モバP「淀んだ瞳は何を見る」 (149)


P「……」


ガチャッ


幸子「ただいま戻りました」

P「うっ……」

幸子「良い子にしてましたかーPさん」タッタッタッ

P「さ、さち、こ……」


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チュッ


幸子「ん……ちゅっ……」

P「んぐっ……ふっ……」

幸子「ふぁっ……ぷはっ……ふふっ、良い子にしてたみたいですね」

P「はぁ、はぁ……」

幸子「じゃあ今からご飯の準備しますからちょっと待ってて下さいね」

P「さち……」

幸子「カワイイボクがPさんにおいしいご飯作ってあげますから、椅子に座ったまま我慢してて下さいね」

P「……」

幸子「えへへ……その前にもう一度」チュッ

P「んっ……」

幸子「ふー……ふー……んんっ……ぷはっ……」

P「……」

幸子「好きです……Pさん……」

P「うっ……」

幸子「……ここから出ても、ずっと……」

P「……」

P(なんで、こんな事になったんだっけ……)

P(三日くらい前に……俺は……)



――


幸子「……」

P「いやーそれでさ、凛の言った花持ってったら先方も喜んでくれてさー」

凛「本当に? 良かった」

P「いや本当に助かったよ。花の事なんて全然わからんから」

凛「私も家の手伝いしてる程度だから、あまり詳しい事はわからないけどね。でも役に立ったなら嬉しいな」

P「あぁ、凛の家の花屋さん、これからは懇意にさせて貰わないとな」

凛「ふふっ、プロデューサーも売り上げに貢献してね」

P「あぁ」

幸子「……」

ちひろ(幸子ちゃん、ぼーっとプロデューサーさん達見つめてるけどどうしたのかしら)


菜々「キャハッ☆ Pさんっ、どうですかーこの新しい衣装」

P「あぁ似合ってるよ。現役女子高生さながらだ」

菜々「えっへへーですよねですよ……チガイマス、ナナはリアルJKです! さながらじゃありません!」

P「あはは、ゴメンゴメン」

菜々「もう……で、でも似合ってますよね?」

P「とっても似合ってる。ナウいナウい」

菜々「そうですか……えへへ……あ、そうだ! 肩揉みましょうか?」

P「え、何突然」

菜々「そういう気分なんですよー、さぁさ、メイドさんのご奉仕ですよーPさん」

P「ま、まぁそれならお願いするけど……」

菜々「じゃあやりまーすっ」

P「あーそこそこ……そこ……」

幸子「……」


奈緒「な、なぁ! またこんな衣装着なきゃならないのか!?」

P「あぁ。奈緒に似合うと思って」

奈緒「似合うって……こんなまたスリット深すぎだろ……」

P「えー? でも奈緒肌も綺麗だし、露出多めにしないと」

奈緒「そ、そうかな……」

P「うん。俺はとっても良いと思うけどな」

奈緒「うっ……でもさぁ……」

P「それに恥ずかしがる奈緒の可愛い姿も見れて一石二鳥さ」

奈緒「な、何だよそれ! 結局そういうのやらせたいだけじゃねーか!」

P「ゴメンゴメン怒るなって。確かに俺の趣味も入ってるけど本当に似合ってるって」

奈緒「趣味入れるなよ……」

P「まぁでも、そんなに嫌か? それ」

奈緒「……」

P「……変えるか?」

奈緒「別に……Pさんがこれ着ろって言うなら着るけどさ……」


P「……あははっ」

奈緒「な、なんだよ」

P「いや、奈緒は何だかんだ言ってもやってくれるから頼もしいなと」

奈緒「オ、オゥ……まぁ、無碍にするのも悪いしな……」

P「そうかそうか」

奈緒「それに、そんなストレートに褒められるとなんか……」

P「なんか?」

奈緒「あっ、いや、何でもないっ! と、とりあえず衣装はこれで良いからな! じゃ!」

P「お、おい。衣装着たまま何外に出ようと……」

幸子「……」


ちひろ「……」

幸子「はぁ……」

ちひろ「幸子ちゃん?」

幸子「……あっ……な、何ですかちひろさん」

ちひろ「いや、幸子ちゃんが何だか元気なさそうだったから……」

幸子「……そう見えますか?」

ちひろ「えぇ……溜息までついてたけど大丈夫?」

幸子「……別に、大丈夫ですよ」

ちひろ「本当に? 何か困ってるなら相談に乗るから、ね?」

幸子「えぇ……」

ちひろ「……」

ちひろ(上の空……視線を動こかそうともしない)

幸子「……」


凛「ふふっ、それ本当?」

P「それが本当なんだよ信じられるか? だから……おっともう時間だ」

凛「ん……本当だ。じゃあ私レッスン行ってくるから」

P「あぁ頑張ってこいよ。よし、幸子ー」

幸子「っ! な、何ですかPさん」

P「仕事の時間だ、行こう」

幸子「は、はい! 行きましょう!」

ちひろ(……プロデューサーさんに話しかけられて何だか幸子ちゃんが元気になったみたいだけど……)

ちひろ(ふふっ、何だそういう事だったの)

ちひろ「やきもちかぁ……幸子ちゃんも恋する乙女、でしたか……」


……



「はーいお疲れ様でしたー」

幸子「お疲れ様でした」


タッタッタッ


幸子「Pさん!」

P「よーう幸子、お疲れ」

幸子「どうでしたかボクのお仕事ぶりは? ちゃんと見ていてくれましたよね?」

P「あぁ見てたさ。今日は一段と可愛かったぞ」

幸子「ふ、フフーン、そりゃそうですよ。ボクはお仕事をしてる姿もカワイイので!」

P「あぁ、その通りだな」

幸子「……えっと、じゃあ楽屋に戻りましょうか」

P「そうだな」

D「おーいP君!」

P「あ、ディレクターさん。ゴメン幸子、ちょっと仕事のお話ししてくるから先行っててくれ」

幸子「……わかりました」

P「悪いな、戻る時に飲み物でも買ってくるから」

幸子「はい、じゃあまた後で」


イヤースミマセン
イヤイヤイインダイインダ、ソレデサッソクジカイノケンナンダケド


幸子「……」



スタスタ
ガチャッ バタンッ


幸子「……はぁ」

幸子(最近Pさんとまともにお話しできてないなぁ……)

幸子(お仕事が増えたせいもあるけどそれ以上に……)

幸子(前まではボクと凛さんだけの担当だったのに、最近は二人も増えて……)

幸子(……)

幸子(確かに他の皆さんも綺麗だし良い人達だけど……)

幸子(でも、ボクの方がカワイイのに……)

幸子(ボクの方が……)

幸子「……」

幸子(邪魔だなぁ……)



ガチャッ


P「いやぁ幸子、お待たせ」

幸子「あ、Pさん……全く遅いですよ」

P「悪い悪い話し込んじゃった。ほら、ココアで良いか?」

幸子「少々体を動かすようなお仕事の終わりにココアって……」

P「あはは、冗談冗談。ほら水、ココアは俺のー」

幸子「全く……最初からそっちを出して下さいよ子供じゃあるまいし」

P「いや、もしかしたら本当に飲むかと思って。しかしお疲れ幸子。今日の仕事もちゃんとよく出来てた」

幸子「当然ですよ、このカワイイボクがするお仕事なんですからよく出来てて当然です」

P「あはは、そうだな。最近幸子の人気もうなぎのぼりだし仕事もちゃんとこなすし言う事無いよ俺は」


幸子「そうですかそうですか。しかしあれですね、言葉だけで褒められるのも味気ないと言うか」

P「えぇ?」

幸子「ほら、口だけじゃなく何か御褒美という形で褒めてくれないと。全く女性の扱い方は相変わらずですね」

P「あぁ確かに……えっと、じゃあ何が欲しい?」

幸子「それくらい自分で考えてみて下さいよ……でもまぁ、そう聞くのならそうですねぇ……」

P「何でも言ってくれ。あ、俺のできる範囲の事でお願いな?」

幸子「……じゃあ、今度のオフ服を買いに行きたいのでそれについて来て下さい」

P「買い物か……えっと、オフ一緒の日……だったな。じゃあいいぞ」

幸子「ほ、本当ですか?」

P「あぁ。俺も家じゃやる事ないしちょうど良い。お供させて頂きましょうかー」

幸子「……ふ、フフーン! まぁどうしてもお供したいというのならしょうがないですね!」

P「幸子がついて来いって言ったんじゃないか」

幸子「細かい事は良いんですよ。じゃ、じゃあ今度のオフは絶対に開けておいて下さいね!」

幸子(ふふっ、Pさんと久しぶりに二人きりで……)


P「わかったわかっ……あっ」

幸子「どうしたんですか?」

P「あぁー……ゴメン、先約があったわその日」

幸子「え……」

P「ちょっと凛とな……先に約束していたというか……」

幸子「……」

P「スマン、幸子。次のオフには有給でも取って合わせるから」

幸子「次のオフって……有給間に合うんですか?」

P「……ゴメン、もっと後になる」

幸子「はぁ……わかりました。じゃあボクは次で良いですよ!」ガタッ

P「お、おい幸子。どこ行くんだ」

幸子「少し化粧室に行ってきます!」ガチャッ



バタンッ


P「……」



幸子「……やっぱり、邪魔です」

幸子(Pさんは、ボクのプロデューサーなのに……)


――


幸子(それからも……)

幸子「あ、Pさ――」

凛「ねぇプロデューサー、昨日プロデューサーが買ってくれたヤツ、お母さんも気に入ってくれたよ」

P「本当か? そりゃあ良かった。いや俺も色々悩んで選んで良かったよ」

凛「ふふっ、プロデューサーは人の好みとかよく覚えてるから当然と言えば当然だけど」

P「まぁそういう事は覚えてたり、察しないとこういう職業はできませんからねー」

凛「そうかもね。あ、お母さんがプロデューサーにありがとうだって」

P「こちらこそ、あとついでに娘さんを休み無く引っ張り回して申し訳ないと言っておいてくれ」

凛「ふふっ、わかった」

幸子「……」


……



幸子「Pさん!」


ガチャッ
ダダダッ


菜々「PさんPさん! ナナの新曲が出来たって本当ですか!?」

P「おぉ菜々、本当だよ」

菜々「本当に……本当ですか!」

P「本当に本当に」

菜々「本当に……本当に……」ポロポロ

P「お、おい菜々」

菜々「Pさーんっ!」ダキッ

P「うわっ」

菜々「アイドルになれて、良かった……憧れ続けて、良かった……私、うれしいです……」

P「……菜々」

菜々「うれしいです~!」

P「……あぁ、良かったな菜々。これも菜々が頑張ってきたからだ」

菜々「うっ……うぅっ……」


幸子「……良かったですね、菜々さん」

P「お、ほら幸子もおめでとうって言ってくれてるぞ菜々」

菜々「さ、幸子ちゃん……ありがとぉ~……」

幸子「……えぇ。ちょっとボク、外出てきます」

P「え? あぁじゃあすぐ戻ってくるんだぞ、もう暗いからさ」

幸子「わかってます」


ガチャッ バタンッ


幸子「……」

幸子(ボクがCDデビューした時は、あんな風に抱きしめてくれなかったのに……)



……


幸子(はぁ……今日も学校から一人で事務所に……)

幸子「……ん? あれは……」

奈緒「えっと、Pさん……今日はなんか悪かったな」

P「いや、奈緒の学校は事務所から歩いていける距離だし、たまにはこういうのも良いかと思ってさ」

奈緒「へへっ……まぁ確かにな」

P「奈緒の制服姿、結構見てるはずだったけど学校を背景に見るとなんかあれだな、新鮮だった」

奈緒「そ、そうか?」

P「うん。可愛かったぞ」

奈緒「バッ……カッ、何言ってるんだよいきなり!」

P「え、いきなりだった?」

奈緒「こ、ここ外だぞ!? どこで悪徳な記者とかが聞耳立ててるかわからないのに……」

P「大丈夫、今の声量で聴き取れたらそりゃ化け物だよ。それに可愛いものに対して可愛いと言っても別に誰からも怒られないだろ」

奈緒「……な、なんでそんな事面と向かって言えるんだよ……」

P「褒めるのが俺の仕事の一つ。そういう事は全く忌憚しないようにしてるから」

奈緒「き、キタン?」

P「遠慮しないって事だ。ほらほらもう事務所ついたぞ。さっ、お仕事行こうか」

奈緒「……わかったよ、ったく……へへっ」




幸子「……」




――


幸子「……」

凛「ふふっ、それ本当なの?」

P「本当だって。普通信じられないけどさこれがマジもマジなんだ」

幸子「……」

「どうしたの幸子ちゃん」

幸子「……」

「……幸子ちゃん?」

幸子「……あ、はい何ですかまゆさん」

まゆ「どうしたの? 元気無いみたいだけど」

幸子「……平気ですよ」

まゆ「……嘘」

幸子「え?」

まゆ「幸子ちゃん、幸子ちゃんのプロデューサーさんをじーっと見つめてたから、それは嘘」

幸子「……」


まゆ「あの人が好きなの?」

幸子「……」

まゆ「じーっと見つめてたのは、あの人が他の子と話してるのを見ると何だか胸がざわつくから。
   何かしたいけど楽しそうなあの人の邪魔はできない。だから眺めるしかない。違う?」

幸子「……」

まゆ「ふふっ、私も幸子ちゃんみたいに焼きもち焼きだからわかるの」

幸子「……ボクの……」

まゆ「?」

幸子「ボクの……プロデューサーさんなんですよ……あの人は」

まゆ「……そうね。最初は幸子ちゃんと凛ちゃんの担当だったのよね?」

幸子「はい……凛さんは最初、素っ気ない態度でPさんに当たって……だから、ボクがPさんと一緒にいる事が多くて……」

まゆ「うん」

幸子「まだお仕事の少ない頃は一緒に買い物に行ったり、沢山お喋りしたりしてたのに……」

まゆ「うん」

幸子「でも、お仕事が増えてからは凛さんが急にPさんと仲良くなり始めて……」

まゆ「少しPさんといれる時間が減ってしまった」

幸子「はい……」


まゆ「そう……でも幸子ちゃんはそれくらいは我慢できたんじゃない?」

幸子「それは、そうですけど……でも……」

まゆ「担当する子が増えた」

幸子「……」

まゆ「あの二人が担当に増えちゃって、しかも二人はPさんに相当懐いてる」

幸子「……」

まゆ「もしかしたら少しは恋愛感情だって抱いてるかも……」

幸子「そっ、そうなんですか?」

まゆ「あ、ごめんなさい。幸子ちゃんの立場になって色々推測してるだけだからそこまでは……」

幸子「そ、そうですか……」

まゆ「……」

幸子「……」


まゆ「ねぇ幸子ちゃん」

幸子「何ですか」

まゆ「私ね、時々変な事を考えちゃうの」

幸子「え?」

まゆ「好きな人を、自分だけのものにする妄想」

幸子「……自分、だけ?」

まゆ「えぇ。好きな人を私だけしか見れないようにして、まゆのものだけにして……まゆの事だけが好きで……」

幸子「……」

まゆ「」

幸子「……例えば?」

まゆ「そうね……部屋に監禁したいだなんて事も……その逆とか……」

幸子「……監禁……」


まゆ「……あっ、えっと、今のはナシね? ちょっと過激過ぎたから……」

幸子「……」

まゆ「えっと……普通に二人だけでデートしたり、そういう事を考えて……」

幸子「……」

「おーいまゆー?」

まゆ「あ、はぁい。まゆは今行きますよぉ」

幸子「……」


まゆ「……ごめんなさい幸子ちゃん。さっき言った事は忘れて? 私の、ただの妄想、願望だから」

幸子「……」

まゆ「でも、応援するから。頑張ってね幸子ちゃん」

幸子「……はい」


ウフフ、オマタセシマシタァ
ジャアイコウカ
ハイッ


幸子「……」


――


幸子「……」ボーッ

母「幸子?」

幸子「……」

母「幸子」

幸子「……ん、何? お母さん」

母「食欲無いの? 全然お箸が進んでないから……」

幸子「え? う、ううん……そうじゃないけど……」

母「アイドルのお仕事で疲れちゃったの?」

幸子「えっと……うん、そんなところ」

母「そう……無理しないでね? 幸子がアイドルのお仕事が楽しいって言うから、あまり口出しはしてないけど……。
  最近忙しくなってきてるからお母さん心配で……」

幸子「大丈夫。無理はしてないから」

母「……本当に?」

幸子「本当に大丈夫だよ……」

母「……それにね、最近いつも幸子が話してくれるプロデューサーさんのお話も聞かなくなっちゃったから……」

幸子「……」

母「何か、プロデューサーさんとあったの?」

幸子「……何にもない」

母「……そう」

幸子「……」


幸子(……一人……この家に……)

母「あ、そう言えば幸子」

幸子「何?」

母「来週からお母さん、お父さんの所に行かないといけないのだけれど……」

幸子「アメリカに?」

母「うん……どうしても来て欲しいって言われて、突然だけどね……」

幸子「……そう」

母「でもその間どうしましょう。一週間近くも幸子を一人にできる訳ないし……アイドルの仕事も休めないわよねぇ……」

幸子「……一人で大丈夫だよ。もう中学生になったしそれくらい」

母「でも……あ、じゃあ妹に話をつけて数日こっちに泊まって貰いましょうか」

幸子「大丈夫。一人でいれる。ご飯はどうせ外で食べるし、掃除もするから」

母「でも……」

幸子「大丈夫って言ったら大丈夫なの」

母「……わかったわ。あ、じゃあプロデューサーさんにお電話して幸子の事気にかけて貰うようにお願いしておこうかしら」


幸子「もう……Pさんは先生じゃないんだから……」

母「それもそうね……ごめんなさい、お母さん不安で……」

幸子「……じゃあ来週から一週間、一人で留守番するから」

母「な、何かあったら連絡してね? ううん、毎日連絡してね?」

幸子「わかってる……」

幸子(……来週から、この家はボク一人……)

幸子(ボク一人……)

幸子「……」


――

今回はこの辺で

美世は
モバP「とても長い三日間」
杏は
杏「ねぇプロデューサー、おやすみしようよ」

だと思う
今回は幸子が病むのもやむなしな状況だよなぁ……
>>1の書く幸子はカワイイし期待


母「じゃあ行ってくるわね幸子」

幸子「うん」

母「今日は学校とお仕事?」

幸子「うん。明日は休みだけど」

母「そう。あ、あっちに着いたら連絡するから必ず出てね? それと……」

幸子「それと毎日連絡する、わかってるよ」

母「……本当は幸子一人にしたくないのよ。やっぱり今からでもうちの妹に連絡して……」

幸子「本当に大丈夫だって……ほら、お母さん。早くしないと飛行機の時間に間に合わなくなっちゃうよ」

母「……はぁ。わかったわ。まぁでもプロデューサーさんには注意して見て欲しいとは言っておいたから……。
  プロデューサーさんは事務所に泊まっても良いって言ってたわ。仮眠室もあるし、プロデューサーさんも一緒に事務所に泊まって良いって」

幸子「へぇ……」


母「まぁプロデューサーさんなら安心して預けられるけれど……あぁでもやっぱり……」

幸子「ほら、時間見てよお母さん」

母「……あっ、いけない。じゃあ行ってくるから、何かあったら何時でも良いから電話するのよ」

幸子「うん」

母「本当に連絡してね?」

幸子「何度も言わなくてもわかるよ……」

母「じゃあ行って来ます」

幸子「行ってらっしゃい」

幸子「……」

幸子(ボクも、そろそろ準備しよう)


……



トレーナー「はい、じゃあ今日はここまでです」

幸子(ふぅ……レッスン終わり……)

トレーナー「幸子ちゃん、お疲れ様」

幸子「はい、お疲れ様です」

トレーナー「幸子ちゃん」

幸子「何ですか?」

トレーナー「なんだか最近、元気が無いみたいだけど……何かあった?」

幸子「……いえ、別に無いですよ。ただ最近は仕事も増えたので疲れが溜まってるのかも知れません」

トレーナー「休みはキッチリとって……というのは難しいかも知れないけど、なるべくそういう所を意識するようにしてね?
      休む事もアイドルのお仕事だから」

幸子「……はい。ありがとうございます」



ガチャッ


P「幸子ー?」

幸子「あっ、Pさんっ」

P「おうお疲れ。見てたぞー幸子のレッスン姿。なんか久しぶりに見た気がするけど。あ、トレーナーさんもお疲れ様です」

トレーナー「はい、お疲れ様です」

P「幸子。お母さんから話は聞いてるよ。一週間一人で留守番するって?」

幸子「は、はい」

P「そっか……まぁお父さんが単身赴任じゃそういう事もあるか……」

幸子「えぇ、まぁもう慣れましたけどね」

P「そうか……まぁ俺に出来る事ならなんでも言ってくれ。一人が心配なら事務所に泊まって良いからさ。
  その時は俺も一緒に泊まるから」

幸子「ほ、本当ですか?」

P「あぁ。俺も幸子を一人にするのは心苦しいしな」

幸子「……ふ、フフ-ン! そ、そんなにボクと一緒にいたいならしょうがないですね!
   なら特別にボクと泊まる事を許可してあげますよ! どうです嬉しいでしょう!」

P「あはは、まぁそうだな。うん」

幸子「この心優しくそしてカワイイボクと一緒にいられる事を感謝して下さいね」

P「あはは、はいはい。さてとりあえず今日はどうする? もう仕事無いし、泊まりの準備でもしとくか?」

幸子「そ、そうですね。じゃあ一緒に買い物にでも……」


凛「……二人共何の話してるの?」

奈緒「泊まり? なんかやるのか?」

P「おっと、何だ凛と奈緒か。お前らもレッスン終わったのか」

凛「うんまぁね。というか、幸子ちゃんと泊まるってどういう事?」

幸子「……」

P「あぁ。幸子のお母さんが単身赴任中のお父さんの所に行っちゃって、今家に一人でいなきゃいけないんだと」

凛「ふーん……」

P「それで一人にするのは心配だから事務所に泊まるって話をしてたんだ。おわかり?」

奈緒「あぁ……まだ中学生だもんな」

P「そそ、だから保護者役やってくれっていう事」

凛「そういう事なら……私も泊まろうかな」

P「はい?」

幸子「え?」

奈緒「えぇ?」


凛「だって何だかプロデューサーと若い娘を一緒にするのって心配だし」

P「えーなんで心配なのさ」

凛「それは……ねぇ奈緒」

奈緒「えぇ? ま、まぁ……若い男女を一緒にするなってよく言うし……」

P「おいおい、そんな信用無いのかよ俺」

凛「だから数人で泊まれば問題無いでしょ。それになんか事務所に泊まるって何か楽しそうだし」

奈緒「そっちが本音だろ」

凛「ふふっ、まぁね」

P「何? じゃあ凛と奈緒も泊まるの? お泊り会でもするの?」

奈緒「何でアタシまで数に数えてんだよ」

凛「良いじゃん、多い方が楽しいって。あ、じゃあ加蓮と卯月と未央も呼ぼうか」

P「うーん……それだったら俺いらないような……むしろ女性ばっかの所に男一人って気まずいしなぁ」

凛「それ今更じゃない? この事務所男女比圧倒的に女の方が多いんだから」

P「まぁねぇ……あ、じゃあ俺の代わりの保護者っていう事で菜々……ちひろさん呼ぼうか」

奈緒(何で今菜々の名前出したんだ? というかアタシが泊まるのは決定事項なのか?)


凛「別にいいけど……プロデューサーがいた方が面白いと思うと私は思うな」

P「あーそう?」

凛「うん」

P「まぁ事務所で泊まるんだったら……どっかからとやかく言われたりしない、かな?」

凛「大丈夫じゃない?」

P「あぁそう……じゃあ幸子。今日は皆でお泊り会だな」

奈緒「じゃあ映画か何かの観賞会でもするか?」

凛「近くでなんかDVDでも借りてこよっか」

幸子「……」

P「……あれ、幸子?」

幸子「……やっぱりボク、家で寝ます」

P「え、えぇ? どうして?」


幸子「……別に、一人ででも大丈夫ですから」

奈緒「お泊まり会来ないのか?」

幸子「えぇ……皆さんだけで楽しんで下さい。一人だけで生活するって言うのも、良い経験になるでしょうから……」

P「……それじゃなんかお泊り会の存在が本末転倒な感じになるんだが……」

幸子「別にお泊り会はすれば良いじゃないですか」

P「……でもなぁ、お母さんによろしく言われてるしお前を一人にするのはいささか……」

幸子「ボクは一人で大丈夫です。Pさんのおせっかいは結構ですので。ではボクはこれで」

P「お、おい? 幸子どこ……行っちゃったよ」

凛「……追っかけた方が良いんじゃない?」

P「あ、あぁ。そうだな」


タッタッタッ


奈緒「……何で幸子は急に帰っちゃったんだ?」

凛「奈緒ならわかるんじゃない?」

奈緒「な、何でアタシが」

凛「何となく行動が似てるっていうか……まぁ今のは私が空気を読んでなかったのがいけないみたいだったけど」

奈緒「? ……まぁ、何か悪い事したなら謝っとけよ」

凛「うん、わかってる」

凛(……お泊り、ね……)



……



幸子「……」ガサゴソ

幸子(やっぱり、ボクより他の人の方が大事なんだ……)

幸子(なんでっ……ボクの……ボクのプロデューサーなのに……)

P「幸子ーっ!」

幸子「……」

P「おい幸子、どうしたんだよ急に」

幸子「……」ガサゴソ

P「幸子」

幸子「うるさいですよ……」

P「え?」

幸子「ボク以外の人と楽しんでたら良いでしょう!」

P「な、何だいきなり……」

幸子「いっつもいっつも凛さん奈緒さん菜々さんとばっかり話をして!
   ボクの事は無視して他の人とばかり楽しんで……」

P「……」


幸子「はぁ……帰ります」

P「お、おい」

幸子「どいて下さい」ドンッ

P「うわっ」


スタスタスタ
ガチャッ バタンッ


P「……幸子」



――



幸子「……」カチャカチャ


ソレデハアシタノオテンキデス
アシタハカントウゼンイキデハレマトナリ、アタタカイヒトナルデショウ
デハツギニ……


幸子「……ごちそうさまでした」

幸子「……」

幸子(一人って……寂しいな……)

幸子(いつもと同じ家なのに、暗く感じる……)

幸子(……お皿洗おう)


ピピピピッ


幸子(……メールと電話……さっきから何件も来てる)

幸子(……あんな風にPさんと別れて来ちゃったから……メールを見るのが気まずい……)



ザー
カチャカチャ


幸子「……はぁ」

幸子(……わからない)

幸子(ボク……何でこんな苦しいんだろう……)

幸子(……痛い……)

幸子「……ひっ……うっ……くぅ……」ポロポロ


ピピピピッ


幸子「なんでっ……なんでっ……」


ピピピピッ


幸子(……さっきから携帯が鳴りっぱなし……ずっと……)

幸子「……ぐすっ……」

幸子(そろそろ……出ようかな……)



ピッ


幸子「……もしもし」

P『もしもし? あぁ良かった……やっと出てくれた』

幸子「……何ですか」

P『すまなかった』

幸子「……」

P『いや、最近の自分を顧みてみたんだけどさ……そう言えば幸子に全然構ってやれてなかったなぁと思ってさ』

幸子「……」

P『……ごめん。他の子も幸子みたいに売れ始めてちょっと有頂天というか、舞い上がってた。
  菜々はCD出したりして忙しくなって……仕事にかまけて幸子の事を疎かにしてた』

幸子「……」

P『あぁでもその……はぁ……悪かった。幸子は何と言うか、いつもそっちからぐいぐい来てくれるから、
  別にほっといても良いだろとか多分……思ってたんだと思う』

幸子「……そうですか」

P『……ごめんな』

幸子「……わかってくれたなら、良いです。ボクの方もあんな風に怒ってすみませんでした」

P『……そっか。俺の方こそごめんな?』

幸子「……じゃあボクはもう寝るので、これで」


P『あっ……な、なぁ幸子』

幸子「何ですか」

P『今からそっち行っちゃ駄目か?』

幸子「え……今から、ですか? お泊り会はどうするんですか」

P『行かない事にしたよ。まぁ泊まり会自体はやる事にしたみたいだけどな』

幸子「そ、そうですか」

P『……駄目か? お詫びの意味も込めて飯でも一緒に……寝る時間までは一緒にいてやれるしさ』

幸子「ご飯はもう食べちゃいましたよ」

P『あ、そ、そうだよな。こんな時間だし……』


幸子「……えっと、じゃあ」

P『ん?』

幸子「明日はどうです?」

P『明日?』

幸子「はい。明日はボクも休みですので……」

P『明日……明日は……あぁ、俺も定時には帰れるし明日にするか』

幸子「そうですか。じゃあ明日、お仕事が終わる頃にボクが事務所に行きます」

P『わかった。じゃあ……明日、な』

幸子「はい」

P『本当にごめんな。その……明日はちゃんと、幸子だけを見るからさ』

幸子「……」

P『……じゃあおやすみ』



ピッ


幸子「……」

幸子「……ボクだけを……見る……」

幸子「……」


『そうね……部屋に監禁したいだなんて事も……その逆とか……』


幸子(……手に入れたアレ……どうしよう)


――


P「よう幸子」

幸子「お仕事お疲れ様です。もう終わったんですよね?」

P「あぁ、ちゃちゃっとな。でも事務所までわざわざ来なくてもこっちから行ったのに」

幸子「良いじゃないですか別に。それに……こっちから来た方が長く遊べるじゃないですか」

P「……まぁそうだな。それで、今日はどうするんだ?」

幸子「どこに泊まるか、ですか?」

P「あぁ。事務所に泊まるなら俺も泊まるけどさ。あ、俺は事務室のソファで寝るから心配しなくていいぞ」

幸子「……Pさん」

P「んー?」

幸子「今日、ボクの家に来ませんか?」

P「幸子の家? 何で」

幸子「ほら、Pさんは今日から一週間の間ボクに付きっきりになって貰う約束でしょう?」

P「いや、よく見ておいてくれとは言われたけど付きっきりとは……」

幸子「付きっきりですよ。で、ボクは今日自分の家で寝たいんです」

P「はぁ」

幸子「だから、Pさんもボクの家に泊まりましょう」

P「いやぁ……それは色々と問題あるだろ」


幸子「同じ部屋に泊まる訳じゃないんですから良いでしょう別に。客人用の部屋もありますから」

P「いや、一つ同じ屋根の下で寝るっていうのがさ、あれじゃないか?」

幸子「じゃあ今日ボクどうすればいいんですか。どこで寝れば良いんですか」

P「いや、だから事務所で……」

幸子「ボクは今日家で寝たいんです」

P「えー」

幸子「……この前オフに一緒に出掛けるって言ったのに結局出掛けられて無いんですけど、
   それはどうなんですかね」

P「うっ……」

幸子「最近Pさん……ボクに対して冷たいですし、昨日も良い感じにほったらかしにされましたしね」

P「……」

幸子「……それにボク以外の人ばっかり見てるじゃないですか」

P「……はい。面目無い」

幸子「奈緒さんと凛さんと菜々さんばっかり構って……」

P「わかったわかりました。幸子の言う通りにします」

幸子「……じゃあ」

P「……一日だけな」


幸子「ふふっ。あ、じゃあ買い物して行きましょう。色々買いたいものもありますし」

P「料理でも作るのか?」

幸子「えぇ。それくらい出来ますよ」

P「へえー驚いた。出来るのか」

幸子「むっ、何だかその言い方は気に入りませんね」

P「あ、いや、すまん。他意は無いんだ」

幸子「全く、このボクの手料理が食べられるんですよ? もっと喜んでも……まぁ良いですけど」

P「えっと、それで? 何作るんだ?」

幸子「カレーでも作ろうかと」

P「あぁ良いなぁ。最近カレーって言ってもレトルトばっかだったからそれが良い、それが良いよ」

幸子「ふふっ、まぁせいぜい楽しみにしておいて下さい」

P「よし。じゃあ車取りに行ってスーパーに行くかぁ……行こう幸子」

幸子「……はいっ」

幸子(……ふふっ)


……



ガヤガヤ


P「えぇーとー? 肉、にんじん、玉ねぎ、馬鈴薯、ルー……全部あるな」

幸子「ば、ばれいしょ?」

P「ジャガイモの事。まぁカレーの材料はこれで良いか」

幸子「何でそんな難しい……まぁ良いです。次はつけ合わせのフルーツサラダの材料ですね」

P「フルーツサラダ……缶詰?」

幸子「そんな訳ありますか。ちゃんと材料から作ります」

P「はいはい。じゃあどうする? 桃とみかんと、あとサクランボかな?」

幸子「あとヨーグルトもですね」

P「成程。あ、これでどうヨーグルト。日本人向けだってさ」

幸子「えぇ、それで結構ですよ」


P「桃とさくらんぼ、あとみかんか」

幸子「みかんは後ろの方が少しふくれてる物を選んで下さいね」

P「わかった……しかしよく知ってるな良い物の選び方なんて」

幸子「最近はアイドルが料理する番組とか増えてますからね。それくらいの能力を培わないと」

P「ほー……偉いな幸子。プロ意識高いじゃないか」

幸子「ふふっ、まぁ当然ですよ」

P「よーしじゃあこれで良いかな。どう?」

幸子「うーん……良いですね、これにしましょう」

P「材料揃ったし最後にお酒……はやめておこう。あ、飲みものは?」

幸子「飲み物、そうですね……このジュースでも買っておきましょうか」

P「よし、決まりかな」

幸子「じゃあレジに行きましょうか。余計なもの買っても重いだけですし」

P「はいはい」



ピロリロリロ
アリガトーゴザイマシター


P「よっと……二人分だから大した量にはならないと思ったけど中々重いな。
  まぁ全てはこの2Lのペットボトルが原因かな」

幸子「弱音吐いてないでちゃっちゃと運んで下さい」

P「はいはい……まぁこのくらいの荷物全部一人で持てるさ」

幸子「……」

幸子(あっ……)

幸子(久しぶりにPさんと二人きりになれたんだから手の一つでも握れば……)

幸子(……Pさんの両手がふさがってるから手を繋いで歩けない……)

幸子「……Pさん」

P「ん?」


幸子「えっと……やっぱり片方持ちましょうか?」

P「え? いいよいいよ。どっちも重いからさ」

幸子「重いから持つって言ってるんですよ」

P「えー? でもいいよ。女の子に持たせるというのは、なんだか俺の気が引けるし」

幸子「……でも両手がふさがってたら……あれじゃないですか」

P「あれ?」

幸子「……もう、鈍いですね」グイッ

P「お、おい。俺が持つって」

幸子「いいから」

P「……」

幸子「ふんっと……確かに重いですね」

P「おい……」

幸子「……」スッ

P「……何だ?」

幸子「ほら……女の子が手を差し出してるんですからその……わかるでしょう?」

P「……あぁはいはい」



ギュッ


P「これで良いのかなマドモアゼル」

幸子「……まぁ、良いですよ。というか何ですかその臭い台詞」

P「ドラマで見たの。というかなんだ、手を握りたいなら最初からそう言ってくれればいいのに」

幸子「そ、そういう事は言われなくても察して下さい」

P「はいはいゴメンゴメン。でも重くて無理だと思ったらその荷物俺に返せよ?」

幸子「大丈夫ですよこれくらい。これでもレッスンで鍛えてる体なんですから」

P「まぁそれもそうか。でも無理はしないでくれな」

幸子「……はい」

P「よし、じゃあ車に戻ろう」

幸子「はい」


P「今日はカレーだー」

幸子「……」

幸子(手を握るのも久しぶりかな……)

幸子「……えへへ」

P「ん、どうした」

幸子「何でもないですっ」

P「……そっか」

幸子「……ふふっ」



……



ブロロロロ……


P「何か幸子の家に行くのは久しぶりな気がするな」

幸子「そうですね。でもまぁ、ボクの活動報告とかでしか来ないから当然と言えば当然ですけど」

P「そうだな」

幸子「もっと家に来ても良いんですよ? お母さんもPさんは気に入ってくれてるみたいですし」

P「えぇー? まぁ気に入られてるのは悪い気はしないけど、俺もそこまで暇じゃないからな」

幸子「むぅ……じゃあお仕事が無くなればもっと家に来てくれるんですか?」

P「仕事が無くな……いやぁどうだろうな。俺は仕事減らすつもりないし」

幸子「じゃあ……担当が減れば来てくれますか?」

P「担当……いや別に今の担当人数で手に余る訳じゃないしなぁ。休みもちゃんと貰えてるし」


幸子「……じゃあその休みに来てくれれば良いじゃないですか」

P「いやいや……そういう問題じゃないんだけどな……その、何と言ったらいいか……」

幸子「……その休みも、他の三人と一緒に過ごすからですか?」

P「……まぁ、そういう時もあるな」

幸子「……ボクとは一緒にいてくれない癖に」

P「あぁ……それは悪かったよ。だからこうして幸子の家に行くっていう我儘をちゃんと聞いてるだろ?」

幸子「ボクは我儘のつもりで言ったつもりは無いです」

P「ま、まぁ……俺が幸子をほったらかしにしてたから、願いを聞くのは当然か」

幸子「そうですよ」

P「……すみません」

幸子「謝るくらいならボクとの時間をもっと取って欲しいんですけど」

P「はい善処します……よーし着いたぞー」


幸子「本当にわかってるんですかね……ちょっと待ってて下さいね。今駐車スペース開けるんで」ガチャッ

P「お、おう」

P(幸子の家は一軒家で、何と言うかまぁ、一言で言うならブルジョワって感じの家だ)

P(駐車スペースも二代分あるし、シャッターまで付いてる)

P(……俺もこんな家住んでみたいなぁ……いや、俺じゃ持て余すかな)

幸子「はい、良いですよ。ほらぼーっとしてないで車を車庫に入れて下さい」

P「お、おう。えっと車は来てないよなー……」

幸子「……」

幸子(……本当に……ボクはするの?)

幸子(Pさんの迷惑になるのに……)

幸子(でも、こうでもしないと……きっと……)



……



トントン パッパッ
ジャー グツグツ


P「へー、中々慣れた手つきじゃないか」

幸子「ふふっ、まぁこれくらいなら軽いもんです。というかPさんも口ばかり動かしてないで桃の皮を剥いて下さい」

P「あ、はいはい。まぁ俺は包丁じゃなくピーラーだけど……」

幸子「しかし情けないですね。皮ぐらい包丁で剥いたら良いのに」

P「手先が絶望的に不器用なんだよ……料理はやれと言われたらレシピ見ながらだったら出来るだろうけどこういう作業は……」

幸子「まぁそれは知ってますけど。一回炒めて煮こんで……そうですね、後はルーを入れるだけって所でしょうか」

P「肉を炒めてる時点で結構良い匂いしてたから俺もう腹減ってきちゃったよ。
  煮こむのってどれくらいかかりそう?」

幸子「最低でも一時間くらいかけたいですね」

P「そんなにかぁ……お腹もうペコペコだよもっと時間短くできない?」

幸子「できると言えば出来ますけど……でも時間をかけた方がおいしいですよ」

P「まぁそりゃそうなんだが……」


幸子「じゃあ煮こんでる間にお風呂でも入ってきたらどうですか?
   どうせもうPさんがやってる果物くらいしか料理は今やる事ないですし」

P「あぁ……じゃあそうさせて貰おうかな。よし、じゃあこれ終わったら風呂入るわ」

幸子「客間の奥の扉がお風呂場になってますからね。外じゃありませんよ中ですよ」

P「うんわかってる」

P(しかし、俺からすると客間に専用の風呂が付いてるってのが既に信じられないんだよなぁ。
  まぁさすがはお嬢様のお宅と言った所か)

幸子「出てきて適当にのんびりしててくれればその頃にはカレーが出来てると思いますよ。
   出来たら呼びに行きますから」

P「んー。よし、皮むき終わり。じゃあ適当に切ってと……終わり。じゃあシャワー浴びてくるわ」

幸子「はい。ごゆっくり」


スタスタ


幸子「……ふふっ」

幸子(何だか……こうしてると夫婦みたいですね……)

幸子(……Pさんと夫婦かぁ)

幸子(……ボクは何を考えてるんだろ)

幸子「はぁ……」


幸子(でも、そうなったら……ずっと一緒にいられる……)

幸子「……」

幸子(ずっと一緒……ボクだけの……)


グツグツ


幸子(……)


ブクブク


幸子「……はっ」

幸子(ついぼーっと……あ、ひ、火が強すぎて少し焦げてる……)

幸子「……」

幸子「はぁ……」

幸子(これくらいなら……混ぜれば何とかなりますかね)

幸子「……」


……


幸子「……そろそろ良いですかね」

幸子(えっと味見をして……)

幸子「うん……大丈夫ですね」

幸子(もうPさんがお風呂に行ってから40分は経ったはずですから……呼びに行きましょうか)


トテトテ


幸子(シャワーだけって言ってましたし、もう上がってますよね?)

幸子(ノックして……)


イヤーキョウカレーナンダヨ


幸子(……Pさん……誰かと喋ってる?)

幸子(……ちょっと誰と話してるのか聞こう)



P「案外幸子料理できるみたいでさ。まぁあぁ見えてしっかりしてる所あるしできるのも不思議じゃないんだけど。
  結構張りきって作ってたから量あってさ。こりゃ明日の朝もカレーだなーなんて」

P「ん? いや今日は泊まるけど明日はさすがにな。そう連日で泊まってたら変に思われるし」

幸子(……明日?)

P「大丈夫だって。別に明日の約束すっぽかすつもりは無いよ。俺もあそこの店で久しぶりに飯食べたかったし」

幸子(……この一週間はボクと一緒にいてくれるはずなのに、なんで他の人と約束なんか……)

P「んー……まぁ長引かなければなぁ収録が。終わり次第行けば大丈夫だろ、多少混んでるかも知れないけど」

P「あはは……いやでもさ、他のヤツ誘っても別に良いんだぞ? 明日大体その時間に仕事終わる子は……。
  え? 二人で良い? まぁそう言うならそれで良いけどさ」

幸子(……凄く、楽しそうに話してる……)


P「うん……うん……あぁ、じゃあまたな。おやすみ凛」

幸子(……凛さん?)

幸子(あの人……そう言えばよくボクの邪魔して……)

幸子(この前の約束も……昨日だって……)

幸子(……あの人ばっかりPさんを独占しようとして……)

幸子「……」

幸子(……最初から?)

幸子(あの人はボクと一緒にPさんの担当になったんだ……あの人は思えば、最初から邪魔だったんだ)

幸子(……)



ガチャッ


P「幸子ーもうでき……うおっいたのか」

幸子「……」

P「幸子?」

幸子「……えぇ。出来ましたよ。ほら早く食べましょう」

P「よ、よし。じゃあ食べよう食べよう」

幸子(……)


――



P「幸子ーまだー」

幸子「少しは待ってて下さいよ。今盛ってるんですから」

P「それくらい自分でやったのに……」

幸子「良いんですよ。とにかく大人しくしておいて下さい」

P「はぁ左様で……」

幸子「……」

幸子(この薬を入れると……本当に寝ちゃうのかな?)

幸子(……)

幸子(あの人と話してる時のPさんの声……楽しそうだった)

幸子(……あんなに……)


ポトッ


幸子「……」

P「幸子ー?」

幸子「……今持っていきます」



コトッ


幸子「はい、どうぞ」

P「あー良い匂いだ。ほら、幸子も早く席ついて」

幸子「そんなに急かさなくてもカレーは逃げませんよ……はい座りましたよ」

P「よしじゃあ……いただきますっ」

幸子「このボクが作った料理なんですから、一口一口を味わって食べるんですよ?」

P「わかってますよ……」

幸子「……」

P「じゃあまず一口目と……」パクッ

幸子「……どうですか?」

P「……うん、おいしいよ。なんだか懐かしい感じの味だ。俺の好みだよ」

幸子「そ、そうですか(……良かった)」

P「ほら、幸子も食べなよ。手止まってるぞ」

幸子「は、はい」モグッ

P「おいしいだろ?」

幸子「えぇ……まぁボクが作った料理ですから当然なんですけどね」

P「あはは、そうかもな」


幸子「あぁそんなにがっついて食べちゃダメですって。もっとゆっくり食べましょうよ」

P「あ、はい。いや、いつもご飯食べる時は早く食べる事を心がけてるからつい……」

幸子「……はぁ……まぁ早く食べ終わってもおかわりはあります。おかわりする時は言って下さい」

P「うん、ほうふる」モグモグ

幸子「ふふっ……全く。口に物を入れて喋らないで下さいね」

P(なんかこの味はかーちゃん思い出すな……)モグモグ

P(かーちゃんに最近電話してなかったし後でするか……)

幸子(……)

幸子(薬の効果が出るのは大体20~30分後……完全に眠るまでにはそれからまた時間がかかる)

幸子(……本当に効くのかな)


……


P「ごちそうさまでした」

幸子「はい、お粗末様でした」

P「はぁー食った食った。大盛二杯行っちゃったよ」

幸子「よくそんなに入りますね……まぁそれだけボクのカレーがおいしかったという事なんでしょうけど」

P「ふぅー……ふぁあ~あ……あぁなんか腹いっぱい食べたら眠くなってきたなー」

幸子「……そうですか」

P「あぁー……でも今寝たら牛になるな……」

幸子「今時子供でもそんな事言いませんよ。いつの迷信ですかそれ」

P「うーん、これ本当に眠いな……ちょっと横になってきて良い? アラームで20分したら起きるからさ」

幸子「えぇ構いませんよ」

P「もし20分経っても起きて来なかったら起こしに来てよ。幸子と一緒に見ようと思ってDVD何枚か借りてきたからさ」

幸子「……そうですか」


P「よいしょっと……じゃあちょっと寝てくる……あ、その前に皿洗わないとな」

幸子「水につけておくだけで良いですよ。片付けはボクがやりますから」

P「あーそう? 悪いなー」

幸子「えぇ……じゃあ、おやすみなさい」

P「うーん……ふぁあ~あ」


ガチャッ バタンッ


幸子「……」

幸子(本当に効いてるんだ……薬)


……

今回はここまで
途中で寝てしまって申し訳無い



ガチャッ


幸子「……Pさん?」

P「……」スースー

幸子(寝てる……)

幸子(ちゃんと薬の影響で寝てるのかな……)

幸子「……」


『好きな人を私だけしか見れないようにして、自分のものだけにして……自分の事だけが好きで……』


幸子「……」

幸子(ガムテープと麻縄で……)


キュッキュッ ギュッ


幸子(……これでよし)


幸子「……」

P「……」スースー

幸子(本当に起きない……)

幸子(と、とりあえずガムテープで体は縛ってロープで脚を繋いだからもう何しても大丈夫かな……)

幸子「……」

P「……」スースー

幸子(これでPさんはボクだけの人……ボクだけの……)

幸子(今なら……Pさんの顔にも触れる)

幸子「……」ソロー

P「……ん……」ピクッ

幸子「あっ……」

幸子(お、起きちゃった?)

P「……」スースー

幸子「……」

幸子(はぁ……良かった起きた訳じゃない……)


幸子「……」サスサス

P「……」スースー

幸子(さ、触れた……)

幸子「……」サスサス

幸子(……何だか、ほっぺがザラザラしてる。髭かな?)

幸子「……でも、結構気持ちいい」

幸子「……」

P「……」スースー

幸子(寝顔……初めて見た)

幸子(なんだか……ホッとする顔)

P「……」スースー

幸子(でも、ここまで色々してるのに本当に起きないんだ)


幸子「……ごくっ」

幸子「……」

幸子(……き、キス、できるかな)

幸子「……」

P「……」スースー

幸子「……Pさん」

幸子(顔が……近くなっていく……)

幸子(Pさん……良い匂い……)

幸子(……)



チュッ


幸子「……」

P「……」スースー

幸子(……しちゃった)

幸子(キス……Pさんとしちゃった……)

幸子「……もう一回」チュッ

幸子「……まだ」チュッ

P「……」スースー

幸子(……やった)

幸子「ふふっ……Pさんと、キスしたんだ……」

幸子「……えへへ」


幸子「えっと……次は……」

幸子(……映画で見たような感じで……)

幸子「え、えっと……」チュッ

幸子(あれどうしてたっけ……口開けてたけど……それだけ?)

幸子(一応やってみよう……)

幸子「んっ……」

幸子(……ここからどうするのかな)

幸子(……あ、舌動かしたらどうかな)

幸子「ふっ……」ペロ

幸子(Pさんの唇、渇いてる……なんだかカサカサしてる)

幸子(……口の中に入れたらどうなるのかな)



ペロッ


P「ん……」ピクッ

幸子(Pさんの口を開けて……)

幸子「ふぁっ……」

幸子(舌を絡ませて……)

幸子「ちゅっ……んっ……」

幸子(あっ……)

幸子(これ……凄い……)

幸子(Pさんと混じってるみたい……)

幸子(……もっと)

幸子「……んんっ……はっ……」

幸子(ボク……いけない事してるんだ……)

幸子(でも止まらない……)

幸子(もっと、もっと欲しい……)

幸子「ぷはっ……はー、はー……」

幸子「……んっ……ちゅっ……」

幸子(PさんPさんPさんPさんPさん……)


……



P「……ん」

P(朝か……)

P(んー……今何時だあ? 昨日いきなり眠くなってそのまま寝たんだっけか……)

P(結局20分で起きれなかったな……)

P「……あれ?」

P(腕が動かない?)

P(脚にも何か繋がれてる?)

P(そして何か執拗に口を舐められてる……)

幸子「ぷはっ……あ、起きました?」

P「……? さち、こ?」

幸子「おはようございますPさん」

P(何だ? いつもと雰囲気が違うというか……)

幸子「……えへへ」

P(何も無いのにいきなり笑って……妙に表情が艶っぽいし……ど、どうしたんだ。いやそれ以前に……)


P「えっと……じょ、状況がのみ込めないんだが……何で俺縛られてるの?
  ご、強盗に捕まったとか? いやだったら幸子も縛られてるんだろうけどさ」

幸子「ボクがやったんですよ」

P「あぁなんだ幸子か。じゃあよかっ……いや良くない……というか何か頭ぼーっとするんだけど」

幸子「睡眠薬でぐっすり寝てましたからね。寝過ぎたんじゃないんですか?」

P「すいみ……んー?」

P(俺睡眠薬なんて飲んだ覚え無いぞ。え、何? 何なの?)

幸子「それよりPさん、もう一回しますよ」

P「え、何? もう一回? 何を――んんっ」

幸子「ふっ……んっ……」

P(な、なな何? えっ、俺キスされてんの? し、舌まで入れられて……)

P(ていうか、なんか幸子こなれた動きしてるんだけど……く、口の中全体が舌で……)

P(に、逃げようにもガッチリ抱きつかれてるし……)

P(……気持ちいいなこれ……)

幸子「ぷはっ……」

P「はぁ、はぁ……幸子……何を急に……」

幸子「えへへ……Pさん……」ギュウッ

P(駄目だ聞いてないよ……)

P(というか……幸子の目にクマみたいなものあるけどどうしたんだ?)


P(……わからん。一体何が起きてるんだ俺の知らない所で)

P(幸子もいつもと様子が明らかに違うし……どうしたものか)

P(少し強めに聞いてみるか。慎重に質問のレベルを徐々に上げて行きながら……)

P「なぁ幸子」

幸子「何ですか? もう一回ですか?」

P「落ちつけ。まず俺の質問に答えろ」

幸子「……良いですけど……」

P「何で俺は縛られてるんだ?」

幸子「ボクが縛ったんですよ」

P「睡眠薬で眠らせてか? いつ仕込んだ」

幸子「晩御飯の時に入れたんです」

P「成程ね……それと、クマが凄いけど何でだ」

幸子「Pさんとずっとキスしてたからですよ」

P「……寝ないでか?」

幸子「はい」

P(……今までの質問だけでわかる。いつもの幸子じゃない)

P(寝ずに俺にキスしてただと? おかしいだろ普通。いやそれ以前にキスしてるっていう事自体がおかしいだろ)

P(……落ちつけ。何もかもがおかしいが……そんな事を考えるより先にこれだけは聞いておかないといけない)


P「……そうか。じゃあ最後の質問だ」

幸子「はい」

P「……何でこんな事をした。何故、俺を縛ったりなんかしたんだ?」

幸子「……それは……」

P「……」

幸子「……Pさんが、ボクとの約束をまたすっぽかそうとしたからです」

P「約束?」

幸子「昨日Pさんが凛さんと電話してるの、聞きました」

P「あ、あぁ……まぁ確かに電話してたけど」

幸子「何でですか!」

P「……幸子?」

幸子「この一週間はボクと一緒にいてくれるって約束したじゃないですか!」

P「……そんな約束は……したようなしなかったような……」

幸子「しました!」

P「……」

幸子「なのに……凛さんとまた何処かに行こうだなんておかしくありませんか? おかしいですよね?」

P「ま、まぁ……」

幸子「でも……Pさんはまたあの人と電話して、楽しそうに楽しそうに……」

P「……」

幸子「……そしたら、居ても立ってもいられなくなって……」

P「……」

幸子「……」


P「……えっと、その……大丈夫か?(何が大丈夫だと聞いてるんだろう俺は……)」

幸子「……えぇ」

P「……」

幸子「……ふぁあ~……」コクッ

P(今更になって眠くなってきたか、船こぎ出したぞ)

P「えっと……幸子?」

幸子「はい……何ですか」

P「その……り、凛との約束は無かった事にして貰うよ」

幸子「当然です」

P「あ、あぁ。まぁそうなんだが……えっと……」

幸子「何ですか」

P「その、なんだ……その代わりにこの拘束を解いてくれるとありがたいんだが……これじゃかゆい所もかけない」

幸子「……」

P「それに仕事もあるしさ。仕事は行かないとマズイし、今色々大事な時期だからさ……」

幸子「……嫌です」


P「はぁ……幸子? 仕事が終わったらちゃんとまたこの家に来るから、な? それで良いだろ?
  寄り道しないで真っ直ぐくるからさ?」

幸子「事務所に行ったらまたあの人達がいます。だから嫌です」

P「そりゃ仕事仲間なんだからいるだろ」

幸子「それであの人達と話とかするんですよね」

P「まぁそりゃするだろうな」

幸子「……だから嫌です」

P「我儘もいい加減にしなさい」

幸子「……」

P「お前だって今日アイドルとしての仕事があるだろ。仕事だ、良いか?
  お前が仕事をすっぽかすとどれだけの損失が出るのかわかってるのか?」

幸子「……」

P「俺だってお前との時間を作りたいさ……でも俺達も責任っていうものを負ってる。
  何百万っていうお金を動かす団体の一員として、ある程度自由を捨てて仕事に励まないといけないんだ」

幸子「……」

P「幸子はまだ子供だからそういう責任を重いと感じるかも知れない。けど……アイドルになった以上、
  そして沢山のファンがいる現状でその責任を投げる事はできないんだよ」

幸子「……いや」

P「幸子。お前はまだアイドルとして上を目指せる。もっともっと世間にお前の事知らしめたいんだよ」

幸子「いやっ!」ギュウッ


P「……そんなに抱きつかれても駄目だ」

幸子「いや……いやです……」

P「……トップアイドルになるんだろ? 幸子が可愛いって事、証明するんだろ?」

幸子「……」

P「なぁ……俺もその夢を叶えたいんだよ、頼むよ……お前達をトップアイドルにするのが今の俺の夢なんだよ」

幸子「……ボクは……」

P「……」

幸子「Pさんがいれば……良いんです」

P「幸子……」

幸子「トップアイドルになるには……またお仕事してPさんと離れて、Pさんが他の女性と話してる所を見て……。
   そんな事を沢山しないとなれないじゃないですか……もうボクには……我慢できないんですよ」

P「……」

幸子「……だから……嫌です」

P「……このまま、アイドルもやめるっていうのか。俺をここに監禁して、アイドルとしての名声も捨てて……どうするんだよ」

幸子「……」

P「……そんなに俺の事が好きなのか」

幸子「……」コクッ

P「全部を投げ打ってでも俺をここに置きたいのか」

幸子「……」コクッ


P「……」

P(……わからない)

P(なんでこんな事になったんだ? 幸子とは……冗談言い合ったり、遊んだり……。
  妹だか娘だか、そんな風にしか俺は接して無かったはずなのに)

P(確かに幸子は大事だけど……何でだ……)

幸子「……この……」

P「ん?」

幸子「この一週間の間だけで良いんです……」

P「……」

幸子「この一週間だけ、ボクだけのPさんでいて下さい……」

P「……幸――」

P(幸子はそれだけ言って、また俺の唇を奪った)

幸子「んっ……」

P(舌舐めずりの湿った音と熱気の籠った荒い吐息を、俺に押し付けるように、そして貪るように)

幸子「ぷはっ……」

P(それが終わると彼女は俺と目を合わせる)

幸子「……えへへ」

P(そして……幸せそうに微笑んだ。これ以外の幸福なんて忘れ去ったかのように、空っぽで満たされた笑みだった)


――



幸子「えへへ……Pさん……」

P「……」

P(あれから幸子にずっと抱きつかれたまま……膝の上に乗られて、ずっと……)

P(銀行に金を下ろしに行くと言って先程出て行ったが10分もしないで帰ってきた)

P(そしてまた俺に抱きつく)

幸子「Pさん……キス……」

P「んぅっ……」

P(そして始終キスを求める……)

P(舌を入れられて貪られるように、体を押しつけられながら唇を奪われる)

P(だがそれ以上の行為は無い。それだけがまだ救いか)

P(飯時になればご飯を用意され、幸子が俺の口へと運ぶ。調理器具は全てこの部屋に持ち込み、片時も俺の傍から離れようとしない)

P(そして晩飯が終われば濡れタオルで体を拭かれ、幸子が俺と同じベッドに入り就寝する)

P(そんな日を二日程続けている)

P(何と言うか……介護されてるというか……愛玩道具にされているというか、そんな感じだ)


幸子「ぷはっ……えへへ」

P(キスが終わると幸子は私の目を見つめ、幸せそうに微笑む)

幸子「えへへ……ボクだけのPさん……」

P(そして顔を胸に埋めるようにすりつけ抱きついてくる)

P(……正直、この行為に嫌悪感は無い)

P(……少しこれも良いと思い始めている。俺もおかしくなってきているのか)

P(だけど……これはやはり異常だ。そう思える感覚だけはまだイカれていなかった)

P「……なぁ幸子」

幸子「何ですか? あ、もう一回ですか?」

P「……いや、違う」

幸子「あ、お腹でも空きましたか? じゃあご飯用意しますね」

P「違う」

幸子「? じゃあ何ですか?」


P「(今度は少し下手に出てみるか)それよりほら……俺ももう仕事に行かないとその、クビになるからさ。
  お前ももう仕事いくつかすっぽかしてる事になってるんだぞ?」

幸子「……ふふっ、良いじゃないですか別に」

P「……い、いやぁ……俺あの仕事クビになりたくないんだけど……」

幸子「良いじゃないですか。あの仕事クビになってもPさんなら他の仕事にすぐ就けますよ」

P「いや、でもなぁ……あれは俺の天職というか何と言うか……」

幸子「……まぁ、Pさんは有能でしたからね。Pさんのお仕事する姿も嫌いじゃありませんでしたから」

P「だろ? いや自分で言うのも何だけどさ。あ、後それに……」

幸子「それに?」

P「凛と奈緒と菜々も、そろそろ心配して――んぐっ」

幸子「ちゅっ……んんっ……」

P「つっ……ぷはっ……おい、幸子」

幸子「……その三人の名前は、今出さないで下さい」

P「え?」

幸子「ここにいるのは、ボクとPさんだけなんですから。他の人の話はしないで下さい」

P「……」


幸子「今Pさんはボクだけのものなんです……そしてボクも、Pさんだけのものなんです」

P「……」

幸子「だから今は他の人の話はしないで下さい」

P「……幸子」

P(この二日の間に何度か仕事の話を持ち込んだり、色々と説得を試みた。しかし全て徒労に終わった)

幸子「……ごめんなさい」

P「……なんだ、いきなり謝って」

幸子「……もう一度、キスしましょう」

P「……」

幸子「お願いします」

P「……わかった」

P(そうしてまたキスをする)

P(俺は舌先から伝わる感覚と切り離された頭の片隅で、あぁ、次の職どうしようかななどと
  まるで今の状況を他人事のように扱いながらどうにもならない考え事をしていた)

幸子「……えへへ。いなくならないPさん……ボクだけの……」

P(そしてもう一方でいつもより少し幼く感じてしまうような、こんな不安定な幸子を見捨てられるのかという考えも、頭の片隅で芽吹いていた)


……



P「……」

幸子「……」スースー

P(幸子は俺にもたれ掛りながら眠る。俺の体から腕を離さないようにしながら)

P(初日で徹夜したのがたたったのか幸子は夜中に眠り昼手前に起きる。俺もそれに合わせて、というより合わせなければならないので同じ時間に眠っている)

P(だがこの縛られているという状況下でストレスでも溜まっているのか、あまり長時間眠る事は出来なかった)

P(幸子よりも早く起き、どうしたものかと考えたり、幸子の無邪気な寝顔を見て時間を潰す)

P(……この時間が一番俺を狂わせた)

P(起きている間は否応無しに幸子は俺をねだるのに、寝ている間はそんな事を忘れてしまう程無垢な顔で眠っている)

P(そんな姿を見ると……不思議と嫌いだとかおかしいだとか、そういう感情は湧かなくなってしまった)

P(俺の事が形振り構わず好きで、可愛らしくて……)

P(情が移りかけていた。相手が子供でもここまでされたら実際悪い気はしなかったし、何より……)

P「……」

幸子「……」スースー

P(何より……今までの幸子の行動すら肯定し始めていた。こんな事をする程、俺が好きなのだと。それが……嬉しくもあったから)


幸子「……んぅ……」

P(……起きたか)

幸子「ふぁあ~……おはよう、ございます」

P「……おはよう、幸子」

幸子「……ふふっ」

P(挨拶を返すと、何が面白いのかわからないが幸子は笑う。それも幸せそうに)

幸子「Pさん。おはようのキスしましょう」

P(そう言ってまたキスをせがむ。寝起きは口内の菌が何だとか言いたいが、言えない。
  俺はただ幸子の行為を受け入れるだけだった)

幸子「ぷはっ……じゃあご飯作りますね。すぐご飯を作るので待ってて下さいっ」

P(彼女が俺の体から離れるのは用を足す時と料理を作る時くらいだ)

P(後ネットでした買い物を受け取りに行く時くらいか。食料品なんかもネットで買って自宅に送って貰っているようだった)

P(……ついでに、宅急便以外の人もこの家を訪れているようだった)

P(インターホンが鳴り、幸子がそれを確認しに行ってから数分程戻ってこない時が昨日何回かあった)

P(会社の人間か……それはよくわからないが、俺と幸子を探している人間がいる事は確かだった)

P(どうしたものか。どうにかその人物と接触を計れないものか……)

P(……まだこんな事を考えられる程、俺はまだ正気らしい)

P(この状況を脱却できれば幸子も元に戻るかも知れない)

P(……本当に?)


幸子「Pさん?」

P「……」

幸子「Pさん聞いてるんですか?」

P「……あ、あぁ……すまん。何だ?」

幸子「朝ごはんは何が良いですか?」

P「あ、朝ごはんな……じゃあ……サンドイッチでも作ってくれ」

幸子「ふふっ、わかりました」

P(何をして欲しいか、と聞かれた時の願いは大概聞き入れられる。そして私の願いを楽しそうに幸子はこなす)

幸子「~♪」

P(料理をしながら時々俺の方を見て微笑む。何だかその仕草が……恋人にするような感じで、可愛い)

幸子「さあ出来ましたよ。ボクの作ったサンドイッチですから残さないで下さいねっ」

P「……あぁ」

幸子「はい、あーん」

P「……あー」

P(しかし何と言うか……幸子がこういう事をしてくるというのが未だに慣れない。
  いつもとのギャップというか……何がここまで幸子を変えたのかと疑問を抱かずにはいられない)

P(……まぁ俺が変えたんだろうが)


幸子「おいしいですか?」

P「あ、あぁ……」

幸子「ふふっ、そうですか。あ、飲み物飲みますか?」

P「お、おう」

P(……甲斐甲斐しいというのか何と言うか……本当に介護されているみたいだ)


ピンポーン


P「!」

幸子「……」

P「誰か来たみたいだが」

幸子「……すみません。少し見て来ます」

P「あぁ……」



ガチャッ バタンッ


P(……今の幸子の様子からするに宅急便じゃないらしい)

P(一体誰が来たんだ?)


ドンドンドンドンッ


P「な、何だ」

P(随分荒々しいな……会社の人間か?)

P「……」

P(……静かになったな)



ガチャッ


幸子「すみません。お待たせしました」

P「あ、あぁ。誰だったんだ?」

幸子「……さぁ。ただのセールスだったみたいです」

P「……そうか」

幸子「さて、ご飯食べましょうか」

P「……あぁ」

幸子「ふふっ。はい、口開けて下さい」

P(……やっぱりわからない)

P(この子の不安定な笑顔から、淀んだ瞳から……だんだん目を離せなくなってる)

P(……俺はどうすれば良いんだ……)

幸子「はい、全部食べましたね」

P「あ、あぁ……おいしかったよ」

幸子「ふふっ、まぁ当然ですよ……ふふっ」

P「……」


幸子「えっと……じゃ、じゃあそろそろ体を拭きましょうか」

P「あ、あぁ」

P(体を拭いて貰えるのは良いが……)

幸子「えっとじゃあ……ズ、ズボン脱がしますね」

P「お、おう」

P(未だにズボンを脱がす事には抵抗があるらしい……よくわからん)

幸子「……えいっ」ズルッ

P「……」

幸子「……」フキフキ

P(ちょいちょい視線を外しながら俺の体を拭く……キスはあんだけするのにこういうのはまだ恥ずかしいと思っているのか)

P(……わからない)

幸子「そ、そろそろ下着の中も拭いた方がい、良いですかね?」

P「……いや、良い(確実に臭くなるだろうが……この先はやめておこう)」

幸子「そ、そうですか。じゃあ……はい、終わりです」

P「……ありがと」

幸子「ふふっ、良いんですよ」


P「……あぁ……幸子?」

幸子「何ですか?」

P「その……トイレにも行きたいんだけど」

幸子「あ、えっと……どっちですか?」

P「……小だ」

P(大はなんか出る気がしない……もう三日くらい行ってないが大丈夫かな)

幸子「あ、じゃあ……はい」

P(……尿瓶なんだよなぁ)

幸子「じゃああっち見てますから……済ませて下さい」

P「あ、あぁ」

幸子「……」

P「……」

P(何か下腹部付近をガン見されてるんだが……)


チョロロロ


P「……」

幸子「……」

P「えっと……終わった」

幸子「……」

P「さ、幸子?」

幸子「あ、はい……じゃ、じゃあ……処理してきます」

P「……」

P(顔赤くしないでくれよ……俺まで恥ずかしくなるだろ……)



ガチャッ バタンッ


幸子「……」トテトテ

P「……」

幸子「……」ポフッ

P(無言で俺の膝に乗ったか……)

幸子「……」ギュウッ

P「……」

幸子「……」クンクン

P「……何してるんだ?」

幸子「いえ……Pさんの匂いをかいでるんです」

P「……ちょっと臭いだろ」

幸子「いえ、むしろ匂いが濃くなって……良いと思います」

P「……」

幸子「この匂い……落ちつきます」

P「そうか」

幸子「はい。とっても……」

P「……」


幸子「Pさん」

P「ん?」

幸子「Pさんも……ボクの匂い好きですか?」

P「……なんだ急に」

幸子「いいから答えて下さい」

P「まぁ……良い匂いだと思うよ」

P(幸子も俺と同じ日数風呂入って無いんだけどな。まぁ……確かに悪い臭いはしないけど)

幸子「そうですか……えへへ」

P「……」

P(俺が褒めると無邪気に笑う……それだけで笑ってくれるし、俺に甘えるように擦り寄ってくれる)

P(……なんで悪くないと思っちまうんだろ)

P(いや……良い……良いと思ってる)

幸子「……Pさん、温かい……」


P「……なぁ幸子」

幸子「何ですか?」

P「……」

P(……俺が外に出たらどうなるんだ、幸子は)

P(俺はどういう処分が下されるかわからないが……幸子は事務所にはまず確実に戻れないだろう。いや、戻らないと言う方が正しいのか)

P(……そうしたらどうするんだ?)

P(幸子がアイドルを辞めて……どうする?)

幸子「……Pさん?」

P(……わからない。わからないけど、この一週間が終わったら……)

P(この子が……何処か遠くに消えてしまいそうな気がする。二度と会えないんじゃないかって、そんな気がする)

P(俺がこの子から離れたその瞬間、この子は萎れて枯れてしまうんじゃないか。そんな風に思ってしまう)


幸子「Pさん? もしもし?」

P(……何だよ……クソッ)

P(どうすれば良いんだよ……この子を現実に引き戻すのか? それとも、この子を受け入れれば良いのか?)

P(……どっちを選んでも同じだ。こんな風になって元に戻れる訳ないんだ……)

P(ここから出た外の世界でこの子が俺の傍にいてくれる……そんな光景が全く思い描けない)

P(この部屋の中で、目を覚ましている間はキスをして、そうじゃない時は俺を見てただ微笑んでいる……)

P(それだけしか……思い描けない)

P(どうすれば、正しいんだよ……)

P(どこで、間違ったんだよ……)


幸子「Pさん。返事して下さいよPさん」

P「……」

幸子「Pさん!」

P「っ……あ、あぁ。すまん。ちょっと呆けてた」

幸子「……何考えてたんですか?」

P「いや……」

P(俺を訝しがる時の目も……不安で濁って見える。あの三人の事を考えてるのではと邪推でもしてるのか)

P(……不安定過ぎる。傍にいるのにとても遠く感じてしまう。この子が一体誰なのかわからなくなってくる)

P(いつも元気に俺と冗談を叩きあってた子なのか? この子が? 自分をカワイイと言って憚らない自信を持っていた子のなれの果てがこれか?)

P(俺が大事にしてた子の一人なのか? これが? こんな……俺がいないと消えてしまいそうなこの子が?)

P(……頭がおかしくなりそうだ)

P(考えても考えても考えても考えても考えても……考えてもっ……)

P(……わからないなんて)


P「……何でも無い。名前を呼んでみたかっただけだ」

幸子「何ですかそれ……あ、あれですか。よくドラマとかでやるようなやり取りの……」

P「ま、まぁそうだな……」

幸子「そ、そうですか……じゃあ、良いです」ニコ

P「……」

P(もう……この子笑顔が全部痛々しく見えてしまう)

P(俺は……もう……)


……



ドンドンッ ドンドンッ


P「んぐっ……ぷはっ……」

幸子「はぁ、はぁ……ふぅ……」

P(もう何回したかもわからないキス)

P(ずっと続く頭痛、胸の痛み、この子の笑顔、この子の目)

P(……わからない、わからない)

P(なんでこんなに……儚げで、切なくて……)

P(……この子は……俺にとって、こんなに……)

幸子「Pさん」

P「……何だい?」

幸子「……えへへ。呼んでみただけです」

P「……そっか」

P(堂々巡り、顧みる、本当に……この子が幸子?)

P(……俺の知ってる……幸子?)


P「……幸子」

幸子「何ですか?」

P「幸子、幸子……幸子、幸子、幸子」

幸子「そんなに呼ばなくても一回で大丈夫ですよ。ボクはここにいるんですから」

P「……」

P(この子が幸子)

P(……うん、そうだ)

P(この子が俺の幸子だ。俺の知ってる幸子)

P(……確かめたい)

P(確かめたい確かめたい確かめたい)


幸子「……Pさん」

P「……キスか」

幸子「はいっ」

P「……なぁ幸子。その前に、お願いがあるんだが」

幸子「何ですか?」

P「……拘束を解いて欲しい」

幸子「……」

P「逃げたいとかそういうのじゃない」

幸子「……いやです」

P「頼む……お前から離れたりしない、絶対に」

幸子「……」

P「なぁ幸子、頼むよ。今これを解いてくれないと……俺……」

幸子「……」

P「何か、おかしくなりそうなんだよ……」

幸子「……」

P「ずっとずっとここに来てから考えっぱなしで、頭痛くて……胸が痛くて……」

幸子「……」

P「だから頼むよ……幸子……」

幸子「……」

P「幸子……」


幸子「……本当に」

P「……」

幸子「本当に……逃げたりしませんよね?」

P「あぁ」

幸子「ボクを置いて行ったりしないですよね?」

P「あぁ」

幸子「絶対……絶対ですよね?」

P「あぁ……だからっ……早く、頼むっ」

幸子「っ……」

P「……」

幸子「……少し、待ってて下さい」

P「わかった」

幸子「……」

P(カッターを取り出した……)

幸子「動かないで下さいね……」

P「……」


ビリッビリリッ


P「……」

幸子「……はい。取れまし――」



ギュウッ


幸子「……Pさん?」

P「……」

幸子「……どうしたんですか?」

P「……幸子だよな」

幸子「え?」

P「このちっちゃい体も……この跳ねた髪も……幸子だよな?」

幸子「……」

P「……な?」

幸子「……えぇ。ボクですよ……輿水、幸子です」

P「……そっか。そうだよな」

幸子「……はい」

P「……」

P(そうだ……この子は幸子だ。俺と今まで一緒に歩いてきてくれた子じゃないか)

P(俺にとって……最も大事な人じゃないか)


P「……ごめんなぁ……幸子」ギュッ

幸子「……ふふっ。良いんですよ……Pさん」

P「……幸子」

幸子「……もっと、強く抱きしめても大丈夫ですよ」

P「……あぁ」ギュウッ

幸子「……ボクは……どこにも行きません。ボクは……ずっとPさんの傍にいます」

P「……」

幸子「今までも……これからもずっと……ずーっと」

P「……あぁっ」

P(あぁ……俺も……)

P(誰なんだろうな)


――



ドンドンドンドンッ


幸子「んっ……ふっ……」

P「幸子っ……んっ……」

P(舌が絡み合う音以外に、何処からか音が聞こえる)

P(乱雑なリズムでけたたましく何かを突き破るかのような音が、外から聞こえてくる)


「プロデューサー! いるんでしょ! 開けてよ!」


P(けれど、そんな音は右から左へと流れるように、俺の頭を通り過ぎていく)

P(全部の神経は全て一点に集約されてしまっているから)

P(この子以外……何も感じない)

幸子「……ぷはっ……」

P「……よしよし」ナデナデ

幸子「……えへへ」



「開けてよ! 幸子ちゃんもいるんでしょ! ねぇ!」


P(食事と排泄以外にする事と言えばキスして、互いに抱き合うだけ。それ以上の事は無かった)

P(けれど……それで十分だった)

P(この子が幸子だとわかれば、それで)

幸子「……Pさん」

P「ん? 何だい幸子」

P(極めて優しい声でその子に呼び掛ける)

幸子「……明日、お母さんが帰ってくるみたいです」

P「……そっか」

幸子「……」

P「そしたら……何処か違う場所に行けば良いさ」

幸子「……そうですね」



「何で……何で返事してくれないの……」


P「……もう一度」

幸子「はいっ」

P(部屋の明かりも碌に付けず、この子とひたすらにキスをする)

P(……それ以外、わからない)



……



ピンポーンピンポーンピンポーン


P「……」モグモグ

「おいしいですか?」

P「うん、おいしいよ」

「えへへ……良かったです」

P「じゃあ……口移しでもお願いしようかな」

「ふふっ……Pさんがそう言うなら」


「……おーい! Pさーん! いるんだろー!」
「あ、あんまり大声を出すと近所さんから苦情が……」
「でもさぁ……さっきからずっと呼んでるのに返事一つ無いんだぜ? 人の気配はするのにおかしいって」
「……いるよ。絶対に」



P「うーん……こっちの食べ方の方がおいしいかなー」

「全く……Pさんも好きですねぇ」

P「ははは」


「……二人で仕事すっぽかすなんて……どっちかの家に両方いるに決まってる」
「でもさぁ……親御さんにも連絡つかないし……本当にいるかどうかわからないんだろ?」
「警察に言うのはまだ早いって止められちゃってますけど……これはやっぱり警察に届けた方が……」
「……いるんでしょー! プロデューサー! プロデューサー!」


P「ほら、幸子も食べなよ」

幸子「そうですね。じゃあボクにもして下さい」

P「はははっ、結局か」


「なぁ……もう一旦帰ろう? あんまり騒ぐと……」
「止めないで……」
「……おい」
「……プロデューサー!」


……



ドンドンドンドンッ


「……幸子」

「何ですか?」

「明日から、どこ行こうか」

「そうですね……Pさんと一緒なら何処へでも」

「……そっか」


凛「開けろ! 開けてよ! プロデューサーを返してよ!」



「……うーん眠くなってきたな」

「そうですねぇ……」

「一旦寝て起きてから考えようか」

「そうですね」

「じゃあそうしよう」

「Pさん」

「ん?」

「後ろから抱きしめて下さい。そっちの方が、良く寝れると思うので」

「わかった。じゃあそうしよう」

「はいっ」


凛「返せ! 返せよ! 返せ……」
奈緒「お、おい……もうやめようって」
菜々「そ、そうですよ凛ちゃん。もうここからは警察に頼むしか……」



「……おやすみ」

「はい、おやすみなさい」

(溶けて落ちて行きそうなまどろみ)

(この子を抱きしめながら、後ろ髪を何かに掴まれ引き込まれるように眠りに落ちる)

(それが……痺れるような幸せだった)



凛「返せっ!」


終わりです
書いてて頭痛くて痛くて結構はしょった感じ……

真人間に異常を装うのは難しい(断定)

あと少し早いけど幸子誕生日おめでとう
こんなのが誕生日SSでごめんねぇ

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