照「咲、誕生日おめでとう」 (89)

幼照「咲、目を閉じて」

幼咲「え?なぁに」

幼照「いいから、目を閉じて」

幼咲「う、うん…」

幼照「……」

幼咲「お、お姉ちゃん…」フアンゲ

幼照「…いいよ、開けて」

幼咲「……」オソルオソル

幼咲「!!」

幼照「咲、誕生日おめでとう」

幼咲「うわぁーすごいすごい!きれいな花!」

幼照「コスモスっていう花だよ」

幼咲「コスモス…へぇコスモスかぁ」キラキラ

幼照「うん」

幼咲「どうやって、こんなにたくさん集めたの?」

幼照「んー秘密」

幼咲「えー」

幼照「咲に、似合うと思って」

幼咲「そ、そんな…///」テレテレ

幼照「ほら、よく似合ってる」

幼咲「えへへ、そうかな…?」

幼照「うん。可愛いよ」

幼咲「ありがとう!お姉ちゃん!」

幼照「……」

幼照「ねぇ、咲。咲って名前は…」

--------------
-------
--

照「……っ!!」パチッ

照「ゆ、ゆめ…?」

照「……」キョロキョロ

照「まだ、6時…」

照「はぁー…」

どうして、こんな夢を見たのだろう?
もうずっと、幼いころの夢を見ていなかったのに。

照「あっ…」

照「10月27日…」

そうか、今日は咲の誕生日。
それであんな夢を見たのか。

幼いときの記憶。それは、あまり思い出したくない
でも、大切な記憶。

照「咲…」

咲は、私の妹は、あまり笑わない子だった。
別に、根暗なわけじゃない。ただ、とても人見知りをした。
親戚や近所の人にも、いつもおどおどとしていて
せっかく、親切な人にアメなんてもらっても、泣きそうな顔をする。

けれど、私には違った。
私が思い出せる咲の表情は
恥ずかしそうだったり、嬉しそうだったり、ときには泣きながらだったりしたけれど
どれも、笑っている。
咲は、私の前ではよく笑う、可憐な女の子だった。

そうだ。あの頃、咲を笑わせることができるのは私だけだった。
そのことが、なによりも誇らしかった。

あぁ、でも


「どうして、なにも言ってくれないの…?」


胸が、締めつけられる。


「お姉ちゃん!!」


あの笑顔を見ることは、もう、無い。


私が、母と一緒にあの家を出た日から。
ううん。あの出来事があった日から…

淡「テルー!!」ドンドン

照「」ビクン

ぼーっとしていた。
もう、みんな起きてくる時間か。

照「ど、どうしたの?日曜の朝から」

淡「なに言ってんのテルー?日曜だから起こしてあげたんじゃん!!」

照「ずっと、起きてたよ」

淡「え?そうなの?返事しないから寝てるのかと思った」

照「あぁ、ちょっと考え事してて」

淡「まぁ、起きてたなら話は早いよ!遊びに行こう!」

照「え…休日に?」

淡「休日だから遊びに行くんだよ!」

照「あー…どうしようかな…」

誠子「行きましょうよ!先輩!」

照「え、誠子も?」

菫「そうだぞ、照。休みの日くらい麻雀のことは忘れろ」

尭深「茶葉を切らしていたので、ついでに…」

照「……」

淡「ほらーチーム虎姫全員集合だから!」

照「いや、ちょっと私は…」

淡「テルがサボりとかないよ!」

照「……」

照「あー…なんか、体がダルい…」

淡「えっ、大丈夫?テルー」

菫「ついていた方がいいか?」

照「いや、そこまでじゃ…」

尭深「季節の変わり目ですから、油断しない方が」

誠子「よし!今日は先輩の看病を…」

照「そ、それは大丈夫!!」

菫「そ、そうか?」

淡「気にしなくていいんだよ?テルー」

照「寝てればよくなるから。みんなは楽しんできて」

菫「照…」

照「じゃあ、そういうことで」パタン

---------

照「はぁーー…」ポフッ

照「サボっちゃったなぁ…」

ダルいのは、嘘じゃない。
頭が、いつもより重くて、とてもみんなと遊びに行く気分じゃない。

照「……」グゥーー

照「…お腹、空いた」

照「……」

人の誘いを断ると、なにもする気がおきないのはどうしてなんだろう?
布団の心地よさも手伝って、体を起こすことができない。

照「…いいや、もう一度、寝よう」

口に出してしまうと、すぅっと意識が遠のいていく。

宮永母「おかえり咲」

幼咲「ケーキだ!!」

宮永父「そうだよ。今日は、咲の誕生日だから」

幼照「ハッピバースデートゥーユー!ハッピバースデートゥーユー!」

宮永母「咲、誕生日おめでとう」

幼咲「えへへ、ありがとー!」

幼照「咲、何歳になったの?」

幼咲「5歳!!」

幼照「そっか、じゃあロウソクは5本だね」

幼咲「えー立てなくていいよー!」

幼照「どうして?」

幼咲「だって、ケーキが崩れちゃう…」

幼照「5本じゃ崩れないよ」

幼咲「崩れるよ!だって去年より多いもん!」

幼照「あはは、そっか」

幼咲「そうだよ!」

幼照「じゃあ、ロウソクはやめにしよう」

幼咲「うん!」

幼照「じゃあ、いただきます」

幼咲「いただきまーす」

幼照「……」モグモグ

幼咲「……」モグモグ

幼照「…咲、おいしい?」

幼咲「うん!!」

幼照「……」モグモグ

幼咲「……」モグモグ

幼照「…あれ?咲、プレート食べないの?」

幼咲「ふぇ?」

幼照「これ、食べられるんだよ」パクッ

幼咲「あっ…」

幼照「あ…」

幼咲「…っ…ぐすっ…」

幼照「ご、ごめん!悪気はなくて…」

幼咲「…えぐっ…うえーんー!」

幼照「か、代わりに!…は、ならないかもしれないけど、私のいちごあげるから…」

幼咲「えぐっ…いらない…」

幼照「そんなに好きだったんだ…」

幼咲「ち…ちがう…」

幼照「?」

幼咲「た、たべないで…とっておこうとおもったのに…ひっく」

幼照「え?どうして?」

幼咲「だって…『おめでとう』って…」

幼照「あー…」

幼咲「う、うれしかった…から…」

幼照「…でも、食べ物だからくさっちゃうよ?」

幼咲「えっ」

幼照「大丈夫。そんなに大事にとっておかなくても来年があるよ」

幼咲「ほ、本当に…?」

幼照「うん。来年も再来年も、ずっと」

幼咲「そ、そっかぁ…」ホッ

幼照「…ごめんね。勝手に食べちゃって」

幼咲「ううん。もういいよ」

幼照「やっぱり、いちご、あげる」

幼咲「んっ…」

幼咲「……」ムグムグ

幼照「…おいしい?」

幼咲「うん!」

幼照「そう」ホッ

幼咲「ありがとう!お姉ちゃん!」パァァッ

--------------
-------
--

照「……っ!!」パチッ

照「…また…ゆめ…」

照「来年も、再来年も…か…」

無責任なことを、言ってしまったな。

照「……」ポフッ

照「……」

照「……」ガバッ

今日は、何度寝ても同じような夢を見る気がする。

照「…そうだ。来週までに返さなきゃいけない本」

照「……」ペラッ

照「……」

照「……」ペラッ

照「…あれ?この人誰だっけ?」パラパラ

照「…あぁ、そうだ、妹だ」

照「……」

照「……」パタン

本の内容が、全然頭に入ってこない。

照「麻雀でも…」

照「あ」

照「淡たち、いないんだっけ…」

照「…ネトマでいっか」

PC「対局を開始します」

照「……」カチッ

PC「……」コトッ

照「……」カチッ

PC「……」コトッ

照「……」カチッ

PC「…ロン」

照「」ビクン

照「…ネトマ、嫌い」

だめだ。なにをしても集中できない。
原因は分かっている。

でも、だからって何かできるわけじゃない。

照「…散歩にでも、行こう」

---------

照「あーあ、淡たちにあぁ言ったのに」テクテク

外に出たら、少し気が軽くなった。
ここには、あの場所を思い出すものがない。

白糸台は、思ったより田舎で、でも長野よりは都会だった。

高層ビルが立ち並び、歩く人はたくさんいるのに、目が合うことはない。
東京はそんなところだろうと、思っていた。

しかし白糸台は、東京でもなかなか外れらしい。
低い戸建はたくさんあるし、人懐っこいおばさんと目が合えば挨拶くらいする。
思っていたより、あたたかい町だった。

でも、星は見えないし、高い山々だってない。
野生のコスモスも、咲いていない。

そうだ。あのコスモスは、野生のコスモスを摘んだんだ。
まだ、咲が行けないような、少し遠いところに咲いていたから。

照「コスモスかぁ…」

照「…え?」

驚いた。
あのときみたいな、コスモスが咲いていたから。

花屋「いかがですか〜」ニコニコ

バケツの中でだけど。

照「…えっと、綺麗ですね」

花屋「ふふ、コスモスですか?」

照「は、はい」

花屋「やっぱり、この季節はコスモスですよね〜」

照「そうですね…地元では、よく咲いていました」

花屋「あれ?お客様はこちらの方じゃないんですか?」

照「はい。実家は長野の方で…」

花屋「へぇ、長野!田舎ですね〜」

照「……」

花屋「あ、ごめんなさい!悪い意味で言ったんじゃないんですよ」

花屋「ただ、そんなに自然が多いところに咲いてたなら、すごく綺麗だろうな〜って」

照「…えぇ、とても綺麗でした」

花屋「ですよね〜。見てみたいな〜」

照「あの、それ、全部ください」


なにを、言っているんだろう?


花屋「え、全部?」

照「はい、そこにあるコスモス、全部ください」

花屋「は、はい、かしこまりました!」

照「プレゼント用でお願いします」


誰に、プレゼントするの?


花屋「はい!」

自分でも、よく分からなかった。
ただ咲が、この花に囲まれているところを想像したら、胸が高鳴った。

贈れるはずないのに。

そうだ、匿名でこっそり送れば?

いや、今日送っても届かない。
そもそも、花なんて送ったら萎れてしまう。

花屋「お待たせしました!」

照「…はい」ズシッ

なかなかの量だった。
本当に、どうするつもりなんだろう?

照「あの、やっぱりこれ…」

淡「あ、テルーじゃん!!」

照「!?」

花屋「ありがとうございました〜」

しまった。
断るタイミングを逃してしまった。

淡「寝てるんじゃなかったの!?」

照「いや、これはその…」

淡「てか、なにその花束!!」

照「あ、えぇっと、これは…」

菫「お、綺麗な花束だな」

尭深「コスモスですね」

誠子「コスモスの花言葉ってたしか『少女の純真ですよね〜」

淡「えっ!誠子って花言葉とか覚えてるタイプなの!」

尭深「…意外」

誠子「どういう意味だよー!」

照「……」

まぁ、いいか。
この花は、部室にでも飾ればいい。

淡「てか、テルー元気になったなら、ケーキ買いに行こうよ!」

照「ケーキ?」

尭深「近くに、有名なところがあるんですよ」

照「へぇ…」

誠子「結構前にできてたんですけど」

菫「部活が忙しかったからな」

淡「よーし!そうと決まったら、レッツゴー!!」

照「え、えぇ?」

----------

ケーキ屋「いらっしゃいませー」

淡「うおーおいしそう!」

尭深「本当だね」

誠子「どれにするか迷うなー」

照「私は、なんでもいい…」

淡「なに言ってんの!このお店といったら決まってんじゃん!」

淡「すみませーん、これ5個くださーい」

ケーキ屋「かしこまりました」

誠子「こら、なに勝手に決めてんだよ」

ケーキ屋「ただいま、こちらのケーキを5個以上お買い上げの方に、メッセージプレートをおつけしております」

淡「ほらー決まりだー」

誠子「う、ううん…?」

ケーキ屋「なにか、入れてほしい言葉があれば、お書きしますよ」

淡「うーんそうだなぁ…」

淡「あっ!!」

淡「『白糸台、優勝!』で」

ケーキ屋「えっ…」

菫「こら、淡。チョコペンで『優勝』はきついだろ!」

淡「えーいいじゃん、サービス業なんだしー」

菫「やな客だな、お前…」

照「あ、あの『おめでとう』でお願いします」


なにを、言っているんだろう?
この自問も本日2回目だけど。


ケーキ屋「あ、はい」ホッ

菫「ん?なんで、おめでとうなんだ?」

照「え…ええと、『白糸台、優勝、おめでとう』のおめでとう?」

淡「なるほどー、ナイステルー」

照「きっと、おめでとうならケーキ屋さんも書き慣れてる」

菫「まぁ、たしかにな」

嘘だ。
『咲、誕生日おめでとう』のおめでとうだ。

ケーキ屋「お、おまたせしました」

淡「お、さすが早い」

誠子「淡!」

淡「〜♪じゃ、帰ろっか」

-----------

コスモスの花束と、おめでとうが乗ったケーキ。
あのときと同じものが、私の部屋にある。

照「どうして、こうなったんだろ…」

淡「ん?なにか言った?」

咲はいないけど。

照「ううん。なんでも」

淡「じゃあ、早く食べようよテルー」

照「あぁ、うん」

分かってる。
自分で揃えたのだ。

忘れたわけじゃない。
とでも言いたいのだろうか。

誰に?

淡「じゃ、いただきまーす!」パクッ

照「いただきます」パクッ

淡「ん〜〜おいしい〜!」

照「……」

淡「どしたの。テルー?」

照「…しょっぱい」

淡「え?」

照「このケーキ、しょっぱい」

淡「あーこれ、そういうのなんだよ」

照「そうなの?」

淡「クリームの甘さと、キャラメルのほろ苦さと、隠し味の塩のしょっぱさが絶妙なバランスで云々みたいな…」

照「……」

照「…甘いのが、よかった」

そうだ。甘いのが食べたかった。
ありふれた、しまりのない、ただただ甘いケーキ。

急に、悲しくなった。

届かないプレゼントを揃えることに、何の意味があるのだろう?

綺麗にラッピングされたコスモスも
食べ慣れない複雑な味のケーキも
急に白々しく感じる。

何をしたって、あの頃には戻れない。

淡「…テルー?」

照「…もう、いい」

淡「え?」

照「残り、食べていいよ」

淡「え!テルーが!?残すの!?えっ」

照「…プレートだけもらう」

淡「え、あぁ、うん。…こ、これは台風がくるぞー」

照「……」ボフッ

眠ったら、また同じ夢を見るのだろうか?

二度と戻らない、あの頃の夢を。


はやく、日付が変わってほしい。


照「おめでとう…ね」モグ


今年も、その言葉を伝えることはできないのだから。



カン

咲「…今日はありがとう。和ちゃん」

和「いえいえ、私だけの力ではないですよ」

咲「でも、企画してくれたのは和ちゃんなんでしょ?」

和「それは、そうですが」

咲「私、こんなにたくさんの人に誕生日を祝ってもらうのは初めて!」

和「龍門渕さんたちの協力があってこそですよ」

咲「お屋敷、広かったもんねー」

和「料理も、豪華でした」

咲「ふふ、楽しかったなぁ…」

和「…さきたんイェイ〜」ボソッ

咲「…あ」

和「こ、これはその!つい!」カァアアッ

咲「あはは、分かる。頭から離れないメロディーだよね」

和「あんなに繰り返されれば、いやでも離れません」

咲「さきたんイェイ〜♪」

和「自分で歌うんですか…」

咲「…和ちゃん」クルッ

和「な、なんですか、咲さん」

咲「今日は、すごく楽しかったよ。本当にありがとう」ニッコリ

和「…それは、よかったです」

咲「じゃあ、私は、こっちだから」

和「はい、ではここで」

咲「おやすみ、和ちゃん」

和「おやすみなさい、咲さん」

咲「……」

本当に本当に、今日は楽しかった。

でも一方で、一日中そわそわと落ち着かなかった。

咲「……」タタタッ

はやく、家に帰りたい。

期待したって、きっと無駄だ。
去年も一昨年も、なにもこなかった。
がっかりしたことも、覚えている。

それでも。

咲「…ついた」

ポストの中を確認する。

咲「請求書」ゴソゴソ

咲「チラシ」

咲「学校からの手紙」

咲「……」

咲「だけかぁ…」


ほら、少し、がっかりした。


咲「お父さん!!」ガチャ

宮永父「あ、おかえり咲、今日はケーキを…」

咲「今日って、なにか届いたりした!?」

宮永父「えっと、なにも届いてなかったと思うけど…」

咲「そっか…じゃあ電話、鳴ったりしてない?」

宮永父「電話…も鳴ってないかなぁ…」

咲「そっかぁ…」

宮永父「あ、そういえば咲に電話が…」

咲「誰から!?」

宮永父「ほら、咲が欲しがってた本、入荷したって」

咲「あぁ、そう…」

宮永父「なんだ?嬉しくなさそうだな」

咲「そんなことないよ…」


やっぱり、今年も、なにもこなかった。

宮永父「誕生日に、そんな顔をするなよ。…それ、みんなからもらったのか?」

咲「う、うん…」

宮永父「よかったな」

和ちゃんたちからもらったプレゼント。

「咲さん、誕生日おめでとうございます」
「咲ちゃん、誕生日おめでとうだじぇ!」
「ワハハーおめでとう」
「リンシャ…咲さん、誕生日おめでとうっす」

今までで、一番たくさん言われたおめでとう。


でも

「咲、誕生日おめでとう」

一番その言葉を言ってほしい人からは
今年も何も言ってもらえなかった。

宮永父「ほら、お父さんからも、ケーキがあるぞー」

咲「あ、ありがとう」

宮永父「結構有名なところでなー、なんでも1号店が東京にあるとかなんとか…」

咲「そ、そうなんだ…」

宮永父「2個しか買ってないけど、一応プレートもつけてもらったんだ。ほら『おめでとう』って」

咲「っ…!お、おいしそうだね」

宮永父「おう、なんならお父さんの分も食べていいぞ」

咲「あはは、1個で足りるよ…いただきます」

宮永父「ん」

咲「……」モグモグ

宮永父「…どうだ?」

咲「……」

宮永父「…あれ?口に合わなかったか?」

咲「…しょっぱい」

宮永父「え?あぁ、そうなんだよ。なんでも、クリームの甘さと、キャラメルのほろ苦さと、隠し味の塩のしょっぱさが絶妙な…だったかな?」

咲「……」

咲「…甘いのが、よかった」

そうだ。甘いのが食べたかった。
ありふれた、しまりのない、ただただ甘いケーキ。

涙が、出そうになった。

複雑な味は、私の口にはよく分からなくて
東京との距離は、果てしなく感じる。

一番欲しいものが、一番遠いところにある。

宮永父「…どうかしたか?」

咲「…ごめんね。やっぱり、もういいや」

宮永父「え、ちょっ、咲…」

咲「プレートだけもらう」

宮永父「あっ…」

咲「……」パタン

------------

部屋に入ると、懲りずに何か届いていないか、探してしまった。
なにもなかったけど。

咲「おめでとう…か」パク

あのときのことは、よく覚えている。
結局、叶わなかったから。

咲「……」ボフッ

横になっても、全然眠気がやってこない。

ポストに、何か届かないか
玄関が、開かないか
電話が、鳴らないか

耳が、研ぎ澄まされていくだけ。


はやく、日付が変わってほしい。


今年もきっと、なにも届かない。



もいっこカン

後付けでもいっこ書くけど、無しのがいいかも

照・咲「…って思ってたのが去年のこと」

照「……」

咲「暗い顔しないで、お姉ちゃん」

照「…うん」

咲「私ね、今の話、聞けてよかったって思ってるよ」

照「どうして?」

咲「プレゼント、用意してくれてたんだなぁって」

照「…届かなければ意味がないよ」

咲「でも、今届いた」

照「咲…」

咲「数年なんて、たいした時間じゃないよ」

照「思春期の数年でも?」

咲「……」

咲「…そうだね。思春期の数年は大きいね」

照「えっ…」

咲「どうしてくれるの?」

照「え、いや、それは私にも、いろいろあったし…」

咲「あはは、冗談…」

照「そ、それすらたいしたことじゃなくなるまで」

咲「えっ…」

照「ずっと、一緒にいる」

咲「っ…!///」

照「…ということで勘弁してください」

咲「……くすっ」

照「?」

咲「おつりが出ちゃうなぁ」

照「そんなこと…」

咲「ありがとう、お姉ちゃん」ニコッ

照「…うん」

照「え、えと、じゃあケーキ食べる?」

咲「あ、うん」

照「よくある、普通の、甘いやつ」

咲「…うん」

照「ろうそくは…いらないね」

咲「うん!」

照「じゃあ、改めて今日は」



照「咲、誕生日おめでとう」



もいっこカン!

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