男「俺はライバルのせいで、いつも一番になれず二番だった……ッ!」 (73)

記者「いかがですか?」

記者「史上最年少で、我が国の最高権力者になられたお気持ちは?」

ライバル「とても嬉しいね」

ライバル「男君と友人君という、二人の側近とともに」

ライバル「よりいっそうこの国を発展させていきたいと思っているよ!」

記者「なるほどぉ~!」

男「…………」

記者「男さんも、ライバルさんに次ぐ地位につかれましたが──」

記者「お気持ちはいかがですか?」

男「えっ……?」

男「え、ああ、もちろんナンバー2としてライバル君を支えていきたいと思ってます」

記者「なるほどぉ~!」

男(いつも……)

男(いつもそうだった……)

男(ライバルが一番で、俺は二番なんだ……)ギリッ…

記者「では最後に、ライバルさんのお好きな言葉を教えて下さい」

ライバル「そうですね……」

ライバル「ずばり……“頂点”かな? アッハッハ……」

男「…………」イラッ

記者「なるほどぉ~!」

記者「いつも一番だったライバルさんらしいお言葉ですね!」

記者「ナンバー2である、男さんがお好きな言葉は?」

男「俺は──」

男「俺は……“縁の下の力持ち”といったところでしょうかね」

記者「そうですかぁ~! これも男さんらしい!」

記者「お二人とも手を取り合って、これからも頑張って下さいね!」

ライバル「もちろん!」

男「……はい」

男(そう……ガキの頃からずっとそうだった……)

男(ライバルが一番で──)

男(俺はずっと二番だったんだ……!)



……………

………

運動会──

ザワザワ……

「各組のエースクラスの徒競走……だれが勝つかな?」

「ライバルだろ、もちろん」

「そう? 男君もかなり速いわよ」

ザワザワ……

男(絶対に……勝つ!)

先生「位置について……ヨーイドン!」パンッ

男「だあああっ!」ダッ

ワァァァァ……!

「ライバルが勝ったぞ!」

「おめでとう、ライバル!」

「いやぁ~、でも男も惜しかったぞ!」



友人「二人とも速いなぁ、とてもかなわないや」ゼェゼェ…

ライバル「やったぁ、ボクが一番だ!」ゼェゼェ…

男(くそう……負けた!)ゼェゼェ…

試験──

男(──よし!)

男(国語100点、数学100点、理科100点、社会98点、語学98点)

男(合計496点!)

男(細かいミスもあったが、この難易度の試験なら上出来だ!)

男(俺が一番のはず──)チラッ

ワァァァァ……

「すっげえ!」

「ライバルの奴、500点満点だって! 五教科オール100点だ!」

男(なにい!?)

ライバル「ふ~ん、君は496点か」

ライバル「ケアレスミスがなければ、満点だったのにね! 惜しかったね!」

男「…………」イラッ

男「そうだな……次は気をつけるよ」

友人「二人ともすごいなぁ」

友人「ぼくは489点だったよ。数学が足を引っ張ったなぁ」

男(くそう……また負けた!)

恋愛──

男(まさか、ライバルと同じ女を好きになってしまうとは……)

男(だが、今度こそ負けねえ!)

男「美女さん」

男「俺と付き合ってくれないか?」

美女「私、男君のことすっごく魅力的だと思うけど、付き合えないわ」

男「え、どうして!?」

美女「だって私、ライバル君のことが好きなの……」

男「!」ガーン

ライバル「今、ボクたち付き合ってるんだ」

美女「これから高級レストランに食事に行くの」ウフッ

友人「へぇ、いいなぁ!」

男「楽しんでこいよ~!」



男「…………」ギリッ…

友人「ぼくはあの美女さんにあっさりフラれたのに、さすがライバル君だなぁ」

男(ちくしょう……また負けた!)

芸能界──

キャーキャー…… ワーワー……

男(ひょんなことから)

男(ライバルと友人と三人でユニットを組んで、芸能界デビューしちまった)

男(今度、ファンによる人気投票があるが──)

男(俺の方がファンサービスがいいし、絶対一位のはず!)

男(俺は芸能界という舞台で、今度こそライバルに勝ってみせる!)

司会『ファン投票結果発表!』

司会『人気投票一位は──ライバル君でぇっす!』

司会『ファンにちょっとそっけないところが、逆に票数を稼いだもよう!』

司会『僅差で二位の男君は、実に惜しかった!』

ワーワー…… キャーキャー……

ライバル「いい勝負だったね!」

男「あ、ああ……」

友人「二人とも大人気だね、うらやましいや!」

男(なんでだ……なんで俺は勝てないんだ!)

仕事──

男(芸能界を引退して、三人で大企業に入った……)

男(バリバリ働いて、俺が営業成績トップになってやる!)

男「うおおおおおっ!」バリバリ…

男「よし、大口契約ゲット!」バリバリ…



先輩「アイツ、すごい闘争心ですね」

上司「うむ、まだ新米なのにすさまじい営業成績だ」

社長「いやぁ~、君たちは素晴らしい!」

社長「売上成績一位のライバル君に、二位の男君!」

社長「この社長表彰を励みに、よりいっそう頑張ってくれたまえ!」

ライバル「はいっ!」

男「はい……」

友人「二人とも、おめでとう!」

男(なんでだよ……なんで神様は俺を勝たせてくれないんだ!)

政治──

ザワザワ……

「次期最高権力者はだれになるだろう?」

「ライバルさんじゃないか?」

「いや、男さんも十分ありえるぜ」

ザワザワ……

男(この選挙で勝てば……俺がこの国の最高権力者だ!)

男(最後に勝って笑うのは、この俺だ!)

ワァァァァ……!

「おめでとう、ライバルさん!」

「あなたが最高権力者だ!」

「男さんも惜しかったけどな!」



ライバル「男君と友人君を側近にむかえ、これからも頑張っていくよ!」

友人「ついに国のトップになっちゃったんだね~」

男「ついに……」

男(ついに……俺はコイツに一度も勝つことができなかった……)



………

……………



男(そう……俺はいつも二番だった)

男(俺はライバルのせいで、いつも一番になれず二番だった……ッ!)

男(あれだけ頑張ったのに、一度も勝てなかったんだ……!)

男(このままこれから先の長い人生、俺はずっとアイツを支えて生きるのか?)

男(アイツの二番手として生きるのか?)

男(そんなのはイヤだ……イヤに決まってる!)

男(そんなことになるぐらいなら、死んだ方がマシだ!)

男(だったら──)

男(殺してやる……!)

男(ライバルを殺して……俺が一番になってやる!)

男(ククク、クククッ……)

最高権力者の部屋──

男「なぁ、ライバル」

男「今夜、お前と二人きりで話したいことがあるんだ」

ライバル「ボクと? ここじゃダメなのかい?」

男「ここじゃ、いいづらいから……誰もいないところで話したいんだ」

男「そうだ、この町の港なんかがいいかもしれない」

男「あそこは夜、だれもいないから……」

ライバル「分かった、いいよ!」

男(ククク……かかった!)

男(のこのこと港に現れたところを、恨みを告げてからこのナイフで刺してやる!)

男(殺したら、ドラム缶に死体を詰めて、海に捨ててやる!)

男(この辺りの海流は独特で、流れたモノはまちがいなく見つからねえ!)

男(これで俺が……一番!)

男(俺がナンバーワンになれるんだ!)

男(ハーッハッハッハッハッハ!)

港──

男(さぁ来い!)

男(早く来い!)

男(ライバル! お前のナンバーワン人生はこの港で終わりだ!)

ライバル「……やぁ」スッ

男(来た!)

男「悪いな、こんなところに呼びだしちゃって」

ライバル「いや、かまわないよ」

ライバル「ボクも、こういう機会をずっと待ってたんだ」

ライバル「君と二人きりになる機会をね」

男「?」

男「ま、いいや」

男「実は話ってのはさ……俺はずっと、お前のことを……」

男「この手で殺し──」

ライバル「なぜなら、ボクはね……」

ライバル「子供の頃からずっと君のことを、殺したかったんだァッッッ!!!」

男「!?」

男「ちょ、ちょっと待て、なにいってんだ」

男「お前は一番で、俺はいつも二番だったろうが!」

男「なんでお前が俺を殺したがるんだよ!?」

ライバル「フフフ……分からないか……」

ライバル「ま、分からないだろうな……君には……」

ライバル「絶えず背後から僅差で追われる人間の気持ちなんて、さ……」

男「え!?」

ライバル「元々、ボクは一番というものにそれほど固執してはいなかった」

ライバル「一番になるために頑張ってたわけじゃなく、頑張った結果一番になっていた」

ライバル「しかし……ボクの近い実力を持つ君という存在のせいで」

ライバル「ボクらは常にどちらが上なのかと、みんなから注目されるようになり」

ライバル「いつの間にかボクは、君に抜かれないためだけに」

ライバル「必死に努力しまくる人生を送るようになってしまったんだ!」

ライバル「いつ抜かれるか、いつ抜かれるか、という不安と恐怖を味わいながらね!」

ライバル「このプレッシャー……この苦痛……! 君には分からんだろうさァ!」

男「なにいってんだよ……だったらわざと俺に抜かれればよかったじゃねえか!」

ライバル「わざと抜かれる?」

ライバル「もちろん、何度やろうと思ったか分からない!」

ライバル「わざと手を抜いて、君に抜かれてしまえば楽になれると……」

ライバル「だけど、君から僅差の勝利を何度ももぎ取っていくうち──」

ライバル「いつしか周囲の注目は、“いつまでボクが一位でいられるか”」

ライバル「あるいは“いつ君がボクを抜くか”になっていることが分かっていった」

ライバル「負けた時に『アイツついに抜かれたか……』と皆にいわれることを考えると」

ライバル「恐ろしくて、とてもそんなことはできなかったんだッ!」

ライバル「ボクは君がずっと羨ましかったよ」

ライバル「君は一度でもボクに勝てば“悲願の勝利”“宿願達成”とかいわれて」

ライバル「持てはやされたにちがいない」

ライバル「一方、ボクは何度君に勝っても“またか”としかならない!」

ライバル「一度でも負ければ、ハイそれまでだ!」

ライバル「だから……ボクは過剰なまでの努力を続けるしかなかったんだ!」

ライバル「君さえいなければ、もっと気楽で豊かな人生を歩めたはずなのにッ!」

ライバル「君はボクの人生を狂わせた……!」

ライバル「だからわざわざ君から作ってくれたこのチャンス……逃さない!」

ライバル「今この手で殺すゥゥゥッ!」ギラッ

男(包丁!?)

男「ふっ……」

男「ふざけんな!」

男「お前に人生を狂わされたのは俺の方なんだよォ!」ギラッ

男「俺が一番だぁぁぁぁぁっ!!!」ビュアッ

ライバル「死ねえええええっ!!!」ビュアッ



ドシュッ……!

男「がはっ……!」

男(心臓を刺された、か……)

男(やっぱり俺は……最期までコイツに……勝てなかった、な……)ドサッ…

ライバル「ぐうっ……!」

ライバル(ボクも、首を切られた……!)

ライバル(先に死んだ、のは彼だが……やっぱりほとんど互角だった、な……)

ライバル(でも、これでようやく楽に……)ドサッ…

一ヶ月後──

記者「いかがですか?」

記者「親友であるお二人の死を乗り越え、この国の最高権力者となったお気持ちは?」

友人「二人が死んでしまったことはとても悲しいですが……」

友人「いつまでも嘆いてばかりはいられません」

友人「ぼくが二人の分まで頑張るつもりです」ニコッ

記者「ちなみに友人さんの好きなお言葉はなんでしょうか?」

友人「う~ん……そうですねぇ」

友人(“漁夫の利”……かな)





END

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