側近「お早うございます、魔王様」(136)

魔王「ふぁ……ああ、お早う」

魔王「うーん、どんくらい寝たかなぁ」

側近「368年と311日です」

魔王「今回は結構長かったね」

側近「ですね」

魔王「と、すると今回でいよいよかな」

側近「これで悲願達成となればいいのですがねぇ」

魔王「あれ、騎士団長とか将軍は?」

側近「団長は前回、戦死なさったではないですか」

魔王「あー……惜しい人を亡くしたなぁ」

側近「将軍は……目覚めていないようなので、やはり限界だったようですね」

魔王「あちゃあ。寂しくなるなぁ」

側近「……私はずっとお傍におります故」

魔王「ありがとう。君のその言葉は本当にほっとするよ」

魔王「さて、状況はどうかね」

側近「各地で魔物が暴れているようですね」

側近「既に拠点が築かれている模様です」

魔王「おうおーう。今回は動きがいいじゃないの」

側近「そうですね。流石の私もこれには驚きが隠せません」

側近「それともう一つ。人間側が徹底抗戦の構えでして」

魔王「え?マジ?どんな感じ?」

側近「既に滅んだ町や村もありますが、魔物達を退けている所も」

側近「また、国が勇者の称号を与えた人間を中心とした少数精鋭の部隊を複数確認」

側近「中でもある1グループが猛攻を見せており、既に拠点を一つ壊滅させています」

魔王「凄いなぁ。350年でここまで変わったか。刀身が熱くなってきた」

側近「何を言っているのですか」

側近「これ以上遅れを取る訳にはいかないのですよ?」

魔王「分かった分かった。あ、こっちの部隊は?」

側近「既に派遣済みですのでお気兼ね無く」

魔王「相変わらずの手際の良さ。君がいてくれて本当に助かるよ」

側近「感謝の極み」

魔王「では私もそろそろ出撃するとしようかな」

側近「では私はいつも通り、諜報に徹しますので」

魔王「うん頼むねー。何かあったら連絡するからー」

側近「できれば定時連絡が欲しいのですけどね」

魔王「暇があればちゃんと帰ってくるからさー」

側近「暇があるのも問題なのですが」

魔王「手厳しいなぁ。まあいいや、一応用心してね。じゃ、行ってくるよ」

側近「はい、魔王様もお気をつけて」

魔王「やっぱ国の位置はだいぶ違うな」

魔王「お、この国は新しいな」

魔王「さあて何処から行くべきか……」

魔王「あ、驀進中の勇者の現在地を聞いておけば良かったなぁ」

魔王「うーん……やっぱまた適当に端から回るとするかな」

魔王「……良い天気だ」

魔王「側近も連れてどっか遠くに消えたくなる陽気だなぁ」

戦士「よーし、二つ目の拠点もこれで終わりだな」

勇者「良し!この調子で快進撃と行こうか!」

僧侶「初めは私達なんかで……とも思いましたが」

盗賊「意外とあたしらでもやれるもんだねぇ」

中ボス「お……のれ……人間、め……」

中ボス「我、々は……あきらぐふっ」ザシュ

戦士「っけ、最後の最後まで胸糞悪い声を聞かせやがって」

勇者「とは言え……まだまだ拠点も多いし、滅んだ町もある」

勇者「早く魔王を討たないと……」

盗賊「そー焦んなさんなって。今はまだゆっくりでもいいから、地力を固めるべき時さ」

勇者「次は何処に向かおうか?」

僧侶「北東の方ですと拠点が多くあるそうですね」

盗賊「結構手強いらしいからねぇ。もうちょっと実力つけない?」

戦士「一旦、王都に戻って情報収集してもいいんじゃないか?」

勇者「そうか……行ったら他の人が倒していた、じゃ意味がないもんな」

盗賊「あたしぁー王都は好きじゃないんだけどねぇ」

戦士「義賊の上に捕まっていたもんな」

盗賊「うっせ」

魔王「広大な草原が広がり、酪農を中心とした特産を多く抱える緑の国」

魔王「緑の国産の牛は世界一ぃぃぃぃぃぃ!」

魔王「いーただーきまーーーすっ!!」

「おい、聞いたか?北にあった拠点が瓦礫の山になっていたそうだぜ。誰がやったのかも不明だとよ」
「本当かっ!という事は大魔術師様がなさったのか?」
「あの人、いつも一人だからなぁ。まあ誰がやったか分からないとなるとあの人だよな」

魔王(大魔術師かぁ。軍隊もいるみたいだし人間側の戦力、だいぶ固まってきているなぁ)モッキュモッキュ

魔王(そういえば前回、緑の国は相当な被害が出てたっけ。350年の対策が功を成している、といったところか)モギュモギュ

魔王(こりゃあ、うかうかしていると本当に追いつかれそうだな)ゴクン

勇者「え……緑の国のがですが?」

戦士「向こうも向こうで勇者を編成しているとかか?」

盗賊「いや、向こうは飽くまで軍隊での防衛をしているようだ」

盗賊「風の噂じゃあ大魔術師様らしいが、どうもそれも怪しいねぇ」

僧侶「どういう事でしょうか?」

戦士「名声も何も無く、目立つ人数でもない何者かが動いている、といったところか」

勇者「何にせよ、こちらに対し味方となる新戦力はありがたいな」

戦士「少しきな臭い気がしなくも無いがな」

勇者「たあっ!」

戦士「うおおおお!」

僧侶「これなら数日の内に周辺の拠点を潰す事ができそうですね」

盗賊「本当にあの二人は人間か、って思っちゃうわねぇ」

勇者「ふう……これでここの魔物は全滅したかな」

戦士「流石に連日これだと疲れるな……てか僧侶はいいとして、盗賊も戦えよ」

盗賊「あんな豪腕な敵を相手にするとかやーよ」

魔王「クリームシチューうんめええぇぇぇ!」ズズズ

魔王「酪農国家緑の国の名は伊達ではないなぁ」

魔王「このチーズも何とも泣かせる味よ」クッチャクッチャ

魔王「あーいかんなぁ……早くも緑の国から出たくなくなった」

「おい、集落を潰した拠点が一晩で壊滅したらしいぞ!」
「もしかして他国の勇者来てるのか?」
「誰も報酬受け取っていないからなぁ」

魔王(拠点数に応じてかな?だとしたら強い一行はウッハウハだなぁ)

勇者「うーん、やっぱり他のPTもガンガン進んでいるみたいだね」

戦士「つっても、既に半分近くがいないみたいだがな」

僧侶「もう……それだけの方が命を」

盗賊「全滅はごく一部さ。逃げ帰ってきて諦める連中が殆どだよ」

勇者「とは言っても、そろそろこの近辺も拠点が少ないし、他国に向かった方がいいかもね」

盗賊「けど他国だと報酬下がるからねぇ……」

戦士「その分、数で補うしかないだろう」

魔王「川に湖に海。水の恵みを一身に授かる青の国」

魔王「ひゃっほぉぉぉい海鮮料理うっまそぉぉぉぉぉ!」

魔王「いっただきぃぃまぁぁぁぁすぅ!」

「おい、南西の島にあった拠点が潰れたらしいぞ!」
「何時の間に海軍が出たんだ?」
「そこら辺一切情報が無いんだよな……」
「とりあえず海からの襲撃に警戒する必要はなくなったそうだ」

魔王(おいおーい……海軍なんてもってるのか)ハフハフ

魔王(ああ、あのいかつい船はそれかぁ)ハッフハッフ

魔王(……だけども、対魔物以外に海軍の必要性は無い気がするんだがなぁ)フゥ

魔王「……」

魔王「……」コーケーコッコー

魔王「……」チュチュンチュチュン

魔王「……」

魔王「……」カァーカァー

魔王「くそぅ……飯が釣れねぇ」

勇者「さあ、今日も一日張り切っていこうか!」

盗賊「相変わらず元気ねぇ」

僧侶「そこが勇者さんのいい所ですからね」

戦士「リーダーだしそうあってくれた方が楽だからな」

勇者「そういう風に思われていたのか……盗賊と戦士」

盗賊「悪い意味で言っているんじゃないんだけどねぇ」

戦士「右に同じく」

盗賊「そういえばここらの拠点のいくつかは既に潰れているわよ」

勇者「ええ?!別のPT?」

盗賊「例の如く未詳なんだけどさぁ」

戦士「青の国だから緑の国の大魔術師って事はないだろうなぁ」

僧侶「こちらの国は魔物達に対し、攻めるだけの戦力がありましたでしょうか?」

勇者「海軍はあるけど、陸戦力はそうでもなかったはずなんだけどなぁ」

戦士「お、こんなご時世に旅人とは珍しいな」

盗賊「しかも一人のようね。よっぽどの手慣れだったりしてねぇ」

勇者「あ、そうだ。彼から話を聞いてみよう」

盗賊「え、なんでさ?」

勇者「やはり旅人だと色んな話から風の噂まで知っているでしょ」

勇者「向かう方角が同じでなければ、これほど有益な情報源は無いよ」

僧侶「なるほど~」

勇者「こんにちは~お一人で旅ですか?」

魔王「そうですよ~。皆さんは……勇者とかですか?」

勇者「はいっ!頑張って魔物を倒す旅をしています」

魔王「おお、それはそれはお疲れ様です。して、勇者さんが自分のような者に一体どのような御用が?」

勇者「周辺の魔物の拠点を撃破したという話を聞きまして」

勇者「何者による事なのかを知らないので、もし旅先で知り得た情報がありましたらお聞きしたいなぁ、と」

魔王「なるほど……ですが残念ながら私もこれと言って誰によるものなのかは」

勇者「そうですか……」

戦士「それにしても、一人旅って事は相当な腕前なんだろう?いっそ勇者に志願してみたらどうだ?」

魔王「人付き合いは苦手なので気の向くままの一人旅なのですよ」

盗賊「あたしも昔はそうだったけど、案外いいもんだぜー仲間ってのは」

魔王「仲間はいますよー。御互い単独行動ですけどね」

僧侶「寂しくはならないのですか?」

魔王「御互いチームプレイが下手ですからね」

勇者「ちょ、皆ストップ!旅人さん質問攻めになってるじゃない!」

魔王「これはこれで楽しいですから構いませんよ?」

戦士「でもまあ、自己紹介しないでってのもあれだったか。俺は戦士だ」

盗賊「あたしぁ盗賊よ」

僧侶「そ、僧侶と申します」

勇者「何でこんな……まあいいか。このPTのリーダーを務める勇者です」

魔王「旅人の魔王です。以後お見知りおきを」

「……」

勇者(……ギャグのつもり?)
戦士(つっまんねーな)
盗賊(これはボケ殺しでいいギャグね)
僧侶(??……ああっ冗談ですか)

魔王(え、何この微妙な空気)

……
勇者「おっとだいぶ話しこんでしまいましたね」

魔王「もうこんな時間でしたか……」

戦士「そろそろお開きだな」

魔王「そうですね。皆さんの旅のご無事、祈っています」

勇者「任せて下さい。必ずや魔王を倒してみせます!」

魔王「……」

勇者(そういえば皆でボケを無視してたんだっけ)
戦士(ここでこの切りかえしは酷いだろう)
盗賊(流石に微妙な顔をするわね)
僧侶(??)

魔王「ただい~ま~」

側近「おや、途中帰還だなんて珍しいですね」

魔王「側近に会いたくなった」

側近「それはそれは私の為にわざわざご足労頂き恐縮です」

魔王「え、本当に俺に会いたかったの?」

側近「失礼ですね」

側近「私は常に魔王様のお傍におりたいと考えていますよ」

魔王「常に考えてるの?!」

側近「とは言え、他にも目的があるのでしょう?」

魔王「さっすがー。ちょいと情報をと思ってね」

側近「勇者のPTに接触なさったのですね」

魔王「……状況が見えている感じだね」

側近「勿論ですとも。早速解説に入りましょうか?」

魔王「お願いするよ」

側近「知っての通り、人間側は完全に魔王という存在が諸悪の根源と考えています」

側近「最早、魔王という存在を正しく認識できている人間はいないと言っていいでしょう」

魔王「350年の間に何があったのさ」

側近「どうも前回の時に勇者と親しくなったのが原因のようですね」

側近「初めはうまく事が進んでいたようですが、前々回の時にも魔王様の知名度が多少あった所為か」

側近「記録を元に魔王様の消息を絶つタイミングと、魔物が消えるタイミングが二回も同じ事から」

側近「魔王様のラスボス説が主流になってしまったようですね」

魔王「あー……そうか、そうきちゃったか」

魔王「彼には色々と苦労をかけただろうに悪い事をしてしまったなぁ」

側近「ともすれば、穏便に事を運ぶ必要があります」

魔王「だね」

側近「私としては人間の生活圏内での活動は自粛頂ければと思いますが」

魔王「それは聞き入れられないね。国々の食文化は素晴らしい」

側近「ですよね」

魔王「まあ極力穏便に動くとするよ」

側近「お気をつけ下さい」

魔王「そっちもね。流石に今回は定期的に連絡を入れたほうがいいかな」

側近「できれば常に、がありがたいのですが」

魔王「まあ人間相手にそうは負けないからねぇ」

側近「それは……いえ、そうだとしてもです」

戦士「……」

盗賊「おや不服そうじゃないか」

戦士「くそ、離せ!俺は俺の部屋で寝る!」

勇者「さー今日こそ観念してもらおうか!」

戦士「ちくしょお!毎度毎度三人がかりで夜這いとか気が狂ってるぞ!」

僧侶「あ、あたしも数に入れられてる?!」

盗賊「えーここあたしたの部屋よ?」

勇者「そうだそうだー」

戦士「お前らが隙見て力ずくで引っ張ってきたんだろうが!」

盗賊「とゆーかあんたも手伝いなさいな」

僧侶「い、いえ私は別に……」

僧侶「それに、こういうのはその……い、いけないと思います!」

勇者「僧侶ちゃんは真面目だなぁ」

盗賊「純愛派ねえ……こんな旅をしているんだから、あまり悠長な事を言うのもあれだと思うけどねー」

戦士「……」コソコソ

盗賊「させんよ!」ガッ

勇者「おお、東方の神秘ネワーザ!」

盗賊「さあて……今日こそはあんたの童貞頂くわよぉ」ペロリ

勇者「わくわく」

戦士「うおおお解けぇぇぇ!」

盗賊「男の貞操なんぞ後生大事にするもんじゃないでしょうに」

戦士「うるせぇぇぇ!このビッチどもぉぉ!」

勇者「ま、待って!私、未経験者だよ?!」

戦士「そんだけ盛ってれば変わらんわ!」

勇者「ええぇぇぇぇえぇぇえぇ」

盗賊「っち、まーた逃げられたかぁ」

勇者「一体何時になったら心を開いてくれるのやら」

僧侶「もっとお互いが歩み寄るべきかとも……」

盗賊「もっと攻めろって事ね」

勇者「なるほど」

僧侶「訂正します。距離を取るべきかと」

盗賊「そして気が緩んだ所を身体ごと突っ込んでいってマウントを取ればいいのね」

勇者「なるほど」

僧侶「もう止めてあげてっ!」

魔王「それじゃあそろそろ行って来るとするよ」

側近「夕べはお楽しみでしたね」

魔王「あ、なんだろう。その台詞言われるのちょっと感動する」

側近「それは良かったです」

魔王「でも楽しんでいた相手に言われると何とも言えない気持ちになる」

側近「久しぶりでした故お許し頂きたく……」

魔王「御互いこんな身体じゃあねえ……」

魔王「お、でっかい拠点……」

魔王「魔物の死骸もとなると誰か戦っているのかな?」

魔王「……手下のこの構成は嫌な種族が頭をやっているんだな」

魔王「死んだら拠点を爆発させて道連れにするんだよなぁ」

魔王「……」

魔王「ちょっと覗いていくか」

戦士「おし、これでこの砦も終わりだな」

盗賊「にしても、これほど大きい拠点があるとは驚きねぇ」

中ボス「ぐぐ……これで……終わり、だ、と」

戦士「なんだ?負け犬の……」ドガァン

僧侶「なな、何ですか?!」ドォォン

勇者「砦がっ!逃げるよ!このままじゃ生き埋めだ!」

グリズリーの群れが現れた!

戦士「伏兵だとっ」

盗賊「こいつら相手にしていたら」

勇者(こんな所で終わるのか……)

魔物「グォォォォォォン……!」ドザン

魔王「奇遇と言いたいとこだが急げっ!もうもたないぞ!」

勇者「凄い……たったの一撃であの魔物を」

盗賊「感心していないでいくわよ!」

グリズリーの群れが現れた!

戦士「伏兵だとっ」

盗賊「こいつら相手にしていたら」

勇者(こんな所で終わるのか……)

魔物「グォォォォォォン……!」ドザン

魔王「奇遇と言いたいとこだが急げっ!もうもたないぞ!」

勇者「凄い……たったの一撃であの魔物を」

盗賊「感心していないでいくわよ!」

僧侶「きゃあ!」バタ

勇者「僧侶ちゃん!手を!」

僧侶「す、すみま……あ」

勇者(天井が落ち、間に合わ……)ッバァァン

魔王「もたつくな!走れ!」

勇者「あ……は、はい!」

戦士「一太刀で弾きやがった……本当に何者なんだ」

ドォォ..ン
勇者「ふうーー。本当に助かりましたよ」

盗賊「確かにねぇ。あんたがいなけりゃ死んでいたわ」

魔王「何はともあれご無事で安心しましたよ」

僧侶「……あ、ありがとうございました」ガクガク

戦士「もう大丈夫だから、ここで少し休んでおけ」

僧侶「は……はい」ガクガク

勇者「それにしてもどうしてこちらに?」

魔王「通りがかっただけなのですが、あの大きな拠点はああして道連れをする魔物がいますからね」

魔王「もし誰かが戦っているようならと思い来てみれば案の定、ですよ」

戦士「それが無かったらと思うとぞっとしないな」

盗賊「本当にねー」

盗賊「さあて今日も町での宿泊がやってまいりましたぁぁぁ!」

僧侶「戦士さんはもう鍵をかけて部屋に篭るそうですよ?」

盗賊「早っ!何で?!」

僧侶「流石に今日は疲れたから、だそうです……」

盗賊「……ともすればここは本業のみせどころかしら」

僧侶「や、止めましょうよ……そういえば勇者さんは?」

勇者「……」ボー

盗賊「おやおやぁ?勇者はどーしたのかしらねー?」

勇者「……え、ああうん。ほら今日は疲れたし休むのも」

盗賊「どぉぉしたのかしらねぇぇぇぇぇ?」

勇者「あうあう……」

盗賊「さあゲロっちゃいなさいな」

僧侶「?」

勇者「その……魔王さんの事で頭がいっぱいと言いますか」

盗賊「っかーーー!いいねぇ!若いねぇ!」

盗賊「あんだけ迫られてて戦士可哀相って意見もあるだろうけどいいわねーー!」

勇者「い、いやいやちょっと待って、何もあたしはそういうつもりじゃ」

盗賊「じゃあ次、魔王さんと会ったらあたしがアタックしていいかしらん?」

勇者「あうあうー」

盗賊「この勇者が一目惚れねーいいんじゃない?」

僧侶「わ、私の言った意味、理解して頂けますか?」

勇者「うん……侮っていた。恐ろしいほど打ち抜かれた気分だよ」

盗賊「若干会話が噛み合っていないように思えるけどを何を打ち抜かれた感?」

勇者「……心」ボソ

盗賊「プフゥーーーー!こんの勇者が心を打ち抜かれたってブフーーー!」

勇者「う、うるさいなぁ!」

盗賊「じゃあまず次の時の為にどうマウントを取るか作戦を練らなくちゃねぇ」

勇者「よ、よろしくお願いします軍師殿!」

僧侶「前提がおかしい!」

盗賊「恐らくあの男はかなりものよ。きっと女もそれなりに経験してるだろうねぇ」

勇者「あうう……」

盗賊「そこを逆手にとって勇者は初々しく淑女らしさを振舞うのよ!」

勇者「具体的には?」

盗賊「話があると路地裏に連れ込み、相手を行き止まりに追いやってから……」

勇者「ふむふむっ」

僧侶「勇者さん信じないで、誰か止めてーーー!!」

勇者「どこの国の領土でもない……大陸の中心に位置する平原」

戦士「凄い数の拠点だな……」

盗賊「よぉく見ると他のPTも戦っているようね」

僧侶「完全に出遅れちゃいましたね」

勇者「とは言えこんだけ拠点があるんだ。決して出遅れではないさ」

勇者「行くぞ!皆!」

勇者「はあっはあっ」

戦士「ふぅーー。一日で三つはちょっと張り切り過ぎじゃないか?」

盗賊「競争相手がいなければ落ち着いて進めてもいいんだけどねぇ」

僧侶「そろそろ私のMPも心許無いですからね……」

勇者「流石にこれ以上は無理か」

盗賊「ちょい待ち!なんだこれ……地下があるわよ」

戦士「拠点に?何故?」

勇者「……行ってみるか」

勇者「な、な、な」

僧侶「地下にこんな……これは、王都?」

盗賊「まさか魔物の?!んな馬鹿な……」

戦士「城と城下町の一部しか無いが……この町の作り、見た事があるぞ」

勇者「え、一体何処で?」

戦士「歴史の書物だ……間違いない。これは云千年前に滅んだと言われる銀の国だ!」

僧侶「ええええっ!どうしてこのような場所に?!」

盗賊「こりゃあ……探索するしかなさそうね」

勇者「何処も朽ちかけているな」

盗賊「そもそも何で地下なんかに」

僧侶「確かに位置的にはここが銀の国があったとされる場所ですが……」

戦士「なあ、俺達は本当にこんな大空間を階段で降りてきたのか?」

勇者「言われてみれば……これほどの高さを降りてはいないはずだ」

盗賊「この本は……僧侶、あんた古い字も読めたわよね?」

僧侶「は、はい。貸してください」

前に勇者のお父さんが魔王のSS書いてた人だよな?

あの呪われた聖剣のSSか

僧侶「……本の劣化が酷くて殆ど読めませんね」

盗賊「くっそ……歴史的な発見だっていうのに、一体この国は何が起こったのさ?」

僧侶「あ、ここは読めますね」

戦士「本当か?読み上げてくれ」

僧侶「魔物が現れると共に我が国、銀の国は国王自ら軍勢を率いて討伐に……」

僧侶「数年に渡る戦いは……遂に我らの王が……後に魔を……」

僧侶「駄目ですね。これ以上は一部の単語がやっと読める程度ですね」

勇者「銀の国の国王が魔王を倒したのか……?」

戦士「のようだが肝心なこの国の有様までは行きつけなかったな」

僧侶「一つ気になる部分があります」

盗賊「おっどんなだい?」

僧侶「先ほどの後の頁になるのですが」

僧侶「呪い、永劫、戦い……という単語が入った文章があるのです」

僧侶「それにその頁から先が何も書かれていないのです」

勇者「んんー?呪いで国を地下に封印された?」

戦士「いや拠点から行けた事を考えるとまさか……魔王がいる間しかこの特別な地下が存在しない、とか」

盗賊「何にせよ……想像の域を出ない話ねぇ」

勇者「ふー……一旦外に出よう」

勇者「他の拠点へ攻撃したいところだけど、流石にこれは早急に報告しないとだからね」

勇者「うああぁぁ王都に戻ってる間に拠点が全滅している」

戦士「まあ地下王都の情報量でとんとんだろ」

盗賊「これからどーするのさ」

僧侶「ええと……あまり鎮圧報告が無いのは赤の国と白の国でしょうか」

勇者「火山に向かうか北国に向かうか……」

盗賊「リーダーの選択はどーっちだっ」

勇者「赤の国でしばらくのんびりしない?」

戦士「温泉に惹かれたな」

魔王「遥か古より火を神として讃え、聳える火山を信仰した火の国」

魔王「その特産は様々!特に国産材料の鶏肉と野菜のごった煮と温泉卵が、火の国の食文化の象徴!!」

魔王「尊き命を育む大地と火の神に感謝しいぃぃったぁだきぃまぁぁぁぁっすぅぅぅ!」ハッフハッフ


僧侶「凄く見覚えがある方が……」

盗賊「……今までの雰囲気台無しのギャップね。勇者、あんた大丈夫」

勇者「……魔王さん」ボケー

盗賊「脳内補正が上回っているようね」

戦士「蚊帳の外なんだがどういう事だ?」

……
戦士「待て!勇者が抜けたら盗賊ルートしかないじゃないか!」

盗賊「うぇっへっへっへ」ジュルリ

僧侶「え……私はその、論外と……?」

戦士「ある意味そっちルートに行きたいが、絶対に盗賊に潰されるだろう!」

戦士「というか三人の中なら俄然勇者ルートが良かった……」

勇者「う……ごめんね戦士。少なくても今は、あの人以外とか考えられないんだ」

盗賊「……流石に同情する完膚無き敗北ね」

戦士「う、うるせぇ!」

勇者「お久しぶりです」

魔王「おお、これはこれは。これからどちらに?」

勇者「しばらくはこの周辺をと思いまして。魔王さんの方は?」

魔王「少しばかり赤の国を観光したら、白の国に向かうつもりですよ」

勇者「白の国かぁ……」

魔王「どうかされました?」

勇者「この間の事で何かお礼ができれば、と思っていたのですが」

戦士(どうでもいいがこのご時世で単身観光にツッコミはないのか?)

盗賊(あれだけの力量見ちゃったら野暮じゃない)

魔王「お心遣いは有り難いのですが、特に困っている事も……」

勇者「そうですか……」シュン

魔王「……」

勇者「……」ショボーン

魔王「い、いやあ実は火の国は初めてなので、良い温泉宿とか観光名所とか知らないんですよねぇ」

勇者「そ、それでしたらお任せ下さい!」パァ

戦士(屈強の剣士が折れた!)

盗賊(あの子、あれで素なのよねぇ……恐ろしい子!)

僧侶(そういえばここに来るまで、火の国の観光ガイドブック何冊も読了なさっていましたものね)

魔王 ワイワイ
勇者   キャッキャッ

盗賊「あら良い雰囲気」

戦士「……居た堪れない気持ちになるな」

僧侶「お邪魔になりそうですし、離れておきましょうか」

盗賊「んじゃまあ戦士はあたしルートのフラグを立てて頂くとして……」

戦士「というかそれ、お前が強制的に立ててくるの間違いだろう」

僧侶「既成事実?!」

魔王「いやぁ助かりましたよ」

勇者「いえいえ、この程度の事でよければいつでもどうぞ!」

勇者「……」

魔王「どうかなさいましたか?」

勇者「あの、魔王さんには慕っている方とかいたり……しますか?」

魔王「……いない事もないけれど、実らないのが事実なんですよねぇ」

勇者「もし、私達が魔王を倒す事ができたら……その……」

魔王「……こんな短時間の付き合いで、そう言われるとは思いませんでしたね」

魔王「魅力的な話ではありますが……」

魔王「すみません、その気持ちにお答えする事はできないかもしれません」

勇者「……それなら、今夜だけでも」

勇者「一夜限りの仮初の恋だとしても……私は」ギュウ

魔王「……」

魔王(え、何この流れどうしよう)

勇者「良し!今日も張り切っていくぞ!!」

戦士「……結局どうなったんだ?」

盗賊「朝帰りよ」

僧侶「でもお付き合いはできないそうで……」

戦士「……」

盗賊「良かったわねぇ。まだチャンスはあるわよぉ?」

戦士「複雑な気持ちだ」

側近「……」

魔王「……」

側近「ここまで反省なさる姿も珍しいですね」

魔王「意思が……弱さが……」

側近「同意の上での痴情なんですから自己嫌悪なさる必要も無いかと思いますが」

魔王「何が正解だったのかなぁ……断るべきだったのかなぁ」

側近「恋煩いでミスを犯すよりも、すっきりさせた方が彼女の為になったんじゃないでしょうか?」

魔王「そうなんだけどさー……うーん」

側近「因みに遂に銀の国が発見されたようです」

魔王「え、マジで?」

側近「あの勇者のPTが拠点からのルートを発見したようですね」

魔王「じゃああれ、捜索隊がこぞって入り込んでるの?」

側近「その様ですが、流石にかなりの年数が経っていますからね」

側近「大発見と言えど、それほどの進展はないようですね」

魔王「まあいいか。今更銀の国なんてどうでもいいし」

側近「それもそうですね」

側近「それで、次は白の国でしょうか?」

魔王「そーね。もう他のところもだいぶ拠点が潰されちゃったし、後はそこくらいしかろくに残っていないでしょ」

魔王「あんまり美味しい物が無いんだよねぇ」

側近「雪国ですからね。ですが万年解けぬ氷から作られたお酒は絶品ではありませんか?」

魔王「お酒より食べる物のほうがいいだけどなぁ」

側近「相変わらず下戸ですね」

魔王「そんな飲んでる暇もないじゃない」

魔王「ぅぅー……さぶさぶ」カランカラン

魔王「なんか美味しい物と体あったまる物下さーい」ガクガク

マスター「あんちゃん、この時世に旅かい」

魔王「ええ、まあ」ガクガク

マスター「それじゃあこの寒さには慣れんだろうて」

マスター「ほい、お待ち」カタカタン

魔王「鍋とウォッカ出てきたやべぇ」

宿屋
魔王「……」ゴロリ

魔王「……」ゴロリ

側近『非常に魔力が落ちているようですが大丈夫でしょうか?』

魔王「美味しい物とあったかい物で鍋とウォッカ出てきた……」

側近『今も昔もそういう国ではありませんか』

魔王「いきなりウォッカはない……」

側近『荷物の中に二日酔いに効く薬がありますのでお使い下さい』

魔王「……わざわざこれの為にテレパシーしてくれたの?」

側近『飲む前の薬が調達できなかった故、今更の連絡で申し訳御座いません』

魔王「……いや、ここまで先を見越せるだけ有り難いって話、だから」サラサラ

魔王(白の国の拠点もだいぶ減ったなぁ)

魔王(いよいよ最終決戦が近そうだな……」

「聞いたか?他の国の拠点はほぼ壊滅だってよ!」
「勇者様達がここに集まりだしているらしいな!」
「いよいよ魔王との戦いになるのか!胸が熱くなるな!」
「そういや魔王って何処にいるんだ?」

魔王(全ての拠点が潰えた時出てくるさ)

勇者「あ……魔王さん」

魔王「お久しぶりです」

勇者「最終決戦が近づいているのに、まだ白の国に留まっていたのですか?」

戦士「もしかして参戦するとかか?」

魔王「そんなところですね」

盗賊「おお頼もしい!」

僧侶「それにしても魔王城は一体何処に……?」

ドォォ ォ ォン
魔王「これで最後の拠点も制圧か……」

魔王「さあて、いよいよか」

側近「ええ、そのようですね」

魔王「ありゃま、どうしてここに?」

側近「やはり今回は今までと違いすぎます。となるとこれで……」

側近「ともすれば、魔王様のお傍に控えさせていただくのは当然の事かと」

魔王「そうか……そうだな。あの時と同じように、ね」

側近「全力で参らせていただきます」

魔王「……久方ぶりに人前で本気を出すとしますかねぇ」

「南の方に巨大な城が現れたぞ!」
「あれが魔王城……?」
「なんて禍々しいんだ」

盗賊「もう向かっているPTがいるようね」

戦士「行こうぜ。こんな時に遅れをとるのもあれだろう」

僧侶「これが最後の戦い……」ゴクリ

勇者「あ……魔王、さん……」

側近「正面は先陣を切っている方々が攻めているようですね」

魔王「東の外壁から進もう。外壁が脆い箇所から城内に侵入しよう。あ、あの時の布石って有効?」

側近「問題ないようですね」

魔王「じゃあうちの隊は全部そっちに回しちゃって」

勇者「……」

盗賊(うわ……嫌な雰囲気ぃ)

戦士(このタイミングでか……いやだからこそか)

僧侶(勇者さん……)

魔王「……」ヒュゥン

戦士「すげぇな……一太刀振るう度に魔物が」

盗賊「本当に何もしないで着いて行くだけでいいのかねぇ」

側近「こちらとしては、その分戦力を決戦に持っていけるので構いませんよ」

勇者「……いいなぁ」

側近「はい?」

勇者「いや……その、魔王さんとそういう……」

側近「……そうですね。確かに痴情に至ってはいますが、御互い結ばれない身です故」

魔王「流石に城の周りは敵が多いなぁ」

側近「そこの城壁は脆くなっているようですね」

戦士「お、ここは俺に任せてくれ」

戦士「うおりゃああ!」ゴシャン

盗賊「本当に壁が崩れちまったよ」

魔王「いよいよ敷地内かぁ……より激化するだろうから、四人とも戦闘に加わってくれる?」

勇者「は、はい!」

戦士「何か……結構敵の数が少ないな」

魔王「先陣が張り切っているからかなぁ?ま、向こうに戦力集中してくれるのは有り難いけどさ」

勇者「それが……貴方の素顔なんですか?」

魔王「……うーん」

魔王「もうどれが素の自分かなんて……分かりはしないんだよね」

盗賊「どういうこっちゃ?」

側近「曲がり角の先、魔物の反応……5」

魔王「そぉい」フュォン

僧侶「未見敵必殺……」

盗賊「とゆーか結局あたしら戦ってない」

側近「そういえば伝え忘れていましたが」

魔王「今ここで言わなきゃいけないって相当大事な事だよね?!」ヒュォン

側近「はい、実のところ拠点の数がかなり少なかった模様です」

勇者「……どういう事ですか?」

側近「……」

魔王「構わないから言っちゃって」

側近「前回に比べて数が8割ほど少なかったのです」

魔王「んー拠点防衛の人数的には?」

側近「平均は変わりませんし、予測している減少から見ての8割です」

盗賊「前回?なに、そんな古い書物残ってんの?」

魔王「そういう訳じゃあないんだけどねえ」

僧侶「……??」

勇者「……あの、聞いていると、以前の魔王討伐に参加しているように聞こえるのですが」

魔王「んー微妙に違うね」

側近「本質的には間違いではありませんが……おや、勇者軍団が中央を突破したみたいだね」ドドド

魔王「このまま一気に流れ込んじゃおうっか」

盗賊「ぅゎーあたしらもう帰ってもよくない?」

戦士「バカ言っていないで走れ走れ」

魔王「さて、少し俺らは後ろに控えようかな」

側近「そうですね」

勇者「え、ええと私が先頭でいいんですか?」

魔王「その扉の先に元凶がいるよ、ゴーゴー」

勇者「ええぇぇ!うぅ、分かりました!」バン

僧侶「大広間……?」キョロキョロ

「ここに魔王がいるのか?」
「おい、あそこに玉座が」
「あれが……」

***「……来たか」

***「今度は人間の勇者どもを引き連れて人海戦術とでも言いたいのか?」

***「貴様は……毎度、毎度、毎度毎度っ!我々の!邪魔立てをする!!」

魔王「そりゃそうだ」

側近「全くですね」

勇者「……やはり、面識があるのですね」

「何これ、どういう事?」
「いや、よく分からん……」
「毎度って……前回でさえ300年以上前だよな」

***「面識、面識か……当然だ」

***「我々が現れた時より戦い続けているのだからなっ」

勇者「……?」

戦士「……おいおい、まさかそれって」

魔王「全くこの人は本当にいけしゃあしゃあと」

側近「自身でそうし立てたと言うのに……呆れてしまいますね」

***「来るがいい魔王よっ!今日を以って貴様に引導を渡してくれる!!」

「ま、魔王?!」
「え、マジどういう事?!」
「こっち陣営に魔王?じゃああの玉座のなに?!」

魔王「何度だって行ってやるよ。お前が滅ぶまで」

側近「我らを敵に回し、呪いをかけた恨み晴れるまで」

魔王「朽ち果てろ、魔物の王!」ザッ

側近「死して悔い改めろ、魔物の王!」ザッ

魔物の王(愚かが……いくら貴様と言えど)バッ

「ま、魔物の群れ?!」
「こいつら全部砦を守るボスクラスじゃねーか!」

勇者「なっ……」

戦士「おいおい、流石にこれは……」

魔王「そうだね……流石にこれは辛いね」

盗賊「え?あんたはこいつらを薙ぎ払えるんじゃないの?!」

魔王「単純なステータスが高いだけだからね。対魔の力みたいなのは無いよ」

魔王「そしてここにいるのはボスの中でも上級の連中だ」

魔王「一人で相手をしたら負けちゃうなぁ」

勇者「大丈夫です!我々もついています!」

魔王「まあこっちも対策してあるけどね」

魔物の王「なに……?」ビシ

魔王「前々回の戦いでこうやって袋叩きにされ、前回はそこを強化してきた」ビシビシ

僧侶「じ、地震でしょうか?!」ズズ

魔王「んじゃあ次は全力で袋叩きにするでしょう、て事でこっちも布石くらい残しておくさ」ズズズズ

盗賊「違う、地面に亀裂……まさかこの下がらんどうになってんのぉ?!」ゴゴゴゴ

魔物の王「……っ!貴様!」

魔物「ぎゃああああ」ガラガラ
魔物「お、落ち、助け」ガラララ

「すげー……」
「こ、これなら残りを倒すくらい、この人数なら余裕だな」

魔物の王「また、か……」

魔王「そうさ。だけどそろそろ最後にしたいたぁ思わないかい?」

魔物の王「そうだな……その為にも」

魔物の王「貴様が死ね!」パチン

魔物「「オオオォォォォン!!」」


魔王「あれぇまだこんなにいるの?!」

勇者「えっ!?」

盗賊「意外とピンチだったりするわけぇ?」

側近「てっきり、分かっていたのかと思いましたが……」

魔王「全部隊、下層から這い出て応戦しろ!」

兵士「「おおおーーーー!!」」ゾロゾロ

キィィィンキィン
  ワーワー
魔物の王「所詮は駒か……やはり王との戦いに他者は無粋か」

魔物の王「ならばこそ、この手で滅びろっ!」バッ

魔王「そりゃあゴメンだね!」ガキィィン

魔物の王「貴様さえ!貴様さえ堕ちればこの世界などっ!」キィィンキィン

勇者「皆、魔王さんに加……」バッ

側近「あの方でしたら問題ありません。むしろ残存する魔物の対処を」

勇者「……」

戦士「行くぞ、勇者」

盗賊「ちょいと戦士、空気読め」

戦士「本当に……俺らは必要ないんだよ」

勇者「え……?」

僧侶「どういう事ですか?」

戦士「昔、古文書で見た話……」

戦士「そしてあの地下で発見された書物とあんた達の会話で分かったよ」

戦士「あの魔王ってのは……銀の国の国王なんだな」

側近「!」

勇者「え……ええ?!」

僧侶「そんな、待って下さい、ありえません!」

盗賊「なにを言い出すかと思えばさぁ……僧侶の言うとおり無いわよ」

側近「……どうしてそう思いになられたのですか?」

戦士「魔物が現れた時、徹底抗戦の構えを取った銀の国」

戦士「先陣を切って戦ったのがその国王で、魔を討つ王の異名を与えられたと言う……」

戦士「そして……あんた達の言う魔物の王を討つも呪いで、銀の国が滅んだんだな」

側近「驚きました……まさかそこまで核心を突くとは」

勇者「本当、なんですか?」

側近「補足としましては、魔物の王の呪いは我々、銀の国の者全てを魔物の王の手で討つまで生かす事」

側近「結果として我々は魔物の王が存在している間だけ生き永らえ、消滅すれば復活するその時まで我々も消滅する」

側近「中には復活を遂げられず、消滅してしまう種族も少なくありません」

側近「銀の国は魔物の王が出現している間、何処かの拠点より地下に生じた空間に現れるようになりました」

盗賊「ずっと……戦い続けてたのかい」

側近「ですが、これで終わりでしょう。今まで以上に復活が遅れていました」

側近「もう魔物の王に力はないのでしょう」

魔物の王「ぐぅぅ!何故だ!何故……」キィィンキィィィィン

魔物の王「幾度挑んでも勝てぬ……幾度挑めば勝てるというのだ!」ガキィィィィン

魔王「お前に俺は殺せない……お前に殺されるほど俺が弱くない」キィィィン

魔王「ただ、それだけの事だ!」ザシュゥ

魔物の王「あぐっ」ドサッ

魔王「いい加減諦めたらどうだい?」

魔王「俺もいい加減……疲れたよ」

魔物の王「だ、黙れ!」ボタボタ

魔王「兵の戦いも終わったようだ。こちらもそろそろ終わりとしようじゃないか」

魔物の王「まだだ……まだ……我はぁぁ」

魔王「弱々しくなったな。本当にこれが最後か?」

魔物の王「……っ!ぐああああああ!!」ブォンブォン

魔王「おっと」シュパ

勇者「魔王さん!」

魔王「あ~こんくらいかすり傷だから平気平気」ヒラヒラ

魔物の王「がああぁぁぁぁ!!」ブォンブォン

魔王「自棄、か?」ヒョイヒョイ

側近「本当にもう駄目なの知れませんね」

魔王「う~ん、確定的な何かがあれば万感の思いもあるのだろうけど」

魔王「とりあえずは、よいっ」シュパン

魔物の王「ぐ、がっ!!」ドサン

魔王「ふむ……」シュラン

魔王「……」ザッ

魔物の王「」

魔王「同胞よ!今回の戦いもまた終わりを告げた!!」

魔王「しかし、我々には安眠は与えられぬ!」

魔王「次の魔物の王の目覚めまで、しばしの休息に浸るといい!!」

魔王「次に目覚めぬ者もいるだろう。だが臆するな!」

魔王「例え一人となろうとも、孤独となろうとも!」

魔王「魔物の王を討ち取るまで、我々の戦いは終わりはしない!」

魔王「既に散った者、これより散る者、その全てが無駄ではない!!」

魔王「剣を掲げ、我に続け!!」

兵「おおおおおぉぉぉぉぉぉ!」
兵「グローリア!***、グローリア!!」
兵「我らの王!我らの王!我らの王!」

勇者「魔王さん……」

魔王「……」

側近「……」

戦士「……どうしたんだ?」

兵「どうなってるんだ?」
兵「変だな……何時もならもう」
兵「体が消滅、しない?」

盗賊「んん?なんだい、もしかして呪いが終わったのかい?」

勇者「それじゃあ魔王さん達は!」

魔王「どうなんだろうね」

側近「我々も初めての事ですからね」

僧侶「で、でもこれで戦いは全て終わったのですね……」

魔王「う~ん……」

勇者「あの……魔王さん?」

魔王「いやあ、なんかなぁ」

魔王「そりゃあ活動していた時間で見れば大した事無いけどしれないけども」

魔王「越えた時間は相当だからなぁ」

魔王「正直、無事でいられるとは思わないんだよね」ボロ

兵「か、体が!」ボロ
兵「崩れていく……ああ、そうか。結局は死ぬんだな」ボロ

勇者「そんな……僧侶!」

僧侶「駄目です!回復魔法が効きません!」

側近「当然といえば当然の事ですからね」ボロボロ

戦士「そんな……駄目だ!貴方はここで終わるべきではない!」

魔王「無茶言うなよ……千年以上前の人間だよ。いい加減、眠らせてくれ」ボロボロボロ

盗賊「まあ、そりゃあそうよねぇ」

側近「我々にして見れば、これがどれほど望んでいた事か」

魔王「見てご覧」ボロ ボロ

兵「うおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」ボロボロ
兵「勝ったんだ!俺達は!魔物の脅威を全てっ……!!」ボロズズズ
兵「やった!やったぁぁぁ!!***!お前の、仇を……!!」バラバラバラ

魔王「生きる事よりも、打倒魔物の王の意思の方が強かったからね……」ズ ズズ

魔王「呪いをかけられた時点で覚悟を決めたともいうべきだけども」ボロボロボト

側近「それよりも、この建物の一時間ともたずに崩壊します」ボロボロ

側近「勇者様方は早く非難を」ボト ボト

戦士「……行こうぜ、勇者」

勇者「嫌だ」

盗賊「ちょ、本気で言ってるのぉ?」

僧侶「勇者さん……」

勇者「せめて、魔王さんを見届けさせてくれ……」

側近「魔王様」ギュ

魔王「……そろそろお別れだな」ギュ

盗賊「てゆーか、側近と国王だよね?」

魔王「側近とは……幼馴染のようなものだからな」ボロボロ

戦士「聞いちゃいけない話を聞いてしまった……」

側近「結ばれる事こそありませんが、最も傍に居られますからね」ボロボロ ボコ

僧侶「あ……」

勇者「魔王、さん」

魔王「やっと私の遣り残した仕事がこれで終わる」ボロボロ

魔王「後の世は、君達若者に託すとしよう」ボロ

魔王「さらばだ、勇気ある英雄達よ」

魔王「君達の様な若者の未来を守れた事を」ズズ

魔王「誇りに、思う、ぞ……」バラバラバラ


勇者「魔王さん……」

戦士「塵すら残さないとはな……」

僧侶「もう……行きましょう」

盗賊「そうね、崩れるのも時間の問題みたいだし」ズ ズズ

……
カーン カーン
盗賊「あんたら、本当に飽きないのね」

勇者「当然!」カーンカーン

僧侶「魔王さんの像ですか……」

戦士「ま、カリスマ性はあったわな」

「おーい!そっちの資材をこっちに回してくれー!」
「そろそろこっちの足場も高くするか?」
「昼休憩まで後一時間かぁ、腹減ったなぁ」

盗賊「毎回、魔物の王を倒す度にあんな事言っていたのかねぇ……」

戦士「あれこそ英雄だよな……俺もあんな王様の下で働きてーよ」

勇者「ハハハ。それにしても、私達は本当に幸運だよ」

勇者「そんな偉大な人と談笑し、助けられ、共闘できたのだから」

勇者「だからこそ私達は後世に伝え、ここに謳うんだ」


勇者「銀の国国王 魔を討つ王 魔王の生き様を」


側近「お早うございます、魔王様」 完

>>59 >>60

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不思議と今まで立てたスレは全く荒れない 逆に怖い

魔王という呼称に何か意味持たせるネタが尽きた……何かないかなぁ、
と思ったが、尽きたと言っても元々二つしかなかったか

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