咲「全校入れ替え?」 (130)
立つんやろか
恒子「今年も暑い夏がやってきたああああぁぁぁ!」
健夜「」ビクッ
恒子「全国のっ! 少年少女の夢をぶち壊してやってきた48校の高校生たち! さらに夢を食い散らかして、日本一を決めるときが来た!」
健夜「あの……こーこちゃ……福与アナウンサー?」
恒子「それではっ――って何よすこやん。せっかく気持ちよくオープニング決めてるのに」
健夜「福与アナウンサーって言ってるのに愛称で呼ばないで! じゃなくて、団体戦の出場校は52校で……ってそれでもなくて」
恒子「あはは、すこやんは忙しいなあ」
健夜「誰のせいだと思ってるの!?」
健夜「いやいやそれでもなくて。私が言いたいのはね、なんでインハイの開式でそんなにテンションを上げてるかって事で。また怒られちゃうよ?」
恒子「あ、それなら大丈夫。これって局の指示だし」ユビサシ
健夜「うそぉ!? あれ、本当だ! カンペに書いてある!」
恒子「いやーやっぱあれじゃん? 麻雀って絵的にはすっごい地味じゃん? そうするとやっぱり、色々影響あるわけですよ。具体的に言うと視聴率とか」
健夜「すごいぶっちゃけた!」
恒子「で、せめて少しでも盛り上げようと、プロレスさながらにやってみる事になったのです。いえー」
健夜「えー……インターハイって伝統ある大会なんだけど、それでいいの?」
恒子「少なくともアナは駄目って判断してたよ。だから私におはちが回ってきたんだし」
健夜「そこはこーこちゃんも断ろうよ! ああっ、こーこちゃんって言っちゃった!」
恒子「まーまーいーじゃない。何でもアリな開会式になってるんだし」
健夜「そうしないために抵抗してたのに……」
恒子「実は殆どのコンビが拒否したけど、三尋木プロだけはノリ気だったんだよねえ。結局針生アナにしばかれてお流れになってたけど」
健夜「当然だよ……ってあれ? 三尋木プロこうするってしってたの?」
恒子「それは当然だよ」
健夜「私全く聞いてないよ!?」
恒子「それは当然だよ」
健夜「直前になんていったかくらい忘れないで!」
恒子「いやー、だってすこやん、言ったら嫌だって言うでしょ? だから私の方でGOサイン出しといた!」
健夜「何かもう、疲れたよ……疲れたけど、すっごく慣れてる光景だよ。いつもこんなんなんだもん……」
恒子「えへへ」
健夜「ほめてないよ!」
恒子「それでは、すこやんにも納得してもらった事で。各校紹介にいってみよー!」
健夜「別に納得したわけじゃないからね!? 諦めたってだけだから! ちょっとこーこちゃん、お願いだから話を聞い……」
千里山女子高校
洋榎「しゃ! 今年もきっちり優勝いただくで!」
セーラ「当たり前や。気合い入れてくでー!」
照「……」ポリポリ
洋榎「なんや照、テンションひっくいなあー」
セーラ「そうや。もっとアゲアゲでいかな、別のとこに食われてまうで」
照「おかしはゆったり食べるもの」モフモフ
洋榎「かーっ! そうやない! 今年も、どこもかしこもウチらを打ち落としに来てるんやで! そいつらをシバいたらなあかんのや! もっとこう、ガッとかグワァーっとかな」
照「じゃあ二人はお菓子食べない」ススス
セーラ「そんな事は言うてへんごめんなさい」
洋榎「まあ練習はおやつのあとでもええなごめんなさい」
恒子『一番手は、ご存じ千里山女子! 今年もその圧倒的な力を見せてくれるのかー!』
健夜『実際、千里山はインターハイ上位の高校と比べても圧倒的だよ。それでも、隙はけっこう多いんだけど……』
恒子『おーと、早速すこやんの辛口評価だー! これは「私ほどじゃない」というアピールかー!?』
健夜『違うよやめてよ! ……おほん、千里山は隙も多いけど、それ以上に稼ぐ超火力チームだからね。これを止めるかこれより稼ぐか……どっちにしても容易じゃないよ』
恒子『千里山は全出場校で唯一の、全員が春の大会区間一位なんだよね。オールマイティに強い永水女子も近い所はあったけど……』
健夜『文字通り、火力が桁違いだからね。最高が宮永照選手のプラス26万点。一番低いのですら、江口セーラ選手のプラス7万点だから』
健夜『はっきり言って、千里山女子だけで高校オールスターって言ってもいいレベルがあると思うよ』
健夜『しかも去年、力のあった3年生を抜いて、まさかの1年2年をレギュラーにして大成功。去年と全く同じメンバーで今年を迎えられたのは大きいよ』
初美「あー! 何で先にお菓子食べてるですかー?」
照「我慢できなかった」
セーラ「ちゃんととっといてあるわ。少しくらいええやろ」
初美「もー。じゃあ少しくらい待っててくださいよー」プリプリ
キャーゴメンナサーイ
洋榎「お、最後も来たみたいやで」
玄「松実玄、ただいま来ました! 遅れてごめんなさーい!」
洋榎「いーや、ゆるさへんでー!」
セーラ「これは罰ゲームやろなあ!」
玄「ひゃー! はっちゃん先輩たすけてー♪」
初美「よしよし。二人とも、あんまり後輩を虐めちゃだめですよー」
洋榎「いじめとちゃうで。これは愛の鞭や」
セーラ「せや。先輩を差し置いてどっかをぶくぶく太らせてる後輩のそこをへこましたるためや」
初美「…………」
玄「ひゃう! はっちゃん先輩、なんで人を殺せそうな目でおもちをみるんですか!」
初美「これは……指導がひつようやろなー」
玄「なんで関西弁!?」
洋榎「と、まあアホな冗談はおいといて。いい加減練習するで。みっともない姿は見せられへんからな」
セーラ「……。チームじゃ俺が稼ぎケツやったからな。次はこうはいかへんで」
洋榎「はっ、伊丹の大将抑えといてよく言うわ。そんなこと言ったら、うちなんて目立った奴がおらんかったんに9万ちょいや」
セーラ「それでも俺より稼いでるやろが!」
洋榎「ザコ相手に稼いだかて自慢になるかい!」
セーラ「……お前とはいつか決着つけたらなとおもっとった所や」
洋榎「ええで、しばいてキャン言わせたる。玄! 卓に入れや!」
玄「いだだだだ! はっちゃん先輩おもち握らないで……え? えぇー……。あ、じゃあはっちゃん先輩も、っていない!?」
洋榎「なんや逃げたんかい。相変わらずすばしっこいやつや」
セーラ「しゃーない。じゃあそこの二年、入り」
2年生1「ぎゃーーー!」
初美「ほっといていいんですかー?」
照「いい。それに、ああなった二人は止められない」
初美「玄ちゃんも巻き込まれてますけど」
照「犠牲はつきもの」
初美「ですか。なんだかんだ言っても、うちってゆるい雰囲気ですねー。大丈夫でしょうか?」
照「それは問題ない」
初美「?」
照「多分、一番勝ち続ける事の難しさを知ってるのはうちだから。それさえあれば、誰も勝つための努力を忘れないし惜しまない。なら、優勝は千里山以外にありえない」
初美「……、ふふふ」
照「? なに?」
初美「いいえ、なんだかんだ言っても、エースしてると思っただけですよー。いいこいいこ」
照「むぅ……あんまり頭なでないで」
初美「ヤですよー♪ じゃあ私たちも勝つために、練習しましょうか」
照「ん。じゃあ私とはっちゃんと……そこの二人で」
3年生1・2「ぎゃーーー!」
恒子『2年連続個人、団体戦優勝の立役者、宮永照率いる千里山女子高校! 今年はさらにレベルを上げての出場だぁー! またもや卓上を焼き尽くすのか!』
健夜『春大会を見た限りでは、むらっ気の多い薄墨初美選手と松実玄選手の隙が少なくなってたようみ見えます』
健夜『打点自体は宮永選手に次ぎますから、もし安定していたら洒落にならない火力になるでしょう』
健夜『下馬評に違いなく、今年の優勝最有力候補です』
恒子『三尋木プロ一押し! 千里山女子高校でした!』
千里山女子高校(シード)
オーダー
大将:(3年)江口 セーラ
副将:(3年)薄墨 初美
中堅:(3年)愛宕 洋榎(部長)
次鋒:(2年)松実 玄
先鋒:(3年)宮永 照
晩成高校
美穂子「ふう……これで部室は全部掃除し終わったわ」
やえ「雀卓の整備、終わったぞ」
胡桃「けほっ……こほっ……。こっちも倉庫のお掃除終わったよ!」
美穂子「ふふふ。ここもすっかり綺麗になったわね」
やえ「まったく、美穂子は酔狂だな。インターハイ前に部室を掃除したいだなんて」
美穂子「あ……ごめんなさい、巻き込むようにしてしまって……」
やえ「気にしなさんな。私たちだって好きで付き合ってるんだ」
胡桃「それに、長くお世話になった部室だからね。綺麗にしたいって気持ちは同じだよ。……勝っても負けても、これで引退だしね」
やえ「誰もいない部室か……見慣れてるはずなのに、いざこうして見ると寂しいもんだ」
美穂子「もう少しで、ここともお別れなのね」
胡桃「全く美穂子は。何も泣くことないじゃない」
美穂子「ごめんなさい、最近はどうしても涙腺が緩くて」
やえ「良かったことも、悪かったことも、全部ここに詰まってる。私たちの高校生活は、間違いなくここが基点だった。そこから離れるとなれば、涙もろくもなるさ」
胡桃「どうせ泣いて最後を飾るならさ」
美穂子「ええ、そうね。うれし泣きで終わらせたいわね。そのために、優勝しないと」
恒子『もう一つのシード校、晩成高校! なんと偏差値70の高校です! しかもレギュラーは全員成績トップレベル! 平均偏差値76! なんでこいつら麻雀してるんだぁぁぁ!』
健夜『メタメタだよこーこちゃん!』
恒子『だってすこやん! この子らどの大学に入るのだって思うがままの成績で麻雀してるんだよ!?』
恒子『私がアナウンサーになるためにどんだけの努力をしたとうごご……。ねたましい……ねたましや。才能がねたましい……』
健夜『もうただの嫉妬じゃない! 自重しようよ! ほら、お仕事して』
恒子『うぅ……晩成高校は一説によると、ここ50年でインターハイを逃したのはただの一度だとか』
健夜『一説も何も事実だよ!?』
恒子『ええと、資料資料……去年まではエースの福路美穂子選手以外は全員3年生で固めてたんだけど、今年は1年を二人レギュラーに入れてるようです』
健夜『うん、選手層の厚い晩成でレギュラーを取ったんだから、これは1年生をほめるべきだろうね。インターミドルチャンプっていう実績もあるからだろうけど』
健夜『晩成の勝敗は新人2人の仕上がりにかかっていると言っても過言じゃないと思います』
憧「おはようございまーす!」
和「よろしくお願いします」
やえ「ああ、おはよう」
美穂子「二人とも、おはよう。少し待っててね。今お掃除が終わって、お茶しようとしてた所だから」
憧「え?」
和「え?」
美穂子「え?」
憧「いやいや、掃除は皆でしようって言ってたじゃないですか。何でもう終わってるんですか」
和「だから私たちも、いつもより30分早く来たんですけど……」
美穂子「あら?」
胡桃「そういえばミホが掃除し始めて……」
やえ「そのまま何となくやってたね」
憧「そんなに長い間お世話になったわけじゃないけど、私たちも思い入れがあるし」
憧「何より部長達と一緒にやるからって、楽しみにしてたのに……」
美穂子「」ホロホロ
憧「うえぇ!」
和「あ、憧! 言い過ぎですよ!」
憧「あの、そんなつもりじゃ……そうだ! これはやえ先輩と胡桃先輩が悪いんです! ほら、止めないで流されたし! きっとそうです!」
やえ「なんでこっちに振る!?」
胡桃「と言うか年上に対する敬意、足りないよ!」
憧「えー、だって先輩方威厳が足りないし。ぶっちゃけ背も小さいし、あんまり先輩って感じ自体しないと言うか……」
やえ「とりゃ!」ゲシ
胡桃「制裁!」ゴス
憧「あいたぁ! 何も蹴る事ないじゃない!」
やえ「うるさい!」
胡桃「今日という今日は、その生意気な態度を改めさせるよ!」
ワーワーギャーギャー
美穂子「ううん、違うの、うれしかったの。私なんかが部長をやっていけるかって不安だったけど、ちゃんと慕ってくれてるんだなって」
和「あの、部長。感動しているところを悪いんですけど、誰も聞いてません」
憧「グフッ、無念……」
やえ「少し反省しろ」
美穂子「ふふふ……でもこれも含めて、晩成の麻雀部だから」
和「そう、かもしれませんね」
胡桃「あ、そういえば和に……はいこれ」
和「これは?」
胡桃「多分あなたが戦うことになるだろう相手のデータ。今年は初出場も結構あるから足りない部分は多いけど、名門の分は揃ってるよ」
和「いえ、ですけど私の打ち方はデジタルですから……」
胡桃「あのね、和の打ち方が何でも、これはチーム戦なの。チームの戦術が何でも私の打ち方はこうだから変えません、なんて通じないよ!」
胡桃「それに、私たちが一度でも間違ったことを言ったことがある?」
和「う……ないです」
胡桃「これはね、ミホが和のために何日も牌譜とにらめっこして作ったものなの。大切にしなさい」
和「はい、ごめんなさい」シュン
美穂子「いえ、そんなに大事にしなくても……」オロオロ
胡桃「ミホは引きすぎ! もっと前にでて主張しないと!」
やえ「まあ、これも美穂子らしさだよ。それをフォローするのも、私と胡桃の役割だ」
憧「やーい、和も怒られたー」
やえ「和は注意されただけで、怒られたのはお前一人だ!」
憧「あいたぁ!」スパーン!
和「憧、調子に乗るから……」
やえ「ふう、まったく……。余計な時間を食ったが、せっかくメンバーが揃ったんだ、練習をするか。和、憧をつれて準備しといてくれ」
美穂子「私がちょっとつまめるものを用意しておくから」
憧「はーい」
和「分かりました」
やえ「うちの1年は軽いのと固いのと、本当に問題児ばかりだ」
胡桃「次を背負ってくのはあの子達なんだから、それじゃ困るんだけどねー」
美穂子「でも……やっぱりそれも含めて、私たちのチームだから」
胡桃「ふふ」
やえ「そうだな。まだまだやることもある」
美穂子「危険そうな初出場の高校が2校。練習だって、まだ満足いくほどじゃないものね」
胡桃「インターハイ目前でやることは山積み。まだまだ大変だよ!」
恒子『奈良の強豪晩成高校、今年は大胆なオーダーで出場だぁー! 1年二人の起用が吉と出るか凶と出るか! 全ては3年生の指導にかかっている!』
健夜『晩成は、初出場校によくある「圧倒的なエース」の存在しないチームです。事実、原村和選手も高レベルなデジタル打ちだし』
健夜『その分圧倒的な負けも存在しないんだけどね。多分、チーム全体でのマイナス点は全出場校中一番少ないと思います』
健夜『あと、個人的には咄嗟の対応能力も随一だと思ってます。良くも悪くも堅実ですね』
恒子『安定感が最大の売りのチームって事だね。爆発力に勝るチャンピオンチームに、安定感でどれだけ食らいつけるのかーっ!』
晩成高校(シード)
オーダー
大将:(1年)原村 和
副将:(3年)鹿倉 胡桃
中堅:(3年)小走 やえ
次鋒:(1年)新子 憧
先鋒:(3年)福路 美穂子(部長)
永水女子高校
竜華「あかんなー。いっくら牌譜見ても見つからへん」
哩「宮永照以外になら隙はある、言うんは前から分かっとる。ばってん、その上で千里山のレギュラーより稼げなかとよ」
久「さすが不動の王者チーム、強いわよねー。だから燃える……って言いたいところだけど、実際強すぎてキツいわ」
哩「一番わかりやすく隙があるんは松実玄やな」
竜華「おお、玄ちゃん。私あのドラローちゃん好きやで!」
久「私の担当の子ね。ドラが捨てられないっていうのは確かにキツいけど、その上で押せ押せで来るのがねぇ」
霞「『振り込んでもそれ以上に取ればいい』っていうのはチームに共通してるけど、一番徹底してるのがこの子なのよね」
哩「ドラが捨てられんから、自由にできる手札が7割から半分とよ。倍近く振り込みやすか。ばってん……」
霞「松実さんはオリないのよね。危険牌もどんどん切って手を作る。私とは正反対ね」
竜華「3倍4倍の手で上がる自信あってのやり方やな。さすが竜に愛される玄ちゃんや!」
久「まったく、他人事だと思って……。本当に、こんな押せ押せで来られたら、どこで地雷踏むか分かったものじゃないわ」
恒子『今年の永水女子は全員3年生でのオーダーだ! さりげなく珍しい事だー! ……なんで?』
健夜『分からないで言ってたの!? ん……まあつまり、麻雀はそういう競技だって事だよ』
恒子『ああ、最後にものを言うのは運だっていうあれ?』
健夜『うん。いくら実力があっても、配られる札で勝負もできないんじゃお話にならないからね。引きが強いのが全員3年、て言うことはまずないんだ』
恒子『へー。じゃあ永水女子は、まずない引きが強いのが全員3年なんだ?』
健夜『うーん、内情に詳しい訳じゃないから、そうとは言い切れないんだけど。ただ、永水女子には二種類の強い人がいるんだよ』
健夜『一つは単純に、運がよく、その使い方を知ってる人。もう一つは、勝負勘が強い人強い人だね』
恒子『あ、それは分かるかも! 《悪待ち》の竹井久選手でしょ? 悪い待ちを取ってスパっと和了る! いいよねあれ、ギャンブラー精神あふれてて!』
健夜『心理戦に長けてるって言ってもいいかも。そういう意味で、部長の彼女もやっぱり並ならぬものを持ってるよ』
健夜『なにより、気合いの入り方が違うね。去年のインターハイの雪辱も晴らしたいだろうし』
健夜『辻垣内智葉選手は』
智葉「戻ったぞ」
霞「あら、お疲れ様。今お茶を用意するわね」
哩「で、どうやったと?」
智葉「渋られたが、監督の後押しもあってなんとか許可をもらえた」
久「私が提案しといて何だけど、よく許可もらえたわねー」
智葉「なんだかんだ言って、向こうにも危機感があったんだろう。このままで本当に千里山に勝てるのか、とな」
竜華「裏返せば、今のうちらじゃ力不足だーって思われてるって事なんよね。複雑やわー」ジタバタ
哩「原因ば疑われる程度の実力しかないこっちにあるとよ。仕方なか」
久「ま、ダメだったら私がなんとかしてみるつもりだったけど……」
智葉「やめろ。睨まれるぞ」
久「あら? 私がちょっと強引な事をして睨まれるのは、インターハイ優勝に変えられる事なのかしら?」クスクス
智葉「お前な……その言い方は卑怯だろ」
竜華「うぇっへっへ、智葉の負けやで」
智葉「こんなもの勝ちも負けもないだろうが。それより竜華、いい加減しゃんとしろ」
竜華「これが竜華さんイズムやから無理やー!」ゴロン
霞「あらあら竜華ちゃんたら、おなかを出したら風邪ひくわよ。ほら、タオルケット」
竜華「かすみんはやさしいなー。せやから大好きやで」
霞「私も竜華ちゃんが大好きよ」
智葉「お前な……! 久も何とか言え!」
久「まあまあ、いいじゃないこれくらい」
哩「そう言えば、久も仮眠の常習犯やったな……」
竜華「学校の偉い人権限! 二対一で、部室でごろごろは正義やー!」
久「そういう事で、ごめんなさいね」←生徒会会長
竜華「あー、なんで学校で寝るのってこんなに満足感あるんやろなぁ」←議長
智葉「こいつら……! 哩、お前もなんとか言え!」←生徒会副会長
哩「言っとう聞かんのやから、諦めればよかと」
霞「智葉ちゃん、なんだかんだ言っても面倒見がいいから」
智葉「なんでうちの3年はこんなにゆるいんだ!」
竜華「なんちゅうか、ほっといても智葉がやってくれるからなあ」
智葉「お前生徒会ではちゃんとやってるだろう」
久「ほら、竜華ってあれなのよ。お世話しなきゃいけない人がいるとすごく面倒見がよくなるけど、逆だと自分が世話かけさせるタイプって言うの?」
哩「ほんなこて迷惑な奴とよ」
竜華「この『甘えさせてくれるオーラ』をむっちゃ出しとるかすみんと『俺に任せとけオーラ』を出しとる智葉が悪いんや!」
霞「あら、それじゃあ仕方ないわね」
哩「いや全然仕方なくなかとよ。……と言うんも今更やけんな」
久「むちゃくちゃ本気な顔が笑えるわねー」
智葉「全く笑えん。はぁ、もう好きにしろ。話だけはちゃんと聞いてろよ」
竜華「ひゃっほー! お許しが出たで! ついでに哩と久もどうや? かすみんの懐は無限大や」
久「んー……私はいいわ。どっちかというと甘えられたいタイプだし」
哩「私も。そいぎこれ以上面倒かけとっと、智葉の血管が切れそうとよ」
智葉「それで、私たちは2日早く、インターハイ会場に入る。肝心の相手だが、社会人リーグの上位選手を用意してもらえた。彼女たちに、仮想千里山をしてもらえる」
智葉「あと、久のつてで藤田プロにも来てもらえる。たっぷりしごかれるぞ」
竜華「おおお! さすが久や!」
久「でしょ? ふふん、もっとほめていいわよ。ほめると調子に乗るから!」
哩「調子にのったら駄目っやろ。でもありがたか」パチパチ
霞「藤田プロへのお礼、考えとかなきゃね」パチパチ
智葉「朝から夕方までは麻雀。夜は寝るまで検討と牌譜解析と作戦会議。インターハイが始まる直前まで休む暇はないと思え。どれだけ無理をしても、千里山との差を詰める」
霞「そしたら……」
哩「ああ」
竜華「今年こそは」
久「うちが優勝をいただくわ」
恒子『強豪永水女子高校! ここ2年の輝かしい成績は、同時に千里山に優勝を阻まれた苦い歴史でもある! 今年こそ雪辱なるかぁー!』
健夜『永水女子はもう一つの高校オールスターと言っていいチームだと思います』
健夜『事実、総合力ではそう負けてないし、細かい部分では結構勝っていると思います。ただ千里山女子には、それらを全て覆す火力がある』
健夜『火力合戦じゃ勝負にならない以上、どれだけ相手を抑えつつ点を取るかで勝敗が分かれるでしょう』
恒子『優勝候補永水女子、3年のみ編成の底力をどれだけ発揮できるのか!』
永水女子高校(シード)
オーダー
大将:(3年)石戸 霞
副将:(3年)清水谷 竜華
中堅:(3年)白水 哩
次鋒:(3年)竹井 久
先鋒:(3年)辻垣内 智葉(部長)
劔谷高校
菫「ふぅ……」
ゆみ「お疲れ様。缶だが、コーヒーでもどうだ?」
菫「ゆみか、すまんな。ありがたくいただくよ」
ゆみ「あまり根を詰めるな。分からない時はいくら考えたって分からないぞ」
菫「確かにその通りだが、そうも言ってられないだろう」
灼「やっぱり苦し……?」
菫「当然だ。うちは……悔しいが、他のシード校と比べて、実力が一段劣るからな。その分チームワークでなんとかしなければいけない」
ゆみ「チームワーク……か」
灼「ん……」
恒子『劔谷高校か、えっと……』
健夜『どうかしたの?』
恒子『いやぁ、なんと言うか。大将以外印象に薄いなって思ってさ』
健夜『すっごい失礼だよこーこちゃん!? ……ん、でも地味でテクニカルな、玄人好みしそうなプレイヤーが多いチームかもね』
恒子『でしょ? 特に千里山のどかーんぼかーん! な麻雀見た後だと、どうしてもね。大将が千里山と比べても見劣りしないから特に』
健夜『天江衣選手だね。総合力ではチャンプに劣るも、火力ではそれ以上かも知れないよ。どっちにしても、比較対象にチャンプが上がる時点で非凡なのは確かだよ』
恒子『これはつまり、これくらいで満足するなよという日本最強からの熱い駄目出し?』
健夜『そういうのと違うよ!? ……いやまあ、結果的に駄目出しみたくなっちゃくかもなんだけど』
恒子『なにない? すこやんもいよいよ「今の若いもんは」とは言い出すの?』
健夜『私だってまだ若いよ!? あ……いやその……もう27歳です。嘘つきましたごめんなさい。若くはないです……』ドンヨリ
恒子『ほらうつむいてないで解説解説』
健夜『そうさせたのはこーこちゃんだよ! ええと、単純に総合力で考えると、劔谷を超える場所は結構あるんだ。例えば今年の姫松とか、対応能力が飛び抜けて高いし』
健夜『それでも春にベスト4入りしたのは、一人はみんなのために、みんなは一人のためにを体現したからだね。ある意味、一番チームをしてる』
ゆみ「灼まで来たのか」
灼「ん、もう日も落ちて月が見え始めてるし。それに衣が飽きはじめてる」
菫「そうか。じゃあここらで切り上げて始めないとな」カタズケ
菫「なあ、ゆみ」
ゆみ「ん?」
菫「実際の所、お前はチャンプや他の先鋒と戦えるか?」
ゆみ「無理だ。それは分かってるだろう? 力量もかけた時間も圧倒的に足りない。戦えればそれに超したことはないんだろうけどな。無い物ねだりは意味がない」
菫「……お前にはすまないと思っている。こんな事をさせて……」
ゆみ「言うな。私が強豪、劔谷のレギュラーに選ばれた理由は、何があっても仕事を遂行し続けられるからだろう」
灼「やっぱり私が……」
ゆみ「適正と役割の問題だ鷺森。お前の派手さはないが堅実かつ特殊な打ち回しは、先鋒で「使い潰す」には惜しい」
ゆみ「それに、私が他校のエースに一矢報いるんだと思えば、案外悪くない気分だぞ」
菫「……その言葉、信じるぞ」
ゆみ「信じるも何も本心だよ。紛れもなくな。余計な話をして待たせすぎだ」
エイスリン「ウゥ……アシイタイ……」
衣「エイスリンはダメだなー。衣はいつまででも正座できるぞ♪」
灼「ごめん、待たせた」
衣「おお、来たか! もう待ちきれなかったぞ!」
エイスリン「ハヤクウツ!」
ゆみ「私とエイスリンは入るとして、あと一人はどちらにする?」
菫「私が入ろう。灼は私の後ろで見ててくれ」
灼「また無理しようとす……」
菫「無理だって何だってしなければ強くもなれん。特に私みたいな、戦い方がほぼ固定されてるタイプはな」
衣「なあ、ゆみ……」
ゆみ「ん、どうした?」
衣「なぜゆみは、衣と月夜に打とうと思ったのだ? その……てっきり嫌かと……」
ゆみ「それは、確かに衣と打つのは怖いさ。怖いが、だから避け続けられるものでもない。私はこれから、全国にいる衣みたいなやつと戦わなきゃいけないからな」
エイスリン「コロモ、ツヨイ。テキモツヨイ。ダカラ、タクサンウツ!」
ゆみ「その通りだ。だから手加減せずにやってくれ」
衣「……もう一つ、気になる事がある。ゆみの手からは戦う気概が見えない。そうする必要があるのはなんとなく分かる……でも、楽しいのか?」
菫「……」
灼「……」
エイスリン「?」
ゆみ「……。ああ、楽しいさ」
衣「う、嘘だ! 衣とだけじゃない! ゆみの打つ麻雀は、いつも苦しそうだ! いや、ゆみだけじゃない! 菫も灼も……」
ゆみ「なあ、衣。確かに私は無理をしているさ。人から見れば逃げてるだけの、つまらない麻雀だろう。それは否定しない」
ゆみ「でもな、そんなものは勝利で簡単に吹き飛ぶ。私が、いや、私たちが求めるのはそれだけだ」
灼「実力じゃ及ばな……。でも、だからって勝ちを諦める方が、百倍辛いよ……」
菫「そのためならば無理をする。自分だって曲げる……何だってする。負けたままの自分でいたくない」
衣「……衣には、よく分からない」
エイスリン「ミンナナカヨシ! ミンナデカツ!」カキカキ
菫「まあ、つまりはそういう事だ」
ゆみ「むしろ私たちが申し訳なく思ってるよ。実力不足のツケを、エイスリンと衣に支払わせようとしてるんだ」
灼「どれだけ考えても、私たちには無理だった……」
菫「必ず……必ずだ。最高の形で繋げてみせる」ギュッ
灼「だから、お願い。勝って……」ギュッ
ゆみ「勝てるなら、こんなものは苦しくもなんともない」ギュッ
エイスリン「ガンバル!」ギュッ
衣「みんな……」
衣(なあ、とーか)
衣(これは多分、とーかが思ったのとは違うものだったんだと思う。やっぱりここには、莫逆の友となる者はいなかった……)
衣(でも衣は、ここにこれて良かったと思ってる。衣にはこんなに仲間がいて、こんなに頼りにされてるんだ)
衣(だから……全て勝つ! 有象無象の一切を薙ぎ斃す! 衣はここで、見なと最高を味わうんだ!)
衣「とーぜんだ! 衣に任せておけ! 絶対に優勝するぞ!」
健夜『チームが一丸であることの最大のメリットは、モチベーションの高さでしょう。逆にプレッシャーにもなりうるものですが……劔谷高校は最高の状態と見ていいでしょう』
恒子『なるほど、ある意味一番高校生らしく青春しているチームって事だね!』
健夜『スポ根漫画みたいなチームって思いながら見ると、打ち筋も違って見えて面白いかもしれません』
恒子『劔谷は漫画の主役となるのか、それともライバル校で終わってしまうのか! この夏に全てが決まる!』
劔谷高校(シード)
オーダー
大将:(2年)天江 衣
副将:(3年)エイスリン ウィッシュアート
中堅:(3年)弘世 菫(部長)
次鋒:(2年)鷺森 灼
先鋒:(3年)加治木 ゆみ
姫松高校
恭子「それじゃあ、部内会議を始めたいと思います」
透華「その前に、恭子さん」
恭子「ん、なんや?」
透華「なんでわざわざ薄暗い中でやりますの?」
恭子「分かってへんなぁ……」
浩子「その方が大物感出るやろ。実力があり、形を作る。これが強者っちゅうもんや」
透華「……! なるほど、つまり、だからこその強豪という訳ですわね!」
塞「どういう事なんだろ?」ヒソヒソ
まこ「さっぱりじゃ。けどそれで納得できるんなら、ええんじゃないかのう」ヒソヒソ
恒子『実は今年も来ました大阪のもう一つの王者姫松!』
健夜『そりゃ来るよ!』
恒子『えーっと、春大会では惜しくもベスト8でした。成績を見直すとベスト4ともそう差がないし、惜しかったんだね』
健夜『うん。今年の姫松は、完全に傾向と対策を練って戦うチームだよ。実際、よっぽど力がない限り、特殊な力を持つ雀士はここに潰されてる』
恒子『大沼プロとか南浦プロとかを筆頭に、年配の人に一押しにしてる人が多いみたいだよ』
健夜『完全に駆け引きで戦う、ある意味一番高校生らしくないチームだからね。実際ここの読みとか戦い方は、麻雀を知ってる人ほど楽しいと思うよ』
健夜『まあ、そこに熱中しすぎて他家においしい所を持っていかれるのは、ちょっと高校生らしいかも』
健夜『春の準決勝で千里山と同卓した時、それを忘れてなければ晩成高校に出し抜かれなかっただろうし。とにかく、シード校なみの力はあるよ』
恒子『つまり、勝負に熱中しすぎて試合を忘れない事が課題なんだね! 聞いてるか劔谷高校の諸君! 最年少八冠で元インハイチャンプのありがたーいお言葉だぞー!』
健夜『ちがっ、そういうんじゃなくて、やめてぇ!』
透華「あともう一つ。なんでこの私が先鋒じゃないんですの?」
塞「そんな今更……」
恭子「何でも何もエースを中堅に置くのが姫松の伝統やから」
浩子「あ、これはあれなんちゃいます? 自分にエースはつとまりませんー、ゆう迂遠な弱音なんちゃいます?」
まこ「なんじゃ、それやったら早く言えや。わしが代わりに……」
透華「な、な、な、何を言ってますの!? エースと言えば龍門渕透華! 龍門渕透華と言えばエース! この私以外の誰につとまると言うのです!」
塞・恭子・浩子・まこ(ちょろい)
塞(実力が一番なのは確かだけど)
まこ(こいつ、我慢しきれんとデジタルや情報に徹さず、がしがし攻めるからのう)
浩子(熱くなりすぎる性質やからなあ。間違っても先鋒や大将にはおけんし)
恭子(そういう意味では、姫松の伝統に救われたなあ)
透華「みなさんどうしましたの? いきなり黙って視線を合わせて」
恭子「いや、なんでもない」ポチ
スクリーンガシャ
恭子「それより、また透華がだだこねんうちに始めるで」
透華「だだなんてこねてませんわ!」
浩子「はいはい。そんで、やっぱり注目するんは千里山と永水なんやな」
まこ「そりゃ、伊達に他称オールスターチームじゃないっちゅう事じゃのお」
浩子「私の相手は松実に竹井ですね。あの多少の不利をつっぱねるスタイル、さぞ面白い麻雀やろなあ」
恭子「どうにかなるか?」
浩子「誰にもの言うてるんですか。私と後一人、速攻型が同卓すれば、二人同時に相手しても抑えきって見せますわ」
浩子「舐り尽くされて涙目になる姿が今から今から思い浮かびますわ」ククク
恭子「おし、その意気や。次に透華、今年の中堅はいつにも増してキツいぞ」
恭子「なんせ小走やえ、白水哩、愛宕洋榎っちゅう、特徴無く全方位に強いベストプレイヤーが固まってるからな。おまけにシャープシューター弘世菫はデジタルの天敵や」
透華「あら、つまらない心配をいたしますのね。この私にかかれば、どんな相手だろうと木偶に等しいですわよ。オーッホッホッホッホ!」
塞「なんでうちは、こんなに小物臭と言うか悪党臭というか、を漂わせてるのよ……」アタマカカエ
まこ「堪えや。こんなでも強いんは本当じゃし」
恭子「まこは……心配ないな。気がかりは打ち筋が自在な清水谷竜華やけど、ここは自力の勝負! 年期の違いを見せたり」
まこ「当たり前じゃ。キャリアなら誰にも負けん」
恭子「ゆうても自分、予想外の打ち手に弱いやろ。ええか、分からん捨て牌があっても混乱するな。まず深呼吸を一つして、もう一度見直せ」
まこ「こりゃ手厳しいのう。じゃが、それも含めて任せえ。そのために初心者と混ざって打ったり、わざわざ留学生と戦わせてもろおたりしたんじゃ」
恭子「その言葉、信じるで。で、最後は塞やけど、正直能力者の感覚がよく分からんからなんとも言えんのやけど……どうなん?」
塞「うーん、実力を度外視すると、そういう意味で気になるのは石戸霞の攻撃モードくらいかなぁ。むしろ私としては……」
透華「衣ですわね!」
塞「そうなのよ。あの化物っぷりを抑えるとなると、今から頭が痛いわ……」
まこ「手は進まんし、高確率で海底で和了る。しかも高火力とくりゃあ、対処方法が思いつかんのう」
浩子「私が探しても、弱点らしい弱点見つけられませんでしたわ。そういう意味だと、あれと唯一戦える臼沢先輩が大将なのは幸運ですね」
塞「気軽に言ってくれちゃって。ま、戦えば思い切り無理するわよ」
透華「親戚の私が言うのもなんですけど、衣は容易くありませんわよ。気合いを入れていかないと、一瞬でトばされますわ」
塞「ええ、ありがと」
恭子「まあここらは、ある程度情報が揃ってるからいいとして……問題は、今大会でぽっと出てきたとこでも、飛び抜けたチームやな」
浩子「情報が少ないんは、うちにとって最もやっかいなチームですからね」
まこ「そんでも、清澄はまだマシじゃけえ。戦略がわかりやすいからな。個別対処は難しくとも、チームの対処はそう難しゅうない」
透華「宮守女子ですわね。やっかいな打ち手が多い、全員1年のチーム。チームコンセプトはむちゃくちゃなのに、個別には変な特徴がありますわ」
塞「特徴が出過ぎてる、っていうのも問題ね」
恭子「まあ、こことは上に上がってから戦うことを期待するとして……こんなもんか?」
まこ「何言っとるんじゃ」
浩子「まだ先輩の相手の話をしとらんですよ」
塞「一番キツいポジションでしょ。なにせ各校エースがそろい踏みしてるんだから」
恭子「あかん、思い出さんようにしてたのに。またチャンプにしばかれてまう……」カタカタ
透華「なんでこの人は、時々こんなにチキンになるのでしょう……?」
恒子『普通のエースが卓を支配するならば、姫松の選手は卓を裏から操作する! この繰り糸から逃れられる選手はいるのかー!』
健夜『勝てるところできっちり勝つ。勝てない所じゃ徹底的に守る。これは簡単そうで、実は難しいですからね』
健夜『要所での見極めが鋭い姫松は、隙を突くのに特化してると言ってもいいでしょう』
恒子『大阪にこの校ありな姫松、プロも注目する老獪さで優勝を狙います!』
姫松高校
オーダー
大将:(3年)臼沢 塞
副将:(2年)染谷 まこ
中堅:(2年)龍門渕 透華
次鋒:(2年)船久保 浩子
先鋒:(3年)末原 恭子(部長)
宮守女子高校
淡「とのおおおおぉぉぉぉ!」ドバーン
穏乃「殿中でござる! でんちゅーでござる!」ガターン
泉「な、なんやんお前ら。びっくりしたやろ」
淡「そんなこと言ったって、この熱いパトスがノーブレーキでござる!」
穏乃「もうすぐインターハイが始まるでござる! おちついてなんていられないでござるぅ!」
泉「また何か見て影響されたん? 私が言うんも何やけど、ほどほどにしときいよ」
淡「ふっふっふ、昨日は穏乃ん家にお泊まりして、ずっとビデオ見てたんだ」
穏乃「これぞ勧善懲悪って感じで面白かったよねー。おかげで寝てないよ」
泉「……ああ、そのテンションは徹夜明けなんもあるんやね」
淡「二丁拳銃の淡!」ビシィ!
穏乃「バール四刀流の穏乃!」バシィ!
泉「ほんまに何見たん?」
恒子『注目と言えば、宮守女子高校! なんと部員は5人! 創部1年! おまけに部員も全員1年! ないない尽くしでインターハイまで駒を進めてきたハイパールーキー!』
健夜『資料によると、どうも公式戦での参加記録があるのは僅か二名のみ。しかも、全国を経験したのは二条泉選手ただ一人だとか』
恒子『岩手ってあんまり強いイメージがないけど、実際の所どうなの?』
健夜『うーん……激戦区ではないよ。でも、全国レベルの選手を抱えてる高校はそれなりにあるから、弱いわけでもないし……』
健夜『牌譜を見てみたけど、あからさまに力を隠してたり、不自然なところがあったりが多すぎるんだ。とにかく情報が少なくてなんとも言えないよ』
健夜『ただ、確かな事が一つある。宮守女子は全国で戦うのに十分な力を持ってるって事だね。それがどれほどかっていうのまでは、まだ分からないけど……』
恒子『おおぉ……辛口すこやんの、まさかの高評価。これは宮守女子、ダークホースとなるかもしれません!』
健夜『べ、別に辛口じゃないよぉ』アタフタ
優希「本命は遅れて来る! みんなのエース、優希ちゃんだじょ!」ズドーン
桃子「そ、そんなに引っ張らなくてもいくっすよ! 放してほしいっす!」ズルズル
泉「まったえらい騒がしいのが来たなあ」
むむ「そう言ういずみんはテンション低いじょ。どうかしたのか?」
泉「どうかもなにも、だっれも麻雀以外してくれへんやん。部長のやる事って多いんやで。モモも手伝ってくれればえんやけどなー」
桃子「ムリっす。やらないっす」
泉「これや」
淡「なによーぶーぶー。せっかく部長やらせてあげてるのに」
泉「あん? 言うたな? せやったら部長譲ったるから、代わりに先生に他校との練習試合する渡りつけて貰うお願いして、後援会に頭下げて、全校集会の原稿作って……」
淡「やっぱり部長はいずみんで決まりだね!」
穏乃「さすが泉は頼りになる!」
優希「面倒を請け負ってくれるいずみんは最高だじぇ!」
桃子「わー部長さすがっす」
泉「お前ら、いつかどついたるからな……! あと優希、少しは本音を隠せ!」
優希「さ、少しネタを挟んだ所で部活を始めるじぇ」
泉「私はむっちゃ本気やったけどな」
優希「ポチっとな」カラコロ
泉「話を聞け!」
桃子「まーまーそう言わず座るっすよ」ポスン
淡「あー! モモ入りなさいよ! 今日こそ見失わないんだから!」
桃子「いやっすよ。ダブリーさんしつこいんすもん」
淡「むむむ! まあいいよ、他のメンツに格の違いを教えてから、改めて叩き潰すから」
泉「言うたな? 吐いたつばは飲めへんで」カチン
優希「お、東場最強の私に向けた言葉だとは思えないじぇ」カチン
穏乃「ぬ! 今日だってまた止めてやるんだからねー!」カチン
桃子(血の気の多い人たちばかりで助かったっす)
淡「ふふん、なんて言おうとも、トップ率は私が最高だし!」
泉「アホ言うなや。敗率の一番低いのは私やぞ」
優希「それを言ったら爆発力の優希ちゃんを忘れて貰っては困るじぇ!」
穏乃「油断してたらすぐにまくってあげるよ!」
…………
泉「しゃ! ザンクきざんできっちり逆転や!」1位
穏乃「うわぁー! ぬーかーれーたー!」2位
優希「なんとかリードを守りきったじぇ……」3位
淡「うぐぐ……この淡ちゃんがまさかのラスなんてぇ」4位
桃子「ジャージさんは相変わらず逃げ切るのが下手っすねえ」
泉「追い上げさせるとむっちゃ強いんやけどな。これで逃げるんも上手かったら、穏乃を大将にしとったわ」
淡「なにおー! 私じゃ不満だと申すか!」
泉「ちゃうちゃう。適正の問題や。他にも優希が南場にもうちょい強かったら、先鋒以外でもよかった、とか」
優希「へへ」
桃子「別にほめてないと思うっすよ」
穏乃「うう……目標があると「よっしゃー!」ってなるけど、後ろから迫られるとどうしても慌てちゃうんだよなあ……」
淡「もー! シズノがいると思うようにいかなーい!」
優希「それも含めての麻雀だじぇ」
淡「なにおー! たまたま私より上だったからって偉そうに!」
優希「ふふん」
淡「ムキー!」
泉「はいはいそこまでにしとき。じゃあ次、モモが入ってな」
淡「やった! 今度こそ勝から!」
泉「アホ。抜けるんはお前や」
淡「あ、やっぱり?」ショボーン
桃子「慣れてるメンツだと消えづらいんすけどね」
穏乃「だから練習になるんだよ! よし、まだまだ打ちまくるぞー!」
淡「もー! いい気になってられるのは今のうちなんだからね! 次こそ高校100年生の実力、見せてあげるんだから!」
優希「だったら今度も東場瞬間最大風速をお見舞いしてやるじぇ!」
泉「ん? ふ……そんなんで高1最強の相手になる思っとるんか?」
穏乃「この流れは……! 深山幽谷の支配者の私に、その程度で勝てるとでも?」ドヤァ
桃子「……」
淡「……」ワクワク
優希「……」ドキドキ
桃子「…………」
泉「……。なんや自分、ノリ悪いなぁ」
桃子「いや、こんなの乗れって言われてもっすね」
穏乃「適当でいいんだよこういうのは! はっきり言って「深山幽谷の支配者」とか、自分で言ってて意味分からないし」
淡「あ、やっぱ分かんなかったんだ」
優希「聞いてて「?」ってなったじぇ」
桃子「ノーっす。そういうのに混ざる気はないっすから」
穏乃「えー。一緒にはじけようよ」
桃子「……。まあ、部活楽しいっすし、私を見つけて貰ったのには感謝してるっすけど……」
泉「! おい聞いたか!? モモのやつがデレたで!」
桃子「そ! べ、別にそういうんじゃないっすバカァ!」
恒子『今大会ダークホースの一校、宮守女子高校! 初出場の全国大会で、強豪にどこまで食らいつけるのかー!』
健夜『県予選とインターハイ本戦は全然雰囲気が違いますから、それにどれだけ惑わされず、実力を発揮できるかでまず一つ試されると思います』
健夜『逆に言えばそこをくぐり抜けれられれば、大化けする可能性も高いでしょう』
恒子『予選を一足飛びに駆け抜けた宮守女子、その勢いのままインターハイも走れるのか!』
宮守女子高校
オーダー
大将:(1年)大星 淡
副将:(1年)高鴨 穏乃
中堅:(1年)東横 桃子
次鋒:(1年)二条 泉(部長)
先鋒:(1年)片岡 優希
越谷女子高校
もこ「…………」スワリ
智紀「…………」カチカチ
春「…………」ポリポリ
尭深「…………」ズズズ
白望「…………」グデー
恒子『越谷女子高校はー……あー、えっと、すこやん何かある?』
健夜『ここに来ていきなりそれ!? さっきまですごい調子よかったのに! 何か語ろうよ、色々あるでしょ!?』
恒子『だってさー。越谷女子高校の子たち、全然インタビューくれないんだもん。かと言って牌譜見てもこれって特徴があるように見えないし』
恒子『せいぜい渋谷尭深選手の役満が多いなーってくらい?』
恒子『二条泉選手みたいにガツンと決めてくれたり、チャンプみたいにきっちり抑えるところ抑えててくれればまだしも』
恒子『必要最低限のみのコメントっていうのは、こう、すっごくやりにくい……』
健夜『…………』ポカーン
恒子『ちょっとなんで黙ってるのすこやん』
健夜『いや、こーこちゃんにも苦手なものがあるんだなーって』
恒子『小鍛治プロ、これは全国ネットなのですが』
健夜『こんな時だけずるいよ! ……おほん。チーム全体の傾向としては、小さく刻んで守りがちな、地味なタイプのプレイです。同時に、尻上がり調子だと思います』
健夜『ただ、この調子の上げ方がすごく分かりにくいんですよね。この、調子が上がったとき、というのに気がつかないと、大きなのを振り込んでしまいます』
健夜『それをこつこつ重ねて守っていくのが、越谷女子高校の必勝パターンですね』
健夜『伝統のある学校だけあって、一本筋の通ったいいチームだと思います』
もこ「……そろそろ、練習」
白望「ダルい、だれか起こして」
春「」ゲシ
白望「いてっ」
尭深「……自分で起きる」
白望「んー……あー……」
春「……。ふぅ、仕方ない」
白望「春なら手を貸してくれるって信じてた」
尭深「もう少し最上級生の自覚を持って、皆の見本になるように……」
白望「ああ、分かった……気がするからこの辺で」
もこ「シロに言っても無駄」
春「同意」
尭深「まったく……」タメイキ
智紀「練習の前に。インハイ予選の牌譜の解析が終わったけど、見る?」
春「当然」
尭深「智紀ちゃん、いつもありがとう」
智紀「あ、そんな、たまたま得意なだけだから」
白望「できるのがすごいよ。こっちはただ寝てるだけだし」
もこ「シロは……そもそも何でもダルがりすぎ」
春「ちゃんとやる」
白望「ヤブヘビだった……ダルい」
尭深「ふふ……」
智紀「どうかした?」
尭深「ううん、1年生コンビは、なんだかんだ言っても白望ちゃんのお世話をしてくれるなって」
智紀「それだけ好きなんだよ」
春「そんなこと無い」バシバシ
もこ「……勘違い」ベシベシ
白望「地味に痛い……ダルい……。だから、早く牌譜を解析したやつちょうだい」
もこ「あ、その前に……半荘打ちたい」
尭深「どうです?」
智紀「私はいつでも」
尭深「じゃあ、ミーティングは後にしましょう」
もこ「……ねえ。麻雀楽しいね」
智紀「? そうだね」
もこ「みんなでやるのは楽しい。だから、まだ終わらせない。次も、次の次も勝って……」
春「……ん。最後まで勝てば、優勝」ポリ
白望「別に、インターハイが終わっても、部活に顔を出すつもりだけどね」
もこ「シロはいい」
春「どうでもいい」
白望「ヒドい……」
尭深「普段いい加減だから、言われちゃうんですよ」
白望「でも、ちゃんとしてたらそれはもう別人でしょ?」
智紀「胸をはる事じゃない……」
もこ「普通に麻雀しても楽しい……でも、勝って麻雀したらもっと楽しい……」
春「ん」コクリ
尭深「ふふ……そうですね、じゃあ、勝たないとね」
白望「まあ、元々優勝するつもりだし。楽しくない麻雀するつもりもないしね」
智紀「うん……がんばろう」
恒子『埼玉の雄、越谷女子高校! 近頃は成績が低迷していたのを、チームが一丸となって盛り返します!』
健夜『安定感のあるチームですが、課題は火力をどう作るかになるでしょう。渋谷尭深がインターハイ上位の火力を持つと言っても、一人ではやはり限界があります』
健夜『さざ波状態でもっとも力を発揮する珍しいチームではありますが、他もインターハイ出場校。易々とペースは作らせないでしょう』
健夜『点取り合戦になった場合、その苦しさが一気に吹き出てしまう恐れがあります。これを克服できるかによって、優勝まで距離が決まると言っても過言ではありません』
恒子『優勝を狙うなら、苦手も克服しなければならない! インターハイはかくも厳しい! 越谷女子高校は厳しさに飲まれてしまうのか、それとも乗り越えるのか!』
越谷女子高校
オーダー
大将:(1年)対木 もこ
副将:(2年)沢村 智紀
中堅:(1年)滝見 春
次鋒:(3年)渋谷 尭深(部長)
先鋒:(3年)小瀬川 白望
新道寺女子高校
華菜「レギュラー集っ合ー!」
純「なんだようるせーなー」
友香「うぅぅ、耳がキンキンする……」キーン
佳織「あわわわ、は、はい!」
漫「なんなんもー。無駄にテンション上げてからに」
華菜「大阪出身がそんなテンション低くてどうするし!」
漫「どこ出身とか関係ないやん。今むっちゃのんびりムードでしたもん」
純「お前だけだぞテンション高いの」
華菜「だー! お前達もっとしゃっきりする! インターハイは目前なんだぞ!」
佳織「そうですよね、がんばらないと!」
友香「佳織センパイも無理して付き合わなくていいんすよっ」
恒子『そしてそしてそしてぇ! つ・い・に! 新道寺女子高校の登場だぁ! ひゃっはー、あんたたち愛してるよー!』
健夜『アナウンサーが露骨な贔屓!?』
恒子『だって彼女たちの麻雀ってさ、すっごい見てて楽しいんだよね。ハラハラもするけど。なんて言うか、麻雀満喫してるぞー、って感じで』
健夜『ああ、それは分かるかも……。チームコンセプトがまさに「運」だからね』
恒子『なにそれ? すこやん知ってるの?』
健夜『資料にちゃんと目を通そうよこーこちゃん……。新道寺はレギュラー決めの方法がちょっと特殊だったんだよね』
健夜『なんでも、プロと対局してどれだけ仕事ができたか、って方法で。中でもプロに勝てた5人が、今年のレギュラーなんだよ』
恒子『えー……』
健夜『な、なんでそんな不満げなの?』
恒子『だってプロが負けちゃったんでしょ? それっていいのかなって』
健夜『うーん、よくはないんだろうけど。でも麻雀は運の要素が大きなゲームだから。実力差じゃどうにもならない部分があるんだ』
健夜『でも、プロっていうのは、そのどうにもならない部分を抜けてきた人なんだ』
健夜『だから、プロに勝てた運を持つ人が強いって言うのは、ある意味とても正しい強さの指針だね。あくまで、要素の一つとして、だろうけど』
恒子『ここですこやんの「プロなめんなよ?」いただきましたー』
健夜『べ、別にそういうつもりで言ったんじゃないよぉ!』
華菜「マジでちゃんとやるし! 私たちは部長たちを押しのけてレギュラーになってるの忘れたか!」バシバシン
友香「むぅー、それをいわれるとなー」
漫「しゃーない、つきあったるか」
華菜「付き合うも何も恒例のことだしっ!」バシバシバシ
純「いや、これが毎週の恒例ってのもかなりどうかと思うんだが……」
佳織「でもいいことだと思います! ……たぶん!」
華菜「多分はいらん! それじゃ私から、一昨日の帰り道、500円を拾った!」
純「せこっ!」
華菜「せこい言うな! ……自覚はあるんだから。そういう純はどうなんだよっ」
純「俺か? おれはなんと、ふふん、宝くじで1万当たったぜ」
友香「うおぉ、すごいでー!」
純「そうだろそうだろ? どっかの猫もどきとは大違いだろ?」
華菜「うぎぎぎぎぎぎ……」
佳織「華菜ちゃん落ち着いて」
華菜「そ、そうなだ……じゃあ次、漫」
漫「本命はトリにくるもんやけどな。しゃーない」
純「お? 自信ありげじゃないか」
漫「当然や! なんせ親戚のおっちゃんが松阪牛を送ってくれたからな! 今晩のうちは、最高級肉でスキヤキや、ふふふ……」
華菜「ぐわあああぁぁぁぁ!」
純「やめろ、飯テロはやめろおおおぉぉぉ!」
友香「ああああぁぁぁーーー……すごいおなか減ってきたっ」
佳織「漫先輩すごーい、いいなー」
漫「せやろせやろ? くく、うらやましさにもだえるがええわ」
華菜「くぅっ、これ以上胃に攻撃されたくない、次に行くぞ!」
友香「あ、じゃあ私でー。なんと、好きなアイドルのチケットが取れました! しかもS席、ど真ん中!」
漫「おお、よかったやん」
友香「今からすっごい楽しみっ!」
華菜「んじゃ最後に佳織だな」
佳織「うぅ、そんな事言われても、何も思いつかないですよぅ……。あ! そう言えば、この前みんなで応募した懸賞、当たりの通知が来ました!」
友香「え!? この前乗って自動雀卓のあれ?」
佳織「そうです。当たったら部室においてみんなで使おうって言ってたあれですよ、えへへ」ホワワ
純「マジか、あれって当たるもんだったのか」
華菜「てっきり抽選すると言ってるだけの架空のものだと思ってたし」
漫「あ、アカン。うちの松阪牛が霞んで見える……」
華菜「まあ、あれだ。これで私たちの運が絶好調なのは分かったはずだ」
純「よく言うよ500円」
華菜「500円言うなっ! おほん、とにかく、この運を試合で発揮できれば、王者千里山にだって届くし!」
漫「うちらは逆に、運がないと悲惨なんやけどな。アハハ」
佳織「笑い話じゃないですよぉ、漫先輩」
友香「あやうく地区大会初戦敗退する所だった……あれはヤバかったね」
純「あんときゃ全員、運から見放されてたからな。華菜が小さいの刻んで点差を詰めて、俺がギリギリでまくったからなんとかなったけど」
友香「でもその後は予選決勝も含めて快勝だったよっ!」
純「まあな。誰か一人にツキが回ってくれば、予選レベルなら普通に勝てる」
佳織「今更なんですけど、それって大丈夫なんでしょうか……」
華菜「当然、大丈夫じゃない。でも今までの方針じゃもっと大丈夫じゃないと判断したから、監督がこの編成にしたんだ」
漫「全員、と行かずとも4人バカヅキすればうちが優勝。麻雀は結局運やし。賭に出なきゃ勝ちもない、ゆう事やな」
純「第一そうじゃなかったら、佳織はレギュラーになれてないだろ。1年とちょいで基礎は納めさせたけど、やっぱり足りないもんは多いしな」
佳織「あうぅ……だから私なんかがレギュラーで、本当に大丈夫なのかな」
友香「大丈夫ですよ、佳織センパイ! 予選だって大きな失点はなかったじゃないですか!」
華菜「それに、今更言っても遅い。じたばたしないで腹くくるし。あんまり不安にならなくても、私と純が控えてるんだから、なんとかしてやるし!」
純「まあ、そのために私たちが副将大将になってるんだからな」
漫「ラス率低くてトップ率高い二人やからなあ」
友香「鳴きとか勘とかで流れを寄せるっての、私には分からないでー……」
純「それこそ勢いでやってるだけだからな。俺にだってよく分かってない」
佳織「うぅ……」
漫「ほら、いい加減元気出し。そんなへこまれると、わりと裏目る私の立場もないやん」
友香「漫センパイ、今回一番失点多かったしねっ」
漫「ほー、1年坊が生意気言うやん。そんな口聞く口はこれか、んー」
友香「ひひゃひゃひゃ!」グニー
華菜「もうぐっだぐだだよ。とにかく! 私たちは「めげない投げないツキまくる」で行くんだ、それを忘れるな!」
純「小学生の標語かよ」
華菜「だからうるさいっ! とにかく、みんながんばるぞ!」
純「ま、運は十分だしな」
友香「当然でー!」
佳織「うん、がんばるよ!」
漫「本戦まできたんやから、目指すは優勝や!」
恒子『天運に勝負を任せる! なけりゃ無理矢理引き寄せる! 新道寺女子高校の原始的麻雀はどこまで届くのか!』
健夜『実際、はたから見ても運が良い事の多い選手が多いチームです。麻雀に一番重要な要素を持っていると言ってもいいでしょう』
健夜『もし彼女たちが全員運を爆発させたら、チャンピオンチーム並の得点を発揮してくれるのではないか。そんな期待をしたくなるチームですね』
恒子『見据えるは優勝のみ! 千里山を射貫く準備は整っているぞ! 豪運新道寺女子高校、いざ吶喊!』
新道寺女子高校
オーダー
大将:(2年)井上 純
副将:(2年)池田 華菜
中堅:(2年)妹尾 佳織
次鋒:(1年)森垣 友香
先鋒:(2年)上重 漫
清澄高校
豊音「宥ちゃーん、言われてたのもってきたよー」
宥「わあ、ありがとう。いつもごめんね」
豊音「そんなことないよー。宥ちゃんは部長さんで大変だから、これくらい手伝うのは当たり前だよ」
小蒔「そうですよっ! それに、みんなでやった方が早く終わります。その分麻雀できるんですから」
怜「せやで、あんまり一人で抱え込んだらいかんよ。あ、こっちの書類も終わりや」
宥「怜ちゃんも、体が弱いからあんまり無理しないでね?」
怜「あはは、大丈夫や。座ってできることしかしてへんし。むしろ他のことは任せっきりですまないって思ってるわ」
小蒔「そんな事ないですよ!」
豊音「そうだよー。怜さんは頭が良くてすごく助かってるよー」
怜「あはは、ありがと。じゃあ、ちょい膝かりてええ?」
宥「それくらいならいくらでも」ホワワ
恒子『宮守女子高校と並ぶ期待の超新星清澄高校! 千里山に匹敵する火力チームで登場だー!』
恒子『注目点はなんと言っても中盤の火力ライン! ここでごっそり稼いで他を寄せ付けないのが、清澄高校の必勝パターンだ!』
健夜『確かにあの火力はすごいよね。それに神代小蒔選手の火力は、宮永照選手や天江衣選手に匹敵すると思うよ』
健夜『でも、私としては、むしろ注目するのは先鋒と大将だと思ってます』
恒子『え、ホントに? なんて言うか、すっごく地味と言うか、こう、平坦な試合に見えたんだけど』
健夜『うん。だからこそすごいんだ。麻雀で絶対に勝たなきゃいけないポジションっていうのは、この二カ所だから』
健夜『先鋒で勝てば、負けたチームは逆転手を作らなきゃいけない。つまり、先んじたチームには余裕ができる。大将は言わずもがなだね』
健夜『清澄のこの2ポジションには、とにかく他のチームに何もさせない勝負をし続けてきたの』
健夜『特に先鋒。エースを完璧に抑えて、全く仕事をさせない。大きな手は速攻で流し、いい流れを消す。その上で、自分はきっちり仕事をこなす』
健夜『同卓した人は、とても窮屈に感じただろうね。気がついた時には、自分は1万点のへこみでも、トップとは4万点差ができてる』
健夜『こんな事を全試合やってのけてるんだ』
恒子『えー……それってつまり、相手を邪魔し続けてるって事だよね。そういうのっていいの?』
健夜『当然いいに決まってるよ。スポーツとかには、エースの邪魔をする専用のポジションだってあるくらいなんだから。こんなのただの戦略だよ』
健夜『ただスポーツと違うのは、完遂できるかは別にして、やってみるという行為自体が恐ろしく難易度が高い事かな』
健夜『直接干渉できず、全員抑えるとなれば必然的に3対1の勝負。その上運の要素まで絡むんだ』
健夜『卓上で牌を動かす技術はもちろん、相手の心理を巧みに動かす打牌、なにより点数調整のセンスが桁違いに必要になるの。すごくやっかいなプレイヤーだよ』
健夜『記録によれば、相手にプラス収支を一度も許さなかったのは、この子とチャンプだけだね』
健夜『当然、他の選手も強くはあるんだけど。彼女はなんて言うか、異彩を放っていて、気にせずにはいられないんだよね』
恒子『はー……めずらしくすこやんがべた褒めだ。これはもしかするともしかするのかあ!』
健夜『う、別にいつも辛口なつもりなんてないのにぃ』
恒子『つまり、キツいのが平常運転と』
健夜『違うよ!? とにかく、彼女のエースキラーっぷりは本物だと思います』
恒子『それいいね、いただきっ! 清澄高校のエースキラー宮永咲、すこやん絶賛の技術でチャンプも貫くのか!? そう言えば彼女も宮永だね』
健夜『うん、もしかしたらチャンプと何か関係があるのかも』
咲「みなさーん、お茶いれてきましたよー」
怜「お、悪いなあ」
豊音「わ、咲ちゃんのお茶だ」
小蒔「最近また一段と入れ方が上手くなって、おいしくなったんですよね♪」
宥「うん、体の芯までほかほかするの♪」
咲「えへへ、そうかな」
怜「あかんなーもーこの1年かわえーわ」グリグリ
豊音「うん、ちっちゃくてかわいーよー」ガバリ
咲「わわっ」
小蒔「うふふ、咲ちゃん困ってますよ」
宥「みんな仲良しであったかーい♪」
怜「ずずず……ふぅ」マッタリ
宥「……うん。みんな、ありがとうね」
小蒔「え? 何がですか?」
宥「私が玄ちゃんと麻雀で会いたいなんて無理言って、それについてきてくれて。それに、こんなにあったかくみんなで麻雀するのも、憧れてて……」
咲「む、無理なんかじゃないですっ!」ガバッ
咲「私も、お姉ちゃんがインターハイに出てて……もうずっと話す事もできなくて……でも、麻雀でならまた話せるかもって勇気をくれたのは宥さんなんです!」
咲「だから、無理なんかじゃありません! 誘ってもらえて、とてもうれしかったんです……!」ウルウル
小蒔「ああ、泣いちゃダメですよ」ポフポフ
怜「私だってインハイに出場してる昔なじみに、こんだけ麻雀できるようになったんや、って言いたいんや」
小蒔「私も、お友達がたくさん出場しています!」
豊音「私はそういうのはないけど、でもひとりぼっちだった所をさそってもらって、とてもうれしかったんだ」
怜「そういう事や。ここにいる誰も「付き合ったる」なんて思ってる奴はいない。せやから、もうそんなこと言ったらあかんよ」
宥「……! うん、ごめんね。えへへ」ニパ
怜「ま、でもインハイで合ったからはいおしまい、にはなれんよなぁ」
豊音「当然だよー。出るからには絶対優勝! みんなで最高の思い出を作るんだ」
宥「玄ちゃんすっごく強くなってるけど、がんばるね」
咲「わ、私もっ! お姉ちゃん強いけど、がんばります!」
怜「そう言えば、咲のお姉ちゃんはあのチャンプなんよなあ」
小蒔「見てみたけど、すっごく強かったです。あれがチャンピオンになれる人の力なんですね」
豊音「その中でもとびきりだーって、テレビでプロの人が言ってたね。でも、それに勝って優勝したら、喜びも一押しだよ」
怜「ん、他にも強いとこばっかりや」
小蒔「元より私たちは新設の部、経験という意味で、どこも格上です。だから、まずは全力!」
宥「うん、そのためにまずは! ……先生方に、インターハイについてきていただけるようお願いしなきゃ」
怜「練習やないんかい!」ビシッ
宥「あ……! そうでした」マッカ
豊音「あはは、締まらなかったよー」
怜「ま、お願いはあとで行くとして、今は麻雀打とか」
小蒔「あっ!」
怜「今度は何やー?」
小蒔「先生に言付け預かっていました。インターハイ出場で部費が増えるから、との事です」
宥「そう言えば先生に、もう自動雀卓にがたが来てるから、買い換えさせてって言ってたんだった。もしかして、それかな?」
小蒔「予定変更です! 今日はお買い物に行きましょう!」
豊音「自動雀卓を見に行くの? 私ってそういうお店見るの初めてだよー」
咲「私、お店がある場所知ってます。昔にうちが何度もお世話になったところなんですけど」
怜「おし、それじゃそこ行こか」
豊音「先生に買いに行くって言ってくるよー」ダダダ
怜「ちょい待ち……ってもう行ったか。気が早いなあ」
小蒔「お茶のお片付けをしておきますね」カチャカチャ
咲「えっと、私は……」オロオロ
宥「じゃあ咲ちゃんは、こっちを手伝ってくれる?」
咲「はい!」タタタ
宥「この配牌を学校と時系列順にまとめて、棚に仕舞ってね」
咲「分かりました」
宥「ねえ、咲ちゃん……」
咲「なんです?」
宥「お姉ちゃん、好き?」
咲「はい、好きです……私は、嫌われてるかもしれないけど、でもずっと大好きです」
宥「うん……。お姉ちゃんもきっと、咲ちゃんを嫌いになってなってないよ。だって、たった一人の妹だもん。私がお姉ちゃんだから分かるよ」
咲「そう、かな? えへへ……」
宥「だから、インターハイがんばろうね。絶対に、お姉ちゃんに会いに行こう」
咲「宥さんも、妹さんと」
宥「玄ちゃんと会って、一緒に麻雀して、その後にぎゅってするんだ」
咲「私も、そうしたいです」
宥「そのためにはまず、勝って、会えるところまで行かなきゃね」
咲「そうですね……待っててね、お姉ちゃん……」
恒子『抑えて稼いで逃げ切る! この黄金パターンで他を寄せ付けない力で長野を制した清澄高校!』
健夜『先鋒を勤めるのは1年生の宮永咲選手。ある意味、インターハイで最もテクニカルな打ち方をしています』
健夜『彼女の技術が全国レベルでどれほど通用するのか、また場慣れした選手に飲まれずいつも通り打てるのか。ぜひとも注目したい選手です』
恒子『これはもしや、すこやんの一押しチーム?』
健夜『うーん、そうなるのかな?』
恒子『ほほう、なるほど! 小鍛治健夜推薦! 清澄高校の荒れ狂う姿に注目だー!』
清澄高校
オーダー
大将:(3年)園城寺 怜
副将:(3年)姉帯 豊音
中堅:(2年)神代 小蒔
次鋒:(3年)松実 宥(部長)
先鋒:(1年)宮永 咲
恒子『さあ、これで夏の役者が出そろった! 栄冠を手にするのはこの中で立った一組!』
恒子『涙を飲むものもいるだろう! 悔しさに歯がみする者もいるだろう! しかし! 確かに! 勝利の栄光を手にする者はいるのだ!』
恒子『今、日本で最も暑い場所、インターハイがここに開幕です!』
カン!
対局相手にビビらず全力で点数調整をする咲さんを考えられて超満足
ちなみに
千里山女子高校
超火力チーム
晩成高校
インテリチーム
永水女子高校
主将チーム
宮守女子高校
一年チーム
姫松高校
データチーム
越谷女子高校
沈黙チーム
新道寺女子高校
豪運ギャンブルチーム
劔谷高校
テクニカルチムワークチーム
清澄高校
のほほんチーム
てなコンセプトで考えていきました
このSSまとめへのコメント
こういう点数調整の考え方って素晴らしい、リッツも舐めプじゃなくてエースキラー扱いにすれば良かったし
アホが評価下げてる
同じ4.2にするから一発でわかんだね