春香「プロデューサーさん、おはようございます!」
P「おはよう」
春香「あの、ちょっとお話があるんですけどいいですか?」
P「それは仕事に関係することか?」
春香「ち、違いますけど……実は、今日仕事が終わった後みんなで」
P「仕事以外の話なら休み時間にしてくれ。業務中だ」
春香「………………」
P「さて、この書類は……」
春香(……プロデューサーさん、冷たい)
美希「おはよーなの、プロデューサー!」
P「おはよう」
美希「ねぇねぇ、今日ミキちょっとお洒落してきたの! 特にこのあたり、見て見て!」
P「………………」
美希「このネイルの……聞いてる? プロデューサー」
P「美希」
美希「?」
P「出社したなら早く仕事をしろ。朝から営業だろ」
美希「……はぁーいなの……」
千早「おはようございます、プロデューサー」
P「おはよう」
千早「少しお時間いただいてよろしいですか?」
P「仕事の話か?」
千早「はい、歌のことでご相談が」
P「いいぞ。話してみろ」
千早「今レッスンしている曲、どうしても私の声と合っているように思えないんです。私の感性がおかしいのでしょうか」
P「千早がおかしいとは限らない。合っていると思っている周りがおかしい可能性もある」
千早「……プロデューサーはどう思われますか?」
P「それは俺より有識者に聞いた方がいい。律子に聞いてみろ」
千早「……わかりました」
【レッスンスタジオ】
春香「……プロデューサーさんって冷たいよね」
美希「春香もそう思ってた!? ミキ的にもあれはナイって思うな」
千早「仕事に関するアドバイスは的確にくれるのだけど……」
伊織「なによあんた達。そんなこと気にしてるわけ?」
春香「そんなことって……アイドルに冷たいプロデューサーなんてひどくない?」
伊織「冷たいんじゃなくてメリハリがハッキリしてるだけでしょ。あんた達が甘えすぎなのよ」
真「いやー、でもあれは行き過ぎだと思うけどなあ。僕も仕事以外の話、した覚えがないし」
やよい「私『おはようございます』と『お疲れ様でした』しか言ったことないです~……」
亜美「構ってくれないからつまんないよね→」
真美「ね→」
響「こうなると、プロデューサーのプライベートが知りたくなってくるな!」
伊織「……確かにあの仕事人間が普段何やってるのかは、ちょっと興味があるわ。尾行でもしてみる? にひひっ」
あずさ「あらあら~、楽しそうなお話になってきたわね~」
春香「でもそれホントにいいかも! 今度、仕事が終わったらプロデューサーさんの後を……」
貴音「おやめなさい」
亜美「……お姫ちん? どったの?」
貴音「誰しも触れられたくない物はありましょう。それを無理に暴こうなど、礼を失するにも程があります」
春香「……それはそうなんだけど。でも知りたくない?」
美希「そうなの! あのプロデューサー、意外とヘンな店とかに行ってるかもしれないの!」
真「うわぁ、それ超気になるね。堅物ほどそういうのにハマりやすいって言うし」
貴音「………………」
雪歩「だ、ダメだよ真ちゃん。プロデューサーさんにも悪いし……」
伊織「……まあ、そりゃそうね。普通に考えたら貴音や雪歩が正しいわ」
春香「えぇー? さっき伊織だって知りたいって言ってたのに」
伊織「そんなこと言ってないわよ! 興味あるって言っただけ!」
律子「こらー! アンタ達、くだらない話ばかりしてないでレッスン再開しなさい!」
亜美「鬼軍曹が怒った→!」
律子「だぁーれが鬼軍曹よ!」
伊織「やれやれね。ほら、貴音も早く戻らないと……貴音?」
貴音「………………」
【765プロ事務所】
美希「たっだいまなのー!」
小鳥「おかえりなさい。あら、みんな一緒なの?」
やよい「うっうー! 今日は合同レッスンだったんですー!」
真美「うう、今日は軍曹のムチがいつもより凄かったよ→」
律子「あんたが気を散らしてばかりいるからでしょ!」
小鳥「うふふ。レッスン、楽しそうね」
春香「……あ、プロデューサーさん」
P「ん」
千早(……プロデューサー、いたのね。静かだから気付かなかったわ)
響(自分たちが帰ってきたんだから、おかえりくらい言って欲しいぞ……)
春香「そうだ小鳥さん! これからみんなで打ち上げに行くんですけど、小鳥さんも参加しませんか?」
小鳥「……打ち上げ?」
響「この間のライブの打ち上げさー! ぴよ子も765プロの一員だからな、一緒に来るといいぞ!」
小鳥「い、いいのかしら。私、年齢的にあなた達と話が合わないかもしれないけど」
響「それくらいなんくるないさー! あずさなら話が合うと思うぞ!」
あずさ「だ、大丈夫かしら~」
春香「あと、社長も誘って。それから……」
P「………………」
春香「……プロデューサーさん。プロデューサーさんも一緒に」
P「仕事が残ってる。悪いが参加できない」
春香「……ですよね。そう言うと思ってました」
やよい「プロデューサー、たまにはいいじゃないですかー」
千早「……高槻さんの言う通りです。こんな時くらい、私たちを優先してくれませんか?」
雪歩「えっ……私と同じくらいコミュニケーションが苦手な千早ちゃんが、そんなこと言うなんて……」
真「そうですよ! コミュ力がほぼ皆無の千早ですら参加するって言ってるのに」
千早「……あなた達、私を馬鹿にしているの?」
真「いや、褒めたつもりなんだけど……」
P「……お前たち。この際だからはっきり言っておく」
春香「……?」
P「俺は、お前たちにプライベートな時間まで費やすつもりはない」
春香「…………っ!?」
小鳥「ちょ、ちょっとプロデューサーさん! 何てこと言うんですか!」
律子「酷すぎませんか? プロデューサーがアイドルを突っぱねるような態度とるなんて……」
P「勘違いしてるみたいだな」
律子「……勘違い?」
P「俺は、アイドルを育てたり、アイドルと話したりすることが好きなんじゃない。それはむしろどうでもいい」
小鳥「えっ……」
P「俺は仕事をしてる自分が好きなんだ。社長に見込まれたから、たまたまプロデューサーをやってるだけだよ」
律子「アイドルに興味ないってことですか?」
P「アイドルは必要だ。俺がとってきた仕事をアイドルがやって、アイドルに人気が出ればまた仕事が増える」
美希「……ミキたちのこと、お仕事を楽しむための道具にしか思ってないんだね」
響「そんなの……楽しくないと思うぞ。自分たちは毎日楽しくお仕事やってるのに……」
P「何を楽しいと思うかは人による。俺は今を楽しんでるし、お前たちも楽しんでる。それでいいだろ」
春香「……みんな、行こっ」
真「そうだね。正直幻滅しましたよ、プロデューサー」
律子「ドライなのは嫌いじゃないですけど、みんな年頃の女の子なんです。もうちょっと考えて発言してください」
P「………………」
千早「……何も言い返さないんですね」
P「どうせ平行線だからな」
伊織「あんた、それでいいの? たぶん今のでかなり嫌われたわよ」
P「そうか。早く行かないと置いていかれるぞ」
伊織「…………フンッ! なによ……」
千早「……では、お先に失礼します」
P「おつかれ」
貴音「プロデューサー」
P「まだいたのか。お前も早く行った方がいいんじゃないのか」
貴音「……お聞き下さい。伊織の言葉の繰り返しになりますが、本当にこれで良いのでしょうか」
P「しつこいな」
貴音「わたくし達が毎日アイドル活動に邁進できるのは、あなたという人材あってのことでしょう」
P「そこは持ちつ持たれつだな」
貴音「そのプロデューサーが骨身を削って貢献しているアイドル達が、プロデューサーを嫌悪しているのです」
P「別に問題ない」
貴音「いいえ……わたくしには我慢なりません。なぜプロデューサーだけがそのような不遇の目に遭うのです」
P「お前には関係ないだろ」
貴音「あるのです。わたくしはアイドルで、あなた様はプロデューサーですから」
prrrr......
P「携帯鳴ってるぞ。お前のだろ」
貴音「…………」ピッ
伊織『貴音、あんたどこ行ったの!? もうすぐ打ち上げ始まるわよ!』
貴音「申し訳ありません、伊織。事務所に忘れ物を取りに戻っておりましたので」
伊織『はぁ!? ったく、さっさと来なさいよ!』
貴音「……了承致しました」ピッ
P「さて、仕事の続きだ」
貴音「プロデューサー、話は終わっておりません」
P「まだ話す気か。お前が来ないと伊織たちが悲しむだろうな」
貴音「む……あ、あなた様は、いけずです……」
P「さっさと行け」
貴音「……では、一旦ここは引き下がりましょう。お先に失礼致します」
P「おつかれ」
【ファミレス】
小鳥「ファミレスで打ち上げなんて何年ぶりかしら……」
あずさ「みんな未成年でお酒が飲めませんから、居酒屋はダメですね~」
小鳥「でも私たちはビール頼みますよね?」
あずさ「いえ、私はみんなに合わせてドリンクバーにしておきます~」
小鳥「……それだと私だけ空気読めない人になっちゃいますよ。じゃあ私もそうします」
春香「あーもう、あの人ホントにサイテーだよっ!」
雪歩「ひぃっ!」
律子「ちょっと春香、お酒でも入ってるの? 始める前から愚痴るんじゃないの」
千早「始めたら愚痴っていい、という訳でもないでしょう」
律子「……でも、気持ちは分からなくもないし。今日は特別に許すわ」
千早「ええ!?」
真「へへっ、やーりぃ。普段言えないこと、いっぱい言っちゃうかもね」
伊織「……バッカみたい」
【夜11:30 765プロ】
P(この空き時間は春香の営業に割くか。あいつも最近伸びてきたし、ここらでがっつり人気を稼ごう)
P(真は雪歩と組ませると調子がいいみたいだな。いっそユニット化も検討するか)
P(千早は律子のアドバイスで悩みを解消できたみたいだし、3枚目のCDを出す準備を進めないとな)
P(……ふう。ちょっと休憩するか)
ガチャッ
P「ん。誰か来たのか?」
貴音「ごきげんよう、プロデューサー」
P「……貴音、ごきげんようじゃない。今何時だと思ってるんだ」
貴音「月が美しい時間ですね」
P「何で戻ってきた。お前、引き下がるって言っただろ」
貴音「その前に『一旦』と申しました」
P「……屁理屈だろ。こんな時間だ、終電危ないからさっさと帰れ」
貴音「残念ながら、もう帰れません」
P「………………」
貴音「どうぞ」コトン
P「……なんだこれは。俺の見間違いでなければ酒に見えるが」
貴音「打ち上げの帰りに、近くのこんびにで購入致しました。缶ちゅーはいと呼ぶそうです」
P「お前18だろ。飲めないのに何本も買ってきてどうする」
貴音「飲みます」
P「飲めないって言ってるだろ」
貴音「わたくしが勝手に飲むと申しております」
P「駄目だ、没収する」
貴音「……面妖な。ぷらいべーとへの介入を拒んだあなた様が、わたくしのぷらいべーとに介入されるのですね」
P「ぐ……!?」
貴音「……ふふ。そんな顔もされるのですね、あなた様は」
P「俺は止めたから」
貴音「分かっております。ここから先は何が起ころうと自己責任です」
プシュッ
P「ああ、本当に開けたし……もう知らん。俺も一本貰うぞ」
プシュッ
P「よく未成年がこんな物買えたな。いや、貴音の大人びたルックスならいけるか」
貴音「お褒めの言葉、感謝致します」
P「そんなに褒めてない。しかし、まさかアイドルと呑む日が来るとは」
貴音「二人だけの打ち上げ、です」
P「……バカか」
1時間後―――
貴音「すぅ……すぅ……」
P「2本目の途中で寝たか。初めてにしては飲んだ方だな」
貴音「……んん……」
P「顔真っ赤じゃないか。おい、ソファで寝ると風邪を……」
貴音「………………」
P「いや、自己責任って自分で言ったな。俺は関与しないぞ」
貴音「…………むにゅ……」
P「…………」
貴音「……ん、ん…………」
翌朝―――
貴音「…………はっ! ふ、不覚にも眠りに落ちてしまいました……」
貴音「時間は……まだ6時半ですね。普段であればもう一度眠るところですが」
貴音「……共にお酒を楽しんでいた、プロデューサーはどちらでしょう」
貴音「もしやわたくしが自己責任と言ったにもかかわらず醜態を晒したため、愛想を尽かして帰ってしまわれたのでは……」
貴音「……今日はお仕事も入っておりませんし、わたくしも後片付けをして帰宅致しましょう……」
貴音「まずは、この毛布ですね。わたくしはこれを羽織って眠っていたようです」
貴音「…………毛布を取りに行った覚えはありませんが。お酒の力とは怖いものですね」
P「おはよう」
貴音「あっ……あなた様、おは……っ!」
P「……どうした?」
貴音「み、見ないでくださいませ……」
P「は?」
貴音「寝起きの顔など、あなた様に見られとうございません……!」
P「心底どうでもいい。ほら、お茶」
貴音「…………え?」
P「熱いお茶いれてきた。ソファで毛布一枚で寝てたから、今ちょっと肌寒いだろ」
貴音「言われてみれば、少々寒気が……」
P「飲んで温まっとけ。アイドルは体が資本だし、病気になられたら俺も仕事が無くなって困る」
貴音(……やはり。あなた様は、本当は心優しいお方なのですね)
寝る。後は頼んだぞ
P「貴音は今日仕事入ってなかったよな」
貴音「はい、今日は特に予定は入っておりませんが…?」
P「ちょっと俺に付き合ってくれないか?行きたい所があるんだ。」
貴音(プロデューサーは私を連れて一体どこに行くつもりなのでしょう……)
貴音「ですが私は今起きたばかりで一度自宅に戻りたいのですが、それでもよろしいですか?」
P「ああ、わかった。俺は事務所で待っているから準備が出来たら連絡してくれ。」
自宅にて
貴音「プロデューサーが仕事以外で私と出かけるとは」
貴音「一体どこにいくつもりなのでしょうか……」
着信 プルルルルル
貴音「そういえば昨日忘れ物を取りに行くと行ったままでした……」
貴音「とりあえず昨日は疲れてそのまま家に帰ってしまったことにしておきましょう。」
事務所
ガチャ
小鳥「おはようございます。」
P「……おはよう」
小鳥「早いですね。もしかして昨日からずっと残って仕事してたんですか?」
P「ああ、今から帰るとこなので失礼します。」
小鳥「プロデューサーさん昨日のことなんですけど、アイドル達にとってはプロデューサーさんはとっても頼りになる存在だと思うんです。」
小鳥「だからもう少しアイドル達との距離感を縮めて接してみたらどうですか?」
P「俺とあいつらの関係は仕事上だけだ。これ以上深く関わる必要はない」
バタン
P「貴音からメールが来ているな。」
貴音(プロデューサーさん今駅に着きました後十分ほどでそちらに着きます。)
P「駅で待っているようにと返信しておくか。ふう」
真美(あそこにいるのはプロデューサー?どこにいくんだろう……)
真美(尾行してみようかな、なんか面白いことあるかも知れないし♪)
貴音「あっ!プロデューサーさん。」
P「貴音ちょっと落ち着いた所で話をしよう。どこかいい場所はないか?」
貴音「それでしたら近くにオススメのカフェがあるのでそこでよければ……」
P「わかった、そこに行こう。」
真美(お姫ちんとプロデューサーが二人でカフェに入っていった!!? これは怪しいふんいきですな~)
真美(亜美に報告っしょ♪メール送信っと!)
ピピッ
真美の「プロデューサー」は親密じゃないからと思え無くもないが
貴音の「プロデューサーさん」は…
やっべ、話に矛盾出ちまった。
どうしよう
P「実は貴音に相談したいことがあってな、お前なら俺のこと理解してくれると思うんだ。」
P「本当は俺もお前たちと仲良くやっていきたいと思っているんだ。でもそんな甘い考えじゃこの世界では通用しないと思う。」
P「あの子達にはもっと有名になって輝けるアイドルになって欲しいんだ、俺が生半可な気持ちで接していたら駄目なんだ。」
貴音「……………」
P「そう考えていたら厳しく接してしまう様になって…もうどうしたらいいかわからないんだ」
P「俺の代わりになる人を探して来た。その人ならお前たちと上手く付き合っていけると思う。」
P「一度会ってみてくれないか?」
貴音「あなたは自分が変わろうと思わないのですか?自分の立場が悪くなれば逃げるのですか?」
貴音「あなたはプロデューサー失格です。もう二度と事務所には来ないで下さい!」
P「……悪かった」
真美「お姫ちん!!!」
貴音「真美?何故ここにいるのですか?」
真美「プロデューサーさんのこと見捨てちゃうの……?」
貴音「真美……」
>>102の続きから
――――――――――
貴音「とても……美味しゅうございました」
P「ただのお茶だぞ」
貴音「このような時にいただく物は、また格別の味がするものです」
P「そうか。よくわからんが」
貴音「冷えた体が温まっていく……まるであなた様の優しさが沁み渡るようですね」
P「何言ってんだお前」
貴音「ふふっ」
貴音「目覚めた時に周りに誰もおらず、あなた様は先に帰ってしまわれたと思いましたが……」
P「帰るわけないだろう」
貴音「お優しいのですね。事務所にわたくしを置いては……」
P「何勘違いしてる。俺は今日も仕事があるんだ」
貴音「……では、一旦お帰りにはならないのですか?」
P「帰ると定時に間に合わないからな」
貴音「いけません。体を壊してしまいます……」
P「お前たちと違ってヤワじゃないから問題ない。お前はさっさと帰れ」
貴音「………………」
貴音「……では、少し片付けてから帰宅致します」
P「片付ける?」
貴音「昨夜の缶ちゅーはいや、この毛布を……」
P「あ」
貴音「? どうか致しましたか?」
P「いや……なんでもない」
貴音「……そういえばこの毛布ですが、わたくしはどこから持ち出したのでしょう」
P「………………」
貴音「わたくしは事務所に寝泊りしたことなどございません。まして毛布の場所など存じては……」
P「………………」
貴音「ということは、つまりあなた様が」
P「知らん」
貴音「…………いけずな方」
2時間後―――
ガチャッ
小鳥「おはようございます、プロデューサーさん」
P「おはようございます」
小鳥「………………」
小鳥(うーん、顔合わせづらいなあ。昨日の打ち上げで皆が愚痴ってたの、目の前で聞いてたし)
P「音無さん」
小鳥「はっ、はいぃ!?」
P「……なぜ慌てるんです」
小鳥「い、いえいえ……それで、なんでしょう?」
P「少し聞きたいことがあります」
小鳥「聞きたいこと、ですか」
P「ええ。音無さんは……自分の領域に介入されるのは、好きですか? 嫌いですか?」
小鳥「……はい?」
小鳥(な、なんか出社するなり重そうなテーマ……!)
P「俺は嫌いです」
小鳥「……で、でしょうね。私もあまり好きじゃないですけど」
P「普通、そうですよね」
小鳥「…………?」
P「……なんで俺、あそこで一緒に飲んだりしたんだ……」
小鳥(ひとりの世界に入っちゃった……そっとしておこう)
午前11時―――
P「あそこで飲んだせいで、今日は定時前から仕事を始めるハメになった……それは予想できてただろ」
P「じゃあ、俺はなぜ酒に手を出したんだ……わからん」
春香「千早ちゃん、プロデューサーさんがなんかぶつぶつ言ってて気持ち悪いよー」
千早「気持ち悪いって……本人のいる所で言うことじゃないでしょう」
やよい「何か悩み事でしょうかー?」
真「あはは! 確かに、あれだけガッチガチな性格だと悩み事は多そうだよね」
響「それでハゲたら面白いな!」
律子「はげっ……ぷっ」
千早「あなた達まで……昨日のテンションを引きずるのはやめなさい」
伊織「くだらない……」
ガチャッ
貴音「ごきげんよう」
真美「あれ、お姫ちん? 今日仕事なかったよね→」
貴音「ええ。ですから事務所でライブの映像を見て勉強しようと」
雪歩「わぁ~、さすが四条さんですぅ。お仕事のない日でもがんばってるんですねっ」
律子「しっかりしてるわねぇ、あんたは」
貴音「いえ、わたくしはしっかりしてなど……昨日も、事務所で一夜を過ごしてしまいました」
律子「ふーん……えっ!?」
やよい「じ、事務所に泊まったんですかー!?」
貴音「はい」
春香「な、なんで!? 打ち上げの後、みんなウチに帰ったんじゃなかったの!?」
律子「あそこで事務所に戻ったら終電ないじゃない。事務所で何してたのよ」
貴音「それは……プロデューサーと、お酒など嗜みつつ……」
律子「!?」
亜美「ど……ど→いうこと、お姫ちん!」
春香「そうだよ! 私たち、昨日の打ち上げで『プロデューサーさんをガン無視する同盟』を組んだところだよ!?」
千早「それ、同盟員はあなた一人だけどね」
春香「えっ……み、みんな『いいねー』って言ってたよね!?」
真「ごめん、それ場のノリで言っただけ……」
美希「いくらプロデューサーがヒドいって言ってもそこまでするのはナイって、ミキ思うな」
春香「………………」
あずさ「私も混ぜて欲しかったわ~」
小鳥「本当ですよ、私なんてドリンクバーでガマンしてたのに……でも貴音ちゃんって、未成年よね?」
貴音「…………はい」
律子「貴音……あんたみたいな聡明な人間が何やってんのよ」
あずさ「いいじゃないですか。私も短大の頃からよく飲んでましたし~」
律子「ダメです! アイドルが未成年で飲酒なんて、バレたら一気に人生転落ですよ!」
春香「そんなことはどうでもいいんです!」
律子「どうでもいいって、あんたね」
美希「貴音、プロデューサーと何話したの?」
響「そうそう、それが聞きたいぞ! あのカタブツのプライベート話は聞けたのか!?」
貴音「みなの期待に沿えず申し訳ありませんが、仕事の話が主でした」
真「なーんだ、やっぱりそうか」
伊織「そこは少し興味あったんだけど、予想通りといえば予想通りね」
貴音「プロデューサーがこの仕事にどれだけ誇りを持っているか、どういうところで苦労したかといった話ばかりで」
雪歩「そ、それもちょっと聞きたいですぅ」
律子「あの人の性格から考えれば、それでも十分プライベートなレベルでしょ……」
千早「お酒の力は凄いわね……」
貴音「そうですね……あとはどのアイドルが好きか、という話くらいでしたか」
美希「!?」
響「!?」
伊織「す……好きぃ!?」
真「あ、あのプロデューサー、好きって感情、あるんだ……」
伊織「よくそんな話聞き出せたわね……」
貴音「ええ。残念ながらわたくしは最下位でしたが」
真「ひどっ。わざわざ打ち上げの後に事務所に戻ってきて飲みに誘ってくれたアイドルが、最下位って」
貴音「……わたくしは、少々介入が過ぎたようです……」
美希「怪乳……おばけみたいなおっぱいのこと?」
響「それは美希だろ!」
千早「…………くっ」
貴音「他人の心の領域に侵入しすぎた、ということですよ。プロデューサーに心を開いていただきたかったのですが……」
真「よくやるなあ。僕たち道具扱いされてるのに」
貴音「わたくしは、アイドルとプロデューサーが共に同じ道を歩むことを夢見ておりますから」
律子「普通はそうなんだけどね。まあ、あの人は普通じゃないから……」
亜美「でもさ→、お姫ちんが最下位はないと思うYO!」
伊織「あら、まさか亜美と意見が揃うなんてね」
亜美「む、どういう意味さ→!」
貴音「……最下位ではない、とは?」
伊織「最下位って、要はすっごい嫌われてるってことでしょ。そんな相手と一緒にお酒なんか飲まないわよ」
真「飲んだことも無いのに何言ってるんだよ……」
伊織「う、うるさいわね。そういうもんなの!」
雪歩「例えば、何か『プロデューサーさんが優しい』って思ったことは無かったんですか?」
貴音「……泥酔したわたくしに毛布をかけていただいたり、寝起きで体が冷えるからと温かいお茶をいただいたり」
真「なんでそれで最下位って思うのか、逆に不思議なんだけど」
千早「そうね。最下位はどう考えても春香だし」
春香「千早ちゃん!?」
美希「じゃあ、ちょっと試してみようよ」
貴音「試す?」
美希「ミキにおまかせなの!」
――――――
――――
――
P「困った……全然仕事が手につかん」
美希「ねぇねぇプロデューサー!」
P「なんだ。今忙しいんだよ」
美希「ミキとごはん食べに行こっ! ミキ、おいしいお店知ってるの!」
P「春香や千早と行け。俺は後で行く」
美希「………………」
美希「フられちゃったの……」メソメソ
律子「試すとか言って泣いてんじゃないわよ。あんた何がしたかったの……?」
美希「だって……あのプロデューサーと貴音の話に出てくるプロデューサー、全然違うんだもん……」
春香「あっちが本来の姿だよ。だから美希も同盟に入ろうよ」
美希「それはヤなの」
春香「………………」
響「だいたい分かったぞ。これで貴音が誘ってプロデューサーが乗ってきたら、脈アリってことじゃないか?」
美希「う、うん。そういうことなの」
貴音「と、殿方を昼食に誘ったことなど無いのですが……」
真「ならぶっつけ本番だね。骨は拾ってあげるから、頑張って」
貴音「無責任では……」
真「貴音がプロデューサーの心を開いてくれれば、僕達も仲良くなれるかもしれないしね」
春香「無理だよー。あの冷血漢がアイドルに興味持つなんてありえないよ」
貴音「あの、プロデューサー……」
P「…‥おい、何で出勤してるんだ。今日は仕事ないからって、朝方帰ったとこだろ」
貴音「今日はライブのビデオを見て勉強しようと」
P「今のお前はソファで寝て疲れも取れてないだろうし、酒も残ってるかもしれない。休むのも仕事のうちだろ」
貴音「…………はい」
P「……まあ、来た以上はしょうがない。で、何か用か」
貴音「は、はい……たまには、昼食などご一緒に如何でしょう」
P「……罰ゲームでもやらされてるのか?」
貴音「違います。わたくしの意志でお誘いしております」
P「ほんとかよ……いつ行くの」
貴音「如何様にも」
P「じゃあ10分待ってろ。机片付けてから行きたい」
貴音「はいっ」
真「ねぇ美希、今どんな気持ち? ねぇねぇどんな気持ち?」
美希「うぐぐ……」
貴音「なんということでしょう。プロデューサーが心を開いてくれているではありませんか」
千早「でも、相変わらず淡々と話すから冷たい印象はあるわね」
律子「しかも貴音限定なのよね。私たちもぐいぐい行けばなんとかなるのかしら」
伊織「そういうわけでもないでしょ。貴音は元々『人には触れられたくない部分がある』って言ってたんだし」
真「つまり、興味があるってことをアピールして、あっちから色々言葉を引き出せばいいんだ」
あずさ「そういう意味で言えば、お酒は強い味方ね~。思わず口が軽くなっちゃうもの」
やよい「うう、私お酒飲めないですー」
雪歩「お茶に何か混ぜればいいんでしょうか……」
響「く、薬とかはよくないと思うぞ」
貴音「……わたくしも昨夜は深く考えずお酒を持ち込みましたので、残念ながら助言は……」
律子「ああ、あんたはいいの。とりあえず一緒にお昼に行ってらっしゃい、あんたはもうしきい値超えてるんだから」
真「しきい値?」
律子「これを超えたら仲良くなれるってライン。私たちはまだラインの遙か下だけどね」
やよい「うっうー! がんばりますー!」
春香「……ねえ、みんなおかしいよ。どうしちゃったの?」
美希「……春香?」
春香「みんな、プロデューサーさんが最低だとか、冷たいとか言ってたじゃない。なんで急に親密になろうとしてるの?」
春香「私たちに割く時間はないとか言われて、道具だと思われて、どうして仲良くなりたいって思えるの?」
春香「私は、無理だよ……」
千早「春香……」
【事務所の外】
P「で、どこ行くんだ」
貴音「おすすめのらぁめん屋があるのですが」
P「ラーメン好きだし、そこで」
貴音「駅前まで歩きますが」
P「距離あるな。じゃあさっさと行くか」
貴音「……意外です」
P「なにが?」
貴音「仕事以外の無駄な時間は費やさない方かと思っておりました……」
P「間違ってない。普段はカロリーメイトとウィダーインゼリーだ」
貴音「……今日はどうしてお付き合いいただけたのですか?」
P「……なんでだろうな」
P「貴音が初めてだ」
貴音「え……?」
P「あんなに俺に構ってきた奴。今まで関わってきた奴は、例外なく離れていったから」
貴音「………………」
P「俺は人とあまり関わりたくない。だからお前が酒持って入ってきた時、こいつめんどくせーなって思った」
貴音「はうっ」
P「でも気づいたら缶を開けて、普段話さないようなことも話してた。俺にとってはまだ業務中だったのに……」
貴音「……あなた様が本当にお仕事を楽しんでいるという想い、よく伝わって参りました」
P「あ、そ……はぁ。関わりたくない、はずだったんだが」
貴音「…………?」
P「こうしてメシまで一緒に食いに来て。なんなんだろうな、この変な気持ち」
貴音「それは……恋、かもしれません」
P「恋?」
貴音「はい。あなた様は、わたくしに恋しているのです」
P「……面妖な告白シーンだな。普通逆だろ」
貴音「逆というと、わたくしがあなた様に恋していると?」
P「それが本当かは別にしてな」
貴音「……普段から仕事に没頭するあなた様を見ていたり、ほろ酔いのあなた様と話すのは楽しかったものですが」
P「恥ずかしいからやめろ」
貴音「やめません。ふふっ」
P「こいつ……事務所に帰ったらお前の寝相をみんなに話すぞ」
貴音「!?」
【1時間後 765プロ事務所】
P「ふう、久しぶりに腹いっぱい食べたな」
貴音「ご馳走になりました」
P「あれくらい払わせろ。俺の方が給料少ないけど」
貴音「ふふ……」
P「さて。メシも食べたし、コーヒー飲みながら仕事再開といくか」
やよい「あっ……お、おかえりなさい、プロデューサー」
P「ただいま」
やよい「あの、これどうぞっ!」サッ
P「……コーヒー? 気が利くな」
やよい「えへへ……」
ズズズズズ....
P「うまい」
やよい「ホントですかー!? やったー!」
P「大したもんだ。俺が入れるコーヒーは凄まじくまずいからな」
やよい「今度飲んでみたいです!」
P「やめとけ。心臓発作で死ぬぞ」
やよい(うっうー! コーヒー作戦成功ですー! はじめて挨拶以外の話をしちゃいました!)
貴音(……なるほど。食後のコーヒーブレイクを狙うとは、なかなか考えてありますね)
その後―――
千早「プロデューサー、また歌のご相談が」
P「有識者に聞けって言っただろ」
千早「いえ、今度は一般人の感想を求めているので。この新譜のメロディをどう思うかをお尋ねしたいんです」
P「それならいいぞ。でも後で売れなくても文句言うなよ」
千早「わかっています。感想は参考程度ですから」
P「お前もたいがいはっきり言うな……でもその方が気が楽でいいな」
美希「プロデューサー! 今度からハニーって呼んでいい?」
P「意味がわからん。駄目に決まってるだろ」
美希「ハニー、ご飯食べに行こ!」
P「早速呼ぶな。っておい、腕引っ張るなって」
美希「お仕事なんていつでもできるの。ご飯はお昼しか食べられないの!」
P「朝と夜も食え。お前アホなのか?」
伊織「あんた、最近他の皆と仲良くやってるみたいじゃない」
P「どういうわけかな」
伊織「どう? 仕事以外にも楽しいことってあるでしょ?」
P「それなりには」
伊織「……あんたね。前々から思ってたんだけど」
P「なんだ」
伊織「このスーパーアイドル伊織ちゃんと話してるんだから、もうちょっと愛想よくしなさいよ!」
P「そういうのはもっと売れてから言え。この間のCDも全国で2千枚しか売れなかったし」
伊織「ぐっ……」
P「2千枚ってガンダムAGEじゃないんだから。ははは」
伊織「そんな比較しなくていいわよ! そのうちもっと売れてやるんだから!」
貴音「………………」
貴音「あなた様、最近楽しそうですね」
P「そうか?」
貴音「はい。わたくしと買い物に興じている時より楽しそうです」
P「そんなことないと思うが」
貴音「あなた様は、わたくしに恋しているのではなかったのですか?」
P「いや、恋はしてないと思うぞ」
貴音「…………えっ」
P「でも貴音といる時が一番楽しいけどな」
貴音「!? その言語、偽りではありませんか!?」
P「嘘がつけない性格だし。凹んだり元気になったり忙しい奴だな」
貴音「……そうですか。プロデューサーは、わたくしとずっと一緒にいたいと」
P「言ってないから」
春香「いいご身分ですね、プロデューサーさん」
P「春香、いたのか」
春香「いーまーしーたー。陰で女の子たくさんはべらせて結構なことですね」
貴音「はべらせ……そうなのですか、あなた様」
P「してない。睨むな、普通に怖い」
春香「……みんなはあなたと仲良くなろうとしてますけど、私はごめんですから」
P「そうか」
春香「ほら、またそうやって流そうとする! 道具としてしか見てないから!」
P「今はそうでもない。一部のアイドルに関しては」
春香「一部って、貴音さんや美希のことですか? それより、私の方が社交性が……」
P「………………」
春香「……なんですか」
P「お前、構って欲しいのか?」
春香「は……はぁぁ!? い、意味わかんないですっ!」
P「そうとしか見えん」
春香「……だって。皆あんなに冷たいとか最低とかゴミクズとか言ってたのに、簡単に仲良くなっちゃって」
貴音「春香……」
春香「あんな人とは絶対いい関係にはなれないからって、同盟まで作って……今更言い出せませんよぉ!」
貴音「春香、素直になるのです。みながプロデューサーと友好関係を築けるのであれば、あなたにも可能なはず」
春香「……ほんとに? でもプロデューサーさんの中で、最下位って私なんですよね」
P「いや? お前は好きな方から3番目くらいだ」
春香「へっ……」
P「まっすぐに生きて何事にも全力で取り組む感じがいい」
春香「………………んな、なな何言ってんですかぁ、プロデューサーさん!」
P「というか貴音、あの時の話喋ったのか」
貴音「……申し訳ございません」
P「後でお仕置きだな。ゴミクズって言った奴も一緒に」
【一ヶ月後 765プロ事務所】
春香「おはようございまーす!」
P「おはよう。春香は今日も元気だな」
春香「はいっ! プロデューサーさんっ、今日はお昼空いてますか?」
P「いや。悪いが」
美希「残念! 今日は美希の番なの!」
春香「えー、予約早過ぎるよー!」
P「おい、番ってなんだ。予約ってなんだ」
春香「もちろんプロデューサーさんと一緒にお昼を食べる番と、その予約ですよ?」
P「俺聞いてないんだけど」
美希「言ってないもん」
P「………………」
貴音(……少し妬んでしまいますが、プロデューサーはアイドル達と仲良くやっていくことができそうです)
貴音(プライベートな時間を使いたくない、と述べていた頃に比べるとかなり柔らかい物腰になりました)
貴音(しかし、わたくしが占有するにはもうしばらくの時間がかかりそうです……)
貴音(すっかりわたくしは彼に惹かれてしまいましたし……いずれ添い遂げられると良いのですが)
P「貴音。昼飯一緒に行くか」
貴音「…………え?」
美希「なんでー!? 今日はミキの番なの!」
P「知らん。俺は貴音がいい」
貴音「……はいっ。わたくし、どこまでもあなた様に付いてまいります!」
終わり。
保守と支援ありがとう。
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