アニ「銀の聖誕祭」(52)

・キャラぶち壊しです。
・特に『あの男』が柄にもないことを言い出します。
・セリフを色んな所からパクってくる予定です。

それでもいいという方は読んで頂けると嬉しいです。

街中が光り輝く今日。
いつもならば寂れているはずの商店街も、この日だけは煌めいて見える。
どこからともなく聞こえるハンドベルの音はまるで恋人たちを祝福するかのようだ。
多くの男女が愛を誓い、愛を囁き、そして愛を確かめ合う今日は――



時計台の前で一人暇を持て余す私。
待ち合わせまであと15分もあるというのにどこか落ち着かない。

緊張してる?――そんな訳はない。
期待してる?――そんな訳がない。

ただ、そんな思いとは裏腹に心臓の鼓動は加速する一方だ。
ああはやく静まれ。あいつにこんなことは知られたくない。
そうモヤモヤしている私の後ろから、聞き慣れた声が聞こえてきた。

「ごめん、待たせた?」

「……別に、今来たところ」

ぶっきらぼうに言ってみる。
嘘だ。本当は一時間も前に来ていた。
けれどそんなことあいつに知られたら何を言われるか分からない。
いつもの調子で『そんなに俺が好きなのか』などと冗談交じりに笑うだろう。
私はそれが許せなかった。
そんなくだらない事を考えていると、私の目の前に冷たさで真っ赤になった手が差し出された。

「行こうか、アニ」

アニは俺の手を一瞥すると、ゆっくりと手を差し伸べてきた。

「へぇ、つなぐんだ」

アニの手が俺の手に触れるか否かのところで俺は意地悪に言ってみた。
するとアニはその白い顔をほんの少し赤らめて、

「あんたのそういうところ、嫌い」

と、手を元のポケットに戻し、
ニヤニヤしている俺を尻目にそそくさと歩き出してしまった。
……早速失敗か。
せっかくのアニとのデートに漕ぎつけたというのに機嫌を損ねてしまうとは。

「悪かったって。待ってくれよ」

俺はすかさず追いかけた。

(せっかく私が握ってやろうと思ったのにアイツは……)

そんな私の思いなどいざ知らず、追いついてきたアイツは歩きながらいつものようにヘラヘラとりとめのない話をしてきた。
適当に相槌を打ちながらあしらっていると、さすがにそれに気づいたかあいつの口数は次第に減っていく。

『何か話をしないと』

私はそんな焦りからかとんでもないことを言ってしまった。

「私、聖誕祭嫌いなんだよね」

言ってからしまったと思った。そんなことを言ってしまったら今の時間を否定することになる。
さすがにマズかったな、と内心ビクビクしながらも平静を保っている(と自分では思っている)とあいつは

「どうして?」

きょとんとした顔でそう聞いてきた。
よかった。怒ってない。
私はほっとした。けれどなんて返せばいいかわからない。
するとアイツはそんな私の態度を察してか、微笑んだ。

「怒らないから話してみろよ」

……仕方がない。正直に話すことにしよう。

「……だってこのギラギラした街の装飾が鬱陶しいんだよ」

アニはそうめんどくさそうに呟いた。
そういえばコイツは派手な物があまり好きではなかったな。
しかしどうしようか。下手なこと言って怒らせるのはまずいな。
ここは無難な会話でもしておくか。

「……なんで光ってると思う?」

俺の問いを聞いたアニは首を傾げた。
そりゃそうだ。俺にだってわからないしな。
そしてやはりアニの答えは案の定だった。

「わからない。なんで?」

質問を質問で返すとは……。
しかしまぁ、なんて答えればいいのやら。
適当な事を言うとコイツはどんな態度を示すかわかりやしないからな。
……よし。決めた。適当に思いついた事でも言おう。うん、こりゃ無難な選択だ。

「……街中がアニに恋してるからだよ」

「……ばかじゃないの」

言ってから思った。
……どこが無難だったのだろうか、俺よ。

ああもうなんてこと言うんだあの馬鹿は。
いつもはただのお調子者のくせにこういう時に限ってキザな言葉をかけてくる。
そのギャップがすごく憎たらしい。
……そして満更でもない自分がとにかく恥ずかしい。

それから無言で二人、並びながら歩みを進める時間が続いた。

(もしかして、アイツも言ってから恥ずかしいと思ったのかな?)

そう心の中でにやけていたら、

「アニ?ここだぞ?」

アイツから声をかけられた。
私はうっかり目的地を通り過ぎようとしてしまったみたいだ。

「あ、ああ……悪いね」

ぶっきらぼうに言ってみたが内心少し恥ずかしかった。

「やっぱり聖誕祭なだけあって混んでるな」

予約していたレストランに着いた俺は呟いた。
するとアニはちょっぴり驚いたような顔をした。

「ふぅん。あんたもこういうオシャレな店知ってるんだ。少し関心したよ」

……俺をなんだと思っているんだこの女は。
そりゃ女の子とのデートだ。気合を入れるに決まっているだろう。

「アニが褒めてくれるなんて珍しいな。今日は雪でも降るんじゃないか?」

「せっかく評価してやったのに……あんたは一言多いんだよ」

「ん?そうか?」

「そうだよ。そもそも冬なんだから雪くらい当たり前に降るだろうさ」

「あはは。そりゃそうだな。」

「まったく……」

そんなくだらない会話をしていると、俺らに気付いたウェイトレスが店の奥から急ぎ足で向かってきた。

「た、大変お待たせしました!!」



「二名様でご予約のイェーガー様、席へご案内致します」

今日はこれで終わりにします。


期待

期待
おもしろそう

>>9
>>10
支援ありがとうございます。

ウェイトレスに連れられて私たちは席に着いた。
うん。やっぱりなかなかいいお店だ。
しかし一つのある黒い疑問が私の中で産声をあげた。

「……ねぇ。あんたはどうやってこのお店を知ったの?」

「!!……な、なんでそんな事聞くんだよ」

案の定アイツは動揺した。
そう、普段の行動を見ていればもっとぼろっちい店にしか縁がない男だと私にはわかる。
この隙を逃さずにたたみかけてみるとしよう。

「ていうかそもそもこの店に初めて来たようには見えなかったけどね」

「ど、どうだっていいだろそんなこと」

「誰と一緒に来たの?」

「誰ってお前……」

「誰」

「……クリスタ」

アイツはあっさり白状した。
……やっぱりそうか。ま、消去法でクリスタしかいないけど。
ミカサはセンスなしで論外。サシャは質より量だから高い店はNO。ユミルだったらそもそもアイツとは来ないだろう。
クリスタと一緒に来た店だったら外さないだろうと思って私を連れて来たんだろうか。まったく浅はかだねこの馬鹿は。
ま、別に私はコイツの彼女でもなんでもないから構わないけどね。
嫉妬とかしてないからね。……本当に。

さっきの尋問からしばらく時間が流れた。
まさかクリスタと一緒に来たことがばれるなんて。なんて鋭い女だ。
まずい。この空気はまずい。
いや、料理は美味しいけど。とにかくまずいぞ。
とりあえず何か弁明しないと……。

「な、なぁ!なにか勘違いしているようだけどさ」

「なにが」

「クリスタとは付き合ってるとかそういうのじゃないから」

「別に。あんたがあの子と付き合っていようがいまいが私には関係ないし」

「う……まぁそうかもしれないけど……。とにかく聞いてくれ」

「はいはい」

「ただクリスタに馬術を教わったお礼にご飯おごることになって、『この店がいい』って連れてこられただけで……」

「なるほどね」

お、納得してくれたみたいだ。良かった。
さすがアニ。物分かりがいい女だよお前は。

「つまり女を連れ込むにはいい店だと分かったから私で再利用しようとおもった訳だね」

……全然納得してなかったわこの子。

「いやいや、違うって。いい店だったからアニと一緒に来たいって思っただけだから」

そう言うアイツは真剣な顔だった。

「でもあの子のためにも高い金払ってご馳走したんでしょ?」

「そ、そうだけど……」

真顔から一転、なんとも情けない顔なるアイツ。
そんな変化を見ていると、少しからかいたい気分になってきた。

「別にいいんじゃない?クリスタはかわいいからね」

「アニだってかわいいよ」

「そこは『だって』じゃなくて『の方が』じゃないの?」

「あ」

「ふふ、いいよ。あんたが嘘つけない奴だって知ってるから。そういう不器用な所少し好きだし」

「……褒められてるの?俺」

「さあね、どっちだと思う?」

「う、うーん……」

アイツは真面目に悩み出してしまった。
まったく不器用で可愛い奴だねあんたは。
……でもたまに『街中が君に恋してる』とか柄にもないことを言い出すから侮れないんだけど。

ようやくいい雰囲気になって来た。
アニの機嫌も悪くなく、とりとめのない話が続いている。

「そこでコニーが『消費税が5%だから100×5で500円だろ!!』とか言い出したんだぜ」

「まったく、底なしのバカだねあいつは。マリアナ海溝かっての」

「ま、マリファナ?ってなんだ?」

「……なんでもないよ。聞かなかったことにして」

「??そうか。それでな――」


――食べ終わって一段落ついた俺たちは、店を後にした。

「うぅ……財布の中がすっきりしちまった」

つい本音をこぼす俺。
するとアニは

「まぁ連れを変えて2回も来れるなんて太っ腹だよあんたは」

そう意地悪げに微笑んできた。

「まだその話をひっぱるのか……。」

「別に。ただプレイボーイのイェーガー君の勇姿を讃えようと思ってね」

「俺がいつプレイボーイになったんだよ」

そう訴えるアイツは怒ってるような困ってるようなそんな顔をしていた。

「冗談だよ。あんたは女遊びできるほど余裕のある男じゃないって私はわかってるからさ」

「だから褒めてるのそれ」

「だからどっちだと思う?」

そんなやりとりをしているとアイツは諦めたか話を変えてきた。

「それでこの後どうする?明日休みだからぶらぶらする?」

あらかじめ食事以外のプランを決めてこなかったのか……。だから不器用なんだあんたは。
だけどそんな思いは口には出さなかった。

「ん。私はもう結構満足したからなんでもいいよ」

「うーん……そうか。それなら――」

そこまで言いかけたところでアイツは人差し指で私の後ろを指さした。


「とりあえずあそこの公園で一休みするか」

今日の分の書き溜めは終わりです。


書き溜めありと聞くと安心だ

>>18
ありがとうございます。
ストックはないんですけどねw

でももう少しで終わる予定です。

公園のベンチに座る俺とアニ。
二人の間はまるで誰かが座っているかのようにぽつん、と空いていた。
つい先ほどまで普通に会話できていたというのに、今はなぜか何の言葉も発することができない。
言うなれば『理由のない緊張感』が静寂へと形を変えて二人を包み込んでいたのだ。
そんな時が続く中、口火を切ったのはアニの方だった。

「あのさ、あんた『相対性理論』って知ってる?」

何を急に話しだしたかと思えばそんなことか。
もちろん知っている。……名前くらいはな。

「内容は知らない。どういうものなんだ?」

「うーん……私もよく知らないんだけどさ、簡単に説明するとね、」

「わかりやすく頼むぞ」

「辛いと感じる時間はゆっくり流れるけど、逆に楽しいと感じる時間は瞬く間に過ぎていくでしょ?」

「ああ。確かに。でも一分はただの一分でしかないし、一時間もそれに同じだろ?」

「そう、実際に過ぎていく時間はね。でも体で感じる時間は違う。場面場面によって確かにその長さを変えているのさ。」

「うーん難しいなぁ。つまりアニは何が言いたいんだ?」

アニは少し黙ったあと、まっすぐに俺の瞳を見つめてきた。

「ねぇ。今のあんたはどんな時間の中にいる?」

私はなぜ自分がこんなことを言ったのかが分からなかった。
最初はただどうでもいい話をしようと思っていただけなのに。
けれど過ぎてしまったことは仕方ない。
今はアイツの返答を聞きたい。それだけだ。

「……今の俺は」

「とても時間が長く感じる」

……アイツの口から出た言葉は衝撃的だった。
言葉を発することができない。
実際には数秒と経っていないはずなのに、まるで私だけ時間が止まったかのように感じる。
私はそれに怯えながらも、ゆっくりと時を動かすように言った。

「……それは私といる時間が鬱陶しいってこと?」

返答を聞くのが怖い。あんなこと聞かなければよかっただろうか。
もしかしたらアイツを本気で怒らせてしまったのかもしれない。
私は泣きそうだった。
けれどそんなもやもやした思いとは裏腹に、アイツの口からでた言葉は優しいものだった。

「ばか、そんな訳がないだろ。」

今の私にはその意味が分からない。

「じゃあどういうことなのさ」

「うまく説明できないんだけどさ、アニと一緒にいると一秒一秒をしっかり感じるんだ。と言うより、その時間を大切に感じていたくなるんだよ」

「アニといると緊張しちまう。だから時間は長く感じるんだ。でも、嫌な長さじゃない。とても愛おしい長さなんだよ」

俺は今の胸中を正直に吐露した。
少しかっこつけすぎたかもしれないけど、ちゃんとわかってもらえただろう。
今、この場所からは音が消えている。先ほどとは違う緊張感が二人の間をさまよっている。
そんな刹那、先に空間に表情をつけたのは笑い声をあげたアニだった。

「……ははははは!あんたなに真顔で言ってんの?クサすぎだよ。台所のタオル並みだよそれ。……クッ」

プルプル震えだすアニ。
そんな姿を見ていると言葉にならない恥ずかしさが俺に襲い掛かってきた。

「う、うるせぇ!……早く忘れろ!恥ずかしい!」

「ううん。一生覚えといてあげるよ。……それにしてもなんだい?『とても愛おしい長さなんだよ』だって?……くふっ」

「ああもういい!怒ったからな俺!」

「悪かったよ。詩人イェーガー殿」

「うぐっ……バカにしやがって……」

そんなやりとりの中、アニの目元をみつめていると、ふと涙が浮かんでるのに気が付いた。

「アニ、どうして泣いてるんだ?」

今日はこれでおしまいー

良いところで…
乙です

いいねー
続きが楽しみ!!

>>24
>>25

ご支援ありがとうございます。
稚拙な文章しか書けませんが、
せめて終わるまでは投げ出さずにやっていこうと思いますので
どうかよろしくおねがいします。

このSSまとめへのコメント

1 :  50:50   2020年03月26日 (木) 01:49:50   ID: S:b6UUGo

これと続編を合わせて読むと
物語の完成度の高さが分かる。

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