男「ハロー注意報?」(64)
男「なんだよそれ」
友人「お前、今朝のニュース見てなかったのかよ!」
男「今日学校遅刻しそうだったし……で、なんだよそれ」
友人「だからハロー注意報だって!」
男「あのさぁ……」
男「俺たちがいる町のどこに波が来るってんだよ」
男「完全に内陸だぜ、ここは」
友人「バカ、それは波浪注意報だろうが!」
男「えっ?」
友人「俺がいってんのは、ハロー注意報だよ!」
男「だから、それはなんなんだって聞いてんだよ!」
友人「ああ、いってるそばから来たぞ!」
男「なにが?」
スタスタ…
外人「ハロー」
友人「………」シーン
男「ど、どうも……」
外人「!」
友人「バカ、なんで反応するんだよ!」
男「え、だって挨拶されたし……」
友人「反応したが最後、そいつお前にしばらくついてくるぞ!」
男「マ、マジかよ……」
外人「ハロー!」
外人「ハロー!」
男「ハ、ハロー……」
友人「ああっ、また……」
外人「ハロー! ハロー! ハロー!」ガシッ
男(いきなり握手かよ。さすが外人)
男「あ、どうも……」
外人「ハロ~♪」
男「ハ、ハロ~……」
男「お、おい、こいつどうしたらいいんだよ」
友人「そいつがいなくなるまで、付き合ってやるしかないな」
男「お前も一緒にいてくれるよな? やだよ、こいつと二人きりなんて……」
友人「あ、俺、今日塾だったんだ。じゃ、じゃあな!」ダッ
男「あぁっ!」
男「くそっ、逃げやがって……」
男(でもまぁ、塾なら仕方な──)
男(……待てよ)
男「あいつ、Z会だったじゃねえか!」
男「逃げるだけならまだしも、ウソついて逃げるとは!」
男「くっそ、許さねぇ! 明日会ったらただじゃおかねえ!」
外人「ハロー?」
男「ハ、ハロー……」
外人「ハロー!」
男(どうするかな、この外人……)
男(きっと逃げてもついてくるんだろうなぁ)
男(今からシカトするようにしても、いい結果にはならないだろうし……)
男(友人の言い方も、そこまで深刻じゃなかったし……)
男(仕方ない、しばらく付き合ってやるか)
男「ナ、ナイストゥーミーチュー……」
外人「ハロー!」
男「えぇ、と……どうしようかな……」
男「どっか行きたいところとか、あります?」
外人「ハロー!」
男(ハローしかいえないのかよ……)
男「じゃあ、神社連れてくから! テンプル……じゃなかった、シュライン、だっけ」
外人「ハロー!」
<近所の神社>
男(いつ来てもみずぼらしい神社だぜ……)
男「せっかく来たから、お参りしていこうか」
外人「ハロー!」
男「金は……」
外人「ハロー?」
男「持ってるわけないよな」
男「いいか?」
男「この10円をあの箱に入れて、この鈴を鳴らして、手を叩くんだ」
男「──で、少し祈る」
男「オーケー?」
外人「ハロー!」
男「よし、じゃあやるぞ」チャリン
外人「ハ、ハロー!」チャリン
ガランガラン… ガランガラン…
男「次にこう」パンパン
外人「ハ、ハロー!」パンパン
男「──で、祈る」
外人「ハ、ハロー!」
男「………」
外人「………」
男「………」
外人「………」
男「よし、いいだろ」
男「ちなみに何を祈った?」
外人「ハロー!」
男(……聞くだけ無駄だったか)
男「さて、どうすっかな……」
男(こいつにリクエスト聞いても、どうせ答えはハローだろうしな……)チラッ
外人「ハロー?」
男「う~ん……」
男「ゲーセンでも行くか? ゲームセンター」
外人「ハロー!」コクッ
男(一応、言葉は通じてる……のかな?)
男「じゃあついてきてくれ」
外人「ハロー!」
<ゲームセンター>
男「じゃあ、『タイコの達人』で対戦するか!」
外人「ハロー!」
男「まずグローブをはめて」スッ
外人「ハロー」スッ
男「これはパンチングマシンと音ゲーを融合させたゲームなんだ」
男「音楽が流れると、画面の右端からイクラが流れてくるから」
男「そのイクラに合わせてリズミカルに、このノリスケをブン殴るんだ」
外人「ハロー!」
男「パンチ力が足りなくてもダメ、リズムに乗れなくてもダメ」
外人「ハロー!」
男「けっこうハードだけど、やるか?」
外人「ハロー!」コクッ
男「じゃあやるぞ」チャリンチャリン
外人「ハロー!」
男「難易度が一番低い曲にしよう」ピッ
男「始まるぞ」
『お魚くわえたドラ猫~♪』
男「おらっ、おらっ!」ドスッ ドスッ
外人「ハロー、ハローッ!」バスッ バスッ
『おおかけて~♪』
男「ふんっ、ふんっ!」ドカッ ドカッ
外人「ハロー、ハローッ!」バシッ バシッ
『はだしで~♪』
男「えいや、えいやっ!」ガスッ ガスッ
外人「ハロー、ハローッ!」ベチッ ベチッ
男(やっぱこれ、メチャクチャキツイ……!)ドカッ ドカッ
男(や、やっと終わった……)
『クリアですぅ~!』
男「ハァ、ハァ……(もう喜ぶ気力も残ってない……)」
外人「ハロォ、ハロォ……」
『えぇっ! もう一曲遊べるのかい!?』
男「もう、いいや……」ハァハァ
外人「ハロー……」ゼェゼェ
男「他のゲームやろうぜ……」ハァハァ
外人「ハロー……」ゼェゼェ
男(よほどの体力自慢じゃないと、このゲーム複数回はできないな……)
男「次はインベーダーキャッチャーでもやるか」
外人「ハロー!」
男「上に吊り下がってるインベーダー人形を、クレーンで取るんだ」
男「上手い人は“名古屋獲り”っていう技で、まとめて人形を取れるらしい」
外人「ハロ~……」フムフム
男「さ、チャンスは2回あるから1回ずつやろうぜ」
外人「ハロー!」
1回目。
男「よーし、いけいけっ!」
外人「ハロー!」
ウイーン ポロッ
男「あちゃ~……」
外人「ハロ~……」
2回目。
外人「ハロー!」
男「よし、いいぞ!」
ウイーン ポロッ
外人「ハロ~……」
男「惜しかったな……」
男「まぁ、残念だったな」
外人「ハロ~……」
男「じゃあ次はカニカニパニックでも──」
不良A「よう兄ちゃん」
男「!」
不良A「なぁ、ちょっと金貸してくんね?」
不良B「俺ら、金欠なんだよねぇ~」
男(この制服は……度球祖高校!)
男(よりによって、こんな時にカツアゲかよ……!)
男「金なんか、ねえよ……!」
不良A「はぁ~? 金もないのにゲーセン来る奴がいるかよ」
不良A「冷やかしとか犯罪なんだけど」
不良B「おい、ジャンプしてみろよ」
男「えい」ピョコン
不良A「そりゃホップだろうが」
男「とぉ」ピョイン
不良B「そりゃステップ」
男「くそっ……!」ピョン チャリン
不良A&B「アウト~!」
不良A「さぁ、財布出せよ。ま、安心しな。俺たちも鬼じゃねえ」
不良B「ギザ10は見逃してやっからよ」
男(ギザ10とか、自販機で反応されないからむしろいらねぇし!)
男(くそっ、こんなヤツらに金なんか渡したくない!)
男(でも腕っぷしじゃ勝てないだろうしなぁ……)
男「わ、分かったよ……」
不良A「へへへ、素直が一番だぜ──」
外人「ハロー!」サッ
不良A「!?」
外人「ハ、ハロー……!」
外人「ハローッ!」
男(コイツ……)
不良A「なんだぁコイツは……?」
不良B「こいつ、外人だぜ!」
外人「ハロー!」
不良A「マジかよ!」
不良B「殴ったりしたら……国際問題になる!」
不良A「国際問題!?」
不良A「なにが始まるってんだよ!」
不良B「第三次世界大戦だ!」
不良A「第三次世界大戦!?」
不良B「ああ、それが国際問題ってやつだ」
不良A「ちくしょう……」
不良A「しかたねぇ、今日のところは見逃してやるぜ。あばよ!」スタスタ
不良B「ちっ」スタスタ
男(あいつらにとっちゃ、国際問題イコール第三次世界大戦なのか……)
男(さすがは度球祖高校、アホだな)
男(でも、助けられたな……コイツに)
外人「ハロー……」ホッ
男「助かったよ」
外人「ハロー?」
男「ありがとうな、サンキュー」
外人「ハ、ハロー」テレッ
男「ククッ、なに照れてんだよ」
男(コイツ、最初は何考えてんのかよく分からなかったけど)
男(案外いいヤツなのかもしれないな……)
|┃ ,'⌒ヽ
|┃ i_ 0 0l ホロッ!
|┃三 ⊂[)◎o'コ
|┃ ≡/ (⌒マ´
|┃ (⌒ヽrヘJつ
____.|┃ > _)、
|┃ し' \_)
|┃
男「タイコの達人でけっこう動いたし、腹減ったろ?」
外人「ハロー」
男「なんか食べようか」
外人「ハロー」
男「よしっ、寿司なんかどうだ?」
外人「ハロー!」
<コンビニ>
男「俺の小遣いじゃ、回らない寿司どころか回る寿司もきつい」
男「ま、コンビニのパック寿司で勘弁してくれ」ガサッ
外人「ハロー!」
男「えぇと、これ」サッ
店員「525円になりまーす!」
男「はい」チャリン
店員「ちょーどいただきやーっす!」
店員「ああっしたーっ!」
男(この店員より外人の方が、よっぽどちゃんと挨拶できてるよな……)
<公園>
男「じゃあこのベンチで食うか」
外人「ハロー」
男「お、お前、いきなりマグロかよ。なかなか遠慮がねえな」
外人「ハロー」モシャモシャ
男「じゃあ俺はイカだ」
男「うん」モグモグ
男「美味いか?」
外人「ハロー!」
男「そっか」
男「ふぅ、食った食った……」
男「さて次は何を──」
外人「ハロー……」スッ
男「ん、どうしたんだよ、突然立ち上がって」
外人「ハロー」
男「?」
外人「サンキュー」
男「!?」
外人「キョウハ、タノシカッタヨ……」ニコッ
外人「ワタシノアイサツニ、コタエテクレテ、アリガトウ……」
男「おい、ちょっと待てよ!」
外人「サッキノジンジャデ、ワタシ、アナタノシアワセ、ネガイマシタ」
男「!」
外人「シーユーアゲン……」
男「シッ、シーユー……」
フッ
男「消えた……」
男「消えちまった……」
男「なんだよ、ちくしょう!」
男「遊ぶだけ遊んで、食うだけ食って、いなくなっちまいやがって!」
男「ちくしょう……」
男「俺、シーユーまでしかいえてねえじゃねーか」
男「ちょっと寂しい気持ちになったじゃねーか……」
翌日──
友人「おっ、おはよう!」
男「おはよう」
友人「お、怒ってる……?」
男「別に……」
友人「ご、ごめんな? 逃げちまって」
友人「悪かったよ、な? 俺、どうも外人に苦手意識があって──」
男「だから怒っちゃいないよ」
友人「……お前、あいつと何かあったのか?」
男「何って、ちょっと数時間ブラブラしただけだよ」
男「でも、もしまたハロー注意報とかいうのが出て、あいつがやってきて」
男「ハローっていわれたら」
男「俺はまた、返事してやると思うぜ」
男「だってさ、挨拶ってのはそういうもんだろ?」
おわり
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