神「勇者よ! 魔王を倒して来い!!」(110)

勇者「!」ガバッ

妻「あ、おはよう」

勇者「はぁ、はぁ……」

妻「どうしたの?」

勇者「啓示だ……」

妻「え?」

勇者「神のお告げを聞いた」

王「ほう、その話は誠か」

勇者「はい」

王「うむ、国一番の勇者だ。おぬしならやってくれるだろう」

勇者「は、それでは」

王「行って参れ」

勇者「ははっ!」

妻「あなた、本当に行くの?」

勇者「ああ」ガチャガチャ

妻「でも、私どうしても信じられないわ。神様だなんて……」

勇者「はっきりと聞いた。私がこの世に生まれた理由がわかった」

妻「でも……魔王だなんて、聞いたこともないわ」

勇者「神が仰られたのだ」チンッ

勇者「何れこの世に仇名すこととなる、脅威に違いあるまい」

勇者「では、行って参ります」

王「吉報を待つ」

勇者「はっ」

妻「あなた!」タタッ

勇者「おう」ダキッ

妻「絶対戻ってきてね? 私のお腹には、あなたの……」

勇者「分かっている」

勇者「それじゃあ、行ってくるよ」

勇者「東の地へまっすぐか……」ザッザッ

勇者「……」ザッザッ

勇者「……」ザッザッ

勇者「どこまで行けば良いのだろうか」ザッザッ

勇者「しかし神の言葉だ。おそらくどこかにつくのだろう」ザッザッ

勇者「一昼夜、休む事無く進むか」

勇者「む、あれは……森か」

勇者「ついに見つけたのだろうか。それともただの通過点か」ザッザッ

勇者「……」ザッザッ

妖精「人間だ! 人間がいるよ!」ユラユラ スイッー

妖精「ほんとだー! 人間だー」ヒラヒラ

勇者「む?」ピタッ

妖精「えっ! 止まった! もしかして聴こえてるのかな!?」

妖精「まっさか。たかが人間だよ?」

勇者「これが妖精と言う奴か」

妖精「喋った!」

妖精「こっち見てるよ!」

勇者「……」

妖精「もしかして、見えてる?」

勇者「ああ」

妖精「うわー、凄いねー」キャッキャッ

妖精「なんだか面白いねー」ウフフ

勇者「すまないが、これより東の地に何かあるか知っているか?」

妖精「何かなぁに?」

勇者「なんでもいい」

妖精「なんでもいいって言われてもねー」

妖精「あ、そうだ。おじいちゃんがいるじゃん」

勇者「おじいちゃん?」

妖精「うん! とーっても年寄りなんだよ」

妖精「けどなーんでも知ってるんだよ!」

勇者「そうか。感謝する」ザッザッ

妖精「あ、いっちゃった」

妖精「面白いし追いかけてみよーよ!」

勇者「……」ザッザッ

妖精「ここをね、真直ぐ行くと、おじいちゃんに会えるよ!」

妖精「おじいちゃんに会ってどうするの? なにするの?」

勇者「わからない」ザッザッ

妖精「わからないだってー」

妖精「なにそれー」

勇者「会ってみれば、分かる事であろう」ザッザッ

妖精「どう言う事?」

妖精「さあ? わかんない。あっ! ほら、おじいちゃんだよ!」

勇者「むっ……」ザッ.....

妖精「ほら! おじいちゃんだよー!」ヒラヒラ スイッー

大樹「……」サワサワ.....

勇者「……」

妖精「おじいちゃんおじいちゃん、お客さんだよ」

妖精「おきてよ、人間だよ!」

大樹「おお、人とな」ズゥッ

勇者「! 顔で出来た!」

妖精「そりゃそうだよー」

妖精「顔がなきゃ喋れないもんねー」

大樹「ふむ……」

勇者「……」

大樹「若者よ、何を求めてここに来た」

勇者「神の言葉に従ったまでだ」

大樹「神の……そうか……」

勇者「むっ……中になにかあるな」

大樹「そうか、気付いたか。流石は、神の使いと言うわけだ」

勇者「それを手に入れよ、と言う事か」

大樹「……ふむ……」

勇者「それでは、失礼する」

妖精「えー? なにするのー?」

妖精「わかんなーい」

勇者「……」スゥッー チャキンッ 

妖精「えっ!? どうして剣を抜くの!?」

妖精「なにするの!?」

勇者「ムンッ!!」ザッ ジャギィンッ!

大樹「ぐぅぅっ……」

勇者「ぬんっ」ザキィィンッ!

妖精「や、やめてよー!」パタパタ

妖精「おじいちゃんが痛がってるよぉっ!」パタパタ

勇者「ふんっ、ぬんっ」ガッガリッ

妖精「やめてよぉぉっ!」

妖精「死んじゃうよぉっ!」

大樹「おお、子供たちよ……泣くな。私の使命はもう終わりなのだ」

勇者「はあっ!」ザッ! バギィッ!

大樹「ぐっ……」ザァァァッ ドサァンッ!

妖精「おじいちゃあああん!」

妖精「いやだああ! 死なないでよぉお!」

勇者「ふう……大樹の中に、このような空洞があるとは……」

大樹「……」

勇者「岩に突き刺さった剣、これを護っていたと言うわけか。では、貰い受けるぞ」ガシッ ジャイキンッ

妖精「おじいちゃああんっ……!」グスグス

妖精「やだあっやだぁっ……!」エグエグ

勇者「それでは、失礼する」

大樹「人よ……」

勇者「……」

大樹「剣は、切り拓くものぞ……」

勇者「……」ザッ

大樹「ゆめゆめ、忘れるな……」スゥッ

妖精「おじいちゃあああん!」

妖精「うわあああああん!!」

勇者「……」ザッザッ

勇者「これより、北か」ザッザッ

勇者「どれだけ北へと行けば良いのだろうか」ザッザッ

勇者「分からぬな……」ザッザッ

勇者「むっ……」

勇者「あれは、村か」

勇者「果してこれが目的地なのか、それともただの通過点なのか……」ザッザッ

エルフ「やあ、旅のお方」

勇者「ここはエルフの里か」

エルフ「ええ。ですがここには人も、エルフも、皆が仲良く暮らしていますよ」

勇者「そうか」

エルフ「お疲れのご様子ですし、今日は一日休んでいかれては?」

勇者「ふむ……」

エルフ「この村は温泉が沸き出でていて、旅疲れを癒すにはもってこいなんですよ」

勇者「それでは、そうしようか」

勇者「ふう、癒されるな……」ザパァッ

勇者「さて、身体も休めたし、散歩でもするか」スタスタ

勇者「ふう……」

勇者「うん、なんだこれは」ジロジロ

勇者「広場の中央に、宝石……?」

エルフ「おや、どういたしましたかな……?」

勇者「いえ、このような広場に像でもなく宝石が飾られていることが気にかかりまして」

エルフ「ああ、この宝石はですね、この村の源なのですよ」

勇者「と、言うと」

エルフ「かつてこの村は、と言うかここら一帯は土地がやせ衰えておりましてね。とても人のすめるような所ではなかったのです」

エルフ「しかし、この宝石のお陰で土地は肥え、作物は実り」

エルフ「河は流れ、木々が生い茂り……」

エルフ「と、まぁこんなおとぎ話があるのですよ」

勇者「ほう」

エルフ「まぁ、おとぎ話、と言っても精々数百、千年前……伝承と言ったほうがよろしいかもしれませんな」フォッフォッフォッ

勇者「これを盗もうとする奴はいなかったのか?」

エルフ「おりましたとも」

勇者「では?」

エルフ「しかしこの岩に見てください。しっかり嵌っておりまして」コツコツ

エルフ「今までそれを盗もうと、奪おうとして傷一つつけられぬのでおります」

勇者「なるほど、この為か」

エルフ「はい?」

勇者「……」シャキィッン

エルフ「な、なにをなさる!」

勇者「むんっ!」ガッ!

エルフ「お、おやめなれ!!!」

勇者「ぬぅっん!」グッ..... ガキィンッ! コロンッコロンッ.....

エルフ「あ、あああっ! 宝石が!!」

勇者「流石は神より授けられし剣だ。この宝石もまた、必要なものなのであろう」ヒョィッ ゴソゴソ

エルフ「か、返してくだされ! その宝石がなくては!!」

勇者「……」ザッザッ

エルフ「お待ちくだされ!!」ガシィッ

勇者「チッ……」

勇者「ご老人、私は神より授けられた使命があるのです」

エルフ「そんな事はどうでもいい!」

勇者「どうでもよくありません。この宝石も、また神が私に授けられし道具なのです」

エルフ「しかし! そんな事を言ってもそれがなくては! 私たちの村は!」

勇者「大義の為です」

エルフ「お願いいたします! 返してくだされ!」ググッ

勇者「くっ……このままでは騒ぎが大きくなる……」

勇者「ごめんっ!」シャキッ ザンッ!

エルフ「ぐぁ!!」ドサッ ドクドク

勇者「私にはまだやるべき事があるのだ。このような所で時間を割く余裕はない」チィンッ

勇者「先を急がなくては」ザッ

勇者「……」ザッザッ

エルフ「なんだ? おい、じいさん。こんな所で寝てたら……ひっ!」

エルフ「し、死んでる!! 斬られてるぞ!!」 

エルフ「なんだなんだ!?」

エルフ「どうした!?」

エルフ「あああっ! 宝石が!!」

エルフ「終わりだっ! この村はもう終わりなんだああ!」

勇者「……」ザッザッ

勇者「さらに北へと」ザッザッ

勇者「……」ザッザッ

勇者「……」ザッザッ

勇者「これでもう揃ったのだろうか」ザッザッ

勇者「後は魔王を倒すのみか」ザッザッ

勇者「む、この洞穴は……」

勇者「北の大地へと続く道か……」ザッ

勇者「!」サッ

竜「グォォ……グォォォォッ……」

勇者「ドラゴンか……眠っているな」チラッ

ドラゴン「グォォォ……」キラッ

勇者「出口はその先か……ここを通るためには、あやつをどうにかせねばならん」

勇者「神の加護が私にはついているのだ」グッ

勇者「神よ、私に力を……」

勇者「……」ザッ

ドラゴン「グォォ、ォ……」ヌゥンッ

勇者「目覚めたか」チャキッン

ドラゴン「人の子か」

勇者「……」

ドラゴン「何ゆえこの地までやって来た」

勇者「神の意志だ、そこをどけば命まではとらないでやろう」

ドラゴン「ふん……何が神よ……」

ドラゴン「小賢しいわぁ!」ゴォォォッ!!

まーちがえた

もうドラゴンでいいよね!

勇者「くっ!」バッ! ゴォォォォッ!

勇者「炎か、ドラゴンは火を吹くのか」

ドラゴン「ぬ……仕留めそこなったか」

勇者「どうやら通すきはないようだな、ならばっ!」ダッ

ドラゴン「ぬぅっ!」ボォッ

勇者「はぁぁっ!」ザンッ!

ドラゴン「グォォオオオ!」ブシュッ..!

勇者「硬い……この剣でなければ、斬れなかっただろう……」

ドラゴン「ぐぬぅぅぅ……貴様、その剣は……!」

勇者「神より授けられし剣よ!」

ドラゴン「グゥゥ……そうか…………」

勇者「脅えたか?」チャキッ

ドラゴン「ふん……我は誇り高き竜ぞ、死ねえ」ブゥンッ!

勇者「尻尾かっ! だがっ!! むんっ!」ザッ スゥゥッ ジャギィィンッ!

ドラゴン「グ、ォ、オォォォ!!」ボトッ

勇者「この剣で斬れぬものはない」

ドラゴン「グゥゥ……ガァアア!!」ボォッ! ゴォォォオ!!

勇者「くっ、大きいっ……避け切れるかっ……!?」

ドラゴン「ゴォォォォォ……」

ドラゴン「ふん、燃えかすとなったか……」ボゥッ....

勇者「……」シュゥゥゥッ

ドラゴン「な、なにっ……! 何故生きているっ!」

勇者「う、ぐ……お、おお! これもまた神の加護か! この宝石が私を守ってくれたのだ……」

ドラゴン「……貴様……」

勇者「もはや炎は恐れぬ! 終わりだ!!」

ドラゴン「グゥゥッ……ウォォォオオオオオ!!」

ドラゴン「……」

勇者「……」

ドラゴン「グゥゥ……見事だ、人の子よ……」ドサァッ....

勇者「……」スッ チャキィンッ

勇者「む……金銀財宝が積まれている……」ザッザッ

勇者「おお、剣が……」ザッザッ

勇者「指し示すものはなにぞ」ガサッガサッ

勇者「これは、盾か……」

勇者「これもまた神が授けられたのだろう」

勇者「この剣と共鳴したのだから」スッ

ドラゴン「盾は……」

勇者「……」

ドラゴン「守るものだ……だが、忘れるな……」

勇者「……」ザッザッ

ドラゴン「その小さな範囲だけだという事を、な……」

勇者「……」ザッザッ

ドラゴン「友よ、すまない……約束は、果たせぬ……」スッ...... ....

勇者「北へ、北へ……」ザッザッ

勇者「どこまで進めば魔王に辿り着けるのだろうか」ザッザッ

勇者「む、アレは……城か」

勇者「大きな城だ」

勇者「ここが終着点だろうか」

勇者「それとも、まだまだ通過点なのか……」ザッ

勇者「城下町には」ザッザッ

勇者「人の気配がしないな」ザッザッ

勇者「……」ザッザッ

勇者「城か」ギィィッ

勇者「……」ザッザッ

勇者「……」ザッ

巨人「……」

勇者「大きいな」

勇者「巨人とは、一つ目なのか」

巨人「……」パチッ

勇者「ぬ……」チャキッ

巨人「……」ギョロリッ

勇者「私には神の加護がある。剣も盾も、宝石も」

巨人「……」スッ 

勇者「!!」ズドォォォッン!

勇者「ぐ、ぉ、お……」モクモクモク.....

勇者「盾で咄嗟に防いだが……まさか、守りきれるとは……」

巨人「……?」

勇者「ぐ、しかし……なんと、重い……」

巨人「……」グリグリ

勇者「ぐ、ぉぉっ……ぉぉぉぉぉぉっ!!」ザンッ!

巨人「……」ブシュツッ!

勇者「はぁぁっ!」ザンッ!

巨人「……」ブシッ...ブシュ....

巨人「……」ポリポリ

勇者「き、効いて……ないのか?」

勇者「くっ!」ザンッ グッ

巨人「……」ドゴッオ! 

勇者「ぐおぉっ! 吹っ飛ばされっ……!」バゴォォッンンッ!

勇者「が、はっ……」パラパラ....

巨人「……」ヌッ ガシッ

勇者「がぁっ! しまっ……」ググッ

勇者「ぐ、……こ、ここまでか……」

巨人「……」スッ ズゥゥンッ ズゥウッン

勇者「……」

勇者「……ぐっ……どこに連れて行くつもりだ……」

巨人「……」ズゥゥンッ

勇者「城を離れたな……巣で食うつもりなのだろうか……」

巨人「……」ズゥゥッン..... パッ

勇者「ぐぉっ!」ドサッ

巨人「……」

勇者「……? た、助けてくれたのか……?」

巨人「……」ブゥッン! ドガァァッン!!!

勇者「うおおお!! くそっ! そんな訳はないかっ!!」

巨人「……」ブゥンッ! ドガァアンッ! バゴォォッンンン!

勇者「ぬおおお!!」ガッ バッ ドゴォッ!

勇者「くそっ、さっきより攻撃が激しくなっているっ……!」ザッ ザンッ!

巨人「……」ブシッ ドゴォッ!

勇者「ぬうう! どんなに斬っても、ダメージは与えられんか!!」

勇者「クソッ、どこか、確実にダメージを与えられる場所……そうだ、目だ!」

勇者「しかし、どうやって……くっ!」

巨人「……」スッ ドガァァァッン!!!

勇者「ぐっ……一撃は重いが……溜めが生まれるッ!」スッ

勇者「そこを狙うしかないっ!」

勇者「!」ガバッ

母「あ、おはよう」

勇者「はぁ、はぁ……」

母「どうしたの?」

勇者「夢か……」

母「いいから早くハロワ行きなさい」

巨人「……」ブォッ....

勇者「そこだぁっ!」ダンッ!

巨人「……」ドゴォォォッン!

勇者「攻撃を避け、腕を駆け上げる!!」ダダダダッ

巨人「……!」

勇者「うおおおおお!!」ダンッ   ドスッ!

巨人「……」ブッ.....

巨人「……!!!」ブシュゥッウゥゥゥゥゥッッ!! バタッバタッ!

勇者「うおおっ!」ドサッ!

巨人「……」ビクッビクッ

勇者「よし、攻撃が止んだ! 後は敵の柔らかそうな……」

勇者「首だ!」ドシュッ ザンンッ!!

巨人「!」ビクゥッン! ブシュゥゥゥウウウウ!!

勇者「やったか!」サッ

巨人「……」ビクッンビクッン ヨロ....ヨロ......

勇者「ちぃっ、しぶとい奴め!!」ザッ!

巨人「……」バッ! 

勇者「……城を背に両手を広げッ……くそっ! 最後の攻撃か!」クグッ

巨人「……」

勇者「……」

巨人「……」

勇者「ぬ……?」

巨人「……」

勇者「こいつ……」

巨人「……」

勇者「死んでやがる……立ったまま……」

巨人「……」

巨人「……」

勇者「……」ザッザッ

勇者「さらに北へと進まねば」ザッザッ

勇者「……」ザッザッ ....ピタ クルッ

勇者「……まだ見えるな、あいつの姿が」

巨人「……」

勇者「敵ながら、見事な戦士だった……」

勇者「……あの姿は……」クルッ ザッザッ

勇者「……」

勇者「まるで、城を守ってるみたいだな……」ザッザッ

勇者「むっ……」ザッ

悪魔「やあ」

勇者「悪魔、か」シャキイイィッン

悪魔「君はなんのために戦うんだい?」

勇者「戯言を」

悪魔「どうして君は戦っているんだい?」

勇者「悪魔の言葉を効く耳など持たん」ジャキッ

悪魔「まぁ、まぁ。聞くだけ聞きなよ」

悪魔「それとも、神の言葉じゃ悪魔には太刀打ちできないのかな?」

勇者「……」

悪魔「君はどうして戦っているんだい?」

勇者「神の啓示だ」

悪魔「君は何のために戦っているんだい?」

勇者「魔王を倒すためだ」

悪魔「どうして? 魔王を?」

勇者「神が告げられたからだ」

悪魔「神が告げただけで、君は人を殺すのかい?」

勇者「魔王は人ではない」

悪魔「同じ事だろう? 君は自分の意志ではないじゃないか」

勇者「私は私の意志でここにいる」

悪魔「じゃあどうして魔王を倒すのさ!」

勇者「神が仰られたのだ、私は私の世界を護る為に戦う」

悪魔「神はそんな事を言ってたのかい?」

勇者「言わずとも私たちの世界を見守りくださっているお方だぞ!」

勇者「私たちの世界に不要なものなのに決まっている!」

勇者「戯言は聞き飽きた! 消えろ! 邪悪なるものめ!」ザンッ!

悪魔「君の目で確かめ、選択するべきだ。誰かに委ね、頼ることは楽だろうけどね」ユラッ...フッ

勇者「……」ザッ

魔王「……」

勇者「貴様が魔王か」

魔王「如何にも」

勇者「貴様を殺す」チャキッ

魔王「ほう、何のために」

勇者「神の意志だ」

魔王「そうか」

勇者「むんっ!」ザンッ!

魔王「……」ヒョィッ  ストッ
 
勇者「ぬ……」

魔王「私もただで死ぬ訳には行かない。やる事があるのでね」ホゥッ

勇者「! 魔法か!」

魔王「君には少しの間、退場してもらう」ヒュンッ!!

勇者「ぐっ、はやっ!」パァッン!

魔王「……ん?」

勇者「く……おお! 宝石か! やはり神のご加護があるのだ!」

魔王「……なるほど」

魔王「魔法は効かない、と言う事か」パシッ

勇者「なにっ、剣だと!」

魔王「魔法が効かないのでは、剣しかあるまい」

勇者「……」

魔王「さぁ、戦おうじゃないか」タンッ シュッ

勇者「くぉぉっ!」ギインッ!

魔王「はぁっ!」ヒュゥゥンッ!

勇者「く、早いっ!」ガキィッ! キィンッ!

魔王「どうした! そんなものか!」

勇者「ぬおおおおっ!!」ザンッ!

魔王「ほう!」キィンッ!

勇者「私には、神がついている! 貴様なんぞには……負けぬ!!」ガギィイッン!

魔王「くぅ、やるな……」ギリギリ

勇者「死ねッ! 魔王!」キンッキンッ!

魔王「くっ、お、おお……強いッ!」

勇者「はぁっ!!」カキィンッ!

魔王「ああっ」ヒュンヒュン....カランッカランッ.....

勇者「ここまでだな」チャキ

魔王「どうやらそうらしい」

勇者「何か言い残すことはあるか?」

魔王「そうだな、今まで君は何を見てきた」

勇者「?」

魔王「剣は守っていたのではない。封印していたのだ」

勇者「突然何を言い出すかと思えば」

魔王「魔道士様が己の力を大樹へと宿らせ、その力が魂を生んだのだ」

勇者「ふん。大樹に意志が宿ったのは剣のおかげであろう」

魔王「君は宝石の話は聞いたか?」

勇者「……聞いたが。それがなんだ」

魔王「あの地は酷いものだった。大戦の爪痕が最も酷い地であった」

魔王「その宝石の力はそんなもののためにあるのではない」

魔王「木々を芽吹き、鳥は唄い、河は生まれ、命を産む力だ」

勇者「その力を貴様を倒す為に借りたまでよ」

魔王「ドラゴンは何故あんな洞穴に住み着いたかわかるか?」

勇者「金銀財宝を溜め込むためであろうよ」

魔王「彼は友との約束を守っていたのだ。あの洞穴以外にこの地へ続く場所はない」

魔王「彼は子供の頃から一緒だった友人の国を護る為に居たのだ。最も、人と竜では寿命は違うが、それでも彼はあの地にいる」

魔王「盾は、国に争いの種を生んだ。強力であれば魅入られるものも多い」

勇者「……」

魔王「巨人もまた同じだ」

魔王「彼は口が利けない。瞳は一つ。巨人族でも異形の身体だ」

魔王「そんな彼をあの国の王女は愛した。恐れ、嫌うものが殆どの中で、ただの一人として接してくれたのだ」

魔王「王女は彼に生きる喜びを教え、与えてくれたのだ」

魔王「巨人はこの大地に住まうあらゆる敵からその身を挺して城を守っている。国が滅んだ今でも、王女との記憶を守ろうとしているのだ」

勇者「……そ、それが」

勇者「それがなんだと言うのだ。貴様とは関係ない!」

魔王「確かに、関係ない」

勇者「……ならば」

魔王「悪魔の言葉は覚えているか?」

勇者「な、に……」

魔王「神は何故、私を殺そうとするのか。何故、貴様にその使命を与えたのか」

勇者「貴様が、邪悪であるからだ!」

魔王「私が恐ろしいからだ」

勇者「……」

魔王「君は神を知っているか?」

勇者「神は我々とともにある」

魔王「神は人だ。上に住んでいるだけだ」

勇者「上……?」

魔王「そして、強い。それだけだ」

勇者「何を言っている」

魔王「私はかつてあの国の王子であった。巨人とドラゴンの守っていた国だ」

勇者「……」

魔王「神はこの地を欲しがった。緑豊かで、生命溢れるこの世界をだ」

魔王「しかし人は反逆したのだ。己の国を守るため、愛する人のため」

魔王「私の国も戦った。しかし、神は強かった……」

魔王「奴らには、どんな攻撃も通用しなかった。それでも人々は戦い、国は滅び、地は荒れた」

魔王「神に反抗する為、世界中の生物が集り、日夜研究しつづけた。そして、世界最高峰の職人と研究者たちで作り上げたのだ」

魔王「槍をな」

勇者「や、槍?」

魔王「ああ。槍だ。その槍ならば、神も殺せる」

勇者「……」

魔王「無論、神はその槍を恐れた。私は己の身を魔性へ落とし、槍を持ち、逃げ延びたというわけだ」

勇者「そ、そんな話……信じられるものか!」

魔王「しかし、でなければ神が私を恐れる理由があるまい」

勇者「……」

魔王「君に敗れる程度の人間だ。私には部下もいない」

魔王「……だが、君のような人間を待っていた」

勇者「ど、どういうことだ」

魔王「私では、奴らには勝てない……」

勇者「……」

魔王「さぁ、首を刎ねろ。そして、決めるんだ。君自身の手で」

勇者「……し、しかし……」

魔王「……私は疲れた。一人ぼっちも、逃げつづける事も」フッ

魔王「槍は奥にある。さぁ、頼む」

勇者「……」チャキィンッ

魔王「感謝する……皆、今、そちらへ行きます……」

勇者「……」グッ....ザンッ!

魔王「ビクンッ」ブシュッッ.....ボトッ

勇者「……」ザッザッ

勇者「……」ザッ.....

勇者「これが、これが……その、槍か……」カタッ

神「おお! 勇者よ! 見事であった!!」

勇者「……」

神「さぁ、早くその槍を壊せ! その槍こそ、世界に不吉をもたらす邪悪な槍だ!」

勇者「私は……」

神「何をためらっておる! まさか、あのような奴の言うことを魔にけた訳ではあるまいな!!」

勇者「私は」

神「その槍は邪悪だ!! 持つものを狂わせる! さぁ、早く壊せ!!」

勇者「私は戦うぞ、神よ」

神「……私の聞き間違いだろうか?」

勇者「……」スチャ

神「そうか、貴様も狂ってしまったのか……!!」

勇者「私は、自分の手で……掴み取るのだ! 平和を!!」チャキィッ!

神「そうか、そうか、そうか」

神「舐めるなよ小僧。人間如きがおごがましいわ……」

勇者「来い、神よ! 貴様の指示は受けぬ! 神の加護もいらん!」

神「ふんっ……死ね」ピュィッ

勇者「くぅっ!」バッ チュドォォッ!

勇者「神よ、私は負けないぞ!」ダッ

神「……」ピュイッ

勇者「例え四肢がもがれようとも、この首を刎ねようとも!」バッ チュロドォォォッ!

神「ええいっ、死ね! 死ねぇっ!」ピュィッピュイッ

勇者「我がこの意志は永遠に不滅なのだ!」ブシュゥゥッ ヒュンッ!

神「なっ、ぐぉぉぉっ!」ドスッ

勇者「……死ぬのはお前だ」

神「ぐ、ぁ、貴様っ……分かって、いるのか……?」

神「神に反旗を翻したのだッ……これより、貴様を本気で殺しにかかるのだぞ!」

勇者「ふん……」ドクドクッ

神「ふ、ふ、なんだ、貴様も虫の息ではないか……」

勇者「……」

神「残念だったな、私の代わりなど……いくらで、も……い……る……」ドサッ

勇者「はぁ、はぁ……」ドクドクッ

勇者「それは、俺も同じだ……」ズリズリ

勇者「例え、私が死んでも……この意志は……永遠に残るのだ……」ガリッガリッ

勇者「我が、子へと継がれ……そのまた子が……継ぐのだ……」ハァハァ

勇者「ここに、息絶えるまでの間……記し続けよう……」

勇者「物語は……まだ、始まった……ば、か……り……だ……」ズルッ ドサッ

終わり

人いなさ過ぎて泣いた……
まぁ南蛮煎じだよって話だけどね!!

支援ありがとね! バイバイ!

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