咲「死者は、誰——?」 (92)
SS速報には初スレ立てです。
よろしくお願いします。
咲-Saki-キャラでAnotherみたいなスレです。
※グロありエロなし
たくさん死にます。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1365069282
(あのさ、サキ、って知ってる?)
(サキ? 誰、それ?)
(十年前のインターハイで、個人戦の決勝前に死んじゃった選手がいたんだって)
(それでね、その子プロチームにも目を付けられてたくらい強かったの)
(かわいそうね……)
(話はそれだけじゃなくてね?)
(……何?)
(それから、何年かに一回、あるらしいんだ)
(ある……って、何が?)
(いるはずのない人間が、個人戦にいるの)
(……何それ、どういう事?)
(死者が、個人戦に紛れ込むんだって)
(…………)
(そしてその年の個人戦の期間中には)
(人が、死ぬ)
インターハイ個人戦前日
咲(団体決勝では、お姉ちゃんとは戦えなかった)
咲(個人戦を勝ち進めば、絶対に戦うことになる)
咲(そうしたら、きっとまた……)
久保「お前の最後のインターハイで、まさかこんな事になるとは……」
美穂子「いえ、仕方のないことです」
久保「すまない、福路……私はコーチ失格だ」
美穂子「コーチの責任じゃありませんよ」
久保「しかし……」
美穂子「大丈夫です」
美穂子(上埜さん、ごめんなさい……)
和「咲さん、リーグ表が出ていましたよ」ハイ
咲「ありがとう、和ちゃん」
咲(お姉ちゃんは違うブロックか……)
咲(和ちゃんは宮守の白い人と同じとこで……あれ?)
咲「福路さん、風越の福路さんは?」
和「え?」
咲「風越の部長の福路さん、リーグに載ってないよ」
和「…………誰ですか? その人」
和「風越の部長は池田さんですし、長野の県代表は私達二人じゃないですか」
咲「な、何言ってるの?」
和「……開会式が始まってしまいます、行きましょう?」
咲「……う、うん」
ですが、開会式にも、福路さんが姿を見せることはありませんでした。
和「私達の対局は午後からですね。私は雑誌のインタビューがあるのですが」
和「咲さんはこれからどうします?」
咲「えっと」
咲(和ちゃん、なんだか怖い……)
咲「……私は散歩でもしようかな。東京見物もできてないし」
和「そうですか……咲さん」
咲「な、何?」
和「最後に一つだけ」
和「『いないもの』に関わるのはやめてください」
和「それではまたお昼に」タッタッタッタッ
咲「和ちゃん……」
咲(一体どうしちゃったんだろう……和ちゃんの様子もおかしいし…………?)テクテク
美穂子「…………」
咲「あ、あれは……!」
咲「福路さん!」
美穂子「宮永さん……これ、大丈夫なのかしら……」
咲「それ、どういう……」
美穂子「帰りなさい」
咲「えっ……?」
美穂子「もう、始まっているかもしれない」
咲「始まってるって……」
久「咲!!」
咲「部長……」
久「試合が始まるわ。会場に戻りなさい」
咲「で、でも」
久「戻りなさい」
久(今晩には詳しく教えてあげるから、今は我慢して)コソッ
咲(……?)
久「インターハイの、サキ。インハイ常連校の中では、結構有名な話なんだけどね」
咲「私と、同じ名前……」
まこ「咲は昨日おらんかったけんのう」
久「和やみんなには話したんだけど、聞いてくれる?」
「十年前のインターハイにね、あなたや、白糸台の大星さんのように」
「いや、もっと強かったかもしれない、一年生の選手がいたの」
「ヨミヤマサキ、確か関東圏の選手だったわ」
「でもね、その子は個人戦の決勝戦を前に、死んでしまったの」
「列車事故よ。会場へ向かう途中の駅で、ホームから落ちて」
「それからね、数年に一回。ある現象が起こるようになった」
「個人戦のトーナメントが、一つ足りなくなるの」
「本当はいないもの、『死者』が紛れ込むから」
「そして、死者が紛れ込んだインハイは、死に近くなる」
「つまりは、人が、死ぬ」
「だから、協会側は対策を立てなければならなくなった」
「紛れ込んだ『死者』の分の辻妻を合わせるために、『いないもの』を指名する」
「『死者』の代わりにその人が消えるの」
「その人は個人戦期間中、存在自体をいないものとされる」
「それが、今年は美穂子だったの」
咲「そんなっ……」
久「酷い話でしょう? でもね、咲」
久「人が、死ぬのよ?」
咲「っ……」
和「私もそんなオカルトはありえないとは思っているのですが……」
和「偶然では処理できないほどの死者・負傷者が、九年前と八年前、五年前、そして三年前と一昨年に出ているんです」
和「それも、個人戦の四日間だけに集中して」
咲「それじゃあ、インターハイを取りやめれば……」
和「……あくまで事故とインハイ自体の関係性はないですから、無理でしょう」
久「世界の中でも強豪国である手前、インハイをやめることは不可能に近いわ。それに」
まこ「実際に個人戦を初日で取りやめたんじゃ、七年前はの。そうしたらな」
久「個人戦出場予定だった高校の帰りの飛行機の墜落事故」
咲「それって、高校の敷地内に墜落した」
久「そう。それもインハイの代表校」
咲「…………」
まこ「……おい、そういえば優希と京太郎はまだ帰っとらんのか?」
久「そういえば遅いわね……まさかとは思うけど」
咲(優希ちゃん……京ちゃん……!)
優希「ただいま帰ったじぇー!」
京太郎「遅くなってすみません」
咲「よかった……」ホッ
久「さあ、試合は明日もあるんだし、ここらへんで解散にしましょう」
久「あなた達は長野の代表でもあるんだから」
久「まずは目の前の試合に集中すること」
「風越のコーチが自殺したらしいが」
「個人戦を中止するわけにもいかないだろう」
「くれぐれも内密に頼む」
「選手の間には口止め、個人戦は続行する」
「死者を見つけて、死に還さなければ」
???「聞いてしまった……」
翌日
個人戦二日目
Aブロック第二試合
宮永咲
本内成香
薄墨初美
上重漫
咲「自模、嶺上開花」
成香(清澄の大将は調子が悪そうですね)
咲(福路さん……)
ガタッ
咲「ひっ……」
成香「停電……?」
初美「一時中断ですねー」
漫「何やしゃーないですね」
私は、停電自体は馴れているつもりでした。
県決勝でも、衣ちゃんの力により、停電が起こったのだから。
でも、何故か妙な胸騒ぎがしました。
咲(怖い……お姉ちゃん……和ちゃん……)
一瞬明かりがついたかのように。
目の前がぼうっと薄く光りました。
パチッ
成香(静電気——?)
その時私達三人の目に映ったのは、青白い光に包まれた薄墨さんでした。
「あ゙っ…………?」
バチィッ
光が見えたのは数秒。
すぐに視界は暗闇に閉ざされました。
漫「な、何や今の……」
成香「動いてはいけません……!」
咲(何、これ……この臭い。これって)
私はその臭いを知っていました。
嗅いだことがあった。
それは他でもない、タンパク質が焼ける臭いです。
咲「雀卓に触っちゃダメ……」
それから数分後に、照明は戻りました。
漫「……うっ」
成香「これって……」
私達の目に飛び込んで来たのは、
他でもない薄墨初美さんの姿です。
ですが、彼女の目は黄色く濁り、
その小さな体躯は異常なまでに縮こまっていました。
成香「雀卓が、ショートしたんですか……?」
薄墨さんが座っていた北家には、黒く焦げた皮膚がこびりついていて。
咲「うっ……」
私は込み上げてきた胃酸を必死に飲み下しました。
霞「はっちゃん!!」
咲(鹿児島のお姉さん……)
お姉さんに続き、野次馬達が何事かと集まってきます。
霞「はっちゃん……う……」ポロポロ
霞「うわああああああああん!!」ボロボロ
霞「ひぐっ……はっ、ちゃん……」ボロボロ
霞「嘘、こんなの、嘘でしょう……っぐ……」
そこには大人びた彼女の姿はなく、
一人の親友を失ったことを認められない女の子がいただけでした。
『個人戦を一時中断します。対局者、選手は直ちに控室に戻ってください』
私はただ恐怖に震えながら、
泣き崩れたお姉さんをおいて戻ることしかできませんでした。
控室で、部長から、風越の久保コーチが息を引き取ったと聞きました。
ホテルの部屋で、自ら首を吊ったそうです。
和「現象は、もう始まってしまったのでしょうか」
優希「のどちゃん……」
和「私は、私は死にたくありません……」
久「調べてみたんだけどね、現象について」
久「わかったことがいくつかあったわ」
・現象の対象となるのは、その年のインハイ団体戦、個人戦の代表校の麻雀部員、及びその顧問
・現象が起こるのは東京都内だけ
・現象が起こる期間は個人戦期間中
・いないもの対策は確実ではない
咲「ということは、東京から脱出すれば……!」
久「それはあまりオススメできないわね。忘れたの? 七年前を」
優希「無理に脱出しようとしても無駄ってことだじょ……」
和「それは、まずいです……!」
まこ「どうしたんじゃ、一体」
和「穏乃達が、奈良にいた頃の友人が」
和「今日、地元に帰るって……」ガタガタ
久「電話して、すぐにやめるように言いなさい!!」
prrrrr
『ん? 和、どしたの?』
和「穏乃ですか? 今すぐ引き返してください!!」
『え? さっき高速に乗ったばかりなのに』
和「今どこですか!?」
『えっとねー、ちょうど県境くらい』
和「だめです!! まだ帰っては————」
『うわっ! 赤土さんそんな急ブレーキ……』
『ドンッ!……グシャッ』
『……ツーツーツーツー』
和「穏乃……!? 穏乃!!」
和「そんな……」ヘタッ
久「……間に合わなかった、のね……」
都内の病院
怜(なんや、騒がしいことになっとる……?)
怜(廊下の方でもさっきから看護師さんが慌てとるし)
怜「インターハイのサキ? やったっけ」
怜(あんま詳しいことは知らんけど……)
怜「っと、点滴切れてもうとる」
クラッ
怜「っ……あぶな」カシャン
怜(あ……果物包丁……落ち……)
ズルッ
怜「な……?」フラァッ
ドンッ——ズブゥッ
怜「がっ……はぁっ…………ぁ……」
怜(あかん……なん……や、これ……)
怜(りゅ………………か……)
その病衣を真っ赤に染めた園城寺さんが、
胸からナイフが突き出た状態で見つかったのは、
薄墨さんが死んでまだ二時間も経っていない時でした。
………………
煌「やはり現象はもう始まってしまった様ですね……」
姫子「どげんすっとでしょう、部長……」
哩「どげんもなんも、できるだけみんなで一緒におるようにしとかんと」
美子「一人で行動すっとが一番危険とよ」
仁美「なんもかんも……」ギリッ
煌(これはすばらくないですね……)
煌(……言うべきでしょうか)
煌「皆さん、少しいいですか……?」
……………………
哩「死者を、死に還す?」
煌「はい。そうすれば、現象は止まる、と」
姫子「そっば、誰から聞いたとね?」
煌「協会の御偉いさんが話していらっしゃったのを、偶然……」
煌「ですが……」
哩「ああ。これば言ってしもうたら、大変な事になるんは目に見えとう」
哩「今はまだ、何もせんとが得策よ」
……………………
咲「大雨で、電車が止まっちゃったらしいです……」
久「ホテルに戻るのも危ないし、今日はここで一晩過ごすのかしらね」
久「美穂子もそれでいい?」
美穂子「それは構わないのですが……あの、」
和「現象が始まってしまった以上、対策を続けるのは無意味です」
優希「お姉さんも私達と一緒にいたほうがいいじぇ」
美穂子「皆さん……ありがとうございます」ポロポロ
華菜「私もいるし!」
まこ「吉留さんは、久保さんの葬儀に行っとるんじゃろ?」
美穂子「私達も行くべきなのですが……」
華菜「キャプテンと私は、こっちにいるように言われたし」
咲「個人戦の出場者は、全員この建物にいるんですよね」
久「そうね。言わばここは、陸の孤島」
まこ「出ようと思えば出れるんじゃけどな」
……………………
コンコンッ
久「あら、誰かしら」
照「白糸台高校の宮永です。入れていただけませんか?」
咲「お姉ちゃん!?」
久「いいんじゃない? 入ってきても」
照「失礼します」
淡「おじゃまします」
久「チャンピオンだけじゃなかったのね」
照「他の三人は家に帰ったんですけど、私達電車がないと厳しくて」
照「咲もいるし、一緒に泊めてくれないかとお願いに」
淡「いーよね? サキー」
咲「わ、私に聞かれても」
久「構わないわ。人数は多い方が心強いし」
和「そう、ですね。その方が安全です」
淡「尭深たちも残ればよかったのにねー」
久「今日は、ここで大人しくしておきましょう」
………………
洋榎「お、なんや清水谷の竜ちゃん、何でこんなとこにおんねん」
竜華「…………洋榎さん」
洋榎「……怜ちゃんの事は……ほんまに残念やったな。オカンに聞いたわ」
竜華「そっか…………」
竜華「何やろな、悔し過ぎて涙も出えへん」
洋榎「明日が葬儀やろ? ウチも行かせてもらおう思とる」
竜華「怜も喜ぶわ」ニコッ
竜華「…………洋榎さん、インハイの呪いって、知っとる?」
………………
哩「外が、えらい静かね」
姫子「他にも選手がおるはずですけどね?」
哩「私達以外にも他校の生徒がおっとなら、わかっとうた方がよか」
哩「外ば見てくっけど、どがんする?」
姫子「私が一緒に行きます」
哩「なら、他んもんはここ動かんようにな」
………………
それから数時間が経ちました。
誰も言葉を発しないまま、雨音だけが煩く聞こえてきます。
『……な……と…………』
優希「じょ?」
淡「館内放送?」
『みんな、聞こえとる?』
淡「これ、千里山の大将だね」
『千里山の清水谷です。みんなに一つお知らせがあんねん』
『知っとると思うけど、今年の現象は始まっとる』
『鹿児島の薄墨さんも、うちの怜もそれで死んだ』
『そんでな、現象を止める方法が、一つだけあるんや』
久「な…………」
美穂子「…………」
『いないもの対策は失敗に終わった』
『とある人のせいでな。でもそんなことはどうでもええ』
『一年前のインターハイ、現象が途中で終わってんねん』
………………
美子「これって……!」
煌「これはさすがにまずいかもですよ……」
美子「止めに行かんと——」
仁美「行ったらいかん」
美子「えっ、でも」
仁美「部長と約束ばした。なんがあってもここにおるて」
仁美「そっば無視して外に出たらいかん」
煌「……そうですね。放送には部長達も気づいているはずですし」
煌「私達は信じてここで待ちましょう」
美子「……そうね」
美子「姫ちゃん達が何とかしてくるっかもしれんし」
煌「はい」
………………
咲「現象が……止まった?」
『この現象を解決する方法』
………………
『それはな』
哩「いかん……!!」
『紛れ込んだ死者を、殺すこと————』
ブツッ
哩「間に合わんかったか……?」
姫子「ちょっとまずいかもですよ、部長……」
………………
竜華(誰かがブレーカー切ったんかな)
竜華(ま、別に構わんけど)
竜華(これで、準備は調ったわ)
竜華「待っとってや、怜」
………………
久「まずいわね…………」
優希「じょ? 現象の止め方がわかったから、いいことじゃないのか?」
和「皆そう考えます。ですから、つまり」
照「————不条理な殺し合い」
咲「死者が誰かなんて、わからないもんね……」
………………
シロ「…………だるいけど、しょうがないか」
豊音「シロ?」
シロ「雨の中ホテルに帰ろう。嫌な予感がする」
豊音「そう、だね」
豊音「皆も待ってるし」
………………
豊音「……嘘だよね」
ガララッ
豊音「火事……? こんなの、ありえないよ」
シロ「通路が崩れてる。遠回りだけど、対局室の方から回ろう」
シロ「ちょっとどいて」
豊音「え?」
クルッ
シロ「っ!」
ドガッ
ジリリリリリリリリリリリリリリリリリ
豊音「シロって空手してたの……?」
シロ「ちょっとね……ドア、開いた」
ギィィィィ
シロ「行こう」
………………
小瀬川さん達が非常ベルを鳴らした直後、
火の手はすぐそこまで迫っていました。
優希「びっくりしたじぇ」
和「ん、何か……焦げ臭くないですか?」
外に出ると、私達のいる一階は、
既に火の海になっています。
淡「うっそでしょ……!?」
ゴォォォォオオオオ
久「現象は、どうしても私達を殺したいようね」
まこ「あんたら、逃げるぞ!」
ですが、私は恐怖と頭痛で動けません。
そして、お姉ちゃんも。
照「ぅあ……あ……ぁ……」ガクガク
淡「サキー! テルー! 急いで!」
照「熱い……嫌だ、置いて行かないで……咲……ミナモ……」ガクガク
淡「テル!!」
淡「ノドカ、サキーを支えて」
和「は、はい」
和ちゃんに肩を借りて、
私達はなんとかエントランスまで出ました。
久「狙い済ましたかのように落ちてるわ」
まこ「連絡通路、しゃれにならんのう」
淡「もう、何でもありじゃん…………」
見れば、通路の周りには。
和「人が、人が下敷きになってます!」
京太郎「何だって!?」
………………
セーラ「っく…………」
淡「千里山の、江口セーラ!」
京太郎「大丈夫ですか!?」
セーラ「俺は、なんとか大丈夫そうなんやけど」
セーラ「ガラスがな、ふくらはぎからざっくり貫通してそうや……」
京太郎「今、瓦礫を退けます!」
久「須賀君達はここで怪我した人達の救助をお願い」
優希「部長はどうするんだじぇ?」
久「探してくるわ」
和「探してくるって……」
久「いないのよ————美穂子」
照「……私も行く」
淡「もう大丈夫なの?」
照「うん、ちょっとトラウマが、ね」
まこ「ああ、あの火事じゃったか」
照「うん……」
長野県××市で住宅が全焼する火事。
私達が住んでいた家です。
火事のせいで。
家族はばらばらに————。
咲「っ……!」ズキン
和「咲さん!?」
咲「だ、大丈夫」
咲「私も行く。福路さんを探しに」
咲「力仕事じゃ、役に立てないから」
華菜「キャプテンは心配だけど。ここは任せるし!」
………………
そうして、私達は二手に別れて福路さん達を探しました。
久「……誰かいるわね」
淡「あれ、姫松のエースじゃないかな」
久「愛宕さん……?」
洋榎「っ!!」ギロッ
久「何よ、睨まなくてもいいんじゃない?」
洋榎「あ、ああ。すまん」
洋榎「あんた、清澄の中堅の」
久「竹井久。だけど、一体どうしたの」
押さえた左肩からは、赤黒い血が流れています。
洋榎「……竜ちゃんや」
淡「竜ちゃん……千里山?」
洋榎「そや」
洋榎「あの放送の前にな、邪魔せーへんように刺されてん」
淡「ひっどい……」
洋榎「あいつの目的は、会場を混乱させて一人でも多くの人間を、巻き添えにすることや」
久「…………」
久「園城寺さんの、敵討ちってところね」
洋榎「あいつはもう狂っとる……死者を殺すことに」
久「何か、何か他に言ってたことは?」
洋榎「死者を殺すと、そいつの記憶が無くなるとかなんとか……」
久「大星さん、上の階の方を見てきてくれるかしら?」
淡「わかった、けど……清澄は」
久「愛宕さんを医務室に連れていくわ。消毒くらいならあるでしょう」
淡「そう、だね。できるだけ早く、サキー達に合流する」
久「お願いね」
淡「……気をつけてね」
そう。気をつけて。
確かに淡ちゃんはそう言ったんです。
なのに。
淡「……早く行かなきゃ」
淡(火事なんて、本格的に私達を殺しにかかってるじゃん……!)
淡(死にたくないよ……)
淡(大体火事っていつ何が起こるか……………………)
淡「……っ!!」
淡「火元がわっかんないから……もしかしたら……!?」
淡「清澄っ……」
医務室は階段より少し奥。
部長が扉を開けるのが、先でした。
ガチャッ
ヒュゥゥゥッ
ボウゥゥゥゥッッッドンッッッッ
淡「っぅう!!」ヴァァァッ
ボォォォォォォォォッ
シュッ
淡「きよ……すみ……」
淡(爆発……医務室も……火元だったんだ)
淡(千里山が、みんなを巻き込むのが目的だったら、医務室なんかにも火をつけてるはずだった)
淡(私が、一階で、一緒に、行ってたら)
淡「……っ」ゾクゾクゾクゥッ
淡「火の回りが速くなっちゃう……咲を見つけないと」
………………
姫子「部長……今ん音、どっかで爆発でん起こったとですかね?」
哩「バックドラフトやね」
哩「火災現場じゃ、よく起こる現象よ。閉じられた空間の中で火災が発生すっと、中ん酸素ば全部使っちしまうけん、可燃性ん高温のガスが残っ」
哩「扉ば開くっと酸素ん入っちくっけん……引火して、爆発すっとよ」
姫子「それって……」
姫子「今ん爆発で、だっかが死んだってこつですか」
哩「扉ば開けた奴は……確実にな」
哩「…………エレベーターは使えん。階段で戻っよ」
姫子「はい……」
………………
セーラ「須賀、こっちの方は大丈夫そうや」
京太郎「すみません、江口さんも足を怪我しているのに」
セーラ「気にすんな」
セーラ「それよりも……入口が塞がれとるんはまずいわ……下手したら、煙で全員おだぶつやで」
京太郎「そうですね……こっちの方は、出入口を確保するために瓦礫を退かす作業に移ろうと思います」
セーラ「くれぐれも気ぃつけえや」
京太郎「はい」
セーラ「ただでさえ、死に易くなってんからな」
………………
哩「幸い三回の通路から廻って行けるようやね」
姫子「花田や先輩方は、大丈夫とでしょうかね……」
哩「何とかケータイは通じるようやけん、連絡はしとっ」
姫子「そいはよかっ————」ドスッ
姫子(あ、れ?)
姫子「————が、はっ」
バタッ
哩「姫子……? 姫子っ!?」
投げナイフというには大きすぎる、調理用の刃物。
そう、丁度園城寺さんに突き刺さっていた果物ナイフと同じような。
カツン
カツン
カツン
カツン
カツン
カツン
カツン
カツン
カツン
カツン
「なあ……白水さんやったっけ。この子の事、覚えとる?」
グチュッ
ズルルルッ
姫子「っあ……ぁ……あ゙……」ビクン
哩「姫子……姫子おおおおおおおおおおおおおっ!!」
竜華「あーあ、やっぱり違ってん」ヒュッ
竜華「多分あんたらがブレーカー落としたんやろ? そのせいで、最後まで言えへんやったんけど。死者はな? 元はおらんかった人間や」
竜華「せやから、殺した後、みんなの記憶からさっぱり忘れられるんやって」
哩「う、ああ、うあああああああああああああああああああああああああ!!」
竜華「聞いてへんなー、悲しいわー。まあ、うちにはもう死者とか関係ないんやけどな」
竜華「……待っててや、怜。そっちにたーっくさん、友達送ったるからな」
竜華「ほんでその後は私も逝くからな、寂しくなんかないで?」
哩「う、あああ、あ……」
竜華「可愛い後輩と同じとこに逝かせたる、心配せんでもええよ」
カツン
カツン
ギュッ
竜華「……は?」
姫子「はぁ……はぁ……はぁ」ギュウウッ
哩「ひめ、こ……」
姫子「ぶちょー……逃げて、ください」
竜華「ちっ……離しいや」ザクッ
姫子「ぐっ……ああああっ!! ……死んでも、死んでも離さん!」
竜華「ほんならさっさと死ねや! ほら、早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く!!」グサグサグサグサグサグサグサグサ
姫子「絶対、離、さん……!!」
ガガッーピーッガーッ
『聞こえますか!? 福与恒子です! エントランスに消防隊と救急隊が到着しました! 建物内に残っている方は速やかにそちらの方に避難してください! 繰り返します————』
姫子「ぶ、ちょ……はや、く…………」
哩「…………そん必要はなかとよ」
ダッ
ドンッ
竜華「なっ……!?」
哩「っつあああああああああああああああああああああああああ!!」
ズブゥッ
ドンッ
竜華「がああああああああああっ!?」
竜華(自分もろとも、瓦礫の鉄パイプに……!?)
哩「ごふっ…………最低でん、道連れよ。清水谷竜華」
竜華「が、ぐ……」
哩「ぐ、うぅぅっ!」
ズボッ
哩「はっ、はっ、はっ……」
ヨロヨロ
哩「姫子……姫子」
哩「……返事せえって、昔から、返事は大事っていうとったろ?」
哩「……まあ、ええよ」
哩「ごめんな……私のせいで」
哩「お前、いっつも袖ば長うしとっけん、指先まで綺麗に真っ白なっとう」
哩「綺麗か腕やったとにな……何でこんな真っ赤になっとうとね……」
哩「姫子……」
バタッ
哩「ありがとう」
ギュウウッ
哩「はは、私と同じで、手、冷とう、なっとる……ね……」
………………
セーラ「死者を死に還す……やて?」
セーラ「何でそんな大事なことが隠されてんねや!」
恒子「パニックになるからだよ、今の清水谷さんみたいにね」
セーラ「それは、そやけど」
健夜「現象が終わらない以上、こうなるのは避けられないけど……このままじゃいけない」
京太郎「小鍛治プロ! 怪我人の応急手当が大体終わりました」
健夜「わかりました。今現在確認できない人、わかる?」
京太郎「清澄の竹井久、宮永咲、風越女子の福路美穂子、姫松の愛宕洋榎、千里山の清水谷竜華、宮守の小瀬川白望、姉帯豊音。そして、新道寺女子の白水哩と鶴田姫子に白糸台の宮永照と大星淡。以上十一名です」
健夜「…………本当に、十一人、だったらね」
………………
白望「もうすぐ出口……」
豊音「……あれ? 誰かいる?」
「なあ、そこのあんたら。鶴田姫子って、知っとる?」
白望「……福岡代表、新道寺の大将」
「あー、やっぱ知っとるか。さっきはまだ生きとったから、万が一があるかもしれんって思ったんやけど」
白望「……豊音、下がって」ボソッ
「よくよく考えれば、うちが覚えとる時点でハズレやったんか、あっはっは」
白望「……意味がわからない」
「しっかし、うまいこと脇腹に刺さっただけやったから良かったんやけど」
白望「……!!」
竜華「あんたらも怜の友達、なってくれるな?」
豊音「シロ!!」
ザクッ
白望「っつ!!」
竜華「足切っただけか、次は避けさせへんよ」
白望「豊音止まって……!」
豊音「え!?」
ガラガラガラ
ズーン
豊音「わわ!? あっぶな……」
豊音「シロが危ない……!」
豊音(でも、ここからだと……一回エントランスまで行かなきゃ)
豊音「……シロ、頑張ってね……!」
………………
竜華「……逃げたか」
白望「…………」
竜華「別にあんただけでも構わんのやけどな」
白望「だる……」
竜華「……ぅぐっ、うちもそろそろそっち逝かなあかんわ、怜」
白望(うまいこと腱を切られてる……)
竜華「最後に一人だけ、一緒に連れて来るわ!!」
白望「くっ……!」
ズキッ
白望(やば……い……!!)
ゴッ
………………
咲「…………福路さん」
美穂子「……宮永さん、来てしまったのね」
照「………………」
咲「そろそろ危ないです、避難しないと————」
美穂子「私には、するべきことがあるの」
咲「え?」
美穂子「私の右目……色が違うでしょう? 昔から、見えるの」
咲「見えるって……?」
美穂子「死の、色が」
美穂子「死に近いものに、死の色が見えるの。病気の人だったり、亡骸だったり」
美穂子「だから私には……死者が見えるの」
咲「そんな、ことって」
美穂子「信じてくれなくてもいいわ。でも————」
美穂子「あなたは覚えているはず。死者が誰なのか」
美穂子「あなたが幼い頃に、火事があったでしょう」
嫌だ。
美穂子「その火事、あなたにとってはトラウマでしょうね」
嫌だ嫌だ。
美穂子「火事で亡くなったのは、あなたの二つ上の」
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
美穂子「大切な、大好きだった」
咲「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ、嫌だよ、嘘だって言ってよ」
咲「お姉ちゃん!!」
照「…………私が、死者……なのか……?」
美穂子「こうなってしまったのは私の責任です」
美穂子「……私が、死者を死に還せば災厄が終わると、知っていれば」
照「私はあの火事で……死んでたのか」
咲「嘘だよ!! 嘘だよお姉ちゃん!!」
美穂子「宮永さん…………」
その時私は、思い出していました。
もしかしたら、覚えていたのかもしれません。
目の前にいる、強くて、格好よくて、大好きなお姉ちゃん。
それは、本当じゃないって。
私のお姉ちゃんは、火事で死んだんだって。
知っていたんです。
でも、認めたくなかった。
美穂子「……これ以上被害が広がれば、避難していても危ないかもしれません」
照「………………わかった」
咲「お姉ちゃん!?」
そういっている間にも、柱は崩れ、火は勢いを増していきます。
照「咲」
照「もう、帰らなきゃ」
咲「そ、んな……」
咲「やっと、やっと仲直りできたのに」
咲「やっとお姉ちゃんに会えたのに!!」
咲「また私を置いて行くの!? お姉ちゃん!!」
照「ごめんね、咲」
タッ
照「 」ニコッ
お姉ちゃんは、微笑みながら炎の中へと落ちていきました。
あの日とは、全然違う表情で。
………………
病院で目を覚ましてからは、慌ただしく日々が過ぎていきました。
インターハイ会場の大火災。
原因は医務室など複数箇所からの出火。
放火の疑いもあるとか。
死亡者は四名。
部長。
清水谷さん。
白水さん。
鶴田さん。
私が目を覚ます三日ほど前に、姫松の愛宕さんが退院されたと聞きました。
そして、園城寺さん、薄墨さん、久保さん、阿知賀女子のメンバーに赤土監督。
今年の災厄での犠牲者は、13人。
入院中、淡ちゃんが何度もお見舞いに来てくれました。
淡「来年以降、麻雀のインターハイ自体が無くなるかもしれないんだって」
咲「そっか、残念」
淡「そうだよー! 折角私も白糸台でレギュラー取れたのにさ!」
淡「しかも先鋒だよ!? それだけ期待されてたのに!!」
咲(先鋒、か)
咲「これだけのことがあったんだし、しょうがないかもね……」
淡「……そうだよね。これだけの人が死んだり、怪我したりしたんだから」
咲「清水谷さんを止めたのって、淡ちゃんだったんでしょ?」
淡「それオフレコだからね?……宮守の先鋒が襲われてたから、とっさに側にあった瓦礫で」
咲「天井とか落ちてきて、小瀬川さんを助けるのに精一杯だったって」
淡「……うん」
部長が亡くなった瞬間を見ていた淡ちゃんは。
強がってはいるけれど、結構ショックみたいです。
咲「ねえ、去年のインターハイの個人戦、優勝したの、誰だっけ?」
淡「北大阪の三箇牧の荒川憩って人だよ」
咲「そうだよね……うん、そうだった」
淡「————って、世間一般じゃ言われてるけどね」
咲「……え?」
淡「なんとなーくだけど、本当はいないはずなのに、覚えてるんだ」
淡「麻雀が強くて、格好よくて、お菓子が大好きだった、私の憧れの人」
淡「……そんな人はいないんだけどね? 何か、そんな気がする」
咲「……そっか」
私だけじゃない。
覚えてくれている人はいたよ、お姉ちゃん。
咲「そういえばね、私明日で退院なんだ」
淡「ほんと!? それじゃあ東京観光しようよ〜!」
咲「ケーキバイキングとか行きたいね」
淡「まったくもって!」
咲「何食べたい?」
淡「それはもちろん」
咲淡「「紅茶と、苺のショートケーキ」」
カン!
終了です。ありがとうございました
おつありです
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