おっさん「おっさんはタイムスリップした!」 (9)

毎日毎日、年下上司に怒鳴られるのも慣れてきた。

最近、ちょっと禿げてきた。

最近、8つ離れた妹に4人目の子供が生まれた。

とうとう、私生活で付き合いのある友人との連絡が途絶えた。理由は結婚である。

仕事以外で誰かと話す事が無くなった。

こうして日々を過ごす中で、自分の人生のどこが間違っていたのかと誰にでもいい、詰め寄って問い詰めたかった。

ふと、死のうと思う日々も少なくなかった。

だが、今の生活は嫌いじゃなかった。貯金も溜めたのでそろそろ新しいバイクを買おうと思っていたし、

近々甥の中学校入学祝にグラブとバットをプレゼントする約束をしている。

鬼嫁に浮気がバレるたびにうちに逃げ込むバカな兄貴と話していれば楽しいし、

年の離れた妹は未だに俺を慕ってちょくちょく差し入れでご飯を持ってきてくれる。

両親も健在だ。辛い事が多いが、けして、嫌いな毎日では無かった。

だが、正面衝突で全てが無くなった。中央分離帯をぶち破ってこちらに来た軽トラックとぶつかり、俺は死んだのだ。

葬式の時、自分の遺体の上で透明になった俺は、兄の仏頂面も久々に子供のように大泣きする妹も、

つられて泣きだす甥や姪の姿も、悲しみにくれる両親の姿も、眼に涙を浮かべる年下上司の姿も、全て見た。

自殺しなくてよかった。悪いとは思っていたが、結局はそれに落ちついた。

そして、ゆっくりと意識が消えていく。

どうやら成仏するらしい。

願わくば、皆にはさっさと俺の事など忘れて日常に帰って欲しい。

視界がぼやける。体がどんどんと軽くなる。

そして、眼が閉じ、俺はタイムスリップをしていた。

男「という夢を見ていた気がするんだよな」

兄「暑いからなぁ、気をつけろよ?」

妹「おにいちゃんしんじゃった?」

男「死んでねぇよ。んーでも、変な気分。友達と野球してくる」

母「何時に帰るの?宿題は?夏休みだからって遊び過ぎてると怒るわよ」

男「わかってるって。帰ったらやるから。あっ、兄ちゃん。トメの観察日記書いてないから書いておいて」

兄「やだよ。自分の宿題だろ?俺だって中学の宿題あるんだから」

男「えー。まぁいいや、それじゃいってくる」

男(なんか、懐かしいな・・んー。暑いな。コンビニでアイス買っていこ)

ミーンミーンミーンミーン

男(蝉とか久々・・ん?昨日も聞いたはずなんだけど・・なんかホントに変だ)

男(あー、あそこの角を曲がればコンビニだ。小銭は・・100円か)

男(あれ?・・道、間違ったかな?コンビニが無い)

友達「おーい!男ー!」

男「あっ、友達!久しぶり!」

友達「久しぶり?昨日も野球やったじゃん。呼びに行こうと思ってたんだよ。お前のバントが必要なんだ」

男「俺も行こうと思ってた。所でさ、コンビニってどこだっけ?道どわすれしちゃった」

友達「はぁ?コンビニなんて隣町まで行かなきゃないだろ?何言ってんだ?ほら、行くぞ!」

男(えっ?)

男(コンビニが無い?あれ?そう言えば、なんか町の建物が無いし、畑が多い?)

男「あっ、ご、ゴメン!友達、ちょっと待って!」

友達「ん?どうした?」

男「なんか、なんか、さっき変な夢見て、気分悪くってさ・・今日は野球やんない」

友達「えぇ!びょうきか!?」

男「違う。明日には大丈夫だと思うから今日はもう帰るよ」

友達「ん?うん、わかった。気をつけろよ?」

男「ゴメンな」

友達「気にスンナって。バントの男がいなけりゃ女守護神を連れてくるよ」

男「回し蹴りに気をつけろよ?」

友達「あぁ、お前もな!じゃあ気をつけて帰れよ!」

男(むー。頭の中ぐちゃぐちゃ。あれ?俺、今いくつだっけ?3X?いやいや、11歳のはずだ)

男(えーと・・19XX産まれで、今は19XX年。楽天が優勝したのは2013年・・ん?)

男「あーーー!!!」

男「おっさん、タイムスリップして・・る・・?」

男(2X年前に来てしまってる・・だと?)

男「兄ちゃん!」

兄「何だよ」

男「俺、タイムスリップしちまった!」

兄「は?」

男「兄ちゃんは、大学生で相手孕ませて結婚してその後20年間ずっと嫁の尻に敷かれて、娘二人に嫌われるんだよ!」

兄「喧嘩売ってんのかお前」

男「それで、2013年には球団が結構変わってるんだ!楽天にディーエヌエーにソフトバンクに・・近鉄が消えた!吸収合併で消えちまった!」

バシッ

兄「落ちつけよ。俺達の近鉄は消えてない。だろ?」

男(だめだコイツ)

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