第501統合戦闘航空団基地 某日
コンコン…
シャーリー「…失礼」
バルク「開いてるぞ、入れ」
ギイイイイ…
ガチャン…
シャーリー「…………」
バルク「…………おい、何か喋れ」
シャーリー「いやあ………何か緊張してさ」
バルク「無理もない…とにかく座れ」
シャーリー「で、目を通してくれたんだな?」
バルク「ああ、しっかり読んだ。昨日一晩かけてな」
シャーリー「お疲れ」
バルク「…………」
シャーリー「……………」
バルク「……………私は驚いた、リベリアンがいきなりあんな事を口にするなんてな」
シャーリー「いいだろ別に」
バルク「ふっ……気でも狂ったんじゃないのか」
シャーリー「なに!」
バルク「まあ落ち着け、私が今回の件の検閲官に任命されたんだ、私の機嫌を損なわせることをしたら…どうなるかわかってるんだろうな」
シャーリー「くっ…」
バルク「………」
シャーリー「…………」
バルク「しかし…一体何故なんだ」
シャーリー「?」
バルク「いきなりお前が『舞台喜劇をやろう!』なんて言い出すなんてな」
シャーリー「気にくわないことでもあるのか」
バルク「ああ…ある! 世界は今ネウロイの脅威に怯えている時代だ!こんなご時世に、喜劇という低俗なもの…!」
シャーリー「こんな時代だからこそだ。人類は今、"娯楽"を欲している」
バルク「………」
シャーリー「………」
バルク「…バカを抜かすな、私達はウィッチだ、軍隊だ…にも関わらず演劇をするなど…世間が許すわけがない」
シャーリー「やってみなきゃわかんねーよ!」
バルク「………まあ怒るな」
シャーリー「?」
バルク「私だってもう一人前のウィッチだ。私情だけで、ああだこうだ言うつもりはない」
シャーリー「おお、バルクホルン…」
バルク「私が検閲官に任命されたのは、ミーナの命令だ。身勝手な理由で上官の司令を無視するほど、私は馬鹿じゃない」
シャーリー「わかってんじゃん」
バルク「……昨日リベリアンが書いてきた台本を読ませてもらった」
シャーリー「私が座長で、脚本、演出、主演すべて担当している」
バルク「そうか」
シャーリー「少佐と中佐は裏方にまわってもらったよ。あと…サーニャはどうも舞台に上がって演技するのが難しい。だからピアノ伴奏をお願いしたんだ」
バルク「そうか」
シャーリー「他のメンバーは全員役者だ」
バルク「そうか」
シャーリー「…どうだ、素人が作ったにしては良く出来てるだろ?」
バルク「……」
シャーリー「……?」
バルク「………ああ」
シャーリー「なんだ…言いたいことがあるならハッキリ言えよ」
バルク「よく出来てるストーリーだとは思った」
シャーリー「さすが、カールスラント軍人様は言うことが違う!」
バルクホルン「…!」ムカッ
シャーリー「で、上演許可は出せるのか!?なあ!?」
バルクホルン「ほら、コレを見ろ」
バサッ!
シャーリー「これ…昨日渡した台本じゃないか」
バルクホルン「まず説明しておく。ミーナ曰く…台本を読んで、少しでも問題だと思う表現があれば付箋をつけろとのことだ」
シャーリー「は、はあ…」
バルクホルン「そして…見ろ、台本を」
シャーリー「?」
バルクホルン「………どうだ?付箋はいくつ貼ってあるか言ってみろ」
シャーリー「1つも付いていない…」
バルクホルン「ああ」
シャーリー「………!」
バルクホルン「……ふっ」
シャーリー「ということは!」
バルクホルン「わかっただろう…?」
シャーリー「ああ!台本に問題は無かったわけだ!上演許可が貰えるんだな!よし、早速本番に向けて練習してこよう」
バルクホルン「ちがう……」
シャーリー「?」
バルクホルン「そ の 逆 だ あ!!!!!!!!!!!!!!」
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~ 1 day ~
バルクホルン「全てだ!全てにおいて駄目なんだこの台本は!」
シャーリー「ちょ…そこまで言わなくてもいいだろ」
バルクホルン「いいや!"全て"だ!もし付箋をつけるとすれば…全部のページに貼らなくてはいけないくらいにな!」
シャーリー「なにっ!」
バルクホルン「だからあえて付箋を貼らなかった…わかるか?」
シャーリー「それくらいわかる…」
バルクホルン「本当か?理解できたのか?私の言っていることが理解できたのか?」
シャーリー「うっ…うざい!」
バルクホルン「私が説明しなくてもわかったと言うんだな!よし!帰ってくれ!」
シャーリー「だあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛! すまん!説明してくれ!この台本のどこに問題があったんだ!」
バルクホルン「じゃあ説明してやろう!まずこの表紙を見ろ!」
劇団 「501JFW」 第一回公演作品
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出演 シャーロット・E・イェーガー / 宮藤芳佳 / リネット・ビショップ / フランチェスカ・ルッキーニ
エイラ・イルマタル・ユーティライネン / ペリーヌ・クロステルマン / エーリカ・ハルトマン
ゲルトルート・バルクホルン(友情出演)
企画制作 第501統合戦闘航空団
バルク「ふざけるな……!」
シャーリー「何を言う!私は真面目に書いたんだ!」
バルク「いや!真面目にこんな台本が書けるものか!」
シャーリー「なんだと!」
バルクホルン「こんな演劇、あってたまるか!」
シャーリー「じゃあ言ってみろよ!何がいけないんだ!」
バルクホルン「一つ一つ言えというのか!」
シャーリー「ああそうだ!一つずつ直していくから!」
バルクホルン「…そうか……」
シャーリー「どんと来い」
バルクホルン「…まず……これは何だ」
シャーリー「!?」
バルクホルン「……どうして私が出演してるんだ!」
シャーリー「いいだろ別に!11人全てに何かしらの役割がないと意味が無いんだ!セリフは与えない!ただ突っ立ているだけの役どころだ!それの何がいけない!」
バルクホルン「何度も言わせるな!ウィッチが命をかけてネウロイから世界を守ろうと必死になっているこの時代に!こんなふざけた演劇を上演するなんて馬鹿げている!」
シャーリー「あぁ!?」
バルクホルン「こんな低俗な演劇、たとえ死んでも出演しない!私の人生の汚点にしかならないからな!」
シャーリー「何をぉぉ!」
バルクホルン「何だぁ!」
シャーリー「……ああわかった!そんなに言うなら出演者から降りてもらおう!」
バルクホルン「な、なぜ上から目線なんだ」
シャーリー「うるさい!これでいいんだろ!これで!」
ゴシゴシ…
劇団 「501JFW」 第一回公演作品
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出演 シャーロット・E・イェーガー / 宮藤芳佳 / リネット・ビショップ / フランチェスカ・ルッキーニ
エイラ・イルマタル・ユーティライネン / ペリーヌ・クロステルマン / エーリカ・ハルトマン
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企画制作 第501統合戦闘航空団(ゲルトルート・バルクホルンを除く)
バルクホルン「ふむ……私の名前はしっかり消えたな」
シャーリー「これで上演していいんだろ!な!」
バルクホルン「ふざけるな」
シャーリー「なんだよ、まだ何かあるのか?」
バルクホルン「このタイトルは何だ」
シャーリー「なっ…タイトルにまでケチを…!」
バルクホルン「黙れ!声に出して読んでみろ!ほら!」
シャーリー「『風邪とともに猿』だ」
バルクホルン「んん?もう一回頼む」
シャーリー「『風邪とともに猿』…」
バルクホルン「ほら、もう一回」
シャーリー「かぜとともに…さる…」ボソッ
バルクホルン「聞こえん、もう一回」
シャーリー「ああああああ!いい加減にしろ!なんか恥ずかしい!」
バルクホルン「恥ずかしいのか…そうかそうか…恥ずかしいタイトルで上演しようとしてたんだなリベリアン」
シャーリー「くっ…」
バルクホルン「………私はこういうものには詳しく無くてな…」
シャーリー「あ?」
バルクホルン「だからよく分かないのだが…お前の出身国…リベリオン合衆国の小説に、似たようなタイトルがあった気がするが」
シャーリー「……『風と共に去りぬ』だ」
バルクホルン「ああ思い出した!そうだ!風と共に去りぬだ!そういえば1939年にはヴィヴィアン・リー主演で映画にもなったな」
シャーリー「あ、ああ」
バルクホルン「当時、世界的にもまだ発展途中だったテクニカラー方式を取り入れた編集で、美しくカラフルな映像が話題になった。上映時間は4時間弱。ラストシーンのセリフ、"明日は明日の風が吹く"はあまりにも有名だ」
シャーリー「………(詳しいじゃん)」
バルクホルン「『風と共に去りぬ』、『風邪とともに猿』……ふむ」
シャーリー「何が言いたい…!」
バルクホルン「う~ん……偶然にしては似すぎているな…」
シャーリー「え゛」
バルクホルン「…………なるほど、これは間違いなく"盗作"だ」
シャーリー「なにいいいいいいい!」
バルクホルン「何だ?反論か?」
シャーリー「バルクホルン!これだけは言わせてくれ!断じて盗作じゃない!」
バルクホルン「偶然の一致だというのか」
シャーリー「いやっ……それも違うけど……」
バルクホルン「ハッキリしろ」
シャーリー「……この作品は喜劇なんだ、面白くないと劇として成立しない」
バルクホルン「ああ、私の大っ嫌いな喜劇だったな」
シャーリー「…」ムカッ
バルクホルン「で?それがどうした」
シャーリー「要するに……タイトルで一笑い頂こうってわけさ」
バルクホルン「…?」
シャーリー「"パロディ"と言ってくれ…盗んでしまったという訳じゃなくて、観客に『これは風と共に去りぬの真似ですよー』って意図的に知らせてるわけだよ」
バルクホルン「ふむ…………で?」
シャーリー「へ?」
バルクホルン「だから、それでどうなるんだ」
シャーリー「いや、だから、そこで1つ小さな笑いがクスッっと生まれるんだ。『あの名作が、ほんの少しタイトルを弄っただけで、こんなに意味不明でショボい作品になってしまうのか!』って」
バルクホルン「………」
シャーリー「…………」
バルクホルン「…わからない……リベリアンはそれで面白いのか…?」
シャーリー「!」ムカッ
バルクホルン「ちっとも笑えない…!なんだこれは!私がおかしいのか!?」
シャーリー「くっ…」
バルクホルン「しかし困ったな、このタイトルではとても上演させる訳にはいかない…う~ん」
シャーリー「……宮藤は面白いって言ってくれたぞ」
バルクホルン「…!」
シャーリー「どうした?」
バルクホルン「いやっ…//」
シャーリー「なんだ?急に表情が変わったぞ?」
バルクホルン「なっ……なんでもない」
シャーリー「んん~~~?」
バルクホルン「なんだ」
シャーリー「……今ちょっと後悔しただろ?」
バルクホルン「何を言う!」
シャーリー「………」
バルクホルン「…………………」
シャーリー「…………どうだ、認めてくれるか?」
バルクホルン「………………仕方ない」
シャーリー「よしっ!」
バルクホルン「しかしリベリアン!1つ条件がある!」
シャーリー「え……」
バルクホルン「パロディというものはよく理解できた……だがな」
シャーリー「…なんだよ」
バルクホルン「どうも『風と共に去りぬ』のパロディというのが納得いかん」
シャーリー「は?」
バルクホルン「……私の出身は帝政カールスラントだ」
シャーリー「知ってる」
バルクホルン「どうだ、リベリオンの作品ではなく、カールスラントの作品でパロディをやってくれないか」
シャーリー「はああ!?」
バルクホルン「…ん?飲めないのか?じゃあ仕方がない。上演許可は出せないな」
シャーリー「ちょ…ちょっとまってくれ!じゃあ…ストーリーそのものを変えろというのか!」
バルクホルン「ああ、そうだ、リベリオン映画はどうも好きになれない…だから、カールスラント作品を是非上演して欲しいのだ」
シャーリー「おいバルクホルン…それは無茶だ。私がどれほどかかってこの台本を仕上げたと思ってるんだ」
バルクホルン「それに…よく考えてみろ」
シャーリー「話を聞けよ」
バルクホルン「『風と共に去りぬ』がリベリオンで公開されたのは…何年だ?」
シャーリー「………1939年だ」
バルクホルン「ネウロイが出現し、世界に猛威を振るい始めたのは、何年だ?」
シャーリー「………1939年…」
バルクホルン「……というわけだ、風と共に去りぬのパロディを上演するということは、ネウロイの存在を肯定することにつながりかねない」
シャーリー「なっ………!無茶苦茶じゃないか!」
バルクホルン「そうか、イヤと言うのか……じゃ、残念だ。早く帰ってくれ、台本は私が処分しておく」
シャーリー「だあああああ!ストップ!書く!書きます!あたしにチャンスをくれ!お願いだ!」
バルクホルン「……………」
シャーリー「……………………この通りっ!」バッ!
バルクホルン「……扶桑土下座とはなかなかやるな………よし、明日の朝までに仕上げてこい」
シャーリー「あ、朝!?」
バルクホルン「明日のこの時間、私はこの部屋で待っている。それまでにお前が持ってきた新たな台本を私が読んでおく、わかったな」
シャーリー「くっ………!」
ガチャ…
シャーリー(んだよ……"明日までに全て書き直せ"って……)
シャーリー(…しかもカールスラントの映画なんて、あたしはこれっぽっちも知らない)
シャーリー(……仕方ない………これも皆のためだ。言い出しっぺのあたしが諦めたら、皆に示しがつかない)
シャーリー(見てろよバルクホルン…!)
・
・
・
~ 2 day ~
ガチャ…
バルクホルン「開いてるぞ、入れ」
シャーリー「失礼」
バルクホルン「…………」
シャーリー「……………」
バルクホルン「台本を読ませてもらった…リベリアン、コレは何だ」
シャーリー「バルクホルンの言うとおり、カールスラント作品のパロディだ」
バルクホルン「…………」
シャーリー「文句あるのか?」
バルクホルン「……………」
シャーリー「何か言えよ」
バルクホルン「…………元は何だ」
シャーリー「チャールズ・チャップリンの『独裁者』だ」
バルクホルン「知らないな」
シャーリー「主人公はカールスラント人なんだけどな、ほら、写真も持ってきた」
バルクホルン「?」
シャーリー「帝政カールスラントの総統がモチーフになってるんだ。見たことがあるだろ?」
バルクホルン「ああ」
シャーリー「だからこれは立派なカールスラント映画というわけだ」
バルクホルン「……………まぁいいだろう」
シャーリー「!」
バルクホルン「タイトルは問題ない」
シャーリー(ほっ…何とか騙せた)
劇団 「501JFW」 第一回公演作品
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出演 シャーロット・E・イェーガー / 宮藤芳佳 / リネット・ビショップ / フランチェスカ・ルッキーニ
エイラ・イルマタル・ユーティライネン / ペリーヌ・クロステルマン / エーリカ・ハルトマン
企画制作 第501統合戦闘航空団(一人を除く)
バルクホルン「しかし…」
シャーリー「なんだよ」
バルクホルン「タイトルとストーリーが全く一致していない」
シャーリー「……」
バルクホルン「独裁者というタイトルなのに、内容は"主人公が盲目の異性に好意を寄せ、その人の為必死にお金を集めるが、泥棒と勘違いされ無実の罪で捕まってしまう"というものだ」
シャーリー「そこに気がつくとは…さすが!」
バルクホルン「!?」
シャーリー「これもまた、パロディになっているんだ!」
バルクホルン「は?」
シャーリー「昨日はただタイトルを真似ただけだった…しかし今回は違う」
バルクホルン「???」
シャーリー「これはだな…タイトルと内容、どちらもチャップリンの作品で統一されているが、内容はまったく一致していない…ということなんだ」
バルクホルン「?????」
シャーリー「昨日の台本だと、元ネタを知らないとパロディということに気が付かないだろう…でも、こうすると元ネタを知らなくても『タイトルと内容が一致していないぞ!』と観客につっこませられる」
バルクホルン「ああ…」
シャーリー「そして元ネタを知っている人は、『ああ、これはチャップリンの2つの作品をミックスさせたんだな』という、観客に納得させる"ネタ"が生まれるんだ」
バルクホルン「そうか…なるほど」
シャーリー「わかってくれたか!?」
バルクホルン「よく理解できた」
シャーリー「バルクホルン…!」
バルクホルン「面白くはないが」
シャーリー「……!」ムカッ
バルクホルン「まあいい、タイトルに関しては問題ないんだ」
シャーリー「じゃあ…上演しても…」
バルクホルン「いや、まだだ」
シャーリー「!!!!」
バルクホルン「早まるなリベリアン。まだ内容については1つも触れていない」
シャーリー「……どこが問題だ……別に低俗な内容ではないはずだ」
バルクホルン「……無理やり登場人物がウィッチという設定にしたことにより、かなり支離滅裂な点がある」
シャーリー「どの部分だ?」
バルクホルン「……13ページを見ろ。川に落ちた酔っぱらいを助けようとするが、いつまでたっても助けられず、ついに主人公も川に落ちてしまうシーンだ」
シャーリー「あ、ああ」
バルクホルン「どうして主人公はストライカーユニットを装着しないんだ。ユニットを装着すればすぐに酔っぱらいを助けられたに違いない」
シャーリー「だからそこが面白いんだよ!」
バルクホルン「なに?」
シャーリー「無理やり、主人公がウィッチという設定にしたからこそ、コメディとして映えるシーンだ」
バルクホルン「…?」
シャーリー「観客は『いや、ユニットを装着しろよ!』とツッコむに違いない。そうしたら、もたつけばもたつくほど笑いが生まれるってわけだ」
バルクホルン「…う~ん、わからない」
シャーリー「見てくれ、冒頭のシーン…1ページ目だ」
バルクホルン「?」
シャーリー「冒頭で、私が演出家としてこの劇の説明をするんだ」
バルクホルン「ああ」
シャーリー【諸君!我々、魔女の大学の演劇を見に来ていただいて、誠に感謝している!】
バルクホルン「……」
シャーリー【そこで!我々はウィッチというものをもっと知って頂きたいと思い、ウィッチが活躍する演劇を制作した!】
バルクホルン「…」
シャーリー【しかし我々は舞台に関しては素人だ…どうしたら観客を引きこませられるストーリを作れるか悩みぬいた】
バルクホルン「…」
シャーリー【そこでだ!あの名作、チャールズ・チャップリンの『街の灯』の主人公をウィッチに置き換えてみたのだ!】
バルクホルン「…」
シャーリー【ウィッチの活躍、ウィッチの素晴らしさ、とくとご覧あれ!】
バルクホルン「……」
シャーリー「このあたしのセリフこそが、まさに"フリ"になっているんだよ!」
バルクホルン「ふり?」
シャーリー「ああ、冒頭で観客に『この作品はウィッチが活躍するサクセスストーリーなんだ』と思い込ませてる」
バルクホルン「……」
シャーリー「でも、主人公がウィッチなのに、川に落ちた酔っぱらいは助けられないし、銃を見てビビるし、挙句の果てに八百長のボクシング対決までする」
バルクホルン「…」
シャーリー「あたしの説明にも仕掛けがあるんだ。観客は『こんなに早い段階でパロディを認めるのかよ!』『街の灯の主人公は男なのに、無理やり女性のウィッチに置き換えて大丈夫か…?』と思うだろう」
バルクホルン「ああ」
シャーリー「でもそれでいいんだ!喜劇はなんでもありなんだ!観客はただただ、楽しむために来てるんだからな!」
バルクホルン「そうか…」
シャーリー「わかってくれたか!」
バルクホルン「う~ん………だが…まだ納得出来ない点が1つある」
シャーリー「うぇ…」
バルクホルン「最後まで読んだが……一回もウィッチとネウロイの戦闘シーンがないじゃないか!」
シャーリー「それでいいんだ、ネウロイとの戦いは、この作品のテーマに合わない」
バルクホルン「……しかし、主人公がウィッチなのに、一度も空を飛ばないというのはいかがなものか」
シャーリー「…どうしろと」
バルクホルン「戦闘シーンを追加しろ」
シャーリー「な!!!!」
バルクホルン「出来ないのか?」
シャーリー「あたりまえだろ!そんなシーン、舞台演劇でできるわけがない!」
バルクホルン「仕方ないな…じゃあ主人公のセリフとして、これを追加してくれ。『世界平和のため、ウィッチは戦う!』」
シャーリー「ちょ、ちょっと待て!」
バルクホルン「なんだ、出来ないのか?」
シャーリー「これは純粋なヒューマンドラマなんだ!そんなセリフ追加したら、それこそ支離滅裂になってしまうじゃないか!」
バルクホルン「ほう……出来ないと言うんだな」
シャーリー「いやっ……その……」
バルクホルン「よし、2回繰り返そう。『世界平和のため、世界平和のため、ウィッチは戦う!』」
シャーリー「やめてくれ!」
バルクホルン「いいから書き直せ」
シャーリー「無茶だ!無茶にも程がある!」
バルクホルン「………3回繰り返そうか。『世界平和のため、世界平和のため、そう、世界平和のため、ウィッチは戦う!』」
シャーリー「何故そんなセリフが必要なんだ…」
バルクホルン「言っただろう…世界は今ネウロイの脅威に怯えていると…!この演劇を見た後、観客が勇気と希望に満ち溢れ、魂が奮い立つようなストーリーにしないと駄目だ」
シャーリー「これは喜劇だ!観客はただ暇をつぶすためだけに見に来ていると言ってもいい!そんな戦争モノをあたし達がやったって需要がない!」
バルクホルン「ああ、わかった、じゃあ4回…」
シャーリー「だああ!待った!直す!直すからもう追加しないでくれ!」
バルクホルン「ふっ……期待してるぞ、リベリアン」
ガチャン………
バルクホルン(……本当に期待しているんだ。リベリアン)
バルクホルン(明日も私を楽しませてくれることを…な)
バルクホルン(しかし……そんなに演劇って面白いものなのか…?)
バルクホルン(わからない…)
・
・
・
~ 3 day ~
ガチャン…
シャーリー「………おそいなあ」
シャーリー「何してるんだバルクホルン」
シャーリー「………」
シャーリー「…………」
ガチャ…
バルクホルン「すまない、遅れてしまった」
シャーリー「珍しいな、バルクホルンが遅刻するなんて」
バルクホルン「ちょっと用事があってな…早速本題に入ろう」
シャーリー「台本に目を通してくれたか?」
バルクホルン「ああ……」
シャーリー「バルクホルンの言った通り……セリフを追加したぞ」
バルクホルン「確かに3回繰り返されていた」
シャーリー「文句ないだろ」
バルクホルン「あまりにもクドいぞ、このセリフは」
シャーリー「……!(お前が追加しろと言ったんじゃないか…!)」ムカッ
バルクホルン「もう少し自然に出来なかったものか…」
シャーリー「仕方ないだろう。こうでもしないと…」
バルクホルン「ああ、いいんだ。別にクドいのは問題ない」
シャーリー「?」
バルクホルン「しかしだな」
シャーリー「なんだ」
バルクホルン「……まあいい、とにかくそのシーンを再現してくれ」
シャーリー「へ?ここで?あたし一人で?」
バルクホルン「…ああ」
シャーリー「わかったよ…」
シャーリー【私は行かなくてはなりません……ネウロイはすぐそこまで来ているんです…!】
シャーリー【ああ、行ってしまうのね…】
シャーリー【はい……ウィッチの使命はネウロイから世界を守ること…そう!世界平和のため、世界平和のため、世界平和のため!!!! 私は戦うのです!!!!】
シャーリー「くどいか?」
バルクホルン「いいから続けろ」
シャーリー【それでは……行ってまいります】
シャーリー【ああ……行かないで…】
シャーリー【大丈夫、私はすぐに帰ってくる……安心して、セカイ=ヘーワさん】
バルクホルン「ちょっとまて!!!!!!!!」
シャーリー「なんだよ」
バルクホルン「なんだよ、じゃない!これだとまるで主人公が『セカイ=ヘーワ』とかいう謎の人物を守るために戦っているように見えるじゃないか!」
シャーリー「そうだけど」
バルクホルン「ふふっ…はははは!! リベリアン、どうやら私の言ったことが理解できていないようだな…」
シャーリー「い、いやっ」
バルクホルン「セカイ=ヘーワとかいう人物を出して欲しいために私はケチをつけたんじゃない!」
シャーリー「それくらいわかってる!」
バルクホルン「じゃあなぜこんな台本を書いた…!それになんだこのセカイ=ヘーワとかいう人物は…!」
シャーリー「主人公の幼なじみという設定だよ」
バルクホルン「意味がわからない…!ラウラ・トートみたいに言うな!」
シャーリー「似てねえし」
バルクホルン「最後まで読んだが、このセカイ=ヘーワとかいう人物はこの先、全く登場しないじゃないか!」
シャーリー「それでいいんだよ!これは喜劇だ!観客を楽しませるためなら手段を選ばない!ただ一瞬の笑いだけに登場するキャラクターだって必要だ!」
バルクホルン「とにかく書き直せ!今すぐに!」
シャーリー「はいはい……」
バルクホルン「…………」
シャーリー「…………………」カキカキ
バルクホルン「……………」
シャーリー「…………」カキカキ
バルクホルン「……リベリアン…お前はどうしてそんなに台本に夢中になれるんだ」
シャーリー「……………」カキカキ
バルクホルン「………いや、今回のことだけじゃない。いつも複雑な機械やらをいじっているが…何故そんなに無駄なことに夢中できる」
シャーリー「………」カキカキ
バルクホルン「訓練もそれほど集中して取り組んでくれたらいいんだがな」
シャーリー「…………」カキカキ
バルクホルン「………ふん」
シャーリー「できたぞ」
バルクホルン「ご苦労だ」
シャーリー「どうだ」
バルクホルン「……………ふむふむ」
シャーリー「……?」
バルクホルン「…………」
シャーリー「文句ないだろ?」
バルクホルン「………何の真似だ…!」
シャーリー「え、まだケチつけるのかよ!」
バルクホルン「ああ!まだ納得出来ない!ほらリベリアン!この台本通り演じてみろ!」
シャーリー「はいはい…」
シャーリー【ああ…もう行ってしまうのね…】
シャーリー【仕方ないさ……ウィッチの使命はネウロイから世界を守ることです】
シャーリー【これもあなたの宿命なのね…】
シャーリー【世界平和のため…世界平和のため…そして世界平和のため、私は戦うのです!】
シャーリー【行かないでぇ!】
シャーリー【ああ、ドラマがいいところで終わってしまった。来週まで待てないや】
バルクホルン「ちょっとまてええええええええええええええ!!!!!!!」
シャーリー「なんだ、いいところなのに」
バルクホルン「貴様…!やはり私をおちょくっているようだな…!」
シャーリー「注文に答えただけだよ」
バルクホルン「どういうことだ!説明しろ!」
シャーリー「えっと…これはだな、唐突に戦争が始まったと見せかけて、実は主人公の見ていたドラマのワンシーンだった…という演出だ」
バルクホルン「違う!場面の説明が欲しいんじゃない!どうしてまじめに書かない!」
シャーリー「…また書き直せと言うのかよ」
バルクホルン「当たり前だ!」
シャーリー「…………」カキカキ
バルクホルン「……………」
シャーリー「…………」カキカキ
バルクホルン「…………他の奴らはどうしている」
シャーリー「……………」カキカキ
バルクホルン「………はやく台本が完成しないと、練習できないんじゃないのか」
シャーリー「…………」カキカキ
バルクホルン「私の声は聞こえていないのか」
シャーリー「よし…これでどうだ」
バルクホルン「やってみろ」
シャーリー【世界平和のため…!世界平和のため、世界平和のために戦うのです! それが私の使命なのです!】
シャーリー【それがあなたの選んだ道なのね…!】
シャーリー【そうです…!この空はネウロイのものではない!我ら人類のものだ!だから私は戦わなければならないのです!】
シャーリー【わかったわ…!いってらっしゃい…!】
シャーリー【最後にこれだけ言わせて欲しい】
シャーリー【なんです?】
シャーリー【私のことは…決して忘れないでくれ】
シャーリー【ううっ…!はい!絶対にあなたのことは忘れません!】
シャーリー【それでは行ってきます!…いざゆかん!果てなき大地へ!】
シャーリー「………あ、終わりなんだけど」
バルクホルン「……ん?なんだ今のは」
シャーリー「だから、主人公は空軍に所属していると思わせておいて、実は陸軍だったというオチなんだ」
バルクホルン「……ひどいぞそれは」
シャーリー「仕方ないだろ!もうこの程度しか思いつかないんだ!」
バルクホルン「ふざけるな!貴様はウィッチを馬鹿にするためにこの台本を書いたのか!」
シャーリー「ち、違う!」
バルクホルン「じゃあなぜこんなにクオリティの低いオチが作れるんだ!これならまださっきのほうが良かった!」
シャーリー「……え?」
バルクホルン「聞こえなかったのか!この台本にするくらいなら、さっきのドラマオチのほうが良かったと言っているんだ!しかもこれじゃあ後の場面へのつながりが不自然すぎる!」
シャーリー「バルクホルン…!」
バルクホルン「お、おい、勘違いするなよリベリアン。別に私はドラマのオチが気に入ったわけじゃない。それが一番マシなパターンだったと、私なりに思っただけだ」
シャーリー「よし!それで行く!」カキカキ…
バルクホルン「まったく…」
シャーリー「…………」カキカキ
バルクホルン「………」
シャーリー「うん、完璧だ」
バルクホルン「……書けたか?」
シャーリー「ああ」
バルクホルン「………ふむ、まあいいだろう」
シャーリー「もう問題はないな?…な?」
バルクホルン「いや…まだまだだ。このままではとても上演許可は出せない」
シャーリー「なにぃぃ!」
バルクホルン「………落ち着けリベリアン。このラストシーンなんだが、これはいかがなものか」
シャーリー「あぁ?」
バルクホルン「最後、盲目が治ったヒロインと主人公のキスシーンで終わっている。どういうことだ」
シャーリー「王道的なラストだ! 2人は見事に結ばれました、めでたしめでたし…そういうこと」
バルクホルン「これ、キスシーンは必要なのか?」
シャーリー「なに?」
バルクホルン「あのな、劇団員は皆10代の女性だろう…そんな奴らが、キスシーンを演じるなんて…これは大問題だとは思わないか」
シャーリー「ああ、思わない!全く問題無い!」
バルクホルン「いや、大問題だ!中にはルッキーニのように性の知識が無い役者だっている!見に来る客だってそうだ!幼い子供にキスシーンを見せられるか!?」
シャーリー「私なら見せるぞ!……それに、本当にキスするわけじゃない!客席にはキスに見えるよう、顔を近づけているだけだ!」
バルクホルン「関係ない!このキスシーンはカットだ!」
シャーリー「何ぃぃ!」
バルクホルン「そもそもだ!どうして原作にはないキスシーンを追加したんだ!」
シャーリー「いいだろ!この作品はパロディなんだ!ラストシーンを変更して何が悪い!」
バルクホルン「『街の灯』はなあ、刑務所から出てきたチャップリンの手を盲目が治った女性が握り、その男が自分の命の恩人だったと気づくシーンで終わっているから名作なんだ!」
シャーリー「確かにそうだが…………ん?」
バルクホルン「その先の二人の愛や、起こりうる悲劇をあえて描かずに終わるからいいんじゃないか!……勝手にキスシーンを追加しやがって……名作を汚すのもいいかげんにしろ!」
シャーリー「ちょっと待て…」
バルクホルン「何だ!」
シャーリー「チャップリンの映画は知らないって言ってたよな…?」
バルクホルン「!!」
シャーリー「何で『街の灯』のラストシーンを知ってるんだよ」
バルクホルン「いや……それはだな……その……」
シャーリー「……?」
バルクホルン「………どうでもいいじゃないかそんなこと」
シャーリー「……バルクホルン……?」
バルクホルン「とにかく…キスシーンはカットしろ、いいな」
シャーリー「はいはい…」
バルクホルン「あと……これだ」
シャーリー「げげっ、まだあるのかよ」
バルクホルン「えっと…39ページを見ろ」
シャーリー「ふぅ………」ペラペラ
バルクホルン「ここ……なんとかならんのか」
シャーリー「どこだよ」
バルクホルン「ここだここ! ボクシング対決のシーンだ!」
シャーリー「……何が問題なんだ?」
バルクホルン「問題があるという訳じゃないが……」
シャーリー「?」
バルクホルン「もっとテンポを良くしろ、これだと見ている観客が飽きる」
シャーリー「なんだと!?」
バルクホルン「いいか、こういうのはリズムが大切だ。この台本を読む限り、どうも荒削り感がある」
シャーリー「むぅ……確かに」
バルクホルン「明日までに仕上げてこい。もしまだ引っかかる表現があれば上演許可は出さない。いいな?」
シャーリー「はいはい……」
・
・
・
~ 4 day ~
シャーリー「…………今日も来てないのか」
シャーリー「……………こっちは少ない時間を削って来てやってんのに」
シャーリー「…まったく…」
ガチャ…
バルクホルン「おお、リベリアン、もう来てたのか」
シャーリー「とっくに来てる!」
バルクホルン「すまない、ちょっと用事がってな」
シャーリー「昨日もそんなこと言って…」
バルクホルン「まあいいじゃないか、早速始めるぞ」
シャーリー「で、どうだ?頼むからそろそろ舞台練習に入らせてくれ」
バルクホルン「まあ慌てるな」
シャーリー「言われたとおりに台本を直した。キスシーンは削ったし、ボクシング対決のシーンも何度もシミュレーションして仕上げたぞ」
バルクホルン「ふむ……」
シャーリー「………なあ、いいだろ?」
バルクホルン「………」
シャーリー「…………」
バルクホルン「一つ聞きたい」
シャーリー「?」
バルクホルン「どうしてお前はそんなに演劇にこだわるんだ」
シャーリー「悪いかよ」
バルクホルン「リベリアン。自分はウィッチだという自覚を持て。寄り道をしている暇など無いと」
シャーリー「寄り道じゃない。これもまたウィッチとして成すべきことの1つだ」
バルクホルン「……ふん」
シャーリー「いいから早く許可を出してくれ。もう皆は苛立ちを感じている」
バルクホルン「………」
シャーリー「それでいつも皆に謝るのは私だ。いい台本が書けなくてすまん。と」
バルクホルン「………」
シャーリー「………」
バルクホルン「………それは…悪かった」
シャーリー「…………」
バルクホルン「…でも、まだ許可を出す訳にはいかない」
シャーリー「何ぃ!」
バルクホルン「ラストシーンがまだ引っかかる」
シャーリー「なっ…!バルクホルンがキスシーンはやめろというから…!」
バルクホルン「だからといって2人が抱き合い、そのまま幕が下がって終わるというのはどうなんだ」
シャーリー「キスを妥協した結果だ…!もうコレ以上ケチ付けないでくれ!頼む!」
バルクホルン「昨日言っただろう…見に来る客の中には幼い子どもだっている」
シャーリー「…」
バルクホルン「…リベリアン、これでもまだ刺激が強い。根本的にラストシーンを変えてくれ」
シャーリー「…仕方ない…」
バルクホルン「ん?」
シャーリー「変えてやるよ…それでいいんだろ?」
バルクホルン「なんだ?やけに素直じゃないか」
シャーリー「………」カキカキ
バルクホルン「………」
シャーリー「……………」カキカキ
バルクホルン「………」
シャーリー「………バルクホルン」カキカキ
バルクホルン「なんだ?」
シャーリー「……正直、感謝している」
バルクホルン「……?」
シャーリー「……バルクホルンのお陰で、いい演劇が出来そうなんだ」
バルクホルン「どういうことだ」
シャーリー「最初は喜劇に理解を持ってくれない、カタブツ野郎だと思った」
バルクホルン「!」ムカッ
シャーリー「でも、バルクホルンの言うとおり台本を書き直していった結果…なんだか最初にあたしが書いた台本より面白くなっている気がするんだ」
バルクホルン「…そうか」
シャーリー「バルクホルンは人を楽しませる才能がある。間違いない」
バルクホルン「…勘違いするなよ。私は別に、劇を面白くするためにあーだこーだケチつけたんじゃない」
シャーリー「わかってるさ」
バルクホルン「………」
シャーリー「………」カキカキ
バルクホルン「……」
シャーリー「………書けた」
バルクホルン「見せてみろ」
シャーリー「………」
バルクホルン「………」
シャーリー「………」
バルクホルン「………これは」
シャーリー「?」
バルクホルン「ふざけているのか」
シャーリー「……!」
バルクホルン「………説明しろ、なんだこれは」
シャーリー「説明するまでもない。『街の灯』のラストシーンをそっくりそのまま写しただけだ」
バルクホルン「…何故だ」
シャーリー「仕方ないだろ!こうでもしないと納得してくれないと思ったからだ!」
バルクホルン「書き直せ…」
シャーリー「何!」
バルクホルン「こんなの認めん!いいから書き直せ!」
シャーリー「くっ…!」
バルクホルン「……フン」
シャーリー「…………どうすれば……」
バルクホルン「………」
シャーリー「……くそっ……」
バルクホルン「…………」
シャーリー「………」
バルクホルン「……………例えばだが」
シャーリー「?」
バルクホルン「……主人公がウィッチという設定を…ここで一番活かしてみてはどうだ?」
シャーリー「え?」
バルクホルン「手を取り合って、見つめ合い、微笑む。ここを『ウィッチらしいラスト』に変えてみては…」
シャーリー「どうやって…」
バルクホルン「私の提案だが…主人公がユニットを装着し、盲目が治ったヒロインを持ち上げ、飛び立ち、そして街を見下す…」
シャーリー「…!」
バルクホルン「目が見えるようになった女性は、手を優しく握られるまで相手が恩人だと気づかない…」
シャーリー「"ヒロインをお姫様抱っこしながら空をとぶ"というシーン変えてしまうわけか!」
バルクホルン「ああ、そして、目が見えるようになったヒロインが、街の絶景に感嘆し、主人公にお礼を言う…これでどうだ」
シャーリー「おお!」
バルクホルン「ま、まぁ…これを参考にするかどうかはリベリアン次第だが…」
シャーリー「いや、それで行こう!『主人公がウィッチ』という設定の必要性が、より明確になった!」
バルクホルン「………」
シャーリー「……どうした」
バルクホルン「いや、なんでもない」
シャーリー「でも、これで上演許可を出してくれるんだな!?」
バルクホルン「………」
シャーリー「な?な?」
バルクホルン「………」
シャーリー「………?」
バルクホルン「一日だけ…待ってくれ」
シャーリー「なに!」
バルクホルン「明日またこの時間にこの部屋に来い…その時、答えを出そう」
シャーリー「……わかったよ」
・
・
・
~ 5 day ~
ガチャ…
シャーリー「失礼する」
バルクホルン「おお、リベリアン、待っていたぞ」
シャーリー「………どうなんだ、許可は出せるのか」
バルクホルン「……」
シャーリー「…はやくしてくれ。もうそろそろ舞台練習に入らないと本番までに間に合わない」
バルクホルン「………」
シャーリー「オイ!」
バルクホルン「最後に1つだけお願いがある」
シャーリー「!」
バルクホルン「やっぱり私を出してくれ」
シャーリー「バルクホルン…!」
バルクホルン「無理…だよな」
シャーリー「当たり前だろ!バルクホルンの入る余地はもうないんだ!また台本を書き直せというのか!?」
バルクホルン「…………」
シャーリー「……どうして」
バルクホルン「…リベリアン、やっぱりお前はすごいやつだ」
シャーリー「?」
バルクホルン「…コレだ」
バサッ!
シャーリー「あたしが書いた台本じゃないか」
バルクホルン「一度も"物語"というものに感情移入したことのない私が…貴様の書いたこの台本を食い入る様に見てしまった」
シャーリー「?」
バルクホルン「悔しいんだ私は。とことん無茶な注文をつけて上演中止に追い込もうとしたのに…この台本はますます面白くなっていくんだ」
シャーリー「…」
バルクホルン「それでだ…一昨日、ミーナに特別許可をもらってロマーニャの市街地に出かけた」
シャーリー「…あの日か…どこに行ってたんだよ」
バルクホルン「名画座だよ。裏路地にあった小さな名画座だ」
シャーリー「何…」
バルクホルン「軽い気持ちでふと入ったのが間違いだった…あんなに自分の意識が、たった一枚の画面に持って行かれたのは初めてだ」
シャーリー「…」
バルクホルン「最初に上映したのは、チャールズ・チャップリン監督作品『街の灯』だった」
シャーリー「!」
バルクホルン「ああ、リベリアンの書いた台本はこれを元にしていたのか…でも、アイツはこれをカールスラント映画だと言っていた気がする」
シャーリー「……すまん」
バルクホルン「『リベリオン合衆国制作』ってテロップが出たぞ」
シャーリー「ああ…」
バルクホルン「…でも……なんだあれは…面白すぎるじゃないか!」
シャーリー「!?」
バルクホルン「台詞が1つも無いのに…なぜあんなに笑えたんだ!この私が!あの映画一本で!9回笑って1回泣いた!」
シャーリー「……」
バルクホルン「それだけ見て帰ろうと思ったが…次に上映したのは同じくチャップリン作品の『独裁者』だ」
シャーリー「……」
バルクホルン「あの10分以上にも渡る演説シーン!あれは最高だ!」
シャーリー「おいおい」
バルクホルン「ああ…思い出しただけで笑いがこみ上げてくる………ッ……ッ…」
シャーリー「いやいや」
バルクホルン「昨日も名画座に行ってしまったんだ!マイケル・カーティスの『カサブランカ』…ディズニー短編アニメーション『花と木』…!」
シャーリー「……」
バルクホルン「映画は最高だった…全て見終わって外に出ると、なんとも言えない清々しさが残る。まるで…異世界に飛ばされてて、そこから現実に帰ってきたような感覚…」
シャーリー「……わかるけど…」
バルクホルン「…リベリアン、すまないが私を出演させないというのなら、絶対に上演を認めない」
シャーリー「……ええ!?」
バルクホルン「気が変わったんだ。私を主人公にしてくれ」
シャーリー「ちょ…無茶苦茶すぎる!」
バルクホルン「無理なら上演は認めない」
シャーリー「くそ!初日と言っていることが間逆じゃないか!」
バルクホルン「どうした?リベリアン」
シャーリー「…………」
バルクホルン「いいだろう…飲めないというのならこちらにも案がある」
シャーリー「?」
バルクホルン「宮藤を出演させるな」
シャーリー「はああああああ!?」
バルクホルン「お前たちの演劇を宮藤と2人で観る。これが私の希望だ」
シャーリー「言ってることが無茶苦茶だ!どうしたんだ一体!?」
バルクホルン「悔しかったんだ…」
シャーリー「!?」
バルクホルン「悔しかったんだよ!!!!!!」
シャーリー「うるせっ」
バルクホルン「お前たちだけで演劇をするということが!私だけがハブられてることがなあ!」
シャーリー(自分から降りたいって言ったじゃんか…)
バルクホルン「だから無茶な注文を次から次へとつけたんだ!上演させるものかと!」
シャーリー「……」
バルクホルン「最初は本当にくだらないと思ってた…演劇なんて…馬鹿が見るものだって」
シャーリー「……」
バルクホルン「でも…どんどん完成度が高くなる台本…そして名画座で観たあの数々の名作映画!そのとき、私の気持ちは180度変わった!」
シャーリー「……」
バルクホルン「ああ、私はなんて馬鹿だったんだ…是非、この台本を、演劇としてこの目で見てみたい…それか、宮藤とともに舞台に立ちたい…そう思った…」
シャーリー「なぜ宮藤……」
バルクホルン「私一人だけ、訓練だのネウロイだの言っているのが…もう辛くなってきた」
シャーリー「……で、結局あたしはどうすればいいんだ」
バルクホルン「どうしても主人公がだめなら……どんな形でもいい…私をどこかに出演させろ…そしてこの台詞を入れてくれ」
シャーリー「?」
バルクホルン「『宮藤は…私が守る!安心しろ!宮藤!』って」
シャーリー「(うわッ痛ぇ)……わかったよ」
バルクホルン「本当か!?」
シャーリー「入れる入れる」
バルクホルン「おお!さすがリベリアン…!わかってるじゃないか!」
シャーリー「はぁ………」
バルクホルン「……期待してるぞ」
・
・
・
~ epilogue ~
シャーリー「気に入ってくれたか?」
バルクホルン「ああ!申し分ない!コレで行こう!」
シャーリー「ということは許可は…」
バルクホルン「何言ってるんだ。明日から練習だ!本番は近いんだろ!?」
シャーリー「ああ…」
バルクホルン「絶対成功させるぞ!?いいな!」
シャーリー「はいはい」
シャーリー「でも……バルクホルンてこういうのが好きだったんだな」
バルクホルン「何だ」
シャーリー「ドラマオチだよ」
バルクホルン「……ああ!この台本の中で一番好きなシーンだ。唯一の私の出番だからな」
シャーリー「ははは…………はぁ…」
バルクホルン「なんだリベリアン」
シャーリー「なんでもない、さ…はやく劇団員を集合させよう」
バルクホルン「ああ!」
完
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