杏「あ」グー モバP「腹減ってるのか」 (35)

杏「あ、いや、別に」

P「ああ、もう今日の仕事は終わりだしな。帰っていいぞ」

杏「ん、そーだね」

P「……」

杏「……」

P「どうしたんだ、帰らないのか?」

杏「いやー、帰ってもお菓子足りなくって」

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P「ご飯食べればいいじゃないか」

杏「まあ、そうなんだけど……」

P「別に買い食いは禁止してないぞ。制限はしてるが」

杏「まあ、いいじゃん」

P「……?」

P「小腹が空いてるなら……」ガサゴソ

P「ほれ」ぽん

杏「お、おう」

P「チョコレートくらいならな。ま、いいだろ」

杏「あ、ありがとう」

P「……そういえば、いつも遅くまで残ってるよな」

杏「そ、そうだっけ?」

P「家に帰りたくないのか?」

杏「そういうわけじゃないけどさ……」

グルル

杏「あ」

P「……しょうがないな」ガタン

杏「な、なに」

P「どっか食べに行くか。それで送ってやろう」

杏「え」

杏「いいよ、別に。今日はたまたま飴を切らしてるだけで」

P「遠慮するなよ」

杏「いや、だって、ねぇ?」

P「……?」

杏「外寒いじゃんね」

P「店の中は暖かいと思うがな」

杏「いやいや、杏、有名人だしさ」

P「そりゃ多少目立たないようにはさせるが」

杏「そうだけど……」

P(なんかあったのかな)

P「……なんだったらうちに来るか」

杏「え?」

P「こたつもあるし、そこで飯食って、ついでにスケジュールの打ち合わせもやっておこう」

P「事務所でウロウロしているよりは気が晴れるだろ」

杏「……いいの?」

P「遠慮するな」

杏「じゃあ、行く」

杏「あ、スケジュールと言えばさ、そろそろ休みたいと」

P「……ちひろさん! すみませんが、今日は早めに……」

――スーパー。

P「よく考えたら、うちに食い物がそんなに置いてなかったんだ」

杏「お惣菜とか、弁当で良かったのに」

P「普段は時間がないからな。それで済ませたくなるんだが」

杏「なにー? 料理とかするの?」

P「しない。煮るだけ、焼くだけなら出来る」

杏「それって料理じゃないんだ」

P「野菜にドレッシングかけたらサラダになるか?」

杏「なると思うけど」

P「サラダにだって、盛り付け方もあるだろう。そういう心配りをしてこそ、料理だ」

P「そういう意味で、料理とかはしたことがない」

杏「はあ」

P「……鶏肉が安いな」

杏(言う割には買い物慣れしている気がする……)

P「親子丼とかいいな。めんつゆがあったし」

P「めんつゆって便利だよな。何も考えなくても味付けできるし」

P「小ネギ……卵……砂糖は、あったな」

杏「ん」サッ

P「おい、何入れた」

杏「うわっ、バレた」

P「当たり前だ」

杏「いやほら……デザートデザート」

P「いらんわ」

杏「プロデューサー、それは駄目だよ」

杏「やっぱり、人間、美味しい料理を食べたらデザートで締めくくらなきゃ」

杏「余韻をね、食事の余韻を」

P「余韻にしちゃ、随分量が多いようだが?」

杏「飴は別腹」

P「杏の主食だもんな」

杏「てへへ」

P「俺の金は俺が使い道を決めるわ」ゴソッ

杏「あっ! やだやだ!」

P「やだじゃない、返してきなさい」

杏「心配りは!?」

P「強要するな、心配りを!」

P「……結局、ゴネられて5袋も買ってしまった」

杏「満足じゃ」

P「杏、その代わり、それはご飯を食べるまで我慢しろよ」

杏「ええ~?」

P「えーじゃない。お腹をすかせないと、美味しさが分からんだろ」

杏「本当にお腹が空いている時は、味なんてわからないと思う」

P「俺は自分の料理の前に飴を舐められているとちょっと嫌」

杏「……」グー

P「早く作るから」

杏「わかったよ」

――アパート。

杏「ボロい」

P「うるさいな」

杏「おー、こたつ」テテ

P「いきなり潜り込むなよ」

杏「そうは言うけどさー、こたつがあるからって誘ってきたのはプロデューサーだしー」

杏「……ぶふっ。女の子を家に誘うのに、『俺んち、こたつあるからさ』」

P「誘われてるじゃねーか」

杏「否定しない」カチッ ジワー

P「おい、寝転がるな」

杏「まあ、言うほど汚くなくて良かったよ」

P「そうか? まあ、トイレだけはなるべくキレイにしようとは思ってるんだが」

杏「なんで?」

P「母親がトイレ掃除だけはやっててな」

P「やっぱり一番使うものを一番キレイにしないとダメだと」

杏「杏もゲームの画面はよく磨いているなぁ」

P「……」

杏「あ、据え置きのゲームないの?」

P「ないよ、テレビくらいなあるけど」

杏「はえー、ちっちゃいテレビだ」

P「ほっとけ」

P「さて。とりあえずさっさと作るか」

P「杏、ちょっと海苔を切っといてくれ」

杏「んん? ま、いいけど……」

P「あー、包丁じゃなくって、調理用のはさみ」

杏(はさみに調理用なんてあんの)

P「汁物はスープでいいかな」

杏「味噌汁とかでいーんじゃないの」

P「よし分かった」

ジョキ……ジョキ……

杏「こんなもんでいいでしょ」

P「ん~」

杏「もう出来てるの?」

P「まだだよ。冷蔵庫にお漬物あるから出しておいて」

杏「そんなのもあるの?」

P「取り皿は適当に出しておいて」

杏「はいはい」

P「言うこと聞いてくれる娘は好きだぞ」

杏「ご褒美がほしい」

P「飯作ってるじゃないか」

P(肉を加熱して、脂を捨てる……と)ザバー

杏「あっ、勿体無い」

P「いいんだよ、別に。この方が美味しい」

杏「そうなのー?」

P「なんか意外と食いづらい感じになる」

杏「結構適当に作ってない?」

P「ぶっちゃけめんつゆで煮て、卵でとじてご飯にのせれば親子丼だ」

杏「雑ですな」

P「めんつゆ最高だな」

P「……ん、出来上がりだ」

杏「おー」パチパチ

P「おい、箸をつけるな。まだまだ」

杏「えー」

P「どんな教育を受けてるんだ」

杏「あるものを食べるのは芸能界の基本」

P「そりゃ芸人の基本だろ。人がいる前では、その人に配慮するのが基本だ」

杏「ちぇー、くちうるさい」

P「飲み物と、お味噌汁、お漬物、よし」

杏「もう食べていいの?」

P「いただきます、だろ」

杏「ああ、そうか」


『いただきます』

P「……もぐもぐ」

杏「はふっ、ハフハフ」

P「でも、随分言うことを聞いてくれたな」

杏「何が?」

P「仕事は嫌がるくせに」

杏「ああ、だって、うちの中は仕事じゃないじゃん」

P「家事も仕事みたいなもんだと思うけどな」

杏「……家事なんかしたことないしさ」

P「ふうん?」

杏「なんかこう……お手伝いって、ちょっとやってみたかった、的な」

P「……」

P「毎日やらなくちゃいけないんだぞ、みんな」

杏「そりゃ大変だけどね」

杏「……はふっ」

P「……」

杏「……ズズ」

P「もうちょいよく噛んで食ってみ」

杏「はいはい」

P「……」

杏「……ふー」

杏「家事って、みんなやるもんなの?」

P「学校の授業とかでもやるだろう」

杏「あ、そう」

P「やらなかったのか?」

杏「いや……やらせてもらえなかった……というか」

P「……」

杏「まあ、うちの親は放任主義だし」

P「お忙しいんじゃないのか」

杏「忙しすぎて、レンジでチンしか見た記憶が無いよ」

杏「物はあるけど、心がない、みたいな?(笑)」

P(放任主義というか、なんか軽いネグレクトみたいな……)

P(甘やかしているっていうのを通り越しているような……)

P「じゃあ、今日帰っても一人なのか」

杏「ん……まあ」

P「……」

杏「あーいや、泊まってく気はさすがにないよ」

杏「着替えとか持ってないし」

P「いや、そのつもりはないけどな」

P「……で、飯はうまいか」

杏「美味しい! 卵がふわトロなのはなんでなの?」

P「二段階で卵を投入するからだ」


※「親子丼 めんつゆ」で検索してネ!

杏「あー、美味しかった」

P「ほれ、ぐだっとしてないで、食器を片付けなさい」

杏「えー? いいじゃん、別にー」

P「ダメに決まってるだろ。家事のレッスンだと思え」

杏「は た ら か な い」

P「お前は客じゃないから、諦めろ」

杏「ううっ、こんなの過重労働で労基署に訴えてやる」

P「……休みの話もしようかと思ってたのにな」

杏「うぐっ、ず、ずるい」

杏「ぶー」 カチャカチャ

P「冷えてきたから、実際に洗い物をするのは俺がやるから」

杏「なんか女子力あるね、プロデューサー」

P「家事能力は残念ながら、女子力に入らない」

杏「えっ、初耳だよ」

P「俺の知ってる女子の大半が自分ちのトイレ掃除をしたことがなかったんだ」

杏「……それ、普通じゃん?」

P「俺は週一で便器を磨かないと気がすまなくてな」

杏「そうなの?」

P「まあ、母親のこともあるが、みた森た◯や先生の……いや、言うまい」

杏「なんなの?」

P「で……」フキフキ

杏「おー、おつかれ」

P「くつろぎまくってるな、ゲームまで取り出して」

杏「もう、杏ここに住むよ」

P「……。家事をやってもらうことになるが?」

杏「ぬぐっ、しまった」

P「それより、ほら、スケジュールだ」

杏「うわっ、びっしりだ!」

P「……お前のところだけ取り出して、説明するぞ」

杏「よし、ここからここまで休もう」バッ、バッ

P「全部じゃねぇか」

P「で、歌番の収録が終わった後に隙間が出来るんだけど……」

杏「……」

P「ここは取材になるから、ちょっとメンバー全員でってことで調整して……」

P「そうするとこのへんで半休可能になるから、どうだ」

杏「やだー!」

P「何がだよ」

杏「それ、休みって言わない、仕事してないだけじゃん!」

P「……仕事以外の時間は休みじゃないのか」

杏「家事だって仕事みたいなものじゃん!?」

P「うーん、しかしな……」

杏「こう、休息というのはだね、パラダイスなんだよ」

P「……。バカンス、か?」

杏「そう! バカンスを半日しか取らないフランス人はいないっ」

P「今度フレデリカに聞いておこう」

杏「……ハーフは半日しか取らないかもしれない」

P「分かったよ……そこまで言うなら、今月は無理だが再来月に」

杏「さらっと来月が飛ばされてるんだけど」

P「それこそ来月は休む暇ないぞ」

杏「ううっ、プロデューサーの家に連れ込まれた挙句、こんな仕打ちを受けるなんて……」

P「散々こたつを満喫して、デザートもつけたのに、そう言うか」

杏「プロデューサーはおかしいと思わないの?」

P「何がだ」

杏「杏の個性といえば、働かないこと。働いている杏は、いわば個性を奪われているようなものだよ」

P「俺は女の子が泣いている顔が好きでな」

杏「引くわ、マジで」

P「……冗談はさておき、この間の新曲もめちゃくちゃかわいかったぞ」

杏(ちょっとマジでマジっぽい顔してる)

P「ま、アレだ。俺の中では、大事にするってことは、触らずにとっておくことじゃないってことだ」

杏「……えーっと」

P「杏らしさを尊重してないわけじゃなくって、やっぱり輝かせてみたくなるだろ」

杏「あ、そ、そう」

P「本当に嫌なら全部を無理強いはしたくないんだけど……」

P「杏は、結構好きなんじゃないか。アイドル」

杏「んー……」

杏「まあ、ファンレターと一緒に飴が送られてくるのは嬉しいけどね」

杏「印税で暮らしていけるようになったら、イケメンと結婚して、悠々自適の生活をしたいよ」

P「じゃあ、やっぱり家事だな」

杏「うわー、そういう持って来方をする?」

P「おっ、そろそろ時間か」

杏「ええ~? 出たくないよ」ごそごそ

P「こたつの電源を切る」カチ

杏「鬼!」

P「まあ、また腹減ったら食わせてやるから」

杏「じゃあ、また飴を忘れてこよう」

P「腹が減るくらい働いてくれてもいいんだぞ」

杏「やだ」

P「……ほら、着なさい」

杏「ううっ、寒いねぇ」ブルル

P「風邪引かないようにしろよ」

杏「はいはい」

おしまい

くぅ疲
フェス頑張ってネ!

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