないようにだとか、いろいろ処置が必要なんです」

魔あ王「あんまりロマンチックじゃないね」

側近「――葬儀なんてするのは幹部が亡くなった時ぐらいですから」

魔あ王「?」

側近「少なくとも私達は恵まれてるって話です」

魔あ王「へー」

――さいはての島――


魔あ王「……ついた」

側近「つきましたね」

魔あ王「さすがの白龍さんでも、4時間かかるんだね」

側近「やっぱり遠いですねぇ」

魔あ王「あと、すっごい寒い」

側近「……何枚着てます?」

魔あ王「3」

側近「私の半分じゃないですか!」

魔あ王「側近が温かいからいいもん!」ピタッ

側近「うわっ、冷たっ!」

魔あ王「さっきから横殴りに降ってるこれ、白いし変な雨だね」

側近「これは雪ですね」

魔あ王「これが? 変な雨じゃないの?」

側近「ちょっと違いますね」

側近「まず、雨より冷たいです」

魔あ王「うん」

側近「そして、こう掬って、ぎゅっと丸い球にして」

魔あ王「うんうん」

側近「魔あ王様に投げつけけます!」ビシュッ

魔あ王「へぶっ!」

側近「命中っ!」ケラケラ

魔あ王「……なるほど、よく分かったよ」

魔あ王「側近、ちょっとそこから動かないで」

魔あ王「へっくしゅん!」

側近「ハックショ!」

魔あ王「……やややばい、さささむい!」

側近「すいません、ややっぱり、寒かったですね」

魔あ王「ううう……さむいい……」

側近「はやく、風をしのがないと……」

魔あ王「ゔゔゔー……」

魔あ王「へっくしょん!」

魔あ王「!」

魔あ王「鼻水が、凍った!」

側近「」

魔あ王「側近ー、見てー」

側近「見せないでいいですから! ばっちいですよ!」

側近「ふぅ。この洞穴で、ちょっと休憩しましょう」

魔あ王「……」ガチガチガチ

側近(震える魔あ王様、若干かわいい)

魔あ王「そ、側近!」

側近「はい」

魔あ王「と、と、トイレ!」

側近「」

魔あ王「……して、いい?」

側近「……」

魔あ王「いいや、限界だ! するねっ!」

側近「待ってください!」

魔あ王「な、な、何っ!?」

側近「……凍っちゃうかもしれないです」

魔あ王「」

魔あ王「う、嘘でしょ!?」

魔あ王「どっど! どうしよう!」

側近「我慢してください!」

魔あ王「ムリだよぉ!」

側近「……凍っちゃったら、私が火の魔法で溶かしてあげますよ」

魔あ王「もっとムリだよ!」

魔あ王「ううう……!」

魔あ王「…………」

魔あ王「……凍ったら呼ぶから、来てね」

側近「……はい」

魔あ王「凍らなかった」

側近「良かったです。ホントに」

魔あ王「……側近はしないの?」

側近「私は平気ですから」ニコッ

魔あ王「ずるーい!」

側近「何がですか!」

側近「……さて、行きましょうか」

魔あ王「うん」

側近「もう少し歩いたら、着きますからね」

魔あ王「……面倒くさいよぉ」

側近「ホントにもう少しですから!」

魔あ王「……あ゙ー」

魔あ王「…………」

側近「…………」

魔あ王「…………」

側近「…………」

魔あ王「…………側近」

側近「…………はい」

魔あ王「…………まだ?」

側近「…………」

魔あ王「…………」

側近「…………」

魔あ王「…………」

側近「…………あの」

魔あ王「…………なに?」

側近「黙って雪を投げつけるの、やめてくれませんか?」

魔あ王「むりー!」」

側近「やめてください!」

魔あ王「いーじゃん!」

側近「ううう…………ん!」

魔あ王「光だ!」

――さいはての街――

魔あ王「――あったかい!」

側近「風が無いだけでも大分違いますね」

魔あ王「いやー、生き返るよ!」

側近「城よりかは寒いはずなんですけど、体感だと春みたいです」

魔あ王「体感って不思議だねぇ。……ん」



魔あ王「……向こうの方で、なんか燃えてるね」

側近「穏やかじゃありませんねぇ。それに。生き物がいる気配もありませんし」

魔あ王「んん。心の準備だけしておこうか」

魔あ王「……わあ」

側近「街の真ん中で火を焚いて、街中を暖かくする」

側近「スケールが大きいですねぇ」

側近「多分、数人の術式か何かで燃やしてるんでしょう」

魔あ王「あのさ……暑いんだけど」

側近「……ちょっと離れましょうか」

魔あ王「ふう。それじゃ、落ち着いたし」

側近「ええ」

魔あ王「幹部の人を探そっか」

側近「はい」

魔あ王「――っていうか、誰か探さなきゃ」

側近「誰もいないって事はないはずだと思うんですが……」


???「誰もおらんよ」



魔あ王「……!」

側近「その声は……!」


天龍「やほ」


魔あ王「!」

天龍「2日ぶりじゃな」

側近「――なんでいるんですか?」

天龍「偶然じゃよ、偶然」

魔あ王「……流石に無理があるよ」

天龍「年末なんで、ばあさんの墓参りにでも来ようかと思ったんじゃよ」ホッホ

天龍「いやあ、珍しい事もあるもんじゃなぁ」

魔あ王「…………」

天龍「ばあさんには色々お世話になってのう。毎年、暮れにはここに来るんじゃよ」

側近「…………」

天龍「儂も、もうそう長くない。今のうちにばあさんに挨拶しとかんと、死んだ時にひっぱたかれるかもしれんし」

魔あ王「……もう、いいよ」

天龍「そいで、魔あ王。お主はどうしてここに来た?」

魔あ王「今週末、忘年会があるよね?」

魔あ王「北の方から誰か来て欲しいなーって」

天龍「――ああ。なるほど。……確か、北の主に会ったことが無いんじゃったな」

魔あ王「そう! もしよかったら、案内し

天龍「無理じゃよ」

魔あ王「」

天龍「幹部などおらん」

天龍「朱鯨――お主の母で最後じゃ」

天龍「それ以来、ここは無人島。誰もおらんよ」

天龍「お偉いさんどもも、ここあたり死んでおらん」

天龍「平和じゃからなぁ……」

魔あ王「そっか……」

側近「……それじゃあ、ここにいてもしょうがないですね」

天龍「そうじゃな。大したものは何も無いしの」

魔あ王「んー……だね」

魔あ王「んじゃ、お母さんのお墓参りだけして、帰ろっか」

側近「そうですねぇ」

魔あ王「龍じいもお墓参りだって言ってたよね。一緒に行かない?」

天龍「……ん、ああ。いいとも」

魔あ王「ついでに、場所も分かんないから案内してよ」

天龍「……分かった」

魔あ王「ここは……」


天龍「氷葬の間じゃよ」


側近「……キレイ」


天龍「中に魔族が見えるじゃろ? あの、若い雄の獣型の」


魔あ王「うん」


天龍「儂が生まれる前から、ああらしい」


魔あ王「……へぇ」


側近「――永遠、ですか?」


天龍「あるいは、そうかもしれんなぁ」

天龍「……ここ、じゃ」


魔あ王「?」


側近「……美人ですね」


天龍「――お前の母じゃ」


魔あ王「!」


側近「‥‥‥‥」


天龍「……どうせ、何か聞きたいんじゃろ?」


魔あ王「……」コクコク


天龍「わかっとったわ……」

天龍「聞け」

天龍「……朱鯨は、人間界と魔界の溝を埋めようとしとった魔王の、1番の協力者じゃった」


天龍「知識もあった。腕っぷしも強かった。魔王からも頼りにされとったし、朱鯨も悪く思っとらんかった」


天龍「自然の成り行きのまま結ばれ、そして」


天龍「お前が生まれた」


天龍「……共に働いとった故にどちらも忙しく、お前は儂のもとに預けられた」


天龍「――それからすぐ、彼女は亡くなった」


天龍「そして、葬った」


天龍「……それだけじゃ」


天龍「魔族、1200年の天寿。平均寿命は107」


天龍「……平和な世になったもんじゃ」


側近(…………)ギュッ


魔あ王「…………」


魔あ王「…………それだけ?」


天龍「それだけじゃ」


魔あ王「……本当に?」


天龍「…………ああ」


魔あ王「じゃあ」



「なんで、嘘つくの?」


「…………」

「嘘など、吐いとらん」

「嘘じゃなくて、隠し事、かな」


「…………」


「どうして、母さんは死んだの?」


「…………」


「…………流行り病じゃ」


「――私は、読心なんてできないけど」


「それでも、それぐらいは嘘だって分かるよ」


「この前だって、そう」


「私の名前を聞いた時、動揺してたよね」


「……なんで、中途半端に隠すの?」


「……全部、嘘だから?」


「それとも――――」

「違う。的外れじゃよ」


「じゃあ、話してよ」


「それは…………」


「…………できん」


「なんで」


「お主が子供だからじゃよ」


「ごまかさないで」


「誤魔化してなど、おらん」


「お主は、子供じゃ」


「例えば」


「誰もおらん島で」


「実力が上の者と出会い」


「その者と争いになったとする」


「どうなる?」

「……脅しのつもり?」


「そう聞こえたのなら、そうじゃろう」


「お主の中では、な」


「ただ、思慮の浅さを指摘され、それに激昂する子供なら」


「聞くべきでない」


「だから、言えん」




「…………分かったよ」

――――


――

――氷海・上空――

『…………思った事をそのまま言うと』

『ちょっと、嬉しかった』

『お母さんが美人だったって』

『今までは、顔も知らなかったし、さ』

『なんていうか。悲しい、とかじゃなくて』

『誇り、みたいな』

『顔を見れただけで、満足だから』

『龍じいも、無意味にあんな事を言うわけないし』


側近(――そう、ですか)

魔あ王「側近? ぼーっとしてると、振り落とされるよ? 200%助からないよ?」

側近「あ、はい」



側近(…………私はいつも、のけ者ですね)

――???――

「――気付かれんでよかった」

「ヒヤヒヤしたわ。下手な嘘なんぞ吐くんじゃなかったわい」

「本当に、情にほだされるとロクな事にならんな。」

「2回目なのに、儂も学習せんなぁ……」




「おーおー、焼けとる焼けとる」

「氷ったり、焼かれたり、お前も大変じゃなぁ」

「……初めから、火葬にしておけば良かったな」

「二度と、お前さんの姿を見れんとなると」

「悲しいわ」

「…………」

「黒焦げにして、すまんかったな」

「……海に、還れ」


ドポン


「――儂も、火葬されたら、また」


「会えるかもな、魔王」

――魔あ王城・玄関――

勇者「待ちくたびれたぞ!」

魔あ王「」

側近「」

勇者「城に来たと思えば、誰もいない……。恐れをなして逃げていたかと思ったが」

側近「……魔あ王様」

魔あ王「なんだ」

側近「……今日は、私に戦わせてください」

勇者「いくぞおお」


勇 者「お」


勇/者「」ドシャア


側近「……血、ついちゃいました」ペロッ

魔あ王「ひゅーう。かっくいい」

側近「どやっ!」


勇「」ピク ピク


側近「!」ピコーン

側近「いいこと考えました!」

側近「魔あ王様、アレをああしてこうやって……」

魔あ王「!」

魔あ王「側近頭いい! 勇者もまだ息があるみたいだし、やろうやろう!」

側近「それじゃ、私は城から取ってきますから、魔あ王様もよろしくお願いします!」

魔あ王「ふーい!」

勇「なに……を……」


――――

――魔あ王城――

魔あ王「ただいマンボウ」

側近「おかえりなサイ」


魔あ王「……側近も行ったじゃん」

側近「……細かい事はいいんですよ!」

魔あ王「んー。……それにしても」

魔あ王「いやー。城は暖かいねぇ!」

側近「鼻水も凍りませんし、ね」

魔あ王「落ち着いてトイレもできるし」

側近「まったくです」

魔あ王「正直さ」

側近「はい」

魔あ王「疲れた」

側近「私もです」

魔あ王「……ご飯」

側近「昨日の野菜カレーですね」

魔あ王「うひー……」

側近「食べきっちゃいましょう」

側近「今日は、残さないんですね」

魔あ王「カレーと一緒に食べた方が、残すよりも楽だと気付いたからね」

側近「賢明ですね」

魔あ王「うん」

魔あ王「…………」ウツラ ウツラ

側近「……早くお風呂に入って寝ましょう」

魔あ王「…………うん」

魔あ王「はふぅ……」ポチャリ


魔あ王「…………」


魔あ王「あったかー……」


魔あ王(爪先がじんじんするよ)


魔あ王(…………)


魔あ王「…………んん」


魔あ王「例えば君がー傷ついてー♪」

魔あ王「挫けそうーになった時は♪」

側近「…………ふぅ」ポチャン


側近(あったかー……)


側近(んー……ん)


側近(…………眼鏡、曇っちゃいました)


側近「……はーっ」


側近(…………)


側近(…………今日のお出掛けも、楽しかったなぁ)


側近(…………)




『んじゃ、行ってくる』


『側近は、留守番よろしくな』


『あいつの世話は、任せるから』



側近(…………)


側近(…………ん)


側近(胸が痛い)


側近(また、あの黒い気持ちです……)


側近(しょうもない、しょうもない)

魔あ王「つかれたー……」ドサッ


側近「私もです……」ドサッ


魔あ王「電気消すー……」

側近「はーい……」



魔あ王「…………」


側近「…………」


魔あ王「側近、電気消してー」


側近「……ゔー……」ノソッ


パチン

(…………お母さんか……)


(……美人だったなー)


(……私も、ああなれるのかな?)


(なれたらいいなぁ……)


(…………ん)


「そっきんー……」


「なんですか?」


「ねた?」


「寝ましたよ」


「そう…………」





「そっきんー」


「なんですか?」


「おきてるじゃんか」


「ええ」


「うそつきー」


「……はい」


「……ほんとに、おやすみ」


「おやすみなさい」

オマケその3
【邂逅】

魔王「絨毯が、女の子になった」

少女「……誰?」

魔王「だーっ! 構えるな構えるな! 俺はお前を傷付けたりしないから!」

少女「…………」

魔王「うん、うん。よし。まずは自己紹介だ」

魔王「俺は、魔王だ」

少女「!?」サッ

魔王「だーかーら! 悪いようにはしないから!」

少女「…………」

魔王「自己紹介したくないなら、別にいいぞ?」

少女「…………」

魔王「んと。帰りたかったら帰ってもいいぞ? 逆に」

魔王「ここに住みたかったら、それでもいいし」

少女「…………」


魔王「……お前に、何があったかは知らないよ」


魔王「けど」


魔王「俺は、お前を捨てたりはしないよ?」

休憩。


ちなみに。

10ビル=1円ぐらい。

魔あ王 57歳
側近 128歳

ぐらい。まだまだちびっこ。

>>259

側近は159。ケータイのタイプミス。

魔あ王「起きた」

側近「……」zzz

魔あ王「お腹すいた」

側近「……」zzz

魔あ王「……起きてー」

側近「……」zzz

魔あ王「アイマスクひっぺがすよー」

側近「……」zzz

魔あ王「てーゐ!」パシッ

側近「うがーっ!」ガシッ


魔あ王「」


魔あ王(奪い返されてしまった)

側近「……起きました」

魔あ王「…………」グゥーッ

魔あ王「側近のねぼすけ」ジトー

側近「……すいません」

側近「ご飯、作ってきますね」

魔あ王「うー」

魔あ王「……なんか、身体がだるい」

魔あ王「トーストうまし」ハモハモハモ

側近「食べながらしゃべっちゃいけません」

魔あ王「……」ハモハモハモ


側近「……」ハモハモハモ

魔あ王「……へ」ハモハ


魔あ王「へっくちっ!」


魔あ王「うひー……あ」


側近「」ベッタリ

魔あ王「ゴメンナサイ」

側近「風邪ですか?」フキフキ

魔あ王「うー……」

側近「ほら、鼻チーンして」

魔あ王「レンジで?」

側近「チーン……って、違います」

魔あ王「ノリツッコミか……やるね」チーン

側近「私の服でしないで下さい!」

側近「あ゙あ゙あ゙、もう! 着替えないと!」

魔あ王「どうせ私のトーストまみれだったじゃん」

側近「そうですけれども!」

魔あ王「じゃあ汚さないと!」

側近「その理屈のが汚れてますよ!」

魔あ王「おお、うまい」

側近「うまくありません!」

側近「……今日の晩御飯も、野菜にします!」

魔あ王「えーっ!!」

側近「一応王様なんですから、しっかりしてくださいよ!」

魔あ王「……まあ王様、って言いたいの?」

側近「違います!」

側近「私が洗濯してる間、おとなしく勉強しててください!」

魔あ王「勉強やだー!」

側近「まったく。私がしてる間に終わらせちゃってくださいね……」スタスタ

魔あ王「人間数学嫌いー」

魔あ王「へっくち!」

魔あ王「うー……」ズビー

魔あ王「…………」

魔あ王「んー……」

魔あ王「…………」

魔あ王「魔法かぁ……」

魔あ王「水のリボルバー、なんて」

魔あ王「んー」

魔あ王「水を、出す、イメージ……」

魔あ王「…………」

魔あ王「……トイレ行こ」

魔あ王「へっくち!」

側近「まったく……」ジャブ ジャブ

魔あ王「そっきんー……」

側近「なんですか、魔あ王様。勉強して……」


魔あ王「……」トロン


側近「どうしたんですか?」

魔あ王「頭痛い」

側近「……ちょっとオデコ出して下さい」

魔あ王「んー……」

側近「はい、はい」ピタッ

魔あ王「側近の手、冷たくて気持ちいいー」

側近「……熱がありますね」

魔あ王「生きてるからね」

側近「そうじゃなくて……。今日は1日、布団で寝ててください」

魔あ王「えー……」

魔あ王「けほっ けほっ」

側近「ほらほら、暖かくして」

魔あ王「ん゙ー。鼻がぐずぐずする」

側近「はい、ティッシュです」

魔あ王「ん」チーン

魔あ王「うぅ……」

側近「……お昼は、お粥にしますね」

魔あ王「……」コクリ

魔あ王「側近ー」

側近「はいはい」

魔あ王「あんまりお腹空かないから、お昼はいいや」

側近「……少しぐらい食べないと、治るものも治りませんよ?」

魔あ王「……」

側近「……暖かいスープを作りますよ」

側近「それじゃ、ゆっくり寝ててください」

側近「ここに、お水を置いておくので」コトッ

魔あ王(…………)


魔あ王(…………)


魔あ王「んん……」


魔あ王(…………)


魔あ王(…………)


魔あ王(……ひま)

魔あ王(朝起きた時はなんともなかったのに)


魔あ王(頭が、重い)


魔あ王(幹部たち、呼んだ後で良かったよ)


魔あ王(忘年会は、3日後)


魔あ王(あとは、料理の準備だけでいいから……)


魔あ王(……何しようかな)

魔あ王(えっと、来るのは)


魔あ王(龍じいちゃん、蟲遣いに麒麟も着いてきて。あと、岩窟王)


魔あ王(……誰か忘れてるような)


魔あ王(あ、アークデーモン)


魔あ王(私と側近を合わせて、7)


魔あ王(……7000万も、どう使うんだろ)


魔あ王(――――ダメだ、頭がうまく回らない)


魔あ王(…………)


魔あ王(……天井が、回って見える)


魔あ王(……眠い)


魔あ王(ん…………)


魔あ王(…………ぁ)

 重い頭。まぶた。うっすらと目を開ける。

 暗い、部屋だった。

 動かない身体。何かに縛られているのだろうか。薬でも盛られたのだろうか。指一本も動かせない。

「目が覚めましたか」

 側近の声が聴こえる。口も動かせないから返事が出来ない。ただ、何故だかどうしようもないぐらいに怖くなった。

「お父さん、死んじゃいましたね」

 身体の筋がこわばる。側近の顔は見えない。それでも、笑っているのは分かった。

 けど、それ以上に。彼女のからっからにパサついた声が、不愉快で仕方がなかった。

「ねぇ、魔あ王様、ねぇ」

 その声を聞くにつれて、なんだか不安になってくる。身体中の神経が曖昧になって、絡み合って、とろけて。

 クラクラする。

 身体がぐにゃぐにゃに柔らかくなって、芯が定まらない。回らない頭。なんだこれ。なんだ、これ。

「魔あ王様も、絨毯になったらどうです?」

 突然、私の上に大きな岩が現れる。四角くて、棺桶みたいで、私の10倍はありそうな縦幅の。


 それが、音も立てずにゆっくりと落ちてくる。

 他のは遠いのに、鳥肌が立つ感覚だけはやけに近かった。

 ろくに身体が動かせない。大の字に固定されたまま、もがくことすら出来ない。

 迫る岩の壁。逃げれない。怖い。恐い。こわい。

 壁に当たって跳ね返ってくる生暖かい息に、震えが止まらない。死んじゃう。いやだ。鼻先が壁に当たり、歪み、ひしゃげるのを感じる。


 たすけて。

 体温で生暖かくなった床と、冷たい岩の壁とに挟まれて。身体の厚みがどんどんとなくなっていく。身体の凹凸が、偏平に。生き物から物へと変わっていく。

 10センチ、5センチ、3センチ――1センチ。


 タオルケット程の厚みになったところで、岩が消えた。

 天井が先ほどよりも遠く見えるのは、気のせいじゃないだろう。

 大の字の姿勢のまま。絨毯に、されてしまった。

「ダメですね。魔あ王様じゃ」

 側近が右手で私の右足を、左手で左足を掴み、持ち上げる。身体がひらひらと、情けなく宙を舞う。

 そして、側近の右手と右足に力が、私の身体を引き裂く方向に込められて。あっと思う間もなく。


 びりびり。



「魔あ王様、ねぇ」


 右と左で真っ二つに裂けた視界に、笑う側近の姿が映った。


「魔あ王様。魔あ王様!」


「魔あ王様! 大丈夫ですか!」

側近「魔あ王様! 魔あ王様!」

魔あ王「……ん」

側近「大丈夫ですか!? 大丈夫ですか!?」

魔あ王「…………?」

側近「! 大丈夫ですか!?

側近「ひどくうなされてましたから、もう、心配で……怖くて……」

魔あ王「……絨毯は?」

側近「絨毯がどうかしましたか?」

魔あ王「ああ、いや、えっと」

魔あ王「……夢、見ただけだから」

魔あ王「ほんとに、大丈夫だから、うん」

側近「……汗がすごいです」

魔あ王「ん、ああ。うん」

側近「着替えを持ってきますから、何かあったら呼んで下さいね」


魔あ王「……うん」

魔あ王「…………」グー パー

魔あ王「……夢か」

魔あ王「よかった……」

魔あ王(……ん)

魔あ王(もう、お昼か)

魔あ王(お腹、空いたかも)

魔あ王(寝たから、少しよくなったのかな?)

魔あ王(まあ、いいや)



側近「お着替えです」

魔あ王「ありがとう、ヤン坊」

側近「どういたしまして、マー坊様」


側近「それじゃ、お昼ご飯を持ってきますね」

魔あ王「ん。あ。お願い」

側近「はい、玉子スープです」

魔あ王「ありがとう。……今、何時ぐらい?」

側近「15時ぐらいですよ。はい、口を開けて」

魔あ王「……は?」

側近「あーんって」

魔あ王「一人で食べれるよ?」

側近「そうですか? まだだるそうにしてますし」

魔あ王「いや、大分良くなったから……けほっ」

側近「――ほら、寝たままでいいですから」

魔あ王「いいって、もう!」

側近「たまには甘えてくださいよ?」

魔あ王「…………」


魔あ王「…………んん」


魔あ王「……あーん」

側近(かわいい)

魔あ王「…………」

魔あ王「あったかくて、美味しい」

側近「それはよかった。はい、口を開けてー」

魔あ王「あー……ん」

魔あ王「……ん。次」

側近「はい、はい」

魔あ王「あー……ん」

魔あ王「…………側近」

側近「はい」

魔あ王「お母さんみたいだね」フフッ



側近「」

魔あ王「……どうしたの?」

側近「‥‥いいえ。ちょっと」

魔あ王「んん、風邪、移しちゃった?」

側近「いえ、とんでもない。それじゃ、口を開けて下さい」

魔あ王「ん。あー……」


側近「……食べながら、聞いて下さい」


魔あ王「んん」


側近「…………」


魔あ王「?」


側近「……やっぱ、なんでもないです」


魔あ王「ふふ、変なの」アーン

側近「リンゴ、食べますか?」

魔あ王「うん」

側近「それじゃ、持ってきます」

魔あ王「んん」


――――

側近「はい、擦りリンゴです」

魔あ王「わーい」

側近「あーんして下さいな」

魔あ王「あー……ん」

魔あ王「…………」シャリ シャリ

魔あ王「甘いね」

側近「ええ」

魔あ王「あー……ん」

魔あ王「……こうやって看病してくれるなら」

魔あ王「ずっと、病気でいいかも」ニヘラ

側近「バカ言っちゃいけませんよ」

魔あ王「へへ。あー……ん」

魔あ王「ふぅ」ケプッ

側近「……結局、リンゴを丸々食べちゃいましたね」

魔あ王「美味しかったよ」

側近「それはどうも」

魔あ王「……眠い」

側近「寝ていいですよ?」

魔あ王「んん……」

魔あ王「……あのさ」

側近「はい」

魔あ王「さっきね、絨毯にされる夢を見たの」

側近「‥‥はい」

魔あ王「……怖い」

側近「‥‥‥‥私は、よく覚えてませんが」

側近「魔あ王様が、怖がる必要は無いですよ」


側近「私は、何があってもあなたの味方ですから」ニコ

魔あ王「…………」

魔あ王「側近」

側近「はい」

魔あ王「…………背中、ぽんぽんして」

側近「はい、はい」

魔あ王「…………なんか、歌って」

側近「はい」

側近「ねんねーん ころーりーよ」

魔あ王「……側近」

側近「はい」

魔あ王「歌は、やっぱいいや」フフッ

側近「」

魔あ王(……ぽんぽんされると)

魔あ王(なんか、落ち着く)

魔あ王(……あったかい)


魔あ王「そっきん」


側近「はい」


魔あ王「だいすき」


側近「……私も、です」


魔あ王(へへ…………)


魔あ王(…………ん)


魔あ王(…………ぅ)











側近「……寝ました、か」

側近「……さて」


智天使「別れの挨拶は済んだか?」

側近「……城の外で待っててくださいよ」

――魔あ王城・玄関――

「正直、驚いた。貴様のような者が存在していたなど」


「…………」


「110年前、1体の堕天使が処刑された」


「異種姦通の罪で、堕天使と見做された者だ」


「……苦労したよ。110年も前の、雄のつがいを見つけ出すのには」


「当時は、異種間で孕むなど有り得ないと高を括(くく)り、見つからないのを仕方無しとしたが」


「魔界の南に住む、【麒麟】【蟲遣い】とやらに話を聞き、ようやく探し出す事が出来たよ」


「おとなしく、着いて来い」


「同情はする。だが、堕天使の血は絶やさねばならん」


「そして、匿っているのだろう? 妹の場所も、吐け」


「揃えて、丁重に葬ってやろう」

「……妹、ですか」


「あの子なら、流行り病で死にましたよ」


「――ふふ、もちろん嘘です。そんな顔しないでくださいよ」


「ははっ」


「あはははっ」


「私は、弱いんですよ」


「魔あ王様が、あんなに苦しいのに、頑張ってるのに」


「私は、こんな。ちっぽけな悲しみに押し潰されそうになってるなんて!」


「憂いちゃ、いけないのに! 支えなくちゃ、いけないのに!」

「はひははははっ!」


「こんなの、どうです!?」


「『突如、天界を飛び出した智天使、謎の失踪』なんて!」


「素敵じゃないですか? 素晴らしくないですか? 可笑しくないですか? ねぇ、智天使サン、ねぇ!?」


「――どうしたら愛されるんですか? どうしたら、天使になれるんですか? 人間になれるんですか? 魔族になれるんですか? 与えた分の見返りの無い愛なんて、ねぇ」


「家族でもなけりゃ、ありませんよねぇ? ねぇねぇねぇ?」



「翼があれば天使なんですか? 無かったら、堕天使なんですか? 愛の定義は? 家族の定義は?」


「ただ、通う血だけ押し付けられるなら、あなたを!」


「もいで、焼いて、埋めて!」



「妹と、そっくりにしてあげますよ!」



「お父さんの仇って名目で! ねぇ!」


「ははひゃはははは!!!」



――――

――

休憩。


ねぇねぇねぇ。

――魔界・樹海――

蟲遣い「   」


蟲遣い「   」


蟲遣い「   」ピクッ


蟲遣い「あ゙あ゙ー……」ムクリ


蟲遣い「痛ぇッス……」


蟲遣い「身体を真っ二つにするとか、死ぬッスよフツー」


蟲遣い「コッチは身体の節々が独立してたから助かったものを……。神経節を5本も切りやがって……。繋ぐのダルいんスよ……」


蟲遣い「ん、ありがとな、蜘蛛子1号、2号、3号」


蟲遣い「4号、5号、6号、7号、8号…………123号」


蟲遣い「お前らが縫ってくれなかったら、死んでたッス」


蟲遣い「んで、だ。残りの245号までは、まだアイツの治療してんスか?」

麒麟「  」

麒麟「  」

麒麟「  」

蟲遣い「麒麟、オメーは腹に穴開けられたぐらいじゃ死なねーだろ。コッチは知ってんだから、さっさと起きるッス」


麒麟「  動くと、中味がこぼれちゃいそうで怖いのよぉ」

蟲遣い「オメーの傷も、蜘蛛子達がもう塞いだッスよ」

麒麟「あらぁ、そう?」ムクリ

麒麟「あいたたた  」

蟲遣い「相変わらず、化け物ッスねぇ」

麒麟「あなたに言われたくないわぁ」

蟲遣い「ごもっともで」

麒麟「それに、蜘蛛は虫じゃ」

蟲遣い「蟲ッス」

蟲遣い「さて。あの怪鳥は?」

麒麟「  もう、ダメね。助からないわ。あたしたちみたいに、しぶとく無い限り」

麒麟「穴だらけだもの。ピクリとも動いて無いし」


蟲遣い「……あのクソ天使によれば、側近の姉ちゃんの、母ちゃんらしいじゃないッスか」

麒麟「絶対、助からないわ」

蟲遣い「それでも! やるんスよ!」

麒麟「分からず屋ねぇ」

蟲遣い「それでいいッス!」ウジャ

麒麟「まあ、納得いくまでつき合ったげるわぁ」バチバチ

>>295
側近の姉ちゃん→側近ちゃん

>>17のほのぼのしたいは炎墓の死体だったのか………

あかん

――魔あ王城――


魔あ王「…………」zzz


魔あ王「…………」zzz


魔あ王「…………」zz


魔あ王「…………」z


魔あ王「…………」


魔あ王「……ん」パチリ


魔あ王「んーっ!」ノビーッ


魔あ王「よく寝たぁ!」


魔あ王「身体が軽いっ!」


魔あ王「もう何もこわくない!」


魔あ王「ふっかーつ!」

魔あ王「健康って素晴らしい!」

魔あ王「うん、ちょっと身体が弱っちゃってたけど、寝たら治る!」


魔あ王「さすが私!」ドヤッ

魔あ王「ん! もう22時じゃん!」


魔あ王「…………」グゥー


魔あ王「……お腹空いた」


魔あ王「側近ー。ご飯ー。」


魔あ王「側近ー」


魔あ王「ご、は、ん!」


魔あ王「側近ー!」


魔あ王「…………あれ?」

魔あ王「……側近?」

魔あ王「……どこー?」テクテク


魔あ王「おーい」


魔あ王「……側近ー?」


魔あ王「ねぇったらー」


魔あ王「かくれんぼ?」


魔あ王「面白くないよー」


魔あ王「側近ー!」


魔あ王「そっきんー!」


魔あ王「……どこいるんだろ」


魔あ王「んー……」

――魔あ王城・玄関――


魔あ王「あ、いたいた!」


魔あ王「……そっき」ピクッ


魔あ王「」


魔あ王「」





魔あ王「――側近。どうしたの?」

側近「はい?」


側近「どうか、しましたか?」


側近「あははは」


魔あ王「……それ、どうしたの?」


側近「ああ、傷ですか?」


側近「これなら、どうもしてないです。ただ、階段から、逆さに落ちちゃって」


側近「魔あ王様こそ、どうしたんですか?」


側近「寝てないで、起きてきて」


魔あ王「そうじゃなくて、傷もそうだけど、さ」


側近「……ああ、血ならもう焼いて止めたので大丈夫」


魔あ王「ちがうよっ!」


側近「……?」


魔あ王「その……」


魔あ王「両手に持ってる、その翼はどうしたの?」

「‥‥‥‥え?」


「あ‥‥れ?」


「あ、あ」


「あああぁ…‥」



「あれ?」


「‥‥まおうさま」


「わたしは」


「わたし、は」


「まとも、なん、で」



「す」








「か?」

「魔あ王様を、守らなきゃ」


「もう、捨てられたくないから」


「私を、見て欲しかったのは魔王様だけだったのに」


「どうして、死んじゃったんですか……?」


「私だって」


「私、だって!」


「見てくださいよぉ……もっと、もっと、もっと!」


「うあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙……!」



「……側近?」


「来ないでっ!」

「ははっ」


「あははははっ!」


「汚い、きたない、醜い! 黒い!」


「不思議ですねぇ……不思議ですよ!」


「あんなに守りたくて、仕方が無かったのに、あんなに、暖かかったのに!」


「それを、認められない自分がいる!」


「偽物だと、まやかしだったと思い込みたい自分がいる!」


「壊してしまいたいなんて、思ってしまう!」


「ははははっ! はひっ!」


「わかりますよ、わかってますよ? 私が悪いってことぐらい……全部、全部、全部!」


「わたしが、よわいから!」


「ねぇ、魔あ王さま、ねぇ?」


「ねぇ、ねぇ」


「あなたも、私を捨てるんでしょう?」


「頼りない、私を、ねぇ?」


――――

――

 ――――怖かった。

 1回目は、生まれて4年の誕生日。天界から、魔界の底へと捨てられた。

 まだ右も左も分からぬままに。目が覚めたら、暗くて寒い、知らない所にいた。

 12年間、それ。年よりも長かった。這い、乞い、飢えをしのぐ為に泥をすすり、吐き。魔族の恥さらしと石を投げられ。それでも死ねず。

 12の時に死にかけてから、火を出せるようになった。ちょうどよかった。

 火は、美しい。醜い物も、綺麗な物も何もかもを呑み込んで、粉塵へと還す。何でも良かった。燃やせれば。


 16の時、魔王様に拾われた。出会い頭の台詞は、今でもはっきりと覚えている。


『お前は見込みがある。俺の側近になれ』


 最初は、ただからかわれているだけだと思った。


 1年を経て、相手の性格を知り。

 2年を経て、軽口を叩けるようになり。

 3年を経て、相手を思いやるようになり。

 4年を経て、相手の考えが読めるようになり。

 5年後には、すっかり思いを寄せるようになっていた。

 幸せだった。愛されていた。愛していた。欲しかった物が、そこにあった。――飼われているだけだったのかもしれない。でも、関係無い。私の母がそうであったように、私だって選ばれるものだと思っていた。

 ごく自然に、幸せに結ばれるものだと思っていた。身体の交わりこそ無かったものの、彼を誰よりも愛しているという自信はあったし、彼に誰よりも愛されているという満足もあった。

 彼が、自分でない娘を産んだと聞いた時には、激しい嫉妬にかられたが。

 それでも、悔しい思いこそすれ、満たしてくれる彼に対して憎しみなど、抱くはずもなかった。

 次第に私は、二番目でも構わない、などと不謹慎な事を考えるようになっていったのである。

 ある日、家族が1人増えた。


 少女だった。――どこか、昔の私と似ているような気がした。


 買ってきた絨毯から、匂いがしたらしい。魔法を解いてやると、少女は5年を経て心の平静を取り戻し、やがて家に溶け込んだ。

 少女は、天真爛漫だった。素直で、純朴で、それでいてキラキラ輝いていて。

 この時点で、嫌な予感はしていた。胸のどこかで黒い物がつっかえているのを、気のせいだとして向き合わなかった。

 ……始めは、嬉しかった。

 愛せる家族が増えた。喜ばしい事だと思った。

 彼女は自分が絨毯として過ごしていた120年の事を――生物として生きている時間よりも長かったその時の話を、何度も何度も話した。

 初めは、苦しそうに、悲しそうに。数十回繰り返すと、もはや過去の笑い話として楽しそうに。

 それこそ、彼女の感情も含めて、何から何まで暗唱出来るほどになっても、彼女はその時の事を話し続けた。

 魔王様も私も、その度に彼女の話に付き合って相槌を打つことを厭わなかった。

 少女は空っぽだった。だからこそ、満たしてあげなければならない。

 そう、思っていた。

 愛は、有限だ。


 魔王様と少女とが一緒にいる時間が、1日のどの時間よりも長くなった時になって、やっと気が付いた。

 何かが、手遅れだった。

 初めは、違和感。私が身の回りの家事をしている間、少女は魔王様と一緒に過ごしている。私は、側近だから普通の事なんだ。

 けれど、日を追うごとに。目に見えるほどに。

 私に注がれる愛は、少女に注がれるそれよりも、ずっと、ずっと。少なくなっていった。


 黒い物が、大きくなっていく。



 ――家族仲が良いのは素晴らしい事だ。

 ごまかした。二人が引っ付いて本を読んでいても、ゲームをしていても、私を置いて出掛けていっても。私は、どこにも連れて行ってくれなかったのに。


 ――私は、尽くしていれば幸せだから。家族でいられるなら、それでもう満足だから。魔王様の幸せは、私の幸せなんだ。


 それ以上は怖くて、踏み込めなかった。

 ある晩の遅く、物音で目が覚めた。別の部屋からだった。

 いつも私と一緒の部屋で寝ているはずの彼らの姿が、見当たらなかった。

 聞こえないフリをして、なんでもないと布団に潜って。物音が止んで、それから二人が揃って部屋に帰って来ても。私は起きなかったんだと自分で思い込んだ。


 私は、選ばれなかった。

 ただ、それだけ。


 それだけ、だった。

 魔王様が1人で出かけるようになると、私と少女とが2人きりで話す事が多くなった。

 その頃になると、いくぶんか黒い感情も影を潜めていたのは、気のせいではなかったと思う。


 魔王様が娘を持っているにも関わらず、その身体を許したのは、彼女の無知によるものだと小馬鹿にしていた。


 ……少しずつ話していくうちに、彼女と私の境遇がひどく似ていることに気が付いていった。

 少女の口から私の父の名が出たとき、不思議と当然であるかのように思った。

 ――不意に因縁めいた物を感じた。私を捨てた父の顔が、彼女に重なった。


 私は、少女に自分と彼女とが父を同じくしているという事を、伝える事が出来なかった。

 伝えるべきだったのかもしれない。あるいは、彼女も既に気付いていたのかもしれない。

 劣っているだとか、情けないだとか、そういう感情じゃない。


 また、家族に捨てられる。


 そんな気がした。

 数ヶ月ぶりに、魔王様が帰ってきた。

『娘が、大きくなっていた』

 彼は、そう言った。

『あら、そうなんですか』

 少女は、即座に嬉しそうに答えた。


 私は、何も言えなかった。足元の床が、溶けて無くなる。そんな感覚だった。無知は、私だった。

 何を憎めばよかったのか。私を家族にしてくれた、大恩人か。朗らかに振る舞う、私の妹か。


 魔王様が『あいつの世話を任せる』と言葉を残し、再び出掛けた後で少女に問うと、こう答えた。

『身体が全てじゃ、ありませんし。魔王様の幸せは、私の幸せですから』


 ――この少女は、私と同じ父を持ち。
 私と同じ者に拾われ。
 私と同じ者に愛され。
 私と同じ者に好意を持ち。
 私と同じ考えを持ち。



 だが、私なんかよりも、ずっと美しく生きる。



 選ばれなくて、当然だった。

 事故、だった。

 吹き抜けの階段から、頭から落ちたのだろう。

 首が、おかしな方向に曲がっていた。

 鈍い音につられて私が駆けつけた時には、それしか分からなかった。


 ――痙攣する少女の身体を前に、足を震わせ。その私の頭のどこかに、喜んでいる自分がいる。その事に気が付いて、心が冷えていくのを感じた。

 そう思うと、私が直接に殺したような気さえしてくるのだった。

 ならば、埋めなくては。燃やして、バレないように。ドミノのように、私のする事は決まっていった。


 庭に1日かけて深い穴を掘り、黒こげになった死体を深く、深くに埋め、その土を踏み均した時になり、ようやく。

 自分が、父と同じように家族を捨てたのだと理解した。


 全てが、手遅れ。これに限った話ではない。考えが感情に追い付いていない。

 嫉妬と不安で固められた、醜い化け物。

 ろくでなし。

 または、それ以下か。ぴったりだった。

 毎日、夢を見た。少女の話のように、自分が引き潰される夢。

 何度も、何度も。何度も、何度も、何度も、何度も。

 それでも、私は生き物でいる。


 夢から覚める度に確認されるその事実が、安堵から苦痛に変わった時、魔王様が帰ってきた。


 小さな娘を連れて。


 魔王様は、少女の不在について聞かなかった。私は、何も言わなかった。


 魔王様は忘年会の後、姿を消した。何も言わずに。


 ――――この子を、守らないと。


 こんどこそ、暖かい家族に。


 間違いの無い、生活に。

 やり直させて下さい、魔王様。


――――

――





「私」



「は」


「まとも、ですよぉ?」


「ただ、よわいだけ」


「親が私を生んだのも、すぐに捨てられたのも、家がもうないのも、お父さんも妹がもういないのも、妹を殺しちゃったのも、魔王様が私を選んでくれなかったのも、魔王様が死んだのも、私が何も知らないのも。魔王様が何も教えてくれなかったのも、皆が私をおいてけぼりにするのも、誰も、何も分かってくれないのも、私が何もできないのも、この感情がどうしようもないのも、魔あ王様に魔王様の面影を見てしまうのも、つらくなるのも、どんなに愛されても満たされないのも、ひとりぼっちすら許されないことも」



「魔あ王様より、背負ってるものがずっとちっぽけだから」


「それを悲しんじゃいけないその事も」



「ぜんぶ、全部、ぜんぶ、ぜんぶ」


「背負わなきゃ、もっと支えなきゃ、もっと、もっと、もっと、もっともっと、貴方を、愛しますから、優しくしますから、そうしないと」




「また頼りない私を捨てて、どこかに行ってしまうんでしょう? ねぇ、ねぇねぇねぇねぇ?」




「…………側近」



――ひとりに、しないで


――誓いますとも



「…………傷付くなぁ、もう」


「ああ、そうです、魔王様! 傷付けることしかできないんです! だから!」



「ちからくらべ、しましょ?」




「側近。ホントに、もう……!」




「あはははひゃっ! ははは!」



「ねぇっ! 魔王様、ねぇっ!」



「愛してます!!!!」

――――

――

待って皆、>>297がなんか言ってる

――――

 地面を蹴る。ぶっ叩いて、正気に戻す。それが、私がやることだ。

 ――つい前に、闘ったから分かる。

 側近は、バカみたいに力が強い。右手、左手、加えて尻尾。特に、一番最後のが強烈だ。この前はあれで後ろから殴られて、ダウンさせられたから。

 でも、だからといって距離は取れない。私は魔法が使えないから、一方的に火球でなぶられる。

 スピードは私に分がある。だから。


 身長差を生かして側近の胸元に潜り込み、その勢いで腹を叩く。1発、2発。軽くていい。

 そして反撃が飛んで来る前に、バックステップして、離脱する。

 ――ヒット、アンド

「アウェー?」

 ――読まれてる。バックステップに合わせて踏み込まれて。慌ててガードをするが、大きく引かれた腕は止まらない。

 一撃。

「がっ!」

 ガードしたのにっ! ふざけた威力に心の中で悪態をつく。よろめく身体。刹那、視界に振り上げられた左拳が映る。

 マズい。反射的に身体の重心を横にずらして、かわそうとする――これも、読まれてた。

 脇腹に、何か、当たって、あ、尻尾。迫る左拳。

 あ、やば。ガード間に合わな――


 追撃。

 胃から遡って、酸っぱい液体が口から溢れる。そのまま、内臓を全部吐き出してしまうかと思った。

 意識が飛びかけ――歯を食いしばって、耐えて。拳を、握りしめ。

 引かれる側近の右拳。集中。そして、3発目が放たれるのに合わせて大きくしゃがみ込む。

 頭が、痛い。気にしない。全力で地面を蹴って跳ね上がる。拳を、前に。


 アッパー。

 固い感触。側近が後ろに吹っ飛ぶ。拳がじんじんする。

 やっと、距離をとれた。息が、酸っぱい口の中も気にならない程に荒い。無理矢理整える。

 ……完全に入ったから、こたえてるといいんだけど。

「……いたいです、ねぇ?」

 ゆらゆらと湯気のように立ち上がる。効いてなくはなさそう。だけど。


 やられる前に、また、入れられるのか? あの、拳を。


 ――違う。

「入れるんだよっ!」


 地面を蹴る。前に。


「あはは! はは!」


 構える側近。

 突撃の勢いのまま、拳を振る。避けられる。キリキリと引き絞られた拳が、私の腹を撃ち抜こうと狙いを定めて。

 回避は読まれる。ガードを――


 頭上から、衝撃。岩でも落ちてきたみたい。何をされたのか理解するよりも先に、地面と激突した。痛い。

「フェイクで、す」

 頭上でうねる尻尾。振り上げられる、足。倒れた私の頭めがけて――


 ――ギリギリで避ける。

 その脚を掴んで、思いっきり引っ張ってやる。

 油断してたのか。彼女はバランスを崩して倒れこむ。チャンス。飛びかかって、馬乗りになって、拳を振り上げて。


「目ぇ覚ませ、バカ!」

 1発、2発。

 思いっきり顔を殴る。嫌な感触。側近、鼻血が出てる。気にしない。

 3、4、5。拳が、熱い。


「あ゙あああ゙あ゙!!!!」


 絶叫。


 反射だった。側近の上から飛び退いて。その次の瞬間には、火柱があがっていた。


「ま、王、様ぁ……!」


 術式の展開、展開、展開。火球が現れ、飛び出し。私目掛けて飛んでくる。

 ――避ける、避ける、避ける。左に、後ろに、右に。……彼女との距離は開いてしまった。


 そして、彼女はまた術式を大量に展開する。いつか勇者を蒸発させた、あの炎。それが、私に向かって。

 必死に、身体を動かす。じり貧だ。今はまだ当たらないけど、さっきもらったダメージが大きすぎる。焼かれてチリチリになった空気が肌をなぞり、嫌な汗が吹き出してくる。


 そのうち体力が尽きて、回避できなくなって、炎が当たって、黒焦げになって――

 ――なんとかしないと!

 でも、私は飛び道具は持ってないし、魔法は使えないし、遠距離攻撃なんて――




 ……あ。

 あった。

 息を、大きく吸い込む。横で爆炎が炸裂する。空気が、熱い。喉が痛い。

 構うもんか。めいっぱい、胸の奥まで吸い込んで。


 一気に吐き出す。


 ――――音を、乗せて。


「――――――!!!!」

 ビリビリと、空気が震えるのが自分でも分かった。

 側近。彼女がすくんで、動きが止まるのも。


 その隙を、逃さない。


 千切れそうな足を、ただ、前に。彼女に向けて。


 拳を振り上げて。


「……っ! あま、いです!」


 ――立ち直る。


 ――そして、突っ込む私を迎え撃つべく、大きく右腕を引いて。



 あ、死ぬ。


 頭、やられる。


 足、止まんない。


――――私は、何があっても。


――――あなたの味方ですから。


――――そっきん。


――――だいすき。

 ピタリと、彼女の動きが止まる。ほんの一瞬。けど、私にとっては十分な時間。


 疲労からか、それとも――――


 何でも良かった。


 踏み込む。拳を、きつく。体重を乗せて。がら空きの、お腹に向かって。


「うらあああっ!!」


 ――――打ち抜いた。


 ――彼女が、膝を着いた。

「……はーっ、はーっ」


「…………っ」


「……側近っ!」




「あ、う……う……」


「魔王、様……」


「………わた……わた、しは」





「おい! おい!」


「おい、聞け!」


「私は、ここにいるぞ!」

「……ぅ」


「何があんたにあったのか、私は知らないけど」


「あんたは、私の側近でしょ?」


「しっかりしてよ、バカ!」



「…………」



「ああ、もう!」


「大好きだぞ、このやろう!」ギュッ


「悩んでんのも分かんなかったし、辛いのも分かんなかったけど」


「許せ! これからは気を付けるから!」



「…………」

「大体ね、一人で抱え込むからそんな事になるんだよ。もっと私を頼ってよ。家族でしょ!?」


「!」


「そもそもお父さんにフラれたから暴走、なんて数年経てば笑い話だよ。今が幸せならそれでいいの!」


「先の事より、後の事より、今でしょ! だから……へ、へ」


「へっきし!」


「……あ」



「…………」ベッタリ



「…………喋るの疲れた! 終わり!」

「…………なんですか、それ」


「何の説得にもなってないじゃないですか……」


「おまけに、くしゃみを顔にひっかけて……」


「くく……ははっ」


「魔あ王様……!」


「もう、ほんとに」


「ねぇ……ほんとうに……!」

 ――彼女が、ぎゅっと私を抱き寄せる。

 応えるように、抱き返してやる。

 彼女は、小刻みに肩を震わせて、小さく笑う。

 笑い声がだんだん湿り気を帯びて、彼女の声に謝罪が混じるようになって。次第にそれすらも嗚咽に掻き消されていく。

「泣いてもいいよ?」


「……泣いて、ませんっ……!」


 変な所で強がるなぁ。


 彼女の頭を撫でながら、空を見上げて、気が付いた。

「星が、綺麗だ」


 吐く息が、白い。

 忘年会まで、あと2日。

――――

――

小休止。


すぐに再開します。

――魔あ王城・玄関――


魔あ王「……さて」

側近「はい」

魔あ王「行けそう?」

側近「ええ」

魔あ王「……こいつ、どうする?」

側近「…………」



智天使「   」ピク

魔あ王「……黒焦げになっても、まだ死んでないみたいだけど、さ」

魔あ王「殺したほうがいいかなぁ?」

側近「…………」

魔あ王「無言は肯定って受けとるよ」

側近「……殺したら、後々バレた時に困ります」

魔あ王「それなら

側近「死ぬつもりですか?」

魔あ王「……どっちの意味で言った?」

側近「どっちもです」

魔あ王「…………」

側近「それに」

側近「天使の翼は、生え替わりませんから……どうせ、逃げられませんよ」

魔あ王「……そう、か」


魔あ王(……よかった)

魔あ王「じゃあ、治療しないとね」

側近「はい」

魔あ王「……そういえば、さ」

魔あ王「蟲遣いに貰った、蟲壺って……」

側近「ああ。使いましょう」

魔あ王「ん、と、じゃあ」

側近「持ってきますね」



側近(……どうしよう)

側近(‥‥‥‥あ)

側近(‥‥‥‥そうだ)

魔あ王「……この壺を、どうするんだ?」

側近「まずは、残ってる服を取りましょう」

魔あ王「ん」ビリビリ

側近「…………」ビリビリ

側近「――それで、こうやって、身体をお山座りさせれば、なんとか壺に入りますから」

魔あ王「ああ、なるほど」

側近「そして、入れれば」

魔あ王「壺の中は、精神衛生上見ないことにするよ」

魔あ王「どれぐらいで治療が終わるの?」

側近「…………蟲遣いは、火傷は完治まで時間がかかる、と」

魔あ王「で、どれぐらい?」

側近「8時間ぐらい、だそうです」

魔あ王「」

側近「早いですよね」

魔あ王「ワケわかんない」

魔あ王「……んじゃ、寝て起きたら」

側近「ええ、取り出してやれば、回復してるはずですよ」

魔あ王「そっか……」クラッ
魔あ王「あれ?」

魔あ王「……ねむたっ」


側近「――今日は、もう、寝ましょう」

側近「お風呂は、明日の朝にでも入れますから」

魔あ王「…………ん」

側近「ここで寝ても、運んであげますよ?」

魔あ王「…………そう?」

側近「ええ」

魔あ王「……それじゃ、あ」

魔あ王「よろし」

魔あ王「く」コテッ

魔あ王「…………」

側近「……」

魔あ王「…………」スー

側近「さて、と」


側近「――私も、入んなきゃまずいかもしれませんねぇ……」


側近「ゲホッ ケホッ!」


側近「……喀血って、思ったよりも辛いんですね」


側近「…………やらなきゃ」

側近「あと、5時間、ぐらいでいいかな……?」

――真夜中。

 あれから、5時間。耐えきりました。

 焼いた傷口が、酷く痛みます。

 羽に4。脇腹に1。穴を開けられたのに意識を保っている自分を褒めてやりたいです。

 ――いや、褒められた事ではありません。

 ずるずると重い身体を引き摺るようにして、蟲壺の前に辿り着くと、中を、見ます。

 楽そうに眠っている、智天使の姿がありました。


 ……大丈夫そうです。

 彼を、引きずり出します。

 彼は、軽く、呻き声をあげて。放って置けば、痛みですぐに目を覚ますでしょう。


 ――天使の翼が生えかわらない、なんて嘘っぱち。本当は、何も知らないんです。

 もしもこいつが天界に帰ったら、間違いなく次は本気で仕留めにくる。こいつは、帰せない。

 けれども、殺したら。


 ――魔あ王様が大きくなった時に、悲しむ。自分の為にではなく、私なんかの為に殺したら。絶対に、抱え込むから。私が殺したとしても、きっと悲しむ。


 幽閉するか?


 ――生憎、そんな部屋はありません。先代様が平和の為には要らない物だと壊してしまいました。


 では、どうするか。

『中に身体にいい蟲がいっぱい入ってて、腕とか突っ込んだら治療してくれるんすよ』


『あと、気持ち良くなって肉欲も大きくなるッスね。』


『異種姦通の罪で、堕天使と見做された者だ』


『堕天使が処刑された』



 ――異種どころか。


 堕天使の娘なんかと、まぐわったら。


 きっと、帰れませんよね?

「ぐ……うっ……」


 目の前の雄は、呻き声を上げながら、目を開いてゆきます。焦点が合っていません。そして、どこか熱のこもった瞳です。

 服を脱ぎました。

 彼の瞳が、見開かれます。

 近づいてやると、腕を伸ばされ、捕まれ、押し倒され。

 息を荒くし、私を見下ろすその顔に、一瞬、魔王様の顔が重なります。

 ――彼の姿を倒錯しようと。目の前の雄が、魔王様なのだと。妄想しようとして、止めました。


 やっぱり、私の本質はかわりっこ無いのです。


 選ばれなかったのも、当然だから。振り向かれなかったのも、私のせいだから。

 魔あ王様と一緒に並んで歩く、その前に、最後に一言。


「本当に、弱いなぁ……」

――――

――

休憩。

側近がめちゃくちゃにされる(傷的な意味で)エロシーン、いりますか?

何もなかったら、無しの方向で。

素数砂漠の問題なんだけど、
24-28は24から始まる5個って5個最大限に数える必要はあるの?
25から始まる4個って数え方は出来るの?

エロが欲しいとか言ったオマエら……後悔するなよ……?

『ほのぼの』の『ほ』の字も『の』の字も無い展開なんだから!

要らない人がいるみたいだから、後でオマケに載せる形をとりますけど。

後でいらないって言ってもも張るからね!


>>352
それ、曖昧だったんだよね……。

だから『100以上並ぶのものを1つ答えろ』だなんて聞き方になっちゃって。

僕も分からないです。

>>358
トリついてないけど本物?

別に続き自体があるのなら本物かどうかは気にならんな

>>359
ごめん酉つけてなかった。本物。

上手く文章が書けないのと勉強やばいのとエロ本書きたいのとの責めぎあい。

>>360
あるよー。
もう佳境だし、話も畳まないとすっきりしないし。
申し訳ないけど、待っててくれ。

ちょっと受験終わるまで待っててください…ごめんなさい

…………

魔あ王「……」

魔あ王「……ん」

魔あ王「……朝?」



…………

魔あ王「……」

魔あ王「……ん」

魔あ王「……朝?」



魔あ王「?」

魔あ王「……側近?」

魔あ王「あれ?」

魔あ王「え、側近?」

魔あ王「……どこ行ったの?」

ぺた、ぺた、ぺた。

魔あ王(一緒に寝たはずなのに)

魔あ王(なんで、いないの?)

魔あ王(…………私)

魔あ王(まずいこと、言っちゃったかな?)

ぺた、ぺた、ぺた

魔あ王「……寒い」

魔あ王「…………?」

魔あ王「誰か、来た?」

蟲遣い「こんちゃッス」

麒麟「こんにちは」

魔あ王「蟲遣いと麒麟!? どうしたのその傷!」

蟲遣い「クソ天使にやられたッス。その、嬢ちゃんの傷も……」

魔あ王「あ、私の傷は……まあ、そうだね、天使に」

蟲遣い「それは……無事で良かったッス」

魔あ王「んで、麒麟の傷も」

麒麟「私らの傷なんて、もう数日あれば治るわぁ。それよりも」

魔あ王「?」

蟲遣い「……あの、側近さんは」

魔あ王「それが、見当たらないんだよ。今起きたばっかだし、どっかにいると思うんだけどね」

蟲遣い「……上がってもいいですか?」

魔あ王「? 急にかしこまっちゃって、どうしたの?」

蟲遣い「……話があるんス」

蟲遣い「それに」

蟲遣い「とんでもなく、嫌な予感がして」

無事合格しました。

待ってくれていた方々、ありがとうございます。

財布落としました。エンディングまで書いたUSBも一緒に。

……頑張ります。

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