P「ここがアイドル幼稚園か……」(321)



ここはどこかの国のとある幼稚園。
俺の名前はP、ここで新人保育士(=幼稚園教諭)をしている。


まこと「ぷろでゅーさー!」 たたた

ゆきほ「ひ~ん……ま、まって~まことちゃ~ん……」 たたたた


今日は元気いっぱいに遊ぶ子供たちの、かわいらしい姿をご覧いただこう。



このSSは、以前自分が書いた
P「アイドル幼稚園」
というSSの続きものとなっております。でも前作と直接繋がるような展開は特になし。
幼女アイドルともっときゃっきゃうふふしたいという願望だけで書きます。
ちなみに、この世界では保育園=幼稚園であり、保育士=幼稚園教諭となっています。



~ おままごと編 ~


まこと「ぷろでゅーさー! おままごとやりましょー!」

ゆきほ「ぷ、ぷろでゅーさーが、その……おとうさんやくをやってくださいぃ~」

P「ああいいぞ! じゃあ、準備するからちょっと待ってろよ~」


もちろん、俺には俺でちゃんとした名前があるのだが、
園児たちと他の先生たちからは『プロデューサー』というあだ名で親しまれている。

以前芸能事務所のプロデューサーをやっていたことを、自己紹介のときに言ってしまったからだ。
子供たちにとってはその意味がよくわからなくても、言葉の響きがなんだか面白かったのだろう。



まこと「じゃあボクがおかあさんやくね! ゆきほはこどもやく!」

ゆきほ「え……わ、わたしも……」

P「わかったわかった、じゃあ代わりばんこでやろうなー」


この子たちは、俺が担当する年中『765組』の菊地真ちゃんと、萩原雪歩ちゃんだ。
真っ黒なショートカットヘアのてっぺんに二房のあほ毛を凛々しく立たせているのが、真。
真はいつでも元気いっぱいでまるで男の子のようだが、実はこんな女の子っぽい遊びが大好きなのだ。

一方で、柔らかなブラウンの髪をショートボブカットにしている女の子が雪歩。
雪歩は見た目通りか弱くて、THE・女の子という感じ。最近ではようやく俺とも遊んでくれるようになった……。
そしてふたりは、765組の中でも特に仲良しなのである。



まこと「おかえりなさいぷろでゅーさー! ごはんにしますね!」

P「ああ、ありがとう真(ご飯一択なのか)」


まこと「おちゃわんにごはんいれて……」 ぺたぺた

まこと「おーもりですよ~! いっぱいたべてください!」

P「おお、これはうまそうだな! もぐもぐ……」


まこと「あー! たべるまえにいただきますはー?」

P「おっといかんいかん……いっただっきまーす!」

ゆきほ「ふ、ふえ~ん」


真は将来良い嫁になるな……と思っていたところで、娘(雪歩)が泣き出してしまった。
もちろん泣いたフリだが、そろそろ構ってもらいたくなったのであろう。



まこと「あ~ないちゃった~。よちよち」

ゆきほ「ままー」 ぎゅっ

P「(なんという眼福)」


どうやら娘役の雪歩はまだ赤ちゃんという設定らしい。
子供たちは別に打ち合わせもしてないのに、こういうアドリブを自然とこなすから面白いな。


P「よしよし雪歩、パパもいるぞー」 なでなで

ゆきほ「えへへ……ぱぱー」 ぎゅっ

P「(かわいい)」



まこと「じゃーこんどはゆきほがおかあさんね! ボクがこども!」

ゆきほ「う、うん。まことちゃん、わたしがんばる」

P「そんなに気負わんでも……」



ゆきほ「おかえりなさいですぅ。ごはんですか? それともおふろ?」

P「あ~そうだな、先に風呂に入らせてもらおうかな」

ゆきほ「は~い。じゃあおようふくをぬぎましょうね」 ぬがせぬがせ

P「はっはっは、雪歩は気が利くなあ」


雪歩が俺の服を脱がせてくれているような書き方になってしまったが、
実際にはひっつく雪歩に合わせて俺が自分でエプロンを脱ぎ、手渡しているだけである。


ゆきほ「あら……あなた、このくちべにのあとはなあに?」

P「え?」


え!?



P「ははは……いや、なんのことだか……た、たぶん電車に乗ったときにくっついたんじゃないかな」

ゆきほ「わいしゃつのせなかにどうやってくっつくんですかぁ?」

P「いや、その……」 おろおろ


まこと「ひそひそ……おくさん、あれケンカですよケンカ。やだわぁもう」

P「真、お前は子供役じゃなかったのか……」


いかん! 俺はこういうアドリブに弱いんだ! このままでは家庭崩壊してしまう!
と、そんな風に動揺していたところへ……さっそうと救世主が現れたのである。
お、お前は……!


??「それはみきのくちべになのー!」



P「(余計にややこしくなった)」


ゆきほ「あら、あなたおとなりのくろいさんのおくさんのみきちゃんじゃない」

みき「そーだよ! みきてきにはね、もうくろいさんとはやってけないかなーって」

みき「だからはにーとけっこんするの! あとまことくんももらってくの!」

まこと「えー!?」

P「(真、やはりお前もこっち側だったか)」


この子はお隣『961組』の星井美希ちゃんである。とある理由から、俺のことをハニーと呼ぶようになった。
もともとは茶色がかった短めの髪だったのだが、最近は髪を伸ばしなんと金髪に染められている。
まあうちの幼稚園では自由を重んじるところがあるので、特に親御さんにも注意はしないのだが。



みき「じゃあ、ばいばい。いこ! はにー、まことくん!」

ゆきほ「ちょ、ちょっとまって~。そ、そんなのわたし、ゆるしません!」

みき「じゃーどーするの? もうみきとはにーはらぶらぶなんだよ? きのうだっていっしょにねたんだから」

ゆきほ「ええ!」


お昼寝タイム中に勝手に忍びこんできただけなんだがな。黒井先生の目を盗んで出てきたらしい。
いやしかし、美希の体はあったかかった。どうして子供ってあんなに体温高いんだろう。


ゆきほ「……うぅ……」 じー


って、そんな目で見るな雪歩……。断じてお前が想像しているようなことは……
いや何を想像してるかわからんが……。



ゆきほ「う、うう……うぇ~ん」 しくしく ぽろぽろ

P「お、おいおい雪歩泣くなよ」

P「(しかも今度はガチ泣きじゃないか!)」

P「美希が言ってるのは嘘だって、俺は雪歩お母さんのことがいちば……だいすきだよ」


危ない危ない。一番好き、と言ってしまうところだった。
最近はいろいろありまして……
園児たちに対して一番とか二番とかの言葉を使って感情を表現してはいけないのであった。
どこの幼稚園でもそうなのかは知らないが。


P「ほ、ほ~ら! だっこしてやろう」 だきっ

ゆきほ「えぐ……だいすき? ほ、ほんとですか~?」 ぎゅっ

みき「あー、ずるいの! みきも! みきも!」

まこと「ボクもー!」


とまあ、こういう感じで俺は園児たちと毎日楽しく過ごしているのである。
うちの園児たちはみんなかわいくて、素直ないい子たちだ。



~ あいどるごっこ編 ~


あずさ「じゃあ、今日は何してあそぼっか~」

あみ「あみ、あれがいい! え~っと……」

まみ「あいどるごっこ!」

あみ「それ!」


こんにちは。私、三浦あずさと申します。
ふふ、私こう見えて幼稚園の先生をやっているんですよ~。
いまはあそび時間で、私が担当する年少さんの『なむこ組』の子たちと一緒に、楽しい時間を過ごしています。



あみ「あいどるごっこはいいね~!」

まみ「ぶんかのきわみ~!」


この子たちは、双海亜美ちゃんと、双海真美ちゃん。
亜美ちゃんと真美ちゃんは見ての通りの双子の姉妹で、ふたりともぴょんと飛び出る髪の結び方をしています。
ちょっぴりいたずらっ子だけど、本当は心やさしい良い子たちです。



いおり「またそれ~? あんたたちあきないわねー」

あみ「いおりんはやなの?」

まみ「いっしょにやろうよ~」

いおり「ど、どーしてもっていうなら……」


このおでこが光る長髪の女の子は、水瀬伊織ちゃん。
ちょっと素直じゃないときもあるけど、なんだかんだ言ってみんなにやさしく接するから人気があって、
自然とまとめ役になることが多い……そんな子ですね。

この3人は『なむこ組』の中でも特別仲良しで、いつもこうやって一緒に遊んでいるんですよ。
みんな見かけによらずとってもしっかりしてて、ときどき私のほうが子供になっちゃいます。



あずさ「これならユニットが組めちゃうわねぇ」

あみ「ゆにっと?」

まみ「ばす?」

いおり「ばかね、ゆにっとってのは……えっと」


あずさ「新幹少女の子たちみたいに、仲良くみんなで、アイドルすることよ~」

あみ「ひかりちゃん!」

まみ「のぞみちゃん!」

いおり「あと……り、りんちゃん?」

あずさ「ふふふ、つばめちゃん。じゃあホールにいきましょうね~」



私たち4人は、劇や入園式などを行うホールへとやってきました。
この幼稚園ではあそび時間にもこういうところが開放されていて、先生が付いてさえいればステージも自由に使えます。
アイドルごっこをやるには絶好の場所ですね。


あみ「なにうたうー?」

まみ「あれがいい! みんなでれんしゅーしてるやつ!」

いおり「『なないろぼたん』ね」


うちの幼稚園で練習する歌は、ちょっと変わったものが多いです。
なんと言いますか、アイドルの子たちが歌うような……どうやら高木園長先生のご趣味みたいです。
もちろん、普通の童謡とかもありますけどね。



あみ「きみがふっれったっから~!」

まみ「なーないろーぼーたんー♪」

いおり「すべてーをこいーでー♪」

あずさ「そ~めたよ~♪」


  ~♪
~♪ ~♪


こうやってステージで好きな歌を歌いながら踊ることを、この子たちはアイドルごっこと呼んでいます。
ふふ、ホールで遊んでいたほかの子たちも一緒に歌っているわ。

この年になってこんなことをするのもちょっと恥ずかしいけど、子供たちとならとっても楽しいですね。
と、そこへ……。


律子「こらー! まちなさーい! 眼鏡を返してー!」 ばたばた



とうま「へっへーやーだよー!」 だばだば

ほくと「ちゃお☆」 だばだば

しょうた「ま、まってよ~」 だばだば


年長さんの『九六一組』の男の子3人と、その担任の律子さんがホールへ走り込んできました。

茶色い髪の上にひと房の毛束がぴんと立っている子が、鬼がし……じゃなくて天ヶ瀬冬馬くん。
なんだかどこかの国の王子様みたいな雰囲気をした金髪の子が、伊集院北斗くん。
ライムグリーンのショートヘアをバンドでまとめた子が、御手洗翔太くん。
なんだかカラフルですね~。



律子「ぜぇ……ぜぇ……なんで、がきんちょたちは……こんなに走れるのかしら……」


そして2本のしょっか……あ、いえ、くせっ毛を持ったエプロン姿の女性が、秋月律子さん。
律子さんはこの幼稚園に研修に来ている学生さんで、
いつもこうやって男の子たちと一緒に楽しそうに遊んでくれています。


律子「楽しそうに……はぁ、はぁ……見えますか……。あーもう、あいつらまたどっか行っちゃった」



あみ「あー!」

まみ「りっちゃんだー!」

いおり「めがね、とられちゃったの?」

律子「そ~なのよ……まったく、あのやんちゃ坊主どもめ!」


あみ「かわいそー」

まみ「でもかわいーね!」

いおり「こっちのほうがいーんじゃない」

律子「あずさ先生……年少の子たちはいいですね。こんなに素直ないい子たちで……」 ほろり



あずさ「あら、でもあの子たち……えっと、ジュピター3人組でしたっけ? ちゃんと私の言うこと聞いてくれますよ」

律子「(それはきっと……)」 ちら

あずさ「?」 どたぷん

律子「……クッ」

律子「(って私だってそれなりに持ってるわよ! あずさ先生が規格外なだけ!)」



あずさ「律子さん、この子たちが歌うの観ていってください。とってもかわいいんですから」

律子「そうですね……ちょっと休憩」 ふうー


  ~♪
~♪ ~♪


律子「(ああ、癒されるわあ……)」

律子「(子供たちもそうだけど、あずさ先生もとても楽しそう)」

律子「(こういう先生になりたくて、私は勉強してるのよね!)」

律子「悪ガキどもには負けないんだから!」


       _
      '´   ヽ
    i  ノノハ)i |

     ヽ (l゚ ヮ゚ノリ  < いまさらになっちゃいましたけど、くらすひょうですぅ
      ⊂r‐iつ


 年少さん
 なむこ組(やよい、あみ、まみ) 担任:あずさ先生

 年中さん
 765組(はるか、ちはや、まこと、ゆきほ) 担任:P
 961組(ひびき、たかね、みき) 担任:黒井先生

 年長さん
 九六一組(とうま、ほくと、しょうた) 担任:小鳥先生、律子先生

 ※前のSSに登場した人物だけ掲載

       _
      '´   ヽ
    i  ノノハ)i |

     ヽ (l゚ ヮ゚ノリ  < ていせいですぅ。いおりちゃんわすれてましたぁ
      ⊂r‐iつ


 年少さん
 なむこ組(やよい、あみ、まみ、いおり) 担任:あずさ先生

 年中さん
 765組(はるか、ちはや、まこと、ゆきほ) 担任:P
 961組(ひびき、たかね、みき) 担任:黒井先生

 年長さん
 九六一組(とうま、ほくと、しょうた) 担任:小鳥先生、律子先生



~ あいどるごっこ編2 ~


はるか「こっちこっちー! ちはやちゃん、ぷろでゅーさーさん!」 ぐいぐい

ちはや「はるか、そんなにひっぱらないで……」

P「ははは、俺は逃げないってー」


おままごとが一区切りついたあと、俺はふたりの女の子とともにホールへとやってきた。
あのあとも雪歩たちは、なんだかんだ言って仲良く3人でおままごとを続けているようである。
真がずっとお父さん役なのは目に見えているがな……。修羅場になるのが容易に想像できる。



はるか「えっへへー! ぷろでゅーさーさん! すてーじですよ、すてーじ!」 ぴょんぴょん


この茶色がかったショートヘアを真っ赤なリボンでまとめているのは、天海春香ちゃん。
歌やお遊戯を誰よりも一生懸命に練習する頑張りやさんだ。
誰が長くだっこされるかで揉めていた3人の手から俺を救い出してくれたのも、この子である。


ちはや「はるか、うれしそう……ふふ」 にこにこ


一方で、紺味の強いさらさらの長髪を携えているのは、如月千早ちゃん。
歌うことが大好きで、最近生まれた弟にたくさん歌を聴かせてあげているらしい。
少し前はあそび時間にもあまり外に出なくなっていたが……
いまでは以前と同じように、仲良しの春香と一緒にこうして外で遊ぶ姿を見せてくれるようになった。



律子「あ、プロデューサー殿」

あずさ「!」 あほ毛ぴこーん

あずさ「…………」 こそこそ……


P「おや、律子じゃないか。眼鏡どうしたんだ?」

律子「それは言わないでください……」 ずーん

P「あーいやすまん、いつも通りやられたのか……」


ちはや「あ……あずさせんせいも」

P「……! あずさ先生! こんにちは!」

あずさ「……! ……こんにちは、プロデューサーさん」 そそくさ


なんと! ここには俺の憧れであるあずさ先生がいたのか! 春香、ファインプレーだ!
三浦あずさ先生は年少組『なむこ組』の担任であり、俺とはほぼ同期にあたる。
見た目通りとても柔和で人当たりもよく、児童からの人気も高い。

俺はここへ赴任してきたときから、密かに彼女に好意を抱いていたのである……!



P「アイドルごっこをしてたんですか? いやーあずさ先生なら本物のアイドルにだってなれますよ!」

あずさ「もう、プロデューサーさんったら……。私、ちょっと恥ずかしいです」 かぁああ

律子「あんまり鼻の下伸ばさないでくださいよ、プロデューサー殿」

P「な、なにを言っているんだ。そんなこと……」 ごしごし


しかし俺たちが来た途端に、あずさ先生はステージから降りてしまったようだな……。
歌って踊る姿をぜひ見たかったのに、どうしたんだろう?



P「ここに来たってことは、春香もこのステージでアイドルごっこをやりたかったんだな?」

はるか「そーなんです! ちはやちゃん、いっしょにうたお?」

ちはや「うん。ぷろでゅーさー、みててくださいね」

あずさ「まあまあ、プロデューサーさんはほんとに子供たちから好かれているんですね」

P「喜ばしいことです。ここにいる間だけは、みんな俺の娘みたいなものですしね」



はるか「ねえねえあみ、まみ、いおり。わたしたちもいい?」

あみ「あーだめだよー!」

まみ「まみたちがさきにつかってたんだよー!」

いおり「べつにいーじゃない、いっしょにつかいましょ」

あみ「いおりんがいうなら……」

まみ「ちかたないね」



  ~♪
~♪ ~♪


はるか「あーゆれでぃー♪」

ちはや「あいむれぃでぃ♪」

あみ「はっじめっよっお~!」

まみ「やればできるー♪」

いおり「きっとーぜぇたーいー♪」


みんな「わたしなんばわ~ん♪」



  ~♪
~♪ ~♪


子供たちが歌っている姿はとても楽しそうで、
俺たちは観客席で手拍子を送りながら、それをずっと観ていた。
自然と笑顔がこぼれてくる。やはりここに来て正解だった……。


P「やっぱり、本物のアイドルみたいだな……いや、それ以上にきらきらしている」

あずさ「ふふ、ほんとですねぇ」

律子「……私、こういう子たちをもっと笑顔にさせてあげられるような保育士になりたいです」



律子「もしなれなかったら、昔のプロデューサー殿みたいにアイドルプロデュースする、なんてのもいいかなぁ」

あずさ「あらあら。そのときは私もアイドルにしてくれますか?」

律子「ぜひぜひ! あずさ先生だけじゃなく、伊織や亜美たちなんかも一緒にプロデュースしちゃいますよ!」


P「ははは、律子だったら自分でアイドルになるのも夢じゃないんじゃないか?」

律子「やめてくださいよ……もう。そういうのはあずさ先生にだけ言っといてください」


このふたりなら、本当にアイドルにだってなれそうなもんだ。俺も昔こういう逸材と出会えていれば……
いや、よそう。いまの俺は子供たちを守る、いち保育士なんだからな。



~ お昼寝タイム編 ~


あみ「……zzz……」

まみ「……すぅ……すぅ……」

いおり「……う~ん……でこちゃんゆーな…………」

あずさ「(うふふ。みんなよく眠っているわ~)」


歌って踊った楽しいあそび時間が終わったあとは、お昼寝タイムです。
この幼稚園ではこうして、全組一斉に30分みんなでお昼寝をするんですよ~。
あら、でもひとり寝付けない子がいるみたい……。


やよい「…………」 ぱっちり



あずさ「(やよいちゃん、さっきのあそび時間でも寝てたから……)」

やよい「しぇんしぇー」 とことこ

あずさ「ふふ。ほら、こっちにいらっしゃい」

やよい「…………」 ぎゅ


明るいオレンジ色のふわふわ髪の毛をツイン・テールにまとめたこの子は、高槻やよいちゃん。
やよいちゃんはあまり泣かないし、もしぐずっちゃっても大きな声を出しません。
それに、ときには他の子たちのお姉ちゃんになってあげられるしっかりした子です。
でも……。



あずさ「眠れないの?」 なでなで

やよい「……しょーなんです……わたし、わるいこです」

あずさ「そんなことないわよ~。じゃあ先生と一緒に、ちょっとお散歩しよっか」

やよい「…………」 ぎゅう


この子のお家は、お父さんお母さんがとっても忙しいらしくて……なかなか構ってもらえないみたいなんです。
だからここにいる間は、私はこの子のお母さん。思いっきり甘えさせてあげるのです。
ふふ、こんなこと本当はいけないんですけど……他の子には内緒ですね。



やよい「……だれもいないです」

あずさ「そうねぇ。みんないまはお昼寝してるから……」

やよい「わたしとしぇんしぇーだけです」

あずさ「そうよ、ふたりっきり。みんなには秘密だからね?」

やよい「ひみつ……えへへ……」


私はやよいちゃんを抱っこしたまま、グラウンドへ出てきました。
さっきまであんなに大賑わいだったのが信じられないくらい、いまではとても静かです。
ほのかに響く、小鳥のさえずる声しか聞こえてきません。



小鳥「ちゅんちゅん」

あずさ「あら、音無さん」

小鳥「あずさ先生、抜け出してきちゃったんですか? やよいちゃん、こんにちは」

やよい「こんいちは」

あずさ「とっても気持ちよさそうなお天気だったから、やよいちゃんと日向ぼっこしたくて~」


この方は、年長さんの『九六一組』担任の音無小鳥さん。
最初は事務員志望でここに来たらしいんですけど、園長先生にティンと来られてしまったらしく、
あれよあれよという間に免許を取らされ、そしていまに至るということです。ほんとかしら?



小鳥「あずさ先生はいつでも自由ですねえ……でも、園内にいるだけ良しとしますか」

あずさ「この間は大変ご迷惑をお掛けしてしまって申し訳ないです~」


小鳥「あそび時間が終わって気付いたら港の見える丘公園にいる、って……あたしいまだにびっくりです」

あずさ「ふふ、それが自分でもよくわからなくて~……。そういう音無さんは、どうして外に?」


小鳥「それが、冬馬くんがまた抜け出しちゃったみたいで。探していたところなんですよー」

やよい「あしょこー」 ぴっ

小鳥「ぴよ! いました!」



やよいちゃんが指差した先に、音無さんが探していた冬馬くんがいました。
あら、でも冬馬くんだけじゃなくてあとひとりいるみたい……。


はるか「もう! どーしてそーいうことするの!」

とうま「う……ね、ねんちゅうぐみのくせになまいきいうなよー!」

はるか「かんけーないもん! ほら、りつこせんせいのめがねかえして!」


あれは……『765組』の春香ちゃんですね。
春香ちゃーん、と声をかけようとしたんですけど、音無さんに止められてしまいました。


小鳥「しー……ちょっとだけ、様子を見ましょう」



はるか「りつこせんせい、めがねなくてほんとにこまってたよ?」

とうま「…………」

はるか「あしたから、もうようちえんこれなくなるかも、だって」

とうま「え……」


律子さんは実際には、
「替えの眼鏡どこにやったかしら……探し出さないと無事に明日来れる気がしないわー」と
言っていたんですけどね。はるかちゃんにとっては少し違って聞こえたみたい。



とうま「そんな……」

はるか「だから、かえして」


とうま「…………」 じわぁ

とうま「……! ……いやだ、おまえにはかえさない」 ごしごし

はるか「! もう、わからずや!」


とうま「……ちがう! おれ、じぶんでかえすから」

はるか「……ほんと?」



とうま「うん……かえす」

はるか「ちゃんとあやまるんだよ?」


とうま「わかってる…………あ、あまみ」 すたすた

はるか「なあに?」


とうま「……す、すまねえ」 たたた

はるか「そんなあやまりかたじゃだめだよー!」



小鳥「…………」

あずさ「…………」

やよい「……すや、すや……」


小鳥「……みんないつの間にか、おっきくなってるんですね」

あずさ「ええ……。成長が早すぎて、私なんてすぐ追い抜かれちゃうんじゃないかしら」

小鳥「ここに入って来たばかりの頃は、ふたりともただやんちゃなだけだったのに……」



小鳥「……あたし、戻ります」 すたっ

あずさ「あ、音無さん……あの、化粧室に行ってからのほうが……」

小鳥「……! い、いやですね。この年になると涙もろくて」 ごしごし

あずさ「……私もそろそろ戻ります。やよいちゃんも寝ちゃったみたいですし」


てくてく……


あずさ「(こうして私の腕の中で眠るこの子も、いつかは……)」


でも、いまだけは……。
そんなことを考えながら、やよいちゃんの小さな体をぎゅっと抱きしめて……私は、教室へ帰りました。



~ 遠足編 ~


P「よーし、それじゃあ遠足に出発だ!」

みんな「は~い!」 ぞろぞろ

P「ちゃんと手繋いでくれよ~まじでな~」


今日はみんなが待ちに待った遠足だ。
まあ遠足と言っても、少しばかり離れたところにある港の見える丘公園に行くだけだが……
しかしながら、先生方にとってこのような園外活動はとてもプレッシャーのかかる行事なのである……!



はるか「ちはやちゃん、いっしょにいこ!」

ちはや「うん。ぷろでゅーさーも……」 にぎ

P「わかったわかった」

まこと「あーずるい! ぷろでゅーさー! こっちのてはボクと!」

ゆきほ「ま、まことちゃん……わたしもぷろでゅーさーと……」 ぼそぼそ


ちなみに、今日の遠足は年中組のみによるものである。つまり『765組』と『961組』だけ。
したがって本日、俺はあずさ先生のお顔を見ることができないのだ……。



P「おっと、信号だ。みんなー、横断歩道ではあわてちゃだめだぞ。車にぶつかるからな」

ゆきぽ「ぽぇー……」 がくがくぶるぶる

P「あれが青になっても、まわりを見ながら、そして手をつなぎながらゆっくりだ」

P「向こうにいる友達に声をかけたりしてもダメだぞー」


ちはや「(しんごうはきをつける……こえをかけてはだめ……まわりをみてゆっくり……)」

P「わかったな、千早?」

ちはや「はい! わたし、おとうとにもしっかりおしえてあげます! くるまはぜったいきをつける!」



P「やっと着いたか……」

P「じゃあ、笛でぴーっと鳴らすまであそび時間! そしたらお昼ごはんなー」

みんな「は~い!」

P「でも、絶対この広場から出ないよーに! わかりましたかー?」

みんな「は~い!」


道中春香が何度も転んで泣きそうになったりしたが、それ以外は特に言うこともなく、
俺たち一行は無事に目的の公園へとたどり着くことができた。


はるか「ふぇえ、とばされたよぉ……」 しくしく

ちはや「は、はるか……だいじょうぶ?」



屋外での自由時間では、常に俺たち保護者が児童たちの行動に目を光らせていないといけない。
園内のあそび時間とはわけが違うのだ。

物騒な事件が多い昨今、こんなときこそ特に注意して気を配らなければ……。
と、そんな風に目を光らせていると、もうひとつ別の幼稚園の子たちがいるのを発見した。


P「(おや、あの子たちは……)」


あい「りょうさん! えりさん! つぎ、なにしてあそぶっ!?」 ぴょんぴょん

りょう「そうだねー、じゃあかくれんぼしよーよ。……ってあれ?」

えり「ほかのようちえんのこ、たくさん……?」


P「(あの割烹着……バンナム幼稚園の子たちか)」



はるか「あー! あいちゃんだ!」 だだだ

あい「あ! はるかさんっ!」

りょう「あいどるようちえんのこたちだったんだ」

えり「きぐーだね」


どうやら、春香たちはこの子たちと前からの友達だったらしい。
やっぱり子供たちは子供たちで独自のネットワークがあるんだな。


あい「はるかさんたちも、いっしょにかくれんぼしませんかっ!?」

はるか「もっちろん! ぷろでゅーさーさんも!」 ぐいぐい

P「わかったわかった……」



あい「あたし、ひだかあいです! ねんちゅーぐみですっ!」 ぴょんぴょん


先ほどからずっとぴょんぴょん跳ねている、見るからに元気そうなこの子は日高愛ちゃん。
愛がその大きな声を出すたびに、茶色のショートボブヘアの先についたあほ毛がふさふさと揺れている。
……しかし、ひだかあい?
なんかどこかで似たような名前を聞いたような……昔プロデューサーをやってたときか?



りょう「あきづきりょうです。……ねんちょうぐみ、いないですよね?」 きょろきょろ


ミントグリーンの髪色をしたボブカットの子は、秋月涼ちゃん。
なんとこの子は、律子の“従妹”なんだそうだ。世の中狭いもんだな。
だが律子に会うのをなぜか怖がっているようだ……なにか秘密でも握られているのだろうか。



えり「みずたにえりです。あの、よろしくおねがいします……」 しゅるるる


アシンメトリーな形をしたショートヘアの女の子は、水谷絵理ちゃん。
愛とは反対に、この子の声は語尾にいくにしたがってとても小さくなっていく。
容姿はこの年の女の子にしてはかなり良いのに、自分に自信がないのだろうか……
決して引きこもりなどにならないように、健やかに成長してほしいものだ。



みんな「じゃん、けん、ぽん!」


あい「あー! あたし、おにになっちゃった!」

りょう「じゃあやりなおそっか」

えり「そうだね」

まこと「え!? なんでー!?」

あい「がんばるよー!」 ふんす


りょう「だって……」

えり「こうかい、するかも……?」

ちはや「こうかい?」

P「千早。やめとけばよかったーって思うことだよ」

ゆきほ「ぽぇー……こ、こわいですぅ……」 がくがく



あい「だいじょーぶです! じゃあいくよー! いーっち!! にー……」


涼と絵理がおろおろしている中、愛による突然のカウントによりかくれんぼは始まった。
みんな思い思いの隠れ場所へと散らばっていく。
俺も俺で、簡単すぎず難しすぎないところを探して移動しなければ。

いやーしかし、よく声が響く子だなあ。
後悔とか言ってたけど、もしかしたら愛は見つけるのがとてもうまいのかな?
まあ、所詮子供が言うことだし、何が起こるってわけでもないだろう。

……と、そのときまではそんなことを思っていたのである。


あい「……きゅうじゅきゅっ! ひゃっく! よーっし!!」



あい「さいしょはだれがいいかなー! やっぱりはるかさんかなっ!」

あい「えーっと……ひろさは、このひろばだけにして……ん、ん」


あい「いっくよー! すぅうううう…………」


                      りょう「あ、あいちゃんだめだって!」 こそこそ

                      えり「みみ、ふさがなきゃ……!」 ぎゅっ




あい「

        ┏┓┏┳┓      ┏┓      ┏┓┏┓            ┏━┓┏┓┏┓┏┓┏┓
   ┏┓ ┃┃┃┃┃    ┏┛┗━┓┏┛┗┛┗┓          ┗━┛┃┃┃┃┃┃┃┃
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   ┗┛ ┗┛┗┻━━┛  ┗┛┗┛      ┗┛            ┗━━┛  ┗┛┗┛┗┛ 」



  キィン―――…………

                    ざわわわわわわ!!!


P「!?」

はるか・ゆきほ・まこと・ちはや「!?」

P「(う、海が揺れている……!)」

はるか「(わたしのなまえ……!?)」 どっきどっき


あい「みみをすませて……えーっと、いちばんどきどきしてるほうは……」

あい「!」 ぴこん

あい「はるかさーん! いまいくよーっ!!」 たたたた



その後のかくれんぼの様子は、まさに混沌の一言に尽きる。
愛はそのレーダーにより次々とみんなを(無理やりに)探し出していった。
そして最後の雪歩を見つけるときにいたっては、雪歩が恐怖のあまりおもらしをしてしまうという始末……。


ゆきほ「……えぐ、ひっぐ……うぅ……」 しくしく ちょろちょろ……

P「よしよし。替えのパンツを持ってきてるから、安心しろ」


勘違いしないで欲しいが、俺は常に女の子のぱんつを携帯しているわけでは決してない。
遠足のときにはこういうアクシデントが起こるもんだから、事前に先生方みんなで準備しておくものなのだ。



あい「たのしかったねーっ!!」 ぴょんぴょん

はるか・ちはや・まこと「……」 がくがく


りょう「あの、なんていうか」

えり「ごめん、なさい……?」

P「……つぎは俺が鬼やるから」



P「いーっち!」

P「にーい!」


大人の目線からすれば、子供たちが隠れている場所を探すのはたやすいと思う方も多いだろう。
しかし決してそんなことはないのだ。あいつら本当に発想が違う、どこに隠れるかわからない。
こないだなど、まさか雪歩を探し当てるためにスコップが必要になるとは思わなかった……。


P「……きゅーじゅきゅ! ひゃーっく! よし、みんな隠れたな。全力でいくぞ……!」

P「……おや? あれは……」



黒井「ハーッハッハッハ!」 てくてく

ひびき「…………」 ぎゅっ

P「…………」


第二部へ続く



第二部スタート


~ なんくるないさー編 ~


P「(黒井先生と……我那覇響ちゃんか。この子、外では初めて見たな)」

黒井「ハンッ! 誰かと思えば、弱小765組のプロデューサーではないか! 惨めな鬼役が良く似合うな!」

ひびき「…………」

P「(ずっとうつむいている……)」


黒井先生に連れられてやってきた女の子は、我那覇響ちゃん。
長くて大量の黒髪を大きなリボンでまとめ、ポニーテールの形にしている。

この子は数ヶ月前、親御さんの仕事の都合でこちらに引っ越してきたらしい。
あまり外で遊ぶタイプではないのか、いつもあそび時間は貴音と本を読んだりしているようだ。
そして俺はいままで、この子と話したことがなかったのである……。


P「(かくれんぼの途中ではあるが……これはチャンスかもしれない)」



P「こんにちは、黒井先生。こんにちは、我那覇ちゃん」

黒井「私は君のような者に挨拶する口など持っていないがね!」

黒井「しかーしッ! 響ちゃん、君はちゃんとこのひとに挨拶しようね? ほら、こんにちはって」


ひびき「…………」 ぎゅっ

P「(極度の人見知りなのか? 黒井先生の手を握って離さないぞ……)」

黒井「え、えっと、どうしたのかなァ響ちゃん」 あたふた



P「無理に挨拶させなくても大丈夫ですよ、黒井先生。ほら、我那覇ちゃん……顔だけでも、見せてくれるか?」

ひびき「…………」

黒井「響ちゃん……」


ひびき「……うぅ……」 ちらっ

P「(やっと顔を上げてくれたな。お、これは将来べっぴんさんになるで……)」


ひびき「…………え!?」

P「ん? 俺の顔になにか……」



黒井「どうしたのかなァ……って!?」 ばしっ

黒井「(響ちゃんが私の手を……振りほどいただと!? 有り得ぬっ!)」


ひびき「……!」 たたた

P「(離れていく……やっぱり、あまり知らないひとは苦手なのかな)」


ひびき「…………」 くるり たたたたた

P「あれ?」

P「(助走? こっちに向かって走って……!?)」


ぴょーん!



P「!?」 がっ

P「(首に、抱きついてきた!? ジャンプだけで!?)」

ひびき「…………」 ぎゅうう


P「(バランスが……!)」 ぐらり……

P「だが、負けるかぁああ!!」 ぐるん ぐるん ぎゅ

ひびき「~! ~~!」 ぐるん ぐるん ぎゅぅうう



P「……ぜぇ……はぁ………」

ひびき「……にぃに」 ぎゅう

P「(にぃに? お兄ちゃんのことか?)」

黒井「(私は最近になってようやく手を繋いでもらえたというのに……! この男は一瞬で……!)」


P「俺は、我那覇ちゃんのお兄ちゃんに似てるのかな?」

ひびき「…………」 こくこく

P「(あまり喋るのは好きじゃないのか? 活発そうな見た目に反して、無口な子なのかもしれない)」



ひびき「あ、あ……えと…………あ……わ」

P「………」

ひびき「……わんぬ……ぁ、ぁらん…………ぅ、うぅ!」 ぷるぷる

P「(違う……この子はきっと、本当は無口なわけじゃない)」



ひびき「……じ、じぶん! ……なまえ…………」 ぽろぽろ

P「(このイントネーション、沖縄弁か……? これは、つまり……)」

P「…………ゆっくりでいいさ」 なでなで



ひびき「……ひびき。がなはちゃん……じゃない、……ぞ」 ぽろぽろ

P「……ああ、響。よく言えたな、偉いぞ」 ぎゅう



P「(あとから黒井先生に聞いた話では、こうだ)」


響がここに引っ越してきて、新しい幼稚園になって、最初の挨拶。
そこでこの子は、一生懸命標準語を話そうとしたが……うまくいかなかったのだという。
それで、つい……慣れていた故郷の言葉、沖縄弁を遣ってしまった。

みんなびっくりしただろう。なんせ聞きなれない人には外国語のように聞こえるからな。
そして、同じくらい……響もびっくりしたはずだ。そして、わからなくなったはずだ。


P「(なんで自分はここにいる? なんで言葉が通じない? なんで……兄がいない?)」


そして、教室にひきこもりがちになってしまった。そんな響に声をかけてくれるのは……。
美希と貴音と、黒井先生だけだったのだ。



ひびき「にぃに……じぶん……うとぅ……こ、こわく……ない?」

P「!!」


誰が悪いわけでもない。
周りの子供たちも、この子の親も、もちろんこの子も……決して、誰も悪くない。
だけど、この子の目には、みんなが自分のことを怖がっているように見えてしまったのだ。

誰も責められないからこそ、俺はなんだか少し……目頭が熱くなってしまうのであった。



P「……はっはっは、俺が響を怖がるわけないだろ?」 ぽん、ぽん

ひびき「…………」 ほっ

P「(こういうときはたしか……)」



P「響。俺は……えっと、なんくるないさー、……だったか?」

ひびき「!!」

ひびき「うん! なぁんくるないさー!!」 ぎゅっ



黒井「(私の数ヶ月はいったい)」



ちょんちょん


P「ん?」

はるか「ぷろでゅーさーさん……?」

あい「どーしたんですかっ!?」


おっとしまった、俺はかくれんぼの途中だったのだ。しかも鬼役で……。
いつまでたっても探しに来ない俺を見かねて、春香と愛が出てきてしまった。


P「黒井先生……響をかくれんぼに参加させてやっていいですか?」

黒井「フン……勝手にするがいい! 元よりそのつもりでここへ連れて来たのだ!」

P「ありがとうございます。よし、みんなで遊ぼうな! 響!」

ひびき「うん! くろいせんせーも!」 ぐいぐい

黒井「な、何ィ!?」



~ ぬこぬこ体操編 ~


えり「…………」

えり「(かくれんぼのとちゅうだけど……)」 きょろきょろ

えり「だれもいない……ぬこぬこするなら、いまのうち……?」


えり「ぬっこぬこ~……ぬこぬこ、ぬこ……♪」 ふりふり


ひびき「えりちん? みっけ!」

えり「!?」 かぁああ


ひびき「……ぬこ?」

えり「…………」


ひびき「……ぬっこぬこ~♪」 ふりふり

えり「!?」 かぁああ



~ ランチタイム編 ~


たかね「あなたさま。こよいは、つきがきれいですね」

P「ちょうど昼飯時に何を言っているんだ……ああ、この卵焼きのことか」

たかね「なんともめんようなふんいきをかんじます」 ぐぅうううう

P「ほら、一個やるよ」 ひょい


このふわっふわもっふもふな銀髪の女の子は、先ほどからちらほら名前が出ている四条貴音ちゃんだ。
なんでもあの空に浮かぶ月のお姫さまらしい……と、園児たちの間でもっぱらの噂である。
まあそれもあながち間違いでもなさそうな、そんなミステリアスな雰囲気を放つ少女だ。



たかね「むぐ、むぐ……これは…………ごくん」

たかね「たいへんおいしゅうございました」 うっとり


P「……もう一個やるぞ」 あーん

たかね「あーん……んむ、んむ…………これは……」

P「(かわええ。これだから貴音に餌付けするのやめらんねえんだ)」


なんだかんだあったあそび時間も終わり、愛たちは自分たちの引率の先生のところへ帰っていった。
いまは待ちに待ったランチタイムだ。
みんなそれぞれかわいらしいお弁当箱のかわいらしい中身をつついている。

ちなみに今日はせっかくの遠足なので、担任とクラスを入れ替えてのランチタイムとなっている。
つまり俺が『961組』、そして黒井先生が『765組』の場所で昼食を食べ、それぞれ親睦を深めているのである。



ひびき「はいさぁい!」 がしっ

P「おっと、響かー! どうしたどうしたー!」 わしゃわしゃ


ひびき「んふふ……にぃに、わんとまぁじゅん、たべよ?」

P「(弁当箱持って隣に座ってきたな。てことは)」

P「一緒に食べるのかー? もちろんいいぞ!」


たかね「ふふふ……ひびき、きょうはとてもうれしそうですね」

ひびき「たかねー! えへへぇ……」 てれてれ



目の前に貴音、となりに響……。
ふたりとももきゅもきゅと一生懸命にお弁当を食べている。その顔は満面の笑みだ。
そして口を動かす度に、ふたりのふわふわの髪が揺れる……。


P「(あ、これが天国か。天使が見えるもんな)」

P「ほおら響。ほっぺにケチャップが付いてるぞぉ」 ふきふき

ひびき「んー」


響はすっかり俺になついてくれたようで、目をぎゅっと閉じながら俺の為すがままにされている。
なんだ、なんなんだこれは! 妖精か! 黒井先生がべた惚れするのもよくわかぞォ!
などと思いながら俺は幸せ気分でいたのだが、そこへなんと……。


??「みきもいっしょにたべるのー!」


もうひとりの妖精が現れたのである!!!



みき「ひびき。そこはみきのばしょだよ?」

みき「みきははにーのおよめさんになるんだから、ひびきはちがうとこにいったらいいっておもうな」

ひびき「ええ!?」

たかね「ひびき。これはみきのうそというものですよ」

ひびき「ええ!?」

みき「うそじゃないもん! やくそくしたもん! ね、はにー?」

P「(したっけ。いやしたような気がするな。美希があまりにも可愛いもんだから)」



P「ごほん……いいか、よく聞くんだ美希」

P「俺の隣は……もうひとつ空いている……!」 ゴゴゴ


みき「!」

みき「はにーあったまいーの! じゃあみきはひびきのはんたいね!」 とすん


P「(左右に美希、響。そして正面に貴音。隙のない布陣が完成したぞ……!)」

みき「えへへ……はにぃとごっはん♪ はにぃとごっはん♪」


美希は、良くも悪くも一途だ。
自分に興味のあるものには一直線、他のものには眠くなる。
だがこんな性格だからこそ、響に対して偏った印象を持たなかったのだろう。
しかしそんな小さなことひとつが、昔の響にとってはどれだけの救いになったことか……。



ひびき「……にぃに。みきとにぃびち、するぬ?」

P「(この顔、このトーン。おそらく本当に美希と結婚するのかどうか聞いているんだろうな)」

たかね「どうなのですか?」 ずい


P「……するかもしれないし、しないかもしれない」

P「みんながもーっと大人になって、そのときまだ好きでいてくれる人がいたら、俺はその人と結婚するよ」

みき「じゃーやっぱりみきなの! みきはいっしょーはにーのことすきだもん!」


ちなみに、なぜ美希がこんなに俺のことを好きなのかと言うと……俺が美希の王子様で、命の恩人だからだ。
美希はいつも自分に対して一生懸命に接してくれる俺のことが、少しばかり気になっていた。
そして運命の日、交通事故に遭いそうだった美希のことを、俺が命を懸けて助けたのである。

……まあ全部、美希がみた夢の中の話なのだが。そんなヒーローみたいなことはしていない。
その夢をきっかけになついてくるようになったので、あながちでたらめとも言えないけど。



ひびき「わ、わんやしがし……き……さ」 ぼそぼそ

P「?」

たかね「……あなたさま」 ぼそぼそ


なにやら貴音が身を乗り出し、耳打ちしてきた。
長くてもっふもふの髪が俺の顔にあたる……ああ、子供ってやっぱ良い匂いがするなあ。


たかね「ひびきは、こういっているのです……」 ぼそぼそ

たかね「わたくしだって、あなたさまのことを、いっしょうおしたいします……と」


ひびき「あー! たかね!!」 かぁああ

P「(クソ、どいつもこいつもかわええ)」



~ 一方その頃偏 ~


はるか「くろいせんせい、わたしのくっきーたべる?」

黒井「ハンッ! 765組ごときから施しは受けんぞ! それに私は甘い物が苦手で……」

まこと「たべないならボクがもらうー! へへ、やっりぃ!」 ひょいぱく

ゆきほ「あ、いいなぁ……はるかちゃん、わたしもいい?」

はるか「もちろん! たべてたべてー! おかあさんといっしょにつくったんだー!」

ちはや「もぐもぐ……すごいはるか、おいしい」


わいわい


黒井「…………」



はるか「…………」 じー

黒井「な、なんだというのだね君ィ……」

はるか「くろいせんせい、わたしたちといっしょなの、いや?」 じわぁ……

黒井「い、いや決してそんなことは……」


はるか「うぅ……」 うるうる

まこと「あー! くろいせんせー、はるかなかせたー!」

ゆきほ「は、はるかちゃんなかないでぇ……」

ちはや「…………」 じろ


黒井「……クッ!」



黒井「……天海春香、いや……春香ちゃん」

はるか「…………なに?」 うるうる


黒井「このクッキー、ひとついただくよ」 ひょい……ぱく

はるか「あ……でも、あまいのきらいなんじゃ……」


黒井「…………」 もぐもぐ

黒井「……うまい。どの高級菓子よりも、美味だ」

はるか「……ほんと?」 ぱぁあ



はるか「えへへ……くろいせんせい、ずっとあっち(961ぐみ)みてむずかしいかお、してたから」

黒井「…………」


はるか「だから、ちょっとでもこっちがたのしくなったらな、って……」

黒井「……?(おやぁ、なんだこれは?)」


はるか「それに、あまいものは、あたまがすっきりするんですよ!」 てれてれ

ちはや「…………」

黒井「(気が付けば……頬に一筋の涙が……)」


はるか「えへへ……」

ちはや「……はるか、こっちにももういっこちょうだい」

はるか「うんー!」 くるり たたた

黒井「(これが……団結だというのか! 認めん! 認めんぞ私はァ!)」 ぼろぼろ

あかん、ラリホーかけられてしまった
ちなみになんで黒ちゃんが765組を敵対視してるかというと、
961組がいっちゃんかわいいと思ってるからです

    (⌒'
   . '´` ⌒ヽ
    ! リ(ヾ))リ,i
  (ノ´(l.゚ ヮ゚ノ ゝ < みき、かくせいしたの! いっきにいくの

  '爻⊂jrv)づ'
   ´'ノ/_j_jゞ´
    'ーし'ノ



~ あずさ先生お休み編 ~


P「あずさ先生は今日お休みなんですか?」

小鳥「そうみたいですね……風邪を引いてしまったんだとか」

P「風邪ですか……こじらせないといいんだが……」


小鳥「プロデューサーさん。申し訳ないんですけど、今日は年少組のほうもみていただけますか?

小鳥「律子さんも、今日はそちらに行ってもらうことにしますので」

P「わかりました。音無さんも今日は年長組の遠足ですよね、どうか気を付けてください」

小鳥「はい。では、行ってきますね!」



P「というわけで、今日は年中組と年少組の合体保育だ!」

あみ「がったいー!」

まみ「かっこいー!」


黒井「年中組のみんなは、お兄さん、お姉さんらしいところを見せてやるのだぞー!」

みんな「は~い!!」


わいわい


P「さて、無事に終わるといいが。……って、ん?」

やよい「…………」 くいくい



~ やよい編 ~


やよい「ぷろじゅーしゃー」

P「おお、どうしたやよい」

やよい「しぇんしぇーは?」

P「それが、いま元気なくてゴホンゴホンしてるんだよ~。でも大丈夫、すぐ帰ってくるからな!」


P「(……すぐ治るんだよな? やっぱり心配だ……だが、子供たちの前ではいつも通りの顔でいないと)」


やよい「…………」



やよい「……て、かしてくだしゃい」 ぐいぐい

P「手? こうか?」


やよい「はい、た~っち」

P「え?」 ぱちん

やよい「いえい!」


P「…………」

やよい「ぷろじゅーしゃー、げんきでました?」

P「……! ああ! ありがとうな、やよい!」 なでなで


P「(…………俺としたことが……)」



ちはや「あ……たかつきさん」

やよい「…………」 ぷい たたた

ちはや「……!」 ずーん


P「(見かける度にちょっかい出してたからな……)」

P「ち、千早。ほら、あっちで響たちと遊ぼう!」

ちはや「……はい」 ずーん



~ ぬこぬこ体操編2 ~


ひびき「ぬっこぬこ~♪」 ふりふり

あみ「ぬこぬこ♪」 ふりふり

まみ「ぬこ~♪」 ふりふり


P「(なんだあれ? ぬこ? 初めて見たけど、ああいうのが最近の流行なのか)」

ちはや「あれといっしょは……はずかしいです」

P「そ、そうだな」        アー! ヌコヌコタイソウダー! >

P「(やっぱり流行ってるのか!?)」



P「なあ、みんなはぬこぬこ体操って知ってるか?」

はるか「しってるよー!」

まこと「ボクもー!」

ゆきほ「わ、わたしも……」

ちはや「みんなしってるんだ……わたし、しらなかった」


律子「なんでも、とあるネットアイドルが動画をアップしてから爆発的に人気になったんですって」

はるか「しかもそのこ、わたしたちとおんなじくらいなんだってー!」

P「つまり、幼稚園児ネットアイドルってことか? はぁ~……世の中色んなアイドルがいるもんだ」


律子「最近はわりとあるらしいですよ。ぬこぬこ体操の子以外にも、あと花みたいな名前の子とか……」

P「へ~。まあ、子供たちの間で流行ってる体操なら今度検索してみるかな」

P「はは、意外と身近な人物だったりして!」



~ ひびたか編 ~


たかね「ひびき」

ひびき「たかねー! ぬっこぬこ~♪」 ふりふり


たかね「…………」 ぐい ぐい

ひびき「えっ? えっ?」


あみ「あーひびきんいっちゃうー」

まみ「あーぬこいっちゃうぬこー」



ひびき「たかね……?」

たかね「……ひびき、そこになおりなさい」

ひびき「……うぅ……たかね、おこってからるぬ?」 ちょこん


 ※ ウィ、響ちゃんは「たかね、おこってるの?」と発言しているのだよ!


たかね「…………おこってなどいません」 ぎゅうっ

ひびき「えっ?」



たかね「ひびき。わたくしは、ひびきのいちばんのおともだちです」 ぎゅう

ひびき「うん……えへへ」


たかね「ですが、わ、わたくしはわるいこです……」 ぷるぷる

ひびき「わるいこ?」


たかね「ひびきが、ちかごろみんなとなかよくしているのが……いやだったのです」

ひびき「…………」



たかね「ひびきが、みんなにとられてしまうのではないかと……」

ひびき「……たかね」 ぎゅうう


たかね「だから! た、たかねは……わるいこなのです……」 うるうる

ひびき「……たかね。わんや……ちが、……じ、……じぶん!」


たかね「ひびき……?」



ひびき「じぶん、たかねの、こと……ひぃばん! んと……いちばん!」

たかね「…………」


ひびき「だ……だいすき、だぞ!」 ぎゅうう

たかね「……!!」 じわぁ


ひびき「えへへ……たかねに、いうためんかい……く、くのことば……れんしゅうしちゃんやさー」

たかね「ひびき……!」 ぽろぽろ




黒井「…………」 ぼろぼろ

P「(黒井先生に連れられて来てみれば……俺はとんでもないものを見てしまったようだ)」 ぼろぼろ



~ 双子でこ編 ~


P「…………」 ぽろぽろ

あみ「にーちゃんどったのー?」

まみ「ないてるのー?」


P「ああ、でも悲しいわけじゃないんだ。感動していたんだよ」

あみ「かんどー?」

まみ「とーほぐー?」

いおり「ばかね、かんどうってのは……えっと」

P「嬉しくて嬉しくてしかたないってことさ」



P「そういえばぬこぬこ体操はもうしないのか?」 ごしごし

あみ「ひびきんあっちいっちゃったんだもん」

まみ「あいどるごっこしたいよー」


P「(ちなみに今日は、ホールを開放していないのでアイドルごっこはできない)」

P「(年少+年中だからいつもよりみんなハイになってるし、先生方も少ない人数でそこまで見渡せないからな)」


いおり「ねえねえ。あずさのおみまい、いきたいんだけど」 くいくい

P「だめだよ、お前たちに悪い菌がうつっちゃうだろ」

いおり「けちねー」



P「お見舞いに行きたいだなんて、伊織は優しいなあ……」 なでなで

いおり「や、やさしくなんて! そーいうのあたりまえでしょ!」

あみ「あーいおりんてれてるー!」

まみ「んっふっふ~、にーちゃんのことすきなのー?」


いおり「う……す、すきじゃないもん……」 うるうる

P「わぁ、泣くな泣くな! ほ~ら高い高い」

いおり「……そ、そんなことされたって…………きゃー♪」

あみ「あー、いーなー!」

まみ「にーちゃんまみにもやってー!」



いおり「ひやーん♪」

P「…………たかいたかーい」 ちら


あみ「あみもー」 くいくい

まみ「まみにもー」 くいくい

P「……(かわいい)」


P「よーし伊織、次は肩車だぞっ!」

いおり「た、たかいわ……」 ぷるぷる ぎゅ

P「はっはっは、ちゃんと俺の頭つかんでろよ~」 てくてく

あみ「あーん、にぃちゃーん」 とことこ

まみ「ま、まって~」 とことこ



P「…………」 てくてく

あみ「……んぐ!」 どてん

まみ「あ~ころんじゃった……あみ、だいじょぶ~……?」


P「…………」 すっ とすん

いおり「や、やっとおりれた……」 ぷるぷる


あみ「うぇ、うぇええ……」 うるうる

まみ「あ、あみ……」 おろおろ


P「…………」



あみ「うぁあ゛あ――

P「大丈夫か亜美!! どおーしたぁ!!!」 がしっ ぎゅうう!

あみ「ふぇ!?」


P「どーした亜美!? 転んじゃったか? 痛かったな、でも兄ちゃんが治してやるからな!」

P「いたいのいたいの……とんでけっ!(変顔)」

あみ「…………」


P「とんでけっ!(裏声)」

あみ「……ぷぷぷ」



P「もやし(裏声)」

あみ「きゃはは!!」



P「ほぉら肩車だぞ~!」

あみ「ひゃーたかーい!!」

まみ「ま、まみもー!」 くいくい


P「ああ、ふたりまとめてやってやる! こい!」 がし ぐいっ!

あみ「すごーい!」

まみ「とぐろきょーだいみたーい!」

P「はっはっは! みんなかわいいなぁ~!」





P「(後ほど……)」

P「(全てを見ていた律子にえらい説教をくらったというのは、また別のお話)」



~ お見舞い編 ~


小鳥「お見舞いですか? いいんじゃないかしら」

P「え!?」


小鳥「さっきあずさ先生から電話があって、病院のお薬飲んでだいぶよくなったって言ってたから」

小鳥「あと少し横になっていれば、明日にでも復帰できるとのことです。だから行ってもきっと大丈夫ですよ」

P「そ、それはなにより」


年中組と年少組を一緒にみるという合体保育も無事終わり、ようやく放課後になった。
いま音無さんに今日のことを報告しているところだったのだが……。



小鳥「あ、でも園児たちだけでいかせないでくださいね。プロデューサーさんが付いてあげてください」

P「り、律子とか音無さんは? それに黒井先生は……ないか」

小鳥「あたしはもう遠足帰りでくたくたです~。律子さんも、今日はこのあと大学に行くみたい」

P「……そういうことなら、じゃあ、行ってきます……!」 すっ

小鳥「(ふふ。プロデューサーさん、貸しいち、ですよ。あと、あずさ先生も……)」


ひゃっほう! 堂々とあずさ先生の家にいけるぜ!!
園外であずさ先生とお話できる機会は少ない。ここで少しでも……
って、お見舞いに行くんだからそんな下心は持っちゃいけないな。



P「(さて、誰を連れて行くか……やっぱりあずさ先生が担当する年少組の子たちかな)」

あみ「にーちゃんじゃーねー!」 ぶんぶん

まみ「またねー!」 ぶんぶん

P「はい、さようなら。また明日元気にくるんだぞー!」

P「(亜美と真美はちょうど今帰って行ったところか。となるとあと教室にいるのは……)」


やよい「……♪」 がちゃがちゃ

いおり「ああ、やよいあぶない……つみきくずれちゃう」 あたふた



P「伊織、やよい。ふたりはまだ帰らないのか?」

いおり「わたしきょうは、やよいのおかーさまがくるまでかえらないの」

やよい「……わたしのおかあさん、まっくらになってからくるんでしゅ」

P「そうか……」


やよいのお父さんお母さんは共働きで、ふたりともとても忙しいらしい。
やよいは遅くに迎えに来る保護者の方を待っている間、いつもあずさ先生に遊んでもらっていたようだ。
今日は伊織がその役目をやってくれているらしいな。やっぱり優しい子だ……。


P「それなら、あずさ先生のお見舞い、俺と一緒にいかないか?」

いおり「いーの!?」 がた

やよい「い、いきましゅ!」



P「よーし、決まりだ。さっそく準備を……って、おや?」

ちはや「…………」 こそこそ


P「千早……千早も俺たちと一緒にいこうか!」

ちはや「……はい!」


千早は実は、やよいのことが大好きなのだ。
だから本当は、伊織のようにやよいと一緒に遊んであげたかったのだが……
さっきやよいにふられたのが気になって、こっそり見ていることしかできなかったんだな。



てくてく


P「(音無さんからもらったアバウトな地図によると、あずさ先生の家はこのへんか)」

P「ちょっとスーパーに寄っていいかな。いろいろ買っていかないと」

ちはや「わかりました」

やよい「はーい」

いおり「このすーぱーようちえんせい、いおりちゃんがえらんであげるわ!」 ぴかっ



P「……いおり、お菓子はそんなに食べられないと思うぞ」

いおり「あずさはいつもこんくらいへーきよ?」

P「そ、そうなのか」

やよい「もやし」 くいくい

P「……もやし?」

やよい「もやし」

P「たしかにもやしは万能食材だ! 買っていこう!!」 ぽいぽい



ちはや「かごのなか、もやしとおかしばっかり……」

P「千早、手伝ってくれてありがとうな」 なでなで

ちはや「えへへ……」


千早は買い物カートを押す役目をやる、と自ら志願してくれた。
最近弟が生まれてお姉ちゃんになってから、こういうお手伝いを進んでしてくれるようになったのだ。

さーて、他には何が必要だろうか。
消化によくて簡単に作れるもの……それにスポーツドリンクやゼリーとかかな。あとは……
って、あそこにいるのは!?


P「あずさ先生!?」

あずさ「あら~? ここはどこかしら~? おトイレはどこ~?」 ふらふら



~ あずさ先生のおうち ~


あずさ「ごめんなさいね~……ご迷惑をおかけしてしまって」 ごほごほ

P「いえいえ。見つけたのが俺たちで本当によかったですよ」

いおり「さすがにびっくりしちゃったわ」


スーパーであずさ先生を発見した俺たちは、すぐに会計を済ませてあずさ先生の自宅へ向かった。
方向オンチだというのは知っていたが……これほどとは……。



あずさ「みんな、お見舞いに来てくれたの? ありがとうね、とっても嬉しいわ~」

やよい「しぇんしぇー、げんき?」

あずさ「うんー。やよいちゃんのお顔を見たらすぐ元気になっちゃったわ」

あずさ「ごほ、ごほ……」

P「ああ、無理しないで」 あたふた

ちはや「ここがあずさせんせいのおうち……ここですごせばきっといつか……」 うろうろ


千早が自分の胸をぎゅっと押さえながら何かつぶやいている。
あんまりうろうろするなよー。なに考えてるか知らんが、きっとそれは叶わないぞー。



~ あずさ先生恥じらい編 ~


P「具合はどうですか?」

あずさ「ちょっとせきが出ますけど、あとはもうすっかり大丈夫ですね~」

あずさ「……って、いけない!」 がさごそ

P「(慌ててマスクを付け出した。そっか、子供たちにうつったら大変だもんな)」


あずさ「…………」 じー

P「?」

あずさ「み、みました? みましたよね」

P「みたって、なにを……」


あずさ「………………すっぴん」



P「ああ、はい。みましたよ。でもあんまり変わらないですよね」

あずさ「~~!」 かぁああ

P「(なんだ? 怒っているのか、喜んでいるのか……心なしか顔がさらに赤くなったような)」

P「あずさ先生、ひょっとして熱あがったんじゃ……」

あずさ「ちょ、ちょっと私お化粧してきます」 ふらふら

P「何を言ってるんですか! ちゃんと休んでいてくださいよ!」



ちはや「あずさせんせいはおけしょうしなくてもきれいです」

いおり「たしかにそーね」

やよい「わたしはおけしょうしてないほーがいいでしゅ」

あずさ「あらあら、みんなありがとう……」

P「(子供ってのは、親しい人が化粧しているとなんだか距離を感じてしまうものらしい)」



やよい「しぇんしぇー」 だきっ

あずさ「や、やよいちゃん?」


やよい「……これしゅきでしゅー。ぶらじゃーないからいつもより……」 もみゅもみゅ

あずさ「ちょ、ちょっと……」

やよい「? いつもこーしてましゅよ?」

あずさ「そうだけど……ほ、ほら。ばいきんまんがうつっちゃうから」 ちらり


P「(これはあかん)」 ちら……ちら……

あずさ「…………もう、恥ずかしいわ」 かぁああ

ちはや「……くっ」 ぺたぺた



ちはや「……すぅ、すぅ…………」 ぎゅう

やよい「……むにゃむにゃ……たりないかなぁって…………」

いおり「…………zzz………」 ぎゅう


P「(話しつかれたのか、いつの間にかベッドの隅で3人は寝てしまった)」

あずさ「ふふ。かわいいですね……やよいちゃん、ふたりに抱きつかれちゃってる」


あずさ「(いま起きてるのは……私と、プロデューサーさんだけですね……)」



P「なんだかんだありましたが、やっぱりやよいはこのふたりには心を開いてるみたいだ」

あずさ「なんだかんだって?」

P「じつは今日ですね……千早とやよいにこんなことがあって……」

あずさ「あらあら……」

P「それから他にも……」


P「(最近では、このようにあずさ先生と自然とお話ができるようになった)」


あずさ「ふふ。もっと色んな話、聞かせてください」


P「(やっぱり素敵な人だなあ……)」



~ みんなおかえり編 ~


カァ……カァ……


あずさ「…………!」

P「おっと、もうこんな時間か。ほらみんな、起きろー」


ちはや「んあー……」 のびー

いおり「もーそんなじかんなの……あふぅ」

やよい「……zzz……」

P「カラスが鳴くからかえりましょ、ってな。そろそろ家の人が迎えにくるから、幼稚園に戻ろう」


あずさ先生といろんなことを話しているうちに、すっかり夕方になってしまった。
やっぱり時間が経つのは早いなぁ……。



あずさ「……今日はわざわざ来ていただいて、ありがとうございました~」

P「いえいえ。それよりお見舞いに来たはずが、なんだか話すだけになってしまってすみません」

あずさ「いいんですよ。みんなのお顔を見れて、私も嬉しかったですし。……でも」

P「でも?」


ちょんちょん


ちはや「ぷろでゅーさー。たかつきさん、おきてくれない……」

P「おっと……やよい、朝だぞー。おはよう朝ごはんだー」


あずさ「……なんでもありません」



P「あ、冷蔵庫の中にいろいろ入ってますから食べてくださいねー! それでは」

いおり「じゃーね、あずさ」

ちはや「さよーなら。はやくげんきになってください」

あずさ「はい、さようなら。みんな、ありがとうね~」 ふりふり


俺は結局、やよいをおんぶしたままあずさ先生の家をあとにした。
あずさ先生、なんだか心残りがあるような顔だったな……どうしたんだろう、やっぱり具合が悪いのだろうか。


幼稚園に帰ってきた後は、いつも通りだ。
すっかり熟睡してしまっていたやよいをお母さんに預け、伊織を迎えにきた黒塗りの高級車にびびり、
赤ちゃんを抱いたお母さんと千早が、手を繋いで帰っていくのを見届け……
そしてようやく、俺も帰宅するという段階になった。



P「音無先生、園長先生。お先に失礼します」

小鳥「おつかれさまで~す……あたしはまだ山のようにやることがあるのに……ぴよぴよ」

園長先生「音無君、君は遠足から帰ってきてずっと寝ていたんだから仕方ないだろう……」

P「ははは……お疲れ様でした」 ばたん




P「さて……帰って夕飯の支度を……おや、電話?」 ぷるるるる


着信:三浦あずさ


P「ええっ!? あずさ先生から電話なんて、初めてだな……」



~ お電話編 ~


P「もしもし……」

あずさ『も、もしもし……』


P「あずさ先生、どうしたんですか? もしかして俺、忘れ物とかしちゃいましたか?」

あずさ『あ、いえ……そういうわけじゃないんですけど……でも』

P「でも?」

あずさ『……休んでなきゃいけないのはわかるんですけど、なんだか眠れないんです』

あずさ『だからもう少しだけ……プロデューサーさんとお話したくて。いいでしょうか……?』


P「……もちろん、いいですよ。眠れない子を寝かしつけるのは、得意です」

あずさ『ふふふ……。私、やっぱりみんなと一緒ですね。まだまだ子供です……』



P「…………」

あずさ『…………』


P「(顔を見ていればあんなに話せたのに、どうして電話だとこうもいかないんだろう)」

P「……具合はどうですか?」

あずさ『ええ、もうすっかりよくなりました。みんなからいっぱい元気をもらったからですね』

P「それはなによりです……」


P「(やっぱり、あれか。子供たちがすぐそこにいたから、俺は緊張せずに話すことができたんだな)」



あずさ『あの……ご、ごめんなさいね』

P「なにがですか?」


あずさ『私、なんだかその……さっきと違って、上手にお話できなくて』

P「……気にしないでください、俺も一緒ですから」


あずさ『やっぱり子供たちが間にいないと……ふふ、だめですね、私』

P「(この気持ちまで、一緒なら……俺はとても嬉しい)」



あずさ『……私。じつはちょっとだけ、怒っているんです』

P「え!? あ、やっぱりすっぴんを見たってのが……」

あずさ『それもありますけど……もう、すっぴんのことは早く忘れてくださいよ』

P「それじゃあ一体……」


あずさ『……なまえ』

P「なまえ?」


あずさ『ふたりっきりのときは……“先生”付けないって、以前の飲み会で約束していただきました』

P「(あのときのこと覚えていたのか……というか、そんな約束はしたっけか? あずさ先生酔ってたからな)」

あずさ『“さん”付けで呼ぶことさえ、してくれませんでしたし……』



P「いや、その……ほら、子供たちがいましたし」

あずさ『みんなぐっすり寝ていました~』


P「…………すみません。なんだか、照れくさくて」

あずさ『……もう。子供たちの前だと、あんなに……――のに』


P「(あずさ先生と話していると、自然と心臓の鼓動が早くなるな……)」 てくてく

P「(毎日昇っているこの坂道も、いつもよりきつく感じる)」 ぜぇぜぇ


あずさ『――プロデューサーさん? 聞いていますか?』

P「あ、はいすみません! ちょっと坂道がきつくて……ははは」

あずさ『坂道、ですか? プロデューサーさんのお家は、あの坂を登った先に?』



P「まあ、そのへんですね……ふぅ、やっと登頂しました」

あずさ『……それなら、ちょっとうしろを向いてみてください』

P「え?」 くるり



P「(そこには、あずさ先生がいた……なんてことはなく)」

P「……街が見えます。今は、家やビルに灯りが付いて……きらきらしている」

あずさ『綺麗でしょう? ふふ、私道に迷ってその坂を登ったこともあるんですよ』

P「……ええ」



あずさ『この街のどこかに、あなたが今日一緒に過ごした子供たちがいるんです』

あずさ『いまは、ご家族の方と一緒にご飯を食べているのかもしれないし、テレビを観ているのかもしれません』

あずさ『もしかしたら、泣いている子もいるかも……』


P「……そうですね」



P「(そして、携帯電話を握りしめた……あなたがいる)」

P「(電波の向こう。隣にいるくらい近くて、手も届かない遠い場所に……あずさ先生がいる)」



あずさ『私たちは、みんながいまどう過ごしているのかを知ることはできません。でも……』

あずさ『そんな子供たちを、心からの笑顔にさせるお手伝いができるのが……私たち保育士なんですよね』

あずさ『そう考えると、なんだかちょっと……素敵だと思いませんか?』


P「……はい。俺も……あずささんの、言うとおりだと思います」

あずさ『……ふふ。また、“さん”付けですね』



P「(俺はきっとこれから先、この会話を忘れないだろう。そして……)」

P「(この坂道を登る度に……あなたがすぐそばにいるように、感じてしまうんだろうな)」



ここはどこかの国のとある幼稚園。
俺の名前はP、ここで新人保育士をしている。


まこと「ぷろでゅーさー!」 たたた

ゆきほ「ひ~ん……ま、まって~まことちゃ~ん……」 たたたた

あずさ「プロデューサーさーん! バンナム幼稚園の方からお電話ですよ~」 たたたたた


今日は元気いっぱいに遊ぶ子供たちの、かわいらしい姿をご覧いただいた。
まあ今回も一部、子供たちとは関係のない私事的なところを見られてしまったが……。


P「はいはい! いま行きまーす!」


今日も園児たちと、それを見守る俺たちは、元気いっぱいだ。
しかしこの子たちが卒園したら、これからどう成長していくのか……俺たちにはやっぱりわからない。

もしかしたら、みんなを笑顔にするような “アイドル”になれる子もいるかもしれない。
もちろん、普通の家庭を築き、普通のお母さんお父さんになる子だっている。
あるいは、俺たちのような。たくさんの子供たちを守り、成長を見守る……
そんな“保育士”になる子も、きっといるだろう。


おわり

おわりです。読んでくれた方はありがとう。
妄想書き溜めてたらえらい量になっちゃった


最後に隣に…の歌詞を使っちゃったけど、
Pもあずささんも、ついでにきっと優くんも誰も死なないよ!

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