QB「君と契約して、インキュベーターになろうかな!」(178)


病院



カツ カツ カツ…



やあ、僕はキュゥべえ。 本名はインキュベーターだ。

少女と契約して奇跡を起こし、魔法少女にするのが仕事さ。


QB「……315号室、新しい病室はここだね」



魔法少女になった娘は、人知れず魔女と戦わなくてはならない。

魔女は人を襲い、場合によっては死をもたらす存在だからね。


QB「入っていいかい?」

QB「……返事が無いけど、入るよ」


ガラララララ…



それに、ソウルジェムを浄化するには魔女の落とすグリーフシードが必要だ。

彼女たちは自分のためにも、戦い続けるしかない。

もちろん、それに見合うだけの奇跡を起こしているんだから当然のことだ。

……しかし、例えば目の前の彼女のように、それを僕のせいにして恨む娘もいる……


QB「やあ暁美ほむら、具合は……」

ほむら「………っ!!」ブンッ!

QB「きゅっ!」



………………………




ほむら「ぜえ……ぜえ……」

QB「……ひどいじゃないか、いきなり枕を投げるなんて」

ほむら「うるさい……近づかないで」

QB「やれやれ……」


……というのは、みんな彼女の……暁美ほむらの妄想なんだけど。


QB「……改めて、具合はどうだい? ほむら」

ほむら「……どうもしないわ」


QB「いや……ついこの間まで心臓を悪くしていたんだ」

QB「あまり無理はしない方が……むきゅっ!」ボフッ

ほむら「……いいから出て行って」

QB「……やれやれ」


………………………………………



残念ながら、僕は宇宙からやって来た謎の生き物でもなんでもない。


確かに、僕は不自然な白髪に赤い瞳、白人のような肌を持っている。
でも、それは生まれつきの体質だ。

キュゥべえというあだ名も、僕の名前をもじっただけのもので、インキュベーターなど微塵も関係ない。

彼女が僕を見てあの妄想をふくらませたのか、僕がたまたま設定に合っていたのか……
どちらかは知らないが、困ったものだよ。


……僕は新米の精神科医で、彼女を治療しなければならない立場だ。

そのためには当然、彼女と会話し、その心の内を観察することが必要なんだけど……


QB「そういえば、君に伝えたいことがあったんだ」

ほむら「……何? それだけ伝えたら出て行ってちょうだい」


QB「まあまあ、そう構えずに話を聞いてうきゅっ!」ボフッ

QB「……まったく非合理的だよ、布団まで投げてどうすはきゅっ!」バシャッ

QB「ぷはっ……ほむら、相手に水をかけるというのは流石にむきゅっ!」ゴツン


痛い痛い。 いくら雑誌とはいえ、固いものを顔に向かって投げるなんてどうかしてるよ。

……このように、彼女とはまともに話すのすら難しい。


QB「いたたた、どうやらかどがぶつかったみたいだよほむら」

ほむら「知らないわよ、言うことがないならさっさと出て行ってくれるかしら」

QB「昔は気弱な娘だったという話なんだけど……どうしてこうなったのかな」

ほむら「…………」スッ

QB「待ってくれ、これはまどかに関する話だよ」


ほむら「っ……」

QB「気になるだろう? だからそのガンガンを下ろしてくれるかな」

ほむら「…………」スッ

QB「ふう、やっぱり人間が耐えられるのはジャンプまで……」

ほむら「いい加減にして」スッ

QB「ごめんごめん、今話すよ」

ほむら「……ふん、白々しい」スッ

ほむら「代わりならいくらでもあるんでしょう?」


QB「ああ、そうだったね……ところで、まどかだけど」

ほむら「…………」

QB「今日はお見舞いに来れないそうだよ」

ほむら「…………」ブンッ

QB「きゅっ!……やっぱりそうなるか」ゴツン

ほむら「出て行って」

QB「……わかったよ」ガタッ


ガラララララ… バタン


……と、いつもこんな感じなのさ。


ちなみにまどかというのは、ほむらの唯一の友人だ。
相当気に入っているようで、彼女にだけは心を許しているみたいだね。

……ちなみに、僕はまどかともちょっとした付き合いがある。
どうすればダメージ無しにほむらと話せるようになるのか、教えてもらおうと思ったんだ。

今のところ、成果は挙げられてないけど。


病室を出た僕は、昼食をとるために一階へと向かった。

そういえば、インキュベーターは使い終わったグリーフシードを食べるらしい。
また、死んだ……というかほむらに殺された場合、その死体を食べることもあるそうだ。
それで証拠隠滅をはかっているとか……随分と合理的で、この設定は結構気に入っている。

今はなぜか力を失っているが、彼女が魔法少女としてブイブイ言わせていたころは
僕を殺すのが習慣のようになっていた、とのことだけど。

そのインキュベーターとやらと違って、この体はひとつしか無い。
あまり粗末にされても、困るな……


さて、僕は食堂についた所で、ある顔見知りに出会った。

ヘアピンで止めたショートヘアが特徴的な、活発そうな女の子だ。


QB「やあ、さやかじゃないか」

さやか「え?……ああ、キュゥべえ先生! こんにちは」

当たり判定が狭いからよけ易くなります


QB「こんにちは……今日はどうしてここに来たんだい?」


彼女は美樹さやか。 まどかの友人で、よくこの病院に来る娘だ。
なんでも、幼馴染みが入院しているんだとか。


さやか「それはねー……えへへ」

QB「? なんだか妙に上機嫌だね」


さやか「それが……恭介の腕が、治ったんですよ」


QB「……なるほど、それはいい知らせだ」

QB「だからそんなに嬉しそうなんだね」

さやか「まあね……やっぱり嬉しいです」

さやか「また、あいつのバイオリンが聞けるんだなあ……って思うと」

QB「そうか……」

QB「……でも、どうしていきなり良くなったんだい?」

QB「現代の科学では治せない、と聞いたけど……」


さやか「さあ……担当の先生も首かしげてましたけど」

さやか「まったく奇跡としか言いようがない、って」

QB「へえ、そんなこともあるんだね」

さやか「奇跡ってあるもんなんですねー……あっ」

QB「? どうしたんだい?」

さやか「あー……もしかしたらアレが良かったのかなあ、なんて」

QB「アレ?」

さやか「アレですよ、最近話題の……ほら、アレ」


さやかが指さした先には、食堂そなえつけのテレビがあった。

当然、テレビがアレというわけではないだろう。 ……どうやら、写っているのはニュース番組のようだ。

ちょっと前にいきなり人気が出始めた、とある新興宗教について取材している。


さやか「実は、私もお祈りに行ってきたんだよねー」

さやか「教祖様はいい人だったし、言ってることも結構まともだったよ」


さやか「娘さんとも仲良くなれたし、行ってよかったなあ……」

QB「へえ……でも、君がそんな所に行くなんて、ちょっと意外だね」

さやか「うん、私も最初は興味なかったんだけど……まどかがあんまり勧めるもんだからさ」

QB「まどかが……それも意外だ」

さやか「そう? それはいかにもって感じじゃない?」

QB「まどかはああ見えて現実的な所があるからね、神仏の類は信用しないと思ってたよ」


さやか「……そんな娘だったっけ?」

QB「……ほむらと比べて見るからそう思うのかもしれないね」

さやか「あー……ほむらねえ」

さやか「あいつ、まだ変なこと言ってるんですか?」

QB「言わなくなってたら苦労しないよ」

さやか「まったくしょうがないなあ……まどかもなんであんなのに肩入れしてるんだか」

QB「実は随分昔からの知り合いらしいからね、本人達にしかわからない事情があるんだろう」

さやか「え、そうなんですか?」

QB「ほむらがそう言ってたよ」

さやか「なーんだあ……」


QB「まあ、僕は随分と助かってるけど」

QB「まどかが居なければ、彼女と接するのはもっと大変だったろう」

さやか「ベッタベタだもんね、あいつ……まどかにだけは」

QB「彼女の話をまともに聞いてくれるのはまどかだけだからね」

さやか「ほっときゃいいのに……あ、明日は来るって言ってましたよ」

QB「それは良かった、ほむらも喜ぶよ……ところでさやか」

さやか「何?」


QB「……そろそろ食べないかい?」


………………………………………………






ほむら「…………」ゴソゴソ

ほむら「……あった」

ほむら「ふう……やっぱり眼鏡が無いとよく見えないわね」

ほむら「…………」

ほむら(……ソウルジェムも、武器も、身体能力の向上も無い)

ほむら(やっぱり、今の私はただの人間なのね)


ほむら(おそらく美樹さやかや巴マミ、佐倉杏子も……)

ほむら(……そしてまどかも)

ほむら「…………」

ほむら(……最後の、ワルプルギスの夜との戦い)

ほむら(あの時、遠くにいて聞き取れなかったけど……まどかがキュゥべえに何かを話していた)

ほむら(時間を巻き戻した覚えはない……つまりあの時、まどかが何かをした)

ほむら(それで、この世界に来た……?)


ほむら「…………」

ほむら(……こうなることを望んでいた、はずなのに……なぜか不安になる)

ほむら(今までのこと、もしかしたら本当に……)

ほむら「無かった……なんて」

ほむら「…………」


ほむら「違う、よね……まどか……」



……………………………………………………



翌日



ガラララララララ


QB「やあほむら、調子はどうだい?」

ほむら「…………」

QB「……?」


……何も飛んでこない。


医者に枕を投げつける患者なんてそう居ないものだけど、彼女の場合はそれが普通だ。

枕に抱きついて丸くなっているのを見るに、どうやら随分落ち込んでいるようだけど……

ちょっと心配だな。

④ヽ(´・ω・`)ノ④面白い
④ヽ(・ω・` )ノ④
 ④(ω・`ノ④
  (・`ノ④ )
  (④  )④
④ヽ(   )ノ④
 ④(   ´)ノ④
  (   ´ノ④
  ( ノ④ )
  ④,´・ω) 支援します
④ヽ( ´・ω・)ノ④
④ヽ(´・ω・`)ノ④
④ヽ(・ω・` )ノ④ でももう寝る
 ④(ω・`ノ④
  (・`ノ④ )
  (④  )④
④ヽ(   )ノ④
 ④(   ´)ノ④
  (   ´ノ④
  ( ノ④ )
  ④,´・ω)
④ヽ( ´・ω・)ノ④ 明日まで残っていたら
④ヽ(´・ω・`)ノ④ とっても嬉しいなって



QB「どうしたんだいほむら、今日はあまり元気が無いね」

ほむら「…………」

QB「そんなに枕を抱きしめて……ようやく今までの無礼を詫びる気になったのかい?」

ほむら「……うるさい、出て行って」

QB「昨日まどかに会えなかったからって、あまりふてくされてもらっても困るよ」

ほむら「うるさいっ!」ブンッ!

QB「……おっと、おとなしく食らうと思ったら大間違いさ」ガシッ

ほむら「あっ……」


腕を掴んで枕投げを阻止すると、ほむらはどこか焦ったような顔で僕を見つめてきた。

その顔はやけに青ざめていて、掴んだ腕からは小刻みに震えが伝わってくる。


QB「……本当に大丈夫かい? もしかして具合が悪くなったんじゃ」

ほむら「やめてっ!!」バシッ

QB「っ!……」

ほむら「何で……」

QB「……ほむら?」


ほむら「……何で、何であなたが冗談なんて言うの!?」

ほむら「何で私の心配なんかするの!?」

QB「…………」


ほむら「これじゃあまるで……人間、みたいじゃない」



それは、人間だからね。 ……とは言い出せない雰囲気だ。


おそらく、彼女は今とても不安定になっているんだろう。
なんとかして安心させてあげたいが、どうやら人間らしい行動は逆効果らしい。

……こういう時は、あまり触れないのが一番だ。


QB「……わかった、そろそろ出ていくよ」

QB「そうそう、今日はまどかが来るらしいよ、楽しみに待っているといい」スタスタ


ガララララララ… バタン


ほむら「…………」

……………………………………………


さて、そうこうしている間にまどかの下校時刻になったよ。

……その間ぼくが何をしていたか? それは、他の患者を診ていたけど。

基本的に、ぼくの仕事は流れ作業だ。 ほむらが特別面倒な娘なのさ。

まあ、彼女にかかりっきりになるのも悪くないけど……っと、来たきた。

……あれ? 隣に居るのは……


まどか「……先生! こんにちは!」

QB「やあまどか、待ってたよ」

QB「それと……久しぶりだね、マミ?」


マミ「あら……覚えててくれたの? キュゥべえ」

まどか「えっ、知り合いなんですか?」

マミ「実は、ちょっとね」

QB「……昔彼女が入院してたときに、僕の所に回ってきたのさ」

まどか「え……? でも、先生って確か……」

マミ「事故でね……家族が死んじゃったの」

マミ「それで、一時期かなり参っちゃってて……」


まどか「あ……す、すみません……」

マミ「良いのよ、今は全然平気」

マミ「……キュゥべえのおかげで、気持ちに整理を付けられたから」

QB「よしてくれ……僕は大したことはしてないよ」

QB「体と違って心は手術できない、自分で回復するしかないのさ」

マミ「でも、あなたがそばに居てくれたから……頑張れたんだと思うわ」


QB「……まあ、毎晩本を読んで聞かせたのが無駄だとは思いたくないけど」

マミ「や、やめてよ鹿目さんの前で……」

まどか「ウェヘヘ……何かいいですね、そういうの」

マミ「……まあ、誰かが一緒にいてくれるっていうのは心強いものよ」

マミ「だから……あなたも行ってあげたらどうかしら? 彼女の所に」

まどか「あ……」


QB「僕からも頼むよ……今日は調子が悪いみたいでね、僕じゃどうにもならない」

まどか「……はい! 行ってきますね!」ダッ


タッ タッ タッ タッ……


マミ「ふふ……彼女も幸せね、あんなお友達が居て」

QB「……君もだろう?」

マミ「そうね、私も幸せ者だわ」

QB「まさか、彼女と君が友人だったなんてね……びっくりしたよ」

マミ「……そう? あなたのおかげなのだけど」

QB「え?」


マミ「美樹さんとあなたの話をしているのを聞いて、そこからね」

マミ「……まあ、それだけじゃないけど」

QB「……? どういうことだい?」

マミ「うーん……なんというか、鹿目さんとあなたって似てるのよ」

QB「僕とまどかが……?」

マミ「外見や性格は全然似てないけど……」

マミ「……一緒にいると、落ち着くというか……なぜか安心するの」


QB「……ほむらは逆に暴れだすけどね」

マミ「あら、じゃあ私だけかしら?」

QB「ああ、そんなことを言われたのは初めてだよ」

マミ「そう? キュゥべえって、わりとみんなから好かれてるじゃない」

QB「患者に嫌われてれば医者失格さ」

マミ「……結構気にしてるのね、暁美さんのこと」

QB「まあね……」

QB「……なんというか、彼女は特殊なんだ」


QB「変なことを話してはいるけど……おかしくなっているようにも、嘘をついているようにも見えない」

QB「僕のことも……多分本気で憎んでいる」

マミ「……でも、あなたは何もしていないんでしょう?」

マミ「やっぱりただの妄想じゃないの?」

QB「……もちろんさ」


……だけど。


僕は時々、彼女の言っていることが全部本当なんじゃないかって思うこともある。


普通に考えて、そんなことはあり得ない。

頭ではそうわかっていても、僕はなぜか彼女の、魔法少女達の話を真面目に聞いてしまう。

逆に言えば、それだけの説得力があるんだ。


あの……とても女子中学生とは思えない、死人のような目付きには。


マミ「……キュゥべえ?」

QB「……え?」

マミ「大丈夫? 疲れてるの?」

QB「あ、いや……平気さ」

QB「ありがとう、マミ」ナデナデ


マミ「ん……子供扱いしないで……」

QB「ごめんごめん」

マミ「……もう」


………………………………


???「…………」

???「……困ったなあ」

???「彼のことは、後でなんとかしようか……」


???「……きゅっぷい」


………………………………………


病室



ほむら「……いい? 約束よ」

まどか「うん……わかった」

まどか「キュゥべえとは、絶対契約しないから……」

まどか「……安心して」

ほむら「ありがとう……」

ほむら「……本当は、あいつに近寄っても欲しくないんだけど……」

まどか「……ごめんね」


まどか「でも、ほむらちゃんに会いたいから……」

まどか「……迷惑かな?」

ほむら「そっ、そんなこと無いわ! ……すごく、嬉しい」

まどか「えへへ……ありがと」

まどか「そう言ってくれると、私も嬉しいよ」

ほむら「…………」

まどか「……じゃあ、今日はこれで」ガタッ

ほむら「あっ……!」ギュッ


まどか「……? どうしたの?」

ほむら「えっと……その……」

ほむら「……もう少し、居てもらっても……良い?」

まどか「…………」

まどか「……うん、いいよ」


…………………………………



マミとまどかが帰った後、僕はほむらの病室へと向かった。


まどか来た後のほむらは機嫌が良い。 その間に少しでも関係の改善を……あれ?

……ドアをノックしたのに、返事が無い。

もちろん、倒れてるなんてことは無いだろうけど……塞ぎ込んでいる可能性は十分にある。


QB「……ほむら?」


恐る恐るドアを開けて病室を覗き込むと、そこには意外な光景が広がっていた。


ほむら「すう……すう……」

QB「……寝てるのか」


まどかが帰った後は、大抵、嬉しそうにそわそわしてるか落ち込んでるかの二通りなんだけど……

僕が来ることも忘れて、気持ちよさそうに寝ている。


QB「何かいいことでもあったのかな……」

QB「……ん?」


……サイドテーブルに、紙が置いてある。


どうやら置き手紙らしい。 ワープロで打ったような文字で、僕宛の伝言が書かれている。


QB「キュゥべえへ……」

QB「見せたいものがあるので、公園に来てください……?」

QB「書いたのは……まどかか」

QB「…………」


行かない理由は……特に無い。

僕はもう一度ほむらの寝顔を見てから、置き手紙をポケットに入れて病室を出た。



……………………………………


公園



チャリン ピッ… ゴトン


まどか「…………」プシュッ


コッ コッ コッ…


まどか「ぷはっ……」

まどか「……そろそろかな?」


まどか「…………」ゴソゴソ


チャリッ…


まどか「…………」

まどか「ほむらちゃん、ごめんね……」



まどか「約束……守れなくって」



…………………………………


まどかは公園の自販機に寄りかかって僕を待っていた。

随分待っていたのか、暇そうにリボンの端をいじっている。


QB「お待たせ、まどか」

まどか「……ああ、先生」

まどか「遅かったですね」

QB「僕にも一応仕事が有ってね……ひょっとして、随分待っていたのかい?」

まどか「いえ……ほむらちゃんは?」


QB「ぐっすり眠ってるよ、体調も悪く無いみたいだ」

まどか「そうですか……良かった」

QB「……ところで、見せたいものって何だい?」

まどか「ああ……そうでしたね」

まどか「でもその前に……聞いていいですか?」

QB「なんだい?」


まどか「先生は……ほむらちゃんのこと、どう思ってます?」


QB「……どう、と言われても曖昧な答えしか返せないよ」

まどか「じゃあ言い方を変えますね」

まどか「好きですか? ……大切に思っていますか?」

QB「…………」

QB「……彼女は僕の患者だ」

QB「当然大切に思っているし、人間的にも嫌いじゃないよ」

QB「むしろ、君と居る時のほむらは……好きさ」


まどか「……そうですか」

QB「どうしてそんなことを聞くんだい?」

まどか「…………」

まどか「……私も、ほむらちゃんが好きです」

まどか「だから、彼女のために色々なことをしてきた」

QB「…………」


まどか「……でも、私一人じゃどうにもならないことも有ります」


まどかはそこで一旦口を閉ざし、僕の顔をじっと見つめた。

表情のない、カメラのように無機質な目だ。


まどか「先生も、ほむらちゃんを大切に思っているのなら……」

まどか「……協力してもらえませんか?」

QB「……僕に出来ることなら……」

まどか「…………」


QB「……っ!」


まどかが前に一歩踏み出し、僕は後ずさりする。

僕は……彼女が怖いのか? ただの女子中学生なのに?

あの、いつも優しい……まどかなのに?

いや、でも……


まどか「……本当ですか?」

QB「……え?」

まどか「もし本当にそう思ってるなら、私と約束を……いや」



……これは本当にまどかか?



まどか「僕と……契約してよ」



違う。


目の前に居るのは、まどかじゃない。

いや、今まで僕が会っていた、僕の知るまどかではあるだろう。

けど、ほむらの知っているまどかではない。

彼女が唯一笑顔を見せる、そんな存在にはとても見えない。

しかも、契約という言葉はほむらに対するNGワードだ。


それは彼女の敵……インキュベーターのセリフなのだから。


QB「……君は一体」

まどか「あっ……」

QB「……?」

まどか「…………」


……まどかは僕の後ろをじっと見つめている。

今の彼女に背を向けるのは、すごく嫌だけど……

結局好奇心が勝り、僕は振り返った。


そこには、いつの間にか忍び寄っていた……何かが、立ち尽くしていた。


???「――――――」



QB「……え?」

まどか「…………」


それは、黒い彫像のようなものだった。 のっぺらぼうで、手足も不明瞭だ。

一見すると巨大なこけしのようだが……間違いなく動いている。


???「―――――」

QB「あ……えっと」

まどか「……危ないから、ちょっと動かないでくれ」


QB「まどか? それはどういう……うわっ!!」

???「」


顔のすぐ横を、猛スピードで何かが駆け抜けていった。


怖いと感じる暇も無く、こけしの頭に光でできた矢が突き刺さる。

……これが僕の頭に刺さらないように警告をしたのであれば、射手はまどかということになるけど……


まどか「今のは魔獣だよ」

QB「…………」

まどか「魔法少女も魔女も消えた今、僕の敵となっている存在さ」


QB「…………」

まどか「……何にそんなに驚いているんだい?」

QB「……君の格好がいきなり変わっていて、おまけに武器まで持っていることに」


振り向くと、まどかの服装は制服から白いドレスに変わっていた。

血のように赤い円環状の模様が、なんとも不気味なデザインだ。

いつの間に着替えたのか……なんて考える人は居ないだろう。

彼女はこの一瞬で身体中の色素が抜け去り、さらに髪が腰まで伸びていた。

しかもその髪留めが……完全に、重力を無視している。


まどか「……変身したに決まっているじゃないか」


QB「そんな軽々しく言われても困るね」

まどか「魔法少女のこと、ほむらから聞いているんじゃないのかい?」

QB「まさか……本当に居るとは思わないよ」

まどか「……そうやって、人間はいつも自分の知識だけが現実だと思い込む」

まどか「わけがわからないよ」

QB「…………」

まどか「納得できないのかい?」

QB「……当然さ」


まどか「なら……見せてあげようか?」

QB「っ!」


無造作に伸ばされたまどかの手が、僕の額に触れた。

そこから頭全体へ、電気が走ったような感覚が広がっていく。


まどか「ほむらの……魔法少女たちの戦いを」


………………



その数秒間、僕の頭の中で、様々な映像が流れては消えていった。


事故にあい、燃え盛る車の中から必死で手を伸ばすマミ。

学校の屋上で幼馴染のことを想うさやかと、それを心配そうに見つめるまどか。

ボロボロの教会に一人佇む、あれは……佐倉杏子か。

その周りに現れる、白い生き物には見覚えがある、気がする。


彼女たちの痛ましい戦いと、無情な死。

そして……その全てを繰り返して戦い続けるほむら。


……僕はようやく、彼女の苦しみを知った。


…………………



QB「……っ!」

QB「はあっ、はあっ……」

まどか「……見終わったようだね」

まどか「ちょうど、こっちも全部終わったところだよ」

QB「?……って、なんだいこれは……」


辺りを見回すと、さっきと同じ魔獣の死体が山のように積み上がっていた。

剣や槍で磔にされたもの、光の矢でハリネズミのようになったもの。

中にはリボンで締め上げられたまま蜂の巣になっているものもある。


まどか「今日は瘴気が濃いね……次から次へと湧いてくる」

QB「全部、君一人で?」

まどか「僕は時間を止められるからね、このくらい一瞬あればわけないさ」

QB「…………」

QB「……ほむらたちに関する全てを見ても、まだわからない事がある」


まどか「…………」

QB「映像には、魔法少女と魔女、そしてインキュベーターが出てきた」

QB「でも、君のやっていることはそれじゃあ説明が付かない……」


QB「……君は一体何なんだい?」


まどか「…………」

QB「まどかじゃないことはわかる。 でも、キュゥべえである筈もない」

QB「……君は、魔法少女なんだろう?」

まどか「いや、僕は魔法少女じゃない」

QB「……? じゃあ……」

まどか「インキュベーターでも無いし、人間でも無い」



まどQ「「私と僕……魔法少女とインキュベーターの、成れの果てさ」」



………………………


―――――――――――――――――――


QB「……数多の世界の運命を束ね」

QB「因果の特異点となった君ならば」

QB「どんな途方のない望みだろうと叶えられるだろう」

まどか「……本当だね」

QB「……さあ、鹿目まどか」


QB「その魂を対価にして、君は何を願う?」


まどか「すう……はあ……」

まどか「……私は――」


―――――――――――――――――



まどQ「……すべてのインキュベーターを、人間に変えたい」


まどQ「それが私の願いだった」

QB「……消し去りたい、じゃなくて……人間に?」

まどQ「うん……」

まどQ「……インキュベーターは、人類の文明の発展に大きな影響を与えてきた」

まどQ「それを無かったことにしないための、私なりの工夫だよ」

QB「……随分と穴がありそうだけど……」

QB「その試みは、成功したのかい?」


まどQ「まあね……ただ、やはり少しは遅れてしまったみたいだ」

まどQ「今でこそ田舎呼ばわりされる群馬だけど、あの時間軸では随分発展していたから」

QB「……想像がつかないね」

まどQ「まあ、インキュベーターは人間となった後も、知識や技術は有していたし……」

まどQ「今の文明自体が無くなってしまうといった、最悪の事態は避けられた」


まどQ「……それよりも、失策だった……というか予想外だったのは」

まどQ「矛盾した願いを叶えようとした時……この魂がどうなるのかってことさ」

QB「……キュゥべえが人間になれば、まどかの願いは無かったことになる……」

QB「確かに……矛盾してるね」

まどQ「……インキュベーターである僕が残ったとしても、それは一個体のみだ」

まどQ「しかも、その時はほむらに殺されたばかりで誰の願いも叶えていない……」

まどQ「それくらいなら、問題ないと思ったんだけど」


QB「でも、そうはならなかったんだろう……」

QB「……何が起こったんだい?」

まどQ「魔法少女としてのまどかと、インキュベーター……」

まどQ「2つの存在は互いを打ち消しあい、やがて始まりも終わりもない円環状の存在となった」

まどQ「相反する2つのものを、無理矢理存在させたいなら……一つにまとめてしまえばいい」


まどQ「……つまり僕らは、完全に同一化してしまったのさ」


QB「…………」

まどQ「……悲しそうな顔をしてるね」

QB「君は……悲しくないのかい?」

まどQ「悲しい、ような気はするけど……わからないよ」

まどQ「私の感情は、もう半分しか残っていないから……」

QB「…………」

まどQ「……でも、悪いことばかりじゃないよ」

まどQ「宇宙の彼方に居るインキュベーターも、同じく人間となった……」

まどQ「もう、魔法少女も魔女も生まれることは無いだろう」


QB「君は? ……君は魔女にならないのか?」

まどQ「……僕の側から私の感情を操作できるから、魔力は無限にある」

まどQ「魔女にはならないし、戦いも苦じゃないよ」

QB「……じゃあ、僕に何を頼むつもりだったんだい?」

まどQ「…………」

まどQ「……ほむら……ちゃん、のことだよ」

まどQ「彼女は時間を操る能力を持っていたから……全ての記憶を留めている」

QB「…………」

まどQ「だから、もし……まどかと、キュゥべえが」


まどQ「ほむらちゃんが守ろうとしていた者と、憎むべき敵が……一つになったと知ったら?」


QB「……そうか」

QB「君は、ほむらを絶望させたくないんだね」

QB「……それが君の、まどかの……最後の人間性というわけだ」

まどQ「そうかもしれないね……」

まどQ「……だけどそのために、あなたには……」

QB「…………」

QB「……わかってるよ」

QB「おかしいとは思っていたんだ……一族の中で、僕だけが何故こんな容姿なのか」

まどQ「…………」


QB「奇跡か魔法でもない限り、こんなことは無いと言われていたんだよ」



まどQ「……一緒に学校に行って、普通に暮らしていたら確実にボロが出る」

まどQ「だから……病院に押しこむしか無かった」

QB「それで、僕を悪役に仕立てたってわけかい?」

まどQ「……ごめんなさい」

QB「謝らなくて良いよ……君には色々と感謝してるから」

まどQ「………?」


QB「……マミの命を救ったのは、君だろ?」


まどQ「…………」



QB「彼女が助かった時も、同じ事を言われてた……」

QB「……これは奇跡だ、ってね」

QB「あの娘が僕にだけはなついたのも、まどかと仲良くなったのもそれが原因だろう」

QB「白い髪、肌に赤い目……君の格好は、まるで僕のコスプレじゃないか?」

まどQ「…………」

QB「何か間違ったことを言ってるかい?」

まどQ「……ああ、確かにそうだよ」

まどQ「僕がそういうことをするのは……意外かな?」

QB「……インキュベーターの仕事は奇跡を起こすことだ」

QB「別におかしなことはしてないよ」



QB「思えば、さやかの幼馴染を治したのも、佐倉杏子を助けたのも……」

QB「僕の周りだけでも、いろんな奇跡が起こってる」

QB「それに比べれば、僕の人生なんて安いものさ」

まどQ「あなたには、関係ない話じゃないか……」

まどQ「……わけがわからないよ」

QB「……君にもいつか、わかる時が来る」

まどQ「………?」

QB「まあいいさ……それより、僕は青鬼役を続ければいいんだね」



まどQ「……いいのかい?」

QB「ああ、ほむらは僕の患者だ」

QB「彼女のためにできる事ならなんだってするよ……あっ」

まどQ「……?」

QB「そういえば……」


QB「……確か、君と契約すれば、願い事をひとつ叶えてくれるんだったね?」ニヤッ



……………………



病院



カツ カツ カツ…


……結局、僕らは負けたんだろう。

魔女でも、インキュベーターでも無い何かに。


まどか「3、1、5……大丈夫、ここで合ってるよ」



マミの家族はもう帰らないし、さやかは友人と同じ幸せを共有することはない。

杏子の父親は真に理解されたわけじゃなく、宇宙はだれかを犠牲にすることでしか救えない。


まどか「……ほむらちゃん、入って良い?」

ほむら「……どうぞ」


ガララララララ…


本当は奇跡なんて無いのかもしれない。

誰もが幸せになったように見えても、何処かで誰かが犠牲になっている。


そう、例えば僕が……


まどか「……具合、どう?」



ほむら「……悪く無いわ」

まどか「そ、そう? なら良かっ……」


さやか「やっほー、元気ー?」ズカズカ


ほむら「……たった今悪くなったけど」

さやか「ああん? 何よ、厭味ったらしいわね」

杏子「まあまあ落ち着けって……せっかく見舞いに来たんだからさ」トテトテ

さやか「えー?」

ほむら「……まどか、これは……」


マミ「あら……あなたが暁美さんね? 噂はよく聞いてるわ」スタスタ


ほむら「…………」


マミ「あなた、魔法について興味があるんでしょう? 実は私も結構好きでね……」

ほむら「…………」

マミ「今日はたっぷり話を聞こうと思って来たのよ!」

ほむら「………ハア」

杏子「あ、それあたしも聞きたい」

さやか「え? あんたもそういうのに興味あるんだ……へー」


杏子「……何だよ? 悪いかよ……」

さやか「いや? ちょっと意外だなー、と思って」ニヤニヤ

杏子「くっ……」

マミ「あらそう? 佐倉さんってそういうイメージがあったけど……」

マミ「ほら、十字架が入った服着てるし」

杏子「!?……っち、違う! これは親父が……」

さやか「良いじゃん、認めちゃいなよー」

杏子「さやか、てめえ……!」

さやか「やーいやーい」

杏子「」ブチッ



ドタバタ ドタバタ パリーン ギャー…


ほむら「……まどか」

まどか「な、何かな……」

ほむら「今日は随分と大人数なのね?」

まどか「ウェ、ウェヘヘヘヘヘ……」


廊下


QB「……やってるね」

QB「まあ、社会復帰の為には仕方がないことさ」

QB「許してくれほむら……僕だって好き好んで……」


ドガァン! マドカァー! ホムラチャン!?


QB「好き……好んで……くっ」

QB「……ふっ、くくっ……」

QB「あっはっはっはっは……むぎゅっ!」ゴスッ


ほむら「はあ……はあ……」

ほむら「……丸聞こえよ」

マミ「き、キュゥべえ!?……にお見舞いのメロンが……」

さやか「マミさん、それよりもこっち助けてー!」

杏子「そういやあたし達、最初は殺しあう仲だったっけねえ……!」

さやか「ぎゃああああっ!」

ほむら「あなた達……一体何しにきたの?」


まどか「ほ、ほむらちゃんを、元気づけようと……」

ほむら「……私は、病気でもなんでも無いわ」

まどか「じゃ、じゃあ!」


まどか「また……いつか、学校に来れるかな?」


ほむら「え、ええ……?」

まどか「……ウェヘヘ!」

QB「…………」



……それでも、僕は幸せだけど。



……………………………


まどQ「……願い?」

QB「ああ、叶えてくれるんだよね?」

まどQ「それは……いいけど」

QB「本当だね?」

まどQ「うん……あなたは何を願うの?」

QB「……ほむらの願いを、叶えてやって欲しいんだ」

まどQ「ほむらちゃんの?」


QB「そう……彼女との出会いを、やり直してやってくれないか」



まどQ「……! そ、それは……」

QB「言ってる意味、わかるかい?」

QB「……もう一度、学校に通わせたいんだ、彼女を……君と」

まどQ「…………」

QB「もちろん、すぐにとは言わないさ」

QB「君が彼女を迎えられるようになるまで、僕はキュゥべえとしてほむらのそばに居る」

まどQ「……でも、私はもう……」


QB「大丈夫、いつか取り戻せるよ……そのために、僕も協力するから」

まどQ「…………」

まどQ「……わかった、それがあなたの願いだね?」

QB「そう来なくっちゃね!」

まどQ「……きゅっぷい」

QB「さて、じゃあ約束通り……と言っても期限付きだけど」




QB「君と契約して、インキュベーターになろうかな!」






以上 支援ありがとうな

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 \      ,へ.人ゝ __,,.--──--.、_/              _,,..-一" ̄
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      ∫  /         ,、.,、       |,,-¬ ̄   _...-¬ ̄
 乙   イ /    /   ._//ノ \丿    ..|__,,..-¬ ̄     __,.-一
      .人 | / ../-" ̄   ||   | 丿 /  ).  _,,..-─" ̄   ._,,,
 マ    .ゝ∨ / ||        " 丿/ノ--冖 ̄ __,,,,....-─¬ ̄
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