春香「プロデューサーさん!団結ですよ、団結!」(142)

【12月22日朝、765プロ近くの公園】

自分、我那覇響っていうさ。
訳あって今ホームレスしてるんだ。
う゛~最近お風呂入ってないから体が少し臭うぞ。
家族のみんなもお腹空かせてるさ……

沖縄でスカウトされて、アイドル目指して上京したまではよかったんだけど
事務所が悪徳事務所だったんだよ。
それで変なビデオに出されそうになったからマネージャーぶん殴って
飛び出して来ちゃった……
大見得きって飛び出してきたから実家にも帰れないし……
本当に、都会は人も街も汚れてるぞ……
ちゅら海が恋しいさ……

あ゛~思い出したらなんかまたむしゃくしゃしてきたぞ!
こういう時はダンスでも踊って気を晴らすに限るさ。
体も暖まるしな!


社長「ティンときた……!!」

変なおっさんが、熱い視線でダンスを見ながら何か言ってるさ。
きっと変態に違いないから、こういうのは無視、無視。

社長「君、我765プロでアイドルをやってみる気はないかね」

自分、流石に同じ嘘には引っかからないぞ。
アイドルはアイドルでもえっちいビデオのアイドルに決まってるさ。

社長「君には間違いなく才能がある!是非ともうちに来て欲しい」

口説き文句まであいつらと同じなんて、本当に反吐がでるぞ。
いくら自分がオノボリさんだからっておんなじ嘘に二度も騙されたりするもんか!

響「うるさい!あっちにいくさ、変態!!」

社長「変態……違う……私は本当に事務所の社長で」

いぬ美「バウバウ!!!!」

変態はいぬ美に吠えられると、少し考えて、それからやっとあっちに行ってくれた。
それにしても、変態っていわれてなんかすごいショック受けてたな……
少し言いすぎたかも……
いや、きっと汚れた都会人にはいい薬さ!

響「ありがとな、いぬ美」

いぬ美の頭を撫でてやると、いぬ美は尻尾を振りながら手を舐めてくれた。
少し濡れた手に冬の風がひんやりする。
今の自分は何も持っていないホームレスだけど、大事な家族がいる。
お腹はすいてるけど今はこいつらがいればそれでいいさ。

【12月23日朝、自然公園】

家族との別れは悲しいけど、今日ここでお別れすることにするさ……

響「ごめんな……お前たちがあんなにお腹空かせてるなんて、自分知らなくて……」

ブタ太とイヌ美は悲しそうに鼻を鳴らしてる。
ヘビ香もとぐろを巻いてだんまりしてるさ。
でも仕方ないさ。
だって家族があんなモノ食べるくらい飢えてるなんて自分知らなくて……
でも……いくらなんでもあんなものを食べることはないさ……
流石にホームレスだと、家族を養うことなんてできっこないんだ。
そんな単純なこともわからなかったから、自分は騙されて東京なんか来ちゃったんだな……
だから家族は都会人のなかにも優しい人がいることを信じて、ここでお別れするさ。

響「この公園なら自然も多いし、きっと優しい人がご飯もくれるさ……」

朝日が眩しくて、なんだか滲んでるけど振り返っちゃダメさ。
本当にごめんな、お前たち……
こうして自分は泣く泣く元の公園に戻ったんだ。

【12月22日夕、婚活セミナー会場】

どうも、音無小鳥です。
はぁ……もうすぐクリスマスだというのに、結局今年も独り身です。
事務所の経営も正直危ないですし、このご時世、女の私が再就職できるとも思えません。
そういう訳で今日は婚活セミナーに参加してます。
目指せ寿退社です!

あずさ「短大じゃあ結局出会いはなかったけど、
    私、運命の人って絶対にいると思うの」

友美「いつまで夢みたいなこと言ってるの、あずさ?
   白馬の王子様なんているわけないじゃない」

小鳥「います!!白馬に乗った王子様は絶対に居るんです!!!」


いけない、私ったら……
勝手に熱くなって、ついつい人の会話に割り込んでしまいました。

友美「……あずさの知り合いの方?」

あずさ「いいえ……でもこの人とは魂の深い場所で通じあえる気がするわ!」


こうして固く手を握りあった私とあずささんは意気投合し、
セミナーの終わった後、二人で夜の一番街へとくりだしました。

美希の名前は星井美希、14歳なの。ホントだよ?
みんな信じてくれないんだけどね。

えへへ、実は今日、家出してきちゃったの。
だってパパとママも、ハニーと結婚するって言ったら怒っちゃって……
進路相談の第一希望にハニーのお嫁さんって書いただけなのにひどいよね!

それでね、正直ありえないって思ったから、今日から美希はハニーと一緒に住むの。
今日から手料理いっぱいサービスしてあげるね、ハニー。

美希「ハニー遅いなぁ……」

ハニーのバイトしてる学習塾の前でハニーを待ってるんだけど、
なかなかお仕事終わらないみたい。
今日は授業もひとコマしか入ってないはずなのにおかしいの。
いつもならもっと早くにあがってるはずなのに……

千早「私のことなんてもう放っておいてください!!」

春香「千早ちゃん!待って!!」

あれ?高等部の綺麗な人が泣きながら走ってくるの。
きっとお勉強辛くて大変なんだね。

P「千早!はやまるな!」

――あ、ハニーがその人追っかけてる。意味わかんないよ。


美希「ハニー……今の人、何?」

ひょっとして修羅場ってやつなのかなぁ……
そうだとしたら複雑なの。

P「あぁ……ちょっと色々あってな……ところで、美希、
  今日はどうしたんだ?中等部は今日授業ないぞ?」

美希「えへへ、美希ね、家出してきちゃったの。
   だからね、ハニーのおうちに泊めて?」

美希がそういうと、ハニーはフリーズしちゃったみたいなの。
顔が固まったままで、口をあんぐり開けちゃってる。

美希「ダメって言っても、美希、家には帰らないから!
   そしたら美希、襲われちゃうかも!襲われなくても
   外は寒いから凍死しちゃうかもしれないよ?
   それってハニーの責任になるって、美希思うな?」


こういう時は追い打ちをかけるに限るの。
ハニーは目を上下させて、美希の体を見てる。
あはっ!美希、胸大きいもんね。

――お互い無言で立ち尽くしていたら、ハニーの携帯が鳴ったの。

P「あぁ、春香か。待ってろ。すぐ行く」

美希「ハニー!美希はどうするの!?」

P「あ゛~もう!!とりあえず、俺の事務所で待っとけ!」

そう言って鍵を投げると、ハニーは車を飛ばしていっちゃったの。
美希を置いて、あの女の子のところいっちゃうんだね、ハニー……
がらんとした駐車場に、木枯らしが吹き抜けてる。

美希「寒いよぉ……そばに居てくれるだけでいいのに……ハニー……」

【12月23日夕、765プロ事務所】

P「律子、そろそろ上がる時間だぞ」

そうです、私が秋月律子。メガネでおさげで、事務員兼任。
一応は営業が私の仕事よ。一応ってところが曲者で、この事務所に
所属アイドルはいないの。ゼロよ、ゼロ。つまり営業なんてできっこないわ。

経営を学ぶためにアイドル事務所に入ったはいいものの
所属アイドルが一人もいないアイドル事務所なんて……

アイドルがいなきゃ、仕事もないし、仕事が無ければ給料ももらえない。
給料がもらえなきゃ食べていけない。と、まぁそういう訳で、この事務所の他の従業員も早めに上がって
他の副業やりながら糊口を凌いでるわ。最近入ったプロデューサーは学習塾の講師、小鳥さんはよく事務所で子供を預かってるみたい。


――でも、もうこんな生活もいっぱいいっぱいだわ。だから今日、辞表を出すの。

律子「ねぇ、社長は?」

P「さぁ……?小鳥さんも今日はいないみたいだけど」

律子「小鳥さんなら預かってる子供と一緒に遊園地に行ってるわ。
   まったくどっちが本業なんだかわかんないわよね」

P「ははは、笑えないなぁ……俺も律子もあまり人のことは言えないけどな」

律子「まったくだわ」

P「塾の生徒に本業のこと話したんだ……そしたらさ」

律子「あら、どうしたのかしら」

P「それからというものあいつらみんなして、俺のことプロデューサーって呼ぶんだぜ?
  この仕事についてから、アイドルにそう呼ばれたことなんかないってのによ」

律子「うわぁ……それこそ笑えないわよ」

P「いっそ本当に学習塾の講師の方、本業にでもしようかなぁ……」



そう呟いて事務所を後にする彼の背からは哀愁が漂っていたわ。
私は再就職先、どうしようかしら?
とりあえず今働いているローソンでもいいかな?

さーて、私もバイトに行かなきゃ。
今日も頑張ってからあげクン売るわよーっと!

――辞表は夜、戻ってきてから出せばいいわよね?

【12月22日、夜】


私(わたくし)、四条貴音と申すものです。

私が何をしているか、ですか。
いい質問ですが、それはとっぷしーくれっとというものです。
誰にでも秘密の一つや二つ、あるものでしょう?

少しだけ私の予定を教えるとすれば、明日は友人達と天体観測ということだけを
お教えいたしましょうか。冬は空気が澄んでいるので、星が大変美しく見えるのです。

話をしていたら小腹が空いてきました。
らぁめんでも食べに行くといたしましょうか。

それでは皆様、ごきげんよう。

【12月22日、深夜、一番街】


あずさ「すいません、音無さん。私が財布を忘れてきたばっかりに……」

小鳥「うひゃひゃひゃひゃひゃ、いいんれすよ、あじゅしゃしゃん」

どうも、みなさん。私三浦あずさと申します。おっとりしてると言われます。
運命の人はどこかしらと、それを探すために参加した婚活セミナーでしたが、
人生わからないもので、魂のレベルで分かりあえる方とお友達になれました。
でも少し酒癖が悪いみたいです。
私も飲みすぎたようで、少し気持ちが悪いわ。


小鳥「さーて、締めにりゃあめんたべていきまひょう、あじゅしゃしゃん」

そういうと、音無さんはラーメン二十郎というお店の中に入っていきました。
確かここ、量が多いことで有名なお店じゃなかったかしら。
ちゃんと食べきれるか不安だわ……

店内では、銀髪の綺麗な女性がすごいスピードでラーメンを平らげていました。
その光景を見た音無さんの目に、炎が宿る瞬間を、私は確かに見たんです。
そして音無さんは、禁断の呪文を唱えてしまいました。

小鳥「大豚W全マシマシ、二人前下さい」


え?私も食べるんですか?

【12月23日、早朝、765プロ事務所前】

イエイ!高槻やよいです。
うちは貧乏だから、私新聞配達とか内職の造花づくりをしてるんです。
冬の朝は寒くて起きるのが大変だけど、弟たちにクリスマスプレゼント
あげたいから、私頑張らないと!!
あ、それに明日はクリスマスだから特売にもいって美味しいもの作ってあげなきゃ!

社長「寒い中ご苦労さまだねぇ。」

新聞を持っていくと、ドアの前におじさんが立っていました。
なんか暗い顔してるけど、どうしたんだろ?

やよい「仕事ですから。これ朝刊でーす」

暗い人には元気を挙げないといけないかも!
そう思って笑顔で朝刊を渡すと、おじさんはキャラメルを一つ、私にくれました。

やよい「ウッウー!!甘いものなんて久しぶりです!
     おいしい……本当においしいよぉ……」

知らない人からモノを貰ったらいけないってお母さんがいってました。
そういう人は大抵変態さんなんだそうです。
でもこれくらいならいいよね?多分、変態さんじゃないと思うし……

社長「その笑顔!豊かな表情!いい……実にいい……!!
   ティンと来た!おじさんの話をちょっと聞いてくれるかね!?」

なんだかおじさんの目が怪しく光ってます。
うっうー、やっぱりお母さんの言ったとおり変態さんなのかも!

やよい「ご、ごめんなさい!私まだ仕事があるから……」

社長「あぁ……!!ちょっと待ってくれ、君ぃ!!」

私は全力で自転車を漕いで、その場を後にしました。
多分、おじさんは変態さんなんだと思います。

【12月23日、朝、やよい自宅】

やよい母(あなた……明日はクリスマスなのよ?)

やよい父(でも子供たちにプレゼント買う金もないだろ……?)

やよい母(そうね……それどころかあの子達を食べさせていくことすら到底無理よ……)

やよい父(もうこれしか方法はないんだ……すまない……)

やよい母(せめて今日一日位、あの子達にいい思い出作ってあげましょ?)

やよい父(そうだな……最期くらい贅沢してもバチはあたらんだろう)

やよい「ただいまー!」

私が帰ると、お父さんとお母さんは何だか悲しそうな顔をしていました。
なんか今日はみんな暗い顔してていやだなぁ。
でも美味しい朝ごはん食べれば、きっとみんな元気になるかも!

やよい「私、今から朝ごはんつくるね」

やよい母「今日はいいわよ、やよい。久しぶりにお母さんがつくるわね」

やよい父「お姉ちゃんだからっていつもいつもごめんなぁ、やよい……
     今日はお休みだ。みんなで遊園地に行って、お昼は美味しいもの食べよう」

やよい「でも……うちお金ないよ?」

私がそう言うと、お父さんはかすれるような声をだして、
「子供がお金の心配なんかするな」って私を怒りました。
きっとボーナスでも出たんだろうと思います。

家族でお出かけかぁ……よく考えれば久しぶりのことだから、すっごく嬉しいかも!!
特売にいけないのは少し残念だけど……

やよい母「朝ごはんすぐだから、長介たち起こしてきなさい」

うっうー!今日はとってもいい日になるかも!!
今からとっても楽しみです!

【12月23日夜、自然公園】

ボクの名前は真といいます。ダンスは結構得意です。
ってダンス部なんだから当たり前なんだけどね、へへっ。
おかげでモテモテ嬉しいけれど、なんでか相手は全員女の子からなんだよな、くぅ。
まぁ女子高だから仕方ないんですけどね。

この自然公園にはいつもダンスの自主練に来ています。
自然も多いし、近くに交番もあるから安全ですしね。

けど、今日は珍妙な先客がいました。

ブタ太「ブヒっ」

一頭の豚が何故か嬉しそうにボクに擦り寄ってきます。
蛇と犬はうらやましそうに豚のことを見ています。

真「ちょっと……なんでボクの方に近づいてくるんだよぉ……」

ボクが後ずさると、豚はまた距離を詰めてきました。
なんだか恐ろしくなって、たまらず逃げ出すと、豚は猛然とボクを追いかけてきました。

真「そして、なんで追いかけてくるんだよぉ!!」

【12月23日夜、自然公園】

萩原雪歩、16歳です。男の人は苦手です。犬も苦手でちんちくりんな私だけど、
学校の友達はみんな私に良くしてくれます。
今日は学校のお友達の真ちゃんとお茶会で知り合った四条さん、それから私の三人で
お茶を飲みながら天体観測です。けど真ちゃん、どうしたんだろ?
自主練しながら待ってるって言ってたのにまだ来てないみたい。何かあったのかな?


貴音「雪歩、このお茶は大変美味ですね。体も温まります」

雪歩「えへへ、私、お茶のことは真剣ですから。
   それにしても真ちゃんどうしたんだろ?」

私と四条さんは、お茶を飲みながら、真ちゃんを待っていました。
少しして、後ろで気配がしました。あ、真ちゃんやっときたんだ。


――犬が私の後ろにいました。真ちゃんではなく、私の苦手な犬でした。


雪歩「きゃあああああああああああああ、犬怖いよお!!!」

恐怖で体が固まります。しかし四条さんは優しく微笑み、犬の頭を撫でていました。

貴音「この者も生きとし生けるものの一人なのです。
   そのように怯えることはありませんよ、雪歩」

犬は舌を出しながら私の方をじっと見ています。
ひいぃ……怖いよぉ……

雪歩「四条さんには、苦手な生き物とかいないんですかぁ……」


貴音「私とて人の子ですよ、雪歩。私もどうにも蛇と蛙だけはいけません。
   あの面妖な皮、ギラギラとした目……考えるだに恐ろしい生物です」


――蛇がきました。もう訳がわからないよ。四条さんも、流石に固まっていました。



たまらず私たちが公園を立ち去ろうとすると、蛇も犬も私たちを追いかけてきます。

雪歩「なんで追いかけてくるのぉ!」

貴音「分かりません。しかし三十六計逃げるにしかず!
   ここは全力で逃亡あるのみです。逃げますよ、雪歩。」

【12月23日夕、自然公園】

どうも、三浦あずさです。昨日のお金を音無さんに返そうと思ったんだけど
事務所の場所はどこかしら?道に迷って、気づいたらこの公園に来てしまったわ。
けどこの公園、少し変ねぇ……豚と犬と蛇がいるわ。
しかもどこかで見覚えのあるような気がするんだけれど……
それにしたって、この子達を見てると罪悪感に苛まれてしまうのはなぜかしら?

罪滅しになるかはわからないけれど、せめて占いをしてあげることにするわ。
何の罪かはよくわからないけれど。

あずさ「えいっ!!えっと、結果が出たわよ、ブタさん、ヘビさん、ワンちゃん」

動物たちは私の占いの結果を神妙にして待っているわ。
最近まで人に飼われていたのかしら?やたらとお利口さんね。



あずさ「夜、王子様の後についていけばお姫様に会える、ですって!王子様かぁ……
    うらやましいわねぇ、ブタさん。私のところにも現れないかしら、王子様」

ブタさんは私の占いの結果を聞くと、嬉しそうに鼻を鳴らして茂みの中に入っていったわ。

いぬ美「バウバウ!!」

ヘビ香「シャッー!!」

占いの結果を待ちわびてるみたい。本当にお利口さんだわ。


あずさ「あらあら、少し待っててね……あなたたち二人の結果は、と。
    二人とも同じみたいね。星を見る二人が幸せをくれる、ですって」


私がそう言うと、蛇も犬もやっぱり嬉しそうに茂みの中に入っていったわ。

あずさ「それにしても事務所の場所はどこかしらねぇ……
    音無さんの連絡先聞いておくんだったわ。」

こうして、また私は音無さんの事務所を探してあてどもなくさまよいはじめたの。

【12月23日夜、ローソン】


どうも、秋月律子よ。
コンビニでレジをうってると一日に二人か三人、印象的なお客さんがくるものよ。
それにしても今日は変なお客さんばかりだわ。



      ~一人目~

やよい母「すいません……練炭は置いてないでしょうか?」

薄暗い夕方のお店で、その女性は暗い顔をしてそういったの。

律子「すみません……流石にうちでも練炭はちょっと……
   あ、ここから少し行ったところにあるスーパーなら
   多分置いてあると思います。どうかそちらでお求めになってください」

言ってしまってから、しまったって思ったわ。だって身なりも貧相で、どう見ても
自殺のために練炭買い求めてるようにしか見えなかったもの。その女性は何度もお礼
を言うと、店を出ていったわ。大丈夫よね、多分……

     ~二人目~

千早「すいません……ここってお線香おいていますか?」

さっきの人、もしかしてもう死んだの!?私のせい!?ねぇ、もしかして私のせい!?
だいたい制服を着た女子高生が、夜の八時半に泣きながらお線香買いに来るって
どういうシチュエーションよ!?訳がわからないわ。
もしかしてこの娘だけを残して心中!?ちょっと洒落になってないわよ……
もう一度聞くけど、私のせいじゃないわよね?

律子「えっと、少々お待ちください」

レジの代わりを頼むと、私は近所のスーパーまで駆け走ったわ。
これがせめてもの罪滅ぼしになればいいのだけれど……

     ~3人目~

P「からあげクンくれ。あと、ここに泣いてる女の子が来なかったか?」

えっと……ちょっと話が見えなくなってきたわね……
プロデューサーはあの子の何なの?

P「教え子なんだけど色々あってな。髪の長い、胸の小さな女の子だ」

あぁ、つまりさっきの女の子は塾で親が死んだ事を聞いて取り乱して出てきたのね。
それで矢も楯もたまらずお線香を買いに来たと。合点がいったわ。
けどあの年で親が自殺なんて不憫ね……なんだか実家の両親に会いたくなってきたわ

律子「その子なら、さっきお線香買いに来たわよ」

P「本当か!?恩に切る、律子」

過剰なサービスで、からあげクンでパンパンになった袋を抱えて、
プロデューサーは店を飛び出していったわ。
どうか彼がからあげクンを食べて、体力つけて、私のかわりに罪滅しをやってくれますように。
そんな打算的な私の思いのせいで、からあげクンの在庫はゼロになったけど、仕方ないわよね。
私は何もできないんだもの。仕方ないわよね。

    ~4人目~


あずさ「すいません……765プロという事務所の場所はどこでしょうか?」

私と同い年くらいかしら?そのきれいな女性は、なぜか私の勤めている事務所の場所を聞いてきたの。
でも場所は少し説明しづらいわね。

律子「えっと……今何時くらいですっけ?」

あずさ「えっとp.m9:02です。」

私が時計を確認するより早く、その女性は現在時刻を私に教えてくれたわ。


律子「私、後八分ほどで上がりですから、よろしかったらご案内しますけど
   少しお待ちいただけますでしょうか?」


あずさ「あらあら……でも、そんなわざわざ迷惑じゃないかしら?」

律子「このあと、私もちょうどその場所に用があるんです。
   だから全然迷惑とかじゃないですから」

あずさ「うふふ、それじゃあお言葉に甘えちゃいますね。
    ありがとうございます。私ったら方向音痴なものですから」

【12月23日昼、遊園地】

はぁ……昨日は飲みすぎたので頭が痛いです。
本当は事務所で寝ていたいんですけど、副業のお仕事が舞い込んだのですから
仕方がありません。今日一日双子の面倒をみるだけで五万円も貰えるんですから
そりゃあしょうがないですよね。なんたって五万円といったら五万円なわけでして、
コミックマーケット81を控えている我が身としては、なんとしてでも軍資金が欲しいわけですから。
でも昨日の飲み代は結構痛かったかも……


亜美「ねぇねぇピヨちゃん!次はあれ乗ろ!」

真美「え~真美はあっちのジェットコースターがいい→」

それにしても双子は元気です。正直体力が持ちません。
三十路が近いせいでしょうか。いいえ、断じて否です!きっと二日酔いのせいだわ、小鳥!

小鳥「うふふ、私は少し乗り物酔いしちゃったからここで少し休んでいるわね。
   二人で乗ってらっしゃい、亜美ちゃん真美ちゃん。ちゃんと終わったらここに戻ってくるのよ」


こうして私が目を離した隙に、双子はどこかに居なくなってしまいました。


小鳥「あれ……亜美ちゃんも真美ちゃんもどこにいったのかしら」

監督責任だわ……血の気が引いていくのが自分でも分かりました。
そして二日酔いの頭痛すら忘れてしまう位に焦った私は、遊園地中を探し回りました。

二人が見つかったのは、もう日が落ちそうな夕方になってからでした。

【12月23日昼、遊園地】

亜美です、真美です。亜美真美です。
今日はピヨちゃん引率のもと遊園地に来てるんだ。
親が医者の学会とかで居ないときには、ピヨちゃんのところによくあずけられるんだ。
でも今日のピヨちゃんノリが悪くてつまんない!
だから亜美(真美)達は、ピヨちゃんの目から逃れて
久々の遊園地を二人で満喫しているところなのだ!


長介「姉ちゃん、双子だよ、双子!俺、初めてみた」

かすみ「うわぁ~本当にそっくりだよ」

浩太郎「双子、双子!!」

やよい「こら!失礼でしょ。ちゃんとごめんなさいしなさい」

やよい姉弟一同「ごめんなさい」

真美「別にあやまんなくてもいいよ→」

亜美「えへへ、亜美達そっくりっしょ?」

やよい「うん!本当にそっくりだね」

それからやよいっち達とはすっごく仲良くなって、暗くなるまで
一緒に遊べて楽しかったよ!
てへへ、ピヨちゃんにはすっごく怒られたけどねっ!
でも謝ったらちゃんと許してくれたから、夕食は三人でガストだよ!

【12月23日夜、学習塾前】

千早「私のことなんてもう放っておいてください!!」

春香「千早ちゃん!待って!!」

P「千早!はやまるな!」

俺はプロデューサー。アイドル事務所のプロデューサーだ。
ただし、プロデュースするアイドルは事務所にいない。多分、世界一かわいそうな
プロデューサーだと思う。ちなみにアイドルからプロデューサーと呼ばれたことは一度もない。
俺のことをプロデューサーだと言ってくれるのは塾の生徒だけだ。


――最近では自分の道化っぷりが嫌になって、塾講師を本業にしようかとも思っている。


ところで、思春期の子供は厄介で暴走することもしょっちゅうだ。
しかし普段はクールな千早がいきなり泣きながら塾をやめると言い出したのには
流石にびっくりした。親友の春香が追っているけど、とりあえず俺も追わなきゃいけない。
そう思って学習塾の外に出ると、中等部の星井美希が俺を待っていた。
なぜかスーツケースをもっている。嫌な予感がした。

美希「ハニー……今の人、何?」

正直俺にもよくわからない。仮に分かっていたとしても、
思春期の悩みを爆発させた末の生徒の行動なんて、説明するのが難しい。

P「あぁ……ちょっと色々あってな……ところで、美希、
  今日はどうしたんだ?中等部は今日授業ないぞ?」

俺がそう言うと、美希は顔を赤らめて答えた。

美希「えへへ、美希ね、家出してきちゃったの。
   だからね、ハニーのおうちに泊めて?」

頭がフリーズした。昔から突拍子のないことを言い出す生徒ではあったが、
こんなアホなことを言い出すとは想定外だった。それにしたってアホすぎる。
これがゆとり教育というものなのか。俺は日教組を呪った。


美希「ダメって言っても、美希、家には帰らないから!
   そしたら美希、襲われちゃうかも!襲われなくても
   外は寒いから凍死しちゃうかもしれないよ?
   それってハニーの責任になるって、美希思うな?」

断じて俺の責任ではないと思う。
たかだか塾講師が生徒にそこまで責任を持たなければならない道理はない。
ふと美希の体を見る。まずい。この体はとてもまずい。
こんな中学生離れしたわがままボディを夜の街に放置すれば、多分無事では済まされないだろう。
美希の体を見ているうちに、なんだか俺の責任が問われてしまうような気がした。
ちくしょう、発育だけは無駄にいいんだから嫌になる。その栄養はなぜ頭に回らなかったのか。




――そんな時、春香からの電話の音が、俺を現実に戻してくれた。


P「あぁ、春香か。待ってろ。すぐ行く」

美希「ハニー!美希はどうするの!?」

めんどくさいことは後回しにするのが大人の知恵である。
美希のことは後回しにしよう。
とりあえずここは寒いから、事務所にでも置いておけばいいだろう。

P「あ゛~もう!!とりあえず、俺の事務所で待っとけ!」

鍵を美希に渡すと、俺は車を走らせ、その場を後にした。

【12月23日夜、車内】


P「春香、千早は最近彼氏にバイク事故で死なれたりしたのか?」

春香「いえ、千早ちゃんに彼氏はいなかったはずですけど」

P「じゃあ愛犬に死なれたとか親友に死なれたとか、はたまた親が死んだとか」

春香「ご両親は健在なはずですし、アパートはペット禁止ですし
   千早ちゃん、友達いないって自分で言ってましたから
   親友も死んでないと思います。って、なんでそんなこと聞くんですか?」

P「どうやら千早はローソンでお線香買っていったみたいなんだ。
  女子高生がお線香買うなんてそれ以外に思い浮かばないだろ?」

春香「それじゃあお墓参りに行ったんじゃないですかね?普通に考えて」

P「あ、そうか」

春香「いったい誰のお墓なんだろう。じゃあプロデューサーさん!
   とりあえずここらへんのお墓を探してみましょう!」

P「よし!いくか!あ、春香、からあげクン食べるか?」

春香「うわぁ……いいんですかぁ?こんなに沢山食べきれないよぉ」

こうして俺たち二人は、からあげクンを食べながら、墓地という墓地を回った。

【12月23日夜、墓地】

私の名前は如月千早です。同級生たちが熱心に追いかけてるような
チャラチャラしたアイドルに興味ありません。
私が興味があるのは歌うことだけ。だから学校では合唱部に所属していました。
過去形なのは、今日合唱部を追い出されたからです。
もともと孤立気味だったけど、今日部員のみんなと言い争いになってしまい
辞めざるをえなくなってしまいました。
歌うチャンスも場所も、私にはもう無くなってしまった。
そのことに気づいたら、色々とどうでもよくなって、さっき塾もやめてしまいました。

千早「ごめんね、ゆう……お姉ちゃん、もう歌えなくなっちゃった……」

線香の煙が、風に流されて目に入ってきて、目に染みます。涙が出てきました。
でも涙の理由はそれだけじゃありません。


――ゆう……お姉ちゃん約束守れそうにない……許して……


泣きながら、弟の墓前で詫びていると、突然私を呼ぶ声が聞こえてきました。

P「千早!!!」

春香「千早ちゃん!!」


嫌がる私を二人は無理やり車に乗せると、そのまま車はどこかへと走り始めました。
私は放っておいて欲しいのに……
それにしてもこの車の中、からあげクン臭いわ……私吐きそうなんだけれど……

【12月23日夜、公園近くの道路】


みなさーん、菊地真です。
ところで皆さん、知ってますか?
豚って時速30キロ位で走るんですよ。

これって100メートル走だとどのくらいなんだろ?
えーと、ちょっと計算してみますね。
あ、結果出ました。大体12秒台です。
へー豚って大体ボクと同じくらいの速さなんですね。

あ、やば。考え事してたら追いつかれそうになっちゃった。

仕方ないんで、もうそこの公園で迎え撃つことにします。
勝てるのかなぁ……不安です。

響「ブタ太!帰って来てくれたのか!ごめんな!!自分が悪かったさー!!」

豚はなぜかボクをスルーして、ホームレスらしき女の子のところに向かっていきました。
何やら感動の再会をしているようです。

なんだかよくわからず、呆然と立ちつくしたまま、ボクはその再会劇を見ていました。

雪歩「犬怖いよおおおおぉ!!」

貴音「面妖な……なぜ私どもの後を追ってくるのです……!」


今度は自然公園にいるはずの雪歩とその友達がなぜだか蛇と犬に追われていました。
例によって、犬も蛇も公園前に来ると、二人をスルーしてホームレスの女の子のところに
駆け寄っていきます。

響「いぬ美とヘビ香まで……本当にごめんさ、お前たち……
  でもまたあえて嬉しいぞ!よかった……本当によかった……」


雪歩「全然よくないですぅ!!」
真「全然よくないよ!」
貴音「全くよろしくありません!!!」

ボク達が異口同音に唱えると、ホームレスの女の子はペコリと頭を下げてお礼を言いました。

響「自分が家族を捨てたばっかりに悪かったさ……でもありがとな!」

ホームレスなのになんていい笑顔をするんだろう。
その笑顔を見たら、甘いと言われるかもしれないけれど、急に怒りが萎みました。

真「はぁ……今日は自主練も天体観測も中止だな」

貴音「人助けをしたと思えば、まぁ……ただ同じような目に合うのは二度とゴメンですが」

雪歩「そういえば、真ちゃんはなんでここにいるの?自然公園でダンスの自主練するって言ってたのに……」

真「ボクも雪歩たちと似たような事情だよ……」

響「お前、ダンス出来るのか?」

真「へへっ、結構得意なんだ。」


ボクが得意げに言うと、ホームレスの女の子は、今度は不敵な笑を浮かべてこう言ったんです。

響「実は自分もダンス得意なんだ!勝負するぞ!!」

【12月23日夕、伊織宅】


社長「――と、まぁこういう訳で、君の知恵を借りに来たんだ。」

伊織父「それは君、あれだよ。最近の子供は知らない大人に声を
    かけられたら、不審者だと思うように教育されているからね」

社長「はぁ……全く世知辛い世の中だ。うちにアイドルが居ないわけだよ」


諸君、私が765プロ社長、高木順二郎である!
悲しいかな、我事務所には所属アイドルが一人もいない。
それで今朝目をつけた、あの女の子をスカウトすべく自宅を訪ねたのだが
生憎の留守でね。帰ってくるまでの間、旧知の仲であるところの友人の家にお邪魔しているというわけだ。


伊織父「逆にその子と同い年位の女の子と一緒に勧誘すれば警戒心も和らぐんじゃないかね?」

社長「それは妙案だ。新聞配達をしているからには多分中学生……
   しかしかなり幼い感じがしたから多分中学一年生かそこいらだろう」

伊織父「それならうちの娘を勧誘に連れていくといい。大体同い年くらいだからな」

社長「恩にきるよ……」

伊織父「それでは、伊織を呼んでこよう。」

こうして私は、友人の娘と共に、アイドルの卵に会いに行ったんだ。

【12月23日夜、高槻家自宅前】

みんなのアイドル伊織ちゃんよ。べ、別にアイドルが仕事って訳じゃなくて
学校のアイドルって意味なんだから!ま、当然よね。賢く綺麗でなんでも出来ちゃうんだから
学校のアイドルになるくらい朝飯前よ。ちなみに学校じゃ生徒会長もやっているわ。
それにしても、せっかくのクリスマス前だっていうのに、パパからとんだ雑用押し付けられたわ。
なんで私がアイドルの勧誘なんて手伝わなきゃいけないのよ!?
いくらパパと旧知の仲だからって、高木のおじさまも面倒かけるわね。


伊織「ここが家……?ジャンバルジャンの小屋より小さいじゃない」

社長「ははは。いいかね、伊織君。お金持ちの君にはわからないかもしれないが
   今のデフレの時代、アイドルも庶民派の方が受けがいいのだよ。なにより
   私の第六感がティンと来た。この子は間違いなくトップアイドルになれるよ」

そういって高木のおじさまは何度も家のドアを叩いてるわ。
なかなか出ないわね。少し変だわ。灯りはついてるから在宅してるはずだし……

気になって家の裏に回ると、窓ガラスに何か貼られているのが見えたの。
これはガムテープかしら?

伊織「おじさま、この家、ガムテープで密室になっているわ。」

私がそういうと、おじさまは少し考えて、それから急に深刻な顔になったの。

社長「まさか……無理心中だと!?」

そう言うや否や、おじさまは落ちてあった石で、いきなりガラスを叩き割ったの。
私、びっくりしちゃったわ。

【12月23日夜、高槻家】

みなさーん、高槻やよいですぅ!
今日の遊園地、とーっても楽しかったんですよぉ?
亜美ちゃんと真美ちゃんっていう新しいお友達も出来たし
家族みんなで色んな乗り物にも乗れました。
ところで、亜美ちゃんと真美ちゃんの家はお医者さんで、お金持ちなんだけど
家族でお出かけすることはほとんどないそうなんです。
うちは貧乏だけど、家族みんな仲良しで、とっても幸せなんだなぁって思いました。
多分、それはお金じゃ買えないほど大事です。

今日からクリスマス寒波っていうのがやってきて、とっても冷えるからって
お母さんが沢山炭を買ってきました。
うちのボロい家だとすきま風であったかい空気が逃げるからって、お父さんは
色んなところにガムテープを貼ってます。

それからテーブルの上には、普段乗らないような食材がいっぱい乗ってます。

やっぱりお父さん、ボーナスか何か出たんですね。

やよい「うっうー!今日はすっごく幸せだなぁ!」


ううん、今日だけじゃなくて毎日家族に囲まれて、こうして笑っていられるんだから、
私は世界一の幸せ者だって思います。

部屋があったかくなってきました。
あれ……何だか少し頭がボッーって…なってきて……
外から家のドアを叩く……音がする……
いけない……早く出なくちゃ……


――突然、家のガラスがわれる音がしました。せっかく温まった部屋に冷たい空気が入ってきます。



社長「なぜ親が子供を殺さなきゃならないんだ!!君たちも親なら、
   この子の笑顔の価値がどれほどのものかわかるだろうに!!」


なんでだろう。おじさんはすっごく怒ってます。あれ?このおじさんどこかで見たことあるかも……


伊織「今時、無理心中なんて……」


そうだ!朝の変態さんだ。でも変態のおじさんがなんでうちに居るんだろ?
変態さんじゃなくて強盗さんだったのかなぁ……でも、うち貧乏だから盗むものなんて何にもないよ?

伊織「あんたももう、大丈夫。それにしてもこの家の中、寒いわねぇ」

そういうと、私と同い年くらいの女の子は、高そうなコートを私にかけてくれました。
あったかいなぁ……コートかけてくれるってことは強盗さんじゃないんだね。
あ、それならガラス弁償してもらわないといけないかも!



社長「伊織君の言うとおりだな。確かにこの寒さでは話もろくにできん。
   さて、それでは全員、うちの事務所に来なさい。話はそれからだ」

やよい「ガラスは弁償してくださいね?」

伊織「あんたはちょっと黙ってなさい!」

こうしてよくわからないまま、私たちの一家は知らない場所に連れて行かれました。

窓ガラスにビニールで名前が書いてある……

えっと、765プロって会社なんですね、ここ。

【12月23日夜、車内】


どうも……如月千早です。
気分が沈んでいるところに、からあげクンの臭いが充満する車内に閉じ込められて
余計に気が滅入りそうです。一体この二人は私をどうしたいんでしょうか。

春香「はい!千早ちゃんもからあげクン食べる?」

千早「春香……私が今、食欲あるように見えるかしら?空気を読んで……いや嗅いで」

私がそう言っても、二人にはなんのことかよく分かっていないようです。

P「とりあえず千早。何があったんだ?俺に話してみろ」

千早「話したくないです……それから、一度車内の空気を入れ替えませんか?
   この臭い、私耐えられません。プロデューサーも春香も、臭くないんですか?」

車酔いも相まって、吐き気をこらえながら私が言うと、二人は口を揃えて答えました。

P・春香「全然」

春香「千早ちゃんも食べれば気にならなくなるって。
   はい、からあげクン。少し冷めてるけど美味しいよ?」

無神経な春香とプロデューサーの物言いに何だかイライラしてきました。
仕方ないので、勝手に車窓を開けて換気することにします。冷たい冬の風が車内に入ってきました。

春香「うわぁ……寒いよぉ、千早ちゃん!って千早ちゃん、すごく震えてるよ!?」

P「大丈夫か、千早!」

千早「臭いのよりは、寒いほうがましですから」


震えながら私が言うと、春香はハッとして言いました。

春香「からあげクン食べてしまわないと、車の中臭いまんまなんじゃ……」

袋の中にはまだ大量のからあげクンが残されていました。

千早「それじゃああなたたちで食べればいいでしょ!?」

春香「それがもうお腹いっぱいで……」

P「正直もう食えないよなぁ。沢山食ったし」

千早「……せめて場所を変えましょう。一刻も早くここから出たいです」


P「そういえば美希も待たせてるし、俺の事務所でゆっくり話そうか」

春香「事務所って芸能事務所なんですよね!?うわー楽しみだなぁ」


はぁ……今日は本当に厄日ね……

【12月23日夜、公園近くの道路】


どうも、三浦あずさです。
コンビニの定員さんは、どうやら音無さんの同僚の方だったみたいです。


律子「あ、小鳥さんですか?えっと、今から事務所に顔出すことって出来ますかね?
   え?三十分くらいかかりそうですか。いえ、三浦あずささんという方が小鳥
   さんにご用があるとのことでして。あ、はい。それではまた後ほどですね」


律子さんが音無さんと連絡をつけてくれました。
どうやら今日は子供を二人預かっていて、ようやく夕食を終えたらしく、
今からこっちに向かってくれるそうです。本当にいろんな方にお手数をかけて
しまって申し訳ないわ……


律子「あれ?公園でダンスバトルやってますね。小鳥さんが来るまでの間
   結構時間ありますし、見ていってもいいですか、あずささん。
   私一応芸能事務所に勤めていますんで、ダンスには結構うるさいんですよ」


こうして私たち二人は、公園でダンスバトルの見学をすることになりました。

あら?あれはお昼に出会った動物達……
どこか嬉しそうだから、お姫様にはちゃんと会えたみたいね。よかったわ。

【12月23日夜、公園】



雪歩「真ちゃん、かっこいい……」

貴音「しかしあちらのものも相当の腕前と見ました。
   これではなかなか決着がつきそうにありませんね」


どうも、菊地真です。
今、ボクは今年で一番楽しいかも。
これだけダンスでボクと張り合えるなんてすごいや、こいつ……
生まれて初めてライバルって思える存在ができました。

あれからかれこれ一時間近く踊っていますが、時間がすごく短く感じます。
こんな楽しい時間がずっと続けばいいのに。
勝負を終わらせるのがもったいないくらいです。

真「へへっ、やるじゃん!」

響「そっちこそ!」

おっと、どうやらギャラリーまできたようです。
ようし、ここは一つ大技をきめてばしーんといいとこ魅せなくっちゃ!


響「おい!そっちは危ないぞ!」

真「え?」


声をかけられたときにはもう遅く、足元からヌルリという
感覚が伝わってきました。あれ?なんだろうな、この感触……
次の瞬間、ボクの体はゲロまみれになりました。

真「うわぁ!誰だよぅ、こんなところにゲロ吐いたのは!」


服や髪にべっとりと粘っこい液体がついてしまいました。
うげぇ……臭いよぉ……ホント、誰がこんなところに吐いたんだよぉ……

【12月22日深夜、公園】


どうも、音無小鳥です。
無駄な対抗意識なんかで大盛なんか食べるんじゃなかった……
なんとかラーメンは平らげたものの、私もあずささんも気持ち悪くなって
公園で少し休むことにしました。

うぇっぷ……もうだめです。仕方がなく、そこの芝生で吐くことにします。

あずさ「だ、大丈夫ですか、音無さん!うっ……うえぇ……」

私の吐瀉物を見て、あずささんもこらえきれなくなったようです。
貰いゲロ、いやダブルゲロでしょうか。あずささんの吐瀉物が、私の吐瀉物の上に重なって
ダブルでマシマシになっていきます。

うわぁ……グロテスクな絵だわ……
芝生の上に吐き出された、元は大豚W全マシマシのラーメンは、まるで
家畜の餌のようなビジュアルでした。
ラーメン二十郎は豚の餌だという、誰かの言葉が思い出されます。



――豚がきました。蛇も、そして犬もです。



三匹の家畜たちは、腹ペコじゃ物足りないと言わんばかりに私たちの吐瀉物を食べていました。
毀誉褒貶の激しい二十郎ですが、豚の餌ならぬ家畜の餌という比喩はどうやら正しいみたいです

響「お前たち!汚いさ!そんなモノ食べちゃダメだぞ!!」

女の子は必死に家畜たちがそれを食べるのを止めていました。
そして、何とか食べるのを止めさせた後、目に涙を浮かべて私たちを怒鳴りつけました。

響「酔っぱらいはさっさと帰るさ!!う゛~東京は本当に汚いぞ!!
  もう嫌さぁ!!自分は沖縄に帰りたいさぁ!!!」


公園を追い払われた私達は、仕方なくその場を後にしました。

その後、あずささんと別れたわけですが、彼女がお金は必ず返しに来るとしつこいので、
事務所の場所を教えてから私は家路についたんです。

それにしても今日は飲みすぎたわね。明日は多分二日酔いだわ……
まぁ、いつもの二人を預かるわけだから大丈夫よね。

それじゃあおやすみなさい。


【12月23日夜、公園】


どうも、秋月律子よ。あの子も可哀想だわね……まさかゲロまみれになるだなんて。
けどもったいないわ。あれだけのダンス勝負がこんなことで台無しになるなんて本当にもったいないわ。


あずさ「あのう……律子さん……」


あずささんが何やらバツの悪そうな顔をして、私に耳打ちしてきたわ。
えっと、何ですって!あのゲロは小鳥さんのゲロ!?

はぁ……これって同僚の不始末よね……

だったら手を貸さない訳にはいかないじゃないの……



雪歩「真ちゃん、大丈夫!?うわぁ……真ちゃん、すごく臭い……」

貴音「この内容物はらぁめん二十郎のものに違いありませんね。
    なんというぎるてぃでしょうか……私は許せません!!」

真「このまま家に帰るのか……臭いよぉ…」

律子「はいはい、あんた達。いい勝負見せて貰ってありがとね。
    ところでそんななりして帰るわけにもいかないでしょ?
    うちの事務所、そこだからシャワー貸してあげるわ。
    そこの女の子にもね。あんた、多分ホームレスだろうから
    シャワーなんてずっと浴びてないでしょう?ほら、ついてきなさい」


真「え?いいんですか?」

響「久しぶりのお風呂だぞ!」

雪歩「じゃあ私、着替え持ってきますぅ!」

貴音「この時間、女性の一人歩きは危険です。
   私も同伴しますよ、雪歩。」


律子「場所はそこの裏だから、着替え持ってきたら
    勝手に入りなさい。それじゃあ、いくわよ」

【12月23日夜、765プロ事務所】

春香と千早を連れて事務所に入ると、なぜだか事務所の中が騒がしい。

P「ただいま!ごめんな、美希、遅くなっちまって」

美希「ハニー……ここなんだか怖いの……」

美希は何かに怯えていて、すがるような目を俺に向けた。
奥を見ると社長を中心とした一団が、車座になって人生と家族について熱く論じている。


真「はぁ~いい湯だったなぁ!すっきりしたよ」

響「お風呂なんて久々だったさ~」

雪歩「真ちゃん……私の服似合わないね……」

貴音「そうですね。このものにはやはり
   ぼーいっしゅなものがよく似合うと思います」

あずさ「それにしても音無さん遅いですねぇ」

律子「もうそろそろだと思います」

下の階のレッスン室からは律子を中心とした女性の一団が登ってきた。
社長といい、律子といい、一体どうしたことだろうか。

何やら自分の預かり知らないところで大きな力が働いている気がした。

春香「うわぁ……ここにいる人、みんなアイドルなんですかぁ?」

P「違うよ……多分だけど」



小鳥「音無小鳥、ただいま帰りましたー!」

亜美真美「ただいま帰りましたぞ→」

小鳥さんと双子の声に事務所にいる全員が驚き、そしてこの時になって
ようやく全員が、この事務所の異様な状態に気付いたようだ。

それから、はげしい指差しの応酬がはじまった。


響「あ゛ー!!おっさんは昨日の変態じゃないか!?
  それによく見たら昨日の酔っ払い二人もいるぞ!!」

社長「わ、私は変態ではない!」


律子「生きてたんですね、よかった~本当によかった!
   あなたもお母さん死ななくてよかったわね!!って、あれ?
   そしたらなんでお線香なんて買いに来てたの、あなた?」

千早「私の母は存命ですが……」

亜美「あれ→やよいっちとその弟たちじゃんか→」

真美「どうしてここにいるの→?」

やよい「亜美ちゃん、それに真美ちゃんも!?どうしてここにいるんですかぁ?」

あずさ「あらあら、もしかしてあなたは昨日のラーメンの女王じゃないかしら?」

貴音「はて?確かに昨日はらぁめんを食べておりましたが……」

その後、一瞬の沈黙があり、そして全員の頭の上に等しく?が浮かんだ。
ただ一つ分かっているのは、少なくともここにいる全員がほぼ赤の他人同士であるということ。
そしてよくわからない縁に導かれて、全員がこの場所に集まってしまったということだ。
そして、俺たちの沈黙を破ったのは、社長だった。


社長「ティンときた……!!」

【12月23日深夜、765プロ事務所】

ここに皆が集まったのは偶然であれ必然であれ、何かの縁だ。
そして、ここにいる全員に目標なり夢があると思う。
私はしがない零細芸能事務所の社長だが、それを助ける力くらいはあると思う。
どうか私たちに、君たちを輝かせる手伝いをさせてくれないか、と。


要約すると、大体上のようなことを、社長は俺たち全員に言った。

やよい「アイドルになれば、家族みんなお腹いっぱいに食べられるんですかぁ?
    今みたいに……みんな仲良く、ずっと笑って暮らしていけますかぁ?」

小さい女の子は、鼻声になりながら社長に問いかけた。

社長「もちろんだとも。もっとも、それはそこにいるプロデューサーの腕次第だがね」

響「それなら私もお願いするぞ!家族がお腹空かせないためなら、自分、がんばるから!」

二人の少女が、お願いしますと何度も頭を下げてきた。
そのとき、俺の袖が弱々しい力で引かれた。千早だ。

千早「プロデューサーは……私に歌う場所をくれますか……?」


P「……もちろんだ!!全員まとめて、俺がプロデュースしてやる!!」

この時、俺は初めて、本当の意味でプロデューサーと呼ばれたんだ。
そして俺は初めてプロデューサーとして頼られたんだよ。
生徒じゃなくてアイドルに。塾講師じゃなくてプロデューサーとして。

【12月23日深夜、765プロ事務所】

ここに皆が集まったのは偶然であれ必然であれ、何かの縁だ。
そして、ここにいる全員に目標なり夢があると思う。
私はしがない零細芸能事務所の社長だが、それを助ける力くらいはあると思う。
どうか、私たちにその手伝いをさせてくれないか、と。

要約すると、大体上のようなことを、社長は俺たち全員に言った。

やよい「アイドルになれば、家族みんなお腹いっぱいに食べられるんですかぁ?
    今みたいに……みんな仲良く、ずっと笑って暮らしていけますかぁ?」

小さい女の子は、鼻声になりながら社長に問いかけた。

社長「もちろんだとも。もっとも、それはそこにいるプロデューサーの腕次第だがね」

響「それなら自分もお願いするぞ!家族がお腹空かせないためなら、自分、がんばるから!」

二人の少女が、お願いしますと何度も頭を下げてきた。
そのとき、俺の袖が弱々しい力で引かれた。千早だ。

千早「プロデューサーは……私に歌う場所をくれますか……?」


P「……もちろんだ!!全員まとめて、俺がプロデュースしてやる!!」

この時、俺は初めて、本当の意味でプロデューサーと呼ばれたんだ。
そして俺は初めてプロデューサーとして頼られたんだよ。
生徒じゃなくてアイドルに。塾講師じゃなくてプロデューサーとして。

春香「あ、外見てください、プロデューサーさん!雪ですよ、雪!」

時計が12時を指している。
あぁ、そうか。もう、今日はクリスマスイブだ。

色々なことに追われた一日だったからすっかり忘れていたよ。

貴音「こんな夜にほわいとくりすますをくれるなど、小粋な神様もいたものです」

本当に、神様はなんて粋なんだろう。

こうして765プロの本当のスタートは、雪の降るクリスマスイブからこうしてはじまった。
そして俺のプロデューサーとしての生活もまた、この聖なる夜にはじまったんだ。

【一年後、ニューイヤーライブ会場】


私は天海春香です。イエイ。
トレードマークは頭のリボンで、こっちが本体だ、なんてファンのみんなは冗談で言ってきます。
私が明るく、そして前向きにアイドルをやり始めて、もう一年以上がたちました。
時間が過ぎるのはホントあっという間で、昨日のことと言われても信じてしまうかもしれません。
結局、あの日事務所に集まったみんなは、全員アイドルをすることになりました。


けどなんか変な感じもします。
だってあの日一日で、私の、いえ、みんなの人生は一気に変わってしまったんですから。
ホント、私たちを取り巻く全てが、心の準備なんかないまま一気にchangeしたって感じです。

でも、それはいい方向に変わっていたんだと思います。

だって、千早ちゃんは歌う場所を、美希はきらきら輝く場所を、やよいと響は家族を養う糧を、
そしてほかのみんなもそれぞれの場所やものを手に入れたんですから。

え?私は、ですか?

えーっと、何だか難しいなぁ……
ただ、私はみんなのいる今のこの事務所が大好きで、
みんなとなら何だって出来ちゃう気がします。



――それでは、そろそろライブが始まる時間のようです。

春香「それじゃあみんな、いっくよー!765プロ~」

全員「ファイトー!!!!」



大切な仲間のいるステージが、このきらめくステージが、今の私の居場所なんです。

            ~Fin~

倒産の人?

>>124
ちがうよ



アニマスとπタッチコミュ、それからニコマスしか知らんので
キャラの多少のずれはご勘弁。
それから誤字脱字などもお許しください

それでは読んでくれた方、ありがとうございました

http://i.imgur.com/wLZLt.png

>>137
雪歩まじ天使
誕生日おめでとう

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