上条「インデックスを無視し続けたらどうなるか。」(225)

※以前書いたのを少し加筆修正したものです。


【朝】

禁書「ふあー……」

上条「……」スタスタ

禁書「とうまー、おはよー」

上条「……」

禁書「…?」

禁書「とーうーまー! おーはーよーうー!」

 一言ごと、上条の背をバシバシと叩くが、

上条「うー…トイレトイレっと……」

  バタン……

禁書「わっ…!」

禁書「……」

禁書「むぅ~……?」


禁書「とうま、具合でもわるいのかな…?」

  ガチャリ

上条「ふいー、スッキリしたー」

禁書「とーまー?」

禁書「ねぇ、とーまぁー?」

 流しでじゃばじゃば手を洗う上条の顔を、
 流しの上に乗っかり10センチの至近距離で覗き込んでみるが、

上条「……」じゃばじゃば

禁書「……」どきどき

上条「さーて、学校の準備しなきゃ」

禁書「あっ…」

 上条は手を拭くと、すたこらと部屋の方へと行ってしまった。

禁書「むぅ~……」


 上条はてきぱきと教科書を集めて鞄に入れている。

禁書「ねぇ、とうまー? おなかすいたんだよー?」

上条「……」

禁書「……」

 すぅーっと、思いっきり息を吸って、

禁書「とー―おーーまーー!!!!」

 上条の耳元、ゼロ距離で叫んだ。
 ベッドで寝ていたスフィンクスが「にゃっ」と飛び起きる。

上条「……」

 鞄に教科書を入れる上条の手が止まっていた。

禁書「とうま…?」


上条「…あ、まずい!! もうこんな時間か!!」

上条「急がないと遅刻だ!!」

 上条は鞄を抱えるとそそくさととドアへと向かう。

禁書「あ、待って! 朝ご飯がまだ…」

 バタン!!

禁書「行っちゃった……」


禁書「スフィンクスーおなかすいたんだよー……」

 スフィンクスを、ぎゅっと抱きしめた。

スフィンクス「にゃあ?」


 △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼


禁書「スフィンクスはいいよねー、キャットフードがあるから」

 ガツガツとキャットフードを食べるスフィンクスが妬ましかった。

禁書(とうま、いったいどうしちゃったのかな?)

 とても不機嫌なように見えたけれど……

禁書「もしかして学校に遅れそうだったから、とかかな…?」

禁書「それにしても、ご飯も用意しないとは薄情な…!」

 帰ってきたら思いっきり噛みついてやろう。
 インデックスはそう決意した。


【昼】

禁書「おなかすいて死にそう……」

禁書「昼ご飯もないし……」

 なにかないかなー、と冷蔵庫の中をあさってみると、

禁書「む、昨日の夜ご飯の残りを発見!!」

禁書「助かったんだよ!」

 おなかいっぱいになったインデックスはそのままベッドで眠りました。


【夜】

 目が覚めて、部屋がすっかり暗くなっていることに気づいた。

禁書「もう夜…?」

 電気をつけて時計を確認してみると、現在18時半。
 上条はまだ帰ってきていないらしい。

禁書「おそいなー……」

【19:00】

禁書「あ、超機動少女カナミンの時間だ」

  ポチ

  わーわー

  いけーいけー

【19:30】

禁書「あー面白かったー」

禁書「……」

禁書「とうま、どこで何をやっているのかな……」ぐすん


【21:30】

禁書「さびしーよー、スフィンクスー」ギュ

スフィンクス「にゃあ?」

禁書「夜ご飯たべたいー、おなかすいたー」

禁書「こんなかわいい女の子を放置プレイなんて、
    帰ってきたらぜったい許さないんだから!」

 と、怒りを新たにするものの、

【22:00】

  ガチャ

上条「うー、つかれたー」

禁書「とうまー!」

禁書「おかえりなんだよー!」

 怒りなど忘れて満面の笑みで出迎えに行くインデックスだった。


上条「まったくあいつめ……」

上条「耐久カラオケしようなどと唐突に言い出しやがって…」

 上条は、ドアの前の廊下に立って目を輝かせるインデックスを
 ヒョイと避けて部屋の中に入っていった。

禁書「……」


禁書「とうま……ひょっとして、怒ってる?」

 ベッドにもたれ掛かってる上条に、おずおずと聞いてみた。

上条「……」

禁書「えーっと、その……」

禁書「もし私のせいだっていうなら謝ってあげてもいいかも……」

上条「……」

禁書「ごめんなさいなんだよ」

禁書「だから、」

 てへへっと笑って、

禁書「夜ご飯作ってくれるとありがたいかなーって、
    禁書は禁書は懇切丁寧にお願いしてみたり……って、あ!」

 しかし上条は話を最後まで聞きもしない。

上条「のど痛てー、うがいしよっと」サッ

禁書「……むぅ」

禁書「謝ってあげたのに、聞きもしないとは……!」


 『えー、今日のニュースは……』

 『田代商社代表取締役の田代まさしが男風呂を覗いた現行犯で逮捕され……』

 『これで7度目の逮捕となり……』

上条「ふむふむ……」

禁書「なんか面白いニュースやってるの?」

 テーブル前に座っている上条の隣に、自分もちょこんと腰を下ろす。

上条「うーむ、田代商社もついに倒産かー…」

禁書「なーに、それ?」

 上条は興味深そうにテレビを見ているが、
 インデックスには小難しい話はちんぷんかんぷんだし、だいいち興味も無い。
 ぶっちゃけニュースなんて見ていても暇なだけである。

 でもそういう価値観の違いが気持ちのすれ違いを生み出すのかも、と思って
 ニュースの内容について会話してみようと試みたのだが、

上条「……」ムシ!

禁書「……はぁ」

 ため息が漏れていた。
 ここまで完全無視はさすがにきつかった。


禁書「とうまー、おなかすいたんだよー?」

上条「……」

上条「あ、すっかり忘れていた」

禁書「!?」

 テーブル上からコンビニの店名が印刷されたビニール袋を上条は手に取ると、
 その中に手を入れてごそごそと袋をあさる。

 その動きを注視して見守っていたインデックスは、
 上条が袋から取り出した物を見て「わあ!」と歓声を上げた。

 上条の手にはあんパンがあった。

禁書「ねーねー、くれるの? くれるの?」

上条「今日中に食べないと固くなっちゃうからなー」

 包装を開けて上条はむしゃむしゃと食べ始める。

禁書「……あのー」

上条「……」もぐもぐ

禁書「私のぶんはどこかなー…?」


上条「……」もぐもぐ

禁書「……ごくり」

禁書「半分でいいから…私にももらえるととっても嬉しいかなーって、思っていたり……」

 しかし上条は一定のペースで食べ続け、パンはみるみるうちに小さくなっていく。

禁書「ねえ、聞いてるの!?」ゆさゆさ!

上条「……」もぐもぐ


 もはや残り数口分というところである。

禁書「……」

禁書「もらいっ!」

 飛びかかり、上条の手ごとパンに食らいつこうとするが、

上条「……」ぴょい ぱく

 空振り。
 最後のひとかけらを上条が口に放り込んでしまったのだ。

禁書「……」

上条「さーて、風呂入って寝よっと」

禁書「……」


【上条入浴中】

禁書「スフィンクスー、私はどうしたらいいんだろうね……?」

禁書「どうしたらとうまが機嫌直してくれるかな?」

禁書「……」

禁書「そうだ!」


 △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼


禁書「よし、こんなところかな」

 見えそうで見えないパンツ。
 はだけかけたシャツ。
 うん、完璧だ。

 なるべく煽情的に見えるように浴室のドアの前に横になったインデックスは、一人相づちを打った。

 名付けてエロエロ作戦だ。
 自分のこんな魅力的な姿を見れば、いくら不機嫌なとうまだってイチコロのはず!


 などと考えていると、

  ガチャ

上条「ふー、いい湯だったー」

禁書「とととと、とうま!」

 できる限り色っぽい声を出すようにして、

禁書「その…ちょっとだけならさわっても許してあげるかも……、あっ」

上条「……」スタスタ

 決死の思いのインデックスを平然とまたいで乗り越える上条。
 まるで床に落ちたゴミか何かのような扱いだった。

上条「さーて、もう遅いし。そろそろ寝よっと」

 上条は大きくあくびをして、ベッドに横になった。


禁書「ひ、ひどい……」うる…


【上条就寝中】

禁書「どうしてこうなったんだろう……」

 上条にベッドを使われてしまったので、
 インデックスは浴槽で寝る事を余儀なくされてしまっていた。

禁書「私がわるいのかな……?」

 今日の朝から上条に無視され続けている。
 自分が何をしたのだろうか。
 今朝のことを振り返ってみるも特に心当たりはない。

禁書「……」

 いや、思えば、昨夜から上条の雰囲気が違った気もしなくはない。
 昨夜といえば……
 何があっただろうか。

 いつも通り夕食を食べて、いつも通りテレビを見て、いつも通り寝て。

 何が上条の気に障ったのだろう。

 食事の用意が遅いってとうまに噛みついちゃったから?
 自分の見たい番組に勝手に変えちゃったから?

 ――明日、本気で謝ろう。

 次第にぼんやりしていく意識の中で、なんどもその言葉を反すうした。


【翌朝】

 あくびをかみ殺しつつも時計を確認すると、現在時刻は6時半。

禁書「背中がいたい……」

 浴槽で寝るのはあまり熟睡できるものではなかった。

禁書「おなかすいた……」

 どこかに食べ物はないかと駄目元で部屋をあさってみる。

 冷蔵庫の中、炊飯器の中、戸棚の中。
 だが食べられそうなものは何もない。

禁書「飢え死にしちゃいそうなんだよー……」


禁書「ん、あれは?」

 テーブル上にある買い物袋にふと目がいった。
 たしか上条は昨日、あの袋からパンを取り出していた。

禁書「もしかして食べ物が入っていたりなんて……」

禁書「っ!」

 袋をさわってハッとした。
 中身が入っている。

 慌てて袋をひっくり返すと、

禁書「や、焼きそばパン!」


 さっそくかぶりつこうとして、直前で思いとどまった。

 勝手に食べたら怒られるかもしれない。
 インデックスはベッドで寝ている上条をチラリと見る。
 もしかしたらとうまの朝ご飯だったりして……

 などと逡巡したのは実質2秒ほど。

 昨日の昼から何も食べていない腹ぺこのインデックスに、
 目の前に食料があるのに食べずに我慢などできるわけがなく、

禁書「あーむ…!」

 焼きそばパンを一口で口の中に放り込んだ。

禁書「んぐんぐ……う、うまい!」


 △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼


上条「うぅん……」モゾモゾ

禁書「あ……」

禁書「ごめんとうま、起こしちゃった?」

上条「ふあー……」

上条「疲れてるはずなのに、なんでこんなに早く目が覚めちゃったんだろう」

上条「うるさい羽虫でも沸いてるのかなァ…?」

禁書「ッ……!」グサ


 ついに確信した。
 上条は怒っている。それも、インデックスに対してだ。

 なぜかは分からない。
 だが、おそらく自分に原因があるのだろう。

禁書(ちゃんと、謝らなきゃ……)

禁書「今まで迷惑かけてごめんなさい」

 深々と土下座した。

禁書「私に気にいらないことがあったなら謝るし、改善する努力もするから」

禁書「だから……今まで通りの、いつものとうまに戻ってほしいんだよ…!」

上条「……」

上条「あれ、俺の焼きそばパンが……」

禁書「あ、パン……あったから勝手に食べちゃったけど……」

上条「……」ギロリ

禁書「ひ…!」タジ


上条「まいったなー、俺の朝飯が食い荒らされちゃってるよ」

上条「汚い害虫でも沸いてるのかなー」

禁書「う…あ…」じわ…

上条「病原菌移されたらたまんないよなー」

上条「バルサンでも買ってくっかなー」

禁書「う、うぅ」ぽろぽろ

上条「ちょっと早いけど、不幸な出来事のせいで途中で朝飯買わなきゃいけなくなっちまったし、
    そろそろ学校行くか」

  バタン

禁書「とうま……」ドサ

禁書「うう…ぐす…ひっく…ひっく…」


【昼休み・上条の教室】

青髪「それでな、そいつがなー……」

上条「マジでー? あははは」

  わいわい
  がやがや

土御門「カミやーん、お客さんやでー」

上条「んん、誰だ?」

土御門「みればわかるぜよ。銀髪シスターさんだにゃー」

 と、土御門が指す方向、ドアの入り口にいるのは、

禁書「とうまー…?」

上条「……あんな奴しらねーよ」


青髪「またまたーご冗談を」

土御門「なんだ、喧嘩でもしたのかにゃ?
     ま、喧嘩するほど仲がいいってもいうけどなー」

上条「……気色悪いこと言ってんなよ。胸くそ悪い」

禁書「とうまー、とうまー」

土御門「彼女、なんか目ー腫れてないか?」

青髪「んー言われてみればそんな気もするような……」

小萌「こらこらシスターちゃん。勝手に入っちゃダメですよぉ~~」

禁書「あの、とうまにちょっと会いたくて……」

小萌「あなたたちは家でいくらでも会えるんですから…」ぐいぐい

禁書「あ、ちょっと、放して!」


 △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼


【廊下】

禁書「とうま、クラスの人とは楽しそうにおしゃべりしてた……」ボソ

小萌「……シスターちゃん、元気無いけどどうかしたんですか?」

禁書「あのね、とうまが……」

 ・
 ・
 ・

小萌「そんな事があったんですか。
    うーん、上条ちゃんも困ったちゃんですねー。
    あの子、いったいどうしちゃったんでしょうねぇ……」

禁書「私、どうしよう……」

 再び、目から涙があふれてきた。

禁書「とうまに嫌われちゃったら……私……私……」

 嗚咽が込み上げてきて、それ以上は言葉が続かなかった。

小萌「シスターちゃん……」

美琴が黒子無視するやつ書いた人?


禁書「ねぇこもえ……」

 涙をぬぐって、小萌の目をしっかりと見すえた。

禁書「こもえは、何が原因だと思う? やっぱり私のせい? 私がいけないのかな?
    私、とうまに嫌われちゃったのかな?
    だからとうまに相手にしてもらえなくなっちゃったの?
    とうまはもう私のことを許してくれないのかな?」

 実際に感情を声にして吐き出すと悲痛が胸に込み上げてきて、
 しまいには叫ぶように言葉を放っていた。

禁書「私はどうしたらいいの? ねぇ教えてよ、こもえ!」

小萌「それは……先生にはわからないんです……」

禁書「そんな……」

小萌「やっぱりそれは、上条ちゃんに直接聞くしかないと思うんです」

禁書「そうはいっても……、とうまは、私のこと……」

小萌「大丈夫です。上条ちゃんと、先生も一緒に話すんです」

 自分の胸をポンと叩いて小萌はそう言った。

禁書「ほ、本当!?」

小萌「ええ。上条ちゃんには先生からもしっかり言っておかなきゃいけないです!」


 △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼


小萌「上条ちゃん、どうしてシスターちゃんにこんな意地悪するんですか?
    話は聞きました。いきなり無視なんて……どうしてそんなひどい事をするんですか。
    彼女が可哀想だと思わないんですか」

 小萌は上条を生徒指導室へ呼び出した。
 インデックスと上条と小萌の3人で昼休み中にこの事について話し合うことにしたのだ。

 上条の主張は要するに「こんな穀潰しニートと一緒に暮らせるか!」と言うことらしい。

上条「うちの家計に余裕があるわけでは決してないとは先生も知っているでしょう?
    なのにこいつは食うだけ食って家事は一切しない。今まで我慢してきたけどもう限界だ。
    自分一人でも大変なのに、まったく、こんな生活を続けたら身がいくらあっても持たないぜ」

小萌「まってください! それは意思疎通がうまくいってなかったからなんだと思うのです!
    シスターちゃんはとっても素直でいい子です。
    上条ちゃんが苦労していると分かればお手伝いくらい、いくらでもしてくれるはずです!」

 小萌はインデックスに視線を投げておずおずと、

小萌「ですよね、シスターちゃん……?」


 しかし小萌に見つめられたインデックスは途端に目を泳がせ出して、
 小萌から視線をそらして顔をそむける。

 窮して困っているかのようなうめき声が、垂れた銀髪の隙間から微かに漏れ出ていた。

上条「そいつがそんな気の利く性格なわけないじゃないですか。
    少しでもいいから家事を手伝ってくれ、とは何度言ってきたか……」

小萌「それでも手伝わなかったんですか……?」

禁書「……」

 顔を上げようとしないインデックスに小萌は「どうして……」と言葉を漏らす。

小萌「どうして、上条ちゃんの言うことを聞かないんですか?」

禁書「だって……わからないんだもん……
    機械の使い方なんて、全然わからないんだよ……」

>>95
レス見逃していたけど、別人ですね。

---


上条「覚えようとしないからだろ!」

上条「だいたいお前は完全記憶能力者なんだ。
    そのお前に覚えられないことなんてあるものか!」

禁書「うう~……、そんなこと言ったって……分からないものは分からないんだもん……。
    あんなの、ごちゃごちゃしてて全然分からないんだよ……!」

上条「覚える気がないからだろ! 懇切丁寧になんども教えようとしたよな、俺は。
    なのにお前はいつも分からない分からないって、話も聞こうとすらしなかった……」

禁書「だって……だって……、あんなの、複雑で、見ているだけで頭が痛くなって……」

 インデックスは肩を揺らしながら、潤んだ声でぽつぽつとそう弁解する。


上条「それにこの際だから言わせてもらうけどな、
    事あるごとに噛みつかれるのももうまっぴらだ!
    なんで日常的に暴力を振るわれなきゃいけない!?
    俺になんの怨みがあるというんだ!?」

禁書「! そ、それは……」

小萌「シスターちゃん、そんな事してるんですか……?」

 話を聞いていた小萌が、信じられないという顔つきで口を挟んだ。

小萌「いつもそんなひどい事をしているんですか……?
    ウソですよね……? シスターちゃんはそんな事、しませんよね……?」

禁書「う……、うぅぅ~……、だって……、だって……、とうまが……」

 インデックスの顔がゆがんでいき、目から涙がじわりじわりとあふれてこぼれ落ちた。

上条「いやもうひどいもので……こいつからやられた傷跡がいまだにこんなにクッキリと……」

 制服の袖をまくって青黒く変色した噛み跡がいくつも残る腕を上条に見せつけられて、
 小萌はハッと息を飲んだ。

小萌「ひどい……」


小萌「シスターちゃん」

 小萌はインデックスをキッと見すえた。
 そして明らかにトゲのある口調で、

小萌「どうしてこんな事をするんですか?
    何かよほどの訳があったのかもしれませんが……
    それでも、こんな……こんなひどい事をするなんて……!」

 インデックスは顔を両手で覆ってついには泣きじゃくりだした。

禁書「ひっく……、うっ……、んうっ……、だって……、だって……!」

 それでも小萌は問責をやめない。

小萌「ちゃんと理由を話してください。
    どんな理由があってこんな事をするんですか?」

禁書「むしゃむしゃしてやった、後味はしていない」


上条「まったくだ。なんで俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだ?」

禁書「ぐずっ、ひっくっ、」

 インデックスは顔をバッと上げると、

禁書「こもえのばかあああああああああああああ!!
    とうまのばかああああああああああああ!!
    うわあああああああああああああああん!!」

 泣き叫んで教室から走り去ってしまった。

 そして教室には上条と小萌が残されて静寂に包まれていた。

上条「……」

小萌「……」

上条「先生、邪魔者もいなくなったことだしいいですよね」

小萌「上条ちゃん……優しくしてくださいなのですよ……」


上条「やってられっかよッ!!」

 ダン! と勢いよく床を踏んで上条はその静寂を破る。

小萌「か、上条ちゃん!?」

上条「なんなんだ、あれは! もうしらねぇ……あんなやつ二度としらねぇ。
    くっそ……マジでむかついた。もう無視だなんて回りくどいマネはしねぇ。
    これからはあいつの顔みるたびにぶん殴ってやるわ!」

小萌「だ、ダメですよ! そんな事ぜったいダメです! 人として許されません!」

上条「あぁ!? あいつだって似たような事やってるじゃないっすか!?」

 と噛み跡多数の腕を見せつけて、

上条「同じ事ですよ。やられた事をやり返すだけだ。
    だいたい、なんで俺だけ一方的に我慢しなきゃなんねーんだ!?
    それこそおかしいじゃないですか!」

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          |  l V〃{{::::::jl      ,ィf芹ミxハ i「ヽ、_ァ   !
          |  i\{   う"ツ       {{::::::jリ Y リ.:l      |
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           i ,' |: : :}\        ̄        ,イi.: :l |    |      どさくさにまぎれて
            ,'   |: : :| } }>.          イ) 〕レ: : | |    |
         / /|.: :|¨/ { ` r‐‐   ´  / /!: : |人    }      インデックスが現れた
       / //ヽ.| . : | {   i{`ー亠---‐‐ ´ / .: .: :.|`ヽヽ  〈
        / {   | . :| |   |ヽ        , ´  ,': : : :i| ∧   〉
        V⌒)   ! .:.| !  |     、___ /   .: : : : :i| /  ',  {
      }/'⌒ V´|  .:| |  |       /    / : : : /レ'    :.  ヽ
      {     | ! .:.| |  |    ,/      /,': : :.//      :.   \


小萌「お願いですから落ち着いてください!
    これで上条ちゃんまで平静さを失ったら、
    もう本当にどうしようもなくなっちゃうんですぅ!」

上条「もう既にどうしようもなくなってますよ!
    先生も見たでしょう、あいつがどんなやつか!
    これでどうしろって言うんです!?」

小萌「すこしだけ時間をください!
    先生があの子とじっくり話し合ってみるんです!
    あの子は絶対、話せばわかる子のはずなんです!」

 小萌は真剣にそう訴えて、インデックスを追って教室から飛び出していった。

上条「……」

上条「いや無理だろ」


【そして夜・上条家アパート】

禁書「とうまー、すごく気合い入れてご飯作ったんだよ!」

 テーブル前に座る上条へとインデックスは豪勢な料理を次々と運んでくる。

上条「お、おお……。すげぇな……」

 テーブルを埋め尽くすほどの勢いに上条は思わずたじろいでしまう。

上条「しかし……お前が家事する気になってくれて本当に良かった。
    これからもこうなら、俺も不満はないよ」

禁書「安心していいんだよ! これからは毎日私がご飯作ってあげるんだから!」

 あの話し合いのあと、インデックスは家庭科室で小萌から料理の特訓をずっと受けていた。
 そしてインデックスは、小萌に弟子入りしてこれからも彼女から料理を習う約束をしていた。

上条「しかし、まさかインデックスがこんな豪勢な物を作るとは……夢じゃないよな……?
    というか小萌先生もよくこいつを改心させることが出来たな……
    あの人はいったい何をしたんだろうか……」

禁書「さあさあ、食べて食べて! イギリス料理のフルコースなんだよ!」


 完全記憶能力者のインデックスが本気でレクチャーを受ければ、
 たった数時間でもそれなりの物を作れる程度の腕前にまで上達していた。

上条「どれどれ、もぐもぐ……、こ、これは……」

禁書「う、うん」どきどき

上条「まっずぅ!!!」ブバァー!!

禁書「ええー!?」がーん


 2人にはこれからも前途多難な道が続きそうだった。



                            ――END









 ※イギリス料理がまずいというのは有名な話である。

以上でおしまいです。
読んでくれた人ありがとうございました。

ちなみに>>1がインデックスの事が嫌いとか、そういうわけでは決して無いです。

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