ハルヒ「ブギーポップを探すわよ!」 (69)


〜〜〜

『自分に何か能力があるのならば、その能力の根源を見つける努力をするべきだ。
起源を知らぬ者は、ハロウィンのあのカボチャのような本来の意味を忘れ、運命に尻尾を振る犬になりかねない』

霧間誠一『パンプキン・ドッグの足跡』

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1351190478


〜〜〜

被害者がいたら加害者がいる。
当然だ。
そして、その関係というのはこの団においては被害者が複数名で加害者は常に一人だ。

「おい、ハルヒ……たかがハロウィンパーティーに特殊メイクなんて馬鹿げた事を言い出すなよ」

いつも通りの風景。

メイド服を着た天使がお茶を淹れ、ニヤケ仮面が十五手目で詰んだ将棋盤を真剣に眺め、寡黙な文学少女が大人しく本のページをめくる。

そして、我らが団長様がニコニコとやけどしそうな笑顔でホワイトボードに無理難題を書くと、この俺がため息をつきながら文句を垂れる。

そんな、いつも通りの風景だ。

「はぁ……だっからあんたは万年雑用なのよッ!」

万年とはいうが、まだこの団ができて一年たってない。
この団長様はどうやら俺たちとは違う時間を生きているらしいな。
そして団長様の生きてる時間では特殊メイクが普通の時代なのだろう。
そんな時代では男は怖くって女の子に声をかけられなくなる……困ったものだな。

「何を馬鹿な……というか失礼な事言ってんのよ!
いい?やるからには常に全力全開大真面目よ!
ハリウッド並みの特殊メイクでハロウィンパーティーやったら本物の怪物が仲間かと思って寄ってくるかもしれないじゃない!」


ハルヒは机をバン、と叩くと朝比奈さんの淹れたお茶を一気に飲み干し、口を使いペンのキャップを外すと――なんでそういうばっちいことをするのかね――ハリウッド並み、と大きく書きたした。

「そ、それは怖いですぅ……」

「大丈夫よみくるちゃん!
ハロウィンなんだからお菓子をあげたら解決よ!」

そこから何故か怪物トークに発展した二人にため息を、つきながら未だ盤上を見つめる古泉に視線を向ける。

「……ハリウッド並み、とは流石にいきませんがこちらでそれなりのメイクなら出来ますよ?」

……どこで使うんだ、そんな技術持ってて?
相変わらずの万能さに古泉の所属する機関とやらの意味不明さが増したところで、ハルヒの口撃は再び俺をロックオンした。

「キョン!ちゃんと聞いてた?」

何をだ、と問い返す前もなくハルヒは勝手にしゃべりまくる。
そんなことを覚えるのに俺の容量の小さな脳は使えないので、ハルヒを無視して俺は将棋盤を片付けはじめる。

「……ってわけよ!どう?あんたも少しはやる気出てきたでしょ?」

どんな訳かは聞いてなかったから知らないが、これ以上は反対しても無駄に古泉の仕事が増えるだけだ。

「はいはい、わかったよ。団長様」

最終的にはこう答えるのだ。
俺の反対は一種の恒例行事、ハルヒのやつも俺が本気で反対しているとは思ってはいない。

それが、俺たちの日常であり、奇妙な関係だ。

閉め切ると暑いので、SOS団の部室の窓は空いている。
その窓から入ってくる冷たい風に乗って、口笛のようなものが聞こえたような気がした。


〜〜〜

「被害者がいたら加害者もいる。
それは確かだ、原因があったら結果があるように……絶望があったら希望があるように」

黒外套は、地面から生えるように立っていた。
見上げているのは灯りの灯った部室棟の一室だ。

「でも、僕には加害者も被害者も関係ない。
世界にとってそれが危機ならば……殺すだけだ。
僕はそういう自動的な存在だからね」

ぴゅう、と口笛を吹くと、溶けるように夕闇の中に消えた。
残ったのは赤い空と冷たい風、そして先ほどまで黒外套が見上げていた部屋からこぼれる少女の笑い声だけだ。


〜〜〜

ハルヒがバカな事を言い出した日から数日がたった。
俺はいつも通りのノックをし、返事のない事、または中から入室許可がおりてからドアを開く。
今回は返事のない場合だった。
どうやら俺が一番乗りらしい。

ホームルームが終わった瞬間走り去ったハルヒは一体今度はどんなトラブルを持ち込むつもりなのかと若干うんざりする。

「……ヒマ、だな」

みんな掃除当番なのか、十分待っても誰もこなかった。
少しばかり不安になり、部室のドアに手をかけた瞬間、ドアが勢いよく開いた。

「うおわっ!」

「……な、なんですか?」

古泉が立っていた。

「お、お前なぁ……驚かすなよ!」

完全な八つ当たりである。
だが、驚かす方が悪いんだ。
完全な開き直りである。

「……釈然としませんが、すみません、と言っておきます。
それで?何処かへ行こうとしたのですか?」

古泉の問いかけに言葉に詰まる。
不安になって団員を探しに行こうとした、なんて口が裂けても言えない。

「どうしたのですか?」

不信そうに俺を見つめる。

「いや、なんでもない……その、だな。
そうだ、ジュース買おうと思ってな!あはは」

「ならば、お供しましょう。
朝比奈さんもまだ来ていないようですしね」

曖昧に頷きながら、俺は古泉と共に部室を出た。


〜〜〜

「何か不安な事でもありますか?」

自販機でジュースを買い、ベンチで男二人並んで飲んでいると古泉が急にそんな事を言った。

「……なんだよ、藪から棒に」

どきりとしながら、平静を保つ。

「あなたのカバンの横に飲みかけのペットボトルがありました」

飲み物を買いに行く、というのが嘘だったのはバレバレだったらしい。
軽くしたうちしながら、いい性格してるな、と悪態をつく。

「で?本当は何をしようとしてたんです?」

「あー、いやまぁなんだ……いいだろ、別に」

時間が経てば経つほど恥ずかしさが増す。
今更「誰もいなくて不安だった」なんて言えるわけもない。

「……朝比奈さんと長門さんは掃除当番、涼宮さんは……あなたの方がお詳しいでしょう?」

古泉はにっこり笑いながらジュースを一気に飲み干した。

「……本当に、いい性格してやがるなお前」

面白がるように俺を見ながら古泉は大丈夫ですよ、と言った。

「何があっても、涼宮さんがいる限りSOS団は壊れませんよ」

まるで俺の心の中を全て知っているかのように古泉は笑った。
その笑顔はいつものニヤケ面よりも自然に出たもののはずなのに、いつものニヤケ面よりも奇妙などことなく不気味さがあった。

こいつだけは全てをこの時からわかっていたのかもしれない。
この先、無敵のSOS団がたった一人の死神に壊される運命を……。

こいつは何を思って笑ったのか、それはわからない。

ただ一つだけわかるのは……いや、やめておこう。


〜〜〜

「どこほっつき歩いてたのよ!」

部室へ帰るとハルヒのそんな怒号が俺たちを迎えた。
そんないつも通りのハルヒにホッとし、朝比奈さんも長門も揃っている事を確認するとさらに心が和らいだ。

「こいつと自販機、べつにそんくらいいいだろ。
それよりお前こそどこいってたんだ?」

普段なら無視して古泉に任せるが、どことなく気分が良かったので普通に答えた。
しかし、それがハルヒは気に入らなかったらしい。

「……あんたが素直とかなんかキモい通り越して怖い。
何?なんかあったの?」

こういう奴だよ、と素直に答えた事を後悔する。
朝比奈さんはそんな俺たちを見てクスクス笑い、長門はいつも通り本を読んでいる。

「やれやれ……」

俺の質問には結局答えず、何時の間にか説教をはじめたハルヒを眺めながら俺はつぶやく。

やれやれ、など言っているがきっと俺の表情は今楽しそうなものだと思う。
それは、微笑ましそうな朝比奈さんや、笑顔で説教しているハルヒをみれば鏡なんて見なくてもわかるのだ。

「素直だったのは彼も悪いと思っていたのでしょう、説教はその程度にしてあげてください」

「……副団長である古泉くんがそう言うなら仕方ないわね。
でも、次からはなんか書き置きしていきなさい!」

古泉の助け舟に感謝しつつ――というか本来は古泉も説教される立場なんだが……――俺はへいへい、と返事をした。

「へいは一回!」

「……へい」


〜〜〜

ハルヒの説教から解放された俺と古泉がオセロをはじめ、俺が三連勝くらいすると、団長席に座りパソコンをいじっていたハルヒが勢いよく立ち上がり、ハロウィンパーティーの案が殴り書きされたホワイトボードをひっくり返し真っ白なそこにデカデカと何かを書いた。

「ブギー……ポップ?」

書かれた文字をもう勝負を捨てた古泉が声にだし読む。

「なんだそりゃ?宇宙人かなんかか?」

「いいえ!死神よ!」

「死神ぃ?」

「えぇ、なんでも女の子だけの間に広まってる噂らしいの。
みくるちゃんも有希も聞いたことあるでしょ?」

「あ、はい。美しい人を殺しにくるとか、そんな感じのですよね?」

朝比奈さんは人差し指を頬にあて一生懸命思い出しながらそのブギーポップとやらの説明をするが、すぐに長門から訂正が入った。

「違う。ブギーポップはその人が最も美しい時にそれ以上醜くなる前に殺しにくる死神」

その訂正を聞いてえへへ、と笑いながらそうでしたそうでした、と頷く。
うむ、可愛らしい。


「その通りよ!有希百点!」

ハルヒが長門に親指を立てると、長門は小さく頷きまた本に視線を落とした。

「……女性の間だけの噂を僕たちに話してしまっていいのですか?」

オセロを片付けながら、古泉がハルヒに尋ねる。

「良いのよ!私たちは何?そう、SOS団よ!
こんな謎を女限定の噂話だからって調べるのを諦めるわけにはいかないの!」

ハルヒは顔いっぱいに笑顔を貼り付けると、全員の顔を見渡した。

「と、いうわけで……明日の団活はブギーポップ探しです!」

「死神わざわざ探すんですかぁ〜」

その発表に朝比奈さんは涙目になり、古泉は珍しく苦笑い。
長門はいつも通り本を読み続ける。

「大丈夫よ!キョン以外はまだまだみんな今が最も美しい、なんて事はないから殺されたりしないわ!」

ハルヒのそんな言葉でその日の団活は終わった。
何もいう気になれず、珍しく俺はハルヒの決定に反抗しなかった。


〜〜〜

「今回の敵は非常に厄介だった。
なんせ、願望を実現させる、なんて能力を持っていたんだからね……」

黒外套は誰に語りかけるわけでもなく一人でつぶやいている。

「そうだね……前回の敵、絶望と希望は世界の敵である事を受け入れ、それでもそれだけで終わらないようにと前を向いた」

風に乗せるように、口笛で音楽を奏でる。

「それが出来たら、彼らみたいに世界の敵なんてものから抜け出せたのかもしれないね。
今回の敵、そうだなパンプキン・ドッグと名付けよう。
ハリボテのカボチャの面をかぶり、犬みたいに尻尾を振りながら気づいていないふりをし続けた哀れな神様だ」

突風が通り過ぎると黒外套の姿は消え、声だけが残る。

「ブギーポップ・クロス第二幕の幕開けだ……ずっとSOSを出し続けた神様の足跡を辿る物語」








『ブギーポップ・クロス 〜救難信号の足跡〜』






「さぁ、はじめようか……」


はい、こんな感じでやっていきます
ハルヒっぽさがうまく出せないから途中から書き方変わるかもしれないと言っておく

週一回10レスを目標にやってくつもりです

では、次もまた読んでください


〜〜〜

初めてその事に気づいたのは中学に上がった時だった。
今までの自分という存在を否定されたような、いきなり虚像の自分を見せつけられたようそんな、気持ち悪さしかなかった。

「誰も……傷つけたくないのに」

暗い部屋の中、誰にも見せた事のないような酷い顔で一人呟く。

『それは何故?』

疲れ果てて混乱しきった頭が作った幻影が耳元で囁く。

「自分が傷つきたくないから」

『じゃあ……』

この声こそが、自身の本音なのだろうとなんとなく理解した。

「分かった。そっか……そう……」

これが、始まり。

全ての始まり。

SOS団の始まり。

楽しかった軌跡のスタート地点。

そして終焉へと続く道の第一歩……。

こんな死神なんて出てくるほど大きな話になるとは思っていなかった。

死神の話を聞いた時、すぐに理解した。

こいつが狙ってるのはSOS団だ、ってね。

だから、先手を打ち捕まえて自分たちに……一番大切なSOS団に危害を加える事の出来ぬよう死神を無力化しようと考えた。

それは、簡単なはずだったんだけど……どうやら今の有様を見てみると失敗のようだ。

喉に食い込むワイヤーが肉を裂き始めた。
このままあと少しでも死神が力をいれたら自分は死ぬだろう。

自分が死んだら、SOS団のみんなは悲しんでくれるかな?

ふと、そんな事を思った。

SOS団を大切にしていたのは自分だけだったのではないかと……。


〜〜〜

「SOS団ね……あいつらがあの統和機構から完全に逃れ自由を得た初めての反統和機構組織か……」

小学生くらいの女の子が、大の大人でもわかってる奴は口にするのも憚れる単語を簡単に口にした。

「どんな力を持ってるか知らないけれど……統和機構から逃げれるならそれはつまり、強いってことだ」

にやぁと笑う。
どうやら彼女はSOS団を仲間にしようとしているわけではないらしい。
その笑顔はもっと禍々しく、その瞳は誰も信じてはいない。

――利用させて貰うわよ。

「おっと……ごめんよ」

ぼんやりと突っ立っていると、スーツを着たサラリーマンにぶつかられた。

「……ううん!大丈夫だよ!」

さっきまでの怪しさをパッと消し子供らしい笑顔を浮かべた。


「……ふふ、そうかい……」

対して男は怪しく笑う。

「……」

少女は先ほどまでの表向きの顔をやめ険しくさせた。

「お前……」

「ダイアモンズ……百面相のパールだな?悪い事は言わない、SOS団、特に涼宮ハルヒには手を出すな。痛い目をみるぞ」

パールと呼ばれた少女は、「ダイアモンズ」「百面相のパール」「SOS団」という言葉を聞くとその男を敵と認定し、合成人間の桁外れたパワーで男に殴りかかった。

しかし。

――な、んだと……?

確かに手応えはあった。
あばらの折れる手応え、肺の潰れる手応え、胸をぶち抜いた手応え。
にも関わらず男は平然とパールの後ろに立っていた。

「君が加害者で私が被害者だな。
これで、我々が加害者になる事はない」

「何をわけのわからん事をッ!」

急ぎ振り返るが、そこには初めから誰もいなかったかのように、何もなかった。

――なんなんだ……クソッ。あれが、SOS団の力なのか?

幼女には似合わぬ厳しい顔つきで、地面を軽く蹴った。


〜〜〜

「さぁ、くじを引いて!
班わけしたらあとはいつもと同じよ!」

喫茶店でそれぞれがコーヒーや紅茶、サンドイッチなどを食べ終えるとハルヒは爪楊枝でくじを作り差し出してきた。
俺を除く四人はみんな腹が膨れ喉が潤い満足そうである。

「ちょっとキョン!朝っぱらからなぁに暗い顔してんのよ、そんなんだからあんたはダメダメのダメなのよ!!」

その暗い顔の原因をお前はよく知っているだろう?なんと言ってもお前の作ったルールだ。

「遅刻するのが悪いのよ」

何を今更、というようにハルヒは言った。

「ちょっとまて、俺は遅刻してないぞ!
集合は九時、俺は八時半に集合場所に行ったじゃねぇか!」

まぁ、こいつらは既に揃っていたんだがな。

「五人中四人が来た時点で最後の一人は遅刻なのよ!恨むなら団員としての意識の低さを恨みなさい!」


勝ち誇ったようにそういわれると、なんだか暴論でも納得してしまうのは何故だろうな。
まぁ、ちょうど一昨日学校帰りにスクラッチで諭吉様を当てたから良いんだが……釈然としない。

「ほら、くじは一番にひかせてあげるからさっさと引きなさい」

「へいへい」

おとなしくくじを引き、印の有無を確認すると、それは印ありの二人グループを示すものだった。

朝比奈さんか長門。と心の中で強く念じながら次にくじを差し出された古泉を見る。
頼むからお前は来るなよ……そう念じながら、古泉のくじを確認すると……印、あり。

俺の表情はさらに曇った。

「ちょっと、地味に傷つくからあからさまに落ち込むのやめてくださいよ。
僕だってあなたと二人よりは女性とまわりたいですよ」

確かに、直接そういわれると地味に傷つくな。

「すまん。まぁ、たまには男二人も悪くはないか……」

こうして、俺の日曜日が始まった。


〜〜〜

古泉と男二人の不思議探索もとい死神捜索を始め一時間が経過した。

九時前に喫茶店に入り、捜索が始まったのが十時少し前。つまり現在の時刻は十一時になろうとしている頃合いだ。

「あ、そういえば少し欲しいものがあるので本屋に行ってもいいですか?」

ぽつぽつと学校のこと、ハルヒのこと、ハロウィンパーティのことなどを話していると思い出したように古泉は言った。
俺が読んでる漫画の新巻が出たとか国木田が教えてくれたな、と思い快く承諾する。

「ありがとうございます」

「そんなことでいちいち礼を言うな、気持ち悪い。
……そういや、ブギーポップとやらは機関のほうで何か掴んでるのか?」

一時間ブギーポップを探していたにも関わらず、ブギーポップの話を持ち出したのはこれが初だ。
よほど、お互いにブギーポップなんてものを真面目に探すつもりがないことがわかる。

いや、もしかしたら俺は本能的に避けていたのかもしれない。
何故かって?そりゃあもちろん、今このSOS団でいるってこと以上に楽しいことがこの先あるとは思えないからだ。
つまり、ハルヒの言っていた事は当たっていたんだな。

「ただの噂、口裂け女のような都市伝説……」


古泉が回りくどいのはいつもの事だが、今回はそういう風でなく、どちらかと言うと“信じたくないから言いたくない”といった風に言葉を選んでいる。

「……ハルヒがいる限り、俺たちは大丈夫なんだろ?言ってみろ」

「……学園都市は知っていますよね?
実はあそこでも夏にブギーポップの噂が急激に広まり、急激に収束しました」

「科学の街といっても、俺らと同じ噂や都市伝説にロマンを感じる連中がいるってことだろう?」

「噂が広まっただけならばそうなんですが、今年だけ夏休みの交換留学生なるものを企画、そしてその留学生は深陽学園という高校から一人選ばれました」

それで、と続きを促す。

「そこの生徒があと二人も学園都市へ転校していたのですよ。
そして、一人目の転校生が来たのと同時にブギーポップの噂は広まり、去った瞬間、噂は消えた。
それだけではありません。
同時期に学園都市では謎の連続自殺未遂事件が起きています」

「偶然だろ。深陽学園だっけ?そこの転校生が来たから留学生もそこの子に頼んだってだけだ。
噂ももともと深陽学園ってところで流行ってたのを流したとかそんなんだ」

信号につかまり、俺たちは立ち止まった。


青に変わるまでの時間を示すメーターが一個一個減って行き、最後の一個になった時、古泉が口を開いた。

「えぇ、それだけなら偶然かもしれません。
しかし……その深陽学園の生徒が、最近この辺で目撃されている、としたら?
偶然と言うにはいささか出来すぎではないですか?」

メーターが全部消え、青信号に変わった事を知らせる音楽が鳴る。
それと同時に古泉は俺から逃げるように歩き始め、俺は信号が点滅し始めるまで古泉の背中を見ていることしか出来なかった。

だって、そんなホラー映画みたいな事が実際起きてんだぜ?
でも、俺はそれが必然なんだと信じた。
何故俺がこんな簡単にこの話を信じたかは機関が言うからには本当だと信じてるわけじゃないぜ。
我らが副団長様、古泉が言うから信じてるんだ。


〜〜〜

「……そろそろ出ませんか?」

本屋に着くと古泉は目当ての本のある棚まで直行し、俺はなんだか漫画を買う気分になれずにレジの横の椅子にずっと座り込んでいた。
店員さんの目が少し痛かったが椅子は座るためにあるのだ。俺は別に悪い事をしていたわけではない。

「何買ったんだ?」

「霧間誠一という人の本です。
哲学書、とでもいうんですかね?」

またなんとも頭の痛くなりそうな物だ。
タイトルは……パンプキン・ドッグの足跡、か。
これまたなんともセンスの欠片もないな。

「彼にはカルト的なファンがいますからあまりそういう事いってるとサクッと後ろから刺されるかもしれませんよ?」

古泉は冗談っぽく笑った。

「おっかない事をいうなよ……ほれ、行こうぜ。遅れたら団長様に怒られちまう」

主に俺がな。


〜〜〜

「おっそいわよこのバカキョン!」

まて、俺たちが遅いんじゃない。お前が早すぎるんだ。
それに朝比奈さんと長門はどこいった?

「もう先に店入ってるわ。
ほら、ぐずぐずしないでシャキッと動く!
まったく、古泉くんがついていながらどうして遅刻するのよ」

だから、遅刻ではない。
ほら、古泉もガツンといってやれ。

「これはこれは、すみません。
男二人だとつい気が緩むみたいですね」

相変わらずの爽やかスマイル。
……って、ちょっとまてそれ言外に俺が悪いっていってないか?

「ふむ……キョンと行動するとつられて堕落するってわけね」

「えぇ、言ってしまえばそういう感じでしょう」

おい、待て流石にそれはおかしいだろ。
古泉、楽しそうにニコニコ笑うな。

ハルヒはふんふんと唸りながら何かを考え始めた。
嫌な予感というか、嫌な事が起きるのが確定した。
もちろん、昼飯代も俺の支払いである。
納得いかん。
このままでは今日で諭吉様が消えてしまうではないか。


そして、午後の班わけである。

「ほら、さっさとクジ作れよ」

「雑用が団長様に命令するな!
えぇと、午後のグループは私が決めました!」

ほらな、嫌な予感的中だ。

「ほう、どういったメンバーですか?」

古泉は予想通りというようにニコニコ仮面状態だ。

「……」

長門はストローをくわえたまま動かない。

「流石涼宮さんですね」

何が流石なのか全くわからないが、天使のいうことに突っ込むなど野暮はしない。
そうですね、と返せば……ほら、極上の笑顔を俺に向けてくれるんだ。

「では、発表するわよ!
私と有希、みくるちゃんと古泉くん!そしてキョン、あんたは一人で行動なさい!」

はいはい、どうせそんなことだろうと思いましたよ、と用意していたセリフは出せなかった。

「俺、一人?」

「えぇ、あんたには責任感とか時間を守る能力や覇気が足りてないのよ!
だからこれはトレーニングよ!キョンが立派に独り立ちできるように、私たちで見張ってあげるからサボるんじゃないわよ!」


……つまり、なんだ?それは監視がいる事を知った上でのはじめてのお使いってことか。バカバカしい。

「その通り!」

満面の笑みで答えるな。
やるならこっそりやれこっそり。

「……五人で行動するのと変わらない。ならば、五人で始めから行動したほうが効率的と考える、違う?」

違う?と可愛らしく言われても、俺に決定権はないからなんとも言えないぞ長門よ……。
しかし、お前は最近よく喋るようになったな。うん、いい事だ。

「わ、私も長門さんに賛成です!
キョンくん一人にするのは流石にかわいそうですよ……」

「ふむふむ、じゃあ午後は五人でキョンに時間の使い方ってのを叩き込む事にしましょうか!」

ずるずるとストローを鳴らしながら少し考えるとハルヒはいきなり立ち上がりそう宣言した。
真夏のひまわりのような幸せそうな笑顔でな。

古泉も、長門も朝比奈さんもみんな、笑っていた。

「やれやれ」

俺はそうつぶやくと、ため息を一つつく。

しかし、ひとつだけいっておこう。いや、言わせてくれ。声を大にして言わせてくれ。

俺は今日一度も遅刻をした覚えはない。

ここまで

また読んでください

一週間が七日とは限らない。

はじめます


〜〜〜

「やっぱ有希は魔法使いが似合うわねぇ……ミステリアスな瞳、可愛い容姿、パーフェクトよ!」

今日は一体なんの捜索だったか、なんて事を思いながら俺は缶ジュースを飲んでいた。

しかしなぜ日本にはハロウィンがクリスマスやバレンタインほど定着しないのだろうな。

「というか、銃社会で定着して良いような行事ではありませんよね」

「毎年可哀想な被害者を出しているのに何故廃れないのだろうな」

「僕思うんですけど、絶対あれ憎い奴を撃ってる人もいるんではないかなぁ……と」

最近の古泉は年相応の高校生らしくなってきたな、と思う。
それは、そのままハルヒの奴の精神状態というか言ってしまえばあいつが大人になったということだろう。
バイトといい活動を途中で抜けることも少なくなったし楽になったんだろうな。

「谷口あたりには銃社会に住むことになったらハロウィンには参加するなと言っておこうかね……」

SOS団で男は俺とこいつだけだ。
こうしてバカ話に花を咲かせるのもいいもんだと思うんだ。

「……リアクションを起こさないでくださいね」

だが、不思議を追い求めるSOS団員にはそんなバカ話満開な日常を世界は許しちゃくれないみたいだ。


「……どうした?」

「何者かに監視されています。女性陣には長門さんがついているので問題は無いと思いますが……僕らはピンチかもしれません」

「いやでも、いきなりしかけてくるなんて……」

古泉に言われた通り大きなリアクションは起こさず、まだ半分ほど中身が残っている缶をいじりながら話す。

「……不安にさせるだけだと思い黙っていたんですが、SOS団は設立時すぐにとある組織に狙われていました。
機関のほうで手を回し逃げることに成功したのですが……その評判を聞きつけた違うところが僕らを狙っているみたいです」

当然だが初めて聞く話だった。どうやら俺が思っているよりも機関は強大な組織らしい。
一体誰がそんな組織を作り上げたのかと一瞬気になったが、そんなのは今はどうでもいい。

「どうして今まで黙ってたんだよ。
俺に何か出来る事があったとは思えんが、何か……なんかあったかもしれないだろ」

「その言葉だけで僕は報われますよ。
ただ、前回は初め機関が狙われそこからSOS団に飛び火したようなものですからね」

だから、俺たちにはなにも言えなかったとでもいうのか。
考えたくもないが狙われて抗争があったんだとしたら、古泉は命を落としても不思議ではなかったはずだ。


「僕が死んだらその時は機関もその組織も世界の裏というものが吹っ飛ぶくらいの核爆弾を僕は所持してますから、僕が抗争に巻き込まれて死ぬことはあり得ませんよ」

さらっと、また恐ろしいことを言いやがった。
“友人同士が普通に話している”という風な体裁が崩れぬ不自然なリアクションを起こさなかったのは褒めてもらいたいくらいだ。
そして落ち着こうとジュースを飲もうとするが、もう空であった。

「おや?飲み干してしまったようですね。
涼宮さんたちはまだかかりそうですしもう一本のみますか? 奢りますよ」

全てを見透かしたように小銭を自販機に突っ込んだ。

「ご馳走になろうかね」

悪いな、と一瞬思ったがむしろいつもご馳走してるのは俺のほうなので遠慮する必要などないのだったと思い直す。

「んで?」

そしてそんな過去が無くとも友人が気まぐれにジュースを奢ってくれる。
ごくごくありふれた学生の日常だ。
サンキューサンキュー、などと言いながら遠慮する必要などないのだ。

だってそうだろう?
古泉がどう思ってるかは知らないが、俺はこいつを親友だと思っているんだ。

最低限の礼儀さえあれば友達に遠慮するなんて無粋な事なんだ。


「『で?』とは?」

「お前が微妙に話を誤魔化しているとわかるくらいには、俺はお前と友情育んだつもりだといっているんだ」

先ほどと同じジュースのボタンを押し、がしゃんと音を立てて落ちてきた缶を取り出しながら冗談めかして言う。

「……とんでもありません、別に誤魔化してなどいませんよ」

古泉よ、笑顔が仮面に戻っているぞ。

まぁだが、こいつが今言わないと言う事は俺はまだ知らなくて良い事なのだろうとおとなしく引き下がる。

「恐縮です」

そして、こいつも俺の思ってる事を察しそう言いながら笑った。

「ところでよ、俺たち今監視されてんだよな?」

古泉はニコリと笑いながら頷く。
ならばこんなこと話してて大丈夫なのだろうか、と今更不安になる。

「えぇ、問題はありません。
唇を読まれないよう監視役に口元隠してますし、あなたも話す時は下を向いていましたしね。
たまに僕はあなたがこの世で一番とんでもない存在なのでは? と思いますよ」

「ただの偶然だ。それよりどうするんだ?」

古泉のその言葉には返さず、にっこりといつもの仮面をかぶり直した。


「……あなたとはやってられませんね。
機関ももうSOS団へ援助をする事はないでしょう。
そして我々機関が手を引けば、あなたたちは終わりだ」

顔をあげ、監視者に口元が見えるようにしてから古泉は喋り出した。
そしてそれは、もちろん演技だ。
それも、表向きは涼宮ハルヒがSOS団の核だが裏で牛耳ってるのは機関だと思わせる演技だ。

――そんな……そんな演技に乗るわけねぇだろクソ野郎。

「……そうかい、んじゃ勝手にしろ。
俺も勝手にやらせてもらう」

古泉は俺が期待通りの演技をしてくれたと思ったのだろう。
少しだけ安心したような色が顔にでた。

しかし、宣言は二回目になるがそんな演技に乗るわけがない。

「言っとくが俺は機関を潰すカードくらいは用意してあるぜ?」

演技ではない本気の驚愕が見てとれた。
ザマァミロと、俺は笑う。

「俺が欲しいのはお前じゃない、機関の力だ。
お前が俺とはやってらんないと言うんならお前を消すだけだ。
さぁ、どうする?」

「……ただの人間のあなたに……機関を潰すなど出来るわけがありません。
ハッタリでしょう?」

だんだんと目には怒気が宿っていく。
本気で怒っているようだ。
古泉は演技がうまいんだな、とあとで茶化したらどんな反応をするだろうか。


「おいおい、SOS団を作ったのは俺だぞ?
その俺が、ただの人間だと?」

「……何をバカな事を……」

「はっ、めでたい野郎だ。
特別な力を持ったのが自分とその組織だけだと思ってやがる」

二人の間に冷たい空気が流れる。

「ちょっと、何を睨み合ってんのよ」

このあとどうなるか、というか勢いで口を開いていたためどうしたらいいのかわからなくなっていた所で、珍しく空気を読んだタイミングでハルヒが店から出て来た。

「……いえ、少々くだらない事で言い争いになりまして」

ここは素直に古泉に乗る。

「あぁ、こいつがポニーテールよりもツインテールの方がいいと言いやがったからな。
少し頭に来たんだ」

「……古泉君ってたまにキョン並みにアホよね」

ハルヒは大きなため息をつくと、肩を落とした。
……引っかかることがあるがつっこまずにおいておこう。

「んで?そのでっかい紙袋はなんだよ」

言いつつどうせ俺が持たされる事はわかり切っているので重そうなどでかい紙袋に手を伸ばす。

「決まってるじゃない!みくるちゃんと有希の衣装よ!」

「どんな衣装かは、当日までのお楽しみと言う事で、聞かないでくださいね!」

そんな可愛らしくウインクされてしまったら、親の死因すらも聞けなくなってしまいそうだ。


「わかりました。
ちなみに朝比奈さんはポニーテールとツインテールはどっちがいいと思いますか?」

「それを私に聞きます?」

若干うんざりした様子でそう言うと、チラリとハルヒと長門をみた。
そして、朝比奈さんは「ショートカットもいいですよね」と言いウィンクした。

うむ、確かに。
でもショートでもポニーテールでもツインテールでもどうでも良くなるくらい今のウィンクは反則ですよ。

「ったく、くだらない事言ってないでさっさと行くわよ」

「……次はどこに?」

ハルヒに向かって数ミリ首を傾げる。
これを俺にやられたら、一食三千円のカレーを何食でもおごっちまいそうになるだろうな。
だから長門よ、絶対に俺に向かってやるなよ?絶対だぞ?

「んー、そうね……ハロウィンパーティに招くゲストを捕まえに……かしら」

「つまり、ブギーポップを探す、と言う事ですね?」

「その通り!流石ね古泉くん!」

何が流石ね!なのかはわからんが、まぁいい。
どうせ意味などないだろうしな。

『状況は把握している。
私が側にいる限り、誰にも手は出させない、安心して』

「っ!」

長門の方へと勢いよく向き直る。


「ど、どうしたのよ?」

その様子に流石のハルヒも少しビビったのか、恐る恐るという感じだ。

「あ、あー……いや、長門の肩についてる糸くずが虫に見えてな、ビビった」

そして、存在しない糸くずを取るふりをして、軽く長門を睨む。

『……次からこの方法を取る時は何かしら合図を送ってくれ』

『了解した。
あなた達二人を監視していたのは一人。
今はあなたを注意深く観察している。
原因はさっきのあなたの芝居。
涼宮ハルヒから注意をそらせたのはいいが、あなたが危険』

上機嫌にはしゃぐハルヒにツッコミをいれつつ、頭の中では長門と話す。

『まぁ、俺は大丈夫だろ。
ハルヒも俺が死んだら雑用がいなくなって困るだろう?だから死なないさ。
なんといってもハルヒには願望実現能力があるからな』

『油断は駄目。
古泉一樹の機関も恐らくあなたを守るために動くとは思うが、あなたは自分の事を機関以上の存在と言ってしまった。
あまり派手には動けない可能性がある』

『……まぁなるようになるだろうさ』

ハルヒに気づかれないように小さくため息をついた。


〜〜〜

――機関、涼宮ハルヒ……。
機関がSOS団とやらを作り、そのボスに涼宮ハルヒを仕立て上げたって事か?

合成人間パールは自販機横で話し込む二人の高校生を睨む。

――何故だ?何故、統和機構から逃げ切った組織として機関じゃなくSOS団の名が挙がる?

そして、そのパールをさらに混乱させるかのように、高校生達の会話はすすむ。

――なんだと?クッソ、ますます意味がわからない。
キョンって奴がSOS団を作った?なんのために?そしてなんでそこに機関が絡んでくる?

謎は深まるばかりだ。
パールも統和機構から完璧に逃げ切るほどの力を持った組織と正面からぶつかろうとは思っていない。
組織の隙をつき、利用するのが目的だ。

SOS団のその隙が一体どこなのか、それを惑わすという意味ではキョンのアドリブは多大な効果があった。


〜〜〜

「積もり積もって世界の敵になってしまった哀れな子……それが、今回の敵だ」

SOS団一行がショッピングセンターから出ていくのを、黒外套が見つめていた。

「絶対に加害者にならない哀れなワンコ……『パンプキン・ドッグ』でいいか……。
そして、絶対に被害者にならない狡猾な卑怯者……かぼちゃ繋がりって事で『ジャック・オ・ランタン』とでもしようか……。
そんな二人がいる組織はどんな足跡を残すのだろうね……」

ヒュウ、と一息だけ大きな口笛を吹くとその黒い筒は街の喧騒に溶け込むように消えた。
それと同時に、幸せな五人組の辿る結末をあざ笑うかのような笑みを浮かべたジャック・オ・ランタンの飾り付けがカタカタと揺れた……。

ここまで、次もまた読んでください

ちと忙しくなってきちゃったからかなり細切れで書く事しかできない。
なのでつじつま合わないところかなりあるきがします。
最悪落としてまた暇になったら立て直すので矛盾とかひどいと思ったら言ってください。

ではまた次回

すみません
なかなか書き進められなくて一ヶ月経ってしまいましたね

今月中に再開できたら再開します

リアルでちょっと精神的に辛い状況に陥ったので二ヶ月以内に復帰無理そうなら落として立て直します


〜〜〜

古泉が怒っている。
恐らくハルヒなど女性陣にはわからないだろうが、俺にはわかる。
古泉は怒っている。

何故俺にはわかるかって?
そりゃ、簡単だ。
俺は毎日毎日こいつとボードゲームに興じていたんだぜ?
いくら古泉が感情を隠すのがうまくたって、感情を殺す訓練を積んでいたとしたって、
仲間に感情は隠せないし仲間の前で感情を殺すなんて事も出来やしないって事さ。

「おや? 居心地悪そうな顔なんかしてどうしました?」

ふむ、いつも通りの……いや、いつもよりわざとらしいニッコリ仮面だな。
これは相当怒っていると見ていいだろう。

どうしたものかとため息をひとつつき、俺もわざとらしくする事に決めた。

「いんや、別に居心地悪いなんて思っちゃいないぜ?
俺にとってこの団は唯一の拠り所だからな」

「なにをわざとらしいこと言ってんのよ」

ハルヒには俺の事など丸わかりのようで、速攻で発言の嘘臭さを見破られてしまった。
相変わらず鋭いというか、俺には厳しい団長様だよな。


「さて、このあとどうしましょうかね……」

ハルヒは俺と古泉をチラリと見比べると、駅前の時計をみながらつぶやいた。
こいつの“どうしましょうかね”はすでにどうするかが決まっているということだ。

そして、それは団員全員が心得ている。

この団で一番わかりやすいのは実はハルヒなのかもしれない。
もちろん、一番厄介なのはこいつというのは揺るぎない事実だ。

「解散でいいんじゃないか?
ハロウィンのコスプレ衣装も買ったし、ブギーポップとやらは見つからない。
時間もいい時間だ、解散でいいだろ?」

「あら? いつ団長様が雑用に発言を許可したかしら?
とりあえずご飯食べるわよ!
ブギーポップを捕まえる方法をみんなで考えましょう」

俺の諭吉さんがマイナスになる事がここで決定した。

団長様は何かを考えるような足取りでファミレスへと進んでいく。
なにを考えているかは気にならない。

何故かって?

そりゃあ、行き着く先が面倒臭いこと、ということに変わりはないのだ。


〜〜〜

朝比奈さんと長門が都合よく二人してトイレにいった時、ハルヒは好都合と俺と古泉を睨みつけた。

「あんた達……何か隠してるでしょ?」

そして、直球に切り込んできた。

「……隠す? 僕たちが団長様になにを隠すというのですか?」

古泉は困った仮面をかぶりながらそう聞き返した。

「それがわからないから聞いてるんでしょ?
団一の……団一は私ね、団で二番目に賢い古泉君がそんなキョンみたいな事いう時点で何かあるのよ」

流石にこれには異議を申し立てなくてはならん。
将棋などのゲームで俺は古泉に圧勝しているんだ。
古泉は勉強ができるだけで、頭自体は俺と変わらんはずだ。

手を上げ、異議あり、とかっこよく話に割り込んでみるが、

「認めず!」

とこちらを見向きもしないまま反射的に異議を却下される。
やはりこいつの頭の中には俺の発言は全て却下するプログラムが埋め込まれているようだ。



「で? 何?
まさかまだポニーテールとツインテールで揉めてんの?」

「僕たちが喧嘩している、という風に見えるって事ですか?」

ハルヒは迷いなく頷く。

「なぁ、ハルヒよ」

このままだと嫌な視線がひとつからふたつに増え、俺の居心地が本当に悪くなる。
ここは古泉と話を合わせ誤魔化すに限るだろう。

「俺と古泉でどう喧嘩になるって言うんだ?
俺が突っかかっても古泉が相手にすると思うか?
古泉が俺に突っかかってくると思うか?
あり得ないだろ?」

古泉も、そうですよ、なんてニッコリ仮面で頷く。
そのニッコリ仮面が駄目なんだと思うが、それをいま言うと余計にこじれそうなので言わない。
俺はハルヒよりも空気が読めるんだ。

「……なら、いいけど……」

ハルヒのやつはまだ不満そうだが、一応の納得はしたようだ。

そこでまたタイミングを見計らったように朝比奈さんと長門が戻ってきた。

そして、

「あれ?どうかしました?
古泉くんなんか機嫌悪そうですよ?」

とんでもない爆弾を投下した。

やれやれ、この人は空気を読む力とかそういうものを全て可愛さという部分に変換してしまったんだろうな。
もしかしたらハルヒ以上に厄介な存在かもしれん。
ハルヒになら説教できるが、この人には出来ないしな。

俺はため息をつき逃げるようにドリンクバーへと向かった。


〜〜〜

もう、慣れた。
一人きりの部屋。
一人きりでの作業。
もう、慣れた。

人間なんて精神状態が安定に向かったら、二日三日あれば大抵の事には慣れるのだろう。

何か水分がほしいな、と少し思ったら、黒いスーツを着た執事のような人が紅茶を持ってきてくれた。

「あまり根を詰めすぎぬよう……」

その老人はそれだけ言うと去っていく。

「ありがとうございます」

紅茶を一口飲むと、疲れが少しだけ回復したような気分になる。

SOS団。
機関。
統和機構。

考えなくてはならない事が山積みだ。

その中から統和機構の資料をひとつ取ると、パラパラとめくる。

反統和機構組織として機関の名とSOS団の名がそして、もう一つダイアモンズという組織の名前が刻まれている。

「深陽の宮下藤花と霧間凪、末真和子は統和機構となにか関係あるのか?」

統和機構から学園都市に送られた二人。
最強のMPLSと苦労人な合成人間。

そして、深陽から送られた三人。


故霧間誠一の娘となんて事はないただの女学生二人。

こいつらが学園都市に入ってから事件は起き、揃った頃には全てが終わっている。

「嫌になるな。もう、いっその事……」

全てをぶっ壊してしまおうかと考えるが、自分にそんな力はない。

「しかし、今日はおかしかったですね。
全部見えているような、そんな奇妙さを感じたなぁ……。
まぁ、いっか、涼宮さんがいる限り俺たちに……いや、僕たちに負けはない」

そうつぶやき、僕は僕というくだらない存在に嫌気が差す。

「……」

それは、涼宮ハルヒという少女に全ての責任を被せる卑怯な言葉だ。
そんな醜い自分を戒めるように、僕は机を思い切り殴りつけた。

『物に当たるなんて、最低だな』

彼の怒ったような顔がちらついた。

「……幻覚もここまでくるとほとほと自分が嫌になりますね」

机は大きくへこみ、拳からは血が垂れている。
この拳を明日どういう風に言い訳しようか、と考える事が増えてしまった。


〜〜〜

私は違う。
普通じゃない。
普通のことじゃ、満足出来ない。
それがどうしてかはわからない。
そんな自分が嫌で仕方ない。
キョンに迷惑をかけて、古泉君に迷惑をかけて、みくるちゃんに迷惑をかけて、有希に迷惑をかけて……。

本当は、もっと普通にみんなと遊びたい。
不思議探索だのなんだの、そんな理由をつけずに休みの日に“友達”と遊びたい。

「でも、それをしてしまうと……私は私じゃなくなる気がする」

ポツリとベッドの上に寝転びながらつぶやいた。

私って何?
私らしさ、私っぽさ、私のアイデンティティ。

それらが全てわからない。

どうして私はこんなにも不思議を追い求めるのだろう……。

口笛のようななんだか悲しいメロディが少しだけ開けてある窓からかすかに聞こえて来た。


〜〜〜

「あー……お前、どうしたんだそれ?」

翌日、いつものように部室に行くとそこには古泉が既に来ていた。
ハルヒは岡部に呼び出され職員室、朝比奈さんと長門は今週まで掃除当番らしい。
いつもならボードゲームなんぞをやるわけだが、古泉は珍しく読書中だ。
扉があいた時チラリとこちらを見て入ってきたのが俺だとわかると挨拶もしないで本に目を戻しやがった。
とうやら昨日の俺のアドリブが相当腹立たしいらしい。
居心地の悪い沈黙にしばらく耐えてみたが、結局耐えきれずに自分から古泉に話しかけてしまうあたり、俺は相当気が弱い。

「いえ、別に」

「別にって事はないだろう。
包帯なんてハルヒが見たら大騒ぎするぞ」

一晩寝たら怒りも収まると思ったが……どうにも古泉は頑固でいかんな。

というか、そこまで怒る事か?
人任せになっちまうが俺を狙ってくれるなら機関も長門も俺だけ見てりゃいいんだから、むしろ監視が楽になると思わんか?
……言うな、わかってるから言ってくれるな。
非常に情けないというのはわかっている。

「あなたには関係ないでしょう?
怪我したのは僕だ。
あなたに迷惑なんてかけませんよ」

そのみるからに痛々しい包帯がすでに迷惑なんだよ、アホ。
まさかハルヒではなく古泉にアホと真面目にいう機会がくるとは、人生とはわからん物だね。


〜〜〜

「んで?」

不機嫌なハルヒの前に俺と古泉が立っている。

朝比奈さんはおろおろと俺たちを見つめ、長門はいつもより若干本を読むペースが遅い。

あのあと朝比奈さんがすぐに来てくれて、古泉の包帯に気がついたが古泉は何か聞かれる前にさっさと部室をでた。
朝比奈さんの着替えが終わるのを外で待っていると長門がやって来て、一言「治す?」と古泉に尋ねたが、それすらも無視。
長門に古泉の代わりに詫びをいれると、長門はおとなしく頷き部室へと入って行った。

迷惑はかけないんじゃないのか? と嫌味ったらしく言ってやると、怪訝な顔をされた。
もしや、と思い古泉を問い詰めようとした瞬間、我らが団長様がやって来て、そのまま部室に連行、とそんなわけだ。

「で? とは?」

「まず、その包帯はなに? キョンが怪我してないから殴り合ったとかそういうわけじゃなさそうだけど……どうしたのよ」

「個人的な事です。 団活動に支障はありませんし、団とは関係のない事ですからあまり詮索して欲しくありませんね」

あまりにも古泉らしからぬ発言。
朝比奈さんは固まり、長門ですら本から目をあげた。
やれやれ、雷が落ちるぞ。


「なんですって?」

ほら、見ろ。
落ちるぞ?

やれやれ、とため息をつくと案の定それは落ちて来た。

「ちょっとキョン!あんた一体古泉君に何したのよ!」

もちろん、俺にな。
理不尽だと思うが、ここでは理不尽こそが道理なのだ。
無理を通せば道理が引っ込むとよく言うが、ここでは道理を引っ張ってこようとすると無理しかでてこないのだ。

「知るかよ、大方イラついて壁でも殴ったんじゃないのか?
古泉だって高校生なんだ、無性にイラついてものに当たることだってあるだろう」

ハルヒに口を挟まれたら終わりだ、というように俺はそれよりも、と古泉の方を向いた。

「お前、それかなり痛めたのに病院行ってねぇだろ?
利き手怪我してるから手当も適当だろうし……とりあえず病院行くぞ」

強引に古泉の腕を引っ張り部室を出ようとする。

「ちょっと!話は終わってないわよ?」

「はいはい、明日聞くから、こいつが長門の接近に気づかないほど痛がってるんだ。
相当だろ?
そうとなれば説教よりまずは病院だ。
そうだろう団長様」

ハルヒは珍しくついてくると言わなかった。
どうやらこいつも一年に一回だけ空気が読めるらしい。

今日がその日で良かったな、古泉よ。


〜〜〜

「折れてますね」

医者のこの言葉を聞くと、SOS団一番のアホはハルヒ何かじゃなくて古泉だと俺の中では決定した。

「お、折れてますか?」

古泉は苦痛に歪めたいであろう顔に必死にニッコリ仮面を押さえつけている。

「えぇ、全治二、三ヶ月ってところでしょう。
まだ若いから治るのは早いと思いますよ?」

医者に処置を任せ、待合室でぼんやり過ごし、会計を終えて病院を出ると外はもう暗かった。

「……なぁ、なんで機関の息のかかった病院行かなかったんだ?」

「……こんな事、なんて報告したらいいんですか?
イラついて机殴って骨折なんて……上司に殺されますよ」

「なるほどね、しかしお前もバカだな」

「そんなことより、なぜ僕が限界だったと気づいたんですか?
表情には出していなかったはずですが?」

「廊下で朝比奈さんの着替え待ってる時、長門に話しかけられたのってか、長門が来たのすらお前気づいてなかったろ?
お前が団員に話しかけられて無視するなんてあり得ないからな」

「……それだけのことで?僕は怒っていたんですよ?
虫の居所が悪くて無視しただけかもしれないじゃないですか」

シャレか、と突っ込むとすごい勢いで睨まれた。
冗談の通じないやつだと本日何度目になるかわからないため息をついた。

「例え怒っていたとしても、その怒ってる俺にすら返事はしたんだ。
長門を無視するなんておかしいじゃないか」

そう言ってやると、古泉はひどく驚いた顔をして俺から顔を背けた。
そんなに素の表情をみられるのが嫌なのかね?
まぁ、何に驚いたのかすら俺にはよくわからんのだがな。

ここまで

なんとなく前作ググってみたらとある人がブログで前作とこれを取り上げてくれてた

なんか、すみません

書きます、必ず完結させます

すみません

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