勇者「俺が守ったものはこんなにも醜かったのか…!?」(155)

姫「༼;´༎ຶ ۝ ༎ຶ༽ひどいいいい」

―城下町―

勇者「…」

ガキA「うわっ、何だあのオッサン汚ねー!」

ガキB「フローシャだー!石投げろ石ー!」

勇者「…(スッ)」

ガキA「あ、あれ?当たらねえぞ?」

ガキB「もう一回だ!」

勇者「…(サッ)」

ガキA「な、何だ…?すり抜けた…?」

ガキB「お…オバケだーッ!にげろー!」

勇者「…」

術師「やれやれ…こんな所にいたんですか、勇者よ」

勇者「…。魔術師か…」

術師「姫がお探しですよ。城に戻りましょう」

勇者「…」

術師「やれやれ。まだいじけておいでですか」

勇者「…」

術師「良い大人がやさぐれていても、みっともないだけですよ」

勇者「黙れ…」

術師「おお怖い…そう睨まないで下さいよ」

勇者「…」

術師「ま、貴方の意思など私には関係ありませんがね。王の命です。早急に城までお返り願いますよ」

勇者「なぜ、そこまで俺と姫の婚姻にこだわる…」

術師「知りませんよ。私個人としても、姫は政略結婚にでも出した方が有意義かと思いますがね」

勇者「…貴様は、随分と順従な狗になったもんだな」

術師「はい。何しろ宮廷魔術師ですから」

勇者「昔は貴様を仲間だと思っていた…俺がバカだった」

術師「おや奇遇ですね。私もかつては貴方を仲間だと思っていました」

勇者「…何が貴様を変えた」

術師「私は何も変わってなどいませんよ。ただ、あなたの汚れた性癖を知って軽蔑したまでです」

勇者「貴様…まさか、知っているのか」

術師「はい。貴方が突然失踪などなさったので、力を使って真相を探らせてもらいました」

勇者「ゲスめ…!」

術師「私だって本来こんな真似はしない主義だったんですよ。貴方が突然行方などくらますからいけないんです。みんな心配していたんですよ?昔は、ね」

勇者「今は敵、か」

術師「あなたのような異常者が国を救った英雄…ましてや勇者だなどと、いやはや絶望しましたとも…!」

勇者「貴様ッ…!」

術師「おっと、やりますか?」

勇者「やはり貴様らは腐っている…この国を守る価値など無かった…!」

術師「おっと、まるで魔物のような口ぶりですね…!良いでしょう、貴方が人に仇をなすというのならば容赦はしませんよ!」

勇者「狗の分際で何をッ!」

術師「更正してさしあげますよ、異端者どの!」

―王城 姫の部屋―

ヒメ「勇者様は、まだお戻りになられないのですか…?」

従者「申し訳ございません、姫様…」

ヒメ「ああ…あの方が逆賊にかどわかされて、もう何日が経つというのでしょうか…」

従者「近衛兵どもに捜索を命じております。必ずご無事に助け出しますので、どうか我々にお任せ下さい」

ヒメ「はあ…」

―城下町 夜―

勇者「痛ッ…!くそっ、妙な土産を置いていかれた…!」

勇者の左腕には黒い魔術紋様が浮かび上がっていた。
それは血脈の鼓動にあわせて、勇者に激痛を与える。

勇者「追っ手がかかるとは…いつまでも城下に居たのはバカだったか…」

―王城 王室親衛隊、特務室―

従者「これで手当は完了です」

術師「あいたた…!どうもすみませんねえ、従者さん」

従者「貴殿にここまでの手傷を負わせるとは…さすが、勇者と呼ばれるだけの事はある」

術師「いや~、お恥ずかしい。でもまあ、一泡は吹かせてあげましたよ」

姫「…術師さま?」

従者「姫!?なぜこのような所に…!」

ヒメ「一体、何のお話ですか…?傷の手当…?一体勇者様に、何があったというのですか…?」

術師「はあ…面倒な生娘。勇者様が心配でこんな所までご足労ですか?」

ヒメ「なっ!?」

ヒメ「何を言っているのですか!?王家に対する不敬は許しませんよ!」

術師「あーうるさいねえ。何の才も無い飾り姫様が…」

術師は姫に向かって軽く腕を振った。すると、紫色の蝶が数羽、姫の周りを羽ばたいた。

ヒメ「な、何ですか…これ…は…」

従者「姫!」

姫は気を失ってしまった。

従者「姫に何を!?」

術師「そんなに怖い顔しないでくださいよ。ちょっと眠ってもらっただけです。ついでに記憶を少々消させてもらいました」

従者「…術師様。姫様に対する不敬は許せません」

術師「…ああ?」

術師は従者に向かって人差し指をさし、指先をはじくような仕草をした。
すると従者の体は何かに突き飛ばされたかのように吹き飛び、木製の事務机に激突した。

従者「がっ!?」

術師「おっとすみません!手が滑ってししまいました…嫌ですねえ。魔法の心得があると、うっかり手元も狂わせられない」

従者「痛っ…!」

術師「あなたも、目上の人相手に口なんて滑らせてはいけませんよ?何しろ私は、国を救った四傑の一人なんですから」

従者「くっ…術師殿!あなたが何を考えているのかはわからないが、姫様にだけは手を出させない!」

術師「いやはやご立派ですねえ…しかし、私は姫様に危害など加えませんよ?」

従者「いいえ…!一つだけ確かな事があります。あなたは姫様を敵視している!」

術師「ほう?魔法で私の心でも覗きましたか?いや全く根も葉も無い。とんだ言い掛かりです」

従者「根拠ならあります。…同じ、女として」

術師「…」

従者「術師殿、あなたが勇者様を追う目的は…」

術師「…あっはっは。もうやめにしましょう。何、安心してください。あなた達と事を構える気なんて全くありませんから」

従者「…」

術師「とにかく、勇者は無事に連れ帰りますとも。姫様のご要望にはきっちりお応えしますから。…おや、もうこんな時分だ…そろそろ失礼しますよ。では」

術師はきらびやかな外套を翻し、魔術で去っていった。
従者は痛む体を起こし、姫に駆け寄る。

従者「姫様…!」

ヒメ「…」

従者「姫様…姫様は必ず、この従者めがお守り致します…」

―城下の北 星降りの丘 墓標の無い墓前―

勇者「…よお、お前…」

勇者「…悪い。折角お前と作った平和だけど、俺にはクソ以下の汚物にしか思えないわ。…見ろよ、この呪い。術師の奴がかけたんだぜ」

勇者は腰に下げていた長剣を抜き、墓前の土に突き刺した。

勇者「しばらく返すわ。…答えが決まったら、帰ってくる。
もしかしたら、事と場合によっては…いや、いいんだ。とにかく、またな…またここに帰ってくるから…」

―城下の北 鉄と鍛治の街―

勇者「ちっ、まさか犯罪者に押す印と同じ物を刻まれていたとはな…危うく捕まる所だった」

左腕を捲ると、呪いの印はまだしっかりと浮かび上がっていた。

勇者「痛ッ…! 消える気配なんて微塵も無いな…早いところ奴に会わないとな」

―とある聖銀鍛治店―

カラン カラン...

娘 「は~い、どなたですか?」

勇者「よお…久しぶりだな」

娘 「えっ…勇者…!? 嘘、どうしてこの街に?」

勇者「ちょっと野暮用でな。…今、いいか?」

―黄昏時 静かな公園―

勇者「こんな無骨な街には似合わない場所だな」

娘 「おぉ~い、勇者ぁーっ!」

勇者「…来たか」

娘 「ごめんね、待たせちゃって!」

勇者「いや、こっちこそ店が忙しいのにわざわざ来てもらったんだ。悪いな」

娘 「ううん! そもそも武器なんて売れないからいいの。ここいらの魔の勢力なんて、あたし達でぶっ飛ばしちゃったじゃない」

勇者「はは、確かにそうだな…痛ッ―」

娘 「? 右腕、どうかしたの…?」

勇者「ああ…ちょっとしくじってな。ある魔女に妙な呪いをかけられちまった」

娘 「呪い!? …ちょっと、見せて!」

娘は勇者の右腕をまくった。

娘 「これは…!」

勇者「犯罪者に押される印なんだってな。妙な物こさえやがって」

娘 「これ、何日ほっといたの…!?」

勇者「ん…5日ぐらいか?」

娘 「ばか! 常人なら三日で死ぬ呪いよ、これ!」

※ 呪いが左右の腕を行ったり来たりしていますがミスです。左腕です

勇者「そりゃキツい訳だ。…じゃ、剥がしてくれ」

娘 「こんなの…あたしの手には負えないよ! 早く、街の教会で―」

勇者「教会には行けない」

娘 「どうして…? 勇者、あんたまさか―」

勇者「何もしちゃいない! 俺がそんな事をする人間じゃないのはわかるだろ…? 頼む。今はお前だけが頼りなんだ」

娘 「…」

娘 「…わかった。ただ、今すぐには無理。然るべき用意と、月の加護がいる」

勇者「ありがたい…頼んだぜ、神官サマ」

娘 「うん…任せて! じゃああたしは、早速準備にとりかかるから。
夜、街の東の森に来て。月の映る大きな泉の前で待ち合わせね」

勇者「ああ…待ってるぜ」

―東の森―

勇者(あいつ…あんな小さな体で、頑張って家の鍛治屋を継ごうとしてるんだな。
あいつだけは…このまま何事にも巻き込まれずに、平和に暮らして欲しい―)

森の道をしばらく進むと、指定された泉らしき場所に出た。

勇者「ここか…」

勇者「すごいな…場所が神聖だからか、月が何倍にも大きく映し出されている」

??「貴方のような異端者の討伐にはうってつけの場所ですねえ」

その声の直後、泉から水柱が触手のように伸び、勇者めがけて襲い掛かった。

勇者「!」

咄嗟に身をひるがえし、襲い掛かる水柱をかわす勇者。
地面に突き刺さった水の触手は、地面を深く抉って消えた。まるで水の槍だ。

勇者「術師か!?」

術師「さすがにお見事。その消耗した体でよく跳ね回る事…では、これはどうですか?」

今度は水面から三本の水柱が立ち上り、またも勇者に向かって発射される。

勇者「くそったれ…! 光の盾よ!」

勇者は飛来する水柱に向かって右手をかざす。すると光に包まれた荘厳な盾があらわれ、水柱を弾いた。

術師「まだそんな物を使う力があるとは…さすがは化け物だ」

勇者「ちぃっ…!」

勇者は泉に背を向けて走り出す。

術師「おや、逃げますか」

勇者(あいつが来る前にここを離れなければ…巻き込む訳にはいかない!)

術師「ま、逃げられませんけどね」

逃げ去ろうとする勇者の前に、巨大な光の網が立ち塞がった。

勇者「何だ…!?」

左右を見渡すと、それは視界の続く限り張り巡らされており、どうやらこの泉を囲んでいるらしかった。

勇者「はっ!」

大剣で切り払おうと試みる。

勇者「ぐぁあっ!?」

剣づたいに、強烈な痺れが勇者をおそった。

??「無駄よ。望月結界は力では破れない」

勇者「…!?」

声のした方角を見る。
泉の真ん中に、神官服姿の少女が浮いていた。

勇者「なっ…! オマエ…!?」

神官「…」

勇者「どういう事だ…? どうしてオマエが、術師の側にいる!」

術師「あなたが禁忌を侵した異端者だからですよ」

未だ姿を見せない術師の声が響く。

勇者「何だと…? まさかお前、神官に喋ったのか…!」

術師「私は真実を伝えたまでです。彼女にはかつての仲間として、伝えない訳にはいかないでしょう?」

勇者「神官…」

術師の声に空を見回していた勇者は、神官の方に向き直った。

神官「…」

勇者「まさか…お前も俺を許さないというのか」

神官「…あたし、知ってたんだ」

勇者「何…?」

神官「勇者と…その、剣士の事」

勇者「…!!!」

勇者の顔色が変わる。

術師「あっはっは! 傑作ですねえ」

勇者「そんな…知っていて、ずっと一緒に旅していたのか…!?」

神官「ごめんね、勇者…その、神官の法術には異端者を感知するものがあるから…」

勇者「あ…」

神官「黙ってるつもりだったけど…そうか、剣士は死んじゃったのか…」

勇者「神官ッ…! 剣士は…王家の奴らに殺されたんだぞ!?
お前は旅の仲間だったじゃないか! 何で…何で、あいつらの側に回るんだよっ!!」

術師「当たり前でしょう。異端を庇った者は家族まで皆殺しなんですから。今日、彼女の店にお邪魔したばかりでしょう? 何代も続く聖鍛治の家に」

勇者「術師ッ…! 貴様も、本当に友より地位が大事なのか!?
宮廷魔術師が何だよ!! お前はそんな器に収まるような小物じゃなかっただろうが!!」

術師「黙れ。この男色が」

勇者「くっ…!」

修正

× 男色
○ 男色家

神官(勇者…違う…違うよ…! 術師さんは…!)

術師「さて…お喋りは終わりにしましょうか。神官、片付けますよ」

神官「…うん…」

勇者「くそっ…くそっ!」

神官「ごめんね。ごめんね、勇者…!」

神官は水の上から銀のナイフを投擲してきた。

勇者「やるしか、ないのか…! 光の盾!」

光の盾を生成しナイフを弾こうとする勇者。

勇者「がっ…!?」

しかしナイフは盾をすり抜け、勇者の脇腹と右肩に深々と突き刺さる。

術師「あっはっは。あなたの光の盾で、本物の神官の聖銀武器を防げる訳が無いでしょう」

勇者「ちっ…ならば斬る! 神官! これは命の奪り合いなんだなッ!? なら…怨むなよッ!!」

背中に担いだ大剣を八奴に構え、神官を見据える勇者。

勇者「活殺自在…斬る! 我が敵を討て、光の…!」

剣を振りかぶり技の体制に入った勇者の体を、火花の鞭が襲った。

勇者「ぐぁぁあぁっ!?」

それは勇者のすぐ左にある木の上部から放たれていた。

勇者「術師かっ…!!」

術師「おや、見つかってしまいましたね。ではまた隠れます」

そう言うなり、外套に身を包み姿を消してしまう。

勇者(完全に対策されている…! 俺に使えるまともな飛び道具が、光の剣しか無い事を知っての立ち回りだ…!
中途半端な魔法はあいつらには通用しないし、近接をしようにも魔術師はまず捕まらない、神官のいる場所に行くまでには確実に迎撃される…どうすれば…!)

思考を巡らせている間にも、神官のナイフは飛来する。
今度は右と左の腿に、一本ずつ食い込んだ。

勇者「ぐっ…!」

術師「どうしました? 刺されるのは慣れっこではないのですか?
まさか貴方が攻めだった? いやいや、撤回します! あんな線の太い男が攻め立てる姿など、想像したくありませんから…!」

勇者「黙れ、このゲスが…っ…!」

勇者はついに片膝をついてしまった。

神官「これで、終わり…」

神官は虚空から、透き通った神々しい槍を召喚した。

神官「ばいばい、勇者…」

魔力を込め、勇者めがけて打ち出した。

勇者(あれは全てを貫く水晶の槍…駄目だ…足が動かない…避ける術が無い…)

勇者は覚悟を決め、風切り音と共に近づいて来る槍が自らの心臓を貫くのを待った。

勇者(最後は仲間に殺される羽目になるなんてな…
なあ、剣士…俺達、冒険者なんかにならないで…あのまま剣道場で暮らしてればよかったのかな…
お前の墓までもう一度戻るって約束、守れなかったわ…ゴメンな…)

勇者が死の際の祈りを済ませ。
水晶の槍が、勇者の胸を貫こうとしたその瞬間。

術師「何!?」

一つの影が木陰から飛び出し、勇者をさらっていった。

神官「えっ!? 自動追尾の水晶の槍が…そのまますっ飛んで、どっか行っちゃった!?」

術師「誰の横槍だかは知りませんが…無駄ですよ、千里眼の術で…」

だが、術師は何者の気配も感知する事はできなかった。

術師「馬鹿な!? 私に感知できぬ者など…!」

神官「術師さん、あれ!」

神官が指さした先には、“光の網”にパックリと縦穴が開いている様が見えた。

術師「馬鹿な…!? 勇者ですら断ち切れない、望月結界を破るすべなど…」

神官「こ、これってもしかして…魔力を封じる剣じゃあ…!?」

術師「ま、まさか…!」

二人は、たった一つだけ自分達の術を破る武器を知っていた。

神官「“魔断の魔剣”…け、剣士くんが…!?」

―森の獣道―

勇者「う…」

誰かに抱かれている。

柔らかい肌。

石鹸の良い香り。

飛び跳ねる度聞こえる、剣がカラカラと揺れる懐かしい音。

勇者「誰…だ…」

顔は見えないが、腰から下げた剣が見えた。

勇者(あいつの…剣…)

―森の北端―

??「…き……さ……」

勇者(誰の声だ…)

??「…きて…さ……」

勇者(俺は…神官達と戦って敗れて…誰かが、助けて…)

??「起きて…さ……」

勇者(あいつの剣が見えて… ! まさか、まさかあいつが…!?)

勇者「剣士っ!?」

従者「わあっ!?」

勇者「あ…」

従者「お、驚かさないで下さい…!」

勇者「あんたは…?」

従者「私は、貴方が救った国の姫にお仕えする従者です」

勇者「従者…そうか、俺を連れ戻しに来たか…」

従者「…いえ。私は、貴方が姫様の夫となる事を良く思っていません」

勇者「…? ならば殺す気か? どうしてわざわざ俺を助けた? 異端審問にでもかけたいのか?」

従者「いえ。私は貴殿を、国外へ追放しに来ました」

勇者「はぁ?」

従者「今後二度と姫様の前に姿をあらわさないで頂きたいのです」

勇者「あのなあ…あんたらの方が俺を追いかけ回してたんだろうが!」

従者「姫様はおそらく、貴殿の事を…心の底からお慕いになられております」

勇者「…」

従者「ですが、貴殿はどうやっても姫様を愛せぬ身。王家はあくまで“嗜好”、矯正できると考えているようですが…私はそんな馬鹿げた考えは持ち合わせていません」

勇者「お前…王家に仕える身だろ。馬鹿げたとか言うなよ」

従者「私が忠誠を誓っているのは姫様だけです!…でなければ、あんな腐った王に忠など尽くさない…!」

勇者「…」

従者「こほん、話が逸れました…とにかく、貴殿は国外にお逃げなさい。貴殿ほどの英雄が、むざむざ異端審問官などの牙になどかかる事はありません」

勇者「そうだな…この国にはもういられないしな…」

従者「これをお持ちになって下さい」

勇者「これは…あいつの墓前に備えてきた、形見の剣じゃないか」

従者「それは“魔断の魔剣”です」

勇者「何だと? 魔断の魔剣は、もっと厳つい無骨なやつだぞ? こんなスマートな長剣じゃない」

従者「やはり気づいていませんでしたか…」

従者「どうやらそれは、同じ材質で作られたスペアのようですね」

勇者「スペア…そうか、あいつはお守りだとか言って、いつも腰にこいつを下げてたっけ」

従者「性質上、見抜かれれば真っ先に破壊される武器ですからね。本物は、彼の処刑後に押収されてしまいましたが…」

勇者「…」

従者「勇者よ。…貴方は今、その強大な力とこの魔剣を以って、憎しみにかられるまま人類の敵となる事もできる」

勇者「…」

従者「だが…どうか貴方には、この国を外から変える役目を担っていただきたいのだ。」

勇者「? どういう事だ?」

従者「魔族無き今…人々は偽の平和に酔いしれ、自分の目先の欲望や自己の保身に忙しいばかりだ」

勇者「偽の平和…」

従者「貴方の功績をけなしているのでは無い。その先にある、人々の愚かしさについて言っているのだ。
例えば、自分に理解できない人種を恐れるばかりに、異端として処刑してしまうような者達のな」

勇者「…」

勇者「俺に、どうしろというのだ…」

従者「私は、内側からあの腐った王家を変える。…もし、私が失敗したならば。勇者よ、貴方にこの国を滅ぼして欲しい」

勇者「…」

従者「勝手な言い分だが…私には、わかる。貴方の心の痛みが…」

従者「おっと、そうだ…そろそろこの場所を離れないと。お二方に見つかってしまいます」

勇者「それは、そうだな」

従者「では、私の一方的な願いですが…どうか…どうか、この国を真に救ってください。
我が主、姫様…あの純粋すぎる心の持ち主を、こんな欲望の渦巻いた地で、利用されるがままにさせたくはないのです」

勇者「…考えておく。ひとつ、聞かせてくれないか」

従者「何でしょう?」

勇者「あんた、ずいぶん俺等の事を調べ回ったんじゃないか? なぜそこまでして俺を助けに来た?
俺は異端だぞ? 下手をすればお前が危ない。手を貸すかもわからない男に、そこまで賭けていたのか?」

従者「…私とあなたは、似ていると思ったから」

勇者「何?」

従者「戯れ事だと思ってください。…では!」

勇者「あっ、ちょっと…! …行っちまった…」

勇者「この国を変えろ…か…」



―十年前 道場にて―

剣士「ちっ、まいった! やっぱお前にはかなわねえな…!」

勇者「へへっ! 魔物の掃討戦じゃまだ負けるけどよ、そのうちそっちでも追い越してやるよ」

剣士「くそーっ! …なあ、勇者。お前、それだけ強かったら魔王倒せるんじゃねえか…?」

勇者「じょ、冗談キツいぜ…!」

剣士「何でも…魔王を倒せば、王様が叶えられる望みなら何でも一つ聞いてくれるらしいぜ!」

勇者「マジか!? すげ~けど、う~ん…
お前、何か叶えたい望みなんてあるのか?」

剣士「…ああ。一つ、どうしてもやりたい事があるんだ」

―北の海辺―

勇者(まさか、本当に俺達が魔王討伐に成功して…あいつが国王に向かって、同性愛の異端認定を辞めて欲しい、だなんて言い出すなんて…あの頃は、思っちゃいなかった。
俺達は多分…いや、間違いなく好きあっていたが…異端と知ってそれを口に出した事は無かったし、何か行為に及んだ事も無かった)

勇者「さて…こんなイカダで、果して漕ぎつけるかな。
海の魔物は、魔法で船を沈めに来るが…」

勇者は左腕を捲った。

勇者「こいつも何とかなったし、何が来ても大丈夫だろう。抜き身にしてなきゃ効果が無いから、最初は全くわからなかったが…こいつはやはり、すごい代物だ」

勇者は魔剣を、イカダの真ん中に突き刺した。

勇者「お守りだ…さて、食料もたっぷり積んだし。…しばらくは、のんびり波にでも揺られるか」

勇者を乗せたイカダは波に漕ぎ出し、彼を英雄と呼ばれた地からさらっていく。
彼が再びこの地に戻る時、果して人々は彼に何の称号を授けるのであろうか。





HAPPY END
(ゝω・)vキャピ

明日バイト
もう寝なきゃヤバイ
ごめん

後日まとめてやりますという甘え
マジ土下座すみません

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