記者「いかがですか?」
記者「史上最年少で、我が国の最高権力者になられたお気持ちは?」
ライバル「とても嬉しいね」
ライバル「男君と友人君という、二人の側近とともに」
ライバル「よりいっそうこの国を発展させていきたいと思っているよ!」
記者「なるほどぉ~!」
男「…………」
記者「男さんも、ライバルさんに次ぐ地位につかれましたが──」
記者「お気持ちはいかがですか?」
男「えっ……?」
男「え、ああ、もちろんナンバー2としてライバル君を支えていきたいと思ってます」
記者「なるほどぉ~!」
男(いつも……)
男(いつもそうだった……)
男(ライバルが一番で、俺は二番なんだ……)ギリッ…
記者「では最後に、ライバルさんのお好きな言葉を教えて下さい」
ライバル「そうですね……」
ライバル「ずばり……“頂点”かな? アッハッハ……」
男「…………」イラッ
記者「なるほどぉ~!」
記者「いつも一番だったライバルさんらしいお言葉ですね!」
記者「ナンバー2である、男さんがお好きな言葉は?」
男「俺は──」
男「俺は……“縁の下の力持ち”といったところでしょうかね」
記者「そうですかぁ~! これも男さんらしい!」
記者「お二人とも手を取り合って、これからも頑張って下さいね!」
ライバル「もちろん!」
男「……はい」
男(そう……ガキの頃からずっとそうだった……)
男(ライバルが一番で──)
男(俺はずっと二番だったんだ……!)
……………
………
…
運動会──
ザワザワ……
「各組のエースクラスの徒競走……だれが勝つかな?」
「ライバルだろ、もちろん」
「そう? 男君もかなり速いわよ」
ザワザワ……
男(絶対に……勝つ!)
先生「位置について……ヨーイドン!」パンッ
男「だあああっ!」ダッ
ワァァァァ……!
「ライバルが勝ったぞ!」
「おめでとう、ライバル!」
「いやぁ~、でも男も惜しかったぞ!」
友人「二人とも速いなぁ、とてもかなわないや」ゼェゼェ…
ライバル「やったぁ、ボクが一番だ!」ゼェゼェ…
男(くそう……負けた!)ゼェゼェ…
試験──
男(──よし!)
男(国語100点、数学100点、理科100点、社会98点、語学98点)
男(合計496点!)
男(細かいミスもあったが、この難易度の試験なら上出来だ!)
男(俺が一番のはず──)チラッ
ワァァァァ……
「すっげえ!」
「ライバルの奴、500点満点だって! 五教科オール100点だ!」
男(なにい!?)
ライバル「ふ~ん、君は496点か」
ライバル「ケアレスミスがなければ、満点だったのにね! 惜しかったね!」
男「…………」イラッ
男「そうだな……次は気をつけるよ」
友人「二人ともすごいなぁ」
友人「ぼくは489点だったよ。数学が足を引っ張ったなぁ」
男(くそう……また負けた!)
恋愛──
男(まさか、ライバルと同じ女を好きになってしまうとは……)
男(だが、今度こそ負けねえ!)
男「美女さん」
男「俺と付き合ってくれないか?」
美女「私、男君のことすっごく魅力的だと思うけど、付き合えないわ」
男「え、どうして!?」
美女「だって私、ライバル君のことが好きなの……」
男「!」ガーン
ライバル「今、ボクたち付き合ってるんだ」
美女「これから高級レストランに食事に行くの」ウフッ
友人「へぇ、いいなぁ!」
男「楽しんでこいよ~!」
男「…………」ギリッ…
友人「ぼくはあの美女さんにあっさりフラれたのに、さすがライバル君だなぁ」
男(ちくしょう……また負けた!)
芸能界──
キャーキャー…… ワーワー……
男(ひょんなことから)
男(ライバルと友人と三人でユニットを組んで、芸能界デビューしちまった)
男(今度、ファンによる人気投票があるが──)
男(俺の方がファンサービスがいいし、絶対一位のはず!)
男(俺は芸能界という舞台で、今度こそライバルに勝ってみせる!)
司会『ファン投票結果発表!』
司会『人気投票一位は──ライバル君でぇっす!』
司会『ファンにちょっとそっけないところが、逆に票数を稼いだもよう!』
司会『僅差で二位の男君は、実に惜しかった!』
ワーワー…… キャーキャー……
ライバル「いい勝負だったね!」
男「あ、ああ……」
友人「二人とも大人気だね、うらやましいや!」
男(なんでだ……なんで俺は勝てないんだ!)
仕事──
男(芸能界を引退して、三人で大企業に入った……)
男(バリバリ働いて、俺が営業成績トップになってやる!)
男「うおおおおおっ!」バリバリ…
男「よし、大口契約ゲット!」バリバリ…
先輩「アイツ、すごい闘争心ですね」
上司「うむ、まだ新米なのにすさまじい営業成績だ」
社長「いやぁ~、君たちは素晴らしい!」
社長「売上成績一位のライバル君に、二位の男君!」
社長「この社長表彰を励みに、よりいっそう頑張ってくれたまえ!」
ライバル「はいっ!」
男「はい……」
友人「二人とも、おめでとう!」
男(なんでだよ……なんで神様は俺を勝たせてくれないんだ!)
政治──
ザワザワ……
「次期最高権力者はだれになるだろう?」
「ライバルさんじゃないか?」
「いや、男さんも十分ありえるぜ」
ザワザワ……
男(この選挙で勝てば……俺がこの国の最高権力者だ!)
男(最後に勝って笑うのは、この俺だ!)
ワァァァァ……!
「おめでとう、ライバルさん!」
「あなたが最高権力者だ!」
「男さんも惜しかったけどな!」
ライバル「男君と友人君を側近にむかえ、これからも頑張っていくよ!」
友人「ついに国のトップになっちゃったんだね~」
男「ついに……」
男(ついに……俺はコイツに一度も勝つことができなかった……)
…
………
……………
男(そう……俺はいつも二番だった)
男(俺はライバルのせいで、いつも一番になれず二番だった……ッ!)
男(あれだけ頑張ったのに、一度も勝てなかったんだ……!)
男(このままこれから先の長い人生、俺はずっとアイツを支えて生きるのか?)
男(アイツの二番手として生きるのか?)
男(そんなのはイヤだ……イヤに決まってる!)
男(そんなことになるぐらいなら、死んだ方がマシだ!)
男(だったら──)
男(殺してやる……!)
男(ライバルを殺して……俺が一番になってやる!)
男(ククク、クククッ……)
最高権力者の部屋──
男「なぁ、ライバル」
男「今夜、お前と二人きりで話したいことがあるんだ」
ライバル「ボクと? ここじゃダメなのかい?」
男「ここじゃ、いいづらいから……誰もいないところで話したいんだ」
男「そうだ、この町の港なんかがいいかもしれない」
男「あそこは夜、だれもいないから……」
ライバル「分かった、いいよ!」
男(ククク……かかった!)
男(のこのこと港に現れたところを、恨みを告げてからこのナイフで刺してやる!)
男(殺したら、ドラム缶に死体を詰めて、海に捨ててやる!)
男(この辺りの海流は独特で、流れたモノはまちがいなく見つからねえ!)
男(これで俺が……一番!)
男(俺がナンバーワンになれるんだ!)
男(ハーッハッハッハッハッハ!)
港──
男(さぁ来い!)
男(早く来い!)
男(ライバル! お前のナンバーワン人生はこの港で終わりだ!)
ライバル「……やぁ」スッ
男(来た!)
男「悪いな、こんなところに呼びだしちゃって」
ライバル「いや、かまわないよ」
ライバル「ボクも、こういう機会をずっと待ってたんだ」
ライバル「君と二人きりになる機会をね」
男「?」
男「ま、いいや」
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男「この手で殺し──」
ライバル「なぜなら、ボクはね……」
ライバル「子供の頃からずっと君のことを、殺したかったんだァッッッ!!!」
男「!?」
男「ちょ、ちょっと待て、なにいってんだ」
男「お前は一番で、俺はいつも二番だったろうが!」
男「なんでお前が俺を殺したがるんだよ!?」
ライバル「フフフ……分からないか……」
ライバル「ま、分からないだろうな……君には……」
ライバル「絶えず背後から僅差で追われる人間の気持ちなんて、さ……」
男「え!?」
ライバル「元々、ボクは一番というものにそれほど固執してはいなかった」
ライバル「一番になるために頑張ってたわけじゃなく、頑張った結果一番になっていた」
ライバル「しかし……ボクの近い実力を持つ君という存在のせいで」
ライバル「ボクらは常にどちらが上なのかと、みんなから注目されるようになり」
ライバル「いつの間にかボクは、君に抜かれないためだけに」
ライバル「必死に努力しまくる人生を送るようになってしまったんだ!」
ライバル「いつ抜かれるか、いつ抜かれるか、という不安と恐怖を味わいながらね!」
ライバル「このプレッシャー……この苦痛……! 君には分からんだろうさァ!」
男「なにいってんだよ……だったらわざと俺に抜かれればよかったじゃねえか!」
ライバル「わざと抜かれる?」
ライバル「もちろん、何度やろうと思ったか分からない!」
ライバル「わざと手を抜いて、君に抜かれてしまえば楽になれると……」
ライバル「だけど、君から僅差の勝利を何度ももぎ取っていくうち──」
ライバル「いつしか周囲の注目は、“いつまでボクが一位でいられるか”」
ライバル「あるいは“いつ君がボクを抜くか”になっていることが分かっていった」
ライバル「負けた時に『アイツついに抜かれたか……』と皆にいわれることを考えると」
ライバル「恐ろしくて、とてもそんなことはできなかったんだッ!」
ライバル「ボクは君がずっと羨ましかったよ」
ライバル「君は一度でもボクに勝てば“悲願の勝利”“宿願達成”とかいわれて」
ライバル「持てはやされたにちがいない」
ライバル「一方、ボクは何度君に勝っても“またか”としかならない!」
ライバル「一度でも負ければ、ハイそれまでだ!」
ライバル「だから……ボクは過剰なまでの努力を続けるしかなかったんだ!」
ライバル「君さえいなければ、もっと気楽で豊かな人生を歩めたはずなのにッ!」
ライバル「君はボクの人生を狂わせた……!」
ライバル「だからわざわざ君から作ってくれたこのチャンス……逃さない!」
ライバル「今この手で殺すゥゥゥッ!」ギラッ
男(包丁!?)
男「ふっ……」
男「ふざけんな!」
男「お前に人生を狂わされたのは俺の方なんだよォ!」ギラッ
男「俺が一番だぁぁぁぁぁっ!!!」ビュアッ
ライバル「死ねえええええっ!!!」ビュアッ
ドシュッ……!
男「がはっ……!」
男(心臓を刺された、か……)
男(やっぱり俺は……最期までコイツに……勝てなかった、な……)ドサッ…
ライバル「ぐうっ……!」
ライバル(ボクも、首を切られた……!)
ライバル(先に死んだ、のは彼だが……やっぱりほとんど互角だった、な……)
ライバル(でも、これでようやく楽に……)ドサッ…
一ヶ月後──
記者「いかがですか?」
記者「親友であるお二人の死を乗り越え、この国の最高権力者となったお気持ちは?」
友人「二人が死んでしまったことはとても悲しいですが……」
友人「いつまでも嘆いてばかりはいられません」
友人「ぼくが二人の分まで頑張るつもりです」ニコッ
記者「ちなみに友人さんの好きなお言葉はなんでしょうか?」
友人「う~ん……そうですねぇ」
友人(“漁夫の利”……かな)
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