姫「どこだ、ここは?」(151)
繁華街
姫「……」
ワイワイ……ガヤガヤ……
姫「……」オロオロ
姫「ここは、どこだ?」
姫「……困ったな」オロオロ
街頭テレビ『―――から来日中の姫君が迷子になったという情報がただいま入りました』
姫「とりあえず、移動してみよう」
「彼女ー、ひとり?」
姫「なんだ?見ればわかるだろう?」
「うわ、外人じゃん」
姫「誰だ?」
「日本語うまいね」
姫「まぁな」
「俺とお茶しない?」
姫「茶だと?」
「そうそう」
姫「断る。何故、貴様のような下賎な輩と茶を交えなければいけない?」
「なんだよ、こいつ……」
姫「去れ。今なら見逃してやる」
「けっ、ブスが」
姫「ブス……?お前、死にたいのか?」
「死ね」
姫「……おのれ」
「なんだよ?」
姫「私に対して何たる暴言の数々。覚悟はできているのだろうな?」
「はぁ?どっかいけよ、きめえな」
姫「貴様……!!」
「ふん」スタスタ
姫「まて……!!」
ガヤガヤ……
姫「ちっ……見失ったか……」
姫「日本という国は慎ましやかところだと聞いていたが、どうやら間違った情報のようだな」
姫「……」
姫「帰りたい……」
姫「ここは、どこだ……」オロオロ
住宅街
姫「ふむ……」トボトボ
姫「また景色が変わったな……」
姫「ここは静かで良い場所だ。先ほどのように空気や人が淀んでいない」
姫「んー……気に入った。ここに別荘でも建てようか」
猫「にゃー」
姫「ん?」
猫「にゃー」
姫「野良か。どこの国でも野に生きる者がいるのだな」
猫「にゃぁ」
姫「なんだ、纏わり付くな。服が汚れるだろう」
猫「にゃぁぁ」
姫「言葉が通じんか……しかたない。こほん」
姫「にゃぁー」
猫「にゃぁ?」
姫「にゃーにゃー(立ち去れ、弱きものよ)」
猫「にゃぁ」
姫「にゃー(分からぬのか、使えぬ駄猫めが)」
猫「にゃぁ」
姫「にゃー」
猫「にゃー」
姫「にゃぁ!!」
男「あの……」
姫「ん?」
男「すいません。俺の飼い猫になにか?」
姫「お前の猫か?」
男「はい」
姫「ならば、首輪ぐらいしておけ」
男「すいません。ほら、おいで」
猫「にゃぁ」
姫「失礼する」
男「……あの」
姫「なんだ?」
男「えっと……もしかして迷子になってません?」
姫「迷子?私が?あはははは!!」
男「……」
姫「私を誰だと思っている。高貴にして壮麗の桜花とも言われているのだ。そんな私が迷子などと」
男「でも……」
姫「しつこいぞ」
男「すいません」
姫「それではな」
男「……」
姫「……」キョロキョロ
男「あの、どこに行こうとしてますか?」
姫「どこって……あれだ……風まかせだな。うん」
男「はぁ」
姫「もうよい。去れ」
男「……」
姫「ふむ……」キョロキョロ
男「あの、道案内でも……」
姫「くどい」
男「そうですか……」
姫「さらばだ」
男「はい」
猫「にゃー」
姫「……」
姫「……」オロオロ
姫「行くあてか……確かにないな」
姫「さて、どうしたものか……」
バス停
姫「椅子があるな」
姫「少し汚れているが、ま、問題はないか」
姫「ふぅ……」
姫「つかれた……」
姫「全く……私を置いて皆はどこへ行ったのだ」
姫「……」
姫「迷子……」
姫「ふん。ないない」
姫「私は迷子など、なっていない」
姫「ん?」
ブゥゥゥン……プシュ……
姫「なんだ、この大型の車は……」
姫「ああ、迎えか」
姫「すまんな」スタスタ
バス車内
姫「ふむ……」
アナウンス『次は県立病院前。県立病院前です』
姫「……」
姫「おや?止まったな」
姫「ここで降りろということか」
姫「見知らぬ場所だが……」
運転手「あ。すいません、お金を」
姫「え?」
運転手「だから、お金を」
姫「いくらだ?」
運転手「240円です」
姫「……」
運転手「早くしてください」
姫「しばし待て……えーと……」ゴソゴソ
姫「……」ゴソゴソ
運転手「……」イライラ
姫「ふむ……ない」
運転手「え?」
姫「そもそも日本の硬貨をもっておらんかった……」
運転手「あのですね……」
姫「こまったものよぉ」
運転手「……これ、立派な犯罪ですよ?」
姫「謝罪しよう」
運転手「謝って済む問題じゃ―――」
おばあさん「ああ、ちょっと」
運転手「え?」
おばあさん「降りたいから、はやくしてほしいのですが」
運転手「あ、ああ。どうぞ」
おばあさん「じゃあ、480円払います。それでは……」
姫「ん?少し過払いではないか?」
運転手「あの……」
おばあさん「さ、降りましょうか」
姫「うむ」
運転手「……」
おばあさん「今度からはお金を確かめてから乗らないとだめですよ?」
姫「お前は、誰だ?」
おばあさん「ちょっと腰が悪いおばあちゃんよ」
姫「私の祖母か。まさかこのような国にいようとは……」
おばあさん「あはは。面白い人」
姫「身内とはいえ、礼をしなくてはな」
おばあさん「いいですよ」
姫「やらせろ」
おばあさん「そう?―――じゃあ、病院まで話相手になってもらいましょうか」
姫「よかろう。なんでも話せ」
おばあさん「綺麗な髪ね。素敵ですよ」
姫「そうだろう。手入れは欠かしていない」
おばあさん「そうですか」
姫「お前も中々、肌艶がいいな。その歳で男でも侍らせているのか?」
おばあさん「いやいや。そんなことないですよ。うちの孫がいい子でね。よく遊びにきてくれるの」
姫「ちょっと待て。孫とは私のことだろう?」
おばあさん「いいえ。もう一人の孫よ」
姫「……?」
おばあさん「うちで飼っている猫が好きでね。よく相手してもらっているのよ」
姫「そうか」
おばあさん「ちょうど、貴方ぐらいの年齢ね」
姫「私と兄妹になるのか?」
おばあさん「ちょうどそのくらいかもしれないわね」
姫「そうか。折角だ、挨拶ぐらいはしておきたいな」
おばあさん「そう。よろこぶと思いますよ」
病院
おばあさん「ありがとう。楽しかったわ」
姫「そうか」
おばあさん「それじゃあ、ちょっと行ってくるから」
姫「分かった。気をつけてな」
おばあさん「はい」
姫「……」
姫「ふむ……」キョロキョロ
姫「椅子があるな」
姫「どうせやることもない。待つとするか」
姫「……ふぅ」
幼女「……」ジーッ
姫「……なんだ?」
幼女「しゃべった……」
姫「喋るに決まっている。かかしではないぞ」
幼女「……おねえちゃん、がいこくのひと?」
姫「そうだな。日本の人間ではない」
幼女「へえ……」
姫「……」
幼女「おねえちゃん」
姫「なんだ?」
幼女「これよんで」
姫「母上がいるだろう」
幼女「いま、おいしゃさんのところにいるからだめなの」
姫「どうした?体でも悪いのか?」
幼女「うん。そうみたい」
姫「そうか。大変だな」
幼女「おねえちゃん、ごほんよんで」
姫「……」
幼女「……」
姫「昔、昔あるところに……おじいさんとおばあさんが……これはももたろうか」
幼女「しらない」
姫「日本の童話には少しうるさくてな。いいか?桃太郎は桃から生まれたとされている」
幼女「……」
姫「そもそもどうして桃から生まれたなどという奇抜な設定が生まれたのか」
姫「この桃というのは元来―――」
幼女「つまんない」
姫「なに?!」
幼女「……ふわぁ」
姫「おのれ……」
幼女「おやすみ……」
姫「あ、こら。私の足を枕にするな!」
幼女「すぅ……すぅ……」
姫「なんだこの無礼者は……」
姫「……」
母「……あら?」
姫「……」ウトウト
母「あの……」
姫「ん……?だれだ?」
母「すいません。うちの娘が……」
姫「ああ、気にするな。足が痺れただけだ」
母「ほら、起きなさい」
幼女「ん……あ、お母さん」
姫「体は良いのか?」
母「え?」
姫「大病を患っているのであろう?」
母「あ……はい」
姫「ふむ……辛いだろうが気を落とすな」
母「どうも」
幼女「おねえちゃん、バイバイ」
おばあさん「どうしたの?」
姫「来たか。ほら、帰るぞ」
おばあさん「え?」
姫「私の弟が……いや、兄か?とにかく血族がいるのだろう?」
おばあさん「ふふ、どこまで冗談なの?」
姫「冗談?」
おばあさん「一緒に帰りましょうか」
姫「ああ」
おばあさん「行きましょう」
姫「お前も病気なのか?」
おばあさん「ええ。歳には勝てないみたいで」
姫「そうか。ま、気にすることはない。傍から見れば十分に元気だ」
おばあさん「ありがとう」
姫「それにしても私の兄妹か……一体、どんな人物なのやら……」
家
おばあさん「ただいま」
男「おかえ―――うわぁ!!」
姫「お前か」
おばあさん「あら、お知り合いだったの?」
姫「少しな」
男「ど、どうして……?」
姫「で、お前、年齢は?」
男「20歳だけど……?」
姫「そうか。では、私の兄だな」
男「え?」
おばあさん「さ、あがって」
姫「にしても埃っぽい家屋だ。もう少しマシな家を建てられなかったのか?」
男「ばあちゃん、この人……」
おばあさん「おもしろい人でしょ?ふふ」
居間
おばあさん「お茶です。お口に合えばいいのですけど」
姫「頂こう」
男「……」
姫「うむ。まずいな」
男「……正直ですね」
姫「だが、温まる。これはこれで良いのもかもしれんな」
おばあさん「ありがとうございます。では、私はこれで」
男「ばあちゃん、部屋までついていくよ」
おばあさん「いいから。アンタはその人の相手をしてあげて」
男「でも……」
おばあさん「いいお嫁さんになるかもしれないよ?」
男「な……!?」
猫「にゃあ」
姫「お前もいたのか。飼い猫にしては凛々しいな」
姫「……」ズズッ
猫「にゃぁ」
姫「腹を見せてどうした?」
男「撫でて欲しいんじゃないですか?」
姫「ほぉ?」
猫「にゃあ」
姫「こうか?」グシャグシャ
猫「ふしゃーー!!」
姫「何を怒っておる?」
男「そんな乱暴にするから」
姫「猫の癖に生意気な奴だな」
男「……」
姫「兄よ」
男「え?」
姫「茶のおかわりだ。はやくしろ」
男「どうぞ」
姫「すまんな」
男「……」
姫「……あいつな。冷ませ」
男「自分でやってくださいよ」
姫「私の兄であろう?冷ませ」
男「なんで俺があなたの兄なんですか……」
姫「血縁上、そうらしい」
男「だれがそんなことを……」
姫「お前の祖母だが?」
男「……」
姫「……冷ませ」
男「はいはい……」
男「ふー……ふー……はい」
姫「おい。全然、冷めてないぞ。兄のくせに使えんな」
男「で、これからどうするんですか?」
姫「どうとは?」
男「迷子、なんでしょう?」
姫「まだいうか?」
男「だって……」
姫「確かにどこにいけばいいかわからんが、迷子ではない」
男「そういうのを迷子っていうと思うんですけど」
姫「兄よ。そうやって妹を貶めて楽しいか?」
男「いや……そういうことじゃないけど」
姫「もうよい。兄とはどんな人物かと思って期待していたのに……」
男「……」
姫「猫のほうがまだ理性的だ」
猫「にゃぁ」
姫「にゃあ?」
男「なんなんだ……この人……」
姫「……退屈だな」
男「……」
姫「なにか余興はないのか?」
男「そうだ。買い物にいかないと」
姫「買い物?」
男「ええ。ばあちゃんにごはんをつくらないと」
姫「兄は料理ができるのか?」
男「少しだけですけど」
姫「ほお……すばらしいな」
男「え?」
姫「そうかそうか……料理ができるか」
男「なんですか?」
姫「私に出来ぬことをやる。兄とはそうでなくてはな」
男「……とりあえず買い物に行ってきます」
姫「私もいく。兄よ、今まで離れていたのだ。しばらくは一緒にいてやるぞ?」
繁華街
姫「ここは嫌いだ。空気が淀んでいる……」
男「じゃあ、帰ってもいいですよ?」
姫「ならん。兄よ、これからは兄妹の時間を大切にせよ」
男「……」
姫「なんだ?」
男「別に……」スタスタ
姫「うむ……あれはなんだ……?」フラフラ
男「あ、どこに行くんですか?」
姫「この人形はなんだ?カエルのような……そうでないような……」
男「薬局のマスコットです」
姫「ほぉ……これが噂にきく招き猫か」
男「猫じゃないし……」
姫「む?あっちはなんだ?」フラフラ
男(迷子になるわけだ……)
スーパー
姫「ほお……すごいな。色とりどりだ」
男「貴女の国にはこういうところないんですか?」
姫「あるが。ここまで品物が揃って居る場所は殆どない」
男「そうなんですか」
姫「日本は豊かだな、兄よ」
男「そうですね」
姫「うむ。うまそうな果実だ。どれどれ……あーん……」
男「駄目ですよ」
姫「何故だ?日本には試食という文化があると聞いているが?」
男「それは……むこう」
姫「ん?」
「どうぞー!!食べていってくださいねー!!どうですかー!?」
姫「なるほど……向こうだな」トテトテ
男「あ、ちょっと」
姫「これをもらうぞ」
「はい!」
姫「……」モグモグ
男「もう……」
姫「うむ……悪くない」
「そちらの方もどうですか?」
姫「兄よ。あーん」
男「いいですよ」
姫「私の好意を無碍にするか?怒るぞ?怒ると私は怖いぞ?」
男「はいはい……あーん……」
姫「ほれ」
男「……」モグモグ
姫「どうだ?」
男「美味しいですね。―――すいません、これ一袋もらいます」
「ありがとうございますー」
男「―――こんなもんかな」
姫「兄よ」
男「なんですか?」
姫「これはなんだ?」
男「チョコレートですけど」
姫「よし」
男「駄目です」
姫「何故だ」
男「自分で買ってください」
姫「兄よ。妹に対して冷たくないか?あれか。ずっと離れていたから妹に思えないのだな?」
男「俺たちは別に兄妹ってわけじゃあ……」
姫「チョコレート……」
男「甘いの好きなんですか?」
姫「うむ。美味しいな!」
男「……どうぞ。でも、一個だけですからね」
繁華街
姫「……」モグモグ
男「美味しいですか?」
姫「この国のチョコは美味だ。口内に残る香りが鼻腔を通るときが最も至福を感じることが出来る」
男「よかったですね」
姫「ああ。私は今、幸せだぞ。兄よ」
男「はいはい」
姫「……」モグモグ
男(この人、これからどうするんだろう……?)
姫「うまいなっ!」
街頭テレビ『―――速報です。迷子になった姫君に関し有益な情報を提供してくれた方に100万円の報奨金を出すと発表がありました』
家
男「ただいまー」
姫「戻ったぞ」
おばあさん「おかえり」
男「今、ごはん作るから」
おばあさん「悪いね」
姫「兄よ。手伝えることはあるか?」
男「え?」
姫「なんでも言ってくれ。妹は兄に従順であるべしと書物に書いてあった」
男「そうなんですか……じゃあ……」
姫「うむ」
男「野菜でも切ってもらえますか?」
姫「いいだろう。任せろ」
男「お願いします」
姫「よしよし」
キッチン
姫「はぁ!!!」ダンッ!!
男「あぶない!!」
姫「なんだ?」
男「こうやって切るんですよ……」トントン
姫「ふーん」
男「いや……ふーんじゃなくて」
姫「わかった」
男「本当ですか?」
姫「こうだな?」ダンッ
男「そんな力いっぱいに切ったら駄目ですって!!」
姫「そうはいうがな……」
男「包丁、触ったことないんですか?」
姫「ないぞ」
男「……」
居間
おばあちゃん「いつも悪いね」
男「いいから。さ、食べよ」
おばあちゃん「ええ」
姫「大母上よ。聞いてくれ。この野菜は私が切ったのだ。すごいだろう?」
おばあちゃん「ええ。すごいわ」
姫「ふふん」
男「形も大きさもバラバラですけどね」
姫「口に入れば同じだろうに」
男「そうですかね……」
おばあさん「そういえば、今日はどうするのかしら?」
姫「え?」
おばあさん「お家に帰る?」
姫「いや。折角こうして会えたのだ。私は兄といるぞ」
男「え……」
夜
おばあさん「じゃあ、貴女はこの部屋を使ってね」
姫「しかし、兄と同室がいいのだが」
おばあさん「あの子、照れ屋だから無理よ」
姫「そうか。なら、仕方ないな」
おばあちゃん「おやすみ」
姫「ああ、ゆっくり休め」
おばあさん「はい。おやすみ」
姫「……」
姫「このように狭い部屋があろうとはな」
姫「窮屈だが悪くない」
姫「それにしても……」
姫「あいつらはちゃんと私を迎えにきてくれるのだろうな……?」
姫「兄とここで暮らすのもいいが、自国のこともあるからな……」
深夜
姫「……」ムクッ
姫「……」フラフラ
姫「トイレはどこだ……?」
姫「……」フラフラ
男「あ、どうしたんですか?」
姫「トイレはどこだ、兄よ」
男「えっと。突き当りを左にいったところです」
姫「わからん。案内しろ」
男「なんで……」
姫「いいから」
男「わ、わかりました」
姫「……」ギュッ
男「え……?あの、服を引っ張らないでください。伸びますから」
姫「いいから、案内しろ。この廊下は寒いし暗い。道に迷ってしまいそうだ」
トイレ
姫「ここか」
男「それじゃあ」
姫「うむ。ご苦労」
男「……」
ガチャ……バタン
姫「ふぅ……」
姫「……」
姫「この便座……温かいな」
姫「どういうからくりだ……?」
姫「中々どうして落ち着くではないか……」
姫「ほぅ……」
姫「なんだ?ビデ……?」
姫「なんとも卑猥なボタンだ」
姫「……」ポチッ
部屋
男「あの人、普通じゃないよな……」
男「なんか上品だし……口は悪いけど……」
男「浮世離れしているところもあるし」
男「……ま、可愛いからいいけど」
ひゃぁぁぁぁぁ!!!!!
男「!?」ビクッ
男「なんだ……?」
ドタドタ!!
姫「あにぃ!!どこだぁ!!でてこい!!」
男「え……?」ガチャ
姫「あに!!」
男「どうした―――うわぁ!!!下、下、はいてください!!」
姫「なんだあの装置は!?いきなり辱めにあったではないかぁ!!」
男「と、とにかく下を!!!」
姫「日本の文化は気が狂っているぞ」
男「しりません」
姫「全く……もうお嫁にいけんぞ」
男「なんで……」
姫「まさか局部に放水されるとは……」
男「……」
姫「兄よ。よければ、大事になる前に私を娶るつもりはないか?」
男「ないです」
姫「そうか」
男「はやく部屋に戻ってください」
姫「兄は私のことが嫌いなのか?今日一日、まともに話してくれんではないか」
男「いや……そういうことじゃなく……ただ慣れてないだけです」
姫「なれていない?」
男「その……女性と話すのが」
姫「なんだ。そうか。だが、私は妹だ。気兼ねなく話しても良いのだぞ?」
男「はいはい」
姫「では、失礼する」
男「あ、そうだ」
姫「なんだ?」
男「ばあちゃんの付き添い、ありがとう」
姫「なんだ、そのことか」
男「ばあちゃん、楽しかったって」
姫「喜んでくれてなによりだ」
男「おやすみなさい」
姫「うむ。よい夢を」
男「……」
男「ちゃんと説明しとかないと、いつまでも兄だと思われるな……」
男「……」
男「悪い気はしないけど、やっぱり言わないとな……」
自室
姫「ふわぁ……もう寝ようか」
猫「にゃあ」
姫「お前も来たか……」
猫「ふにゃ……」
姫「よいぞ。ともに寝るか」
猫「にゃぁ」
姫「よし……」
姫「ほら、こっちにこい」
猫「にゃあ……」ヒョコヒョコ
姫「おやすみ……」
猫「にゃあ……」
翌日
テレビ『では今朝のニュースです』
姫「ほう、今日も病院にいくのか?」
おばあさん「ええ」
姫「付き合おう」
おばあさん「いいのよ。家に居てくれて」
姫「気にするな」
おばさん「そう?」
姫「兄も行くだろ?」
男「え?」
姫「いくだろ?」
男「あ、うん」
おばあさん「うれしいわ」
姫「大母上のためだ」
男「……」
おばあさん「それじゃあ、用意してくるわね」
姫「よかろう」
男「……あの」
姫「なんだ、兄よ?」
男「えっと……言っておきたいことがあるんです」
姫「なんだ?申してみよ」
男「俺たちはその……兄妹じゃない」
姫「え?」
男「似ても似つかないし。きっと貴女が勘違いしているだけだと思う」
姫「父上は何人も浮気相手がいたから、その浮気相手との間に生まれたわけでもないのか?」
男「違うとおもう。うちの両親は随分前に死んだから」
姫「ふむ……」
男「なに?」
姫「兄よ。妹が有能だからと否定することはないだろう?」
男(駄目だ……決定的な証拠でもないと信じてくれそうにないな)
病院
おばあさん「それじゃあ、行ってくるわね」
男「うん」
姫「ゆっくりでいいぞ」
男「さてと……」
姫「あ」
幼女「おねえちゃんだ」
姫「お前も来ていたか」
幼女「うん」
男「知り合いですか?」
姫「膝枕をしてやった仲だ」
男「膝枕?」
幼女「おねえちゃん、ごほんよんで」
姫「まかせる」
男「い、いやですよ」
姫「しかたない兄だ」
男「貴女が頼まれたんでしょう?」
姫「そうだが」
幼女「ごほん……」
姫「はいはい……えーと……これは……?」
幼女「しらない」
姫「むぅ……」
男(意外と面倒見がいいのかな……?)
姫「えーと。昔々、あるところにおじいさんとおばあさんが……ってこれ桃太郎ではないか」
幼女「うん」
姫「何故、同じ奴をもってくる。他のにしたらどうだ?」
幼女「だって。おねえちゃんよんでくれなかったもん」
姫「解説をしようとしたらお前が寝てしまったのだろうが」
幼女「よんでー」
姫「よかろう。今度こそ私の講義を最後まで聞くのだぞ」
姫「よいか。桃太郎というのはだなぁ―――」
男「ちょっと」
姫「兄も聞いていくか?」
男「いや。その本にある文章を読んであげればいいじゃないですか」
姫「だから、私が詳しい背景を交えてだな」
男「そんなの誰も聞きたくないですって」
姫「なんだと……?」
幼女「……」コクコク
姫「じゃ、読まん」
幼女「え……」
姫「私のやりかたに文句があるのなら読まん」
男「我侭だ……」
幼女「……」ジーッ
姫「……」
姫「……おじいさんは山に芝刈りに、おばあさんは川に洗濯にいきました」
姫「犬がいいました。桃太郎さんお腰につけた―――」
幼女「すぅ……すぅ……」
男「寝ちゃいましたね」
姫「こやつ……」
男「貴女の声が素敵だからですよ」
姫「なんだと?」
男「優しいというか、落ち着くというか、とにかくずっと聞いていたくなる声ですね」
姫「そうなのか?そんなこと言われたことなかったな」
男「そうなんですか?」
姫「ああ。演説をすることもあったが、声を評価されたりはなかった」
男「演説?」
姫「うむ」
男「それって―――」
母「あ、また」
姫「おお。こやつの母上か。また、世話してやったぞ。感謝せよ」
母「どうもすいません」
男「でも、今は気持ちよさそうに寝てますから……そっとしておきましょうか」
姫「なに?兄よ。この娘は今、私の足を枕にしておるのだぞ?」
男「いいじゃないですか」
姫「しかしだなぁ……」
母「あの、よければ少しの間だけ寝かせてあげてください」
姫「何故だ?足が痺れて大変なのだが……」
母「えっと……それはこの子が疲れているから」
男「疲れている?」
母「ええ……」
幼女「すぅ……すぅ……」
姫「どういうことだ?」
母「この子、体が生まれつき弱くて、こうして病院にも頻繁に来ているんです」
男「そうだったんですか」
姫「待て。母上のほうが病を患っているのではないのか?」
母「ええ。私も体が弱いので、よく病気にはなります。でも、この子に私の駄目な部分が似ちゃったみたいで」
姫「そうなのか」
母「少し歩いただけで息切れしたりするし……」
姫「治るのか?」
母「先天的なものですから、難しいかと」
姫「ふむ」
男「すいません。そんな話を……」
母「いいえ。気にしないでください」
幼女「ん……あれ?お母さん……?」
母「あ、起きた?」
幼女「うん……」
姫「はよ頭をどけろ。痺れてかなわん」
幼女「あ、ごほんは?」
姫「続きはまた今度だ」
幼女「うん。やくそくだよ、おねえちゃん?」
おばあさん「おまたせ」
男「大丈夫だった?」
おばあさん「ええ」
姫「よし。帰るか」
おばあさん「ごめんなさいね」
姫「構わん」
男「……」
姫「なんだ、兄よ」
男「いえ……」
姫「ふむ。では買い物でもして帰ろうか」
おばあさん「そうね」
男(やっぱりこの人、普通じゃないな……)
テレビ『―――続いてのニュースです』
男「あ、ちょっと待ってください!!」タタタタッ
テレビ『先日から行方不明になっている姫君に関しての情報は―――』
家
姫「……」モグモグ
男「チョコレート、美味しいですか?」
姫「うむ」
男「あ、そういえば」
姫「なんだ?」
男「着替え……」
姫「心配いらぬ。下着は大母上のを―――」
男「だめでしょそれぇ!?」
姫「何故だ?」
男「なんかこうビジュアル的に……」
姫「この国の下着は素材が素晴らしいな!」
男「想像しないようにしないと……」
姫「ふふん」モグモグ
男「……」
姫「……兄よ」
男「んー?」
姫「暇だな」
男「そうですね」
姫「兄よ。でかけるぞ」
男「え?」
姫「支度せよ」
男「ちょっと、どこに行くんですか?」
姫「いいからこい」
男「もう……ご飯の買出しは済んでるんですよ?」
姫「暇なのであろう?では、兄として妹の我侭に付き合うのが筋だ」
男「なんて横暴……」
姫「行くぞ」
男「わかりました」
姫「……ふむ」
繁華街
姫「よし」
男「どこに行くんですか?」
姫「こっちだ」
男「はい?」
姫「……」トテトテ
男「……?」
姫「兄よ、あったぞ!!カエルだ!!」
男「薬局……?」
姫「失礼するぞ」
「いらっしゃいませ」
男「ここに何の用が?もしかして……あの、生理用品とか?」
姫「兄よ。デリカシーの欠片もないな」
男「だって……」
姫「もうよい。兄は黙っておれ」
姫「おい」
「なんでしょうか?」
姫「万病に効く薬はあるか?」
「は?」
男「ちょっと!何を言ってるんですか!!」
姫「ええい、うるさい奴だ」
男「いや、万病に効くとか意味分かりませんから」
姫「ここは薬屋なのだろう?それぐらいおいているはずだが?」
「ええと、風邪薬ですか?」
姫「違う。なんにでも効く薬が欲しい」
「はぁ……?」
姫「ないのか?」
男「あるわけないでしょ?」
「総合剤ってことでいいんですかね?それならありますよ」
姫「ほら、あるではないか。兄よ、会計を頼むぞ」
男「でも、どうして?」
姫「うむ。あの娘と母上にせめてもの贈り物だ。何度も病院通いなど辛いであろうからな」
男「あ……なるほど」
姫「だから、頼むぞ。私は生憎とお金がないからな」
男「家に帰ればいいのに」
姫「私の家はこの国にはない」
男「警察、いきます?」
姫「私はなにも悪いことはしていない」
男「でも……」
姫「それに私は兄ともう少し一緒に居たいからな」
男「……」
姫「どうした?」
男「い、いえ……なんでも……」
姫「そうか?」
男(一瞬、どきってした……)
家
男「―――それじゃあ料理の支度をします」
姫「よしきた」
男「貴女は座っててください」
姫「なんでだ!」
男「危なっかしいからです」
姫「兄よ!!拒絶するのもいい加減にしろ!!」
おばあさん「ふふ……」
テレビ『では、続いてのニュースです』
おばあさん「あら……?」
テレビ『昨日から行方が分からなくなっている姫君は、今日県立病院でそれらしい人物を見たと目撃情報がありました』
おばあさん「ねえ、ちょっと」
姫「どうした?」
男「え?」
テレビ『三日後には日本国民へ向けての親和演説を控えており―――』
おばあさん「これ……貴女じゃない?」
姫「そうだな」
男「……」
姫「なんだ?」
男「お姫様……?!」
姫「うむ。だが、兄よ。気後れすることはない。身分は違えど血を分かつ者ではないか」
男「いやいや」
おばあさん「お姫さまだったのね……」
姫「知らなかったのか?大母上のくせに」
おばあさん「ごめんなさい」
姫「まあよい。私は気にしない」
男「あの……今から連絡して貴女のことを迎えにきてもらうようにします!!」
姫「こらこら。兄よ。いったであろう?私は兄ともう少し一緒にいたいとな」
男「だけど……!!」
姫「焦らなくても向こうも血眼で捜している。居場所が分かるのも時間の問題だ」
おばあさん「いいの?」
姫「この薬も娘に渡したいし、約束もある」
男「でも、いろんな人に迷惑がかかってるんじゃないんですか!?」
姫「それは……」
男「やっぱり連絡を……」
姫「兄よ」
男「……」
姫「妹としての最後の我侭をきいてくれないか?」
男「……」
姫「頼む」
男「……わかりました」
姫「ありがとう、兄よ」
男「だけど、薬を渡したらすぐに連絡しますからね」
姫「うむ。了承した」
夜 廊下
姫「……」トテトテ
男「なにを?」
姫「おお、兄か」
男「……」
姫「明日、私はもうここに帰ってこれない」
男「……そうですね」
姫「そう思うと少しばかり感慨深い」
男「あの……」
姫「すまなかったな、兄よ」
男「え?」
姫「よくぞ一日だけとはいえ兄として振舞ってくれたな」
男「それは……」
姫「もう会うことはないと思うが、元気でな」
男「うん……」
姫「さてと、もう寝ようか」
男「あの」
姫「ん?」
男「俺も妹ができたみたいで嬉しかった。我侭すぎるのが玉に瑕だったけど」
姫「言ってくれるな」
男「本当のことですよね?」
姫「そうか?意識したことがないからなぁ」
男「本当に……」
姫「病院……一緒にいってくれるか?」
男「はい」
姫「そうか。では明日、病院を出るまでは兄妹だな」
男「そうなりますね」
姫「よろしく頼むぞ、兄よ」
男「わかりました」
翌日
姫「では行ってくる」
おばあさん「気をつけてね」
姫「心配はいらない。兄がいるからな」
男「まあ、はい」
おばあさん「全然似てないけど、本当に兄妹みたいね」
姫「当然だ。兄妹だからな」
男「ばあちゃん、お昼には帰ってくるよ」
おばあさん「わかったわ」
男「じゃ、いきましょうか」
姫「うむ!急ぐぞ!!」
男「あ、ちょっと腕を引っ張らないでください!」
姫「いそぐぞー!」
病院
姫「さてと……」キョロキョロ
男「いないみたいですね」
姫「そうだな……」
男「今日は来てないんじゃ?」
姫「そういう可能性もあったか……」
男「そりゃあ……」
姫「ふむ……」トテトテ
姫「おい」
看護師「なんですか?」
姫「いつもあそこで絵本を抱えていた少女がいただろう?今日は来てないのか?」
看護師「ああ、あの子なら……」
姫「なんだ?」
看護師「昨日、緊急入院になったんです」
姫「入院?」
病室
姫「―――邪魔するぞ」
母「あ……」
男「すいません」
母「いえ……」
姫「何事だ?」
母「昨日、突然高熱が出て……」
姫「死んでないのか?」
母「今は寝ています」
姫「……」
幼女「すう……すぅ……」
姫「では、この薬を」
母「え……?」
姫「目が覚めたら飲ませてやってくれ。きっと元気になるぞ」
母「ありがとう……ございます……」
母「すいません、少しお手洗いに」
姫「うむ」
母「失礼します」
男「残念……でしたね」
姫「母上に渡せただけでもよかろう」
男「……」
姫「絵本を読む約束は……どうやら果たせそうにないな……」ナデナデ
幼女「すぅ……すぅ……」
男「あの」
姫「なんだ?」
男「約束果たすまで居ましょう」
姫「え……?」
男「約束したのにそれを守らないのは一国の姫君としてはどうでしょうか?」
姫「うむ。兄よ。流石だな。確かに一度交わした約束を完遂できなくては恥ずかしくて演説もできない」
男「なら、連絡するのはこの子に桃太郎を読ませたあとでってことで」
母「―――今日はありがとうございました」
姫「気にするな。また来る」
母「きっと娘も喜びます」
姫「うむ」
男「ではまた」
母「はい」
姫「―――ふふん、兄もいいところがあるな」
男「まあ、あの子のためでもありますから」
姫「そうか……優しいな」
男「そんなこと……」
姫「私の兄が優しくてよかった。誇りに思うぞ」
男「だから……」
黒服「―――姫様」
姫「あ……」
黒服「お怪我はありませんか?」
男「え?」
黒服「君は?」
男「あの……」
姫「こやつは私に良くしてくれた。なにもされてはおらん」
黒服「しかし……」
姫「くどい」
黒服「……わかりました」
姫「―――というわけだ。ここまでだな」
男「え……」
姫「楽しかったぞ?」
男「ちょっと約束はどうするんですか!!!」
姫「考えておく」
男「そんな……!!」
黒服「では行きましょう」
姫「うむ」
車内
黒服「姫様、本当に何もされていませんか?」
姫「だから、されておらんと言っておるだろう」
黒服「なら、いいのですが」
姫「ふん……」
黒服「二日後の演説に間に合ってよかったです。あれはわが国と日本を繋ぐ演説になりますからね」
姫「そうか」
黒服「……あの男は何者だったのですか?」
姫「私に尽くしてくれた者だ。あとで謝礼を送っておけ」
黒服「わかりました」
姫「……」
姫「楽しかったぞ……兄よ……」
姫「さよなら……」
家
男「ただいま……」
おばあさん「おかえり」
男「……ごはん、つくるよ」
おばあさん「そうかい」
男「……」
おばあさん「……帰ったのかい?」
男「うん……」
おばあさん「そう……」
男「……」
おばあさん「少し寂しいね」
男「一日だけだったのにな」
おばあさん「そんなものだよ」
男「そっか」
二日後
おばあさん「ほら、中継がはじまったよ」
男「あ、うん」
姫『親愛なる日本の皆様へ―――』
男「……」
おばあさん「やっぱり衣装が違うと見違えるねえ……」
男「うん……」
姫『わが国と日本の架け橋をなるべく、私はやってきました』
男「さてと、お茶でもいれるよ」
おばあさん「お願いね」
姫『これからは手を取り合い、ともに繁栄を―――』
病室
幼女「あ、お姉ちゃんだ」
母「ほんとね」
姫『―――以上で私の演説を終了します』
パチパチパチ
ガラッ
姫「ふう……よかった。起きていたか。寝ていれば洒落にならなかったぞ」
幼女「え?」
母「あ、あなた!?」
黒服「姫様……」
姫「外に出ておれ」
黒服「これがバレたら……」
姫「分かっている。だが、約束を果たすのもまた姫君としての務めだ」
黒服「分かりました。ですが、20分だけですよ」
姫「うるさいな。分かっているといっているだろう」
幼女「おねえちゃん……」
姫「生放送の演説で桃太郎でもよかったのだが、どうしてもこの国の偉い奴らが許してくれなくてな」
幼女「……」
姫「とりあえず、演説は録画したものを放送することにした」
母「でも……これ、生って……」
姫「そんなもの嘘だ。勿論、公に知られてはただ事ではないが」
母「そんなことまでしてもらっては……!!」
姫「気にするな。人一人の約束も守れず、親和を語るなど私にはできない」
母「……」
幼女「おねえちゃん!」
姫「時間がない。読むぞ」
幼女「うん!」
姫「寝るなよ?」
幼女「寝ない!」
姫「よしっ。いい返事だ。今、読み聞かせてやろう」
姫「―――さるがそこで言いました。桃太郎さん、おこしにつけた……」
幼女「すぅ……すぅ……」
姫「こいつぅ……!!」
母「す、すいません!」
姫「仕方ない。続きはまたの機会だな」
母「え?」
姫「では、これで失礼する」
母「あの……本当になんと言ったらいいか……」
姫「私が勝手にしたことだ。気にすることはない」
母「あと……お薬も大事に使わせていただきます」
姫「ああ、存分に使え。賞味期限とかあるかもしれんから早めに飲めよ?」
母「ふふ……」
姫「では、さらばだ」
母「はい」
幼女「すぅ……おねえちゃん……つづきぃ……すぅ……」
車内
黒服「姫様、もう無茶なことはおやめください」
姫「なあ。一つ、私が朗読するから感想を聞かせてくれ」
黒服「え?」
姫「いいか、いくぞ?」
黒服「あの……姫様……?」
姫「感想をいうだけでいいのだ。簡単だろう」
黒服「まぁ……はい」
姫「いいな?読むぞ?」
黒服「は、はい」
姫「ごほん」
姫「―――昔々あるところに」
姫「―――めでたしめでたし」
黒服「……」
姫「どうだ?」
黒服「演説のときにはない声質ですね」
姫「具体的には?」
黒服「えっと、透明感があって、耳を撫でる風のような心地のよい読み方です」
姫「そうか」
黒服「あの……それがなにか?」
姫「私の朗読を何かに録音しろ」
黒服「は、はい?」
姫「ある男に言われたのだ、君の声はずっと聞いていたくなる声だとな」
黒服「そ、それで?」
姫「ならば、私の声を聞かせてやろうと考えた」
黒服「え?」
姫「CDにするんだ。私の朗読をな。―――そうしたら、あの娘との約束も同時に叶うかもしれん」
半年後
ピンポーン
母「はーい」
男「どうも」
母「あ、どうしたんですか?」
男「これ、あの子に渡そうと思って」
母「それは……」
男「もしかして……もう買いました?」
母「ええ。娘に懇願されて」
男「ですよね……」
幼女「おにいちゃんだ。こんにちは!」
男「こんにちは。あのCDもう聞いた?」
幼女「うん!おねえちゃんの声、いつでもきけるよ!!」
男「そうだな」
母「素敵ですよね。私もファンになりました」
住宅街
男「……俺ももう一度、聞こうかな」
男「また新作出るって言うし……次は赤鬼と青鬼だっけ……?」
男「……」
姫「よ」
男「うわぁ!!!」
姫「兄よ、なにを驚いておる」
男「な、なな……!!」
姫「うむ。実は別荘を設けにきたのだ」
男「え?」
姫「ここに来たときに、別荘をここに建てようと思っていたからな。うむ。兄と近所になれて私もうれしいぞ」
男「あ、そ、そうなんだ……」
姫「年間50日ぐらいは来日するつもりでいる。その都度、妹の面倒を見るのだぞ?」
男「……わかった」
姫「それはそうと、私のCDは聞いてくれたか?聞いてないならその口にCDをねじ込んでやるぞ?」
男「勿論、聞きました。何回もリピートして」
姫「そうか」
男「あの子も何度も聞いているみたいです」
姫「おぉ。では約束は果たしたか。よかったよかった!」
男「でも、やっぱり直接聞きたいと思いますよ。今度、機会があれば読んであげてください」
姫「そうだな。別荘で朗読大会でも開こうか」
男「それいいですね」
姫「うむ。そのときは兄も一緒だぞ?」
男「勿論行きます」
姫「そうだ。再会したときにこれを言おうと思っていたのだ」
男「え?」
姫「―――ただいま、兄上」
男「うん、おかえりなさい」
おしまい。
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